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審決分類 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W35
管理番号 1343152 
審判番号 無効2017-890003 
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-12-31 
確定日 2018-08-10 
事件の表示 上記当事者間の登録第5643726号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第5643726号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5643726号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1のとおりの構成からなり,平成25年6月14日に登録出願,第35類に属する商標登録原簿に記載の役務を指定役務として,同年12月27日に登録査定され,同26年1月17日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が引用する商標は,別掲2のとおり,ランプシェードの立体的形状であって,商標登録第5825191号(以下「引用商標」という。)として登録されたものであって,同人の「PH5」と称されるランプシェードの商品(以下「請求人商品」という場合がある。)に使用されているものである。

第3 請求人の主張
請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由及び回答書において要旨次のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第172号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は,商標法第4条第1項第7号,同第10号,同第15号,同第16号及び同第19号に該当するものであるから,同法第46条第1項第1号又は同第6号により,その登録は無効にすべきものである。
(1)被請求人について
本件商標の商標権者は,2007年7月17日に設立されたインテリア用品の販売を業とする株式会社である。同社のホームページに記載されている様に,取り扱う商品のほとんどが他社の意匠権が失効した製品を復刻し生産した製品(リプロダクト品)であることが,特徴である(甲3)。
(2)請求人について
請求人は,1874年に設立されたデンマーク国の株式会社であり,照明器具の製造販売を全世界に展開している。AIA(American Institute of Architects アメリカ建築学会) Honors for Collaborative Achievementを2011年に世界で最初に受賞した他,世界中で様々な賞を受賞していることが示すとおり,世界的に名声を得ているメーカーである。なお,ドイツ,フランス,スウェーデン,アメリカ,ノルウェー,オランダ,オーストラリア,フィンランド,スイス,イギリス及び日本等に現地法人を有している(甲4,甲5)。
(3)無効原因
ア 商標法第4条第1項第7号
(ア)国際信義に反する商標
本件商標の上部の図形は,請求人の照明器具「PH5」のランプシェードの真横から見たデザインと比較して,どちらも「対数螺旋」と呼ばれる独特の形状に基づく4枚のシェードから構成されており,本件商標の上部の図形が,「PH5」のランプシェードの真横から見たデザインに依拠していることは明白である(甲6)。
この「PH5」について,請求人は文字商標として平成27年4月17日に商標登録第5759251号(甲7)を受け,また,ランプシェードの形状について,平成28年2月12日に立体商標として商標登録第5825191号(甲8,甲9)を受けている。どちらの商標も商標法第3条第2項の規定を適用されていることから,「PH5」の名称及びそのランプシェードのデザインが需要者の間で全国的に認識されていることが明らかである。
また,本件商標に係る出願は平成25年6月14日にされているが,「PH5」は,日本国内において,1970年代から,請求人の販売代理店であった株式会社YAMAGIWAが当該商品を輸入販売し,1993年からは請求人の日本法人であるルイス ポールセン ジャパン株式会社(東京都港区)が当該商品を輸入販売してきた。さらに,平成9年には,「PH5」のデザインが通商産業省選定「グッド・デザイン外国商品賞」を受賞している(甲10)。しかも,平成24年には,「PH5」は学校の教科書にも掲載されている(甲11,甲12)。その上,請求人は被請求人に対し,平成25年2月20日及び同年11月11日に警告状を送付しており,被請求人は「PH5」は請求人の製品である旨を知っていた(甲13,甲14)。
これらの事実から,本件商標の出願時には,「PH5」のランプシェードの形状は著名性を獲得しており,かつ本件商標の上部のランプシェードの図形は,当時,請求人が「PH5」について商標権等を獲得していなかったことを奇貨として,その名声や信用にただ乗りしようとして商標の一部として採用されたことは容易に推認できる。
また「PH5」のランプシェードは,「近代照明の父」と呼ばれる「ポール ヘニングセン」(以下「ヘニングセン」という。)が1958年にデザインしたものであり(甲10),請求人が,現在に至るまで55年以上,世界中の市場において,ヘニングセンとの協約に基づき,1967年にヘニングセンが亡くなってからは,現在に至るまでその子息との協約(甲15)により,照明器具「PH5」に係るランプシェードに独占して使用してきたものであるから,「PH5」はデンマーク国の誇りと考えられており,自国の切手のデザインに採用されているほどである(甲16)。
さらに,「PH5」の立体商標(引用商標)の拒絶査定不服審判においては,デンマーク王国駐日大使からの使用による特別顕著性の存在を立証するための陳述書を提出している(甲17)。この様にデンマーク国の象徴ともいうべき「PH5」のランプシェードのデザインを,権原なくその商標の一部として採用した商標は,国際信義に反する商標であり,その商標登録出願は,いわゆる「悪意の商標登録出願」に該当する。
よって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当する。
なお,請求人は,本件商標の出願時には,引用商標は,商標法第3条第2項に該当していたと考えているが,仮にそうではない場合には,引用商標の設定登録日が平成28年2月12日であることから,本件商標はいわゆる後発的無効理由(商標法第4条第1項第7号)を有することとなり,商標法第46条第1項第6号により無効にすべきものである。
(イ)他の法律によってその使用等が禁止されている商標
請求人は,「PH5」の取付け説明書(甲18,甲19)について著作権を有しており,そこに描かれている図に依拠している本件商標は,他の法律(著作権法)によって,その使用等が禁止されている商標に該当し,また,「PH5」のランプシェード自体については,応用美術ではあるが,裁判例(知財高裁 平成26年(ネ)第10063号)が示すとおり,創作者の個性が発揮されていることは明らかであり,美術の著作物(著作権法第10条第4項)に該当する。したがって,「PH5」のランプシェードのデザインに依拠している本件商標は,他の法律(著作権法第21条,第23条,第27条)によって,その使用等が禁止されている商標に該当する。
よって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当する。
イ 商標法第4条第1項第10号
「PH5」のランプシェードの形状は,商標法第3条第2項の規定を適用して,立体商標として登録された。そして,本件商標の出願時及び査定時に「PH5」のランプシェードの形状が周知性を獲得していたことは,前述のとおり明らかである。
また,引用商標の指定商品は,第11類「ランプシェード」であるところ,本件商標の指定役務には,それと類似する第35類「電球類及び照明用器具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」が含まれている。
さらに,本件商標は「PH5」のランプシェードの形状を真横からみた図形が含まれているが,商標審査基準には,立体商標類否判断基準として,「立体商標は,原則として,それを特定の方向から観た場合に視覚に映る姿を表示する平面商標(近似する場合を含む。)と外観において類似する。」との記載があり,これにあてはめると本件商標は引用商標に類似する。
よって,本件商標は,未登録周知商標に指定商品・役務及び商標について類似するものであるので,商標法第4条第1項第10号に該当する。
ウ 商標法第4条第1項第15号
「PH5」のランプシェードの形状は,本件商標の出願時及び査定時に当該立体商標が全国的に著名性を獲得していたことは,明らかである。また,本件商標は,前述のとおり,この「PH5」のランプシェードを真横から見たデザインを含むものである。よって,本件商標を第35類「電球類及び照明用器具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」以外の指定役務に使用した場合であっても,被請求人が請求人と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る役務ではないかと需要者は誤認し,いわゆる広義の混同が生じることとなる。
よって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。
エ 商標法第4条第1項第16号
本件商標の一部に「PH5」のランプシェードを真横から見た図形が含まれている。なお,「PH5」のランプシェードの立体商標である引用商標は審査段階において,拒絶理由通知書にて,「当該商標はその構成態様に照らし,『ランプシェード』以外の商品に使用するときは,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあり,商標法第4条第1項第16号に該当する。」旨,指摘を受けた(甲20)。
このことから,「PH5」のランプシェードのデザインをその一部に含む本件商標も,第35類「ランプシェードの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」以外の役務に使用するときは役務の質について誤認を生じさせるおそれがある。
よって,本件商標は,商標法第4条第1項第16号に該当する。
オ 商標法第4条第1項第19号
本件商標の出願時及び査定時に「PH5」のランプシェードの形状が全国的に著名性を獲得していたことは,明らかである。また,外国においてもほぼ変わらないデザインのままで55年以上世界の市場で販売され,デンマーク国の切手のデザインに採用される等,複数の国で本件商標の出願時及び査定時に周知性を獲得していたことも明白である。さらに,前述のとおり,請求人は被請求人に対し,平成25年2月20日及び同年11月11日に警告状を送付しており,被請求人は「PH5」は請求人の製品である旨を知っていた。その上,被請求人のホームページ上の「リプロダクト品」の説明から,「PH5」について商標権等を獲得していなかったことを奇貨として,被請求人は本件商標について,権利化を図るため出願を行ったことが想像できる。
したがって,これらの事実から,被請求人に,「PH5」の名声及び信用にフリーライドし,請求人の出所表示機能を稀釈化させその名声を毀損させる目的があったことは,容易に推認できる。
よって,本件商標は,日本国内又は外国で周知な商標について信義則に反する不正の目的で出願されたものに該当するので,商標法第4条第1項第19号に該当する。
2 平成29年7月10日付け回答書
請求人は,平成29年4月24日発送の審尋に対して,添付の証拠および証拠説明書を提出する。
(1)請求人とヘニングセンとの協約,及びその子息との協約(甲15)の内容を明らかにするために,訳文を提出する。
(2)請求人の立体商標(登録第5825191号商標:引用商標)に係る使用開始時期・使用期間,使用地域,請求人商品の販売実績,販売方法(販売代理店),広告宣伝等の証拠を提出する。
上記立体商標は,拒絶査定不服審判審決(甲9)で周知性が認定され,商標法第3条第2項の適用を受けて登録されている。当該審決で認定された証拠をすべて提出する。
特に,販売方法(販売代理店)については,請求人は自身および販売代理店が定期的に発行する製品カタログ(甲103?甲161)を,全国の建築設計事務所,住宅メーカー,インテリアコーディネーター,インテリアショップ,百貨店等の約5千社(人)の顧客に配布する形で販売している。
(3)提出した証拠および証拠説明書から,上記審決でも認定されているとおり,請求人は,当該立体商標とほぼ同一の形状からなる請求人商品「PH5」のランプシェードについて,1958年から使用し,日本においては,遅くとも1973年から現在まで約40年以上継続して使用したことが認められる。
また,請求人の商品「PH5」は,定期的に作成された請求人の販売代理店や日本法人等の商品カタログに,その写真と共に掲載されて,全国的に配布され,さらに,照明又はインテリアの書籍,雑誌及びカタログのみならず,高校の教科書並びにファッション及び経済関係の雑誌にも,近代照明の父といわれるデザイナーのヘニングセンによりデザインされ請求人の販売に係る名作のランプシェードとして,その写真と共に,長期にわたって採り上げられていることに照らせば,請求人の商品「PH5」(当該立体商標)は,照明器具を取り扱う業界において,ランプシェードの代表的な立体的形状として,取引者,需要者に認識されているといえる。

第4 被請求人の答弁
被請求人は,本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を答弁書及び回答書において要旨次のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第10号証を提出した。
1 答弁の理由
(1)請求人のランプシェード
請求人は,本件商標の構成中の上部に描かれた5層の幾何図形部分(以下「本件図形」という。)が,請求人のペンダントランプ用のランプシェード「PH5」(請求人商品)のデザインに依拠している,あるいは,当該照明器具のランプシェードの立体的形状と類似する等により,本件商標の登録(以下「本件登録」という。)が無効理由を有すると主張しているが,それらは,請求人商品の立体的形状が著名であり,自他商品識別力を備えていること等が前提とされている。
しかし,かかる事実は存在せず,請求人の主張には何ら根拠がないので,以下に詳細な理由を述べる。
ア 請求人商品は,デンマーク人のヘニングセンによりデザインされたものであり,1958年に公表された後,同じ年に商品化されたものである。
請求人の主張する請求人商品とは,即ち,商品が持つ立体的形状である。
(ア)商品の立体的形状は,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させ,商品等の美感を追求するなどの目的で選択されるものであって,商標としての機能を果たすものとして採用されるものではない。
また,文字,図形等による標章とは異なり,需要者・取引者の観点からも,商品の立体的形状を,商品の機能や美感を際立たせるために選択されたものと認識し,商品の出所を表示し,自他商品を識別するために選択されたものとは認識しない。
さらに,商品の機能又は美感に資することを目的とする形状は,同種商品等に関わる者が,当該形状を使用することを欲するものであり,特段の事情が無い限り,当該形状を特定人に独占使用させることは,公益上適当ではない。
したがって,商品の用途・性質等に基づく制約の下で,同種の商品等について,機能又は美感に資することを目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のものであれば,当該形状が特徴を有していたとしても,自他商品識別標識にはあたらないというべきである。
(イ)そこで,請求人商品の立体的形状(甲6,甲8,甲10など)を見るに,円周,高さ,外周の曲がり具合の異なる下方向に開いた3枚の円筒状のシェードが下から上に向かい徐々に広がるようにランダムな間隔で積み重ねられ,それらの上に,下3枚とは異なるカーブで上向きに開いた1枚のシェード,最上部には円筒形の電球取付ソケット部とみられる部分が積み重ねられて構成されている。
シェード内部に水平の反射板を持ち,下から2枚目のシェードと4枚目のシェードにかけて,円弧状の細長い棒が3本わたされている。
請求人によれば,請求人商品にみられる4枚のランプシェードにより構成される形状は「対数螺旋」といわれるもので独特の形状であるとのことであるが,この対数螺旋について,請求人の日本子会社は「光の反射角度のために採用した」と説明している(甲6)。したがって,4枚のランプシェードにより構成される立体的形状の特徴(対数螺旋)は,一義的には「光の反射角度」を実現するため,すなわち,商品の機能に資することを目的とするものであり,加えてその形状が美感にも資するものであるとみるべきである。
また,請求人商品の上記形状は,ペンダントランプ用のランプシェードとしては,需要者において予測可能な範囲の特徴といえるので,請求人商品の立体的形状は,ペンダントランプ用のランプシェードの基本的な機能及び美感を発揮させるために必要な形状の範囲内であって,これを見た需要者において当該形状をもって商品の出所を表示する自他商品識別標識として認識し得るものではない。
この点は,引用商標に係る審決(甲9)においても言及されている。
(ウ)以上のとおり,請求人商品の立体的形状は,本来的に自他商品識別機能を有していないので,これが自他商品識別機能を有するとするには,当該立体的形状を使用した結果,自他商品識別力を獲得していることが必要であり,自他商品識別力を獲得したかどうかは,使用期間,使用地域,商品の販売数量,広告宣伝の期間,地域及び規模,当該形状に類似した他の商品の存否などの事情を総合考慮して判断されるべきである。
(エ)一方,商品の基本的な機能及び美感を発揮させるために必要な形状は,その形状により発揮される機能の観点からは発明ないし考案として,また,商品の美感の観点からは意匠として,特許法・実用新案法・意匠法が定める要件を満たせば,独占権が付与され保護されるが,その一方で,各権利の存続期間が満了した後は,当該立体的形状は,自由で公正な競争に資するため,パブリックドメインとして何人も自由に実施し得るものとなる。仮に,請求人商品の立体的形状に関連して特許権,実用新案権,意匠権があったとしても,当該立体的形状は,請求人商品の公表の時期からして,数十年前から何人も自由に実施し得るものとなっている。
このように,商品等の機能又は美感に資することを目的として採用される商品の立体的形状であってパブリックドメインになっているものは,その使用により自他商品識別力を獲得していない限り,公正かつ自由な競争に資するべく,何人も自由に実施し使用することが出来るようになる。
イ そこで,引用商標に係る審決(甲9)で言及されている請求人商品の立体的形状の日本における使用等について検討する。
(ア)請求人商品が1958年にヘニングセンによりデザインされ,販売されてから,現在に至るまで,世界中の市場において,ヘニングセンとの協約に基づき,請求人商品の立体的形状を請求人が独占的に使用してきたとあるが,世界中の市場といっても具体的にどの市場でどれぐらい販売されてきたかは何ら立証されていない。
また,請求人がデザイナーと締結した協約は単なる私人間の契約にすぎず,第三者による当該形状の使用を制限できるものではない。第三者による使用を制限するには,何らかの独占排他的な権利が必要となる。
立体的形状を保護対象とするとすれば,主として考えられるのが特許権・実用新案権・意匠権或いは著作権だが,特許権・実用新案権・意匠権は,請求人商品が1958年から販売されていることを考えると,存続期間が既に消滅している。
請求人商品は応用美術といわれるものであり,応用美術に関しては,ベルヌ条約第2条第7項により「応用美術の著作物及び意匠」について一定の条件のもとに,各国が独自の国内法制を設けることを容認されていて,応用美術を著作権で保護するか意匠権で保護するか等については各国の国内法制に委ねられている。
しかも,応用美術を著作物として保護する法律又は判例を持つ国であっても,応用美術の著作物の定義,その該当性の判断基準も国によって異なる。そのような状況で,請求人商品の立体的形状が世界中で著作物として著作権の保護を受けられるとはいい難く,著作権法で保護されない国では,第三者による請求人商品の立体的形状と同一形状を使用することに何ら制限はない。
例えば請求人商品のレプリカ版などの取引がされている国(例えばイギリスなど)もある。
以上のことを勘案すると,具体的な裏付けもなく,世界の市場で請求人商品の立体的形状が請求人によって独占的に使用されていたとは認められない。
日本においても,特許庁が公開している「産業財産権侵害対策相談 事例QA集(意匠)」で,「我が国では,応用美術はもっぱら意匠法の保護を受け,原則として著作権法の保護対象に含まれません。」とされている。
請求人商品の形態について,日本で意匠登録されていたという事実が請求人によって主張されていないことから,1958年に請求人によって請求人商品が公開された後は,日本において当該商品の立体的形状はパブリックドメインであり,何人も自由に実施し得るものであった。
よって,私人間の契約たるデザイナーとの協約のみを理由に,請求人が日本市場で請求人商品の立体的形状を独占的に使用していたとする主張には,根拠がない。
なお,請求人は応用美術に関連して知財高裁判決(平成26年(ネ)第10063号)について指摘しているが,それまでに繰り返し行われてきた判決とは異なる判断が知財高裁の一部門で行われたにすぎず,今後これが最高裁・知財高裁の異なる部門により支持されるかは全くわからない状況であることから,当該判決をもって請求人商品が著作権で保護されていると断定することはできない。
(イ)請求人商品は1972年から日本で販売が開始され現在に至っており,その間,定期的に発行される商品カタログやインターネット販売サイトで紹介されてきたということであるが,それらのカタログには多数種類の照明器具が掲載されていて,とりたてて,当該商品の立体的形状のみが着目されるとすべき理由はない。同種商品が数多く掲載されるそれらのカタログ,インターネット販売サイトにおいて,一商品として掲載され紹介されていたにすぎないので,そこに掲載されている請求人商品を需要者が目にしていたとは限らない。
また,請求人商品の立体的形状は,商品の機能及び美感に資する目的で使われているものであり,本来的に自他商品識別力を持っておらず,また,自他商品識別の目的で使用されているわけではないので,需要者がこれを見たとしても,多数ある同種商品の中において,その立体的形状がもたらす美感・印象に目を留めるだけで,当該形状については,美感を際立たせるために選択されたものとしてしか認識しないというべきである。
東京のショールームや家具店等で取り扱われている請求人商品も,いくつもある同種あるいは他種(棚,机,椅子その他の家具等)商品の中で,必ずしも目に触れるとは限らず,また,それらの商品群の中では,その立体的形状は,あくまで商品の美的外観として捉えられるだけで,出所識別標識としては認識されない。
(ウ)請求人商品は世界で50万台販売されているとあり,その証拠として「週間東洋経済2008年1月12月号 北欧はここまでやる。格差なき成長は可能だ!」の記事が採用されている。当該記事において「1920年代半ばから当社との協力関係を結んだ気鋭のデザイナー ポール・ヘニングセンによる・・・。」と記載されていることから,その記事におけるコメントは請求人又は請求人の子会社が書いたものと推察されるが,結局は本人が話したことにすぎず,何ら客観性がない。
仮に50万台の販売台数が本当であったとしても,世界全体での販売数として,特段多いとは思われない。
日本国内における請求人商品の販売数は,1999年から2014年の間に約7万5千台とされていて,1年間の平均販売台数は約5千台で,2014年が約7千台ということになる。
年度が異なるのであくまでも参考程度であるが,2016年上半期の日本における屋内家庭用照明器具の販売台数とされている570万台(乙1)と対比すると,わずか0.04%強のマーケットシェアでしかない。
(エ)請求人は,商品カタログを全国の建築設計事務所,住宅メーカー,インテリアコーディネーター,インテリアショップ,百貨店,インテリア雑誌及びプレス等の約5千社(人)の顧客に配布されたとしている。
しかし,照明器具が半年で570万台前後販売される中,わずか5千人の顧客に対して,同種・他種商品が多数掲載されている商品カタログを定期的に配布するだけで,請求人商品の立体的形状のみが周知・著名になるとは考えられない。しかも5千人の中には,同一法人に所属する個人が多数含まれているので,同一法人に対して重複して配布されている分は除外して評価すべきである。
また,請求人商品である「ランプシェード」は家庭用の屋内照明に用いられるものであり,その需要者は一般消費者であるが,商品カタログの配布先として顧客リストに掲載されているのは,主として建築事務所などいわゆるインテリア等の専門家であり,「ランプシェード」の需要者たる一般消費者とはいえない。
それらの顧客に対する当該商品カタログの配布や取引により請求人商品の立体的形状が,ランプシェードの需要者(一般需要者)の間で広く知られるに至ったとはいえない。
上述のとおり,一般消費者に対して請求人商品の広告宣伝等が積極的に行われていたことは何ら示されていない。
請求人は,この点について,請求人商品の主な顧客は,一般消費者の中でもより質の高いインテリアや家具を必要とし,照明器具やそのランプシェードにも質の高いデザインと美しさを求める需要者層であることから,不特定多数の一般消費者の各種マスメディアを利用した大量宣伝を行う手法はとらず,大学教授,インテリアコーディネーター等の専門家へ当該商品の特徴を理解してもらい,その後,本商品の情報が高い評価とともに口コミで上記の需要者層に伝達されるよう活動してきたとしている。
しかし,これは請求人の商品のみに見られる個別的な事情にすぎず,当該商品の一般的・普遍的に見られる取引実情ではない。本来,自他商品識別標識ではない商品の立体的形状について識別力が生じているか否かを,かかる当該商品にのみ特有の個別的な事情を参酌して判断すべきではなく,商品「ランプシェード」の通常の需要者である,一般消費者の間で,請求人商品の立体的形状が全国的に広く知られ,自他商品識別標識として機能し得るかどうかで判断すべきである。
(オ)請求人商品がグッドデザイン賞を受賞したことが参酌されているが,そのシステムは,有料で申請した商品が審査されて受賞されるもので,市場の商品を主催者等がノミネートして賞を授与するものとは全く異なる。
また,グッドデザイン賞を申請した商品のうち,約30%が受賞するといわれていて,1997年度は2,524点の申請に対して842点が受賞しており(乙2),請求人商品は842製品中のひとつにすぎない。
(カ)請求人は,同社が日本において請求人商品に係る立体的形状を使用した結果,日本全国の需要者が出願人の業務に係る商品であることを認識できる旨の国内及び外国の照明器具の著名なデザイン関係者等並びにデンマーク国駐日大使の証明書又は陳述書を提出している。
本来,この種の証明書は,立体的形状が取引界において需要者等の間で広く知られていて,自他商品識別標識として需要者が認識するに至っていたことを証明するものである。
そのため,取引市場における需要者の認識を知ることができる人(例えば,同業者,取引先,代理店等)によって,証明,陳述されるべきである。
しかし,請求人が提出した証明書は,デザイナーやデザイン関係の大学教授であり,しかもこれらの者が,照明器具のデザインについては専門家として一般需要者に比べて高い知識を有し精通している一方で,照明器具の取引実情についての十分な知識・情報など一般消費者による認識を把握するのに必要な情報を持ち合わせていたとはいえない。
しかも提出された証明書は請求人が用意した定型的な印刷物に署名をしただけのものであることを合わせると,請求人商品の立体的形状が自他商品識別標識として機能しているかについての証明書としては信用性が低いといわざるを得ない。
また,駐日デンマーク大使による証明についても,当該大使は日本に駐在したのはわずか4年にすぎないため(乙3),その大使が日本の取引事情や需要者の認識について理解しているとは考えられず,かつ,当該証明書が請求人が作成した定型的な内容であることを考慮すると,請求人商品の立体的形状が日本において自他商品識別標識として機能するに至っているかについての証明書としては信用性が低いといわざるを得ない。
(キ)請求人商品が紹介されているカタログ,雑誌等の記事をみるに,請求人商品は「PH5」として紹介されている。これらのカタログ,記事に接した需要者は「PH5」を自他商品識別標識として認識するのであって,請求人商品の立体的形状はあくまでも,商品の形状そのものとして認識するに留まる。そのような状況において請求人商品の立体的形状が使用されても,出所表示として認識されるのは「PH5」の文字であり,商品の立体的形状はせいぜい記述的表示(商品形状の表示)として需要者等に知られるにすぎない。
(ク)以上に述べた事項を総合すると,請求人商品の立体的形状が自他商品識別標識として使用され,その結果,自他商品識別力を獲得するに至ったとはいえない。
なお,WIPOが提供している「Global Brand Databases」,EUIPOが提供している「TMView」,請求人の本国デンマーク特許庁のデータベースを調べる限り,本国デンマーク,また同国が加盟する欧州共同体において,請求人商品の立体的形状について商標登録されている事実はみつからなかったので,本国,同国が加盟する欧州共同体等で当該形状が自他商品識別標識として機能するものとして,商標登録により保護されているという事情もない。
ウ 以上のとおり,請求人商品の立体的形状は,本来的に自他商品識別力を備えておらず,また,国内における使用により自他商品識別力を獲得するに至ったと見るべき事情もない。また,海外においても同様である。
そこで,上述の事実に基づき,被請求人が主張する各無効理由について次項において検討する。
(2)商標法第4条第1項第7号
ア 請求人は,請求人商品の立体的形状が需要者の間で全国的に認識されていると主張するが,上述のとおり,そのような事実はなく,自他商品識別力が欠如している。
請求人は,請求人が当該形状について商標権等を獲得していないことを奇貨として,その名声や信用にただ乗りしようとして商標の一部として採用されたと主張するが,そもそも請求人商品の立体的形状は商標登録に必要な自他商品識別力が欠如するために商標権を獲得出来ないものであり,請求人商品の立体的形状との関係で想定しうる特許権,意匠権があったとしても公表時期(1958年)からみて,それらの権利によって保護される期間も相当前に過ぎていることから,請求人の上記の主張に何ら根拠がないことは明白である。
加えて,請求人商品の立体的形状は,パブリックドメインとして何人も自由に実施しうるものであるので,本件図形が,仮に当該形状に依拠していたとしても,何ら不正なところはない。
イ 請求人は,請求人商品をデザインしたヘニングセン及びその相続人との間で結ばれた協約に基づいて,世界の市場において,請求人商品を独占的に使用してきたので,請求人商品はデンマーク国の誇りであり,同国の象徴というべき請求人商品のデザインを,権原なく商標の一部として採用した商標は国際信義に反し,「悪意の商標登録出願」に該当すると主張する。
当該協約の対象に請求人商品が含まれているかは請求人が提出した証拠では不明であるが,仮に請求人商品が協約の対象であったとしても,当該協約はデザイナー(及びその相続人)と企業である請求人との間で結ばれた私的な協約でしかない。その協約において独占的な使用の文言があったとしても,それは私的契約に基づくものにすぎず,私的協約に基づく独占的な使用の事実のみをもって,請求人商品がデンマーク国の誇りあるいは象徴であるとする請求人の主張には,全く根拠がない。
したがって,本件商標を登録したとしても国際信義に反するとはいえない。
また,当該私的協約により請求人商品の独占的な製造・販売が請求人に認められているとしても,それは協約の当事者間を拘束するにすぎず,第三者たる被請求人の本件商標登録に対しては何ら影響を与えるものではない。
デンマーク国大使による証明書において,デンマーク国における請求人商品の評価その他については何ら言及されていない。
上記アで述べた事項と総合して考慮しても,本件登録に係る出願について,悪意の商標登録出願には該当しないことは明白である。
ウ 請求人は,請求人商品の取付け説明書について著作権を有していて,そこに描かれている図に依拠している本件商標は著作権法により使用が禁じられていると主張する。しかし,著作物に該当するとすれば取付け説明書そのものが該当するのであって,そこに描かれている個々の図形は著作物に該当しない。
さらに,請求人は,請求人商品の立体的形状が美術の著作物に該当するので,請求人商品のデザインに依拠している本件商標の使用が著作権法により禁止されていると主張する。
請求人商品が著作物に該当する点については認容しかねるが,その点を除いても,本件図形は請求人商品を複製するものではないので,著作権法で使用を禁じられるものには該当しない。
著作権法における「複製」とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製することをいい,著作物に依拠して,その内容・形式を覚知させる程度に再製されていることが必要である。請求人商品はランプシェードの立体的形状だけではなく,シェードの素材の質感,さらには,請求人商品で採用されている対数螺旋が理想的な光の拡散を実現するものであることから,光が拡散する様子をも含めて,これらが渾然一体となったものであり,それを本件図形からは覚知することはできない。
したがって,本件商標は著作権法により使用が禁じられるものには該当しない。
エ それに,そもそも,請求人の理由は法律論として成り立っていない。
(ア)商標法第4条第1項第7号に定められた「公の秩序」に,「国際信義」が該当することを認めるとしても,「公の秩序」も「国際信義」も,抽象的規範にすぎず,それを直接具体化した法律,政令等は存在しないので,そのままでは,具体的な事件には,直接当てはめできないものである。
そこで,商標法第4条第1項第7号の「公の秩序」の一つである,「国際信義」とは,どのような具体的規範として定立することができるのか,その理由を提示して,具体的に検討できる規範として定立しなければならない。
それを行わず「国際信義」という抽象的規範を提示したのみで,延々と,上記のとおり,誤っていることが明らかな事実のみを書き連ねている請求人の理由は,全く的外れといわざるを得ない。
請求人の主張する具体的事実の真否以前に,商標法第4条第1項第7号についての主張は,このままでは,およそ理由とはなり得ない。
(イ)さらに,「公の秩序」の一つである,「国際信義」に違反する理由として,請求人が平成28年2月12日,引用商標の登録を取得したことを理由としているが,これも誤りである。
そもそも,権利よりも強固な,法律,であっても,先に発生した権利・義務をさかのぼって変更することはできないことは,法律的常識である。
そこで,本件商標に遅れて取得した,引用商標の存在が,先に取得された本件商標の無効の理由になることがあり得ないことは,社会通念上明らかである。
むしろ,後で発生した権利が,先に発生した権利を無効とする,という請求人の主張こそ,「公の秩序」を害していることになる。
加えて,本件商標はより広い照明器具に関する商標であるが,引用商標は,指定商品が「照明器具」では認められなかったため,「ランプシェード」という限定された指定商品でのみ認められた経緯が存するのであり,本件商標は引用商標の範囲外である。
(ウ)同様に,著作権法第10条,及び同法第21条以下,に該当する場合には,「公の秩序」に反する,という主張も,抽象的にすぎ,著作権法と商標法の法律上の関係を説明して,具体的な規範の定立を行うことが必要である。
なぜなら,著作権法にも,商標法にも,具体的な双方の関係性は,規定されていないからである。
そこで,審判例や判例を提示して,著作権法と商標法の法的関連を説明した上で,著作権法第10条,及び同法第21条以下,に該当する場合には,「公の秩序」に具体的に,何が,どのように違反するので,無効なのだ,という規範を定立する必要がある。
オ 以上のとおり,本件商標は,登録を認めたとしても国際信義に反するものでもなく,また社会的妥当性に欠けるものでもないので,商標法第4条第1項第7号には該当しない。
なお,請求人は被請求人に対して平成25年2月20日に警告状を送付しているとするが,そもそも,請求人商品の立体的形状はパブリックドメインでありその実施が禁じられていないので,当該警告自体が不当である。
(3)商標法第4条第1項第10号及び同第15号
ア 先に(1)で述べたとおり,請求人商品の立体的形状は,本来的には自他商品識別機能を有さず,かつ,使用により自他商品識別力を獲得するに至ったとみるべき事情は全く見当たらない。
そうである以上,本件登録に係る出願の査定時において,当該形状が商標(自他商品識別標識)として日本国内で周知あるいは日本国内又は外国において著名であったということはあり得ない。
請求人が本件登録の出願時・査定時に未登録周知商標であったとする引用商標は商標法第3条第1項第3号に該当するものであり,使用に基づく識別力も獲得されていないので,当該登録は無効にされるべきものである。
したがって,類否等を詳細に検討するまでもなく,本件商標は商標法第4条第1項第10号及び同第15号に該当しない。
イ また,上述するとおり,先行して取得された本件商標に対し,後に取得された引用商標を理由として異議を述べるのは,全くの誤りである。
(4)商標法第4条第1号第19号
ア 先に(1)で述べたとおり,請求人商品の立体的形状は,本来的には自他商品識別機能を有さず,かつ,使用により自他商品識別力を獲得するに至ったとみるべき事情は全く見当たらない。
そうである以上,本件登録に係る出願の査定時において,当該形状が商標(自他商品識別標識)として日本国内で周知あるいは日本国内又は外国において著名であったということはあり得ない。
また請求人商品の立体的形状は自他商品識別力を獲得するに至っておらず商標として機能していない以上,当該形状は,出所表示機能も持たず,また,識別標識として機能することによって初めて蓄積される名声や業務上の信用も蓄積されていない。
したがって,本件商標は商標法第4条第1項第19号に該当しない。
イ 加えて,本件商標は以下の経緯で取得されたものであり,不正の目的もない。
(ア)本件商標の出願をした平成25年6月14日当時,被請求人は,自身の商品は,販売に際し,リジェネリック品であることを大きく表示し,価格も2万2500円で販売していた。
これに対し,請求人は販売に際しては,正規品,と大きく表示しており,販売価格も8万5000円程度,と明示していた。
そこで,被請求人の商品と,請求人の商品とは,全く競業関係にはないと想定される状況であった。
しかも,上述のとおり,請求人には,被請求人の商品販売を禁止する何らの権利もなかったのである。
(イ)しかし,請求人より,被請求人の商品販売を禁止する通知がなされたことで,被請求人は非常に驚愕し困惑した。
このように,被請求人は,請求人に何らいわれのないいいがかりをつけられたことから,自身の事業と権利を守る方策を検討し,主力商品であり,いいがかりを向けられた照明器具の図形を商標登録しようとしたのである。
その際,ホームページなどで表示していた,エンブレムを添えて,商標登録し,平成25年12月27日に査定された。
(ウ)上述のとおり,商標登録の取得はあくまでも,自身の権利の保護が主眼であったので,商標取得後も,本件商標取得を理由とする,警告行為や輸入差止の申立などは行っていない。
しかし,請求人が,平成28年2月11日に引用商標の登録を取得するや,わずか3か月後である,同年5月11日には,被請求人のみを標的とする輸入差止申立を行ってきたのである。
そこで,被請求人は,このような横暴に対抗するため,やむなく,商標取得から2年6か月以上も経過した,平成28年9月2日,輸入差止を行うに至ったのである。
(エ)このように,被請求人が本件商標を取得したのは,あくまで自身の権利の保護の目的のみであり,不正の目的はない。
このことからも,本件商標は商標法第4条第1項第19号に該当しない。
(5)商標法第4条第1項第16号
ア 請求人は,請求人商品の立体的形状に係る出願の審査において「当該商標はその構成態様に照らし,『ランプシェード』以外の商品について使用するときは,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあり,商標法第4条第1項第16号に該当する。」旨の指摘を受けたことから,そのデザインの一部を含む本件商標も,第35類「ランプシェードの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」以外の役務に使用するときは役務の質について誤認を生じさせると主張する。
しかし,商品の立体的形状は商品それ自体であり,平面の本件図形を含む本件商標をそれと同一視しなければならない理由はない。
しかも,引用商標に係る出願時の指定商品は,ランプシェードとの関連性が極めて高い商品(照明,採光のための商品)であり,各種小売等役務を指定する本件商標とは全く条件が異なるので,請求人の主張は失当である。
被請求人が簡易に調べたところ,以下の登録例は,商品を描いた図形を含む商標であって,当該図形が表す商品以外の商品等の小売等役務を指定するにもかかわらず登録されていた。
・登録第5723932号(乙4)
・登録第5127193号(乙5)
・登録第5707282号(乙6)
・登録第5294616号(乙7)
・登録第5325470号(乙8)
・登録第5642024号(乙9)
・登録第5627323号(乙10)
これらはほんの一例にすぎないが,これらの登録の事実からしても,本件商標に係る指定役務について本件登録が使用されても,役務の質について誤認が生じるおそれがないことは明らかである。
イ また上述するとおり,先行して取得された本件商標に対し,後に取得された引用商標を理由として異議を述べるのは,全くの誤りである。
したがって,本件商標は商標法第4条第1項第16号に該当しない。
2 平成29年9月11日付け回答書
被請求人は,平成29年8月14日発送の審尋に対して,次のとおりに意見を述べる。
(1)請求人は,甲第15号証の協約の内容を明らかにするために,その日本語訳文を提出しているが,これは,請求人とデザイナー(及びその相続人)との間で結ばれた協約原本の写しでなく,この英語翻訳がこの協約原本の内容を正しく表現しているかは不明であり,このような英語翻訳を日本語に翻訳して提出したとしても請求人とヘニングセンとの協約,及びその子息との協約の内容は依然として不明なままである。
請求人は,ヘニングセンとの協約を締結し,ヘニングセンの死去後にはその子息と協約を締結しているとしているが,甲第15号証には,ヘニングセン,その子息の署名は全くなく,またヘニングセンの権利を承継したことを証明する証拠も全く示されていない。
(2)請求人は,請求人の商品「PH5」に係る使用開始時期・使用期間,使用地域,販売実績,販売方法などについての証拠を追加提出しているが,追加提出された証拠(甲23?甲171)から判断しても請求人の商品の立体的形状が使用により自他商品識別力を獲得するに至ったとすることができない。
ア 請求人の商品「PH5」の販売実績について,甲第169号証に1999年以降の販売台数が示されている。その販売台数は,1999年から2014年までの16年間の総販売台数が74,627台であり,この16年間の総販売台数を一年当たりに換算すると,約4,700台であり,この台数が16年間にわたっての日本国での一年間の平均販売台数である。
単年度の上半期の販売台数で,参考程度であるが,2016年上半期の日本における屋内家庭用照明器具の販売台数は約570万台(乙1)であり,2016年上半期の販売台数570万台と対比すると,わずか0.04%のマーケットシェアでしかない。また,甲第171号証には2000年から2016年までの17年間の売上金額が示されており,この17年間の累計売上金額が約35億4000万円となっているが,この売上金額は17年間の売上金額の累計であって,日本国での一年間当たりの売上金額に換算すると2億800万円程度である。このような一年当たりの販売台数及び売上金額の商品が自他商品識別標識ではない立体的形状について識別力を獲得したとはいい難い。
イ また,請求人は,自身及び販売代理店が定期的に発行する製品カタログ(甲103?甲161)を全国の建築事務所,住宅メーカー,インテリアコーディネーター,インテリアショップ,百貨店等の約5千社(人)の顧客に配布する形で販売しているとし,その顧客リストも提出している。
しかし,甲第103号証ないし甲第127号証はヤマギワ株式会社(現 株式会社YAMAGIWA)の製品カタログであり,このような他社の製品カタログを請求人が約5千社の顧客(甲102)に配布する形で販売したことも考え難く,またこれらの製品カタログは1970年代から1990年代の古いものも含まれており,これらの古い製品カタログについても約5千社の顧客に配布する形で販売したことも考え難いものである。さらに,約5千社に配布したとのことであるが,同一法人に所属する個人が多数含まれているので,同一法人に対して重複して配布されている分は除外して評価すべきであり,除外した場合には配布先の数がかなり減る。
さらに,甲第103号証ないし甲第l27号証のヤマギワ株式会社の製品カタログであるが,これらの製品カタログでは,多種類の照明器具が掲載されており,これらの照明器具の一つとして請求人の製品「PH5」が示されている。
このような商品カタログでの請求人の商品の紹介は,一商品として掲載されているにすぎず,またその掲載も商品の機能及び美感に資する目的で使用されているものであり,したがって,その立体的形状に自他商品識別力をもっておらず,また自他商品識別の目的で使用されているわけではない。また,甲第162号証ないし甲第164号証は,ミサワホーム株式会社のカタログであり,このカタログでの掲載も商品の機能及び美感に資する目的で使用されているものであり,このようなことは,甲第23号証ないし甲第84号証の雑誌の大部分においても同様のことがいえる。
(3)請求人は,請求人商品に係る立体的形状を使用した結果,日本全国の需要者が請求人の業務に係る商品であることを認識できる旨の国内及び外国の照明器具の著名なデザイン関係者等並びにデンマーク王国駐日大使の証明書又は陳述書(甲17,甲91?甲96,甲98,甲165)を提出している。
本来,この種の証明書は,立体的形状が取引界において需要者等の間で広く知られていて,自他商品識別標識として需要者が認識するに至ったことを照明するためのものである。そのため,取引市場における需要者の認識を知ることができる人(例えば,同業者,取引先,代理店等)によって,証明,陳述されるべきものである。
しかし,請求人が提出した証明書は,デザイナーやデザイン関係の大学教授であり,しかもこれらの者が,照明器具のデザインについては専門家として高い知識を有して精通しているが,一方において照明器具の取引実情についての充分な知識,情報等を持ち合わせているとはいえない。
しかも提出された証明書は,請求人が用意した定型的な印刷物に署名をしただけのものであることを合わせると,請求人の商品の立体的形状が自他商品識別標識として機能しているかの証明書としては信用性が低いといわざるを得ないものである。
また,駐日デンマーク王国大使による証明についても,当大使は日本国に駐在したのはわずか4年にすぎないために(乙2),その駐日大使が日本国の取引事情や需要者の認識について理解しているとは考えられず,かつ,その証明書が請求人の作成した定型的な内容であることを考慮すると,請求人の商品の立体的形状が日本において自他商品識別機能として機能するに至っているかについての証明書としては信用性が低いものである。

第5 当審の判断
1 利害関係について
請求人が本件審判を請求する利害関係を有することについては,当事者間に争いがなく,また,当審は請求人が本件審判を請求する利害関係を有するものと認める。
2 商標法第4条第1項第19号について
商標法第4条第1項第19号は,「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって,不正の目的(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)」と規定しているので,以下,検討する。
(1)引用商標の周知性について
ア 請求人提出の甲各号証及び同人の主張によれば,次のとおりである。
(ア)請求人
請求人は,1874年に設立されたデンマーク国の株式会社であり,現在まで継続して電気器具・照明器具の製造販売を行っている。また,請求人は,ドイツ,フランス,スウェーデン,アメリカ,ノルウェー,オランダ,オーストラリア,フィンランド,スイス,イギリス及び日本に現地法人を設立している(甲5)。
そして,請求人が1990年に東京都港区に設立した日本法人「ルイスポールセン ジャパン株式会社」は,照明器具製造・輸出入・卸売を事業内容とし,その沿革によれば,設立当時から現在まで継続して請求人商品を販売していることが推認できる(甲5)。
(イ)請求人の商品
請求人は,1958年にヘニングセンのデザインによる「PH5」と称されるランプシェード(請求人商品。なお,その立体的形状が「引用商標」である。)の発売を開始し,現在も継続して販売している(甲5,甲6,甲157,甲159,甲162)。
(ウ)使用開始時期及び使用期間
請求人商品は,ヘニングセンがデンマークで1958年にそのランプシェードの形状を完成し,請求人が同年から販売を始め(甲89,甲155,甲157,甲161),日本においては,請求人の販売代理店であった株式会社YAMAGIWA(名称変更時の「株式会社ヤマギワ」の時期を含む。)が,1976年から2003年までの定期的に発行する商品カタログ(甲103?甲122,甲124?甲127)並びに2014年及び現在の同社のインターネット販売サイト(甲167)で紹介し,輸入販売している。
また,請求人の日本法人であるルイスポールセン ジャパン株式会社(名称変更時の「タルジェッティ ポールセン ジャパン株式会社」の時期を含む。以下「日本法人」という。)は,同社の1992年から2014年まで定期的に発行する商品カタログ(甲123,甲129?甲140,甲142?甲149,甲151?甲155,甲157,甲159)並びに2014年及び現在の同社のインターネット販売サイト(甲168)で,請求人商品を紹介し,輸入販売している。
(エ)使用地域
請求人の「顧客リスト」(甲102)によれば,これには,全国の建築設計事務所,住宅メーカー,インテリアコーディネーター,インテリアショップ,百貨店,インテリア雑誌及びプレス等の約5千社(人)が掲載されており,同人の商品は,北海道から九州にかけての全国的な範囲で取り扱われているものである。
(オ)販売数量
請求人商品は,世界で50万台を超すセールスを記録しているロングセラー商品であり(甲27),日本においては,1999年から2014年の間に,約7万5千台が販売されている(甲169)。
(カ)広告宣伝等
前記(ウ)のとおり,請求人商品が掲載された商品カタログは,株式会社YAMAGIWA及び請求人の日本法人により,1976年から2014年の間に定期的に作成され,全国の建築設計事務所,住宅メーカー,インテリアコーディネーター,インテリアショップ,百貨店,インテリア雑誌及びプレス等の約5千社(人)の顧客へ配布されている(甲102)。
また,住宅メーカーのミサワホーム株式会社が作成した商品カタログにおいても,請求人商品が掲載されている(甲162?甲164)。
請求人商品は,1990年から2014年に発行された,家具に関する書籍,照明に関する雑誌・カタログ,インテリア雑誌,ファッション雑誌,経済雑誌等の数多くの出版物で紹介されている(甲24?甲84)。
そして,これらの出版物においては,例えば,「PH5・・・Paul Henningsen/Louis Poulsen Lighting,Denmark・・・PHシリーズ中,住宅用ペンダントライトとして最も普及した」(甲24),「ポール・ヘニングセン デンマーク生まれ。近代照明の父と言われる。・・・北欧を代表する多くの照明器具を生み出した」(甲26),「PH5 ルイスポールセン 1874年に創業したデンマークの照明器具メーカー,ルイスポールセンの定番として,世界で50万台を超すセールスを記録しているロングセラー商品。1920年台半ばから当社との協力関係を結んだ気鋭のデザイナー,ポール・ヘニングセンによるデザインで,58年に販売を開始。・・・以降の照明デザインの歴史を変えた名作とされており,世界中で数多くの模倣品を生んだ。」(甲27),「ペンダント型の照明器具といえば,すぐにヘニングセンのデザインした一連の器具が想起されるほどに,彼のデザインは,世界中で最も長く使われてきている。」(甲29),「デンマークの国民的ランプと称され,北欧のみならず世界のスタンダードの座に,21世紀もおそらく君臨するのだろう。」(甲36),「北欧のペンダントランプを代表する超ロングセラー。」(甲40),「世界の名品・定番品」(甲44),「1958年に発表されたルイスポールセン社の代表作ともいえる照明」(甲51),「ルイスポールセンのPH5・・・照明デザインの盛んな北欧の中でも名高い照明ブランド。4枚シェードのこのPH5はポール・ヘニングセンのデザイン」(甲52),「ルイスポールセンの名作照明」(甲80)等の記載とともに,請求人商品の写真が掲載されている。
また,請求人商品は,文部科学大臣が認可した教科書「美術2・3上 生活の中に生きる美術」(平成24年1月15日発行:甲11),「高等学校芸術家工芸I」(平成24年3月5日検定済:甲12)に掲載された。
さらに,請求人商品は,「名作といわれる器具の形を変えることなく内部構造の見直しを図り,より適応性の高い商品に仕上げたことが評価」され,平成9年通商産業省選定グッド・デザイン外国商品賞を受賞している(甲10)。
(キ)証明書等
請求人は,同社が日本において40年以上にわたりランプシェードに本件商標に係る立体商標を使用してきた結果,日本全国において需要者が請求人の業務に係る商品であることを認識できる旨の国内及び外国の照明器具の著名なデザイン関係者並びにデンマーク王国駐日大使の証明書又は陳述書を提出している(甲91?甲95,甲17)。
なお,請求人商品は,デンマークの切手のデザインに採用されるほど,デンマーク国民に親しまれている(甲16)。
イ 引用商標の周知性について
上記アの事実によれば,請求人は,請求人商品を1958年から現在まで約60年間継続して販売しており,我が国においても遅くとも1976年から現在まで約40年以上にわたり継続して請求人の日本法人を通じ販売されている。
また,請求人商品は,定期的に作成された請求人の販売代理店や日本法人等の商品カタログに,その写真と共に掲載されて,全国的に配布されたことが推認され,さらに,照明又はインテリアの書籍,雑誌及びカタログのみならず,平成9年度「グッド・デザイン外国商品賞」を受賞し,平成24年に高等学校の教科書にも掲載された。
そして,ファッション及び経済関係の雑誌にも,近代照明の父といわれるデザイナーのヘニングセンによりデザインされ請求人の販売に係る名作のランプシェードとして,その写真と共に,長期にわたって採り上げられていることに照らせば,請求人商品に係る立体的形状は,照明器具を取り扱う業界において,特に,請求人商品の顧客には,建築設計事務所等が非常に多いことからすれば,該商品は,専らインテリアとしてのデザイン性が優れていることで購入されていることが推認されるものであって,ランプシェードの代表的な立体的形状として,請求人商品は,本件商標の登録出願日前から,請求人の業務に係る商品として我が国における需要者の間に広く認識され,その状況は本件商標の登録査定日においても継続していたものと判断するのが相当である。
してみれば,請求人商品の立体的形状からなる引用商標は,それ自体が本件商標の登録出願時ないし登録査定時において,他人(請求人)の業務に係る商品であることを表示するものとして我が国における需要者の間に広く認識されていたものと判断するのが合理的である。
なお,被請求人が,ヘニングセンのデザインによる「PH5」と称されるランプシェード(請求人商品)と比較し,「リプロダクト製品」として自社商品を販売していること(甲3)からも,請求人商品及び引用商標の周知性による顧客吸引力が継続していることが窺われるものである。
(2)引用商標の自他商品識別標識としての機能について
引用商標は,その査定不服審判事件において,指定商品に使用された結果,請求人の販売に係る商品であることを認識することができる立体商標であるとして,商標法第3条第2項の要件を充足すると判断され,登録第5825191号商標として商標登録されたものである(甲9)。
ア 商標法第3条第2項の趣旨
引用商標の立体的形状は,本件審決時を基準として客観的に見れば,照明器具の「ランプシェード」について,機能又は美感に資することを目的として採用されたものと認められるものであるから,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法第3条第1項第3号に該当するというべきである。
しかしながら,商標法第3条第2項は,商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として同条第1項第3号に該当する商標であっても,使用により自他商品識別力を獲得するに至った場合には,商標登録を受けることができることを規定している。
そして,立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは,(a)当該商標の形状及び当該形状に類似した他の商品等の存否,(b)当該商標が使用された期間,商品の販売数量,広告宣伝がされた期間及び規模等の使用の事情を総合考慮して判断すべきである。
なお,使用に係る商標ないし商品等の形状は,原則として,出願に係る商標と実質的に同一であり,指定商品に属する商品であることを要するが,機能を維持するため又は新商品の販売のため,商品等の形状を変更することもあり得ることに照らすと,使用に係る商品等の立体的形状が,出願に係る商標の形状と僅かな相違が存在しても,なお,立体的形状が需要者の目につきやすく,強い印象を与えるものであったか等を総合勘案した上で,立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを判断すべきである。
イ 引用商標の商標法第3条第2項該当性
引用商標は,指定商品である照明器具のランプシェードの立体的形状に係るものであり,その形状は,上部に小さな凸部を有する5層構造のランプシェードの立体的形状からなるものであり,その構成を示す別掲2の(1)(2)及び(5)の図は,1層目の円筒状の形状と2層目から5層目が独特に組み合わさった形状に基づく4枚のシェード(電灯のかさ)から構成されてデザインされたものである。
そして,引用商標の指定商品のランプシェードの形状としては,洗練されたデザインからなる多種多様な形状があるところ,引用商標は,ランプシェードの形状として通常採用されている範囲を大きく超えるものとまでは認められないものの,引用商標のような5層構造のランプシェードの立体的形状の2層目から5層目が独特に組み合わさった形状に基づく4枚のシェードからなる構成を有した形状は,他に見当たらない。
さらに,引用商標に係るヘニングセンのデザインによる「PH5」と称されるランプシェード(請求人商品)が販売開始された1958年から現在まで約60年にわたり,そのランプシェードのデザインについて,「住宅用ペンダントライトとして最も普及した,北欧を代表する多くの照明器具,ルイスポールセンの定番として・・・ロングセラー商品,照明デザインの歴史を変えた名作,ペンダント型の照明器具といえばすぐにヘニングセンのデザインした一連の器具が想起される,デンマークの国民的ランプ」と称され,超ロングセラー,ルイスポールセンの名作照明といった極めて高い評価が雑誌等に数多く採り上げられ,今日に至っている(甲24,甲26,甲27,甲29,甲36,甲40,甲44,甲51,甲52,甲80)。
このように,引用商標の立体的形状は,そのデザインに起因する周知著名性を有しているということができ,その立体的形状が需要者の目を引きやすく,強い印象を与えるものである。
してみれば,上記(1)のとおり,請求人商品のランプシェードの立体的形状からなる引用商標は,照明器具を取り扱う業界において,それ自体が本件商標の登録出願時ないし登録査定時において,他人(請求人)の業務に係る商品であることを表示するものとして我が国における需要者の間に広く認識されているものと判断されるものであって,かつ,上記のとおり,引用商標のような5層構造のランプシェードの立体的形状の2層目から5層目が独特に組み合わさった形状に基づく4枚のシェードからなる構成を有した形状は,他に見当たらない特異性を有することからすると,引用商標の立体的形状は,需要者の目を引きやすく,強い印象を与えるものであって,1958年から現在まで約60年にわたって販売され,照明器具関連の専門誌やファッション雑誌等に掲載されて使用をされてきたことに照らすと,引用商標の立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っており,取引者,需要者がこれをみれば,請求人の販売に係るランプシェードであることを識別することができるといって差し支えない。
以上の諸事情を総合すれば,本件審決時においても、引用商標は,その指定商品に永年使用された結果,請求人の販売に係る商品であることを十分に認識することができるほどの周知著名性を有しており,商標法第3条第2項の要件を充足するというべきである。
(3)本件商標と引用商標の類否について
ア 本件商標
本件商標は,別掲1のとおり,上部に大きく描かれた左右対称の5層の幾何図形(以下「本件図形」という。)と,その左下に略三角形の中に「R&M」の文字を配した図形,及びその右に「R&M Interior Store」の文字を配した構成からなるものである。
そして,本件商標は,その構成態様から,上部に大きく描かれた本件図形部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものであって,独立して自他役務識別標識としての機能を果たし得るものとみるのが相当である。
イ 引用商標
引用商標は,別掲2のとおり,上部に小さな凸部を有する5層構造のランプシェードの立体的形状からなるものであり,その構成を示す別掲2の(1),(2)及び(5)の図は,1層目の円筒状の形状と2層目から5層目が独特に組み合わさった形状に基づく4枚のシェード(電灯のかさ)から構成されており,引用商標の構成の特徴を顕著に表しているものとみるのが相当である。
ウ 本件商標と引用商標の類否
そこで,本件商標と引用商標の類否を検討すると,まず,本件図形部分と引用商標の立体的形状とを比較すると,両者は,上部の小さな凸部及び上から2層目と3層目の2本又は3本の細い帯状の線の有無に差異はあるものの,両者とも全体の構成が左右対称の5層の形状となっているものである。
そして,本件図形は,請求人商品の立体的形状のランプシェードを真横から見たデザインの特徴である5層構造及び2層目から5層目における独特に組み合わさった4枚のシェード部分の形状とが,同様の形状で構成されており,引用商標のランプシェードの真横から見たデザインに酷似していることは明らかである。
してみれば,図形商標や立体商標類否判断においては,外観がその識別に重要な役割を果たすことをあわせ考慮すれば,外観において極めて近似する本件図形と引用商標は,互いに類似するものと判断するのが相当である。
したがって,本件商標と引用商標は,互いに類似する商標といわなければならない。
(4)不正の目的
甲第3号証の被請求人のホームページには,その3葉目に,「弊社商標登録に関しまして」の項目に,「2016.08.05 Friday」の日付けの記載,及びリプロダクト製品の写真がある。
そして,このホームページによれば,被請求人は,2016年8月5日時点において,ヘニングセンのデザインによる「PH5」と称されるランプシェード(請求人商品)と比較する「リプロダクト製品」として,自社商品を販売していたこと(甲3),及び本件商標の出願当時,自身の商品の販売に際し「リジェネリック商品」であることを表示し販売していたことが認められる。また,5葉目には,ヘニングセンのデザインに係る「PH5」を含む複数の商品が真正品のように掲載されている。
なお,本件図形は,請求人商品の取扱書に表示されている引用商標を側面から描写した図(甲19)とも酷似しているものである。
ところで,請求人は,平成25年2月20日及び同年11月11日に警告状を送付していると述べているところ,甲第14号証の「警告書」によれば,平成25年11月11日付けで被請求人に,不正競争防止法にもとづき,請求人商品と誤認混同を生じさせる被請求人の「リプロダクト製品」の販売を中止する等を求めた内容が通知されている。
これに対し,被請求人は,平成25年11月22日第92393号書留内容証明郵便物として,請求人代理人に「回答書」を差し出しており,これには,「通知人は,各商品を販売するに際し,通知人販売の商品は,リプロダクト品,または,ジェネリック製品である,とHPで明記しており,不正競争防止法第2条1項1号に規定する『他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為』はしておりません。」と回答している。そして,被請求人は,平成25年6月14日に本件商標の登録出願を行っているものである。
さらに,被請求人は,「請求人より,被請求人の商品販売を禁止する通知がなされたことで,被請求人は非常に驚愕し困惑した。このように,被請求人は,請求人に何らいわれのないいいがかりをつけられたことから,自身の事業と権利を守る方策を検討し,主力商品であり,いいがかりを向けられた照明器具の図形を商標登録しようとしたのである。その際,ホームページなどで表示していた,エンブレムを添えて,商標登録し,平成25年12月27日に査定された。・・・商標登録の取得はあくまでも,自身の権利の保護が主眼であったので,商標取得後も,本件商標取得を理由とする,警告行為や輸入差止の申立などは行っていない。しかし,請求人が,平成28年2月11日に引用商標の登録を取得するや,わずか3か月後である,同年5月11日には,被請求人のみを標的とする輸入差止申立を行ってきたのである。そこで,被請求人は,このような横暴に対抗するため,やむなく,商標取得から2年6か月以上も経過した,平成28年9月2日,輸入差止を行うに至ったのである。・・・被請求人が本件商標を取得したのは,あくまで自身の権利の保護の目的のみであり,不正の目的はない。」旨を述べている。
そうすると,被請求人は,上記の内容からすれば,その経緯や事実関係に不明確な点があるものの,請求人の販売する著名な請求人商品に対し,輸入差止を行うに至ったと述べ,その正規品の輸入を阻害する行為に及んでいるものである。
そして,被請求人は,ヘニングセンのデザインによる「PH5」と称されるランプシェード(請求人商品)が現在も販売されている状況において,請求人商品と比較する「リプロダクト製品」を販売することが,請求人の営業に重大な支障を来すおそれがあることを認知していたと容易に予想されるところである。
しかも,上記の警告状を受けたことから,両者の間には,「リプロダクト製品」の販売に関して,紛争が生じていたことがうかがえる。
これらの事情に加え,前記のとおり,本件商標と引用商標が類似の商標といえること,本件図形が請求人商品の取扱書に表示されている引用商標を側面から描写した図と酷似していること,本件商標の登録出願時に既に引用商標が請求人商品に係る立体商標として日本国内における著名性を獲得していたことを併せ考慮すると,被請求人は,引用商標がいまだ商標登録されていないことに乗じ,これに化体された信用及び顧客吸引力にただ乗りし,本件商標を使用することで利益を得,又は請求人商品の営業に支障を生じさせて損害を生じさせることを目的として本件商標を使用するものと推認される。
したがって,被請求人は,不正の目的をもって本件商標を使用するものと認められる。
(5)小括
上記(1)のとおり,引用商標は,本件商標の登録出願の日前ないし登録査定時において,他人(請求人)の業務に係る商品であることを表示するものとして我が国における需要者の間に広く認識されているものであり,上記(3)のとおり,本件商標と引用商標は類似する商標であり,さらに上記(4)のとおり,本件商標は不正の目的をもって使用をするものである。
してみれば,本件商標は,他人(請求人)の業務に係る商品を表示するものとして日本国内における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって,不正の目的をもって使用をするものといわなければならない。
したがって,本件商標は商標法第4条第1項第19号に該当するものである。
(6)被請求人の主張について
ア 被請求人は,「請求人商品の立体的形状は,本来的に自他商品識別力を備えておらず,また,国内における使用により自他商品識別力を獲得するに至ったと見るべき事情もない。また,海外においても同様である。」旨,及び,これを前提に,被請求人が主張する各無効理由について,種々述べ,不正の目的はない旨を主張している。
しかしながら,前記(2)のとおり,引用商標の立体的形状については,請求人商品について長年にわたって使用されたことにより,需要者の間に広く認識され,自他商品識別力を獲得したものと認められ,商標法第3条第2項の適用を受けて商標登録されているものであり,かつ,前記(4)のとおり,本件商標は不正の目的をもって使用をするものであると認められるものである。
イ 被請求人は,「請求人は,甲第15号証の協約の内容を明らかにするために,その日本語訳文を提出しているが,これは,請求人とデザイナー(及びその相続人)との間で結ばれた協約原本の写しでなく,この英語翻訳がこの協約原本の内容を正しく表現しているかは不明であり,このような英語翻訳を日本語に翻訳して提出したとしても請求人とポールヘニングセンとの協約,及びその子息との協約の内容は依然として不明なままである。請求人は,ポールヘニングセンとの協約を締結し,ポールヘニングセンの死去後にはその子息と協約を締結しているとしているが,甲第15号証には,ポールヘニングセン,その子息の署名は全くなく,またポールヘニングセンの権利を承継したことを証明する証拠も全く示されていない。」旨を主張している。
確かに,甲第15号証は,請求人とデザイナー(及びその相続人)との間で結ばれた協約原本の写しではない。
しかしながら,これは,両者の契約書の内容に関する事項を証明しようとして提出された文書であって,かつ,請求人は,長きにわたって,ヘニングセンのデザインに係る照明器具を販売してきた実績があることからすれば,この文書は,両者のライセンス契約の一部内容の抜粋とみることができるものである。
ウ 被請求人は,「請求人の製品『PH5』の販売実績について,・・・1999年から2014年までの16年間の総販売台数が74,627台であり,この16年間の総販売台数を一年当たりに換算すると,約4,700台であり,・・・2016年上半期の日本における屋内家庭用照明器具の販売台数は約570万台(乙1)であり,これと対比すると,わずか0.04%のマーケットシェアでしかない。また,2000年から2016年までの・・・17年間の累計売上金額が約35億4000万円となっているが,・・・日本国での一年間当たりの売上金額に換算すると2億800万円程度である。このような一年当たりの販売台数及び売上金額の商品が自他商品識別標識ではない立体的形状について識別力を獲得したとはいい難い。」,及び「請求人は,自身及び販売代理店が定期的に発行する製品カタログ(甲103?甲161)を全国の建築事務所,住宅メーカー,インテリアコーディネーター,インテリアショップ,百貨店等の約5千社(人)の顧客に配布する形で販売しているとし,その顧客リストも提出している。しかし,甲第103号証ないし甲第127号証はヤマギワ株式会社(現株式会社YAMAGIWA)の製品カタログであり,このような他社の製品カタログを請求人が約5千社の顧客(甲102)に配布する形で販売したことも考え難く,またこれらの製品カタログは1970年代から1990年代の古いものも含まれており,これらの古い製品カタログについても約5千社の顧客に配布する形で販売したことも考え難いものである。・・・さらに,・・・このような製品カタログでの請求人の製品の紹介は,一商品として掲載されているにすぎず,またその掲載も商品の機能及び美感に資する目的で使用されているものであり,したがって,その立体的形状に自他商品識別力をもっておらず,また自他商品識別の目的で使用されているわけではない。」旨を主張している。
確かに,請求人の証拠(甲169,甲171)によれば,我が国での一年間当たりの販売台数及び売上金額は,約4,700台,2億800万円程である。
しかしながら,請求人商品の販売地域は,顧客リストによれば,全国に及んでおり,1999年から2014年までの16年間の総販売台数は,74,627台であり,このような販売数量は,屋内家庭用照明器具の販売台数全体(乙1)と比較すれば必ずしも多いとはいえないものの,該商品が88,560円(税込:甲167)と決して安くなく,高価な照明器具の販売台数としては決して少なくないといえる。
そして,請求人商品は,1990年代以降,日本国内においても,雑誌等の記事で紹介され,日本でも評判の高い輸入照明器具の一つとされている。また,請求人商品は,照明器具の業界の書籍・雑誌や,学生向けの美術等の教科書に掲載されるなどの実績を残している。
さらに,請求人及びその販売代理店(現株式会社YAMAGIWA)が行ったパンフレット等による広告宣伝活動においては,製品カタログで請求人商品が一商品として掲載されている場合のほか,そのデザイナーと共に,デザイナーズブランド商品として紹介されている場合もあり,かつ,その広告活動が継続的になされた結果,請求人商品は,一部の照明器具愛好家にとどまらず,広く一般需要者にも知られるものとなっているということができる。
そして,引用商標に係るヘニングセンのデザインによる「PH5」と称されるランプシェード(請求人商品)は,1958年から現在まで約60年販売されており,そのランプシェードのデザインについて,例えば,「住宅用ペンダントライトとして最も普及した,北欧を代表する多くの照明器具,ルイスポールセンの定番として・・・ロングセラー商品,照明デザインの歴史を変えた名作,ペンダント型の照明器具といえばすぐにヘニングセンのデザインした一連の器具が想起される,デンマークの国民的ランプと称され,超ロングセラー,ルイスポールセンの名作照明」といった極めて高い評価が雑誌等に数多く採り上げられ,今日に至っている。
してみれば,引用商標ないし請求人商品の形状の特徴の故に,需要者において,何人の業務に係る商品であるかを,認識,理解することができる状態となったものと認めるのが相当である。
エ 被請求人は,「請求人は,請求人商品に係る立体的形状を使用した結果,日本全国の需要者が請求人の業務に係る商品であることを認識できる旨の国内及び外国の照明器具の著名なデザイン関係者等並びにデンマーク王国駐日大使の証明書又は陳述書を提出している。本来,・・・取引市場における需要者の認識を知ることができる人(例えば,同業者,取引先,代理店等)によって,証明,陳述されるべきものである。しかし,請求人が提出した証明書は,デザイナーやデザイン関係の大学教授であり,しかもこれらの者が,・・・照明器具の取引実情についての充分な知識,情報等を持ち合わせているとはいえない。しかも提出された証明書は,請求人が用意した定型的な印刷物に署名をしただけのものであることを合わせると,請求人の製品の立体的形状が自他商品識別標識として機能しているかの証明書としては信用性が低いといわざるを得ないものである。また,駐日デンマーク王国大使による証明についても,当大使は日本国に駐在したのはわずか4年にすぎないために(乙2),その駐日大使が日本国の取引事情や需要者の認識について理解しているとは考えられず,かつ,その証明書が請求人の作成した定型的な内容であることを考慮すると,請求人の商品の立体的形状が日本において自他商品識別機能として機能するに至っているかについての証明書としては信用性が低いものである。」旨を主張している。
しかしながら,国内及び外国の照明器具の著名なデザイン関係者等の証明書は,たとえ,定型的な印刷物に署名をしただけのものであるとしても,ごく普通の一般の人とは違い,照明器具のデザインやその業界については専門家として高い知識を有して精通している者であり,かつ,直ちに,照明器具の取引実情についての充分な知識,情報等を持ち合わせていないということはできないし,また,デンマーク王国駐日大使の陳述書は,同大使が日本国に駐在したのはわずか4年にすぎないとしても,国を代表する者の陳述として決して疎かにすることはできない。
よって,被請求人の主張は,いずれも妥当なものでないから,採用することができない。
3 むすび
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第19号に違反してされたものであるから,請求人のその余の主張について判断するまでもなく,同法第46条第1項の規定に基づき無効とすべきである。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 別掲1(本件商標)


別掲2(引用商標)
(1)

(2)

(3)

(4)

(5)

(6)


別掲3(請求人商品:甲6)



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審理終結日 2017-11-10 
結審通知日 2017-11-15 
審決日 2017-12-01 
出願番号 商願2013-45784(T2013-45784) 
審決分類 T 1 11・ 222- Z (W35)
最終処分 成立 
前審関与審査官 中束 としえ榊 亜耶人 
特許庁審判長 山田 正樹
特許庁審判官 井出 英一郎
榎本 政実
登録日 2014-01-17 
登録番号 商標登録第5643726号(T5643726) 
商標の称呼 アアルアンドエムインテリアストア、アアルエムインテリアストア、アアルアンドエムインテリア、アアルエムインテリア、アアルアンドエム、アアルエム 
代理人 岸本 忠昭 
代理人 池田 智洋 
代理人 特許業務法人 松原・村木国際特許事務所 
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