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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2018890085 審決 商標
無効2019890038 審決 商標
無効2020890039 審決 商標
無効2018890038 審決 商標
無効2018890005 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない W3542
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない W3542
審判 全部無効 外観類似 無効としない W3542
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない W3542
審判 全部無効 観念類似 無効としない W3542
審判 全部無効 称呼類似 無効としない W3542
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない W3542
管理番号 1362526 
審判番号 無効2018-890081 
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-10-24 
確定日 2020-05-08 
事件の表示 上記当事者間の登録第5999063号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5999063号商標(以下「本件商標」という。)は、「ニャンチューバー」の片仮名を標準文字で表してなり、平成29年4月3日登録出願、第35類「情報通信ネットワークを介したウェブサイトにおける愛玩動物用の商品の売買契約の媒介又は取り次ぎ,保育及びペットの飼育にかかる事業の経営に関する助言及び指導,ペットモデルのあっせん,ペットモデルの募集,ペットモデルのタレント活動の管理,ペットモデル出演契約交渉の媒介,芸能プロダクション事業の管理・運営,広告制作プロダクションの事業の評価又は事業の管理,広告業」及び第42類「愛玩動物に関するホームページの作成及びこれに関する情報の提供,愛玩動物に関する情報を閲覧するためのコンピュータプログラムの提供」を指定役務として、同年10月16日に登録査定、同年11月24日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が、本件商標の登録の無効の理由について、商標法第4条第1項第11号、同第10号、同第15号、同第19号及び同第7号に該当するとして引用する商標は、以下のとおりである。
1 登録第4999382号商標(以下「引用商標1」という。)
商標の構成:YouTube(標準文字)
登録出願日:平成18年7月28日
優先権主張:アメリカ合衆国 2006年(平成18年)1月30日
設定登録日:平成18年10月27日
指定役務:第42類「気象情報の提供,建築物の設計,測量,地質の調査,機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計,デザインの考案,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,ウェブサイトの作成又は保守,電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究,建築又は都市計画に関する研究,公害の防止に関する試験又は研究,電気に関する試験又は研究,土木に関する試験又は研究,農業・畜産又は水産に関する試験・検査又は研究,機械器具に関する試験又は研究,著作権の利用に関する契約の代理又は媒介,計測器の貸与,電子計算機の貸与,電子計算機用プログラムの提供,理化学機械器具の貸与,製図用具の貸与」及び第38類及び第41類に属する商標登録原簿に記載のとおりの役務
2 登録第4999383号商標(以下「引用商標2」という。)
商標の構成:別掲1のとおり
登録出願日:平成18年7月28日
優先権主張:アメリカ合衆国 2006年(平成18年)1月30日
設定登録日:平成18年10月27日
指定役務:第42類「気象情報の提供,建築物の設計,測量,地質の調査,機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計,デザインの考案,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,ウェブサイトの作成又は保守,電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究,建築又は都市計画に関する研究,公害の防止に関する試験又は研究,電気に関する試験又は研究,土木に関する試験又は研究,農業・畜産又は水産に関する試験・検査又は研究,機械器具に関する試験又は研究,著作権の利用に関する契約の代理又は媒介,計測器の貸与,電子計算機の貸与,電子計算機用プログラムの提供,理化学機械器具の貸与,製図用具の貸与」及び第38類及び第41類に属する商標登録原簿に記載のとおりの役務
3 国際登録第991364号商標(以下「引用商標3」という。)
商標の構成:別掲2のとおり
国際登録日:2008年(平成20年)10月16日
設定登録日:平成22年7月16日
指定商品及び指定役務:第35類「Advertising and promotional services on behalf of others; promotional services, namely, promoting the goods and services of others through online entertainment, online education, and sharing of multimedia content via the Internet and other communications networks; developing and providing marketing plans for advertisers, marketers, partners and content providers; providing a website where advertisers, marketers, and content providers can reach, engage, and interact with online users for the purposes of promotion or advertising.」、第42類「Providing temporary use of non-downloadable software to enable uploading, capturing, posting, showing, editing, playing, streaming, viewing, previewing, displaying, tagging, blogging, sharing, manipulating, distributing, publishing, reproducing, or otherwise providing electronic media, multimedia content, videos, movies, pictures, images, text, photos, user-generated content, audio content, and information via the Internet and other communications networks; providing temporary use of non-downloadable software to enable sharing of multimedia content and comments among users; providing temporary use of non-downloadable software to enable content providers to track multimedia content; providing temporary use of non-downloadable analytics software, namely, software that provides statistics about the behavior of viewers of online videos, movies, pictures, images, text, photos, games, and other user-generated content; hosting multimedia content for others; hosting multimedia entertainment and educational content for others.」、第9類、第38類及び第41類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務
4 国際登録第995316号商標(以下「引用商標4」という。)
商標の構成:YOUTUBE
国際登録日:2008年(平成20年)12月11日
設定登録日:平成22年7月16日
指定商品及び指定役務:第35類「Advertising and promotional services on behalf of others; promotional services, namely, promoting the goods and services of others through online entertainment, online education, and sharing of multimedia content via the Internet and other communications networks; developing and providing marketing programs for advertisers, marketers, and content providers; providing a website where advertisers, marketers, and content providers can reach, engage, and interact with online users for the purposes of promotion or advertising.」及び第9類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品
上記の引用商標1ないし引用商標4は、現に有効に存続しているものである。
5 「ユーチューバー」及び「YOUTUBER」の文字よりなり、請求人及び請求人が提供する動画共有ウェブサイト「YouTube」に継続的に動画を投稿する者が「電子媒体又は情報をインターネット上又は他の通信ネットワーク上でアップロード・ホスティング・発表・表示・タグ付け・ブログ・共有又は他の提供を可能にするコンピュータソフトウェア,広告及び販売促進(他人のためのこと),販売促進、すなわちオンラインによる娯楽・オンラインによる教育経由による他人の商品の販売促進及び役務の普及促進,インターネットその他の通信網により電子媒体・電子情報をアップロード・投稿・展示・掲示・付加・ブログ・共有その他の方法で提供する放送,電気通信,インターネットその他の通信網により電子媒体・電子情報を提供する教育及び娯楽の提供,電子媒体・マルチメディアコンテンツ・ビデオ・映画・写真・画像・テキスト・写真・ユーザーが作成したコンテンツ・オーディオコンテンツ及び関連情報の提供,電子メディア・マルチメディアコンテンツ・ビデオ・映画・絵柄・画像・テキスト・写真・ユーザーが作成したコンテンツ・オーディオコンテンツ及び情報のアップロード・取得・ポスティング・発表・表示・タグ付け・ブログ・共有・操作・配信・制作・複製又は他の作業の提供をインターネット及び他の通信ネットワーク経由により可能にするダウンロードできないソフトウェアの一時的な使用の提供」に使用して周知・著名であると主張する標章(以下「引用未登録標章」という。)
以下、引用商標1ないし引用商標4を「引用登録商標」といい、引用登録商標と引用未登録標章を合わせて「引用商標」ということがある。

第3 請求人の主張
請求人は、「本件商標はその登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第48号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
(1)引用商標の周知性について
ア 「YouTube」について
請求人の提供する動画共有・配信ウェブサイト「YouTube」(以下「YouTube」という。)は、2005年の立ち上げ以来、全世界で何十億ものユーザーが、自ら作成した動画をアップロードし、共有し、再生できる場として親しまれ、そこでは、世界中のユーザーが繋がり、情報を交換し、お互いに影響を与え合うことができることから、インターネット上における動画配信サービスの先駆けとなり、極めて短期間のうちに世界中で広く知られるようになった(甲3、甲4)。
また、動画コンテンツ制作者や広告主は、「YouTube」を用いて、動画や広告を自由に配信することもでき、広告媒体としての利用も推奨され、多くの企業にも幅広く活用されている(甲5)。
(ア)請求人と「ユーチューブ リミテッド ライアビリティー カンパニー」について
請求人は、インターネットの代表的なサーチエンジンのひとつである「Google」を運営する米国の企業である。
その中核サービスの一つである動画共有は、主に「YouTube」の管理運営を通じて提供されているが、同サイトは、請求人が2006年11月にユーチューブ,インコーポレイテッド(以下「ユーチューブ社」という。後に、「ユーチューブ リミテッド ライアビリティー カンパニー」となる。)を買収し、その事業を実質的に運営・管理する形で開始された(甲6)。
(イ)「YouTube」ロゴの採択の由来
「YouTube」の名前は、二人称単数を表す英語の「You」と、「ブラウン管」を意味し、「テレビ」を表す米国の俗語として用いられている「Tube」の文字を組み合わせた創造語であり、ユーザー(You)が、インターネットを通じて、テレビ(Tube)に見立てたPCモニターに自らを映し出すものというメッセージを込めて採択されたものであり、(テレビ)放送に関係する言葉を、あえてインターネット(通信)におけるウェブサイトの名称(商標)に使用したことは他に例がなく、とても独創的なものであった。
(ウ)「YouTube」の特徴
「YouTube」においては、会員登録をしたユーザーは、動画ファイルをインターネット上にアップロードすることにより投稿し、公開することができる。
また、「YouTube」で公開された動画ファイルの検索・閲覧は会員登録の有無にかかわらず、誰でも無料で閲覧することができ、会員登録したユーザーは、さらに閲覧した動画に対するコメントを投稿したり、動画を5段階で評価することもできる。
(エ)「YouTube」の利用者
「YouTube」は、サービスを開始した当初は英語のみで運営していたが、高い利便性・娯楽性から世界中で人気が爆発し、サービスを開始後間もなく(2006年春)、世界中から一日当たり6万5千件もの動画のアップロードがなされ、1億件を超える動画の配信が行われるようになった(甲8)。
日本からの投稿者・視聴者も非常に多く、サービス開始直後の2006年3月時点において、米国内からのアクセスが1か月あたり800万、日本国内からのアクセスも1か月あたり200万を数えた。さらに、請求人が2006年11月にユーチューブ社を買収した(甲6)ことの話題性も相まって、2007年6月には日本語版の「YouTube」のサイトが完成し、より多くの日本のユーザーが容易にアクセスできるようになり、「YouTube」は我が国において急激に広まることとなった。
(オ)「YouTube」の事業者による利用拡大
「YouTube」を利用することによって、インターネット上で手軽に動画を公開・配信することが可能になることに着目し、同サイトを広告・宣伝の媒体として利用する者も現れた。
我が国においても、「YouTube」の広告・宣伝的活用法が着目され(甲13、甲14)、有料放送を手掛けるスカイパーフェクTVをはじめ、民放各社がこぞって専用チャンネルを開設した(甲15?甲18)。
(カ)「YouTube」の個人による利用促進
2007年5月、請求人は、最も閲覧数の多い数名のユーザーに「パートナー」となるよう勧誘した。請求人は、特権的地位(パートナー)を、当初は、商業コンテンツを供給する企業のみに与えていたが、ビデオ画面の隣に広告掲載するのを条件に、一般のユーザーにも動画の配信を通じて利益を得ることを可能にした。
2011年4月には、パートナープログラムが一般にも開放され、より多くのユーザーが「YouTubeクリエイター」として魅力的な動画を配信することで閲覧数を稼ぎ、ひいては広告収入を得られることとなった。一部の「YouTubeクリエイター」は「YouTuber(ユーチューバー)」と呼ばれてインターネットユーザーの間で爆発的人気を有する者もあらわれ、ある種の社会現象のごとくになっている。
なお、「YouTube」の日本版の公式チャンネルの我が国におけるサブスクライバー(登録閲覧者)は93万人に上り、2013年8月20日から2015年9月30日の間で、述べ約6,125万回閲覧された(請求人調べ)。
(キ)「YouTube」のアプリケーションソフトウェアとしての利用
請求人の提供するスマートフォン等用のオペレーションソフトである「アンドロイド(Android)」を搭載したスマートフォン等に、「YouTube」のアプリケーションソフトウェアが、プレインストールされている事実は特筆すべきものである。
我が国における、スマートフォン等にプレインストール又はダウンロードされた「YouTube」のアプリケーションソフトウェアの総数は、2013年8月20日から2015年9月30日の間で、2,743万7千になる。
(ク)我が国における「YouTube」
「YouTube」は、日本国内において、動画サイトの利用者数第1位となり、2位以下を大きく引き離すとともに(甲32)、請求人が、2016年におけるパソコン経由の動画ストリーミングの閲覧数が最も多いサービス企業(甲33:民間企業「コムスコア社」調べ)となっている。
(ケ)まとめ
してみると、2006年には、「YouTube」の使用が開始され、今日においても継続して使用され、我が国の需要者、取引者間で広く知られるに至っている事実をみることができる。
イ 「YouTuber(ユーチューバー)」について
「YouTuber(ユーチューバー)」は、「動画共有・配信ウェブサイト『YouTube』に頻繁に動画を投稿し、人気やその結果の広告収入を得ている人たち」を示すものである(「現代用語の基礎知識2016」自由国民社)。
「YouTuber(ユーチューバー)」は、上記ア(カ)のとおり、瞬く間に広まった(甲38)ものであるから、「『YouTube』に頻繁に動画を投稿し、人気やその結果の広告収入を得ている人たち」を示すものとして広く知られ、これが請求人の「YouTube」を用いた業務と密接に関わるものであることは明らかである。
ウ 引用登録商標の指定役務と「YouTube」と、その業務に密接に関わる役務等表示「YouTuber」を用いて提供された商品・役務との関係
引用登録商標は、「YouTube」を通じて、「インターネットその他の通信網により電子媒体・電子情報をアップロード・投稿・展示・掲示・付加・ブログ・共有その他の方法で提供する放送,電気通信(第38類)」、「インターネットその他の通信網により電子媒体・電子情報を提供する教育及び娯楽の提供,電子媒体・マルチメディアコンテンツ・ビデオ・映画・写真・画像・テキスト・写真・ユーザーが作成したコンテンツ・オーディオコンテンツ及び関連情報の提供(第41類)」をはじめとして、「広告及び販売促進(他人のためのこと),販売促進、すなわちオンラインによる娯楽・オンラインによる教育経由による他人の商品の販売促進及び役務の普及促進(第35類)」を提供するとともに、「YouTube」の利用のための、「電子媒体又は情報をインターネット上又は他の通信ネットワーク上でアップロード・ポスティング・発表・表示・タグ付け・ブログ・共有又は他の提供を可能にするコンピュータソフトウエア(ダウンロードによるもの、ダウンロードされないもの)(第9類、第42類)」(以下「引用登録商標使用商品・役務」という。)として使用されている。
そして、引用未登録標章は、「YouTube」に係る商品・役務と密接に関連して用いられている。
エ まとめ
以上より、本件商標の登録出願前から、引用登録商標に係る「YouTube(ユーチューブ)」は請求人の提供に係る動画共有・配信ウェブサイトについて継続して使用された結果、周知・著名性を獲得しており、本件商標の登録査定時においても継続してその周知・著名性を維持していたと優に推認できるものである。
また、引用未登録標章に係る「YouTuber(ユーチューバー)」についても、請求人の提供に係る動画共有・配信ウェブサイトに関わる業務と密接に関わる表示として、我が国において広く知られるに至っているものである。
(2)本件商標と引用商標の類似性について
本件商標からは「ニャンチューバー」の称呼が生じ、引用登録商標からは「ユーチューブ」、引用未登録標章からは「ユーチューバー」の称呼が生じる。
両称呼を対比すると、いずれの商標も長音を含む7音又は8音という比較的長い称呼からなることから、前半と後半(「チューバー(チューブ)」)が段落をもってわずかに区切ったように発音される点で共通する。
そして、後半部分においては、「チューバー」が完全に一致するか、「チューバー」と極めて近似した音である「チューブ」である点においても共通する。特に、「チュー」の音は、強く響く歯茎破擦音が「ウ(u)」の母音を帯同し、さらに長音を伴うことによって音量が多くなることから、強音として聴取され、後半の音が聴者にとって印象に残りやすいので、両商標を一連に称呼した場合の音感が極めて近似したものとなる。
なお、「ニャンチューバー」と「ユーチューブ」の比較においては、語尾における長音の有無の差異があるが、この長音は必ずしも常に一定の長さで発音されるとは限らず、例えば「ニャンチューバ」のように語尾が短く発音されることも少なくないため、長音の有無による差異は、称呼の識別上大きな影響を及ぼすものではない。
以上のとおり、本件商標から生じる「ニャンチューバー」の称呼と引用登録商標から生じる「ユーチューブ」の称呼を対比すると、両者を構成する音のうち、3音から4音が共通する上、前半の音が比較的弱く柔らかに称呼され、強音として聴取される後半の「チュー」へとリズミカルにテンポよくつながる全体の音調が著しく類似する。
とりわけ、両称呼に共通する「チュー」は、強音として聴取され、強く印象付けられる点でも、相互に全体的語調・語感が著しく近似する。
次に、観念については、本件商標及び引用商標は、いずれも創造語ではあるが、引用登録商標に係る「YouTube」は、請求人の提供する「YouTube」として採択され、我が国において周知・著名となっている商標であり、引用未登録標章は、「『YouTube』に頻繁に動画を投稿し、人気やその結果の広告収入を得ている人たち」を示すとともに、「YouTube」に密接に関わる役務等表示として、我が国において広く知られるに至っているものである(甲3?甲42)。
そうすると、引用登録商標と引用未登録標章からは、それぞれ「請求人の提供する動画共有・配信ウェブサイト」、「『YouTube』に頻繁に動画を投稿し、人気やその結果の広告収入を得ている人たち」に関連する商品・役務との観念が生ずるといえる。
これに対し、本件商標を構成する「ニャンチューバー」の文字は、既成語とはいえないが、請求人の商標として我が国において周知・著名な商標である「YouTube(ユーチューブ)」又は「YouTuber(ユーチューバー)」に近似したものである。
さらに、特徴的な「チューバー」の文字を含んでいることにかんがみれば、これに接する需要者・取引者をして、「チューバー」の部分が強く印象付けられて、これに接する需要者・取引者の注意を特に強く惹く。
そうすると、本件商標からは、「請求人の提供する動画共有・配信ウェブサイト」、「『YouTube』に頻繁に動画を投稿し、人気やその結果の広告収入を得ている人たち」に関連する商品・役務に通じる観念、又は、「YouTube(ユーチューブ)」若しくは「YouTuber(ユーチューバー)」を想起、連想する点において、観念上も、引用商標と相当程度類似する。
そこで、隔離観察を行った場合、本件商標と引用商標は、称呼上のみならず、観念上も近似する場合があり、しかも、これに接する需要者・取引者をして「チューバー」の文字が強く印象付けられ、需要者等の通常の注意力のみをもってしては、本件商標と引用商標とを区別することは必ずしも容易ではない。
以上を総合すると、本件商標と引用商標とは、彼此紛れるおそれの高い類似の商標である。
(3)商標法第4条第1項第11号該当性について
前記のとおり、本件商標にあっては、称呼において、引用登録商標とは全体の音調が近似しており、特に、中間部分の「チュー」が強く印象付けられる点で、相互に全体的語調・語感が著しく近似する。
また、観念においても、「請求人の提供する動画共有・配信ウェブサイト」、「『YouTube』に頻繁に動画を投稿し、人気やその結果の広告収入を得ている人たち」に関連する商品・役務に通じる観念、又は、「YouTube(ユーチューブ)」若しくは「YouTuber(ユーチューバー)」を想起、連想する点において、観念上も、引用登録商標と相当程度類似するものである。
してみると、本件商標と引用登録商標は、彼此紛れるおそれが高い類似の商標である。
また、本件商標の第35類の指定役務は、引用商標3及び4の指定役務と類似する。
そして、本件商標の第42類の指定役務は、引用商標1及び2の各指定役務、引用商標3の指定商品(コンピュータプログラムの提供について)及び指定役務、引用商標4の指定商品(コンピュータプログラムの提供について)と同一又は類似のものである。
よって、本件商標は、引用登録商標との関係において、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第10号該当性について
本件商標と引用商標は、上記(2)のとおり、彼此紛れるおそれが高い類似の商標である。
そして、引用商標は、上記(1)のとおり、本件商標の登録出願前から、我が国において広く知られるに至っているものであり、引用登録商標使用商品・役務と、本件商標の指定役務は類似する。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。
(5)商標法第4条第1項第15号該当性について
ア 本件商標と引用商標の類似性の程度について
本件商標と引用商標は、前記のとおり、彼此紛れるおそれが高い類似の商標であるから、類似性の程度は高いといわなければならない。
イ 引用商標の周知(著名)性について
引用商標は、上記(1)のとおり、本件商標の登録出願前から、我が国において広く知られるに至っているものである。
ウ 引用商標の独創性の程度について
引用登録商標に係る「YouTube」の文字は、前記のとおり、独創的なものであって、常に、請求人の商品・役務のみを指称する語として使用されており、かつ、そのように理解、把握されている。
引用未登録標章に係る「ユーチューバー」又は「YouTuber」は、「YouTube」に、「・・・する人」を表す名詞をつくる「-er」を付加したものであるが、一般的な辞書には一切記載がない、極めて独創性の高い言葉である。
エ 商品・役務間の関連性について
(ア)「情報通信ネットワークを介したウェブサイトにおける愛玩動物用の商品の売買契約の媒介又は取り次ぎ,保育及びペットの飼育にかかる事業の経営に関する助言及び指導,広告制作プロダクションの事業の評価又は事業の管理(類似群コード:35B01)」及び「広告業(類似群コード:35A01)」について
上記指定役務は、引用商標が周知性を獲得することとなった「オンラインによる娯楽・オンラインによる教育経由による他人の商品の販売促進及び役務の普及促進」等に関する役務との関係で「同一又は類似の役務」であり、非常に関連性の高いものである。
さらに、「YouTube」を広告・宣伝の媒体として利用する企業が現れ、請求人は、広告用ビデオ等の掲載を通じて、商業に従事する企業(又は、動画提供等で生計を立てる個人)等に対して、企業の運営・管理に関する援助を目的として、伝達手段を用いた公衆への伝達又は発表を主に請け負う業務を行っているといい得ることから、本件商標の指定役務と引用商標が周知性を有する役務「オンラインによる娯楽・オンラインによる教育経由による他人の商品の販売促進及び役務の普及促進」の間における商品・役務の性質(質)、用途、目的における関連性の程度は極めて高い。
(イ)「ペットモデルのあっせん,ペットモデルの募集,ペットモデルのタレント活動の管理,ペットモデル出演契約交渉の媒介,芸能プロダクション事業の管理・運営」について
請求人は、2007年以降は、動画の配信を通じて利益を得ることができる特権的地位(パートナー)を、一般のユーザーにも解放し、その者たちが動画の配信を通じて利益を得ることを可能にした。人気のユーザーは「YouTuber(ユーチューバー)」と呼ばれ、商品の宣伝動画の制作を依頼するといったタイアップの例も増加傾向しており(甲41)、一般消費者、特に、若年層へのプロモーションの新たな手法として注目されている(甲42)。
してみると、本件商標の指定役務と引用商標が周知性を有する各役務の間における役務の質、用途、目的における関連性の程度は極めて高い。
オ 需要者・取引者の共通性その他の取引の実情について
本件商標権者は、月間500万人が利用する、猫などの動物を題材とした動画共有・配信サイトを管理・運営している(甲43)。そして、動物の撮影に適した写真撮影スタジオの貸出も行っている(甲44)。また、各企業とのタイアップにより、動画を利用した広告掲載などのサポート業務を行っている(甲45)。
すわなち、本件商標権者の取扱う商品、役務は、いずれも請求人の提供する動画共有・配信サイトの提供、さらに、広告及び販売促進(他人のためのこと)に関連するものばかりであって、完全に同一の役務といっても過言ではない。
そして、本件商標権者の取引者・需要者は、紛れもなく、インターネットユーザーを中心とした一般消費者であり、両商標の取引者・需要者は完全に同じとなる。
本件商標権者の需要者である一般消費者には、老若男女も含まれ、その注意力の程度は決して高くはない。
特に、「YouTube」において、10代の若年層による利用率が他の年代に比べて高いことや(甲34)、「YouTuber(ユーチューバー)」が、小中学生人気の職業となっていところ(甲39、甲40)、小中高生などの未成年者の注意力・判断力はさらに低いものとなる。
カ まとめ
以上の事情を総合的に勘案すれば、本件商標は、これに接する需要者・取引者に対して、引用商標を連想させて商品の出所について誤認を生じさせ、不当に需要者等を誘導するためのものであり、その登録を認めた場合には、引用商標の持つ顧客吸引力へのただ乗り(いわゆるフリーライド)や、その希釈化(いわゆるダイリューション)を招くという結果を生じかねない。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(6)商標法第4条第1項第19号該当性について
引用登録商標は、我が国の需要者間で広く知られた商標であり、本件商標は、その著名な引用登録商標と類似する商標である。
そして、請求人とは何らの関係を有しない他人が著名な引用登録商標と類似する本件商標を採択することは、本来自らの営業努力によって得るべき業務上の信用を、著名商標に化体した信用にただ乗り(フリーライド)することによって得ようとするものであり、同時に、著名商標に化体した莫大な価値を希釈化させるおそれがある。
しかも、本件商標権者は、猫などの動物を題材とした動画共有・配信サイトを運営しているが、役務内容の類似性と引用商標の周知著名性にかんがみれば、本件商標権者が、引用商標の存在について知悉していたことは明らかである。特に、「ユーチューバー」又は「YouTuber」は、「『YouTube』に頻繁に動画を投稿し、人気やその結果の広告収入を得ている人たち」であるところ、「ユーチューバー」をもじって、動画の主体となる「猫」を表す「ニャン」に置き換えたものと容易に理解できる。
すわなち、本件商標権者が、引用商標の存在並びにその周知著名性について知悉していたことは明らかであり、引用商標に化体した名声、信用にただ乗りする目的で採択されたものと理解するのに格別の困難を要しない。
さらに、本件商標権者は、猫などの動物を題材とした動画共有・配信サイトに投稿された画像や動画、そして、それら画像等を投稿する人を、「iPhoneやAndroidなどのスマートフォンで、写真や動画を簡単にシェアすることが出来るアプリやサービスを指す」(「知恵蔵」株式会社朝日新聞出版)ものとして広く知られている他人の商標「インスタグラム(Instagram)」、及び「インスタグラム」に頻繁に画像や動画を投稿する人を示すものとして広く知られている「インスタグラマー(Instagramer)」をもじって、動画の主体となる「猫」を表す「ニャン」に置き換え、「ニャンスタグラム」「ニャンスタグラマー」などと呼んでいる(甲44)。
これは、他社標章に化体した名声、信用にただ乗りする目的で採択されたものと容易に理解できる。
以上より、本件商標権者は、請求人を含む他人の名声へのただ乗り希釈化に資する行為を常習的に行っているものと考えられる。
してみると、本件商標は不正の目的をもって使用をするものということができる。
以上より、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
(7)商標法第4条第1項第7号該当性について
本件商標権者は、上記(6)のとおり、請求人を含む他人の名声へのただ乗り希釈化に資する行為を常習的に行っている可能性を否定できない。
よって、本件商標は、その登録出願の目的・意図等に著しく社会的妥当性を欠くものであり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないものである。
以上より、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
2 答弁に対する弁駁
(1)商標法第4条第1項第11号及び同第10号について
ア 本件商標と引用商標の類似性について
被請求人は、本件商標が造語であることから、特定の観念が生じないとしながらも、構成中の「チューバー」の文字から「YouTuber(ユーチューバー)」の「Tuber」の部分を想起できること、「ニャン」の文字が「猫の鳴き声」「猫」を想起できることから、「猫に関する動画を投稿する人」「猫に関する動画を投稿し、広告収入を得る人」の観念が生じる場合があることを認めている。
この点、請求人及び関連会社が運営する「YouTube」においては、様々なテーマのビデオが存在するところ、「猫に関する動画」が大量に投稿され、閲覧が可能となっており(甲46)、「ユーチューバー」として有名な人の中には、「猫に関する動画を投稿し、広告収入を得る人」も現に存在する(甲47、甲48)。
してみると、本件商標にあっては、構成中の「チューバー」の文字から「YouTuber(ユーチューバー)」が想起され、「猫に関する動画を投稿する人」「猫に関する動画を投稿し、広告収入を得る人」の観念をもって理解されるものであり、「YouTube」においては、「猫に関する動画を投稿する人」「猫に関する動画を投稿し、広告収入を得る人」も現に存在しているところからすれば、引用商標とは、その意味合いにおいて相紛らわしく、観念上類似する場合が少なくない。
次に、称呼についても、被請求人が認めているように、本件商標の構成中の「チューバー」の文字から「YouTuber(ユーチューバー)」が想起されるところから、「チューバー」の音が着目されることとなる。
イ 商標法第4条第1項第11号該当性について
前記のとおり、本件商標と引用登録商標は、彼此紛れるおそれが高い類似の商標である。
また、本件商標の指定役務と引用登録商標の指定商品及び指定役務は同一又は類似のものであり、被請求人はこの点について争っていない。
ウ 商標法第4条第1項第10号該当性について
引用商標の周知性及び本件商標の指定役務と引用商標に係る商品及び役務の類似性について、被請求人は争っていない。
(2)商標法第4条第1項第15号について
ア 混同のおそれの有無について
(ア)類似性の程度
前記のとおり、本件商標と引用登録商標は、少なくとも称呼、観念において類似する。
しかも、本件商標構成中の「チューバー」の文字が、請求人の商標として周知・著名である「ユーチューブ」、又は、「ユーチューブ」に密接に関連する「ユーチューバー」と共通にしていることから、これに接する需要者・取引者をして、「チューバー」の文字が強く印象付けられ、需要者等の通常の注意力のみをもってしては、本件商標と引用商標とを区別することは容易ではない。
さらに、本件商標及び引用商標の需要者は、共に、一般消費者が想定され、老若男女も含まれ、その注意力の程度は決して高くはないことを考慮すれば、混同のおそれがあることは否定できない。
なお、被請求人は、本件商標中の「チューバー」の文字が引用未登録標章に係る「YouTuber(ユーチューバー)」の「Tuber」の部分を想起できる点については否定していない。
してみると、本件商標と引用商標の類似性は高い。
(イ)周知(著名)性の程度(顧客吸引力の強さ)
「YouTube」の文字は、前記のとおり、独創的なものであって、常に、請求人の商品・役務のみを指称する語として使用されており、かつ、そのように理解、把握されている。
そして、「ユーチューバー」又は「YouTuber」は、「YouTube」を人間化することによって、看者の脳裏に記憶されやすい、極めて独創性の高い言葉となっている。特に、「Tuber」の文字については、我が国でも知られている英単語「Tube」とは異なり、知られた意味合いが把握されるものではなく、「YouTube」の「Tube」を、人を表す英語に変化させた創作語のごときものと理解される。
このような独創性の高さから、「YouTube」の商標に接する取引者・需要者は、特に「Tube」又は「Tuber」の文字に着目し、記憶するといえるから、引用商標においては、「Tube」又は「Tuber」の文字部分が看者にとって印象深く、脳裏に記憶されやすい特徴的な部分であるといっても過言ではない。
以上より、引用商標に係る「YouTube」「YouTuber」が周知・著名であることによって、需要者等は、「Tube」又は「Tuber」をもって、引用商標を想起するものといっても差し支えない。
なお、引用商標が、少なくとも、インターネットを利用した動画共有・配信、広告関連の役務分野において、極めて高い周知著名性及び顧客吸引力を有していることは、「Tube(TUBE)」「Tuber(TUBER)」を名称(商標)の一部に用いた、「YouTube」を模倣又はこれに依拠したウェブサイトが、インターネット上に多数存在している事実(乙3の1?乙16の2)からも容易に認め得るところである。
(ウ)独創性の程度
前記のとおり、引用登録商標に係る「YouTube」、引用未登録標章に係る「ユーチューバー」又は「YouTuber」は、いずれも、看者の脳裏に記憶されやすい、極めて独創性の高い言葉となっている。
(エ)商品・役務の関連性
「YouTube」を運営する請求人又は関連会社は、「YouTuber(ユーチューバー)」が投稿した動画に、広告動画を掲載することによって、広告主から広告料を受領し、その収益の一部を動画投稿者に支払うものであり、「YouTuber(ユーチューバー)」が、多くの視聴者から閲覧されるような人気の動画を投稿すればするほど、広告が多く掲載され、ひいては、請求人又は関連会社が運営する「YouTube」を通じて、「広告」に関する役務が提供されることになる。
請求人又は関連会社が運営する「YouTube」を通じて、「(第41類)通信ネットワークを利用した音声、音楽、静止画、動画の提供」の各役務を提供し、周知・著名になっているとしても、それら役務と同時に「広告」の役務を提供している事実が否定されるものでなく、むしろ、「(第41類)通信ネットワークを利用した音声、音楽、静止画、動画の提供」の役務が頻繁に提供され、周知・著名であることから、同時に提供される「広告」の役務についても、周知・著名になっているものと優に理解できる。
したがって、請求人又は関連会社が運営する「YouTube」を通じて、提供される「広告」の役務についても、周知・著名になっているというべきであり、ましてや、被請求人が主張するように「引用登録商標」、「引用未登録標章」が「広告」関連役務との関係で、出所表示機能を失っている事実などない。
(オ)取引の実情について
被請求人の主張は、自己の都合の良いように事実を解釈し、自らの正当性を主張するものであって、到底容認できるものではない。
そして、被請求人が挙げた「Tube(TUBE)」、「Tuber(TUBER)」を名称(商標)の一部に用いた、「YouTube」を模倣、又は、依拠したウェブサイトがインターネット上に多数存在している事実は、「TUBE」、「TUBER」がありふれていることを示すものではなく、逆に、引用登録商標等がインターネット関連、動画共有サイト、ビデオストリーミング関連の役務分野において極めて高い周知著名性及び顧客吸引力を有していることの証左である。
このような取引の実情からすれば、「TUBER(チューバー)」の文字を含む本件商標を、その指定役務について使用した場合には、これに接する需要者等は、あたかもそのウェブサイトが、請求人の関連会社であるユーチューブ社(又は請求人)が運営する著名な動画共有・配信ウェブサイトの関連サイトと誤解、誤信して、その出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。
したがって、取引の実情にかんがみれば、本件商標をその指定役務について使用した場合は、これに接する需要者等が、その役務の出所について混同を生じ得ないとする合理的根拠は見当たらないから、混同のおそれの存在はないと断言することはできない。
イ まとめ
以上の事情を総合的に勘案すれば、本件商標は、これに接する需要者・取引者に対して、引用商標を連想させて役務の出所について誤認を生じさせ、不当に需要者等を誘導するためのものであり、その登録を認めた場合には、引用商標の持つ顧客吸引力へのただ乗り(いわゆるフリーライド)や、その希釈化(いわゆるダイリューション)を招くこととなる。
(3)商標法第4条第1項第19号及び同第7号について
請求人とは何らの関係を有しない他人が著名な引用商標と類似する本件商標を採択することは、本来自らの営業努力によって得るべき業務上の信用を、著名商標に化体した信用にただ乗り(フリーライド)することによって得ようとするものであり、同時に、著名商標「YouTube(ユーチューブ)」に化体した莫大な価値を希釈化させるおそれがある。
そして、「YouTube」を模倣、又は、依拠したウェブサイトがインターネット上に多数存在している事実は、「TUBE」、「TUBER」がありふれていることを示すものではなく、逆に、引用商標がインターネット関連、動画共有サイト、ビデオストリーミング関連の役務分野において極めて高い周知著名性及び顧客吸引力を有していることの証左である。
しかも、被請求人は、猫などの動物を題材とした動画共有・配信サイトを運営しているが、役務内容の類似性と引用商標の周知著名性にかんがみれば、本件商標権者が、引用商標の存在について知悉していたことは明らかである。特に、本件商標は、「ユーチューバー」をもじって、動画の主体となる「猫」を表す「ニャン」に置き換えたものと容易に理解できるところであり、被請求人自身も、これらの点について明示的に認めている。
なお、「被請求人が、『インスタグラム(Instagram)』『インスタグラマー(Instagramer)』をもじって、『ニャンスタグラム』『ニャンスタグラマー』などと呼んでいる」事実に関する請求人の指摘に対し、被請求人は、何らの反論も釈明もないことからすれば、被請求人が、他人の著名商標に化体した名声、信用へのただ乗りを常習的に行っているとみても差し支えないものと思われる。
してみると、本件商標は、不正の目的をもって取得されたものであり、商品等流通社会の秩序・競業秩序を本件商標は、その登録出願の目的・意図等に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないものである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号及び同第7号に該当する。
(4)登録事例について
被請求人は、本件商標の登録査定時の前後において、「●●TUBE」、「●●TUBER」の商標が登録を認められている事実を挙げるが、これら登録に係る指定商品、指定役務の共通性、各商標の所有者による商標の使用状況(事業内容)についての説明が何一つなされていない。
無効審判においては、提出された証拠に基づき、その周知著名性をはじめ、現実の商取引において商標が需要者に与える印象、記憶、連想、さらに取引の実情等を総合勘案して個別具体的に判断すべきである。
また、被請求人が提出した各登録事例については、対象となる商標が異なるものであり、事案を異にする。
したがって、過去における異議申立事件や無効審判事件の決定・審決例を根拠とした被請求人の主張には理由がない。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を答弁書において、要旨以下のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第33号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)観念について
引用登録商標は、「動画サイトの1つ。無料で動画を視聴・公開できる」あるいは「動画共有サービス」の意味を有するものとして世間一般に広く知られている語であり、引用未登録標章は、「YouTube上で独自に製作した動画を投稿する、あるいは投稿することにより広告収入を得る人たちのこと」若しくは、一職業名を意味する語として広く知られている語である(乙1、乙2)。
一方、本件商標は、一般に意味をなす語ではなく、むしろ一種の造語として認識されるものであり、指定商品・役務との関係性からみても、当該商品・役務の用語や俗語として使用されている語でもない。
仮に、「チューバー」の部分が、「YOUTUBER(ユーチューバー)」の「TUBER」の部分を想起できるものであるとしても、「ニャン」の部分から、「猫の鳴き声」あるいは「猫」を極めて容易に想起できるため、本件商標に接した需要者・取引者は、「猫に関する動画を投稿する人」あるいは「猫に関する動画を投稿し、広告収入を得る人」を想起できるものといえ、本件商標は、引用商標と観念が大きく異なる。
上記より、指定商品・役務の需要者の通常有する注意力をもって判断した場合、本件商標と引用商標の観念は互いに明瞭に区別できる。
(2)称呼について
引用登録商標は、よく知られた観念を有する語であるため、「ユーチューブ」の称呼のみを生じる。
一方、本件商標は、全て片仮名で表記され、かつ、外観上一体性を有する商標であるため、「ニャンチューバー」の称呼のみを生じる。
また、本件商標の総音数は6音であるが、そのうち2音が長音から構成されており、実際に口を動かして発する音数は、「ニャ」「ン」「チュ」「バ」で、4音と少ないから、一気に無理なく発音できる。
本件商標と引用登録商標の称呼を比較すると、称呼の違いに大きな影響を与える先頭部分の称呼は、本件商標が「ニャン」であるのに対し、引用登録商標は「ユー」であり、互いに共通する音もなく、発音の仕方も著しく異なる。また、共通している部分は、中間の「チュー」の部分のみであり、総音数の割合から見ても極めて少ない。
よって、需要者の通常有する注意力をもって判断した場合、本件商標と引用登録商標の称呼は明瞭に区別できる。
引用未登録標章においても、極めてよく知られた観念を有する語であるため、「ユーチューバー」の称呼のみを生じる。
一方、本件商標は、「ニャンチューバー」の称呼のみを生じ、両者の称呼を比較すると、「チューバー」の部分は互いに共通するものの、先頭部分の称呼「ニャン」と「ユー」は、著しく異なる。
よって、両者は、区別できる。
(3)外観について
本件商標は、「ニャンチューバー」であり、引用登録商標は、すべてアルファベットで表示されているため、外観が互いに異なる。
引用未登録標章の片仮名部分は、「ユーチューバー」であり、「ニャンチューバー」と比較すると、8文字中、先頭から3文字も異なるため、両者は互いに明瞭に区別できる。
よって、需要者の通常有する注意力をもって判断した場合、本件商標と引用商標の外観は明瞭に区別できる。
(4)まとめ
上記より、本件商標と引用商標とは、称呼、外観、観念のいずれも大きく異なる。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
2 商標法第4条第1項第10号該当性について
本件商標と引用商標は、上記のとおり、非類似の商標であるため、商標法第4条第1項第10号に該当しない。
なお、引用商標が本件商標の登録出願時及び登録査定時に周知であったことは否定しない。
3 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)本件商標と引用商標の類似性について
本件商標と引用商標は、称呼、外観、観念がいずれも大きく異なり、商品・役務の需要者層、取引の実情を考慮し、需要者の通常有する注意力を基準として判断しても、両商標は、出所の混同を生じない。
よって、両商標の類似性の程度は著しく低いといえる。
(2)引用商標の周知(著名)性について
引用商標が周知・著名であったことは否定しないが、あくまでも「YouTube」、「YOUTUBE」、「YOUTUBER」で周知・著名であり、「TUBE」、「TUBER」で周知・著名であったわけではない。
つまり、出所の混同のおそれがあるかどうかの著名性の判断は、「YouTube」、「YOUTUBER」全体を基準として判断されるべきである。
(3)引用商標の独創性の程度について
「YouTube」は、ある程度独創性のある語であることに異論はない。しかし、「YouTuber」のような、人を表す語は一般的に「er」がついた表記がなされるから、たとえ辞書上の意味がないとしても、「YouTube」から容易に想起できる語であり、独創性の高い言葉ではない。
(4)商品・役務の関連性について
本件商標と引用登録商標の指定商品・役務は共に類似しているが、引用登録商標が周知又は著名であるのは、動画配信サービス「第41類 通信ネットワークを利用した音声・音楽・静止画・動画の提供」(41E02、41E03)に使用した場合に限られる(乙30?乙33)。
引用未登録標章においても、上記役務に使用した際に周知といえる。
一方、本件商標は、上記役務と類似する役務を指定していない。
なお、引用未登録標章は、その語の意味合いから、「広告」に関する役務に使用した場合でも周知であるといえるかもしれない。
しかし、「YOUTUBER」を「広告」関連の役務に使用しても、需要者・取引者は、「YouTube上で独自に製作した動画を投稿する、あるいは投稿することにより広告収入を得る人たちによる広告、広告の配信」等の意味合いを容易に想起させるため、当該役務との間では、すでに自他商品等識別力を失っている商標、すなわち、出所表示機能を失っている商標とも考えられる。
よって、本件商標の指定役務と引用商標の周知性を有する役務は、性質、用途、目的も異なり、関連性もない。
(5)需要者・取引者の共通性その他の取引の実情について
被請求人が、ペットに関する動画サイトの管理・運営、写真撮影スタジオの貸与、動画を利用した広告サポートを行っているのは事実である(甲43?甲45)。
しかし、現在、動画(広告動画を含む。)を投稿する個人や企業の中には、「●●Tube」、「●●チューブ」、「●●チューバー」という名前をサイトに使用して各種動画を投稿・配信している例が散見される(乙3?乙16)。
このように、動画配信の役務が、請求人の役務から離れたところでたくさん提供されており、動画の配信者も明確にしている点から、動画の視聴者は、請求人又はその者と何らかの関係にある者によって配信されたものと混同することなく、「○○に関する動画」とのみ認識して動画を視聴しているといえる。
よって、上記動画関連役務の取引の実情をかんがみると、本件商標に接した視聴者は、請求人の役務と混同することなく、「猫に関する動画」あるいは「猫に関する動画を投稿する人」と認識するものと推測される。
次に、動画関連サイトの視聴者・投稿者は世代・年齢を問わず、多くいるものと考えられ、本件商標と引用商標の指定商品・役務の需要者・取引者は共通する部分があるとも予想されるが、上記取引の実情の観点にかんがみれば、それのみをもって、出所の混同を生ずるおそれを助長する要素になるとはいえない。
(6)まとめ
上記より、本件商標をその指定役務に使用しても、請求人の業務に係る役務と混同を生ずるおそれはない。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第19号該当性について
請求人は、本件商標が不正の目的をもって使用するものであると主張している。
しかし、上述したように、動画配信の役務の分野で、「●●チューバー」、「●●チューブ」などの名前が請求人とは別の者によって動画サイトの出所を表示するものとして普通に使用されており、かつ、請求人の役務との間において出所の混同も生じていない。さらに、あくまで著名商標は「YouTube」、「YOUTUBER」であって、「TUBE」、「TUBER」でないことにかんがみると、本件商標は、不正の目的をもって使用するために登録されたとは推認できない。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
5 商標法第4条第1項第7号該当性について
本件商標は、商標の構成自体も、きょう激、卑わい、差別的な表現等を有さず公序良俗に反するものではない。
また、請求人は、本号の適用において「商品流通社会の秩序・競業秩序も包含されると解すべき」と主張しているが、仮にそれを認めたとしても、引用商標と本件商標は類似せず、出所の誤認混同のおそれも生じないため、本件商標は、引用商標のフリーライド、ダイリューション等を目的にしたものとも推認されない。
よって、本件商標は、商品流通社会の秩序・競業秩序を乱すような商標でないことも明らかであり、商標法第4条第1項第7号に該当しない。

第5 当審の判断
1 引用商標の周知性について
(1)請求人の主張及び提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。
ア 「YouTube」は、2005年の立ち上げ以来、動画共有・配信ウェブサイトとして親しまれ、また、2006年の請求人によるユーチューブ社の買収後には、全世界で何十億人ものユーザーが、自ら作成した動画をアップロードし、共有し、再生することができる場として、世界中のユーザーが繋がり、情報を交換できる動画配信サービスの先駆けとなり、極めて短期間に世界中で広く知られるようになった(甲3?甲8)。
我が国においても、株式会社インプレスによる「INTERNET WATCH」のウェブサイトにおいて、「読者が選ぶ2006年のインターネット10大ニュース」に「YouTube」が第3位に取り上げられ(甲9)、株式会社マイナビによる「マイナビニュース」のウェブサイトにおいて、「2007年2月のインターネット利用動向調査」の結果として、「YouTube」の利用者数が、サービス開始から14か月で1,000万人を超えた旨記載されている(甲10)。
また、「YouTube」は、広告・宣伝的活用法が着目され、民放各社が専用チャンネルを開設し(甲15?甲18)、当該チャンネルのホームページ上部には、引用商標2が付されている(甲15、甲16、甲18)。
そして、株式会社ジェーピーシーによる「JPC」のウェブサイトにおいて、「YouTube」は、日本国内において、動画サイトの利用者数第1位となった旨(甲32)、トラベルボイス株式会社による「トラベルボイス」のウェブサイトにおいて、請求人が2016年におけるパソコン経由の動画ストリーミングの閲覧数が多い企業となっている旨が記載されている(甲33)。
イ 「YouTuber(ユーチューバー)」は、「動画共有・配信ウェブサイト『YouTube』に頻繁に動画を投稿し、人気やその結果の広告収入を得ている人たち」を示す語(「現代用語の基礎知識2016」自由国民社)として、本件商標の登録出願時及び登録査定時には、広く知られているといえる(甲36?甲38、甲42)。
しかしながら、請求人が提出した証拠において、引用未登録標章が、請求人の業務に係る役務を表すものとして、広く知られていたといい得る証拠を見いだすことはできない(甲35?甲42)。
(2)上記(1)によれば、「YouTube」に係る役務は、2005年の立ち上げ以来、また、2006年の請求人によるユーチューブ社の買収後において、世界中に多数のユーザーを有し、我が国においても利用者が多く、引用登録商標は、請求人の提供する「YouTube」を表すものとして、周知・著名なものであるというのが相当である。
そして、上記動画共有・配信ウェブサイトにおいて、引用登録商標は、本件商標の登録出願前から、請求人の業務に係る「通信ネットワークを利用した音声・音楽・静止画・動画の提供」(以下「請求人役務」という。)等に使用されていたといえる。
しかしながら、引用未登録標章は、「『YouTube』に頻繁に動画を投稿し、人気やその結果の広告収入を得ている人たち」を表す語と理解されているということはできるものの、請求人から提出された証拠において、請求人の業務に係る役務を表すものとして、広く知られていたといい得る証拠を見いだすことはできないから、引用未登録標章が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人役務について、周知・著名であったということはできない。
2 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標
本件商標は、前記第1のとおり、「ニャンチューバー」の片仮名を同一の書体をもって横一連に、外観上まとまりよく表されているところ、その構成文字全体から生じる「ニャンチューバー」の称呼もよどみなく一連に称呼し得るものである。
そして、該文字は、辞書等に採録のないものであるから、特定の観念を生ずることのない一種の造語として認識されるものというべきである。
そうすると、本件商標からは、「ニャンチューバー」の称呼が生じ、特定の観念は生じないものである。
(2)引用登録商標
引用登録商標は、前記第2のとおり、「YouTube」の欧文字、「You」の欧文字の右側に赤色又は黒色四角形を配し、その内に白抜きの「Tube」の欧文字を表した構成及び「YOUTUBE」の欧文字を表してなるところ、当該構成文字に相応して、いずれも「ユーチューブ」の称呼を生じ、上記1のとおり、周知・著名な「請求人の業務に係る動画共有・配信ウェブサイト」の観念を生じるものである。
(3)本件商標と引用登録商標との類否
本件商標と引用登録商標は、それぞれ前記のとおりの構成よりなるものであるから、外観においては、文字種の相違等から明確に区別できるものである。
また、称呼においては、本件商標から生じる「ニャンチューバー」の称呼と、引用登録商標から生じる「ユーチューブ」の称呼とは、中間に位置する「チュー」の音を共通にするとしても、語頭における「ニャン」と「ユー」の音及び語尾における「バー」と「ブ」の音に明らかな差異を有していることにより、それぞれを全体として称呼した場合においても、その語調・語感が著しく異なり、明瞭に聴別し得るものである。
さらに、本件商標は、特定の観念を有しないものであるのに対し、引用登録商標は、「請求人の業務に係る動画共有・配信ウェブサイト」の観念を生じるから、観念において紛れるおそれはない。
そうすると、本件商標と引用登録商標とは、観念において紛れるおそれはなく、外観及び称呼においては明らかに異なるものであるから、これらを総合して判断すれば、互いに相紛れるおそれのない非類似の商標であって、別異の商標というべきものである。
その他、本件商標と引用登録商標が類似するというべき特段の事情も見いだせない。
(4)小括
以上のとおり、本件商標は、引用登録商標とは非類似の商標であるから、役務の類否について判断するまでもなく、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第10号について
(1)引用商標の周知性について
引用登録商標は、上記1のとおり、本件商標の登録出願前から、請求人が請求人役務に使用し、周知・著名であったといえるものである。
一方、引用未登録標章は、「『YouTube』に頻繁に動画を投稿し、人気やその結果の広告収入を得ている人たち」を表す語と理解されているということはできるものの、請求人から提出された証拠において、請求人の業務に係る役務を表すものとして、広く知られていたといい得る証拠を見いだすことはできないから、引用未登録標章が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人役務について、周知・著名であったということはできない。
(2)本件商標と引用商標との類否
ア 本件商標と引用登録商標との類否
本件商標は、上記2(3)のとおり、引用登録商標とは、非類似の商標である。
イ 本件商標と引用未登録標章との類否
本件商標は、前記第1のとおり、「ニャンチューバー」の片仮名よりなり、引用未登録標章は、前記第2のとおり、「YOUTUBER」及び「ユーチューバー」の文字よりなるものである。
そして、本件商標は、前記2(1)のとおり、「ニャンチューバー」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。
一方、引用未登録標章は、上記(1)のとおり、「『YouTube』に頻繁に動画を投稿し、人気やその結果の広告収入を得ている人たち」を表す語として一般に知られている語であるから、その構成文字に相応して、「ユーチューバー」の称呼が生じ、「『YouTube』に頻繁に動画を投稿し、人気やその結果の広告収入を得ている人たち」の観念を生じるものである。
そうすると、本件商標と引用未登録標章とは、「チューバー」の文字部分が共通するとしても、語頭において、「ニャン」の文字と「ユー」の文字が異なることから、全体の外観は、明らかに異なるものである。
次に、両者は、称呼における識別上重要な要素を占める語頭音において、「ニャン」の音と「ユー」の音に明らかな差異を有するものであるから、これらの差異が、両商標の称呼全体に及ぼす影響は決して小さいものとはいえず、それぞれの称呼を全体として称呼するときには、その語調、語感が明らかに異なり、互いに聞き誤るおそれはないものといえる。
さらに、観念については、本件商標からは、特定の観念が生じないのに対し、引用未登録標章からは、「『YouTube』に頻繁に動画を投稿し、人気やその結果の広告収入を得ている人たち」の観念を生じるから、観念において紛れるおそれはない。
そうすると、本件商標と引用未登録標章とは、観念において紛れるおそれはなく、外観及び称呼においては明らかに異なるものであるから、これらを総合して判断すれば、互いに相紛れるおそれのない非類似の商標であって、別異の商標というべきものである。
その他、本件商標と引用未登録標章が類似するというべき特段の事情も見いだせない。
(3)本件商標の商標法第4条第1項第10号該当性について
本号は、「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」と規定されている。
そして、引用登録商標は、本件商標の登録出願前から、請求人が請求人役務に使用し、周知・著名であったといえるものであるとしても、引用未登録標章は、上記(1)のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人役務について、周知・著名であったということはできないものである上、本件商標と引用商標は、非類似の商標というべきであるから、役務の類否について判断するまでもなく、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第15号について
(1)引用商標の周知性について
引用登録商標は、前記1のとおり、本件商標の登録出願前から、請求人が請求人役務に使用し、周知・著名であったといえるものである。
一方、引用未登録標章は、前記3(1)のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人役務について、周知・著名であったということはできない。
(2)本件商標と引用商標との類似性について
ア 本件商標は、前記2(3)のとおり、引用登録商標とは、非類似の商標であるから、類似性の程度は高いとはいえない。
イ 本件商標と引用未登録標章とは、「チューバー」の文字部分を共通にすることから、ある程度の類似性は認められるとしても、前記3(2)イのとおり、両者は、観念において紛れるおそれはなく、外観及び称呼においては明らかに異なるものであるから、総じて、類似性の程度が高いものとはいい難い。
(3)役務の関連性について
引用登録商標が周知・著名であるのは、請求人の業務に係る役務「通信ネットワークを利用した音声・音楽・静止画・動画の提供」であるところ、本件商標の指定役務には、上記役務と同一又は類似する役務は含まれていない。
そうすると、本件商標の指定役務は、請求人の業務に係る役務とは、関連性があるとはいえない。
(4)小括
以上からすると、引用登録商標は、請求人の業務に係る役務を表すものとして周知・著名であるとしても、本件商標と引用商標の類似性の程度は高いものとはいえず、本件商標の指定役務と請求人の業務に係る役務とは、関連性がなく、類似するものともいえない。
そうすると、本件商標は、商標権者がこれをその指定役務について使用しても、これに接する取引者、需要者をして、引用商標を連想、想起することはなく、当該役務が請求人又は同人と組織的若しくは経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように、その役務の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
なお、本件商標と引用未登録標章とは、ある程度の類似性があり、仮に、本件商標から引用未登録標章を想起する場合があるとしても、引用未登録標章は、「『YouTube』に頻繁に動画を投稿し、人気やその結果の広告収入を得ている人たち」を意味し、そのように理解されているものであって、特定の者を指称するものではないから、これより請求人又は特定の第三者を想起するとはいい難く、同人との関係で、役務の出所について混同するおそれはないというのが相当である。
また、請求人の提出した証拠によっては、本件商標と引用商標とが、取引者、需要者において現実に出所の混同を生じている事実を認め得るような、具体的、客観的事実は見いだせないものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
5 商標法第4条第1項第19号該当性について
本号は、「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)」と規定されている。
そうすると、引用登録商標は、請求人の業務に係る役務を表すものとして、周知・著名であるとしても、本件商標と引用商標は、前記3(2)のとおり、非類似の商標であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第19号を適用するための要件を欠くものといわざるを得ない。
また、請求人が提出した証拠からは、本件商標権者が、本件商標を不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって使用をするものと認めるに足りる具体的事実は見いだせない。
そうすると、本件商標は、引用商標の出所表示機能を希釈化し又は名声を毀損させるなど不正の目的をもって使用をするものと認めることはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
6 商標法第4条第1項第7号について
上記5のとおり、請求人が提出した証拠からは、商標権者が不正の目的を持って本件商標を使用するものであると認めるに足りる具体的事実は見いだせない。
また、請求人の主張及び同人の提出に係る甲各号証を総合してみても、本件商標の登録出願の経緯に社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底認容し得ないような場合に該当すると認めるに足りる具体的事実を見いだすこともできない。
さらに、本件商標を、その指定役務について使用することが、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するということもできず、他の法律によってその使用が禁止されているものでもなく、本件商標の構成自体が、非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような構成態様でもない。
その他、本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標と認めるに足りる証拠の提出はない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
7 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同第10号、同第15号、同第19号及び同第7号のいずれにも該当するものでなく、その登録は、同条第1項の規定に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効にすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。


【別掲1】
引用商標2(色彩については原本参照。)

【別掲2】
引用商標3

別掲
審理終結日 2019-12-06 
結審通知日 2019-12-11 
審決日 2019-12-26 
出願番号 商願2017-44669(T2017-44669) 
審決分類 T 1 11・ 22- Y (W3542)
T 1 11・ 261- Y (W3542)
T 1 11・ 271- Y (W3542)
T 1 11・ 262- Y (W3542)
T 1 11・ 222- Y (W3542)
T 1 11・ 25- Y (W3542)
T 1 11・ 263- Y (W3542)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安達 輝幸 
特許庁審判長 山田 正樹
特許庁審判官 冨澤 美加
鈴木 雅也
登録日 2017-11-24 
登録番号 商標登録第5999063号(T5999063) 
商標の称呼 ニャンチューバー、ニャン、チューバー 
代理人 石田 昌彦 
代理人 稲葉 良幸 
代理人 橘 和之 
代理人 右馬埜 大地 
代理人 田中 克郎 

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