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審決分類 審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) W353642
審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) W353642
管理番号 1362567 
異議申立番号 異議2019-900168 
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2020-06-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-06-10 
確定日 2020-05-07 
異議申立件数
事件の表示 登録第6130484号の1商標及び同第6130484号の2商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6130484号の1商標及び同第6130484号の2商標の商標登録を取り消す。
理由
第1 本件商標
本件登録第6130484号商標(以下「本件商標」という。)は,「AI監査」の文字を標準文字で表してなり,平成30年5月23日に登録出願,第35類「会計事務の代理又は代行,財務書類の作成に関する助言・指導又は情報の提供,経営の診断又は経営に関する助言」,第36類「企業の信用に関する調査,金融又は財務に関する調査・評価又は分析」及び第42類「電子計算機用プログラムの提供」を指定役務として,同31年2月27日に登録査定,同年3月15日に設定登録されたものである。
その後,本件商標の商標権は,令和2年1月17日(受付日)付け商標権の分割登録申請によって以下のように分割されたものである。
(1)登録第6130484号の1(以下「本件商標権1」という。)
指定役務:第35類「会計事務の代理又は代行,財務書類の作成に関する助言・指導又は情報の提供,経営の診断又は経営に関する助言」,第36類「企業の信用に関する調査,金融又は財務に関する調査・評価又は分析」及び第42類「電子計算機用プログラムの提供但し,インターネットを通じて行う電子計算機用プログラムの提供を除く」
(2)登録第6130484号の2(以下「本件商標権2」という。)
指定役務:第42類「インターネットを通じて行う電子計算機用プログラムの提供」

第2 登録異議の申立ての理由
登録異議申立人(以下「申立人」という。)は,本件商標は,商標法第3条第1項第3号,同第6号及び同法第4条第1項第16号に該当するものであるから,同法第43条の2第1号によりその登録は取り消されるべきであると申し立て,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第138号証を提出した。
1 理由の要点
本件商標は,「AI(人工知能)を利活用して(会計監査・内部監査などの)監査業務をおこなうこと」という意味合いにより,役務の特性表示として本件指定役務の需要者に一般に認識されているところ,同指定役務に使用される場合には,その質・特徴を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるから,商標法第3条第1項第3号に該当する。
若しくは,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標であって,同第6号に該当する。
また,本件商標は,本件指定役務のうち「AI(人工知能)を利活用して(会計監査・内部監査などの)監査をおこなうこと」を質・特徴としない役務について使用された場合には,役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標であるから,同法第4条第1項第16号に該当する。
2 商標法第3条第1項第3号に関する主張
(1)本件商標の構成
ア 本件商標は,「AI」と「監査」の文字種が異なっていることから,一瞥して「AI」と「監査」とに分離して認識することが可能である。
「AI」は,「Artificial Intelligence(人工知能)」の略称として,国語辞典(甲3,甲4),経済辞典(甲5),その他各種辞典・事典(甲6?甲8)にも載録されている言葉であり,人工知能技術が進捗し高い関心を集めている昨今において,「AI」が我が国において広く知られている。
イ 「監査」とは,「監督し検査すること。企業などの特定の行為,またはその行為を示す情報が適正か否かを,独立の第三者が一定の基準に基づいて検証し報告すること。内部監査と外部監査とがある。」(甲3),「(業務の執行や会計・経営などを)監督し検査すること。また,その人。」(甲4),「監督し検査すること。特に,会計監査・業務監査のこと。」等の説明がなされている(甲5,甲6,甲9)。
「監査」は業界を問わず一般常識として会計監査・内部監査等を指すものとして一般的に使用され認識されており,また,本件指定役務はいずれも会計監査・内部監査等の監査業務そのものであるか,あるいは,それら監査に深く密接に関わる役務であることから,本件商標中「監査」の部分が会計監査・内部監査等の意味合いで認識される。
ウ 以上のことから,本件商標は,指定役務の需要者がこれに接した際には,既存語である「AI」と「監査」の結合であると即時に理解される。
(2)人工知能をめぐる昨今の情勢について
ア 昨今,「AI(人工知能)」に関する研究開発や,具体的な商品・サービスへの「AI」の実装が精力的に行われている。
現在の「AI」をめぐる活況ぶりは,「第三次人工知能(AI)ブーム」と呼ばれており,総務省がまとめた「人工知能(AI)研究の歴史」(甲10)によれば,「第三次人工知能(AI)ブームは,2000年代から現在まで続いている。」とのことである。
「AI」ブームを受け,内閣府は平成28年(2016年)4月12日に安倍内閣総理大臣の指示を受けて「人工知能技術戦略会議」を創設し,経済産業省や総務省などが所管する5つの国立研究開発法人を束ね,「AI」の研究開発を進めるとともに「AI」の社会実装を進める,という国家的プロジェクトを立ち上げている(甲11,甲12)。
現在,社会における「AI」の利活用は,内閣府及び各省庁の国家的な取り組みによっても主導されている。
イ 「AI」を利活用あるいは搭載した商品・サービスは,例えば「AIスピーカー」「AIロボット」「AI家電」等にみられるように,商品・サービスの特性表示として「AI○○(○○は各商品・サービスの普通名称や一般名称)」と称されることが一般的となっている。
我が国においては,「AI○○(○○は各商品・サービスの普通名称や一般名称)」という表示は,通常,「AI技術を利活用した○○,AI技術を搭載した○○」という商品・サービスの特性を直接的かつ端的に表示するものと認識されるにすぎない,という一般的取引実情が存在する。
ウ 特許庁は,「AI○○(○○は各商品・サービスの普通名称や一般名称)」という構成の出願商標について,商品・サービスの分野を問わず,軒並み,商標法第3条第1項各号に該当することを理由として拒絶査定あるいは拒絶理由通知書を発送している(甲62?甲138)
(3)「AI(人工知能)」と「監査」との関係
「AI」は現在あらゆる分野において社会実装が進んでおり,会計監査や内部監査等の監査業務の分野においても,「AI」の利活用が注目され,かつ,実装化が進められている。
各省庁も後押しをしており,例えば,平成28年(2016年)11月30日の日刊工業新聞の記事(甲13)は,「loT活用義務化 経産省補助金など制度検討」との見出しの下,「経済産業省は,2017年1月からIoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)を普及させるため,義務化を含む制度設計の検討に入る・・(中略)・・またコーポレートガバナンス(企業統治)の一環として,会計監査にAIの活用も模索していく。」と報道されている。
上記以外にも,本件商標の登録査定前に発行された記事であって,監査業務における「AI(人工知能)」の利活用に関する記事が多数存在している(甲15?甲40)。
以上のとおり,第三次人工知能(AI)ブームの影響は,会計監査や内部監査などの監査業務の分野にも大いに波及しており,上記の記事は「AI」を会計監査や内部監査などの監査業務に取り入れ,監査業務の効率化や透明性を高めるための研究開発や実装が進められているという実情が,登録査定前に暦と存在していたことを客観的に証明している。
(4)「AI監査」の特性表示としての現実の使用例
監査業務分野においては,「AI監査」という表現が,「AI(人工知能)を利活用して(会計監査・内部監査などの)監査業務をおこなうこと」の意味合いで登録査定前に不特定多数の者により一般的に使用されている(甲42?甲61)。
(5)「AI監査」の自他商品識別性及び独占(不)適応性
本件商標に接した本件指定役務の需要者が,「AI監査」を単に「AI(人工知能)を利活用して(会計監査・内部監査などの)監査をおこなうこと」という意味合いの役務の特性表示として一般に認識することは明らかであり,「AI監査」はすでに当該意味合いで本件商標の登録査定前から一般的に使用されている
本件商標について独占排他権を与えることは,内閣府・経済産業省・総務省などが国家プロジェクトとして推進する「人工知能技術戦略会議」の妨げになることはもとより,これまで監査業務への「AI」の導入に力を入れてきた各監査法人,公認会計士,システム・ソフトウェア開発事業者,その他監査業務事業者に対して著しく不当な制限を加えるという弊害・混乱を生むこととなる。つまり,本件商標は明白に独占適応性を欠くものである。
したがって,本件商標は,本件指定役務中,第35類「会計事務の代理又は代行,財務書類の作成に関する助言・指導又は情報の提供,経営の診断又は経営に関する助言」及び第36類「企業の信用に関する調査,金融又は財務に関する調査・評価又は分析」との関係では,「AI(人工知能)を利活用した(会計監査・内部監査などの)監査をおこなうこと」という役務の特性を表示するものと認識される以外に,何ら特別な意味合いを生ずるものではなく,商標法第3条第1項第3号に該当する。
3 商標法第3条第1項第6号に関する主張
本件商標は,本件指定役務との関係で,「AI(人工知能)を利活用した(会計監査・内部監査などの)監査をおこなうこと」という意味合いを看取させ,役務の特性を表示するものにすぎない。そもそも,本件指定役務の分野において誰もが一般的に使用している「AI」と「監査」の語を単純に組み合わせたにすぎないから,商標法第3条第1項第6号に該当する。
4 商標法第4条第1項第16号に関する主張
本件商標は,本件指定役務のすべてとの関係で,「AI(人工知能)を利活用した(会計監査・内部監査などの)監査をおこなうこと」という役務の特性表示として一般に認識され,本件指定役務のうち,「AI(人工知能)を利活用した(会計監査・内部監査などの)監査をおこなうこと」を特性としない役務について使用された場合には,役務の質について誤認を生じさせるおそれがあるから,商標法第4条第1項第16号に該当する。

第3 取消理由の通知(要旨)
当審において,商標権者に対し,令和元年12月6日付けで通知した本件商標の取消理由は,以下のとおりである。
1 本件商標は,その指定役務中,第42類「電子計算機用プログラムの提供」について使用するときは,役務の提供の用に供する物を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであるから,商標法第3条第1項第3号に該当する。
2 本件商標は,その指定役務中,第35類「会計事務の代理又は代行,財務書類の作成に関する助言・指導又は情報の提供,経営の診断又は経営に関する助言」及び第36類「企業の信用に関する調査,金融又は財務に関する調査・評価又は分析」について使用するときは,該役務があたかも「AI(人工知能)を活用した監査」であるかのごとく,役務の質について誤認を生ずるおそれがあるから,商標法第4条第1項第16号に該当する。

第4 商標権者の意見
商標権者は,上記第3の取消理由に対し,令和2年1月17日付けの意見書において要旨以下のように述べた。
1 「AI監査」の文字は「AI(人工知能)を活用した監査」の意味合いを容易に理解させないことについて
(1)本件商標について
本件商標は「AI」の文字と「監査」の文字とを結合した結合商標であるところ,「監査」の文字は,「内部監査」「外部監査」「会計監査」「業務監査」「任意監査」「強制監査」などの意味合いを含み(甲3,甲5),また「監査」の文字単体からは「監督し検査すること」(甲3,甲4,甲9)という広く抽象的な意味合いを持つものである。
「○○監査」なる文字は,「監査」と結合する文字に応じてその意味合いが異なるものであり,「内部監査」及び「外部監査」においては,「内部から行う監査」及び「外部から行う監査」をそれぞれ意味し,「会計監査」及び「業務監査」においては,「会計に対する監査」及び「業務に対する監査」をそれぞれ意味し,「任意監査」及び「強制監査」においては,「任意的な監査」及び「強制的な監査」をそれぞれ意味する。このように「○○監査」なる文字,表現は,「○○」に具体的な文字が入り,実際にそれが広く用いられることによって初めて一般に理解されるに至ったのであって,広く用いられていない新たな「○○監査」なる文字,表現は,新たな造語であって,一般に理解され得るものではない。
実際に「AI監査」の文字の意味合いを上記のような「○○監査」の用例から類推するならば,「AIから行う監査」「AIに対する監査」「AI的な監査」といったものがせいぜい理解されるにとどまり,「AI(人工知能)を活用した監査」の意味合いが容易に一般に理解されるということのできる根拠は一切ない。そのような理解は,「○○監査」の持つ意味合いから逸脱するものであり,むしろ不自然極まりない。
取消理由通知書においては,「会計監査や内部監査等の業務監査を行う分野(注)においては,本件商標の登録査定前より,『AI監査』の語が,『AI(人工知能)を活用した監査』の意味合いで普通に使用されて」いる旨認定されているところ,明らかな誤りである。((注)「内部監査等の業務監査」なる表現は,「内部監査」が「外部監査」と対比され,「会計監査」が「業務監査」と対比され,「内部監査」は概念として「業務監査」に包含されるものではないことを正解しないことの現れであり,参酌すべき実情を正しく認定する上での基本的理解を欠いていることを指摘する。)
取消理由通知書において「AI監査」の文字の使用例として挙げられた書証は甲第41号証と甲第51号証のみである。甲第42号証には「AI監査」の文字に「研究所」の文字が結合した「AI監査研究所」の文字が記載されている。
「AI監査」の文字が使用されていたことを直接的に示すものではない甲第42号証をも考慮しても,わずか数例の使用があることから,なぜ「会計監査や内部監査等の業務監査を行う分野」において「AI監査」の語が普通に使用されていたといえるのか,根拠薄弱である。
そもそも,甲第41号証は,内部監査人のための書籍である(甲41)。このような専門的な書籍は,第35類「会計事務の代理又は代行,財務書類の作成に関する助・指導又は情報の提供」,第36類「金融又は財務に関する調査・評価又は分析」等の役務提供者であれば接している可能性もあるが,その需要者が一般に接していると期待できるものではない。この点にかんがみれば,取消理由通知書では甲第51号証のわずか一例をもって「AI監査」の語が普通に使用されており,一般にその意味合いが理解されると判断したものであり,暴論のそしりを免れない。
(2)本件商標権2について
取消理由通知書においては,本件商標権2の指定役務である「インターネットを通じて行う電子計算機用プログラムの提供」,すなわち,SaaS(Software as a Service)の分野において,「AI監査」の文字が使用されていたことを示す書証が一点たりとも示されていない。
取消理由通知書で挙げられた実情に係る書証はいずれもSaaSの分野の需要者における一般的な理解,認識を示すものではなく,本件商標権2がいかなる意味合いを需要者に理解させるかの判断において参酌されるべきものではない。
「○○監査」なる文字は,上述したとおり,実際に広く使用されることで初めて特定の意味合いが理解されるのであり,SaaSの分野において「AI監査」の使用例が皆無又はほぼ皆無である実情にかんがみれば,「AI監査」の文字は「AIに対する監査」「AIが行う監査」など様々な可能性を持ち,「AI(人工知能)を活用した監査」の意味合いが直接的に理解されるかのような判断は失当である。
2 本件商標は識別力を有することについて
(1)本件商標権1及び本件商標権2について
以上のとおり,本件商標は「○○監査」の新たな造語「AI監査」であって,いかなる意味合いを持つものか,需要者において一般に容易に理解されるものではなく,いずれかの指定役務の質,あるいはその提供の用に供する物を普通に用いられる方法で表示したものとは到底いえない。
したがって,本件商標は識別力を有し,商標法第3条第1項第3号に該当しない。
(2)本件商標権2について
取消理由通知書では,「会計監査や内部監査等の業務監査を行う分野においては,本件商標の登録査定前より,・・・AI(人工知能)を使った監査用のソフトウェアの開発が進められている実情がある」と認定している。これは,甲第41号証記載の「AIソフト」に言及するものと思われるところ,甲第46号証には「AIソフトは年々変わる監査基準や会計知識を蓄え,新人会計士らの質問に答えていく。」と記載されているとおり,かかるAIソフトは監査法人がその監査業務の中で用いるソフトウェアであって,その存在は,第35類「会計事務の代理又は代行,財務書類の作成に関する助言・指導又は情報の提供」,第36類「金融又は財務に関する調査・評価又は分析」等の役務の役務提供者における開発の実情と解する余地はあるとしても,本件商標権2の指定役務であるSaaSの分野における実情とはいい難い。監査法人がその監査業務の中で用いるソフトウェアを開発していることは,なんら本件商標の識別力の有無を左右しない。
合議体は,異なる分野における実情を本件商標権2に係る第42類の役務における実情として根拠なく誤って参酌しており,不合理というほかない。

第5 当審の判断
1 「AI監査」の語について
(1)本件商標を構成する「AI」及び「監査」の語の意味合いについて
本件商標は,「AI監査」の文字を標準文字により表してなるところ,その構成文字である「AI」及び「監査」の語は,以下のとおりの意味を有するものである。
ア 「広辞苑 第七版(株式会社岩波書店発行)」によれば,「エー・アイ【AI】」の項に,「人工知能」との記載があり,同「人工知能」の項には,「(artificial inteligence)推論・判断などの知的な機能を備えたコンピューター・システム。」と説明されている。
同じく,「かんさ【監査】」の項に,「監督し検査すること。企業などの特定の行為,またはその行為を示す情報が適正か否かを,独立の第三者が一定の基準に基づいて検証し報告すること。内部監査と外部監査とがある。」との記載がある(甲3)。
イ 「大辞林 第三版(株式会社三省堂発行)」によれば,「エーアイ【AI】」の項に,「人工知能」との記載があり,同じく,「かんさ【監査】」の項に,「(業務の執行や会計・経営などを)監督し検査すること。また,その人。」との記載がある(甲4)。
ウ 「有斐閣経済辞典(第4版)(株式会社有斐閣発行)」によれば,「監査」の項に,「特定の組織体の行為または行為の結果について,独立した立場にある監査人が批判的に調査・検討して,その正否または適否に関する意見を表明すること。監査は・・・監査対象の相違から会計監査と業務監査に・・・分類される。」,同じく,「人工知能」の項に「artificial intelligence;AI」の英語表記及び略語が記載され,「人間が行っている知的な活動をコンピュータ上で実現しようとする学問分野。・・・医者などの専門家と同等に判断を下すエキスパート・システム等があり,実用レベルに達しているものも多い。」との記載がある(甲5)。 エ 「現代用語の基礎知識2019(自由国民社発行)」によれば,「監査法人」の項に,「監査とは,上場企業や学校法人等が作成した決算書類が適正に作成されているかどうか,会計処理が妥当で正しく表示されているかのチェックを主たる業務とする。」との記載があり,また,「人工知能(AI/エーアイ)」の項に,「コンピューターを用いて人間の脳がもつ知能や機能を実現させようというもの。」との記載がある(甲6)。
オ 「2009-’10年版 最新パソコン・IT用語事典(株式会社技術評論社発行)」において,「AI」の項に,「人工知能の略。言語理解,推論,問題解決などの人間の知能行動を,人間に代わって行うシステムのこと。」との記載がある(甲8)。
(2)本件商標を構成する「AI監査」の語に関する取引の実情等について
会計監査や内部監査等の監査業務を行う分野においては,以下のとおり、AIを活用した監査手法が検討・研究され,実際に「AIを活用した監査」も実施されている実情がある。
ア 平成28年(2016年)11月30日付け「日刊工業新聞」において,「IoT活用義務化」の見出しの下,「経済産業省は,2017年1月からIoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)を普及させるため,義務化を含む制度設計の検討に入る。・・・またコーポレートガバナンス(企業統治)改革の一環として,会計監査にAIの活用も模索していく。」との記事がある(甲13)。
イ 平成28年(2016年)12月6日付け「読売新聞」において,「監査法人にIT活用提言 金融庁方針 効率化図り不正監視」の見出しの下,「大手各監査法人は,人工知能(AI)の活用の研究も進めている。あずさ監査法人の・・・氏は『将来,人間が気づかないような不正取引の兆候をあぶり出す可能性がある』と期待する。金融庁はこうした取り組みを,さらに積極的に進めるよう促す考えだ。」との記事がある(甲14)。
ウ 平成26年(2014年)7月14日付け「日刊工業新聞」において,「UBIC,人工知能社内監査システムを事業化-予兆検出し防止策」の見出しの下,「UBICは情報漏えいや収賄などの予兆を検出して,防止につなげられる人工知能(AI)社内監査システムを事業化する。」との記事がある(甲15)。
エ 平成27年(2015年)8月4日発行の「週刊エコノミスト 第93巻 第31号 通巻4408号(毎日新聞出版株式会社発行)」において,「[特集]アベで動く株と政治 成長戦略で上がる株! 9分野67銘柄 6 人工知能(AI)既にSFの世界ではない」の見出しの下,「人工知能(AI)は,政府が6月末に閣議決定した成長戦略に初めて盛り込まれたこともあり,株式市場で注目を集めた。・・・関連銘柄では,『人工知能を応用した監査手法』を実現したと発表したUBICが筆頭格。」との記載がある(甲20)。
オ 平成28年(2016年)1月12日発行の「週刊エコノミスト 第94巻 第2号 通巻4431号(毎日新聞出版株式会社発行)」において,「[特集]これじゃ食えない!会計士・税理士・弁護士 資格だけでは『もう食えない』勝ち負けの差がより鮮明に」の見出しの下,「2015年12月,『士(さむらい)業』と呼ばれる人の一部で,ある調査結果が話題になった。それは,野村総合研究所が公表した『人工知能(AI)やロボットなどによる代替可能性が高い100種の職業』。人工知能で代替可能な仕事の一つに『会計監査係員』,つまり会計士が挙がったからだ。ある大手監査法人の公認会計士は,『人工知能で決算数値の矛盾や異常値も見つかりやすくなるだろう。会計士の仕事の多くはコンピューターでもできるし,人間以上の成果を出すかもしれない』と認める。」との記載がある(甲22)。
カ 平成28年(2016年)12月20日発行の「週刊エコノミスト 第94巻 第51号 通巻4480号(毎日新聞出版株式会社発行)」において,「[特集]粉飾ダマし方見抜き方 AIで粉飾を発見・防止」の見出しの下,「企業による粉飾が後を絶たない中,日本の大手監査法人4社は粉飾の早期発見と抑止のため人工知能(AI)の活用に本格的に取り組み始めた。新日本監査法人は上場企業が過去に公表した財務諸表から粉飾や訂正が行われたパターンをAIに学習させ,約100の観点から不正会計の兆候をつかむ手法を7月に導入した。」との記載がある(甲26)。
キ 平成29年(2017年)4月17日付け「読売新聞」において,「市場不正 AIが監視 データ解析 端緒逃さず」の見出しの下,「金融市場の取引や企業会計の不正を監視するため,AI(人工知能)を活用する動きが広がっている。・・・新日本監査法人は昨年7月,不正会計の端緒をつかむシステムを導入した。対象企業の決算に関する公表データをAIが解析し,過去の不正会計と似た傾向がないかを調べる。また,帳簿を過去に遡って解析して『通常より大幅に高い単価で取引されている』といった異常を発見し,不正の把握につなげるシステムの開発にも取り組んでいる。」との記事がある(甲31)。
ク 平成30年(2018年)4月14日発行の「週刊東洋経済」において,「Hot Issue AI代替論は一面的 会計士の業務はより広がる」の見出しの下,「企業決算を監査する公認会計士が不足しているとの声がある一方で,やがて監査業務の多くがAI(人工知能)に取って代わられるという見方もある。・・・単純作業についてAIやIT(情報技術)の活用で効率化することをすでに進めている。・・・」との記載がある(甲34)。
ケ 平成30年(2018年)11月2日発行の「金融専門誌ニッキン(日本金融通信社発行)」において,「あずさ監査法人,次世代監査技術,研究室を増員へ」の見出しの下,「有限責任あずさ監査法人は,2020年までに次世代監査技術研究室を現在の60人から100人体制へ増員する。高品質な監査を目指し,データ分析技法や人工知能(AI)を利用した手法を構築する。」との記載がある(甲37)。
コ 平成30年(2018年)9月30日発行の「内部監査人のためのIT監査とITガバナンス(同文館出版株式会社発行)」において,「4 AI活用の可能性(AIによる意思決定,AI監査の可能性)」の見出しの下,「さらにCAATTs活用の延長線上で,分析や監査を飛躍的に,効果的・効率的に行うためにAI(Artificial Intelligence)の活用について研究が進められている。・・・CAATTsによる監査とAI監査の境界は必ずしも明確ではないが・・・分析および意思決定,あるいは監査等のために,情報収集,情報分析,判断・意思決定の3つのプロセスでAIの活用が可能である。」との記載がある(甲41)。
サ 平成28年(2016年)10月26日付け「日刊工業新聞」において,「会計監査にAI導入」の見出しの下,「PwCあらた有限責任監査法人・・・は,人工知能(AI)などを活用した次世代の会計監査業務のあり方を追求する専門組織『AI監査研究所』を設置した。・・・AI監査研究所では,AIが機械ならではの網羅的な情報収集や,迅速で高精度の解析機能を活用して人員を支援する技術の確立を進める。」との記事がある(甲42)。
シ 平成30年(2018年)8月15日付け「朝日新聞」において,「(けいざい+)不正を見抜くAI:上 会計士とタッグ,効率化」の見出しの下,「不正の兆候を見逃さないためのAI(人工知能)の開発が,大手監査法人や研究者の間で本格化している。・・・まずは過去に不正をした企業の財務データを十数年分集め,さまざまな不正のパターンをAIに学習させる。そのAIに,これから監査しようとする各企業の財務データを分析させると『不正確率』が割り出され,ランク付けされる・・・」との記事がある(甲45)。
ス 平成30年(2018年)8月16日付け「朝日新聞」において,「(けいざい+)不正を見抜くAI:下 監査補完する戦力,開発に熱」の見出しの下,「『国内ビッグ4』と呼ばれるトーマツ,EY新日本,あずさ,PwCあらたの大手監査法人はいま,競うようにAI(人工知能)を使った監査のソフト開発に熱をあげている。・・・AIソフトは年々変わる監査基準や会計知識を蓄え,新人会計士らの質問に答えていく。繰り返し答えるうちに質問の意図を正確に読み取り,ディープラーニング(深層学習)機能で自ら成長していく・・・」との記事がある(甲46)。
セ 平成30年(2018年)9月5日付け「日本経済新聞電子版」において,「AI監査,会計士支える 不正発見の精度高く」の見出しの下,「大手監査法人で人工知能(AI)を活用した会計監査が広がっている。」との記事がある(甲47)。
ソ 平成29年(2017年)3月7日付け「theFinance」のウェブサイト記事において,「FinTechと将来の監査業務?AIとビッグデータが変える監査業務」の見出しの下,「監査は将来,AI監査としてデータから監査対象企業の取引の傾向等を分析し,テスト条件を提示して自動的に異常な取引を識別することが可能と考えられる。」の記載,及び,「革新的テクノロジーを活用した将来の監査業務」の項に,「将来の監査業務はAI等の革新的テクノロジーを活用した監査となると考えられる。こうしたAI監査によって,データから監査対象企業の取引の傾向等を分析し,テスト条件を提示して,自動的に異常な取引を識別することが可能となると考えられる。」との記載がある(甲51)。
(3)以上のとおり,「AI」の文字は「人工知能」を意味する語として知られ,監査業務にAI(人工知能)を活用する動向が顕著であるといい得ることからすれば,「AI監査」の文字からは,容易に「AI(人工知能)を活用した監査」の意味合いを認識させるものというのが相当である。
2 商標法第3条第1項第3号該当性について
本件商標は,「AI監査」の文字からなるところ,上記1のとおり,「AI監査」の文字からなる本件商標は,「AI(人工知能)を活用した監査」の意味合いを容易に理解させるものであるところ,「AI(人工知能)」は,推論・判断などの知的な機能を備えたコンピューターシステムであり,AIを研究・活用するためには電子計算機用プログラムが不可欠であって,かつ,AIを使った監査用のソフトウエアの開発が進められている実情がある(甲41等)。
そうすると,「AI(人工知能)を活用した監査」の意味合いを容易に理解させる本件商標を,その指定役務中,例えば,第42類「電子計算機用プログラムの提供」について使用するときは,提供される電子計算機用プログラムが「AI(人工知能)を活用した監査用の電子計算機用プログラム」であることを認識させるにすぎないものであって,これに接する取引者,需要者をして,単に役務の提供の用に供する物の内容を表示したものと認識させるにとどまるものと判断するのが相当である。
また,本件商標は,標準文字で表したものであるから,普通に用いられる方法で表示するものである。
したがって,本件商標は,本件商標権1の指定役務中,第42類「電子計算機用プログラムの提供但し,インターネットを通じて行う電子計算機用プログラムの提供を除く」及び本件商標権2の指定役務第42類「インターネットを通じて行う電子計算機用プログラムの提供」について使用するときは,役務の提供の用に供する物の内容を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであるから,商標法第3条第1項第3号に該当する。
4 商標法第4条第1項第16号該当性について
本件商標は,上記1のとおり,「AI(人工知能)を活用した監査」の意味を容易に認識させるものであるところ,本件商標権1の指定役務中,第35類「会計事務の代理又は代行,財務書類の作成に関する助言・指導又は情報の提供,経営の診断又は経営に関する助言」及び第36類「企業の信用に関する調査,金融又は財務に関する調査・評価又は分析」と「監査」とは,いずれも企業等の事務処理,事業の管理,財務又は金融業務に深い関わりを有する役務であって,公認会計士等の同一の事業者によって提供されることも少なくないことから,これらの役務の関連性は高いものであり,これを本件商標権1の指定役務中,上記役務について使用するときは,商標権者の提供する役務があたかも「AI(人工知能)を活用した監査」であるかのごとく,役務の質について誤認を生ずるおそれがあるものといわなければならない。
したがって,本件商標は,本件商標権1の指定役務中,第35類「会計事務の代理又は代行,財務書類の作成に関する助言・指導又は情報の提供,経営の診断又は経営に関する助言」及び第36類「企業の信用に関する調査,金融又は財務に関する調査・評価又は分析」について使用するときは,商標法第4条第1項第16号に該当する。
5 商標権者の主張について
商標権者は,「AI監査」の語の使用例が少ないことや,本件商標権2の指定役務である「インターネットを通じて行う電子計算機用プログラムの提供」の分野において,「AI監査」の文字が使用されていたことを示す書証が示されていないこと,また,「○○監査」の用例が特定の意味を有するに至っていないこと等を指摘し,「AI監査」の文字は「AI(人工知能)を活用した監査」の意味合いを容易に理解させない旨主張する。
しかしながら,「商標法3条1項3号は,取引者,需要者に指定商品の品質等を示すものとして認識され得る表示態様の商標につき,それ故に登録を受けることができないとしたものであって,該表示態様が,商品の品質を表すものとして必ず使用されるものであるとか,現実に使用されている等の事実は,同号の適用において必ずしも要求されないものと解すべき」(平成12年(行ケ)第76号判決)であることからすれば,同号の適用に当たっては,必ずしも実際の使用例が数多く要求されるわけではないものと解されるところ,上記1に示したような,「AI」及び「監査」の語義や,「監査」に「AI」が活用されている状況を総合的に検討すれば,「AI監査」の語の使用例が少なく,また,特定の語義が辞書等に記載されていないとしても,本件商標は,これに接する本件商標の指定役務の取引者,需要者に「AI(人工知能)を活用した監査」を意味するものとして容易に認識され得ると判断するのが相当である。
したがって,商標権者の主張は採用することができない。
6 むすび
以上のとおり,本件商標は,本件商標権1の指定役務中,第42類「電子計算機用プログラムの提供但し,インターネットを通じて行う電子計算機用プログラムの提供を除く」及び本件商標権2の指定役務,第42類「インターネットを通じて行う電子計算機用プログラムの提供」について商標法第3条第1項第3号に該当し,また,本件商標権1の指定役務中,第35類「会計事務の代理又は代行,財務書類の作成に関する助言・指導又は情報の提供,経営の診断又は経営に関する助言」及び第36類「企業の信用に関する調査,金融又は財務に関する調査・評価又は分析」について同法第4条第1項第16号に該当するものであり,その登録は,同第3条及び同第4条第1項の規定に違反してされたものであるから,同法第43条の3第2項の規定により,その登録を取り消すべきものである。
よって,結論のとおり決定する。
別掲
異議決定日 2020-03-24 
出願番号 商願2018-67902(T2018-67902) 
審決分類 T 1 651・ 13- Z (W353642)
T 1 651・ 272- Z (W353642)
最終処分 取消 
前審関与審査官 大島 康浩 
特許庁審判長 山田 正樹
特許庁審判官 鈴木 雅也
冨澤 美加
登録日 2019-03-15 
登録番号 商標登録第6130484号(T6130484) 
権利者 フリー株式会社
代理人 井滝 裕敬 
代理人 角谷 健郎 
代理人 大谷 寛 
代理人 石戸 孝 
代理人 中村 稔 
代理人 田中 伸一郎 
代理人 松尾 和子 
代理人 藤倉 大作 
代理人 ▲吉▼田 和彦 
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