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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない 042
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない 042
審判 全部無効 商4条1項8号 他人の肖像、氏名、著名な芸名など 無効としない 042
管理番号 1021065 
審判番号 審判1996-6660 
総通号数 14 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2001-02-23 
種別 無効の審決 
審判請求日 1996-04-23 
確定日 2000-06-19 
事件の表示 上記当事者間の登録第3089583号商標、登録第3089584号商標、登録第3059786号商標、登録第3089585号商標及び登録第2722306号商標の商標登録無効審判事件について、併合のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 I 本件商標
商標登録第3089583号に係る審判請求平成8年審判第5321号(以下、「甲事件」という。)、同第3089584号に係る審判請求平成8年審判第5738号(以下、「乙事件」という。)、同第3059786号に係る審判請求平成8年審判第6659号(以下、「丙事件」という。)、同第3089585号に係る審判請求平成8年審判第6660号(以下、「丁事件」という。)及び同第2722306号に係る審判請求平成10年審判第35116号(以下、「戊事件」という。)の各事件については、併合して審理する。
前記審判請求に係る各商標(以下「本件各商標」という。)、各指定商品又は指定役務、商標登録出願日、設定登録日及び登録番号は別掲のとおりである。

II 請求人は、本件各商標の登録は無効とすべき旨の審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁の要約は以下のとおりである。

1 無効理由
本件各商標は、他人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であってその役務又はそれに類似する役務について使用をするものであるから商標法第4条第1項第10号に該当し、他人の名称を含む商標であるから同法第4条第1項第8号に該当し、また、出所の混同を生ずるおそれがある商標であるから同法第4条第1項第15号に該当し、同法第46条第1項第1号により、それらの登録を無効にすべきものである。

2 利害関係
被請求人は、請求人の元従業員であり、業務が互いに同一であって、本件各商標は請求人の使用する甲第1号証(事件を特記した場合を除き、本件各事件又は特記した事件以外の事件に共通する証拠である。以下同じ。)記載の商標(以下、「ポポラーレ商標」という。)と同一又は類似である。よって、請求人は、被請求人によるフリーライドの影響を受け、かつ、本件各商標に係る商標権により差止請求を受ける可能性がある。また、請求人は、本件各商標に類似する商標を登録出願(商願平5-47764、商願平5-47765号)しており、後願として商標法第4条第1項第11号に該当し拒絶されるおそれがある。
したがって、請求人は、本件各商標の登録を無効にすることについて、請求の利益を有している。

3-1 無効理由 商標法第4条第1項第10号について
(1)請求人の営業開始から現在に至るまでの経過
昭和61年4月乃至5月 飯間康代と植田洋二の共同事業として、アイスクリーム店を経営することを計画し、「ポポラーレ商標」をデザイン会社である株式会社オックスに依頼してデザインを制定する(甲第2号証及び同第3号証)。以後、「ポポラーレ商標」は、請求人の事業を表示するオリジナルな商標として、継続して使用され、周知商標となるに至っている。
昭和61年7月12日 飯間康代の名義でアイスクリーム店(坂出元町店 店舗面積5.5坪)の開業を届け出る(甲第4号証。)。
昭和61年10月9日 被請求人近藤弘子を雇入れる(甲第5号証及び同第6号証)。
昭和62年4月 栗林店(店舗面積7坪)を開店する。坂出元町店及び栗林店とも店舗規模が小さいので被請求人近藤弘子を店長に任命する。
昭和62年7月 浅野店(店舗面積9坪)を開店する(甲第7号証乃至同第9号証)。
昭和62年9月12日 丸亀中府店(店舗面積11坪)を開店する(甲第10号証及び同第11号証)。
平成元年4月 観音寺店(店舗面積10坪)を開店する(甲第12号証)。
平成元年7月14日 屋島店(店舗面積29坪)を開店する(甲第13号証及び同第14号証)。
平成元年7月12日 植田洋二が経営権を飯間廣一郎に譲渡する(甲第15号証)。
平成4年3月 ゴールドタワー店を(店舗面積15坪)開店する(甲第16号証及び同第17号証)。
平成4年12月1日 有限会社ポポラーレ本部を設立(甲第18号証)。
平成5年2月 坂出サティ店(店舗面積17坪)を開店する(甲第19号証)。
平成7年 高松サティ店(店舗面積17坪)を開店する(甲第20号証)。
(2)請求人の営業広告活動等により「ポポラーレ商標」が需要者間に広く知られるに至った事実
(ア)請求人の営業活動等
昭和61年に、「ポポラーレ商標」をデザイン会社の協力を得て制定して以来、被請求人の商標登録出願の各時点で、請求人の店舗数は7店まで増えてきたが、この間、店舗の看板や商品包装等に使用し続けており、かかる事業活動により「ポポラーレ商標」は周知となっていた。
(イ)ちらし、新聞等による広告(甲第21号証乃至同第39号証)。
(ウ)テレビ放送による広告(甲第40号証乃至同第76号証(戊事件甲第40号証))。
(エ)その他の媒体による広告(甲第77号証乃至同第80号証(戊事件を除く。))。
前記(1)及び(2)の(ア)乃至(エ)から明らかなように請求人のアイスクリーム店は開業以来、順調に業績を上げ続けており、店舗数も増加する一方である。本件各商標の登録出願日現在では、7店舗に増え、その後も3店舗を増やし、拡大傾向を続けている。しかも、店舗の展開は香川県のほぼ全域に及んでおり、その活発な事業展開に合わせ、一般需要者、とりわけその主体である女子中高生には広く知られるに至っていると認められる。
前記のような事業活動の中で、店舗名は統一して「ポポラーレ」の名で使用されており、「ポポラーレ」の名、あるいは甲第1号証記載の「popolare」の欧文字にイタリアン・ジェラートの文字を記した旗を添えた「図形商標」は共に請求人の提供する商品及び役務を表彰する商標として広く認識されるに至っている。
併せて、請求人の広告活動は非常に旺盛であり、前記(イ)に示すちらし、新聞広告等は数量的にみても多大であり、このことのみによっても、「ポポラーレ商標」が需要者間に広く知られるに至ったものと認められる。しかも、請求人の広告活動は非常に多岐にわたっており、前記(ウ)に示すテレビコマーシャルを流す外、前記(エ)に示す草野球等にまで及んでいる。そして、前記(ウ)のテレビコマーシャルは非常に聞く人に覚えてもらいやすい心憎いもので、画面の送りに伴って、「パッ、ピッ、プッ、ぺッ、ポ、ポ、ラーレ」と発声するものであって、その語調が非常に快く、聞く者がこれを自然と覚えてしまうものである(甲第40号証)。
さらに、前記(エ)の草野球等の活動は、ポポラーレの店名乃至商標を、女子中高生だけでなく若い男性にも広く知らせる結果となっている。
以上の如く、「ポポラーレ商標」は、本件各商標の登録出願時において、周知商標となっていたことは疑いないのである。
(3)被請求人が本件商標を登録出願した前後の事情
被請求人は、前記(1)のように、請求人に雇用されていた従業員であった(甲第5号証及び同第6号証)。
しかるに、被請求人は平成元年4月に退職し、その後自らアイスクリーム店を経営するに至ったが、その際、請求人が開業以来使用してきた商標をそのまま使用し、かつ、本件各商標の登録出願に及んだものである。

3-2 無効理由 商標法第4条第1項第8号について
(1)請求人は本件各商標の登録出願前である昭和61年4月より、「ポポラーレ商標」の要部を屋号として使用し(甲第4号証及び同第5号証)、また、各店舗の看板に掲げ屋号として使用してきた(甲第7号証、同第11号証、同第14号証及び同第17号証)。
(2)商標法第4条第1項第8号にいう「他人の名称」の意味は、広辞苑(第三版)によると「名称」は「よびな、名前」のことと記載され、また、大辞泉(小学館)によると「名称」は「呼び名、名前、呼称」と記載されている。屋号はこれらのうち呼び名に相当するので、同号にいう「名称」に該当するものである。また、こう解することが人格権保護を目的とする本号の趣旨に合致することになる。
(3)よって、本件各商標は商標法第4条第1項8号に規定する「他人の名称を含む商標」に該当するので、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効にすべきものである。

3-3 無効理由 商標法第4条第1項第15号について
(1)被請求人は請求人と同じアイスクリーム小売店を営んでおり、被請求人の本件各商標は、請求人が屋号、看板、商品商標及び役務商標として使用する「ポポラーレ商標」と同一である。そして、被請求人が本件各商標を表示する被請求人店舗の看板、店構えは請求人のそれと同一である(被請求人の店舗を示す甲第97号証及び同第98号証(戊事件を除く。)と請求人の店舗を示す甲第7号証、同第11号証、同第14号証及び同第17号証を参照)。
(2)前記のように、業務内容、店構え、看板等がうり二つといってよい程類似しているのであるから、一般消費者にとって両者を区別できるはずがなく、本件各商標は、他人である請求人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標に該当する。
(3)現実に出所混同を生じた事例として次の例がある。
宅配便を利用して商品を配達したところ、受取人が居なくて商品を戻す際、宅配業者が同じ請求人の系列の店と誤認して、被請求人の店に商品を戻すような事態があった。
また、アルバイトや社員募集の際に、被請求人の店を請求人の店と誤認して応募するケースがあった(甲第117号証乃至同第119号証(戊事件甲第54号証乃至同第56号証))。

4 被請求人の答弁に対する弁駁
(1)審判請求書3頁18行の「ポポラーレ栗林店…開店する」の記載は打合せ不十分により生じた過誤に基づく記載であるので訂正する。
(2)植田洋二が商標権を有していないことは事実であるが、甲第15号証の立証趣旨は、未登録の商標であっても顧客吸引力が付いていれば財産価値があるので、それを譲渡したというものである。
植田洋二は飯間康代と共に創業当初よりアイスクリーム事業を営んできた者で、植田洋二が他の事業に専念するため退職する時に飯間廣一郎に創業以来3年にわたって使用し、顧客吸引力も付いた商標をアイスクリーム事業の営業権とともに譲渡したという趣旨であり、この後、請求人のアイスクリーム店は名実共に飯間康代と飯間廣一郎によって経営されるのである。
(3)本件審判外において、請求人と被請求人の間に債権債務の裁判事件があったことは事実であるが(甲第81号証乃至同第84号証(戊事件甲第41号証乃至同第44号証))、請求人の名誉のために事実関係を簡単に説明しておくと、被請求人が設立した会社(株式会社ポポラーレ、代表取締役は植田洋二と被請求人である近藤弘子)と本件審判外のアメリカンドーナツ株式会社(代表者は植田洋二)とが、代表者及び住所とも同一であるので、請求人が植田洋二の請求に従ってアメリカンドーナツ株式会社宛て代金を支払って安心していたところ、被請求人近藤弘子が株式会社ポポラーレ宛て支払うよう要求してきたもので、実質的には株式会社ポポラーレとアメリカンドーナツ株式会社との争いである。したがって、請求人は、二重払いを余儀なくされた被害者というべき事件である。
(4)審判請求書4頁(2)i「請求人の営業活動等」の欄において、「店舗数7店まで」を「店舗数6店まで」と訂正する(栗林店分を削除のため)が、全体の趣旨は事実を反映したものである。
被請求人が自己の費用で「ポポラーレ栗林店」のために宣伝広告したとの主張は失当であり、認められない。その理由は、「ポポラーレ栗林店」は被請求人が開店したものではないからである。
さらに、被請求人の提出した乙号証は、次の点で証拠能力のないものである。すなわち、(ア)乙第1号証の1乃至12だけでは、どのようなラジオ放送をしたのか、全く不明である。
(イ)乙第1号証の1乃至12は、あて先が、「ポポラーレ」と記載されているだけであり、被請求人にあてたものとは認められない。むしろ、甲第85号証乃至同第87号証(戊事件甲第45号証乃至同第47号証)により立証された事実によって、アメリカンドーナツ株式会社に宛てたものと認められる。
(ウ)被請求人は「新聞、雑誌にも広告を出して」と主張するが、これらは全く証拠が提出されておらず、信用することはできない。
以上のとおりで、被請求人の広告宣伝は根拠が全くなく信用できないのに比べ、請求人の提出した甲第21号証乃至同第40号証は広告の主体、内容共に明白なものであるので、請求人主張のとおり、「ポポラーレ商標」が周知商標であることを認めるに何ら差し支えないものである。また、甲第21号証乃至同第40号証の宣伝広告活動に被請求人が関与したと主張するが、具体的な説明は何もない。前記甲各号証において重要なことは、それらの内容が請求人を主体とする広告内容である、ということである。
(5)被請求人はアイスクリームのベース製造装置を有していたため、請求人の店舗や他のアイスクリーム店にアイスクリームベースを供給することはあったが、そのこと故に直ちに「ポポラーレ商標」が被請求人のものとか、被請求人が周知にしたとか断ずることはできない。
(6)甲事件、乙事件及び丁事件に関し、平成3年法律第65号附則第5条第2項は、特例出願について商標法第4条第1項第10号の適用は自己の商標が周知である場合に適用除外するというものであり、被請求人商標は、周知商標といえないのであるから、同法第4条第1項第10号の規定によって、無効とされるべきである。
(7)請求人の事業は、飯間康代と植田洋二の個人事業として始まったものであり、当然に、その時期に採用した「ポポラーレ商標」は、飯間康代と植田洋二に帰属する。よって、植田洋二が請求人事業とは別に経営していたアメリカンドーナツ株式会社に帰属するはずがないし、アメリカンドーナツ株式会社のその後とは何の関係もない。したがって、アメリカンドーナツ株式会社の事業が被請求人へ譲渡されたことがあったとしても、そのことによって、「ポポラーレ商標」が飯間康代と植田洋二の共同所有に係ることに何ら影響を及ぼさない。
なお、乙第6号証(戊事件乙第8号証)には商標について何ら触れることがなく、また、「被請求人が自己のものとして管理使用していた」旨の主張も何らこれを裏付ける証拠がないので、これまで被請求人が度々繰り返してきた虚偽主張であると断言できる。
「ポポラーレ商標」が請求人によって使用されてきたことは、これまで甲各号証によって立証してきたところである。
また、請求人の被雇用者であった被請求人が退職後に使用し始めた商標が、被請求人に帰属するとは時間的に成立するはずがない。よって、被請求人の主張は全く根拠がない。
(8)甲第15号証は、飯間康代との共同事業者であった植田洋二が飯間廣一郎にその事業の持分を譲渡したというものであり、事業譲渡と共に甲第1号証に係る「ポポラーレ商標」の所有を譲渡したというものである。これにより、以後の請求人事業が飯間廣一郎と飯間康代との共同事業となり、さらに法人化していくこととなるのである。換言すれば、上記の経過を経て、「ポポラーレ商標」の周知商標としての保護法益が請求人に帰属していくのである。
本件審判において重要なことは、「ポポラーレ商標」が請求人によって、被請求人の登録出願以前より使用されてきたという事実である。よって、被請求人の主張はやはり理由がない。
(9)甲第2号証(甲第1号証商標の制作証明書)、同第4号証(個人事業の開廃業届出書)及び同第15号証(事業譲渡の証明書)により、請求人が立証してきた事実をまとめると、(ア)飯間康代と植田洋二の共同個人事業(イ)植田洋二から飯間廣一郎へ事業の持分を譲渡 (ウ)飯間廣一郎と飯間康代の共同個人事業 (エ)有限会社ポポラーレ本部の法人事業という変遷をたどってきているのであり、その間、事業主体の一貫性があることは明白である。
(10)被請求人の陳述への反論
(ア)被請求人は、アイスクリーム事業を小売りも中間資材の卸しも含めて全体としてアメリカンドーナツ株式会社が創始したと主張するが失当である。同社はアイスクリーム事業のうち中間資材の卸しのみ行っていたことは明らかである(乙第4号証及び甲第123号証(戊事件甲第59号証))。そして、アイスクリームの小売業は、アメリカンドーナツ株式会社とは別の事業として飯間廣一郎・康代夫妻と植田洋二個人が個人経営として創始したものである(甲第133号証(戊事件甲第62号証))。
請求人の店舗も当初はアメリカンドーナツ株式会社から中間資材であるベースの供給を受けており、のちに同社が供給できなくなってからは、アメリカンドーナツ株式会社のアイスクリーム製造設備を譲り受けた被請求人の株式会社ポポラーレから一部供給を受け、残りを自ら製造し、さらに後には、自らのベース製造工場を持って中間資材ベースの全量を自家生産している。要するに、請求人が必要とする中間資材ベースの一部を被請求人から買ったことがあるが、それは普通に行われる商行為にすぎないのである。
(イ)口頭審理陳述要領書I欄記載項目(3)の後半、「すなわち、被請求人の……アイスクリーム事業の全てを事実上承継したものです。」につき、「アイスクリーム事業の全て」が中間資材ベースの卸し業務を意味するなら認める。しかし、卸し業務の外にアイスクリーム小売業も承継したというなら失当である。なぜなら、本来、アメリカンドーナツ株式会社はアイスクリーム小売業を行っていなかったからである(乙第4号証)。また、被請求人も、アイスクリーム小売りを行う「栗林店」は、個人経営と認識しており(乙第4号証及び甲第83号証(戊事件甲第43号証))、それ故、本件各商標の登録も個人名義となっているのである。
(ウ)口頭審理陳述要領書I欄記載項目(4)において、被請求人は乙第4号証中で、「被請求人がアメリカンドーナツのアイスクリーム事業の事実上の承継者であることが認められています。」旨主張するが失当である。乙第4号証には商取引の売主が誰かが争われているが、その事件に関する限りの売主が特定されているだけで、被請求人が承継者と全面的に認めた趣旨ではない。また、承継があったとしても、元々アメリカンドーナツ株式会社のアイスクリーム事業は中間資材ベースの卸し業務だけで、前述のごとくアイスクリーム完成品の小売りはしていなかったのであるから、小売りに付随する業務を承継し得ようはずがない。
また、被請求人は乙第16号証(丙事件乙第14号証、戊事件乙第6号証)によりフランチャイザーとしての地位を承継した旨を主張するが、これには誤りがある。すなわち、乙第16号証(丙事件乙第14号証、戊事件乙第6号証)で問われているフランチャイザーとフランチャイジーの関係は、あくまでも商品代金の支払いに関してであって、それ以上のものではない。つまり、中間資材をどこから買うか、あるいはどこから買ったかという関係であって、それ以外のノウハウや商標の取扱いに及んだものではないのである。被請求人の主張は、当該事件に関するフランチャイザーなる概念を、何の根拠もなく不当に拡大解釈している点で失当である。
(エ)被請求人は、口頭審理陳述要領書I欄記載項目(5)において、アイスクリーム事業の運営者はアメリカンドーナツ株式会社だけだったと主張するが失当である。アイスクリーム中間資材ベースの卸し業務は、当初より同社が行っていたものであるが、アイスクリーム小売店は、当初より飯間夫妻と植田洋二の個人事業として発足している(甲第4号証)。被請求人が指摘する甲第2号証に「(株)アメリカンドーナツ」の記載があるのは、この時期、請求人は開店準備であったことと、税法上の都合(必要経費に繰込む等)のためであり、実質は植田洋二個人あてである。要するに、被請求人は、卸し業と小売業は業態も顧客も異なり、両者は個別に存在しているものを、あえて一緒に論じ、実体を誤認させているのである。
(オ)口頭審理陳述要領書I欄記載項目(6)において、被請求人は、乙第3号証の株式会社ポポラーレへの「ポポラーレマルガメ店」からの振込みを近藤弘子へのロイヤリティと主張しているが失当である。乙第3号証に示された請求人の振込み金は、植田洋二が個人的に経営参加していたことに対する報酬の意味で請求人が支払っていたものである。したがって、請求人が株式会社ポポラーレのフランチャイジーであったわけでもなく、フランチャイズ契約に基づくロイヤリティの支払いであったわけではない。ましてや、近藤弘子個人へのロイヤリティであったわけではない。なお、株式会社ポポラーレが何らかの意味でフランチャイザーであったとしても、本件各商標の権利者である近藤弘子個人がフランチャイザー乃至は何らかの権利を主張できる立場でないことも明白である。
さらに、次の事実からも被請求人の主張は理由がない。
(i)被請求人がフランチャイザーであり請求人がフランチャイジーであるといいながら、これほど重要な関係について立証する契約書等を提出しようとしない。
(ii)ロイヤリティを受取る権原を主張しながら、ロイヤリティの対象が誰か、内容が何か、明白な証拠は一切存しない。乙第2号証は請求書送付の遅延を詫びる書面であって、ロイヤリティの存在や内容に触れたものではない。
(カ)乙第3号証の預金通帳に記載された「ポポラーレマルガメ店」の送金額は被請求人がいう商標使用料を含めた意味のロイヤリティではないことを立証する。
乙第3号証の預金通帳に日付の記載がある昭和63年9月乃至12月の間といえば、株式会社ポポラーレの代表取締役に、まだ植田洋二が就任していた時期であるが、植田洋二が請求人の開店以来個人的に経営参加していたことに対する報酬という意味で植田洋二個人に売上の5%を振り込んでいたものである(甲第123号証(戊事件甲第59号証))。
植田洋二が乙第3号証(富士銀行普通預金通帳)に日付の記載がある昭和63年9月乃至12月の間、株式会社ポポラーレの代表取締役であった(甲第124号証(戊事件甲第60号証))。甲第124号証(戊事件甲第60号証)によると、植田洋二は平成元年1月12日に辞任の届けをしているが、この日までは部外者にとっては植田洋二は株式会社ポポラーレの代表取締役であったとしか認識できないのである。
したがって、当然に、請求人代表者飯間廣一郎は、指定されたとおりに株式会社ポポラーレの口座に振込めば、植田洋二の手に渡ると信じ、約束にしたがって植田洋二へのロイヤリティを振込んできたのである。
以上の事実に基づくと、ロイヤリティ送金先の通帳(乙第3号証)と商品代金送金先の通帳(乙第15号証(丙事件乙第13号証、戊事件乙第5号証)・百十四銀行普通預金通帳)が区別して用いられていることも自然なこととして説明がつくのである。
(11)(ア)被請求人は,乙第17号証(丙事件乙第15号証、戊事件乙第7号証)のフランチャイズ契約の存在を主張し、その存在に基づきアメリカンドーナツ株式会社のポポラーレアイスクリーム事業の正当な承継者であると主張している。乙第17号証(丙事件乙第15号証、戊事件乙第7号証)の成立は認める。ただし、契約の実体は契約書に記載された文言どおりではない。乙第17号証(丙事件乙第15号証、戊事件乙第7号証)の契約書の契約締結当時、アメリカンドーナツ株式会社は設立してから約1年半後であって、従業員が2、3人程度の極く小規模なものであった。したがって、きちんとした契約書を作る能力がなく植田洋二が以前に勤務していたミスタードーナツ株式会社が使用していた契約書のフォームをそのまま流用し、名前だけを入れ替えて作成したものである。
それゆえ、アメリカンドーナツ株式会社は、契約書に記載してあるようなフランチャイザーとしての義務を果たせるだけの実力、ノウハウは有していなかった。例えば、契約書中の第1条の(1)に規定する「調理、商品管理、店舗管理、会計管理、教育研修等」を行うノウハウもなく、同(2)に規定する「看板、ラベル、袋、容器その他につき、甲の商標、意匠、デザイン・マーク」に関する十分な知識もなかったのである。
さらに、第4条に規定する甲(フランチャイザー)の義務も、書いてあるだけで実体は何もしていなかったのである。実体としては、アイスクリーム中間資材の卸し売りをするという商取引であり、フランチャイザーはアメリカンドーナツ株式会社以外からはアイスクリーム中間資材を購入しないという点に、アメリカンドーナツ株式会社側の実益があったものである。また、店舗開設時の銀行資金導入の際に、銀行側の信用を得るためしっかりした内容の契約書が必要でもあったというものである。
以上のとおりであるから、乙第17号証(丙事件乙第15号証、戊事件乙第7号証)の契約書における第6条のフランチャイズ加盟料も、第7条のロイヤリティも実体はなく、そこに書かれているような本来のフランチャイズ契約のような立派な関係のものではないのである。
前記のごとく、アメリカンドーナツ株式会社と飯間康代(法人成りする前の請求人)との関係の実体は、アイスクリーム中間資材の購入先を拘束する単なる商取引関係でしかなかったのである(甲第134号証(戊事件甲第63号証))。
(イ)被請求人が取締役の一人であった株式会社ポポラーレがアメリカンドーナツ株式会社からアイスクリームに関する全ての業務を引き継いだかのような主張をしているが、これは虚偽主張である。アイスクリーム中間資材の製造設備を譲渡したことと、フランチャイザーの変更は事実であるが、アイスクリーム小売業については何も譲渡していない。もともとアメリカンドーナツ株式会社はアイスクリーム中間資材の卸売りのみを行っており、アイスクリーム小売は営業していなかったのであるから、譲渡できるはずがないというのが実態である。また、フランチャイズ契約の実態は前記したように、アイスクリーム中間資材の購入先を拘束するというものでしかなかったのであるから、フランチャイザーの変更があったとしても、アイスクリームの小売りに関する権利義務を譲渡できようはずがない。
(ウ)被請求人は、「フランチャイザーの地位の取得は当然に「ポポラーレ商標」の所有権者ないしは使用権者としての地位を取得した」と主張するが、失当である。
この点については、アイスクリーム小売業はアメリカンドーナツ株式会社は営業していなかったから、それに付帯する「ポポラーレ商標」についての使用権限も譲渡できるはずがないからである。
「ポポラーレ商標」は元来、飯間廣一郎・康代夫妻と植田洋二の3人に使用権原が帰属し、その著作権もこの3人に帰属するものである。さらに、植田洋二が飯間廣一郎にアイスクリーム小売業の全権譲渡をした平成元年7月以降は、飯間廣一郎・康代夫妻へ、法人成り後は有限会社ポポラーレ本部に帰属するものである。
(エ)被請求人は、「株式会社ポポラーレはアメリカンドーナツ株式会社のフランチャイザーとしての地位を全て承継した」と主張しているが、このことがアイスクリーム小売業に関する全ての権原も承継したという意味なら失当である。
確かに、フランチャイザーの移転の事実はあったものの、その実態は先にも述べたごとく、アイスクリーム中間資材の仕入先を拘束する商取引以上のものではなく、ましてやアイスクリーム小売業や、それに付帯する「ポポラーレ商標」の使用権原の移転を意味するものではなかったからである。このようにフランチャイズ契約は名だけであって、実体を反映していないのである。
(オ)なお、フランチャイジーの承継先は株式会社ポポラーレという法人であって、近藤弘子ではない。被請求人、すなわち商標権者は近藤弘子個人である。よって、この点からもフランチャイジーの移転は、本件審判における無効理由の存否と直接関わりがないはずである。被請求人の主張は、請求人のアイスクリーム小売業がフランチャイズ契約に基づいて行われたものという誤った前提に立っている点で、全て真実を反映していないものである。
被請求人は、「請求人又は飯間康代がアメリカンドーナツ株式会社と共同事業者としての意識を持っていなかった」と主張するが、これは当然である。飯間康代と飯間廣一郎が共同経営者として認識していたのは植田洋二個人であって、アメリカンドーナツ株式会社はあくまでアイスクリーム中間資材の卸売り(仕入先)という関係であって、商取引の対象でしかないからである。

III 被請求人の答弁
1 被請求人は結論同旨の審決を求め、請求の理由に対する認否及び答弁の要約は以下のとおりである。
(1)利害関係について
(ア)被請求人が請求人の元従業員であったとの点は否認する。被請求人は、いかなる意味においても請求人の従業員であったことはない。
(イ)被請求人と請求人の業務が互いに同一であるか否かは不知(ただし、アイスクリームの製造・販売等、一部の分野において競合関係にあることは認める。)。
(ウ)本件各商標が、「ポポラーレ商標」と類似であることは認める(ただし、同一ではない。)。
(エ)請求人が被請求人によるフリーライドの影響を受けるとの点については否認する。被請求人が本件各商標を使用することは、被請求人本来の正当な権利行使である。
(オ)請求人が、本件各商標に係る商標権により差止請求を受ける可能性があるとの点については、将来の問題であり、現時点では認否を留保する。
(カ)請求人が、本件各商標に類似する商標を登録出願(商願平5-47764、商願平5-47765号)しているか否かは不知。また、同出願が、後願として商標法第4条第1項第11号に該当し拒絶されるおそれがあるか否かも不知である。
(キ)したがって、請求人が、本件各商標の登録無効審判を請求することについて、請求の利益を有しているとの点については争う。
(2)「ポポラーレ商標」が、「商標法第4条第1項第10号に規定する他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして広く認識されている商標」である、との点については否認する。「ポポラーレ商標」は、本来、被請求人が正当に権利を取得し、そして現在も正当な権原の下に使用しているいくつかの商標に類似する商標である。
(3)「(1)請求人の営業開始から現在に至るまでの経過」について
「昭和61年4月乃至5月」の項については次の通りである。
(ア)飯間康代と植田洋二の共同事業として、アイスクリーム店を経営することを計画したか否かは不知。
(イ)甲第1号証記載の商標(「ポポラーレ商標」)をもって「請求人商標」ということについては争う。この時期、請求人会社はまだ設立されていない。
(ウ)「ポポラーレ商標」を株式会社オックスに依頼して制定したのが請求人又は個人としての飯間廣一郎である、というのであれば否認する。甲第2号証及び同第3号証の成立及び内容の真否は不知。
(エ)「ポポラーレ商標」が、以後、「請求人の事業を表示するオリジナルな商標として、継続して使用され、周知商標となるに至っている」との点は否認する。
(4)「(2)請求人の営業広告活動等により請求人の商標が需要者間に広く知られるに至った事実」について
(ア)先ず、「イ請求人の営業活動等」の項については、その全体の趣旨について全面的に争う。請求人が主張する7店舗のうち、「栗林店」は、当初から被請求人が全資金を拠出し、その開店以来、被請求人の経営として継続しているものである。被請求人は、自ら経営する「栗林店」のために昭和62年4月頃から同63年5月頃にかけて、自己の費用で「ポポラーレ」の宣伝のためにラジオ広告(西日本放送)を出したり(乙第1号証の1乃至12)、あるいは、新聞、雑誌等にも広告を出してきており、これまで「ポポラーレ商標」がある程度、需要者の間に浸透してきたのは、被請求人の努力によるところが大きいのである。請求人は、甲第21号証乃至同第40号証を引用して、それらの宣伝広告が、請求人の行為によるものであるかの如くにいうが、そのうちの相当部分は、被請求人が関与しているものである。
(イ)「ポポラーレ」の名称を冠してアイスクリームの製造・販売を始めたのは、名目上はアメリカンドーナツ株式会社であったが、事実上その事業を運営していたのは、当初から被請求人自身であり(製造・小売店舗としての第1号店である「栗林店」を経営)、そのために、アメリカンドーナツ株式会社が所有していたアイスクリームのベース製造装置、その他のアイスクリーム事業用財産を引取り、その後、被請求人が高松市において設立した株式会社ポポラーレの事業として、「ポポラーレ丸亀店」、「坂出店」、「高瀬店」に対しては、アイスクリーム用各種資材の供給元となって、アイスクリーム用各種資材を提供していたのである。
乙第2号証は、株式会社ポポラーレ(代表者 近藤弘子)が、ポポラーレ各営業店へ送付した書状(請求書の送付が遅れている事情を説明し、9月24日までにアイスクリームベース等の代金の振込を依頼する内容のもの)である。そして、乙第3号証は、被請求人が代表者をしている前記株式会社ポポラーレの預金通帳(昭和63年7月1日乃至平成元年2月20日)であるが、この預金通帳によれば、昭和63年9月24日乃至同年12月24日の間に、「ポポラーレタカセテン(高瀬店)」や「ポポラーレマルガメ(丸亀中府店)」からアイスクリーム材料等の代金が振り込まれていることが示されている。また、乙第2号証の書状の末尾に「ロイヤリティ」とあるのは、それまで「ポポラーレ」の名称を使用する各営業店からフランチャイズ契約料として徴収していたものである。このような経緯からみても、「ポポラーレアイスクリーム事業」を、事実上、運営していたのは、被請求人であり、「ポポラーレ商標」は、本来的に、被請求人に帰属すべきものなのである。被請求人としては、「ポポラーレアイスクリーム事業」の開始と同時に、「ポポラーレ商標」を登録申請すればよかったのであるが、その当時はサービスマーク登録制度がなく(「ポポラーレ」アイスクリームは、ほとんどが店内消費の形で販売されていた)、サービスマーク登録制度創設後の特例期間内である平成4年9月14日にその登録出願をするに至ったものである。
以上のような経緯からも明らかなように、「ポポラーレ商標」については、現在、それがある程度有名になっているとしても、そのことと、請求人の主張との間には何らの関連性もないのである。請求人は、「ポポラーレ商標」が、本件各商標の登録出願時において、周知商標となっていた、と主張し、かつ、それが請求人の営業ないし広告活動の結果であるとの趣旨の主張をしているが、請求人が提出した甲各号証は、その成立、内容の真否、請求人(平成4年12月1日設立)との関係、等々について不透明な部分がきわめて多く、このような証拠(甲第1号証乃至同第80号証(戊事件甲第1号証乃至同第40号証))のみをもってして、請求人の主張を認めることは全面的に合理性を欠くものといわなければならない。
(ウ)請求人(飯間廣一郎)は、甲第15号証により、アイスクリーム事業「ポポラーレ」に関するすべての権利を、平成元年7月12日付けで、株式会社エーディ(代表者植田洋二)から譲渡されたと主張しているが、本来、株式会社エーディには、「ポポラーレ」に関して何らの権利もなく、このような譲渡契約と、被請求人による本件商標登録の有効性との間には何らの関係もない。
(エ)登録出願された商標が商標法第4条第1項第10号に該当するか否かの判断基準日は、同条第3項によればその登録出願日とされる。本件各商標に係る登録出願は、甲事件、乙事件及び丁事件に関しては、平成3年法律第65号附則第5条第2項に規定する特例商標登録出願であるから、本件各商標それ自体が「自己の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標であってその役務について使用するもの(すなわち、周知商標)」である場合には、仮りに同商標が商標法第4条第1項第10号に該当する場合であっても、同規定は適用されない。
本件各商標は、被請求人が、「ポポラーレ栗林店」や株式会社ポポラーレ等の業務を表示するものとして、多年使用してきたものであり、もし、請求人主張の「ポポラーレ商標」がいわゆる周知商標である(被請求人としては到底認めるところではないが)というのであれば、それと同等以上に、被請求人の使用する本件各商標も周知商標であるということができる。
そして、そのような場合には、平成3年法律第65条附則第5条第2項の規定により、商標法第4条第1項第10号の規定にかかわりなく、本件各商標を登録することができるのである。
(5)「ポポラーレ商標」の帰属について
(ア)「ポポラーレ商標」は、甲第2号証によれば、昭和61年5月にアメリカンドーナツ株式会社が、株式会社オックスに依頼して製作したものとされているが、アメリカンドーナツ株式会社はその後まもなく経営に行詰まり、昭和63年5月に至る間にはアイスクリーム事業を被請求人に引き継ぐべく同社所有のアイスクリーム製造用設備等を被請求人に譲渡したものである(乙第6号証(戊事件乙第8号証))。乙第6号証(戊事件乙第8号証)は、そのときのアメリカンドーナツ株式会社から被請求人への譲渡財産目録(アメリカンドーナツ株式会社代表者 植田洋二の作成)である。なお、「ポポラーレ商標」については、それ以前のポポラーレ統括店である「栗林本店」開店以来、被請求人が自己のものとして管理及び使用していたものである。
(イ)アメリカンドーナツ株式会社は、アイスクリーム事業用全資産の譲渡とともにアイスクリーム事業に関する一切の権利を手放したものというべきであり、後日に至って株式会社エーディが請求人代表者に対して「ポポラーレ」に関する権利を譲渡した(甲第15号証)といっても、そのようなことによっては、被請求人が「ポポラーレ商標」を使用し、かつ、同商標を特許庁へ登録申請する権利は、何らの影響をも受けることがないものである。
(ウ)請求人代表者が株式会社エーディから「ポポラーレ商標」に関する全権譲渡を受けたとされるのは、甲第15号証によれば平成元年7月12日であり、もしそうであるとすれば、請求人(又はその代表者である飯間廣一郎)は、それ以前は「ポポラーレ商標」に関して何らの権利をも主張すべき立場になかったということになる。そして、それ以前(平成元年7月12日以前)における請求人主張の種々の事実関係(例えば、昭和61年7月12日の「坂出元町店」出店、昭和62年9月12日の「丸亀中府店」出店、被請求人との間の雇用関係の有無、等々)も、本件審判の成否とは全面的に関係のないことである。
(6)「ポポラーレ栗林本店」運営の実態と「ポポラーレアイスクリーム事業」をめぐるその後の状況について
請求人は、甲第83号証(戊事件甲第43号証)を援用して、「ポポラーレ栗林本店」は被請求人の開店にかかるものではない旨主張しているが、同店は、開店当初(昭和62年4月24日)から被請求人が経営する店舗であったのである。そして、「同栗林本店」は、ポポラーレフランチャイズ各店(請求人代表者経営の坂出店、丸亀店外、浅野店、一宮店、浜ノ町店、ライオン通り店、峯山店等)に対する統括店となって、アイスクリーム商品や、商品袋、シール類等のアイスクリーム事業関連商材の供給元となるとともに、ポポラーレ各店を代表してラジオ広告等の広告業務をも行ってきたものである(乙第1号証の1乃至12)。そしてそのラジオ広告の規模は請求人が主張するテレビ広告の費用(月額10乃至25万円)より多い月額35万円の規模に達していたものである。
請求人代表者がポポラーレについてテレビ広告をし始めたのは甲第41号証によれば、請求人代表者と被請求人とが訴訟状態となった後の平成2年2月以後からであるが、被請求人が経営する「ポポラーレ栗林本店」はそれ以前の昭和62年4月頃からポポラーレ事業総括店としてラジオ広告を継続的に行っていたものである。
請求人代表者は、本来、ポポラーレのフランチャイジーであったのにも拘らず、平成元年2月頃から被請求人に対して無断で自らアイスクリーム等の製造を開始し、それとともに、本来的に被請求人に帰属している「ポポラーレ商標」を、その登録がなされていないことを奇貨として使用し、あまつさえ、被請求人に対して同商標の僭用者呼ばわりしているのが実情なのである。
(7)アメリカンドーナツ株式会社と飯間康代との間のポポラーレアイスクリーム事業に関するフランチャイズ契約の存在について
(ア)乙第17号証(丙事件乙第15号証、戊事件乙第7号証)は、被請求人が、アメリカンドーナツ株式会社代表者であった植田洋二から「ポポラーレアイスクリーム事業」承継の際に引き継いだ資料の中から発見した「アメリカンドーナツ株式会社ポポラーレ事業部フランチャイズ契約書」と題する書面である。この書面は、最後尾の署名捺印からして、アメリカンドーナツ株式会社を「ポポラーレアイスクリーム事業」のフランチャイザーとし、飯間康代をフランチャイジーとするフランチャイズ契約書(ポポラーレ丸亀中府店用)であることが明らかであり、請求人の代表者である飯間廣一郎がその連帯保証人となっていることが明示されている。
(イ)請求人は、「昭和61年4月乃至5月飯間康代と植田洋二の共同事業として、アイスクリーム店を経営することを計画し、甲第1号証記載の商標をデザイン会社(株式会社オックス)に依頼してデザインし制定する。以後、この請求人商標は請求人の事業を表示するオリジナルな商標として、継続して使用され、周知商標となるに至っている。」ということを基本的主張として、本件審判請求を行っているが、乙第17号証(丙事件乙第15号証、戊事件乙第7号証)は、この基本的主張が、請求人代表者が、自ら知りつつ行った虚言であることを物語っている。
本件審判の中核をなす事実関係は、「ポポラーレアイスクリーム事業」は、昭和63年5月末に被請求人が同事業を承継するまでは、アメリカンドーナツ株式会社が唯一のフランチャイザーであり、飯間康代又は飯間廣一郎が運営していた「坂出店」及び「丸亀店」などはそれぞれ単なるフランチャイジーでしかなかったのである。
(ウ)乙第17号証(丙事件乙第15号証、戊事件乙第7号証)記載のフランチャイズ契約の主たる内容は、同フランチャイズ契約書の第1条第4条及び第11条に記載されているところにある。
すなわち、第1条については、フランチャイザー(甲)からフランチャイジー(乙)に対して、「(1)甲が開発したイタリアンジェラート『ポポラーレ』に関する商品・原材料等を供給するほか、調理、商品管理、店舗管理、会計管理、教育研修等、経営に関するノウハウを供与すること、(2)商品の製造・販売およびその他営業行為に関連して使用する看板、ラベル、袋、容器その他につき、甲の商標・意匠・デザイン・マークを使用することを許諾すること」というものであり、第4条については、フランチャイザー(甲)がフランチャイジー(乙)に対して、「(1)マニュアルの交付、(2)教育研修、(3)販売促進の助言、(4)開店指導、(5)継続指導、等を行う」というものであり、第11条については、フランチャイザー(甲)からフランチャイジー(乙)に対して、「乙がこの契約に基づき必要とする商品・原材料および備品等につき、別に定める規則によって供給するものとする」というものである。
そして、フランチャイジー(乙)はフランチャイザー(甲)に対して、その対価として「フランチャイズ加盟料(第6条)」及び「ロイヤリティ(第7条)」を支払うほか、「原材料代金を支払う(第12条)」としたものである。
(エ)「ポポラーレアイスクリーム事業」というものは、前記のように、植田洋二が代表取締役をしていたアメリカンドーナツ株式会社が創始したものであり、同事業の第1号店は「中央公園店」(昭和61年6月開店)で、その後、「坂出店」(請求人の主張によると、昭和61年7月開店)、「栗林店」(昭和62年4月開店)、「浅野店」(請求人の主張によると、昭和62年7月開店)、「丸亀店」(請求人の主張によると、昭和62年9月開店)、後日観音寺店と改称する「高瀬店」(昭和63年3月開店)などが順次開店した(現在は閉店しているが、その他にも、一宮店、浜ノ町店、ライオン通り店、峯山店などがあった)。そして、それらの各店は、アイスクリームやその他の関連商材を、「栗林店」が開店する昭和62年4月まではアメリカンドーナツ株式会社から、「栗林店」開店後は同店から供給されていた(丸亀店と高瀬店は当初はアイスクリームのベースをアメリカンドーナツ株式会社から供給、ただし、ポポラーレマーク入りの袋類などは栗林店から供給、昭和63年6月からはアイスクリームベースもポポラーレマーク入りの袋類なども株式会社ポポラーレから供給)。
(オ)「栗林店」は、当初はアメリカンドーナツ株式会社からアイスクリームのベースの供給を受けるという形で出店したが、アメリカンドーナツ株式会社がその後他の事業で資金的に行き詰まり、昭和63年6月に被請求人が代表取締役となって設立した株式会社ポポラーレ(高松市所在)が資金を提供してアメリカンドーナツ株式会社の所有するアイスクリーム製造設備の全てを譲り受けた。被請求人は、アメリカンドーナツ株式会社からのアイスクリーム製造設備譲受けに際して、それまで同社が各フランチャイジーに対して行っていた各種資材やサービスの提供業務(フランチャイザー業務)も引き継ぐよう求められ、被請求人はこれを承諾したものである。
(カ)被請求人が「ポポラーレアイスクリーム事業」のフランチャイザーとしての地位を取得(当然に「ポポラーレ商標」の所有権者乃至は使用権者としての地位も取得)したことは、その後各フランチャイジーに対して口頭(電話)及び書面で通知されており(請求人代表者がこの通知を受け、かつ、承諾したことは、乙第16号証(丙事件乙第14号証、戊事件乙第6号証)の「第一の一及び七」の項で自ら認めている。)、請求人代表者の経営する「ポポラーレ丸亀店」も被請求人による「ポポラーレアイスクリーム事業」のフランチャイザーたる地位の承継を認めて、フランチャイジーとしての義務であるロイヤリティーの支払いに応じていたのである(乙第2号証、同第3号証、同第15号証(丙事件乙第13号証、戊事件乙第5号証)及び同第16号証(丙事件乙第14号証、戊事件乙第6号証))。
なお、アメリカンドーナツ株式会社からは、フランチャイザー業務の引継ぎに際して、特に、「ポポラーレ商標」の登録出願についての話しはなかったが、仮に、アメリカンドーナツ社代表者の植田洋二が「ポポラーレ商標」について登録出願を考えていたとしても、その当時はまだサービスマーク登録制度がなく、同商標を法的に登録保持することは不可能であった。
(キ)株式会社ポポラーレと「栗林店」は、アメリカンドーナツ社から譲り受けた設備を使用して被請求人が経営する「栗林店」のためのアイスクリームを製造する他、株式会社ポポラーレと「栗林店」は、昭和63年6月以降は、同設備を使用して製造したアイスクリームの半製品や完成品をその他のポポラーレチェーン各店へ販売するようになったのである。
以上のように、被請求人の経営する株式会社ポポラーレは、少なくとも昭和63年6月には、アメリカンドーナツ株式会社の名義で行っていたアイスクリーム事業のフランチャイザーとしての地位を全て承継したものである。
(ク)被請求人の経営する株式会社ポポラーレと「栗林店」は、アメリカンドーナツ株式会社が名目上も、実質上もアイスクリーム事業から完全に撤退したあとも、それ以前に引き続いて「坂出店」、「浅野店」、「丸亀店」などにアイスクリームやその他の関連商材を継続的に供給していたが、その商品代金の支払いをめぐって「丸亀店」経営の飯間廣一郎(請求人の代表者)及び飯間康代と訴訟になった。この訴訟の争点は商品代金の支払いをめぐるもので、「ポポラーレ商標」の帰属は直接の問題とはなっていないが、この判決では、被請求人が、アメリ力ンドーナツ社が行っていたポポラーレアイスクリーム事業の事実上の承継者であることが認められている(乙第4号)。
なお、「ポポラーレアイスクリーム事業」に関して被請求人がフランチャイザーとしての地位を承継したものであることは、請求人代表者の飯間廣一郎も認めているものである(乙第16号証(丙事件乙第14号証、戊事件乙第6号証))。
(ケ)請求人は、「ポポラーレアイスクリーム事業」は飯間康代と植田洋二との共同事業として計画された旨主張しているが、請求人又は飯間康代がアメリカンドーナツ株式会社の「ポポラーレアイスクリーム事業」について何ら共同事業者としての意識をもっていなかったことは、アメリカンドーナツ株式会社が「アイスクリーム事業」から撤退した際にも、何らの権利主張をすることなく、同社に代わる商品供給元(フランチャイザー)として、被請求人経営の株式会社ポポラーレと取引きを再開したことからも明らかである。株式会社ポポラーレからポポラーレ各店へ送付した昭和63年9月1日付けの書状(乙第2号証)には、商品代金とは別にポポラーレ加盟店としてのロイヤリティ(売上高の5パーセント)を富士銀行高松支店の株式会社ポポラーレの口座(乙第3号証)へ振り込むよう記載しているが、請求人の「ポポラーレマルガメ店」からも同口座へ入金がある。
このことは、「ポポラーレマルガメ店」が株式会社ポポラーレのフランチャイジーの一つであったことを示している。なお、ポポラーレ各店からの商品代金は、別途百十四銀行円座支店の株式会社ポポラーレの口座(乙第15号証(丙事件乙第13号証、戊事件乙第5号証))に入金されている。この乙第15号証(丙事件乙第13号証、戊事件乙第5号証)の口座は乙第2号証の書状に書いてある口座である。
(コ)請求人代表者(又は飯間康代)の「丸亀店」は、上記のように一定時期まで(平成元年2月頃まで)は、ポポラーレフランチャイズ加盟店として営業していたのであるが、そのうち、請求人代表者(又は飯間康代)は、被請求人に無断でフランチャイズ契約上の義務を履行しないようになり、しかも被請求人に原使用権がある「ポポラーレ商標」を、その商標登録がない(その当時はサービスマーク登録制度がなかった)ことを奇貨としてそのまま不法に継続使用するようになったというのが実情である。そして、その不法な継続使用が、本件各商標に係る商標権の設定後も続いているものである。
(サ)被請求人は、自らが「ポポラーレアイスクリーム事業」の運営者であるとの自覚の下に、平成4年9月までの間に同事業の運営のために必要と思われる本件各商標について継続して登録出願を行って来た。このような事実からみても、被請求人がアメリカンドーナツ株式会社の「ポポラーレアイスクリーム事業」の正当な承継者(「フランチャイザー」たる地位の承継者)であることが明らかである。
(シ)また、請求人は、請求人に本件各商標について著作権がある旨主張しているが、そのような主張が失当であることは、請求人が「ポポラーレアイスクリーム事業」の単なるフランチャイジーでしかなかったことを示す乙第16号証(丙事件乙第14号証、戊事件乙第6号証)及び同第17号証(丙事件乙第15号証、戊事件乙第7号証)からも明らかである。

2 請求人は本件各商標が商標法第4条第1項第8号に該当する商標である旨主張し、本件各商標が請求人店舗名と同一商標であると言うが、請求人店舗名は、自然人の名称でも、法人の名称でもなく、同号に言う「他人の名称」には当たらない。また、本件各商標中の「ポポラーレ」の名称部分は、被請求人が原使用権を持つ自己の商標又は店舗名であり、決して他人の名称ではない。

3 請求人は本件各商標が商標法第4条第1項第15号に該当する商標である旨主張するが、本件各商標及び「ポポラーレ商標」は本来的に被請求人に原使用権があるものである。商標法第4条第1項第15号は、他人の著名商標の無断登録を防止することを目的として規定されているものであり、本人が適法に継続使用している自己の商標を正当な手続で登録出願した場合は、無関係である。本件各商標は、それらの登録出願以前から一貫して被請求人が「ポポラーレ商標」を使用した「ポポラーレ」アイスクリーム・フランチャイズ事業の運営者であったのであり、後に請求人の代表者となる飯間廣一郎は単なる一つのフランチャイジーでしかなかったのである。

IV 当審の判断
1 利害関係について
本件審判請求の利益につき被請求人が争うので判断する。請求人は、甲第11号証、同第14号証及び同第17号証等によれば、本件各商標と同一又は類似の商標を使用して、指定商品又は指定役務に係る事業を行っていると認められるから、請求人は本件審判の請求をするにつき利益を有するというべきである。

2 商標法第4条第1項第10号及び同第15号ついて
2-1 甲各号証及び乙各号証並びに当事者の尋問及び審判請求書の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)アメリカンドーナツ株式会社は、昭和61年4月頃、アイスクリーム販売事業(以下「本件事業」という。)に使用するものとして、そのロゴの制定を株式会社オックスに依頼して、「ポポラーレ商標」を採択したこと(甲第2号証、同第3号証及び同第122号証(戊事件甲第58号証))。
(2)請求人の代表者飯間廣一郎は、昭和61年7月頃、アメリカンドーナツ株式会社代表者植田洋二の援助の下で、妻飯間康代の名義を使用して、アイスクリーム販売店「坂出元町店」を開業したこと(甲第4号証、同第5号証、同第21号及び同第22号証)。
(3)飯間側(請求人、飯間廣一郎、同康代を含めて「飯間側」という。以下同じ。)は、前記(2)のように昭和61年7月頃よりアイスクリーム販売店として「坂出元町店」を開店して(甲第4号証)以来、「ポポラーレ商標」の使用を開始し(甲第21号証、同第22号証及び同第30号証)、 その後、昭和62年7月に「浅野店」、同年9月に「丸亀中府店」、平成元年4月に「観音寺店」、同年7月に「屋島店」、同4年3月に「ゴールドタワー店」、同5年2月に「坂出サティ店」、同7年に「高松サティ店」を開店して、「ポポラーレ商標」を使用し、宣伝広告したこと(甲第10号証、同第13号証、同第23号証乃至同第33号証及び同第38号証乃至同第40号証)。
(4)この間、平成4年12月1日に飯間廣一郎を代表者として、請求人会社が設立され、飯間廣一郎の本件事業を引き継いだこと(甲第18号証)。
(5)昭和61年10月頃から同62年4月頃まで、前掲「坂出元町店」において、飯間側の従業員として被請求人近藤弘子が雇用されたこと(甲第5号証及び同第6号証)。
(6)昭和62年4月頃、被請求人近藤弘子は、アメリカンドーナツ株式会社が直営店として開店した「栗林店」に、当初は店長として、同年5月以降はアメリカンドーナツ株式会社と同店の共同経営者として参加し、同63年6月以降は単独で同店を経営するに至ったこと(甲第85号証(戊事件甲第45号証))。
(7)昭和63年6月頃、被請求人近藤弘子は、同人及び前掲植田洋二を代表者として株式会社ポポラーレを設立したこと(甲第85号証(戊事件甲第45号証))。
(8)被請求人は、平成元年2月27日付けで旧第30類に属する商品について1件、同4年7月14日付けで第32類に属する商品について1件、また、同年9月14日付けで第42類に属する役務について3件、計5件の本件各商標をそれぞれ登録出願して登録を受けたことが認められる。

2-2 請求人は、請求人が採択し本件事業に使用して周知となっている「ポポラーレ商標」を被請求人が無断で登録出願して登録を得た旨主張するのに対して、被請求人は、当初はアメリカンドーナツ株式会社(代表者植田洋二)をフランチャイザー、飯間側の各店舗及び近藤側(近藤弘子、株式会社ポポラーレを含めて「近藤側」という。以下同じ。)の各店舗をフランチャイジーとしたフランチャイズシステムが構成されていたものであり、その後近藤側が、「ポポラーレ商標」の所有者の地位を含めてフランチャイザーの地位を承継した旨主張する。
(1)前記2-1(1)の認定によれば、「ポポラーレ商標」は、昭和61年4月頃、アメリカンドーナツ株式会社が本件事業に使用するものとして、そのロゴの制定を株式会社オックスに依頼して採択したことが認められる(甲第2号証及び同第3号証)ものであり、甲第2号証には、「(株)アメリカンドーナツ代表取締役・・・」と依頼者が明確に述べられており、この事実及び後記乙第17号証(丙事件乙第15号証、戊事件乙第7号証)に反する請求人の主張、飯間廣一郎及び植田洋二の陳述(甲第123号証(戊事件甲第59号証)及び同第134号証(戊事件甲第63号証))は採用できない。
(2)乙第17号証(丙事件乙第15号証、戊事件乙第7号証)によれば、請求人側の「丸亀中府店」は、アメリカンドーナツ株式会社とのフランチャイズ契約に基づいて開業したことが認められ、該契約書は「アメリカンドーナツ株式会社ポポラーレ事業部フランチャイズ契約書」の表題の下に、前文1には「甲はフランチャイズ・システム『ポポラーレ』を組織するフランチャイザーであって・・・」とあり、第1条(2)には「甲の商標を使用することを許諾する」旨、第7条には「乙が経営する『ポポラーレ』の店舗の月間売上高の5%のロイヤリティを支払う」旨が明記され、昭和62年9月1日付けで甲 アメリカンドーナツ株式会社、乙 飯間康代、連帯保証人飯間広一郎が記名、捺印していることが認められる。そして、この契約の存在と請求人側の「丸亀中府店」の開店の日が符合している。
(3)請求人がアメリカンドーナツ株式会社と共同して飯間側が広告宣伝したと主張する広告宣伝に係る物の中には、当初アメリカンドーナツ株式会社が直営した「栗林店」を中心として、昭和62年5月頃から経営参加した近藤側が広告、宣伝したものも含まれると認められ、現に飯間側各店と近藤側の栗林店が一緒に店名として並べて広告されたものもあること(甲第30号証及び同第31号証)及び「栗林店」が各「ポポラーレ店」の問い合わせ先との記載のある広告もあること(甲第31号証)が認められる。
(4)飯間側は、アメリカンドーナツ株式会社からフランチャイザーの地位を承継して取得したという近藤側に対し、「丸亀中府店」及び「高瀬店(現観音寺店)」についてはロイヤリティを支払ったことが認められる(乙第2号証及び同第3号証)。「丸亀中府店」分については前記(2)の契約に基づくもので、飯間側が、アメリカンドーナツ株式会社とのフランチャイズ契約によるフランチャイザーの地位を近藤側が取得したことを認めたものと推認される(乙第16号証(丙事件乙第14号証、戊事件乙第6号証))。また、「高瀬店(現観音寺店)」についても同じ契約があったことが窺われる(甲第82号証(戊事件甲第42号証))。
(5)近藤側は、植田洋二と共同して、第三者に対しフランチャイズ契約により昭和62年8月頃開店させた「一宮店」があることが認められる(甲第83号証及び同第84号証(戊事件甲第43号証及び同第44号証))。
(6)昭和63年6月頃、アメリカンドーナツ株式会社はアイスクリーム中間資材製造設備を近藤側に売却し(甲第85号証(戊事件甲第45号証)、乙第4号証及び同第6号証(戊事件乙第8号証))、近藤側がアイスクリームの半製品を製造して卸し売りするようになり、飯間側もアイスクリーム中間資材を近藤側より仕入れたことが認められる(乙第4号証)。
(7)アメリカンドーナツ株式会社は近藤側にアイスクリーム中間資材設備を譲渡し、近藤と共に植田洋二が株式会社ポポラーレを設立した昭和63年6頃には、フランチャイザーの地位を近藤側が承継し、同年9月25日にこの変更につきアメリカンドーナツ株式会社と飯間側が合意したことが認められる(乙第16号証(丙事件乙第14号証、戊事件乙第6号証))。

2-3 以上によれば、飯間側、近藤側共に「ポポラーレ商標」を使用して、香川県内において、店舗拡大方式により本件事業を展開しているところ、双方の事業にはいずれもアメリカンドーナツ株式会社が関与していたと認められる。
そして、アメリカンドーナツ株式会社は、当初は、「ポポラーレ商標」を採択すると共に、アイスクリーム中間資材製造設備を設けて、飯間側に卸していたことが認められる。また、アイスクリームを販売する各店舗を開店するに当たっては、黙示的に又は契約を交わして「ポポラーレ商標」の使用の許諾をしたものと推認される。そして、途中から直営であった「栗林店」を近藤側に任せると共に、アイスクリーム中間資材製造設備一式を近藤側に譲渡し、その後は、アメリカンドーナツ株式会社の代表者植田洋二は、近藤側の株式会社ポポラーレの代表者の一人として本件事業に参加したものと認められる。
そうすると、アメリカンドーナツ株式会社代表者植田洋二は、最初は飯間側として、その後は近藤側として、「ポポラーレ商標」を使用した本件事業を経営し又は関与したというべきであり、また、「ポポラーレ商標」を使用した事業の宣伝広告は、飯間側のみならず、近藤側も行ったと認められることからして、飯間側の本件事業及び近藤側の本件事業は、アメリカンドーナツ株式会社を介した、「ポポラーレ商標」を共通して使用するアイスクリーム販売に関するフランチャイズシステム乃至はその類似のものに組み込まれていたものとみるのが相当である。
そして、そこでは、アメリカンドーナツ株式会社をフランチャイザーとし、飯間側の各店舗と近藤側の各店舗が共に「ポポラーレ商標」を使用して同一の事業を行うフランチャイジーというべき立場にあり、香川県内においては、両者の各店舗を包摂して「ポポラーレ」グループとでもいうべきものを形成しているとみられるものである。
フランチャイズシステムは、フランチャイザーが、多くの場合、フランチャイジーに対して、売り上げの歩合として計算されるロイヤリティの支払いと引き替えに、経営上のノウハウを供与し、また、商号、商標を許諾することを基本とするシステムであるところ、本件事業に係る契約も同種のものと認められるものである(乙第17号証(丙事件乙第15号証、戊事件乙第7号証))から、前記2-2(4)及び(7)で認定したフランチャイザーの地位の承継に伴って、契約の対象である「ポポラーレ商標」の所有者乃至は許諾権者の地位を含めて近藤側が承継したものというべきである。
前示の事実は、本件事業に関し、飯間側が植田(後には近藤側)にロイヤリティを支払ったこと、「丸亀中府店」開店に当たってはアメリカンドーナツ株式会社をフランチャイザー、飯間側をフランチャイジーとして契約を締結していること及び飯間側とアメリカンドーナツ株式会社がフランチャイザーの変更につき合意していたことからも窺えるところである。
なお、甲第15号証は「ポポラーレ商標」を含めて植田洋二が飯間廣一郎に全権を譲渡する旨の書面であるところ、この書面は飯間側がそれまでは植田洋二の許諾により「ポポラーレ商標」を使用していたことを窺わせるものである。請求人は植田洋二の持分譲渡である旨主張するがそのような内容の書面とはなっていない。

2-4 そうとすれば、飯間側はその各店舗について、近藤側は「栗林店」、「一宮店」等についてはフランチャイジーの立場にある又はあったと認めるのが相当であるから、共通の「ポポラーレ商標」については、両者がその使用についてはもとより、共同して維持、管理する立場にあると解される。現に、これまでは共に「ポポラーレ商標」を使用して同一の本件事業を行って来ていると認められる。この状態は、飯間側の「坂出元町店」「浅野店」「丸亀中府店」「観音寺店」「屋島店」「ゴールドタワー店」、近藤側の「栗林店」があった本件各商標の各登録出願時、及びその後に飯間側に「坂出サティ店」「高松サティ店」が加わった各登録査定時においても特段の変更はないと認められる。
加えて、前示の事実は、被請求人が本件各商標権の取得後も飯間側に対して権利行使を窺わせる行動を取っていないこと、また、被請求人本人の本件審判外での供述(甲第81号証(戊事件甲第41号証)及び同第83号証(戊事件甲第43号証))とも符合するものである。
請求人の主張によれば、アメリカンドーナツ株式会社と飯間側の「坂出元町店」との間には、フランチャイズ契約に関する植田と飯間側の明確な契約等は存在しないようであるが、「坂出元町店」がアメリカンドーナツ株式会社にとって最初の契約店であったこと、及び同社の代表者植田洋二と飯間廣一郎とは以前から個人的な関係があったことから明確な契約がないまま推移したものと推認され、他方、飯間側はフランチャイザーの変更につき合意しているのであるから、明確な契約等の存否が前示の認定を左右するものではない。

2-5 以上によれば、先に認定したように、本件各商標の登録出願時及び登録査定時のいずれにおいても、近藤側をフランチャイザーとし、飯間側の各店舗と近藤側の各店舗をフランチャイジーとして、共に「ポポラーレ商標」を使用して本件事業を行う立場にあったということができ、香川県内においては、両者の各店舗を包摂して「ポポラーレ」グループというべきものを形成し、一つの営業主体の如く機能しているとみられるものであるから、飯間側は、飯間廣一郎、同康代又は有限会社ポポラーレ本部のいずれも、「ポポラーレ商標」に関しては、商標法第4条第1項第10号及び同第15号に規定する「他人の業務に係る商品若しくは役務・・・」にいう「他人」には当たらないと解するのが相当である。
請求人が主張する出所の混同はフランチャイジー間に係るものでポポラーレグループとしての出所内のものであり、本人尋問における供述及び飯間側が提出した証拠(甲第117号証、同第118号証及び同第119号証(戊事件甲第54号証、同第55号証及び同第56号証))に係るものは、「ポポラーレ商標」に係る商品又は役務についての出所混同の例ではないものと認められる。
前示認定事実に反する植田洋二(株式会社エーディ代表取締役)が、平成元年7月12日付け飯間廣一郎へ宛てた「全権譲渡について」(甲第15号証)及び同11年1月8日付け「ポポラーレ標章の使用について」(甲第123号証(戊事件甲第59号証))の陳述並びに同12年1月4日付け「陳述書」(甲第134号証(戊事件甲第63号証))は認め難い。
また、被請求人近藤弘子はアメリカンドーナツ株式会社からフランチャイザーの地位を承継し、その後に、「ポポラーレ商標」と実質的に同一とみられる範囲内において本件各商標を登録出願して登録を得たものであるから、被請求人が不正の目的で、本件各商標を使用し、また、登録出願をして登録を得たとは認められないというべきである。フランチャイザーの地位を承継したのは株式会社ポポラーレというべきではあるが、その代表者で、オーナーと認められる被請求人がその名義で本件各商標について登録を受けても、前示の認定、判断を左右するものではない。

2-6 以上のとおりであるから、飯間側が使用する商標の周知性、出所の混同のおそれの有無等を判断するまでもなく、本件各商標は、商標法第4条第1項第10号及び同第15号に違反して登録されたものとはいうことはできない。

3 商標法第4条第1項第8号について
請求人は、本件各商標は請求人の屋号に当たるから、商標法第4条第1項第8号に該当しその登録は無効とされるべきである旨主張する。
商標法第4条第1項第8号に規定する名称又はその著名な略称に屋号が含まれるとしても、それらはいずれも文字のみから構成されるものであると解されるところ、本件各商標は、甲事件に係る登録第3089583号商標を除き、いずれも図案化されたロゴよりなるもので、甲第7号証外の各店舗におけるその使用例よりみても、屋号に当たるとみるのは相当でないと解すべきである。
そして、甲事件に係る登録第3089583号商標及び、仮に他の本件各商標が屋号と言えるとしても、前示認定のとおり、近藤側は、飯間側を含めたポポラーレグループとでもいうべきフランチャイズシステムの中で、フランチャイザーの地位にあると認められるものであるから、フランチャイジーの使用する屋号はフランチャイザーの許諾に係わるものであって、フランチャイザーにとっては他人の屋号に当たらないばかりでなく、フランチャイザー側である被請求人は、フランチャイジーの同意乃至は承諾の有無に係わらず同システムに係る商標については商標登録を受けることは可能というべきである。
したがって、請求人と被請求人との間において前示の関係の存在を無視して、本件各商標が商標法第4条第1項第8号に該当するという請求人の主張は採用することができない。

4 なお、請求人は植田洋二、被請求人は飯間康代について証人尋問を申し立てているが、既に審決をする機は熟し、証人尋問の必要は認められないので採用しない。

V 結論
以上のとおり、本件各商標は、商標法第4条第1項第10号、同第15号又は同第8号のいずれにも違反して登録されたものではないから、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
(1)平成8年審判第5321号
商標登録第3089583号(特例商標、平成7年10月31日登録)
平成4年商標登録願第186757号(平成4年9月14日出願)
第42類
うどん又はそばの提供,すしの提供,五目飯・ピラフ・カレ―ライス・幕の内弁当を主とする米飯料理の提供,お好み焼・たこ焼の提供,サンドウイッチ・ハンバ―ガ―・ト―スト・ホットドッグを主とする軽食の提供,魚介類・野菜料理・焼鳥・串かつ・おでん・フライドポテト・枝豆を主とする酒の肴の提供,イタリア料理の提供,中華料理の提供,アルコ―ル飲料の提供,茶・コ―ヒ―・ココア・清涼飲料又は果実飲料の提供,あんみつ・アイスクリ―ム・シャ―ベット・ジェラ―ト・ジェラ―トアラフルツタ・ケ―キ・わらびもち・ところてん・果物・かき氷の提供


(2)平成8年審判第5738号
商標登録第3089584号(特例商標、平成7年10月31日登録)
平成4年商標登録願第186758号(平成4年9月14日出願)
第42類
うどん又はそばの提供,すしの提供,五目飯・ピラフ・カレ―ライス・幕の内弁当を主とする米飯料理の提供,お好み焼・たこ焼の提供,サンドウイッチ・ハンバ―ガ―・ト―スト・ホットドッグを主とする軽食の提供,魚介類・野菜料理・焼鳥・串かつ・おでん・フライドポテト・枝豆を主とする酒の肴の提供,イタリア料理の提供,中華料理の提供,アルコ―ル飲料の提供,茶・コ―ヒ―・ココア・清涼飲料又は果実飲料の提供,あんみつ・アイスクリ―ム・シャ―ベット・ジェラ―ト・ジェラ―トアラフルツタ・ケ―キ・わらびもち・ところてん・果物・かき氷の提供


(3)平成8年審判第6659号
商標登録第3059786号(平成7年7月31日登録)
平成4年商標登録願第140434号(平成4年7月14日出願)
第32類
清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュ―ス,乳清飲料


(4)平成8年審判第6660号
商標登録第3089585号(特例商標、平成7年10月31日登録)
平成4年商標登録願第186759号(平成4年9月14日出願)
第42類
うどん又はそばの提供,すしの提供,五目飯・ピラフ・カレ―ライス・幕の内弁当を主とする米飯料理の提供,お好み焼・たこ焼の提供,サンドウイッチ・ハンバ―ガ―・ト―スト・ホットドッグを主とする軽食の提供,魚介類・野菜料理・焼鳥・串かつ・おでん・フライドポテト・枝豆を主とする酒の肴の提供,イタリア料理の提供,中華料理の提供,アルコ―ル飲料の提供,茶・コ―ヒ―・ココア・清涼飲料又は果実飲料の提供,あんみつ・アイスクリ―ム・シャ―ベット・ジェラ―ト・ジェラ―トアラフルツタ・ケ―キ・わらびもち・ところてん・果物・かき氷の提供

(色彩については原本参照)

(5)平成10年審判第35116号
商標登録第2722306号(平成9年6月27日登録)
平成1年商標登録願第21981号(平成1年2月27日出願)
第30類
菓子,パン

審理終結日 2000-03-01 
結審通知日 2000-03-08 
審決日 2000-04-20 
出願番号 商願平4-186759 
審決分類 T 1 11・ 25- Y (042)
T 1 11・ 271- Y (042)
T 1 11・ 23- Y (042)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩内 三夫瀧本 佐代子 
特許庁審判長 工藤 莞司
特許庁審判官 江崎 静雄
芦葉 松美
登録日 1995-10-31 
登録番号 商標登録第3089585号(T3089585) 
商標の称呼 イタリアンジェラートポポラーレ、ポポラーレ、イタリアンジェラート、イタリアン、ジェラート 
代理人 山内 康伸 
代理人 大浜 博 

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