• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W41
審判 全部申立て  登録を維持 W41
審判 全部申立て  登録を維持 W41
審判 全部申立て  登録を維持 W41
審判 全部申立て  登録を維持 W41
審判 全部申立て  登録を維持 W41
審判 全部申立て  登録を維持 W41
管理番号 1376994 
異議申立番号 異議2020-900321 
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-03 
確定日 2021-08-13 
異議申立件数
事件の表示 登録第6301033号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6301033号商標の商標登録を維持する。
理由 第1 本件商標
本件登録第6301033号商標(以下「本件商標」という。)は、「概念デザイン」の文字を標準文字で表してなり、令和元年10月20日に登録出願、第41類「セミナーの企画・運営又は開催」を指定役務として、同2年9月3日に登録査定、同年10月7日に設定登録されたものである。

第2 登録異議の申立ての理由
登録異議申立人(以下「申立人」という。)は、本件商標について、商標法第3条第1項第1号、同項第2号、同項第3号、同項第6号、同法第4条第1項第7号、同項第10号及び同項第15号に該当するから、その登録は取り消されるべきであると申し立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第18号証を提出した。
1 本件商標について
本件商標は「概念デザイン」という文字により、デザイン過程の一部として認知されている概念の普通名称を表示したに過ぎず、自他役務識別標識として機能を果たし得ない。
また、公益性の観点から、このような基本概念又は用語そのものに、独占的・排他的使用を認めることは、デザイン関連業界全体、学会、デザイン教育の現場に、誤認による混乱を生じさせ、我が国に於けるデザイン思考の発展、デザインマインドの醸成・普及啓発、学術の発展、創造性の発現、産業振興を阻害することが危惧される。
2 具体的理由
(1)「概念」とは
「概念」とは、複数の事物や事象から共通の特徴を取り出し、それらを包括的・概括的に捉える思考の構成単位を意味する(甲1)。「概念」とは一種の重要な人工物である(甲18)。
(2)「デザイン」とは
美術評論家のK氏は、原典をひもとかない「また聞き」の「デザイン」理解が社会に混乱をもたらすことを、既に1966年に、警告している(甲2)。
(3)用語の歴史的変遷
英語の<design>という語に対する日本語訳は、明治6年ウィーン万国博の頃から「図按」「図案」「産業工芸」「構成」「意匠」「設計」「デザイン」等、複数の訳語をあてられ変遷している(甲3)。その結果、例えば、<industrial design>の訳語は「インダストリアルデザイン」「工業デザイン」(甲4)、「工業意匠」であり、<interaction design>は「インタラクションデザイン」「対話デザイン」と訳される(甲4)。近年では、デザイン思考の広がりにより、「制度設計」を「制度デザイン」、「授業計画」を「カリキュラムデザイン」と言い換える。
(4)「概念デザイン」とは
デザインプロセスの上流過程に位置する活動であり、デザインコンセプト(概念)を生成し明確にする過程を、英語で<Concept Design>又は<Conceptual Design〉と言う。その日本語訳は「コンセプトデザイン」「概念デザイン」「概念設計」と訳され、これらの用語は、企業、大学、学会等で、周知のものとして流通している。「コンセプトデザイン」「デザインコンセプトの生成」という語は、次の各号証に見られる(甲5?甲7)。「概念デザイン」という語は、次の各号証に見られる(甲4、甲8、甲9)。「概念設計」という語は、次の各号証に見られる(甲4、甲10、甲11)。
(5)デザイン教育機関の教科書での事例
和歌山大学システム工学部デザイン情報学科の教科書では、ものづくりには必要から発する「概念を形成すること」が何より求められ、「設計の柱となるコンセプトを導き出す過程」を「概念設計」(コンセプトデザイン)と説明している(甲6)。京都大学デザインスクールの教科書では、「設計」は広義の「デザイン」に含まれ、「個々の人工物をデザインするだけでなく」、「人工物をめぐるデザイン概念を大きく拡張しなければならない」と明言している(甲12)。
(6)「デザイン」概念についての調査
日本デザイン学会は1983年5月に、「用語を通してデザインを考える-回顧・現状・展望」をテーマに、年次大会を開催し、用語とデザイン概念の問題を大きく取り扱っている(甲13?甲15)。同学会では、1970年9月及び1982年10月に、会員らを対象とした大規模アンケート調査を行った。その結果、「デザイン」とは「設計・計画・意匠等の意味を含む、上位概念である」と理解されている(甲15)。
(7)日本デザイン振興会による「デザイン」解釈
公益財団法人日本デザイン振興会(JDP)のWEBサイトでは、同会の考える「デザイン」解釈を示している。曰く、デザインにおいて「モノとコトは二分するものではなく常に同時に見続けるべきものであり、モノは手段であるがゆえに有形(Tangible)か無形(Intangible)かは問わない」と述べている。概念とは無形のデザイン対象にあたる人工物である(甲16、甲18)。
(8)概念と用語の重要性
時代の社会環境が大きく変化するとき、多くの新語や概念が生まれ、言葉の意味解釈や用語の整理が必要とされる。「design」「デザイン」「設計」の関係が適切に整理され、「広義のデザイン」が広く社会に理解される時、デザイン思考によるブレークスルー創出の機会はさらに拡がるだろう。領域横断的な学術団体の学会誌掲載論文でも、そのような概念整理の必要性と、それが実現しない現状への懸念が述べられている(甲17)。
(9)今後への展望:「概念工学」と「概念デザイン」
最近の状況として、応用哲学と心理学の研究者から「概念工学」(conceptual engineering,concept engineering)という新たな概念、及び研究領域が提起されており、「概念デザイン」(conceptual design,concept design,conceptual designing)との連携によって、デザイン思考のさらなる発展、デザイン領域への応用、新たなデザイン世界の顕現、が期待される(甲18)。
(10)第3条第1項第1号、第2号、第3号、第6号、第4条第1項7号、第10号、第15号について
本件商標は、デザイン過程の一部として認知され用いられる普通名称を表示したに過ぎず、指定役務に使用しても、自他役務識別標識として機能を果たし得ない。
また、公益性の観点から、このような基本概念、及び用語そのものに、独占的・排他的使用を認めることは、デザイン関連業界全体のみならず、市民社会、学術、及び、デザイン教育の現場に、誤認による混乱を生じさせ、我が国に於ける、デザイン思考の発展、市民・学生・経営者らのデザインマインドの醸成・普及啓発、創造性の発現、産業振興を阻害することが、危惧される。
3 むすび
したがって、本件商標登録に係る商標は、商標法第3条第1項第1号、第2号、第3号、第6号、第4条第1項第7号、第10号及び第15号に該当し、商標登録を受けることができないものであるから、本件商標登録は商標法第43条の2第1号の規定により取り消されるべきものである。

第3 当審の判断
1 「概念デザイン」等の文字の使用状況について
(1)申立人の提出に係る甲各号証によれば、「概念デザイン」等の文字につき、以下の事実を認めることができる。
ア 甲第4号証の「デザイン科学事典」(丸善出版株式会社、令和元年10月20日発行、41頁)及び甲第8号証の「デザイン科学概論」(慶應義塾大学出版会株式会社、2019年2月27日初版第2刷発行、39?40頁)には、「デザイン過程においては、デザインコンセプトを明確にする概念デザイン、デザインコンセプトに基づくデザイン案を導出する基本デザイン、および使用環境などの条件に最適なデザイン解を導出する詳細デザインに大別した場合、・・・・概念デザインは価値空間および意味空間における思考を中心としたデザイン・・・として表現できる。」、「概念デザインにおいては、デザイン目標が不明確であることが一般的であるため、デザイン対象の機能性やイメージなどを表す意味と、その価値との関係に注目する。これによりデザイン目標を徐々に明確化しつつ、価値や意味の要素が明確化される。」と記載がある。
イ 甲第10号証の「設計プロセスから見た人間工学的設計支援技術の枠組み」(日本デザイン学会 デザイン学研究 BULLETIN OF JSSD No.93 1992)には、「設計プロセスは、コンセプトを固める概念設計に始まり、イメージやアイデアを展開し造形を決定するイメージ・造形設計、寸法、形状や機構を決定する基本設計からディティールを決定する詳細設計までの4つの段階に分けて考えられる。」と記載がある。
ウ 甲第11号証の「設計からデザインへ」(日本機械学会[No.08-2]第18回設計工学・システム部門講演会CD-ROM論文集[2008.9.25-27、京都])には、「製品開発における設計は一般には・・・概念設計、機能設計、配置設計、構造設計、製造設計の手順を経る。・・・前半の概念設計→機能設計は企画者・設計者が思い描く製品イメージを仕様という具体的な形に落とし込むプロセスであり・・・」と記載がある。
エ デザイン教育機関の教科書とされる、甲第6号証の「デザイン情報学入門」(財団法人日本規格協会、2000年4月7日発行、76頁)には、「(1)概念設計(コンセプトデザイン)/ものづくりにはものをどのようにつくるかという前に、何をつくるべきかというコンセプトが必要不可欠である。設計には対象となる製品を形づくる機能的な側面とともに、社会的心理的な側面も重要視される。総じて“必要から発する概念”を形成することが、何よりも求められる。もの及び人に関する系統的な調査分析を通して、設計の柱となる製品のコンセプトを導き出すことを”コンセプトデザイン”という。」と記載がある。
(2)上記(1)において認定した事実によれば、「概念デザイン」、「概念設計」及び「コンセプトデザイン」の文字が、デザイン科学、デザイン研究、デザイン教育等の分野において、「価値空間および意味空間における思考を中心としたデザイン」であり、製品設計の過程において、製品のコンセプトを導き出すことを表現して使用されていることが見受けられる。
しかしながら、「概念デザイン」の文字が、本件商標の登録査定時において、本件商標の指定役務である「セミナーの企画・運営又は開催」の分野で、特定の役務を表示するものとして広く一般に使用されている事実はもとより、その取引者、需要者をして、特定の役務又はその役務の特性を直接的に表示したものとして認識されると判断するに足る事実は確認できない。
2 商標法第3条第1項第1号、同項第2号、同項第3号及び同項第6号該当性について
商標法第3条第1項第1号は、「その商品又は役務の普通名称普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」については、商標登録を受けることができない旨定めているところ、その「普通名称」とは、取引界において、その名称が特定の業務を営む者から流出した商品又は役務を指称するのではなく、その商品又は役務の一般的な名称であると意識されるに至っているものをいうと解される。
商標法第3条第1項第2号は、「その商品又は役務について慣用されている商標」については、商標登録を受けることができない旨定めているところ、その「慣用されている商標」とは、同種類の商品又は役務について、同業者間において普通に使用されるに至った結果、自己の商品又は役務と他人の商品又は役務とを識別することができなくなった商標をいうと解される。
商標法第3条第1項第3号は、「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。・・・)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」については、商標登録を受けることができない旨定めているところ、その商標が、その指定商品又は指定役務に使用されたときに、取引者又は需要者が商品又は役務の特徴等を表示するものと一般に認識するものをいうと解される。
商標法第3条第1項第6号は、「前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」については、商標登録を受けることができない旨定めているところ、同項第1号から第5号までに該当しないものであっても、一般に使用され得る標章であって、識別力がないものをいうと解される。
そこで、「概念デザイン」の文字についてみるに、当該文字は、上記1(2)のとおり、デザイン科学、デザイン研究、デザイン教育等の分野において、「価値空間および意味空間における思考を中心としたデザイン」であり、製品設計の過程において、製品のコンセプトを導き出すことを表現したものであるとしても、本件商標の指定役務の取引界において、役務の一般的な名称であると認識されるものではなく、自己の役務と他人の役務とを識別することができなくなっているということもない。
また、申立人の提出に係る甲各号証を見ても、本件商標の指定役務の取引界において、上記意味合いを特徴とする役務が一般に提供されている事実は見いだせないから、本件商標をその指定役務に使用した場合、これに接する取引者、需要者は、それが役務の具体的な特徴等を表したものとして認識するとはいい難い。
さらに、本件商標は、一般に使用され得る標章として識別力がないともいえないものであり、その他、商標としての機能を果たし得ないという特段の事情も発見できない。
してみれば、本件商標は、商標法第3条第1項第1号、同項第2号、同項第3号及び同項第6号のいずれにも該当しない。
3 商標法第4条第1項第7号該当性について
商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、(1)その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、(2)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、(3)他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、(4)特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、(5)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるというべきである(知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10349号)。そこで、本件商標についてみるに、これを構成する文字は、上記(1)ないし(5)のいずれの場合にも該当するということはできず、その他、本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標というべき事情は見いだせない。
してみれば、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第10号及び同項第15号該当性について
商標法第4条第1項第10号は、「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」について、また、同項第15号は、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」について、商標登録を受けることができない旨定めているところ、本件異議申立において、上記要件を充足するための前提となるべき需要者の間に広く認識されている商標についての立証、すなわち、「概念デザイン」の文字が他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者に広く認識されている商標であることの立証がなされていないから、商標法第4条第1項第10号及び同項第15号に該当するとはいえない。
5 まとめ
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第3条第1項第1号、同項第2号、同項第3号、同項第6号、同法第4条第1項第7号、同項第10号及び同項第15号のいずれにも違反してされたものではないから、同法第43条の3第4項の規定により、維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。

別掲
異議決定日 2021-08-03 
出願番号 商願2019-135210(T2019-135210) 
審決分類 T 1 651・ 11- Y (W41)
T 1 651・ 16- Y (W41)
T 1 651・ 12- Y (W41)
T 1 651・ 22- Y (W41)
T 1 651・ 25- Y (W41)
T 1 651・ 271- Y (W41)
T 1 651・ 13- Y (W41)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉田 昌史 
特許庁審判長 森山 啓
特許庁審判官 綾 郁奈子
板谷 玲子
登録日 2020-10-07 
登録番号 商標登録第6301033号(T6301033) 
権利者 山口 泰幸
商標の称呼 ガイネンデザイン、ガイネン、デザイン 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ