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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X44
管理番号 1348888 
審判番号 取消2017-670013 
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2019-03-29 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2017-05-19 
確定日 2018-11-29 
事件の表示 上記当事者間の国際商標登録第1034831号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 国際商標登録第1034831号商標の指定役務中、第44類「Hygienic care for human beings or animals」についての商標登録を取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件国際登録第1034831号商標(以下「本件商標」という。)は「IRIDIUM」の欧文字を横書きしてなり,2010年(平成22年)3月23日に国際商標登録出願,第44類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの役務を指定役務とし,平成23年12月2日に設定登録,その後,2014年(平成26年)10月30日に基礎出願又は基礎登録の効力の一部終了により本権の登録の一部抹消が国際登録原簿に記録された結果,指定役務が,第44類「Hygienic and beauty care for human beings or animals;spa treatment;providing spa facilities;beauty salon services,namely,cosmetic body care services,massage services,manicure and pedicure services,facial treatment services,namely,cosmetic peels,body waxing services,cosmetic skin care services for the face and body.」となったものである。
そして,本件審判の請求の登録は,平成29年5月29日にされたものである。
第2 請求人の主張
請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を審判請求書及び審判事件弁駁書において要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第6号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は,その指定役務中,第44類「Hygienic care for human beings or animals」について,継続して3年以上日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存在しないから,その登録は商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきである。
2 答弁に対する弁駁
(1)本件商標及び被請求人が使用している役務について
今回の取消対象の指定役務である第44類「Hygienic care for human beings or animals」は,人又は動物のための衛生管理と訳すことができ,特許情報プラットホーム(J-PlatPat)の「商品・役務名検索」によると,「hygienic care for human beings(人のための衛生管理)」には42V02の類似群が付与され,「hygienic care for animals(動物に関する衛生)」には42V04の類似群が付与されている(甲1)。そして,特許庁「類似商品・役務審査基準〔国際分類第11類-2017版対応〕」によれば,42V02が属する役務は「医業,医療情報の提供,健康診断,歯科医業,調剤」であるところ(甲2),これらは医療を目的とした役務である。その提供場所は,病院や医師・歯科医師のクリニックであり,需要者層は治療や予防を目的とした患者である。また,42V04が属する役務は「動物の飼育,動物の治療,動物の美容」であり(甲2),動物に提供される飼育,治療,美容を目的とした役務である。そして,その提供場所は,動物園,動物病院であり,需要者は動物の飼い主や動物購入予定者である。
一方,被請求人は,ソティスジャパン株式会社(以下「ソティス社」という。)が,大阪セント・レジス・ホテル株式会社(以下「大阪セント・レジス・ホテル社」という。)から再許諾を受けて本件商標を使用して運営及びトリートメント(施術)その他のサービスを提供していると主張している。
具体的には,「顧客一人ひとりの肌質や症状に応じてエステティシャンによるカウンセリングとアドバイスを行い,肌を洗浄,清潔にし,トラブルや症状を抑える又は予防するためのスキンケア(肌の手入れ)」,「過剰な皮脂分泌物や老化角質の除去,ピーリング,フットバスといった汚れを除去し,肌を清潔・健康にすることを主たる目的とする施術」であるとのことである。
まず,スキンケアに関しては,上述の「商品・役務名検索」により,42C01の類似群に属することは明らかである(甲3)。また,ソティス社は医療法人ではなく,かつ,「肌を清潔・健康にすることを主たる目的とする施術」は,エステティシャンによって,医師がいないホテル内のエステサロン・スパで行われていることから,言い換えれば,スキンケアのためのエステティック美容であり,同役務も42C01の類似群に属している(甲3)。
なお,42C01の類似群が属する役務は「美容,理容」及び「エステティック美容」等であり(甲4,甲5),「商品及び役務の区分解説(国際分類第10版対応)(特許庁商標編)」には,「『美容』は,パーマネントウェーブ,結髪,化粧等の方法により,容姿を美しくするサービス」と説明されている(甲6)。とすると,同役務は容姿を美しくみせたい等の美容を目的としている。そして,その提供場所は,美容院や理容院,医師の在籍しないエステサロンであり,需要者はそれら店舗への来客者である。
以上より,取消対象の指定役務と被請求人が使用を主張している役務とでは,上述のとおり,役務の提供の目的(医療か美容か),提供場所(病院かエステサロンか),需要者層(患者か店舗訪問者か)のほか,付与されている類似群(42V02・42V04か42C01か)も相違していることから,要証期間内において,指定役務「Hygienic care for human beings or animals」を,本件商標に用いていないことは明白である。
(2)本件商標と被請求人の使用標章についての同一性について
被請求人は,本件商標の使用証拠を提出しているが,実際に使用されている商標は本件商標と同一又は社会通念上同一の商標ではない(商標法第50条第1項)。
ア 乙第3号証の1,乙第13号証,乙第15号証について
被請求人が提出した証拠のうち,本件商標と同一のつづりからなる商標が単独にて使用されているのは上記証拠であるが,いずれの商標も,文字の一部分が肉太化され,かつ,左端部から右端部にかけて明色から暗色へのグラデーションの色合いが施され,特徴的なデザインが付されている。一方,本件商標は黒色の単一の線のみから構成されている。
ここで,「社会通念上同一と認められる商標」は,書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標,平仮名,片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標など(商標法第50条第1項),商標の識別上重要な要素を変更しないものをいう。
被請求人が使用している商標は,上述のとおり特徴的なデザインが付されていることより,本件商標と外観上異なることは明白であり,また,着色されていることから温かみのある,癒しのイメージを看取させ得ることを考慮すると,商標の識別上重要な要素が変更されているといえる。
よって,本件商標とは同一又は社会通念上同一の商標ではない。
イ 乙第3号証の2,乙第4号証,乙第5号証,乙第9号証ないし乙第14号証,乙第16号証について
上記証拠では,本件商標に「featuring SOTHYS」が付加された「IRIDIUM featuring SOTHYS」,又は「イリディウム フィーチャリング ソティス」の使用が見受けられる。そして,我が国においては,「○○featuring(フィーチャリング)△△」の表記は,△△とコラボレーションした○○の意味合いとして認識されていることから観念上の結びつきは強く,被請求人が使用している標章からは「ソティスとコラボレーションしたイリディウム」の観念が生じる。ちなみに,大阪セント・レジス・ホテル社が,フランス発のプロフェッショナルスキンケアプロダクツであるソティスと提携していることは被請求人も認めるところである。
よって,「IRIDIUM featuring SOTHYS」,又は「イリディウム フィーチャリング ソティス」は一体不可分の一語と捉えるのが自然であり,「IRIDIUM」のみが単独では抽出,認識されず,本件商標とは社会通念上同一の商標ではない。
ウ 乙第4号証及び乙第6号証について
乙第4号証では「IRIDIUMスペシャルズ」,乙第6号証では「イリディウムスパ」の使用が見受けられるが,両者とも外観上まとまりよく構成されていることより,一体不可分の商標として捉えられるのが自然であり,「スペシャルズ」又は「スパ」の有無の点において,本件商標とは社会通念上同一の商標ではない。
エ 乙第17号証について
乙第17号証では,「イリディウム」の使用が見受けられるが,それは日本経済新聞社に紹介されている単なる記事であり,出願人本人による本件商標の使用事実を証明する証拠ではない。
(3)使用標章の使用許諾について
本件商標は,被請求人の関連会社である大阪セント・レジス・ホテル社より,ソティス社が使用許諾を受けて,本件商標を使用していることを主張している。しかしながら,本件商標の使用許諾を正式に受けていることを証明する証拠は提出されていない。
よって,ソティス社が,被請求人より,正式に使用許諾を受けていることは,証明されていない。
(4)まとめ
以上より,被請求人提出の答弁書及び全証拠をもって,本件審判の請求登録前3年以内に日本国内において商標権者,専用使用権者,通常使用権者のいずれかが,本件商標を第44類「Hygienic care for human beings or animals」について使用していることは証明されていない。
第3 被請求人の主張
被請求人は,本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を答弁書及び審尋に対する回答書において要旨以下のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第21号証(枝番を含む。)を提出した。
1 答弁の理由
(1)被請求人は,世界的に知られたホテルチェーンである「Sheraton」及び系列の「St.Regis」ブランドのホテル事業等を管理する米国法人であるところ,同ホテルチェーンが日本初の「St.Regis」ブランドのホテルとして平成22年(2010年)10月に開業した「セントレジスホテル大阪」(大阪市中央区:乙2)内のホテル14階に同ホテル開業時にオープンしたエステティック(美容)サロン・スパにおいて,本件商標をその指定役務に関して,現在まで継続して使用している(乙3?乙5)。
(2)被請求人は,「Sheraton」,「St.Regis」に代表される計11のブランドのホテルやリゾートを展開する米国Starwood Hotels & Resorts Worldwide,LLC(以下「スターウッド・ホテル&リゾート社」という。(乙7))の企業グループに属する会社であり,スターウッド・ホテル&リゾート社又はその関連会社が運営する「Sheraton」及び「St.Regis」ホテルブランドに関連する世界各国の商標を保有し,ブランドの管理を行っている(乙8)。スターウッド・ホテル&リゾート社の関連会社の大阪セント・レジス・ホテル社が運営する「セントレジスホテル大阪」においても,被請求人の許諾・管理のもと,本件商標「IRIDIUM」を含む「St.Regis」ホテルブランドに関する商標が使用されている(乙2,乙3)。
なお,本件の「セントレジスホテル大阪」内のエステティック(美容)サロン・スパ「IRIDIUM(イリディウム)」(以下「当サロン」という。)は,スターウッド・ホテル&リゾート社の関連会社である大阪セント・レジス・ホテル社が,生物学を専門とする医師(Dr.ホッツ)の手によってフランスで誕生したプロフェッショナルスキンケアブランドである「Sothys(ソティス)」と提携し,ソティス社が,大阪セント・レジス・ホテル社から再許諾を受け本件商標を使用して運営及びトリートメント(施術)その他のサービスを提供している(乙3?乙5)。その関係で,当サロンの名称としては「IRIDIUM(イリディウム)」のほか,「IRIDIUM featuring SOTHYS(イリディウム フィーチャリング ソティス)」が用いられている。
上記ソティス社が,本件商標の使用許諾を受けていることについては,同社が「セントレジスホテル大阪」内で「IRIDIUM」の商標を使用して当サロンを運営していることから明らかであるが,必要がある場合は,契約書を提出する準備がある。
(3)前述した当サロンにおけるトリートメント(施術)は,本件商標の指定役務「Hygienic and beauty care ?(衛生及び美容ケア);spa treatment(温泉療法):beauty salon services ?(美容施設の提供)」その他記載のとおり,顔(フェイシャル),身体(ボディ),ネイルといった全身の「容姿を清潔にして健康で美しくする」ためのケア(手入れ),肌の角質や老廃物の除去,マッサージ,アロマセラピーなど広範にわたる(乙3?乙5)。
「衛生」とは,「身の回りを清潔にして健康を保ち,病気にかからないようにすること」(「大辞林」第三版 株式会社三省堂)であり,当サロンの行うトリートメント(施術)に関していえば,顧客一人ひとりの肌質や症状に応じてエステティシャンによるカウンセリングとアドバイスを行い,肌を洗浄,清潔にし,トラブルや症状を抑える又は予防するためのスキンケア(肌の手入れ)は明らかに「Hygienic care(衛生的ケア)」であって,これは当サロンのすべてのトリートメント(施術)メニューに含まれているものである。また,過剰な皮脂分泌物や老化角質の除去,ピーリング,フットバスといった汚れを除去し,肌を清潔・健康にすることを主たる目的とする施術(すなわち,衛生を主たる目的とする施術)も用意されており,これが「Hygienic care(衛生的ケア)」にあたることは明白である。
(4)本件審判の請求の登録(平成29年5月29日)前3年以内に,その請求に係る指定役務,第44類「Hygienic care for human beings or animals(訳:人又は動物に関する衛生)」について,本件商標「IRIDIUM」を使用した具体的証拠を以下に挙げる。
ア 「セントレジスホテル大阪」公式ウェブサイト広告(乙3の1)
「セントレジスホテル大阪」公式ウェブサイトにおいて当サロン「IRIDIUM(イリディウム)」及びその提供するスキンケア(肌の手入れ)やトリートメント(施術)について広告し,本件商標「IRIDIUM」を表示している。
イ ソティス社 サロン案内 広告(乙5)
ソティス社ウェブサイトのセントレジスホテル大阪「IRIDIUM featuring SOTHYS」のページにおいて,当サロン及びその提供するスキンケア(肌の手入れ)を含むトリートメント(施術)メニュー等について広告し,本件商標「IRIDIUM」を表示している。
ウ 2016年7月20日 キャンペーン広告(乙9,乙10)
当サロンが美容サロン・スパの分野で世界的に権威ある「World Luxury Spa Awards」の「2016年ワールド・ラグジュアリー・エマージング・スパ・アワーズ賞」を受賞したことを記念し,2016年12月末までの特別プラン・料金として,例えば「ラグジュアリーデイスパプラン期間限定特別プラン:フェイシャル&ボディフルコーストリートメント(顔・全身の衛生及び美容のための施術)とスパステイがセットになったプラン¥50,000」等の告知を行い,これに本件商標「IRIDIUM」を表示している。
エ 2015年7月6日 キャンペーン広告(乙9,乙11)
当サロンが前記「World Luxury Spa Awards」の「2015年ワールド・ラグジュアリー・エマージング・スパ・アワーズ賞」を受賞したことを記念し,特別プラン・料金の告知を行い,これに本件商標「IRIDIUM」を表示している。
オ 2016年4月1日 キャンペーン広告(乙12,乙13)
当サロンが「美食と美肌のスペシャルコラボレーション」と銘打って,2016年4月1日から6月30日までのキャンペーン期間中に,当サロンの「肌質別フェイシャル」「アロマボディートリートメント」その他のトリートメント(施術)とホテル内レストランでの食事とを組み合わせたプラン・料金の告知を行い,これに本件商標「IRIDIUM」を表示している。
カ 2016年1月8日 ホテル季刊紙広告(乙12,乙14)
当サロンの広告が「セントレジスホテル大阪」の季刊紙に掲載され,前記「World Luxury Spa Awards」の「2016年ワールド・ラグジュアリー・エマージング・スパ・アワーズ賞」にノミネートされたことや当サロンの写真とともに,本件商標「IRIDIUM」が表示されている。
キ 2015年10月29日 特別プラン広告(乙12,乙15)
当サロンがセントレジスホテル大阪開業5周年特別プラン「至福のトリートメント(施術)エクスペリエンス」(特別価格¥50,000)の告知を行い,これに本件商標「IRIDIUM」を表示している。
ク 2015年6月15日 アワード受賞特別プラン広告(乙12,乙16)
当サロンが前記「World Luxury Spa Awards」の「2015年ワールド・ラグジュアリー・エマージング・スパ・アワーズ賞」を受賞したことを記念し,アワード受賞特別プラン・料金等の告知を行い,これに本件商標「IRIDIUM」を表示している。
ケ 2015年8月8日 日本経済新聞記事(乙12,乙17)
当サロンの男性向けのフェイシャルトリートメント(施術)が人気で「写真(4)-セントレジスホテル大阪のスパ『イリディウム』では男性専用のマスクでフェーシャルを手入れ」等と紹介する記事が掲載された。
(5)上記アないしケのウェブサイトやキャンペーン等の広告においては,本件商標「IRIDIUM」が,容易に目につく配置,かつ顕著な態様で表示されており,色彩が付されているものの,登録商標と実質的に同一又は商標法第50条第1項に規定する「社会通念上同一と認められる商標」である。
また,上記ケの新聞記事によれば,当サロンの名称として,本件商標「IRIDIUM」の欧文字の表示を片仮名に「相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標」「イリディウム」を使用していたことは明らかである。
(6)これらウェブサイトやキャンペーン広告,新聞記事の対象であるサービスは,明らかに顔や身体をケア(手入れ)し容姿を清潔にして健康で美しくするための「衛生」及び美容のためのトリートメント(施術)である。特に,前記(3)で述べたとおり当サロンのすべてのトリートメント(施術)に含まれるスキンケア(肌の手入れ),過剰な皮脂分泌物や老化角質の除去,ピーリング,フットバスといった汚れを除去し,肌を清潔・健康にすることを主たる目的とする施術(すなわち,衛生を主たる目的とする施術)が「Hygienic care(衛生的ケア)」にあたることは明白であって,本件審判請求に係る指定役務,第44類「Hygienic care for human beings or animals(訳:人又は動物に関する衛生)」に相当する。
(7)上記は,本件商標を「役務に関する広告,価格表若しくは取引書類に付して展示し,若しくは頒布し,又はこれらを内容とする情報に付して電磁的方法により提供する行為」(商標法第2条第3項第8号)であり,したがって,商標法第50条第1項に規定する「登録商標の使用」に該当する。
2 被請求人に対する審尋(要旨)
(1)使用役務について
被請求人の提出した乙各号証からは,「Hygienic care for human beings or animals」(人又は動物に関する衛生)の役務に本件商標と社会通念上同一の商標を使用していると認めることができない。
(2)通常使用権について
被請求人は,「ソティス社が,大阪セント・レジス・ホテル社から再許諾を受け本件商標を使用して運営及びトリートメント(施術)その他のサービスを提供している。」旨を主張しているが,被請求人と「IRIDIUM」の商標を使用しているソティス社との関係が不明であり,また,ソティス社が本件商標のいかなる使用者であるかも不明である。
3 審尋に対する回答書(平成30年4月23日付け)
(1)使用役務について
本件の指定役務である「Hygienic care for human beings and animals」すなわち「人又は動物に関する衛生」の「衛生」とは,「身の回りを清潔にして健康を保ち,病気にかからないようにすること」(「大辞林」第三版)であり,乙第2号証ないし乙第17号証のとおり当サロンにおいて提供されている顧客一人ひとりの肌質や症状に応じてエステティシャンによるカウンセリングとアドバイスを行い,肌を洗浄,清潔にし,トラブルや症状を抑える又は予防するためのスキンケア(肌の手入れ)や,過剰な皮脂分泌物や老化角質の除去,ピーリング,フットバスといった汚れを除去し,肌を清潔・健康にすることを主たる目的とする施術(すなわち,衛生を主たる目的とする施術)の提供は「人に関する衛生」にあたる役務である。
(2)通常使用権について
ア 被請求人と大阪セント・レジス・ホテル社の関係
被請求人は,「Sheraton」,「St.Regis」に代表される計11ブランドのホテルやリゾートを世界規模で展開する米国「スターウッド・ホテル&リゾート社」の企業グループに属する会社であり,同社又はその関係会社が運営する「Sheraton」及び「St.Regis」ホテルブランドに関連する世界各国の商標を保有し,ブランドの管理を行っている。
他方で,大阪セント・レジス・ホテル社は,「セントレジスホテル大阪」を運営する同じく「スターウッド・ホテル&リゾート社」に属する被請求人の関連会社で,被請求人より,当該ホテルに関連して,本件商標「IRIDIUM」を含む「St.Regis」ホテルブランドに関連する商標を使用する権限を付与されている。
イ 大阪セント・レジス・ホテル社とソティス社の関係
ソティス社は,スキンケアブランド「Sothys(ソティス)」を運営しており,大阪セント・レジス・ホテル社と提携し,委託を受け,「セントレジスホテル大阪」内のエステティック(美容)サロン・スパ「IRIDIUM featuring Sothys」を運営している。また,同社は,この関係で,大阪セント・レジス・ホテル社より,本件商標「IRIDIUM」を使用する権限を付与(再許諾)されている。これを証するため,大阪セント・レジス・ホテル社とソティス社間のライセンス契約(抜粋:乙20)を提出する。
(3)小括
以上のとおり,本件商標の使用については,被請求人が,大阪セント・レジス・ホテル社に許諾し,さらに,大阪セント・レジス・ホテル社がソティス社に対し再許諾しているものであって,ソティス社による本件商標の使用は,商標の通常使用権者による本件商標の使用にあたる。
4 まとめ
以上述べたとおり,被請求人又は通常使用権者により,本件商標は,本件審判の請求の登録前3年以内に,日本において,その指定役務中,第44類「Hygienic care for human beings or animals」について使用されている。
第4 当審の判断
1 被請求人の提出に係る証拠及び主張によれば,以下の事実を認めることができる。
(1)乙第2号証について
乙第2号証の1は,「セントレジスホテル大阪」の公式ウェブサイトであるところ,その1葉目の左上部に,「S」と「R」の欧文字をモノグラム風にした図形と「ST REGIS」の欧文字が表示されている。
(2)乙第3号証について
乙第3号証の1は,「セントレジスホテル大阪」の公式ウェブサイトであるところ,その1頁目上部には,「ST REGIS」に係る標章,「セントレジスホテル大阪・・・/541-0053,日本,大阪府,大阪市,中央区本町3丁目6-12・・・」の表示があり,その下に「IRIDIUM」の文字が表示され,中程には,「エステティックサロン/IRIDIUM featuring SOTHYS」の表示があり,その右側の項目欄に,「フェイシャルトリートメント」,「スペシャルボディトリートメント」,「ネイル」等の表示がある。
乙第3号証の2は,「スターウッド・ホテル&リゾート」の公式ウェブサイトであるところ,その1葉目の上部には,「セントレジスホテル大阪」の見出しの下,「セントレジスホテル大阪/エステティックサロン“IRIDIUM Featuring SOTHYS”」の項において,「あらゆるスキン&ボディーケアのニーズに沿ってデザインした,典型的なフランス式ボディートリートメントをご満喫いただける極上のオアシスです。」の記載,その2葉目には,「『エステティックサロン“IRIDIUM Featuring SOTHYS”』には,フェイシャルやボディーケア,メンズケア,サンケア,メイクアップ,スペシャルトリートメントなどの各種の高級ソティス製品を取りそろえております。」の記載がある。
(3)乙第5号証について
乙第5号証は,ソティス社のウェブサイトであるところ,その1頁目の上部に「IRIDIUM featuring SOTHYS/セントレジスホテル大阪」の表示があり,中段に「トリートメントメニューは,本格的なスキンケアと真のリラクゼーションによる心身の再生を目的とした60種にも及ぶ豊富なメニュー・・」の記載があり,最下段には「トリートメントメニュー」の見出しの下,その2頁目以降には「フェイスケア/・・・上質な素肌美に磨き上げます。」,「ボディケア/・・・満足のいくトリートメント効果が可能となりました。」及び「コンビネーショントリートメント/フェイスとボティの組み合せ。一度に全身をリラックス感へと導く特別なコンビネーションコースです。」の記載がある。
(4)乙第8号証について
乙第8号証の1は,商標登録第5221840号「ST.REGIS(図形)」の特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)の商標出願・登録情報のウェブページであるところ,上部に「登録番号 第5221840号」,その右に登録商標(以下「別件登録商標」という。:別掲)が表示され,その下に「権利者 シェラトン インターナショナル アイビー リミテッド・ライアビリティ・カンパニー」,「住所又は居所 アメリカ合衆国 06902 コネティカット州 スタンフォード ワン・スターポイント」,「【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】 43 宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」等の記載がある。
(5)乙第10号証について
乙第10号証は,ソティス社のウェブサイトであるところ,その1頁目には「キャンペーン」の表示の下の四角枠内に,「IRIDIUM」の文字及び「IRIDIUM featuring SOTHYS/イリディウム フィーチャリング ソティス」の文字が表示され,その下部には,「Special Plan アワード受賞特別プラン(2016年12月末まで)」の見出しの下,「Plan1(「1」は,ローマ数字)【Day Spa】ラグジュアリーデイスパプラン期間限定特別プラン」として,「ソティス最高峰のフェイシャル&ボディフルコーストリートメント180分とスパスティがセットになったディスパプラン。」の記載がある。
(6)乙第13号証について
乙第13号証は,ソティス社のフェイスブックであるところ,その2葉目の上部の写真内には「キャンペーン期間」として「2016 4/1fri.?6/30thu.」の記載があり,中程に「スタンダードプラン」として,「フェイシャルプラン」,「ボディプラン」,「コンビネーションプラン」,「ネイルプラン」の記載がある。また,左下には,「IRIDIUM」の文字及び「イリディウム フィーチャリング ソティス IRIDIUM featiring SOTHYS」の文字の記載がある。
(7)乙第17号証について
乙第17号証は,その2葉目には,2015年(平成27年)8月8日付け日本経済新聞(夕刊)の記事であるところ,該記事には「男も磨くホテルスパ/非日常感覚でリフレッシュ」の見出しの下,「関西きっての高級ホテル,セントレジスホテル大阪(大阪市)内にあるスパ『イリディウム フィーチャリング ソティス』でも,男性向けのプログラムが人気だ。来店客の3割強は男性が占め,ボディーケアだけでなく『フェーシャルの手入れを受ける企業のエグゼクティブの方が徐々に増えています。』」の記載がある。
(8)乙第14号証ないし乙第16号証について
これらの証拠は,ソティス社のフェイスブックであるところ,「IRIDIUM」の文字の表示がある。
(9)乙第20号証について
乙第20号証は,「スパ・サブリース契約」とされる英文であり,2015年10月1日付けで,大阪セント・レジス・ホテル社とソティス社の間で締結されたものである。
そして,その訳文の第28条「商標に関する権利の許諾」の第28.1条には,許諾商標の使用において,「・・・許諾商標を、第1.1条及び別紙C記載の態様において、テナントの知的財産権にかかる標章とともに、使用、複製又は表示する権利(非独占的、譲渡不可)を無償にて許諾する。・・・」の記載があり,その契約書の最後に,「セントレジスホテル大阪」の文字,住所,総支配人の氏名及び押印があり,その右には,「ソティスジャパン株式会社」の文字,住所,代表取締役の氏名及び押印があり,別紙Cには「許諾商標」として「IRIDIUM」の標章が表示されている。
2 上記1で認定した事実によれば,以下のとおり判断できる。
(1)使用に係る商標について
大阪セント・レジス・ホテル社及びソティス社のウェブサイト又はフェイスブックに表示されている「IRIDIUM」の標章(以下「使用商標」という。)は,本件商標と色彩は異なるものの,文字種及びつづりを同一にするものであるから,本件商標と社会通念上同一の商標といえる(乙3の1,乙10,乙13等)。
(2)使用商標の使用者について
被請求人(商標権者)は,本件商標の商標権者であり,乙第8号証の1の別件登録商標(別掲)の権利者でもある。
そして,「セントレジスホテル大阪」の公式ウェブサイト(乙2,乙3の1)には,別件登録商標と類似した図形及び「ST REGIS」の文字が表示さていることからすれば,被請求人(商標権者)は,大阪セント・レジス・ホテル社が運営管理する「セントレジスホテル大阪」に別件登録商標を使用させているとみるのが自然である。
そうすると,本件商標についても,被請求人(商標権者)は,大阪セント・レジス・ホテル社に黙示の使用許諾を与えていたものと推認することができる。
また,大阪セント・レジス・ホテル社は,「スパ・サブリース契約」(乙20)をソティス社の間で締結し,その契約書の中で「商標に関する権利の許諾」の条項を設け,「許諾商標」として「IRIDIUM」の標章を許諾している。
以上のことからすれば,被請求人(商標権者)は,本件商標の使用について「セントレジスホテル大阪」を運営管理する大阪セント・レジス・ホテル社に許諾し,さらに,大阪セント・レジス・ホテル社は,ソティス社に本件商標を再許諾したと認めることができる。
したがって,ソティス社は,本件商標の通常使用権者といっても差し支えないものである。
(3)使用役務及び役務の提供場所について
使用商標を表示したソティス社による「エステティックサロン」が,「セントレジスホテル大阪」内で営業されており,当サロンにおいて,「フェイシャルトリートメント」,「フェイスケア」,「ボディトリートメント」,「ボティケア」,「ネイル」等の顔,体,爪の手入れ等の美容に関する役務に使用されていることが認められる(乙3の1,乙3の2,乙5,乙13,乙17等)。
そして,「エステティックサロン」の語は,「全身美容を業とする施設」(「広辞苑」(第六版)株式会社岩波書店),「全身美容の美容院」(「デジタル大辞泉」株式会社小学館),「全身美容を行う美容院」(「大辞林」(第三版)株式会社三省堂)等の意味を有する語である。
そうすると,ソティス社は,「エステティックサロン」を運営している企業であり,証拠として提出したウェブサイト(乙3の1,乙3の2,乙5,),フェイスブック(乙13)及び新聞記事(乙17)の記載内容から判断すれば,同人は,「人に関する美容(beauty care for human beings)」の役務を行っていたものと認められる。
しかしながら,これらの証拠からは,ソティス社が,本件審判の請求に係る指定役務「Hygienic care for human beings or animals (参考訳:人又は動物に関する衛生)」を提供していた事実を確認することができない。
その他,被請求人が提出した証拠においては,被請求人が,本件審判の請求に係る指定役務を行っている事実は見いだせない。
(4)小括
以上を総合すると,通常使用権者であるソティス社が,本件商標と社会通念上同一の商標を使用していたといえるものの,その使用は,人に関する美容(beauty care for human beings)の役務についての使用であって,本件審判の請求に係る指定役務「Hygienic care for human beings or animals (参考訳:人又は動物に関する衛生)」についての使用とは認められない。
その他,通常使用権者(ソティス社)が,指定役務「Hygienic care for human beings or animals (参考訳:人又は動物に関する衛生)」について本件商標の使用をしたと認めるに足りる証拠はない。
3 被請求人の主張について
被請求人は,「『衛生』とは,『身の回りを清潔にして健康を保ち,病気にかからないようにすること』(「大辞林」第三版 株式会社三省堂)であり,当サロンの行うトリートメント(施術)に関していえば,顧客一人ひとりの肌質や症状に応じてエステティシャンによるカウンセリングとアドバイスを行い,肌を洗浄,清潔にし,トラブルや症状を抑える又は予防するためのスキンケア(肌の手入れ)は明らかに「Hygienic care(衛生的ケア)」であって,これは当サロンのすべてのトリートメント(施術)メニューに含まれているものである。また,過剰な皮脂分泌物や老化角質の除去,ピーリング,フットバスといった汚れを除去し,肌を清潔・健康にすることを主たる目的とする施術(すなわち,衛生を主たる目的とする施術)も用意されており,これが『Hygienic care(衛生的ケア)』にあたることは明白である。」旨を主張している。
しかしながら,「トリートメント」とは,「髪や肌の手入れ。また,手入れに使う化粧品。」(「広辞苑」(第六版)株式会社岩波書店)等の意味を有する語である。
そして,トリートメント(髪や肌の手入れ)を行う場合は,まず,これに先立ち髪や肌の汚れを落とし,洗浄し,清潔にしなければ,これから行うトリートメント(髪や肌の手入れ)の効果が上がらないものであり,必要なことであるが,これは,あくまでトリートメント(髪や肌の手入れ)を行う前段階の工程であって,これのみの役務を行っているのではなく,その後に行う,髪や肌にクリームや化粧品等を使用してマッサージ等をして手入れを行うことが目的の役務である。
また,上記の「Hygienic」の文字は,「衛生,衛生学,衛生法」を意味する英語であり,「衛生」の文字は,「健康を保ち,病気にかからないようにすること。」(「大辞林」株式会社三省堂),また,「健康の維持と向上を図るとともに,疾病の予防と治療につとめること。」(「デジタル大辞泉」株式会社小学館)等を意味する語である。
そうすると,ただ,髪や肌を洗浄し,清潔にすることは,「衛生」とは異なるものである。
してみれば,上記のとおり,使用商標は,「フェイシャルトリートメント」,「フェイスケア」,「ボディトリートメント」,「ボティケア」,「ネイル」等に使用され,もっぱら,顔,体,爪の手入れ等に使用されていることが認められ,これは,美容に関する役務に使用されているものであるから,本件審判の請求に係る指定役務に使用されていないものと認められる。
よって,請求人の上記主張は,採用することができない。
4 むすび
以上のとおり,被請求人は,本件審判の登録前3年以内に,日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが,請求に係る指定役務について,本件商標を使用したことを証明したものと認めることはできない。
また,被請求人は,その指定役務について本件商標を使用していないことについて正当な理由があることも明らかにしていない。
したがって,本件商標の登録は,商標法第50条の規定により,その指定役務中「Hygienic care for human beings or animals」についての登録を取り消すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 【別記】

審理終結日 2018-06-29 
結審通知日 2018-07-03 
審決日 2018-07-26 
審決分類 T 1 32・ 1- Z (X44)
最終処分 成立  
前審関与審査官 濱田 佐代子 
特許庁審判長 井出 英一郎
特許庁審判官 榎本 政実
鈴木 雅也
登録日 2010-03-23 
商標の称呼 イリジウム、イリディアム 
代理人 山田 卓二 
代理人 和田 信博 
代理人 秋山 朋子 
代理人 田中 陽介 

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