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審決分類 審判 全部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない W161824
管理番号 1372901 
審判番号 取消2018-300056 
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2018-01-31 
確定日 2021-04-13 
事件の表示 上記当事者間の登録第5689999号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5689999号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成からなり、平成25年12月27日に登録出願、第16類「工楽松右衛門の創製した帆布を用いた筆箱,工楽松右衛門の創製した帆布を用いた文房具類,工楽松右衛門の創製した帆布を用いた写真立て」、第18類「工楽松右衛門の創製した帆布を用いたかばん類,工楽松右衛門の創製した帆布を用いた袋物,工楽松右衛門の創製した帆布を用いた携帯用化粧道具入れ,工楽松右衛門の創製した帆布を用いたかばん用の金具,工楽松右衛門の創製した帆布を用いたがま口用の口金」及び第24類「工楽松右衛門の創製した帆布,工楽松右衛門の創製した帆布を用いた布製の身の回り品,工楽松右衛門の創製した帆布製のランチョンマット,工楽松右衛門の創製した帆布製のコースター,工楽松右衛門の創製した帆布製のテーブルナプキン,工楽松右衛門の創製した帆布製の椅子カバー,工楽松右衛門の創製した帆布製の壁掛け,工楽松右衛門の創製した帆布を用いたカーテン,工楽松右衛門の創製した帆布を用いたテーブル掛け,工楽松右衛門の創製した帆布を用いたどん帳,工楽松右衛門の創製した帆布製のトイレットシートカバー」を指定商品として、同26年8月1日に設定登録されたものである。
なお、本件審判の請求の登録日は、平成30年2月15日であり、この登録前3年以内の期間を以下「要証期間」という。

第2 請求人の主張
請求人は、商標法第50条第1項の規定により、本件商標について登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第11号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定商品について、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから、その登録は商標法第50条第1項の規定により取消されるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
(1)「工楽松右衛門の創製した帆布」に関する主張について
被請求人は、乙第1号証ないし乙第56号証を提出し、被請求人及び通常使用権者(以下「被請求人ら」という。)が、要証期間内に「工楽松右衛門の創製した帆布を用いたかばん類,工楽松右衛門の創製した帆布を用いた袋物,工楽松右衛門の創製した帆布を用いた筆箱」(以下「本件商品」という。)について、本件商標を使用している旨主張する。
しかしながら、被請求人らが製造販売する商品(乙1ないし乙56に示される被請求人の商品。以下「被請求人ら商品」という。)に使用されている帆布は、「工楽松右衛門の創製した帆布」とは到底いえないものであるから、被請求人らが本件商品について本件商標を使用しているということはできない。
ア 工楽松右衛門の創製した帆布について
被請求人提出の辞典(乙35?乙37)によれば、「工楽松右衛門の創製した帆布」は、「太い木綿糸で厚手の上部な布地を二尺余りの広幅に織り上げたもの」等と記載されているが、それらの説明はいずれも極めて大雑把なものであり、「工楽松右衛門の創製した帆布」に必要不可欠な要素の説明が網羅されていない。
「工楽松右衛門の創製した帆布」に関する様々な文献(甲3?甲6)を基に、その構造等を検討すると、「工楽松右衛門の創製した帆布」は、木綿糸で織り上げられた厚手の帆布であることに加えて、少なくとも、以下の特徴を備えた帆布であるということができる。
(ア)布の両端1寸程については縦糸1本横糸2本で織り、それ以外の部分については縦糸2本横糸2本で織っている
(イ)幅の長さは2尺5寸(約75センチ)ほどのものである
特に、上記(ア)の特徴が、「工楽松右衛門の創製した帆布」にとって必要不可欠な要素と考えられている。(ア)における布の両端部分は、織物の業界では「耳」と呼ばれる部分であるが、縦糸を1本とすることにより、その部分だけを堅くして、織物のふちが伸びるいわゆる耳だれを防ぐ効果を有し、また、帆と帆を連結する際の帆の破損を防ぐことが可能となり、最重要な要素である。そして、その他の部分が縦糸2本横糸2本で織られていることにより、帆としての柔軟性を保ちつつ、全体として強度があるという特徴を有する帆布となっている。
この点に関して、「帆布の今昔」(甲3)、「みなとまち/高砂の偉人たち」(甲4)、「和船I」(甲5)及び「工楽松右衛門の創製した帆布」の研究に長年関わってきた神戸商船大学名誉教授が執筆した「海事資料館研究年報第26号平成10年1998」(甲7)にもその旨記載されている。
このように、「工楽松右衛門の創製した帆布」は、船の帆布として用いられることのみを想定して発明されたものであるため、その構造や寸法を考慮すると、本来的には、他の商品の素材として用いられることに適しているとはいえないものである。仮に、「かばん」等の商品の生地として「工楽松右衛門の創製した帆布」を利用するということになれば、その一部を切り出して用いざるを得ず、そのような生地は上記(ア)及び(イ)の特徴が完全に失われていることから、もはや「工楽松右衛門の創製した帆布」ということができない。また、一部を切り出すに際し、少なくとも商品の中に縦糸1本横糸2本で織られた耳の部分が残されていなければ、その帆布が「工楽松右衛門の創製した帆布」であることを認識する手掛かりとなる特徴が失われ、需要者から見れば、何ら特徴のない帆布でしかないこととなる。
イ 被請求人ら商品について
「工樂松右衛門の創製した帆布」というための必要不可欠な要素は、上述のア(ア)及び(イ)に記載した点であるところ、被請求人ら商品は、これらの要素をいずれも備えていない。なお、被請求人は、「工樂松右衛門の創製した帆布」の特徴を「太い木綿糸で織り上げた織り帆」と述べているが、そのような特徴は帆布生地としてありふれており、「工樂松右衛門の創製した帆布」特有の特徴とはいえない。
この点に関して詳細に説明し、被請求人ら商品は松右衛門帆ではなく通常の帆布である旨述べている甲第7号証を執筆した教授の意見書(甲8)を提出する。
また、この事実は、被請求人らが運営する「松右衛門帆」なるウェブサイト(甲9)における「工楽松右衛門の創製した帆布」の説明記事からも明らかであり、現在被請求人らの商品に使用している帆布生地は「工楽松右衛門の創製した帆布」ではなく、そのような帆布を用いた商品を製造販売していないことを自ら認めている。
さらに、幅の長さが2尺5寸(約75センチ)もある「工楽松右衛門の創製した帆布」は、本件商品である「かばん類,袋物,筆箱」の素材としては大きすぎて用いることは困難である。
なお、上述したとおり、仮に、「かばん類,袋物,筆箱」の生地として「工楽松右衛門の創製した帆布」を利用するということになれば、その一部を切り出して用いざるを得ず、そのような生地は、もはや「工楽松右衛門の創製した帆布」ということができない。この点については、上記教授の意見書(甲8)にも、「帆」以外のバッグや小物に利用された場合にはその特徴は全く感得することができない、と記載されている。
ウ 需要者等の認識について
被請求人は、需要者等は「工楽松右衛門の創製した帆布」が、木綿の太さが何ミリであって厚さが何ミリであるというような認識を持っているものではなく、工楽松右衛門が生み出した厚手の帆布地といった認識を持っており、また、商標権者らの広告や、新聞や雑誌といった媒体の記事を目にした需要者等は、被請求人ら商品が「工楽松右衛門の創製した帆布」を用いた商品であると認識し購入しているから、被請求人らが本件商標を指定商品中、「工楽松右衛門の創製した帆布を用いたかばん類」等について使用していることについて何ら相違はない旨、すなわち、本件商標を指定商品に使用しているというためには、本件商標を、指定商品に記載されている品質を実際に備えた商品に使用している必要はなく、そのような品質を備えていると需要者等が認識する商品に使用さえしておればよい旨述べている。
しかしながら、上述のとおり、「工楽松右衛門の創製した帆布」か否かは糸の太さで決まるものではないから、被請求人の主張は論理の前提を欠く。
また、問題とすべき誤認混同の対象は、商品の具体的構造についての認識ではなく、客観的にある商品の品質を有しないものが、商標を付されることによってその商品の品質を有するものと誤認されることである。
本件商標は、その出願経過において、「工楽松右衛門が創製した帆布を使用した商品以外の商品に使用するときは、その商品の品質について誤認を生じさせるおそれがある」と判断され、商標法第4条第1項第16号に該当するとの拒絶理由通知(甲10)を受けた後、「工楽松右衛門の創製した帆布を用いたかばん類」等に指定商品を補正し、登録を受けている。すなわち、需要者等が帆布の具体的構造まで認識できるか否かに関わらず、工楽松右衛門が創製した帆布を使用した商品以外の商品に本件商標を使用すれば品質誤認の問題が生じるということであり、客観的に「工楽松右衛門が創製した帆布を使用していない商品」を「工楽松右衛門が創製した帆布を使用している商品」と需要者等が認識している状況は、まさに品質誤認の問題が生じているのであって、被請求人の主張は失当というほかない。
エ 乙第51号証ないし乙第54号証の意見書等について
(ア)被請求人は、播州織工業組合のT氏の意見書(乙51)で、被請求人ら商品が、神戸大学海事博物館に所蔵の現存する松右衛門帆をもとに忠実に再現したものである旨主張するが、当該T氏は、被請求人が開催する、工楽松右衛門が生み出した帆布を製造する織職人の育成講座の講師を務めた被請求人側の当事者であるから(甲11)、同人による意見書は、その内容に信用性が欠けているといわざるを得ない。
また、神戸大学海事博物館に所蔵の帆布は、工楽松右衛門の帆布であると伝えられているものの、その出所は明らかでなく、客観的にそれが「工楽松右衛門の創製した帆布」であるかは確認できない。
(イ)被請求人は、神戸芸術工科大学のN教授による調査報告、意見書(乙52)において、商標権者により復元された松右衛門帆が神戸大学海事博物館に所蔵の現存する松右衛門帆の糸や織の特徴を備えたものであることが述べられていると主張するが、当該意見書は、神戸大学海事博物館に所蔵されている帆布が、一般の帆布とは異なるものであることを述べるにとどまるものであって、商標権者により復元された松右衛門帆が神戸大学海事博物館に所蔵の現存する松右衛門帆の糸や織の特徴を備えたものである旨は一切述べられていない。また、上述のとおり、神戸大学海事博物館に所蔵の帆布は不完全なものであるから、「工楽松右衛門の創製した帆布」とはいえない。
(ウ)被請求人ら商品の製造委託先による陳述書(乙53、乙54)は、乙第51号証と同じく被請求人側の当事者によるものであるから、信用性に欠けるといわざるを得ない。
(2)その他商標の使用の事実に関する主張について
上述(1)のとおり、被請求人らの商品は、そもそも「工楽松右衛門の創製した帆布を用いた商品」とはいえないものであるから、被請求人らが本件商標を本件商品に使用していないことは明らかであり、また、以下に述べるとおり、被請求人が提出する書証によっては、要証期間内に被請求人らが本件商標を本件商品に使用していることを確認することができない。
ア カタログについて
被請求人は、商品カタログ(乙22)を提出し、当該カタログが要証期間内に頒布されたことを示すため、メール(乙23)及び配送業者の送り状兼代引金額領収書(乙24)を提出している。
しかしながら、上記メール及び送り状兼代引金額領収書にはカタログ(乙22)に関する取引であることを特定するための記載が一切表示されておらず、実際の取引があったことを裏付ける証拠とはいえないものである。
また、被請求人は印刷業者の「外五つ折」を説明するウェブサイト(乙25)を提出しているが、カタログ(乙22)について実際の取引があったことを客観的に証明したものとはいい難い。
イ 売上レポート及び売上報告書について
被請求人は、本件商標が使用された事実を示す書証として、売上レポート(乙26)、値札の半券(乙27)及び売上報告書(乙30)を提出しているが、これらは被請求人において自在に作成され得るものであるから、証拠力が希薄であり、本件商標の使用を証明する証拠として採用することができないものである。
ウ 納品明細書について
被請求人は、商品紹介ページのプリントアウト(乙28)及び納品明細書(乙29)を提出し、当該納品明細書に記載された商品「Leo」に本件商標が付されている旨主張するが、商品紹介ページに記載されている型番「TK5PVC-007.TK6PVC-007」と納品明細書に記載されている商品コード「TK3PVC-007」が一致していないから、これらは実際に取引があったことを裏付ける証拠とはいえない。
エ インターネット記事について
被請求人は、インターネット記事(乙32?乙34)を提出し、要証期間内に本件商標を付した本件商品を販売した事実を示すものである旨主張するが、いずれも被請求人のホームページにおけるインターネット記事であり、被請求人において自在に作成され得るものであるから、証拠力が希薄であり、本件商標の使用を証明する証拠として採用することができない。
(3)まとめ
以上のとおり、被請求人ら商品は、「工楽松右衛門の創製した帆布を用いた商品」とは到底いえず、提出された証拠を総合的にみても、被請求人は、要証期間内に日本国内において商標権者、専用使用権者、通常使用権者のいずれかが、本件商標を本件商品及びその他の指定商品のいずれかに使用していることを証明していない。

第3 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求める、と主張し、要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第56号証を提出した。
1 答弁の理由
被請求人は、本件商標を、本件商標の権利者である特定非営利活動法人高砂物産協会(以下「高砂物産協会」という。)又は通常使用権者である株式会社御影屋(以下「御影屋」という。)が、本件商品である「工楽松右衛門の創製した帆布を用いたかばん類,工楽松右衛門の創製した帆布を用いた袋物,工楽松右衛門の創製した帆布を用いた筆箱」に、遅くとも2010年以降、現在に至るまで、高砂物産協会、御影屋ほかで継続的に使用している。
2 本件商標の使用について
(1)商標権者と通常使用権者の関係
商標権者である高砂物産協会は、兵庫県高砂市の地域活性化を目的として、歴史的文化の発掘・復元による地域ブランド品の研究開発や、アンテナシショップ運営等の事業を行うために2009年に高砂ブランド協会の名称で設立され、2011年にNPO法人の認定を受け現在の名称となったものである(乙1?乙3)。
また、通常使用権者である御影屋は、高砂物産協会の理事長が、松右衛門帆を用いた製品の製造販売等の事業を包括的に担うために設立し、当該理事長自身が代表を務める会社である(乙4、乙5)。高砂物産協会は御影屋に対して2016年3月23日から松右衛門帆を用いた製品の企画、製造及び販売業務を委託しており(乙6)、かかる委託契約や、高砂物産協会と御影屋の代表者が共通していることからすれば、御影屋は本件商標の使用について黙示の許諾を受けた通常使用権者といえる。
(2)商標の使用の事実
高砂物産協会は、高砂ブランド協会との名称であった2010年から松右衛門帆を縫製したかばん類などの制作や販売を開始し、高砂駅前のアンテナショップやオンラインショップ、百貨店や小売店等で本件商標を付した本件商品を販売してきた(乙7?乙19)。
2016年に御影屋が設立された後は、これらの事業は、高砂物産協会から委託を受けた御影屋が行っており、御影屋は現在、高砂市の本社に本件商品を取り扱う直営店を構え(乙20)、本件商品を販売するオンラインショップを運営し(乙21)、また、30店舗以上の百貨店や小売店等で本件商品を販売しており(乙20)、高砂物産協会が販売委託契約を行っていた百貨店や小売店等に対し、現在は御影屋が販売委託を行っている。
また、高砂物産協会及び御影屋が製造販売する松右衛門帆を用いた商品は、ペンケースといった一部の小物類を除き、ほぼ全ての商品の内部に本件商標が縫い付けられていて、表面にも革に刻印された本件商標が付されている(乙28、乙31)。
要証期間内に本件商標が使用されていた事実を示す書証を以下のとおり提出する。
ア カタログ
御影屋が本件商標を付して頒布した本件商品に関するカタログ(乙22)の表紙に本件商標が付され、当該カタログには、本件商品等が掲載されている。
カタログ(乙22)が要証期間内に通常使用権者により頒布されたことを示すため、当該カタログを制作し頒布した御影屋に対するカタログの印刷を受注した印刷会社からの2017年19月9日付け(審決注:「10月9日付け」の誤記と認める。)のメール(乙23)を提出する。これにより、カタログ(乙22)が2,000枚印刷されたことが分かる。あわせて、当該注文に対応する、当該カタログが御影屋に配送された際の配送業者の送り状兼代引金額領収書(乙24)を提出する。
カタログ(乙22)がメール(乙23)の印刷に係るものであることを示すため、印刷会社のウェブサイトのうち「外五つ折」の折り方やサイズ、折り幅が記載されたページのプリントアウト(乙25)を提出する。
イ 売上レポート
御影屋の社屋に併設された店舗(乙20)において2017年4月2日から同年4月3日の間に本件商品の購入者に対して発行されたレシートの内容(商品名や販売個数、販売額等)をまとめた売上レポート(乙26)は、レシートを発行する機器から出力されたものである。あわせて、同店舗で当該売上レポートとともに保管されている、販売された商品の値札の半券を控えた書類(乙27)を提出する。当該書類の「4月2日」の欄に貼られた当該値札の半券は、売上レポート(乙26)の「商品売上」の項目に記載の商品のうち同年4月2日に販売された商品のものである。当該売上レポート等に記載された「Leo」及び「Prima」は、いずれも本件商品の商品名であり、当該商品名の商品に本件商標が付されていることを示すため、御影屋が運営するオンラインショップの商品紹介ページのプリントアウト(乙28)を提出する。
ウ 納品明細書
御影屋が一般消費者より本件商品の購入の注文を受け、2018年2月5日付にて当該商品を納品した際の納品明細書(乙29)の右下に貼られているのは納品された商品の値札の半券であり、当該納品明細書及び値札の半券に記載された商品名「Leo」の商品には本件商標が付されている(乙28)。
エ 売上報告書
御影屋が本件商品の販売委託を行う広島県の鞆町にある「つくろい空間」(乙20)における2016年12月分の売上報告書の一部(乙30)に記載された商品のうち、特に商品「縦型トート(pine wood)」に本件商標が付されていることを示すため、御影屋が運営するオンラインショップの商品紹介ページのプリントアウト(乙31)を提出する。
オ インターネット記事
高砂物産協会が本件商標を付した本件商品を三越伊勢丹で販売することを告知する高砂物産協会による2015年3月3日付のインターネット記事(乙32)には、「3月4日から全国の三越伊勢丹グループ12店舗で松右衛門帆のオリジナル鞄(2型×各3色)が販売されます。」と記載されており、高砂物産協会が要証期間内に本件商標を付した本件商品を販売した事実を示すものである。あわせて、翌日に三越伊勢丹にて本件商品の販売が開始されたことを告知する2015年3月4日付の高砂物産協会によるインターネット記事(乙33)を提出する。
また、2015年6月10日から同月23日まで、本件商標を付した本件商品が大丸神戸店で販売されることを告知する2015年6月10日付の高砂物産協会によるインターネット記事(乙34)を提出する。これは、高砂物産協会が要証期間内に本件商品に本件商標を付して販売した事実を示すものである。
(3)本件商品が工樂松右衛門の創製した帆布を用いた商品であることについて
ア 「松右衛門帆」なるものは、帆布の普通名称であるところ、その定義は、代表的な辞書である広辞苑(乙35)、日本国語大辞典(乙36)及び大辞林(乙37)に掲載されているとおり、「工樂松右衛門がはじめてつくりだした帆布又は帆布地であって、その特徴としては、太い木綿糸で織り上げた織り帆であること」が看て取れる。つまり、需要者等は、松右衛門帆が、木綿の太さが何ミリであって厚さが何ミリである帆というような認識を持っているものではなく、工樂松右衛門が生み出した厚手の帆布地といった認識を持っていることがわかる。また、商標権者らは、帆布を有識者や織職人の協力を得て再生し、それを用いていて、高砂物産協会オリジナルの帆布ではなく、あくまでも、工樂松右衛門の創製した帆布を再生したものであると謳っている。
したがって、本件商標を本件審判の請求に係る商品に使用しているとみて差し支えない。
イ 乙第7号証、乙第8号証、乙第10号証ないし乙第19号証、乙第22号証、乙第28号証及び乙第31号証ないし乙第34号証等にも示すとおり、商標権者らは、一貫して本件商品を「工樂松右衛門の創製した厚手の帆布」である「松右衛門帆」を用いた商品として販売している。また、商標権者らの商品を取り上げた数多くの新聞、雑誌等の記事においても、本件商品は、「工樂松右衛門の創製した厚手の帆布」である「松右衛門帆」を用いた商品として紹介されており(乙38?乙46)、これらの記事を執筆した記者や、当該記事を載せた媒体を出版した新聞社や出版社はもちろん、これを目にした需要者等としては、商標権者らの商品は、工樂松右衛門の創製した松右衛門帆を用いた商品であると認識していたことは明らかである。さらに、需要者のブログにおいても、本件商品は「工樂松右衛門の創製した帆布」である「松右衛門帆」を用いたものとして話題にされている(乙47?乙50)。
つまり、商標権者らの広告や、新聞や雑誌といった媒体の記事を目にした需要者等は、本件商品が「工樂松右衛門の創製した帆布」である「松右衛門帆」を用いた商品と認識し購入しているのであり、商標権者らが、本件商標を本件商品について使用していることについて何ら相違はない。
(4)本件商品の品質等の一貫性について
本件商品の品質が、復元当初から現在まで一貫して「工樂松右衛門の創製した帆布」を用いたものであることは以下のとおりである。
本件商品に用いられている松右衛門帆は、商標権者らが研究者や織職人の協力を得て、現存する松右衛門帆をもとに忠実に再現したものである。本件商品が、神戸大学海事博物館に所蔵の現存する松右衛門帆を忠実に再現した松右衛門帆と同等の帆布を用いたものであることは、播州織工業組合のT氏の意見書(乙51)で述べているとおりである。復元に携わったN教授の意見書(乙52)でも、商標権者により復元された松右衛門帆が神戸大学海事博物館に所蔵の現存する松右衛門帆の糸や織の特徴を備えたものであることが述べられている。
さらには、被請求人による松右衛門帆復元の協力者であり、復元当初の松右衛門帆の織りを担った者の陳述書(乙53)においても、復元した松右衛門帆は、現存する松右衛門帆をもとに糸や織の組織を忠実に再現し織り上げたものである旨が述べられている。
商標権者らは、松右衛門帆を復元し本件商品を開発した2010年以降、現在に至るまで継続して本件商品を製造販売し続けているところ、本件商品に用いられている松右衛門帆の糸の種類や織組織などの品質、製法は、復元当初から一貫して同じものであり変更していないことは、商標権者らが2012年から2017年11月まで本件商品を製造するための松右衛門帆の製織を依頼していた者の陳述書(乙54)にも述べられているとおりである。
そして、2017年12月以降は、御影屋が高砂市内に織り工場を作り、自社で松右衛門帆製品のための帆布を織る体制を整えており(乙55、乙56)、復元当初の松右衛門帆から、糸や織、品質や製法は変更していない。
(5)使用商標について
使用商標の態様は上述のカタログ等で示すとおりであり、本件商標と社会通念上同一と認められるものである。
3 まとめ
上記事実から、本件商標は、要証期間内に、日本国内において、商標権者及び通常使用権者により、請求に係る本件商標の指定商品中、少なくとも本件商品である「工樂松右衛門の創製した帆布を用いたかばん類,工樂松右衛門の創製した帆布を用いた袋物,工樂松右衛門の創製した帆布を用いた筆箱」について使用されている。

第4 当審の判断
1 被請求人の主張及び証拠によれば、以下の事実が認められる。
(1)高砂物産協会は、兵庫県高砂市の地域活性化を目的として、歴史的文化の発掘・復元による地域ブランド品の研究開発や、アンテナショップ運営等の事業を行うために2009年(平成21年)に「高砂ブランド協会」の名称で設立され、2011年(平成23年)にNPO法人の認定を受け現在の名称となったものである(乙1?乙3)。
(2)高砂物産協会の「2014年12月1日現在」の日付のカタログ(乙7)には、本件商標が大きく表示され、様々なかばんが掲載されており、素材である「松右衛門帆」についての説明がある。また、高砂物産協会のブログとされるもの(乙11)には、「高砂生まれの偉人、工楽松右衛門帆が発明した帆『松右衛門帆』 兵庫県高砂市生まれの工楽松右衛門が編み出した江戸時代の帆布『松右衛門帆』が200年以上の時を経て復刻しました。」の記載があり、別掲に示した本件商標の図形部分とその右側に上部に読み仮名である「まつえもんほ」の文字を小さく書してなる「松右衛門帆」の文字からなる標章(以下「使用商標」という。)とともに商品「かばん」の写真が掲載されている。
(3)高砂物産協会の2015年3月3日の日付があるウェブサイト(乙32)には、使用商標が表示され、その下部には、「松右衛門帆×豊岡鞄×三越伊勢丹 コラボバッグ 明日発売!!!」の見出しの下、横長四角の写真が掲載されており、これには、かばんが掲載され、その左上部には、本件商標が表示されている。
また、高砂物産協会の2015年3月4日の日付があるウェブサイト(乙33)には、使用商標が表示され、その下部に、「松右衛門帆×豊岡鞄×三越伊勢丹 コラボバッグ 発売!」の見出しの下、かばん売り場と思われる3枚の写真が掲載されている。
さらに、高砂物産協会の2015年6月10日の日付があるウェブサイト(乙34)には、使用商標が表示され、その下部には、「『松右衛門帆』催事のお知らせです!」の見出しの下、大丸神戸店のメンズバッグ売り場で、2015年6月10日から同月23日まで、期間限定で販売する旨の記載があり、台の上に並べられたり、ハンガーに吊された、かばんが写された、かばん売場と思われる写真が掲載されており、当該かばんが並べられている台の正面には、本件商標が表示されている。
(4)「松右衛門帆」の語については、広辞苑第6版(乙35)には「天明(1781?1789)年間、播州高砂の船頭、工樂松右衛門の創製した帆布。太い綿糸で織った厚手の『織り帆』で、綿布を重ねて刺子にした『刺し帆』に代わり、明治時代まで用いられた。」、日本国語大辞典(乙36)には「江戸時代、天明五年(1785年)播磨国(兵庫県)高砂の工樂松右衛門が創製した帆布。太い木綿糸で厚手の丈夫な布地を二尺余りの広幅に織りあげたもの。従来の刺帆(さしほ)に対して織帆(おりほ)とも呼び、格段に丈夫なため以後帆布の代表的なものとなった。」と記載されている。
2 判断
(1)上記1によれば、商標権者である高砂物産協会は、遅くとも平成26年12月頃から、本件商標を商品「かばん」のカタログに表示したことが認められる。
また、高砂物産協会の平成27年3月3日、同月4日及び同年6月10日付けのウェブサイトには、いずれにも使用商標が表示され、商品「かばん」に関する紹介及び同商品の限定販売に関する紹介記事が掲載されており、上記紹介記事のうち、同年3月3日付けのウェブサイトには、かばんとともに本件商標が表示され、また、平成27年6月10日付けのウェブサイトには、かばんの期間限定販売の紹介とともに商品が並べられた販売用の台に本件商標が表示されていることが認められ、上記日付はいずれも要証期間内である。
そして、使用商標は、別掲の本件商標と「松右衛門帆」の文字の位置及び読み仮名の有無が異なるものの、図形及び「松右衛門帆」の漢字を同じくする社会通念上同一の商標と認められるものである。
してみれば、商標権者が、要証期間内に、商品「かばん」の紹介及び「かばん」の期間限定販売について紹介するウェブサイトに本件商標及び本件商標と社会通念上同一と認められる使用商標を表示したことが認められる。
(2)使用に係る商品について
本件商品は、「工楽松右衛門の創製した帆布を用いたかばん類」等であるところ、商標権者のカタログ(乙7)やブログ(乙11)には、商標権者の製造、販売する商品が高砂生まれの偉人、工楽松右衛門が発明した帆である「松右衛門帆」を復刻し、これを素材として使用した商品である旨の記載があり、商標権者は、本件商品を工楽松右衛門が発明した「松右衛門帆」を復刻した帆布を使用した商品であることを謳って販売していることからすれば、当該商品は、工楽松右衛門の創製した帆布を復刻した帆布を用いた商品、すなわち、「工楽松右衛門の創製した帆布を用いた商品」として販売されているといわざるを得ないものであり、取引者、需要者もそのように認識していることもうかがわれる。
そうすると、上記(1)に記載の商標権者のウェブサイトで紹介されている商品「かばん」は、「工楽松右衛門の創製した帆布を用いたかばん」(以下「使用商品」という。)としかいうことができないものであって、当該商品は、本件審判の請求に係る指定商品中の「工楽松右衛門の創製した帆布を用いたかばん類」に含まれる商品である。
請求人は、本件商品について、「工楽松右衛門の創製した帆布」は、木綿糸で織り上げられた厚手の帆布であることに加えて、少なくとも、(ア)布の両端1寸程については縦糸1本横糸2本で織り、それ以外の部分については縦糸2本横糸2本で織っている。(イ)幅の長さは2尺5寸(約75センチ)ほどのものであるという特徴を有しており、これらの特徴を有しない被請求人の商品は、「工楽松右衛門の創製した帆布」を使用した商品とはいえないから、被請求人が本件商標を使用している商品に使用したとはいえない旨主張し、書籍(甲3?甲7)及び神戸商船大学の名誉教授の意見書(甲8)を提出している。
しかしながら、本件商品は上記のとおり、「工楽松右衛門の創製した帆布を用いた商品」として販売されているのであるから、当該商品は、本件商品としかいい得ないものであり、これをそれ以外の商品に使用しているということもできないものである。
(3)小括
上記(1)及び(2)によれば、商標権者は、要証期間内にウェブサイトにおいて、本件商標及び本件商標と社会通念上同一と認められる商標を本件審判の請求に係る指定商品中、「工楽松右衛門の創製した帆布を用いたかばん類」に含まれる「工楽松右衛門の創製した帆布を用いたかばん」の広告に使用したことが認められるところ、当該行為は、商標法第2条第3項第8号に該当する。
3 まとめ
以上のとおり、被請求人は、要証期間内に、日本国内において、商標権者が、その請求に係る指定商品について、本件商標と社会通念上同一と認められる商標の使用をしたことを証明したとものと認められる。
したがって、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により、取り消すことができない。
よって、結論のとおり審決する。

別掲(本件商標)

審理終結日 2020-08-19 
結審通知日 2020-08-24 
審決日 2020-09-16 
出願番号 商願2013-102485(T2013-102485) 
審決分類 T 1 31・ 1- Y (W161824)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 木村 一弘
特許庁審判官 板谷 玲子
中束 としえ
登録日 2014-08-01 
登録番号 商標登録第5689999号(T5689999) 
商標の称呼 マツエモンホ、マツエモン、マツウエモン 
代理人 徳永 弥生 
代理人 飯島 歩 
代理人 服部 京子 
代理人 齊藤 整 
代理人 藤田 知美 
代理人 前田 幸嗣 
代理人 洲崎 竜弥 
代理人 前田 幸嗣 
代理人 藤田 知美 
代理人 藤田 知美 
代理人 飯島 歩 
代理人 飯島 歩 
代理人 前田 幸嗣 

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