• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 登録しない W0942
管理番号 1362457 
審判番号 不服2019-12802 
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-09-26 
確定日 2020-04-30 
事件の表示 商願2018-57686拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。
理由 1 本願商標
本願商標は,「SMART AGRI」の文字を標準文字で表してなり,第9類に属する「電気通信機械器具,アプリケーションソフトウェア,電子応用機械器具及びその部品,電子計算機用プログラム,データ通信端末機用プログラム,携帯情報端末,携帯情報端末機用プログラム,身体に装着可能なコンピュータ,遠隔監視システム用サーバコンピュータ,携帯情報端末用のコンピュータアプリケーションソフトウェア,タブレット型コンピュータ用アプリケーションソフトウェア」及び第42類に属する「農業技術に関する情報の提供,電子計算機用プログラムの提供,遠隔通信ネットワーク用電子計算機プログラムの設計・作成又は保守,通信を用いて行う携帯電話機用のコンピュータプログラムの提供」を指定商品及び指定役務として,平成30年5月1日に登録出願されたものである。

2 原査定の拒絶の理由の要点
原査定において,「本願商標の構成中,『SMART』の文字部分は,『高性能の,賢い』(科学技術英和大辞典第2版 株式会社オーム社発行)等の意味を有する語であり,『AGRI』の文字部分は,『農業(用)の』(ランダムハウス英和大辞典第2版 株式会社小学館発行)の意味を有する語である。また,情報システムや各種の装置・設備に高度な情報処理・管理・制御能力を搭載することを『スマート化』と称し,スマート化したものを『スマート○○』と称している実情もあることから,本願商標全体として,『賢い農業,スマート化した農業』ほどの意味合いを認識させる。なお,「AGRI」又は「アグリ」の語は,「農業」を表す「アグリカルチャー【agriculture】」の略語として一般に使用されている。そして,この商標登録出願に係る指定商品及び指定役務と関連のある農業の分野において,『スマートアグリ』と称されたIT(情報技術)を活用した農業が注目を集めており,農業のスマート化のためのシステムやサービスが取り扱われている実情において,『SMART AGRI』の文字からなる本願商標に接する取引者,需要者は,『IT(情報技術)を活用した農業』という具体的な意味合いを認識することも少なくない。そうすると,本願商標をその指定商品及び指定役務に使用しても,これに接する取引者,需要者は,当該商品及び当該役務が『IT(情報技術)を活用した農業に関する商品及び役務』又は『IT(情報技術)を活用した農業のための商品及び役務』であると認識するにとどまり,本願商標は,単に商品の品質及び用途,役務の質及び用途を普通に用いられる方法で表示したものといわざるを得ない。したがって,本願商標は,商標法第3条第1項第3号に該当する。」旨認定,判断し,本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
(1)商標法第3条第1項第3号該当性について
本願商標は,「SMART AGRI」の文字を標準文字により表してなるところ,近年,農業分野においても,本願の指定商品及び指定役務と関連の深いIT(情報技術)等の先進技術を活用して生産管理や品質,生産効率などの向上を実現する新たな農業の取組やあり方が注目されている。
そのような実情において,「AGRI」(「Agri」の文字も含む。以下同じ。)の文字又は当該文字に通ずる「アグリ」の文字が,「Agriculture」(農業)の略語として記載されており(別掲1),また,実際に「SMART AGRI」又は「スマートアグリ」の文字が「IT(情報技術)を活用した農業」ほどの意味で広く一般に使用されている(別掲1及び2)。
そうすると,本願商標をその指定商品・指定役務に使用しても,これに接する取引者,需要者は,当該商品・役務が「IT(情報技術)を活用した農業に関する商品・役務」又は「IT(情報技術)を活用した農業のための商品・役務」であると認識するにとどまるものといわざるを得ない。
したがって,本願商標は,商品の品質及び用途,役務の質及び用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標といわざるを得ないから,商標法第3条第1項第3号に該当する。
(2)請求人の主張について
ア 請求人は,「本願商標が『SMART AGRICULTURE』の表記であった場合には,『SMART』は『AGRICULTURE』を修飾し『賢い農業,スマート化した農業』のように具体的な意味合いを認識するかもしれないが,本願商標は『形容詞+接頭語』から構成されるものであり,その語彙からは賢い農業全体に関する何か,また,スマート化した何かしらの農業に関するものを表す程度のもので,本願商標全体として極めて漠然とした広範な意味を生ずる。よって,本願商標の指定商品・指定役務との関連において一定の品質を表示するものとして一般取引者,需要者に認識されるものではない。」旨主張している。
しかしながら,上記(1)のとおり,本願商標をその指定商品・指定役務に使用しても,これに接する取引者,需要者は,当該商品・役務が「IT(情報技術)を活用した農業に関する商品・役務」又は「IT(情報技術)を活用した農業のための商品・役務」であると認識するにとどまるものであるから,本願商標は単に商品の品質及び用途,役務の質及び用途を普通に用いられる方法で表示するものといわざるを得ない。
イ 請求人は「判例,審決及び過去の登録例からみても本願商標は一定の品質を表示するものとして取引者,需要者に認識されるものではない。」旨主張している。
しかしながら,本願商標が,自他商品役務の識別標識としての機能を果たすものであるか否かは,商標の構成,指定商品又は指定役務,取引の実情等を踏まえて,当該商標ごとに個別に判断されるべきものであるから,請求人が主張する判例,審決及び過去の登録例があるとしても,本願商標の上記判断が左右されるものではない。
ウ したがって,請求人の上記主張は,いずれも採用できない。
(3)まとめ
以上のとおり,本願商標は,商標法第3条第1項第3号に該当するものであるから,登録することができない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲
別掲1 「AGRI」の文字又は当該文字に通ずる「アグリ」の文字が,「Agriculture」(農業)の略語として記載されている事実
(1)平成30年12月14日付け刊行物等提出書に示された事実
ア 物件4には「スマートアグリ(アグリとはagricultureの略)とは,ICT化した農業のこと。ICTのチカラで作物の品質を保ちながら,作業を自動化して,人の手間をできるだけ減らすという新しい農業のカタチだ。」の記載がある。
イ 物件10には「スマートアグリ」及び「【英】smart-agri,smart-agriculture」の見出しの下,「スマートアグリとは,IT(ICT)等の先進技術を活用して生産管理や品質・生産効率などの向上を実現する,新たな農業の取り組みやあり方のことである。いわばスマート化された農業である。」の記載がある。
ウ 物件11には「スマートアグリ」の説明として,「ITを駆使した農業のこと。スマート・アグリカルチャー(SmartAgriculture)を略してスマートアグリという。この場合のSmartは『賢明な』とか『情報処理技術に対応した』といった意味」の記載がある。
(2)原審の令和元年6月27日付け拒絶査定で示した事実
「BIZDRIVE」(運営:東日本電信電話株式会社)のウェブサイトにおいて「用語解説 スマートアグリ 概要」の見出しの下,「スマートアグリとは,情報通信の技術を活用した農業のことである。ビニールハウス内の栽培においては温度管理や水やりの管理,畑などにおいては害虫や害獣の駆除など,これまで人の手で実施していたものを自動で実施し,生産効率や品質の向上を図るものである。スマートアグリを取り入れることにより,人件費の削減とともに収穫物の増加に繋がることがメリットとして挙げられるが,初期コストが多くかかり,さらに運用していく上でも通常は発生しないランニングコストがかかることがデメリットである。スマートアグリは,スマートアグリカルチャー(smart agriculture)の略であり,直訳すると『利口な農業』となるが,スマートフォンなどに代表されるスマートの意味から,情報通信の技術を取り入れた農業という意味で用いられる。」の記載がある。
(http://biz-drive.jp/word/smart-agri.html)
(3)当審において職権で調査した事実
ア 「株式会社ワビット スマートアグリ事業特設サイト Wabit SmartAgri Project」において「スマートアグリとは」の見出しの下,「スマートアグリ(Smart Agriculture)とは,様々な作業にICT技術を取り入れた農業の事です。天候のチェック,農作業のスケジューリング,耕地管理,栽培環境の計測や制御,データ蓄積による作物生育や出荷予測など,様々な作業における技能あるいは『勘と経験』をICTシステムとして具体化して,作業に取り入れて活用します。」の記載がある。
(https://www.arsprout.net/beginners_guide/about_smart_agri/)
イ 刊行物「2024年までの電子部品技術ロードマップ」(平成27年2月 一般社団法人 電子情報技術産業協会)(109ページ)において「2.4 スマートアグリ」の「2.4.1 はじめに」の「2.4.1.1 社会を取り巻く環境」の見出しの下,「・・・この項では,近年脚光を浴びているスマートアグリ,すなわち“Smart Agriculture”の略語であり最新のIT技術を活用した将来型の農業技術に注目してまとめている。」の記載がある。

別掲2 「SMART AGRI」又は「スマートアグリ」の文字が「IT(情報技術)を活用した農業」ほどの意味で使用されている事実
(1)原審の平成31年1月9日付け拒絶理由通知書で示した事実
ア 「TPP信越農業の挑戦(5)IT利用で経営効率化?安全性・品質高め競争力(終)」の見出しの下,「『1頭1頭の体調や状態をここで管理しています』長野県伊那市の酒井牧場。酒井秀明さんは牛舎の隣の部屋に置いたモニターを指す。年齢やお産前後といったデータを入力しておけば,必要なエサの量を個体ごとに割り出すシステムを導入,『必要な量だけを与えるので搾った乳の質も格段に上がった』という。システムは自動給餌機と連動。・・・システムを開発したオリオン機械(長野県須坂市)の太田哲郎社長が目指すのは『お嫁さんに来てもらえる酪農家』だ。『自動化とIT化で必ず〈もうかる〉経営ができるようになる』??。狙いは『労働がきつい』という酪農のイメージの払拭だ。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉入りで,IT(情報技術)化で農業経営の効率を高める『スマートアグリ』への注目が集まっている。日本の農家は家族経営が多く,経験や勘に頼る部分が多かった。たとえTPPへの参加がなくとも,生産性を高めるための取り組みは必須だ。ITによる経営の効率化は,農業の幅広い分野で期待できる。温室ハウスのそばに止めた1台の軽トラック。コメや園芸作物に取り組むそうえん農場(新潟県新発田市)の下條荘市さんがタブレット端末を取り出した。圃場ごとの農薬や肥料の使用状況,生育記録をインターネット上のデータで管理する。『利益を上げるには営業力とITの組み合わせが重要だ』(下條さん)使用するのはシステム開発のウォーターセル(新潟市)が手掛ける農業管理システム『アグリノート』だ。『グーグルマップ』の航空写真を使い,圃場ごとのデータを事前に確認。現場に出たらその情報を活用しながら農作業をする。」との記事(2013年8月17日付け日本経済新聞地方経済面長野3頁)。
イ 「IT活用農業セミナー,徳島県が来月開催。」の見出しの下,「徳島県は『スマートアグリ?ITを活用した農業の未来?』をテーマにしたセミナーを11月13日に徳島市で開催する。講演の講師は元グーグル日本法人社長の村上憲郎氏。」との記事(2014年10月25日付け日本経済新聞地方経済面四国12頁)。
ウ 「伊藤忠テクノソリューションズ里見英俊氏,トップ技術者,新ビジネス創出へ部署発足,製品からサービス主体に(ニュースの主役)」の見出しの下,「システム構築大手の伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は11月1日付で,中長期の技術戦略を立案したり,新規事業を企画したりする『イノベーション推進室』を発足させた。室長にはグループ社員約8千人のうち,2人しかいないトップ技術者である『技監』の里見英俊氏が就く。『ICT(情報通信技術)で社会を豊かにする新しいビジネスを創出したい』と意気込む。2020年の東京五輪を見据え,ITを生かした農業を指すスマートアグリ,介護・福祉,観光の3つのサービスを他社と協力しながら展開する。」との記事(2014年11月4日付け日経産業新聞22頁)。
エ 「オランダIT農業,松江市長,視察へ,経済界と年内に。」の見出しの下,「松江市の松浦正敬市長は21日の記者会見で,ITを活用する農業(スマートアグリ)の先進国であるオランダを訪問する考えを明らかにした。地元経済界やIT企業とともに年内に視察団を結成する。農業生産性の向上を支援する施策に生かす考えだ。オランダはスマートアグリの導入やロボット技術の活用で付加価値の高い農業生産に取り組み,有数の農産物輸出国となっている。松江市は野菜や果物のブランド化と,地元発の技術を生かしたIT集積を同時に推進している。市は地元ゆかりのコンピューター言語『Ruby(ルビー)』を軸にIT企業の誘致も進めている。市内に拠点を持つアプリ開発会社の中には『有機栽培に必要な土壌の分析をスマホでできるシステムなどを開発したい』といった声が出ている。」との記事(2015年1月22日付け日本経済新聞地方経済面中国11頁)。
オ 「トマト栽培,遠隔把握,農援隊,画像や温湿度常時。」の見出しの下,「植物工場の販売を手掛ける農援隊(島根県出雲市)は離れた場所からトマトの生育状況が把握できる仕組みを開発した。栽培用のハウスに設置したカメラとセンサーから生育状況や温湿度のデータをインターネット経由で把握する。経験の浅い農業の新規参入者への栽培指導に役立てる。同社は肥料を含んだ溶液を作物の根に供給する方法の栽培システムを販売している。コンサルティングを含めた顧客は兵庫,熊本,長崎,大分など西日本を中心に40法人に上る。生育状況を把握できる仕組みは第1弾として,農業に参入した小林電機(島根県安来市)に導入した。リアルタイムで送られてくるデータを分析,ハウス内の温度や湿度の大きな変動といった異常を察知すると,トマトの画像を調べる。その上で現場に連絡して必要な対処法を指示する。ITを使う『スマートアグリ』の導入は,ハウスでの巡回回数を減らすなど効率化も見込める。」との記事(2015年2月4日付け日本経済新聞地方経済面中国11頁)。
カ 「島根の酒蔵にIT,東京のフランジア,酒米発酵管理など。」の見出しの下,「システム開発のフランジア・ジャパン(東京・渋谷)は島根県雲南市でIT(情報技術)を活用した農業や酒造りを9月に始める。蓄積した膨大なデータを解析するシステムを,農作物の品質や醸造技術の向上に役立てる。新たな開発拠点の設置について島根県,雲南市と覚書を交わした。フランジア・ジャパン幹部が日本酒愛好家だったことが縁で,今年1月に酒造会社の竹下本店(雲南市)で酒造りを始めた。中山間地の当地がIT開発拠点に向くとともに,先端技術を農業に活用する『スマートアグリ』などの実証地としても適すると判断した。醸造では蒸した酒米や発酵過程の温度管理,醸造工程のデータ記録などにITを生かす。農業では酒米作りで育苗環境や施肥などを管理するシステムを開発する予定だ。」との記事(2015年8月13日付け日本経済新聞地方経済面中国11頁)。
キ 「兼松,スマートアグリに参入」の見出しの下,「兼松は27日,ITを活用した農業技術(スマートアグリ)分野に参入すると発表した。ITベンチャーのファームノート(北海道帯広市)と共同で,酪農・畜産農家向けにクラウド型の生産管理システムを提供する。環太平洋連携協定(TPP)交渉の妥結を見据え,日本の酪農・畜産農家の支援につなげる。」との記事(2015年8月28日付け日刊工業新聞3頁)。
(2)当審において職権で調査した事実
ア 「YOITOKO」(運営会社:日本ユニシス株式会社)のウェブサイトにおいて「【SMART AGRI】?ゼロからの挑戦?」(事業主体:猿払村役場企画政策課企画係)の見出しの下,「概要」として「【SMART AGRI】?ゼロからの挑戦? ・・・猿払村(さるふつむら)では,この“モノのインターネット(IoT)”を農業分野に活用した,より効率的で持続可能な農業『SMART AGRI(スマート農業)』実現に向けて,事業を進めています。」の記載がある。
(https://yoitoko.city/local/city-sarufutsu/pj/fhwnbw8l)
イ 「京セラ株式会社」のウェブサイトにおいて「ケーススタディ1」の「スマート農業におけるIoT機器の役割とは?」及び「3つの活用法を紹介」の見出しの下,「スマート農業とは?」として「スマート農業とは,ロボット技術やICTなどの先端技術を活用し,超省力化や高品質生産などを可能にする新たな農業(農林水産省の定義による)のことです。スマートアグリ(Smart Agri)やアグリテック(Agri Tech)とも呼ばれています。」の記載がある。
(https://www.kyocera.co.jp/prdct/telecom/office/iot/study/study01.html)

審理終結日 2020-02-20 
結審通知日 2020-03-03 
審決日 2020-03-18 
出願番号 商願2018-57686(T2018-57686) 
審決分類 T 1 8・ 13- Z (W0942)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤澤 聡美 
特許庁審判長 薩摩 純一
特許庁審判官 小松 里美
浜岸 愛
商標の称呼 スマートアグリ、スマート、アグリ 
代理人 小木 智彦 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ