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審決分類 審判 全部無効 外観類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W25
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W25
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W25
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W25
管理番号 1357834 
審判番号 無効2019-890021 
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-04-01 
確定日 2019-11-20 
事件の表示 上記当事者間の登録第5661816号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5661816号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5661816号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、平成25年10月24日に登録出願、第25類「ティーシャツ,洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,キャミソール,和服,アイマスク,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ナイトキャップ,帽子,その他の被服,リストバンド,その他の運動用特殊衣服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊靴」を指定商品として、同26年3月10日に登録査定、同年4月4日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が、スポーツシューズ、被服、バッグ等の商品に使用しているとして引用する商標は、以下の登録商標(以下、これらをまとめていうときは「引用商標」という。)であって、別掲2と同様の構成からなり、現に有効に存続しているものである。
1 登録第1716371号商標(以下「引用商標1」という。)
登録出願日:昭和55年10月17日
設定登録日:昭和59年9月26日
指定商品:第16類及び第24類に属する商標登録原簿に記載の商品(平成18年3月1日に第14類、第16類、第20類、第24類及び第28類とする指定商品の書換登録がされた後、同26年9月16日の商標権存続期間の更新登録において第16類及び第24類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品とされたもの。)
2 登録第1849612号商標(以下「引用商標2」という。)
登録出願日:昭和55年8月1日
設定登録日:昭和61年3月26日
指定商品:第9類に属する商標登録原簿に記載の商品
3 登録第1974801号商標(以下「引用商標3」という。)
登録出願日:昭和57年2月18日
設定登録日:昭和62年8月19日
指定商品:第30類及び第32類に属する商標登録原簿に記載の商品
4 登録第2091935号商標(以下「引用商標4」という。)
登録出願日:昭和59年11月12日
設定登録日:昭和63年11月30日
指定商品:第6類、第9類、第12類、第13類、第19類及び第22類に属する商標登録原簿に記載の商品
5 登録第2400549号商標(以下「引用商標5」という。)
登録出願日:昭和59年11月12日
設定登録日:平成4年4月30日
指定商品:第8類に属する商標登録原簿に記載の商品
6 登録第2428528号商標(以下「引用商標6」という。)
登録出願日:平成1年10月26日
設定登録日:平成4年6月30日
指定商品:第14類、第20類及び第24類に属する商標登録原簿に記載の商品
7 登録第2602055号商標(以下「引用商標7」という。)
登録出願日:平成3年9月30日
設定登録日:平成5年11月30日
指定商品:第21類「靴ブラシ,靴べら,靴磨き布,軽便靴クリーナー,シューツリー」、第25類「履物」、第26類「靴飾り(貴金属製のものを除く。),靴はとめ,靴ひも,靴ひも代用金具」及び第18類に属する商標登録原簿に記載の商品
8 登録第2680732号商標(以下「引用商標8」という。)
登録出願日:平成3年9月30日
設定登録日:平成6年6月29日
指定商品:「運動用保護ヘルメット,ウエイトベルト,ウエットスーツ,浮袋,エアタンク,水泳用浮き板,レギュレーター」を含む第9類に属する商標登録原簿に記載の商品、第25類「運動用特殊衣服,運動用特殊靴,仮装用衣服」、第27類「体操用マット」、「運動用具」を含む第28類に属する商標登録原簿に記載の商品及び第20類ないし第22類に属する商標登録原簿に記載の商品
9 登録第2721876号商標(以下「引用商標9」という。)
登録出願日:昭和58年10月14日
設定登録日:平成9年5月30日
指定商品:第3類及び第4類に属する商標登録原簿に記載の商品
10 登録第3328661号商標(以下「引用商標10」という。)
登録出願日:平成6年12月20日
設定登録日:平成9年7月4日
指定商品:「乗馬用具」を含む第18類に属する商標登録原簿に記載の商品

第3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、審判請求書において、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第53号証(枝番号を含む。なお、枝番号を有する証拠において、枝番号のすべてを引用する場合は、枝番号の記載を省略する。)を提出した。
1 無効事由
本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号に該当し、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。
2 具体的理由
(1)本件審判請求に至る背景
被請求人による本件商標の出願、及び本件審判請求に至る背景は、以下の事情に基づく。
ア 知財高裁判決
被請求人は、本件商標の出願前、商標登録第4994944号(以下「被請求人商標」という)(別掲3)を所有していたところ、引用商標の右上に周知著名な請求人のピューマ図形を配置した商標(以下「PUMA商標」という)との関係で商標法第4条第1項第15号及び同項第7号の該当性が争われた裁判(知財高裁平成24年(行ケ)第10454号審決取消請求事件)において、被請求人商標を無効とする知財高裁の判決(甲11)が平成25年6月27日に言い渡された(以下「平成25年判決」という)。
イ 被請求人がライセンス管理を行う日本観光商事の商標出願
前記アの裁判において被請求人との関係が明らかとなった日本観光商事株式会社は、被請求人商標が出願された後、複数の商標を出願しており、いずれも特許庁の審査・審判において拒絶されている(甲27?33、47、48)。
特許庁は、不服2008-10900号審決(甲47)及び不服2008-10902号審決(甲48)において、豚や馬のシルエット風図形を描いた当該商標はPUMA商標との関係において商標法第4条第1項第7号に該当すると判断した。
ウ PUMA商標との問題認識後に、本件商標を出願
平成25年判決が平成25年6月27日に言い渡された後、被請求人は、同年10月24日に、被請求人商標構成中の欧文字4字の「U」の部分に北海道の地形を想起させるシルエットを施した本件商標(甲1、2)と、被請求人商標構成中の熊のシルエット風図形(甲13)を別個の商標として出願した。
「KUmA」の欧文字部分を比べてみると、いずれも同じ欧文字4字が極太の線を用いて描かれているだけでなく、構成文字同士の間隔や縦横のサイズも寸分違わず、僅かに「U」の部分に北海道の地形を連想させるシルエットを施す態様において差異を有するに過ぎない。
熊のシルエット風図形部分については、全く同一である。
エ 本件商標に対する異議申立
請求人は、本件審判請求に先立ち、本件商標に対して商標法第4条第1項第15号及び同項第7号を理由とする登録異議申立を行ったところ(異議2016-900177)(審決注:「異議2014-900177」の誤記と認める。)、平成28年2月23日付異議決定において、本件商標の登録を維持する旨の決定が下された(以下「原決定」という。)(甲26)。
本件審判請求は、被請求人商標がPUMA商標との関係で無効事由に該当するとの確定した司法判断が存在し、また、被請求人がライセンス管理を行う日本観光商事株式会社名義で出願された数々の商標(被請求人商標と同一の商標を含む。)に対して同様の理由により拒絶した特許庁の確定審決があり、さらに、本件商標が被請求人商標の文字部分とほぼ同一の外観、称呼、観念を生ずるにもかかわらず、本件商標に対する上記異議申立において、特許庁がこれらと相反する判断を下したことをその背景としている。
(2)本件商標登録を無効とすべき具体的理由
ア 引用商標の周知著名性
引用商標は、本件商標の登録出願前から、我が国で発行された多数のカタログや雑誌において、Tシャツ、スウェットシャツ、帽子、スポーツシューズ等に付して掲載されており(甲6?10)、その我が国における周知著名性については、特許庁及び裁判所にて何度となく認定されている(甲11、26)。
2013年版スポーツ産業白書によると、「プーマ」ブランドの売上高は、2010年41,883百万円、2011年43,414百万円、2012年44,170百万円、2013年44,595百万円と堅調に推移し、「アスレチックウェア国内出荷金額」で3位、「サッカー・フットサルウェア国内出荷金額」で2位である(甲5の3)。
以上のとおり、引用商標は、我が国において、遅くとも1972年から今日に至るまで、幅広い商品に使用され、大々的に宣伝広告されてきたものであり、その結果、請求人の業務に係るスポーツシューズ、スポーツウェア等を表示する商標として、本件商標の出願時及び登録時に、我が国の取引者・需要者の間で周知著名性を獲得しており、さらに、引用商標の構成態様が独創的であることは、両当事者間において最早議論の余地はなく、顕著かつ公知の事実といえる。
イ 商標の同一又は類似
請求人は、引用商標を、スポーツシューズ、被服、バッグ等に使用しており(甲6?10)、我が国において商標登録している(甲3)。
本件商標と引用商標を対比してみると、外観上、その特徴は極めて酷似しており、欧文字4文字のうち、後半の「m」「A」の外観はほぼ一致している。また、本件商標の2文字目の「U」は、被請求人商標中の「U」に、その中央の空白部分に重なるように北海道の地形と思しき図形を白抜きで表したものであるところ、被請求人商標の「U」と引用商標構成中の「U」とは、ほぼ一致している。
原決定は、第2番目の「U」の欧文字に北海道の地形と思しき図形要素が加わったことで、本件商標と引用商標は外観上非類似と判断している。
しかしながら、ヒグマは北海道にしか生息せず、古くから北海道観光土産品として「木彫り熊」の置物が定番であるところ、北海道観光土産品としてのTシャツ等との関係において、熊(クマ)の称呼や観念、及び北海道の地形は本来的に自他商品識別力を発揮し得るものではない。
このため、たとえ、本件商標と被請求人商標の欧文字部分との間で、第2番目の「U」の欧文字の中央の空白部分に重なるように北海道の地形と思しき図形を白抜きで表した態様において差異を有するとしても、とりわけ、本件指定商品のうち「北海道の観光土産用の各指定商品」との関係において、当該差異が商標の類否に与える影響は極めて低いものと判断されてしかるべきである。
さらに、本件商標がワンポイントマークとして使用されたTシャツが周知著名な引用商標を付したTシャツと同じ店頭で陳列された場合、通常の注意力を有する本件商標の指定商品(以下「本件商品」という場合がある。)に係る需要者であれば、その外観の相紛らわしさ、印象の酷似性により、両商標を誤認する可能性は高いものといえる(甲53)。
また、本件商標から生ずる称呼「クマ」と引用商標から生ずる称呼「プーマ」とを対比すると、2音又は3音という短い音構成において、語頭音自体は異なるものの同じ母音(u)からなり、語尾音「マ」が一致していることから、称呼上も両商標は看者の印象・記憶に共通した印象を与える。
そうすると、引用商標の周知著名性、引用商標の書体の特徴、本件商品における取引の実情や需要者の注意力、北海道の観光土産品としての本件商標の使用事実(甲14?16、甲19?22)(当該商品との関係における本件商標の自他商品識別力)を総合的に勘案すると、第1番目及び第2番目の文字部分に相異点を有するとしても、その相異点が商標全体として看者の印象・記憶に影響を及ぼす程のものではなく、外観及び称呼における共通点を凌駕するものではないことから、両商標は類似すると判断されてしかるべきである(甲49?52)。
ウ 商品の同一又は類似
本件商品はいずれも、引用商標7、8及び10の指定商品と同一又は類似している。
また、引用商標は、本件商標の登録出願時には既に、請求人の業務に係る靴、バッグ、アクセサリー、ウェア等を表示する商標として、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されて周知・著名な商標となっているところ(甲26)、いずれも、本件商品に含まれる、あるいは本件商品と関連性が高い商品である。
不正の目的
知財高裁は、両当事者の間で被請求人商標の無効性が争われた裁判(平成25年判決。甲11)で、不正の目的を認定した。
また、前記(1)ウにおいて述べたとおりの、被請求人による本件商標の出願に至る背景がある。
経緯を時系列にみると、本件商標の採択に被請求人商標の存在や司法判断が影響していることは明らかである。
被請求人であるH2D株式会社は、被請求人商標に係る無効2010-890089号の審決取消訴訟の原告であり、その旧商号は北海道デザイン株式会社である(甲12)。
H2D株式会社は被請求人商標に対する無効審決に対し、知財高裁に審決取消訴訟を提起したが、平成25年6月27日に請求棄却の判決が言い渡された(平成25年判決。甲11)。H2D株式会社は、さらに、最高裁判所に上告及び上告受理申立をしたが、平成25年12月17日に上告棄却及び上告不受理の決定がされ(甲12)、被請求人商標の登録無効が確定した。
同判決において認定された、被請求人による引用商標に対するフリーライドの実態は上述したとおりである(甲11)。
このように、PUMA商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力にただ乗り(フリーライド)する不正な目的で採択・出願し登録を受け、被請求人は上記の事情を知りながら被請求人商標の登録を譲り受けたものとの事実認定が確定している以上、被請求人商標の欧文字部分に識別力の弱い図形要素を加え改変した本件商標の出願時において、引用商標に化体した信用・名声及び顧客吸引力にただ乗りする、あるいは、引用商標の出所表示機能を希釈化するなど、不正な目的をもって出願し、登録を受けたことは容易に推測される。
特許庁の審決においても、商標の構成自体に公序良俗を害するおそれがなくとも、周知著名な引用商標に化体した業務上の信用をフリーライドするとして、7号の適用を認めている(甲47、48)。
当該商標を出願した日本観光商事株式会社のライセンス管理を行うのが被請求人であることからすると、被請求人商標の欧文字部分を単に抽出したに過ぎない本件商標の採択、出願において、不正の目的がなかったと捉えることの方が、むしろ不自然といわざるを得ない。
オ 出所混同のおそれ
引用商標の周知著名性、引用商標の書体の特徴、本件商品における取引の実情や需要者の注意力、北海道の観光土産品としての本件商標の使用事実(当該商品との関係における本件商標の自他商品識別力)を総合的に勘案すると、第1番目及び第2番目の文字部分に相異点を有するとしても、その相異点が商標全体として看者の印象・記憶に影響を及ぼす程のものではなく、外観及び称呼における共通点を凌駕するものではないことから、両商標は類似するだけでなく、誤認混同を生ずるおそれも高いものと判断されてしかるべきである。
カ 商標法第4条第1項第11号
上述したとおり、本件商標と引用商標とは称呼及び外観において看者の印象・記憶に共通した印象を与え、本件商品と引用商標に係る指定商品とは同一又は類似する。
また、本件商品のうち、「北海道の観光土産用の各指定商品」との関係において、本件商標構成中の北海道の地形と思しき図形、及び、熊(クマ)の称呼及び観念は自他商品識別力を発揮し得ないことから、当該指定商品に使用される本件商標からは、自他商品識別標識としての明確な称呼及び観念、外観上の差異が生じない。この場合、引用商標とは明らかに類似する。
キ 商標法第4条第1項第19号
上述したとおり、本件商標と引用商標とは明らかに類似し、さらに、不正な目的をもって出願し、登録を受けたことは明らかと言わざるを得ない。
ク 商標法第4条第1項第15号
各事情を総合すると、引用商標は、請求人の商品を表示するものとして、スポーツ・アパレル関連の商品分野において、高い著名性を有していたことに照らせば、両商標の具体的構成に差異が存在するとしても、引用商標と外観において酷似し、称呼上の印象も類似していると認められる本件商標を上記商品を含む本件商標の指定商品に付して使用した場合には、また、これをワンポイントマークとして使用した場合などには、一般消費者の注意力などをも考慮すると、これに接する取引者、需要者は、顕著に表された独特な欧文字4字に着目し、周知著名となっている引用商標を連想、想起して、当該商品が請求人又は請求人との間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある者の業務に係る商品であると誤信するおそれがあるものというべきである。
ケ 商標法第4条第1項第7号
裁判事例からも明らかなとおり、当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合や、当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合においても、商標法第4条第1項第7号の適用は認められるのである。
上述したとおり、本件商標について不正な目的をもって出願し、登録を受けたことが容易に推測され、本件商標の採択、出願において、不正の目的がなかったと捉えることの方が、むしろ不自然と言わざるを得ない。
(3)結論
以上に述べたとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同項第19号、同項第15号および同項第7号に違反してされたものである。

第4 被請求人の主張
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、審判事件答弁書において、その理由を次のように述べた。
1 請求人の主張の誤り
請求人の主張は、本件商標とは構成が異なる被請求人商標の審決取消訴訟における平成25年判決の商標法第4条第1項第15号該当性の判断が、あたかも本件商標と引用商標の判断に当てはまるかのごとく論じるものであり、また、こじつけとも思える理由や誤った解釈に基づくものであって失当である。
本件商標の登録出願の経緯は、被請求人商標に係る無効審判や審決取消訴訟の経緯を踏まえ、商標の使用におけるトラブルを避けるべく、特許庁に本件商標と引用商標と類否の判断を仰いだものであり、不正の目的がないことはもとより、決して社会的妥当性を欠くものではない。
2 本件商標と引用商標の対比
(1)外観について
ア 各文字の対比について
4文字中の第1番目及び第2番目の2文字の対比を行わずに商標の同一・類似を論ずる請求人の主張は不十分なものと言わざるをえず、また、本件商標とは異なる被請求人商標の「U」の文字と平成25年判決を持ち出した主張は、結論を誤った方向に誘導しようとするものである。
第1番目と第2番目の文字を対比してみると、その違いは明らかであり、商標全体としても明確に相違する。
イ ワンポイントマークとして使用された場合について
請求人が審判請求書において印象の酷似性を主張する、本件商標と引用商標がワンポイントマークとして使用されたTシャツの図(以下「ワンポイントTシャツ図」という。)は、実際の取引場面よりもマークを殊更小さく表示したものであり、妥当ではない。
「ワンポイントTシャツ図」をみても、本件商標と引用商標の第1番目と第2番目の文字の相違点が際立ち両マークを明確に区別することができるが、店頭で並べて陳列された場合でも「ワンポイントTシャツ図」ほど小さくはならないし、購人する際にはTシャツを手にとるため、ワンポイントマークを至近距離で観察することができる。オンラインショップであるとしても、商品の写真を拡大することができるから、本件商標がワンポイントマークとして使用されたとしても、両商標が誤認されることはない。
(2)称呼及び観念について
ア 「北海道の観光土産用の各指定商品」との関係について
ツキノワグマが本州地域に生息しているようにクマは北海道以外の地域にも生息しているし、本件の指定商品は「置物」ではないから、本件商品との関係において熊(クマ)が自他商品識別力を発揮しない理由とはならない。
また、本件商標における北海道の地形は、「U」の文字の中央の空白部分に重なるように白抜きで表されたものであって、普通に用いられる方法ではなく、デザインされた特徴のある表現方法であって、自他商品識別力を発揮することは明らかである。
イ 短い音構成における語頭音の相違の影響について
「ク」と「プ」とは、「ク」の音は語韻が軽く響く清音であるのに対し、「プ」の音は明瞭で強く響く半濁音であり聴感において顕著な差異を有する。特に、2音ないし3音という短い音構成で、称呼識別上重要な役割を果たす語頭における「ク」と「プ」の差異が称呼全体に及ぼす影響は大きく、両商標が称呼上共通した印象を与えることはない。
(3)本件商標と引用商標とは、原決定の認定のとおり、外観、称呼、観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標である。
3 出所混同のおそれ
請求人の主張は、本件商標とは構成が異なる被請求人商標に関する平成25年判決の判断を持ち出したものであり妥当性を欠く。
本件商標と引用商標は、外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標であり、別異の商標というべきものであるから、本件商標を本件の指定商品に使用しても、取引者、需要者をして、引用商標又は請求人を連想、想起させることはなく、広義の混同が生じるおそれもない。
4 出願の経緯
請求人は被請求人商標に関する平成25年判決及び日本観光商事株式会社の商標登録出願を持ち出し、本件商標の登録出願の経緯が社会的相当性を欠くものと主張しているが、本件商標の登録出願の経緯はむしろ公の秩序を守るべく行われたものであって、不正の目的はないことはもとより、社会的相当性を欠くものでもない。
被請求人は、被請求人商標の平成25年判決を受け、被請求人商標のデザイン変更に着手した。デザイン変更においては、他杜の権利・利益を侵害しないよう十分配慮したが、より慎重かつ安全な商標を採用すべく、商標の類否について自己判断を避け客観的な判断を仰ぐために、特許庁に商標の登録出願を行ったのである。
被請求人は、まず本件商標の登録出願を行い、その登録が認められた後に、さらにデザインを変更した商標の登録出願を行っている。
そして、被請求人は、本件商標が引用商標を含む他人の先行登録商標と類似しないと判断され登録が認められた後に本件商標の使用を開始しているのであり、本件商標に係る被請求人の一連の行為が不正目的と評価されること自体不合理である。
このように本件商標の登録出願の経緯は決して不正の目的がないことはもとより、社会的妥当性を欠くものではなく、他社の権利・利益の侵害や商取引におけるトラブルを回避するためのものであって、公正な取引秩序を維持するための商道徳に従ったものというべきである。
また、本件商標と引用商標とは、原決定で判断されたように、そもそも外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標であって、別異の商標というべきものであるから、引用商標又は請求人を連想、想起させることもなく、引用商標に化体した信用・名声及び顧客吸引力にただ乗りする、あるいは、引用商標の出所表示機能を希釈化するなど、不正な目的をもって出願し、登録を受けたものではない。
5 商標法第4条第1項第11号該当性について
本件商標と引用商標とは、上述のとおり、外観、称呼、観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標であり、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当しない。
6 商標法第4条第1項第19号該当性について
本件商標と引用商標とは、上述のとおり、外観、称呼、観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標であり、不正の目的をもって使用するものではないため、本件商標は商標法第4条第1項第19号に該当しない。
7 商標法第4条第1項第15号該当性について
本件商標と引用商標は、上述のとおり、外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標であり、別異の商標というべきものであるから、狭義の混同はもとより広義の混同が生じるおそれはなく、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当しない。
8 商標法第4条第1項第7号該当性について
本件商標の登録出願の経緯は、上述のとおり、公の秩序を守るべく行われたものであって、社会的相当性を欠くものではないため、本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当しない。
9 結論
以上のとおり、本件商標は商標法第4条第1項第11号、同項第19号、同項第15号および同項第7号のいずれにも該当するものではない。

第5 当審の判断
請求人が本件審判を請求するにつき、利害関係について争いがないから、本案について判断する。
1 引用商標の周知著名性について
(1)請求人の主張及び提出した証拠によれば、以下の事実を認めることができる。
ア 請求人は、1948年設立のスポーツウェア等を製造販売するドイツ連邦共和国の企業で、ヨーロッパやアメリカ等にも展開する世界的な企業であって、我が国においては、1972年から、日本国内における代理店としてコサ・リーベルマン株式会社が、請求人の業務に係る商品のうち、靴、バッグ、アクセサリーについての事業を展開し、2003年5月1日に、請求人の日本法人であるプーマジャパンが同事業を承継した。
そして、ウェアについては、国内のライセンシーであるヒットユニオン株式会社が製造・販売していたが、2006年1月に、日本において引用商標を付したアパレル関連商品を生産する、請求人の日本法人であるプーマ・アパレル・ジャパンが設立され、同社がヒットユニオン株式会社から営業権を譲り受けた(甲4、5の1及び2)。2010年に、プーマ・アパレル・ジャパンとプーマジャパンは合併し、現在のプーマジャパンとなった。
イ 引用商標は、本件商標の登録出願前から我が国で発行された多数のカタログ(2008年及び2010年?2013年)や雑誌(2006年及び2009年)において、スウェットシャツ、ジャケット、スポーツシューズ等に付して掲載されている(甲6?10)。
ウ 2013年版スポーツ産業白書(甲5の3)によると、スポーツ用品メーカー(スポーツ関連売上高10億円以上)として、「プーマジャパン(株)」が6番目に記載され、該売上高は、2010年に約419億円、2011年に約434億円、2012年(見込)に約442億円、2013年(予測)に約446億円と堅調に推移し、「アスレチックウエア国内出荷金額」で3位、「サッカー・フットサルウエア国内出荷金額」で2位となっている。
(2)以上の事実によれば、次のとおり認めることができる。
請求人は、「PUmA」の文字をプーマ社のブランドとしてスポーツウェアに使用し、我が国においては、1972年から靴、バッグ、アクセサリー等について、製造・販売してきたこと、かつ、引用商標を付したスウェットシャツ、ジャケット、スポーツシューズ等を、少なくとも2006年には、雑誌において掲載してきたことが認められ、また、2010年ないし2013年における「プーマ」ブランドの売上高も堅調に推移しており、「アスレチックウエア国内出荷金額」及び「サッカー・フットサルウエア国内出荷金額」においても上位を占めているところである。
してみれば、引用商標は、本件商標の登録出願時には既に、同人の業務に係るスポーツシューズ、スポーツウェア等を表示する商標として、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されて周知・著名な商標となっており、それは本件商標の登録査定時及びそれ以降も、継続していたと認められるものである。
2 本件商標と引用商標との対比について
(1)本件商標について
ア 外観
本件商標は、別掲1のとおりの構成からなるところ、縦線を太く、横線を細くした独特の太く四角い書体で、「KUmA」の欧文字をロゴ化して(「U」の縦線の内側は、その一部をくり貫くようにして中央の空白部分に重なるように北海道の地形の一部と思しき図形を表されている。)、当該欧文字全体で略横長の長方形を構成するように表してなるものである。
イ 称呼及び観念
本件商標は、前記アのとおり、ロゴ化した「KUmA」の欧文字から構成されるものであるから、これに相応して「クマ」の称呼を生じるものである。
また、「KUmA」は辞書類に載録のない語であるところ、該文字の読みに通じる語として「熊」が親しまれたものであるといえるから、ネコ目クマ科の哺乳類である「熊」を想起し、当該観念を生じる場合があるものの、一義的ではなく、常に上記特定の観念が生じるとまではいえないものである。
(2)引用商標について
ア 外観
引用商標は、別掲2と同様の構成からなるところ、縦線を太く、横線を細くした独特の太く四角い書体で、「PUmA」の欧文字をロゴ化して、当該欧文字全体で略横長の長方形を構成するように表してなるものである。
イ 称呼及び観念
引用商標は、前記アのとおり、ロゴ化した「PUmA」の欧文字から構成されるものであるから、これに相応して「プーマ」又は「ピューマ」の称呼を生じるものである。
また、「puma」が「ネコ科の哺乳類」を意味する語(参照:「広辞苑第六版」株式会社岩波書店)であるから、引用商標の構成文字に相応して、ネコ科の哺乳類である「ピューマ」の観念を生じるものである。
(3)本件商標と引用商標との異同について
ア 外観
本件商標と引用商標とは、(a)4個の欧文字が横書きで表されている点、(b)4個の欧文字の第2文字以降が順に「U」、「m」、「A」というつづりである点、(c)各文字が、縦線を太く、横線を細く書されており、垂直方向に線を強調し、縦長の書体で表されている点、(d)文字全体が略横長の長方形を構成するようにロゴ化して表した点において共通する。
他方、本件商標と引用商標とは、(i)4個の欧文字部分の第1文字が「K」であるか「P」であるかという点、(ii)本件商標の構成文字の第2文字の「U」の内輪郭に北海道の地形の一部と思しき図形が施されている点において相違する。
イ 称呼
本件商標からは、「クマ」の称呼が生じ、引用商標からは、「プーマ」又は「ピューマ」の称呼が生じる。よって、第1音における「ク」か「プ」又は「ピュ」かの相違、長音の有無の相違があり、第1音の母音が「u」である点と第2音が「マ」であるという点が共通する。
ウ 観念
本件商標からは、ネコ目クマ科の哺乳類である「熊」の観念が生じ得るのに対し、引用商標からは、ネコ科の哺乳類である「ピューマ」の観念が生じる。よって、本件商標から「熊」の観念が生じた場合には、両商標は哺乳類の四足動物という点で共通する。
3 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標と引用商標の類否について
本件商標及び引用商標の外観、称呼及び観念は、前記2(1)及び(2)のとおりである。
そこで、本件商標と引用商標の類否について、以下検討する。
まず、両商標の外観についてみるに、前記2(3)アのとおり、共に4個の欧文字が、垂直方向に肉太で線を強調し、縦長の書体で横書きされ、それらの文字全体で略横長の長方形を構成するようにロゴ化して表されており、文字つづりも、第2文字以降が配列も含め全てを同じくするものである。そうすると、たとえ両商標の第1文字が相違し、本件商標の第2文字「U」の曲線内側部分の一部に図形が施されているとしても、両商標は、上記共通性によって生じる共通の印象、すなわち、独特な書体からなる欧文字が略横長の長方形内にはめ込まれたような態様であるとの印象をもって、これを顕著な特徴として需要者に認識させるものであるというのが相当である。したがって、両商標は、外観上酷似した印象を与えるものということができ、相紛れるおそれがあるものである。
次に、両商標の称呼についてみるに、前記2(3)イのとおり、第1音における相違があるが、第1音の母音が「u」である点と第2音が「マ」であるという点が共通するところ、全体が短い構成音数の称呼において、前半における相違が称呼全体に及ぼす影響は決して小さくはないといえる一方、後半における共通性も称呼全体に及ぼす影響が少なからず認められるといえる。よって、上記を勘案すると、両者は、称呼上全く異なるとはいえないものの、相当程度聴別し得るものである。
さらに、観念については、前記2(3)ウのとおり、本件商標から「熊」の観念が生じた場合には、両商標は哺乳類の四足動物という点で相紛れるおそれが否定できないともいい得るが、本件商標からは常に特定の観念が生じるともいい得ないものであるから、引用商標とは、観念上、比較できないものである。
以上を踏まえ検討するに、本件商標と引用商標とは、称呼において相紛れるおそれがあるとまではいえず、観念において比較できないものであるが、外観においては、その特徴的な態様が看者に強く印象づけられ、酷似した印象を与えるものであって、相紛れるおそれがあるものであるから、本件商標と引用商標の外観、称呼、観念等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合し、前述の外観上の特徴を有する引用商標の周知著名性に係る事情をも勘案して、全体的に考察すれば、両商標は、類似の商標といえるものである。
(2)本件商標の指定商品と引用商標の指定商品の類否について
本件商標の指定商品は前記第1のとおりであり、引用商標の指定商品は前記第2のとおりである。
そして、本件商標の指定商品中「履物」は、引用商標7の指定商品中、第21類「靴ブラシ,靴べら,靴磨き布,軽便靴クリーナー,シューツリー」、第25類「履物」及び第26類「靴飾り(貴金属製のものを除く。),靴はとめ,靴ひも,靴ひも代用金具」と同一又は類似するものであるといえる。
また、本件商標の指定商品中「仮装用衣服」は、引用商標8の指定商品中、第25類「仮装用衣服」と同一のものであるといえる。
さらに、本件商標の指定商品中「リストバンド」は、引用商標8の指定商品中、第9類「運動用保護ヘルメット,浮袋,水泳用浮き板」、第25類「運動用特殊衣服,運動用特殊靴」、第27類「体操用マット」及び第28類「運動用具」と同一又は類似するものであるといえる。
加えて、本件商標の指定商品中「運動用特殊衣服,運動用特殊靴」は、引用商標8の指定商品中、第9類「運動用保護ヘルメット,ウエイトベルト,ウエットスーツ,浮袋,エアタンク,水泳用浮き板,レギュレーター」、第25類「運動用特殊衣服,運動用特殊靴」、第27類「体操用マット」及び第28類「運動用具」と同一又は類似するものであるといえるほか、本件商標の指定商品中「運動用特殊靴」は、引用商標10の指定商品中「乗馬用具」とも類似するものであるといえる。
(3)小括
以上のとおり、本件商標は、引用商標と類似する商標であり、かつ、引用商標7、8及び10の指定商品と同一又は類似する商品について使用をするものであるといえるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。
4 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)本件商標と引用商標との類似性の程度
前記2(3)アのとおり、本件商標と引用商標とは、欧文字のロゴ化においてその文字を構成する線の一部が図案化されているか否かなどにおいて異なるが、縦長で肉太に表された4つの欧文字から受ける印象が近似するもので、かつ、文字全体が略横長の長方形を構成するようにロゴ化して表された点で共通の印象を与える。
したがって、本件商標と引用商標との間に外観上の差異は認められるものの、その全体の印象は、相当似通ったものであるということができる。
また、前記2(3)イ及びウのとおり、本件商標と引用商標とは、その称呼及び観念において同一ではないものの、四足動物という点で観念上の共通性が生じる場合があり、称呼上も共通性を有するから、それらにおいて全く共通性を有しない場合に比して、称呼及び観念における差異は、特徴的な態様をもって看者に強く印象づけられる上記外観における類似性を凌駕するほどの違いとまではいうことができない。
以上からすると、本件商標と引用商標とは、相当程度類似性の程度が高いものであるということができる。
(2)引用商標の周知著名性及び独創性の程度について
前記1のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時には既に、請求人の業務に係るスポーツシューズ、スポーツウェア等を表示する商標として、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されて周知・著名な商標となっており、それは本件商標の登録査定時及びそれ以降も、継続していたと認められるものである。
また、引用商標は、略横長の長方形を構成するようにロゴ化して表した独特の太く四角い書体として独創的であり、需要者に強い印象を与えるものである。
(3)混同を生ずるおそれについて
本件商標は、ティーシャツ、洋服等の被服、運動用特殊衣服、履物、運動用特殊靴等を指定商品とするところ、引用商標は、前記1(1)イのとおり、スウェットシャツ、ジャケット、スポーツシューズ等に付されてきたのであるから、本件商標の指定商品は、請求人の業務に係る商品と、その性質、用途、目的において関連するということができ、取引者、需要者にも共通性が認められる。
さらに、本件商標の指定商品である上記商品等は、一般消費者によって購入される商品である。
以上、前述の本件商標と引用商標の類似性の程度、引用商標の周知著名性及び独創性の程度に、これらの事情を総合考慮すると、本件商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、本件商標を指定商品に使用したときに、当該商品が請求人又は請求人と一定の緊密な営業上の関係若しくは請求人と同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信されるおそれがあると認められる。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
5 商標法第4条第1項第19号該当性について
前記1のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時に請求人の業務に係るスポーツシューズ、スポーツウェア等を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く認識されている商標となっており、前記3のとおり、本件商標は、引用商標と類似の商標である。
また、以下6で述べるとおり、本件商標は、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的)をもって使用をするものといわざるを得ない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
6 商標法第4条第1項第7号該当性について
本件商標は、前記3ないし5のとおり、引用商標と類似するもの又は類似性の程度の高いものであって、出所の誤認混同のおそれがあると認められるものである。
そして、請求人がスポーツシューズ、被服、バッグ等を世界的に製造販売している多国籍企業として著名であり、引用商標が請求人の業務に係る商品を表示する独創的な商標として取引者、需要者の間に広く認識され、本件商標の指定商品には引用商標が使用されている商品が含まれていることが認められる。
さらに、被請求人は日本観光商事株式会社のライセンス管理会社であるが(主張の全趣旨)、日本観光商事株式会社は、被請求人商標や欧文字4つのロゴにピューマの代わりに馬や豚を用いた商標、他の著名商標の基本的な構成を保持しながら変更を加えた商標を多数登録出願したこと(甲27?48)、商品販売について著作権侵害の警告を受けたこともあること(甲24、25)が認められる。
これらの事実を総合考慮すると、被請求人商標については、日本観光商事株式会社はPUMA商標の著名であることを知り、意図的にPUMA商標と略同様の態様による4個の欧文字を用い、PUMA商標のピューマの図形を熊の図形に置き換え、全体としてPUMA商標に酷似した構成態様に仕上げることにより、被請求人商標に接する取引者、需要者にPUMA商標を連想、想起させ、PUMA商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力にただ乗り(フリーライド)する不正な目的で採択・出願し登録を受け、被請求人は上記の事情を知りながら被請求人商標の登録を譲り受けたものと認めることができる。
そして、本件商標は、平成25年判決後に被請求人が出願し登録を受けたものであるところ、前述のとおり引用商標と類似するもの又は商標の印象が相当似通った類似性の程度が高いものであって、出所の誤認混同のおそれのあるものであるから、本件商標をその指定商品に使用する場合には、引用商標の出所表示機能が希釈化(ダイリューション)され、引用商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力、ひいては請求人の業務上の信用を毀損させるおそれがあるということができる。
そうすると、本件商標は、たとえ平成25年判決の対象となった被請求人商標に変更を加えているとしても、引用商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力に便乗して不当な利益を得る等の目的をもって引用商標の特徴を模倣して出願し登録を受けたものといわざるを得ず、商標を保護することにより、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護するという商標法の目的(商標法1条)に反するものであり、公正な取引秩序を乱し、商道徳に反するものというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
7 被請求人の主張について
被請求人は、請求人の主張は平成25年判決における判断があたかも本件商標と引用商標の類否及び混同のおそれに関する判断に当てはまるかのごとく論じるものであり失当である、本願の出願の経緯についても平成25年判決を受けて被請求人商標のデザイン変更をしたものであってむしろ公の秩序を守るべく行ったものである旨主張する。
確かに、本件商標と被請求人商標とはその構成態様が同一でないから、平成25年判決における判断を直ちに本件商標に当てはめることは妥当でないといえる。しかしながら、本件商標について検討するに、前述のとおり引用商標の特徴と共通し出所の誤認混同のおそれのあるものというのが相当である。また、本件商標は、被請求人商標と比較すると、第2文字目に北海道の地形の一部と思しき図形が施され、熊の図形が削除されてはいるものの、商標の基本的な構成要素という観点からは、被請求人商標の文字部分を未だ維持したままであって、これにより、引用商標と共通する、独特な書体で文字全体が略横長の長方形を構成するようにロゴ化して表されたものであるという顕著な特徴は失われていないといわざるを得ないものである。
また、被請求人は、本件商標がワンポイントマークとして使用された場合でも、本件商標と引用商標の第1番目と第2番目の文字の相違点が際立ち両マークを明確に区別することができるし、購入時には該マークを至近距離で確認できることなどから、引用商標と誤認されることはない旨主張する。
しかしながら、引用商標が有する周知著名性や外観上の顕著な特徴(独特な書体からなる欧文字が略横長の長方形内にはめ込まれたような態様)などを考慮すると、本件商標がワンポイントマークとして使用された場合、これに接する一般消費者たる需要者は、独特な書体からなる欧文字が略横長の長方形内にはめ込まれたような態様に目を惹かれ、当該商標を子細に確認し細部の相違を目に留めることなく引用商標と誤認するおそれがあるということができる。また、仮にその相違に目を留めたとしても、上記外観上の特徴などから、引用商標を連想、想起し、当該商品が請求人又は請求人と一定の緊密な営業上の関係若しくは請求人と同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信されるおそれがあるというべきである。
したがって、被請求人の主張は、いずれも採用することができない。

第6 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号に違反してされたものであるから、同法第46条第1項の規定により無効とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲1(本件商標)


別掲2(引用商標)


別掲3(被請求人商標)



審理終結日 2019-08-30 
結審通知日 2019-09-04 
審決日 2019-10-10 
出願番号 商願2013-83065(T2013-83065) 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (W25)
T 1 11・ 22- Z (W25)
T 1 11・ 261- Z (W25)
T 1 11・ 222- Z (W25)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岩崎 安子 
特許庁審判長 小出 浩子
特許庁審判官 木村 一弘
板谷 玲子
登録日 2014-04-04 
登録番号 商標登録第5661816号(T5661816) 
商標の称呼 クマ 
代理人 小林 基子 
代理人 三上 真毅 
代理人 佐川 慎悟 
代理人 川野 陽輔 

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