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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W1641
審判 全部申立て  登録を維持 W1641
審判 全部申立て  登録を維持 W1641
管理番号 1375196 
異議申立番号 異議2020-900095 
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-04-03 
確定日 2021-06-01 
異議申立件数
事件の表示 登録第6216671号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6216671号商標の商標登録を維持する。
理由 第1 本件商標
本件登録第6216671号商標(以下「本件商標」という。)は、「笹森順造直伝兵法」の文字を標準文字で表してなり、平成30年12月12日に登録出願、第16類「事務用又は家庭用ののり及び接着剤,封ろう,紙製包装用容器,プラスチック製包装用袋,紙製のぼり,紙製旗,衛生手ふき,紙製タオル,紙製テーブルナプキン,紙製手ふき,紙製ハンカチ,荷札,印刷したくじ(「おもちゃ」を除く。),紙類,文房具類,印刷物,書画,写真,写真立て」及び第41類「武道の教授,技芸・スポーツ又は知識の教授,武道に関する研修会の企画・運営又は開催,セミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,図書の貸与,武道に関する資料の展示,美術品の展示,書籍の制作,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画の上映・制作又は配給,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,放送番組の制作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),武道に関連する競技会又はイベントの運営,武道の興行の企画・運営又は開催,演武の興行の企画・運営又は開催,スポーツの興行の企画・運営又は開催,興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),武道場の提供,運動施設の提供,娯楽施設の提供,映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供,興行場の座席の手配,武道の用具の貸与,運動用具の貸与,レコード又は録音済み磁気テープの貸与,録画済み磁気テープの貸与,書画の貸与」を指定商品及び指定役務として、令和元年12月26日に登録査定され、同2年1月16日に設定登録されたものである。

第2 引用標章
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、登録異議の申立ての理由において、商標法第4条第1項第15号に該当するとして引用する標章は「小野派一刀流」(以下「引用標章」という。)の文字からなり、小野派一刀流と称する剣道の流派の18代宗家である者が役務「武道の教授,技芸・スポーツ又は知識の教授,武道に関する研修会の企画・運営又は開催,武道に関する資料の展示,武道に関連する競技会又はイベントの運営,武道の興行の企画・運営又は開催、演武の興行の企画・運営又は開催,武道場の提供,武道の用具の貸与」等(甲2、甲3、甲36)に使用し、需要者の間に広く認識されているとするものである。

第3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第7号、同項第15号及び同項第16号に違反して登録されたものであるから、同法第43条の2第1号によって取り消されるべきものであるとして、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第38号証(枝番を含む。)を提出した。
1 前提事実
(1)本件商標と「小野派一刀流」との実質的な同一・類似性
本件商標は、周知・著名な人物名たる「笹森順造」(明治19年?昭和51年。以下「順造氏」という。)と一般名称たる「直伝」「兵法」とを結合させたものである。
順造氏は、一般人に教育者、政治家、剣道家として周知・著名であるが、特に剣道人には、周知・著名な古武道たる小野派一刀流(以下「本流」ともいう。)16代宗家として、広く周知されている。
「直伝」とは、「秘伝・奥義などを直接にその師から伝授されること」、「兵法」とは、主に「剣術」を意味する(甲4の1・2)。
したがって、「笹森順造直伝兵法」が、順浩氏から直接に秘伝・奥義を受けた古武道たる剣術、すなわち本流を意味することは、需要者たる剣道人(特に高段者や指導者)の常識に属する。
本件商標と「小野派一刀流」は、実質的に同一又は類似するといえる。
(2)本件商標登録出願に至る経緯・本流の関係者
順造氏は、本流16代宗家として精力的に活動していたところ、三男・笹森建美牧師(以下「建美氏」という。)及び同令室・笹森在子(申立人)と共に駒場エデン教会及び同併設道場「禮楽堂」を創設し、初代堂主に就任した。
その後、建美氏は、唯授一人をもって順造氏から本流17代宗家及び2代禮楽堂堂主を承継し、「小野派一刀流」の商標登録(登録第4141452号。指定役務は「剣道を主とする古武道の教授」。以下「本流商標権」という。)を了した(甲5)。
そして、平成29年の建美氏の死去に伴い、直門弟子たる矢吹裕二氏(以下「矢吹氏」という。)は、建美氏の遺言(申立人が全財産(本流商標権を含む。)を単独相続のうえ、申立人に本流宗家指名権を承継させる内容)及び申立人による本流宗家指名に基づき、唯授一人をもって本流18代宗家及び3代禮楽堂堂主に就任し、本流商標権を承継した(甲6)。
他方、本件商標権者たる鈴木ゆき子氏(以下「鈴木氏」という。)及び宮内一氏(以下「宮内氏」という。)の両名(以下「鈴木氏ら」という。)は、かねて本流が護持する宗家制度の下、「兵法の儀に付 對師表裏別心御恨申間敷事(兵法について師に対し二心をもったり恨んだりしないこと)」、(堂主及び宗家の許可なく)「堅他見他言仕間敷侯事(習ったことを他者に見せたり云ったりしないこと)」、及び(堂主及び宗家の許可なく)「自師となり申間敷候事(自ら師となることはしないこと)」等を誓約した上(甲7)、本流に入門し(甲8)禮楽堂で修錬していた者である。
建美氏直門弟子たる鈴木氏は、専ら順造氏の外孫であることに依拠し、建美氏死去直後、申立人に対し、鈴木氏の子との養子縁組を求めるなど、建美氏の遺志に反して次期宗家及び堂主に就任すべく種々画策した。
そして、これが奏功しなかったことから、新宗家・堂主たる矢吹氏に対する重大離反行為(独自の稽古、門人でない者への指導、「本流代表」僭称等)を継続した。
これに苦慮した矢吹氏は、申立人らと慎重に協議を重ねた末、平成30年12月3日付けで、鈴木氏らに対し、破門に値する旨の告知を行った(甲9の1・2、甲10の1・2)。
しかしながら、鈴木氏らは、「自分たちが禮楽堂の古参で、順造氏の門人である。他方、禮楽堂の後輩たる矢吹氏は、先輩に警告できる立場にない。もとより矢吹氏を堂主及び宗家とは認めない。」等の主張をしたほか、建美氏についても、宗家として十分な技術的修練をしていないと誹謗中傷するなど、反省の情皆無で従前の態度を改めず、法的意味のない強弁を重ね、上記告知を受けた直後、本件商標を含む剽窃的な多数の商標登録出願(うち「直元流」(大長刀術)及び「神夢想林崎流」(居合抜刀術)は、本流(剣術)に併傳され、禮楽堂で修錬されているもの)を行った。
そこで矢吹氏は、平成31年3月5日、鈴木氏らを本流及び禮楽堂から破門した(甲12の1・2、甲13の1・2)。
ここで破門とは、門人たる地位の喪失をいい、門人身分を有する間に授与された本流の目録等がすべて失効するほか、爾後、本流の名称を用いた公開演武、弟子の取立て(採用)、教授等の行為がすべて禁止される。
そのため、鈴木氏らが本流宗家の下で得た目録等は失効し、鈴木氏らは、本流の名称を用いた公開演武、弟子の取立て、教授等の行為が禁止された状態にある。
なお、鈴木氏らが得た目録等につき説明する。本流では、弟子の修錬度によって、宗家から初伝「十二ヶ条目録」、中伝「仮字書目録」、奥伝「本目録」を順次授与され、これら三目録を授与された段階を免許皆伝といい、免許皆伝者は、さらに修錬度を深める過程で厳選され、宗家から「取立免状」「徹上徹下免状」「折紙認添状」「無刀免状」「大小打拵様注文伝」を授けられる資格を得る。
宗家継承者(新宗家)は、別して宗家門外不出一子相伝の「割目録」を受け継ぐこととされている(甲14の1)。
建美氏と同じく順造氏宗家在任中に入門した宮内氏は順造氏から、建美氏宗家在任中に入門した鈴木氏は建美氏から、いずれも初伝「十二ヶ条目録」及び中伝「仮字書目録」を授けられた(免許皆伝者ではない。)。今回の破門によりこれら目録すべてが失効した。
2 商標法第4条第1項第7号該当性
本件商標は、周知・著名な歴史上の人物名である「笹森順造」の名を含む商標であり、その登録出願経緯等に照らし、その使用や登録が社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念にもとるとともに、当該人物名に関連する公益的な施策に便乗し、その遂行を阻害する等公共の利益を損なうおそれがある公序良俗違反行為である。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第7号に違反するものである。
3 商標法第4条第1項第15号該当性
小野派一刀流(本流)を破門され、笹森順造氏ら歴代宗家と何らの関係を有せず、本流宗家の下で得た目録等が失効し、本流名義を使用した公開演武、弟子取立て等が許されない実態にある本件商標権者が、本件商標をその指定商品・指定役務に使用する場合には、本件商標権者の当該活動によって、小野派一刀流(本流)の宗家である矢吹氏自身あるいは矢吹氏と組織的・経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品・役務であるかのように、商品及び役務の出所について混同を生ずるおそれがある。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に違反するものである。
4 商標法第4条第1項第16号該当性
「笹森順造直伝兵法」は、各界で周知・著名で剣道史に名を遣す笹森順造氏から直接に、同じく周知・著名な小野派一刀流(本流)の秘伝・奥義を伝授されたとして当該商品・役務の品質等を保証する文字で構成されるところ、本件商標権者が提供する商品・役務の品質等を表す事実が立証されたとは到底いえず、本件商標は、当該品質等について誤認や誤解を生じ、需要者を欺く結果を招来しかねない。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第16号に違反するものである。
5 むすび
前記したとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第15号及び同項第16号の規定に違反して登録されたものであるから、商標法第43条の2第1号の規定により取り消されるべきものである。

第4 当審の判断
1 「笹森順造」及び引用標章「小野派一刀流」の周知性について
(1)「笹森順造」について
ア 「笹森順造」は、明治19年に青森県で生まれ、昭和51年に死去した人物であり、大正11年から18年間、東奥義塾塾長を務めたこと、同塾の校歌を作詞したことが学校法人東奥義塾高等学校のホームページに掲載されている(甲27)。
そして、弘前市立図書館ホームページには、「笹森順造」が昭和14年に青山学院院長を就任したことが記載され(甲28の2)、また、学校法人青山学院のホームページの歴代院長欄にも第7代院長として掲載されている(甲18)。
さらに、青森県弘前市ホームページの「弘前ゆかりの著名人」の項には「笹森順造 ささもりじゅんぞう」の欄に、「哲学博士、東京新公論主筆、米国デンバー新報主筆、青山学院長として活躍。衆議院議員当選 4回、参議院議員当選 3回、国務大臣の大役を果たしています。(1886年?1976年)」と記載されている(甲33)。
イ 「笹森順造」は、剣道の流派の一つである「小野派一刀流」の第16代宗家であり(甲2、甲17の1)、その著書として、昭和61年に「一刀流極意 新装版」が刊行された(甲14の1)。また、「笹森順造」が、初代の全日本学生剣道連盟の会長を務めたことが、全日本学生剣道連盟ホームページに掲載されている(甲17の1)。
ウ 雑誌「月刊剣道日本 創刊号」(昭和51年1月1日発行)における「小野派一刀流宗家 笹森順造」の特集(甲16)、書籍「青森県剣道史」(昭和59年11月10日発行)の「笹森順造」の項(甲29)、「笹森順造」氏著、笹森健美氏編集の書籍「剣道と私」(1986年5月頃 発行日不明)(甲15)、書籍「剣道塾長 笹森順造と東奥義塾」(平成15年11月1日発行)(甲19の1)、書籍「剣道大臣 笹森順造と撓競技」(平成29年9月10日発行)(甲19の2)において、「笹森順造」の経歴や活動状況が紹介されたが、これらの雑誌や書籍の発行部数等の頒布実績は不明である。
エ 弘前市体育協会のホームページの「笹森記念体育館」の項に、「1796年、この地に創設された藩校『稽古館』は1872年私学『東奥義塾』と改称され、その東奥義塾再興の祖である名誉塾長 笹森順三(1886?1976)の功績を称え後世に伝えるため、1977年に『笹森記念体育館』が建設されました。現在は、個人でのスポーツ活動やサークル活動の場として、多くの方に親しまれています。」の記載がある(甲32)。
オ 以上からすると、「笹森順造」は、大正時代から昭和時代にかけて、教育者、政治家として活動した人物であり、特に、剣道との関係においては、剣道の流派である「小野派一刀流」の16代宗家や全日本学生剣道連盟の初代会長となるなど、剣道の分野ではある程度知られた人物の名称であるということがうかがえる。
しかしながら、提出された証拠は、ホームページに掲載された情報、雑誌及び書籍において「笹森順造」の生前の活動を示すにとどまるものであるし、その閲覧数や発行部数なども不明であって、それら証拠から客観的な認知度を推しはかることができない。その他、近年、例えば、「笹森順造」の生誕記念の行事が行われたとか、地方公共団体や公益的な機関によって地域振興や観光振興に利用されるなどといった証拠の提出はなく、職権をもって調査するも、そのような事実も見いだせないから、「笹森順造」の名称は、本件商標の登録査定時に日本国内において、歴史上の人物として、一般に広く知られているとまではいうことができない。
(2)引用標章「小野派一刀流」の周知性について
ア 「小野派一刀流」は、剣道の流派の一つであり、約450年前の室町時代に伊藤一刀斎景久によって創始され、2代小野次郎右衛門忠明が継承して徳川将軍家指南役となって隆盛し、その後、代々津軽家又は小野家(後に山鹿家)が宗家に就任して継承された(甲21の1、甲36、申立人の主張)。
イ 「笹森順造」が、大正時代に津軽・山鹿両家から16代宗家を継承し(甲21の1、甲21の4)、17代宗家は笹森健美氏(2017年(平成29年)8月15日死去、甲36)、2018年(平成30年)以降、18代宗家は矢吹裕二氏であり(甲2、甲36)、矢吹氏が商標登録第4141452号「小野派一刀流」(第41類「剣道を主とする古武道の教授」)の権利を所有している(甲5、甲6)。
ウ 「小野派一刀流」は、宗家が次の宗家を指名、当該流派の正統を一人に限定し、本流に係る宗家門外不出一子相伝の「割目録」、門人帳、古文書等すべてが矢吹氏に承継された(申立人の主張)。もって正統宗家及び流派道統、尊厳と権威を維持・存続させることが宗家制度の趣旨にほかならず、古武道の保存普及のためには、宗家制度を維持することが肝要であることは、古武道の常識とされる(甲21の1)。一般に、古武道流派の名称及び形は、当該流派の宗家に属し、当該名称及び形の使用が当該宗家の許諾の下に許される(東京地裁平成24年6月29日参照、申立人の主張)。
エ 以上からすると、「小野派一刀流」は、室町時代からの剣道の流派の一つの名称であり、約450年といった長い歴史がある流派であることから、引用標章(「小野派一刀流」の文字)が、剣道に関係のある者においてはある程度知られていることはうかがえるものの、現在、当該流派の宗家が18代目であることや、その2代前の16代宗家が「笹森順造」であったことが取り立てて、剣道に関係のある者以外を含む一般に広く知られているとまではいうことができない。
そして、申立人提出の証拠によっては、引用標章が使用された役務の範囲、当該役務の取引量、引用標章の使用開始時期及び使用期間、使用地域、宣伝広告の事実等が明らかとはいえないことから、引用標章が、「小野派一刀流」の現在の宗家である者の業務に係る商品又は役務を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、需要者の間に広く認識されていたと認めることはできないものである。
2 本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、(a)商標の構成自体がきょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、(b)商標の構成自体が前記のものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが、社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反する場合、(c)他の法律によって、その使用等が禁止されている場合、(d)特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、(e)当該商標の登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり、その登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するとして到底容認し得ないような場合、などが含まれると解される(知財高裁平成17年(行ケ)第10349号 同18年9月20日判決)。
上記の観点を前提に、本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性について、検討する。
(2)申立人は、本件商標は周知・著名な歴史上の人物名である「笹森順造」を含む商標であり、その登録出願経緯等に照らし、その使用や登録が社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念にもとるとともに、当該人物名に関連する公益的な施策に便乗し、その遂行を阻害する等公共の利益を損なうおそれがある公序良俗違反行為であるとして、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当する旨主張する。
(3)本件商標は、上記第1のとおり、「笹森順造直伝兵法」の文字を標準文字で表してなるところ、構成前半の「笹森順造」の文字は、氏名であると認識することはさほど困難ではないことから、本件商標は「笹森順造」、「直伝」及び「兵法」の各文字を結合させたものと認識されるものである。
そして、上記1(1)のとおり、「笹森順造」の名称は、一般に広く知られているとまではいうことができないから、本件商標に接する者が、「笹森順造」が人名に当たる部分であることを認識し得るとしても、それを超えて、「笹森順造」が、剣道の分野の特にその流派の一つである「小野派一刀流」に関係のある者であることを認識することはないというべきである。
そうすると、本件商標権者が「笹森順造」の周知著名性に便乗して本件商標を登録出願し、登録を受けたものというべきではなく、かかる行為が、故人の名声、名誉を傷つけるおそれがあるとはいい難い。
また、申立人の提出に係る甲各号証及び職権調査によって、地方公共団体や公益的な機関などが、「笹森順造」の文字を使って、地域おこしなどの施策等を行っていたという事情は見いだせないから、本件商標登録が、公共の利益を損なう行為に該当するものということはできない。
さらに、申立人提出の全証拠を総合しても、本件商標の登録出願経緯等に不正の利益を得る目的その他不正の目的があるなど社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものがあったものと認めることはできない。
してみれば、本件商標は、その構成自体がきょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字からなるものではないことはもとより、本件商標をその指定商品又は指定役務について使用することが、社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するとの理由は見いだせない。
その他、他の法令等に反するとの事由や、国際信義にもとる行為であるとみるべき事情も認められないものである。
そうすると、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標には該当するということはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
3 本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)本件商標と引用標章との類否について
ア 本件商標について
本件商標は、上記第1のとおり、「笹森順造直伝兵法」の文字を標準文字で表してなるところ、これよりは「笹森順造」、「直伝」及び「兵法」の各文字を結合させたものと認識されるものであり、構成後半の「直伝」及び「兵法」の各文字は、「秘伝・奥義などを直接にその師から伝授されること」及び「剣術などの武術」(岩波書店 広辞苑第七版、甲4の1)の意味を有するものであることから、本件商標全体として「笹森順造から伝授された武術」といった意味合いが生じるものというのが相当である。
そして、本件商標の構成文字に相応して生じる「ササモリジュンゾージキデンヘーホー」の称呼は、やや冗長ではあるものの、無理なく一連に称呼し得るものである。
したがって、本件商標は、「ササモリジュンゾージキデンヘーホー」の称呼及び「笹森順造から伝授された武術」のような観念を生じるものである。
イ 引用標章について
引用標章は、「小野派一刀流」の文字からなるところ、上記1(2)のとおり、当該文字が本件商標の登録出願時及び登録査定時において、需要者の間に広く認識されていたと認めることはできないものである。
そうすると、引用標章は、その構成文字に相応して、「小野という氏の者を祖とする剣術の流派」のような意味合いが生じるものというのが相当である。
そして、引用標章の構成文字に相応して生じる「オノハイットーリュー」の称呼は、無理なく一連に称呼し得るものである。
したがって、引用標章は、「オノハイットーリュー」の称呼及び「小野という氏の者を祖とする剣術の流派」のような観念を生じるものである。
ウ 本件商標と引用標章との類否について
本件商標と引用標章とを比較すると、これらは、構成文字及び構成文字数が明らかに相違することから、両者の外観は、明確に区別し得るものであって、相紛れるおそれのないものである。
次に、称呼においては、本件商標から生じる「ササモリジュンゾージキデンヘーホー」の称呼と、引用標章から生じる「オノハイットーリュー」の称呼とを比較すると、両称呼は、構成音及び構成音数が相違し、それぞれ一連に称呼するときは、全体の語調、語感が異なり、相紛れるおそれのないものである。
また、観念においては、本件商標からは「笹森順造から伝授された武術」のような観念を生じ、引用標章からは「小野という氏の者を祖とする剣術の流派」のような観念を生じるものであるから、観念上、両者は相紛れるおそれはないものである。
そうすると、本件商標と引用標章とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのないものであるから、これらが需要者に与える印象、記憶、連想等を総合してみれば、両者は、非類似の商標であって、別異の商標というべきものである。
エ 小括
以上によれば、本件商標と引用標章とは、非類似の商標であって、別異の商標というべきである。
(2)本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について
上記(1)のとおり、本件商標と引用標章とは、非類似の商標であって、別異の商標というべきものである。
そして、上記1(2)のとおり、引用標章は、「小野派一刀流」の現在の宗家である者の業務に係る商品又は役務を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、需要者の間に広く認識されていたということはできないものである。
そうすると、本件商標は、これをその指定商品又は指定役務に使用しても、需要者において、「小野派一刀流」の現在の宗家である者や引用標章を連想、想起するということはできず、よって、その商品又は役務が「小野派一刀流」の現在の宗家である者あるいはその者と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品又は役務であるかのように、商品又は役務の出所について混同を生ずるおそれがある商標とはいえない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(3)申立人の主張
申立人は、本件商標権者が、「小野派一刀流」を破門され、「笹森順造」氏ら歴代宗家と何らの関係を有せず、本流宗家の下で得た目録等が失効し、本流名義を使用した公開演武、弟子取立て等が許されない実態にあることから、本件商標権者が、本件商標をその指定商品又は指定役務に使用する場合には、「小野派一刀流」の現在の宗家である者あるいはその者と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品又は役務であるかのように、商品又は役務の出所について混同を生ずるおそれがある旨主張する。
しかしながら、上記1(2)のとおり、「小野派一刀流」は、現在の宗家である者の業務に係る商品又は役務を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、需要者の間に広く認識されていたということはできないものである。
また、「小野派一刀流」は、約450年前から現在の18代宗家に至るまで、18名の宗家によって伝承されてきたものであるが、「小野派一刀流」の文字からただちに、そのうちの16代宗家であった「笹森順造」なる人物名や「笹森順造から伝授された武術」を連想、想起するということはできず、本件商標は、これをその指定商品又は指定役務に使用しても、需要者において、現在の宗家である者や引用標章を連想、想起するということはできず、よって、その商品又は役務が、現在の宗家である者と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品又は役務であるかのように、商品又は役務の出所について混同を生ずるおそれがある商標とはいえない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
4 本件商標の商標法第4条第1項第16号該当性について
申立人は、本件商標は周知・著名な笹森順造氏から、直接、同じく周知・著名な「小野派一刀流」の本流の秘伝・奥義を伝授されたとして、当該商品の品質又は役務の質等を保証する文字で構成されるところ、本件商標権者が提供する商品の品質又は役務の質等を表す事実が立証されたとはいえず、本件商標は、当該商品の品質又は役務の質等について誤認や誤解を生じ、需要者を欺く結果を招来しかねない旨を主張する。
しかしながら、本件商標に接する需要者が「笹森順造から伝授された武術」といった意味合いを理解するとしても、その指定商品又は指定役務との関係において、具体的な商品の品質又は役務の質などを表示したものと認識するとはいえないものであるから、申立人の主張はその前提を欠くものである。
そうすると、本件商標は、その指定商品又は指定役務に使用しても、商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標とはいえない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当しない。
5 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第15号及び同項第16号のいずれにも該当するものとはいえず、他に同法第43条の2各号に該当するという事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定により、その登録を維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。


別掲
異議決定日 2021-05-20 
出願番号 商願2018-152408(T2018-152408) 
審決分類 T 1 651・ 272- Y (W1641)
T 1 651・ 22- Y (W1641)
T 1 651・ 271- Y (W1641)
最終処分 維持  
前審関与審査官 河島 紀乃白鳥 幹周 
特許庁審判長 小松 里美
特許庁審判官 山根 まり子
小俣 克巳
登録日 2020-01-16 
登録番号 商標登録第6216671号(T6216671) 
権利者 鈴木 ゆき子 宮内 一
商標の称呼 ササモリジュンゾージキデンヘーホー、ササモリジュンゾー、ジキデンヘーホー、ササモリジュンゾージキデン、ジキデン 
代理人 神保 欣正 
代理人 神保 欣正 
代理人 田辺 信彦 
代理人 中井 憲治 
代理人 植松 祐二 
代理人 松原 香織 
代理人 山本 浩貴 

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