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審決分類 審判 全部無効 外観類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W30
審判 全部無効 観念類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W30
審判 全部無効 称呼類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W30
管理番号 1375172 
審判番号 無効2017-890044 
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-07-18 
確定日 2021-06-10 
事件の表示 上記当事者間の登録第5943016号商標の商標登録無効審判事件についてされた令和元年7月18日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(令和元年(行ケ)第10111号、令和2年3月11日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 登録第5943016号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5943016号商標(以下「本件商標」という。)は、「総本家駿河屋」の文字を標準文字で表してなり、平成26年5月20日に登録出願、第30類「最中」を指定商品として、同29年4月12日に登録査定、同年4月28日に設定登録されたものである。
なお、本件商標の出願人及び設定登録時の商標権者は、株式会社総本家駿河屋であり、その後、本件商標は、平成29年5月26日受付けの移転申請により株式会社寛永堂へ移転登録され、さらに同年7月27日受付けの移転申請により、上記株式会社総本家駿河屋とは別法人である株式会社総本家駿河屋に移転登録されている。

第2 引用商標
請求人が登録無効の理由において引用する商標は、以下の2件であり、いずれも登録商標として現に有効に存続しているものである(以下、これら2件の商標をまとめていうときは「引用商標」という。)。
1 登録第553169号商標(以下「引用商標1」という。)は、別掲1のとおり「駿河屋」の文字を横書きしてなり、昭和26年9月17日に登録出願、第43類「羊羹」を指定商品として、同35年7月21日に設定登録され、その後、平成13年2月14日に指定商品を第30類「羊羹」とする指定商品の書換登録がされたものである。
2 登録第553170号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲2のとおり「駿河屋」の文字を横書きしてなり、昭和26年10月22日に登録出願、第43類「羊羹」を指定商品として、同35年7月21日に設定登録され、その後、平成12年10月4日に指定商品を第30類「羊羹」とする指定商品の書換登録がされたものである。

第3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第57号証(枝番号を含む。以下、枝番号の全てを引用するときは、枝番号を省略して記載する。)を提出した。
なお、本件商標については、上記第1のとおり、その登録出願時から現在に至るまでの間に、株式会社総本家駿河屋(「千鳥屋宗家株式会社」から平成26年5月16日に商号変更、同28年8月1日付けで合併により解散。以下「総本家駿河屋(旧千鳥屋宗家)」という場合がある。)、株式会社寛永堂(総本家駿河屋(旧千鳥屋宗家)が合併により吸収された商号。以下「寛永堂」という場合がある。)及び上記総本家駿河屋(旧千鳥屋宗家)と代表取締役は同じくするものの別法人である株式会社総本家駿河屋(「株式会社駿河屋」から平成28年5月11日に商号変更、被請求人。)に権利が移転されており、これら3社をまとめて「被請求人ら」という場合がある。
1 請求の利益について
請求人は、和歌山市駿河町12番地在旧株式会社駿河屋(以下「旧駿河屋」という場合がある。)の破産手続(和歌山地方裁判所平成26年(フ)第195号)において、合法的に同社の本店店舗等の不動産及び産業財産権の一切を承継した立場にあり、老舗「駿河屋」を再開することにより、需要者はもちろんのこと、地元の和歌山県やマスメディアからも歓迎されている。
そして、請求人は、「駿河屋」を再開するにあたり、その店舗において、羊羹等に「駿河屋」、「総本家 駿河屋」等の商標を使用しているところ、本件商標の商標権者は、その設定登録前の平成29年4月19日付け及びその後の同年5月17日付けで、和歌山市駿河町12番地在「株式会社総本家駿河屋」(総本家駿河屋(旧千鳥屋宗家))(甲2)名で、使用中止や商標の変更を求める警告書を発し、さらに、同年6月26日付けで、東京都豊島区目白3丁目14番3号在「株式会社寛永堂」(寛永堂)名で、刑事告訴の手続を進める旨の警告書を発し、請求人はこれらを受領している(甲3)。
したがって、請求人は、本件商標の登録について無効審判の請求をする法律上の利害関係を有している。
2 無効理由について
(1)商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものであること
本件商標は、「総本家駿河屋」の文字を横書きしてなるところ、「総本家」の文字部分は、「多くの分家の分かれ出たもとの家。おおもとの本家。」を意味する辞書登載用語(甲6)で、取引上もその意味で普通に使用されている一般用語である。現に、老舗等において、「総本家ゆどうふ奥丹清水」(京都市東山区在)、「総本家更科堀井」(東京都港区在)、「総本家備長扇屋」(三重県津市津駅前店)、「総本家えびすや本店」(名古屋市中区在)、「総本家かん川」(兵庫県赤穂市在)、「総本家小松庵」(東京都豊島区在)、「総本家みその」(静岡県浜松市在)、「総本家朝日屋」(東京都渋谷区在)、「青柳総本家」(名古屋市守山区在)、「総本家よし廣」(京都市中京区在)等多数使用されて存在するほどに多用されている。
したがって、本件商標の自他商品の識別機能を有する部分、すなわち要部は「駿河屋」の文字にある。
また、最高裁判例(甲7)、その他多数の同趣旨の判例及び審決例(甲8)に従えば、本件商標の構成中、支配的な印象を与える部分は、「駿河屋」の文字であり、「総本家」は一般的、普遍的な文字部分にすぎない。
そうとすれば、本件商標は、「ソウホンケスルガヤ」の称呼のほか、要部より「スルガヤ」の称呼、「和菓子の老舗としての『駿河屋』」の観念(甲9)を生じるものである。
加えて、引用商標は、羊羹等に長年使用されて、周知・著名性を獲得している。この事実は、東京高裁裁判例でも認められて、引用商標1は、「日本国周知・著名商標検索リスト」に登載されているほどのものである(甲10)。
「河内駿河屋事件」裁判例(甲9)及び本件商標権者も「駿河屋」の周知性については、これを認めている(甲11)。
この意味でも、本件商標は、一層「駿河屋」の部分に着目されて取引に供されるもので、審査基準でも、このような結合商標については、類似の判断をするとして例示している(甲12)。
ちなみに、前掲「河内駿河屋事件」裁判例でも、「河内駿河屋」と「駿河屋」「総本家 駿河屋」とは類似する商標と判断されている(甲9)。
以上の理由により、本件商標は、その要部「駿河屋」より「スルガヤ」の称呼、和菓子の老舗としての「駿河屋」の観念を生じ、同一の称呼、観念を生じる引用商標とは類似の商標であり、指定商品も類似するから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものである。
(2)商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものであること
被請求人は、本件商標に関しては、何ら正当な権原や理由もなく、また使用予定も使用意思もないのに本件商標権を取得し、登録前から請求人に対し侵害の警告を発し、その後も繰り返していることから(甲3)、専ら請求人(本件商標の出願時は、旧駿河屋の事業を将来承継するであろう者)を狙い権利行使のみを目的として取得したものである。なお、このことは、本件商標の出願日から僅か数日のうちに、民事再生手続に関する事業譲渡契約(以下「本件事業譲渡契約」という場合がある。)の撤回、破産申請、民事再生手続廃止決定がされたことからも明らかである。
この点に関し、補足説明すると、平成26年5月20日に本件商標の出願を行った総本家駿河屋(旧千鳥屋宗家)は、旧駿河屋の民事再生手続(和歌山地方裁判所平成26年(再)第1号)において、事業譲渡先の候補となっていた株式会社千鳥屋宗家関連の実体のない会社にすぎない(審決注:甲第14号証によれば、「千鳥屋宗家株式会社」は「株式会社千鳥屋宗家」の100%子会社である。)。本件事業譲渡契約が実現されずに白紙撤回となり、その結果、旧駿河屋は破産手続への移行を余儀なくされたのであり、総本家駿河屋(旧千鳥屋宗家)及びその包括承継者である寛永堂は、「総本家駿河屋」を称する何らの正当性もない(甲13)。
その後、破産管財人は、旧駿河屋の不動産や産業財産権一切の売却のため私的入札を実施するにあたり、買受人が和歌山市駿河町において「駿河屋」の名称を付した事業を再開する支障とならないように、破産裁判所とも協議の上、民事再生手続における事業譲受候補者であった株式会社千鳥屋宗家に対し、本件事業譲渡契約の破談寸前の平成26年5月26日に駿河町に設立した「株式会社駿河屋」(以下「被請求人駿河屋」という場合がある。)の本店移転と商号変更を求めている(甲14)。
株式会社千鳥屋宗家は、破産裁判所との協議に基づく破産管財人の要請に従わず、本件商標の登録出願を平成28年8月1日に寛永堂に吸収合併された以降も継続し、本件商標の登録の前後から、請求人に対して執拗に警告を行っている(甲3)。
なお、総本家駿河屋(旧千鳥屋宗家)は、同28年5月11日に和歌山市駿河町12番地から東京都豊島区へ本店移転(甲2の2)しているが、同日付けで関連会社の和歌山市駿河町12番地在の「株式会社駿河屋」(被請求人駿河屋)を「株式会社総本家駿河屋」(被請求人)に商号変更している(甲15)。
そうとすれば、被請求人らによる本件商標権の取得は、請求人に対し権利行使のみを目的として取得したといわざるを得ず、商標法の目的とは相反し、著しく不公正な取得行為で、本件商標は、公序良俗に反する商標である。
商標法第4条第1項第7号の判断時は査定時(平成29年4月12日)であり、少なくとも、査定時では、被請求人(審決注:本件商標の査定時の出願人は、総本家駿河屋(旧千鳥屋宗家))は、本件商標の登録を取得する理由等は一切なかったのである。
なお、本件商標の出願時から登録時までの出願人は、和歌山市駿河町12番地在「株式会社総本家駿河屋」(総本家駿河屋(旧千鳥屋宗家))とされているが、同社は、実体のない登記上だけのペーパーカンパニーであって(甲2)、本件商標を指定商品に使用する意思も能力もないものである。このことからも、前述した本件商標権の取得目的は、請求人を狙い撃ちした権利行使のみであることが明らかである。
請求人が本件商標の審査時に提出した平成28年6月21日付け刊行物等提出書の中で、総本家駿河屋(旧千鳥屋宗家)はペーパーカンパニーであると指摘した(甲16)ことに対して、同年7月28日付け上申書の中では同社は何ら反論していない(甲11)。
以上の理由により、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものである。
3 弁駁書における主張
(1)答弁書における被請求人の主張全般について
ア 被請求人は、「破産管財人から株式会社千鳥屋宗家に対しては、本店移転と商号変更について、法的拘束力のない単なるお願いを文書で行っただけにすぎない。その結果、株式会社千鳥屋宗家は、・・・私的入札にも参加し、実際に入札を行っており、破産管財人の要請に従わなかった行為については、何ら違法性はない。」旨主張している。
しかしながら、破産管財人から和歌山地方裁判所に提出された文書(甲14、甲17)からも明らかなように、破産管財人は、株式会社千鳥屋宗家に対して、「株式会社総本家駿河屋(総本家駿河屋(旧千鳥屋宗家))及び株式会社駿河屋(被請求人駿河屋)の本店所在地と商号の変更を入札参加の必要条件とする」としており、被請求人が主張するように、「単なるお願いを文書で行っただけにすぎない」というものではないことは明白である。
そして、仮に、被請求人の入札に参加した旨の主張が正しいとすると、株式会社千鳥屋宗家は、そもそも入札参加資格がなかったにもかかわらず、破産管財人の指摘を無視して勝手に入札したものと認められる。
イ 被請求人は、「請求人は、何の権原もなく、店舗において、羊羹等に『駿河屋』及び『総本家駿河屋』の商標を違法に使用し、さらには、被請求人が出願中の『総本家駿河屋』の商標をも使用して、あたかも老舗『駿河屋』が復活したかのような宣伝を流布し、地元の和歌山県民及びマスメディアを騙し続けながら今日に至っているのが現状である。・・・和歌山県民及び市民やマスメディア等を騙している詐欺的な行為であると思慮する。」旨、また、「請求人は、こともあろうに本件商標が出願され、審査に継続していることを知りながら、『株式会社駿河屋』の商標として需要者の間に広く認識されていた『総本家駿河屋』が、毀損、中断することなく、『株式会社総本家駿河屋』の商標として継続されているとの、虚偽の情報を流布し続けて今日に至っている。これについては、請求人の提出した刊行物等提出書(乙9、乙10)に自らが流布した虚偽の情報の詳細が記載されている。」旨主張している。
しかしながら、請求人は、請求人の会社の設立記者会見において、旧駿河屋とは異なる新会社を設立したこと、特に、「会社は新しくなりますが、菓子の味や思いは変わらず引き継ぎ、一日も早く、地域に根付けるよう頑張っていきたい」旨明確に表明しており(乙9、乙10)、被請求人が主張するような事実はない。そして、そもそも、旧駿河屋が破産し、請求人が異なる新会社を設立したことは、和歌山県民及び市民やマスメディア等に周知されており、その上で、請求人が異なる新会社を設立したことは、地域から歓迎されている。
なお、請求人が、和歌山市駿河町12番地在の旧駿河屋の破産手続(和歌山地方裁判所平成26年(フ)第195号)において、合法的に同社の本店店舗等の不動産及び産業財産の一切を承継した立場にあることは、破産管財人も認めるところであることは、同人と請求人との間で本年になってから交わされた文書(甲18)からも明らかである。
ウ 被請求人は、「旧駿河屋からの本件事業譲渡契約に際して、『総本家駿河屋』の商標が第30類で取得されていなかったのを受けて、本件商標を出願したのである。すなわち、被請求人は、本件商標の出願時には、本件事業譲渡契約が実行されるものと信じていた。それが、裁判所によって覆されたのであって、『旧駿河屋の事業を将来承継するであろう者を狙い権利行使のみを目的として取得した』などとは、言いがかりにも程がある。被請求人はあくまでも本件事業譲渡契約の実行を希望していたにも関わらず、民事再生手続に関する本件事業譲渡契約の撤回、破産申請、民事再生手続廃止決定が、一方的に裁判所によって行われたのである。請求人は、破産に至った経緯及び事実の詳細を全く把握しておらず、憶測で物事を判断しているだけにすぎない。」旨主張している。
しかしながら、本件事業譲渡契約が破棄され、旧駿河屋の破産に至った原因の少なくとも一部が千鳥屋宗家株式会社側にあることは、駿河屋労働組合作成の文書(甲19?甲21)の内容からも明らかであり、千鳥屋宗家株式会社は、事業譲渡の手続が円滑に進行していないことを十分認識していたと考えられる。
旧駿河屋の労働組合である駿河屋労働組合が千鳥屋宗家株式会社への事業譲渡を反対していたように、同社は本件事業譲渡契約を締結した平成26年4月30日から1か月後の履行期日の間に、製造工場の閉鎖やそれに伴う従業員の解雇など旧駿河屋にとってはそれまでの交渉経緯に反するような厳しい条件を次々と突きつけたため、旧駿河屋の経営陣も事業譲受会社となる千鳥屋宗家株式会社に対する信頼を完全に喪失していたと思われる。そうでなければ、民事再生手続を選択し、「事業者(経営者)」は変われども「事業」の存続だけを志向して、本件事業譲渡契約まで締結していた旧駿河屋の方から、千鳥屋宗家株式会社への事業譲渡の許可申請を自ら取り下げることなどおよそ考えられないからである。また、4億8千万円もの事業譲渡代金額の支払を一旦合意した千鳥屋宗家株式会社が、後日、破産手続で実施された包括的な事業用財産売却のための入札において、3億円という大幅に減額した入札金額を提示した事実は、千鳥屋宗家株式会社において事業譲渡代金を何とか減額してやろうという意図があったことを容易に推認させる出来事というべきである。
(2)商標法第4条第1項第11号における被請求人の主張について
ア 被請求人は、主張の根拠として、「総本家千鳥屋」の文字よりなる登録商標に対する拒絶査定不服審判事件の審決(乙5)を挙げている。
しかしながら、被請求人の主張の根拠とする上記「総本家千鳥屋」審決は、類似判断を誤った、参考にもならない単なる先の審決例にすぎないものである。また、仮にそうでないとしても、本件商標と商標「総本家千鳥屋」とは、両商標の自他商品の識別機能を有する部分、すなわち要部をなす「駿河屋」と「千鳥屋」の文字部分の周知性が大きく相違し(甲10)、また、商品商標と役務商標の違いもあり、事案を異にするものである。
本件商標は、審査基準に規定する「結合商標」にまさに合致するものであり、審査基準において「結合商標」ついては、類似の判断をするとして例示されている(甲12)。
そして、被請求人に対して本件商標の登録を容認することは、自他商品の識別機能を有する文字からなる周知・著名である登録商標を保有していても、それのみでは不十分で、「総本家」、「本家」、「宗家」等の「多くの分家の分かれ出たもとの家。おおもとの本家。」を意味する辞書登載用語からなる文字を組み合わせた「結合商標」を併せて保有しておかなければ安心できないことを意味し、本件当事者のみならず、例えば、老舗と呼ばれる各種の営業者に大きな影響及び混乱をもたらすことは必定である。
イ 被請求人は、「『河内駿河屋事件』裁判例の原告である旧駿河屋は、平成26年5月29日に破産し、同年6月25日に和歌山地方裁判所にて破産手続が開始し、既に消滅した会社であり、周知商標『駿河屋』の主体である原告(旧駿河屋)は、本件商標の登録出願時及び査定時には存在しない。」旨主張するが、旧駿河屋が破産しても、「駿河屋」(「総本家駿河屋」)の周知・著名性が直ちに消滅するものでないことは明白である。
ウ 以上のように、被請求人の主張は失当であり、本件商標は、先願登録に係る他人の引用商標と商標及び指定商品において類似するものであるから、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものである。
(3)商標法第4条第1項第7号における被請求人の主張について
ア 被請求人は、主張の根拠として、請求人が主張する本件商標に関する経緯を挙げているが、被請求人の主張内容は、都合の悪いことは秘匿したり、都合のいいように事実を歪曲したものであり、信用に値するものでない。
イ 被請求人らは、本件商標に関しては、何ら正当な権原や理由もなく、また使用予定も使用意思もないのに本件商標権を取得し、登録前から請求人に対し侵害の警告を発し、その後も繰り返していることから(甲3)、専ら請求人(本件商標の出願時は、旧駿河屋の事業を将来承継するであろう者)を狙い権利行使のみを目的として取得したものであり、このことは、平成29年7月27日付けで行われた商標権移転登録申請によって一層明らかとなった。
そうとすれば、被請求人らによる本件商標権の取得は、請求人に対し権利行使のみを目的として取得したといわざるを得ず、商標法の目的とは相反し、著しく不公正な取得行為で、本件商標は、公序良俗に反する商標である。
商標法第4条第1項第7号の判断時は査定時(平成29年4月12日)であり、少なくとも、査定時では、被請求人(審決注:本件商標の査定時の出願人は、総本家駿河屋(旧千鳥屋宗家))は、本件商標の登録を取得する理由等は一切なかったのである。
なお、被請求人は、本件商標の出願人である総本家駿河屋(旧千鳥屋宗家)と同様、和歌山市駿河町12番地在「株式会社総本家駿河屋」と称しているが、法律の抜け穴を利用して他人の土地(住所)に設立した実体のない登記上だけのペーパーカンパニーであって(甲15)、本件商標を指定商品に使用する意思も能力もないものである。
ウ 以上のように、被請求人の主張は失当であり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は、成り立たない、審判費用は請求人の負担とする旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第24号証を提出した。
1 本件商標に関する経緯
本件商標と被請求人及び請求人との関係を明確にするために、本件商標の経緯に対して被請求人ら及び請求人の取った行為で、被請求人らの行為には行頭にaの○(番号)、請求人の行為には行頭にbの○(番号)、第三者の行為には行頭にcの○(番号)を、それぞれ付して経緯の概略を示す。
aの01:(平成26年4月28日)旧駿河屋と千鳥屋宗家株式会社との間で、譲渡金額4億8千万円で「事業譲渡契約書(乙6)」を締結し、同年5月30日の譲渡実行日に向けて事業の引継ぎや設備等の準備を行う。
cの01:(平成26年5月16日)駿河屋会メンバーの「合資会社駿河屋」、「株式会社大阪の駿河屋」、「有限会社伏見駿河屋」及び「株式会社京都駅前駿河屋」の4社が、商願2014-038998号の商標登録出願「総本家 駿河屋」(乙16)を行う。
aの02:(平成26年5月16日)民事再生の担当弁護士から「旧和歌山『株式会社駿河屋』の商号の住所が駿河町にあるのを変更するから早急に駿河町に登記してください」との指示があり、その指示に従って「株式会社駿河屋」(被請求人駿河屋)と既に持っている「千鳥屋宗家株式会社」を「株式会社総本家駿河屋」(総本家駿河屋(旧千鳥屋宗家))に商号を変更し登記する(甲2の1)。
aの03:(平成26年5月20日)本件商標を登録出願する(乙1、甲1)。
引用商標(甲4、甲5)については共有権利者から譲渡に関する同意が得られておらず、また、商標「総本家 駿河屋」(審決注:登録第3346845号)は第42類の指定役務「茶・コーヒー・紅茶・清涼飲料又は果実飲料を主とする飲食物の提供」で登録されていたため、第30類の菓子等で権利を取得するために出願する。
aの04:(平成26年5月26日)民事再生の担当弁護士の指示のもと、株式会社駿河屋(被請求人駿河屋)の商号を登記する(甲15)。
cの02:(平成26年5月29日)旧駿河屋は、破産によって事業を停止する(乙6、甲13)。
aの05:(平成26年6月17日)早期審査に関する事情説明書(乙2)及び手続補正書(乙3)を提出する。
cの03:(平成26年6月25日)和歌山地方裁判所は、旧駿河屋の破産手続を開始する(乙6、甲13)。
bの01:(平成26年7月3日)和歌山地方裁判所は、旧駿河屋の所有する不動産・機械及び産業財産権(商標権の一部)の一括購入先を決める入札を実施する。有田市の株式会社三和の会長J(審決注:被請求人の主張においては、「三和インセクティサイド株式会社J」の表示も見受けられるところ、以下、単に「J」という。)が約3.17億円で落札する。被請求人の代表者が代表を務める千鳥屋宗家株式会社も入札するが、引用商標(甲4、甲5)が譲渡の対象外であることを非常に重視した結果、譲渡金額4億8千万円よりも少ない3億円で入札し、結果、被請求人は落札できなかった(乙6、甲13)。
aの06:(平成26年7月22日)拒絶理由通知を受領(乙4)。拒絶理由は、商標法第4条第1項第11号に該当するものとして引用No.1?No.4が引用され、さらに登録されたときに同号に該当するとして引用No.5(乙16)が引用される。なお、この拒絶理由で引用された引用No.2及びNo.3は、今回の無効理由の引用商標でもある。このとき、初めて駿河屋会メンバーが引用No.5「総本家 駿河屋」(乙16)を本件商標よりも4日前に出願していたという事実を知る。また、引用No.5の存在によって、本件商標が登録査定を受けるまでに約3年もの年月を費やすこととなる。
aの07:(平成26年8月5日)意見書(乙5)を提出する。同意見書の中で、引用No.1?No.4に対する反論として、引用No.1の登録商標「駿河屋煉羊羹」、引用No.2及びNo.3の登録商標「駿河屋」、引用No.4の商標登録出願「京都駅前駿河屋」については、それぞれ本願商標の「総本家駿河屋」とは、全くの非類似である旨の反論を行う。引用No.5(乙16)に対する反論として、引用No.5には、平成26年9月9日付けで本願商標と同じ引用No.1?No.4が引用され、拒絶理由通知書が発送されており、引用No.2及びNo.3の登録商標の権利者と引用No.5の出願人とが同じでないので、引用No.5の商標登録出願(乙16)は、商標法第4条第1項第11号に該当し、拒絶されるべきものであり、先願としての地位を有するものではない旨の反論を行う。
bの02:(平成26年8月6日)引用No.1の登録商標「駿河屋煉羊羹」のみが、株式会社三和に移転され、平成26年8月29日付けで本権移転登録申請書が提出され、同日付けで移転登録される。また、登録商標第3346845号についても、同様に同日付けで移転登録されている。その他の登録商標についても移転登録されている。しかしながら、引用No.2及びNo.3(甲4、甲5)の「駿河屋」については、請求人は、権利を譲り受けていない。
bの03:(平成26年11月7日)請求人(株式会社総本家駿河屋)が登記される(乙11)。
aの08:(平成27年12月21日)上申書(乙6)を提出すると共に引用No.5の商標登録出願に対して、早期に拒絶査定の決定を下して頂きたい旨の刊行物等提出書(乙17)を提出する。
cの04:(平成28年2月4日)駿河屋会メンバーの「合資会社駿河屋」、「株式会社大阪の駿河屋」、「有限会社伏見駿河屋」及び「株式会社京都駅前駿河屋」の4社は、本件商標に対する請求人の主張と同じように、「本件出願につきましては、商標法第3条第1項柱書違反により登録を受けることができず、かつ、商標法第4条第1項第7号及び第11号の不登録事由が存しますので、拒絶の査定の決定を下して頂きますようお願い申し上げます。」という趣旨の、刊行物等提出書(乙7)を提出する。
aの09:(平成28年3月22日)上記駿河屋会メンバーの刊行物等提出書(乙7)に対して、上申書(乙8)を提出する。
aの10:(平成28年5月11日)平成26年5月26日に登記した「株式会社駿河屋」(被請求人駿河屋)の商号を「株式会社総本家駿河屋」(被請求人)に変更する(甲15)。
bの04:(平成28年6月23日)請求人は、本件商標が、「平成26年7月17日付けの商標法第4条第1項第11号の拒絶の理由に加え、他人の業務に係る商品(若しくは役務)を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって、その商品(若しくは役務)又はこれらに類似する商品(若しくは役務)について使用をするものであるので、商標法第4条第1項第10号に該当し、商標登録を受けることができないものである。」との趣旨の刊行物等提出書(乙9)を提出する。
bの05:(平成28年7月11日)請求人は、本件商標が「商標法第4条第1項第10号に該当する」ことを説明するためにマスメディアの記事を刊行物等提出書(乙10)として提出する。
aの11:(平成28年7月28日)請求人の刊行物等提出書(乙9)に対して、上申書(甲11)を提出する。
aの12:(平成28年8月1日)上記aの02の商号変更した「株式会社総本家駿河屋」(総本家駿河屋(旧千鳥屋宗家))を寛永堂に吸収合併する(甲2の2、3)。
cの05:(平成28年8月2日)引用No.5の商標登録出願「総本家駿河屋」(乙16)に対して拒絶査定が起案され、送付される。
aの13:(平成28年8月23日)請求人の刊行物等提出書(乙10)に対して、上申書(乙12)を提出する。
aの14:(平成29年2月8日)出願から既に2年9か月経過しており、出願人も商標の早期使用を切望しているので、商標登録の決定を早期に賜りたい旨の上申書(乙13)を提出する。
aの15:(平成29年4月12日)本件商標について登録査定(乙14)を受領する。
aの16:(平成29年4月19日)登録査定を受領した旨の通知及び1回目の警告書を送付する(甲3の1)。
aの17:(平成29年4月28日)本件商標が登録される(乙15、甲1)。
aの18:(平成29年5月17日)登録に基づく2回目の警告書を送付する(甲3の2)。
bの06:(平成29年5月19日)警告書に対する回答書(1)(乙19)を受領する。
aの19:(平成29年5月24日)Jと被請求人代表取締役Kの二人で会合する(乙20)。
aの20:(平成29年5月26日)本件商標を寛永堂に権利移転する(乙21、甲1の1)。
aの21:(平成29年6月1日)aの19の会合に関する確認書(乙20)を送付する。
aの22:(平成29年6月26日)登録に基づく3回目の警告書を送付する(甲3の3)。
bの07:(平成29年7月3日)警告書に対する回答書(乙23)を受領する。
aの23:(平成29年7月27日)本件商標を被請求人に権利移転する(乙22)。
本件商標に関連する上記経緯から明らかなように、被請求人は、終始「総本家駿河屋」の使用を切望して行動していることを容易にうかがい知ることができる。
請求人は、「株式会社総本家駿河屋」の商号が和歌山市駿河町12番地に既に登記してあることによって、破産管財人から「株式会社総本家駿河屋(甲2の1)」(総本家駿河屋(旧千鳥屋宗家))及び「株式会社駿河屋(甲15)」(被請求人駿河屋)が「駿河屋」の名称を付した事業を再開する支障となると指摘されていることを知りながら(甲14)、住所が異なるということだけで、全く同じ商号「株式会社総本家駿河屋」(請求人)を和歌山市小倉25番地に登記し営業を開始している。
また、請求人は、何の権原もなく店舗において、羊羹等に「駿河屋」及び「総本家 駿河屋」の商標を違法に使用し、さらには、被請求人が出願中の「総本家駿河屋」の商標をも使用して、あたかも老舗「駿河屋」が復活したかのような宣伝を流布し、地元の和歌山県民及びマスメディアを騙し続けながら今日に至っているのが現状である。このような事情を知らない和歌山県民及び市民はただ和歌山の老舗菓子屋「駿河屋」が再び開業したと正直に喜んでいるにすぎず、和歌山県民及び市民やマスメディアの善意な気持ちを利用して、歓迎されていると主張するのは、和歌山県民及び市民やマスメディア等を騙している詐欺的な行為である。
2 商標法第4条第1項第11号の無効理由について
(1)請求人は、本件商標は引用商標と商標及び指定商品において類似するから、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものであると主張しているが、引用商標の指定商品は、第30類「羊羹」であり、本件商標の指定商品は、第30類「最中」であり、指定商品が互いに類似することは認める。
しかしながら、引用商標と本件商標とは、互いに商標が非類似である。引用商標は、「駿河屋」の文字を表してなるところ、その構成文字に相応して「スルガヤ」の称呼を生じ、「駿河屋」という屋号(店名)の観念のみを生じるものである。
これに対して本件商標は、標準文字で「総本家駿河屋」と表記され、同書、同大、等間隔に横書きしてなるものであり、外観上、全体が一体的にまとまったものとの印象を抱かせるものであり、その称呼「ソウホンケスルガヤ」は、9音と格別に冗長でもなく、無理なく一連に称呼し得るものであり、その構成文字全体に相応して「ソウホンケスルガヤ」の称呼のみが生じるものというべきであり、引用商標とは全く非類似の商標である。
すなわち、本件商標より生じる「ソウホンケスルガヤ」の称呼と、引用商標より生じる「スルガヤ」の称呼とを比較するに、両称呼は、その構成音数を著しく異にするものであるから、称呼上相紛れるおそれのないものである。さらに、両者は観念及び外観においても明らかに相違するものである。
したがって、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても、互いに相紛れるおそれのない非類似の商標といわざるを得ない。
また、このような判断については、「総本家千鳥屋」の文字からなる登録商標に対する審決(乙5)における認定・判断に沿うものである。
(2)請求人は、「総本家」の文字が多数使用されて存在しているから、本件商標の要部は「駿河屋」の文字にあると主張している。
しかしながら、「総本家」の文字が多数使用されて存在することをもって、「総本家駿河屋」の要部が「駿河屋」にあるとするのは、あまりにも短絡的で論旨が飛躍しすぎているといわざるを得ない。
(3)請求人の主張する最高裁判例(甲7)の要旨は、「総本家」と「駿河屋」との間に空白の存在しない漢書体で表された「総本家駿河屋」と、「駿河屋」との類否関係とは、全く事案が異なり、参考にならないことは明白である。
(4)請求人は、引用商標は、羊羹等に永年使用されて、周知・著名性を獲得し、東京高裁裁判例でも認められて、引用商標1は、「日本国周知・著名商標検索リスト」に登載されているほどのものである(甲10)と主張している。
しかしながら、旧駿河屋は、平成26年5月29日に破産し、同年6月25日に和歌山地方裁判所にて破産手続が開始し、既に消滅した会社であり、周知商標「駿河屋」の主体である旧駿河屋は、本件商標の登録出願時及び査定時には存在しない。
また、「総本家」は地名ではなく、それ自体で「多くの分家の分かれ出たもとの家。おおもとの本家。」を意味するものであり、「○○屋」という屋号と結合することによって、その屋号のおおもとの本家という意味を発揮するものである。したがって、単なる地名と「駿河屋」との結合商標の裁判例を持って、本件商標の参考例とすること自体に無理がある。
本件商標「総本家駿河屋」も「京3条駿河屋」、「京都駿河屋」、「京駿河屋」及び「株式会社京都駅前駿河屋」と同じく構成文字全体をもって一体不可分のものとして認識され、その構成文字に相応して「ソウホンケスルガヤ」の称呼のみを生じるものであって、単に「駿河屋」との外観を認識することもなく、「スルガヤ」という称呼を発することもあり得ない。
3 商標法第4条第1項第7号の無効理由について
(1)請求人は、「被請求人は本件商標に関しては、何ら正当な権原や理由もなく、また使用予定も使用意思もないのに本件商標権を取得し、登録前から請求人に対し侵害の警告を発し、その後も繰り返していることから(甲3)、専ら請求人を狙い権利行使のみを目的として取得したものである」と主張している。
しかしながら、被請求人は、本件商標に関しては、本件商標の出願の時点では何ら正当な権原や理由もないので、商標が登録されるまでは本件商標を使用しての菓子業は出来ないと判断し、商標が登録されるのを待っていたのである。ところが、登録されるまでの3年の間に請求人は、商標「総本家 駿河屋」及び「総本家駿河屋」を不正かつ違法に使用し続けたのである。そして、被請求人は、本件商標について登録査定を受けたので、登録後は商標権の侵害になることを事前に請求人に通告しただけである。
(2)請求人は、「請求人(本件商標の出願時は、旧駿河屋の事業を将来承継するであろう者)を狙い権利行使のみを目的として取得したものである」と主張している。
しかしながら、被請求人は、旧駿河屋からの本件事業譲渡契約に際して、「総本家駿河屋」の商標が第30類で取得されていなかったのを受けて、本件商標を出願したのである。すなわち、被請求人は、本件商標の出願時には、本件事業譲渡契約が実行されるものと信じていた。それが、裁判所によって覆されたのであって、「旧駿河屋の事業を将来承継するであろう者を狙い権利行使のみを目的として取得した」などとは、言いがかりにも程がある。
被請求人はあくまでも本件事業譲渡契約の実行を希望していたにも関わらず、民事再生手続に関する本件事業譲渡契約の撤回、破産申請、民事再生手続廃止決定が、一方的に裁判所によって行われたのである。請求人は、破産に至った経緯及び事実の詳細を全く把握しておらず、憶測で物事を判断しているだけにすぎないものであり、請求人の主張は、事実と全く異なる。
(3)請求人は、「事業譲渡先の候補となっていた株式会社千鳥屋宗家関連の実体のない会社」と断定しているが、千鳥屋宗家株式会社は、「事業譲渡先の候補」でなく、旧駿河屋との間で、正式に「事業譲渡契約書(乙6)」を締結し、平成26年5月30日の譲渡実行日に向けて事業の引継ぎや設備等の準備を行っていた会社である。
また、請求人は、被請求人の方が事業譲渡契約を白紙撤回したかのように断定しているが、甚だ遺憾である。本件事業譲渡契約を事業譲渡実行日の当日の午前1時30分頃、何の相談もなく一方的に白紙撤回したのは、旧駿河屋であり、それを決定したのは和歌山地方裁判所である。
本件商標の登録出願を行った「株式会社総本家駿河屋」(総本家駿河屋(旧千鳥屋宗家))は、東京に多くの資産を持ち、千鳥屋宗家株式会社の代表取締役Kが代表取締役を務める合法的に登記された実体のある会社である。
さらに、請求人は、「総本家駿河屋(旧千鳥屋宗家)及びその包括承継者である寛永堂は、『総本家駿河屋』を称する何らの正当性もない」と主張しているが、総本家駿河屋(旧千鳥屋宗家)は、正式に商標登録出願を行い、合法的に登録商標を取得した会社である。
逆に、請求人こそ、なんの正当性も合法的な理由もなく「駿河屋」、「総本家 駿河屋」及び「総本家駿河屋」を使用し、商標権を侵害するという違法(侵害)行為を公の下で行っており、企業コンプライアンスの欠片も持ち合わせていない会社だと断定せざるを得ない。
(4)請求人は、株式会社千鳥屋宗家は、破産裁判所との協議に基づく破産管財人の要請に従わず、本件商標の登録出願を、寛永堂に吸収合併された以降も継続し、本件商標の登録の前後から、請求人に対して執劫に警告を行っている(甲3)と主張している。
破産管財人は、株式会社千鳥屋宗家に対して、「株式会社駿河屋」(被請求人駿河屋)及び「株式会社総本家駿河屋」(総本家駿河屋(旧千鳥屋宗家))の本店移転と商号変更をお願いしただけである。すなわち、破産管財人から株式会社千鳥屋宗家に対しては、本店移転と商号変更について、法的拘束力のない単なるお願いを文書で行っただけにすぎない。その結果、株式会社千鳥屋宗家は、上記私的入札にも参加し、実際に入札を行っており、破産管財人の要請に従わなかった行為については、何ら違法性はない。
請求人は、「株式会社総本家駿河屋」(駿河町12番地、総本家駿河屋(旧千鳥屋宗家))が先に登記されているので、「駿河屋」を含む商号を登記することに支障があることを知りながら、総本家駿河屋(小倉25番地、請求人)に登記したことになる。
特に、請求人は、「株式会社総本家駿河屋」(総本家駿河屋(旧千鳥屋宗家))の登記が既に存在することも、何故存在するのかを熟知していながら、完全に同一の場所でないという法の盲点を突いて、同一商号を同一市内に登記している。
そして、請求人は、「株式会社総本家駿河屋」(総本家駿河屋(旧千鳥屋宗家))が登記してある住所、和歌山市駿河町12番地に駿河町本舗を置き、営業している。このような行為は企業コンプライアンス上問題があると思慮する。
さらに、請求人は、こともあろうに本件商標が出願され、審査に継続していることを知りながら、「株式会社駿河屋」(旧駿河屋)の商標として需要者の間に広く認識されていた「総本家駿河屋」が、毀損、中断することなく、「株式会社総本家駿河屋」(請求人)の商標として継続されているとの、虚偽の情報を流布し続けて今日に至っている(乙9、乙10)。
(5)請求人は、「被請求人による本件商標権の取得は、請求人に対し権利行使のみを目的として取得したといわざるを得ず、商標法の目的とは相反し、著しく不公正な取得行為で、本件商標は、公序良俗に反する商標であり、少なくとも、査定時では、被請求人は、本件商標の登録を取得する理由等は一切なかった。被請求人は、本件商標の出願時から登録時まで、和歌山市駿河12番地在『株式会社総本家駿河屋(総本家駿河屋(旧千鳥屋宗家))』と称しているが、実体のない登記上だけのペーパーカンパニーであって、本件商標を指定商品に使用する意思も能力もないものである」と主張している。
しかしながら、取得する理由は本件商標の経緯から明らかであり、請求人の主張は、明らかに失当である。また、どの行為を指して不公正な取得行為と断定しているのか、その証拠を提示すべきであり、単なる言いがかりにすぎない。
被請求人は、本件商標が引用商標「駿河屋」を侵害する可能性があるので、本件商標が正式に登録になるまで、事業を実施することなく、会社を休眠させていただけにすぎない。
このような状況下、請求人を設立したJは、入札で単に旧駿河屋の機材資産や一部商標を買い取っただけにすぎず、「駿河屋」及び「総本家駿河屋」の商標を使用する何の権原も有しないのに、管財人が「『総本家駿河屋』を開業して良い」と言ったなどと主張して、強引に「総本家駿河屋」の屋号で菓子屋を開店し営業している。
被請求人は、本件商標に基づいて直ぐに「総本家駿河屋」の名称で菓子屋を開業することが可能であるが、仮に開業した場合、世間から「総本家駿河屋」が経営争いをしていると物笑いになるのは明白であり、長年続いた「駿河屋」を傷つけてはならないという一心から、Jに手紙を出して、紳士的に交渉を重ねて穏便に経営移譲をお願いしているところ、請求人からは何ら誠意ある回答を得ることができなかったので、警告書を送付したのである。
(6)請求人は、「被請求人らは、本件商標に関しては、何ら正当な権原や理由もなく、また使用予定も使用意思もないのに本件商標権を取得し」と主張しているが、請求人こそ、「駿河屋」、「総本家 駿河屋」及び「総本家駿河屋」の使用に関して、どのような正当な権原を有するのか、「駿河屋」を使用する権利の許諾を駿河屋会から受けているのか、弁明すべきである。

第5 当審の判断
1 両当事者の提出した証拠及び主張によれば、以下の事実が認められる。
(1)ア 旧駿河屋は、昭和19年3月27日に設立された、菓子の製造、卸売、小売等を目的とする株式会社である。旧駿河屋は、「総本家駿河屋」の屋号で、「羊羹」、「饅頭」等の和菓子を販売し、本店所在地の和歌山県のみならず、京都府や大阪府にも店舗展開した。旧駿河屋は、平成24年3月期には、和歌山県に15店舗、京都府に1店舗、大阪府に3店舗の直営店を有し、百貨店11店舗(近鉄百貨店和歌山店、高島屋和歌山店、高島屋京都店、高島屋堺店、近鉄百貨店阿倍野店、京阪百貨店京橋店等)に販売店を出店し、このほか、百貨店72店舗及び量販店(ダイエー、イズミヤ等)等532店舗の銘店コーナ等に和菓子等を出品していた(甲41)。同3月期における直営店での売上高は約7億6568万円、百貨店での売上高は約4億8955万円であった(甲41)。
イ 「日本の名菓 《和菓子》(昭和60年2月1日発行)」(甲42の1)には、旧駿河屋が販売する「羊羹」に関し、「徳川家ゆかりの伝統の味『煉羊羹』」との見出し下に、「元和5年(1619)、五代目Cは、徳川頼宣が駿河の国から紀州和歌山へお国替えとなった時に、一緒にお供をした。それを境に駿河屋は、紀州家御用御菓子司として和歌山に御用本店を置くようになった(現在でも駿河屋は和歌山と伏見に総本家を置いている。)。」、「駿河屋の『煉羊羹』は、秀吉の聚楽第茶会に諸侯の引き出ものに用いられ絶賛されたという『伏見羊羹』を発展させたもので、試作に成功したのが慶長4年(1599)のことである。」、「淡紅色をした『極上本煉煉羊羹』は、みかけとちがいその歯ざわりはずっしり重く、深く厚みのある味が伝わってくる。」との記載がある。
(2)旧駿河屋のD及びEは、昭和32年4月24日、旧駿河屋の前身の個人営業の「総本家駿河屋」の分家又は「総本家駿河屋」等から暖簾分けを受けた「別家」の株式会社大阪の駿河屋、合資会社駿河屋、「堺筋駿河屋」(F)、「伏見駿河屋」(G)、「7条駿河屋」(H)等とともに、普通会員を「駿河屋」の商号、商標を使用し、煉羊羹、菓子の製造又は販売に従事する個人、特別会員を普通会員の主宰する会社等とし、会員相互の親睦を図るとともに老舗駿河屋の伝統を守り、商号及び商標権の確保に協力し、共存共栄を図ることを目的として、「駿河屋」の商号、商標の保全に必要な協定及びその他の措置等の事業を行う「駿河屋会」を発足した(甲35、甲43)。
駿河屋会の会員は、駿河屋会の発足の前後を通じて、「駿河屋」の商標を使用した羊羹等の和菓子の販売を継続的に行っている。
令和元年12月時点の駿河屋会の会員店舗は、「伏見駿河屋」、「大阪の駿河屋」、「京駿河屋」、「大阪・長堀の駿河屋」、「するがや祇園下里」、「先斗町駿河屋」、「稲荷駿河屋」、「宇治駿河屋」及び「2条駿河屋」の9店舗(甲44の1)であった。
(3)ア(ア)旧駿河屋は、平成26年1月17日に、和歌山地方裁判所に民事再生の申立てをした(甲28の1,乙7)。
(イ)株式会社千鳥屋宗家の子会社である千鳥屋宗家株式会社は、平成26年4月28日、旧駿河屋との間で、裁判所の許可を得ることを停止条件として、旧駿河屋が千鳥屋宗家株式会社に対し、譲渡実行日同年5月30日の約定で旧駿河屋の事業を譲渡する旨の本件事業譲渡契約を締結した。(甲14,乙6,乙24)
千鳥屋宗家株式会社は、同月16日、商号を「千鳥屋宗家株式会社」から「株式会社総本家駿河屋」(総本家駿河屋(旧千鳥屋宗家))に変更した。また、同月26日、和菓子販売等を目的とする被請求人(旧商号「株式会社駿河屋」)が設立された。
(ウ)旧駿河屋は、平成26年5月29日、本件事業譲渡契約を解除し、直営店19店舗を閉鎖するとともに、全従業員を解雇して事業を停止した(甲13、甲21)。
和歌山地方裁判所は、同年6月25日、旧駿河屋について、破産手続開始決定をした(甲13,甲28の13・14,乙7)。
(エ)平成26年7月3日、旧駿河屋の所有する不動産及び機材等を一括購入する入札が実施され、Jが落札した(甲13,甲28の17)。
(オ)平成27年6月25日、旧駿河屋について、破産手続廃止決定が確定した(甲14,乙7)。
イ 平成26年11月7日、菓子の製造、卸売、小売業等を目的とする請求人が設立された(甲11,甲53)。
請求人は、平成27年2月18日、旧駿河屋の旧京都伏見店舗で営業を再開し、さらに、同年3月24日、旧駿河屋の旧本店店舗を「駿河町本舗」として営業を再開した(甲13)。
その後、2019年夏には、請求人は、合計9店舗(甲46の7) で営業を行っていた。
(4)旧駿河屋を含む駿河屋会の会員による「駿河屋」の商標の使用態様は、以下のとおりである。
ア 旧駿河屋は、平成26年2月9日当時、その管理、運営するウェブサイト(甲11の資料1?3)において、「総本家」の文字部分と「駿河屋」の文字部分との間に空白を設け、「総本家」の文字部分が小さく表記された「総本家 駿河屋」の商標を使用していた。
旧駿河屋の販売する「羊羹」の包装資材(甲38、甲39の1)には、商品名「栗羊羹」、「夜の梅」、「煉羊羹」を大きな文字で縦書きで記載した右横に小さな文字で「駿河屋の極上本煉」と記載され、商品名の下欄には「総本家」の文字部分が右肩に小さく表記された「駿河屋」の文字からなる縦書きの商標が付されていた。また、旧駿河屋の包装紙及び紙袋(甲39の2、3)には、横書きの「駿河屋」の商標の上に小さな文字で「総本家」と記載されていた。
2011年の近鉄和歌山百貨店のお歳暮カタログ(甲40の5)に、旧駿河屋の「栗羊羹」、「夜の梅」及び「煉羊羹」の商品が、写真とともに掲載された。
また、平成2年3月30日から同年4月4日まで、近鉄和歌山百貨店催会場において、「総本家駿河屋と銘菓の歩み」と題する催し(甲40の8) が開催された。
イ 株式会社大阪の駿河屋の取扱商品の羊羹「富士鶴」の箱には、「駿河屋」との記載があり、その上部に小さな文字で「大阪」と記載されている(甲44の3、甲45)。
そして、株式会社大阪の駿河屋は、本部・本店のほか、阪神百貨店西宮店、松坂屋高槻店、関西国際空港に直営店を有している(甲45)。
ウ 「大阪・長堀の駿河屋」の屋号で営業している店舗には、「駿河屋」と表示した暖簾がかかっている(甲29、甲44の1)。
エ 「京都駅前 京 駿河屋」のウェブサイトにおいて、「烏丸通に面する駿河屋ビル1階の店舗。南をのぞめば京都駅の正面、北側はヨドバシカメラ。京都タワービル、近年開設された京都駅前運転免許更新センターとも近接し、人の流れが絶えない立地で、なじまれる『駿河屋』の看板が存在感を放ちます。」などの表示がある。また、掲載されている店舗の写真の1階には「駿河屋」と記載された看板が、地下2階の店舗には「SURUGAYA」と記載された看板が掲げられている(甲44の4)。
取扱商品の羊羹「でっち羊羹」の包装紙には「駿河屋」と記載され、その右肩に小さな文字で「京都駅前」と記載され、また、羊羹「呉竹の里」の包装紙には「駿河屋」と記載され、その上方に小さな文字で「京都駅前」と記載されている。
オ 宇治駿河屋のウェブサイト において、取扱商品の「本煉・紅羊羹」の商品名の下方には、「駿河屋」と記載され、その右肩に小さな文字で「宇治」と記載されている。
カ 「伏見駿河屋」、「するがや祇園下里」、「先斗町駿河屋」、「稲荷駿河屋」、「宇治駿河屋」及び「2条駿河屋」の屋号で営業している店舗がある(甲29、甲42の9、甲44の1)。
(5)ア 請求人の「駿河屋」の文字の使用態様は次のとおりである。
(ア)請求人は、平成28年(2016年)に「総本家駿河屋」と題するリーフレット(甲46の1、2)を、平成29年(2017年)ないし平成31年(2019年)に「駿河屋煉羊羹」と題するリーフレット(甲46の3?8)を発行した。
(イ)婦人画報2017年3月号(甲47の7)では、請求人の「極上本煉羊羹」が和歌山県の「いちばん」の和菓子として紹介されている。また、2018年3月1日発行の「てんとう虫3月号」(甲47の8)、2019年3月28日発行の「LOVE!和菓子」(甲47の9)でも、「極上本煉羊羹」が紹介されている。
イ 請求人は、平成29年7月27日時点において、駿河屋会との間で、引用商標の使用許諾について協議中である(甲48の1)。
2 商標法第4条第1項第11号該当性について
複数の構成部分を組み合わせた結合商標については、その構成部分全体によって他人の商標と識別されるから、その構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは原則として許されないが、取引の実際においては、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、必ずしも常に構成部分全体によって称呼、観念されるとは限らず、その構成部分の一部だけによって称呼、観念されることがあることに鑑みると、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などには、商標の構成部分の一部を要部として取り出し、これと他人の商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも、許されると解するのが相当である(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。
そこで、以下においては、上記の観点を踏まえて、本件商標が引用商標に類似する商標(商標法第4条第1項第11号)に該当するかどうかについて判断する。
(1)引用商標の周知性等について
ア 引用商標は、別紙1及び2のとおり、「駿河屋」の漢字3文字を横書きに書してなり、その構成文字に相応して、「スルガヤ」の称呼が生じる。
しかるところ、前記1の認定事実を総合すると、(ア)旧駿河屋は、昭和19年3月に設立以来、平成26年5月29日に事業を停止するまでの約70年間にわたり継続して、「駿河屋」の商標を使用した「羊羹」を販売し、平成24年3月期時点では、和歌山県に15店舗、京都府に1店舗、大阪府に3店舗の直営店、百貨店11店舗に販売店を出店し、このほか、百貨店72店舗及び量販店等532店舗の銘店コーナ等に「駿河屋」の商標を使用し、同3月期における直営店での売上高は約7億6568万円、百貨店での売上高は約4億8955万円であったこと、(イ)旧駿河屋が販売する「羊羹」については、「徳川家ゆかりの伝統の味『煉羊羹』」、「駿河屋は、紀州家御用御菓子司として和歌山に御用本店を置くようになった(現在でも駿河屋は和歌山と伏見に総本家を置いている。)。」、「駿河屋の『煉羊羹』は、秀吉の聚楽第茶会に諸侯の引き出ものに用いられ絶賛されたという『伏見羊羹』を発展させたもので、試作に成功したのが慶長4年(1599)のことである。」、「淡紅色をした『極上本煉煉羊羹』は、みかけとちがいその歯ざわりはずっしり重く、深く厚みのある味が伝わってくる。」などと刊行物(甲42の1(「日本の名菓 《和菓子》」)で紹介されていたこと、(ウ)旧駿河屋は、昭和32年4月24日、旧駿河屋の前身の個人営業の「総本家駿河屋」の分家又は「総本家駿河屋」等から暖簾分けを受けた「別家」等とともに、会員相互の親睦を図るとともに老舗駿河屋の伝統を守り、商号及び商標権の確保に協力し、共存共栄を図ることを目的として、「駿河屋」の商号、商標の保全に必要な協定及びその他の措置等の事業を行う「駿河屋会」を発足し、「駿河屋会」の会員は、「駿河屋」の商標を使用した「羊羹」等の和菓子を販売し、平成27年6月25日に旧駿河屋の破産手続廃止決定が確定した前後を通じて、ウェブサイトや取扱商品の「羊羹」の包装等に「駿河屋」の商標の使用を継続していること、(エ)旧駿河屋の事業停止(平成26年5月29日)から約10か月後の平成27年3月24日、請求人は、旧駿河屋の旧本店店舗において営業を再開し、「駿河屋」の商標を使用した「羊羹」等の和菓子を販売するようになったことが認められる。
上記認定事実によれば、本件商標の登録査定時(平成29年4月12日)において、「駿河屋」の商標は、羊羹等の和菓子の取引者、需要者の間において、近畿地方を中心に、旧駿河屋又はその分家等が取り扱う和菓子(特に、羊羹)を表示するブランド名として広く認識され、全国的にも相当程度認識されていたものと認められる。
そして、このような「駿河屋」の商標の周知性等に照らすと、「駿河屋」の文字を横書きに書してなる引用商標から、「羊羹」等の和菓子のブランド名としての「駿河屋」の観念が生じるものと認めるのが相当である。
イ これに対し被請求人は、仮に旧駿河屋が引用商標について周知著名性を獲得したとしても、旧駿河屋は、破産手続廃止決定の確定により、その法人格が消滅していること、駿河屋会所属の分家は、地名に「駿河屋」の文字を付して、旧駿河屋との出所の混同を防止してきたこと、請求人は、旧駿河屋から事業譲渡を受けておらず、旧駿河屋が営業していた地で「株式会社総本家駿河屋」の商号を使用して営業しているだけであり、旧駿河屋の有していた引用商標についての周知著名性を引き継いでいるわけではないことからすれば、 旧駿河屋が獲得した引用商標についての周知著名性は、旧駿河屋の法人格の消滅とともに断絶している旨主張する。
しかしながら、前記アの認定のとおり、「駿河屋」の商標は、旧駿河屋のみならず、駿河屋会の会員の分家及び別家の経営する店舗の営業活動を通じて、取引者、需要者の間において、近畿地方を中心に、旧駿河屋又はその分家等が取り扱う和菓子(特に、羊羹)を表示するブランド名として広く認識され、全国的にも相当程度認識されていたものと認められるものであり、このような「駿河屋」の商標のブランド名としての周知性等は旧駿河屋の破産手続廃止決定の確定による法人格の消滅により直ちに失われるものとはいえない。
また、前記1(2)のとおり、駿河屋会は、「駿河屋」の商号、商標を使用し、煉羊羹、菓子の製造又は販売に従事する個人及びその主宰する会社等を会員とし、会員相互の親睦を図るとともに老舗駿河屋の伝統を守り、商号及び商標権の確保に協力し、共存共栄を図ることを目的として、「駿河屋」の商号、商標の保全に必要な協定及びその他の措置等の事業を行うために発足したものである上、前記1(4)の認定事実によれば、駿河屋会の会員の分家及び別家等の取扱商品の羊羹の包装等においては、「駿河屋」の文字部分が、同文字部分の右肩等に小さな文字で記載された「大阪」及び「京都駅前」の文字部分と外観上明確に区別される態様で示されているから、「駿河屋」の文字部分は独立した商標として使用されているものと認められる。加えて、京都駅前 京 駿河屋は、その店舗に「駿河屋」と記載された看板及び「SURUGAYA」と記載された看板を掲げていること(前記1(4)エ)に照らすと、駿河屋会の会員の分家及び別家は、旧駿河屋の破産手続廃止決定の確定後も、「駿河屋」の商標を取扱商品の羊羹等の和菓子のブランド名として継続して使用していたことが認められる。
さらには、旧駿河屋の事業停止から約10か月後の平成27年3月24日、請求人は、旧駿河屋の旧本店店舗において営業を再開し、「駿河屋」の商標を使用した「羊羹」等の和菓子の販売を行っていることに鑑みると、和菓子のブランド名としての「駿河屋」の周知性等は、本件商標の登録査定時においても維持されていたものと認められる。
したがって、被請求人の上記主張は採用することができない。
(2)本件商標の要部抽出の可否について
本件商標は、「総本家駿河屋」の標準文字から構成された、「総本家」の文字部分と「駿河屋」の文字部分とからなる結合商標である。
本件商標の構成文字は、外観上、同書、同大、同間隔で表示されており、「ソウホンケスルガヤ」の称呼も生じるが、一方で、前記(1)認定のとおり、「駿河屋」の商標は、本件商標の登録査定日当時、羊羹等の和菓子の取引者、需要者の間において、近畿地方を中心に、旧駿河屋又はその分家等が取り扱う和菓子(特に、羊羹)を表示するブランド名として広く認識され、全国的にも相当程度認識されていたものと認められるのに対し、「総本家」の語は、「多くの分家の分かれ出たもとの家。おおもとの本家。」を意味する普通名詞であること(甲6)に照らすと、「総本家」の文字部分と「駿河屋」の文字部分とは、それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められない。
そして、本件商標がその指定商品の「最中」に使用された場合には、本件商標の構成中の「駿河屋」の文字部分が和菓子のブランド名として周知であったことから、取引者、需要者に対し、上記商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる。
そうすると、本件商標の構成中「駿河屋」の文字部分を要部として抽出し、これと引用商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも、許されるというべきである。
(3)本件商標と引用商標の類否について
本件商標の要部である「駿河屋」の文字部分(標準文字)と別掲1及び別掲2の引用商標とを対比すると、両者は、字体は異なるが、「駿河屋」の文字を書してなる点で外観が共通し、いずれも「スルガヤ」の称呼及び羊羹等の和菓子のブランド名としての「駿河屋」の観念が生じる点で、称呼及び観念が同一である。
そうすると、本件商標と引用商標が本件商標の指定商品「最中」に使用された場合には、その商品の出所について誤認混同が生ずるおそれがあるものと認められるから、本件商標と引用商標1及び2は、それぞれ全体として類似しているものと認められる。
したがって、本件商標は、引用商標に類似する商標であるものと認められる。
(4)小括
以上のとおり、本件商標は、引用商標に類似する商標であって、本件商標の指定商品「最中」は引用商標の指定商品「羊羹」と類似するから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものと認められる。
3 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号に違反してされたものであるから、その余の無効事由について判断するまでもなく、同法第46条第1項の規定により無効とすべきである。
付言するに、当審は、本件商標の登録は、請求人が主張する商標法第4条1項7号には該当しないものと判断する。
よって、結論のとおり審決する。

別掲

別掲1(引用商標1)


別掲2(引用商標2)



審理終結日 2021-03-23 
結審通知日 2021-03-25 
審決日 2021-04-26 
出願番号 商願2014-40006(T2014-40006) 
審決分類 T 1 11・ 261- Z (W30)
T 1 11・ 262- Z (W30)
T 1 11・ 263- Z (W30)
最終処分 成立 
前審関与審査官 大島 康浩鈴木 雅也 
特許庁審判長 半田 正人
特許庁審判官 大森 友子
水落 洋
登録日 2017-04-28 
登録番号 商標登録第5943016号(T5943016) 
商標の称呼 ソーホンケスルガヤ、スルガヤ 
代理人 山崎 和成 
代理人 森 治 
代理人 工藤 莞司 
代理人 高橋 浩三 
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