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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W21
審判 全部申立て  登録を維持 W21
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審判 全部申立て  登録を維持 W21
管理番号 1353368 
異議申立番号 異議2018-900372 
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-12-07 
確定日 2019-06-14 
異議申立件数
事件の表示 登録第6081158号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6081158号商標の商標登録を維持する。
理由 1 本件商標
本件登録第6081158号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成よりなり、平成29年12月21日に登録出願、第21類「大阪市天満地域産の切り子硝子で作ったグラス」を指定商品として、同30年8月27日に登録査定、同30年9月14日に設定登録されたものである。

2 登録異議申立人が引用する商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が登録異議の申立ての理由において引用する商標は、次の引用商標1ないし引用商標3の商標(以下、それらをまとめて「引用商標」という。)であり、申立人が「切子ガラス製の食器類」について使用し著名な商標であると主張するものである。
(1)大阪市北区南東部の天満地域で切子ガラス製の食器類を製造し、「引用商標1」(別掲2のとおり)を付して販売している。
(2)「天満切子」の看板「引用商標2」(別掲3のとおり)を工房入口に掲げ、工房内で切子ガラス製食器類の販売や切子教室を開いている。
(3)「天満切子」の看板「引用商標3」(別掲4のとおり)を申立人を代表とする直営店の店先に掲げ、店内で切子ガラス製食器類の販売等を行っている。

3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、同法第43条の2第1号により、その登録は取り消されるべきであると申立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第44号証(枝番号を含む。なお、甲号証において、枝番号を有するもので、枝番号のすべてを引用する場合は、枝番号の記載を省略し、甲各号証の表記にあたっては、「甲○」(「○」部分は数字)のように省略して記載する。)を提出した。
(1)申立人と切子工房RAUとの関係
「切子工房RAU」は、申立人の叔父・(故)宇良武一が、昭和8年に創業した「宇良硝子加工所」を平成10年に屋号変更したものである(甲8)。(故)宇良武一は同27年11月12日に死去したことから、遺産分割協議書(甲9)に記載のとおり、申立人が全遺産を相続し、現在に至っている。申立人は、(故)宇良武一の唯一の適法な相続人(承継人)であり、「切子工房RAU」の代表である(甲10)。
(2)引用商標の周知性について
引用商標は、申立人を代表とする「切子工房RAU」に係る商品を表示するものとして関連する特定の需要者層の間では広く認識されており、末登録ではあるが、自他識別機能を備えた周知商標である。
(3)オリジナルブランド「天満切子」誕生までの経緯
大阪市北区南東部に位置する天満は、「大阪ガラス発祥之地」といわれ、江戸時代よりカットグラスが盛んに作られていたが、時代の変遷と共にガラス工場が次々と閉鎖に追い込まれたり、切子業者も廃業したりと、切子職人も激減し、昭和の終わりから平成の始め頃には実質的に(故)宇良武一のみになった。
こうした状況下、(故)宇良武一は、平成10年に宇良硝子加工所を切子工房RAUに屋号変更し、その後、同12年に新たな切子ガラス製の食器類を開発し、これを「天満切子」と命名したものであり、今日に至るまで「天満切子」のブランド名で切子ガラス製食器類を製造・販売しているのは申立人を代表とする「切子工房RAU」のみであり、「天満切子」の名称は、(故)宇良武一が自ら創作した伝統工芸品に命名した「オリジナルブランド」である。
(4)使用期間、使用地域、広告宣伝、販売数等
「天満切子」と命名した平成12年以降、申立人を代表とする「切子工房RAU」は同30年11月現在に至るまでの18年間、継続して引用商標を使用し、切子ガラス製食器類を販売している(甲16)。そして、同16年には大丸ホームショッピングで引用商標1を付した切子ガラス製食器類を販売しており(甲17)、特定の需要者層(切子ガラスの愛好者等)の間ではある程度の周知性を獲得していた。
また、引用商標に係る商品について平成14年?同22年の間の新聞掲載記事、各種雑誌等で取り上げられ、掲載されている(甲19、20)。
さらに、引用商標に係る商品は、最近のインターネット環境の普及に伴い、アマゾン、ヤフー、ウェスティンホテル大阪、帝国ホテル大阪等のWebサイトでオンラインショップ等を兼ねた宣伝広告を行っている(甲21?25)。申立人は、地元大阪でも引用商標に係る商品の広告宣伝活動を活発に行っており、また申立人以外の者の紹介記事も多数ある(甲27?29)。現在では直販のみならずオンラインショップ等を通じ、地元大阪を中心とした近畿一円を超えて、北海道から沖縄までの各地域に、引用商標に係る商品を顧客の要求に応じて配送し、これらを顧客に引き渡している(甲30)。
他方で、引用商標に係る商品は、デザインの美しさから記念品や贈答品等に重宝されており、公的機関や法人等の各種団体に納品している(甲31?36)。さらに、引用商標に係る商品は、平成29年度には一般財団法人日本工芸館主催の日本民芸公募展で大阪市長賞を受賞した(甲34)。
以上の取引の実情を考慮すると、引用商標は、現在に至るまで継続して特定の需要者層の間では申立人の業務に係わる商標を表示するものとして広く認識され、本件商標の商標登録出願時には少なくとも大阪を含む近畿一円で特定の需要者層の間では周知であった。
(5)商標法第4条第1項第10号の理由
本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念が共通する類似のものである。また、本件商標の指定商品は、「大阪市天満地域産の切り子硝子で作ったグラス」であり、引用商標に係る商品又は役務は、天満で製造した切子ガラス製の食器類、その販売、切子工芸の教授等であり、両者は原材料、品質、用途及び需要者の範囲等が一致する。
したがって、本件商標は、申立人の業務に係る商品等を表示するものとして関連する特定の需要者層の間に広く認識されている引用商標と類似の商標であって、その商品又はこれに類似する商品に使用するものであるから、商標法第4条第1項第10号の規定に違反して登録されたものである。
(6)商標法第4条第1項第15号の理由
本件商標をその指定商品に使用した場合、これに接した特定の需要者層に対し、引用商標を連想、想起させて申立人と営業上、或いは経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係わる商品と誤信させ、前記特定の需要者層が出所について混同するおそれがあり、斯かる行為は引用商標が有する顧客吸引力へのただ乗りであり、そのような行為を放置することで、その希釈化を招くおそれがあって、申立人の業務に係る商品等と混同を生じるおそれがある商標であるから、商標法第4条第1項第15号の規定に違反して登録されたものである。
(7)商標法第4条第1項第19号の理由
本件商標権者は申立人を代表とする「切子工房RAU」の元従業員であり、平成29年8月30日付けで退去し、現在では申立人とは経済的にも組織的にも何らの関係もない(甲43)。
本件商標権者は、平成29年9月1日には、他の商標登録に係る商標登録出願を行い、その約3ヶ月半後には本件商標に係る商標登録出願を行っている。このような一連の手続きの手際良さに鑑みると、本件商標権者は「切子工房RAU」を退去する前から、特定の需要者層には既に周知であった引用商標が登録されていないことを奇貨とし、出願手続きの準備を着々と進めていたと断ぜざるを得ず、斯かる行為に不正の目的があるのは明らかであり、信義則に反するものである。
本件商標は、申立人の業務に係る商品等を表示するものとして特定の需要者層には周知の商標と類似する商標であって、不正の目的で使用するものであるから、商標法第4条第1項第19号の規定に違反して登録されたものである。

4 当審の判断
(1)引用商標の周知性について
ア 申立人の提出した証拠(甲7、8、13、15?17、19)及び同人の主張並びに職権による調査によれば、以下の事実が認められる。
(ア)甲7の申立人の天満切子を紹介するパンフレット、及び甲16の切子工房RAUの商品カタログによれば、「天満切子の由来」について、「大阪の天満は、硝子と縁が深い地域です。大阪天満宮正門脇に『ガラス発祥の地』の碑があり、江戸時代に長崎のガラス職人、播磨屋久兵衛の指導のもと天満宮近くで作っていたと言われています。数十年前まで、同心・与力界隈は多くのガラス工場で活気に溢れており、その同心で宇良武一が切子職人として四十余年の経験をもとに『切子工房RAU』を創業したのが始まりです。そこで、今までにない輝きを引き出す技法で作られた切子を『天満切子』と命名しました。」と記載されている。
(イ)甲8の新聞記事(平成30年2月13日 産経新聞)によれば、「News撮 天満切子」について、「『天満切子』って知ってはりますか?かつて大阪・天満は、『大阪ガラス』発祥の地としてにぎわいを見せた。大阪天満宮の門前には、『大阪ガラス発祥之地』という石碑があり、ガラス会社大手の東洋ガラスもこの地で産声を上げた。・・・今も残るのが昭和8年に創業された『宇良硝子加工所』。平成10年には屋号を『切子工房RAU』と改め、工房代表の故・宇良武一さんが切子の製作を始めた。12年にはオリジナルブランド『天満切子』の製作・販売を開始する。・・・『天満切子って何?って言われることがまだ多い。でも大阪にもこんなええもんがあったんやって言ってもらえるようにこれからも絶やさずに伝えていきたい』大阪ガラスの歴史を受け継ぐ美しい切子が、この地に根付くことを願った。」と記載されている。
(ウ)甲13の書籍に関する記載(「江戸切子」(平成5年6月20日発行、株式会社里文出版))によれば、大阪の切子界の系統が掲載され、260頁に「現在、大阪の硝子界にあって、テーブルグラスの分野で代表される企業に、カメイガラスがある。・・・現在、大阪の切子業者の相当数は、カメイガラスの協力工場となっている。宇良硝子加工所をはじめ、林、福岡、吉村、坂本、高橋、森、柴田、柏倉などの工房が数えられ、ここで加工されたカットグラスは、最後の艶出しまで手仕上で完成される。・・・このように、大阪のカットグラスも古い伝統の中に裏書きされるように、多くの職人たちによって優れた製品を世に出してきた。」と記載されている。
(エ)甲15の「天満切子」誕生までの経緯を示した証拠によれば、「天満切子はその名の通り、大阪の淀川沿いある天満で製作されているカットグラスのことです。命名自体は比較的最近のことですが、大阪のガラス造りの歴史はとても古いものです。・・・しかし、カメイガラスが倒産してからは、それまでの仕事で培った技術を活かし、薩摩切子の技法をベースに生地の厚みを利用して蒲鉾形『U字堀り』でシンプル且つ今までにない輝きを引き出す技法を加えた天満切子を開発したというわけです。・・・天満切子はこのような大阪のガラス職人たちの歴史と気風を受け継ごうと、比較的最近になって命名された切子です。」(甲15の1 ウェブサイト記事)、「天満切子は、かつての硝子の街/大阪天満の復活を願い命名された切子工房RAUの宇良武一先生が名付けた大阪のブランド切子です。現在は後継者の不足、サンドブラストなど大量生産技法で作られる類似品 原材料価格 炉燃料の高騰など沢山の問題を抱えていますが、播磨屋清兵衛の産んだ天満ガラスの気風を今に伝え続けています」(甲15の2 ウェブサイト記事)及び「明治時代から大阪造幣局で、ガラス製造に必要なソーダを作っていたこともあり、昭和30年代までは、天満にはおおきなガラス工場が軒を並べ、切子職人が大勢いた。・・・兄栄一さんとともに父の跡を継いだ宇良硝子加工所など天満の切子職人が注文を受けて、薩摩切子を手掛けるようになった。」(甲15の3 平成14年6月26日 毎日新聞)と記載されている。
(オ)甲17の大丸ホームショッピングでの宣伝広告資料によれば、「幻の薩摩切子が大阪・天満で復活 天満切子」として、「匠の技で蘇る天満切子。 江戸末期、開発から十余年で途絶えたガラス工芸品、薩摩切子。その幻の美しさが大阪の天満で復刻され、今に蘇りました。復刻に携わった切子職人・宇良武一さんの手で誕生した天満切子をご紹介します。」と記載されている。
(カ)甲19の1の新聞記事(平成14年8月24日 産経新聞)によれば、(故)宇良武一が天満切子の技術と伝承に力を注ぎ、細工教室を開き、天満切子の継承のために弟子の育成に取り組み、伝承のための指導を行っている旨の記事が掲載されている。
(キ)職権調査の新聞記事(平成26年11月25日 毎日新聞・大阪夕刊)によれば、「天満切子:光消さぬ 最後の職人。病押し技伝授」の見出しの下、「高級カットグラス『天満切子(きりこ)』を後生に-。大阪・天満の切子職人、宇良(うら)武一さん(77)が、・・・弟子たちに製法や技術を伝えている。戦前にガラスの街として栄えた天満には大勢の切子職人がいたが、今は宇良さんしか残っていない。体調が悪く切子作りができない宇良さんは弟子たちに大阪の伝統を託そうと奮闘している。・・・現在は唯一の弟子、岩谷昌美さん(40)が宇良さんの指導を時に受けながら商品の天満切子を製作する。主婦だったが、10年以上前から宇良さんの教室に通い詰めて技を磨き、唯一の弟子と認められた。」と記載されている。
(ク)職権調査の新聞記事(平成26年3月24日 大阪読売新聞 朝刊)によれば、「[ならヒト]天神橋筋商店街に土産物店 赤尾麻衣さん23」の見出しの下、「長さ日本一とされる大阪市北区の天神橋筋商店街で、表彰用品店を経営する3代目の母江里子さんと、土産物店『天満天神MAIDO屋』をオープンする。」及び「コテコテの大阪土産ではなく、物語を秘めた上質の土産物を集めます。かつて天満かいわいでガラス産業が盛んだったことにちなんで名付けられた『天満切子』のグラスや、大阪で生まれた染色技法『注染(ちゅうせん)』で作られた手ぬぐい・・・観光客はもちろん、大阪人が他府県の人に渡す手みやげにしてもらえたらいいなって。」と記載されている。
(ケ)職権調査のウェブサイト記事(平成30年1月1日関西テレビ放映「美の匠 終わりなき挑戦?大阪・天満切子物語?」の番組内容の概要を表した記事)によれば、「天満切子生みの親は、宇良栄一さん・武一というご兄弟。かつてガラスの町として栄えていた大阪・天満でガラス職人として活躍していた。・・・2人は大阪ならではの切子を作ろうと立ち上がった。試行錯誤を繰り返し、水を入れた瞬間カットしたガラスに光が映り込んだ水面の美しさを発見し天満切子は誕生した。西川さんと天満切子の出会いは、約14年間新聞で天満切子の教室を見たのが初めてだった。切子教室に通うようになった西川さんは、熱心に教室に通い腕を上げていった。一年後には、工房の一員として切子作りをしていくことになった。宇良兄弟の思いを知るにつれ、職人として責任が芽生えた西川さん。徐々に知名度が上がったことが嬉しいと、西川さん。3年後、宇良栄一さんが倒れ、大黒柱を失い、武一さんとめまぐるしい日々を送った。後に武一さんから『昌栄』の落款を渡され、西川さんの作品に記されるようになった。・・・天満切子を作り続けた武一さんは、その後も作品を作り続け作品の魅力を伝えた。天満天神MAIDO屋を紹介。西川さんは、宇良兄弟が亡くなった時の思いを、天満切子を色んな人に伝えて、技術も伝えることが宇良さんの恩に報いることかなと思ったと語った。」と記載されている。
https://tvtopic.goo.ne.jp/kansai/program/ktv/72313/669166/
(コ)京橋経済新聞のウェブサイトにおいて、「2011.12.02 OAPでクリスマスイベント-地元伝統工芸『天満切子』のツリー登場」の見出しの下、「桜ノ宮の『大阪アメニティパーク(OAP)』(大阪市北区天満橋1)で現在、クリスマスイベント『Bright Christmas 2011?輝く光に想いを込めて?』が開催されている。・・・開業15周年を迎える今年は、『地域共生』をコンセプトに地元の伝統工芸『天満切子』をモチーフにしたツリー『TENMA KIRIKO クリスマスタワー』が登場。」及び「天満切子は、江戸時代に長崎のガラス商人によりガラス技術が天満地域に広がったのがルーツとされ、幻の切子と言われる『薩摩切子』の技術を伝承する伝統工芸。独特の丸みのあるカットデザインとツリー内部の仕掛けにより、ツリーが輝いているように見える。」と記載されている。
https://kyobashi.keizai.biz/headline/973/
イ 上記アの認定事実によれば、以下のような実情がうかがえる。
大阪の天満地域は、大阪のガラス造りの発祥の地とされ、ガラスの工場や問屋が軒を並べていたが、その後衰退し、(故)宇良武一の経営する宇良硝子加工所(平成10年に「切子工房RAU」に商号変更)が残り、(故)宇良武一が同12年に薩摩切子を元に新たな切子硝子製のグラス等を「天満切子」と称して復刻した。
申立人は、(故)宇良武一の相続人として、同地区で引用商標を申立人の業務に係る商品に使用し、事業展開していることはうかがえるものの、提出された証拠によっては、引用商標の周知性の度合いを客観的に判断するための資料、すなわち、引用商標に係る申立人の業務に係る商品の売上高や市場シェアなどの販売実績、事業規模、メディアを通じた広告・宣伝の程度(例えば雑誌の発行部数、販売地域、販売数量、インターネットのアクセス数等)その取引状況を具体的に示す証左はいずれも見いだせず、我が国における客観的な使用事実に基づいて引用商標の使用状況を把握することができないから、引用商標の周知性の程度を推し量ることはできない。
そうすると、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品を表すものとして、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されていたと認めることはできない。
(2)本件商標と引用商標について
ア 本件商標
本件商標は、別掲1のとおり、灰色の毛筆体風の「燦」の文字を大きく表示し、該文字上の中央部に黒色で毛筆体風の「天満切子」の文字を縦書きで「燦」の文字を縦断するように配した構成よりなるところ、その構成態様から、「燦」の文字と「天満切子」の文字を前後に重ねて表記した結合商標とみるのが相当である。
本件商標の構成中、「天満切子」の文字部分は、本件指定商品との関係においては、大阪市天満地域の切り子硝子を表す語、すなわち商品の品質を表す語と認識されるものであって、自他商品の識別標識としての機能を有しないものといえる。
他方、本件商標中、「燦」の文字部分は、「サン」の称呼と「きらびやかなさま」(広辞苑第六版)の観念を生じるところ、その指定商品である「大阪市天満地域産の切り子硝子で作ったグラス」との関係では、格別自他商品の識別力を欠く語であるとは認められない。
そうすると、本件商標は、その指定商品との関係においては、「燦」の文字部分が、取引者、需要者をして、商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められるから、当該文字部分を引用商標と比較して商標そのものの類否を判断することも許されるものである。
したがって、本件商標は、その要部である「燦」の文字部分から、「サン」の称呼と「きらびやかなさま」の観念を生じる。
イ 引用商標
(ア) 引用商標1
引用商標1は、別掲2のとおり、木箱の表面に黒色で毛筆体風の「天満」及び「切子」の文字の上端をややずらして二列に表示し、その左下隅に落款と思しき朱色の図形(以下これを「落款状図形」という。)を配した構成よりなるところ、その構成中の「天満」及び「切子」の文字部分は、前記アと同様に、本件指定商品との関係においては、大阪市天満地域の切り子硝子を表す語であって、自他商品の識別標識としての機能を有しないものといえる。
そうすると、引用商標1は、落款状図形の部分が独立して自他商品の識別標識として機能しているとみることができ、落款状図形をもって取引者、需要者に看取、認識されるものとみるのが相当であり、本件商標の構成中の「天満」及び「切子」の文字部分が独立して商品の自他識別標識として認識され、取引に資されるとみるべき特段の事情は見いだし得ないものである。
そして、落款状図形は、構成中に何らかの文字が書されているとしても判読が容易でなく、申立人が主張する「武山」の文字を表したものと直ちに認識されるものとは認められず、特定の事物を表したもの又は何らかの意味合いを表すものとして認識されているというべき事情は認められないから、特定の称呼及び観念は生じない。
したがって、引用商標1は、その全体及び要部である落款状図形からも特定の称呼及び観念は生じないというべきである。
(イ) 引用商標2
引用商標2は、別掲3のとおり、提灯の表面上部に円状の図形(以下、提灯及び円状図形を合わせて「提灯図形」という。)を表示し、円状図形の直下に黒色のゴシック体風に表した「天満切子」の縦書きの文字を配した構成よりなるところ、前記(ア)と同様に、その構成中の「天満切子」の文字部分は、大阪市天満地域の切り子硝子を表した語であって、自他商品の識別標識としての機能を有しないものといえ、また、提灯図形部分は、特定の事物を表したもの又は何らかの意味合いを表すものとして認識されているというべき事情は認められないから、特定の称呼及び観念は生じない。
してみれば、引用商標2は、提灯図形部分が独立して自他商品の識別標識として機能しているとみることができ、その図形をもって取引者、需要者に看取、認識されるものとみるのが相当であり、引用商標2の構成中の「天満切子」の文字部分のみが独立して商品の自他識別標識として認識され、取引に資されるとみるべき特段の事情は見いだし得ないものである。
(ウ) 引用商標3
引用商標3は、別掲4のとおり、青色の縦長の長方形の図形部分(以下「図形部分」という。)内にゴシック体風の白抜きの文字で「天満切子」と縦書きした構成よりなるところ、前記(ア)と同様に、その構成中の「天満切子」の文字部分は、大阪市天満地域の切り子硝子を表した語であるから、自他商品の識別標識としての機能を有しないものといえ、また、図形部分は、単純な図形であって、背景図形の一種と認識される態様であることから、格別に看者の注意をひくものではなく、商品の出所識別標識としての機能を有しない部分であるといえる。
そうすると、引用商標3は、図形部分と「天満切子」の文字部分とは自他商品の識別力について軽重の差は認められないものであるから、その構成全体をもって、一体不可分のものとして取引者、需要者に看取、認識されるものとみるのが相当であり、その構成中の「天満切子」の文字部分のみが独立して商品の自他識別標識として認識され、取引に資されるとみるべき特段の事情は見いだし得ないものである。
ウ 本件商標と引用商標との類否について
本件商標と引用商標とは、上記のとおりの構成からなるものであって、構成文字の相違や図形の有無などにより明らかに相違するものであるから、外観において判然と区別し得るものである。
また、本件商標及び引用商標は、上記ア及びイにおいて述べたとおり、その構成中の「天満切子」の文字部分が独立して自他商品の識別標識と認識されるものとはいえず、これに相応する称呼及び観念を生ずるものではない。そして、本件商標は、その要部である「燦」の文字部分から、「サン」の称呼と「きらびやかなさま」の観念を生じるのに対し、引用商標は、いずれも特定の称呼及び観念は生じないから、両者は称呼及び観念において、相紛れるおそれはない。
そうすると、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれはなく、両者は類似する商標ではないというべきである。
(3)商標法第4条第1項第10号該当性について
上記(1)のとおり、引用商標は、提出された資料及び職権調査からは、これが本件商標の出願時及び査定時において、他人(申立人)の業務に係る商品又は役務であることを表示するものとして、我が国(一地方においても)における需要者の間 に広く認識されているものと認めることはできないものであり、また、上記(2)のとおり、本件商標と引用商標は相紛れるおそれのない非類似の商標である。
したがって,本件商標は,本件商標の指定商品と引用商標の使用に係る商品との類否について論ずるまでもなく、商標法第4条第1項第10号に該当しない。
(4)商標法第4条第1項第15号該当性について
ア 引用商標の周知・著名性について
上記(1)のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、他人(申立人)の業務に係る商品又は役務であることを表示するものとして、我が国における需要者の間に広く認識されているものと認めることはできないものである。
イ 本件商標と引用商標との類似性の程度について
上記(2)において検討したとおり、本件商標と引用商標は、外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない別異の商標であるから、互いの類似性の程度は低いというべきものである。
ウ 引用商標の独創性について
引用商標は、いずれもその構成中に「天満切子」の文字を有するものであるが、当該文字は「大阪市天満地域の切り子硝子」ほどの意味を表してなるものであるため、造語ではなく、格別独創性が高いものとはいえず、その他、引用商標に含まれる各図形も、格別特徴的なものとはいえないことから、引用商標は独創性が高いものともいうことはできない。
エ 本件申立商品(切子ガラス製の食器類)と大阪市天満地域産の切り子硝子で作ったグラスの間の関連性、需要者の共通性について
本件申立商品(切子ガラス製の食器類)と大阪市天満地域産の切り子硝子で作ったグラスは、いずれも切子硝子商品であることから、関連性を有するものであり、また、当該商品の販売場所や需要者の範囲は共通するものといえる。
オ 出所の混同のおそれについて
上記アないしエのとおり、引用商標は申立人の取扱いに係る商品を表示するものとして、需要者の間に広く認識されているものとはいえない。
そして、本件商標と引用商標とは、上記イのとおり、類似性の程度が低い商標であり、引用商標は上記ウのとおり、その独創性が高くないことを総合的に判断すれば、本件商標に接する取引者、需要者が、引用商標を連想又は想起するものということはできない。
以上によれば、引用商標が使用されている申立人使用商品と本件商標の指定商品とが、その需要者を共通にし、関連性を有するとしても、本件商標権者が本件商標をその指定商品について使用をした場合、これに接する需要者が、引用商標を連想、想起することはなく、申立人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかと誤認し、その商品の出所について混同を生ずるおそれはない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(5)商標法第4条第1項第19号該当性について
上記(2)のとおり、本件商標と引用商標とは、相紛れるおそれのない非類似の商標であり、また、上記(1)のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国又は外国の取引者、需要者の間で、他人の業務に係る商品を表すものとして、広く認識されていたとは認められないものである。
また、申立人の提出に係る全証拠を勘案しても、本件商標権者が引用商標の顧客吸引力を利用する、又は、顧客吸引力を希釈化させる等、不正の目的をもって本件商標を出願し、登録を受けて使用していると認めるに足る具体的事実を見いだすことができない。
そうすると、本件商標は、引用商標の名声にただ乗りするなど不正の目的をもって使用をするものと認めることもできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
(6)申立人の主張について
ア 申立人は、「天満地域は、かつてはガラス工業が発達していたとはいえ、現在はオフィスビルや商業施設が中心の町並みに変貌している。このため切子ガラスの原材料となる加工前のガラス自体は、通常、中国等の海外からの輸入品を使用している。したがって、現在では地理的名称としての『天満』が、その商品(切子ガラス製食器類)の産地、原材料等を想起させるものではない。」旨主張している。
しかしながら、仮に、申立人の主張どおり、現在、天満地域において現実に本件商標の指定商品である切り子ガラスの元となるガラス製品が生産されていないとしても、「天満」という地名が切子ガラス製食器類の産地を示すものではあり得ないと考えられる特段の事情のない限り、取引者、需要者はその商品がその地で生産されているかのように思うものというべきである。そして、上記(1)イのとおり、大阪の天満地域は、大阪のガラス作りの発祥の地とされており、「天満」という地名が切子ガラス製食器類の産地を示すものではあり得ないと考えられる特段の事情はないものであるから、「天満」の文字に接した切子ガラス製食器類の取引者、需要者は、その商品がその地で生産されているかのように思うものというべきである。
イ 申立人は、引用商標を採択以降、本件商標の商標登録出願時に至るまで、「天満切子」といえば「切子工房RAU」の商品を表示するものであると、関連する特定の需要者層では広く認識されていたものであること、及び、引用商標は、従前は単に「大阪のカットグラス」と呼ばれていたものを、「切子工房RAU」の創業者である(故)宇良武一が採択した「オリジナルブランド」であり、その商品が伝統工芸品という特殊性を有することから何人も使用を欲するというものではなく、申立人を代表とする「切子工房RAU」には,引用商標の永年の継続使用により業務上の信用が化体しており、自他識別力を有するものである旨主張する。
しかしながら、「天満切子」の文字が自他商品識別力を有するかどうかは、取扱に係る商品の取引の実情から、取引者、需要者がどのような認識するかによって決せられるべきものである。そして、「天満切子」の文字は、取引者、需要者をして「大阪市天満地域産の切り子硝子」を表した語と理解されることは上記(1)の認定のとおりであり、本件商標の指定商品は、「大阪市天満地域産の切り子硝子で作ったグラス」であるから、「天満切子」の文字は、これをその指定商品に使用した場合、取引者、需要者をして、上記意味合い、すなわち当該商品の品質を表示したものと理解させるものであって、自他商品の識別標識としての機能を有しないものといえる。
ウ したがって、申立人の主張はいずれも採用することができない。
(7) むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同項第15号及び同項第19号に違反して登録されたものではないから、同法第43条の3第4項の規定に基づき、その登録を維持すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲 別掲1(本件商標)


別掲2(引用商標1。色彩は甲2号証を参照。)


別掲3(引用商標2)


別掲4(引用商標3。色彩は甲4号証を参照。)


異議決定日 2019-06-05 
出願番号 商願2017-167384(T2017-167384) 
審決分類 T 1 651・ 262- Y (W21)
T 1 651・ 222- Y (W21)
T 1 651・ 271- Y (W21)
T 1 651・ 253- Y (W21)
T 1 651・ 263- Y (W21)
T 1 651・ 255- Y (W21)
T 1 651・ 254- Y (W21)
T 1 651・ 261- Y (W21)
T 1 651・ 251- Y (W21)
T 1 651・ 252- Y (W21)
最終処分 維持  
前審関与審査官 豊田 純一 
特許庁審判長 小出 浩子
特許庁審判官 庄司 美和
木村 一弘
登録日 2018-09-14 
登録番号 商標登録第6081158号(T6081158) 
権利者 岩谷 昌美
商標の称呼 テンマキリコサン、サン、テンマキリコ 
代理人 國弘 安俊 
代理人 河野 広明 

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