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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2018890085 審決 商標
無効2019890038 審決 商標
無効2020890039 審決 商標
無効2018890038 審決 商標
無効2018890005 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 外観類似 無効としない W3043
審判 全部無効 観念類似 無効としない W3043
審判 全部無効 称呼類似 無効としない W3043
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない W3043
管理番号 1372861 
審判番号 無効2020-890050 
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-06-18 
確定日 2021-03-22 
事件の表示 上記当事者間の登録第5772319号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5772319号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1のとおり,「宇都宮AQ餃子」の文字を横書きしてなり,平成26年12月5日に登録出願され,第30類「栃木県宇都宮市産のぎょうざ」及び第43類「栃木県宇都宮市産のぎょうざを主とする飲食物の提供」を指定商品及び指定役務として,同27年4月28日に登録査定,同年6月19日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が,本件商標の登録の無効の理由において,商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当するとして引用する登録第4546706号商標(以下「引用商標」という。)は,別掲2のとおり,「宇都宮餃子」の文字を縦書きしてなり,平成12年5月17日に登録出願された商願2000-53565に係る商標法第11条第2項の規定による団体商標の商標登録出願(商願2001-70284)に変更され,同法第3条第2項の要件を具備する商標として,第30類「ぎょうざ」及び第42類「ぎょうざの提供」を指定商品及び指定役務として,同14年2月22日に設定登録されたものであり,その商標権は現に有効に存続しているものである。

第3 請求人の主張
請求人は,本件商標についての登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第24号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は,商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当するものであるから,同法第46条第1項の規定により,その登録は無効とすべきである。
2 引用商標の著名性
(1)「ぎょうざ」による宇都宮の街おこしと「宇都宮餃子」の著名性獲得
引用商標は,請求人の前身である「宇都宮餃子会」が発足した平成5年7月頃から請求人及びその組合員の業務に係る「ぎょうざ」及び「ぎょうざの提供」に係る標章として使用されてきたものであり,第30類の「ぎょうざ」及び第42類の「ぎょうざの提供」について使用するものとして取引者及び需要者の間に広く認識されているとの判断のもと,商標法第3条第2項の適用を受けて,商標登録を受けるに至ったものである。
宇都宮市が餃子による町おこしの取り組みを開始したのは平成2年頃であり(甲3の1,2),平成5年7月に「宇都宮餃子会」が設立されると,この時点で,餃子による町おこしの推進役が行政から事業団体へ委譲された。もともと,餃子は,宇都宮に地域的に根付いていた食材であり,また,宇都宮餃子会の設立当初,加盟店は38店舗と決して小規模なものではなかった(甲3の1,2)が,餃子のまちとしての宇都宮の知名度は必ずしも大きなものではなかった。
こうした状況にあって,餃子による町おこしが大きく前進することになったのは,平成5年10月に,テレビ東京が制作,系列局による全国ネットで放送した「おまかせ!山田商会」(甲3の3)の番組中で,「宇都宮餃子大作戦」と題する企画が7回シリーズで取り上げられ放送されたことによる(平成5年10月ないし平成6年2月放送)(甲3の1,2)。同番組は,テレビ東京からの働きかけに応えて,宇都宮餃子会と宇都宮観光協会の協力により実現できたものであり,同シリーズ放送終了後の平成6年10月24日には,同番組の番組収録を兼ねた大規模なイベントが宇都宮市内の公園で開催された。テレビ番組とのタイアップは,「宇都宮餃子」の知名度を大きく前進させる上において,極めて大きな成果をもたらすものであった。かくして,関東圏を中心に,「餃子のまち」としての宇都宮の知名度が向上してくると,宇都宮餃子会は,直営店の「来らっせ」の運営,「宇都宮餃子祭り」等のイベント運営,宇都宮観光コンベンション協会及び宇都宮商工会議所との協同による「宇都宮餃子マップ」発行等の広報活動,組合員の研修及び福利厚生事業等に注力し,餃子による町おこしをさらに推進した(甲3の1,2)。
さらに,請求人は,引用商標の普通名称化の防止や需要者の信用維持のために引用商標の管理を徹底している。例えば,平成18年には,「宇都宮餃子」の商標を無断使用していた第三者に対し訴訟を提起している(甲3の4)。上記を一例として,請求人は「宇都宮餃子」のブランドの管理にも積極的な姿勢を示している。
このように,「宇都宮餃子」は,請求人による熱心な宣伝・広告活動やブランド管理努力等が奏功して,宇都宮餃子会の発足から20年以上を経た今日においても,全国規模で刊行されている新聞,雑誌等で頻繁に取り上げられ,現在に至るまで,全国の需要者及び取引者の間で広く認識され,周知著名なものとなっている(甲4?甲11)。
そして,引用商標が登録された後に,「宇都宮餃子」に関する新聞雑誌等記事が複数存在する(甲4の1?20,甲5の1?8,甲5の9の1,甲5の8の2(審決注:「甲5の9の2」の誤記と認める。))。
また,請求人が,宇都宮観光コンベンション協会及び宇都宮商工会議所と協同して,観光客誘致やリピーターの獲得を目的に発行している「宇都宮餃子」公式ガイドマップ(オフィシャルMAP)に関し,その発行部数は,2008年6月版(「’08?’09オフィシャルMAP」,甲6の1)及び2010年6月版(「’10?’11オフィシャルMAP」,甲6の2)が各25万部であったのに対し,2012年7月版(「’12?’13オフィシャルMAP」,甲6の3)は40万部であり,近年益々需要が増している。書籍版では,地元の下野新聞社が,請求人の編集による「宇都宮餃子公式ガイドブック」を発行している(甲7の1,2)。ガイドブックに関しては,地元の民間会社が独自に発行するものに「宇都宮餃子」が掲載されることがあるのは当然であるが(甲8の1),栃木県も,観光客誘致を目指して平成25年6月に無料配布を開始した「栃木県ご当地グルメガイドブック」の中で,「宇都宮餃子」を紹介している(甲8の2)。
さらに,「宇都宮餃子」は旅行雑誌などでも紹介されることが多く,最近も,「宇都宮餃子」の特集記事や紹介記事が掲載されている(甲9の1?4)。
その他,「宇都宮餃子」は,全国各地の地元特産品や郷土料理の成功例として引き合いに出されることも多い(甲10?甲12)。
(2)小括
このように,「餃子といえば宇都宮」といえるほど,「宇都宮餃子」は全国的に浸透し広く知られたものとなっているのである。
すなわち,「宇都宮餃子」は,請求人及びその組合員の業務に係る商標として,全国的な周知性を獲得している著名商標である。
3 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)指定商品及び指定役務の類否
本件商標の指定商品及び指定役務は,引用商標の指定商品及び指定役務と同一又は類似するものである。
(2)本件商標と引用商標の類否
本件商標は,明朝体風の漢字及び欧文字からなる「宇都宮AQ餃子」を横書きしたものであるのに対し,引用商標は,筆文字風の漢字からなる「宇都宮餃子」を縦書きしたものである。
本件商標と引用商標は,構成文字中,「宇都宮」「餃子」の5文字が共通するため,外観上の共通性が高いものである。また,両商標に共通する「宇都宮餃子」の漢字からは,「ウツノミヤギョウザ」の称呼とともに,全国的な周知著名性を獲得した請求人及びその組合員の業務に係る「宇都宮餃子」の観念が生じる。特に,本件商標の指定商品,第30類「栃木県宇都宮市産のぎょうざ」及び指定役務,第42類「栃木県宇都宮市産のぎょうざを主とする飲食物の提供」とは,請求人及びその組合員が提供する「宇都宮餃子」にほかならないから,指定商品及び指定役務との関係においても,本件商標と引用商標からは,同一の観念が生じる。
また,本件商標は,「AQ」の部分が「宇都宮」と「餃子」間に埋没して目立ちにくい位置にある上,「宇都宮」「餃子」と異なる種類の文字で表されており,しかも,商標としての自他商品等識別力がないため,「宇都宮」「餃子」の部分に着目しやすい外観構成であることから,これに応じて「ウツノミヤギョウザ」の称呼が生じるので,「ウツノミヤギョウザ」の称呼が生じる引用商標と同一の称呼が生じる。
さらに,上記のとおり,引用商標は,全国的な周知著名性が認められ,商標法第3条第2項の適用を受けて登録された著名商標であるから,本件商標は,特許庁の商標審査基準が定める「指定商品又は指定役務について需要者の間に広く認識された他人の登録商標(請求人注:「宇都宮餃子」)と他の文字又は図形等(請求人注:「AQ」)と結合した商標」に該当することは明らかである。とりわけ,本件商標にあっては,「AQ」の部分が,「宇都宮」と「餃子」間に埋没して目立ちにくい位置にある上,「宇都宮」「餃子」と異なる種類の文字で表されており,しかも,商標としての自他商品等識別力がない「極めて簡単で,かつ,ありふれた標章のみからなる商標」(商標法第3条第1項第5号)でもあるため,「宇都宮」「餃子」の部分に着目しやすい外観構成であることから,より強く首肯される。このため,本件商標は,その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の繋がりがあるものか否かにかかわらず,全国的に周知著名性を獲得した引用商標の「宇都宮餃子」に類似するものといわなければならない。
したがって,本件商標は,引用商標とは,外観,称呼,観念のいずれの要素についても互いに類似するものであるから,商標全体として類似するものであることは明らかである。
(3)特許庁の審査実務及び審決並びに過去の裁判例
過去の審決及び判決には,商品の原材料,普通名称やローマ字の2字等からなる商標であっても,それが周知著名性を獲得しているものである場合には,かかる文字部分にも自他商品の識別機能があり,当該文字部分と同一又は類似する商標は互いに類似すると判断しているものがある(甲19,甲22の1)。かかる判断は,周知著名な引用商標と共通する「宇都宮」及び「餃子」の文字部分を有する本件商標についても当てはまり,当該「宇都宮」及び「餃子」の文字は請求人及びその組合員が製造販売する「宇都宮餃子」との関連性を容易に想起させるものである。
以上より,本件商標は,請求人及びその構成員に係る全国的に周知著名な「宇都宮餃子」を構成中に含むものであるから,引用商標に類似するものである。
(4)小括
以上により,本件商標は引用商標に類似する商標であり,また,その指定商品又は指定役務は,引用商標の指定商品又は指定役務に同一又は類似するものであるから,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当する。
4 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)引用商標の周知著名性
上記2のとおり,引用商標は,遅くとも請求人の前身である宇都宮餃子会が発足した平成5年7月頃から,請求人及びその組合員の業務に係る「ぎょうざ」及び「ぎょうざの提供」に係る標章として使用された結果,本件商標の登録出願日である同26年12月5日には,全国的な周知著名性を獲得していたものであり,その周知著名性は,現在でも継続しているのである。
(2)本件商標と引用商標の類似性の程度
上記3(2)のとおり,本件商標は,明朝体風の漢字及び欧文字からなる「宇都宮AQ餃子」を横書きしたものであるのに対し,引用商標は,筆文字風の漢字からなる「宇都宮餃子」を縦書きしたものであり,外観,称呼,観念のいずれの要素についても互いに類似するものであるから,商標全体として互いに類似するものである。
また,本件商標において,取引者・需要者の注意を引くのは,先頭の「宇都宮」の文字と末尾の「餃子」の文字であるから,取引者・需要者の注意を引く部分として「宇都宮」「餃子」の漢字が共通する以上,本件商標構成中の「宇都宮」「餃子」の部分が,取引者及び需要者の注意を特に強く引くであろうことは容易に予想できるところである。
以上より,本件商標は,請求人及びその構成員に係る周知著名な「宇都宮餃子」との関連性を容易に想起させるものといえるから,本件商標と周知著名な引用商標との類似性は極めて高いものである。
(3)本件商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との関連性の程度,取引者・需要者の共通性等
請求人が著名性を獲得した「ぎょうざ」及び「ぎょうざの提供」は,本件商標の指定商品又は指定役務と,同一又は類似するものであることは明らかであるから,両商標に係る指定商品及び指定役務は,需要者の範囲が当然に一致する。
一方,本件商標の指定商品及び指定役務の対象の商品は,日常的に費消される商品であって,必ずしも商標について詳細な知識を持たない一般消費者を主たる需要者とするものである。こうした一般消費者は,商品の購入や役務の提供を受けるに際して,メーカー名などについて常に注意深く確認するとは限らず,小売店の店頭などで短時間のうちに購入商品を決定するということも少なくないことからすれば,商品購入時に払う注意力は高いものではなく(東京高等裁判所平成17年4月13日判決(平成17年(行ケ)第10230号),甲21),商標構成中の覚えやすく親しみやすい印象及び過去に購買した際の記憶に基づいてその商品又は役務を選択ないし購買すると考えられる。
さらに,「宇都宮餃子」が請求人及びその構成員の業務に係る周知著名な商標であることからすれば,需要者において普通に払われる注意力としては,本件商標に接した需要者は,「宇都宮」「餃子」の文字に着目し,著名な「宇都宮餃子」を想起連想して,当該商品が請求人及びその組合員の業務に係るものと認識するであろうことは容易に想像されるところである。
以上より,本件商標に係る指定商品及び指定役務は,引用商標に係る指定商品及び指定役務とは,一般的に同一又は類似する関係にあるのみならず,具体的な取引の実情に照らしても関連性が強いものであるから,本件商標と引用商標の取引者・需要者の共通性は極めて高いものである。
(4)その他取引の実情
引用商標は,請求人及びその加盟店(組合員)のみが使用することができる団体商標であり,その使用条件が厳格に定められているものである。請求人は,その加入基準や商標使用基準等(甲13,甲14)を定め,組合へ加入できる者を,原則として宇都宮で餃子を製造・販売する者に限定した上(甲13),請求人組合への加入手続を厳格に定めている(甲14の1?3)。さらに,需要者の誤認等を防ぐために,組合員に対し,自らが宇都宮餃子を代表するかのような表現や,元祖・本家・本舗などの表示を禁止し(甲14の4,甲15),そのことについて誓約書を提出させている(甲14の5,6)。引用商標は,こうした請求人の活動や品質管理等が団体商標の登録要件として審査において考慮された結果,登録が認められたものである。
引用商標は,地域団体商標制度が導入される前に出願し登録された団体商標に係る商標権であるが,商標法第3条第2項における,全国的な範囲の需要者に高い浸透度をもって認識されていることという,地域団体商標よりも厳しい要件を満たしていると認められたものであるから,地域団体商標制度の目的や,地域団体商標として登録された商標と同一又は類似の文字部分を含む後願の他人の商標との類否判断手法は,引用商標にも当然に妥当する。本件商標を使用した「栃木県宇都宮市産の餃子」に接した取引者及び需要者が,その商品が,あたかも請求人又はその組合員の業務に係る商品,又は請求人から使用許諾を受けた者による商品であるかのように考えたとしても,何ら不思議なところはない。
そうとすれば,本件商標の登録を認め,その指定商品についての自由な使用を認めることは,商品の出所について誤詔混同を生じさせるおそれが高いといわざるを得ず,また,団体の構成員の相互の協力により当該団体商標の信用力を高め,特産品作り等の団体の目的達成にも資するという団体商標制度の目的を没却させるものというべきである。
なお,被請求人のウェブサイト(甲24)では,被請求人が「宇都宮餃子」なるぎょうざを販売していること及び「宇都宮餃子会加盟,栄久食品について」等の表示を確認できるところ,被請求人は,現在は,請求人を脱退し,組合員としての地位を喪失している。このため,これらの表示は,明らかに「宇都宮餃子」が餃子に関する全国的な著名性を有することをちしつした上で,それを意識した使用であることは誰の目にも明らかであるから,当該ウェブサイトにおける「宇都宮餃子」の使用は,全国的な著名性を獲得している引用商標に対する「周知表示又は著名表示へのただ乗り」であるといわざるを得ない。
(5)特許庁の審査実務並びに周知著名商標との混同可能性を認めた過去の判決及び特許庁の審決
本件商標と同様に,「宇都宮」と「餃子」の文字の間に別の文字を配し,構成各文字を同書・同大・等間隔で一体不可分に表した商標や,「宇都宮餃子」の文字を含む構成からなり「菓子及びパン」を指定商品とする商標が,商標法第4条第1項第15号に該当するとの判断がされている(甲22)ことからすれば,引用商標は,その指定商品及び指定役務に類似しない商品及び役務に対してさえも,出所の混同を生じさせる程,全国的に高い周知著名性を獲得しているものと,特許庁の登録実務において認められている。
一方,周知著名性を獲得した商標を一部に含む後願に係る商標は,当該周知著名な商標が一般的には自他商品識別力が弱いものであったとしても,出所の混同を生じるおそれがあることを明確に示す判決及び審決がある(甲23)。
こうした例よりすれば,引用商標は,その指定商品及び指定役務に類似しない商品に対しても出所の混同を生じさせる程,全国的に高い周知著名性を獲得していることをうかがい知ることができるから,「ぎょうざ」又は「ぎょうざの提供」と同一又は類似の指定商品又は指定役務について使用される本件商標は,引用商標との出所混同を生じるおそれが高いものであることは明らかである。
(6)小括
以上のとおり,全国的に周知著名な引用商標の筆文字風の漢字からなる「宇都宮餃子」を構成中に含む本件商標を,その指定商品及び指定役務について使用した場合には,これに接する需要者・取引者は,その商品及び役務が請求人又はその組合員の業務に係る商品及び役務や,請求人の許諾を受けて製造販売・提供されている商品及び役務であるかのごとく,その商品及び役務の出所について誤認・混同するおそれが極めて高いといわざるを得ない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。

第4 被請求人の答弁
被請求人は,結論同旨の審決を求める,と答弁し,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第13号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 答弁の理由
(1)本件商標と引用商標との類否の点(商標法第4条第1項第11号規定の該当性)
ア 引用商標
引用商標は,漢字「宇都宮餃子」の構成よりなるものであり,商標法第3条第2項の適用を受けて登録された団体商標であるから,本来,自他商品及び自他役務の識別標識としての機能を果たし得なかった標章であったが,使用をされた結果,その指定商品及び指定役務について,自他商品及び自他役務の識別力を有するに至った商標であることから,漢字「宇都宮餃子」の構成そのものが,自他商品及び自他役務の識別標識・出所表示としての機能を発揮するというべきものである。
このようなことから,引用商標は,その構成文字に相応して,「ウツノミヤギョウザ」の一連の称呼「のみ」を生ずるものであって,「宇都宮餃子」の観念を生ずるものである。
なお,引用商標は,取引者及び需要者の間に広く認識されているとの特許庁の判断のもとに商標法第3条第2項の適用を受けて登録されたものであることから,被請求人において,その著名性を否定するものではない。
イ 本件商標と引用商標の類否
本件商標は,漢字と欧文字を一体結合して「宇都宮AQ餃子」と横書きしたものであり,その造語である構成自体が一体の塊として需要者に強く印象付けられ,自他商品の識別標識としての機能を強く発揮するものである。
したがって,本件商標は,その構成文字全体を称呼した場合,「宇都宮AQ餃子」部分自体が一体となって自他商品の識別標識としての機能を強く発揮するものであり,「ウツノミヤエイキュウギョウザ」,「ウツノミヤエーキューギョヴザ」の称呼が生じ,仮に,地・販売地(審決注:「産地・販売地」の誤記と認める。)としての「宇都宮」文字部分を除外した場合においても,本件商標からは,「エイキュウギョウザ」,「エーキューギョウザ」の称呼が生じるものであり,被請求人の社名「栄久食品」の「栄久(エイキュウ)」と相俟って「エイキュウギョウザ」,「エーキューギョウザ」なる愛称の観念が生ずるものである。
しかも,このような本件商標と引用商標との称呼,外観,形態等々の顕著な相違からしても,本件商標が,引用商標から発生される称呼のように,単に「ウツノミヤギョウザ」と発音されたり略称されたりすることはない。
そして,本件商標より生ずる「ウツノミヤエイキュウギョウザ」,「ウツノミヤエーキューギョウザ」の称呼,あるいは,仮に産地・販売地としての「宇都宮」の文字部分を除外した場合における「エイキュウギョウザ」,「エーキューギョウザ」の称呼と,引用商標より生ずる「ウツノミヤギョウザ」の称呼は,これらを構成する各音の音質,音感等(発音の印象,発音の調子,発音の感覚,発音の響き,残聴感覚等々)の差により,それぞれの称呼を全体として称呼した場合においても,その語調,語感が極めて著しく相違したものとなり,決して互いに紛れるおそれがないものである。
また,本件商標と引用商標は,夫々の構成上からも観念上,明らかに相違するものであることはもちろんである。
さらに,本件商標と引用商標の形態は,前記したとおりのものであるので,その構成等の如何なる側面からみても,外観上,決して類似するものではない。
したがって,本件商標と引用商標は,称呼,観念及び外観のいずれの点においても,決して互いに紛れるおそれのない明らかに非類似の商標というべきものであるから,商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(2)出所混同のおそれの有無の点(商標法第4条第1項第15号規定の該当性)
上記(1)イのとおり,本件商標は,引用商標とは商標それ自体,明らかに区別し得る非類似の商標というべきものであるから,本件商標に接する需要者が引用商標を想起又は連想することは決してないというべきであって,本件商標は,これをその指定商品及び指定役務について使用しても,当該商品及び役務が請求人又はその組合員と何らかの関係を有する者の業務に係る商品及び役務であるかのように,商品の出所について混同を生ずるおそれは全くない商標であることは明らかである。
被請求人は,本件商標と引用商標との出所混同のおそれの有無について,登録事例を挙げて担保する(乙1?乙11)。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。
2 本件審判に対する被請求人の意見
(1)請求人主張の無効理由について
本件無効審判は,本件商標と引用商標とが類似するか否かにより無効理由の有無の判断が大きく左右されるものであって,引用商標が著名か否かにより左右される事案のものでは決してない。
そして,本件商標と引用商標は明らかに非類似のものであり,特にその類否の判断に特別困難性を伴うようなものではなく,また,本件商標と引用商標との出所混同の点においても,本件商標と引用商標は市場における出所の混同のおそれはない(乙1?乙11)。
(2)宇都宮市の餃子業界の実情について
請求人は,構成中に「宇都宮」という語と「餃子・ぎょうざ」という語が入っている商標は,造語商標であろうがなかろうが,明らかに非類似であろうがなかろうが,全て引用商標と類似し,市場混同を惹起するものであるとの主張に基づく広大な立場・視野でもって無効審判を行っている。
このような請求人の無効審判の乱用ともいえる請求行為は,公正な競業秩序を害するものであって,社会公共の利益に反するものであり,企業間の公正,自由な競争を確保することで資本主義の市場経済の健全な発達を促進することを目的とする独占禁止法においても禁止されるカルテル行為にも匹敵するものなのではないかと被請求人は憂慮している。
しかも,引用商標は,商標法第3条第2項の適用を受けて登録された団体商標であり,本来,漢字「宇都宮餃子」の構成そのものが,自他商品及び自他役務の識別標識・出所表示としての機能を発揮するというべきものであるにもかかわらず,請求人の無効審判等々における商標の類否に関する判断基準によると,いわゆる商標権の禁止権である類似範囲が広大なものとなってしまうおそれがあり,これでは,制度への信頼を損ない制度の崩壊にも繋がりかねないことから,到底是認されるものではない。
したがって,上述する諸点から見るに,請求人の無効審判請求における各無効理由の主張は,明らかに当を得ない理不尽で,制度の乱用にも繋がりかねないものである。
(3)むすび
上記事実に鑑み,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に違反してされたものではないから,同法第46条第1項第1号により,本件商標の登録が無効となるものではない。

第5 当審の判断
請求人が本件審判を請求するにつき,利害関係について争いがないから,本案について判断する。
1 引用商標の周知著名性について
引用商標は,別掲2のとおり,「宇都宮餃子」の文字を縦書きしてなるところ,前記第2のとおり,商品及び役務の区分第30類「ぎょうざ」及び第42類「ぎょうざの提供」について使用をされた結果,需要者が何人かの業務に係る商品及び役務であることを認識することができる商標として,商標法第3条第2項の適用を受けて登録された団体商標であって,その著名性については,本件商標の登録出願時(平成26年12月5日)及び登録査定時(同27年4月28日)においても継続していたことは,請求人の提出した証拠(甲3?甲12)からも認めることができる。
なお,被請求人も,その点については争っていない。
2 本件商標と引用商標の類否
(1)本件商標は,別掲1のとおり,「宇都宮AQ餃子」の文字を横書きしてなるところ,該構成は,同じ書体,同じ大きさ,等間隔で外観上まとまりよく一体的に表されたものと認識されるものであり,その構成文字全体から生ずる「ウツノミヤエイキュウギョーザ」の称呼は,やや冗長であるとしても無理なく一連に称呼し得るものである。
そうすると,本件商標は,その構成及び称呼からすれば,文字部分のいずれかが取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものではなく,むしろ,その構成文字全体をもって,「ウツノミヤエイキュウギョウザ」の称呼を生じ,特定の観念を生じない一体不可分のものとして認識,把握されるといえるものである。
したがって,本件商標は,その構成文字全体に相応して「ウツノミヤエイキュウギョウザ」の称呼が生じ,特定の観念を生じないものである。
(2)引用商標は,別掲2のとおり,「宇都宮餃子」の文字を縦書きしてなるところ,その構成は,「宇都宮」の文字と「餃子」の文字を結合したものであって,構成上顕著な特徴を有するものではなく,本来的には,自他商品及び自他役務の識別標識としての機能を果たし得なかった標章であったが,使用をされた結果,商品及び役務の区分第30類「ぎょうざ」及び第42類「ぎょうざの提供」について,自他商品及び自他役務の識別力を有するに至った商標であるから,引用商標の構成そのものが自他商品及び自他役務の識別標識としての機能を発揮するというべきものである。
したがって,引用商標は,その構成文字に相応して,「ウツノミヤギョウザ」の一連の称呼のみを生ずるものであって,「宇都宮餃子」の観念を生ずるものである。
(3)本件商標と引用商標とを比較するに,まず,外観においては,「AQ」の文字の有無に加え,書体が異なること,本件商標が横書きであるのに対し引用商標は縦書きで表されていることという明らかな差異があることから,外観上,判然と区別し得るものである。
そして,称呼においては,本件商標より生ずる「ウツノミヤエイキュウギョウザ」の称呼と引用商標より生ずる「ウツノミヤギョウザ」の称呼は,中間部における「エイキュウ」の音の有無という明確な差異を有するものであるから,それぞれを称呼するときは,明瞭に聴別し得るものである。
また,本件商標からは,特定の観念を生じないのに対して,引用商標からは「宇都宮餃子」の観念が生じるものであるから,観念上相紛れるおそれのないものである。
(4)したがって,本件商標と引用商標とは,外観においては判然と区別することができ,称呼においても明瞭に聴別し得るものであって,観念においても相紛れるおそれのないものであるから,両商標は相紛れるおそれのない非類似の商標であって,別異のものと判断するのが相当である。
3 商標法第4条第1項第11号該当性について
本件商標と引用商標とは,上記2(4)のとおり,非類似の商標であるから,両商標の指定商品及び指定役務が同一又は類似するものであるとしても,商標法第4条第1項第11号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第15号該当性について
上記1のとおり,引用商標が申立人の業務に係る商品「ぎょうざ」及び役務「ぎょうざの提供」について使用され,本件商標の登録出願日及び登録査定日の時点において,需要者の間に広く認識されていた商標であるとしても,本件商標と引用商標とは,上記2(4)のとおり,非類似の商標であって,別異の商標というべきものである。
してみれば,本件商標は,商標権者がこれをその指定商品及び指定役務について使用しても,取引者,需要者に引用商標を連想又は想起させることはなく,その商品及び役務が請求人あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのごとく,その商品及び役務の出所について混同を生ずるおそれはないものである。
その他,本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情は見いだせない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。
5 まとめ
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第11号及び同第15号のいずれにも違反してされたものではないから,同法第46条第1項により,無効とすることはできない。
よって,結論のとおり審決する。

別掲
別掲1 本件商標



別掲2 引用商標



審理終結日 2020-12-22 
結審通知日 2020-12-24 
審決日 2021-02-09 
出願番号 商願2014-102816(T2014-102816) 
審決分類 T 1 11・ 263- Y (W3043)
T 1 11・ 271- Y (W3043)
T 1 11・ 261- Y (W3043)
T 1 11・ 262- Y (W3043)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 佐藤 松江
特許庁審判官 大森 友子
須田 亮一
登録日 2015-06-19 
登録番号 商標登録第5772319号(T5772319) 
商標の称呼 ウツノミヤエイキュウギョーザ、ウツノミヤエイキュウ、エイキュウギョーザ、ウツノミヤギョーザ 
代理人 佐藤 俊司 
代理人 下山 冨士男 
代理人 阪田 至彦 
代理人 稲葉 良幸 
代理人 村瀬 純一 
代理人 中村 勝彦 
代理人 田中 克郎 
代理人 前田 和男 

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