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審決分類 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない W16
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない W16
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない W16
管理番号 1364139 
審判番号 無効2018-890020 
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-03-30 
確定日 2020-05-27 
事件の表示 上記当事者間の登録第5725543号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5725543号商標(以下「本件商標」という。)は、「リニア」の文字を標準文字で表してなり、平成25年4月19日に登録出願、第16類「文房具類,紙製包装用容器,プラスチック製包装用袋,衛生手ふき,紙製タオル,紙製テーブルナプキン,紙製手ふき,紙製ハンカチ,印刷したくじ(「おもちゃ」を除く。),写真,写真立て,印刷物」を指定商品として、同26年10月31日に登録査定、同年12月12日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第86号証(以下、証拠については、「甲○」のように省略して記載する。)を提出した。
1 請求の理由
(1)「リニア」の著名性について
「リニア」の表示は、我が国において、本件商標の出願日である平成25年(2013年)4月19日よりもはるか前から現在に至るまで継続して、日本で唯一の営業主体、建設主体として関わる、超電導磁気浮上方式鉄道「磁気浮上式リニアモーターカー(超電導リニア[略称『リニア』]」(以下「リニア」という。)を用いた東京都、大阪市間を走行する新幹線(中央新幹線)(以下「リニア中央新幹線」という)及びその事業(以下「リニア事業」という)等について使用する商標として日本全国的に周知、すなわち著名となっている。
ア 請求人について
請求人は、「リニア中央新幹線」及び「リニア事業」の唯一の営業主体、建設主体として国土交通大臣から平成23年(2011年)5月20日に指名されている(甲1、2)。
当該「リニア中央新幹線」及び「リニア事業」唯一の営業主体、建設主体としての指名は、日本国有鉄道が日本の国有鉄道を運営していた時代(国鉄時代)に、「昭和48年11月15日運輸省告示第466号」をもって基本計画が決定された後、「リニア」の実用化・実現に向けた実験やキャンペーン等の宣伝・広告活動等、日本国有鉄道及びその事業を承継した者の1人である請求人の数十年に亘る弛まぬ事業努力の結果、得られたものである。
そして、当該「リニア中央新幹線」及び「リニア事業」に関しては、日本国内に住む者等が購読者等として接する新聞等においても多数取り上げられている。
以上を踏まえれば、請求人が、「リニア中央新幹線」及び「リニア事業」の営業主体、建設主体として日本国内において広く認識されていることは明らかであり、その時期については、その歴史等の客観的状況を示す事実から遅くとも数十年も前からであることは明らかである。
イ 「リニア」に係る請求人所有商標について
請求人は、「リニア中央新幹線」及び「リニア事業」の営業主体、建設主体として日本国内において広く認識されているものの、その事業の営業主体、建設主体としての社会的信用を高め、継続してその社会的信用を維持すべく、「リニア」に係る商標を、古くは昭和63年(1988年)以降、出願し商標登録を受け(甲3)、その後も継続して「リニア」に係る商標について出願し、登録を受け、所有している(甲4ないし34)。
ウ 「リニア」事業の歴史について
「リニア」事業は、昭和48年(1973年)11月15日運輸省告示第466号をもって基本計画を決定した事業で、国鉄時代から連綿と続けられてきたものである(甲35ないし40)。
エ 公的機関発行資料、新聞記事、特許庁の判断について
「リニア」及び「LINEAR」の表示は、請求人が日本で唯一の営業主体、建設主体として関わる「リニア中央新幹線」及び「リニア事業」等を示すものとして、公的機関発行資料(甲41、42)、新聞記事等(甲43ないし65)において多数使用され、特許庁は、少なくとも「リニア」が「リニア中央新幹線」等を示す語として著名な商標であると認定している(甲66、67)。
そもそも新聞は、「読者が理解し得る表現を用いて、読者の関心を寄せる内容を掲載する」ものであるが、いずれの報道機関の新聞記事であっても、「リニア」及び「LINEAR」の表示は請求人が日本で唯一の営業主体、建設主体として関わる「リニア中央新幹線」及び「リニア事業」等を示すものとして使用されている。
よって、日本国民全体の間で、広く「リニア」及び「LINEAR」の表示が、請求人が日本で唯一の営業主体、建設主体として関わる「リニア中央新幹線」及び「リニア事業」等を示すものとして認識されていることは明らかである。
さらに、特許庁は、審査において「リニア」の表示が、請求人が日本で唯一の営業主体、建設主体として関わる「リニア中央新幹線」等を示すものとして認識されていることを認めているが、「リニア」の表示が、「リニア中央新幹線」等を示すものとして著名な商標と認められるに至ったのは、「リニア事業」に関する歴史を考慮すれば、遅くとも、本件商標の出願日である平成25年(2013年)4月19日よりも前であることは明らかである。
(2)被請求人の認識について
被請求人は、履歴事項全部証明書及び新聞記事に基づけば、不動産の賃貸業を主たる業務とする法人である(甲68、69)。被請求人は、本件商標の出願後であって、甲66及び甲67の商標を出願する前に、「リニア」に係る商標を複数回、複数年に亘り継続して出願し、いずれも、拒絶査定となっている(甲70ないし83)。
一方で、本件商標の出願日(平成25年[2013年]4月19日)よりも1年以上前である平成23年(2011年)5月30日に、当時の請求人の社長が、新大阪駅にリニアの駅を設置することを記者会見で述べたことを各社が報道しているが、この報道は、被請求人の所在地でもある関西でも報じられている(甲40)。新大阪駅までリニア中央新幹線が延伸することが、大阪の不動産投資に好影響をもたらすとの予想がされている(甲84、85)。
以上の被請求人の過去の出願内容及び継続して出願した事実、新聞報道の事実や不動産の賃貸を主たる業務とする被請求人と同業種の者の認識を総合すれば、被請求人は、本件商標の出願時点において、請求人を認識していたこと、また、「リニア」及び「LINEAR」が請求人の「リニア中央新幹線」及び「リニア事業」等を示すものとして日本国内において広く認識されていることも理解していたこと、更には、本件商標を取得することで何かしらの経済的利益を得ることを目的としていたことは容易に推認できる。
(3)商標法第4条第1項第7号の理由
「リニア」の表示は、請求人が日本で唯一の営業主体、建設主体として関わる「リニア中央新幹線」及び「リニア事業」等を示す商標として、本件商標の出願日である平成25年(2013年)4月19日よりもはるか前から現在に至るまで継続して日本国内において全国的に広く知られ、著名である。
被請求人の過去の出願履歴等から、被請求人が、請求人の商標が日本国内において広く知られている事実を認識し、その上で、請求人の著名な商標の顧客吸引力を利用しようとしていたことは明らかである。
すなわち、本件商標は、披請求人によって剽窃的に出願され、登録を受けたものであることは明らかであることから本件商標の出願の経緯は社会的相当性を欠くものである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第15号の理由
「リニア」の表示は、請求人が日本で唯一の営業主体、建設主体として関わる「リニア中央新幹線」及び「リニア事業」等を示す商標として、本件商標の出願日である平成25年(2013年)4月19日よりもはるか前から現在に至るまで継続して日本国内において全国的に広く知られ、著名である。
本件商標は、「リニア」の文字を書してなり、請求人の商標「リニア」と同一の文字のみを構成要素としている。
したがって、本件商標が、その指定商品に対応する商品に使用されれば、その使用された商品があたかも請求人又は請求人と何らかの関係を有する者によって製造等された商品であるかの如く、出所について混同を生じさせることは明らかである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(5)商標法第4条第1項第19号の理由
「リニア」の表示は、請求人が日本で唯一の営業主体、建設主体として関わる「リニア中央新幹線」及び「リニア事業」等を示すものとして、本件商標の出願日である平成25年(2013年)4月19日よりもはるか前から現在に至るまで継続して日本国内において全国的に広く知られた著名な商標である。
また、本件商標は、「リニア」の文字を書してなり、請求人の商標「リニア」と同一の文字のみを構成要素としていることから、請求人の商標と同一又は類似の商標であることは明らかである。
さらに、被請求人の過去の出願履歴等から、被請求人が、請求人の商標が日本国内において広く知られている事実を認識し、その上で、請求人の著名な商標の顧客吸引力を利用しようとしていたことは明らかである。
してみれば、被請求人に不正の目的があったことは明らかである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
2 令和元年10月7日付け審判事件弁駁書の要旨
(1)商標法第4条第1項第15号について
商標法第4条第1項第15号の「混同を生ずるおそれ」については、著名性が依拠する現実の商品・役務が存在することまでは要せず、将来生ずる可能性のある業務等を含むと広く解釈すべきである。
そして、「リニア」の文字は、1973年から40年以上進められている請求人の事業である「リニア中央新幹線」等を指す著名商標であるから、被請求人が主張するようなプロジェクト若しくはプロジェクトの名称を特定する必要性はない。
また、「リニア」の語が、国語の辞書に掲載され、一般国民に使用されたことによって該掲載された語の「指標力」の及ぶ範囲に影響があるとしても、その範囲は絶対的なものとして確定することはなく、その語がある者の事業に係る商品・役務の標章として、永年あるいは集中的に大量に使用されることにより、広狭変動し得る。以上から、「リニア」の指標力を論じるには、「他人」たる「請求人」の「事業」を考慮しなければならないことは明らかである。
「リニア」は、請求人の事業の一つであるリニア中央新幹線の略称として広く認識され使用されており、加えて、請求人は「新幹線」等の各事業に係る商品(本件商標の指定商品第16類「文房具類ほか」を含む)を販売等し、また、小売役務を含む様々な役務を提供していることからも、請求人の事業に係る商品・役務は多岐にわたっている。このことは、特許庁の審決においても事実認定されている。
このように、請求人が主たる事業である鉄道事業以外についても多岐にわたり事業を運営していることを踏まえれば、「リニア」の語の指標力が及ぶ範囲について、被請求人の主張する過度に限定した範囲として解釈されるべきではなく、少なくとも本件商標の指定商品(第16類 文房具類ほか)についてその指標力が及ぶことは明らかである。
被請求人の主張する指標力については、請求人は、審判請求書及び提出した各甲号証において、十分に主張、立証しており、本件商標の出願日よりも前にその周知性を有していたことは特許庁も認定している(甲71)。
被請求人は、本件審判請求は、我が国商標法の先願主義の秩序を根底から覆すものであると主張するが、請求人による本審判は、未登録商標であった商標「リニア」についての先使用者であって、既に業務上の信用を得ていた請求人が、その業務上の信用を維持し、需要者の間で混同が生じることによって需要者に不利益が生じることを避けるべく根拠たる事実を示した上で請求したもので、法的な問題はない。
(2)商標法第4条第1項第7号について
本件商標は、請求人の事業を示す標章として日本国内で広く知られており、リニア関連の出願はいずれも商標法第4条第1項第15号によって拒絶されている(甲66、67、70ないし80)。一方、被請求人は全国的に話題となった商標を出願(甲81ないし83)していることを踏まえれば、これらの出願の事実が、被請求人が先取り的に剽窃的な出願を繰り返していることを示しているもので、本件商標は、当該商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くことから、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第19号について
本件商標の出願以前に、「リニア」は請求人の事業を表す標章として日本国内で広く知られており、このことは特許庁の審判でも同様に判断している(甲80)。
また、2011年(平成23年)5月30日に、当時の請求人の社長が新大阪駅にリニア駅を設置することを記者会見で述べ、各社が関西でも報道している。
この報道後、リニアの経済効果への期待が高まり、議論が高まり(甲86)、大阪への不動産投資に好影響をもたらし(甲84)、賃貸のニーズが高まる(甲85の2頁)と予想されていることから、このような状況を不動産の賃貸を主たる業務とする被請求人は認識していた。
その上で、被請求人は2013年(平成25年)4月19日に、本件商標を出願していることから、被請求人が不正の目的をもって本件商標を使用しようとしたことは容易に推認できる。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙1ないし乙7(枝番号を含む。)を提出している。
1 商標法第4条第1項第15号に該当しないことについて
「リニア」なる語は一般的な国語辞典に掲載されているところの万人に開放されている言葉であり、「中央新幹線」と関わりなく、種々の分野で、広く、一般的に使用されてきた言葉である(乙1)から、先願主義(商標法第8条第1項)の規律により、最先に出願した者に商標登録が認められるものである。
請求人の核心的事業である「リニア式又はリニア・モーター式の鉄道輸送」に係る役務の提供は現実に存在せず、「将来」の期待にとどまるものであり、当然、商標の使用による信用の化体というものも存在していない。
将来確実に提供される保証もない役務に依拠して、本件商標が、商標法4条第1項第15号に該当するとの請求人の主張は、同号の趣旨に鑑み、失当である。
請求人が使用を予定する商標(請求人の商標案が度重なる変遷を経ており、「リニア」の表示は、いかなる商標の省略であるかを特定することができないため、請求人が将来の輸送に使用する予定の商標を以下「候補商標」という。)の変遷に鑑みると、現在の候補商標「リニア中央新幹線」が「リニア式又はリニア・モーター式の鉄道輸送」の営業開始予定時である2027年に使用されるかどうかは疑問である。
また、候補商標の出願、登録の変遷やプロジェクト名称の変遷に鑑みると、候補商標「THE LINEAR EXPRESS/リニアエクスプレス」が更新登録されなかったように、候補商標「リニア中央新幹線」も更新登録されない可能性を否定できない。
「リニア技術」と「中央新幹線」の両者は全く別々の道を長らく歩んできたのであり、両語が事実上の結合を果たしたのはごく最近のことである。
「リニア」という言葉は、鉄道関係の用語としては「リニアモーター」を意味する技術用語として、「中央新幹線」自体とは全く別の歴史を歩み、広く一般に普及していたものである。
そのような一般的な普及は、請求人の候補商標「リニア中央新幹線」が商標登録(甲10)されるずっと以前からでもある。
仮に、「リニア」の表示が請求人の計画、実験、建設中の「リニア式又はリニア・モーター式の鉄道輸送」に係るプロジェクト名称の1つである候補商標「リニア中央新幹線」の略称として認識される場合があるとしても、当該表示の指標力は極めて弱く、その及ぶ範囲は極めて限定的であり、その指標力が本件指定商品に及ぶことはあり得ない。
また、本件審判請求時に、「リニア」の表示が請求人の候補商標「リニア中央新幹線」等の候補商標の略称として認識される場合があるとしても、多数の登録例、特許庁の認識によれば、本件商標の出願前に「リニア」等が請求人の出所表示として広く認識されていたという事実は存在していなかったことは明らかである。
したがって、本件商標は、商標法第4条1項15号に該当しない。
2 商標法第4条第1項第7号に該当しないことについて
本件商標の出願前に、請求人の略称表示が「商標」として日本国内において知られているという事実は存在しなかった。
したがって、被請求人が、「請求人の商標の顧客吸引力を利用」するということもあり得ない。
請求人は、被請求人が商標出願一般に関して悪質な意図を有しているかの如くの主張を行っているように見受けられるが、本件商標の構成が一般的な技術用語「リニア」又は「LINEAR」からなり、また、「リニア」又は「LINEAR」の語を含む数多くの商標が多くの法人又は個人によって登録されているのであるから、本件商標が4条1項7号に該当することはあり得ない。
被請求人は、知的財産権に関して真摯かつ誠実な対応を行っている。請求人が掲げる商標はいずれも被請求人の誠実な使用意思に基づく出願であり、「中央新幹線」の語は、いずれも一般的な国語辞典に掲載されている「中央」いう語と「新幹線」という語とを組み合わせてなる一般的な鉄道用語や一般的な辞書掲載語から、これを選択することは商標採択に際して通常行われることである。
被請求人が、不動産の賃貸を主たる業務とすること等は、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当するかどうかの問題と全く無関係である。小さな不動産会社であっても、事業の多角化を検討することは今日通常のことである。被請求人が、不動産の賃貸を主たる業務とすることや事業規模が小さいことをもって、悪質性の1つの根拠としようとする印象操作的な主張は残念である。
なお、被請求人は、雑貨に係る特許出願、意匠出願、商標出願によって得られる権利を被請求人の多角化関連事業の一環としてT商店等に使用許諾している。
したがって、本件商標は、商標法第4第1項第7号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第19号に該当しないことについて
本件商標の出願前に、請求人の略称表示が「商標」として日本国内において知られているという事実は存在しなかった。
請求人の略称表示は辞書掲載用語又は技術用語の「リニア」であり、被請求人はそのような用語を商標として採択したのであるから、辞書掲載用語である「リニア」の語と同一となるのは当然であり、また不正の目的というものもあり得ない。
したがって、本件商標は、商標法第4第1項第19号に該当しない。
4 まとめ
以上のとおり、本件商標が商標法第4第1項第7号、同項第15号及び同項第19号に違反して登録されたとする請求人の主張は失当であり、理由がない。

第4 当審の判断
1 本件審判の請求の利益について
請求人が本件審判を請求する利害関係を有することについては、当事者間に争いがなく、また、当審は請求人が本件審判を請求する利害関係を有するものと認める。
以下、本案に入って審理する。
2 「リニア」の周知性について
(1)請求人は、甲各号証を提出して、請求人に係る「リニア」(以下「使用標章」という。)の表示は、「リニア中央新幹線」及びその事業等について使用する商標として、本件商標の登録出願時において、既に需要者の間で周知であった旨主張するところ、請求人提出の甲各号証及び同人の主張によれば、次の事実を認めることができる。
ア 請求人は、「東海旅客鉄道株式会社」であり、平成23年(2011年)5月20日に国土交通大臣から、全国新幹線鉄道整備法の規定により、中央新幹線東京都・大阪市間の営業主体及び建設主体として指名された(甲1、2)。
また、平成23年(2011年)5月26日及び同27日に国土交通大臣から、「建設線 中央新幹線」、「区間 東京都・大阪市」、「走行方式 超電導磁気浮上方式」等とする建設の決定及び指示を受けた(甲37、38)。
イ 2005年(平成17年)に愛知県で開催された「愛地球博」において、請求人は、同年3月25日から9月25日の期間に「JR東海 超電導リニア館」という名称のパビリオンで、「超電導リニア」紹介する展示を行い(甲35)、「毎日がレビュー:万博(愛・地球博)の超電導リニア館と山梨実験場での試乗」のウェブサイトには、8月18日に当該パビリオンが入場者1500万人を達成した旨の記載がある(甲36)。
ウ 「平成23年5月」の表示がある「リニア基本戦略」の表題の公的機関発行資料とされるものには、「リニア中央新幹線」についての紹介が掲載され、「リニアの開業」、「リニア効果」などの記載がある(甲41)。また、山梨県リニア活用基本構想(2013年3月 山梨県)には、「リニア中央新幹線計画」の概要や、「リニアの効果と影響」、「リニアで描く本県の将来像」などについて記載がある(甲42)。
エ 本件商標の登録出願前の平成23年(2011年)5月30日付け朝日新聞に「JR東海社長『リニアを新大阪に』開業前倒しにも意欲」の見出しの下、請求人の「リニア中央新幹線」の紹介記事が掲載されている(甲39)。
また、上記のほか、2009年(平成21年)6月ないし2013年(平成25年)2月の新聞及びウェブサイトには、「JR東海」及び「リニア中央新幹線」、「リニア中央エクスプレス」、「リニア新幹線」などの文字及びその紹介記事とともに「リニア」の文字が見出しに記載され、さらに、記事中に記載されているものもある(甲40、43ないし62)。
(2)上記(1)の事実を総合すると、次のように判断できる。
請求人は、全国新幹線鉄道整備法の規定により、「超電導磁気浮上方式」の「中央新幹線」の営業主体及び建設主体として東京都・大阪市間の鉄道整備を行っていることは確認できる。
しかしながら、請求人の提出した証拠においては、「リニア」の語が単独で表示され、請求人の事業が掲載されたというよりは、「リニア中央新幹線」、「リニア中央エクスプレス」、「リニア新幹線」といった様々な名称とともに掲載されているものであるから、「リニア」の表示があることをもって、使用標章が周知であったことを裏付けることはできない。
また、その他、使用標章が、本件商標の登録出願時及び登録査定時に、我が国において、請求人の「リニア中央新幹線」及びその事業を表示するものとして、広く認識されていたと認めるに足りる証拠も見いだすことができない。
さらに、請求人の提出する証拠によれば、使用標章は、請求人の名称とともに表示されていることが認められるものの、これらの証拠を検討しても、使用標章が請求人の取扱にかかる、いかなる商品又は役務について使用されているのか、その具体的な商品又は役務の範囲、宣伝広告の事実等が明らかとはいえず、客観性のある使用事実を把握することができない。
加えて、「リニア」の語は、辞書等によれば、「直線の」の意味を有する成語であり、我が国では、「リニア」の文字が「リニアモーターカー」の略称、「リニアモーターにより駆動する鉄道車両」の意味合いを表す場合もある(乙1ないし3)としても、「リニア」の語が、直ちに請求人の「リニア中央新幹線」又はその事業を想起させるものとはいえない。
そうすると、使用標章が、我が国の需要者の間において、請求人の「リニア中央新幹線」及びその事業等について使用する商標又は請求人の業務に係る具体的な商品又は役務を表示するものとして、いつ頃から、どの程度、需要者等の間で広く知られていたかを推し量ることはできない。
なお、「リニア基本戦略」や「山梨県リニア活用基本構想」なる表題の資料は、これがいつ、どのように使用され、あるいは配布等されたものであるかが明らかではなく、また、愛地球博において、1500万人以上の入場者数があったとしても、請求人のパビリオンにおいて使用されていたのは「超電導リニア」の文字であり、かつ、愛地球博が開催されたのは、本件商標の出願日である平成25年4月19日よりも約7年前である。さらに、請求人の提出した証拠において、使用標章が新聞、ウェブサイトの見出しに記載され、記事中に散見されるとしても、その掲載回数は、2009年(平成21年)に2回、2010年に8回、2011年に6回、2012年に5回及び2013年に1回であって、多いものとはいえない。
したがって、使用標章は、請求人の提出に係る甲各号証によっては、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の「リニア中央新幹線」及びその事業等を表示するものとして、あるいは請求人の業務に係る具体的な商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたものと認めることができない。
3 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)本件商標と使用標章との類似性の程度
ア 本件商標
本件商標は、「リニア」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字に相応して「リニア」の称呼を生ずる。
また、「リニア」の文字は、一般の辞書に「直線の」を意味する語として、掲載されているものである。
そうすると、本件商標からは、「リニア」の称呼を生じ、「直線の」の観念を生じるものである。
イ 使用標章
使用標章は、「リニア」の文字よりなるところ、本件商標と同一のつづりからなるものであるから、本件商標と同様に「リニア」の称呼を生じ、「直線の」の観念を生じるものである。
ウ 本件商標と使用標章との類似性
本件商標と使用標章とを比較すると、両者は、外観において「リニア」の片仮名を同じくするものであり、称呼及び観念を共通にすることから、その類似性は高いものである。
(2)本件商標の指定商品と使用標章の具体的な商品又は役務との関連性及び需要者の共通性
本件商標の指定商品である第16類「文房具類,紙製包装用容器,プラスチック製包装用袋,衛生手ふき,紙製タオル,紙製テーブルナプキン,紙製手ふき,紙製ハンカチ,印刷したくじ(「おもちゃ」を除く。),写真,写真立て,印刷物」は、主として、「紙,紙製品及び事務用品」を含む最終商品であり、最終商品を購入する者は、その「紙,紙製品及び事務用品」を使用するために購入するものである。
これに対し、請求人の業務に係る具体的な商品又は役務は定かではないが、リニア中央新幹線の営業主体及び事業主体として国土交通大臣から指名されていることを考慮するならば、開業後に行われる役務は、「鉄道による輸送」と推認することができる。
そして、当該役務は、主として「他人の依頼に応じて、鉄道により旅客又は貨物の輸送を行う」役務であり、その役務の需要者は、鉄道において提供するサービス(人又は物品のある場所から他の場所への輸送)及び当該輸送に必然的に関連するサービスを受ける者である。
してみれば、本件商標の指定商品と使用標章の役務とは、全く別異のものであるから、これら商品及び役務の関連性は極めて低く、その需要者の共通性も低いものというべきである。
(3)出所の混同のおそれについて
使用標章は、前記2のとおり、請求人又は請求人の業務を表示するものとして、本件商標の登録出願日前より、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されていたものと認められないものである。
また、本件商標と使用標章とは、実質的に同一の商標であるとしても、「リニア」の文字は、前記(1)のとおり成語であるから、その独創性は高いものとはいえず、さらに、本件商標の指定商品と使用標章の役務との関連性は極めて低く、需要者の共通性も低いものである。
そうすると、本件商標をその指定商品について使用した場合、これに接する取引者、需要者は使用標章を連想、想起するとはいえないものである。
してみれば、該商品が請求人又は同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生じさせるおそれはないものと判断するのが相当である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第19号該当性について
本号は、「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもって使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)」と規定されている。
そうすると、使用標章は、前記2のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国及び外国の需要者の間で、請求人の業務を表すものとして、広く認識されていたとは認められないものであるから、商標法第4条第1項第19号を適用するための要件を欠くものである。
そして、請求人は、使用標章が周知、著名であることを前提に、商標権者は、使用標章の有する顧客吸引力を利用しようとしていたことは明らかであるから、商標権者に不正の目的があったことは明らかである旨主張しているが、使用標章の周知、著名性は認めることができず、請求人が提出した甲各号証を総合してみても、商標権者に、不正の目的があったというべき事実は見いだせない。
また、他に、本件商標が不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって本件商標の使用をするものと認めるに足る具体的事実も見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
5 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)商標の登録出願が適正な商道徳に反して社会的妥当性を欠き、その商標の登録を認めることが商標法の目的に反することになる場合には、その商標は商標法4条1項7号にいう商標に該当することもあり得ると解される。 しかし、同号が「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」として、商標自体の性質に着目した規定となっていること、商標法の目的に反すると考えられる商標の登録については同法4条1項各号に個別に不登録事由が定められていること、及び、商標法においては、商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることを考慮するならば、商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法4条1項7号に該当するのは、その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである(平成14年(行ケ)第616号 東京高等裁判所 平成15年5月8日判決)。
(2)請求人は、「『リニア』の表示は、請求人が日本で唯一の営業主体、建設主体として関わる『リニア中央新幹線』及び『リニア事業』等を示すものとして、本件商標の登録出願日前から現在に至るまで継続して日本国内において全国的に広く知られた著名な商標であり、被請求人の過去の出願履歴等から、被請求人が、請求人の商標が日本国内において広く知られている事実を認識し、その上で、請求人の著名な商標の顧客吸引力を利用しようとしていたことは明らかであるから、本件商標の出願の経緯は社会的相当性を欠くものである。」旨主張している。
しかしながら、使用標章は、前記2のとおり、我が国において広く認識されているということはできないものであり、請求人の主張及び同人の提出に係る甲各号証を総合してみても、本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に該当すると認めるに足る具体的事実を見いだすことができない。
その他、本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標と認めるに足るしたがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
6 まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第15号及び同項第19号に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項の規定により、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2020-02-28 
結審通知日 2020-03-05 
審決日 2020-04-14 
出願番号 商願2013-29640(T2013-29640) 
審決分類 T 1 11・ 22- Y (W16)
T 1 11・ 222- Y (W16)
T 1 11・ 271- Y (W16)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 岩崎 安子齋藤 貴博 
特許庁審判長 中束 としえ
特許庁審判官 木村 一弘
豊田 純一
登録日 2014-12-12 
登録番号 商標登録第5725543号(T5725543) 
商標の称呼 リニア 
代理人 向口 浩二 
代理人 名古屋国際特許業務法人 
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