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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない 124
管理番号 1037267 
審判番号 審判1997-12311 
総通号数 18 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2001-06-29 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 1997-07-18 
確定日 2001-02-20 
事件の表示 上記当事者間の登録第2464427号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第2464427号商標(以下、「本件商標」という。)は、下記のとおりの構成よりなり、昭和61年5月7日に登録出願、第24類「運動具、楽器及び演奏補助品、その他本類に属する商品」を指定商品として、平成4年10月30日に設定登録がなされ、現に、有効に存続しているものである。

2 請求人の主張
請求人は、「本件商標の指定商品中『楽器、演奏補助品、蓄音機、レコード』についての登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証及び同第10号証(枝番号を含む。)を提出している。
(1) 請求の理由
(a) 請求人は、ギターの製造、販売の事業を営むものであり、「THE VENTURES」の商標の使用を意図し、登録商標の調査を行ったところ、本件商標の存在を知った。
(b) 請求人は、商標権者が過去3年以内に、その指定商品中「楽器、演奏補助品、蓄音機、レコード」について、本件商標の使用をした事実があるか否かの調査を行ったが、そのような事実は発見できなかった。
また、特許庁備え付けの商標登録原簿によれば、専用使用権者、通常使用権者の登録もなく、この点からも使用の事実は発見できなかった。
したがって、本件商標は、少なくとも請求の趣旨に記載した指定商品に関しては、商標登録は取り消されるべきである。
(2) 弁駁(第1回)
被請求人は、本件商標について、フェンダー・ジャパン株式会社(以下、「フェンダージャパン社」という。)に通常使用権を許諾していると主張する。しかし、通常の企業間であれば、通常使用権契約書による契約の締結をするのが普通であるにもかかわらず、両者間の使用契約書や覚書がないということは非常識である。
(3) 弁駁(第2回)
(a) フェンダージャパン社について
被請求人は、フェンダージャパン社との間に「THE VENTURES(以下グループの名称をいうときは、『ベンチャーズ』という。)の承諾と指導に基づく黙示的通常使用権の許諾をしている」旨主張しているが、該「ベンチャーズの承諾と指導」とは何を意味するのか、その具体的内容は、全く開示されていない。
被請求人が提出した乙第9号証に係る裁判例は、本件に該当するような事案とは異なるから、参考にならない。
(b) 通常使用権の範囲について
被請求人は、許諾している通常使用権における範囲中の指定商品は「楽器」のすべてであるから、「ベンチャーズ・モデル(VENTURES MODEL)」の商品(ギター)に限定されるものではないと主張するが、エレキギター(以下「エレクトリック・ギター」という。)以外に本件商標を使用する意味は全くない。
通常使用権者が登録商標を使用するときには、この商標は〇〇〇社の登録商標であり、その許諾を得ているものであるという旨を表示するのが普通であるが、乙第3号証及び同第4号証該当頁には本件商標に関するそのような表示は全くない。けだし、「THE VENTURES」の標章の使用は、フェンダージャパン社のエレクトリック・ギターについての商標としての使用ではないからである。
(c) 乙第5号証ないし同第8号証について
乙第5号証及び同第6号証は、「登録商標『THE VENTURES』が表示されているエレクトリック・ギター」の現物写真などが添付されていないから、フェンダージャパン社が、自社製造のギターに本件商標を付したものを販売しているという証明にはならない。同様に、乙第7号証及び同第8号証も、上記主張内容がそのまま適用される。
(4)弁駁(第3回)
(a) 乙第3号証の22ないし23頁及び同第4号証の22頁に、「SIGNATURE MODEL」の名の下で紹介されている「THE VENTURES」(ロゴ)の表示は、現物写真の上では、確かに2個所に付されているが、該表示は、フェンダージャパン社が製作し販売しているギターについての商標ではない。
(b) 同社が製作販売している各ギターの商標は、「STRATOCASTER(ストラトキャスター)」(乙第3号証の2ないし7頁参照、同第4号証の2ないし6頁参照)、「JAZZMASTER(ジャズマスター)」、「JAZZBASS(ジャズベース)」(乙第3号証及び同第4号証の26ないし27頁参照)である。そして、これらのギターのヘッドには、出所を示すハウスマークの「Fender」(ロゴ)の次に、ギター別の上記各商標が付されている。
以上の事実関係からわかるように、フェンダージャパン社がそのカタログ及びギターに使用している上記表示は、商標法第2条第1項に規定するいわゆる「商標」といえるものではない。フェンダージャパン社の上記商標に係るギターをベンチャーズが使用していることを、単に「SIGNATURE MODEL」と称して、広く宣伝しているものである。
乙第3号証及び同第4号証に係るカタログにおいて、現在のベンチャーズの3人が使用しているギターについての商標は、あくまでもフェンダージャパン社製作の「STRATOCASTER」印であり、「JASS MASTER」印であり、「JASS BASS」印であって、「THE VENTURES」印ではない。
(c) 被請求人は、第2回答弁書において、ベンチャーズとフェンダー・ミュージカル・インストウリュメンツ・コーポレーション(以下、「米国フェンダー社」という。)とは、ベンチャーズ・モデルのギターの製造等について長い友好関係があるというが、これは事実ではない。
(d) 「ベンチャーズ・モデル」のギターは、セミー・モズレー(Semi Moseley)氏のモズライト社(MOSRITE INC.)が、1963年から1966年までに、ベンチャーズのために製作した「モズライトmosrite」ギターを特に指している(甲第7号証ないし同第10号証)。「ベンチャーズ・モデル」の「モズライト・ギター」には、当初から、同一のギターに商標として「Mマークmosrite of california」のほかに、本件商標と同一の「THE VENTURES」や「VIBRAMUTE」の標章表示も使用していた。
米国フェンダー社は過去において、また、フェンダージャパン社は現在において、ベンチャーズのために「ベンチャーズ・モデル」といわれるギターを特別に製作したことはない。
(5) 弁駁(第4回)
(a) 被請求人が、第2回答弁書にて提出した乙第3号証及び同第4号証に掲載されている3つのギターには、それぞれ「STRATOCASTER」、「JAZZ MASTER」、「JAZZ BASS」の商標が表示されるとともに、「Stratocaster」、「Jazz Bass」の商標は、「Fender Musical Instruments Corp.の登録商標です。」と記載されている(各カタログの裏表紙参照)のに対し、「SIGNATURE MODEL」として紹介されている「THE VENTURES(ロゴ)」は、東芝EMI株式会社の登録商標です。」とは記載されていない。
したがって、被請求人提出の乙第5号証ないし同第8号証に係る各証明書の文章中に、「登録商標『THE VENTURES』が表示されている…」と記載していることは、フェンダージャパン社の認識と事実に反する記載であるから、証拠力はない。
なお、フェンダージャパン社と神田商会とはそれぞれの住所と代表者とが同一の会社であり、前者は製造者、後者は販売者の関係にある。
(b) 乙第4号証の22頁には、左肩に「THE VENTURES」のロゴが掲示されている。しかし、これは、単にベンチャーズの3人のギターリスト(他にドラムのレオン・メーラーがいる。)が結成しているグループの名称を掲示しているにすぎない。そのロゴタイプは、同グループが結成当時から使用しているサービスマークであって、フェンダー製のエレクトリック・ギターの商標として使用しているものでは全くない。
(6) 弁駁(第5回)
被請求人は、フェンダージャパン社への使用権の許諾等の全てはベンチャ一ズの承諾と指導に基づくものであるというが、ベンチャーズというのはグループ名にすぎず、法的人格者ではないから、そのような主張はおかしい。
また、被請求人が本件商標を使用許諾したというフェンダージャパン社との間に契約書がないということは、きわめて不自然である。
乙第5証ないし同第8号証に係る証明書は、さらにこれらを裏付ける証拠がない以上、単に作られたものとしかいいようがなく、証明力を欠如しているものである。

3 被請求人の答弁
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求めると答弁し、その理由及び請求人の弁駁に対する答弁を次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第10号証を提出している。
(1) 答弁(第1回)
本件商標を被請求人から通常使用権の許諾を受けたフェンダージャパン社(東京都千代田区神田鍛冶町3丁目4番地所在)(乙第1号証)が、指定商品中の「エレクトリック・ギター」について、本件審判請求の予告登録前3年以内に使用している事実がある。
通常使用権者であるフェンダージャパン社は、米国フェンダー社(アメリカ合衆国アリゾナ州85258スコツツデイルノースハイデンロード所在)の日本における密接な関連会社であるとともに、日本国内におけるエレクトリック・ギターの製造に関する技術契約を締結し、この契約に基づき製造したエレクトリック・ギターの殆どは、株式会社山野楽器(東京都中央区銀座4丁目5番6号所在)と株式会社神田商会(東京都千代田区神田鍛冶町3丁目4番地2所在)とに卸売され、さらに、これら2楽器店から全国の各関連楽器店に卸売されたものが小売りされている。
フェンダージャパン社が、指定商品中のエレクトリック・ギターに本件商標「THE VENTURES」を付して販売していることは、被請求人が、世界的に著名なエレクトリック・ギターの演奏家グループベンチャーズから本商標権の設定登録を受けることについての承諾(乙第2号証)を得るとともに、米国内でのベンチャーズと米国フェンダー社との友好的な関係から、日本における関連会社のフェンダージャパン社に対し、指定商品中の「楽器」については、フェンダージャパン社のみが日本国内において独占的に使用できるとした取り決めをベンチャーズとの間で交わしており、これらの取り決めに基づいて被請求人から通常使用権の許諾を受けていることによるものである。
このように特殊な関係のもとに、被請求人から通常使用権の許諾を受けているフェンダージャパン社は、本件商標に係る指定商品中の「エレクトリック・ギター」につき、日本国内において平成7年10月から独占的に使用して現在に至っている。
以下、フェンダージャパン社が、エレクトリック・ギターを製造し、本件商標を付したものを日本国内において販売した事実につき証拠をもって立証する。
乙第3号証は、平成7年(1995)12月に発行した総合カタログで、被請求人から通常使用権の許諾を受けたフェンダージャパン社が、有限会社博秀工芸(東京都千代田区外神田6丁目9番8号所在)に注文して15万部を印刷させ、それを株式会社山野楽器に約5万部、株式会社神田商会に約9万8千部を配布したもので、その22ないし23頁には、ベンチャーズのメンバー4人の写真とともに、本件商標をボディにおける左側角基部とヘッドの上部とにそれぞれ表示したエレクトリック・ギター3本が掲載されている。
乙第4号証は、平成8年(1996)12月に発行した総合カタログで、被請求人から通常使用権の許諾を受けたフェンダージャパン社が、有限会社博秀工芸(東京都千代田区外神田6丁目9番8号所在)に注文して15万部を印刷させ、それを株式会社山野楽器に約5万部、株式会社神田商会に約9万部配布したもので、その22頁には、ベンチャーズのメンバー3人(メンバー中の1人は死亡)の写真とともに、本件商標をボディにおける左側角基部とヘッドの上部とにそれぞれ表示したエレクトリック・ギター3本が掲載されている。
乙第5号証は、フェンダージャパン社から株式会社山野楽器に、本件商標を付したエレクトリック・ギターを、平成8年度に273本及び平成9年7月までに0本を卸売したことの卸売証明書である。
乙第6号証は、フェンダージャパン社から株式会社神田商会に、本件商標を付したエレクトリック・ギターを、平成8年度に210本及び平成9年7月までに15本を卸売したことの卸売証明書である。
乙第7号証は、株式会社山野楽器が、本件商標を付したエレクトリック・ギターを、平成8年度に200本及び平成9年7月までに73本を小売店に卸売したことの卸売証明書である。
乙第8号証は、株式会社神田商会が、本件商標を付したエレクトリック・ギターを、平成8年度に150本及び平成9年7月までに75本を小売店に卸売したことの卸売証明書である。
上記乙第3号証ないし同第8号証で明らかな如く、本件商標「THE VENTURES」は、通常使用権の許諾を受けたフェンダージャパン社において、本件審判請求の予告登録前3年以内に、指定商品中の商品「エレクトリック・ギタ
ー」について使用しており、その「エレクトリック・ギター」のボディにおける左側角基部とヘッドの上部とにそれぞれ本件商標が表示されており、この使用は、商標の具有する自他商品の識別標識としての機能を、本件商標と本質的に変更されたものではなく、且つ、商取引の社会通念上からも、その同一性を損なうものではない。
(2) 答弁(第2回)
(a) フェンダージャパン社が通常使用権者であることについて
フェンダージャパン社は、被請求人から本件商標について通常使用権の許諾を受けている日本国における唯一の使用権者である。
被請求人は、フェンダージャパン社に、ベンチャーズの承諾及び指導に基づく黙示的通常使用権の許諾をしている。
そもそも、通常使用権は、専用使用権とは異なり、当事者間の契約に基づいて発生する債権であるから、当事者間においては通常使用権の設定登録の有無を必要とせず、契約成立の時からその効力が発生するものであり、その設定契約は書面であることをも必要とするものではない。
このことは、例えば、昭和56年(行ケ)第205号判決(東京高等裁判所第13民事部・昭和57年9月22日言渡)により「黙示的通常使用権の許諾」(乙第9号証)が容認されていること等からしても明らかである。
(b) 通常使用権の範囲について
被請求人が許諾している通常使用権における範囲中の指定商品は「楽器」の全てであり、なにも「ベンチャーズ・モデル」の商品に限定したものではない。
なお、フェンダージャパン社が作成して配布した乙第3号証及び同第4号証のカタログの掲載内容については、ゲラ刷り段階でベンチャーズに提示し、了承を得た上で本印刷をもって作成したものである。
(c) 乙第5号証ないし同第8号証についての弁駁理由に対して
乙第5号証ないし同第8号証の卸売証明書は、自己証明とはいえ、外部に対して卸売個数を具体的に証明できることは、当事者以外には不可能なことからして、本件商標が使用されたことの証拠としての信憑性は十分に具備している。
(3) 答弁(第3回)
(a) ベンチャーズの承諾及び指導について
本件商標が、エレクトリック・ギター演奏家グループの著名な名称であることに起因し、商標権の設定登録後におけるフェンダージャパン社への使用権の許諾等の全ては、ベンチャーズの承諾と指導に基づくものである。
(b) 乙第5号証ないし同第8号証について
乙第5号証ないし同第8号証は、本件商標の使用に関し、本件商標の特定と商標を付した商品、取引日とその取引者が明確である。

4 被請求人に対する審尋及びこれに対する請求人の意見
(1) 審判長は、平成11年8月4日付けの審尋書で、「被求人が、フェンダージャパン社に対し、(a) 本件商標の通常使用権(黙示)許諾の事実を証明又は疎明する書面、(b) 通常使用権(黙示)許諾に至った事情又は経緯等、及び(c) 被請求人とフェンダージャパン社との関係を示す資料等について、提出又は説明されたい」旨の審尋を行った。
(2) 審判長の審尋に対する回答
被請求人は、審判長の審尋に対して、以下のように回答し、証拠方法として、フェンダージャパン社の作成にかかる被請求人宛て平成11年9月16日付け証明書を提出している。
(a) 被請求人は、本件商標の登録について、ベンチャーズの承諾を得るとともに、日本国内におけるベンチャーズ関連のレコード原盤の供給を被請求人のみが受けることができると取り決めているところであり、また、ベンチャーズとアメリカ国内において友好関係にある米国フェンダー社と被請求人も友好関係にあることから、それぞれの承諾のもとに本件商標を登録したものである。
(b) フェンダージャパン社は、上記米国フェンダー社と密接な関係にある企業であり、かつ、ギター及びギターに関連する各種商品の製造・販売に関する技術契約を締結し、かつ、同社のみが日本国内における楽器に「THE VENTURES」の商標を使用ができる取り決めをベンチャーズとの間で取り交わしているものである。
(c) 本件商標の商標権は、被講求人が日本国内において所有していること、また、フエンダージャパン社がギター及び関連する商品に「THE VENTURES」商標を使用ができることをベンチャーズと取り決めているところであり、同社がその商標を商品「ギター」に使用していることは被請求人の本件商標に抵触するものであることから、米国フェンダー社の意向を受けて、被請求人がフェンダージャパン社に平成8年(1996)2月1日より、同社とベンチャーズとの取り決めの有効期間中について、黙示的に通常使用権を許諾しているものである(この文中「黙示的」の部分は、誤記の訂正をした。)。
このことは、本回答書に添付したフェンダージャパン社の作成にかかる「証明書」においても証明されているところである。
(3) 審尋の回答に対する請求人の意見
(a) 被請求人は、黙示の通常使用権の許諾を説明又は疎明すべき書面の提出を求められたのであるから、被請求人がフェンダージャパン社宛に許諾した旨の書面を発行すべきであるのに、提出された証明書は、その逆のような書面である。
該証明書は、かえって、両者間の本件商標に係る通常使用権(黙示)の許諾の不存在を証明したようなものといえる。
(b) 被請求人は、黙示の通常使用権の許諾をするに至った事情又は経緯を裏付けとなる証拠をもって説明すべきであるのに、回答で述べていることは、全く説明になっていない。
上記4(2)(a)の前半の説明は、本件と無関係のことであるし、同後半の説明は、米国フェンダー社が本件商標の登録に関係していたことについては何の立証もないし、無関係のことである。
また、同4(2)(b)の説明は、フェンダージャパン社と被請求人との通常使用権に関する契約についてのものではない。
なお、フェンダージャパン社は米国フェンダー社との間に、ギター等の製造・販売に関する技術契約を締結し、かつ、本件商標を使用できる取り決めをベンチャーズとの間で取り交わしているというが、しかし、それらの契約や取り決めを立証する書面の提出はない。
上記4(2)(c)で、フェンダージャパン社は、ギター等の商品に本件商標を使用できることをベンチャーズと取り決めているというが、同4(2)(a)におけるように、何の立証もなされていない。また、被請求人とフェンダージャパン社は、米国フェンダー社の意向を受けて、被請求人がフェンダージャパン社に平成8年2月1日より、同社とベンチャーズとの取り決め有効期間中、「黙示的に通常使用権を許諾している」というが、何の立証もなされていないばかりでなく、意味不明の説明である(この文中「黙示的」の部分は、誤記の訂正をした。)。
(c) 被請求人は、被請求人とフェンダージャパン社との関係を示す資料等を提出するように求められているのに、何の提出もない。
被請求人は、フェンダージャパン社との関係は前記証明書で証明されているというが、これはフェンダージャパン社への通常使用権(黙示)の許諾を示す内容のものではない。この証明書は、フェンダージャパン社が一方的に被請求人に宛てたものであるが、本件は、東芝イーエムアイ株式会社が主体であり、商標権者であり、被請求人であるのだから、その発行者もその内容も主客転倒の書面であるというべきである。
また、この証明書では、本件商標を使用した商品は、米国フェンダー社の意向を受けて、当該商標の使用について貴社より通常使用権者として使用を許諾され、1996年2月1日から1999年9月30日まで使用していたものと記載しているが、それを裏付ける証拠の提出は何もない。
ところで、被請求人は、答弁書(第1回)において、フェンダージャパン社と米国フェンダー社との関係を説明しているが、フェンダージャパン社は「平成7年10月から独占的に使用して現在に至っている」と記載しているのに対し、前記証明書には「1996年2月1日から」と記載している。平成7年とは1995年であるし、1996年とは平成8年であるから、使用の始期に矛盾がある。
したがって、たとえ被請求人から使用許諾による通常使用権の黙示があったとしても、その始期は曖昧であるから、主張には信憑性がない。
いずれにせよ、被請求人提出の前記証明書には証拠能力がない。

5 当審の判断
(1) フェンダージャパン社が通常使用権者と認められるか否かについて
そこで、被請求人の提出した当審の審尋に対する回答書に添付されたフェンダージャパン社作成の証明書(以下「回答書添付の証明書」という。)をみるに、フェンダージャパン社が輸入又は製造・販売する「エレクトリック・ギター」等の商品について、被請求人より本件商標について、通常使用権者として使用を許諾されて、1996年(平成8年)2月1日から1999年(平成11年)9月30日まで、これを使用していた旨をフェンダージャパン社の代表取締役である鈴木政行が証明しているものである。
これによれば、本件商標の使用開始時期が、被請求人の主張と異なる点があるにしても、被請求人が通常使用権を許諾したと主張している相手方であるフェンダージャパン社の代表者が、本件商標の使用を許諾されたことについて証明しているものであるから、使用許諾に至る経緯等はともあれ、フェンダージャパン社がその権利者である被請求人より、本件商標の使用について通常使用権を許諾されていたことを証明していると認めるに足るものであるといわなければならない。
そうとすれば、フェンダージャパン社は、遅くとも、平成8年(1996年)2月1日には、被請求人より、黙示的等、何らかの形で通常使用権を許諾され、自社の製造・販売する「エレクトリック・ギター」等の商品について、本件商標を使用できる地位にあったと認められるとするのが相当である。
なお、通常使用権は、債権的な性格を有するため、その許諾にあたり、契約書や覚書を作成する必然性は認められないと判断するのが相当であるから、被請求人より契約書や覚書の開示がないことをもって、直ちに、通常使用権許諾の契約等がなかったということができず、又、通常使用権者作成の証明書であるからといって、証拠能力がないということもできない。
(2) 本件商標が取消請求に係る指定商品に使用されているか否かについて
(a) 請求人の提出した乙第1号証ないし同第10号証のうち、乙第3号証は、平成7年12月にフェンダージャパン社が発行した「TWANG」「1996 COLLECTION」等の記載のある楽器の総合カタログである。該カタログの「VEN-22」頁には、「エレキギター・アンサンブルのトップグループとして30年以上のキャリアを持つザ・ベンチャーズ。 フェンダー・ギターとともに時代を歩んできたグループのシグネチャーモデル、ストラトキャスター、ジャズマスター、そしてジャズベースのラインナップとなっています。」、「JB-165VR ¥165,000(WITH HARD CASE)」、「JM-165VR ¥165,000(WITH HARD CASE)」、「ST-165VR ¥165,000(WITH HARD CASE)」等の記載がなされている。そして、上記カタログ「VEN-22」頁には、これらの記載とともに、本件商標と社会通念上同一と認められる標章をボディの左側上部とヘッドの上部の2カ所に付したエレクトリック・ギター1本の写真が掲載されており、「VEN-23」頁には、前記と同様のエレクトリック・ギター2本の写真が掲載されていることが認められる。乙第4号証は、平成8年12月にフェンダージャパン社が発行した「TWANG」「1997 COLLECTION」等の記載のある楽器の総合カタログである。該カタログの「VEN-22」頁には、その上部に、「エレキギター・アンサンブルのトップグループとして30年以上のキャリアを持つザ・ベンチャーズ。フェンダー・ギターとともに時代を歩んできたグループのシグネチャーモデル、ストラトキャスター、ジャズマスター、そしてジャズベースのラインナップとなっています。」の記載があり、又、その下部には、本件商標と社会通念上同一と認められる標章をボディの左側上部とヘッドの上部の二カ所に付したエレクトリック・ギター3本が掲載されており、それぞれのギターの右横に、左から、「ST-165VR」「¥165,000(WITH HARD CASE)」等、「JM-165VR」「¥165,000(WITH HARD CASE)」等、「JB-165VR」「¥165,000(WITH HARD CASE)」等の記載がされていることが認められる。乙第5号証は、フェンダージャパン社が株式会社山野楽器に、登録商標「THE VENTURES」が表示されているエレクトリック・ギターを、平成8年1月から同年12月までに合計273本卸売したことを内容とする、平成9年10月7日付けの卸売証明書と認められる。乙第6号証は、フェンダージャパン社が株式会社神田商会に、登録商標「THE VENTURES」が表示されているエレクトリック・ギターを、平成8年1月から同年12月までに合計210本、平成9年1月から同年7月までに合計15本卸売したことを内容とする、平成9年10月7日付けの卸売証明書と認められる。乙第7号証は、株式会社山野楽器が国内の小売店に、登録商標「THE VENTURES」が表示されているエレクトリック・ギターを平成8年1月から同年12月までに合計200本、平成9年1月から同年7月までに合計73本卸売したことを内容とする、平成9年10月7日付けの卸売証明書と認められる。乙第8号証は、株式会社神田商会が国内の小売店に、登録商標「THE VENTURES」が表示されているエレクトリック・ギターを平成8年1月から同年12月までに合計150本、平成9年1月から同年7月までに合計75本卸売したことを内容とする、平成9年10月7日付けの卸売証明書と認められる。
(b) そこで、上記5(1)の認定のとおり、被請求人よりフェンダージャパン社に対して、通常使用権が許諾されていたと認められる平成8年2月1日以降に、本件商標がその取消請求に係る商品について使用されていたか否かについて判断する。
上記乙第3号証ないし同第8号証のうち、乙第3号証及び同第4号証によれば、平成7年12月以降、フェンダージャパン作成に係る本件商標と社会通念上同一と認められる標章を付したエレクトリック・ギター「ST-165VR」、「JM-165VR」、「JB-165VR」を掲載したカタログが存在し、さらに、平成8年12月に、その掲載内容を変更した同種のカタログが作成され、存在していたことが認められる。
また、前記各カタログの「VEN-22」頁及び「VEN-23」頁(乙第3号証)、「VEN-22」頁(同第4号証)掲載の各エレクトリック・ギターは、本件取消請求に係る指定商品中「楽器」に属する商品であり、該ギターには、本件商標と社会通念上同一の標章が、自他商品の識別標識として機能し得る態様で付されていると認め得るものである。
そして、上記乙第3号証、同4号証に加え、フェンダージャパン社が作成した同第5号証及びフェンダージャパン社と住所、代表者を異にし、密接な関係を有しない取引先と認められる株式会社山野楽器が作成した同第7号証と被請求人の主張とを総合勘案すれば、少なくとも、本件商標を使用したと認められる「エレクトリック・ギター」を掲載したフェンダージャパン社作成のカタログが、平成7年12月以降及び同8年12月以降、株式会社山野楽器に配布され、該カタログに掲載されている本件商標を使用した「エレクトリック・ギター」が、平成8年2月以降同8年12月まで、数量は不明であるにしても、その製造元であるフェンダージャパン社から株式会社山野楽器に卸売りされ、さらに、前記本件商標を使用したエレクトリック・ギターが、平成8年2月以降同9年7月までの間、株式会社山野楽器から国内の小売店に卸売りがされたと認め得るところである。
(c) そうとすれば、上記のとおり、被請求人が提出した回答書添付の証明書、乙第3号証ないし同第5号証及び同第7号証によれば、通常使用権者であるフェンダージャパン社が、本件商標を、商品「エレクトリック・ギター」に、本件審判請求前3年以内に、日本国内において使用していたことが認められるといわなければならない。
なお、請求人は、種々の理由を挙げて、フェンダージャパン社が、本件商標を「エレクトリック・ギター」について商標として使用していない旨主張しているが、これを認めるに足る証拠について示していないから、上記のとおり判断するのが相当であり、その主張を採用することができない。
(3) 以上のように、本件商標は、本件審判請求の登録前3年以内に、日本国内において、通常使用権者によりその取消請求に係る指定商品について使用されていたものと認められる。
なお、請求人及び被請求人は、本件審判の審理対象以外について主張するところがあるが、本件審判については、以上の認定、判断で足りるものであるから、前示した以外の主張については判断しないことを申し添える。
したがって、本件商標は、商標法第50条の規定により、本件取消請求に係る指定商品についての登録を取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲

本件商標


審理終結日 2000-02-09 
結審通知日 2000-02-22 
審決日 2000-03-15 
出願番号 商願昭61-46707 
審決分類 T 1 32・ 1- Y (124)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 半戸 俊夫板垣 健輔田中 照雄 
特許庁審判長 工藤 莞司
特許庁審判官 久保田 正文
宮下 行雄
登録日 1992-10-30 
登録番号 商標登録第2464427号(T2464427) 
商標の称呼 ザベンチャーズ、ベンチャーズ 
代理人 奥田 百子 
代理人 吉田 隆志 
代理人 神田 正紀 
代理人 瀧野 秀雄 
代理人 牛木 理一 

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