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審決分類 審判 査定不服 商3条2項 使用による自他商品の識別力 取り消して登録 W10
審判 査定不服 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 取り消して登録 W10
管理番号 1356234 
審判番号 不服2019-10386 
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-06 
確定日 2019-10-29 
事件の表示 商願2018-108289拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願商標は,登録すべきものとする。
理由 第1 本願商標
本願商標は,別掲のとおりの構成からなり,第10類「体温計」を指定商品として,平成30年8月28日に立体商標として登録出願されたものである。

第2 原査定の拒絶の理由(要点)
原査定は,「本願商標は,本体上部が丸みをもたせた長方形であって,その中央部分に液晶部分を配してなり,本体中部から下部は,当該長方形の下方から緩やかな先すぼまり状の支持部(その先端は薄い円筒部)となっている立体的形状からなるものであるところ,本願の指定商品『体温計』を扱う業界においては,本願商標と同様に本体上部が丸みをもたせた長方形であって,その中央部分に液晶部分を配してなり,本体中部から下部は,当該長方形の下方から緩やかな先すぼまり状の支持部(その先端は薄い円筒部)となっている電子体温計が,体温計の一形態として一般的に取引されている実情がある。そうすると,本願商標をその指定商品『体温計』に使用した場合,これに接する取引者・需要者は,電子体温計が一般的に採用し得る形状の一形態として認識するにとどまるから,本願商標は,単に商品の形状を普通に用いられる方法で表示したものというのが相当である。したがって,本願商標は,商標法第3条第1項第3号に該当する。また,本願商標は,提出された証拠を全体的に考察しても,本願商標が使用をされた結果,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至っているとは認められないことから,本願商標は,商標法第3条第2項に規定する要件を具備するということはできない。」旨認定,判断し,本願を拒絶したものである。

第3 当審の判断
1 商標法第3条第1項第3号該当性について
(1)商品等の形状について
ア 商品等の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,商品等の美観をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって,商品・役務の出所を表示し,自他商品・役務を識別する標識として用いられるものは少ないといえる。このように,商品等の製造者,供給者の観点からすれば,商品等の形状は,多くの場合,それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するもの,すなわち,商標としての機能を有するものとして採用するものではないといえる。また,商品等の形状を見る需要者の観点からしても,商品の形状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能や美観を際だたせるために選択されたものと認識し,出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いといえる。
そうすると,商品の形状は,多くの場合に,商品等の機能又は美観に資することを目的として採用されるものであり,そのような目的のために採用されると認められる形状は,特段の事情のない限り,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,同号に該当すると解するのが相当である。
イ また,商品等の具体的形状は,商品等の機能又は美観に資することを目的として採用されるが,一方で,当該商品の用途,性質等に基づく制約の下で,通常は,ある程度の選択の幅があるといえる。しかし,同種の商品等について,機能又は美観上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであれば,当該形状が特徴を有していたとしても,商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状として,同号に該当するものというべきである。
けだし,商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは,公益上の観点から適切でないからである。
ウ さらに,需要者において予測し得ないような斬新な形状の商品等であったとしても,当該形状が専ら商品等の機能向上の観点から選択されたものであるときには,商標法4条1項18号の趣旨を勘案すれば,商標法3条1項3号に該当するというべきである。
けだし,商品等が同種の商品等に見られない独特の形状を有する場合に,商品等の機能の観点からは発明ないし考案として,商品等の美観の観点からは意匠として,それぞれ特許法・実用新案法ないし意匠法の定める要件を備えれば,その限りおいて独占権が付与されることがあり得るが,これらの法の保護の対象になり得る形状について,商標権によって保護を与えることは,商標権は存続期間の更新を繰り返すことにより半永久的に保有する点を踏まえると,商品等の形状について,特許法,意匠法等による権利の存続期間を超えて半永久的に特定の者に独占権を認める結果を生じさせることになり,自由競争の不当な制限に当たり公益に反するからである(知財高裁平成18年(行ケ)第10555号,平成19年6月27日判決参照)。
(2)上記の観点から,本願商標が商標法第3条第1項第3号に該当するか否かを判断する。
ア 本願商標は,別掲のとおり,本体上部が丸みを持たせた隅丸矩形状であって,その中央に略長方形状の液晶部分と上端部に略楕円形状の押しボタンを配してなり,本体中央部から下部にかけては,先すぼまりに設けられた支持部となっている立体的形状からなるものである。
そして,本願商標に係る形状は,「液晶表示部の周辺部分が大きい」,「支持部の先端部分の断面が楕円形」,「液晶表示部分が隅の丸い略長方形」,「ボタンが突出しておらず本体と一体的」,「支持部が緩やかな先すぼまり」,「全体として丸みを帯びている」といった特徴を有する。
イ 本願商標に係る形状の上記特徴についていえば,「液晶表示部の周辺部分が大きい」ことは,その中に位置する液晶表示の見やすさに,「支持部の先端部分の断面が楕円形」であることは,わきにしっかりフィット又は口の中でずれにくく体温を確実に測定することにそれぞれ資するものであり,また,「液晶表示部分が隅の丸い略長方形」,「ボタンが突出しておらず本体と一体的」,「支持部が緩やかな先すぼまり」,「全体として丸みを帯びている」ことは,温かみや優しさを感じさせるフォルムを実現するためのものであり,商品の機能や美観を発揮するために採用されたものということができる。
これらによれば,上記の各特徴は,いずれも商品等の機能又は美観に資することを目的とするものというべきであり,需要者において予測可能な範囲の体温計についての特徴であるといえる。
そうすると,本願商標に係る形状は,いまだ体温計の基本的な機能又は美観を発揮させるために必要な形状の範囲内であって,体温計の機能性と美観を兼ね備えたものと評価することができるものの,これを見た需要者において当該形状をもって商品の出所を表示する標識と認識し得るものとはいえない。
してみれば,本願商標は,その指定商品「体温計」との関係においては,これに接する取引者,需要者に,単に商品の形状を表示したものと理解されるにとどまり,自他商品の識別標識とは認識されないというべきであるから,商品の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標といわざるを得ない。
したがって,本願商標は,商標法第3条第1項第3号に該当する。
2 商標法第3条第2項に規定する要件を具備するか否かについて
(1)請求人は,本願商標は,仮に,商標法第3条第1項第3号に該当するものであるとしても,長年にわたる使用実績に照らせば,指定商品との関係において,自他商品識別標識としての機能を発揮するものであることから,本願商標は,同条第2項の要件を具備しており,登録されるべき旨主張し,証拠方法として,原審において資料1ないし資料12(枝番号を含む。)を,当審において第1号証ないし第19号証(枝番号を含む。)を提出している。
なお,当審における第1号証ないし第12号証の2は,原審における資料1ないし資料12の2を援用していることから,本願商標が商標法第3条第2項に規定する要件を具備するか否かについての検討にあたり,当審における第1号証ないし第19号証を採用し,これを甲第1号証ないし甲第19号証と読みかえる。
(2)商品等の立体形状よりなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは,当該商標ないし商品の形状,使用開始時期及び使用期間,使用地域,商品の販売数量,広告宣伝のされた期間・地域及び規模,当該形状に類似した他の商品の存否などの事情を総合考慮して判断するのが相当である。
そして,商品等は,その販売等にあたって,その出所たる企業等の名称や記号・文字等からなる標章などが付されるのが通常であることに照らせば,使用に係る立体形状に,これらが付されていたという事情のみによって直ちに使用による識別力の獲得を否定することは適切ではなく,使用に係る商標ないし商品等の形状に付されていた名称・標章について,その外観,大きさ,付されていた位置,周知・著名性の程度等の点を考慮し,当該名称・標章が付されていたとしてもなお,立体形状が需要者の目につき易く,強い印象を与えるものであったか等を勘案した上で,立体形状が独立して自他商品識別機能を獲得するに至っているか否かを判断すべきである(前掲判決参照)。
上記の観点から,請求人提出の証拠の内容に照らし,本願商標が,使用をされた結果,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至っているか否かについて,以下検討する。
(3)請求人の提出に係る証拠及びその主張によれば,次の事実が認められる。
ア 請求人商品の形状,販売実績及び使用形態等について
(ア)請求人は,「液晶表示部の周辺部分が大きい」,「支持部の先端部分の断面が楕円形」,「液晶表示部分が隅の丸い略長方形」,「ボタンが突出しておらず本体と一体的」,「支持部が緩やかな先すぼまり」,「全体として丸みを帯びている」といった特徴を有する形状からなる電子体温計「MC-670」を2004年(平成16年)11月10日に発売し,その後,後継機として外観上,全体の大きさのみを小さくモデルチェンジした「MC-681」を2013年(平成25年)9月2日に発売し(以下,上記「MC-670」及び「MC-681」をまとめて「請求人商品」という。),現在まで継続して販売している(甲2の1?23,甲3,甲6の1?7ほか,甲7の3?6・7?15ほか)。
(イ)請求人は,電子体温計の分野において,2015年(平成27年)実績(数量)で43.9%のシェアを有する最大手の企業であり(甲5の1),請求人商品の販売台数は,2008年(平成20年)から2018年(平成30年)までの11年間で,約429万台であり,電子体温計の市場に占めるシェアは約7?12%であり,また,2018(平成30年)の販売シェアは8.7%であるところ,これは,電子体温計の市場全体の第2位のシェアである(全国小売店パネル調査の集計に基づく請求人の主張)。
(ウ)請求人商品には,液晶表示部の周囲の薄い灰色地の部分に,白抜きで小さく「OmROn」(「m」及び「n」は他の文字と縦の幅が同一。以下同じ。)の文字が付されているところ,当該「OmROn」の文字とそれが付された部分の色彩とが,白と薄い灰色とで明暗の差が小さいことから,「OmROn」の文字は目立つものではない(甲2?甲4ほか。)。また,請求人は,請求人商品を全国のドラッグストア,家電量販店等やオンラインショップで販売しているところ(甲4の1?14),販売の際には,ブリスターパックと呼ばれる透明プラスチックを用いたパッケージを用いて,商品の形状が目立つように,商品の周りを緑色で縁取り,商品の形状を顕著に見せる態様で販売している(甲10)。
イ 広告宣伝,新聞及び雑誌等記事について
(ア)請求人は,2004年(平成16年)から2018年(平成30年)まで,請求人商品を,カタログやウェブサイトにおいて,常に表紙やトップページ等,目立つ位置に,その形状を顕著に表示して掲載し,また,雑誌広告や販売促進のための懸賞キャンペーン等の広告宣伝を頻繁に行ってきたところ(甲2の1?22,甲3,甲6の49?62・66・67・71,甲7の54・56),当該カタログ,ウェブサイト,キャンペーン広告には,請求人商品の画像とともに,例えば「見やすい大型液晶表示」(甲2の1?5ほか),「先端が平らになった,オムロン独自のフラット形状」(甲2の14),「測定値が見やすい大型液晶表示など,使いやすさを追求したユニバーサルデザイン」(甲6の60),「デザインコンセプトは“マザーズラブ”で母親の愛情を表現しました。体調の悪いときだからこそ,ホッと心が和む人にやさしい形がたいせつだと考えました。」(甲6の61)等の請求人商品の形状自体の特徴やデザイン性に関する記載が多数ある。
(イ)請求人商品は,発売時期の2004年(平成16年)から2017年(平成29年)までの間に発行された多数の新聞(全国紙,地方紙,業界紙)及び雑誌等(子育て世代向け雑誌,高齢者向け雑誌,経済誌,男性向け雑誌,美術雑誌,デザイナー向け雑誌等)で紹介されてきたところ(甲6の1?48・68?140,甲7の1?55,甲15),当該新聞や雑誌には,顕著に表示された請求人商品の画像とともに,例えば「丸みのあるフォルムを武器に同社が電子体温計で首位に躍り出る原動力となった」(甲6の89),「体温計 ユニークさと使い勝手両立・・・必需品ほどユニークな形は敬遠されがちだが,『「測りやすい」という体温計のモノの本質をつきつめたからすごく売れている』」(甲6の94),「何より,全体の形が丸みを帯びているのがいい。もともとこの体温計は,親が子どもの体温を測る時に『優しい気分になれるデザインを』という思いから生まれたという」(甲6の100),「・・・ユーザーが何の違和感もなくふと手を伸ばして触れてみたくなるような,『そのまま自然に生まれてきたような形を追求した』という。」(甲6の103),「これまでの体温計のかたちにとらわれず,使いやすさの原点に立ち戻ってデザインされている。」(甲6の105),「『けんおんくん MC-670』のデザイン性が高く評価されたことで,これまであまりデザインの観点から語られることの少なかった医療機器にも,デザインの目が向けられたように思う。」(甲6の108),「・・・この体温計を,薬局で見かけた人も多いだろう。メジャーなものをあえて取り上げたのは,日本のプロダクトデザインの進化に目を向けさせてくれた製品だからだ。・・・体温計の役割と使い勝手を考え抜き,柔軟な発想でまったく新しい形状を生み出した。」(甲6の115),「体調の悪い時の不安を温かく包みこむ,愛情のこもったデザインだ。コンビニなどでも販売される,広く普及したプロダクト。」(甲6の117)「優しい形状は『お母さん』からイメージした。」(甲6の125・129),「・・・13年にはモデルチェンジをしましたが,形のイメージはほぼそのまま。通常,工業製品の開発では新商品は新しいデザインで登場します。しかし,この『けんおんくん』は最初の発売から10年経った今でも同じ姿で存在しています。・・・9年間の累計販売台数は680万本以上・・・柔らかな形状と大きな表示,平らな先端部で,体温計のイメージを刷新した。」(甲7の44),「デザインと機能が両立した日本が誇る電子体温計」(甲7の51)等,請求人商品の形状自体の特徴やデザイン性に関する記載が多数あり,また,請求人商品の需要者への普及度に関する記載も見られる。
ウ デザインに関する書籍及び美術の教科書への掲載について
(ア)請求人商品は,デザインに関する書籍「つづく/を/つくる/ロングライフデザインの秘密」(2019年(令和元年)6月24日,日経BP発行)において,「ロングライフデザイン」の商品の代表例として掲載されたところ,当該書籍においては,請求人商品が顕著に表示され,「・・・ますます製品へデザイン意識を取り入れ,これまでの体温計への革新に挑み,そして,プロダクトデザイナーの柴田文江さんにより実を結ぶように出来上がります・・・ロングセラーの秘訣は,会社全体がもつ『デザイン意識』であり・・・デザインは果実のように会社から実るもの。この体温計を見ていて,そう思うのです。」のように紹介された(甲17の1)。
請求人商品は,デザインに関する書籍「見る!知る!考える!/ユニバーサルデザインがほんとうにわかる本1(「1」は丸付き数字)もののユニバーサルデザイン」(2017年(平成29年)11月30日,株式会社六耀社発行)において,医療関係の「ユニバーサルデザイン」の商品の代表例として掲載されたところ,当該書籍においては,請求人商品の画像が顕著に表示され,各部分について「先がとがっていない。」,「平たいかたちで,わきにはさみやすく,ずれにくい」,「表示の文字が大きく見やすい。」等の説明付きで紹介された(甲17の2)。
(イ)請求人商品は,中学校の美術の教科書「美術2・3」(文部科学省検定済教科書,平成29年2月5日,光村図書出版株式会社発行)において,「みんなのためのデザイン」の見出しの下,「ユニバーサルデザイン」の商品の代表例として掲載されたところ,当該教科書においては,請求人商品の画像が顕著に表示され,「電子体温計/・・・長さ12.5cm 2004年/柴田文江・・・温度を感じる部分が大きく平らで,子供の脇にも挟みやすい。液晶部分は大きく,数値が読みやすい。」のように紹介された(甲7の49,甲17の3)。
エ 受賞歴
(ア)請求人商品は,2004年(平成16年),2013年(平成25年)に公益財団法人日本デザイン振興会の主催する「グッドデザイン賞」を,2015年(平成27年)には,広く使用者や生活者から支持を得ている商品やサービスで,審査が行われる時点で10年以上継続的に提供され,また,それ以降も継続して提供されると想定できるものであって,広く一般のユーザーより推薦されたデザインを対象とする「グッドデザイン・ロングライフデザイン賞」を受賞したところ,当該各事実を示すウェブサイトにおいては,請求人商品が顕著に表示されるとともに,例えば,「デザインのポイント」として「1.機能性を考慮した先端部がユニークなフォルム/2.手になじむ,愛着感のあるカタチ」(甲8の1),「審査委員の評価」として「独自に確立したデザイン軸はそのままに,製品が人に近づくための進化を適切に歩んでいると評価した。・・・前の機種は,機器にユーザーとの全く新しい関係性を宿し社会に与える影響が大きいデザインであった。」(甲8の3),「受賞対象の概要」として「平らな先端にぽってりとした柔らかなフォルム。四角く,シャープな体温計とは明らかに違うユニークな形は,体温計の基本機能である『測ること』と『伝えること』を追求した形。はさみやすい平らな感温部,見やすい大型液晶,手になじむ丸みのある本体などにご好評をいただき,2004年11月の発売以来,シリーズ累計で770万台以上を販売。」(甲8の4)のように,いずれも,請求人商品の形状自体の特徴やデザイン性に関する記載がある。
(イ)請求人商品は,公益社団法人日本インダストリアルデザイナー協会が運営する「JIDAデザインミュージアムセレクション」(2004年度(平成16年度))にも選定されたところ(甲8の6),当該事実を示すウェブサイトや雑誌記事等においては,請求人商品が顕著に表示されるとともに,「電子体温計のデザインは完成されていると思っていたら,斬新なデザインが出現した。」(甲8の6),「全体的に丸みを帯びたMC-670のデザインは,これまでの体温計の常識を覆す形状で,やわらかく,暖かな印象を与える。」(甲6の81),「MC-670は,従来品の3倍近い平たい感温部を持ち,本体も手になじみやすい丸みを持つ。」(甲6の89)のように,請求人商品の形状自体の特徴やデザイン性に関する記載がある。
(ウ)請求人商品は,国際的には,2007年(平成19年)に「iFデザイン賞」で最高位の金賞を受賞し(甲8の7・8),2008年(平成20年)には国際的なプロダクトデザイン賞である「レッドドット・デザイン賞」を受賞した(甲8の9・10)ところ,当該事実は我が国の雑誌等でも報道され(甲6の106?109),それら記事においては,請求人商品が顕著に表示されるとともに,「オムロンの電子体温計が世界シェア18%を有する背景には,使いやすいユニバーサルデザインがある。その代表格がドイツで07年IFデザイン賞 金賞・・・」(甲6の106),「見やすいよう大型液晶表示を採用。柴田文江氏がデザイン。」(甲6の107)のように,請求人商品の形状自体の特徴やデザイン性に関する記載がある。
オ 需要者の認識
株式会社インテージが,自宅に電子体温計を保有かつ年に1回以上使用する全国の20歳から69歳の男女1000人を対象として,2019年(令和元年)6月28日ないし同年7月1日に実施したインターネットによるアンケート調査によれば,本願商標を示して「この商品形状の電子体温計を見たことがあるか」という問いに対し,77%が「見たことがある」と回答し,「見たことがある」と回答した人に,「この商品形状から思い浮かぶ電子体温計の『メーカー名』又は『商品名』」を自由回答させたところ,60%が請求人を示す「オムロン」又は請求人商品の電子体温計のシリーズ名である「けんおんくん」と回答した(甲19)。
カ 模倣品への対応
請求人は,国内外において,請求人商品に類似した形状の他社の電子体温計に対して,警告や侵害訴訟を提起する等の法的措置を採っており,例えば,中国において請求人商品の形状の特徴を備えた模倣品が発見された際には,中国当局に働きかけ,模倣品の生産設備の破棄に成功した(甲12の2)。
キ 請求人商品の形状に類似した他の商品の存否
当審における職権調査によれば,上記(3)ア(ア)に記載した,「液晶表示部の周辺部分が大きい」,「支持部の先端部分の断面が楕円形」,「液晶表示部分が隅の丸い略長方形」,「ボタンが突出しておらず本体と一体的」,「支持部が緩やかな先すぼまり」,「全体として丸みを帯びている」等の各特徴を全て備えた電子体温計は,請求人商品以外に存在しない。
(4)判断
ア 上記(3)ア(ア)及び(イ)によれば,請求人商品の形状は,「液晶表示部の周辺部分が大きい」,「支持部の先端部分の断面が楕円形」,「液晶表示部分が隅の丸い略長方形」,「ボタンが突出しておらず本体と一体的」,「支持部が緩やかな先すぼまり」,「全体として丸みを帯びている」等の特徴を有するものであって,本願商標の形状と近似することから,本願商標と同一性を損なわないものと認められる。
そして,請求人は,本願商標の形状と同一性を損なわない形状からなる請求人商品を,2004年(平成16年)に発売して以来,約15年間,形状を変更することなく,一貫して同一の形状の商品を販売してきた。また,請求人商品の販売台数は,2008年(平成20年)から2018年(平成30年)までの11年間で,約429万台であり,電子体温計の市場に占めるシェアは約7?12%であり,2018(平成30年)の販売シェアは8.7%であるところ,これは,電子体温計の市場全体の第2位のシェアであるとされる。
イ 上記(3)ア(ウ)によれば,請求人商品には,液晶表示部の周囲の薄い灰色地の部分に,白抜きで小さく「OmROn」の文字が付されているところ,当該「OmROn」の文字とそれが付された部分の色彩とが,白と薄い灰色とで明暗の差が小さいこと,当該文字が付された部分は,請求人商品全体から見ると小さな部分であることから,当該文字は目立つものではない。
また,請求人は,請求人商品を全国のドラッグストア,家電量販店等やオンラインショップで販売しているところ,販売の際には,透明プラスチックを用いたパッケージを用いて,商品の形状が目立つように,商品の周りを緑色で縁取り,商品の形状を顕著に見せる態様で販売していることから,請求人商品の形状を需要者に印象づける態様で販売が行われているものと認められる。
ウ 上記(3)イによれば,請求人は,2004年(平成16年)から2018年(平成30年)まで,請求人商品について,カタログ,ウェブサイト,雑誌広告や販売促進のための懸賞キャンペーン等の広告宣伝を頻繁に行ってきたところ,当該カタログ等においては,請求人商品の形状を表紙等に顕著に表示し,請求人商品の形状自体の特徴やデザイン性に関する記事を多数掲載してきたことから,請求人は,請求人商品を請求人の代表的な商品として位置づけ,その機能性のみならず,デザイン性を強調し,請求人商品の形状自体を需要者に印象づける広告宣伝を行ってきたといえる。
また,請求人商品は,発売時期の2004年(平成16年)から2017年(平成29年)までの間に発行された多数の新聞(全国紙,地方紙,業界紙)及び雑誌等で紹介されてきたところ,雑誌については,子育て世代向け雑誌や高齢者向け雑誌のみならず,経済誌,男性向け雑誌,美術雑誌,デザイナー向け雑誌等でも紹介されてきた。
そして,当該新聞や雑誌には,顕著に表示された請求人商品の画像とともに,請求人商品の形状が同種商品に見られないデザインである旨の記載が多数あり,また,「この体温計を,薬局で見かけた人も多いだろう。」,「コンビニなどでも販売される,広く普及したプロダクト。」のように,請求人商品が需要者の間に普及していることを示す記載も見られることから,請求人商品は,その形状が従来の電子体温計に見られないものとして,幅広い層の需要者を対象に頻繁に紹介され,需要者の関心を集めてきたものと認められる。
エ 上記(3)ウによれば,請求人商品は,2017年(平成29年)2月から2019年(令和元年)6月の間に発行されたデザインに関する書籍や中学校の美術の教科書において,「ロングライフデザイン」又は「ユニバーサルデザイン」の商品の代表例として紹介されたところ,当該書籍や教科書においては,いずれにおいても,請求人商品の画像が顕著に表示され,請求人商品のデザインの優秀性が紹介されていることから,請求人商品は,使いやすさ等と関連した優秀なデザインが施された商品の代表格として,デザイン関連の業界や美術教育の分野においても評価されているものと認められる。
オ 上記(3)エによれば,請求人商品は,2004年(平成16年)及び2013年(平成25年)に「グッドデザイン賞」を,2015年(平成27年)には,「グッドデザイン・ロングライフデザイン賞」を受賞したほか,2004年度(平成16年度)には,「JIDAデザインミュージアムセレクション」に選定され,国際的にも,2007年(平成19年)に「iFデザイン賞」で最高位の金賞を受賞し,2008年(平成20年)には「レッドドット・デザイン賞」を受賞したところ,当該事実を示すウェブサイト等の記載からすれば,これらの受賞は,請求人商品の形状が,従来の電子体温計に見られないものとして,使いやすいデザイン性が高く評価され,また,10年以上継続的に提供され,広く使用者や生活者から支持を得ている商品としても評価されたものと認められる。
カ 上記(3)オによれば,株式会社インテージが2019年(令和元年)6月28日ないし同年7月1日に実施した電子体温計の認知に関するアンケート調査では,本願商標の形状から,60%が請求人を示す「オムロン」又は請求人商品の電子体温計のシリーズ名である「けんおんくん」と回答したことから,2004年(平成16年)の販売開始から約15年を経過した時点においては,相当に高い割合の電子体温計のユーザーが,請求人商品の形状のみによって,それが請求人に係る商品であることを理解することができたものと認めることができる。
ク 上記(3)カ及びキによれば,請求人は,国内外において,請求人商品に類似した形状の他社の電子体温計に対して,警告や侵害訴訟を提起する等の法的措置を採っており,その結果,請求人商品の形状の各特徴を全て備えた,類似の商品は市場において販売されていない。
ケ 小括
以上のとおり,請求人商品は,(ア)2004年(平成16年)の発売以来,約15年間,一貫して同一の形状を維持していること,(イ)2018(平成30年)の電子体温計の市場シェアは第2位であること,(ウ)請求人商品の形状を需要者に印象づける態様で販売が行われてきたこと,(エ)長期間にわたって,請求人の代表的な商品として,その機能性のみならず,デザイン性を強調し,その形状自体を需要者に印象づける広告宣伝が行われてきたこと,(オ)新聞,雑誌等において,その形状が従来の電子体温計に見られないものとして,幅広い層の需要者を対象に頻繁に紹介され,需要者の関心を集めてきたこと,(カ)デザイン関連の書籍や美術の教科書において,使いやすさ等と関連した優秀なデザインが施された商品の代表格として,紹介され,評価されていること,(キ)国内外のデザインに関する賞を多数受賞したその理由は,請求人商品の形状について,使いやすいデザイン性が高く評価され,また,10年以上継続的に提供され,広く使用者や生活者から支持を得ている商品としても評価されたと認められること,(ク)2019年(令和元年)に実施したアンケート調査では,相当に高い割合で電子体温計のユーザーが,請求人商品の形状のみによって,それが請求人に係る商品であることを理解することができたと認められること,(ケ)請求人による模倣品対策の取り組みの結果,請求人商品の形状の各特徴を全て備えた,類似の商品は市場において販売されていないと認められることからすれば,請求人商品は,需要者をして商品の形状を他社製品と区別する指標として認識するに至っているものと解すべきである。
そして,請求人商品に「OmROn」の文字が付されていることは,上記認定の態様に照らせば,請求人商品の形状が自他商品識別機能を獲得していると認める上での妨げとなるものとはいえない。
そうすると,請求人商品の形状と同一性を損なわない形状からなる本願商標は,その指定商品「体温計」について,請求人により,長年の間,継続的に使用をされた結果,形状それ自体によって,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至ったというのが相当である。
したがって,本願商標は,使用により自他商品識別力を獲得したものとして,商標法第3条第2項により商標登録を受けることができるものである。
3 まとめ
以上のとおり,本願商標は,商標法第3条第1項第3号に該当するものの,同条第2項の規定により商標登録を受けることができるものであるから,原査定は,取消しを免れない。
その他,本願について拒絶の理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 別掲 本願商標(縮尺については,原本を参照。)



審決日 2019-10-16 
出願番号 商願2018-108289(T2018-108289) 
審決分類 T 1 8・ 17- WY (W10)
T 1 8・ 13- WY (W10)
最終処分 成立 
前審関与審査官 安達 輝幸伊藤 文華小林 裕子 
特許庁審判長 榎本 政実
特許庁審判官 渡邉 あおい
平澤 芳行
代理人 市川 久美子 
代理人 山田 卓二 
代理人 田中 陽介 
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