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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W25
管理番号 1366326 
異議申立番号 異議2018-900388 
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2020-10-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-12-26 
確定日 2020-01-08 
異議申立件数
事件の表示 登録第6088399号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6088399号商標の商標登録を維持する。
理由 第1 本件商標
本件登録第6088399号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、平成29年12月21日に登録出願、第25類「下着,水泳着,被服,ズボン,トップス,子供服,オーバーコート,レギンス,スカート,新生児用被服,着物,靴類,帽子,ソックス」を指定商品として、同30年8月23日に登録査定、同年10月12日に設定登録されたものである。

第2 登録異議申立人が引用する商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が登録異議の申立ての理由において引用する商標は、以下の6件であり、いずれも登録商標として現に有効に存続しているものである(以下、これら6件の商標をまとめていうときは「引用商標」という。)。
1 登録第5788675号(以下「引用商標1」という。)
商標の構成:別掲2のとおり
登録出願日:平成26年12月25日
設定登録日:平成27年8月28日
指定商品:第9類、第16類、第18類及び第25類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
2 登録第5939477号(以下「引用商標2」という。)
商標の構成:別掲3のとおり
登録出願日:平成28年8月8日
設定登録日:平成29年4月14日
指定商品:第25類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
3 登録第5912249号(以下「引用商標3」という。)
商標の構成:別掲4のとおり
登録出願日:平成28年8月12日(優先権主張2016年(平成28年)2月12日 アメリカ合衆国)
設定登録日:平成29年1月13日
指定商品及び指定役務:第25類及び第41類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務
4 登録第5431413号(以下「引用商標4」という。)
商標の構成:別掲5のとおり
登録出願日:平成22年10月27日
設定登録日:平成23年8月12日
指定商品:第5類、第29類、第30類、第32類及び第33類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
5 登録第6094128号(以下「引用商標5」という。)
商標の構成:別掲6のとおり
登録出願日:平成30年1月22日
設定登録日:平成30年11月2日
指定商品:第5類、第29類及び第30類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
6 登録第6062756号(以下「引用商標6」という。)
商標の構成:別掲7のとおり
登録出願日:平成30年3月12日(優先権主張2017年(平成29年)9月21日 パキスタン・イスラム共和国)
設定登録日:平成30年7月13日
指定商品:第5類及び第32類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品

第3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものであるから、同法第43条の2第1号により、その登録は取り消されるべきであると申立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第380号証(枝番号を含む。証拠の表記に当たっては、「甲第○号証」を「甲○」(「○」部分は数字)のように省略して記載する。)を提出した。
1 申立人の使用に係る商標の著名性
(1)申立人及び取扱商品
申立人は、1930年代に創業した米国の飲料メーカーであり、創業以降、アルコールを含有しない飲料、すなわち、炭酸飲料、天然ソーダ水、フルーツジュース、エネルギー補給用飲料(エナジードリンク)、エネルギー補給用飲料(エナジースポーツドリンク)、フルーツジューススムージー、レモネード、アイスティー等の企画、開発、製造、マーケティング、販売の事業に従事していたが、2015年6月からはエナジードリンクの事業に注力している(甲2及び甲58)。
(2)申立人による「MONSTER」エナジードリンクと爪の図柄の使用
申立人は、2002年にエナジードリンクの製品シリーズの新ブランド「MONSTER」を創設し、当該シリーズ最初の製品(オリジナル版)は、「MONSTER ENERGY」を個別製品名として、米国で同年3月から広告宣伝を開始し、同年4月から製造販売を開始した(甲4、甲7、甲18及び甲58)。
申立人の「MONSTER ENERGY」ブランドの各種エナジードリンク製品には、従来の清涼飲料製品の容器とは異なる黒色ベースのボトル缶にモンスター(Monster)の爪を形取ったロゴマーク(引用商標1、4及び5に係る図形。以下「爪の図柄」という。甲58、甲379及び甲380)と「MONSTER」の文字を特徴的なデザインの太字で大きく目立つ態様で表示した野性味あふれる独特な雰囲気が経済・ビジネス界でも注目を浴び(甲56及び甲57)、男性若者層を中心にたちまち人気商品となった。
申立人のこれらのシリーズ製品は、2002年の発売開始以降、現在に至るまで、缶の正面に爪の図柄を顕著に表示し、「MONSTER」の文字を包含する個別製品名(以下、これらを総称して『「MONSTER」ファミリー商標』という。)が使用されていることを特徴とする。
(3)広告・マーケティング及び販売促進活動
申立人は、2002年から現在まで、全世界における「MONSTER」エナジードリンクに関する広告・マーケティング及び販売促進活動費として総額30億米ドルを超える費用を支出した(甲58)。当該活動の主な内容は、世界の有名アスリート・レーシングチーム及び競技会、アマチュア選手、音楽祭及びミュージシャン、米国ラスベガスの公共機関モノレールに対する支援活動(スポンサー提供)、並びに販売店用什器及び備品の供給である。そこでは、スポーツ競技会などイベント会場施設の看板、旗、垂れ幕、ブース、什器類、移動車、「モンスターガール」等のイベントスタッフの衣装やユニフォーム、スポンサー契約アスリートやレーシングチームが着用するユニフォーム・ヘルメット・帽子・手袋・スポーツ用具・車体等、申立人がイベント関連ニュースを配信するニューズレター、ビデオクリップなどに、爪の図柄又はそれを含むロゴマークが表示されている。
このような爪の図柄を用いたアスリート、チーム、競技会場の写真やビデオ画像は、申立人のウェブサイトやメールマガジン、第三者のウェブサイト、一般のスポーツファンのブログ、ニュースリリース、ソーシャルメディア等を通じて、世界中のスポーツファンに配信されている(甲34ないし甲45、甲52、甲53及び甲56ないし甲58)。
(4)日本国内の販売実績、広告・マーケティング及び販売促進活動
日本国内では、申立人の「MONSTER」エナジードリンクの製品シリーズは、アサヒ飲料株式会社(以下「アサヒ飲料」という。)を通じて国内で販売されている。2012年3月15日付けのニュースリリースでアサヒ飲料が国内独占販売権取得を公表し、2種類の「MONSTER」エナジードリンク、すなわち、製品名「MONSTER ENERGY」(モンスターエナジー缶355ml)及び製品名「MONSTER KHAOS」(モンスターカオス缶355ml)の発売を発表、2012年5月8日から販売を開始した(甲5ないし甲7、甲12、甲14及び甲58)。
当該商品は、その発売直後から日本国内でもたちまち人気商品となり、2012年9月時点で既に年間売上目標の100万箱を突破し(甲8及び甲65ないし甲67)、その後も好調に売上げを伸ばして157万箱の売上げを記録した(甲9及び甲65ないし甲67)。
さらに、上記2種の新発売以降も、次々に新製品が発売されている(甲10、甲13、甲15、甲59ないし甲62、甲101ないし甲103、甲118、甲127ないし甲131及び甲252ないし甲255)。
これらの申立人製品は、日本全国のコンビニエンスストア、自動販売機、キオスク、スーパーマーケット、列車の売店、会員制スーパー、店舗、ゲームセンター、ドラッグストア及びホームセンター等の販売小売店のほか(甲58)、アサヒ飲料の通販サイトからも直接購入可能である(甲11ないし甲17、甲61、甲62、甲72、甲131及び甲264)。また、大手ネットショッピングサイトのアマゾンジャパンなどではこれらの国内販売製品のほか、「MONSTER ASSAULT」、「MONSTER M-80」、「MONSTER REHAB」、「JAVA MONSTER」、「MUSCLE MONSTER」及び「MONSTER ENERGY ULTRA BLUE」といった日本未発売製品の輸入販売も取り扱われている(甲33及び甲126)。
2012年5月の販売開始から2015年6月30日までの期間、申立人は日本において、約2億3,600万缶の「MONSTER」エナジードリンクを販売した。前記期間の総販売額は1億7,500万米ドル以上、日本円で170億円以上である(甲58)。また、販売開始直後から継続的にテレビコマーシャル放映、日本開催の多数のスポーツイベント等へのスポンサー提供、サンプル配布など含む大々的な宣伝広告活動が実施されている。
(5)全世界の販売国・地域及び販売額
「MONSTER」ファミリー商標を付した申立人の「MONSTER」エナジードリンクの1種類以上が、米国、英国等を含む世界100以上の国及び地域で販売され、あるいは現在販売中である。米国では30万店を超す小売店及び販売代理店並びにインターネットでの通信販売を通じて全50州で販売されている。
「MONSTER」エナジードリンクは、2002年に米国で販売開始以降、毎年売上げを伸ばし、申立人は、当該エナジードリンクを130億缶以上販売し、世界中で毎年30億缶以上を売上げ、全世界で総額240億米ドルを超える収益を生み出している。全世界における小売販売額は毎年60億米ドルを超え、申立人の全売上額の92%以上を占める。2014年度(12月31日締め)の申立人の年間総販売額は、2013年度(12月31日締め)の25.9億米ドル及び2012年度(12月31日締め)の23.7億米ドルから28.3億米ドルに増加した。当該エナジードリンクの販売は、申立人の2014年度、2013年度及び2012年度の年間総純売上げに対して、それぞれ96.1%、95.6%、及び95.4%を占める。
米国外の需要者に対する申立人の2014年の総売上額は、前年の約5億8,060万米ドルから13.3%増加の約6億5,790万米ドルであり、2013年は前年の約5億1,400万米ドルから13%増加した。なお、2012年は、前年の3億8,100万米ドル以上からおよそ35%増加の約5億1,400万米ドルであり、2011年は前年の2億4,060万米ドルから58%以上の増加、また、2010年は前年の1億6,800万米ドルから43%以上増加した。
申立人の「MONSTER ENERGY」ブランドは、販売量において、米国で最も売れ、また、世界第2位のエナジードリンクのブランドである。
ニールセン社が発表するランキングによれば、2015年7月25日までの13週間、米国におけるあらゆる販売店、すなわちコンビニエンスストア、食料品店、ドラッグストア及び大型販売店における売上げを統合すると、申立人の「MONSTER」エナジードリンクは、米ドルで前年の同じ13週間を10.0%上回った。「MONSTER」エナジードリンクは、現在米国におけるエナジードリンク市場の36.8%のシェアを占め、その販売量において全世界で最も高成長を遂げた主要ブランドの地位を維持している。
(6)「MONSTER ENERGY」ブランドのアパレル製品及びビデオゲーム製品等の販売
申立人は、2002年以降、現在に至るまで継続して、爪の図柄及び「爪の図柄とMONSTER ENERGY」のロゴマークを使用したTシャツ、フードつきスウェットシャツ、スウェットシャツ、ジャケット、ズボン、バンダナ、スウェットバンド、手袋、帽子などの被服、スポーツ用具、その他の関連グッズの商品化を第三者に許諾している。
これらのマークを付したアパレル製品等が、カワサキ、オニール、フォックスヘッド、ワンインダストリーズ、DCシューズその他多数のライセンシーによって製造販売されており、一般消費者の高い人気を獲得している。
爪の図柄及び「爪の図柄とMONSTER ENERGY」のロゴマークを付した当該ライセンス商品は、現在、日本及びアジア全域、オーストラリア、米国、カナダ、中央アメリカ、南米、ヨーロッパ、アイスランド、スカンジナビア及びメキシコを含む世界各地で販売中である(甲58)。
爪の図柄及び「爪の図柄とMONSTER ENERGY」のロゴマークが付されたTシャツ、スウェットシャツ、帽子、手袋などの被服、運動用特殊衣服、運動用ヘルメット、ステッカー、リュックサック等は、日本国内でも人気の高い商品であり、インターネットの通信販売業者により日本国内でも輸入販売されている(甲47、甲48、甲92、甲98及び甲100)。
(7)その他、申立人は、経済界等からの数々の表彰を受けるとともに、ウェブサイト及びソーシャルメディアによる情報発信、商標登録によるブランド保護、国内における申立人の商標のライセンス商品の販売や模倣品の水際取締り、スポーツ等のイベントやプロモーションキャンペーン、サンプル配布等も行っている。
(8)以上の事実に基づけば、申立人の製造販売に係る「MONSTER」エナジードリンクが国内のエナジードリンクの取引者のみならず、当該商品の最終的な需要者である一般消費者の間で広く認識されていること、そして、「MONSTER」エナジードリンクのシリーズ全製品の缶に顕著な態様で表示され、その広告物及び大規模かつ継続的なプロモーション活動にも常に使用され、インターネット及びソーシャルメディアにおける露出度も極めて高いと評価できる爪の図柄が申立人の商品役務の代表的な出所識別標識として国内市場の取引者、一般消費者に広く認識されていることは明らかである。
したがって、上記の事柄を総合すれば、申立人の使用に係る爪の図柄は、本件商標の登録出願日の遥か以前より、申立人の業務に係る商品及び役務を表示する出所識別標識として本国米国を始めとする外国で広く認識されていたものであり、また、本件商標の登録出願時及び査定時には日本国内の需要者の間においても申立人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして広く認識されていたことが明らかである。
2 本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)申立人の使用に係る爪の図柄(引用商標又はその構成中の図形部分)は、「MONSTER」(モンスター)の語の頭文字「M」とヴェロキラプトル(恐竜)の爪の形から着想を得て、独創的なデザインに高められた創造標章である。爪の図柄は、申立人の「MONSTER」エナジードリンクの缶を、ギザギザの金属の縁を残して引き裂く「爪」のイメージを喚起させるデザインとして考案され、採択されたものであり、生来的に商品出所識別力が極めて強い商標ということができる。
爪の図柄の図案画並びにこれを黒地の「MONSTER」エナジードリンク缶の正面及び裏面に描いた作品は、米国で著作権登録もなされている(甲379及び甲380)。
引用商標1、4及び5として示すとおり、申立人の使用に係る爪の図形は、左向きに尖った微細な突起部を有する上端部から下方向に向かって延びる細く尖った先端部を有する若干長さが異なる細長い帯様図形3本を、概ね互いに平行に均等間隔で並べ、当該3本のうち中央の帯様図形を最も長くしたものである。各帯様図形の輪郭線は滑らかではなく、不規則な形状の微細な突起を多数有する。なお、引用商標2及び3は、爪の図柄と他の図形・文字から構成される商標である。引用商標6は、爪の図柄のデザインのバリエーションであり、オリジナルの爪の図柄に濃淡の色彩で影を付けて立体的に表示したものである。
(2)本件商標は、細く尖った両端部を有し右上方向から左斜め下方向に向かって延びる若干長さが異なる細長い帯様図形3本を、概ね互いに平行に均等間隔で並べ、当該3本のうち中央の帯様図形を最も長くした図形(以下「本件帯様図形」という。)と、その下方に、極小の水滴様図形4つを並べたものから構成される。
本件帯様図形において、各帯様図形の輪郭線は滑らかではなく、不規則な形状の微細な突起を多数有する。また、本件帯様図形3本中、最下段に位置する帯様図形の輪郭線を構成する多数の突起のうちの2つの突起は下方向に細長く延びている。
本件帯様図形は、本件商標全体の面積の大部分を占めており、その太く不規則な輪郭線で描いた帯様図形の印象が看者の注意を惹きつけ、商品出所識別標識として強い印象を与える。これに対して、本件帯様図形の下に配置された水滴様図形4つは、全体に占める面積が僅かであり、小さく目立たない。また、本件帯様図形と4つの水滴様図形は物理的に分離しており、また、両者に観念上の一体性も認められない。
したがって、本件商標の構成においては、本件帯様図形の印象が顕著であり、出所識別標識として看者の視覚に訴え、記憶に留まる。
(3)本件帯様図形は、不規則な輪郭線と細く尖った先端部を有する細長い帯様図形3本を概ね互いに平行かつ均等間隔で並べ、当該3本中、中央に位置するものを最も長くして構成されている点、各帯様図形の輪郭線が滑らかではなく、不規則な形状の微細な突起を多数有する点で、申立人の使用に係る爪の図柄と基本的構造を同じくし、外観印象が近似する。
加えて、本件帯様図形は、不規則な輪郭線と細く尖った先端部を有する図形3本を並べ、中央に位置するものを若干長くした外観が、モンスター、恐竜などの「鋭く尖った強靭な爪」の観念及び印象を喚起させる点で、申立人の爪の図柄から想起連想される観念及び印象と類似する。
したがって、本件商標は、申立人の使用に係る爪の図柄と、商品出所識別標識として類似する印象を取引者、需要者に与えるものであり、類似性の程度が極めて高いというべきである。
(4)本件商標の指定商品は、引用商標1ないし3の指定商品と同一又は類似のものである。
加えて、申立人及びその商標ライセンシーは、爪の図柄を、様々な一般消費者向け商品、例えば、ジャケット、パーカー、帽子等に実際に使用している(甲47、甲48及び甲58等)。
本件商標の指定商品は、申立人らの取扱いに係る各種商品とも同一又は類似のものを多く含むことが明らかである。
(5)本件商標の指定商品の最終的な需要者は一般消費者を多く含むから、通常の需要者の注意力の程度は高いものとはいえない。
加えて、爪の図柄は、「MONSTER」エナジードリンクを始めとする申立人の取扱いに係る商品・役務及び申立人会社を直観させる申立人の代表的商品出所識別標識として認識されるに至っており、本件商標の登録出願時及び査定時には、申立人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして取引者、需要者の間で広く認識されていた。
(6)したがって、これらの事柄を総合して考察すれば、本件商標がその指定商品に使用された場合、これに接した取引者、需要者は、申立人がその商品及び役務の出所識別標識として長年継続使用している爪の図柄と申立人会社を想起連想し、当該指定商品が申立人又は申立人と経済的若しくは組織的関係を有する者(例えば、申立人から商標使用許諾を受けたライセンシー)の取扱いに係るものであると誤信することにより、その出所について混同を生じるおそれがある。
また、爪の図柄は、申立人の商品役務の代表的出所識別標識として、その製造販売に係る全ての各種エナジードリンクに使用されていることに加えて、申立人から商標使用許諾を受けた者の製造販売に係るアパレル製品、かばん類、帽子、スポーツウエア、スポーツヘルメット、ステッカー、ビデオゲームソフト等の各種ライセンス商品、申立人の支援を受けている世界的に有名なアスリート及びチームが競技会で着用又は使用するスポーツウエア、運動用具、自動車、オートバイなどに付されており、これらの大量の模倣品が水際で輸入差止めされる程度まで国内外で高い人気を獲得するに至っている。
このような事情の下で、爪の図柄を容易に想起連想させる本件商標が使用された場合は、2002年から現在に至る申立人による継続的使用と営業努力によって申立人の商品役務の出所識別標識として広く認識されるに至っている爪の図柄の出所表示力が希釈化するおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当することが明らかである。

第4 当審の判断
1 申立人商標の周知性について
申立人の提出に係る証拠によれば、申立人は、爪の図柄からなる商標(以下「申立人商標」という。)をエナジードリンクの包装容器(缶)に付し、当該エナジードリンク(以下「申立人商品」という。)を2002年(平成14年)から米国において販売を開始し、我が国においては、日本国内における独占販売権を取得したアサヒ飲料を通じて、2012年(平成24年)5月8日から販売を開始したこと(甲7等)、申立人商品の売上げは、販売開始後、同年9月の時点で100万箱を越え、同年の売上げが157万箱となったこと(甲8及び甲9)、販売開始から2015年(平成27年)6月30日までの申立人商品の売上げは、約2億3,600万缶、170億円以上であったこと(甲58)、アサヒ飲料は、申立人商品の販売開始以降、2018年(平成30年)4月までの間に、同社のウェブサイトにおいて、申立人商品に関するニュースリリースやキャンペーン情報等を幾度となく掲載していること(甲8ないし甲17、甲59ないし甲62、甲72、甲101、甲129ないし甲131、甲257、甲264及び甲324)、モンスターエナジージャパン合同会社は、2013年(平成25年)から2018年(平成30年)8月までの間に、申立人商品に関するキャンペーン等についてのプレスリリースを行っていること(甲114、甲115、甲117ないし甲120、甲127、甲128、甲132、甲133、甲138ないし項168、甲226ないし甲251、甲253ないし甲256、甲265ないし甲274、甲279ないし甲296、甲323、甲334ないし甲345、甲347及び甲348)、インターネット上において第三者により申立人商品が紹介されている記事が掲載されていること(甲275、甲276、甲311、甲312、甲314、甲317及び甲319ないし甲322)、2013年(平成25年)から2014年(平成26年)に日本で開催されたスポーツイベント等において申立人商標が表示されていること(甲73ないし甲76、甲78、甲80、甲82及び甲83)などが認められる。
そして、職権による調査によれば、現在においても、清涼飲料を取り扱うスーパーマーケット、コンビニエンスストア等において、申立人商品が販売されていることが認められ、以上を踏まえれば、申立人商標は、申立人の業務に係る「エナジードリンク」を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く知られていることがうかがえる。
しかしながら、2015年(平成27年)7月以降の申立人商品の売上げが不明であること、アサヒ飲料による申立人商品に関するニュースリリースやキャンペーン情報等は、ほとんどが2016年(平成28年)までのものであること、申立人商標が表示された日本で開催されたスポーツイベント等は、2013年(平成25年)から2014年(平成26年)に開催されたものであること、インターネット上において第三者により申立人商品が紹介されている記事がさほど多いとはいえないことからすると、申立人商標が本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人商品を表示する商標として需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。
2 申立人商標の独創性について
申立人商標は、左向きに短く尖らせた上端から、下向きに幅が徐々に細くなる不規則な凹凸状の輪郭を有する鉤裂き状の帯様図形を3本縦方向に平行に配置してなり、このうち中央のそれは、左右のそれよりやや長めに描かれている構成からなるものであり、構成全体をもって特徴的な図形を表したものと認識されるものである。
したがって、申立人商標の独創性は高いといえる。
3 本件商標と申立人商標との類似性について
(1)本件商標について
本件商標は、別掲1のとおり、右上方向から左斜め下方向に向かって延びる細く尖った両端部を有し若干長さ及び太さが異なる細長い帯様図形3本を、中央の帯様図形を最も長くし概ね互いに平行に均等間隔で並べ、その下方に、極小の水滴様図形3つを並べた構成からなるものである。そして、3本の細長い帯様図形は不規則な凹凸状に描かれ、最下段に位置する帯様図形を構成する突起のうちの3つの突起は下方向に細長く延びており、本件商標は、構成全体をもって特徴的な図形を表したものと認識されるものであり、これより特定の称呼及び観念は生じないものである。
(2)申立人商標について
申立人商標は、前記2のとおり、左向きに短く尖らせた上端から、下向きに幅が徐々に細くなる不規則な凹凸を有する鉤裂き状の帯様図形を3本縦方向に平行に配置してなるところ、このうち中央のそれは、左右のそれよりやや長めに描かれている構成からなり、構成全体をもって特徴的な図形を表したものと認識されるものであって、これより特定の称呼及び観念は生じないものである。
(3)本件商標と申立人商標との類否について
本件商標と申立人商標とは、(a)不規則な凹凸を有する細長い帯様図形を3本有し、(b)該図形は概ね互いに平行に均等間隔で並べられ、(c)3本の帯様図形のうち中央のものを最も長くしている点で共通するとしても、(d)本件商標は、右上方向から左斜め下方向に向かって延びる細く尖った両端部を有し若干長さ及び太さが異なる細長い帯様図形3本から構成されるのに対し、申立人商標は、鉤裂き状の帯様図形を縦方向に3本平行に配置されるという構成上の差異があり、(e)また、本件商標は、下方に、極小の水滴様図形3つを並べたものを有するのに対し、申立人商標は該図形を有しないという差異がある。
そうすると、本件商標と申立人商標とは、前記(a)ないし(c)のような共通点を有するとしても、前記(d)及び(e)のような構成上の明らかな差異を有するものであるから、構成全体から受ける印象は顕著に異なるため、両者を時と所を異にして離隔的に観察した場合であっても、外観において、十分に区別し得るものである。
そして、本件商標と申立人商標とは、いずれも特定の称呼及び観念を生じないことから、称呼及び観念において比較することができない。
してみると、本件商標と申立人商標とは、たとえ称呼及び観念において比較することができないとしても、外観において十分区別できるものであるから、両者は非類似の商標であり、別異の商標というべきである。
4 本件商標の指定商品と申立人商品との関連性並びに取引者及び需要者の共通性について
本件商標の指定商品は、前記第1のとおり、「下着,水泳着,被服,ズボン等」の衣料品であり、申立人商品である「エナジードリンク」は飲料であるから、両者に関連性はなく、取引者及び需要者は異なる。
申立人の提出に係る証拠及び同人の主張によれば、申立人は、ライセンシーを通じて、申立人商標を付したTシャツ、フード付き上着、ジャケット、帽子、ステッカーを販売したことが認められる(甲47、甲48、甲100及び申立人の主張)。
これらの商品と本件商標の指定商品との比較においては、関連性があり、取引者及び需要者を共通にするといえる。
5 混同を生ずるおそれについて
申立人商標は、前記2のとおり、独創性が高く、また、前記4のとおり、申立人商標を付して販売されているTシャツ、フード付き上着等と本件商標の指定商品とは関連性があり、取引者及び需要者を共通にするといえる。
しかしながら、前記1のとおり、申立人商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において需要者の間に広く認識されているとはいえず、また、前記3のとおり、本件商標と申立人商標とは非類似の商標であって、別異の商標であり、さらに、前記4のとおり、本件商標の指定商品と申立人商品(エナジードリンク)とは、関連性がなく、取引者及び需要者が異なることからすると、本件商標に接する取引者、需要者が、申立人、申立人商標又は引用商標を連想又は想起することはないというべきである。
また、仮に、申立人商標が本件商標の登録出願時及び登録査定時において需要者の間に広く認識されているといえたとしても、本件商標と申立人商標とは非類似の商標であって、別異の商標であり、本件商標の指定商品と申立人商品(エナジードリンク)とは、関連性がなく、取引者及び需要者が異なることからすると、この場合においてもなお、本件商標に接する取引者、需要者が、申立人、申立人商標又は引用商標を連想又は想起することはないというべきである。
そうすると、本件商標は、これをその指定商品について使用しても、その取引者、需要者をして、当該商品が申立人の商品に係るものであると誤信させるおそれがある商標ではなく、当該商品が申立人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信させるおそれがあるものともいえず、申立人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標ではない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
6 まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しないから、その登録は、同項の規定に違反してされたものとはいえない。
他に、本件商標の登録が商標法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第43条の3第4項の規定に基づき、維持すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲 別掲1 本件商標


別掲2 引用商標1


別掲3 引用商標2(色彩については原本参照)


別掲4 引用商標3


別掲5 引用商標4


別掲6 引用商標5(色彩については原本参照)


別掲7 引用商標6



異議決定日 2019-12-25 
出願番号 商願2017-167034(T2017-167034) 
審決分類 T 1 651・ 271- Y (W25)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山本 敦子 
特許庁審判長 小出 浩子
特許庁審判官 山田 啓之
木村 一弘
登録日 2018-10-12 
登録番号 商標登録第6088399号(T6088399) 
権利者 南京皚斯攸服飾有限公司
代理人 柳田 征史 

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