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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない W43
管理番号 1346828 
審判番号 取消2016-300826 
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2016-11-24 
確定日 2018-07-02 
事件の表示 上記当事者間の登録第5632504号商標の登録取消審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5632504号商標(以下「本件商標」という。)は,「繁昌亭」の文字を標準文字で表してなり,平成25年6月26日に登録出願,第43類「飲食物の提供,宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,動物の宿泊施設の提供,会議室の貸与,展示施設の貸与,布団の貸与,まくらの貸与,毛布の貸与,加熱器の貸与,食器の貸与,調理台の貸与,流し台の貸与」を指定役務として,同年11月22日に設定登録されたものである。
なお,本件審判の請求の登録日は,平成28年12月6日であり,商標法第50条第2項に規定する「審判の請求の登録前3年以内」とは,同25年12月6日から同28年12月5日(以下「要証期間」という場合がある。)である。

第2 請求人の主張
請求人は,商標法第50条第1項の規定により,本件商標の指定役務中,「飲食物の提供」についての登録を取り消す,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を審判請求書,審判事件弁駁書,口頭審理陳述要領書及び上申書において,要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第5号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は,本件審判請求日において既に登録後3年以上経過しており,しかもこの間,被請求人は,本件商標をその指定役務中「飲食物の提供」について使用した事実は存在しない。
したがって,本件商標は,継続して過去3年以上日本国内において上記役務について使用されていないものであるから,商標法第50条第1項の規定によりその登録は取り消されるべきである。
2 答弁に対する弁駁
(1)「繁昌亭カレー」の使用は,本件商標の権利者又はその使用権者による使用ではない。
まず,被請求人は,同人自身が,本件商標である「繁昌亭」を,第43類「飲食物の提供」について要証期間内に使用していることについて,何ら立証をしていない。また,被請求人は,「本件商標は公益社団法人上方落語協会(以下「上方落語協会」という場合がある。)が登録権利者であるが,実質同一人の落語の定席である『天満天神 繁昌亭』(大阪市北区天神橋2-1-34)が使用している」と述べているが,「実質同一人」の意味を十分説明しておらず,仮に別人格であるとしても「天満天神 繁昌亭」がその使用権者であることの証明もない。
なお,請求人は,「天満天神 繁昌亭」はそれ自体法人格を有しない存在であって,そもそも使用権者となり得ないものであると推測する。さらに,被請求人は,「この『繁昌亭』の名称は開業と同時に近隣の飲食店で使用され,今日も『天満天神 繁昌亭』門前において『喫茶ケルン』が使用している」と述べているが,乙第9号証等から,「喫茶ケルン」について,1972年7月にオーナーである井上氏がオープンし,今日まで40年以上に渡って「天満天神 繁昌亭」門前において喫茶・食堂を営業していることは推察されるものの,被請求人と井上氏との関係は何ら説明されておらず,両者間に通常使用権の設定行為が当時から存在したことの言及は一切ない。
被請求人の答弁全体からは,「天満天神 繁昌亭」の開業で盛り上がる2006年当時に,近隣の飲食店の一つである「喫茶ケルン」が,「繁昌亭」の名にあやかって「繁昌亭カレー」なるカレーを提供し始めたことは推測できるものの,答弁書に添付されている各書証から,通常使用権の設定行為に相応しい許諾を被請求人から井上氏が得ていたという事実は認められない。
乙第8号証中,「こちらの名物が桂三枝上方落語協会会長命名の『繁昌亭カレー』。」とあるものの,その事実を客観的に証明する証拠は提出されておらず,また,桂三枝(現桂文枝)氏の命名が仮に事実であるとしても,それのみをもって,直ちに被請求人から井上氏に通常使用権の設定行為があったと断ずることもできない。
また,乙第9号証及び乙第10号証の陳述書にも,通常使用権設定の事実を証する証言は一切ない。乙第10号証は,上記「天満天神 繁昌亭」の支配人と称する者の陳述であるが,支配人自身が,被請求人の代表権を有する人物とは思われないのみならず,「繁昌亭カレー」の名称が2007年当時に名物カレーとして親しまれていたことを証言するにすぎず,井上氏が通常使用権者であることを証明するものではない。すなわち,被請求人による許諾の意思表示が明確に存在したわけではなく,「喫茶ケルン」が,単に「繁昌亭」の人気にあやかって使用していたという上記推認を否定する合理的な証明がなされたとはいえない。
(2)「繁昌亭カレー」は,本件商標と社会通念上同一ではない。
被請求人の提出する各書証に表示されている「繁昌亭カレー」の文字は,本件商標である「繁昌亭」と,「カレー」の文字の有無において異なる。すなわち,「繁昌亭カレー」の構成中「カレー」は,「飲食物の提供」役務において提供される飲食物の一種を示すものであるとしても,乙第1号証ないし乙第6号証において表示されている「繁昌亭カレー」の文字は,「喫茶ケルン」独自のメニュー名として不可分一体に用いられているようであり,「繁昌亭」の文字部分が単独で,その出所を認識され得るように用いられていない。「ハンジョウテイカレー」の称呼がことさら冗長でもなく,また,上記各書証において,「繁昌亭カレー」の構成中「繁昌亭」がとりわけ強調されて使用されていないことからも,各書証における「繁昌亭カレー」の文字は,構成全体として不可分一体に把握されるべきであり,本件商標「繁昌亭」と社会通念上同一とはいえない。
(3)「繁昌亭カレー」の使用は,要証期間内の使用ではない。
被請求人は,「2006年9月から『繁昌亭カレー』の名称を使用している」と述べているが,それを証明する証拠(上記喫茶店の伝票,領収書等,日付を記載した取引書類など)は提出されていない。また,乙第1号証ないし乙第6号証の写真は,被請求人代理人弁理士が平成28年12月13日に現地において撮影したようであるが,平成28年12月13日は要証期間外である。
(4)「繁昌亭カレー」の使用は,商標,すなわち出所表示標識としての使用ではない。
被請求人は,「その著名な定番メニューに『繁昌亭カレー』があるが,『喫茶ケルン』が『天満天神 繁昌亭』の開業とほぼ同時の2006年9月から『繁昌亭カレー』の名称を使用している」と述べている。
しかし,「メニュー」とは「献立,献立表」を意味するところ(甲1),乙第6号証が示すものは,お昼のメニュー表であり,「繁昌亭カレー」の表示の右下方には「辛口です」の文字と,その文字のさらに右方にカレーライスと思しき図柄と,その価格と思われる「¥600」の記載がある。同様に,その下方には,「ドライカレー ¥600」,「ピラフ¥600」と各献立が列挙されている。甲第2号証として提出する写真に示すように,これらの各献立の下方には,さらに,焼きそば,ハンバーグ定食,焼きそば定食,サンドイッチなども羅列されており,様々な料理が店内で提供されている。
また,乙第1号証ないし乙第3号証に示すように,「繁昌亭カレー」の表示は,同列を意味する「&」で「COFFEE」の文字が繋がれている。さらに,乙第8号証に記載された「上方落語唯一の寄席である天満天神繁昌亭と大阪天満宮が目の鼻の先にある喫茶ケルン」,「こちらの名物が桂三枝上方落語協会会長命名の『繁昌亭カレー』」。「普通に美味しいカレーです。正直言って感動するような味ではありませんが,話のネタにどうぞ。」のコメントからは,ブログの記述者が,「繁昌亭カレー」を喫茶ケルンで提供している料理のひとつと認識していると推認することができる。
このように,「繁昌亭カレー」は,「ドライカレー」や「ピラフ」と同様に,その店で提供される料理の一品目にすぎない。従前から提供していた既存のメニューである「カレー」を特別に売り出そうと考えたがゆえに,「天満天神 繁昌亭」の人気に因んで,「ドライカレー」や「ピラフ」とは異なり,「カレー」だけ「繁昌亭カレー」と表示したことは想像に難くなく,これらの事情から,需要者(来店する顧客)にとって,「繁昌亭カレー」は,あくまで数ある献立のうちの一品目として認識されるにすぎない。
そもそも,「飲食物の提供」役務における出所表示標識とは,典型的にその提供する店舗の名称,すなわち店名であることは疑いない。
よって,数あるメニュー中の一品目がその役務の出所それ自体を表示する標識として直ちに認識されるとはおよそ考えられない。すなわち,当該品名が,すでに店名と同視し得るほどに,高い名声を獲得し,関連する需要者の認識が確立されない限り,メニュー中の一品目の名称をもって「飲食物の提供」役務の出所表示標識として機能するとはいえないと解すべきである。
この点,答弁書に添付された各書証のみをもって,「喫茶ケルン」において提供されている「繁昌亭カレー」が,店名である「喫茶ケルン」と同視できる程に,「看板メニュー」として相応しい高い名声を獲得していたことは十分に立証されていない。すると,「繁昌亭カレー」は,喫茶ケルンで提供される料理の名称であって,第43類「飲食物の提供」役務の出所を表示するための商標として用いられているものではない。
本件の場合,第43類「飲食物の提供」に使用されている商標は,喫茶・食堂の名称である「喫茶ケルン」である。
ちなみに,「1972年7月にオーナーである井上和彦氏がオープンし,今日まで40年以上に渡って『天満天神 繁昌亭』門前において喫茶・食堂を営業している」とあるとおり,「喫茶ケルン」は,「天満天神 繁昌亭」の開業とは関係なく,むしろその開業以前から,ずっとその地で「喫茶ケルン」として喫茶・食堂を営んできたのである。つまり,「喫茶ケルン」において,「飲食物の提供」役務の出所を表す商標は,「喫茶ケルン」の表示に他ならない。
ところで,商標の使用は,商標法第2条第3項各号において規定されているところ,本件の場合,「繁昌亭カレー」,「ドライカレー」,「ピラフ」などの文字をメニューに表示する行為は,商標法第2条第3項第8号にいう「商品若しくは役務に関する価格表に展示する」行為に該当するとしても,そもそも需要者は,これらの文字を,喫茶ケルンで提供される料理の一品目として捉えると考えるのが自然であり,被請求人の業務に係る喫茶・食堂の商標として捉えているとは考えにくい。
他方,喫茶ケルンは,料理名以外の局面で,本件商標「繁昌亭」それ自体を用いて飲食物(カレー,ドライカレー,ピラフ,コーヒーなど)を提供しているわけでもない。すなわち,上述に係る「繁昌亭カレー」の表示の使用事実のみをもって,本件商標たる「繁昌亭」が,「飲食物の提供」役務の出所を表示するものとして使用されているとはいえない。
(5)各書証について
ア 乙第1号証ないし乙第3号証
これらの証拠は,上記「喫茶ケルン」の店頭と思しき位置に設置された看板を撮像したものと思われるところ,上述のとおり,当該看板において表示されている「繁昌亭カレー」は,本件商標と社会通念上同一ではない上に,「飲食物の提供」役務の出所表示標識として用いられているものではない。
イ 乙第4号証ないし乙第5号証
細長い木片に「繁昌亭カレー」の文字は認められるものの,同木片が壁に立てかけられているだけで,どこに置かれているのか,常に固定されているか,いつ置かれたのかなどが不明である。なお,乙第8号証の喫茶ケルンの店頭と思しき写真には,該木片は存在しない。
ウ 乙第6号証
「喫茶ケルン」のメニューの写真ということであるが,一部が表されているにすぎない。上述のとおり,「繁昌亭カレー」の表示は,「喫茶ケルン」で提供される料理の一品目にすぎず,「飲食物の提供」役務の出所表示標識として用いられているものではない。
エ 乙第7号証
インターネット検索エンジンの検索結果であるが,いずれの検出物も本件商標が被請求人又はその使用権者によって「飲食物の提供」役務に使用されていることを証明するものではない。
オ 乙第8号証
ブログの記載日である2012年2月26日は,本件の要証期間内にない。
カ 乙第9号証
陳述書において,上記井上氏が「繁昌亭カレー」を「店の看板名称として使用」,「看板メニューとしても営業」と述べているが,「店の看板名称」,「看板メニュー」の意味するところが不明であるのみならず,これが「繁昌亭カレー」が「喫茶ケルン」にて提供する「飲食物の提供」役務の出所表示標識として使用されている旨陳述するものであったとしても,その客観的な裏付けはなく,井上氏の主観にすぎない。
キ 乙第10号証
「天満天神 繁昌亭」の支配人と称する者の陳述書であるが,支配人と被請求人との関係が不明確である他,支配人が被請求人を代表する権限を有しているか否かも不明である。また,「『繁昌亭カレー』の名称は,(中略)近隣では有名な名物カレーとして親しまれていた。」との陳述は,支配人の主観にすぎず,客観性に欠ける上,被請求人が井上氏に通常使用権を設定したことを証言するものでもない。
(6)まとめ
答弁書及び提出された全証拠をもってしても,被請求人は,要証期間内に日本国内において商標権者,専用使用権者,通常使用権者のいずれかが,本件商標を第43類「飲食物の提供」について使用していることを十分に証明するものではない。
3 口頭審理陳述要領書(平成29年9月4日付け)
(1)本件商標の使用者について
被請求人自身は,本件商標を本件審判の請求に係る指定役務に使用していないようである。代わりに,「天満天神 繁昌亭」のすぐ近くで喫茶ケルンを経営する井上氏に対して,口頭で本件商標を飲食物の提供のために用いることを許可したと主張する。
乙第11号証には,「公益社団法人上方落語協会(代表者:桂文枝)は,・・(中略)・・井上和彦さんに対して,過去,口頭で商標『繁昌亭』を飲食物の提供のために用いることを許可したことに相違ない」と,乙第12号証には,「公益社団法人上方落語協会(現在の代表者:桂文枝)殿より,過去に,口頭で上記商標『繁昌亭』を飲食物の提供のために用いることを許可され」と記載されているが,かかる陳述書のみでは,いつ,どこで,誰が,井上氏に対して口頭によって使用許諾したのかは明らかにされていない。すなわち,「過去」がいつであるかが明確にされておらず,井上氏の陳述する本件商標の使用開始時期(2006年9月頃)の前なのか,あるいはそれ以降なのか,果ては,井上氏による要証期間内の使用が被請求人の許諾に基づくものであったかも不明なままである。
また,口頭による許可が事実であれば,被請求人に属するいずれかの人物(自然人)による井上氏への何らかの意思表示があったということであり,その人物は,上記文面では明確にされていない。両陳述書に記載の「代表者:桂文枝」なる表現は,被請求人の代表者が桂文枝氏であることを単に表現しているのか,あるいは口頭で井上氏に意思表示したのが桂文枝氏であるかを明確にするものではない。さらに,両者間の口頭によるやりとりが事実であるとしても,その内容が「商標『繁昌亭』を飲食物の提供のために用いることを許可」したものであるか否か,すなわち,そのやりとりが「飲食物の提供」役務についての商標許諾行為であったかは依然として疑わしい。
なぜなら,井上氏の経営する喫茶店「ケルン」において,メニューにある数ある料理のうちの一つとして「繁昌亭カレー」なる表示が使用されていた事実しか主張されていない。実際使用している表示が許諾した商標と一致しておらず,また,その表示を「飲食物の提供」役務の出所を表示するものとして使用したことも明らかではないことからすれば,これでは,陳述書に記載されているとおりに,本件商標「繁昌亭」を「飲食物の提供」の出所を表示するものとして使用することまで許可されたものであるかは疑わしい。
請求人は,通常使用権の許諾行為について,口頭での許諾でも足りるとする見解自体を否定するものではない。しかしながら,商標法第50条に定める不使用取消審判において,商標の使用事実の立証責任を負っているのは,所定の例外規定に該当するものでない限り,商標権者である被請求人である。ここにおいて,口頭でなされた事実の立証には,その事実が存在したことを推認させるための客観性が必要である。さもなければ,口頭で行ったことを口実に,事実を容易に作出せしめるおそれがある。
そして,その事実を証する客観的な証拠が十分に提出されていないならば,その要件事実は真偽不明として,その不利益を商標権者が負うべきことはいうまでもない。口頭で使用許諾を行った旨の陳述書は,当事者同士による主観的な供述にすぎない。すなわち,乙第11号証及び乙第12号証に係る陳述書は,口頭での使用許諾が事実として存在したことを客観的に証するものではない。例えば,ライセンス料の支払いや被請求人による品質管理・指導といった,使用許諾を前提とした行動があるとか,被請求人と井上氏との間に営業上の密接な関連性が存在するとか,あるいは,両者間に資本関係や雇用関係などの人的,組織的な支配関係があるといった,客観的な背景事情の主張立証なしに,上記陳述書のみをもって,口頭でのやり取りの存在が十分に立証されたと判断することは妥当ではない。
(2)使用期間について
乙第13号証は,喫茶ケルンの看板を表した画像のようであるが,店舗はシヤッターが閉められている。これでは,喫茶ケルンの営業状態がわからないし,当該看板が本件審判の請求に係る役務に関する広告機能を果たしているとはいえない。
そもそも,グーグル社が提供するグーグルマップのストリートビュー機能は,ストリートビューのアーカイブから過去の画像を表示できるが,撮像日付に関してそれを立証する根拠はなく,客観性が担保されない。よって,証拠としての信憑性に欠ける。乙第14号証の喫茶ケルンの口コミの日付についても同様に,インターネット上の書き込み日付の根拠が明確でない。
(3)役務「飲食物の提供」に関する使用について
乙第13号証は,画像が鮮明でないため定かでないが,ここに本件商標「繁昌亭」は表示されていないのではないか。表示されているのは,「COFFEE&繁昌亭カレー」の文字,イラスト及び「喫茶ケルン」の文字であるところ,「COFFEE&繁昌亭カレー」は,同列を意味する「&」で繋がれていることからすれば,需要者は,「COFFEE」も「繁昌亭カレー」も店で提供される料理の一品目と認識するにすぎないと思われる。この場合,「飲食物の提供」役務について出所表示標識としての機能を果たす商標は,むしろ,看板の下方にある「喫茶ケルン」の表示である。
そもそも,「飲食物の提供」役務における出所表示標識とは,典型的にその提供する店舗の名称,すなわち店名であることは疑いない。よって,数ある料理の一品目がその役務の出所それ自体を表示する標識として直ちに認識されるとはおよそ考えられない。すなわち,当該品目が,すでに店名と同視し得るほどに,高い名声を獲得し,関連する需要者の認識が確立されない限り,メニュー中の一品目の名称をもって「飲食物の提供」役務の出所表示標識として機能するとはいえないと解すべきである。
この点,被請求人の答弁書及び口頭審理陳述要領書に添付された各書証のみをもって,「喫茶ケルン」において提供されている「繁昌亭カレー」が,店名である「喫茶ケルン」と同視できる程に高い名声を獲得していたことは十分に立証されていない。すると,「繁昌亭カレー」は,喫茶ケルンで提供される料理の一品目の名称にすぎず,第43類「飲食物の提供」役務の出所を表示するための商標として用いられているものではない。本件の場合,第43類「飲食物の提供」に使用されている商標は,喫茶・食堂の名称である「喫茶ケルン」である。他方,喫茶ケルンは,料理名以外の局面で,本件商標「繁昌亭」それ自体を用いて飲食物(カレー,ドライカレー,ピラフ,コーヒーなど)を提供しているわけでもない。すなわち,上述に係る「繁昌亭カレー」の表示の使用事実のみをもって,本件商標たる「繁昌亭」が,「飲食物の提供」役務の出所を表示するものとして使用されているとはいえない。
(4)使用商標について
一方,喫茶ケルンが使用していると主張する「繁昌亭カレー」は,喫茶ケルンで提供される独自の料理名として不可分一体に用いられているようであり,「繁昌亭」の文字部分が単独で,その出所を認識され得るように用いられていない。すなわち,「繁昌亭カレー」の構成中「カレー」は,「飲食物の提供」役務において提供される飲食物の一種を示すものであるとしても,「ハンジョウテイカレー」の称呼が殊更冗長でもなく,また,乙第13号証に見られる「繁昌亭カレー」の構成中「繁昌亭」がとりわけ強調されて使用されていないことからも,「繁昌亭カレー」の文字は,構成全体として不可分一体に把握されるべきであり,本件商標「繁昌亭」と社会通念上同一とはいえない。乙第14号証も同様に,喫茶ケルンの口コミには「繁昌亭カレー」の文字があるが,これも不可分一体であって本件商標と社会通念上同一とはいえない。
(5)その他
被請求人は,審理事項通知書の審判長の求めに応じて,喫茶ケルンの営業者が要証期間内に「飲食物の提供」の役務を行っていた事実を明らかにする証拠(例えば営業許可証等)を提出していないばかりか,本件商標を「飲食物の提供」の役務に使用していることについて,商標法第2条第3項各号のいずれの使用であることを十分に説明していない。
4 上申書(平成29年10月27日付け)
(1)「喫茶ケルン」の代表者を客観的に証明すること
ア 被請求人は,乙第15号証として「喫茶ケルン」の代表者である井上氏の住民票を提出したが,これは,「喫茶ケルン」の代表者を客観的に証明するものではない。同住民票に,井上氏が「喫茶ケルン」の代表者である旨の記載はないからである。
イ 被請求人は,乙第16号証として財団法人大阪市消防振興協会作成の「自主防災指導結果通知書」を提出したが,これは,「喫茶ケルン」の代表者を客観的に証明するものではない。同通知書の宛先には「喫茶ケルン 所有者 井上和彦」とあるが,宛先が「所有者」となっていることをもって,喫茶ケルンの代表者と同義と結論づけることはできないからである。また,財団法人大阪市消防振興協会が,同通知書の宛先の正式な代表者を確認した上で書類を作成したとはおよそ思われない。よって,乙第16号証は,乙第15号証との複合によっても,「喫茶ケルン」の代表者を客観的に証明していない。
なお,平成29年9月26日に行われた口頭審理の場で,被請求人は,審判長の営業許可証提出の求めに対し,「営業許可証を紛失した」と陳述した。しかし,営業許可を受けた者は,営業許可証をその営業施設内の見えやすい場所に提示することが,大阪府食品衛生法施行条例及び大阪市食品衛生法施行条例において義務づけられており,営業許可証を紛失したときは,再交付を受けなければならない(甲3,甲4)。
また,大阪市ウェブサイトにて食品営業許可施設一覧によれば,上記住民票記載の住所において許可されている施設の屋号,営業者氏名ともに,被請求人の主張,陳述に係る事実と一致しない(甲5)。このように,被請求人から営業許可証が提出されないことは極めて不自然であるのみならず,被請求人の主張,陳述に係る事実の信憑性にも疑念を抱かざるを得ない。
(2)使用許諾に関する経緯や事情を説明すること
被請求人は,2007年9月頃に,喫茶ケルン店舗内で,当時の上方落語協会事務局長であったK氏(以下「K氏」という。)が,喫茶ケルン代表者に対し,口頭で商標「繁昌亭」を飲食物のために用いることを許可したと主張するが,その内容には以下の疑問が生じ得る。
ア 乙第17号証は,上方落語協会の代表者である桂文枝氏と井上和彦氏両名による陳述書であるが,桂文枝氏は,どのような経緯でその事実を知ることになったのか不明である。
イ K氏が,どういった権限において2007年9月頃に井上氏に使用許諾をしたのか不明である。つまり,K氏が当時に上方落語協会の事務局長であったことや,事務局長として本件商標の使用許諾について権限が与えられていたかは不明であり,これらの事実を客観的に裏付ける証拠は提出されていない。
また,依然として,口頭での使用許諾が事実として存在したことを客観的に証するもの,例えば,ライセンス料の支払いや被請求人による品質管理・指導といった,使用許諾を前提とした行動があるとか,被請求人と井上氏との間に営業上の密接な関連性が存在するとか,あるいは,両者間に資本関係や雇用関係などの人的,組織的な支配関係があるといった,客観的な背景事情を主張立証する証拠は提出されていない。
ウ 被請求人が提出した平成29年2月13日付答弁書において,被請求人は,「喫茶ケルン」が2006年9月からその著名な定番メニューに「繁昌亭カレー」の名称を使用していると主張している一方,上記陳述書では,2007年9月に許諾を受けたと記載されており,使用開始時期と許諾時期とが一致しない。
また,喫茶ケルンが使用しているのは「繁昌亭カレー」であって「繁昌亭」ではない。実際使用している表示が許諾した商標と一致しておらず,その表示を「飲食物の提供」役務の出所を表示するものとして使用したことも明らかではない。答弁書では,本件商標は権利者と実質同一の「天満天神 繁昌亭」が使用していると主張し,後にこれを翻すなど,被請求人の主張には数々の矛盾点が見られる。
(3)以上より,被請求人の主張は,口頭による使用許諾の経緯や事情を十分に説明したものではない。

第3 被請求人の主張
被請求人は,結論同旨の審決を求める,と答弁し,その理由を審判事件答弁書,口頭審理陳述要領書及び上申書において,要旨以下のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第17号証(枝番を含む。)を提出した。
1 答弁の理由
(1)本件商標は上方落語協会が権利者であるが,実質同一人の落語の定席である「天満天神 繁昌亭」(大阪市北区天神橋2-1-34)が使用している。
(2)「天満天神 繁昌亭」は2006年9月15日に著名な天満宮の境内に開業し,落語の定席として大阪では著名な存在である。この「繁昌亭」の名称は開業と同時に近隣の飲食店で使用され,今日も「天満天神 繁昌亭」門前において「喫茶ケルン」が使用している。「喫茶ケルン」は1972年7月にオーナーである井上氏がオープンし,今日まで40年以上に渡って「天満天神 繁昌亭」門前において喫茶・食堂を営業している。
(3)その著名な定番メニューに「繁昌亭カレー」があるが,「喫茶ケルン」が「天満天神 繁昌亭」の開業とほぼ同時の2006年9月から「繁昌亭カレー」の名称を使用している。
(4)証拠方法に示すとおり,「繁昌亭カレー」の看板は今も健全に「喫茶ケルン」の玄関前に掲げられている。この「繁昌亭カレー」の文字は,ほぼ開業と同時に著名な落語家である桂文福氏によって揮ごうされている。
(5)以上によって,本件商標「繁昌亭」(指定役務「飲食物の提供」他)は,今日まで「繁昌亭カレー」として係属して10年間使用され,店の看板ともなっているので,本件取消請求は成り立たないのである。
(6)「天満天神 繁昌亭」の支配人は,「私が2007年1月に支配人に就任した時点で,既に『繁昌亭カレー』は『喫茶ケルン』さんの看板メニューになっていました。」と証言している。
(7)証拠方法の写真はいずれも被請求人代理人弁理士が,平成28年12月13日に現地において撮影したものである。
(8)インターネットにおいて「繁昌亭カレー」の名称が使用されている状況が多く見られる。例えばヤフーの検索サイトのウエブページ(乙7)には「繁昌亭カレー」の文字を使用したリンクサイトが多く見られる。
(9)インターネットにおいて「たんぶーらんの戯言」のウエブページに「喫茶ケルンの『繁昌亭カレー』」の名称が使用されている状況が見られる。
例えば,ヤフーの検索サイトのウエブページのブログ(乙8)には「繁昌亭カレー」の文字,それを使用している「喫茶ケルン」の写真,「繁昌亭カレー」を示した看板,さらに「繁昌亭カレー」そのものの写真が見られる。
なお,本ウエブページの上部には,ブログ記載日である2012年2月26日の日付がある。
2 口頭審理陳述要領書(平成29年8月2日付け)
(1)商標権者は,落語の定席である「天満天神 繁昌亭」が本件商標を使用しているとは主張しない。
(2)商標権者は,落語の定席である「天満天神 繁昌亭(住所:大阪市北区天神橋2丁目1番34号)」のすぐ近くで「喫茶ケルン(住所:大阪市北区天神橋2-4-2)」を経営する井上氏に対して,過去,口頭で商標「繁昌亭」を飲食物の提供のために用いることを許可した。
これは,乙第11号証(商標権者が,喫茶ケルンを経営する井上氏に対して,過去,口頭で商標「繁昌亭」を「飲食物の提供」のために用いることを許可したことを証明する陳述書)及び乙第12号証(喫茶ケルンを経営する井上氏が,過去,口頭で商標「繁昌亭」を「飲食物の提供」のために用いることを商標権者から許可されたことを証明する陳述書)から明らかである。
なお,上記からも明らかなように,井上氏は,本件商標権の通常使用権者であるが,特許庁に対してその登録はしていない。
(3)乙第13号証によれば,2016年8月に,喫茶ケルンは,その店先に「COFFEE/繁昌亭カレー/繁昌亭」と記載した看板を置いていた。
また,乙第14号証(喫茶ケルンの口コミ一覧)によれば,「kinako-ankoさんの口コミ/2014/08訪問/100レビュー達成です! 朝ドラ『ごちそうさん』の東出昌大君がバイトしたお店で『繁昌亭カレー』???♪ 食ベログを書き始めた原点に戻って,ごちそうさん!」とあり,他にも,駆け出しデザイナー92(944)さんの口コミ2016/09訪問には喫茶ケルンの看板の写真がアップされている。
これらにより,本件審判の要証期間内に「飲食物の提供」の役務を行っていたことは明らかであり,これは,商標法第2条第3項第8号に定める「使用」に該当する。
3 上申書(平成29年10月13日付け)
(1)「喫茶ケルン」の代表者を客観的に証明することに対し,
ア 「喫茶ケルン」の代表者:井上氏の住民票を提出する。
イ 平成28年8月2日に財団法人大阪市消防新興協会が,喫茶ケルン所有者井上氏に対し,防災指導を行ったが,その際に作成された自主防災指導結果通知書を提出する。
(2)使用許諾に関する経緯については,2007年9月頃に,大阪市北区天神橋2-4-2喫茶ケルン店舗内で,当時の上方落語協会事務局長が,喫茶ケルン代表者井上氏に対し,口頭で商標「繁昌亭」を「飲食物の提供」のために用いることを許可したことが判明したので陳述書を提出する。

第4 当審の判断
1 被請求人の提出した証拠によれば,次のとおりである。
(1)乙第1号証及び乙第3号証について
乙第1号証及び乙第3号証は,2016年12月13日に店舗前に置かれた「看板」を被請求人の代理人が撮影した写真である。
この写真には,上部に「COFFEE&/繁昌亭カレー」の文字を上下二段に表し,中程に人の図形,下部に「喫茶/ケルン」の文字を上下二段に表した看板(以下「喫茶ケルンの看板」という場合がある。)が写っている。
(2)乙第6号証及び甲第2号証について
乙第6号証及び甲第2号証は,「喫茶ケルン」の「お昼のメニュー」の写真である。
これには,その上部に「繁昌亭カレー」の文字の表示があり,その右側には「辛口です」の文字,及びカレーライスと思しき絵と共に「¥600」の文字が表示されている。
なお,乙第6号証には,右下に「2016/12/13」の表示があり,これは,答弁書によれば被請求人の代理人が撮影したものである。
(3)乙第8号証について
乙第8号証は,インターネットブログであり,その1頁目の上段には,「たんぶーらんの戯言」の見出しの下,「喫茶ケルンの『繁昌亭カレー』」の項があり,その下に「2012年02月26日」,「上方落語唯一の寄席である天満天神繁昌亭(てんまんてんじんはんじょうてい)と大阪天満宮が目の鼻の先にある喫茶ケルン。」の記載がある。
また,その3頁には,「喫茶ケルンの看板」の写真が掲載され,その下に「◆喫茶ケルン/大阪市北区天神橋2-4-2」,電話番号及び営業時間等の記載がある。
(4)乙第13号証について
乙第13号証は,2016年8月の「大阪府大阪市」の「喫茶ケルン」の店舗周辺が写っている「Googleストリートビュー」の写真である。
これには,その1葉目の写真の左側に「喫茶ケルンの看板」が写っている。また,2葉目の写真の左端に「喫茶ケルンの看板」が写っており,その写真の右側には,大きな建物が写っている。さらに,4葉目の写真には,2葉目の写真の右側の建物が写っており,その看板には,「天満天神 繁昌亭」の表示がある。
(5)乙第14号証について
乙第14号証は,「食べログ」のウェブサイトである。
これには,上部に「2017/7/3」,「口コミ一覧:喫茶ケルン-大阪天満宮/カフェ[食べログ]」の記載があり,「喫茶ケルン」の見出しの下,3頁には「2016/09訪問」/南森町のカレー50店制覇の旅43:喫茶ケルン」の項に,「喫茶ケルンの看板」の写真が掲載されている。
(6)乙第16号証について
乙第16号証は,平成28年8月2日付けの「自主防災指導結果通知書」である。
これには,左上に「喫茶ケルン/所有者 井上和彦様」の記載,その右下に「財団法人 大阪市消防振興協会/担当者江戸堀支所 氏名」の記載及び押印があり,「記」以降には,「1 所在地 北区天神橋2丁目4番2号/2 防火対象物名称 ケルン」の記載がある。
(7)乙第10号証について
乙第10号証は,平成29年2月10日付けの「陳述書」である。
これには,「『繁昌亭カレー』の名称は,私が2007年1月に『天満天神 繁盛亭』に支配人として赴任してきた時から既に大阪北区天神橋2-4-2 喫茶ケルンの看板が掲げられており,近隣では有名な名物カレーとして親しまれていた。」の記載がある。
そして,右側下部に「平成29年2月10日」,「住所 大阪市北区天神橋2-1-34/名称 天満天神 繁昌亭/支配人 氏名」の記載及び押印がある。
(8)乙第11号証について
乙第11号証は,平成29年7月3日付けの「陳述書」である。
これには,本件商標の登録番号,商標「繁昌亭【標準文字】」,「区分 第43類」及び「飲食物の提供」を含む指定役務が記載され,その下に「上記の商標権者である公益社団法人 上方落語協会(代表者:桂文枝)は,大阪北区天神橋2-4-2にて喫茶ケルンを経営する井上 和彦さんに対して,過去,口頭で商標『繁昌亭』を飲食物の提供のために用いることを許可したことに相違ないことを陳述します。」の記載がある。
そして,右側下部に「平成29年7月3日」,「住所 大阪市北区天神橋2丁目1番34号/名称 公益社団法人 上方落語協会/代表者 桂 文枝」の記載及び協会の押印がある。
(9)乙第12号証について
乙第12号証は,平成29年7月3日付けの「陳述書」である。
これには,本件商標の登録番号,商標「繁昌亭【標準文字】」,「区分 第43類」及び「飲食物の提供」を含む指定役務が記載され,その下に「1972年7月から大阪北区天神橋2-4-2で喫茶店(商号:喫茶ケルン)を経営しており,「『繁昌亭カレー』の名称は,本件商標権者である公益社団法人上方落語協会(現在の代表者:桂文枝)殿より,過去に,口頭で上記商標『繁昌亭』を飲食物の提供のために用いることを許可され,『天満天神 繁昌亭』がオープンした2006年9月頃から店の看板名称として使用するとともに,看板メニューとしても営業を行い今日まで継続している。」の記載がある。
そして,右側下部に「平成29年7月3日」,「住所 大阪市北区天神橋2-4-2/名称 喫茶ケルン/代表 井上 和彦」の記載及び押印がある。
2 上記1によれば,以下のことが認められる。
(1)「繁昌亭カレー」の文字(以下「使用商標」という場合がある。)が表示された「喫茶ケルンの看板」は,2012年2月26日付けのインターネットブログ(乙8)の写真,2016年8月の「Googleストリートビュー」(乙13)の写真,2016年9月の「食べログ」(乙14)及び2016年12月13日付けの写真(乙1,乙3)に写っているものであって,2012年2月頃から継続して使用されていたことが推認できる。
そして,上記の2016年8月及び2016年9月は,要証期間である。
(2)被請求人の提出した陳述書(乙10?乙12)によれば,井上氏は,1972年7月から大阪北区天神橋2-4-2で喫茶店(商号:喫茶ケルン)を経営しており,「天満天神 繁昌亭」がオープンした2006年9月頃に,被請求人から本件商標「繁昌亭」の使用を口頭で許可され,また,被請求人の支配人によれば,2007年1月頃には,既に,喫茶ケルンの看板は,上記の住所にある店舗前に置かれていたことが推認できる。
(3)インターネットブログ(乙8)の2012年2月には,「喫茶ケルン」が,「天満天神 繁昌亭」の近いところにあることが記載され,「Googleストリートビュー」(乙13)の2016年8月の写真には,「天満天神 繁昌亭」の建物と「喫茶ケルンの看板」が同じ写真に写っており,「天満天神 繁昌亭」の前で「喫茶ケルン」が営業していたこと,及び「自主防災指導結果通知書」(乙16)によれば,同年8月2日に,大阪市北区天神橋2丁目4番2号において井上氏が「喫茶ケルン」を営業していたことが認められる。そして,上記の日付は,要証期間である。
(4)「喫茶ケルン」の「お昼のメニュー」(乙6,甲2)には,カレーライスと思しき絵と金額と共に「繁昌亭カレー」(使用商標)の文字が表示されていることから,「喫茶ケルン」は,昼食に提供している料理として,カレーライスを提供していたと認められる。
3 判断
(1)商標の使用者について
上記2(2)及び(3)によれば,「喫茶ケルン」の経営者は,井上氏と認められることから,「喫茶ケルンの看板」及び当該喫茶店の「お昼のメニュー」に表示された「繁昌亭カレー」(使用商標)の使用者は,井上氏である。
そして,本件商標の使用に関して,被請求人(商標権者)と井上氏は,共に口頭で本件商標の使用についての許諾がなされていた旨の陳述をしており,その関係性として,「天満天神 繁昌亭」と「喫茶ケルン」は,目の前にあるような位置関係にあり,両者が共に知り合う形で,許諾がなされたことが推認されるものである。
また,陳述書における使用開始時期と許諾時期が一致しないのは,その時期が10年以上前であって,両者の記憶に齟齬が生じたためと考えられるため,この点だけで疑義を認めることはできないから,井上氏は,被請求人(商標権者)から,本件商標の使用の許諾を得ていたとみるのが自然である。
よって,井上氏は,本件商標の通常使用権者であると認められる。
(2)使用商標について
本件商標は,「繁昌亭」の文字からなるものであり,一方,使用商標は「繁昌亭カレー」の文字からなるところ,その構成中の「カレー」の文字部分は,提供される料理の一つである料理名の名称を表しているものであり,該文字は自他役務の識別標識としての機能を有していないか,又は非常に弱いものであるから,「繁昌亭」の文字部分を使用商標の要部とみるのが自然である。
そして,使用商標の要部は,「繁昌亭」の文字部分であるといえるところ,使用商標において「繁昌亭」の文字部分は,本件商標の本質的機能を損なわれないものとして,商標の使用がされているというべきである。
してみれば,使用商標は,本件商標の使用という観点からして,その表示方法については,本件商標と同一性を有するものと判断するのが相当である。
そして,使用商標の要部が,本件商標と同一の文字からなる使用商標は,本件商標と社会通念上同一の商標といえるものである。
よって,使用商標は,本件商標と社会通念上同一の商標と認められる。
(3)使用役務について
通常使用権者の経営する「喫茶ケルン」の店舗においては,「喫茶ケルンの看板」や「お昼のメニュー」に使用商標を表示して,「カレーライスを提供」しており,この「カレーライスの提供」は,本件審判請求に係る指定役務「飲食物の提供」の役務の範ちゅうに含まれるものである。
(4)使用時期について
通常使用権者は,使用商標が表示された「喫茶ケルンの看板」を,それぞれ,要証期間である2016年8月及び2016年9月に,「カレーライスを提供」する役務に関する広告として使用したことが推認できる。
(5)小括
上記(1)ないし(4)によれば,通常使用権者である井上氏は,要証期間である2016年8月及び2016年9月に自身が経営する店舗において,本件審判請求に係る指定役務「飲食物の提供」の範ちゅうに含まれる「カレーライスの提供」の役務を行っており,その店舗の「看板」に本件商標と社会通念上同一と認められる商標を表示して広告したものと認められる。
そして,この使用行為は,商標法第2条第3項第8号にいう「役務に関する広告」に該当するものと認められる。
4 請求人の主張について
(1)請求人は,「乙第17号証は,上方落語協会の代表者である桂文枝と井上和彦氏両名による陳述書であるが,桂文枝氏は,どのような経緯でその事実を知ることになったのか不明である。・・・K氏が当時に上方落語協会の事務局長であったことや,事務局長として本件商標の使用許諾について権限が与えられていたかは不明であり,これらの事実を客観的に裏付ける証拠は提出されていない。・・・口頭での使用許諾が事実として存在したことを客観的に証するもの,・・・ライセンス料の支払いや被請求人による品質管理・指導といった,使用許諾を前提とした行動があるとか,被請求人と井上氏との間に営業上の密接な関連性が存在するとか,あるいは,両者間に資本関係や雇用関係などの人的,組織的な支配関係があるといった,客観的な背景事情を主張立証する証拠は提出されていない。」旨の主張をしている。
確かに,被請求人と通常使用権者との間に営業上の密接な関連性が存在するとか,両者間に資本関係や雇用関係などの人的,組織的な支配関係があるといった,客観的な背景事情を立証する証拠は提出されていない。
しかしながら,被請求人と通常使用権者は,それぞれの陳述書において,本件商標の使用を許諾した,又は許諾されたと陳述していることから,両者の関係がわかる直接証拠がなくとも,当事者間の合意が特定できればそれは明示の使用許諾となり得るものであり,両者の間には明示の使用許諾があったものと認められる。
(2)請求人は,「・・・商標の使用は,商標法第2条第3項各号において規定されているところ,本件の場合,『繁昌亭カレー』,・・・などの文字をメニューに表示する行為は,商標法第2条第3項第8号にいう『商品若しくは役務に関する価格表に展示する』行為に該当するとしても,そもそも需要者は,これらの文字を,喫茶ケルンで提供される料理の一品目として捉えると考えるのが自然であり,被請求人の業務に係る喫茶・食堂の商標として捉えているとは考えにくい。他方,喫茶ケルンは,料理名以外の局面で,本件商標『繁昌亭』それ自体を用いて飲食物(カレー,ドライカレー,ピラフ,コーヒーなど)を提供しているわけでもない。すなわち,上述に係る『繁昌亭カレー』の表示の使用事実のみをもって,本件商標たる『繁昌亭』が,『飲食物の提供』役務の出所を表示するものとして使用されているとはいえない。」旨を主張している。
しかしながら,上記3(2)のとおり,使用商標は「繁昌亭カレー」の文字からなり,該文字中の「カレー」の文字部分は,提供される料理の一つである料理名の名称を表しているものであって,該文字部分は自他役務の識別標識としての機能を有していないか,又は非常に弱いものであるから,「繁昌亭」の文字部分が使用商標の要部とみるのが自然である。
したがって,使用商標の要部は,「繁昌亭」の文字部分であり,「繁昌亭」の文字からなる本件商標の本質的機能は損なわれないというべきである。
してみれば,使用商標は,本件商標の使用という観点からして,その表示方法については,本件商標と同一性を有するものと判断するのが相当である。
よって,請求人の上記主張は,いずれも採用することができない。
5 まとめ
以上のとおり,被請求人は,本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において,通常使用権者が,その請求に係る指定役務「飲食物の提供」について,本件商標と社会通念上同一と認められる商標を使用していたことを証明したものと認められる。
したがって,本件商標の登録は,その請求に係る指定役務について,商標法第50条の規定により,その登録を取り消すことができない。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2018-05-01 
結審通知日 2018-05-07 
審決日 2018-05-24 
出願番号 商願2013-49225(T2013-49225) 
審決分類 T 1 32・ 1- Y (W43)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 杉本 克治 
特許庁審判長 井出 英一郎
特許庁審判官 中束 としえ
榎本 政実
登録日 2013-11-22 
登録番号 商標登録第5632504号(T5632504) 
商標の称呼 ハンジョーテー、ハンジョー 
代理人 岡田 充浩 
代理人 杉本 勝徳 
代理人 佐々木 美紀 
代理人 勝見 元博 
代理人 鮫島 睦 
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