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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない W2135
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない W2135
管理番号 1366275 
審判番号 無効2018-890046 
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-06-26 
確定日 2020-09-04 
事件の表示 上記当事者間の登録第5952338号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5952338号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおり、「東味西厨」及び「GREAT COOK」の文字を二段に横書してなり、平成28年11月30日に登録出願、第21類「台所用品(「ガス湯沸かし器・加熱器・調理台・流し台」を除く。)及び第35類「台所用品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を指定商品及び指定役務として、同29年4月19日に登録査定、同年6月9日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
本件審判請求人(以下「請求人」という。)が、本件商標の登録の無効の理由において引用する商標は、以下の13件である(以下、これらをまとめていうときは「引用商標」という。)。
1 請求人が「包丁、ピーラー、鍋、すりおろし、食器等台所用品並びにその小売及び卸売業」について使用しているとする商標(以下「引用商標1」という。)は、別掲2のとおり、「東味西厨」及び「GREAT COOK」の文字を茶色で表した構成からなるものである。
2 中国商標登録第12618321号(以下「引用商標2」という。:甲2の2)
商標:別掲3のとおり、「東味西厨」(「東」の文字は簡体字。以下同じ。)の文字からなるもの
指定商品:第8類「電気式及び非電気式つめ切り,食肉用グラインダー(手動工具),はさみ,肉切り包丁,皮むき器等」
登録出願日:2013年5月21日
出願公告: 2014年7月13日
設定登録日:2014年10月14日
3 中国商標登録第12618322号(以下「引用商標3」という。:甲2の3)
商標:別掲3に示すとおり、「東味西厨」の文字からなるもの
指定商品:第11類「消毒装置,電気式加熱調理器具,調理器具,ストーブ,製菓器具,圧力鍋(電気式),キチンストーブ(オーブン),電気式コーヒーメーカー等」
登録出願日:2013年5月21日
出願公告: 2014年7月13日
設定登録日:2014年10月14日
4 中国商標登録第12618327号(以下「引用商標4」という。:甲2の4)
商標:別掲3に示すとおり、「東味西厨」の文字からなるもの
指定商品:第21類「家庭用品,食器(ナイフ、フォーク、スプーンを除く。),台所容器,鍋,まな板,台所用品,非電気式調理用品,麺製造器(手動),スチーマー,日常用ガラス製品(カップ、プレート,なべ,瓶),日常用磁器製品(ポット、ボウル、プレート、なべ)」
登録出願日:2013年5月21日
出願公告: 2014年7月13日
設定登録日:2014年10月14日
5 中国商標登録第12618323号(以下「引用商標5」という。:甲2の5)
商標:別掲3に示すとおり、「東味西厨」の文字からなるもの
指定商品:第25類「オーバーオール,シャツ,コート,パンツ,エプロン(被服),被服,帽子,手袋(被服),スカーフ」
登録出願日:2013年5月21日
出願公告: 2014年7月13日
設定登録日:2014年10月14日
6 中国商標登録第12618325号(以下「引用商標6」という。:甲2の6)
商標:「GREAT COOK」の欧文字を横書きしてなるもの
指定商品:第8類「電気式及び非電気式つめ切り,食肉用グラインダー(手動工具),はさみ,肉切り包丁,皮むき器等」
登録出願日:2013年5月21日
出願公告: 2014年7月13日
設定登録日:2014年10月14日
7 中国商標登録第12618320号(以下「引用商標7」という。:甲2の7)
商標:「GREAT COOK」の欧文字を横書きしてなるもの
指定商品:第11類「消毒装置,電気式加熱調理器具,調理器具,ストーブ,製菓器具,圧力鍋(電気式),キチンストーブ(オーブン),電気式コーヒーメーカー等」
登録出願日:2013年5月21日
出願公告: 2014年7月13日
設定登録日:2014年10月14日
8 中国商標登録第12618326号(以下「引用商標8」という。:甲2の8)
商標:「GREAT COOK」の欧文字を横書きしてなるもの
指定商品:第21類「家庭用品,食器(ナイフ、フォーク、スプーンを除く。),台所容器,鍋,まな板,台所用品,非電気式調理用品,麺製造器(手動),スチーマー,日常用ガラス製品(カップ、プレート,なべ,瓶),日常用磁器製品(ポット、ボウル、プレート、なべ)等」
登録出願日:2013年5月21日
出願公告: 2014年7月13日
設定登録日:2014年10月14日
9 中国商標登録第12618324号(以下「引用商標9」という。:甲2の9)
商標:「GREAT COOK」の欧文字を横書きしてなるもの
指定商品:第25類「オーバーオール,シャツ,コート,パンツ,エプロン(被服),被服,帽子,手袋(被服),スカーフ」
登録出願日:2013年5月21日
出願公告: 2014年7月13日
設定登録日:2014年10月14日
10 中国商標登録第18893718号(以下「引用商標10」という。:甲2の10)
商標:別掲4に示すとおり、「GREAT COOK」及び「東味西厨」(「東」の文字は簡体字。以下同じ。)の文字を二段に横書してなるもの
指定商品:第8類「電気式及び非電気式つめ切り,食肉用グラインダー(手動工具),はさみ,肉切り包丁,皮むき器等」
登録出願日:2016年1月15日
出願公告: 2016年11月20日
設定登録日:2017年2月21日
11 中国商標登録第18893720号(以下「引用商標11」という。:甲2の11)
商標:別掲4に示すとおり、「GREAT COOK」及び「東味西厨」の文字を二段に横書してなるもの
指定商品:第8類「電気式及び非電気式つめ切り,食肉用グラインダー(手動工具),はさみ,肉切り包丁,皮むき器等」
登録出願日:2016年1月15日
出願公告: 2016年11月20日
設定登録日:2017年2月21日
12 中国商標登録第18893719号(以下「引用商標12」という。:甲2の12)
商標:別掲4に示すとおり、「GREAT COOK」及び「東味西厨」の文字を二段に横書してなるもの
指定商品:第21類「家庭用品,食器(ナイフ、フォーク、スプーンを除く。),台所容器,鍋,まな板,台所用品,非電気式調理用品,麺製造器(手動),スチーマー,日常用ガラス製品(カップ、プレート,なべ,瓶),日常用磁器製品(ポット、ボウル、プレート、なべ)等」
登録出願日:2016年1月15日
出願公告: 2016年11月20日
設定登録日:2017年2月21日
13 国際商標登録第1351442号(以下「引用商標13」という。:甲2の13)
商標:別掲4に示すとおり、「GREAT COOK」及び「東味西厨」の文字を二段に横書してるもの
指定商品:
第8類「Abrading instruments [hand instruments]; nail clippers, electric or non-electric; meat choppers [hand tools]; scissors; vegetable knives;vegetable shredders; blades[hand tools]; paring knives; tableware[knives,forks and spoons]; knives.」
第11類「Cooking utensils, electric; cookers; stoves; roasting apparatus; pressure cookers [autoclaves], electric; kitchen ranges [ovens]; coffee machines, electric; microwave ovens [cooking apparatus];coffee percolators, electric; kettles, electric.」
第21類「Utensils for household purposes; tableware, other than knives, forks and spoons; kitchen containers;cooking pots; cutting boards for the kitchen; kitchen utensils; cooking utensils, non-electric; noodle machines, hand-operated; food steamer with several trays; glassware for everyday use, including cups, plates, kettles and jars; porcelain for everyday use, including basins, bowls, plates, kettles.tableware, jars. jugs and pots; pottery for everyday use, including basins,bowls, plates, jars, jugs, pots, marmites, kettles and ceramic tableware; drinking vessels; liqueur sets.」
国際登録日:2017年4月10日
指定国: オーストリア、欧州、インド、日本、韓国、ノルウェイ、シンガポール、スイス、ロシア、ベトナム

第3 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第23号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
(1)引用商標の周知性について
請求人は、中華人民共和国(以下「中国」という。)の法律に基づき2011年3月30日付にて設立された会社であり、刃物、工芸品、日用品等を販売することを営業範囲としている(甲3の1)。
請求人は、「料理の力で生活を豊かに」という命題のもとで、日本を始め、イタリア、ドイツ、スイス、カナダ、スペイン、ベルギー、アイルランド、中国等世界10か国において21の生産業者より台所用品を仕入れて販売している(甲3の2)。
例えば、請求人は、ドイツの刃物関係の老舗企業(「Muller & Schmidt Pfeilringwerk GmbH & Co.KG」)と本件商標の登録出願日以前である2016年7月13日付けで独占販売契約を結び(甲3の3)、それ以降、「東味西厨/GREAT COOK」商標を付した同社製の包丁を中国内における独占販売者として地位にあり(甲5の1)、請求人の登録商標「GREAT COOK」を付した包丁(1,160個)を仕入れて販売している(甲3の4?甲3の6)。
また、多数のデザイン賞を受賞している優れた評判を有するスイス企業(「Peel Appeal GmbH」)と本件商標の登録出願日以前である2016年7月1日付けで独占販売契約を結び(甲3の7)、ピーラーやすり下ろし等1,000個以上の商品を仕入れて販売している(甲3の8?甲3の10)。
さらに、日本からは、後述するように、被請求人等より販売委託を受け日本製の商品を仕入れて販売している。
請求人は、北京の百貨店6か所に直営店を運営する等、中国において積極的に引用商標を店舗に付すとともに、上述のように各国から仕入れた引用商標が付された商品を販売及び販売促進している(甲3の2)。
また、請求人は、本件商標の登録出願以前である2013年より中国「北京賽特買物百貨店」(甲4の1?甲4の6)、「北京藍島大廈有限責任公司」(甲4の7、甲4の8)、「北京居然尚屋家居用品有限公司」(甲4の9)、2014年より「北京燕莎友誼百貨店」(甲4の10?甲14の12)、「北京金源新燕莎モール」(甲4の13)、2016年より「西安世紀金花」(甲4の14)、「ハイセンスプラザ」(甲4の15)等と次々と販売契約を結び、各百貨店等に実店舗を構えている。
「北京賽特買物百貨店」では、2016年1月には119,872.20人民元、同年2月には79,894.50人民元、同年3月には83,065.70人民元、同年4月には37,412.90人民元、同年5月には97,570.05人民元、同年6月には102,170.10人民元の販売額を達成している(甲4の16?甲4の21)。
さらに、同百貨店における引用商標1に関する商品の総売上は、2015年4月1日?2018年2月28日の間,全体の4,338,067.47人民元(およそ7,400万円)の約9割以上を示す4,025,884.77人民元(およそ6,900万円)に至っている(甲4の22?甲4の23)。
各店舗のデザインは、ブラウンを基調とした高級感あふれる色彩でデザインを統一し、請求人の引用商標をロゴ化した「東味西厨/GREAT COOK」を表示している(甲3の2、甲5の1?甲5の6)。
また、各国のメーカーより仕入れた販売商品及びそのパッケージには、引用商標が印刷又は彫刻された状態で販売されている(甲6の1?甲6の6)。
請求人は、自社ブランドを知らしめるために、上述の積極的な販売活動を行うのみならず、宣伝広告の一環として国際展覧会にも参加した。
例えば、ドイツ(フランクフルト)、日本(東京)、インド(ニューデリー)等で開催される業界展示会に参加した。また、世界一の規模を誇る国際日用品展覧会「Interior Lifestyle China」が中国上海で開催された際には(甲7の1)、請求人は、2015年と2016年と2年連続で展覧会に出展した(甲7の2?甲7の7)。
この展覧会は日本貿易振興機構(ジェトロ)がウェブサイトにて概要を案内するとともに公式ウェブサイトへのリンクも貼って紹介しており、業界における日本企業に周知しているものであり、実際に日本企業も多く参加している国際イベントである。
本展覧会は、2015年には、世界14か国より379社が出展し、世界60か国より20,610人が来場し(甲7の5)、2017年には世界19か国より395業者が出展した(甲7の1)と報告されている。
請求人は、この展覧会において、「東味西厨/GREAT COOK」商標を付したブースを設置し、「東味西厨/GREAT COOK」商標を付した鍋等調理器具を利用して料理の実演をしながら、請求人の商品を宣伝した(甲7の3?甲7の5)。また、2016年度パンフレットには、商品写真及び「東味西厨」を積極的に表示し(甲7の6)広く配布した。このように、請求人の商標を知らせるため、出展費などの宣伝広告費を支出している(甲7の6、甲7の7)。
さらに、請求人は、2016年に北京で行われた「Fashion Beijingshow」(甲7の8)、2017年3月9日にはニュージーランド料理人との交流会に参加した(甲7の9)。
請求人は、2017年3月23日付けで「NEW ZEALAND MESSENGER/新報」(甲7の10)、雑誌「中国烹●/Chinese Cuisine」(●は「しょくへん」に「壬」の漢字。以下同じ。)との共催で2017年6月、8月、12月にイベントを開催し、その活動は、同雑誌の同年7月号、9月号、2018年1月号に掲載された(甲7の11?甲7の16)。
以上より、引用商標は、本件商標の登録出願当時(2016年11月30日)には、既に、請求人の業務に係る商品である「台所用品」等を表示するものとして、少なくとも中国国内の需要者に広く知られており、日本においても台所用品や日常用品を取扱う業界にはある程度認識されていたというべきものである。
(2)商標法第4条第1号第19号該当について
ア 本件商標と引用商標の類似性
本件商標は、漢字「東味西厨」と欧文字「GREAT COOK」で構成されており、その各構成要素はいずれも請求人が本件商標の登録出願日(2016年11月30日)以前の2013年2月から中国で自社の取扱商品及び役務を示す商標として積極的に使用しているものと同一である。また、使用されている商標はいずれも中国において商標登録されている。
本件商標の各構成要素を引用商標と比較してみると、本件商標の漢字部分「東味西厨」は、引用商標2ないし引用商標5及び引用商標1、引用商標10ないし引用商標13の漢字部分と文字列及び構成が同一である。
次に本件商標の欧文字部分「GREAT COOK」は、引用商標6ないし引用商標9及び引用商標1、引用商標10ないし引用商標13の欧文字部分「GRAET COOK」とその文字列、「GREAT」と「COOK」の間のスペース及び構成が同一である。
また、本件商標は、引用商標1、引用商標12、引用商標13とその漢字要素及び欧文字要素が同一であり、引用商標1に至ってはその配置までもが完全に同一である。本件商標と引用商標1は、極めて高い類似性を有する。
本件商標の指定商品は、引用商標4、引用商標8、引用商標12、引用商標13と同一区分であり、商品も同一又は類似関係にある。
以上より、本件商標と引用商標は、商標の構成要素、配置等が全てにおいて共通しており、互いに類似しており、また、本件商標の指定商品と役務は、引用商標4、引用商標8、引用商標12、引用商標13と同一又は類似関係にあり、出所の混同が生じることは明らかである。
なお、世界最大検索サイトのグーグルで「東味西厨」と検索をしてみると、「東味西厨」に関する検索結果が表示され(甲8の1)、四つの漢字の組合せが一致する検索結果は、請求人に関する業務のみが表示されている(甲8の2?甲8の7)。実取引においても、本件商標は、引用商標との間、出所の誤認混同を生じ得る可能性が極めて高い商標である。
イ 引用商標の周知性の程度
既述のとおり、引用商標は、請求人の業務を表すものとして、中国国内において店舗、商品、包装等において積極的に使用されてきており、一定の周知性を獲得している。
不正の目的
(ア)被請求人に関する情報
被請求人は、平成24年(2012年)2月8日に設立された日本法人であり、「1 貿易、輸出入及びこれらに関するコンサルティング業務、2 文化・教育事業に関する物品の販売、出版、企画、運営及び仲介、3 企業の海外進出、企業買収、合併、提携、技術提携、営業権譲渡、新材料開発及び環境保護事業に関するコンサルティング、仲介及び斡旋等」を目的とし、取締役は、「石川 晴美」氏、「青木 雅一」氏と「張 金秋」氏の3人からなる(甲9の1)。
被請求人は、設立から6年以上が経過しているが、インターネット上で検索する限り、本企業の企業活動に関する具体的な情報は一切発見することができない(甲9の2)。なお、グーグルのストリートビューによると、被請求人の住所には、「有限会社ファミール石川」という会社が存在しているものの、被請求人の本店の表示はなく、実体のない名目上設立された可能性が高い(甲9の3)。
一方で、中国の北京には、請求人が直接取引関係にある「北京日工投資有限公司」(以下、「北京日工投資」という。)及び「北京日工科貿有限責任公司」(以下、「北京日工科貿」という。)がある。
「北京日工投資」は、2010年8月23日に成立された中国企業であり、その営業範囲は、「投資、投資管理、投資コンサルティング、経済貿易コンサルティング、商品設計、代理輸出入など」である。本会社の株主は、「張 金秋」氏及び「徐 子涵」氏である(甲10の4)。被請求人の役員である「張 金秋」氏と同姓同名の者がこの企業の株主である。
「北京日工科貿」は、1999年9月21日に設立された中国企業であり、「建築装飾材料、化学品、金属材料、家具、工芸品、百貨などの販売等」を営業目的とする。この会社の株主は、「張 金秋」氏と「刈 凱」氏であり、特に被請求人の役員である「張 金秋」氏と同姓同名の「張 金秋」氏がこの企業の法定代表人であり、執行理事及び総経理も務めている(甲10の5)。
以上のとおり、被請求人の取締役である「張 金秋」氏は、先に設立された上述の2つの中国企業の株主であり、北京日工科貿の法定代表人でもある人物と同姓同名である。なお、後述するとおり、その他の重要な構成要員名もこれらの会社では共通している。
(イ)請求人と被請求人等との関係
被請求人は、以下に述べるaないしcの日本企業の中国総代理店又は正規商品の取扱者である。一方で、請求人は、aないしcを含み、五つの日本企業の商品を「北京日工投資」より許諾を得て、契約期間の満了まで中国で販売等をしていた。
a 長谷製陶株式会社
b まるは油脂化学株式会社
c 株式会社フェラミカ
d 丸章工業株式会社
e 錦見鍛造株式会社
上述のように、請求人は、日本より商品を仕入れ、中国でその商品を販売するに際しては「北京日工投資」を介して中国総代理店又は正規商品の取扱者である被請求人の販売許諾を得て、複数にわたって商品を日本より調達している(甲10?甲14)。
「北京日工投資」が発行した委託書はいずれも首席執行官「青木雅一」氏が署名している(甲10の3、甲11の3、甲12の2、甲13の3、甲14の3)。この者は被請求人の取締役の一人である「青木雅一」と同姓同名である(甲9の1)。複数の関係者が共通する事情及び取引関係等にかんがみ、被請求人と「北京日工投資」の「青木雅一」を同一人物と判断するのが妥当である。
以上のとおり、被請求人の取締役3人中、2人の「青木 雅一」氏、「張 金秋」氏が「北京日工投資」及び「北京日工科貿」の株主、法定代表者又は首席執行官であることから、被請求人は「北京日工投資」とは、人的構成を共有する実質同一であると判断される。
さらに、以上の取引事情から、「北京日工投資」が単独、被請求人が単独又は「北京日工投資」等と共有する中国における総代理店の地位に基づき、請求人に商標の使用許諾及び販売委託していたことがわかる。
つまり、被請求人と「北京日工投資」は、授権関係を証明するまでもない実質同一として請求人と商取引を行ってきた。
以上からすると、被請求人が請求人の存在を知り、同社に対して販売委託等を行うことを承知していたと判断するのが妥当である。
(ウ)不正な目的について
請求人は、実質的に被請求人の権限に基づく許諾を得て商品を取り扱い、その商品に自社商標として引用商標を使用してきたので、被請求人及び「北京日工投資」は、請求人の引用商標を知っていたと考えるのが自然である。
なお、請求人は、「北京日工投資」による授権委託については相手方の対応に問題が生じたため、契約更新せずに、2016年4月30日付けで満了させている(甲10の2、甲11の2、甲12の1、甲13の2、甲142)。
その後、被請求人は、請求人の使用態様とほぼ同一の商標を請求人の取扱商品「台所用品(「ガス湯沸し器・加熱器・調理台・流し台」を除く。)」(第21類)及びそれと関連する小売・卸売業「台所用品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(第35類)を指定して本件商標出願を行っている(甲1)。
つまり、被請求人は、本件商標出願をする前に、中国で知られている請求人の商標及びその商標の価値を知りながら、請求人が日本に出願をしていないことを奇貨として、代理店契約締結を強制する目的等不正の目的で商標出願を行ったことが容易に推測される。
さらに、「北京日工投資」は、日本のみならず、中国においても請求人を含む総代理店の権限を付与した企業が使用する商標を数回にわたって商標登録を図っていた事情が認められる。
a 「北京日工投資」は、「まるは油脂化学株式会社」(甲11の1)が使用してきた「七色石鹸」(甲15の1)という商標を第3類を指定して2013年9月17日付けで中国商標局に登録出願を行っている(甲15の2)。
b 「北京日工投資」は、「丸章工業株式会社」(甲13の1)の商標登録第5010899号「silky」(甲13の4)と同じ文字から構成された文字商標「silky」という商標を第8類を指定して中国商標局にて2017年2月21日付けで中国商標局に登録出願を行っている(甲15の3)。
c 「北京日工投資」は、「長谷製陶株式会社」(甲10の1)の社名を含む「長谷製陶」を簡体字とした「長谷制陶(長谷圀)」(「長」は簡体字)という商標を第21類及び第35類を指定して2017年2月21日付けで中国商標局に登録出願を行っている(甲15の4?甲15の5)。
d その他に「北京日工投資」は、地域団体商標「伊賀焼」(登録第5433118号)の簡体字による文字商標「伊賀焼」(「賀」及び「焼」は簡体字)を第21類及び第35類を指定して2017年2月21日付けで中国商標局に登録出願を行っている(甲15の6、甲15の7)。
e さらに、「北京日工投資」は、請求人の引用商標2ないし引用商標5及び引用商標10ないし引用商標13の漢字部分と全く同一商標を、請求人がまだ登録を確保していない第16類、第20類、第35類を指定して、2017年2月21日付にて中国商標局に登録出願を行った(甲15の8?甲15の10)。第35類に関する出願は拒絶されたものの、第16類及び第20類の商標は、出願公告されていたため、請求人は、中国商標に対して異議申立を2018年4月4日付けで提出している(甲15の11、甲15の12)。
以上からすると、「北京日工投資」は、総代理店契約を結ぶ日本企業等が中国に商標登録がないことを奇貨として中国商標局においても商標出願を行っている悪質企業であることが明らかである。
その「北京日工投資」と実質同一と思われる被請求人は、請求人と「北京日工投資」との授権委託が満了した2016年4月30日以降、その契約を更新する目的として、文字の組合せに創作性のある引用商標らと実質同一の商標を出願したと解釈されるのが自然である。
エ まとめ
上述のように、請求人と中国内販売委託契約を結んだ「北京日工投資」と実質同一である被請求人は、中国内販売委託契約が満了された以降、その契約を更新するなどの不正の目的を有し、中国及び日本の両国にわたって請求人の創作性のある商標をそのまま登録しようとしたことから、被請求人が、不正の目的を持って、請求人の中国周知商標を出願したとことは明らかである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
(3)商標法第4条第1号第7号該当について
被請求人は、請求人との中国内販売委託契約を結んだ「北京日工投資」と実質同一、少なくとも業務上の関わりがあり、本件商標の登録出願前に請求人の引用商標を知っていたと思われるのが自然である。よって、請求人と「北京日工投資」との契約関係が満了した後、請求人の引用商標と同じ文字構成を有する商標を出願する行為は、社会的妥当性を欠くものであり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして、容認すべきものではない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(4)結論
以上より、本件商標は、商標法第4条第1項第19号及び同第7号に該当し、登録要件を欠くものであるから、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。
2 答弁に対する弁駁
(1)本件商標について
本件商標は、2013年2月に請求人のマーケティング職員が請求人の要望に基づき創作し(甲2の1、甲16の1?甲16の9)、中国国内で使用を続け信用を構築した請求人の商標とほぼ同一ともいえる程度、酷似する商標であり、被請求人が創作したとの主張は失当である。
被請求人は、その取締役である「張 金秋」氏が2010年に本件商標を創作、企画した商標として、ブランド名のコンセプト、販売方法、ブランドの特徴を述べている。
しかしながら、被請求人は、その取締役が自ら創作、企画したと主張しているものの、それらが事実であることを裏付ける証拠は何ら提出されておらず、全く根拠のない主張となっている。
さらに、被請求人が設立された時期とその営業活動からすると、被請求人の主張が正当とは到底思われない。被請求人は、本件商標の販売方法として「中国の大都市、北京・上海・広州・重慶など、及び日本における中国人旅行客に人気の高い、北海道・箱根・京都などに本件商標を利用したチェーン店を展開する」ことを2010年に構想したと述べている。
しかし、被請求人は、その構想時期から数年後である平成24年(2012年)2月8日に設立された日本法人であり、その設立の目的には、被請求人が構想したと主張する厨房用品の販売やチェーン店の展開が具体的に明記すらされていない(甲9の1)。
また、会社の設立登記に際して被請求人が掲げた目的や自らが答弁書において述べている設立後のビジネス内容(甲9の1、甲10の1、甲11の1、甲12の1、甲13の1)から、被請求人が取得すべき商標権は、本件商標の指定商品及び指定役務はなく、第35類の「商品の販売に関する情報の提供、輸出入に関する事務の代理又は代行」、第29類「食用魚介類(生きているものを除く。)」である。しかし、第35類の役務商標や取扱商品に関する商品商標を出願すらすることなく、被請求人が本件商標を指定商品・役務との関係においてわざわざ登録している事実、請求人との契約が終了した後に出願している事実を考慮すると、請求人の国内市場参入を阻止する又はそれに伴い自らは利益を得るためなどの不正な目的をもって、本件商標を出願したと理解するのが自然である。
(2)請求人の引用商標の周知性の程度
ア 請求人の店舗について
請求人は、2013年から北京に実店舗を構えており具体的には、2013年6月8月から「北京居然尚屋家居用品有限公司」と契約を交わし(甲4の9)、中国国内のデザイン事務所に店舗デザインを依頼し(甲17の1?甲17の6)、2013年7月から「北京居然尚屋」に店舗を開業している(甲17の7?甲17の9)。その店舗は、ドイツの有名台所ブランド「WMF」の隣に位置しており(甲17の7)、イタリアの陶器鍋、スイスの「JURA」ブランドのエスプレッソマシン、アイスランドのブランド「Ulster Weavers」のエプロン等の商品を取り扱っている(甲17の7?甲17の9)。
請求人は、「北京賽特ショッピングモール」(甲4の1?甲4の6)、「北京藍島大厦有限責任公司」(甲4の7、甲4の8)、2014年より「北京燕莎友誼百貨店」(「誼」は簡体字:甲4の10?甲4の12)、「北京市・北京金源新燕莎モール(甲4の13)、2016年より「西安世紀金花ショッピングモール」(甲4の14)、「天津ハイセンスプラザ」(甲4の15)等の店舗を構えている(甲17の10?甲17の13)。
被請求人が指摘するとおり、「北京藍島大厦有限責任公司」は、2014年に閉店しており、2018年8月の時点では運営されていない。ただ、その後、請求人は、2018年、2019年に北京において店舗を追加している(甲17の14、甲17の15)。
被請求人は、北京市が、約2,000万人の人口を有し、東京都の約1,300万人を上回る世界有数の大都市であるにもかかわらず、請求人の店舗がたった5軒の施設にテナントとして入っているにすぎないと述べている。 しかしながら、請求人の取扱商品は、日本を初め、イタリア、ドイツ、スイス、カナダ、スペイン、ベルギー、アイルランド等世界10か国から仕入れている商品であり(甲3の2?甲3の10、甲5の1)、いずれも低価格の汎用台所用品ではなく、高級台所用品である。つまり、請求人は、高級台所用品を販売すべく中国の北京市内に実店舗を7軒も構えているといえる。
例えば、世界的な台所用品ブランドの東京都内の店舗数を見てみると、ドイツの「フィスラー(fissler)」は百貨店に20店舗、その他の商業施設に4店舗(甲18の1)、ドイツの「WMF」は10店舗(甲18の2)、ドイツの「ツヴィリング(TWILLING)」は直営店2店舗及びアウトレット2店舗(甲18の3)、フランスの「ティファール(T-FAL)」は、直営店とアウトレットをそれぞれ1店舗ずつ東京都に構えている(甲18の4)。
北京は東京都より人口は多いものの、2015年1月時点においてアメリカのシンクタンクであるブルッキングス研究所より公表された域内総生産(GDP)の統計によると、2014年の域内総生産が5,061億米ドルである一方、東京(首都圏)は16,170億米ドルであり、北京より約3倍の規模を誇っている(甲18の5)。
してみると、北京市内で高級台所用品を販売する実店舗を7軒も運営していることは、決して少ないともいえず、むしろ請求人の商品の需要者である北京市内の富裕層を考慮すると、請求人の商標として知られるに足りる十分な店舗を有している。
また、被請求人は、請求人の店舗が2017年中国大陸大規模小売店売上高トップ20に入っていないことを指摘している。しかし、そもそも請求人の商品は高級品であり、大規模の小売店に出店する必要はないものである。実際に、請求人の店舗は、被請求人の主張と異なり、萬柳商圏、公主墳商圏、金融街商圏、朝外商圏、燕沙商圏、木梶園商圏など、売上トップ20商圏の中に6か所に店舗を構えている。また、請求人の需要者は、中国人であり、日本の有名ガイドで紹介されていないことをもってして請求人の商標が中国国内で知られていないという裏付けにはならない。
請求人の店舗がある「北京燕莎友誼商城」は、実際に「CHAUMET」や「MONTBLANC」のような高級ブランドが出店しており、台所用品ブランドとしては海外ブランドである「WMF」、「ツヴィリング(中国語:双立人)」。「フィスラー(fissler)」を有する(甲18の6)。また、「天津ハイセンスプラザ」は、「DIOR」、「GUCCI」、「VERSACE」などの高級ブランドが出店しており、台所用品は、同じく海外ブランドである「WMF」、「ツヴィリング(中国語:双立人)」、「フィスラー(fissler)」が出店している商業施設である(甲18の7?8)。
以上からすると、請求人は、少なくとも高級台所用品を取り扱う可能性の高い場所に出店しており、中国国内の需要者に十分に知られる環境にあることに疑いはない。請求人は、北京を始め中国国内に請求人の店舗を増やす努力をしつつ(甲18の9)、また、その努力が認めており、複数の賞を受賞している(甲18の10)。
イ 展示会について
請求人は、中国上海で開催された国際日用品展示会「Interior Lifestyle China」に2015年、2016年に2回にわたって参加した。本展示会は、ドイツで2番目の規模を持つ展示場の運営会社「メッセフランクフルト」社が開催し(甲19の1)、世界最大のBtoB消費財見本市「Ambiente(エビエンテ)」の姉妹見本市として、毎年、日本(東京)、インド(ニューデリー)、中国(上海)等で開催されている(甲19の2)。
本展示会は、2015年には、世界14か国より379社が出展し、世界60か国より20,610人が来場している(甲7の5)。また、2017年には世界19か国より395業者が出展した(甲7の1)と報告されている。さらに、2019年の情報によると、2018年には来場者数23,570人、出展者437社である(甲19の3)。また、2019年にも、世界各国からの参加が予測されている(甲19の4?7)。
つまり、日本からの出展者の数により本展示会の権威が決まるものではなく、本展示会は、中国を始め世界的に権威のある最大規模の消費財の見本市である。その見本市に、請求人が、2015年と2016年に2回もブースを出展している事実は、使用の意思をもっていること、そして積極的に使用していることを裏付ける証拠ともいえる。
以上からすると、被請求人の主張には、何ら根拠がなく、請求人の商標が、少なくとも中国国内の需要者に広く知られており、日本において、台所用品を取り扱う業界にはある程度認識されていたというべきものである。さらに、請求人の活動は、北京電視台(BTV)と中国中央電視台(CCTV)の国営番組に紹介された(甲19の8)。
(3)被請求人と請求人との関係について
ア 被請求人について
被請求人は、企業として経済活動を行っているかもしれないが、その業務内容は、いずれも他人が製造した日本製品を中国に販売するという貿易取引、特に、輸出に関わるものにすぎない。つまり、答弁書において本件商標の創作及び企画の正当性を主張しているものの、自らブランドを構築し、その販売を行うべく店舗を構えるような業務は行っていない。
さらに、被請求人が設立以降、現在まで本件商標を使用した事実は答弁からも見いだせない(乙2の1?10)。
以上のとおり、被請求人は、そもそも使用を意図して本件商標を登録出願したとは言い難く、被請求人が主張する取締役「張 金秋」氏が本件商標を創作・企画したという主張は何ら裏付けがなく本件商標の登録を正当化するために作り出した説明にすぎない。
一方、請求人は、2012年8月から2013年2月までの6か月の間にマーケティング職員を台所用品のブランドデザイナーに任命し、商標の意味、書体、色彩の全てにこだわった請求人の商標のデザイン図案をいくつか創作させ、2013年2月からは、それらを会社のロゴとして使用してきており(甲2の1、甲16の1?9)、本件商標の真正な権利者であることを裏付けている。
イ 請求人と被請求人との経緯
(ア)被請求人は、請求人が主張する請求人の商標の創作日2013年2月(甲2の1)の2年以上前の2011年初めから、被請求人等は、被請求人が創作した「東味西厨」のブランド構想を元に日本国内メーカーと契約し輸出を始めていると述べている。しかしながら、被請求人は、答弁書にて主張している2011年初めからの契約及び輸入行為について自ら何ら証拠を提出していない。
請求人が提出した証拠によると、2011年に北京日工投資が「丸章工業株式会社」及び「錦見鍛造株式会社」より中国国内での総代理店契約として権限が付与されたこと(甲13の1、甲14の1)、2013年に被請求人等が「長谷製陶株式会社」及び「まるは油脂化学株式会社」より中国国内での総代理店契約として権限が付与されたこと(甲10の1、甲11の1)は認定できる。しかし、被請求人が主張するように「東味西厨」のブランド構想を元に輸出を始めたことは何ら裏付けられていない。
なお、請求人と被請求人等は、商標の使用許諾を含む販売委託契約を結んでいるが、商標の使用許諾の内容には、例えば、商品を提供する長谷製陶株式会社の日本登録商標第8602524号「iga-mono」の商標を同社の商品に使用する権限を与えており、本件商標の使用許諾に関する条項は、一切規定されていない(甲10の3、乙2の11)。
被請求人が主張するとおり、中国で店舗を展開する目的で本件商標を創作した場合、被請求人は商標の使用に関する許諾を販売委託契約内に規定すべきであることは確立した商慣習である。しかしながら、本件商標の使用許諾に関して何ら証拠が提出されていない。証拠を提出できないという事実は、そもそも本件商標は、被請求人の商標ではないことを示すものである。
一方、請求人は、請求人の商標を付した自社商品販売をも念頭にして、鍋やパッケージデザインにもこだわり(甲20の1?甲20の3)、2013年5?6月時点で請求人の商標を付したまな板や鍋を製造依頼し(甲20の4、甲20の5)、それらの自社商品とイタリアの銅器鍋、エスプレッソマシン、アイルランドの「U1ster Weavers」等の商品を展示・販売しており(甲17の10?甲17の13)、日本製の土鍋、スイス製のピーラー、ドイツ製の包丁、ベルギー製の銅鍋、イタリア製の土鍋など多様な商品に請求人の商標を付して販売している(甲3の2?甲3の10)。
(イ)被請求人は、「請求人が一年以内に請求人の株式の一部を北京日工投資に譲渡するという条件の下に日本企業の製品の販売を委託」し、また、「東味西厨」の名称及び企画したビジネスプランを請求人が使用することを許可し、店舗を開くことに同意」したと述べている。
上述したとおり、商標及びビジネスプランの使用を許可する場合、その内容を契約書で作成することは確立した商慣習である。特に株式の一部を譲渡する条件の下に日本企業の製品の販売を委託する場合、権利の帰属に関する重要な事項を委託書にその内容を規定しないことは到底想像できない。しかしながら、被請求人は、これらを裏付ける証拠を全く提出していない。
請求人は、被請求人との授権委託契約を被請求人の対応に問題が生じたことを理由として、契約更新せず、2016年4月30日付けで満了させている(甲10の2、甲11の2、甲12の1、甲13の2、甲14の2)。具体的には、被請求人が提供した商品に関するアフターサービスを円滑に提供しなかったため、請求人は、契約を終了し、在庫を処分している(甲20の6?14)。
しかし、その後、被請求人は、本件商標を登録出願している。請求人が日本に出願をしていないことを奇貨として、代理店契約締結を強制する又は請求人が日本市場に参入することを阻止する目的等の不正の目的で商標出願を行ったのは容易に推測される。
(4)請求人が主張する被請求人の不正な目的について
被請求人は、2010年に本件商標を構想した旨述べている。しかしながら、被請求人はそれから約6年である本件商標の登録出願前まで全く使用や権利化をしておらず、請求人との授権委託契約が満了後、本件商標を登録出願している。
一方、請求人は、請求人の商標を創作した2013年2月以降(甲2の1)、日本を初め、イタリア、ドイツ、スイス、カナダ、スペイン、ベルギー、アイルランド等世界10か国から仕入れた商品に請求人の商標を付し、北京、西安、天津の店舗で販売をしている(甲3の2?甲3の10、甲4の1?甲4の23、甲5の1?甲5の6、甲6、甲17の7?甲17の15)。
被請求人が本件商標の登録出願時に請求人が中国内で本件商標を使用している事実を知っていたことには争いがない。被請求人は、請求人が日本に出願をしていないことを知りながら、本件商標の登録出願をしたことは容易に推測される。
また、被請求人は、中国で本件商標の登録出願を行っているが、その出願は主張しているビジネス構想を裏付けるものではなく、本件商標とは関係のない第16類、第20類を出願している(甲15の8、甲15の9)。全く関係のない区分に商標出願を行うことは、請求人の商標権が拡大されることを阻止する目的で出願したとしか思えない。
このような事実を総合的に考慮すると、被請求人は、使用の意思が全くなく、少なくとも請求人が商標権を取得することを妨げ、何らかの経済的な利益を得るために商標出願を行っていることが容易に推測される。
また、被請求人は、請求人が挙げた日本企業から総代理店又は特約販売店としてすべての事務的作業を全権委託されたと述べているが、商標権は、財産権の一種であるにも関わらず、被請求人は、自社名義で日本企業の商標を中国で出願している(甲15の3?甲15の7)。日本企業の名義で中国商標権を取得するのはまだしも、自社の名義で商標権を取得する行為は、事務的作業とはいえず、委任事項の範囲を超えた不正の目的による行為である。
北京日工投資が自社の名義で中国出願した「長谷製陶(長谷園)」(中国商標出願番号:22879286号)は、実際に「長谷製陶株式会社」名義の先行商標により拒絶されており、被請求人は日本企業より商標出願に関する許諾を十分に得ず出願をしたかもしれない(甲15の4?甲15の5)。また、北京日工投資が自社の名義で中国出願した「七色石鹸」(中国商標申請番号:13253474号)、「silky」(中国商標申請番号:22879285号)、「伊賀焼」(「賀」及び「焼」は簡体字:中国商標申請番号:22879283号)も全て拒絶に至っている(甲15の2、甲15の3、甲15の6、甲15の7)。日本企業より正式に受任されたとしたら、全ての商標出願が拒絶となることは通常ではない。
一方、北京日工投資が上演したプレゼンテーションの資料は、日本企業の商品を説明しているが、本件商標を示すようなものは一切記載されていない(甲22の3)。さらに、商品説明の際には、本件商標が請求人の商標であることを言及しており、その音声記録が保存されている(甲22の4)。
以上からすると、被請求人は、本件商標の登録出願前に請求人の商標を知り、請求人の商標が登録されていないことを奇貨として、被請求人が自認するとおり、請求人が日本市場に参入することを阻止するため出願したことには間違いがない。
(5)商標法第4条第1項第7号について
上述したとおり、被請求人は、本件商標の登録出願前に請求人の商標の存在や請求人が請求人の商標を積極的に使用してきた事実を知っていたことに間違いない。被請求人は、請求人の商標を知らせる努力を知りながらも、請求人との契約関係が終了した後まもなく使用予定のない商標を登録出願し、請求人の市場参入を阻止している。
商標法は、使用により蓄積された信用が化体された商標を保護することを法目的としているところ、世界各地より商品を仕入れ、北京を含む3か所の都市において実店舗を運営し、2012年以降、実際に商標を使用してきた請求人の信用を保護すべきである。被請求人の商標登録行為は、社会的妥当性を欠くものであり、商標法が予定する秩序に反するものとして容認すべきではない。
3 令和元年11月7日付け上申書
北京日工投資は、引用商標2ないし引用商標5及び引用商標10ないし引用商標13の漢字部分と同一の商標を第16類、第20類及び第35類を指定して2017年2月21日付けで中国商標局に出願を行い(甲15の8?甲15の10)、そのうち、第35類は拒絶されたものの、第16類及び第20類は出願公告に至ったため、請求人は2018年4月4日付けで中国商標出願第22879287号に対して異議申立てを提出した。
この中国異議申立てについて、中国商標局は、請求人(異議申立人)が提出した証拠に基づき、北京日工投資(被異議申立人)は、引用商標を知った上で異議申立人の独創的な商標の中国語部分をのまま出願したことを認定し、その行為は、「詐欺手段又は他の不正な手段」に該当するとして北京日工投資の商標出願を拒絶する旨決定し、請求人の本国において、「張 金秋」氏が株主である「北京日工投資」が出願した商標は、請求人の商標を知った上で、詐欺手段又は他の不正な手段によって出願したことが明らかになった(甲10の4、甲23)。
以上の商標局の決定から明らかなように、答弁書における、被請求人の取締役である「張 金秋」氏が本件商標を創作した旨の主張は失当である。

第4 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第5号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 本件商標について
2010年、被請求人の取締役である「張 金秋」氏が新奇なブランド名称及びビジネスプランを創作、企画した。それが「東味西厨GREAT COOK」である。
(1)ブランド名「東味西厨GREAT COOK」のコンセプト
「東味西厨」という漢字四文字の組合せは、東洋の味覚と西洋式の清潔で合理的なキッチンの融合を意味する。「GREAT COOK」の英文字は、ただ単に料理の技術や道具の良し悪しだけではなく、食育によって人々をいかに幸福にできるか、という意味が込められた名称である。日本製のキッチン用品の多くが、まさにこのコンセプトにふさわしい東洋の伝統的様式と高い品質及び安全性を兼ね備えていることから、被請求人は「東味西厨GREAT COOK」のブランド名によって日本製の台所用品を販売することを思いついた。
(2)販売方法
中国の大都市、北京・上海・広州・重慶など、及び日本における中国人旅行客に人気の高い都市、北海道・箱根・京都などに「東味西厨」のチェーン店を展開する。
(3)ブランド「東味西厨GREAT COOK」の特徴
・日本製の高級かつ伝統的な台所用品だけを扱う。
・品質の高い製品を提供するだけでなく、日本の食文化を広め、文化を育成する。
2 請求人の引用商標の周知性の程度
(1)請求人の店舗について
請求人が運営する店舗は6店舗(甲4の1?甲4の15)であるが、被請求人の調査によれば、請求人の店舗として、下記のとおり北京市に5店舗、西安市に1店舗、天津市に1店舗と、計7店舗を確認した。いずれも百貨店やショッピングセンターなどのテナントである。
ただし、2018年8月の現時点で、請求人が契約を交わしているとする「北京藍島大厦有限責任公司」(甲4の7、甲4の8)の経営するショッピングモール内での出店は確認されていない。
開業している7店舗のうち5店舗は北京市内であるが、北京市は、約2,000万人の人口を有し、東京都の約1,300万人を上回る世界有数の大都市である。今から8年前の2010年時点で、北京市内の床面積1万平方メートル以上の中型・大規模商業施設は300軒を超えている(乙1の1)。請求人の店舗は、その中のたった5軒の施設にテナントとして入っているにすぎない。
しかも、請求人の店舗が入っている百貨店やショッピングセンターはいずれも、2017年中国大陸大規模小売店売上高トップ20(乙1の2)に入っていない。また、日本の有名旅行サイトで紹介されている北京の有名デパート、ショッピングスポットにも名前が挙げられていない(乙1の3)。
請求人の引用商標を冠する店舗がテナントとして入っている商業施設は、全国的に売上が上位にある又は日本の旅行サイトでも紹介される中国で最も名の通った全国規模の大規模商業施設とはいえず、主に北京市という限られた地域の中の、さらに店舗数としては、5店舗という都市の規模に比してかなり少ない出店数である。また、テレビ・ラジオ・新聞等のマスメディアを用いたコマーシャルもないことから、引用商標の知名度は北京市内という限定的な地域内でさえ大変低いものである。
(2)展示会について
審判請求書において、請求人が参加したと記述される展示会について、具体的な名称が挙げられているのは、上海で開催された国際日用品展示会「Interior Lifestyle China」(以下「同展示会」という。)のみで、展示会に関する写真、パンフレット、出展料の納付などの証拠はすべてこの展示会に関わるものである(甲7の1?甲7の7)。その他のドイツ(フランクフルト)、日本(東京)、インド(ニューデリー)等で開催され、請求人が参加したという業界展示会の証拠は一切提示されていない。
同展示会は年に1回の開催で、請求人はこの展示会に2015年、2016年の2回出展し、同展示会は日本貿易振興機構(ジェトロ)がウェブサイトで紹介しているが、これはジェトロが提供する世界中で開催される数多くの見本市・展示会情報(J-messe)のひとつにすぎず、例えば、今年2018年9月に開催される同展示会を検索するためには、2018年8月11日時点で、業種別では生活の748件、開催地別ではアジアの1,044件あるリストの中から探し出さなければならない(乙1の4)。
また、ジェトロの見本市・展示会情報(J-messe)月間アクセスランキング2018年5月、6月、7月分においても、同展示会は、すべての月において上位10位に入っていない(乙1の5)。
同展示会主催者のメッセフランクフルトジャパン株式会社に確認したところ、日本からの出展者数は、2015年は0社、2016年は1社であり、2017年開催分のデータでは、来場者のうち95%が中国国内から、5%が海外からである(乙1の6)。
このように、同展示会は、日本からの出展者がほとんどなく、また来場者も95%が中国国内からである(2017年)ことから、請求人の主張する「業界における日本企業に周知しているものであり、実際に日本企業も多く参加している国際イベント」であるとはいえない。
したがって、同展示会に2015年、2016年の2回参加したことをもって、「日本においても台所用品や日常用品を取扱う業界にはある程度認識されていたというべきもの」ということはできない。
(3)イベントへの参加や新聞、雑誌への掲載について
ア ニュージーランド料理人との交流会と、新聞「NEW ZEALAND MESSENGER/信報」の記事(甲7の9、甲7の10)について
請求人は、2017年3月9日のニュージーランド料理人との交流会への参加と、その交流会の様子を掲載した新聞「NEW ZEALAND MESSENGER/信報」を、その活発な活動の証左として挙げている。
この新聞は、中国語で書かれていることから、ニュージーランドに住む華人を主な読者として発行されているものと考えられるが、記事の内容は、ニュージーランドの南島西海岸を中国人とニュージーランド人のコック8名がニュージーランドの自然と現地の食材を使った料理を通じて交流を深めたことを紹介したもの(乙1の7)で、記事中に請求人の引用商標は一切表記されていない。この交流会への参加及び新聞への掲載は、引用商標の中国国内あるいはニュージーランドにおける周知性には何の関連もない。
イ 雑誌「中国烹●/Chinese Cuisine」のイベントと掲載の記事について(甲7の11?甲7の15)
雑誌「中国烹●/Chinese Cuisine」」は、レストランなどの飲食業界向けの雑誌で、対象とする主な読者はコックや飲食業の管理者又は料理愛好家などである(乙1の8)。
「中国烹●/Chinese Cuisine」を発行する雑誌社は、雑誌の企画イベントとして、食に関するテーマを決め、定期的にセミナーを開催し、いずれも北京で開催されている。
請求人が挙げている2017年7月号掲載のセミナーでは、食事を供する空間をテーマに、空間デザイナーや建築家又は共催のコーヒーショップチェーンの店舗設計者等の専門家が講義をしたり、軽食が提供されたりしているが、このセミナーの参加者(ゲスト)は、「飲食業界、設計業界及びメディア等」と「飲食ブランド」8社である(乙1の9)。
また、2017年9月号掲載のセミナーでは、狂牛病のため2003年来輸入禁止となっていたアメリカ産牛肉がこの年の5月に輸入解禁されホットな話題になっていたことから、協賛企業の「生活空間体験ショールーム」にて、ショールームの見学と、牛肉をテーマにした講義や焼き方の実践及び試食会、牛肉に合うワインの試飲などが行われたが、参加者は、「30名近くの飲食業界人、食の評論家、メディア関係者、熱心な読者等」(乙1の10)である。
この2つのイベントの参加者は、テーマに関する専門家や業界の関係者、食の評論家、メディア関係者、熱心な読者など限定された対象で、参加人数は各イベントにつき30名程度である。
このように雑誌がそもそも飲食業向けの業界紙であることと、イベントの参加人数や開催地点の限定性から、このイベントへの参加や雑誌への掲載が影響を及ぼす範囲は非常に限定的である。
一方、請求人の引用商標は、家庭用キッチン用品を販売する店舗の名称であり、その需要者は一般消費者である。
したがって、雑誌との共催イベントや同雑誌への掲載をもって、引用商標が需要者に広く周知されたとはいえない。
以上(1)ないし(3)によれば、請求人の引用商標は「少なくとも中国国内の需要者に広く知られており、日本においても台所用品や日常用品を取扱う業界にはある程度認識されていたというべきもの」とはいえない。
3 被請求人と請求人との関係について
(1)被請求人について
請求人は、被請求人を「実体のない名目上設立された可能性が高い」と述べているが、それは事実に反する。
被請求人は日本製の台所用品以外に日本製のベビー用品や飲食料品等を輸出し、日本企業の代理として海外における企業の商標の管理や販促活動、コンサルティング業務などを行い、企業としての経済活動及び社会的貢献に努めている。
被請求人の社会的信用の証左として、地元自治体との協力関係が挙げられる。
被請求人は、設立以来の継続的かつ地道な企業活動の結果、地方自治体である静岡県の信頼を得、2015年5月、中国武漢にて開催された中部投資貿易博覧会の静岡県ブースにおける商品の展示や出店に関わる業務を委託され、静岡県内の企業が生産する特産品のアピールに努めた(乙2の1、乙2の2)。
また、2016年には静岡県から、静岡県産ニジマス等プロモーションの業務委託を受け、静岡空港からのニジマスのテスト輸出及び2016年1月22日に静岡県が中国浙江省寧波市にて行った地元政府へのプロモーションのサポート役を務めた(乙2の3?乙2の7)。
2018年7月には、上海で開催されたキッズ・ベビー用品の展示会 「CBME China 2018」のジャパン・パビリオンに、日本貿易振興機構(ジェトロ)の承諾を得た上で出品した(乙2の8?乙2の10)。
(2)被請求人と請求人との経緯
ア 2010年、被請求人の取締役である「張 金秋」氏が、自ら創作・企画したブランド名称及び構想に基づき、販売する商品の情報やデータを収集、選定し、日本の台所用品メーカーと連絡を取りはじめた。そして2011年、日本のメーカーから商品を仕入れ、中国向けに輸出、販売を始めた。
商品の安定的供給と製品の流通ルートの安定のために、各メーカーとは下記のとおり、総代理店契約又は特約販売店契約を結んだ。
・2011年5月25日 丸章工業株式会社(甲13の1)
・2011年9月26日 錦見鋳造株式会社(甲14の1)
・2013年4月1日 長谷製陶株式会社(甲10の1)
・2013年4月19日 まるは油脂化学株式会社(甲11の1)
このように、被請求人及び北京日工投資は、請求人が主張する引用商標の創作日2013年2月(甲2の1)の2年以上前の2011年初めから、被請求人が創作した「東味西厨」のブランド構想を元に日本国内メーカーと契約し輸出を始め、以降継続的に日本企業との関係を深めてきた。
イ 2013年、請求人が一年以内に請求人の株式の一部を北京日工投資に譲渡するという条件の下に、北京日工投資は請求人に対して長谷製陶株式会社、丸章工業株式会社、錦見鋳造株式会社及びまるは油脂化学株式会社の製品の販売を委託した。また、「張 金秋」氏の創作した「東味西厨」の名称及び企画したビジネスプランを請求人が使用することを許可し、店舗を開くことに同意した。しかし、約束した株式の譲渡は1年たっても実行されず、かつ、請求人が独占代理権を主張したため、疑義が生じ始めた。
さらに2015年3月頃、被請求人及び北京日工投資の関知しないところで、請求人が独断で、取引先メーカーである長谷製陶株式会社及び錦見鋳造株式会社の正規品と酷似したコピー製品を、日本製と表示した上で店頭にて販売していることが発覚した。そのため、北京日工投資は、授権書の契約内容(乙2の11)に従い、直ちに審判請求人への商品の供給を停止し、口頭にて授権関係の解消を伝えた。
(3)請求人が主張する被請求人の不正な目的について
請求人は、「被請求人は……代理店契約締結を強制する目的等不正の目的で商標出願を行ったことが容易に推測される」と述べている。
しかしながら、そもそも請求人と被請求人のグループ会社である北京日工投資との間で代理店契約が解消されたのは、請求人が被請求人及び北京日工投資を通して入手した正規品やその製品情報を基に、他社の特許や意匠を侵害するコピー商品を他のメーカーに委託製造し、中国の店舗で販売していることを北京日工投資が知ったからである。
これは、請求人が北京日工投資との間で交わした販売委託の契約に違反する(乙2の11)ものであるため、北京日工投資は、請求人のコピー商品製造及び販売の事実を知った時点で直ちに請求人への商品の供給を停止した。
すなわち、契約の解除は、北京日工投資が請求人に対して積極的に行ったものであり、北京日工投資が請求人に対して代理店契約の更新を強制することはあり得ない。また、本件商標の登録後に、北京日工投資が請求人に対し、本件商標の登録を盾に代理店契約更新を強制した事実は一切ない。
また、請求人は、「ク 不正な目的」の記述の中で、本件登録権者の不正な目的の傍証として、北京日工投資が日本企業の使用する商標を中国商標局に出願したことを挙げている(甲15の2?甲15の7)。
しかし、北京日工投資は、請求人が挙げた日本企業(長谷製陶株式会社、まるは油脂化学株式会社、丸章工業株式会社、錦見鋳造株式会社)から総代理店又は特約販売店としてすべての事務的作業を全権委託されており(甲10の1、甲11の1、甲13の1、甲14の1)、中国での販売の必要性によりそれらの商標を委託企業の了承のもとに出願している。
4 むすび
以上により、被請求人において請求人が主張するような不当な目的は、存在しないこと、また、請求人の引用商標は、日本国内又は外国において需要者の間に広く認識されているとはいえないこと、そして請求人の不正行為によって引用商標には信用が化体していない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号及び同項7号に該当しない。

第5 当審の判断
1 本件審判の請求の利益について
請求人が本件審判を請求するにつき、利害関係について争いがないから、本案について判断する。
2 引用商標の周知性について
(1)請求人の提出した証拠及び主張によれば、以下のとおりである。
ア 請求人について
請求人は、中国において設立された会社であり、2013年頃より、包丁、ピーラー、土鍋等を、ドイツ、スイス、日本から輸入し、北京の6つの百貨店の店舗において、販売している(甲3?甲6)。
イ 引用商標の使用について
(ア)請求人は、請求人のウェブサイトにおいて、引用商標1と同一又は類似の構成からなる「東味西厨」及び「GREAT COOK」の文字を表示している(甲3の2)。
(イ)請求人は、北京市内の百貨店における店舗において、引用商標1と同一又は類似の構成からなる「東味西厨」及び「GREAT COOK」の文字を看板等に表示している(甲5の1?甲5の6)。
(ウ)請求人が、ドイツ、スイスのメーカーより仕入れたとする鍋、フライパン、ピーラー、包丁及びパッケージには、引用商標と同一又は類似の構成からなる「東味西厨」及び「GREAT COOK」の文字が付されている(甲6)。
(エ)請求人が商品を販売する北京の6つの百貨店のうち、「北京賽特買物百貨店」の店舗では、2016年1月には119,872.20人民元、同年2月には79,894.50人民元、同年3月には83,065.70人民元、同年4月には37,412.90人民元、同年5月には97,570.05人民元、同年6月には102,170.10人民元の販売額を達成し、同百貨店における引用商標1に関する商品の総売上は、2015年4月1日?2018年2月28日の間,全体の4,338,067.47人民元(約7,400万円)の約9割以上を示す4,025,884.77人民元(約6,900万円)であると主張している(甲4の16?甲4の23)。
(オ)請求人は、宣伝広告の一環として、国際日用品展覧会「Interior Lifestyle China」が中国上海で開催された際に、2015年と2016年と2年連続で展覧会に出展し、この展覧会において、引用商標1と同一又は類似の構成からなる「東味西厨」及び「GREAT COOK」の文字を表示したパンフレットを作成し、引用商標1と同一又は類似の構成からなる「東味西厨」及び「GREAT COOK」の文字を看板に表示したブースを設置し、同商標を付した鍋等調理器具を利用して料理の実演をし、請求人の商品を宣伝した(甲7の3?甲7の5)。2016年度パンフレットには、商品写真及び引用商標を表示し(甲7の5)配布した。請求人は、出展費などの宣伝広告費を支出した(甲7の6、甲7の7)。
(カ)請求人は、2016年に北京で行われた「Fashion Beijingshow」、2017年3月9日にニュージーランドで行われた料理人との交流会に参加したとして、引用商標1と同一又は類似の構成からなる「東味西厨」及び「GREAT COOK」の文字からなる商標を表示した当該イベントのものと思われる写真を提出している(甲7の8、甲7の9)。
(キ) 請求人は、2017年に、雑誌会社と共催でイベントを開催し、その活動は、ニュージーランドの雑誌に掲載されたとして、当該記事の写しを提出している(甲7の10?甲7の16)。
(2)判断
以上によれば、請求人は、2013年頃から北京市内の百貨店に出店し、引用商標1と同一又は類似する商標を店舗に表示し、ドイツ、スイスから輸入したとされる包丁、ピーラー等に引用商標を付して販売していることがうかがわれる。そして、自社のウェブサイトに引用商標1を掲載している。
しかしながら、請求人は、2016年7月に、ドイツ企業及びスイス企業と独占販売契約を結び、包丁1,160個、ピーラーやすり下ろし等を1,000個以上仕入れたと主張しているものの、それ以外に、当該企業との間で取引が継続していたことや、実際の販売数等についての事実は明らかでなく、中国において引用商標を付した包丁、ピーラー等の商品の輸入総数や販売数も明らかではない。
また、請求人は、北京の店舗における、2015年4月1日?2018年2月28日の引用商標1に関する商品の売上が、4,025,884.77人民元(約6,900万円)であると主張しているものの、証拠として提出された外国語の証拠資料(決算、領収証、振込書等)には、翻訳文の添付がなく、その記載内容は不明であることに加え、請求人は、一店舗における売上高のみを示しており、その他の店舗における引用商標の使用実績は示されていない。
さらに、請求人のウェブサイト記事においては、引用商標1は表示されているものの、掲載日時に関する記載はなく、当該ウェブサイトにおける、引用商標の使用開始時期は不明である。
他に、中国国内又は我が国における引用商標の使用開始時期、使用期間、使用地域、引用商標を付した請求人の商品の売上高、シェアなどの販売実績などの事実を客観的に裏付ける証拠の提出はない。
請求人は、引用商標を使用した宣伝広告について、2015年と2016年に開催された国際日用品展覧会に参加し、引用商標1が表示されたパンフレットの写しやブースの写真を提出しているが、当該パンフレットは展示会を紹介するパンフレットであるところ、引用商標1は、多数の他の商標と共に出展者の一として紹介されているにすぎず、それほど目立つ態様で表示されていない上、その配布数や配布時期等は不明であり、また、引用商標1が表示されたブースの写真が撮影された場所、日時の詳細や、請求人が参加したとするイベントの規模や参加人数等の具体的な状況も明らかではない。
そして、上記以外の展示会のパンフレットやブース出展の状況の証拠の提出はなく、引用商標を使用した宣伝広告が、継続して、かつ、一定の規模で行われていたことを客観的に把握することはできず、他に引用商標に係る広告宣伝の費用、宣伝方法等の事実を客観的に裏付ける資料はない。
請求人は、2016年に北京で、2017年3月9日にニュージーランドで行われたイベントでの宣伝広告活動において、引用商標1と同一又は類似の構成からなる「東味西厨」及び「GREAT COOK」の文字からなる商標が表示された写真等を提出しているが、これらの活動については、イベントの規模、参加人数等の具体的な事実が明らかではなく、写真が撮影された場所、日時等の具体的な状況も不明である。
また、2017年に、請求人の活動がニュージーランドの雑誌に掲載されたとして、当該記事の写しを提出しているが、当該記事の翻訳文の添付はなく、その記載内容は不明である上、引用商標の具体的使用態様について示されていない。
なお、請求人が提出した証拠資料は、そのほとんどが外国語のものであるところ、当審の令和1年5月30日付け答弁書副本の送付通知において、既に提出された書面も含め、外国語による証拠については、主張、立証に必要な部分の翻訳文を提出するよう求めたが、翻訳文の提出はなされなかった。
以上より、請求人が提出した甲各号証を検討しても、引用商標についての使用開始時期、使用期間、使用地域、引用商標を付した台所用品の売上高、シェアなどの販売実績並びに引用商標に係る広告宣伝の費用、宣伝方法などについて、引用商標が周知性を獲得したといいうる客観的な事実は認められないことから、本件商標の登録出願時(平成28年11月30日)及び登録査定時(同29年4月19日)において、請求人の業務に係る台所用品等を表示するものとして、中国国内の需要者や、日本の台所用品を取扱う業界において周知性を獲得していたということはできず、他に本件商標の登録出願時及び登録査定時において、中国及び我が国において引用商標が周知であったことを認めるに足りる証拠の提出はない。
したがって、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国又は外国における需要者の間に広く認識されていたものということはできない。
3 商標法第4条第1項第19号該当性について
本号に該当する商標は、「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもって使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)」である。
そうすると、上記2(2)のとおり、引用商標は、いずれも、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国及び外国の需要者の間に、広く認識されていたとは認められないものであるから、商標法第4条第1項第19号を適用するための要件を欠くものといわざるを得ない。
また、不正の目的についても、後述4のとおり、請求人が提出した甲各号証を総合的に考慮しても、商標権者が、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的等を有してしていたというべき具体的な事実は、見いだすことはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)商標法第4条第1項第7号に該当するか否かについては、「商標法第4条第1項第7号が『公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標』として,商標自体の性質に着目した規定となっていること、商標法の目的に反すると考えられる商標の登録については同法第4条第1項各号に個別に不登録事由が定められていること、及び、商標法においては、商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることを考慮するならば、商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法第4条第1項第7号に該当するのは、その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである」とされ、「私的な利害の調整は、原則として、公的な秩序の維持に関わる商標法第4条第1項第7号の問題ではないというべきである」(東京高等裁判所平成14年(行ケ)第616号,知的財産高等裁判所平成19年(行ケ)第10391号)と解される。
これを踏まえ、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当するかについて、検討する。
(2)被請求人について
ア 被請求人
被請求人は、平成24年(2012年)2月8月に我が国で設立された法人であり、「1 貿易、輸出入及びこれらに関するコンサルティング業務、2 文化・教育事業に関する物品の販売、出版、企画、運営及び仲介、3 企業の海外進出、企業買収、合併、提携、技術提携、営業権譲渡、新材料開発及び環境保護事業に関するコンサルティング、仲介及び斡旋等」を目的とし、取締役は、「青木 雅一」と「張 金秋」他1名からなる(甲9の1)。
イ 北京日工投資
北京日工投資は、2010年8月23日に中国で設立された企業であり、その企業情報の写しには、出資者の欄に「張 金秋」(「張」の文字は簡体字)の記載がある(甲9の4)。
また、その「首席執行官」は、「青木雅一」とされる(甲10の3)。
ウ 北京日工科貿
北京日工科貿は、1999年9月21日に中国で設立された企業であり、その企業情報の写しには「法定代表人」として「張 金秋」(「張」の文字は簡体字)の記載がある(甲9の5)。
エ 被請求人の取締役「張 金秋」氏と、北京日工投資及び北京日工科貿の出資者及び法定代表人の「張 金秋」氏、及び、被請求人の取締役「青木雅一」氏と、北京日工科貿の首席執行官「青木雅一」氏は、後述(3)の被請求人と、請求人、北京日工投資及び北京日工科貿との関係からすれば、同一人物とみるのが自然であり、被請求人と、北京日工投資及び北京日工科貿は、主要な人的構成を共通とすることから、実質的に同一の関係を有するものといえる(以下、被請求人、北京日工投資及び北京日工科貿をまとめて「被請求人ら」という。)。
(3)本件商標の登録出願の経緯について
請求人及び被請求人の提出した証拠及び主張によれば、本件商標の登録出願に至る経緯は、以下のとおりである。
1999年 北京日工科貿設立(甲10の5)
2010年 北京日工投資設立(甲10の4)
被請求人の取締役が「東味西厨GREAT COOK 」のブランドを創作したと主張
2011年 3月 請求人が中国において設立(甲3の1)
2011年 5月 「北京日工投資」及び「北京日工科貿」は、岐阜県関 市所在の「丸章工業株式会社」(以下「A社」という 。)及び三重県桑名郡所在の「錦見鍛造株式会社」( 以下「B社」という。)との間で、代理店契約を締結 (甲13の1、甲14の1)
2012年 2月 被請求人が日本において設立(甲9の1)
2013年 2月 請求人は、マーケティング職員が創作した引用商標を 会社ロゴとして使用することを決定したと主張(甲2 の1)
2013年 4月 被請求人らは、三重県伊賀市所在の「長谷川製陶株式 会社」(以下「C社」という。)の間で、代理店契約 を締結(甲10の1)
同月 被請求人らは、福岡県久留米市所在の日本企業「まる は油脂化学株式会社」(以下「D社」という。)との 間で、販売店契約を締結(甲11の1)
2013年 5月 請求人は、「北京日工投資」より、A社、B社、C社 、D社の商標の使用許諾、中国における商品販売の委 託を受け、「北京日工投資」を介して、A社の刃物、 B社の鋳鉄鍋、C社の土鍋、D社の洗剤を購入(甲1 3の2?甲13の6、甲14の1?甲14の7、甲1 0の2?甲10の8)
同月 請求人は、埼玉県川口市所在の「株式会社フェラミカ 」(以下「E社」という。)の商標の使用許諾、中国 における商品販売受託(甲12の1?甲12の4)
同月 請求人は、引用商標2ないし引用商標9を中国におい て登録出願
2013年 7月 請求人は、「北京日工投資」を介して、E社の鋳鉄鍋 を購入(甲12の6)
2014年11月 請求人は、「北京日工投資」を介して、B社の中華鍋 、C社の土鍋を購入(甲14の8、甲10の10)
2016年 1月 請求人は、引用商標10ないし引用商標12を中国に おいて登録出願(甲2の10?甲2の12)
2016年 4月 請求人と被請求人らとの授権委託契約満了(甲10の 2、甲11の2、甲12の1、甲13の2、甲14の 2)
2016年11月 被請求人は、本件商標を登録出願
2017年 4月 請求人は、引用商標13を国際登録出願(甲2の13 )
2017年 6月 本件商標の設定登録
2018年 6月 審判請求
(4)判断
以上によれば、被請求人らは、2013年5月から、日本企業A社ないしE社との間の代理店契約等に基づき、中国で商品を販売する請求人に対して、日本企業の商品を輸出していたものであり、請求人と被請求人は、日本企業の商品を中国で販売する事業において、一定の協力関係にあり、被請求人は引用商標を知っていたことがうかがわれる。
しかしながら、引用商標は、上記2(2)のとおり、請求人の業務に係る台所用品等を表示するものとして中国及び我が国における需要者の間に広く認識されていると認めることはできないから、本件商標の登録出願が引用商標の周知性に化体した信用、名声及び顧客吸引力へのただ乗りをするものであるということはできない。
さらに、請求人は、「東味西厨/GREAT COOK」の名称は、そのマーケティング職員が創作したと主張している(甲2の1)が、同人の主張及び同人の提出に係る甲各号証を総合してみても、請求人は北京の百貨店に店舗を構え、引用商標を使用した商品に関する事業を行っていたものの、引用商標を付した商品を我が国へ輸出するべく準備していた等の事情は見いだせない上、被請求人が、請求人に対し、本件商標を高額で買い取らせたり、請求人の我が国への参入を阻止したりする具体的な行為は確認できず、本件商標の登録出願の経緯について、商標法の先願登録主義を上回るような、本件商標の登録出願の経緯に社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底認容し得ないような場合に該当すると認めるに足りる具体的事実をみいだすことはできない。
そうすると、被請求人が、請求人の引用商標の存在を認識しており、授権関係が解消された後に、本件商標の登録出願を行ったとしても、そのことのみにより、直ちにその登録出願の経緯について、著しく社会的妥当性を欠き、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に該当するということはできない。
(5)請求人の主張について
ア 請求人は、引用商標を創作し、中国において同商標を使用してきたのは請求人であり、請求人が本件商標の真正の権利者であって、被請求人は、請求人との契約終了後、請求人の商標の使用や広告の努力を知りながらも、請求人との契約関係が終了した後まもなく使用予定のない本件商標を登録出願し、請求人の市場参入を阻止している旨主張している。
しかしながら、このような契約に係る当事者同士の間で誰が商標登録出願をするかという問題は、私的な利害の調整により解決すべきであって、原則として、公的な秩序の維持に関わる問題ではない上、上記(4)のとおり、被請求人が登録出願したことが、著しく社会的妥当性を欠くものであるということはできない。
イ 請求人は、北京日工投資が、自社名義で日本企業の商標を中国で登録出願しており、かかる行為は委任事項の範囲を超えた不正の目的による行為である旨主張している。
しかしながら、北京日工投資は、日本企業との間の代理店又は販売店として、中国での販売の必要性により、それらの商標を委託企業の了承のもとに出願したという被請求人の主張を否定すべき合理的理由は見いだせず、被請求人らが日本企業の商標を中国で登録出願した行為があったからといって、必ずしも、そこに不正目的があったとみることはできない。
ウ 請求人は、中国商標局は、請求人が提出した証拠に基づき、北京日工投資は、引用商標を知った上で請求人の独創的な商標の中国語部分をのまま出願したことを認定し、その行為は、「詐欺手段又は他の不正な手段」に該当するとして北京日工投資の商標出願を拒絶する旨決定し、請求人の本国において、「張 金秋」氏が株主である「北京日工投資」が出願した商標は、請求人の商標を知った上で、詐欺手段又は他の不正な手段によって出願したことが明らかになった(甲10の4、甲23)とし、被請求人の取締役が本件商標を創作した旨の主張は失当である旨主張している。
しかしなら、請求人が引用する中国での異議決定は、請求人と北京日工投資の間のものであるところ、当該異議申立ての主張、証拠等、具体的内容は何ら示されておらず、いかなる根拠に基づいて「詐欺手段又は他の不正な手段」と認定されたかは不明であり、また、仮にそのような異議決定がなされているとしても、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当するか否かは、我が国の商標法及び取引の実情の下で判断されるべきものであって、中国の商標法に基づく異議決定が我が国の商標法の下における判断を拘束するものではない。
エ そうすると、請求人の主張はいずれも採用することはできない
(6)小括
以上のとおり、本件商標は、その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に該当するとはいえないものである。
そして、本件商標は、その指定商品又は指定役務について使用することが、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳に反するとはいえないものであり、また、一般に国際信義に反するものともいい難いものである上、他の法律によってその使用が禁止されているものでもなく、本件商標の構成自体が、非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような構成態様でもない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
5 まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第19号及び同第7号に該当するものでなく、その登録は、同条第1項の規定に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲1 本件商標


別掲2 引用商標1(色彩は、審判請求書を参照。)


別掲3 引用商標2ないし引用商標5


別掲4 引用商標6ないし引用商標13





審理終結日 2020-03-26 
結審通知日 2020-03-31 
審決日 2020-04-23 
出願番号 商願2016-139965(T2016-139965) 
審決分類 T 1 11・ 222- Y (W2135)
T 1 11・ 22- Y (W2135)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 馬場 秀敏古橋 貴之 
特許庁審判長 山田 正樹
特許庁審判官 小俣 克巳
鈴木 雅也
登録日 2017-06-09 
登録番号 商標登録第5952338号(T5952338) 
商標の称呼 トーミセーチュー、グレートクック、グレート 
代理人 魯 佳瑛 
代理人 村井 康司 

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