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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W09
審判 全部申立て  登録を維持 W09
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審判 全部申立て  登録を維持 W09
審判 全部申立て  登録を維持 W09
審判 全部申立て  登録を維持 W09
管理番号 1378977 
異議申立番号 異議2020-900325 
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2021-11-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-07 
確定日 2021-10-08 
異議申立件数
事件の表示 登録第6295416号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6295416号商標の商標登録を維持する。
理由 1 本件商標
本件登録第6295416号商標(以下「本件商標」という。)は、「EtherCatch」の欧文字を書してなり、令和元年11月25日に登録出願、第9類「コンピュータハードウェア,電子計算機用プログラム」を指定商品として、令和2年9月9日に登録査定、同年9月23日に設定登録されたものである。

2 登録異議申立人が引用する商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、本件商標に係る登録異議申立ての理由において、引用する登録商標(以下、まとめていうときは「引用商標」という。)は、以下のとおりであり、現に有効に存続している。
(1)国際登録第852926号商標(以下「引用商標1」という。)
商標の構成:Ethercat
国際商標登録出願日:2004年(平成16年)12月1日
設定登録日:平成18年10月6日
指定商品・役務:第9類「Electric regulating apparatus; electronic agendas; optical apparatus and instruments; measuring apparatus and instruments; luminous or mechanical signals; electric monitoring apparatus; control panels (electricity); remote control apparatus for use in the field of building and home security systems; computer and computer software for use in the field of building and home automation systems; data processing equipment and computers; telecommunication machine and computers for connection to global computer networks; computer programs, computer software for the control, regulating, optimising and diagnosing of machines and installations, network-based computer programs; data processing programs recorded on data carriers; all the aforementioned goods not for construction and mining equipment, diesel generator sets, natural gas generator sets and industrial gas turbines.」のほか、第16類及び第42類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務
(2)国際登録第1147733号商標(以下「引用商標2」という。)
商標の構成:別掲のとおり
国際商標登録出願日(事後指定):2013年(平成25年)10月17日
設定登録日:平成27年1月23日
指定商品・役務:第9類「Electric regulating apparatus; electronic apparatus and instruments; optical apparatus and instruments; measuring apparatus; luminous or mechanical signals; electric monitoring apparatus; remote control apparatus; all aforesaid goods for use in the field of industrial automation, building automation and home automation; electric regulating apparatus; electronic apparatus and instruments; optical apparatus and instruments; measuring apparatus; luminous or mechanical signals; electric monitoring apparatus; remote control apparatus; data processing equipment and computers; computer network server; components for computers; interfaces for computers; computer programs; computer software for the control, regulating, optimising and diagnosing of machines and installations; network-based computer programs; data processing programs recorded on data carriers; all the aforementioned goods not for construction and mining equipment, diesel generator sets, natural gas generator sets and industrial gas turbines.」のほか、第16類及び第42類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務
(3)国際登録第966299号商標(以下「引用商標3」という。)
商標の構成:ETHERCAT
国際商標登録出願日:2008年(平成20年)4月9日
優先権主張:2007年(平成19年)10月10日 EUIPO
設定登録日:平成21年7月31日
指定商品:第7類「Synchronous motors (except for land vehicles); drives and drive systems, namely, servo drives, synchronous servomotors, linear servomotors and stepper motors (except for land vehicles); all aforementioned goods only to be used in industrial and/or automation machines and/or for building and home automation.」

3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第7号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第48号証(枝番号を含む。以下、枝番号の全てを示すときは枝番号を省略する。)を提出した。
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア 商標の類否
(ア)外観
本件商標は、「EtherCatch」の欧文字を格別特徴のないブロック体で横書きしてなる。
一方、引用商標1は、「Ethercat」の欧文字をやや太字ではあるが格別特徴のないブロック体で横書きしてなり、引用商標2は、「EtherCAT」の語並びにその右側に右向きの矢印及び左向きの矢印をそれぞれ上下に表してなるものである。
そうすると、本件商標の構成文字は、引用商標1及び2の文字部分「Ethercat」の構成文字を全て含むため、後述する引用商標の著名性を考慮すれば、時と処を異にして離隔的に観察した場合には、両者は外観上相紛れる可能性が高い。
(イ)称呼
本件商標は、「イーサキャッチ」の称呼が生じ、引用商標1及び2からは「イーサキャット」の称呼が生じる。
そして、上記称呼を比較するに、両称呼は末尾に位置する「チ」と「ト」の差異を有しており、当該差異音は、「タ」の同行音に属する近似音であり、直前に促音があることによって第4音の「キャ」にアクセントがかかる関係上、末尾音は自然と弱く発音され、互いに聞き誤るおそれがある。
また、本件商標並びに引用商標1及び2が使用される製品は、ハイテク製品であり、このような製品を取扱う業界においては、一般的に英語での表記・取引が重要視されている事実があるから、実際に取引をされる際には、両商標は英語圏の発音で称呼され得るため、語尾の「チ」又は「ト」はほとんど発音されないという、取引上の事情が存在する。
したがって、両者を一連に称呼した場合に、語調、語感が類似し、両者は称呼上相紛れる可能性が高い。
(ウ)観念
引用商標1及び2の構成中「Ether」の語は、「エーテル、空気」等を意味する英単語であり、また、「cat」の語は、「猫」を意味する平易な英単語である。これらの語を結合させた「Ethercat」の語は、辞書等に掲載のあるものではなく、一種の造語というべきである。
ここで、申立人は、引用商標の他、「EtherCAT P」、「EtherCAT G」、「EtherCAT G10」といった登録商標を国内で有している。また、これらは実際に製品名として使用もされており、引用商標に関する製品は、全て「EtherCAT ○○」と名付けられている。そうすると、以上の名付けの法則及び後述する引用商標の著名性や取引の実情を考慮すれば、本件商標の構成から、本件商標は、引用商標の関連製品であるとの印象を需要者に容易に抱かせるものであるといえる。
したがって、本件商標は、申立人が有する「EtherCAT」製品の「CH」シリーズであるという観念が生じ得、両商標は観念において混同が生じるおそれがある程度に類似している。
(エ)特許庁の判断
「ト」と「チ」の差異があるとしても、称呼上、互いに相紛れるおそれがあるとして類似の商標として判断されている(甲5?甲7)。
イ 指定商品の類否
引用商標1及び2は、「computer and computer software」及び「computer programs」関連の商品を指定しており、本件商標の指定商品とは重複する。
ウ 小括
以上のとおり、本件商標と引用商標1及び2とは、その取引実情を考慮すれば、外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛らわしい類似の商標であり、その指定商品も同一又は類似しているから、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第15号について
ア 商標について
申立人は、自身が開発した産業用オープンフィールドネットワーク規格として「EtherCAT」の語を使用し、そのシリーズに属する各製品の名称として「EtherCAT P」や「EtherCAT G」等の語を使用している(甲8)他、引用商標を商品パッケージの見える位置に付し、日本を含む全世界に販売を行っている(甲9)。
また、申立人は、ドイツ連邦共和国に本社を置く、PCベースのオープン自動制御システムなどを提供する産業用制御機器を提供するグローバル企業であり、日本においては2011年に神奈川県横浜市に日本支社を開設して以降、同社システムの国内企業への提供を行っている。2017年には、名古屋市に国内2番目の拠点を設立した(甲10)。
ドイツ国内に22か所の営業・研究開発拠点を有する他、海外現地法人39社、75か国以上でビジネス展開を行う世界的企業である。全世界での従業員数は、約4,350人に上る(甲11、甲12の1)。また、全世界での売上高は、2019年には9億3,000万ユーロ(決定注:「9億300万ユーロ」の誤記と思料する。)(約1200億円)を超える(甲12)。
「EtherCAT」は、2003年に開発され、ここ数年で世界的に急速に採用が拡大した産業用ネットワークであり、国内では2016年にトヨタ自動車が基盤ネットワークとして採用する方針を打ち出したこともあり(甲13?甲15)、「EtherCAT」対応機器や装置メーカーの開発が加速し、普及し続けている。
本件製品の産業ネットワーク市場における昨年度のシェアは、4位であり、世界的に7%ものシェアを獲得している。そして、昨年度のみならず、2016年からの5年ほど、全て上位5位以内という高いシェアを維持し続けている(甲16)。
この高いシェアの維持及び更なる普及を推進するための組織として「EtherCAT Technology Group(以下「ETG」という。)」という非営利団体が、申立人主導の下、運営がなされている。ETGは、ドイツ、日本の他、中国、韓国及び米国に拠点を有する国際組織である。
ETGメンバーは、「EtherCAT」使用企業に限らず、「EtherCAT」を自社製品へ実装を行う企業などから構成され、2020年11月時点において世界67か国、6000もの企業が参加しており(甲17)、現在も拡大を広げている。
日本国内では、2017年の時点において、参加企業は500を超えており(甲18)、さらに数を増やしている。
このような現状にあっては、業界内でも注目が高く、実際に採用している事例や多くの企業において対応する自社製品とともに「EtherCAT」の紹介がなされている事例が、数多く見受けられ(甲19?甲25(提出する書類は代表的なもの))、JETROも申立人の日本法人の代表取締役へのインタビュー記事を掲載している(甲26)。さらに、メディアの注目も集まっており、新製品発売時には、複数の記事に掲載された(甲27、甲28)。
申立人及びETG自身も日本国内で積極的に普及活動を行っており、製品採用案内セミナーを毎年複数回開催し、展示会に参加している(甲29?甲32)。
2007年より国内の産業テクノロジー関連の展示会に毎年参加しており、いずれも展示ブースは盛況であることがうかがえ、業界の高い関心・知名度がうかがい知れる(甲33)。
以上の事実を考慮すると、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、引用商標が、申立人の業務に係る商品を表示する商標として、国内における取引者・需要者の間に広く認識されていたことは明白である。
イ 出所の混同について
(ア)前述からすれば、本件商標と引用商標の類似性の程度は高い。
(イ)引用商標は、産業用オープンフィールドネットワーク規格の名称を表す商標として全国的に周知・著名であり、また、一般的なネットワーク規格である「Ethernet」の前半部と、「Control Automation Technology」の頭文字を組み合わせた語をその構成要素に採用したものであって、その構成全体では特定の意味合いを認識しないため、創作性の程度は高く、さらに、申立人の主力製品の名称のみならず、非営利団体の名称の主要部としても使用されており、出所識別力の発揮はハウスマークと同等のものである。
(ウ)本件商標の指定商品と引用商標に係る商品との関連性の程度は極めて高い。
(エ)引用商標は、産業用通信ネットワークの規格名であり、産業用通信ネットワークそのものといえる。本件商標は、産業用通信ネットワークに用いられるデバイスの名称であり(甲34)、産業用通信ネットワークとは切り離して考えることができないほど、密接に関連しているため、産業用通信ネットワークを取り扱う取引者及び産業用通信ネットワークを既に導入している需要者のみが接するといっても過言ではない。したがって、本件商標権者(以下、単に「商標権者」という。)及び申立人の商品に係る取引者及び需要者は共通している。
さらに、商標権者は、「Moxa Inc.」という海外名を使用しており(甲1、甲35)、当該企業は、ETGのグループメンバーであり(甲35、甲36)、このことは、商標権者のウェブサイト内でも案内されている(甲37)。自社のウェブサイト内でグループ員であることを紹介している商標権者が「EtherCAT」に類似する商標を使用した場合、それに接した需要者等は「EtherCAT」の関連製品であると容易に誤認するおそれがあり、申立人の製品であると混同するおそれが高いといえる。
ウ 小括
以上より、商標権者が本件商標をその指定商品に使用した場合、これに接する需要者等は、その商品が申立人又は同人と何らかの関係を有する者若しくは申立人の許諾を受けた者の業務に係る商品などであるかのように、その商品などの出所について混同を生じるおそれがある。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第19号について
ア 引用商標の周知・著名性
引用商標は、日本国内において広く導入されていることより、需要者及び取引者の間に広く認識されている。
イ 商標の類否
本件商標と引用商標は、外観、称呼及び観念において類似の商標である。
不正の目的
申立人の製品は、世界的に高いシェアを誇る産業用ネットワークの有力規格のひとつである。引用商標を付した製品は、多数のシリーズを有し、前述したシリーズの他、「EtherCAT Terminals」、「EtherCAT Box」、「EtherCAT Plugin Modules」及び「EtherCAT」デバイスの製品開発に用いられる製品が販売されている(甲38?甲42)。
申立人の日本支社からドイツの本社に発注がなされたシリーズの台数は、2011年から2021年までの約10年間で約400万台であり、昨年1年間だけでも約80万台が発注されている。実際に国内の複数の取引先へも多くの製品を卸している(甲43)。
ここで、商標権者は、前述のとおり、申立人が主導する組織「ETG」のグループメンバーである。そして、当該グループの規則や定款には、グループメンバーに対して、「EtherCAT」の商標は、申立人の要求に応じ正しく使用されなければならない旨などを規定している(甲44、甲45)。
つまり、商標権者は、当然に「EtherCAT」という名称の商品及び商標の存在を知っており、かつ、商標権者は産業用通信インターネットのデバイスを製造・販売する企業であることから(甲46)、「ETG」に参加するよりも前から「EtherCAT」の著名性を認識しており、それゆえに「ETG」への参加を決定したことは明らかである。
さらに、商標権者は、海外でも申立人の商標に類似する商標の登録出願を行っており、欧州では、出願商標の指定商品を「controlling automation processes」に関連して使用しないこと、出願商標の指定商品を「cyber security」に関連するものに限定する旨に同意している(甲47、甲48)。
現在、申立人は、商標権者との間で欧州と同様の問題を世界的に解決するための同意書を得ようとしているものの、未だ合意には至っていない。商標権者は、上記事情を認識しており、かつ、本件商標に関する交渉を行っているにも拘わらず、日本で登録査定が出たことを奇貨として、申立人の意に反し本件商標の登録を容認しようとするものである。
これは、産業用ネットワーク規格として有力な地位を確立している申立人の信用にフリーライドをする目的で、申立人の商標に類似の商標を類似の商品に使用し、需要者及び取引者の誤認を意図的に惹起させ、又は容認する行為である。
つまり、商標権者は、周知著名な引用商標の存在を認識していることは明らかであって、引用商標に化体した信用にフリーライドする目的で申立人の商標に類似する商標を使用しているのであるから、不正の目的をもって使用しようとするものである。
エ 小括
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第7号について
商標権者は、ETGメンバーであり、引用商標の著名性及びETGの規則・定款の存在を認識しつつ、需要者・取引者への混同を意図又は容認しながら、本件商標という類似商標を作出したものである。
さらに、本件商標が世界各国で出願されていることに気づいた申立人の交渉に応じているにも拘わらず、日本で登録査定が出たことを奇貨として申立人の意に反し登録を容認しようとしている。組織に属しながらその規則・定款、さらには、交渉の事実を認識しながら日本で登録を行おうとする行為は、社会的相当性を欠く行為であり、本件商標は、引用商標の国内的及び国際的な著名性を不当利用するものと考えられる。
本件商標は、公序良俗、社会一般の道徳観念、公正な取引秩序の維持を旨とする商標法の精神、さらには国際信義の観点からも認められるべきでない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。

4 当審の判断
(1)引用商標の周知性について
ア 申立人の主張及び提出した証拠(本件商標の登録査定前のもの)によれば、以下のとおりである。
(ア)申立人は、ドイツ連邦共和国に本社を置き、1980年の設立以来、PCベース制御の専業メーカーとしてオープンなオートメーションソリューションを提供しており、日本法人としては、2011年に神奈川県横浜市に日本支社を開設して以降、2017年には愛知県名古屋市に国内2番目の拠点を設立した(甲10)。
(イ)申立人は、世界に39の支社及び75か国以上に代理店を有し、世界での従業員数は4,350名の企業であって、全世界での売上高は、2019年には9億300万ユーロである(甲12)。
(ウ)日経XTECHのウェブサイトには、「工場IoT化のコンセプトに合致、トヨタがEtherCATを採用」(2016年4月27日)の見出しの下、「EtherCATはドイツ発のオープン・フィールドネットワークで、特に工作機械などにおいて広く普及している。」の記載(甲13)、「ベッコフがEtherCATのギガビット通信仕様を発表、その名は『EtherCAT G』」(2018年12月4日)の見出しの下、「産業用Ethernet規格『EtherCAT』の新仕様として・・・」の記載(甲27)がある。
(エ)ETGプレスリリース(2016年4月26日)には、「トヨタ自動車がEtherCATを採用」の見出しの下、「様々な産業用イーサネット技術の中からEtherCATを選択し、世界各地の新工場で導入を進めます。」の記載がある(甲15)。
同プレスリリース(2017年7月12日)には、「EtherCAT Technology Group日本、メンバーシップ数500社を突破」の見出しの下、「2017年の第2四半期に・・・欧州ではメンバー数2000社に到達しました。2つ目は、駿河精機(株)が、日本の500社目のメンバーとして加わりました。」の記載がある(甲18)。
(オ)MONOistのウェブサイトに、「トヨタがフィールドネットワーク3強からEtherCATを選んだ2つの理由」(2016年8月2日)の見出しの下、「EtherCATの導入を決めた背景には、品質と設備保全のレベルをさらに高める『スマート工場』への移行がある。・・・デファクトスタンダードの動向として、工場内で使われるフィールドネットワークではEtherNET/IP、EtherCAT、Profinetがグローバルで3強になっているとし、センサー技術のインタフェースの有力候補ではIO-Linkを挙げた。・・・EtherCATがさらなる省配線化に注力しているからだ。」の記載(甲14)、「EtherCATの新規格が登場、電力と通信を1本のケーブルで」(2015年11月26日)の見出しの下、「オープン産業ネットワークEtherCATの開発メーカーであるドイツのBeckhoff Automationは2015年11月24日(現地時間)、EtherCATの新バージョンとして・・・」の記載(甲28)がある。
(カ)オートメーション新聞には、「HMS調べ産業用ネットワーク市場シェア動向2020年版、イーサネット拡大」(2020年7月15日)の見出しの下、「19年は産業用Ethernetとワイヤレスが増加し、フィールドバスの新規設置が減少となったが、20年はさらにそれが進行し、産業用Ethernetへのシフトが加速している。20年の産業用ネットワークの新規設置ノードにおける市場シェアは、産業用Ethernetが59%から65%へと拡大する一方、フィールドバスは35%から30%と5ポイント低下した。・・・ネットワーク別シェアでは、EtherNet/IPとPROFINETでそれぞれ17%でトップ。PROFIBUSが8%、EtherCATが7%で続いている。」の記載がある(甲16)。
(キ)「EtherCAT」の採用例や、これに対応する製品等、「EtherCAT」に関する紹介がなされており(甲19?甲25)、引用商標2の表示も見受けられる(甲25)。
(ク)JETROの記事(2017年9月取材)には、申立人の日本法人の代表取締役へのインタビュー記事が掲載され、「2003年にBeckhoffが開発した産業用ネットワーク規格『EtherCAT(イーサキャット)』は、現在世界中で急速に市場を拡大している。EtherCATとは、工場内に設置された制御機器のマスター(親機)とスレーブ(子機)を結ぶフィールドバスシステム(通信規格)のこと。」の記載がある(甲26)。
(ケ)申立人の日本法人は、「産業オープンネット展2019」に協賛し、セミナー「ベッコフのI/Oターミナルによる高精度計測とIoTの統合」を行うこととした(甲31)。
なお、申立人は、2007年より国内の産業テクノロジー関連の展示会に毎年参加しているとして、「EtherCAT」の文字が表示されたブースの写真を提出しているが、当該展示会の入場者数や当該ブースへの来訪者数を確認することはできず、当該写真をもっては業界の関心度・知名度について把握することはできない(甲33)。
イ 前記アからすれば、申立人は、1980年の設立以来、PCベース制御の専業メーカーとしてオープンなオートメーションソリューションを提供しており、2011年に日本法人を開設し、2017年に国内2番目の拠点を設立している。
そして、「EtherCAT」は、「2003年にBeckhoffが開発した産業用ネットワークのオープン規格」や「工場内に設置された制御機器のマスター(親機)とスレーブ(子機)を結ぶフィールドバスシステム(通信規格)のこと。」等と説明されており、申立人は、「産業用オープンフィールドネットワーク規格に関する製品」(以下「申立人製品」という。)に引用商標2及び「EtherCAT」の文字を使用していることが認められるが、引用商標1及び3についての使用は見いだせない。
また、トヨタ自動車は、2016年4月に「EtherCAT」を採用し、「EtherCATはドイツ発のオープン・フィールドネットワークで、特に工作機械などにおいて普及している。」旨紹介されている。
さらに、HMS調べ産業用ネットワーク市場シェア動向2020年版では、ネットワーク別シェアでEtherCATが7%である旨記載されているが、ネットワーク市場のうち産業用のものであって、その規模や具体的な商品が不明であり、当該シェアについて直ちに評価することができない。
加えて、申立人は、世界に支社及び代理店を有し、全世界での売上高は、2019年には9億300万ユーロである旨記載されているが、これは企業全体のものであって、引用商標を使用した商品の売上高は確認できない。
その他、本件商標の登録出願時及び登録査定時における引用商標を付した申立人製品について、我が国又は外国における市場シェア、販売実績、広告宣伝の規模等の事実を裏付ける具体的な証拠の提出はない。
そうすると、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国又は外国の需要者の間に、引用商標が申立人製品を表示するものとして、広く認識されていたと認めることはできない。
(2)商標法第4条第1項第11号該当性について
ア 本件商標
本件商標は、前記1のとおり、「EtherCatch」の欧文字を書してなるところ、語頭の「E」及び中間に位置する「C」が大文字で表され、他の文字は小文字で表されていること、並びに「Catch」が平易な英語であることから、「エーテル」等の意味を有する英語「Ether」と「捕まえる」等の意味を有する英語「Catch」の各語の組み合わせからなるものと容易に理解、認識されるといえる。そして、本件商標は、当該構成文字に相応して「イーサキャッチ」の称呼を生じ、また、構成全体の文字は、辞書等に掲載が認められないから、特定の観念を生じないものであるが、上記各語を組み合わせたものという程度は想起し、認識するものということができる。
なお、申立人は、本件商標から「EtherCAT」製品の「CH」シリーズであるという観念が生じ得る旨主張しているが、本件商標は、上記のとおり、「Ether」と「Catch」の文字(語)の組み合わせとみるのが相当であって、申立人主張の観念が生じるということはできない。
イ 引用商標1及び2
引用商標1は、前記2(1)のとおり、「Ethercat」の欧文字、引用商標2は、前記2(2)のとおり、「EtherCAT」の欧文字(「CAT」の文字は、やや太字で表している。)及び2つの矢印様図形(「T」の文字の上から右側に向かう矢印様図形とその図形の下の半分程までに左側に向かう矢印様図形)を表してなるところ、上記各引用商標の構成文字は、「エーテル」等の意味を有する英語「Ether」と「猫」の意味を有する英語「cat(CAT)」の組み合わせからなるものと理解され得るといえる。そして、引用商標1及び2は、当該各構成文字に相応して、「イーサキャット」の称呼を生じ、また、構成全体の文字は、辞書等に掲載が認められないから、特定の観念を生じないものであるが、上記各語を組み合わせたものという程度は想起し、認識し得るものということができる。
ウ 本件商標と引用商標1及び2との類否
本件商標と引用商標1及び2とを比較するに、両者は、それぞれ前記ア及びイのとおりの構成態様からなるところ、文字数において相違があり、引用商標2とは図形の有無においても相違するものであり、外観上、相紛れるおそれはない。
また、本件商標から生じる「イーサキャッチ」の称呼と引用商標1及び2から生じる「イーサキャット」の称呼とを比較するに、語尾における「チ」と「ト」の音に差異を有し、当該差異音は、比較的短い称呼にあって、それぞれが異なる語から構成されることと相まって、語調、語感が異なったものとなり、互いに十分聴別することができ、聞き誤るおそれはない。
さらに、本件商標と引用商標1及び2とは、全体として特定の観念を生じず、それぞれに前記各語(「エーテル」等を意味する「Ether」と「捕まえる」等を意味する「Catch」、又は上記「Ether」と「猫」を意味する「cat(CAT)」)を組み合わせたものという程度は想起し、認識し得るものということができるから、観念上類似するとはいえない。
その他、本件商標と引用商標1及び2とが類似する商標であるとする理由は、見いだせない。
以上のことを総合して考察すると、本件商標と引用商標1及び2とは、その外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。
したがって、本件商標は、両商標の指定商品を比較するまでもなく、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(3)商標法第4条第1項第15号該当性について
ア 引用商標の周知性について
引用商標は、前記(1)のとおり、申立人の業務に係る商品(申立人製品)を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできないものである。
イ 本件商標と引用商標の類似性の程度について
本件商標と引用商標1及び2は、前記(2)のとおり、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのないものである。
また、引用商標3は、「ETHERCAT」の文字からなるところ、引用商標1の文字綴りを全て大文字で表してなるにすぎないから、引用商標1と同様の理由から、本件商標とは相紛れるおそれのないものである。
そうすると、本件商標と引用商標とは、類似性の程度は低いものというべきである。
ウ 出所の混同のおそれについて
前記ア及びイのとおり、引用商標は、申立人製品を表示するものとして、需要者の間に広く認識されているとはいえず、本件商標と引用商標との類似性の程度は低いものである。
そうすると、本件商標は、商標権者がこれをその指定商品について使用しても、取引者、需要者が、引用商標を連想又は想起することはなく、その商品が他人(申立人)又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないとするのが相当である。
その他、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情も見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(4)商標法第4条第1項第19号及び同項第7号該当性について
引用商標は、前記(1)のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国又は外国の需要者の間で、申立人の業務に係る商品(申立人製品)を表示するものとして、広く認識されていたとは認められないものである。
また、本件商標と引用商標とは、前記のとおり、紛れるおそれのない非類似のものである。
さらに、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、商標権者が引用商標にフリーライドするなど不正の目的をもって本件商標を使用するものであると認めるに足りる証拠は見いだせない。
なお、商標権者は、ETGメンバーであって、国外での出願に関し、申立人との交渉に応じているとしても、そのことをもって直ちに、本件商標について不正の目的をもって使用するものであるとか、社会的相当性を欠くなどということはできない。
その他、本件商標が、国際信義に反するものであるなど、商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するというべき事情も見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号及び同項第7号に該当しない。
(5)むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号のいずれにも該当するものとはいえず、他にその登録が同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定に基づき、その登録を維持すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲 別掲(引用商標2)



異議決定日 2021-09-30 
出願番号 商願2019-148248(T2019-148248) 
審決分類 T 1 651・ 22- Y (W09)
T 1 651・ 261- Y (W09)
T 1 651・ 262- Y (W09)
T 1 651・ 263- Y (W09)
T 1 651・ 222- Y (W09)
T 1 651・ 271- Y (W09)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山川 達央 
特許庁審判長 森山 啓
特許庁審判官 茂木 祐輔
板谷 玲子
登録日 2020-09-23 
登録番号 商標登録第6295416号(T6295416) 
権利者 四零四科技股▲ふん▼有限公司
商標の称呼 イーサーキャッチ、エーテルキャッチ 
代理人 山口 朔生 
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK 
代理人 山口 真二郎 
代理人 大島 信之 

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