• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 称呼類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 130
管理番号 1041989 
審判番号 審判1989-3429 
総通号数 20 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2001-08-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 1989-02-27 
確定日 1997-08-01 
事件の表示 上記当事者間の登録第1748378号商標の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第1748378号商標の登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 1.本件登録第1748378号商標(以下、「本件商標」という。)は、「風煎」の漢字を横書きしてなり、昭和57年12月3日に登録出願、第30類「菓子、パン」を指定商品として、昭和60年2月27日に登録されたものである。
2.請求人が引用する商願昭57-65930号に係る商標(以下、「引用商標」という。)は、「風船」の漢字を横書きしてなり、昭和57年7月26日に登録出願、第30類「菓子、パン(但し、風船ガム、その他のチューイングガムを除く除く)」を指定商品として、平成9年1月31日に商標登録第2719301号として登録され、その商標権が存続していることが、商標登録原簿により確認できるものである。
3.請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第4号証を提出した。
(1)本件商標は漢字にて「風煎」(甲第1号証)と表示構成して成り、指定商品菓子・パンとして昭和57年12月3日に商標登録出願され、昭和60年2月27日に登録されたものであります。これに対し請求人は先出願商標である商願昭57-65930号に係る商標(甲第2号証)を引用し無効審判請求致します。
(2)両者を比較観察してみますに、本件商標「風煎」からは<フウセン>の称呼が生ずるとするのが自然であります。一方、引用商標「風船」からは<フウセン>の称呼が生ずるのは明らかであります。従いまして両者は同一の称呼を有する類似商標であります。
(3)前記両商標の類似性につきましては、被請求人においても商公昭62-30474号「風船」に対する異議申立の理由において主張されており(甲第3号証)、また、特許庁においても理由ありとして審査されております(甲第4号証)。
以上のことからも、本件商標と引用商標とが類似商標であることは明らかであります。
(4)引用商標「風船」につきましては昭和57年7月26日に商標登録出願され、先願商標に類似するとして拒絶理由通知がされていますが、その査定は現在未定であり、出願は審判に係属中であります。
依って、本件商標と類似の商標が先願商標として存在しますので、先願商標が登録された場合には本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当するものとして拒絶されるものであります。
(5)本件商標と引用商標とは同一の称呼を有する類似の商標であり、またその指定商品においても互いに相抵触するものであるところから、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当し、同法第46条第1項の規定により無効とされるべきものであります。
4.被請求人は、「本件審判の請求は理由がない。審判費用は請求人の負担とするとの審決を求める。」と答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として乙第1号証を提出した。
(1)請求人は昭和57年12月3日に商標登録出願され、昭和60年2月27日に登録された本件商標「風煎」(甲第1号証)が商標法第4条第1項第11号に該当し、同法第46条第1項の規定により無効とされる旨を主張する。そして先出願商標として商願昭57-65930号「風船」(甲第2号証)を引用している。
(2)請求人は引用商標が本件商標の先出願商標であるという旨を、甲第2号証である連合商標登録願の日付のみによって主張している。しかし、この甲第2号証たる願書は特許庁の受領の印もなく、証拠力に欠けるものである。従って引用商標が本件商標の先出願商標であるという請求人の主張については、被請求人はこれを否認する。
(3)また仮に引用商標が本件商標の先出願商標であるとしても、以下に述べる理由により本件商標は商標法第4条1項第11号に該当しない。
すなわち商標法第4条1項第11号は「当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標またはこれに類似する商標であって、その商標登録に係る指定商品又はこれに類似する商品について使用するもの」については商標登録を受けることができない旨主張しており、本件商標が本号に該当するためにその存在が要求される「他人の商標」は先出願であり、かつ登録商標でなければならない。ところが「引用商標『風船』につきましては拒絶理由が通知されていますが、その査定は現在未定であり、出願は審判に係属中であります。」との請求書中の記載にて請求人が主張するのみで、引用商標が登録されたことは立証されておらず、「登録商標」ではない。すなわち引用商標は商標法第4条第1項第11号の「登録商標」の条件を満たさず、よって本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(4)仮に引用商標が拒絶査定不服の審判に継続しているとしても、菓子の一種であるチューインガムに風船ガムが存在する(乙第1号証)以上は、「風船」をチューインガム以外の菓子、パンに使用するときは商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標であるので、商標法第4条第1項第16号により拒絶査定されるべきであり、引用商標が先願の商標として、登録されることは有り得ないと解する。
(5)また仮に引用商標が登録されたとしても、本件商標「風煎」と引用商標「風船」の称呼が、請求人が主張するように共に「フウセン」であることから、直ちに両商標が類似商標であるとは言えない。このことは最高裁判決(最高裁昭和43年2月27日判決、昭和39年(行ツ)110号)において「商標の外観、観念または称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず、したがってこの三点のうちその一つにおいて類似する場合でも、他の二点において著しく相違すること、その他取引の実情等によって、何ら商品の出所に誤認混同をきたすおそれを認め難いものについては、これを類似商標と解すべきではない。」と判旨された事実に裏付けられている。
そして本件商標の実際の実情を考慮するに、本件商標「風煎」は煎餅について使用されているものであるが、煎餅等の和菓子の分野においては商標に特殊な漢字を当て、特定のイメージを有する商標とすることが商品の識別上重要であるという特別の事情があり、従って商標の称呼のみが重視されることはなく、称呼のみによって商標を識別し、ひいては商品の出所を知り品質を認識するようなことはほとんど行われない。
例えば「茶花(さか)」という商標は「お茶の花」という意であり、お茶を引き立てる花のように美しいお茶席菓子であるというその商品のイメージを表し、これによって識別力を有するものである。一方、「さか」という称呼のみでは識別力は生じ難く、従って和菓子の取引の実情において称呼は重要視されず、称呼のみで取り引きされることもない。
その他の例として「炉香(ろか)」という商標も「炉の香り」という意を表し、炉の香りを有する香ばしいおかきであるというその商品のイメージを表すことによってその識別力を有するものであり、例えば「濾過(ろか)」という商標とは明確に識別し得る。
このように和菓子の取引の実情においては商標に当てられる漢字によって表されるイメージが重視され、商標は漢字の表記と共に識別される。
そして本件商標「風煎」は「風(かぜ)を煎(い)る」という意であり、風のように軽やかな薄い、風雅な煎餅であるというその商品のイメージを表している。
一方、引用商標「風船」は「風(かぜ)の船(ふね)」という意であり、よく知られている玩具であり、紙・ゴムなどの袋に息や水素を吹き込んでふくらませて遊ぶもの(balloon)を意味し、本件商標とは全く別意である。従って、商標の称呼のみが重視されることはなく、称呼のみによって商標を識別し、ひいては商品の出所を知り品質を認識するようなことはほとんど行われず、商標は漢字の表記と共に識別されるという前述の和菓子の取引の実情を考慮すると、「風船」をたとえ煎餅に使用したとしても需要者はその意義の違いからこれと「風船」とを明確に識別することができ、出所混同を生じるおそれはないので両商標は類似商標ではない。
(6)以上の理由により、本件商標は商標法第4条第1項第11号の規定に該当しない。
5.被請求人は、答弁書(第2回)を提出して答弁し、理由(補充)を次のように述べ、証拠方法として乙第2号証ないし同第4号証を提出した。
(1)請求人は引用商標「風船」(商願昭57-65930号)の出願(以下「本出願」という)は審判に係属中である旨主張しているが、平成2年8月10日に入手した本出願の包袋の写しによれば、本出願は審査中であり、審判請求は記録されていない(乙第2号証)ことをまず最初に指摘しておく。
(2)そして本出願の審査においては、「風船」(商願昭57-65930号)はその先出願商標「白い風船」(商願昭57-8224号、商公昭59-29714号)(乙第3号証)と類似し、かつ指定商品も同一又は類似であるから、この先出願商標が登録された場合には、本出願は商標法第4条第1項第11号に該当する。」という旨の拒絶理由通知が昭和59年6月29日に発送されている(乙第2号証)。審査官の指摘されたように、「白い」は形容詞であり要部は「風船」であるから「風船」と類似であることは確実である。さらには先出願商標「白い風船」は昭和60年8月29日にすでに商標登録第1799636号として登録されている(乙第4号証)ので、本出願は拒絶査定されるべきものである。従って、「引用商標『風船』が登録された場合には本件商標(第1748378号登録商標)は商標法第4条第1項第11号に該当し、同法第46条第1項の規定により無効とされるべきである」という請求人の主張は成り立たない。
6.請求人は、弁駁書を提出して弁駁し、理由中において次のように述べ、証拠方法として甲第5号証ないし同第11号証を提出した。
被請求人は、答弁書で本件引用商標たる甲第2号証の願書に関し、特許庁の受領の印がなく証拠力に欠けるもので否認する旨主張されておりますが、答弁書(第2回)で被請求人目ら乙第2号証として引用商標の特許庁受領印付の願書を提出されており引用商標の先願性については確認されていますので、請求人においても乙第2号証を援用します。なお、請求人は無効審判請求書の請求の理由(4)項において、「先願商標に類似するとして拒絶理由通知がされていますが、その査定は現在未定であり、出願は審判に係属中であります。」と記載しましたが「審判」については「審査」の誤記でありましたのでここに訂正します。
7.被請求人は、6.の弁駁書に対し答弁書(第3回)を提出して答弁し、理由中において次のように述べ、乙第5号証及び同第6号証を提出した。
請求人は異議申立における被請求人の主張と本無効審判事件における被請求人の主張とが全く反対である旨を主張している。
しかし、異議申立においては、新たな商標権の設定の可否を判断するものであり、一方無効審判においては既に成立している商標権の存在の可否を判断するものであるから、両者における商標の類似判断の基準は自ずと異なるものである。答弁書(第1、2回)における「風煎」と「風船」が非類似であるという旨の被請求人の主張は禁反言を破るものでは決してない。
8.請求人は、答弁書(第3回)に対し弁駁書(第2回)を提出して弁駁し、理由中において次のように述べ、証拠方法として甲第12号証及び同第13号証を提出した。
被請求人は、未使用商標に対しても設権行為を行うため登録前の異議申立と、権利が付与された商標が実際に使用されている登録後の無効審判とは商標の類似判断の基準が異るものである。と商標類否判断基準のダブルスタンダードを主張しています。
しかしながら、商標法第4条第3項に基づくならば、第1項各号に係る商標出願の判断時点は査定時であることが明定され、第1項第8号等特定されたもののみが出願時を基準とする旨が規定されており、被請求人の登録前と登録後で判断が異なるとの二重基準の主張は明らかに誤まりであります。
被請求人は、本件商標「風煎」と引用商標「風船」の類比観察に関し東京高裁の二件の判決を引用し種々主張していますが、引用判決のケースと本件とでは下記のとおり種々の点で相違しており、当該判決は本件とは事例を異にするもので本件には適用できないものであります。
▲1▼本件は比較する両者が「フウセン」の明らかに同一称呼(甲第4号証のとおり特許庁で同一称呼と認定しており、被請求人自身甲第3号証のとおり同一称呼であると主張しています。)に係るものでありますが、当該判決は「氷山」と「しょうざん」の頭音が相違するものに係る称呼類比であり、本件とは事例が相違します。
▲2▼本件の指定商品は菓子・パンであり、菓子には極めて低価格の商品からあり、その需要者も識別判断力の低い幼い子供から老人に到るまで広範囲であるのに対し、当該判決の指定商品は硝子繊維糸で日常品ではなく、その取引者は通常特定された専門業者でありまた識別判断力の高い成人に限定されるものでありますので本件とは取引の実情が全く相違します。本件商標は引用商標とは同一称呼に係るもので類似の商標であります。
9.被請求人は、答弁書(第4回)を提出して答弁し、理由中において次のように述べ、乙第7号証ないし同第13号証を提出した。
本件商標「風煎」は乙第7号証に示されるように京風の甘味煎餅に使用されている。
10.請求人は、答弁書(第4回)に対し弁駁書(第3回)を提出して弁駁し、証拠方法として甲第14号証ないし同第25号証を提出した。
11.被請求人は、答弁書(第5回)を提出して答弁し、理由中において次のように述べた。
請求人は第3回弁駁書(3)(4)において「被請求人は…今般は独断的に先願主義の基本原理なるものを捏造されています。」と主張する。
しかしこれは請求人が被請求人の主張を曲解しているものであり、被請求人の主張は「商標出願の拒絶査定が確定されれば、先願の地位は残らない。従って拒絶査定された出願が先願であることを理由に他の出願を無効とすることはできない。」ということに尽きる。上記主張には何ら反論はないと信じる。
12.請求人は、弁駁書(第4回)を提出して弁駁した。
13.よって判断するに、「風船」の漢字を横書きしてなる引用商標が、第30類「菓子、パン(但し、風船ガム、その他のチューイングガムを除く)」を指定商品として、平成9年1月31日に商標登録第2719301号として登録され、その商標権が存続していることは、前記2.において認定したとおりである。そして、引用商標は、本件商標の出願日より先に登録出願されたものと認められる。
そこで、本件商標と引用商標の類否についてみると、本件商標は「風煎」の漢字よりなるところ、この漢字で表される知られた語はないが、全体を音読みして「フウセン」と称呼されるものとみるのが相当である。
一方、引用商標は、「風船」の漢字よりなるものであるから、「フウセン」と称呼されるものと認められる。
そうすると、本件商標と引用商標は同一の「フウセン」の称呼を生ずるものである。
ところで、被請求人は、本件商標は煎餅について使用されているものであり、煎餅等の和菓子の分野においては商標に特殊な漢字を当て、特定のイメージを有する商標とすることが商品の識別上重要であるという特別の事情があり、商標は漢字の表記と共に識別されるという前述の和菓子の取引の実情を考慮すると、本件商標「風煎」と引用商標「風船」とはその意義の違いから需要者が明確に識別することができ、出所混同を生じるおそれはないので両商標は類似商標ではない旨、したがって、商標の称呼のみが重視されることはなく、称呼のみによって商標を識別し、ひいては商品の出所を知り品質を認識するようなことはほとんど行われない旨主張し証拠方法を提出している。
そして、乙第8号証ないし同第10号証によれば、和菓子についてその商標に特殊な漢字を当て使用している例があることを認めることができる。
しかし、同証拠によっては、これら特殊の漢字を当てた商標が、漢字の表記と共に識別され、その称呼をもって取引に資されることがほとんどないのが和菓子の取引の実情であるとは認めることができないし、他に、被請求人のこの点の主張を認めることができる証拠は提出されていない。
そうすると、和菓子の商標にあっても、その商標から生ずる称呼は商品の識別上重要というべきである。また、本件商標は、和菓子のみをその指定商品とするものではない。
そして、被請求人は、無効審判においては既に成立している商標権の存在の可否を判断するものであるから、商標権が設定される前とでは商標の類似判断の基準は自ずと異なるものである旨主張するが、そのように商標の類似判断の基準を異なって解すべき合理的な理由はないから、この点の主張は採用できない。
そうしてみると、本件商標と引用商標とは、その外観、観念において紛らわしいところがないことを考慮しても、同一の「フウセン」の称呼を生じ紛らわしいものであって、類似の商標といわざるをえない。
また、本件商標の指定商品は、引用商標の指定商品と同一又は類似する商品と認められる。
したがって、本件商標は、商標法第8条第1項の規定に違反して登録され、その後、引用商標が登録され同法第4条第1項第11号に該当するものであるから、商標法第46条第1項の規定により、その登録を無効とする。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 1997-05-07 
結審通知日 1997-05-20 
審決日 1997-06-06 
出願番号 商願昭57-106875 
審決分類 T 1 11・ 262- Z (130)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大場 義則川津 義人 
特許庁審判長 宮崎 勝義
特許庁審判官 上村 勉
沖 亘
登録日 1985-02-27 
登録番号 商標登録第1748378号(T1748378) 
商標の称呼 1=フーセン 2=フー 3=カゼ 
代理人 岡田 英彦 
代理人 山本 江里子 
代理人 株式会社ロッテ 
代理人 小玉 秀男 
代理人 菅原 正倫 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ