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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない W26
管理番号 1355038 
審判番号 取消2016-300666 
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2016-09-26 
確定日 2019-09-19 
事件の表示 上記当事者間の登録第5614489号商標の登録取消審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5614489号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1のとおりの構成からなり,平成25年5月1日に登録出願,第26類「つけかつら,頭飾品,ヘアネット,ヘアピン,ヘアバンド,髪止め,元結」及び第16類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品を指定商品として,同年9月13日に設定登録されたものである。
そして,本件審判の請求の登録日は,平成28年10月14日である。

第2 請求人の主張
請求人は,商標法第50条第1項の規定により,本件商標の指定商品中,第26類「全指定商品」についての登録を取り消す,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第3号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は,その指定商品中,第26類「全指定商品」について,継続して3年以上日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから,商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
(1)販促用付箋紙(乙1),本件商標権者に係る名刺(乙2)及び本件商標権者に係るパンフレット(乙8)の使用商標は,本件商標と社会通念上同一ではないこと
ア 本件商標と販促用付箋紙(乙1。以下「本件付箋紙」という。)の使用商標(別掲2。以下「本件使用商標1」という。)とは,それぞれ右下に配された文字の2行目が,本件商標が「いつもお客さまの気持ちと」であるのに対し,本件使用商標1では「いつも患者さまの気持ちと」になっており,構成する文章が異なる。
イ 本件商標と本件商標権者に係る名刺(乙2。以下「本件名刺」という。)の使用商標(別掲3。以下「本件使用商標2」という。)とは,本件商標は,キャラクターを表す絵柄(以下「本件商標キャラクター」という。)の右側に,片仮名「ウィッギー」,英文字「Wiggy」,「両腕に抱えたハートは,/いつもお客さまの気持ちと/共にあることを表しています。」の文章を3段に並べて配しているが,本件使用商標2は,キャラクターを表す絵柄の右側に,白い吹出しで「スヴェンソンは,患者さまの『どうしよう・・・』を/ひたすらこまやかに考える会社です。」との文章を配し,その下の左側に片仮名「[ウィッギー]」と英文字「Wiggy」を,右側に「スヴェンソンの公式キャラクター。両腕に抱えたハートは,いつも患者/さまの気持ちと共にあることを表しています。患者さまの『うれしい』/という気持ちから生まれたウィッグの妖精です。」の文章を3段に並べて配した構成となっている。
両者を比較すると,本件使用商標2は,キャラクターを表す絵柄の右側に,白地の吹出しとともに文章が配されている点,右下に配した文章に本件商標には無い「スヴェンソンの公式キャラクター。」,「患者さまの『うれしい』/という気持ちから生まれたウィッグの妖精です。」を有する点,及び,文章において本件商標が「お客さま」の語を用いるのに対し,本件使用商標2では「患者/さま」を用いている点で,本件商標と相違する。
ウ 本件商標と本件商標権者に係るパンフレット(乙8。以下「本件パンフレット」という。)の使用商標(別掲4。以下「本件使用商標3」という。)とは,本件商標では,キャラクターを表す絵柄の目を開けて瞳がはっきりと描かれているのに対し,本件使用商標3の左側の絵柄では瞳を閉じているような表情になっている点が相違する。そして,絵柄の右側には,本件商標では,片仮名「ウィッギー」,英文字「Wiggy」,「両腕に抱えたハートは,/いつもお客さまの気持ちと/共にあることを表しています。」の文章を3段に並べて配しているのに対し,本件使用商標3では,1行目に「Wiggy(ウィッギー) プロフィール」,2?4行目に「スヴェンソンのウィッグを使用した,患者さまの『嬉しい』という気持ちから生まれた,体がウィッグの形/をした妖精です。つねに患者さま目線で,患者さまにとってこれは『イイ!』と思った時に登場します。/両腕に抱えたハートはいつも患者さまの気持ちと共にあることを表しています。」との文章を3段に並べて配しており,両者を比較すると,キャラクターの絵柄における瞳の様子,「Wiggy」と「ウィッギー」の記載態様,「プロフィール」の語の有無,「スヴェンソンのウィッグを使用した,患者さまの『嬉しい』という気持ちから生まれた,体がウィッグの形/をした妖精です。つねに患者さま目線で,患者さまにとってこれは『イイ!』と思った時に登場します。」の記載の有無,「お客さま」が「患者さま」となっている点という多数の相違点が存在する。
エ 本件商標と本件使用商標1ないし3との対比
(ア)本件使用商標1について
本件使用商標1は,上記アのとおり,本件商標と構成中の文章が異なっている。
そのため,本件商標と本件使用商標1とでは,右下に配された3段の文章から生ずる称呼が異なっている。また,「お客さま」と「患者さま」は意味が異なる単語であるところ,「お客さま」の気持ちか「患者さま」の気持ちかではその意味するところも異なるため,本件商標と本件使用商標1とは観念も相違する。
したがって,本件使用商標1は,本件商標と社会通念上同一の商標には当たらない。
(イ)本件使用商標2について
本件使用商標2は,上記イのとおり,本件商標には無い吹出し部分とその中の文章が追加されるだけでなく,本件商標の右下に配した文章の前後に文章が加えられているほか,本件使用商標1と同様に本件商標では「お客さま」であった部分が「患者さま」になっている。
本件使用商標2は,キャラクターを表した絵柄とともに,この絵柄に関連づけて吹出しやキャラクターの説明が右側に配されていること,吹出しの上部及びその下側の文章の下端がキャラクターの絵柄の上端,下端と揃った位置に配置されていること,吹出しの左右両端が「Wiggy」の左端及び3段に配された「スヴェンソンの公式キャラクター。」から始まる文章の右端と揃っていることからすると,左側のキャラクターの絵柄と右側の文字部分を分離することはできるものではなく,全体が一体の標章であることは明らかである。
その上で,本件使用商標2は,本件商標に対して上記イのとおりの違いを有しており,本件使用商標2から生ずる称呼,観念のみならず,その外観も本件商標と大きく異なっている。
したがって,本件使用商標2は,本件商標と社会通念上同一の商標には当たらない。
(ウ)本件使用商標3について
本件使用商標3は,絵柄の瞳部分に違いがあるだけでなく,本件商標には無い「プロフィール」の語や,右側における文章に「スヴェンソンのウィッグを使用した,患者さまの『嬉しい』という気持ちから生まれた,体がウィッグの形/をした妖精です。つねに患者さま目線で,患者さまにとってこれは『イイ!』と思った時に登場します。」の記載が付加されているほか,本件商標では「お客さま」であった部分が「患者さま」になっている。
以上のように,本件使用商標3から一部を取り出して本件商標と対比することは許されず,本件商標は背景が白となっている部分全体と対比されなければならない。
その上で,本件使用商標3は本件商標に対して,大きな違いを有しているため,本件使用商標3はその外観,称呼及び観念の全てが本件商標と大きく異なる。
したがって,本件使用商標3は,本件商標と社会通念上同一の商標には当たらない。
(2)本件付箋紙(乙1),本件名刺(乙2)及び本件パンフレット(乙8)は本件審判の請求に係る指定商品に関する広告(商標法第2条第3項第8号)に該当しないこと
ア 本件付箋紙について
本件付箋紙は,本件商標の指定商品とは無関係の商品「付箋紙」であり,本件付箋紙が販促品であるからといって,直ちに商標法第2条第3項第8号にいう「商品・・・に関する広告」に当たるものではない。
同号には「商品・・・に関する」と規定されているように,広告中に商品との具体的関連性が示されていなければならず,この商品との具体的関連性がなければ商品についての商標の使用があるとはいえない。
本件付箋紙は,1枚目の付箋紙の表紙部分に男性が女性の髪をハサミで切る様子の絵柄や,2枚目の左側には「昼間はスヴェンソンの各サロン」,「髪のお手入れはもちろん,ヘアアクセやアレンジもそんじょそこらのウィッグに負けません!」の文字があり,髪に関するサービスの提供やサロン運営をしていることがうかがえる。その一方で,被請求人が主張するような指定商品「つけかつら」の広告であると主張する論拠となり得る内容,例えば商品の種類・品目,商品名,商品写真,価格等について何ら記載が無く,商品「つけかつら」との具体的関連性が全く見えない。
こうした記載内容からすると,本件付箋紙は,スヴェンソンという企業自体の広告であるか,同企業が提供していると思われる「散髪」や「美容」に関する役務の広告であるにすぎない。
したがって,本件付箋紙は,本件審判の請求に係る指定商品に関する広告に該当しない。
イ 本件名刺について
本件名刺は,その裏面に「必要なことをとことん考えたウィッグ」の記載があるものの,指定商品「つけかつら」の広告であると主張する論拠となり得る内容,例えば商品の種類・品目,商品名,商品写真,価格等について何ら記載が無く,商品との具体的関連性が全く示されていない。その一方で「脱毛?発毛まで/お困りごとに応えるサービス」や「本音で話せる!/いろいろ聞ける/情報交換会&勉強会」とあることから,本件名刺からは髪やウィッグ,美容に関する役務の提供,及びこれらについてのイベント・セミナーに関する役務を提供していることがうかがえる程度である。
所属先の企業を示すという名刺の性質や,この名刺の記載内容からすると,本件名刺は,スヴェンソンという企業の広告であるか,せいぜい同企業が提供していると思われる役務である「散髪」,「美容」,「かつら」に関する各種役務や,イベント,セミナーの開催といった役務についての広告であるにすぎない。
したがって,本件名刺は,本件審判の請求に係る指定商品に関する広告に該当しない。
ウ 本件パンフレットについて
本件パンフレットには,本件審判の請求に係る指定商品についての具体的な記載,例えば商品の種類・品目・型番,商品名,商品写真,価格等の商品説明について何ら記載が無く,商品との具体的関連性が全く示されていない。
その一方で表紙に「スヴェンソンの解決策」,他の頁にて患者からのアンケート結果,エピソード紹介や,「スヴェンソンはイベントやセミナーを通じて患者さまが気軽に立ち寄れるコミュニティサロンを目指しています。」と記載して,各種イベント,セミナーについて写真や利用者の感想を掲載している。こうした本件パンフレットからは,本件商標権者が髪やウィッグ,リハビリ,ヘルスケア,美容に関する役務や情報の提供をしていること,及びこれらに関するイベント・セミナーの開催といった役務を提供していることがうかがえる程度である。
また,医療従事者向けのガイドという本件パンフレットの性質やその記載内容からすると,本件パンフレットは,スヴェンソンという企業の広告であるか,せいぜい同企業が提供している各種役務についての広告であるにすぎない。
したがって,本件パンフレットは,本件審判の請求に係る指定商品の「商品・・・に関する広告」に該当しない。
エ 本件使用商標1ないし3は商標的機能を果たしていないこと
本件使用商標1ないし3におけるキャラクターの絵柄と文章は,いずれも「Wiggy(ウィッギー)」というキャラクターの名称,由来,設定の内容を説明しているにすぎず,商品について具体的に言及していないため,これに接した需要者は描かれたキャラクターについての説明としか認識しない。
また,本件付箋紙,本件名刺及び本件パンフレットは,「スヴェンソン」という本件商標権者の名称が出てくるのみであり,本件審判の請求に係る指定商品の説明,写真,型番等の具体的な商品とのつながりを有する内容は一切登場しないため,具体的な商品との関連性が非常に低い。
そうすると,本件付箋紙,本件名刺及び本件パンフレットに接した需要者は,本件使用商標1ないし3を商品の出所表示あるいは自他商品の識別標識とは認識しない。
したがって,本件使用商標1ないし3が出所表示標識としての機能及び自己の業務に係る商品と他人の業務に係る商品とを識別する標識としての機能を有していないことから,本件使用商標1ないし3は商標的に使用されたものとはいえないことは明らかである。
3 結語
以上のとおりであるから,被請求人(本件商標権者)は,本件審判の請求の登録前3年以内(以下「本件要証期間内」という。)に日本国内において,その請求に係る指定商品について本件商標の使用をしていない。

第3 被請求人の答弁
被請求人は,結論同旨の審決を求めると答弁し,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第24号証を提出した。
1 本件商標
本件商標は,左にキャラクターを模した絵柄を配し,右上に「ウィッギー」及び「Wiggy」の文字を配し,右下に「両腕に抱えたハートは,/いつもお客さまの気持ちと/共にあることを表しています。」の文字を点線上に沿って3段に配している。本件商標の左に配されたキャラクターの絵柄は,縦長楕円状で下部分が裾広がりで下端が波のようにうねった,ウィッグを模した茶系の輪郭領域が表示され,この輪郭領域内の中央やや上に,下面がやや平らで上面が丸く膨らんだ饅頭型の枠が表示され,当該枠内に人の目,鼻,口が配され,さらに枠内には人のほほを表すように,僅かにピンクが配されている。さらに,このキャラクターの絵柄には,輪郭領域の左上にリボンを模したピンクの絵柄が表示され,輪郭領域内の中央やや下には,ハートを両手で抱えたかのような絵柄が表示されている。
本件商標の右上の文字は,「Wiggy」の「i」の点がハートで表されており,当該文字の「ggy」上に,「Wiggy」の文字よりも小さい「ウィッギー」の文字が横長楕円内に配された構成を有している。
また,本件商標の右下に配された「両腕に抱えたハートは,/いつもお客さまの気持ちと/共にあることを表しています。」の文字は,やや丸みのある文字書体で表され,右上に配された「ウィッギー」の文字とほぼ同じ大きさで表示されている。
2 使用商標
(1)本件付箋紙(乙1)について
本件付箋紙には,見開きの内左紙面に,左にキャラクターを模した絵柄を配し,右上に「ウィッギー」及び「Wiggy」の文字を配し,さらに,右下に「両腕に抱えたハートは,/いつも患者さまの気持ちと/共にあることを表しています。」の文字を点線上に沿って3段に配している(本件使用商標1)。
本件使用商標1は,本件商標が同じ態様で表示されているものの,左に配されたハートの絵柄から,右下に配された「両腕に抱えたハートは,」の文字先頭までピンクのラインが引かれている点で相違している。
また,本件商標には,右下の2段目において「いつもお客さまの気持ちと」と配され,本件使用商標1は,右下の2段目に「いつも患者さまの気持ちと」と配置されており,前者が「お客さま」と,後者が「患者さま」と,表されている。
しかしながら,本件使用商標1は,本件商標の基本的外観と同じ態様が表示されており,それぞれの構成が強く印象・記憶されて,商取引の実際においての取引指標に資されるもの,すなわち,いずれもが自他商品の識別標識としての機能を果たす主要部である。
してみると,本件商標と本件使用商標1とを全体的に比較すれば,「左に配されたハートの絵柄から,右下に配された「両腕に抱えたハートは,」の文字先頭まで引かれたピンクのライン」の有無や,右下の2段目「お客さま」及び「患者さま」の文字に差異を有するとしても,商取引の実際においては登録商標の態様について少なからぬ変更が加えられて使用されるものであることを考慮に入れてみれば,両者の差異が自他商品の識別標識としての機能を果たす主要構成について,その本質(出所表示機能)を損なうほどのものとするのは困難であるから,本件商標と本件使用商標1とは,社会通念上同一のものである。
(2)本件名刺(乙2)について
本件名刺には,その裏面に,左にキャラクターを模した絵柄を配し,右上に「スヴェンソンは,患者さまの『どうしよう…』を/ひたすらこまやかに考える会社です。」の文字を横長楕円枠内に2段に配して吹き出し風に表示し,さらに,右下に「ウィッギー」及び「Wiggy」の文字を配し,その文字の右に「スヴェンソンの公式キャラクター。両腕に抱えたハートは,いつも患者/さまの気持ちと共にあることを表しています。患者さまの『うれしい』/という気持ちから生まれたウィッグの妖精です。」の文字を3段に配している(本件使用商標2)。
そこで,本件商標と本件使用商標2とが相互に社会通念上同一のものに当たるか否かを考察するに,両商標は,その構成中に存する「キャラクターを模した絵柄」,英文字「Wiggy」及び片仮名「ウィッギー」の構成要素をことごとく同一にし,その文字の大きさ及び配置において,前者が英文字「Wiggy」及び片仮名「ウィッギー」を「キャラクターを模した絵柄」の右上に,一方,後者が英文字「Wiggy」及び片仮名「ウィッギー」を「キャラクターを模した絵柄」の右下に表示してなるところに相違がある。
また,本件商標では,「ggy」の文字の上に片仮名「ウィッギー」が横長楕円枠内に配され,一方,本件使用商標2では,「Wiggy」の文字の上に片仮名「ウィッギー」がカギ括弧([ ])内に配してなるところに相違がある。
さらに,本件使用商標2では,右上に「スヴェンソンは,患者さまの『どうしよう…』を/ひたすらこまやかに考える会社です。」の文字を横長楕円枠内に2段に配してなるところ,本件商標には,そのような文字は配されていない点について相違がある。
また,本件商標では,本件商標キャラクターの右下に「両腕に抱えたハートは,/いつも患者さまの気持ちと/共にあることを表しています。」の文字を点線上に沿って3段に配し,一方,本件使用商標2では,「ウィッギー」及び「Wiggy」の文字の右に「スヴェンソンの公式キャラクター。両腕に抱えたハートは,いつも患者/さまの気持ちと共にあることを表しています。患者さまの『うれしい』/という気持ちから生まれたウィッグの妖精です。」の文字を3段に配してなるところに相違がある。
しかしながら,本件商標と本件使用商標2との構成にあって,両者のキャラクターを模した絵柄,英文字「Wiggy」及び片仮名「ウィッギー」がそれぞれ強く印象・記憶されて,商取引の実際においての取引指標に資されるもの,すなわち,いずれもが自他商品の識別標識としての機能を果たす主要部であって,キャラクターを模した絵柄からは,ハートを抱いて微笑んでいるリボンをしたキャラクターからなる図形というような見たままの印象を生じるものであるというのが自然である。また,当該文字部分からは,造語であることから特に特定の観念を生じさせないものの,共通の称呼を生じるものであるというのが自然である。
また,本件使用商標2では,「お客さま」又は「患者さま」の文字に差異を有するとしても,本件商標と同じ観念を想起させる「両腕に抱えたハートは,いつも患者/さまの気持ちと共にあることを表しています。」の文字も配されている。
してみると,本件商標と本件使用商標2とを全体的に比較すれば,その配置に差異を有するとしても,商取引の実際においては登録商標が配列又は配置その他の態様について少なからぬ変更が加えられて使用されるものであることを考慮に入れてみれば,両者の差異が自他商品の識別標識としての機能を果たす主要構成について,その本質(出所表示機能)を損なうほどのものとするのは困難であるから,本件商標と本件使用商標2とは,社会通念上同一のものである。
(3)本件パンフレット(乙8)について
本件パンフレットには,本件商標と社会通念上同一といえる商標が記載されている。
本件使用商標3は,本件商標と比較すれば,ウィッグをキャラクター化した絵柄が,瞳を閉じているかのような表情になっている点や,当該キャラクターが○で囲まれている点,本件商標の2段目にある「お客さま」が「患者さま」の文字となっている点,「両腕に抱えたハートはいつも患者さまの気持ちと共にあることを表しています。」との文字が一列に配されている点,さらには「Wiggy」の文字書体が異なり,「ウィッギー」がカッコ内に記載されている点,「ウィッグをキャラクター化した絵柄」が「Wiggy」や「ウィッギー」等の文字と離れて見開きの次頁の右上角隅に配されている点で相違している。
しかしながら,商取引の実際においては,登録商標の態様について少なからぬ変更が加えられて使用されるものであることを考慮に入れてみれば,両者の差異が自他商品の識別標識としての機能を果たす主要構成について,その本質(出所表示機能)を損なうほどのものとするのは困難であるから,本件商標と本件使用商標3とは,社会通念上同一のものである。
3 本件付箋紙及び本件名刺の頒布について
(1)本件商標権者は,男性向けかつら,女性向けウィッグ,ヘアケア商品などを製造,販売している会社である(乙7?9)。
(2)本件付箋紙は,付箋紙に本件商標を使用して,商品「つけかつら(ウィッグ)」に関する広告・宣伝を行った販促品である。
本件付箋紙は,平成25年3月,平成26年2月に株式会社エムツーカンパニーから本件商標権者に納品され,平成26年7月10日から12日まで開催された第22回日本乳癌学会学術総会(乙4,10),平成26年11月29日に開催された第12回日本乳癌学会近畿地方会(乙5,11)等の各会場にて,本件商標権者の商品「つけかつら(ウィッグ)」を広告・宣伝するために,医療従事者や,がん患者を対象に無料で頒布した。
したがって,本件商標権者によって,本件商標について,商品「つけかつら」との関係で商標的な使用がなされている。
(3)本件名刺は,平成26年1月から平成28年11月末までの間,印刷会社から本件商標権者に納品された(乙6)。そして,本件名刺は,平成28年11月現在も業務に関連して用いられている。
本件名刺の裏面の「必要なことをとことん考えたウィッグ」は,指定商品である第26類「つけかつら」を示すウィッグについての宣伝広告であり,本件商標が明示されている。
本件名刺は,本件要証期間内に取引業者及び顧客に対して頒布された(乙13?24)
したがって,本件商標権者によって,本件商標について,商品「つけかつら」との関係で商標的な使用がなされている。
(4)平成26年3月に発行した本件パンフレット(乙8)には,本件商標権者がイベントやセミナーを行っていることが示されており,本件付箋紙及び本件名刺が,このようなイベントやセミナーにおいて不特定多数の者に頒布された。
4 まとめ
以上より,本件要証期間内において,本件商標権者が,販促品である本件付箋紙,本件名刺及び本件パンフレットに,本件商標と社会通念上同一の商標を表示していた事実が確認できるものであり,本件商標権者の上記行為は,商標法第2条第3項第8号に規定する,自己の業務に係る商品「つけかつら」に関する広告に標章を付して頒布する行為に該当する。

第4 当審の判断
1 証拠及び被請求人の主張によれば,以下の事実を認めることができる。
(1)本件商標権者は,昭和59年に設立された株式会社であり,平成15年4月から商品「女性用ウィッグ」の販売を本格的に開始するとともに,商品「医療用ウィッグ」の販売を開始した(乙7,9)。
(2)本件商標は,別掲1のとおり,おおむね3つの構成部分,すなわち,左側半分を占める図形部分,右側半分の上段部を占める「Wiggy」及び「ウィッギー」の文字部分並びに右側半分の下段部を占める3行書きされた文章部分からなる。
本件商標の図形部分は,縦長楕円状で下部分が裾広がりで下端が波のようにうねった茶色の輪郭図形内の中央やや上に白色の略円形図形を配し,当該略円形図形内に人の目,鼻及び口が配され,さらに,当該輪郭図形の左上に赤色のリボン状の図形,及び当該輪郭図形の中央には,ピンク色のハート型を両腕で抱えたかのような図形が配されている(以下,当該図形部分を「キャラクター図形」という。)。
本件商標の「Wiggy」(「i」の文字の上部の点の部分は,赤色のハート型で表されている。以下同じ。)の欧文字部分は,茶色で大きく横書きされており,「ウィッギー」の片仮名部分は,当該欧文字の「ggy」部分の上部に,赤地の楕円中に白抜きで横書きして配されている。
本件商標の文章部分は,破線による下線が引かれた「両腕に抱えたハートは,/いつもお客さまの気持ちと/共にあることを表しています。」の文字を3行(「/」部分で改行されている。)に分けて,「Wiggy」の欧文字部分と同程度の幅に納まるように赤色で配されている(以下,当該文章部分を「本件文章部分」という。)。
(3)本件商標権者は,平成26年2月28日,本件付箋紙(乙1)を4,000部作成した(乙3)。本件付箋紙は,2つ折りの台紙による表紙カバーが付いたタイプのものであって,表紙カバーの外側,見開き表面部分には,キャラクター図形とともに「スヴェンソン公式キャラクター」及び「Wiggy」(「i」の文字の上部の点の部分は,赤色のハート型で表されている。)の記載及び当該キャラクター図形の下には本件商標権者の名称に当たる「SVENSON」の記載がある。表紙カバーの内側,見開き内面部分の左側には,「スヴェンソンのウィッグを使用した患者さまの『嬉しい』という気持ちから生まれた体がウィッグの形をした妖精です。」との文章の記載とともに,本件使用商標1が掲載されている。
そして,本件使用商標1は,別掲2のとおり,本件商標とほぼ同様の構成態様,すなわち,左側半分を占める図形部分,右側半分の上段部を占める「Wiggy」及び「ウィッギー」の文字部分並びに右側半分の下段部を占める3行書きされた文章部分(以下,当該文章部分を「使用文章部分」という。)からなるところ,本件商標との主な相違点は,本件文章部分の2行目において「お客」と記載されている部分が,使用文章部分の2行目においては「患者」と記載されている点と,キャラクター図形中のハート型と使用文章部分とを関連付けるように,赤色の引き出し線が付されている点であると認められる。
(4)本件商標権者は,平成26年7月10日から12日まで,大阪府大阪市北区に所在する「大阪国際会議場」で開催された「第22回日本乳癌学会学術総会」において,併設展示会出展企業として本件商標権者の展示ブースを設け,販売用の商品「ウィッグ」を展示するとともに,来訪者(医療従事者及び患者)にノベルティ(販促品)として配布するために本件付箋紙500部を同ブースに用意(搬入)した(乙4,10)。
また,本件商標権者は,平成26年11月29日に,京都市左京区に所在する「みやこめっせ」で開催された「第12回日本乳癌学会近畿地方会」において,併設展示会出展企業として本件商標権者の展示ブースを設け,販売用の商品「ウィッグ」を展示するとともに,来訪者(医療従事者及び患者)にノベルティ(販促品)として配布するために本件付箋紙300部を同ブースに用意(搬入)した(乙5,11,12)。
2 上記1によれば,次のとおり判断することができる。
(1)本件商標権者の使用行為について
平成26年2月に,本件使用商標1を付した本件付箋紙を4,000部作成した本件商標権者は,同年7月10日から12日に大阪市で開催された「第22回日本乳癌学会学術総会」及び同年11月29日に京都市で開催された「第12回日本乳癌学会近畿地方会」において,それぞれ,併設展示会出展企業として本件商標権者の展示ブースを設け,販売用の商品「ウィッグ」を展示するとともに,ノベルティ(販促品)として配布するために本件付箋紙を各展示ブースに,それぞれ,500部及び300部用意(搬入)したものと認められるから,本件付箋紙は,少なくとも本件商標権者が販売する商品「ウィッグ」を展示した各展示ブースへの来訪者(医療従事者及び患者)に対し,無償配布(頒布)されたと優に推認することができる。
このように,本件付箋紙は,少なくとも本件商標権者が販売する商品「ウィッグ」を展示した各展示ブースにおいて,ノベルティ(販促品)として頒布されたものと認められることに加え,本件付箋紙の表紙カバーの外側,見開き表面部分には,本件商標権者の名称が表示され,キャラクター図形が「Wiggy」と称する本件商標権者の公式キャラクターであると理解できる表示があること,また,表紙カバーの内側,見開き内面部分の左側には,「スヴェンソンのウィッグを使用した患者さまの『嬉しい』という気持ちから生まれた体がウィッグの形をした妖精です。」との文章の記載とともに,本件使用商標1が掲載されており,これは本件使用商標1について本件商標権者の商品「ウィッグ」との関係を示唆する文章であると容易に理解できることからすると,本件商標権者は,商品「ウィッグ」に関する宣伝広告品(販促品)として,本件付箋紙を使用したものと認めるのが相当である。
そうすると,本件商標権者は,本件要証期間内である平成26年7月及び11月に,日本国内において,商品「ウィッグ」に関する広告に本件使用商標1を付して頒布したということができる。
(2)使用商品について
本件使用商標1は,上記(1)のとおり,商品「ウィッグ」に関する広告について使用されたと認められるものであるところ,同商品は,本件審判の請求に係る指定商品中「つけかつら,頭飾品」に含まれるものと認められる。
(3)本件商標と本件使用商標1との社会通念上の同一性について
上記1(3)認定のとおり,本件商標と本件使用商標1との主な相違点は,本件文章部分の2行目において「お客」と記載されている部分が,使用文章部分の2行目においては「患者」と記載されている点と,キャラクター図形中のハート型と使用文章部分とを関連付けるように,赤色の引き出し線が付されている点であると認められるところ,本件文章部分と使用文章部分とは,いずれもその記載内容からすると,赤色の引き出し線の有無にかかわらず,キャラクター図形におけるハート型が表している意味内容を単に説明する文章であると理解されるにすぎず,これらの部分からは出所識別標識としての称呼及び観念が生じないものと認められるから,その余の構成態様を共通にする本件商標と本件使用商標1とは,社会通念上同一の商標であると認められる。
なお,本件商標権者は,商品「医療用ウィッグ」も販売しているところ,本件付箋紙は,正に,医療に関係した学会の総会等において併設された展示会の来訪者(医療従事者及び患者)に対して頒布されたものであって,しかも,本件付箋紙において,本件使用商標1は「スヴェンソンのウィッグを使用した患者さまの・・・」との文章の記載とともに使用されていたのであるから,本件文章部分と使用文章部分とにおける「お客」と「患者」との相違は実質的に意味合いが変わるものとは認められない。
(4)小括
以上によれば,本件商標権者は,本件要証期間内である平成26年7月及び11月に,日本国内において,本件審判の請求に係る指定商品「つけかつら,頭飾品」に含まれる商品「ウィッグ」に関する広告に,本件商標と社会通念上同一と認められる本件使用商標1を付して頒布したと認めることができる。
そして,本件商標権者による上記使用行為は,商標法第2条第3項第8号所定の「商品に関する広告に標章を付して頒布する行為」に該当する。
3 請求人の主張に対し
請求人は,本件付箋紙は本件商標の指定商品とは無関係の商品「付箋紙」であり,本件付箋紙が販促品であるとしても,商品「つけかつら」の広告であるとする内容(商品の種類・品目,商品名,商品写真,価格等)について何ら記載が無く,商品「つけかつら」との具体的関連性が全く見えないから,本件付箋紙は,本件審判の請求に係る指定商品の「商品・・・に関する広告」に該当しないし,本件使用商標1を自他商品の識別標識とは認識しない旨主張する。
しかしながら,上記1(1)及び2(1)のとおり,本件商標権者は,商品「ウィッグ」を販売する会社であって,日本国内で開催された医療に関係した学会の総会等において併設された展示会において,商品「ウィッグ」を展示するとともに,表紙に本件商標権者の名称を表示し,商品「ウィッグ」を示唆する文章とともに本件使用商標1を付した本件付箋紙を,本件商標権者が出展する展示ブースへの来訪者に宣伝用の販促品として無償配布したのであるから,本件付箋紙は,商品「ウィッグ」に関する広告媒体としての役割を果たしているといえ,本件付箋紙に付された本件使用商標1は,本件商標権者の自他商品識別標識としての機能を果たし得るというのが相当である。
したがって,請求人の上記主張は,採用することができない。
4 まとめ
以上のとおり,被請求人は,本件要証期間内に日本国内において,本件商標権者が本件審判の請求に係る指定商品中,第26類「つけかつら,頭飾品」に含まれる商品「ウィッグ」に関する広告に,本件商標と社会通念上同一の商標を使用していたことを証明したと認められる。
したがって,本件商標の登録は,本件審判の請求に係る指定商品について,商標法第50条により,取り消すことはできない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 別掲1 本件商標(色彩については原本参照)


別掲2 本件使用商標1(色彩については原本参照)


別掲3 本件使用商標2(色彩については原本参照)


別掲4 本件使用商標3(色彩については原本参照)


審理終結日 2018-02-08 
結審通知日 2018-02-15 
審決日 2018-02-27 
出願番号 商願2013-36451(T2013-36451) 
審決分類 T 1 32・ 1- Y (W26)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今田 尊恵 
特許庁審判長 早川 文宏
特許庁審判官 平澤 芳行
田村 正明
登録日 2013-09-13 
登録番号 商標登録第5614489号(T5614489) 
商標の称呼 ウイッギー、リョーウデニカカエタハートワイツモオキャクサマノキモチトトモニアルコトオアラワシテイマス 
代理人 梅村 裕明 
代理人 畝本 卓弥 
代理人 畝本 継立 
代理人 今枝 弘充 
代理人 吉田 正義 
代理人 畝本 正一 
代理人 沖田 正樹 

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