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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない W12
審判 全部無効 商3条柱書 業務尾記載 無効としない W12
管理番号 1345001 
審判番号 無効2017-890067 
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-09-27 
確定日 2018-09-25 
事件の表示 上記当事者間の登録第5914227号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5914227号商標(以下「本件商標」という。)は,別添のとおりの構成よりなり,平成28年6月8日に登録出願,第12類「乳母車,ベビーカー,自動車,車いす,二輪自動車・自転車並びにその部品及び附属品」を指定商品として,同年12月2日に登録査定され,同29年1月20日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は,本件商標の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第16号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求人の使用に係る商標ついて
請求人は,平成26年5月頃より,自己の業務に係る商品であるベビーカー用品,カーステッカー,母子手帳ケース,幼児用リュックサック,よだれかけその他付属品について,別掲のとおりの構成よりなる本件商標と同一態様の商標(以下「請求人商標」という。)を使用しており(甲1,甲2),楽天市場,Yahoo!ショッピング,Amazon等のオンラインショッピングサイトまたは販売会等を通じて現に前記商品を販売している(甲3)。請求人は,その他にもトイザらス,赤ちゃん本舗,東急ハンズ,そごう西武,阪神阪急,伊勢丹等の全国の百貨店や小売店にも前記商品を卸している。
2 商標法第4条1項7号の該当性
(1)本件商標の出願の経緯,被請求人の活動状況
ア 被請求人の請求人会社での勤務の事実,職務内容
被請求人は,平成15年5月13日から同27年12月29日までの12年超,請求人会社に勤務していた際にはゼネラルマネージャーという役職に就き,役員並みの権限を有し,役員より高い給与を受けていたこともあるほどの高い処遇を受けていた者である。
同人の職務内容は,請求人の業務の中枢を為すベビー雑貨,ベビーカー周りの商品等のブランドの考案,商品デザイン,オンラインショッピングサイトのページ作成,運営管理並びに卸事業部の営業管理等,販売管理業務であり,また,中国,香港との海外展開業務であった。
請求人会社の新商品開発や,そのブランディング業務も被請求人の重要な職務内容であり,本件商標のブランド展開も,その職務として被請求人が中心となって社内で検討して採用したものである(甲6)。
イ 被請求人の会社退職
請求人会社の経営状況が不調になった際に,請求人代表は被請求人と協議をして,両者合意の下,被請求人の給与額を下げた。
しかし,まもなくして被請求人は母国に帰国する必要がある旨を申し述べ,平成27年12月29日をもって請求人会社を退職した(甲5)。
ウ 請求人が,請求人商標の出願を被請求人に指示していた事実があること
被請求人は,請求人会社勤務中,ブランディング業務も担当しており,また本件商標のブランド展開に深くかつ中心的に関与していた。請求人は請求人商標の重要性を認識し,その出願を被請求人に指示し,被請求人はその指示に応じて出願の費用の見積もり等していたが,最終的には,請求人会社の代表者から,幾ら費用がかかるのかの質問に答えないまま,被請求人は,その指示を遂行しなかった。
請求人が,2017年7月開催のビッグサイトの展示会の出展前に疑問に思って,本件商標の出願の件を再調査したところ,被請求人が請求人会社を退職後,半年も経過しない平成28年6月8日付けで,本件商標に加え他1件の商標を出願した事実(甲8)が判明した。
エ 請求人商標のブランド,そのブランドが付された商品の請求人の販売状況
請求人商標は,「フランス語でExpedition(ちょっとアドベンチャー的な)エクスペディション,Promenade(散歩)プロムナード」の結合による造語として,請求人のオリジナルブランドとして商品展開を開始した。請求人は,このブランド商品の展示会に出し,また,ショッピングサイトヘの広告にも多くの費用もかけ,これまで大事に育ててきた。
請求人商標の製品カタログは,平成26年度発行の第1巻から数えて,現在,第6巻まで発行している。
請求人商標が付された商品は平成26年7月から販売が開始され,トイザらス,東急ハンズ,三越伊勢丹,阪急,そごう西武,東急百貨店等の全国に所在する百貨店や有名店舗での小売展開と,アマゾン,楽天,YAHOO!ショッピング等のショッピングサイトのオンライン事業の二本柱で展開されている。本件商標のブランドを付した商品の売上高は,販売を開始した平成26年度は970万円(これにオンライン販売分加算(現在集計中)),平成27年度は6370万円(これにオンライン販売分加算(現在集計中)),平成28年度は1億460万円(これにオンライン販売分約5500万円分加算),平成29年度は1億9416万円(これにオンライン販売分5172万円加算)と,順調かつ急激に売上を伸ばしている。この販売額は,請求人商標品の単品売上分だけであるが,ギフト商品のように他ブランドのとのパッケージ商品に入れられた本件商標を付した商品の売上額も加えると,更に数千万円の販売額が加算される。
請求人商標が付された請求人の商品は,楽天市場,ヤフーショッピング等の通信販売サイトでもランキングで1位も獲得したことがあり,消費者の間で好評を博しており,常にランキング上位を保持している(甲9)。
また,請求人商標が付された請求人の商品は,全国放送のテレビドラマへも提供され,エンドロールにもブランド名が出ている(甲10)。
(2)本件商標の出願は,商標審査基準の第4条第1項第7号(公序良俗違反)に該当し無効とされるべきこと
改定13版,平成29年4月1日適用の商標審査基準の第4条第1項第7号の記載を見ると,同号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当する場合として,新たに,「(5)当該商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合。」が明記された。すなわち,本件商標の出願のような紛争のような,いわば私的領域に属する問題であっても,その商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合は,公序条項に該当し,登録が認められるべきではないこと,が明記されたものである。
この審査基準は,以下に述べるような会社の使用する商標について,元従業員が為した悪意の商標出願に関する事案の異議の決定例や,審決取消訴訟の裁判例の集積を経て,平成28年11月10日に開催された産業構造審議会知的財産分科会商標制度小委員会第21回商標審査基準ワーキンググループにおいて議論され,その改定が為されたものである。
本件商標出願の経緯は,上に述べたとおりであるが,被請求人は,請求人会社に勤務時代に本件商標のブランド事業展開に深く関係し,本件商標関連の事業が請求人の主力商品に育ちつつある段階で,請求人会社を退職した後,間もない時期に,本件商標を請求人が出願していない事実を承知の上で,請求人商標のロゴ(甲1,甲2)と全く同一のロゴで,本件商標を出願したものである。この出願は,請求人会社の事業を妨害する等の悪意の目的の為になされたものであり,本件商標出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある。
(3)本件商標を無効とすることは,コンマー判決と矛盾しないこと
コンマー判決は,無効理由として商標法第4条第1項第7号以外に同第8号,同第10号,同第15号,同第19号の無効理由も併せて主張されていたに拘らず,原審審決が,商標法第4条第1項第7号違反のみを取り上げて,登録商標が公序良俗違反で無効であると審決をしたことに対して,その判断の仕方が不適切としたものである。裁判所は,私的領域の案件に,公序良俗違反が一切適用されないとは言っておらず,あくまで,「出願人からされた商標登録出願について,当該商標について特定の権利権益を有するものとの関係ごとに,類型を分けて,商標登録を受けることができない要件を,法4条各号で個別具体的に定めているから,このことに照らすならば,当該出願が商標登録を受けるべきではない者からされたか否かについては,特段の事情がないかぎり,当該各号の該当性の有無によって判断されるべきではあるといえる」と判示したものである。
事実,コンマー判決も,「商標登録を受けるべきでない者からされた登録出願についても,商品保護を目的とする商標法の精神にもとり,商品流通社会の秩序を害し,公の秩序又は善良な風俗に反することになるから,そのようなものから出願された商標について,登録による権利を付与しないことを目的として適用される例がなくはない(主体に着目した公序良俗違反)。」と述べている。
本件事案の場合は,まさにコンマー判決の言う「特段の事情」がある場合である。すなわち,被請求人は,請求人会社に長年にわたり勤務し,本件商標に関する業務遂行の重要な役割を果たしてきた人間であるところ,会社退職後6ヶ月も経過しないうちに,請求人会社のコアのビジネスを妨害するため,あるいは,何らかの悪意の意図のもとに,請求人の使用する商標と同一の商標(甲1,甲2)を会社の扱う商品を指定商品として出願したものである。本件商標の出願は,まさに「商標登録を受けるべきでない者からされた登録出願についても,商品保護を目的とする商標法の精神にもとり,商品流通社会の秩序を害し,公の秩序又は善良な風俗に反することになるから,そのようなものから出願された商標について,登録による権利を付与しないことを目的として適用される例」そのものである。本件商標は,コンマー判決の言うまさに特段の事情がある場合であり,コンマー判決に判断の枠組みの下でも「特段の事情」がある場合と解すべきで事案である。
(4)結論
被請求人は以上の事情の下に,請求人の事業を妨害する悪意の意図で本件商標を出願したものであり,その本件商標の登録出願の経緯は社会的相当性を欠き,登録を認めることは商標法の予定する秩序に反するものであり,到底容認し得ない。以上により,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に規定する「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するため,同法第46条第1項第1号により無効にすべきである。
3 商標法第3条柱書の該当性
前述のとおり,被請求人は,その使用する商標として別の商標を取得しブランド展開をしているのであるから,本件商標を使用する意思がないことは明らかである。
被請求人は,「自ら作成した本件商標及びロゴに基づいてベビー用品の製造・販売に関するビジネスを自ら立ち上げる予定であり,現在,準備を進めている。」と主張しているが,「自ら作成した」との主張自体,失当である。本件商標のブランドは,請求人の従業員の立場でその職務行為として考案したものであり,被請求人が権利を主張できる根拠は全くない。
仮に使用する意思があるとしても,本件商標は,被請求人により剽窃的な意図のもとに出願されたものであり,商標法が要求している「使用」の要件に該当しない。
よって,本件商標は,商標法第3条第1項柱書の要件を満たさず、同法第46条第1項1号により無効にすべきである。

第3 被請求人の主張
被請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨以下のように述べている。
1 商標法第3条第1項柱書の要件について
請求人は,被請求人には本件商標を使用する意思がないと主張しているが,何の証拠も示していない。
平成28年8月9日に言い渡された平成27年(行ケ)第10223号知財高裁判決では,
「2 取消事由1(商標法3条1項柱書についての判断の誤り)について
(1)原告は,本件商標がその登録後3年を目途にその指定商品及び指定役務に使用されることは考えられないなどとして,本件商標は,商標法3条1項柱書の『自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標』には該当しない旨主張する。商標法の目的は,商標の使用を通じてその商標に化体した業務上の信用を保護することにあるところ,商標登録段階において商標の使用を要するか否かについて,商標法は,これを不要とする登録主義を採用しているものであり,出願に係る商標が現在使用されている場合のみならず,将来において使用する場合も当然に予定されているところである。
そうすると,商標法3条1項柱書の『自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標』とは,少なくとも登録査定時において,現に自己の業務に係る商品又は役務に使用している商標,あるいは将来自己の業務に係る商品又は役務に使用する意思のある商標であると解される。」と判示している。
これを本件に当てはめてみると,請求人の主張は誤りである。
なお,被請求人は,自ら作成した本件商標及びロゴに基づいてベビー用品の製造・販売に関するビジネスを自ら立ち上げる予定であり,現在,準備を進めている。
2 商標法第4条第1項第7号該当性について
平成20年6月26日に言い渡された平成19年(行ケ)第10391号知財高裁判決では,本件のような場合に,商標登録に係る商標が商標法第4条第1項第7号に該当するか否かを判断する際の指針を明確に述べている。以下に引用する。
「(1)法4条1項7号について
商標法は,『公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標』について商標登録を受けることができず,また,無効理由に該当する旨定めている(法4条1項7号,46条1項1号)。法4条1項7号は,本来,商標を構成する『文字,図形,記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合』(標章)それ自体が公の秩序又は善良な風俗に反するような場合に,そのような商標について,登録商標による権利を付与しないことを目的として設けられた規定である(商標の構成に着目した公序良俗違反)。
ところで,法4条1項7号は,上記のような場合ばかりではなく,商標登録を受けるべきでない者からされた登録出願についても,商標保護を目的とする商標法の精神にもとり,商品流通社会の秩序を害し,公の秩序又は善良な風俗に反することになるから,そのような者から出願された商標について,登録による権利を付与しないことを目的として適用される例がなくはない(主体に着目した公序良俗違反)。
確かに,例えば,外国等で周知著名となった商標等について,その商標の付された商品の主体とはおよそ関係のない第三者が,日本において,無断で商標登録をしたような場合,又は,誰でも自由に使用できる公有ともいうべき状態になっており,特定の者に独占させることが好ましくない商標等について,特定の者が商標登録したような場合に,その出願経緯等の事情いかんによっては,社会通念に照らして著しく妥当性を欠き,国家・社会の利益,すなわち公益を害すると評価し得る場合が全く存在しないとはいえない。
しかし,商標法は,出願人からされた商標登録出願について,当該商標について特定の権利利益を有する者との関係ごとに,類型を分けて,商標登録を受けることができない要件を,法4条各号で個別的具体的に定めているから,このことに照らすならば,当該出願が商標登録を受けるべきでない者からされたか否かについては,特段の事情がない限り,当該各号の該当性の有無によって判断されるべきであるといえる。すなわち,商標法は,商標登録を受けることができない商標について,同項8号で『他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号,芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)』と規定し,同項10号で『他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標・・・』と規定し,同項15号で『他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標・・・』と規定し,同項19号で『他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって,不正の目的・・・をもって使用をするもの・・・』と規定している。商標法のこのような構造を前提とするならば,少なくとも,これらの条項(上記の法4条1項8号,10号,15号,19号)の該当性の有無と密接不可分とされる事情については,専ら,当該条項の該当性の有無によって判断すべきであるといえる。
また,当該出願人が本来商標登録を受けるべき者であるか否かを判断するに際して,先願主義を採用している日本の商標法の制度趣旨や,国際調和や不正目的に基づく商標出願を排除する目的で設けられた法4条1項19号の趣旨に照らすならば,それらの趣旨から離れて,法4条1項7号の『公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ』を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは,商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので,特段の事情のある例外的な場合を除くほか,許されないというべきである。
そして,特段の事情があるか否かの判断に当たっても,出願人と,本来商標登録を受けるべきと主張する者(例えば,出願された商標と同一の商標を既に外国で使用している外国法人など)との関係を検討して,例えば,本来商標登録を受けるべきであると主張する者が,自らすみやかに出願することが可能であったにもかかわらず,出願を怠っていたような場合や,契約等によって他者からの登録出願について適切な措置を採ることができたにもかかわらず,適切な措置を怠っていたような場合(例えば,外国法人が,あらかじめ日本のライセンシーとの契約において,ライセンシーが自ら商標登録出願をしないことや,ライセンシーが商標登録出願して登録を得た場合にその登録された商標の商標権の譲渡を受けることを約するなどの措置を採ることができたにもかかわらず,そのような措置を怠っていたような場合)は,出願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は,あくまでも,当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから,そのような場合にまで,『公の秩序や善良な風俗を害する』特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でない。」
この判決に照らした場合,請求人の主張は誤りである。

第4 当審の判断
1 商標法第3条第1項柱書の該当性について
(1)商標法第3条第1項は,「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については,次に掲げる商標を除き,商標登録を受けることができる。」と規定し,登録出願に係る商標がその出願人において,「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」であることを商標の登録要件として定めている。
そして,商標法第3条第1項柱書の「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」における「使用をする」とは,「現在使用をしているもの及び使用をする意思があり,かつ,近い将来において信用の蓄積があるだろうと推定されるものの両方を含む。」と解される(特許庁編 工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第19版〕)。
(2)被請求人は,答弁書において,本件商標を使用する意思について,本件商標及びロゴに基づいてベビー用品の製造,販売に関するビジネスを自ら立ち上げる予定であり,現在,準備を進めている旨を述べている。
(3)上記(2)によれば,以下のとおり認めるのが相当である。
被請求人の主張によれば,本件商標に関する業務については現在準備中であり,本件商標の登録査定時の前及び現在において,被請求人が本件商標を使用した業務を行っている事実は確認できない。
しかしながら,上記(1)のとおり,商標法第3条第1項柱書にいう「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする」とは,現に行っている業務に係る商品又は役務について,現に使用している場合に限らず,将来行う意思がある業務に係る商品又は役務について将来使用する意思を有する場合も含むと解されることから,仮に,被請求人が,本件商標の登録査定時に,その指定商品に係る業務を行っていないとしても,当該業務を将来行う意思があれば足りるといえる。
そして,被請求人は,本件商標を使用した,ベビー用品の製造,販売に関する事業について,現在行っていないが,将来行う意思を持っている旨を主張しており,この主張を否定するに足る証拠を見いだすこともできない。
してみれば,被請求人は,本件商標を使用する意思があって,商標登録出願をしたものというのが相当である。
(4)また,請求人は,被請求人が,本件商標と別の商標を取得しブランド展開をしているのであるから,本件商標を使用する意思がないことは明らかである旨主張する。
しかしながら,事業において,複数のブランドを展開することは普通に行われている事であるから,他の商標を取得したことが,本件商標について使用する意思がないことの理由にはならない。
さらに,請求人は,本件商標は,被請求人により剽窃的な意図のもとに出願されたものであり,商標法が要求している「使用」の要件に該当しない旨を主張する。
しかしながら,商標法における「使用」とは,商標法第2条第3項に掲げられた行為をいうのであり,同法第3条柱書きは上記(1)で述べたように自己の業務に係る商品又は役務について同法第2条第3項に掲げられた行為を行っている又は行う意思があれば良いのであって,請求人は,結局,請求人がベビーカー用品,カーステッカー,母子手帳ケース,幼児用リュックサック,よだれかけ等の商品に請求人商標を使用していることを知りながら,被請求人が,請求人会社を退職後に,請求人商標と同一の態様からなる本件商標の登録出願をし,その登録を得たことをあげて,商標の使用意思がないと主張しているにとどまり,被請求人が本件商標の登録査定時において,本件商標の使用意思を有しておらず、将来において本件商標の使用する予定のないことを具体的に証明しているわけではないから,請求人の主張は採用できない。
(5)したがって,本件商標は,その登録査定時において,商標法第3条第1項柱書の要件を具備していたものと認める。
2 商標法第4条第1項第7号の該当性について
(1)商標法第4条第1項第7号は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は商標登録をすることができないとしているところ,同号は,商標自体の性質に着目したものとなっていること,商標法の目的に反すると考えられる商標の登録については,同法第4条第1項各号に個別に不登録事由が定められていること,商標法においては,商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることを考慮するならば,商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法第4条第1項第7号に該当するのは,その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである。
そして,同号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは,商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので,特段の事情のある例外的な場合を除くほか,許されないというべきである(平成14年(行ケ)第616号,平成19年(行ケ)第10391号)。
(2)上記(1)に基づき、請求人の主張を検討する。
ア 請求人は,「平成26年5月頃より,自己の業務に係る商品であるベビーカー用品,カーステッカー,母子手帳ケース,幼児用リュックサック,よだれかけその他付属品について本件商標を使用しており(甲1,甲2),楽天市場,Yahoo!ショッピング,Amazon等のオンラインショッピングサイトまたは販売会等を通じて現に前記商品を販売している(甲3)。請求人は,その他にもトイザらス,赤ちゃん本舗,東急ハンズ,そごう西武,阪神阪急,伊勢丹等の全国の百貨店や小売店にも前記商品を卸している。」旨を主張している。
しかしながら,請求人が提出した証拠からは,これらの事実を確認することができないものであり,その他に,請求人商標が,請求人の使用に係る商標として,需要者の間で,相当程度知られていたものであることを認め得る証左(例えば,業界におけるシェア,広告宣伝費,広告期間,規模及び回数等)を見いだすことはできない。
してみれば,請求人商標が,請求人の業務上の信用,信頼が蓄積され,その出所表示力,顧客吸引力を伴った商標として,需要者の間に広く知られていたものとなっていたということができない。
イ 請求人は,「被請求人は,請求人会社の元従業員であり,本件商標が付された商品の一部デザイン,オンラインショッピングサイトのページ作成や運営管理及び卸事業部の営業管埋等,販売管理に従事しており,請求人が本件商標と同一の標章を使用していることを熟知しつつ,請求人による商標出願を阻害する意図をもって本件商標を出願した」旨主張している。
しかしながら,被請求人が請求人会社の事業に係る業務に携わっていた者であり,請求人商標及び当該事業の存在を知っていたとしても,その事実だけで,被請求人が商標登録出願をすることが禁止されているものではない。
請求人は,被請求人が請求人会社の元従業員であり,卸売店への販売,宣伝販売等に従事してきたので,請求人商標を知り得る状況にあったことをもって,請求人の事業の遂行の阻止を図る意図で登録出願したものであると主張しているのであって,その主張の根拠となる,具体的に,被請求人が請求人の事業の遂行を妨害又は阻止しようとしていることを目的としたことなどを裏付ける証拠を提出しているものではない。
また,本件商標の登録出願が,一定の信用を蓄積した未登録周知商標の既得の利益を保護するというような商標法の目的に関連して,請求人の信用の化体した周知商標についての剽窃に当たるものではない。
しかも,請求人は,請求人商標の使用開始にあたって,その商標を登録出願すべきであったし,出願も含めた商標権の管理は,その商標の使用をする者が自身で行うべきものである。そして,請求人は請求人商標の重要性を認識していたと主張するのであるから,被請求人の退職後においても,その商標を自ら登録出願する機会は十分にあったというべきであって,自ら登録出願しなかった責めを被請求人に求めるべき事情を見いだすこともできない。
そして,本件商標は,具体的な事実関係においても,直ちに「その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠く」とはいえないものというべきである。
(3)以上のことからすると,本件商標について,商標法の先願登録主義を上回るような,その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあるということはできないし,そのような場合には,あくまでも,当事者間の私的な問題として解決すべきであるから,公の秩序又は善良の風俗を害するというような事情があるということはできない。
してみると,被請求人が,請求人の請求人商標と同一の本件商標の登録出願をし,登録を受ける行為が「公の秩序や善良な風俗を害する」という公益に反する事情に該当するものということはできない。
また,本件商標は,その構成自体が矯激,卑わい,差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形からなるものではないし,その指定商品について使用することが社会公共の利益に反し又は社会の一般的道徳観念に反するようなものでもなく,他の法律によって禁止されているものでもない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当するものとはいえない。
3 むすび
以上のとおり,本件商標は,商標法第3条及び同法第4条第1項に違反して登録されたものでないから,同法第46条第1項の規定により,その登録を無効とすべきでない。
よって,結論のとおり審決する。


別掲 本件商標及び使用商標

審理終結日 2018-07-27 
結審通知日 2018-07-31 
審決日 2018-08-14 
出願番号 商願2016-67426(T2016-67426) 
審決分類 T 1 11・ 18- Y (W12)
T 1 11・ 22- Y (W12)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 高橋 幸志 
特許庁審判長 井出 英一郎
特許庁審判官 田中 幸一
薩摩 純一
登録日 2017-01-20 
登録番号 商標登録第5914227号(T5914227) 
商標の称呼 エクスプレナードフゾンアンボヤージュサンパ、エクスプレナード、フゾンアンボヤージュサンパ 
代理人 生田 哲郎 
代理人 荒武 宏明 
代理人 特許業務法人京都国際特許事務所 
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