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審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W12 |
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管理番号 | 1354220 |
審判番号 | 無効2017-890050 |
総通号数 | 237 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2019-09-27 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2017-07-27 |
確定日 | 2019-07-25 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第5903384号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第5903384号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第5903384号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1のとおりの構成からなり,平成27年8月20日に登録出願,第12類「オート三輪車,電動式乗物,オートバイ,サイドカー,自動車,雪上車,キャンピングカー,キャンピングトレーラー,陸上の乗物用のエンジン,ゴルフカード(乗り物)」を指定商品として,同28年11月18日に登録査定され,同年12月9日に設定登録されたものである。 第2 引用商標 請求人が引用する商標は,別掲2及び別掲3のとおりの構成からなり(以下,順に「引用商標1」及び「引用商標2」といい,それらをまとめて「引用商標」という。),いずれも請求人等が商品「スクーター」について使用し,英国及びタイを含む外国において広く認識され,我が国のバイク・スクーター業界の関係者や愛好家の間にも広く認識されているとするものである。 第3 請求人の主張 請求人は,結論同旨の審決を求め,審判請求書及び平成30年9月7日付け回答書において,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第28号証(枝番号を含む。)を提出した。 1 請求の理由 本件商標は,商標法第4条第1項第10号,同項第15号,同項第19号及び同項第7号に該当するものであるから,商標法第46条第1項の規定によりその登録は無効とされるべきである。 2 請求の利益 請求人及び請求人の関連会社は,別掲2及び別掲3のとおりの商標(引用商標)を使用した「スクーター」等の商品を海外において製造・販売している。また,請求人は19か国において自らの業務に関連する複数の系列会社及び販売代理店を有しており,スクーターの販売業務について世界的に展開している。 被請求人が,本件商標をその指定商品について使用した場合,例えば,その出所について,請求人の系列会社又は販売代理店によって製造,販売された商品であると需要者,取引者に誤認混同を与えることがあり,請求人の利益が著しく阻害されるおそれがある。 さらに,後述のとおり,請求人は2012年(平成24年)3月,被請求人とほぼ同一人である常州漢威机車科技有限公司(審決注:「漢」及び「車」の文字は中国語簡体字である。以下同じ。以下「漢威机車科技社」という。)と製造委託契約を結んだものの,当該契約中には,「全ての知的財産権はスコマディ リミテッドのみが独占所有するものとする。」と明記されており,被請求人はこれに違反して本件商標を登録出願し,登録したことになる。 以上より,請求人は,本件無効審判請求をすることについて利害関係を有する者である。 3 引用商標の使用実績及び周知・著名性について (1)会社沿革 請求人の関連会社であるスコマディ リミテッドは,2005年(平成17年)に英国で設立された(甲6の1)。 2009年(平成21年)には独自に開発したスクーター「ツーリスモ・レジェラ250(TL250)」を発表し,本格的に事業を開始し,2013年(平成25年)には,欧州での販売を開始した(甲6の1及び2,甲7)。 2015年(平成27年),スコマディ・タイランドが設立され,これにより,同年7月にタイ国内で販売を開始した(甲15の1)。 請求人は,2017年(平成29年)現在,英国など欧州各国,オーストラリア,ネパール,シンガポール,タイ,韓国,コロンビアなど19か国において系列会社及び販売店を有しており,自社製品の取り扱いを行っている(甲8の4)。 なお,請求人は2012年(平成24年)3月,被請求人とほぼ同一人である漢威机車科技社と製造委託契約を結び,中国の成都を製造拠点としてきた。その後,後述する事情により,契約解消となり,2017年(平成29年)2月には製造拠点を子会社があるタイヘ移している(甲9,甲24?甲28)。 (2)国際展示会やモーターショーへの出展 請求人は,2013年(平成25年)11月7日から10日までイタリア・ミラノで開催されたEICMAミラノショーに自社製品を出展している。同ミラノショーには,世界的に名の知れたベスパをはじめ,日本からも多数のバイクメーカーが出展している。請求人は2013年(平成25年)に引き続き,2015年(平成27年),2016年(平成28年)にも同ミラノショーに出展している(甲10)。 また,請求人は,2014年(平成25年)10月1日から5日までドイツ・ケルン市で開催されたインターモト(INTERMOT-国際オートバイ・スクーター専門見本市-)に自社製品を出展している。同見本市には,日本国内のバイクメーカーも出展している(甲11)。 さらに,請求人は,2016年(平成27年)1月27日から31日までタイ・バンコクで開催されたバンコク・モーターバイク・フェスティバルに自社製品を出展している。同イベントは,東南アジア最大級の規模を誇り,世界のバイクメーカーが集結し,日本のバイクメーカーも参加している(甲12)。 このような国際展示会やモーターショーでは,自社製品の宣伝だけでなく,開催期間中に競合メーカーの新製品の偵察や同業者間の交流も行われることは容易に想像できる。したがって,日本の出展企業は,当該国際展示会やモーターショーを通じて,請求人及び請求人の引用商標を認識している。 さらに,上記国際展示会やモーターショーについて,日本の業界関係者・報道関係者等を含む一般需要者を対象とした国際見本市視察のツアー企画を行っている会社も複数存在する(甲13)。 日本から実際に上記国際展示会やモーターショーに参加して書かれたインターネット記事や,日本の取引者やバイク愛好家による現地レポート・ブログ等も散見される(甲14)。 以上の事実から,引用商標は,外国において広く認識されている著名な商標であるばかりか,日本のバイク・スクーター業界の関係者や愛好家の間にも広く認識されている商標である。 (3)東南アジアへの進出 上述のとおり,請求人は,2015年(平成27年)7月にタイ国内で販売を開始し,請求人のタイ及び東南アジア進出については新聞・インターネット記事にも複数取り上げられている(甲15の2?7)。 また,請求人は,現在タイに製造拠点を有し,タイに移る前は,中国に製造拠点を有していた(甲9)。他方,日本の4大バイクメーカーもまた,タイ及び中国に製造拠点や子会社を有している(甲16)。 一般に,国際的な大手メーカーであれば,国内外の競合他社の製品情報だけでなく,物流拠点や生産拠点についても把握しているものである。したがって,請求人が中国に製造工場を有していた事実又はタイに製造工場を有する事実は,同国に製造拠点や子会社を有する同業者である日本の4大バイクメーカーも,当然に請求人の引用商標のことを認識していることを裏付けるものである。 以上より,引用商標は,タイを含む外国において広く認識されている著名な商標であるばかりか,日本のバイク・スクーター業界の関係者の間にも広く認識されている商標である。 (4)請求人の保有する商標登録 請求人は,現在,海外において多数の商標登録を有し(甲4),さらに日本を指定した国際登録出願を行っており現在審査に継続中である(甲5)。 (5)小括 上記(1)ないし(4)より,請求人の引用商標の外国における使用実績及び周知著名性の獲得については,疑いの余地がないものである。また,日本のバイク・スクーター業界の関係者や愛好家の間にも,引用商標は広く認識されている。 4 被請求人と漢威机車科技社の関連について(平成30年9月7日付け回答書) (1)被請求人の「株主/発起人」の欄に,「常州漢威機車科技有限公司」の記載がある(甲9の1の1,甲24)。 (2)請求人及び漢威机車科技社のホームページに表示されている本社工場前の写真の看板には,「Hanway」の文字の横に中国語とそのピンイン表記である「漢威(漢徳)机車/Hanwei(Hande)Vehicle」と両者が併記されている(甲25)。 (3)両者の企業連絡先である,電話番号及びメールアドレスが,同一である(甲26,甲27)。 (4)漢威机車科技社の出資者は,被請求人の代表者である「馬濾晟」(審決注:「濾」の文字は中国語簡体字である。以下同じ。)である(甲26の2,甲27の2)。 (5)2017年(平成29年)3月13日のリツ陽市(審決注:「リツ」の文字は三水偏に「栗」である。以下同じ。)政府公式サイト上のニュース記事によれば,同年3月9日の午前,リツ陽市市委員会副書記,政治-法律委員会書記らは「漢威(漢徳)/Hanwei(Hande)机車科技有限公司」を訪問し,かつ漢威(漢徳)机車展示ホールを見学した旨の記載があり,被請求人らの商品の展示ホールなどが「漢威」と「漢徳」とで共通に使われていることがうかがえる(甲28)。 (6)以上より,被請求人と漢威机車科技社とは,ほぼ同一人と見て差し支えなく,本件商標の登録出願において,被請求人が,請求人の存在について不知であったり,請求人と漢威机車科技社との契約のことを全く不知であるということはない。 5 以上の事実を踏まえ,本件商標が商標法第4条第1項第10号,同項第15号,同項第19号及び同項第7号に該当する理由を以下に詳述する。 6 商標法第4条第1項第10号について (1)引用商標の周知・著名性 引用商標の使用実績については,上記3において述べたとおり,海外において多数の使用実績を有しており,世界的に周知・著名性を獲得しているものである。 そして,外国において周知・著名となっている事実のみならず,請求人が,日本の大手バイクメーカー等も出展している国際展示会やモーターショーへの出展している事実や,日本のバイクメーカー等の製造拠点があるタイや中国において請求人も製造拠点を有している事実等から,日本のバイク・スクーター業界の関係者や愛好家等の需要者も,引用商標に接触し認識する蓋然性が極めて高く,日本の需要者にも引用商標は広く認識されている。 したがって,引用商標は,他人の業務に係る商品等を表示するものとして我が国の需要者の間に広く認識されている商標(周知商標)に該当する。 (2)本件商標と引用商標の対比 本件商標と引用商標1とは,後者が白抜き文字であるという相違はあるものの,いずれも「Scomadi」の語からなり,書体も同一である。また引用商標2にも「Scomadi」の語を同様の書体で表した文字部分を含む。 したがって,本件商標が引用商標と同一又は類似の商標であることは明らかである。 (3)引用商標の使用商品と本件商標の指定商品との対比 請求人の主な業務は,商品「スクーター」の製造・販売である。したがって,請求人が引用商標を使用している商品は「スクーター」である。 「スクーター」は,特許庁の類似商品・役務審査基準によれば,類似群コード「12A05」が付与される商品である(甲17)。 本件商標の指定商品中「オート三輪車,電動式乗物,オートバイ,サイドカー」もまた類似群コード「12A05」が付与される商品である。 したがって,特許庁の商品役務の類否の判断基準において,請求人の使用商品と本件商標の指定商品中「オート三輪車,電動式乗物,オートバイ,サイドカー」とは同一又は類似するものであると推定される。 (4)小括 以上より,本件商標は,請求人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって,その商品又はこれらに類似する商品について使用をするものである。 したがって,本件商標は,その指定商品中「オート三輪車,電動式乗物,オートバイ,サイドカー」については,商標法第4条第1項第10号に該当する。 7 商標法第4条第1項第15号について (1)本件商標と引用商標との類似性の程度について 上述したとおり,本件商標は,引用商標と同一又は類似の商標である。 (2)引用商標の周知度及びハウスマークであることについて 引用商標を構成する「Scomadi」の語は,2005年(平成17年)の会社設立から会社名として使用されており,引用商標は,請求人のハウスマークとして遅くとも2009年(平成21年)に海外において使用が開始され(甲18),本件商標の出願日までには既に英国及びタイを含む外国において周知・著名である。 そして,その事実は日本のバイク・スクーター業界の関係者や取引者,又は,愛好家にも広く認識されていたことが容易に推測できることから,我が国の需要者間においても,引用商標は周知・著名であるといえる。 (3)引用商標の独創性について 引用商標である「Scomadi」の語は,辞書等に特定の意味が存在しない造語であり(甲3),その語源は,「スクーター(Scooter)」「マニュファクチャー(manufacture)」及び「ディストリビューション(distribution)」の語頭の文字を取って並べた造語である。 したがって,引用商標の独創性は極めて高いといえる。 (4)本件商標を使用するものが請求人と関係があると誤信されるおそれがあることについて 上記3(1)で述べたとおり,請求人は19か国において自らの業務に関連する複数の系列会社及び販売代理店を有しており,スクーターの販売業務について世界的に展開している。 したがって,被請求人が本件商標をその指定商品に使用した場合には,その出所について,請求人の系列会社又は販売代理店によって製造・販売された商品であると需要者に誤信されるおそれがある。 (5)商品等の関連性について 上述したとおり,請求人の事業は主として商品「スクーター」の製造・販売であり,該商品は,本件商標の指定商品中,「オート三輪車,電動式乗物,オートバイ,サイドカー」と同一又は類似するものである。 また,本件商標の指定商品中,その他の商品である「自動車,雪上車,キャンピングカー,キャンピングトレーラー,陸上の乗物用のエンジン,ゴルフカード(乗り物)」についても,一般的に日本のバイクメーカーが製造販売している商品であることから,請求人の事業との関連性は極めて高い(甲19?甲20)。 したがって,本件商標の指定商品と,請求人の事業との関連性は極めて高い。 (6)商品等の需要者の共通性について 本件商標の指定商品中,「オート三輪車,電動式乗物,オートバイ,サイドカー,自動車,キャンピングカー,キャンピングトレーラー,陸上の乗物用のエンジン」は,最終消費者は車やバイクの購入者という一般の需要者であり,請求人の使用商品「スクーター」の最終消費者層と一致する。また関連性が極めて強い商品である以上,それを取り扱う取引者も一致する。 また,「雪上車」や「ゴルフカード」については最終消費者の需要者層が異なる可能性はあるものの,上記のとおり,これら商品が請求人と同様のバイクメーカーにより製造されているケースがあることから,少なくとも取引者が一致する場合もある。 以上より,本件の指定商品と請求人の使用商品の需要者(最終消費者及び取引者)は共通性がある。 (7)総合的な検討 以上より,本件商標は,請求人の事業に係る商品と関連性の高い商品に使用されるものであって,著名な引用商標と同一又は類似する商標である。また,本件商標の使用は,請求人と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品等であると需要者が誤認し,いわゆる広義の混同を生じさせるおそれがあるといえる。なお,上記(1)ないし(6)において説明した事項については,本件商標の出願日及び登録査定日の両時期において認められるものである。 したがって,本件商標をその指定商品・役務に使用した場合には,請求人の事業と出所の混同が生じるおそれがあるものである。 (8)小括 以上より,本件商標の出願日及び登録査定日の両時期において,本件商標をその指定商品に使用した場合,請求人の事業と混同することは疑いがないので,本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当する。 8 商標法第4条第1項第19号について (1)引用商標が周知であり,本件商標と引用商標が同一又は類似することについて 上記において詳述したとおり,引用商標は外国における需要者の間に広く認識されているのはいうまでもなく,日本国内の需要者の間にも広く認識されている商標であり,また,本件商標は引用商標とほぼ同一である。 (2)不正の目的について 上記3(1)で述べたとおり,請求人は,2012年(平成24年)3月,被請求人とほぼ同一人である漢威机車科技社と製造委託契約を結んでいる。当該契約書中には,「全ての知的財産権はスコマディ リミテッドのみが独占所有するものとする。」と明記されており(甲9の1の1,甲9の2,甲24?甲28),被請求人はこれに違反して本件商標を登録出願し,登録したことになる。 被請求人は,外国においても同様に本件商標及び引用商標を多数登録出願しており,アメリカを含む複数国においては実際に,上記契約違反及び請求人の名声等を毀損させるものであること等を理由として,異議申立てが認められた(甲22)。 このことはインターネット記事にも取り上げられている(甲9の3)。 上記関係を踏まえると,被請求人は,本件商標の登録出願時にはすでに,引用商標について,請求人がハウスマーク及び請求人の業務に係る商品に使用する商標であること十分知り得ていたものであり,その上で,引用商標が我が国において登録されていないことを奇貨として,本件商標を先取り的に出願し,自己の利益のために使用する不正の目的をもってその登録を得たものと推認せざるを得ない。 (3)小括 以上より,本件商標は,請求人の業務に係る商品を表示するものとして外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって,不正の目的をもって使用をするものである。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当する。 9 商標法第4条第1項第7号について 出願人が本願商標を取得する過程においては明らかに社会の一般的道徳観念に反する出願であるから,この観点からも登録は無効とされるべきである。 (1)本件商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあることについて 上記のとおり,被請求人は,「全ての知的財産権はスコマディ リミテッドのみが独占所有するものとする。」と明記された製造委託契約に違反して,本件商標を登録出願している。 そして,被請求人は,引用商標とほぼ同一の本件商標を取得することにより,請求人の利害に多大な影響が及ぶであろうという点については,極めて明確に認識し得る状況にあったものといえる。 以上の点からすると,本件商標は,引用商標が本件商標の指定商品について商標登録されていないことを奇貨として,請求人に無断で剽窃的に登録出願し,登録を受けたものと考えざるを得ない。このような本件商標の登録出願の経緯には,社会的相当性を欠くものがあり,その登録を認めることは,商標法の予定する秩序に反するものというべきである。 したがって,本件商標は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するものである。 (2)小括 以上より,本件商標の出願の経緯には社会的相当性を欠くものがあり,本件商標の登録を認めることは,公正な取引秩序を乱し,社会一般の道徳観念に反するものであって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当する。 第4 被請求人の答弁 被請求人は,請求人の主張に対し何ら答弁していない。 第5 当審の判断 1 商標法第4条第1項第7号について 本号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には,(a)その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合,(b)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも,指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反する場合,(c)他の法律によって,当該商標の使用等が禁止されている場合,(d)特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反する場合,(e)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合,などが含まれるというべきである(知財高裁 平成17年(行ケ)第10349号 平成18年9月20日判決)。 2 請求人提出の甲各号証及び同人の主張によれば,次のとおり本件商標の登録出願の日(平成27年8月20日)前の事実を認めることができる。 (1)請求人等について 請求人の関連会社であるスコマディ リミテッド(Scomadi Ltd. 以下「スコマディ社」という。)は,2005年(平成17年)に設立された英国の会社であり,商品「スクーター」の製造販売などを行っている(甲6の1)。 なお,請求人とスコマディ社(以下,両者をあわせて「請求人等」という。)とは,両者の名称に独創的な造語である「Scomadi」の文字が含まれていること,及び請求人の居所とスコマディ社の居所とが一致すると認められることから,関連会社ということができる(甲6の1)。 (2)請求人等の商品及び引用商標について 請求人等は2009年(平成21年)に,スクーター(ツーリスモ・レジェラ250)を完成し,本格的にその事業を開始し,同年6月には,同スクーターの試作品を「ユーロランブレッタ2009」において展示しているところ,該展示品の台座には,引用商標1と同一視できる商標が付されている(甲6)。 また,請求人は,2009年(平成21年)9月4日に,請求人等のウェブページに上記スクーター及び引用商標2(細部(上部の弓状部分)が異なるものの外観上同一視されると認められるものを含む。以下同じ。)を掲載した(甲18)。 (3)被請求人等について 被請求人は,2011年(平成23年)10月に設立された中国の企業であり,その代表者は「馬濾晟(2014年(平成26年)変更。)」である(甲9の1の1,甲24)。 また,被請求人の株主として漢威机車科技社の名称が記載されている(甲9の1の1,甲24)。 そして,漢威机車科技社は,2013年度(平成25年度)において,中国の企業であり,株主欄に被請求人の代表者と同じ氏名である「馬濾晟」の記載がある(甲26)。 さらに,被請求人と漢威机車科技社とは住所は異なるが,電話番号は同一である(甲26)。 そうすると,被請求人と漢威机車科技社(以下,両者を併せて「被請求人等」という。)は,関連会社と認められる。 (4)請求人等と被請求人等の関連について 2012年(平成24年)3月にスコマディ社と漢威机車科技社との間で,「スクーターのデザイン,製造契約」が結ばれており,当該契約には,「7 知的財産権/秘密保持」として「7.1 全ての知的財産権及び新素材(著作権,意匠権を含むがそれに限定されない)はスコマディ リミデッドが独占所有するものとする。」旨の条項がある(甲9の2)。 なお,その後,遅くとも2017年(平成29年)3月までには,請求人等は,上記契約を解消している(甲9の3,請求人の主張)。 また,被請求人の経営範囲には「オフハイウェイ2輪オートバイ,オートバイ及び部品の開発,製造,販売」が含まれる(甲9の1の1,甲24)。 3 本件商標について 本件商標は,「Scomadi」の欧文字を別掲1のとおり,筆記体風にデザイン化された態様で表してなるものである。 そして,該「Scomadi」の文字は,一般に親しまれた成語でも,複数の成語を結合したものでもなく,独創的な造語と認められるものである。 4 本件商標と引用商標の比較について 上記3のとおり,本件商標は,「Scomadi」の欧文字を別掲1のとおり,筆記体風にデザイン化された態様で表してなるものである。 引用商標1は,別掲2のとおり,黒の背景色に「Scomadi」の白抜き文字を筆記体風にデザイン化して表してなるものである。 引用商標2は,別掲3のとおり,盾状の図形であり,上部より,赤,白及び青からなる弓状の図形部分,黒の背景色にオレンジの引用商標1と同じ書体からなる「Scomadi」の文字部分及びオレンジの背景色に黒ヒョウと思しき図形部分からなるものである。 そして,その文字部分は,盾状の図形の内部に記載されているものの,図形の幅全体の大きさで目立つよう表されており,上下の図形部分とは色彩において異なっていることから,明瞭に分離して認識されるものである。 また,「Scomadi」の文字は上記のとおり造語であり,その上下の図形部分と観念的なつながりも見いだせない。 そうすると,引用商標2は,その文字部分が独立して自他商品識別標識としての機能を果たし得るものである(以下,引用商標1及び引用商標2の文字部分を「引用文字部分」という。)。 そこで,本件商標と引用文字部分とを比較すると,両者は,色彩を異にするものの,つづり字を共通にするばかりでなく筆記体風にデザイン化された書体までも同一にするものである。 5 本件商標の指定商品と請求人等の業務に係る商品の比較について 本件商標の指定商品は,上記第1のとおりであり,請求人等の業務に係る商品(スクーター)と同一又は類似の商品と認められる「電動式乗物,オートバイ,サイドカー」を含むものである。 6 商標法第4条第1項第7号の該当性について 上記3ないし5のとおり,本件商標の構成文字「Scomadi」が独創的な造語であること,本件商標と引用文字部分とはつづり字が共通するばかりでなく筆記体風にデザイン化された書体までも同一であること,本件商標の指定商品には請求人等の業務に係る商品(スクーター)と同一又は類似の商品が含まれていることに加え,上記2(4)のとおり,本件商標の登録出願の日前に,請求人の関連会社と被請求人の関連会社との間で,知的財産権の取決めも含めた「スクーターのデザイン,製造契約」を結んでいたことからすれば,本件商標と引用商標とは,独創的な造語である「Scomadi」の文字について,つづり及び書体を同一にするばかりでなく,被請求人による本件商標の登録出願は,直接的ではないものの,被請求人等の契約違反であると認められるものであって,適正な商道徳に反し,著しく社会的妥当性を欠く行為というべきであり,これに基づいて被請求人を権利者とする,本件商標の登録を認めることは,公正な取引秩序の維持の観点から見ても不適当であって,商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に該当すると判断するのが相当であるから,上記1の(e)に該当する。 そして,被請求人は,上記第4のとおり,請求人の主張に対し何ら答弁していない。 したがって,本件商標は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」といわざるを得ないから,商標法第4条第1項第7号に該当するものである。 7 むすび 以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第7号に該当するものであるから,他の無効理由について言及するまでもなく,同法第46条第1項の規定に基づき無効とすべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲1(本件商標) 別掲2(引用商標1) 別掲3(引用商標2)(色彩は請求書を参照。) |
審理終結日 | 2019-03-05 |
結審通知日 | 2019-03-07 |
審決日 | 2019-03-20 |
出願番号 | 商願2015-79668(T2015-79668) |
審決分類 |
T
1
11・
22-
Z
(W12)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 久木田 俊、箕輪 秀人、豊田 純一 |
特許庁審判長 |
薩摩 純一 |
特許庁審判官 |
大森 友子 榎本 政実 |
登録日 | 2016-12-09 |
登録番号 | 商標登録第5903384号(T5903384) |
商標の称呼 | スコマディ |
代理人 | 山田 朋彦 |
代理人 | 西浦 ▲嗣▼晴 |
代理人 | ▲高▼見 良貴 |
代理人 | 土橋 編 |
代理人 | 出山 匡 |