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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2018890085 審決 商標
無効2019890038 審決 商標
無効2020890039 審決 商標
無効2018890038 審決 商標
無効2018890005 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない W05
審判 全部無効 称呼類似 無効としない W05
審判 全部無効 観念類似 無効としない W05
審判 全部無効 外観類似 無効としない W05
管理番号 1361560 
審判番号 無効2018-890039 
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-05-18 
確定日 2020-03-09 
事件の表示 上記当事者間の登録第6012164号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第6012164号商標(以下「本件商標」という。)は、「Lypo-C」の文字を標準文字で表してなり、平成29年5月12日に登録出願、第5類「サプリメント,ビタミンを主原料とする錠剤状・カプセル状・顆粒状・液状・粉状・ペースト状の加工食品,ビタミンを主原料とする粉末状の加工食品,栄養補助食品,食餌療法用飲料,食餌療法用食品,栄養補助用飼料添加物(薬剤に属するものを除く。),乳幼児用食品,乳幼児用飲料,乳幼児用粉乳」を指定商品として、同年12月27日に登録査定され、同30年1月19日に設定登録されたものである。

第2 引用商標等
1 請求人が、本件商標は商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当するとして引用する登録第4168654号商標(以下「引用商標」という。)は、「リポD」の文字と「LIPO-D」の文字を二段に書してなり、平成8年2月20日に登録出願、第5類「薬剤,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,耳帯,眼帯,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,ばんそうこう,包帯,包帯液」を指定商品として、同10年7月17日に設定登録されたものであり、その商標権は現に有効に存続しているものである。
2 請求人が、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当するとして引用する標章は、「リポD」の文字からなり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、需要者の間に広く認識されているとするものである。

第3 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第26号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号に基づき、その登録を無効とすべきである。
2 具体的な理由
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標の指定商品と引用商標の指定商品の類否
(ア)引用商標は、出願時に採用されていた国際分類第6版により、第5類「薬剤」他を指定商品とするものであって、その当時の「類似商品・役務審査基準改訂第7版」(甲3)によれば、「薬剤」は「ビタミン剤,アミノ酸剤,滋養強壮変質剤」を含んだ上位概念であることが明記されている。
一方、本件商標は、出願時に採用されていた国際分類第11版により、第5類の「サプリメント」他を指定商品とするものであるところ、その当時の「類似商品・役務審査基準〔国際分類第11-2017版対応〕」(甲4)によれば、備考として、「『サプリメント』は、『ビタミン剤,アミノ酸剤,滋養強壮変質剤』に類似と推定する」旨の記載がある。また、本件商標の指定商品中「ビタミンを主原料とする錠剤状・カプセル状・顆粒状・液状・粉状・ペースト状の加工食品,ビタミンを主原料とする粉末状の加工食品,栄養補助食品」に関しては、同審査基準においてサプリメントが記載されているいわゆる短冊の下部に「栄養補助食品」「○○を主原料とする○○状の加工食品」との記載があることから、これらがサプリメントに含まれることは明らかである。
したがって、本件商標の指定商品と引用商標の指定商品は互いに類似するものである。
(イ)被請求人は、「類似商品・役務審査基準〔国際分類第11-2017版対応〕」において非類似の異なる類似群として取り扱われているとおり、「サプリメント,ビタミンを主原料とする錠剤状・カプセル状・顆粒状・液状・粉状・ペースト状の加工食品,ビタミンを主原料とする粉末状の加工食品,栄養補助食品」(以下「サプリメント等」という。)と「薬剤」とは非類似の商品群である、と主張する。
しかしながら、平成17年(行ケ)第10763号(甲23)及び平成14年(行ケ)第555号(甲24)によれば、引用商標の指定商品「薬剤」は「ビタミン剤,アミノ酸剤,滋養強壮変質剤」を含むものであり、これら商品と本件商標の指定商品「サプリメント等」とが互いに類似する商品であることは明らかである。
イ 本件商標と引用商標との類否
(ア)商標の類否の判断にあたっては、商標の有する外観、称呼及び観念のそれぞれの判断要素を総合的に考察して行うところ、本件商標と引用商標には、称呼において次のような共通点が見受けられる。
最初に本件商標の称呼について検討すると、本件商標中の「Lypo」は、英語辞書等に掲載がなく本件商標の商標権者による造語と思われるところ、本件商標権者が開設しているウェブサイト(甲5の1)では、「サプリメント」において本件商標と共に商標「リポC」も使用されていることからすると、本件商標から生じる称呼は、同時に使用されている「リポC」に呼応した「リポシー」と捉えるのが相当である。一方、引用商標は「リポ」と欧文字の「D」の組み合わせ及び欧文字の「LIPO-D」から構成されてなるから、その表記に呼応した「リポディー」との称呼が生じる。
両称呼の相違音である「ディー」と「シー」は、母音「i」を共通にする近似音であり、音調・音感が互いに近似している。相違音が明瞭に聴取され難い語尾に位置することを考えると、この差異が両称呼全体に及ぼす影響は大きいとはいえず、一連に称呼するときは全体の語調、語感が近似したものと聴取され、互いに相紛れるおそれがある。
また、本件商標及び引用商標に接する取引者・需要者は、称呼しやすい文字部分を捉えて商品の取引にあたるとみるのが相当であるところ、本件商標の場合、「Lypo」と「C」の間にハイフンが存在しており、視覚上分離して看取されやすいものである。さらに、商品の規格、品番を表す記号、符号として商取引上類型的に使用される欧文字一字と認識され、該文字が省略されて取引に資される場合も少なくない。これに加えて、両商標の指定商品の分野においては、ビタミンの種類別を表すために商標の末尾に「A」「B」「C」「D」などの欧文字をもって表示する方法が普通に採択されている実情にある。そうすると、「Lypo」と「C」を常に一体不可分のものとして把握しなければならない格別の理由は存在せず、本件商標の文字部分中、自他商品の識別機能を有する部分を「Lypo」と捉え、「Lypo」のみで商品の取引にあたる場合も決して少なくないものとみるのが相当である。
してみれば、本件商標からは、構成する文字全体を称呼した場合の「リポシー」の称呼のほか、単に「リポ」の称呼をも生じるものというべきである。
一方、引用商標についても同様で、引用商標の文字部分中、自他商品の識別機能を有する部分を「リポ」と捉え、「リポ」のみで商品の取引にあたる場合も決して少なくなく、引用商標に関しても、構成する文字全体を称呼した場合の「リポディー」の称呼のほか、単に「リポ」の称呼も生じるものというべきである。
そうすると、本件商標と引用商標は「リポ」という称呼を共通にする類似の商標である。
ちなみに、本件商標は、審査段階において、引用商標に類似する旨の拒絶理由通知(商標法第4条第1項第11号)を受けている(甲5の2)。これに対し被請求人(商標登録出願人)は、意見書で反論することなく、抵触する指定商品を削除することで当該拒絶理由を解消させている。これはすなわち、本件商標と引用商標は互いに類似するものであるという特許庁の判断を、被請求人が受け入れたということを示すものである。
(イ)被請求人は、本件商標と引用商標中の「LIPO-D」との外観の類否について、「C」と「D」とは字形が明らかに異なることから、この差異が全体に与える影響は大きく、全体として視覚上別異の印象を与えるものであって、両者は外観において相紛れるおそれがない、と主張し、また、称呼に関しても、「シ」と「ディ」という顕著な相違があり、取引においても、称呼上両者が相紛れるおそれは全くない、と主張し、審決例、異議決定例(乙4?乙6)を挙げているところ、これらは本件と明らかに事案を異にするものであり、本件商標と引用商標との類否判断において参酌できるものではない。
また、被請求人は、本件商標は当初リポソーム技術を利用した極小カプセル顆粒状のビタミンCサプリメントに係る商品名として採択されたもので、商品の品質・内容を暗示するため、必ずしも、それぞれの構成文字「Lypo」及び「C」はそれ自体商品識別性が高い語ではない、と主張するが、「リポソーム」の英語表記は「liposome」であり、「脂肪」を意味する接頭語は「Lipo」である。一方、被請求人の商標は「Lipo-C」でなく、「Lypo-C」であり、「Lypo」は造語というべきものであって、識別力を有する言葉といえる。それとは対照的に、構成文字である「C」は、「商品識別性が高い語ではない」どころか、基本的に自他商品識別力に欠ける言葉であり、最高裁判例(最高裁 平成19年(行ヒ)第223号)(甲22)の言葉を借りれば、本件商標の「Lypo」以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められるのであるから、「Lypo」部分だけを抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは許されるということになる。
そして、被請求人は、識別力が弱い文字同士がまとまりよく一体に構成され、かつ、無理なく一連に称呼できる場合、取引者・需要者は、その構成中のいずれかの文字のみを着目し、記憶するのではなく、全体が不可分一体の一種の造語として認識される、とも主張し、審決例、異議決定例(乙10、乙11)を挙げているが、いずれも本件とは事案を異にするものであり、本件において参酌できるものではない。
ウ 「被請求人の取引の実情及び本件商標採択の経緯」について
被請求人は、自らの設立の経緯、事業内容及び本件商標採択の経緯について述べている。
しかしながら、「商標の類否判断に当たり考慮することのできる取引の実情とは、その指定商品全般についての一般的、恒常的なそれを指すものであって、単に該商標が現在使用されている商品についてのみの特殊的、限定的なそれを指すものではない」(昭和47年(行ツ)第33号)(甲19)。
被請求人の事業内容及び本件商標採択の経緯は、その指定商品全般についての一般的、恒常的な取引の実情ではなく、本件商標が現在使用されている商品についてのみの特殊的・限定的な取引の実情であり、このような取引の実情は考慮されるべきではない。
そもそも、被請求人が提出した乙第1号証及び乙第2号証は、いずれも本件商標の設定登録(平成30年1月19日)以降のものである。
商標法第4条第1項第11号に該当するか否かの判断時は登録査定時であり、登録査定時以降の事実を参酌して類否判断を行うことは許されるべきではない。
被請求人は、本件商標の「C」は「capsule(カプセル)」の略である、と主張するが、乙第2号証の資料の最上段には「国産高品質リポソーム|Lypo-C[リポカプセルビタミンC(リポC)]」と表記されており、確かに「カプセル」と記載されているが、英単語の「capsule」の記載はない一方で、末尾には「(ビタミン)C」との記載があり、このような表記を見る限り、「需要者は、『Lypo-C』は『ビタミンC』の『C』を意味するものと捉える」と考えるのが自然である。
また、乙第2号証の資料の中段には「Lypo-C」と表記されているが、「capsule(カプセル)」の記載はなく、「Vitamin C」との文字がその下に併記されており、このような表記態様を見ても、「Lypo-C」の「C」は「ビタミンC」の「C」と認識すると見るのが自然である。
エ まとめ
本件商標と引用商標とはその称呼において類似するものであるから、互いに類似する商標であり、その指定商品も類似する商品であるから、本件商標は、指定商品「サプリメント等」について、商標法第4条第1項第11号違反に該当するものである。
(2)商標法第4条第1項第15号について
商標法第4条第1項第15号に係る「商標審査基準」(甲6)に挙げられている考慮事由に則して、本件商標と引用商標について比較検討を行う。
ア 本件商標とその他人の標章との類似性の程度
前段(1)イで述べたように、本件商標から生じる「リポシー」の称呼と、引用商標から生じる「リポディー」の称呼は、全体の語調・語感が近似していて互いに相紛れるおそれがあり、加えて、両商標からは「リポ」という共通の称呼が生じるものであるから、本件商標と引用商標は互いに類似するものであり、類似性の程度は極めて高い。
イ その他人の標章の周知度
請求人は、「リポビタンD」という名称の滋養強壮変質剤、いわゆる栄養ドリンク剤を日本のみならず世界中で販売し、日本において著名な商標となっているところ、引用商標は当該著名商標「リポビタンD」の略称として使用・認識されているものである。
(ア)「リポビタンD」「リポビタン」の著名性について
請求人は、昭和37年(1962年)に「リポビタンD」という商品名の栄養ドリンク剤の販売を開始し、現在まで約56年もの間、日本全国で販売を行っている(甲7)。
昭和37年(1962年)から2016年度までの国内・海外で販売しているリポビタンシリーズの累計販売本数は約387億本に上る(甲7)。100mlドリンク剤における「リポビタンD」のシェアは、2010年度(2010年4月?2011年3月)は約39%あり、リポビタンシリーズを含めると合計で55.7%にも上る(甲8)。2015年度も「リポビタンD」のシェアは約4割、シリーズ全体では約6割のシェアを誇り(甲7)、当該分野におけるNo.1のドリンク剤である。
宣伝広告も積極的に行っており、発売当初から人気俳優・プロ野球選手・プロサッカー選手・ラグビー日本代表を起用したテレビCM・新聞雑誌広告・交通広告を行っている(甲7、甲8)。
特許庁においても、「リポビタンD」並びに「リポビタン」の著名性が認められ、6件の防護標章登録を取得しており(甲9)、特許庁がインターネットにおいて提供している「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」中の「日本国周知・著名商標検索」で検索すると、これらの商標がヒットする(甲10)。
(イ)新聞、雑誌における「リポD」の使用状況
商標「リポD」は、主要全国紙・ブロック紙・スポーツ紙・業界紙に記事として数多く掲載されている。請求人の栄養ドリンク剤「リポビタンD」の略称として「リポD」が使用された記事について、インターネット上のポータルサイト「@nifty」を通じて株式会社ジー・サーチが提供している「新聞・雑誌記事横断検索」で検索した結果(甲11)と、雑誌の写し(甲12?甲14)を提出する。
(ウ)インターネットにおける「リポD」の使用状況
甲第15号証の1は、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)やインターネット上のニュースサイトでの「リポビタンD」「リポD」の使用頻度に関する調査結果である。調査に当たっては、メルトウォータージャパン株式会社が提供しているオンラインメディア・ソーシャルメディア・モニタリングサービスを利用した。
2017年1月1日から同年12月31日までの1年間に、「リポビタンD」あるいは「リポビタンd」が使用されたSNSの数は188,435件、ニュースサイトでは4,082件、「リポD」あるいは「リポd」が使用されたSNSの数は81,885件、ニュースサイトでは368件である。添付のリスト(甲15の1)は、「リポビタンD」「リポビタンd」「リポD」「リポd」が実際に使用された各SNS・ニュースサイトの書誌事項であるが、件数が膨大で案件毎のデータ項目も多いため、調査結果の一部のみを提出する。なお、請求人は調査結果の全てを提出する用意がある。
ちなみに、引用商標と同様の構成態様で同種の飲料に用いられている商標「オロナミンC」の場合、「オロナミンC」あるいは「オロナミンc」が使用されたSNSの数は30,844件、ニュースサイトでは1,546件、「オロC」あるいは「オロc」が使用されたSNSの数は1,470件、ニュースサイトはわずか19件と、両者の数字の差は一目瞭然であり、「リポD」という表記が需要者の間において広く浸透していることがうかがえる(甲15の2)。
(エ)請求人の広告における使用
請求人による店頭広告を紹介した記事が甲第8号証にある。当該商品を店頭で展示する際に、「リポビタンD」10本入りの箱を山状に高く積み上げ、「リポDタワー」と称し、需要者の目を惹く展示を行っていた。
甲第16号証は、人気漫画「キングダム」とコラボレーション広告を行った際の資料である。雑誌に掲載される広告の原稿と、店頭でのPOPのデザイン案であり、どちらも「リポD キングダム」での検索を促す記載がある。
(オ)被請求人の主張について
請求人が提出した、「リポビタンD」の略称として「リポD」の表示が使用された新聞記事(甲11)に対し、被請求人は、その多くは語数の制約のある記事タイトルの中で使用されているもので、一般に「リポビタンD」の略称として「リポD」が普通に使用・認識されていてる事実を示すものではなく、語数の制約という全く異なる理由により便宜上使用されているものにすぎない、と主張する。
「リポビタンD」の略称として「リポD」が使用されたのが、ごく限られた媒体でのみ、あるいは僅かな回数のみ、というのであれば、被請求人が主張するように、語数の制約という理由により便宜上使用されているものにすぎず、「リポビタンD」の略称として「リポD」が普通に使用・認識されている事実を示すものではないかもしれないが、日本国民の多くが購読する主要全国紙、ブロック紙、スポーツ紙の記事において、調べただけでも1996年以降、コンスタントに「リポビタンD」の略称として「リポD」が使用されているのは紛れもない事実である。
語数の制約という要因はあるにしても、これだけ幅広く、長期にわたり使用されているということは、「リポビタンD」の略称として「リポD」が一般に使用・認識されている事実を示すものであり、需要者において浸透しているといえる。
(カ)まとめ
商標「リポビタンD」の著名性、及び需要者における「リポD」の浸透度を勘案すれば、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、「リポD」が需要者の間において広く認識され周知な商標となっていたことは明らかである。
ウ その他人の標章が造語よりなるものであるか、又は構成上顕著な特徴を有するものであるか
引用商標の元となった商標「リポビタンD」は、「脂肪分解」を意味する「リポクラシス」と、栄養素の「ビタミン」と、「Delicious」「Dynamic」などの頭文字である「D」を組み合わせた造語であり、そのような造語を略した引用商標も造語である(甲7)。「リポビタンD」並びに「リポD」は、指定商品に関し何ら品質を表す語句ではなく、創造的商標(fanciful mark)といえる。「リポビタンD」が著名商標であることを考えれば、その略称である引用商標は、請求人以外の第三者により商標として採択される可能性の低い言葉といえる。
エ その他人の標章がハウスマークであるか
引用商標はハウスマークではないが、請求人の主要ブランドの一つであり、なおかつ著名な商標であるから、ハウスマークと同等の強い顧客吸引力を持つ商標である。
オ 企業における多角経営の可能性
引用商標の商標権者は、日本を代表する市販薬メーカーであり、栄養ドリンク剤の他、風邪薬・胃腸薬・解熱鎮痛剤・育毛剤などの市販薬、抗生物質・糖尿病治療薬などの処方薬、機能性表示食品、特定保健用食品、栄養補助食品、日焼け止めなどのスキンケア用品、オーラルケア用品など、医薬品・健康食品分野において広く事業を展開しており、多角経営の可能性が高いものといえる。
カ 商品間、役務間又は商品と役務間の関連性
引用商標の指定商品である「薬剤」と、本件商標の指定商品である「食餌療法用飲料、食餌療法用食品」はどちらも人の健康回復・体質改善・体調管理等に用いられるものであり、両商品の関連性は高い。
引用商標の指定商品である「薬剤」と、本件商標の指定商品「乳幼児用食品、乳幼児用飲料、乳幼児用粉乳」は、乳幼児の食事に関するものであり、健康増進・体調管理等において重要な役割を示すという点では、両商品の関連性は高いものといえる。
本件商標の指定商品「栄養補助用飼料添加物(薬剤に属するものを除く。)」は、専ら愛玩動物等の動物に与える栄養補助を目的としたもので(甲17)、いわゆる「愛玩動物用のサプリメント」であるが、この商品と需要者・取引者が共通する第5類「愛玩動物用薬剤」(類似群コード:01B01(甲18))が「薬剤」の一種(下位概念)であることからすると、「薬剤」との関連性が高いといえる。
キ 商品等の需要者の共通性その他取引の実情
引用商標の指定商品である「薬剤」と、本件商標の指定商品である「食餌療法用飲料、食餌療法用食品」の需要者は、特定の年齢・分野に限られるものではなく、老若男女問わずあらゆる年齢層を需要者とするものであり、互いに共通している。
本件商標の指定商品「乳幼児用食品、乳幼児用飲料、乳幼児用粉乳」については、その需要者は乳幼児を育児している者あるいはその関係者に限られるものの、乳幼児の育児においては薬剤を必要とする状況が少なくないことを鑑みれば、「薬剤」の需要者と必ずしも異なるものではない。
取引の実情に関しては、本件商標の指定商品も引用商標の指定商品も、薬局やドラッグストアにおいて広く取り扱われており、両者の商品の流通経路・販売経路は基本的に一致するものといえる。
ク まとめ
以上の比較によれば、本件商標を「サプリメント等」のみならず、「食餌療法用飲料,食餌療法用食品,栄養補助用飼料添加物(薬剤に属するものを除く。),乳幼児用食品,乳幼児用飲料,乳幼児用粉乳」に使用するときには、これに接する需要者は引用商標を連想・想起し、当該商品が引用商標の商標権者の取り扱う商品であると誤信するか、又は引用商標の商標権者との間に密接な関係を有する者の業務に係る商品であると誤信することで、その商品の出所について広義の混同を生じるおそれがあるというべきであって、本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当するのは明らかである。
3 結び
以上の次第であるから、本件商標は商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当する。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第13号証を提出した。
1 請求の理由に対する認否
「具体的な理由」については否認ないし争う。
2 請求の理由に対する反論
(1)被請求人の取引の実情及び本件商標採択の経緯
被請求人は、1988年に設立され、主に美容分野において、ブランド開発事業、経営コンサルタント事業、人材教育事業、フランチャイズ開発事業を行い、自己の商品として、リポソーム技術(ビタミンCの身体への吸収効率を高める技術)により開発された高濃度ビタミンCサプリメントなどのサプリメント・美容用品を開発、製造、販売するものである(乙1)。
被請求人が開発、製造、販売する、高濃度ビタミンCサプリメント「Lypo-C(リポ-カプセル)」は、リポソーム技術を利用し、ビタミンCの吸収率を高めた高品質サプリメントとして知られる商品であり、雑誌などのメディアにも多数取り上げられている(乙2、乙3)。また、商品名「Lypo-C」の「C」は、「capsule(カプセル)」の略である(乙2、乙3)。
本件商標「Lypo-C」は、まさに当該商品「Lypo-C」及びそれに関連する商品について、模倣品を防ぎ権利保護するべく、その商品名「Lypo-C」を出願し、商標登録を得たものである。
(2)商標法第4条第1号第11号に係る反論
本件商標は、引用商標とは非類似の商標であり、指定商品も類似しないため、請求人の主張には理由がなく失当である。以下にその理由を詳述する。
ア 両商標の類否
両商標の類否に係る、外観、称呼及び観念のそれぞれの判断要素を以下に検討する。
(ア)外観
本件商標は、標準文字で「Lypo-C」と書してなる。これに対し、引用商標は、「リポD」及び「LIPO-D」の文字を上下二段に並記してなる。
したがって、両者はその構成を全く異にするから、対比的観察においてはもちろん、異時別所におけるいわゆる離隔的観察においても全く相違するので、外観上両者を混同するおそれはない。
本件商標と引用商標構成中の「LIPO-D」の文字のみを比較したとしても、相違する欧文字「y」と「I」及び「C」と「D」とは、字形が明らかに異なることから、この差異が全体に与える影響は大きく、全体として視覚上別異の印象を与えるものであって、両商標は外観において相紛れるおそれはない。この判断は、商標「DIRIGO」と「CIRIGO」に係る審決例、異議決定例(乙4、乙5)からも明らかである。
(イ)称呼
本件商標は、その構成から「リポシー」と語呂良く一気に発音できる一体不可分の称呼を生じる。これに対し、引用商標は「リポディー」と語呂良く一気に発音できる一体不可分の称呼を生じる。
したがって、後半部において「シ」と「ディ」という顕著な相違があり、いかに煩雑な取引においても、称呼上両者が相紛れるおそれは全くない。この判断は「ディリゴ」と「シリゴ」、「ディサン」と「シサン」の称呼に係る審決例、異議決定例(乙4?乙6)からも明らかである。
また、相違音「シ」と「ディ」は、母音「i」を共通にするとしても、「シ」は無声摩擦音の子音「s」からなるものであり、他方、「ディ」は有声破裂音の子音「d」からなるものであるため、両音の音質及び呼気の流れ方は明らかに異なり明確に聴別できる。
さらに、両商標は3音という極めて短い音構成からなることにより、当該相違音が両称呼全体の語調語感に及ぼす影響は非常に大きく、両者をそれぞれ称呼しても相紛れるおそれはない。
請求人は、本件商標の構成文字「Lypo」及び「C」が分離して称呼を生じ、本件商標と引用商標が「リポ」の称呼を共通に有する旨主張しているが、失当である。本件商標のような欧文字部分がハイフンなどの記号文字により結合してなる結合商標類否判断は、全体的に考察されるべきであり、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、特殊な条件を満たす例外的な場合に限られるのは最高裁判決(昭和37年(オ)第953号、平成3年(行ツ)第103号、平成19年(行ヒ)第223号)が示すとおりである。
本件商標は、前述のとおり、標準文字で「Lypo-C」と書してなる。すなわち、本件商標は、欧文字「Lypo」と「C」とがハイフンで結合され、同一大同一書体の、外観上まとまりよく一体不可分の態様で、3音という極めて短い称呼音によって構成される。このような構成態様において、取引者・需要者があえて「Lypo」の文字部分のみを分離して捉えて商品取引に当たるというのは、極めて不自然である。
また、請求人は、欧文字「C」が商品の規格、品番を表す記号、符号として商取引上類型的に使用され、ビタミンの種類別を表すために商標の末尾に表示する方法が普通に採択されているから、「Lypo」と「C」を常に一体不可分のものとして把握しなければならない理由は存在しない旨主張するが、失当である。
前述のとおり、本件商標は当初リポソーム技術を利用した極小カプセル顆粒状のビタミンCサプリメントにかかる商品名として採択されたもので、商品の品質・内容を暗示するため、必ずしも、それぞれの構成文字「Lypo」及び「C」は、それ自体商品識別性が高い語ではない。
さらに、「リポ(Lipo)」の語は「脂肪」を意味する接頭語であり(乙7)、医療分野や薬剤やサプリメントの製造など生化学の分野において、物質の名称、用語として多く採用されている(乙8)。したがって、本件商標及び引用商標の指定商品の分野において、「LIPO(リポ)」の語は何ら創作性の高い語とはいえない。
ここで、第5類「サプリメント等」及び第5類「薬剤」と類似の商品(類似群コード「01B01,01B02,32F15」の商品)を指定商品とし、接頭語「Lipo」若しくは「リポ」の語を含む商標を検索したところ、131件もの登録、国際登録及び出願が発見された(請求人の出願及び登録を除く。)(乙9)。
この事実は、本件商標及び引用商標の指定商品の分野において、接頭語「Lipo」若しくは「リポ」の語を含む商標は数多く採択されており、「Lipo」若しくは「リポ」の語は当該分野においてはそれ自体商品識別性が高い語ではないという上記主張を裏付けるものである。
このように識別力が弱い文字同士がまとまりよく一体に構成され、かつ、無理なく一連に称呼できる場合、取引者・需要者は、その構成中のいずれかの文字のみを着目し、記憶するのではなく、全体が不可分一体の一種の造語として認識するものである。この事実は商標「MATRIX 502」、商標「RZテレビ」及び商標「GRIP4」に係る審決例、異議決定例(乙10?乙12)からも明らかである。
そして、請求人は本件商標には「Lypo」と「C」の間に「-」(ハイフン)が存在し、視覚上分離して看取されやすい旨主張するが、上述のとおり、本件商標は「-」(ハイフン)を含め同一大同一書体の、外観上まとまりよく一体不可分の構成をとるものであるから、「-」(ハイフン)の前後の文字が視覚上分離して捉えられるとの判断は、本件商標には全く当てはまらない。
(ウ)観念
本件商標と引用商標は共に造語商標であり、特定の観念を生じないものであるから観念上比較のしようがないため、両者を観念上混同するおそれはない。
(エ)したがって、前述のとおり、本件商標は、引用商標と外観・称呼・観念のどの点においても異なるから、両者は、非類似の商標であると目するのが相当である。
なお、請求人は、被請求人が審査段階において、本件商標が引用商標に類似する旨の拒絶理由通知に対し反論していないことをもって、被請求人が本件商標と引用商標が類似するとの判断を受け入れた旨の主張を行っているが、被請求人は、引用商標の指定商品と抵触しない指定商品の早期登録を優先しただけであり、本件商標と引用商標が類似するとの判断を認めるものではない。
イ 本件商標の指定商品と引用商標の指定商品の類否
(ア)請求人は、引用商標の指定商品中の「薬剤」は、「ビタミン剤,アミノ酸剤,滋養強壮変質剤」を含んだ上位概念であり、「類似商品・役務審査基準」の備考として述べられた記載を引用し、本件商標の指定商品「サプリメント等」は、「ビタミン剤,アミノ酸剤,滋養強壮変質剤」と類似すると主張する。
しかしながら、当該主張は失当である。引用商標の指定商品表記は「薬剤」であり、積極的に「ビタミン剤,アミノ酸剤,滋養強壮変質剤」を表記しているものではない。よって、本件商標と引用商標の指定商品の類否は、その表記どおり「サプリメント等」と「薬剤」が表す全体の商品群の類否を判断するべきである。
「薬剤」の表記が示す指定商品群の中に僅かに上記本件商標指定商品に類似する商品が含まれているとしても、「類似商品・役務審査基準」において非類似の異なる類似群として取り扱われているとおり、「サプリメント等」と「薬剤」とは非類似の商品群である。
仮に、請求人の主張が通るとすれば、第5類「サプリメント」(類似群コード:32F15)は、第5類「薬剤」(類似群コード:01B01,01B02)と常に類似する商品となり、現状の審査制度に大きな混乱を招くものである。
また、請求人は、上記両商品が類似することの理由として上記審査基準において備考類似の関係にあることを主張しているのみであって、両商品が類似することについての個別具体的な取引の実情は何ら主張・立証していない。
(イ)本件商標の指定商品「サプリメント等」と商品「ビタミン剤,アミノ酸剤,滋養強壮変質剤」とは明らかに非類似の商品である。本件商標の指定商品は世間一般ではいわゆる「健康食品」といわれる「健康の保持増進に資する食品」に当たるものであるが、それら商品と「ビタミン剤,アミノ酸剤,滋養強壮変質剤」が含まれる医薬品は厚生労働省、消費者庁の監督のもと厳密に区別されている。
具体的にいえば、a)「ビタミン剤,アミノ酸剤,滋養強壮変質剤」を含む医薬品は、同じ品質のものが製造・流通することが厳格に定められているのに対し、健康食品は同じ名称でも全く品質の異なるものが存在している点、b)医薬品には病者を対象とした安全性・有効姓の試験が実施されているのに対し、健康食品は病者を対象とした試験はほとんど行われず、安全性試験があったとしても対象は健常者である点、c)医薬品が医師・薬剤師などにより安全な利用環境が整備されているのに対し、健康食品はあくまでも食品の一つなので、製品の選択・利用は消費者の自由である点、など多くの点において相違する(乙13)。
すなわち、「ビタミン剤,アミノ酸剤,滋養強壮変質剤」と「サプリメント等」とは、その品質、目的・用途、流通過程、需要者などを大きく異にする非類似の商品である。
ウ 小括
以上より、本件商標と引用商標は、外観・称呼・観念のどの点においても異なるから、非類似の商標であり、また、本件商標の指定商品「サプリメント等」は引用商標の指定商品と類似しないため、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(3)商標法第4条第1号第15号に係る反論
本件商標について、最高裁判決(平成12年(行ヒ)第172号)で示された観点から検討する。
ア 本件商標とその他人の標章との類似性の程度
前述の(2)アで示したとおり、本件商標と引用商標は非類似の商標であり、お互い相紛れ、混同を生じるおそれは全くない。
イ 他人の標章の周知度
請求人は自己の「リポビタンD」及び「リポビタン」の表示の著名性について主張し、各種証拠(甲7?甲10)を提出した。しかしながら、引用商標「リポD\LIPO-D」と商標「リポビタンD」及び「リポビタン」とは全く別異の商標であり、請求人の提出した証拠は、引用商標の周知性若しくは著名性を立証するものではない。
また、請求人は新聞における「リポD」の使用状況として、請求人の「滋養強壮ドリンク剤(類似群コード:01B01)」である「リポビタンD」の略称として「リポD」の表示が使用された新聞記事(甲11)を提出した。しかしながら、その多くは語数の制約のある記事タイトルの中で使用されているもので、一般に「リポビタンD」の略称として「リポD」が普通に使用・認識されている事実を示すものではなく、語数の制約という全く異なる理由により便宜上使用されているものにすぎない。
さらに、証拠内の「リポD」の表示は、同記事内における「リポビタンD」の表示とともに使用されており、たとえそのような場合「リポD」が「リポビタンD」の略称として認識され得るとしても、「リポD」の表示のみが普通に単独で使用されているとの証拠にはならない。ましてや、「リポD」の表示が単独で著名性を獲得しているとの証拠にはならない。
以上より、たとえ請求人の「リポビタンD」及び「リポビタン」の表示が著名性を有するとしても、それらの略称として「リポD」の表示が一般に浸透、使用されているわけではなく、ましてや、商標「リポD」が単独で周知性若しくは著名性を獲得していたとはいえない。
ウ 引用標章が造語よりなるものであるか、構成上顕著な特徴を有するものであるか
請求人は「リポビタンD」が著名商標であるから、その略称である引用商標は請求人以外の第三者により商標として採択される可能性が低い旨主張するが、前述のとおり引用商標は「リポビタンD」の略称として一般に認識されていないため、「リポビタンD」の著名性と引用商標が請求人以外の第三者により商標として採択される可能性には何ら関連性がない。
また、請求人が述べる引用商標の語源となった「脂肪分解」を意味する「リポクラシス(Lipoclasis)」のように、「リポ(Lipo)」の語は「脂肪」を意味する接頭語であり(乙7)、医療分野や薬剤やサプリメントの製造など生化学の分野において、物質の名称として多く採用されている(乙8)。したがって、本件商標及び引用商標の指定商品の分野において、「リポ」の語は何ら創作性の高い語とはいえない。
前述のとおり、本件商標「Lypo-C」は、高品質のリポソーム技術を利用し、ビタミンCをリポソーム化することによって、家庭で日常的に取り入れやすいサプリメントとして開発された、本件商標権者の実際の商品に使用されている商標である。また、本件商標は、製造方法「リポソーム(Liposome)」と「capsule(カプセル)」の頭文字「C」の語から採択された造語商標であり、「リポ」の部分的称呼が引用商標と一致したのは、同じく脂肪を意味する接頭語を有する語を語源に有するからにすぎない。
エ その他人の標章がハウスマークであるか
請求人は引用商標が請求人の主要ブランドの一つであり、なおかつ著名な商標である旨主張するが、たとえ商標「リポビタンD」及び「リポビタン」がそうであったとしても、引用商標はそれらの略称として一般に認識されていないため、請求人の主要ブランドの一つでもないし、著名な商標でもない。
オ 本件商標と引用商標にかかる商品の関連性
請求人が引用商標の指定商品「薬剤」と関連性がある旨主張する本件商標の指定商品については、次のとおりである。
(ア)指定商品「食餌療法用飲料、食餌療法用食品」
これら商品はあくまでも「食品」若しくは「健康食品」に属する商品であり、「薬剤」とは大きく相違する。その中で健康回復などのその大まかな目的・用途が一致する商品が存在するとしてもその具体的な用い方、成分などは大きく異なり、他方、「薬剤」の中においては「殺菌剤」「殺虫剤」など「食餌療法用飲料,食餌療法用食品」と何ら関連性を有しない商品が多数存在するため、関連性があるとはいえない。
(イ)指定商品「乳幼児用食品,乳幼児用飲料,乳幼児用粉乳」
これら商品は乳幼児が日常的に摂取するものであり、請求人がいうような特別に健康回復・体質改善・体調管理等を目的・用途として用いられるものではなく、「薬剤」の中においてはそれらの目的・用途さえ有さない何ら関連性の無い商品が多数存在する。
また、これら商品はあくまでも「食品」若しくは「健康食品」に属する商品であり、「薬剤」とは大きく相違する。
(ウ)指定商品「栄養補助用飼料添加物(薬剤に属するものを除く。)」
これら商品の需要者は動物を飼育する者であり、「薬剤」とは需要者が大きく異なる。また、これら商品の目的・用途は動物の健康回復・体質改善・体調管理等であり、人体の健康回復・体質改善・体調管理等を目的・用途とする一部の「薬剤」と目的・用途が大きく異なる。
また、人体の健康回復・体質改善・体調管理等を目的・用途とする一部の「薬剤」以外の「薬剤」については何ら関連性を有しないのは自明である。
カ 商品の需要者の共通性その他取引の実情
(ア)指定商品「食餌療法用飲料,食餌療法用食品」
請求人はこれら商品と「薬剤」の需要者が共通する旨主張する。しかしながら、「薬剤」は人体の健康回復・体質改善・体調管理等を目的・用途とするものから「殺菌剤」「殺虫剤」などその目的・用途を全く異にする商品を含む幅広い概念であるので、需要者を特定の範囲に限定するのは困難であるのに対し、これら商品の需要者は人体の健康回復・体質改善・体調管理等を必要とする者に限られるため、需要者が共通であるとはいえない。
(イ)指定商品「乳幼児用食品,乳幼児用飲料,乳幼児用粉乳」
請求人はこれら商品と「薬剤」の需要者は必ずしも異なるものではない旨主張するが、請求人も認めるように、これら商品の需要者は乳幼児を育児している者らに限られる。それに対し「薬剤」の需要者は、「薬剤」が極めて幅広い商品を含む概念であるので需要者を特定の範囲に限定するのは困難である。
よって、これら商品と「薬剤」の需要者は大きく相違する。
(ウ)取引の実情
請求人は本件商標と引用商標の指定商品が薬局やドラッグストアにおいて広く取り扱われているので、両者の商品の流通経路・販売経路は一致する旨主張する。
しかしながら、現代の薬局やドラッグストアにおいては、薬剤だけでなく飲食料品、洗剤、石けん類、化粧品、電球・文房具などの日用品といった多岐にわたる商品を取り扱っており、両者が薬局やドラッグストアにおいて販売されるからといって商品の流通経路・販売経路が一致すると断定するのは失当である。「食餌療法用飲料,食餌療法用食品,乳幼児用食品,乳幼児用飲料,乳幼児用粉乳」は薬局やドラッグストア以外にも、飲食料品を取り扱う食料品店、スーパー、乳幼児用品専門店などの流通経路・販売経路を有している。さらに、「栄養補助用飼料添加物(薬剤に属するものを除く。)」は、通常、飼料を取り扱う専門の小売業者によって販売されるもので、一般の薬局やドラッグストアで販売されるものではない。
キ 小括
以上より、本件商標は引用商標とそもそも非類似であり、引用商標の指定商品との間で誤認・混同が生じるおそれは全くない。それに加え、引用商標の周知・著名性及び独創性の程度や、本件商標の指定商品と引用商標の指定商品との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らしても、本件商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断した場合、引用商標の指定商品との間で誤認・混同が生じるおそれは全く存在しない。
3 結語
以上の次第で、請求人の主張はいずれも失当であり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当するものではない。

第5 当審の判断
1 商標法第4条第1項第11号について
(1)本件商標は、前記第1のとおり「Lypo-C」の文字を標準文字で表してなり、その構成文字は同書同大等間隔でまとまりよく一体に表され、これから生じる「リポシー」の称呼もよどみなく一連に称呼し得るものである。
そして、本件商標は、その構成中にハイフン(-)を含むものの、かかる構成及び称呼においては、看者をして「Lypo-C」の構成文字全体をもって、特定の観念を生じない一体不可分のものとして認識、把握されるとみるのが相当である。
(2)引用商標は、前記第2の1のとおり「リポD」と「LIPO-D」の文字からなり、その構成は両文字が同書同大等間隔で二段にまとまりよく一体的に表され、これから生じる「リポディー」の称呼もよどみなく一連に称呼し得るものである。
そして、引用商標は、その構成文字が二段に表されているものの、かかる構成及び称呼においては、看者をして二段に表された「リポD」と「LIPO-D」の構成文字全体をもって、特定の観念を生じない一体不可分のものとして認識、把握されるとみるのが相当である。
(3)そこで、本件商標と引用商標の類否を検討すると、両者の上記のとおりの外観は、その構成態様から相紛れるおそれのないこと明らかである。なお、仮に本件商標「Lypo-C」と引用商標の構成中「LIPO-D」とを比較するとしても、両者は、二文字目における「y」と「I」及び語尾における「C」と「D」の差異を有するから、その差異が両者の外観から受ける視覚的印象に与える影響は大きく、両者を離隔的に観察しても相紛れるおそれのないものである。
次に、本件商標から生じる「リポシー」と引用商標から生じる「リポディー」の称呼を比較すると、両者は語尾において「シー」と「ディー」の音に差異を有するものであり、共に長音を含む4音という短い音構成からなる両称呼全体に及ぼす影響は大きく、両者をそれぞれ一連に称呼しても、かれこれ聞き誤るおそれのないものと判断するのが相当である。
さらに、観念においては、両商標は共に特定の観念を生じないものであるから、比較できないものである。
そうすると、本件商標と引用商標は、外観、称呼において相紛れるおそれがなく、観念において比較できないものであるから、両者の外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は相紛れるおそれのない非類似の商標というべきものである。
(4)請求人は、本件商標と引用商標は両者の称呼「リポシー」と「リポディー」の差異音「シー」と「ディー」が母音を共通にする近似音である、並びに本件商標の構成中「Lypo」の文字部分及び引用商標の構成中「リポ」の文字部分が自他商品の識別機能を有すると捉えられ、「リポ」の称呼を生じるものであるとして、称呼を共通にする類似する商標である旨主張している。
しかしながら、「リポシー」と「リポディー」の称呼は、両者の構成音数及び差異音の音質等を考慮すれば、上記のとおり判断するのが相当であり、また、本件商標は、「Lypo-C」の文字からなるところ、その構成中にハイフン(-)を含んでいるものの、その構成文字全体として、外観上まとまりよく一体的に表されたものといえることは、上記(1)のとおりであり、たとえ、その構成中の「C」の文字部分が、一般に商品の品番・型番を表す記号・符号として使用される場合があるとしても、かかる構成にあっては、その構成全体をもって一体不可分のものと認識、把握されるものとみるのが相当であるから、請求人の係る主張はいずれも採用できない。
(5)その他、本件商標と引用商標が類似するというべき事情も見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものといえない。
2 商標法第4条第1項第15号について
(1)引用商標等の周知性について
ア 請求人提出の甲各号証及び同人の主張によれば、次の事実を認めることができる。
(ア)請求人は、1962年(昭和37年)から現在まで継続して、いわゆる栄養ドリンク剤「リポビタンD」(以下「請求人商品」という。)の製造販売を行っており、その間、テレビCM及び海外旅行や景品等が当たる各種キャンペーンなどにより広告宣伝を行ってきた(甲7、甲8)。
(イ)請求人は、「リポビタンシリーズ」として、請求人商品のほか「リポビタンゴールド」「リポビタンフィール」「リポビタンファイン」などの栄養ドリンク剤の製造販売を行っており、これら商品は我が国ばかりでなく海外においても製造販売されている(甲7、甲8)。
(ウ)リポビタンシリーズ商品の1962年からの累計販売本数は、国内・外合計で、2011年10月末で340億本、2016年度までで約387億本であり、請求人商品はドリンク剤において約4割のシェアを占めている(甲7、甲8)。ただし、国内における販売本数は確認できない。
(エ)請求人商品は、昭和49年(1974年)1月には雑誌において「リポD」と略称され(甲12)、また、1996年(平成8年)ないし2017年(平成29年)には、多数の全国紙を含む新聞、雑誌において「リポD」と略称されている(甲11)。さらに、2017年(平成29年)3月17日発売の「会社四季報」において、「リポD」の表示がある(甲14)。
(オ)請求人は、請求人商品を店頭で展示する際に、当該商品を山状に高く積み上げ、これを「リポDタワー」と称し、また、2017年12月から翌年1月にかけて漫画とのコラボレーション広告を行った際に、検索キーワードとして、「リポD キングダム」と記載した(甲8、甲16)。
(カ)なお、2017年(平成29年)1月1日ないし12月31日の1年間に、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)及びインターネットのニュースサイトにおいて、「リポビタンD」「リポビタンd」の記載があるものが約18.8万件及び約4,000件、「リポD」「リポd」の記載があるものが約8.2万件及び368件あったことがうかがえる。
(キ)「リポD」と「LIPO-D」の文字を二段に書してなる引用商標(同一視できるものを含む。)が使用及び表記されている事実は確認できない。
イ 上記ア(ア)ないし(カ)の事実のとおり、請求人商品は、該商品の我が国における販売本数は確認できないものの、昭和37年から現在まで55年以上継続して販売されていること、ドリンク剤において約4割のシェアであること、販売当初から現在まで継続してテレビCMが放送されていること、平成8年ないし平成29年に新聞、雑誌で多数紹介等されていることからすれば、本件商標の登録出願時及び登録査定時はもとより現在においても我が国の需要者の間に広く認識されているものと認めることができる。
さらに、上記ア(エ)のとおり、請求人商品が多数の新聞、雑誌において「リポD」と略称されている事実からすれば、「リポD」の文字(以下「引用標章」という。)は請求人商品の略称として、本件商標の登録出願時及び登録査定時はもとより現在においても我が国の需要者の間に広く認識されているものと判断するのが相当である。
しかしながら、引用商標は、それが使用等されている事実さえ確認できないから、請求人の業務に係る商品を表示するものとして我が国の需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。
(2)商標法第4条第1項第15号該当性について
ア 引用商標との関係について
上記1のとおり、本件商標と引用商標は相紛れるおそれのない非類似の商標であって、その類似性の程度は低いものというべきものであり、上記(1)のとおり引用商標は請求人の業務に係る商品を表示するものとして、需要者の間に広く認識されているものとは認められないものであることから、本件商標は、商標権者がこれをその指定商品について使用しても、取引者、需要者をして引用商標を連想又は想起させることはなく、その商品が請求人あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品の出所について混同を生じるおそれはないものというべきである。
したがって、本件商標は、引用商標との関係において商標法第4条第1項第15号に該当するものといえない。
イ 引用標章との関係について
(ア)引用標章の周知性について
引用標章は、上記(1)のとおり、請求人の業務に係る商品を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時はもとより現在においても我が国の需要者の間に広く認識されているものと認めることができるものである。
(イ)本件商標と引用標章との類似性の程度について
本件商標は、前記第1のとおり「Lypo-C」の文字からなり、その構成文字に相応し「リポシー」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。
他方、引用標章は、「リポD」の文字からなり、その構成文字に相応し「リポディー」の称呼を生じ、該文字が請求人商品の略称として需要者の間に広く認識されているものであるから、「(請求人商品)リポビタンD」の観念を生じるものである。
そこで、本件商標と引用標章を比較すると、両者は、その構成文字を全て異にするものであるから、外観において明らかに相違し、本件商標から生じる「リポシー」と引用標章から生じる「リポディー」の称呼とは、本件商標と引用商標の称呼の比較と同様に聞き誤るおそれのないものと判断するのが相当であり、さらに、観念においては、本件商標からは特定の観念が生じないのに対し、引用標章からは「(請求人商品)リポビタンD」の観念を生じることから、観念においても相紛れるおそれのないものである。
してみれば,本件商標と引用標章とは、外観において明らかに相違し、称呼及び観念においても相紛れるおそれのない非類似の商標であり、別異の商標というべきものであって、その類似性は、極めて低いものである。
(ウ)判断
引用標章は、上記(ア)のとおり、請求人の業務に係る商品を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の需要者の間に広く認識されているものと認めることができるものである。
しかしながら、本件商標と引用標章とは、上記(イ)のとおり、その類似性の程度は極めて低いことからすれば、本件商標は、これをその指定商品について使用したときに、これに接する需要者が、引用標章を連想、想起することはなく、当該商品が請求人又は同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生じさせるおそれのないものというべきである。
したがって、本件商標は、引用標章との関係において商標法第4条第1項第15号に該当するものといえない。
ウ 小括
以上のとおり、本件商標は、これをその指定商品に使用しても、引用商標及び引用標章のいずれの関係においても、その商品の出所について混同を生じるおそれがないものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
3 まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に違反して登録されたとはいえないから、同法第46条第1項により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2019-12-20 
結審通知日 2019-12-24 
審決日 2020-01-27 
出願番号 商願2017-64921(T2017-64921) 
審決分類 T 1 11・ 271- Y (W05)
T 1 11・ 263- Y (W05)
T 1 11・ 261- Y (W05)
T 1 11・ 262- Y (W05)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 片桐 大樹和田 恵美 
特許庁審判長 半田 正人
特許庁審判官 小松 里美
中束 としえ
登録日 2018-01-19 
登録番号 商標登録第6012164号(T6012164) 
商標の称呼 リポシイ、リポ 
代理人 青木 博通 
代理人 村田 雄祐 
代理人 片山 礼介 
代理人 森下 賢樹 
代理人 柳生 征男 
代理人 中田 和博 

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