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審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項16号品質の誤認 無効としない W20 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない W20 審判 全部無効 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 無効としない W20 |
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管理番号 | 1370186 |
審判番号 | 無効2020-890034 |
総通号数 | 254 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2021-02-26 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2020-03-27 |
確定日 | 2020-12-14 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第6014707号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第6014707号商標(以下「本件商標」という。)は、「GTRACING」の欧文字を別掲のとおりの態様で表してなり、平成29年6月27日に登録出願、第20類「家具,事務用家具,机,いす,スツール,腰掛け椅子,金属製家具,金属製腰掛け,乳児用寝台,ワゴン(家具),ソファー」を指定商品として、同30年1月4日に登録査定、同月26日に設定登録されたものである。 第2 請求人の主張 請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証を提出した。 1 請求の理由 本件商標は、商標法第3条第1項第3号、同法第4条第1項第16号及び同項第7号に該当し、同法第46条第1項第1号により、その登録を無効にすべきものである。 2 具体的な理由 (1)商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号について 本件商標は、次のとおり、指定商品である「いす」の品質・内容等を普通に用いられる方法で表示した単なる記述的表示にすぎないため、商標法第3条第1項第3号に該当する。 ア 本件商標は、「GT」と「RACING」の文字を単に組み合わせた「GTRACING」を書してなるものである。 まず、後半部の「RACING」はタイムを競う競争・競技を意味する英単語であるが日本でも常用されている。 前半部の「GT」は、それ自体欧文字2文字であり識別力の弱い部分であるため、おのずと後半部の「RACING」の影響を受ける。そうすると、「GT」部分は車のRACINGで有名なグランツーリスモの略であることが分かる。グランツーリスモとは、自動車の種類(カテゴリー)であり、具体的には「長距離を快適に走れるクルマ」といった意味である。そして、このGTをレーシングカーとして使用したレースが世界的有名な「SUPER GT」である。「SUPER GT」はFIA(国際自動車連盟)公認の世界的レースであることはいうまでもない。 つまり、本件商標は、「SUPER GT」で使われる「GTレーシング用の車」を容易に想起し得るものである。 イ 一方、ビデオゲームの発展に伴い、ビデオゲームをスポーツとして捉えるエレクトロニック・スポーツ(eスポーツ)が日本でも文化として認識・定着しつつあるが、eスポーツ選手を陰で支える椅子、いわゆるゲーミングチェアがある。ゲーミングチェアは、モニター画面を長時間見続けても負担が少なく手元のコントローラーの正確な操作ができるよう背中や肩口を支える形態であることが要求されることから、耐久レースなどの長時間の運転でも疲れず集中してハンドルさばきができるレーシングカーのシートが最適であるとして、本物のレーシングカーのシートを製造しているメーカーがゲーミンクチェアを最初に作ったことから始まった。 そのため、ゲーミングチェアといえば、レーシングカーのシートと同じような形態となっているのが一般的であり、レーシングカーのシート以外の形態はほぼ存在しない。つまり、ゲーミングチェア(いす)とレーシングカーのシートとの関係は密接であることが分かる。 ウ すなわち、本件商標「GTRACING」は、GTレーシングカーを想起する語であり、これをその指定商品中、レーシングカーのシートと密接に関係するゲーミングチェア(指定商品「いす」)に使用すると、これに接する需要者は、「GTレーシング」で使用される椅子と同等であることを認識するにすぎない。 よって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に該当し、ゲーミングチェア以外の指定商品については、同法第4条第1項第16号に該当する。 エ ちなみに、請求人は、レーシングシートタイプのゲーミングチェアの販売を行っており、ヨーロッパ、オーストラリアを始め各国のeスポーツ競技会で採用実績を持つゲーミングチェアブランド「AKRACING」の独占販売権などを取得している。 請求人のゲーミングチェア「AKRACING」には本物のレーシングカーと同じ技術・品質・経験値がふんだんに生かされている。 最近では、テレビCMやテレビ番組で使用され、元F1レーサーのお気に入りの椅子として紹介され、人気漫画とコラボするなどして、プロゲーマーやー般需要者に広く人気を博している。 (2)商標法第4条第1項第7号について 本件商標は、次のとおり公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあり、商標法第4条第1項第7号に該当する。 ア 上述のとおり、指定商品中「いす」に含まれる「ゲーミングチェア」とレーシングカーのシートとの関係は密接であり、本件商標はSUPER GTなどで使われるGTレーシングカーを容易に想起するものである。 そして、被請求人は、本件商標をゲーミングチェアの商標として使用している。 イ 被請求人は、「ゲーミングチェア」とレーシングカーのシートとの密接な関係性を知り、本物のレーシングカーの製造経験がない上でゲーミングチェアの分野に参入するには、世界的有名な「SUPER GT」で使用されるGTレーシングカーを想起させる商標をあえて選択し、その商標を使用した商品又はメーカーがあたかも本物のGTレーシングカーと密接な関連性があるかのように装ったものである。需要者にとっても、GTレーシングカーと何らかの関係のあるゲーミングチェアだと誤認する可能性も十分に考えられる。これは「需要者の利益を保護する」とする商標法の目的に反する。 よって、本件商標の出願の経緯には、著しく社会的相当性を欠く事実があり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものである。 第3 被請求人の答弁 被請求人は、本件審判の請求を却下する、又は、本件審判の請求は成り立たない旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べた。 1 却下されるべき理由 商標登録の無効審判は利害関係人のみが請求可能であるところ、本件商標又はこれに類似する商標の使用等を請求人が行っている状況はうかがえず、かつ、利害関係に関する証拠の提出がない。 したがって、請求人は本件審判を請求するにつき利害関係を有しているとはいえず、本件審判請求は、商標法第56条第1項において準用する特許法第135条の規定により却下されるべきである。 2 成り立たない理由 本件商標は、全体として特定の意味を生じさせることのない造語であり、商品の品質等を表示しないものであるから、普通に用いられる方法であるか否かを検討するまでもなく、自他商品識別力を有している。よって、本件商標は商標法第3条第1項第3号に該当しない。また、本件商標は、商品の品質等を認識させない以上、商品の品質の誤認を生ずるおそれもなく、同法第4条第1項第16号にも該当しない。 さらに、本件商標の出願の経緯に著しく社会的相当性を欠く事実はなく、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれもないため、本件商標は商標法第4条第1項第7号にも該当しない。 以下、具体的に反論する。 (1)商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号について ア 請求人は、本件商標を指定商品のうちゲーミングチェアに使用すると需要者が「GTレーシング」で使用される椅子と同等であることを認識し、本件商標が商標法第3条第1項第3号に該当すると主張する。 しかしながら、請求人の主張する「GTレーシング」が何を意味するのかが不明である。また、「GT」がグランツーリスモの略称として使用されているとしても、この略称及びグランツーリスモの意味が需要者に認識されている事実を示す証拠は何ら示されていない。 イ 請求人は、本件商標が「SUPER GT」で使われる「GTレーシング用の車」を想起するとも主張するが、「SUPER GT」は特定の企業の識別標識であり、これを想起するから識別力を有しないという理屈はあり得ない。 また、本件商標「GTRACING」と「SUPER GT」は外観、称呼及び観念のいずれの点からも非類似であることが明らかである。さらに、本件商標が含む「GT」が「SUPER GT」を表すものとして周知である事実もないため、「GT」を含むことのみをもって「SUPER GT」を想起するという主張も失当である。 ウ 請求人は、ゲーミングチェアがレーシングカーのシートと同じような形態となっているのが一般的と主張するが、これを示す証拠はない。また、ゲーミングチェアがレーシングカーのシートと同等の形態を備える必然性はなく、機能、用途、販売場所等の相違から、両商品が全く異なるものであると需要者が理解していることは明らかである。したがって、仮にゲーミングチェアがレーシングカーのシートと同じような形態となっているのが一般的である証拠が示されたとしても、本件商標に係るゲーミングチェアをレーシングカーのシートと同等であると需要者が認識することはない。 さらに、「レーシングカーのシートと同等」ということ自体が商品の品質として漠然としているため、万一請求人の主張どおりの認識が需要者になされたとしても、それは直接的かつ具体的な品質ではない。 したがって、請求人は、本件商標が商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当する理由を示していない。 エ 請求人は、「AKRACING」について種々主張するが、これが何の主張なのかが不明であり、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号とは全く無関係な議論であるため、個々の主張への反論を留保する。 (2)商標法第4条第1項第7号について 請求人は、本件商標の出願の経緯には、著しく社会的相当性を欠く事実があり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反し、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当すると主張する。 しかしながら、被請求人による本件商標の出願の経緯に著しく社会的相当性を欠く事実はない。そもそも「SUPER GT」が世界的に有名であることを示す証拠は何ら提出されておらず、請求人の主張はその前提を欠く。また、仮に「SUPER GT」が有名であったとしても、上記(1)で述べたとおり、「GT」を含むことのみをもって本件商標が「SUPER GT」を想起するという主張も失当である。 その他、請求人は、被請求人の主観について種々主張するが、全て請求人の想像の域を出ない上に、請求人の主張するような意図は被請求人にない。したがって、請求人の当該主張は事実に反し、被請求人の行為が商標法の目的に反することはあり得ない。 よって、本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当しない。 第4 当審の判断 1 利害関係について 請求人の主張及び職権調査(インターネット情報など)によれば、請求人は「ゲーミングチェア」を販売していることが認められので、本件商標に係る商標権の存否は請求人の商標採択に影響を与えるといえるから、請求人は本件審判を請求することについて利害関係を有していないとはいえない。 したがって、本件審判の請求は、商標法第56条第1項において準用する特許法第135条の規定により却下することはできない。 2 商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号該当性について (1)請求人は、本件商標「GTRACING」は「GT」と「RACING」の文字を組み合わせてなり「GTレーシングカー」を想起する語である、及びeスポーツで用いられる「ゲーミングチェア」はレーシングカーのシートと同じような形態となっているのが一般的であって両者の関係は密接であるから、本件商標をその指定商品中「いす」の範ちゅうに属する「ゲーミングチェア」に使用すると、これに接する需要者は、本件商標を「『GTレーシング』で使用される椅子と同等であること」を認識するにすぎないとして、本件商標は、「いす」の品質・内容等を普通に用いられる方法で表示した単なる記述的表示にすぎず、商標法第3条第1項第3号に該当し、ゲーミングチェア以外の指定商品については、同法第4条第1項第16号に該当する旨主張している。 (2)しかしながら、本件商標は、前記第1のとおり「GTRACING」の欧文字を別掲のとおりの態様で表してなるものであって、「GT」と「RACING」の文字を結合してデザイン化したものといい得るとしても、本件商標及び「GTRACING」の文字が商品「いす(ゲーミングチェア)」の品質、内容などを表すものとして用いられている事実、及びそれらが「『GTレーシング』で使用される椅子と同等であること」など商品(いす)の品質、内容などを表したものと認識させるというべき事実を示す証左の提出はなく、また、それらを認めるに足る事情も見いだせない。 そうすると、本件商標は、これをその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者をして、商品の品質、内容などを表示したものと認識させることのないものといわなければならない。 したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に該当するものといえない。 また、本件商標は、上述のとおりその指定商品の品質、内容などを表示したものと認識させることのないものであるから、これをその指定商品に使用しても商品の品質の誤認を生ずるおそれのないものというべきである。 したがって、本件商標は商標法第4条第1項第16号に該当するものといえない。 3 商標法第4条第1項第7号該当性について (1)請求人は、被請求人は「GTレーシングカー」を想起させる本件商標をあえて選択し、本件商標を使用した商品又はメーカーが、あたかも本物のGTレーシングカーと密接な関連性があるかのように装ったものである、及び、本件商標は需要者がGTレーシングカーと何らかの関係のある商品と誤認する可能性があり、「需要者の利益を保護する」とする商標法の目的に反するなどとして、本件商標の出願の経緯には、著しく社会的相当性を欠く事実があり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものであるから、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあり、商標法第4条第1項第7号に該当する旨主張している。 (2)しかしながら、本件商標はその構成態様から「GTレーシングカー」を想起、認識させるものとは認められず、また、それを認めるべき証左は見いだせない。 そして、本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合など、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当すると認めるに足りる証拠の提出はなく、かつ、それを認めるべき事情も見いだせない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものといえない。 4 まとめ 以上のとおり、本件商標は、商標法第3条第1項第3号、同法第4条第1項第16号及び同項第7号のいずれにも該当せず、その登録は、同法第3条及び同法第4条第1項の規定に違反してされたものとはいえないから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効にすべきでない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲 本件商標 |
審理終結日 | 2020-10-19 |
結審通知日 | 2020-10-21 |
審決日 | 2020-11-04 |
出願番号 | 商願2017-86841(T2017-86841) |
審決分類 |
T
1
11・
272-
Y
(W20)
T 1 11・ 13- Y (W20) T 1 11・ 22- Y (W20) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 吉野 晃弘 |
特許庁審判長 |
中束 としえ |
特許庁審判官 |
山田 啓之 板谷 玲子 |
登録日 | 2018-01-26 |
登録番号 | 商標登録第6014707号(T6014707) |
商標の称呼 | ジイテイレーシング、ジイトレーシング、グトレーシング |
代理人 | 茂木 康彦 |
代理人 | 井澤 幹 |
代理人 | 特許業務法人井澤国際特許事務所 |
代理人 | 八田国際特許業務法人 |