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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W182528
管理番号 1359768 
審判番号 無効2015-680001 
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-05-01 
確定日 2018-07-23 
事件の表示 上記当事者間の国際登録第1119597号商標の商標登録無効審判事件についてされた平成28年11月2日付け審決に対し,知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成28年(行ケ)第10262号,平成29年9月13日判決言渡)があったので,さらに審理のうえ,次のとおり審決する。 
結論 国際登録第1119597号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件国際登録第1119597号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1に示すとおりの構成からなり,2012(平成24)年2月20日に国際商標登録出願,平成24年12月14日に登録査定,第18類「Imitation leather;school bags;backpacks;valises;straps for skates;animal skins;umbrellas.」,第25類「Clothing;layettes(clothing);bathing suits;waterproof clothing;footwear;hats;hosiery;scarfs;gloves(clothing);sports jerseys;tee-shirts;jackets(clothing);football shoes;sandals;sports shoes.」及び第28類「Balls for games;body-building apparatus;machines for physical exercises;snowshoes;roller skates;rods for fishing;toys;archery implements;shuttlecocks;nets for sports;appliances for gymnastics;knee guards(sports articles);protective paddings(parts of sports suits);skating boots with skates attached;in-line roller skates.」を指定商品として,同25年3月15日に設定登録されたものである。
第2 引用商標
1 登録第4716649号商標(以下「引用商標1」という。)は,別掲2に示すとおりの構成からなり,平成14年7月24日に登録出願,第18類「皮革,かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,かばん金具,がま口口金,傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄,乗馬用具,愛玩動物用被服類」,第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」及び第28類「遊戯用器具,囲碁用具,将棋用具,歌がるた,さいころ,すごろく,ダイスカップ,ダイヤモンドゲーム,チェス用具,チェッカー用具,手品用具,ドミノ用具,トランプ,花札,マージャン用具,ビリヤード用具,おもちゃ,人形,愛玩動物用おもちゃ,運動用具,スキーワックス,釣り具,昆虫採集用具,遊園地用機械器具(業務用テレビゲーム機を除く。)」のほか,第1類,第3類,第4類,第6類,第8類,第9類,第11類,第12類,第14類,第16類,第19類ないし第24類,第26類,第27類及び第32類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として,同15年10月10日に設定登録され,現に有効に存続しているものである。
2 登録第1703877号商標(以下「引用商標2」という。)は,別掲3に示すとおりの構成からなり,昭和56年5月19日に登録出願,第24類に属する商標登録原簿に記載の商品を指定商品として,同59年7月25日に設定登録され,その後,平成17年3月9日に指定商品を,第15類「楽器,演奏補助品,音さ」,第18類「乗馬用具」,第25類「運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。),乗馬靴,仮装用衣服」及び第28類「運動用具,おもちゃ,人形,囲碁用具,将棋用具,歌がるた,さいころ,すごろく,ダイスカップ,ダイヤモンドゲーム,チェス用具,チェッカー用具,手品用具,ドミノ用具,トランプ,花札,マージャン用具,遊戯用器具,ビリヤード用具,釣り具」のほか,第6類,第8類,第9類,第19類ないし第22類,第24類,第27類及び第31類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品とする指定商品の書換登録がされ,さらに,同26年6月24日に,第15類について商標権の存続期間の更新登録がなされ,現に有効に存続しているものである。
なお,以下,引用商標1及び引用商標2をまとめて「引用商標」ということがある。
第3 請求人の主張
請求人は,結論同旨の審決を求め,審判請求書及び審判事件弁駁書において,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第170号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標の登録は,以下の理由により,商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に違反してされたものであるから,同法第46条第1項第1号の規定により無効とされるべきである。
(1)引用商標の著名性
ア 引用商標の歴史及びこれまでの使用態様
請求人は,昭和55年(1980年),全てのスポーツに共通し,世界中で使用できるシューズのブランドマークの創作を開始し,昭和56年(1981年)に引用商標を創作した。
引用商標は,その走る鳥を思わせる形状から,「RUNBIRD(ランバード)」と名付けられ,引用商標が付されたスポーツシューズは,アメリカで昭和57年(1982年)に,日本で昭和58年(1983年)に初めて販売された。
引用商標は,日本での導入の当初はスポーツシューズに付されていたが,昭和62年(1987年)からは,スポーツウェアやアパレル製品,スポーツバッグなどその他のスポーツ用品にも付されるようになった。
引用商標は,平成8年(1996年)までは主に日本国内向けの商品のみに付されていたものであるが,同年,日本国外向けの商品のロゴとして,請求人のコーポレートネームである「Mizuno」のロゴを上部に,引用商標を下部に並べたロゴが創作され,同10年(1998年)には,「Mizuno」のロゴを下部に,引用商標を上部に並べたロゴ(以下「ミズノランバード」という。)が請求人の準ハウスマークとして創作された。その後,引用商標及びミズノランバードは,請求人のハウスマークとして使用されるようになり,さらに多くのスポーツ用品に引用商標が付されるようになった。
平成18年(2006年),請求人は創業100周年を迎えたことを契機にスポーツ用品のブランドを引用商標及びミズノランバードに統一した。その結果,同19年(2007年)以降,請求人の製品には引用商標が必ず付されるようになった。
請求人は,1924年のパリオリンピック,1964年の東京オリンピック等,多くの夏季・冬季オリンピックにそのスポーツウェアを提供してきたところ,2000年のシドニーオリンピックから,引用商標又はミズノランバードを付した公式ウェアを日本選手団に提供するようになり,以降,2002年のソルトレークシティオリンピックを除き,2014年のソチオリンピックに至る全ての夏季・冬季オリンピックにおいて引用商標又はミズノランバードを付したウェアや用具を日本選手団ないし各競技の日本代表チームに提供してきた。
イ 引用商標を付した商品が長期間にわたり販売され,利用され,宣伝広告されてきた事実
昭和58年(1983年)に初めてスポーツシューズに引用商標が付され,その販売が開始されて以降,現在に至るまで,引用商標が付されたスポーツシューズ,アパレル製品,スポーツウェア及びスポーツ用品は多数販売され,オリンピックなどのスポーツイベントで使用され,テレビ,雑誌,新聞その他多くのメディアにおいて紹介され,また,宣伝広告されてきた(甲6?甲75,甲118?甲125)。
さらに,請求人の販売するスポーツシューズなどのスポーツ用品は,陸上競技,野球,サッカーなどの分野で活躍する有名選手に使用され,また,これら有名選手が使用する引用商標が付された商品が宣伝広告されてきた(甲14,甲15,甲20,甲27,甲34,甲36,甲37,甲69,甲72,甲112,甲126?甲137)。
ウ 引用商標が付された商品の売上
平成20年(2008年)度以降,請求人の全製品の日本国内における売上高は,毎年合計で1000億円以上であった(甲76?甲81)。
エ 他社とのコレボレーション製品や他社へのライセンス製品
引用商標は,ディズニー社と請求人とのコレボレーション製品であるTシャツ,ポロシャツ,ジャージ,パンツ,ジャケット,キャップ及びパーカー等に付され,これら商品はこれまで多数販売され,宣伝広告されてきた(甲82)。
また,岡本株式会社へのライセンス製品である靴下,サンスター文具株式会社へのライセンス製品である文房具のほか,弁当箱,箸,箸入れ,傘,ステンレスボトル,裁縫箱,エプロン,ナップザック,タオルのライセンス製品にもそれぞれ引用商標が付されており,これら商品はこれまで多数販売されてきた(甲83)。
オ 例えば,平成24年(2012年)における請求人の全製品のカタログには,ほぼ全ての商品に引用商標が付されている(甲112)。
カ 小括
以上の事実から,引用商標が,本件商標の国際登録日である平成24年2月20日時点及び本件商標の登録査定日である同年12月14日時点において著名であったことは明らかである。
(2)本件商標と引用商標との類似性
ア 本件商標と引用商標の外観の類似性
本件商標は特定の観念及び称呼を生じるものではない。
次に,本件商標と引用商標の外観の類似性について検討する。
被請求人は,(ア)本件商標は右を向いた鳥(鴻鵠)をイメージしているのに対し,引用商標は左を向いた走る鳥をイメージしており,単に鳥のイメージを有する抽象図形という点で共通するのみであって,全体的な印象を全く異にする,(イ)抽象的な図形としてみた場合であっても全体的な構成が大きく相違する,(ウ)需要者は本件商標と引用商標とを容易に識別することができる,などと述べ,本件商標と引用商標は非類似であると主張する。
しかしながら,本件商標と引用商標の外観につき,両者は白地に黒塗りである点,図形左上部の左傾斜の直線,当該直線の左端から鋭角に図形中央下部へ伸びる曲線,当該直線の右端から鋭角に左下部方向に向かい,鋭い弧を描きながら右上部にかけて水平以上に右上がりに延びる略直線,及び図形右上部から図形中央下部に向かう曲線を有する点で一致する。
そして,このような一致点を有する両商標の図形について全体として観察すると,両商標のシルエットは,ほぼ一致するものである。
両者が異なるのは,引用商標のロゴの中央に白抜き部分が見えるという点のみであるが,当該白抜き部分は全体から見てわずかであり,全体のシルエットが与える印象を変えるものではないから,両者の全体のシルエットがほぼ一致することに変わりはない。
また,いずれのロゴもその左上部分には左下に流れるように傾斜している直線があることや全体として横長形状であることから,右から左に流れるように走っている,あるいは今にも走りだしそうな鳥のイメージを与えるものである。よって,本件商標と引用商標とは,類似する図形であるとの印象を与えるものである。
以上から,本件商標と引用商標とは,外観上類似するものであることは明らかである。
イ その他の取引の実情について
(ア)本件商標と引用商標の使用態様の比較
被服や靴などにおいて,商標がワンポイントマークとして小さく目立たない状態で表示されているという取引の実情も考慮したうえで,両商標が類似するという判断をすべきである。特にスポーツウェアについては,商品全体から見た場合に商標がワンポイントマークとして小さく目立たない状態で付されていることから,細かな差異は目立たず,本件商標が付された商品を,引用商標が付された商品であると誤解してしまうほどに,両商標は,酷似している。
(イ)本件商標が実際に使用されるスポーツの場面における実情
a 本件商標や引用商標のようにスポーツウェア,スポーツシューズ等のスポーツ用品に商標が付されている場合,実際の商標の使用態様であるスポーツの場面においては,商標が付されたウェアやシューズ等が動いて商標の細かい部分が見えないことや,ウェアやシューズ等が様々な方向を向いてそこに付された商標の一部が見えないことがあり,したがって商標が正面から見た場合と異なる形状で見えることがある。
b さらに,スポーツの場面などでは,商標を短時間(1秒に満たない時間)しか視認できない場合があり,そのようなスポーツの場面などでは,需要者において,本件商標が付されたスポーツ用品を引用商標が付されたものと誤解するおそれは極めて高いことが明らかである。
c 以上のとおり,商標の類否を判断するにあたっては,上記のような実際の使用態様における見え方の類似という取引の実情も考慮されるべきである。
(ウ)本件商標が実際に引用商標と類似するとの印象を需要者に与えていること
本件商標は,引用商標と類似するとしてマスコミで実際に取り上げられたことがある(甲88)ほか,両者が類似することはツイッター上で多数つぶやかれていることから,明らかに本件商標が引用商標と類似するという印象を与えているということができる(甲89?甲107,甲138,甲140)。同様に,本件商標が付されたウェアを着用したスポーツ選手の試合や被請求人がスポンサーとなった大会の試合を見た一般の人から,請求人に対して,本件商標が引用商標に類似するという情報提供もあった(甲108,甲109)。
また,中国アリババの日本人向けのショッピングサイトにおいて,同サイト上に大きく表示されているシューズには被請求人ブランドのロゴが横に表示されているが,その右に複数画像が掲載されているシューズは全て引用商標が付された請求人製のシューズであり(甲141,甲142),これも本件商標と引用商標とが誤認混同されている一例である。
以上のとおり,本件商標は,実際に需要者に対し引用商標と類似するとの印象を与えていることは明らかである。
(エ)被請求人が,引用商標に化体する請求人の業務上の信用にただ乗りすることを目的に引用商標に似せて本件商標を作成したこと
被請求人は,平成12年(2000年)6月に中国で設立された中国法人であるところ,その設立から15年以上も前の昭和58年(1983年)から請求人が継続して使用していた著名な引用商標と極めて類似する本件商標と同一のロゴを自らのブランドとして設立当初から中国において使用し始めた。
上述したとおり,本件商標と引用商標の外観は極めて類似するものである。そして,このように著名な引用商標と極めて類似するロゴを被請求人が設立当時において偶然作成したということは考えにくく,被請求人が著名であった引用商標を意識して,引用商標に化体する請求人の業務上の信用にただ乗りすることを目的に引用商標に似せてロゴ,すなわち本件商標を作成したことは明らかである。
その後,請求人は,平成19年(2007年)に,被請求人に対し,そのロゴの使用を中止し,変更するように申し入れたところ,これに対し,被請求人は当初はロゴを徐々に変更していくと述べていた(甲86)。これは,ロゴが請求人の著名商標である引用商標に類似していることを被請求人が自ら認識していたからにほかならない。さらに,被請求人のホームページに記載されている本件商標の色と請求人のホームページに記載されている本件商標の色とは同じ青色であるが(甲143,甲144),これよりは,本件商標が,意図的に青色を基調とする被請求人の引用商標と似せているということができる。
以上から,被請求人が,引用商標及び請求人を意識して,引用商標に化体する請求人の業務上の信用にただ乗りすることを目的に引用商標に似せて本件商標を作成したことは明らかである。
これに対し,被請求人は,本件商標が,販路の拡大,テニス,オリンピック,その他のスポーツ大会との提携,選手とのスポンサー契約,テレビCM,製品の品質向上及びサービスの向上などを通じて,中国において周知著名商標となり,国際的にも,本件商標を使用した被請求人の製品は高い評価を受けているなどと述べ,被請求人が引用商標の業務上の信用にただ乗りしたということはできないと主張する。
しかしながら,本件は日本商標法の下での案件であり,我が国における引用商標の著名性,そして引用商標の使用がないこと等を踏まえて,引用商標の使用が需要者への影響を問題としているのであり,およそ意味のない議論である。
ウ 小括
以上のとおり,本件商標と引用商標との外観の類似性に加え,引用商標が著名であること,両商標の実際の使用態様が酷似していること,本件商標が実際に使用されるスポーツの場面において引用商標と誤認混同されやすいこと,本件商標が実際に需要者に対し引用商標と類似するとの印象を与えていること,被請求人が,引用商標及び請求人を意識して,引用商標に化体する請求人の業務上の信用にただ乗りすることを目的に引用商標に似せて本件商標を作成したことなどの取引の実情を考慮すれば,本件商標をその指定商品に使用したときには,需要者において著名なハウスマークである引用商標を容易に連想することは明らかであって,出所の誤認混同のおそれが生じる可能性は極めて高い。
(3)商標法第4条第1項第11号の該当性について
本件商標は,上記(2)のとおり,引用商標と類似するものであって,また,引用商標に係る指定商品と同一又は類似の商品について使用するものであるから,商標法第4条第1項第11号に該当する。
なお,被請求人は,引用商標2が平成26年6月24日に更新登録がされ,その際に第15類以外の指定商品が放棄されたことから,第15類以外の指定商品について商標権が有効であったのは,平成26年7月25日までであったのに対し,本件商標の査定日は平成26年12月14日であるから,本件商標と引用商標2との指定商品は非類似である旨主張しているが,本件商標の登録査定日は平成24年12月14日である。
(4)商標法第4条第1項第15号の該当性について
ア 本件商標と引用商標との類似性
本件商標と引用商標との類似性については,上記(2)において既に述べたとおり,外観において類似するものであることは明らかである。
イ 引用商標の周知著名性及び独創性
引用商標が著名であることは,上記(1)で既に述べたとおりである。
また,引用商標は,宇宙の惑星軌道を描きとり,そこからできた象徴図形(甲117)にスポーツの躍動感や無限の広がりを付加したマークとして創作されたものであり,請求人が生み出した全く新しい独創的な図形である。
ウ 本件商標の指定商品と請求人が引用商標を使用して業務を行っている商品の性質,用途,目的,その需要者が共通であること
上記(1)のとおり,請求人は,昭和58年(1983年)から現在に至るまで30年以上の間継続して,引用商標を付したスポーツシューズ,スポーツウェア,スポーツバッグその他のスポーツ用品を製造販売し,また,宣伝広告してきたものである。
一方,本件商標の指定商品は運動靴,スポーツジャージーや運動用機械器具などを含むものであるから,請求人が引用商用を使用して業務を行っている商品とはスポーツ用品という点で性質,用途及び目的が共通であり,またその需要者も共通であることは明らかである。
エ その他取引の実情
引用商標が著名であり,また請求人のハウスマークであることから,通常の場合よりも需要者において引用商標を容易に連想し,したがって引用商標との誤認混同が生じやすいこと,上記(2)イのとおり,本件商標と引用商標との実際の使用態様が酷似していること,特に本件商標が実際に使用されるスポーツの場面において引用商標と誤解されやすいこと,多くの需要者が実際に本件商標を引用商標と誤認していること,さらに被請求人が,引用商標及び請求人を意識して,引用商標に化体する請求人の業務上の信用にただ乗りすることを目的に引用商標に似せて本件商標を作成したことなどの取引の実情が存在する。
オ 小括
以上述べたアないしエの事情に照らせば,本件商標をその指定商品である運動靴,スポーツジャージー,運動用機械器具などに使用するときは,需要者において,少なくとも当該商品が,請求人の親子会社や系列会社の商品であるか,あるいは,同じグループの会社の商品であると誤信するおそれがあることは明らかである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。
2 結語
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当するものである。
第4 被請求人の主張
被請求人は,本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求めると答弁し,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第54号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 商標法第4条第1項第11号について
(1)引用商標2は,平成26年6月24日に更新登録がなされ,その際に指定商品は第15類「楽器,演奏補助品,音さ」のみとされ,その余の指定商品は放棄された(乙2)。このため,第15類以外の指定商品について商標権が有効であったのは,平成26年7月25日までであった。
一方,本件商標の査定日は平成26年12月14日(審決注:本件商標の査定日は平成24年12月14日の誤記と認められる。)であることから,本件商標の査定時においては,引用商標2の指定商品は,本件商標の指定商品とは,非類似である。
(2)本件商標は引用商標と非類似であること
本件商標は,鴻鵠(こうこく)が左から右上へ高く飛翔する姿をイメージして創作されたものである。すなわち,左側半分が翼や胴体であり,それに続いて中央から右上に斜めに細長く延びた部分が首に,その先端のやや幅が広がった部分が頭に相当する。
一方,引用商標は,請求人によれば,宇宙の惑星軌道を描きとり,そこからできた象徴図形(甲117)にスポーツの躍動感や無限の広がりを付加したマークとして創作されたもので,その走る鳥を思わせる形状を有するものである。引用商標は,左側に向けて走っている又は今にも走りだしそうな鳥の印象を与えるものである。
両商標を比較すると,両者の共通点は,共に鳥のイメージを有する抽象図形であるという非常に大括りな観点のみにすぎない。その他の点は真っ向から相違している。すなわち,本件商標の鴻鵠は右を,引用商標の鳥は左を向いた姿である。
請求人は,本件商標も引用商標と同様に右から左に走っている鳥のイメージを与えると主張する。しかしながら,本件商標の左上部の左傾斜の直線とその両端から延びる曲線とがなす角は,尖っておらず丸みを帯びている(後述の相違点キ)。鳥のくちばしは,通常尖ったものとして表現されるものであることから,当該部分を鳥のくちばしや頭部とみることは困難である。また,後述のイ?カ)の相違点も相まって,本件商標の左側の部分を鳥の頭部とみることは不自然である。鳥の種類も全く相違している。
本件商標のモチーフは,首の長い大型の鳥すなわち鴻鵠であるが,引用商標は,具体的な鳥の種類は分からず,首は短く,尾がピンと伸び,頭とくちばしが鋭く尖った,全体的にシャープな印象を与え,より抽象的な鳥の姿である。さらには,本件商標の鴻鵠は右上にまっすぐ高く飛翔している姿であるのに対し,引用商標の鳥は地に足を着け,左に走っている又は今にも走りだしそうな姿である。
このように,本件商標と引用商標とは,単に鳥のイメージを有する抽象図形であるという点が共通しているとしても,その表し方において全く別異の印象を看者に与えるものであるから,両商標は,全体の印象を全く異にし,外観において,非類似の商標であるというべきである。
仮に,本件商標と引用商標とが「鳥」と認識されず,抽象的な図形として看取された場合にも,全体が与える印象が相違するため,非類似の商標であるというべきである。
ア 商標中央部付近の逆三角形状の白抜き部分の有無
引用商標は,その中央に,逆三角形状の白抜き部分を有している点で本件商標とは大きく相違している。
イ 商標の縦横比の相違
商標の縦と横の大きさの比率は,商標の全体的な印象を決める重要な要素の一つである。本件商標の縦:横の比率がおよそ1:4であるのに対し,引用商標1は1:2.75,引用商標2は1:3であり,本件商標は,引用商標に比べかなり平べったい印象を与える。
ウ 商標の左右の端より下側にある輪郭の構成の相違
本件商標は,商標の左右の端より下側にある輪郭は,曲率の変化する有機的な1本の曲線からなっている。これに対し,引用商標は,商標の左右の端より下側にある輪郭は,商標の右端の短い右上がりの直線を除いて考慮しても,中央底部の水平な短い直線と,当該直線の左右それぞれの端と商標の左右それぞれの端とをむすぶ,上に凸の2本の幾何学的な曲線からなる。
エ 曲線の曲率や傾斜の相違
仮に,本件商標の左右の端より下側にある輪郭をなす1本の曲線を,下の端から左右に分けて看取して,引用商標の左右2つの曲線と比較したとしても,両商標の曲線の曲率や傾斜が相違することから,両者は,異なる印象を与える。本件商標の左側の曲線は,傾きと曲率が小さくほぼ水平に近く,高さ方向にあまり変化せず低い位置にある。これに対し,引用商標の左側の曲線は,曲率が大きく,高さ方向に変化し,立ち上がりを見せている。また,本件商標の右側の曲線は,傾きはあるが曲率が小さくほぼ直線的であるのに対し,引用商標の右側の曲線は,曲率が大きく,上に凸の形状がはっきりしている。また,全体的に,本件商標の曲線は,曲率や傾きが不規則に変化し有機的な印象を与えるのに対し,引用商標の曲線は幾何学的な印象を与える。
オ 左端頂部の高さの相違
本件商標と引用商標とでは,商標の左端頂部の,商標全体に対する高さも,かなり相違している。本件商標の左側頂部は,商標全体の高さの下から4分の1から5分の1程度の低い位置にあるが,引用商標の左側頂部は,上から3分の1程度のかなり高い位置にある。
カ 左上部の左傾斜直線の長さの相違
本件商標の左上部の左傾斜直線の長さは,商標の横方向の半分近くを占め,長いのに対し,引用商標1の左傾斜直線の長さは商標の横方向の3分の1ほど,引用商標2では7分の2程度で,短い。これにより,商標の左側の印象が,本件商標ではどっしりして見えるのに対し,引用商標ではコンパクトに締まって見える。
キ 左上部の左傾斜直線両端の角
本件商標の左上部の左傾斜直線両端の角は,丸みを帯びているのに対し,引用商標ではシャープに尖っている。
ク 商標右端の直線部の傾斜の相違
商標右端の直線部の傾斜は,本件商標では右下がりであるのに対し,引用商標では右上がりである。
このように,本件商標と引用商標とは,上記相違が相まって,全体的な構成が大きく相違することから,その構成全体としてそれぞれが看者に与える印象が大きく異なり,それぞれ異なったものとして記憶されるとみるべきであるから,時と処を異にして接した場合も,十分に識別される非類似の商標である。
また,本件商標と引用商標は,称呼,観念については,特定の称呼,観念を生ずるものではなく比較できないか,仮に称呼,観念が生ずるとしても非類似であるというのが相当である。
したがって,本件商標と引用商標とは,外観,称呼及び観念のいずれにおいても非類似の商標である。
(3)ワンポイントマークとしての使用,スポーツシューズへの使用に関して
請求人は,ワンポイントマークに関して,特にスポーツウェアについては,商標全体からみた場合に当該商標がワンポイントマークとして小さく目立たない状態で付されていることから,細かな差異は目立たず,本件商標が付された商品について,引用商標が付された商品であると誤解してしまうほどに酷似している旨を主張する。
しかしながら,ワンポイントといっても,その大きさは幅がおよそ2?3cm程度はあるのが通常であり,被服等を取り扱う業界においては,需要者は,通常,店頭で自ら商品を手に取って購入することが多く,ワンポイントとして表示された商標であっても至近距離で目にすることとなる。そうすれば,上述のとおりの全く異なる印象を与える本件商標と引用商標について,需要者は,容易に識別することができるものというのが相当である。
また,靴についての使用態様では表示された商標の幅はおおよそ7?10cm程度あり,なおさら容易に識別されるものである。
以上のように,商標がワンポイントマークとして表示されていたり,スポーツシューズの側面に使用されているという取引の実情を考慮したとしても,本件商標は,引用商標とは非類似である。
(4)結論
以上より,本件商標と引用商標とは,外観,称呼及び観念のいずれから見ても,互いに類似する商標とはいうことはできない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第11号には該当しないものである。
2 商標法第4条第1項第15号について
(1)本件商標と引用商標が非類似であること
上記1のとおり,本件商標は,引用商標とは非類似の商標である。
(2)取引実情に関して
ア 被請求人について
被請求人は,2000年に設立された中国福建省直門市に本社を置く,スポーツシューズ,スポーツ用品,ウェアを中心とする製品の開発,生産,販売一体化の大型服装グループ企業である。
中国国内の店舗数は,約4000店舗,2012年の年間売上は,28.89億元(約365億円)である(乙4,乙5)。
被請求人は,スポーツウェア10大ブランドのうちに入り,世界トップテニス大会スポンサーであり,2000年設立以来急成長を遂げた中国屈指の企業である。製品はヨーロッパ,東南アジア,中東,南米,北米,アフリカの国や地域で販売され,多数の商標権を有し,ブランド価値100億元を突破し,「中国で最も価値あるブランドトップ500」,「アジアブランドトップ500」,「フォーブスアジアトップ200」などを受賞している。被請求人は,羽ばたく鴻鵠をイメージした本件商標のロゴをコーポレートマークとして,優れた製品やサービスを提供している。
被請求人は,後述のように,多くの国際テニス大会と提携し,テニス選手と契約,テニス用品及びシューズ,ウェアを提供し,中国テニスウェア業界では第一ブランドとして優位を保っている。オリンピックでは,北朝鮮,南アフリカ,イラン,ウズベキスタンなどの国家代表団と提携し,オリンピックの舞台で国際ブランドと対面してきた(乙6,乙7,乙50ないし乙52)。
イ 本件商標のロゴマークについて
本件商標のロゴマークは,創業当初,被請求人の代表者とその弟が鴻鵠(こうこく)をイメージして,決定したものである。鴻鵠は,鴻(おおとり)と鵠(くぐい),大きな鳥をいう。転じて,大人物を表す語である(広辞苑第五版(岩波書店))。
本件商標のロゴマークは,青空に羽ばたく鴻鵠をイメージして創作されたものである。すなわち,鴻鵠が左から右上へまっすぐ高く飛翔する姿がモチーフとなっている。
また,コーポレートマークとしては,ロゴを青色で彩色したものを採用しているが,この青色は,青空をイメージしており,落ち着いた冷静な心境,天下を包容する胸襟,お洒落でおおらか,典雅な気質を象徴するものである(乙7,乙8)。
ウ 中国及びその他外国における商標権
被請求人は,本件商標のロゴマークについて商標の保護を図るべく,我が国以外にも,中国及びその他外国において,ロゴマーク,又はロゴマークを構成中に含む商標について積極的に商標登録出願をし,具体的には,中国,韓国,アルジェリア,ギリシャ,ミャンマー,ロシア,クウェート,エクアドル,タイ及びチュニジアにおいて多数の商標権を所有している(乙9)。
エ 本件商標のロゴマークの使用及びその評価
本件商標は,被請求人を表すハウスマークとして,設立当初より被請求人のシューズ,スポーツ用品,スポーツウェア等に広く使用され,現在では,中国において周知著名な商標となり,国際的にも,世界各国に販路及び店舗を有し,テニスの数々の国際大会と提携し,オリンピック代表団を支援し,ウェア,シューズ,スポーツ用品の公式サプライヤーに採用されるなど,高い信頼を得ている(乙4,乙6,乙7,乙10?乙54)。
そのほかにも,多数の賞,認証,栄誉を受け,被請求人及びその製品は,中国国内及び国際的に高い評価を受けている(乙36?乙47,乙54)。
オ まとめ
以上のように,本件商標は,販路の拡大,テニス,オリンピック,その他のスポーツ大会との提携,選手とのスポンサー契約,テレビCM,製品の品質向上及びサービスの向上などを通じて,中国において周知著名商標となり,国際的にも,本件商標を使用した被請求人の製品は高い評価を受けている。
(3)結論
以上のように,本件商標は引用商標とは非類似であって,仮に引用商標に周知・著名性があるとしてそれを考慮したとしても,本件商標は,引用商標とは構成上の差異が大きく異なり,非類似であるというのが相当である。さらに,本件商標は,被請求人のコーポレートマークとしてその独自の企業精神を表現するものであって,被請求人の業務に係る商品を明確に識別し,請求人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがあるものではない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号には該当しないものである。
第5 当審の判断
1 引用商標の著名性について
請求人の提出に係る証拠及び主張によれば,以下の事実が認められる。
(1)引用商標は,我が国においては昭和58年にスポーツシューズについて使用を開始し,その後,昭和62年からは,スポーツウェアやアパレル製品,スポーツバッグなどにも付されるようになり,平成10年には請求人のハウスマークとして使用され,平成19年以降には,請求人の全ての製品に付されるようになった(甲6?甲13,甲15?甲19,甲21,甲22,甲25,甲26,甲28?甲36等)。
(2)引用商標が使用開始された昭和58年以降,平成26年に至るまで,引用商標が付されたスポーツウェアやアパレル製品,スポーツバッグなどは多数販売され,その売上高は平成20年度以降,毎年合計で1000億円以上に達した(甲76?甲81)。
(3)昭和58年から平成26年にかけて,引用商標を付した商品は,オリンピックなどのスポーツイベントで使用され,テレビ,雑誌,新聞その他多くのメディアにおいて紹介され,また,宣伝広告されてきた(甲6?甲75,甲118?甲125)。
(4)以上より,引用商標は,請求人の業務に係る商品「スポーツシューズ,スポーツウェア,スポーツバッグ」などを表示する商標として,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,スポーツ用品に関連する商品の取引者,需要者の間に広く認識されていたものと認められる。
2 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)本件商標と引用商標の構成
ア 本件商標
本件商標は,別掲1に示すとおり,左右の上方に位置する二つの辺の端を互いに交わることのない二本の曲線で結んだ横長の図形を黒塗りしたものであるところ,その左右の辺は,左を右の7倍ほどの長さにし,それぞれがハの字型に下方に向けて広がり,図形中央下部は,キセルの雁首のように湾曲して描かれており,左上部の辺と二本の曲線とが接する部分は角が丸められている構成からなるものである。
イ 引用商標
引用商標は,別掲2及び3に示すとおり,左右の上方に位置する二つ辺と下部に位置する辺の端をそれぞれ互いに交わることのない曲線で結んだ横長の図形を黒塗りし,その中央部に逆三角形状の白抜き部分を有するものであるところ,その左右の辺は,左を右の6倍(引用商標1)又は4倍(引用商標2)ほどの長さにし,それぞれが左方向に傾斜し,底部に水平の辺を有するものであって,三つの片とそれぞれを結ぶ曲線とが接する部分は角が尖っている構成からなるものである。
ウ 本件商標と引用商標の比較
本件商標と引用商標とは,左右の上方に,左をより長くした長さの異なる二つの辺を有すること,その左右の辺の端を結ぶ曲線又は直線により図形の外形が形成されていることなどの点で共通するものであるが,構成各部分において,(ア)底部における曲線と直線の差異(辺の数の差),(イ)図形の内部における白抜き部分の有無の差,(ウ)それぞれの辺から延びる曲線の傾斜の差,(エ)右上部の辺の傾斜方向の差,(オ)左上部の辺と曲線の接する部分の角(尖っているか丸まっているかの差)の差異などを有することに加え,本件商標は,引用商標よりも縦幅が短く,本件商標と引用商標とは縦横比が相違することから,引用商標と比較して,平たい印象を受けるなどの差異を有するものである。
以上のような差異,特に,(イ)図形の内部における白抜き部分の有無を考慮すると,本件商標と引用商標とを直接対比した場合の視覚的印象は別異のものということもできる。
しかしながら,本件商標及び引用商標の全体的な構図をみると,本件商標と引用商標は,いずれも,その全体の図柄として左端に比して右端が高くなるように右上方に傾斜しており,左上部分には右上方向に傾斜している直線があり,その傾斜直線の左端から鋭角に中央下部へ延びる曲線があり,また,上記傾斜直線の右端から鋭角に左下方向へ向かうとともに,弧を描きながら湾曲して右上がりに緩やかな曲線が延びており,その曲線の終点である右上部から中央部に向けて曲線が延びている構成を有するものといえる。
そして,上部の左端から右方向に延びる直線の傾斜角度及び湾曲した部分の下から右端に向かって上方に傾斜している曲線の傾斜角度は比較的類似していること,上記湾曲部の深さの比率や傾きの度合いも類似していること,本件商標と引用商標の左側部分における,それぞれの最も厚い部分の幅はほぼ同じであることなどの点において,本件商標と引用商標とは共通するものであり,本件商標の全体的な配置や輪郭等については,引用商標(特に上側部分)と比較的高い類似性を示すものである。
(2)本件商標の指定商品と引用商標に係る商品
本件商標の指定商品は,第18類「Imitation leather;school bags;backpacks;valises;straps for skates;animal skins;umbrellas.」,第25類「Clothing;layettes(clothing);bathing suits;waterproof clothing;footwear;hats;hosiery;scarfs;gloves(clothing);sports jerseys;tee-shirts;jackets(clothing);football shoes;sandals;sports shoes.」及び第28類「Balls for games;body-building apparatus;machines for physical exercises;snowshoes;roller skates;rods for fishing;toys;archery implements;shuttlecocks;nets for sports;appliances for gymnastics;knee guards(sports articles);protective paddings(parts of sports suits);skating boots with skates attached;in-line roller skates.」(仮訳:第18類「擬革,通学用かばん,バックパック,旅行用小型手提げかばん,スケート靴用革ひも,獣皮,傘」,第25類「被服,新生児用被服,水泳着,防水加工を施した被服,履物及び運動用特殊靴,帽子,メリヤス下着・メリヤス靴下,スカーフ,手袋(被服),スポーツジャージー及び競技用ジャージー,ティーシャツ,ジャケット(被服),フットボール靴,サンダル靴及びサンダルげた,運動靴」及び第28類「ゲーム用ボール,ボディビル用具,運動用機械器具,スノーシュー,ローラースケート靴,釣りざお,おもちゃ,アーチェリー用具,シャトルコック,運動用ネット,体操用具,ひざ当て(運動用具),保護用パッド(運動用被服の部分品),スケート靴,インラインスケート」)であり,引用商標の著名性が需要者に認識されている分野であるスポーツ用品(運動用具)関連の商品を含むものである。
(3)商標の使用形態等における取引の実情
引用商標は,スポーツシャツ,スポーツジャージーなどのウェアや靴下,帽子などについて,刺繍やプリントなどによるいわゆるワンポイントマークとして付されているものも多くあること(甲12,甲17?甲19,甲25,甲28等),シューズ(運動靴)については,靴の側面に商標を付する表示形態が多く採用されていることが認められる(甲6?甲18等)。
また,そのような態様で商標を付したスポーツシャツやシューズが商品カタログやスポーツ雑誌等において紹介されており(甲7?甲12,甲15?甲19,甲22,甲25,甲28?甲32等),プロスポーツ選手等が上記の表示形態で商標が付されたスポーツシャツなどのウェアやシューズを身に付けている写真等も掲載されていること(甲10,甲15,甲18,甲20,甲24等),プロスポーツ選手等が上記の表示形態で商標が付されたスポーツシャツなどのウェアやシューズを身に付けている場面を,プロスポーツの試合会場やテレビ中継等で目にする機会も多いことなどが認められる。そして,本件商標が,その指定商品である被服,スポーツジャージー,靴下,帽子,運動靴などの商品分野において使用される場合には,ワンポイントマークとして表示される可能性が高いものということができる(甲88,甲166)。
このように,本件商標がワンポイントマークとして表示される場合などを考えると,ワンポイントマークは,比較的小さいものであるから,そもそも,そのような態様で付された商標の構成は視認しにくい場合があるといえる。また,マーク自体に詳細な図柄を表現することは容易であるとはいえないから,スポーツシャツ等に刺繍やプリントなどを施すときは,むしろその図形の輪郭全体が見る者の注意を惹き,内側における差異が目立たなくなることが十分に考えられるのであって,その全体的な配置や輪郭等が引用商標と比較的類似していることから,ワンポイントマークとして使用された場合などに,本件商標は,引用商標とより類似して認識されるとみるのが相当である。さらに,多数の商品が掲載されたカタログ等や,スポーツの試合観戦の場合などにおいては,その視認状況等を考慮すると,特に,外観において紛れる可能性が高くなるものといえる。
また,本件商標の指定商品は,「被服」を始め「帽子,メリヤス靴下,スカーフ,サンダル靴,ティーシャツ」等であり,日常的に消費される性質の商品が含まれ,スポーツ用品(運動用具)関連商品を含む本件商標が使用される商品の主たる需要者は,スポーツの愛好家を始めとして,広く一般の消費者を含むものということができる。そして,このような一般の消費者には,必ずしも商標やブランドについて正確又は詳細な知識を持たない者も多数含まれているといえ,商品の購入に際し,メーカー名やハウスマークなどについて常に注意深く確認するとは限らず,小売店の店頭などで短時間のうちに購入商品を決定するということも少なくないことからすれば,需要者が商品購入時に払う注意力は必ずしも高いものということはできない。
(4)混同を生ずるおそれについて
本件商標と引用商標は,全体的な構図として,配置や輪郭等の基本的構成を共通にするものであり,本件商標が使用される商品である被服等の商品の主たる需要者が,商標やブランドについて正確又は詳細な知識を持たない者を含む一般の消費者であり,商品の購入に際して払われる注意力はさほど高いものとはいえないことなどの実情や,引用商標が我が国において高い周知著名性を有していることなどを考慮すると,本件商標が,特にその指定商品にワンポイントマークとして使用された場合などには,これに接した需要者(一般消費者)は,それが引用商標と全体的な配置や輪郭等が類似する図形であることに着目し,本件商標における細部の形状(内側における白抜き部分の有無等)などの差異に気付かないおそれがあるといい得る。
また,引用商標は,スポーツ用品(運動用具)関連の商品分野において,請求人の商品を表示するものとして,需要者の間において著名であるところ,本件商標の指定商品には,引用商標の著名性が需要者に認識されているスポーツ用品(運動用具)関連の商品を含むものであるから,本件商標権者が本件商標をその指定商品に使用した場合には,これに接する需要者は,著名商標である引用商標を連想,想起して,当該商品が請求人又は同人と経済的,組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるものというべきである。
(5)したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。
3 むすび
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから,請求人の主張するその余の無効理由について判断するまでもなく,同法第46条第1項の規定に基づき,その登録を無効とすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 【別記】



審理終結日 2018-02-28 
結審通知日 2018-03-02 
審決日 2018-03-13 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (W182528)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小松 里美 
特許庁審判長 田中 亨子
特許庁審判官 阿曾 裕樹
平澤 芳行
登録日 2012-02-20 
代理人 熊倉 禎男 
代理人 佐竹 勝一 
代理人 松尾 和子 
代理人 井滝 裕敬 
代理人 ▲吉▼川 俊雄 
代理人 苫米地 正啓 
代理人 田中 伸一郎 
代理人 中村 稔 
代理人 藤倉 大作 
代理人 辻居 幸一 

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