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審決分類 審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない W41
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない W41
管理番号 1338340 
審判番号 無効2017-890018 
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-03-07 
確定日 2018-03-14 
事件の表示 上記当事者間の登録第5903343号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5903343号商標(以下「本件商標」という。)は,「春風」の文字を標準文字で表してなり,平成28年9月6日に登録出願され,第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,演芸の演出又は上演」を指定役務として,同28年12月9日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は,本件商標の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由及び答弁に対する弁駁を要旨以下のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第14号証を提出した。
1 請求人の理由
本件商標は,商標法第4条第1項第10号及び同第7号に該当し,同法第46条第1項第1号により,無効にすべきものである。
(1)商標法第4条第1項第10号について
ア 日本の腹話術における「春風イチロー」の立場について
日本の腹話術の歴史について,樋口誠は,(長崎女子短期大学紀要第38号平成25年度〈2014.3〉)」(甲2)において,次のように述べている。
「本格的に腹話術の人形と会話をして,寄席演芸の中に,腹話術一本立ちのものとして,堂々と立ち上がったのは,花島三郎(元芸術協会所属)だ。その後に三遊亭小金馬(現在の金馬で落語協会),それに「春風イチロー」(芸術協会所属)が寄席の高座から,落語や漫才の中に入り,色物としての本格的な芸として実演して,現在に至っている。」また,「現在,日本にはプロとして活躍している腹話術師の数は少ないが,全国には約5,000人の愛好者がおり,伝道活動,老人ホームや保育園等各種施設への慰問活動が行われている。また,腹話術は娯楽としてだけでなく,幼児教育,交通安全教育,栄養教育,障害児教育など教育の分野でも広く活用されている。」。
「春風イチロー(本名:野田市朗)」(以下「春風イチロー」という。)は,出所不明の新聞記事(甲3)に記載されているように,昭和22年に落語の円歌に弟子入りし,その後,春風亭柳橋へと移り,師匠の「春風」を貰って,「春風イチロー」を名乗って,腹話術で高座に出ていた。その後,日本聖書神学校を卒業して牧師となり,米国力ルフォルニア州タルボット神学校に留学し,腹話術は,アマチュアとして,「ロゴス腹話術研究会」(以下「ロゴス研究会」という。)を主宰して,多くの腹話術の愛好家に腹話術を教えてきた。
「ロゴス研究会」では,腹話術の技芸に関する審査会を開催し,一定の技芸に達した者に段位を与えると共に,「春風○○」という芸名を与えることにより,「春風イチロー」が主宰する「ロゴス研究会」の門下生であることを示してきた。
腹話術は,唇を動かさずに声を出す技芸であり,熟練を必要とする技芸である。また,声の出し方等の技術は教本を読めばできるものではなく,マンツーマン方式で師匠から弟子に伝授される性質のものである。
そして,「春風イチロー」は,「腹話術のすべて」(甲14)という教本を出版すると共に,牧師,教会員を含む一般人にその持てる技芸を,「ロゴス研究会」を通してマンツーマンで伝授してきた。「春風○○」を襲名した弟子は,その中でも優秀な弟子であり,全国の支部において,腹話術の教授,及び老人ホーム,保育園等における腹話術のボランティア上演に努めてきた。腹話術の教授,及び腹話術の上演を役務とする狭い業界においては,「春風イチロー」の芸名は,輝く金字塔であり,腹話術の業界,特に腹話術の教授の世界,腹話術を習得したいと望む愛好家の間では,周知の芸名である。「春風イチロー」こと野田市朗氏は,2015年9月13日に逝去した。同年12月1日に,「春風イチロー」が残した財産である「春風」一門を守り続けるために,多数の「春風○○」により野田市朗氏の長女である野田めぐみ氏を代表理事とし,次女である伊東ゆたか氏を理事として,本件無効審判の請求人である一般社団法人ロゴス腹話術研究会(以下「社団ロゴス研究会」という。)が設立された(甲13)。
イ 商標「春風」が,「腹話術の教授,及び腹話術の上演」に関して,需要者(取引者)の間で広く認識されていること
(ア)2008年に発行された小冊子「春風としての歩み誕生から40年」(甲4(審決注:甲3の誤り。))には,「春風イチロー」が主宰する「ロゴス研究会」の門下生として,「春風シンイチ」,「春風ジロー」及び「春風とんぼ」などの73名の「春風○○」が記載されている。
彼らは,「春風イチロー」が主宰する「ロゴス研究会」において「春風イロー」から直接腹話術の技芸を伝授された門下生であり,腹話術のアマチュアとして,伝道活動,老人ホームや保育園等各種施設への慰問活動において,腹話術の上演を行っている。また,全国に分布する支部において,後継者の育成(腹話術の教授)を行っている。
(イ)ロゴス研究会会報について
「春風イチロー」が主宰する「ロゴス研究会」は,腹話術に関する情報交換の場として,月刊会報「ロゴス」を1969年8月から刊行している。「ロゴス」誌においては,「春風○○」の芸名を持つ個人は,「春風○○」として特定されている。会報「ロゴス」No.425 2009年(11・12月合併号:甲5)によれば,第40回全国大会には,全国の支部から181名の参加があったことが記載されている。該証拠には,会費納入者氏名として,「春風力ズロー」,「春風テモテ」及び「春風みつこ」等の「春風○○」が記載されている。
会報「ロゴス」No.436 2010年(11・12月合併号:甲6)によれば,北海道支部,いわて支部,静岡支部,松戸支部及び新潟支部等,全国に分布する支部から会員が集められ,全国大会が開催されていることがわかる。該証拠には,V大会献金者氏名として,「春風ゆめこ」,「春風みつこ」及び「春風光イチロー」等の「春風○○」が記載されている。
会報「ロゴス」No.480 2014年(11月・12月合併号:甲7)によれば,腹話術の技芸について技術認定会が開催され,初段の段位が付与されている様子が記載されている。このように,腹話術の技芸の教授が確実に行われている。また,該証拠には,V5大会賛助金・献金者氏名として,「春風だるま」,「春風あずさ」及び「春風いのち」等の「春風○○」が記載され,「ロゴス研究会」の内部では,芸名「春風○○」により個人が特定されていること,腹話術の愛好家の間では,芸名「春風○○」により個人を認識していることがわかる。
(ウ)インターネット検索
「腹話術 春風」をグーグル検索で入力すると,甲第8号証に示すように,「春風イチロー」を始めとして,「春風トシロー」,「2代目春風フクロー」,「春風あかり」,「春風かば」及び「春風マルタ」等の「春風」一門の「春風○○」が全国の老人ホーム,保育園等でボランティアとして,腹話術の上演活動を行っていることが記載されている。
さらに,「かばおじさんの腹話術公演のご案内-水巻町ホームページ」(甲9)をクリックすると,水巻町図書館で,「春風河馬」により行われた腹話術の公演,「春風河馬」が「春風イチロー」に弟子入りして腹話術を学び,「春風河馬」の芸名をもらったことが記載されている。
そして,「MY WAY LADY:春風あかりさん」(甲10)をクリックすると,「その後寄席で本格的に演じたのが春風イチローです。『ロゴス腹話術研究会』も主宰していて,全国にいる多くの弟子の中で,現在「春風」を襲名しているのは五十名ほど。県内でたった一人認定をうけているのは春風あかりさんです。」と記載されている。
また,「プロフィール-春風しずか-FC2」(甲11)をクリックすると,「第二回ロゴスV大会で技術認定を受け初段に合格することができ,春風イチロー師匠から『春風しずか』の芸名をいただきました。」と記載されている。
さらに,「春風マルタのプロフィール|Ameba(アメーバ)」(甲12)をクリックすると,「1981年ロゴス腹話術韓国大会で初段に合格し芸名『春風マルタ』を戴く」と記載されている。
このように,腹話術の教授を行う「ロゴス研究会」においては,「春風」は,段位者を表し,「春風○○」を襲名することは,腹話術に関して所定の技芸を有することの証明になっているのである。腹話術の愛好家の間においても,「春風○○」は,腹話術に関して一定の技芸を有する者として認識されているのである。
(エ)過去の判例,審決例
「需要者が一定分野の関係者に限定されている商品の場合は,その需要者間で周知であればよいとされた判例」(平成4年2月26日 東京高裁平成3年(行ケ)第29号,平成6年7月21日 平成2年審判第3176号)が存在する。
(オ)小括
甲第1号証(審決注:甲第2号証の誤り。)によれば,腹話術の愛好家は,全国に約5,000人いるといわれている。「ロゴス研究会」には,全国800名近くの会員がいる。このように,「腹話術の教授」,及び「腹話術の上演」という限定された役務の世界においては,「春風」は周知の芸名であり,周知の商標である。
したがって,本件商標は,他人の業務に係る役務を表示するものとして需要者に広く認識されている商標であって,その役務に使用するものであるから,商標法第4条第1項第10号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第7号について
ア 「春風イチロー」,及びその一門を表示する「春風」は,腹話術の教授の業界においては,著名な故人の芸名であること
上記(1)において挙げた証拠によれば,腹話術の教授の業界においては,故野田市朗氏の芸名である「春風イチロー」,及びその一門を表示する「春風」は,腹話術の教授の業界では,故野田市朗氏の著名な芸名である。
イ 商標権者による芸名「春風」の独占使用が不当であること
甲第6号証には,写真と共に,「シャローム印刷ロゴス担当後任金刺敬人」と記載されている。株式会社シャローム印刷(以下「シャローム印刷」という。)は,会報「ロゴス」の印刷会社であり,シャローム印刷の現社長は,ロゴス担当者として,「春風」が「春風イチロー」が主宰する「ロゴス腹話術研究会」の門下生であることを示す商標であることを熟知していた。
会報「ロゴス」の印刷会社であり,「ロゴス研究会」の内容を熟知しているシャローム印刷が,「腹話術の教授,腹話術の上演」を含む指定役務について,「春風」を商標登録することは,背信行為であり,「社団ロゴス研究会」に所属する「春風○○」の芸名を有する会員が多大の損害を受けるおそれがある。「春風」の商標登録は,本来,故野田市朗氏の長女である野田めぐみ氏を理事長とする「社団ロゴス研究会」が有すべき登録商標である。
したがって,本件商標は,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標であるから,商標法第4条第1項第7号に該当する。
2 答弁に対する弁駁
(1)商標法第4条第1項第10号について(主たる主張)
ア 周知未登録商標の相続について
商標法第4条第1項第10号の趣旨は,商標出願せずに周知となっている商標に関して,一定の財産権(いわゆる「のれん」の権利)を認めるものである。
そして,「春風」の芸名は,春風イチロー師匠が,「ロゴス研究会」を通して,専権的に弟子に与えてきた芸名であり,商標である「春風」には,業務上の信用が化体されており,一定の財産権が存在する。「春風」に関する未登録周知商標の権利は,春風イチロー師匠個人が所有していたものであり,「ロゴス研究会」が一度解散された事実は,春風イチロー個人の権利に何ら影響を与えるものではない。
また,被請求人の主張する「一身専属的」な歌舞伎の屋号においても,優秀な役者を養子として屋号を守ることが通常行われている。
さらに,被請求人の主張する「一身専属的」な屋号・亭号は,演芸場で料金を徴収して見せるプロの世界における話である。それに対して,本件商標「春風」は,春風イチロー師匠が,老人ホーム,幼稚園,保育園,教会等でボランティア活動を行う弟子を養成し,一定の基準に達した者に付与していた芸名である。すなわち,「春風」の商標は,役務としては,「腹話術の教授」を主たるものとし,その役務の中で使用されている商標であり,プロの世界における屋号・亭号とは,性質を異にし,春風イチロー師匠に「一身専属的」に属する権利ではない。
したがって,春風イチロー師匠が所有していた「春風」に関する未登録周知商標に関する権利(いわゆる「のれん」の権利)は,財産権として,当然,春風イチロー師匠の長女である野田めぐみ氏,及び次女である伊東ゆたか氏が相続している。
イ 被請求人(シャローム印刷)の立場
被請求人は,シャローム印刷が春風イチローの運営していた「ロゴス研究会」のお手伝いをしていたこと,及び,シャローム印刷内に「ろごす腹話術研究会」(以下「ろごす研究会」という。)の本部及び事務局の所在地が置かれ,シャローム印刷が,「ろごす研究会」を実質的に運営していることを根拠として,「他人」に該当しない旨,主張している。
しかし,未登録周知商標「春風」の権利者は,春風イチロー師匠の長女である野田めぐみ氏,及び次女である伊東ゆたか氏であり,シャローム印刷は,全くの「他人」である。これが請求人の主たる主張である。
(2)商標法第4条第1項第10号について(予備的主張)
ア 周知未登録商標の権利主体について
被請求人は,実質的に法人格なき「ロゴス研究会」が,未登録周知商標の元々の権利者であり,「ロゴス研究会」の権利は,「春風○○」が多数在籍する「ろごす研究会」に承継されている旨主張している。
未登録周知商標「春風」の権利者は,現在「春風○○」を使用している複数の人々により保有されていると考えられる。現在,「春風○○」を使用する人々は,多数派の「ろごす研究会」と,少数派の「社団ロゴス研究会」の2つの組織に分裂して在籍している。
したがって,現在,未登録周知商標「春風」の権利は,「春風○○」が所属する「社団ロゴス研究会」,及び「ろごす研究会」の2つの組織が分割して各々が使用する権利を保持していると考えることができる。この場合には,商標法第4条第1項第10号の「他人」とは,「社団ロゴス研究会」,及び「ろごす研究会」であると考えられる。両団体が,「春風○○」を「腹話術の教授」に使用しているからである。
イ 被請求人(シャローム印刷)の立場
被請求人である「シャローム印刷」は,単に「ロゴス研究会」の事務局が置かれ,かつ,運営に協力していたにすぎない会社である。また,現在も「ろごす研究会」の運営を手伝っているにすぎない会社であり,未登録周知商標「春風」の権利主体である「社団ロゴス研究会」,及び「ろごす研究会」とは,全くの「他人」である。これが,請求人の予備的主張である。
かえって,被請求人である「シャローム印刷」が,勝手に他人の未登録周知商標「春風」の商標権を取得することにより,未登録周知商標「春風」の権利の承継人である「社団ロゴス研究会」と「ろごす研究会」との間に,無意味な争いを発生させているのである。

第3 被請求人の主張
被請求人は,結論同旨の審決を求める,と答弁し,その理由を以下のように述べ,証拠方法として,乙第1号証ないし乙第42号証を提出した。
1 利害関係について
請求人は,正当な利害関係を有しないことから,本件審判の請求人適格を欠く者である。よって,本件審判は,不適法であり,直ちに却下されるべきである。
2 商標法第4条第1項第10号及び同第7号該当性について
(1)被請求人は,「ロゴス研究会」の団体を引き継ぐ者である。したがって,被請求人は,「ロゴス研究会」に対する他人ではない。
また,請求人の提出した証拠資料の記載は,そもそも商標法第2条第3項所定の商標の使用を示すものとはいえないから,標章「春風」が需要者の間に広く認識されていたと認めることはできない。よって,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当しない。
(2)商標法第4条第1項第7号は,特段の事情がある例外的な場合を除き,私的領域にまで拡大解釈されるべきではない。本件審判は,本来商標登録を受けるべき者と主張する請求人と被請求人との商標権の帰属をめぐる問題であるから,特段の事情がある場合と解するのは妥当でない。よって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当しない。
3 前提事実
(1)当時者等
ア 請求人は,法人格なき社団であった「ロゴス研究会」を創設した「春風イチロー(芸名)」(本名は,野田市朗氏。2015年9月13日死去。)の長女である野田めぐみ氏を理事長とする「社団ロゴス研究会」である(甲13)。
イ 被請求人は,「ロゴス研究会」の活動を事務局として長年その運営に携わってきた,先代の金剌一雄氏,現在の金剌敬人氏が代表取締役を務める「シャローム印刷」である(甲5?甲7)。金刺敬人氏及び「シャローム印刷」は,師匠である「春風イチロー」が「ロゴス研究会」を解散し,亡くなった後に,「ロゴス研究会」の技芸を継承する春風会の主要メンバーら(ロゴス研究会理事会)によって設立された,法人格なき社団である「ろごす研究会」の所在地及び事務局として,「ろごす研究会」の運営に中心的立場で携わっている。
(2)「春風イチロー」の生前における「ロゴス研究会」の組織等
ア 「春風イチロー」は,1968年に「ロゴス研究会」を主宰し,師匠として腹話術の技芸の普及,後進の育成を行った。「ロゴス研究会」では,技術認定会基準(以下,「旧認定基準」という。:乙1)に基づいて,認定委員長1名,副委員長1名,委員4名?5名及び師匠が審査する技術認定会を開催し,一定の技芸に達した者に段位を与えるとともに,「春風○○」という芸名を与え,春風一門の門下生として春風会の入会を認めていた(甲7,乙2)。2010年7月1日当時,「ロゴス研究会」は,春風会73名,一般会員619名,67支部の規模であった。
イ 「ロゴス研究会」の組織では,ロゴス研究会会則(乙3)が定められ,本会と支部で構成され,会員はいずれかに属し,本会主催の研修会や技術認定会に参加し,ロゴス腹話術の技芸(「心」と「技」)の習得に励んできた。「ロゴス研究会」の運営は,主宰である「春風イチロー」が,理事を任命し,理事若干名,書記,会計,会計監査からなる理事会を設置し,理事会の過半数の決議によってなされていた。ただ具体的な組織運営は,「春風イチロー」の個人的裁量が尊重されて判断されることもあった。
ウ 「ロゴス研究会」は,上述のように会則は規定されたが,1968年の設立から後述する解散まで,法人格を取得することはなかった。
(3)「春風イチロー」の生前における「シャローム印刷」の地位
ア 「シャローム印刷」(代表取締役は,先代の金刺一雄氏)は,「ロゴス研究会」の設立当初の1968年から,事務局として活動してきた(甲5?甲7)。そして,2010年11月から,2代目の代表取締役である金刺敬人氏が引き継いだ後も,「シャローム印刷」は,事務局として活動することになった(甲6)。
イ 「シャローム印刷」は,単に会報「ロゴス」の印刷に止まらず,「ロゴス研究会」の全国大会準備委員,会計,税申告及び納税処理も含め,実質的に「ロゴス研究会」の運営に携わってきた(甲5,甲6,乙3,乙4)。
ウ なお,乙第7号証は,2010年3月31日付けのものであるが,これは,従前からの口頭によるものを書面化したものである(甲5,甲6,乙3,乙4)。
(4)「ロゴス研究会」の解散及び「春風イチロー」の逝去
ア 「ロゴス研究会」は,2015年7月4日の青梅慶友病院における緊急理事会で,「春風イチロー」の解散宣言があり,全国の会員に2015年7月15日付の周知文で正式に解散することを通知し,また,同月22日発行の会報No.486に「春風イチロー」の口述文と直筆による解散の辞を掲載した(乙8?乙10)。解散時の同年7月4日当時,「ロゴス研究会」は,春風会83名,一般会員424名,70支部の規模であった(乙11)。
イ 2015年7月4日に「春風イチロー」から,残務整理は元理事が責任を持って行うこととの指示があり,同年8月1日の理事会で,清算,全国の会員対策,会報,師匠感謝会について等の残務整理について検討を行ったところ,「春風イチロー」の二女である伊東ゆたか氏から,「春風イチロー」が憤っているといわれ,師匠の名のもとによみうりランド慶友病院に召集され,清算だけを行えばよく,他のことはする必要が無く,越権行為であると激しく非難された。憤っているとの師匠の意思を理解し,同年9月5日の清算人会(旧理事会)で清算を急ぐことを確認し,同月15日に,「ロゴス研究会」の残金及び一切の書類を伊東ゆたか氏に手渡し,清算を完了した(乙8)。
ウ 清算完了2日前の2015年9月13日,「春風イチロー」が逝去された(乙8)。
(5)「ろごす研究会」の設立及び「シャローム印刷」の活動
ア 2015年9月5日の清算人会(旧理事会)で,新しい組織の発起人会を発足し,旧理事会の8名全員が参加することになった。新組織の理事長を春風シンイチ氏,副理事長を春風小イチロー氏と春風太郎氏とした(乙8)。同年10月3日に,新組織発起人会を開催し,(a)新組織の構想(骨子)が了承され,(b)理事長を春風シンイチ氏,副理事長を春風小イチロー氏に,(c)新組織の名称を「ろごす腹話術研究会」とすることが決定された。しかし,春風シンイチ氏の体調が思わしくないことから理事長を同月6日に辞任したため,同月7日の緊急臨時会議で,理事長を春風小イチロー氏,副理事長を春風若イチロー氏とすることが決定され,理事長・副理事長が他の役員を指名し役員体制が成立した(乙8)。同月26日に「ロゴス研究会」解散時の元会員約500人に「お知らせ」(乙12)を「シャローム印刷」から,返信はがき付きで発送した(乙8)。
イ 「お知らせ」の1頁には,新組織の基本的な考えが述べられ,2頁には,新組織の構成等が記載されている。新組織は,「春風イチロー」の意思と心情を引き継ぎ,「ロゴス研究会」の会則にある,「ロゴス腹話術の『心』と『技』を伝承し,ボランティアとして活動すること」を目的とするものである(乙12)。そして,新組織の名称を「ろごす腹話術研究会」とし,本会(本部)及び事務局を,「シャローム印刷内」に置くこと,組織の役員を理事,顧問,相談役で構成し,理事長を春風小イチロー氏,副理事長を春風若イチロー氏,理事を春風みやこ氏,春風マルタ氏,春風太郎氏の3人,顧問を春風シンイチ氏,相談役を春風サンペイ氏,春風光太郎氏,金刺敬人氏(シャローム印刷)とすること,会員募集を同年11月1日より開始,設立を2016年1月1日とすることが元会員約500名に通知された(乙12)。
ウ 2015年11月5日に,第一回理事会が開催され,新会則が決定され(乙13),会則の制定日(施行日)を2015年11月1日とし,活動を開始した(乙8,乙13)。
2016年1月1日に会報「ろごす便り」Vol.1(乙14)が発行され,同年1月23日発会式が開催された(乙15)。会報は,2か月に1回「シャローム印刷」から発行され,本部・支部の活動を全国の会員に伝えている(乙16?乙20)。同年12月31日当時,春風会62名,一般会員269名,40支部の規模である(乙20,乙21)。また,技術認定基準(以下「新認定基準」という。)も,「ロゴス研究会」の旧認定基準に基づき策定され,認定委員の体制もロゴス研究会時代に認定委員の経験者で構成されている(乙22)。この新認定基準に基づいて,同年8月19日及び20日に第1回ろごす腹話術全国サミットが開催され,2名の初段合格者が誕生した(乙17,乙18)。
また,ボランティア活動も,ロゴス研究会自体と同様に行われている(乙23)。なお,会の名称を「ロゴス」から「ろごす」に変更したのは,「春風イチロー」の解散宣言に対する配慮からであり,ロゴス研究会同様,法人格なき社団として活動しているのは,「春風イチロー」の意思と心情を尊重したものである。
(6)「社団ロゴス研究会」の設立及び活動
ア 「社団ロゴス研究会」は,2015年12月1日に設立登記された。組織は,理事と監事で構成され,代表理事を「春風イチロー」の長女である野田めぐみ氏,理事を高橋信夫氏,加藤昭(芸名春風とんぼ)氏,釜土達雄氏(ロゴス研究会会員3級),木戸定氏,「春風イチロー」の二女である伊藤ゆたか氏,監事を宇野正博氏(ロゴス研究会会員1級)としている(甲13)。「社団ロゴス研究会」は,「ロゴス研究会」とは,名称は同一だが,全くの別団体である。
イ 「社団ロゴス研究会」の活動は,本件無効審判請求書の証拠からは明らかにされていない。甲第3号証ないし甲第7号証は,いずれも解散前の団体である「ロゴス研究会」の活動資料であり,「社団ロゴス研究会」の活動実績を表すものではない。また,甲第9号証の「かばおじさん」こと春風河馬氏は,「ロゴス研究会」の会員であり,現在フリーで活動している。甲第10号証の春風あかり氏,甲第11号証の春風しずか氏,及び甲第12号証の春風マルタ氏は,いずれも現在「ろごす研究会」の会員である。
(7)本件商標の取得に至る経緯
ア 「ろごす研究会」としての活動を開始直後に,2015年12月12日付文書(乙24)を皮切りに,「社団ロゴス研究会」の春風とんぼ氏から,遺族の遺産相続により,「『春風』は使えない」旨の警告文書[2016年2月13日付文書(乙25),2016年8月2日付文書(乙26)]が「ろごす研究会」の理事長・理事・顧問宛に繰り返し届いた。さらに,2016年8月19日及び20日に開催した全国大会において,初段合格者2名が誕生し,春風の芸名を付与したところ,その直後に再び,春風とんぼ氏より同月27日頃はがきによる警告文書が「ろごす研究会」の顧問である春風シンイチ氏に届いた(乙27)。その後も,「社団ロゴス研究会」の理事長である野田めぐみ氏から,2017年2月2日付文書(乙28?乙30),同月18日付文書(乙31?乙33)が「ろごす研究会」の初段合格者松岡優介氏,理事長の春風小イチロー氏及び顧問の春風シンイチ氏にそれぞれ届いた。さらに加えて,「社団ロゴス研究会」から,「ろごす研究会」の顧問・理事長に対し,電話での攻勢もなされたことにより,顧問の春風シンイチ氏は心身ともに衰弱し体調を壊した(乙34)。
イ 「社団ロゴス研究会」の上述した攻勢に対する防衛手段として,ろごす研究会の会員活動が安心して行えるように,すなわち商標として「春風」を安心して使用できるように,「春風」の商標登録出願をすることになった。前述したように「春風」は,故春風イチローの技芸(「心」と「技」)を伝承する弟子として認定された者の集まりである「春風会」を表すものであり,「ろごす研究会」では,「春風」会の商標をイベント等に使用している(乙15,乙17,乙18,)。
しかしながら,「ろごす研究会」は法人格なき社団であるので出願人適格を有しないことに加え,「シャローム印刷」の代表取締役の金刺敬人氏が「ろごす研究会」の相談役として実質的に「ろごす研究会」の運営に携わり,また,「ろごす研究会」の本部及び事務局の所在地が「シャローム印刷」内に置かれ,「シャローム印刷」が,「ろごす研究会」を実質的に運営していることから,出願人を「シャローム印刷」として「春風」の商標登録出願を2016年9月6日に行った。「ろごす研究会」の理事長である春風小イチロー氏,理事である春風若イチロー氏,春風太郎氏も「シャローム印刷」の相談役を務めており,実質的に「ろごす研究会」が商標登録出願したものと同視できる(乙34)。
ウ 「社団ロゴス研究会」は,上述した文書や電話攻勢のみならず,「ろごす研究会」を代表して「シャローム印刷」が取得した本件商標「春風」に対する商標登録無効審判を請求するだけでなく,「ろごす研究会」に対して極秘裏のうちに,自らも同一商標「春風」及び同一役務を指定して2017年2月3日に出願している(乙35)。さらに,「社団ロゴス研究会」は,商標「ロゴス腹話術」,役務第41類「腹話術の教授,腹話術に関するセミナー・研修会・技能検定会の企画・運営又は開催,腹話術に関する書籍・パンフレットの制作,腹話術に関する映画・演芸・演劇の興行の企画又は運営,腹話術に関する演芸の上演・演劇の演出又は上演,腹話術に関する教育・文化・娯楽用ビデオ・CD-ROM・DVDの制作(映画・放送番組の広告用のものを除く。),写真の撮影」を指定して商標登録出願第2016-136167号を,「ろごす研究会」に対して極秘裏のうちに,2016年12月2日に出願している(乙36)。これら商標登録出願が権利化される前から,「春風イチロー」の技芸の伝承活動を続ける「ろごす研究会」への上述の攻勢が続いており,これら商標登録出願が登録された場合には,その攻勢が一段と強まるおそれがある。
4 理由(各論)
(1)利害関係
ア 請求人の主張
請求人は,正当な利害関係を有することについて何ら言及していないが,本件審判請求書の記載内容から推察すると,遺産相続を根拠として,「春風」の商標は,本来,故野田市朗氏の長女である野田めぐみ氏を理事長とする「社団ロゴス研究会」が有すべきと主張していることから,このことをもって,利害関係を有するものと主張しているかのように思える。そこで,被請求人は,念のため,この点について,以下に反論する。
イ 被請求人の反論
(ア)落語や歌舞伎等の芸道の世界では,師匠から弟子に技芸の伝承を通じて,屋号・亭号が,代々,引き継がれる慣習があり,血縁とは無関係である。たとえ血縁があっても,一定水準以上の技芸の伝承がなされない者には,屋号・亭号を与えたり,与えられたりすることはできない(乙37)。
(イ)したがって,「ロゴス研究会」における「春風イチロー」の師匠としての地位は,一身専属的なものであり,「春風イチロー」の遺族が相続する性質のものではない。また腹話術は芸道であるから,腹話術の教授は,師匠から弟子へ伝承されるものであり,遺族が当該伝承行為を相続する性質のものではない。さらに請求人は,「春風」一門を「春風イチロー」が残した財産であると主張するが,上記のとおり,「春風」は,芸道の世界における屋号・亭号であって,遺産相続の対象となるものではない。また,「ロゴス研究会」は,そもそも,「春風イチロー」の存命中に解散宣言がなされていることに加え,「社団ロゴス研究会」が,「ロゴス研究会」と一体であることを示す活動実績は見当たらないことから,「ロゴス研究会」と「社団ロゴス研究会」とには連続性はない。つまり,「社団ロゴス研究会」は,「ロゴス研究会」とは無関係な者なのである。
(ウ)請求人は,「春風イチロー」の遺族であるという地位を利用し,「ロゴス研究会」とは無関係であるにもかかわらず,遺産相続の名のもとに,前記3(6)のアで述べたように,「ロゴス研究会」の名称と同一の名称を有する一般社団法人を設立し,あたかも「ロゴス研究会」であるかを装い,本件審判を請求したものと推認せざるを得ず,利害関係の悪用としかいい得ない。すなわち,本件では,「ロゴス研究会」,「シャローム印刷」及び「ろごす研究会」の三者間の関係性が問題なのであって,本件商標の有効・無効の帰結は,これら三者とは無関係な請求人(当然ながら「シャローム印刷」及び「ろごす研究会」とは無関係)にとって何ら影響が及ぶものではないのであるから,請求人が本件について利害関係を有することはないのである。
したがって,請求人は,正当な利害関係を有さず,本件審判の請求人適格を欠く者であることから,本審判請求は不適法であり,直ちに却下されるべきである。
なお,請求人は,本件審判において正当な利害関係を有すると主張するのなら,この点について客観的な証拠を示して明らかにされたい。
(2)商標法第4条第1項第10号該当性について
ア 他人性
請求人は,「春風」は周知な芸名・周知な商標であると主張するが,この「春風」が「誰の」業務に係る役務を表示するものかについては,本件審判請求書からは明らかでない。つまり,請求人は,商標法第4条第1項第10号にいう「他人」について,明らかにしていない。
しかし,請求人は,本件審判において,「ロゴス研究会」の活動を示す証拠を提出しており,「春風」一門が「ロゴス研究会」に属していたことからすると,請求人は,「春風」が「ロゴス研究会」の業務に係る役務を表示するものと主張しているものと推察される。そこで,被請求人は,商標法第4条第1項第10号にいう「他人」が「ロゴス研究会」であることを前提に,以下に主張を述べる。
(ア)商標法第4条第1項第10号(同第11号参照)において審査基準では,形式的には他人に該当するものであっても,実質的に同号の趣旨に反しない関係性があれば,他人には該当しない,としているのである。
(イ)これを本件についてみると,「ロゴス研究会」の主宰者である「春風イチロー」と「シャローム印刷」との間には,前記3(3)で述べたように乙第7号証に示す覚書があり,「シャローム印刷」は,実際に,全国大会準備委員,会計,会報の発行など「ロゴス研究会」の運営に深く携わってきた経緯があることから,本件商標の出願人である「シャローム印刷」と,「ロゴス研究会」には事実上の支配関係(同視できる関係)が存在していた。
また,「ロゴス研究会」と「ろごす研究会」とは,活動主体である春風会員が事実上,ほぼ同一と同視できる。すなわち,前記3(4)のアで述べた「ロゴス研究会」の解散時に,春風会の会員83名のうち,前記3(5)のウで述べた「ろごす研究会」の春風会の会員には60名が属している。これは,退会して現在フリーで活動している者16名,引退した者2名,不明4名,「社団ロゴス研究会」に属していると思われる者1名を除くと,「ロゴス研究会」の春風会員の全員が「ろごす研究会」の春風会員となっていることを示している(乙11,乙21)。また,会則(乙3,乙13)及び認定基準(乙1,乙22)も新旧で同様に整備され,「シャローム印刷」も同じように運営に中心的に携わり,春風小イチロー氏,春風若イチロー氏に以前から跡目をと考えている「春風イチロー」の直筆書類(乙38,乙39)が存在すること等に照らし合わせると,「ロゴス研究会」と「ろごす研究会」とは,実質的に同視できる(請求人は,本件審判請求書において,「多数の『春風○○』により,・・・一般社団法人ロゴス腹話術研究会が設立された。」と述べているが,上述した乙11,乙21より,この事実は誤りである)。
ろごす研究会の会則(乙13)には,被請求人の「シャローム印刷」に「ろごす研究会」の本会(本部)所在地と事務局を置き,「ろごす研究会」の相談役に「シャローム印刷」の金刺敬人氏の記載があり,「ロゴス研究会」と同様に,実際に「ろごす研究会」の運営に中心的に携わっている事実があることから,本件商標の出願人である「シャローム印刷」と「ろごす研究会」には事実上の支配関係(同視できる関係)が存在しており,「シャローム印刷」が登録を受けることについて,「ろごす研究会」の理事会は了承している(甲34)。
したがって,「ロゴス研究会」と「ろごす研究会」とは実質的に同視でき,「シャローム印刷」と「ロゴス研究会」及び「ろごす研究会」との間にも,支配関係(同視できる関係)が存在するとともに,「ロゴス研究会」と同視できる関係を有する,「ろごす研究会」の理事会から本件商標を受けることについて了承されていることから,前記審査基準に照らせば,「シャローム印刷」が,「ロゴス研究会」との関係において,同法第4条第1項第10号における他人ではないことは明らかである(「シャローム印刷」が本件商標を有していても同号の趣旨に反しない。)。
よって,本件商標は,同法第4条第1項第10号に該当しない。
イ 業務に係る役務を表示する商標性
被請求人は,アで述べたように,「ロゴス研究会」との関係において,同法第4条第1項第10号における他人ではないが,仮に他人だとしても,「春風」は周知性を有しないことから,本件商標が同法第4条第1項第10号に該当することはない。
(ア)商標法第2条第1項第2号にいう「商標」は,「業として役務を提供し,又は証明する者がその役務について使用をするもの」であると規定されているが,ここに「役務」とは,商取引の目的となり得る労務又は便益であって,その労務又は便益が,標章を付されることによって,出所表示機能,品質保証機能,広告機能を果たすものである。
また,同第3項は,「その役務について使用」する場合として,同第3号ないし同第6号及び同第8号を挙げている。したがって,標章は,上記態様により「役務について使用」されて,初めて商標として使用されることになるのである。
(イ)これを本件についてみると,請求人は,「春風」が故人である「春風イチロー」の周知の芸名であると主張するが,「芸名」とは「芸能人が芸道上で本名のほかに持つ名。」(広辞苑第六版)であり,あくまで個人を特定できる氏(「屋号」又は「亭号」)と名との組み合わせをいうものである。
名称「春風」は,「春風イチロー」から一定以上の技芸(「心」と「技」)に達した者だけに与えられる芸名「春風○○」を有する者の集まりであり,「春風」をして「春風イチロー」の周知の芸名であるという事実は見当たらない。
請求人の証拠方法甲第4号証ないし甲第7号証は,前記3(6)のイで述べたように,いずれも解散前の団体である「ロゴス研究会」の活動実績を示す資料であり,ロゴス研究会会員として表示された個人の芸名の列記にすぎない。また,甲第8号証ないし甲第12号証は,個人の芸名の紹介にすぎない。なお,甲第9号証の「かばおじさん」こと春風河馬氏は,現在フリーで活動しているロゴス研究会会員であり,甲第10号証の春風あかり氏,甲第11号証の春風しずか氏,及び甲第12号証の春風マルタ氏は,いずれも現在「ろごす研究会」の会員である。甲第3号証については,標章「春風」を書籍の題号として使用したものにすぎない。
したがって,請求人の提出した証拠資料の記載は,そもそも商標法第2条第3項所定の商標の使用を示すものとはいえない。
(ウ)周知性
a 商標法第4条第1項第10号において審査基準では,周知性の判断について,「需要者の間に広く認識されている」か否かの判断に当たって,考慮事由及びその証拠方法について記載されているところ,これを本件についてみると,(イ)で前述したように,請求人の主張する「春風○○」の構成及び態様は,「春風イチロー」の弟子個々人を表す芸名(フルネーム)を表したにすぎず,商標としての使用には該当しない。
請求人から提出された証拠方法から,標章「春風」としての使用態様,使用数量,使用期間及び使用地域などは,何ら主張されていない。
請求人自らの広告宣伝等は,請求人から提出された証拠方法からは見当たらない。また,Web上で,単に「腹話術」とグーグル検索すると,「いっこく堂」や甲第2号証の謝辞にも出てくる「全日本あすなろ腹話術協会」,「日本腹話術師協会」等がトップページから3頁続いた後,4頁目に初めて「ロゴス研究会」と春風門下生の芸名が出てくるものの,春風一門の集まりである「春風会」の名称は見当たらない(乙40)。
上述の基準に照らせば,標章「春風」が周知であるといえる事実は認められない。
b 過去の裁判例
商標としての使用の事実が認められないから,当該商標が周知であると認められないとする裁判例として,「平成19年1月31日 東京高裁平成18年(行ケ)第10356号」がある。その判決の要旨によれば,「ホームページの記載,新聞雑誌への宣伝広告等の記載は,いずれも,商標法第2条第3項所定の商標の使用に該当するものとはいえないから,本件商標の登録出願時ないし登録査定時において,引用商標が,原告の提供に係る証券業務に関する役務を表示するものとして取引者,需要者の間に広く認識されていたと認めることはできない。」というものである。
したがって,請求人の提出した証拠資料の記載は,そもそも商標法第2条第3項所定の商標の使用を示すものとはいえないから,本件商標が取引者,需要者の間に広く認識されていたと認めることはできない。
なお,請求人は,本件審判請求書において,「腹話術 春風」をグーグル検索で入力すると,多くの「春風○○」が検索されると主張するが,検索キーワードに「春風」と入力すれば,「春風」に関連する情報が多く検索されるのは当然であって,「春風」の周知性を測る検索キーワードとしては不適切である。「春風」の周知性を適切に測るのであれば,「腹話術」とのキーワードで検索すべきであり,「腹話術」での検索結果は,乙第40号証のとおりである。
(エ)小括
したがって,被請求人は,商標法第4条第1項第10号における他人ではなく,請求人の提出した標章「春風」の証拠資料は,商標法第2条第3項所定の商標の使用に該当しないので周知な商標と認められないことから,本件商標は,「他人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標であって,その役務に使用するもの」とはいえず,商標法第4条第1項第10号には該当しない。
(3)商標法第4条第1項第7号該当性について
ア 商標法第4条第1項第7号は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」について商標登録を受けることができないと規定しているところ,その立法趣旨は,一国におけるその時代に応じた社会通念に従って,これを指定商品又は指定役務に使用することが社会公共の利益に反し,又は社会通念の一般道徳観念に反することとなるかどうかにより,取引の実情を通じて判断するところにあるものと解される。したがって,社会情勢の推移により異なる場合もあるので,本来,具体的には定め得ない点に特徴がある。この立法趣旨に鑑みて,本号に該当する具体例が,過去の裁判例,審査基準及び審査便覧に示されており,これらの観点から,本件商標登録について以下に検討する。
(ア)過去の裁判例
商標権の帰属等をめぐる問題は,あくまでも,当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから,そのような場合にまで「公の秩序や善良の風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でないとした裁判例として,「平成20年6月26日知財高裁平成19年(行ケ)第10391号」がある。
(イ)これを本件についてみると,本件商標は,前記3(7)のイで述べたように,2016年9月6日に出願されたものである。これに対して,「社団ロゴス研究会」は,前記3(6)のアで述べたように,2015年12月1日に設立登記されたのであるから,本来,自らすみやかに「春風」の商標を出願することが可能であったにもかかわらず,実際に出願したのは2017年2月3日であり(乙35),出願を怠っていたことは明らかである。
したがって,本件商標は,「公の秩序や善良の風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当ではない。
よって,本件は,商標法第4条第1項第7号の適用事例ではないことから,本件商標が,商標法第4条第1項第7号に該当しないことは明らかである。
(ウ)審査基準及び審査便覧が例示する該当例
本件は,商標法第4条第1項第7号の適用事例ではないが,仮に,同号の適用事例であったとしても,本件商標は,審査基準及び審査便覧に例示される公序良俗に違反する商標には該当しない。
(エ)本件商標「春風」の構成自体は,非道徳的,卑わい,差別的,きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字等ではなく,他の法律によって,当該商標の使用等が禁止されている訳でもなく,特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反するものでもない。
また,本件商標「春風」は,その指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反するものでもない。
本件商標「春風」の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあるかについて詳細に検討すると,上記のとおり,商標法第4条第1項第10号妥当性の他人性で前述したように,本件商標の出願人は,「ロゴス研究会」と実質的に同一視でき,「ろごす研究会」の春風会の活動は,「ロゴス研究会」の春風会の活動をそのまま継承しているというべきであり,他人の名声をせん用して不正な利益を得るために使用する目的等は認められない。
また,本件商標「春風」が,上記公益的な施策に便乗し,その遂行を阻害する等公共の利益を損なうおそれがある等の特段の事情も認められない。実際に,当該商標権を取得後,第三者に対してこれまで権利を行使した事実はない。
したがって,本件商標「春風」が,商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないものではないことは明らかである。
また,「春風イチロー」氏が,商標審査便覧42.107.04の「歴史上の人物名(周知・著名な故人の人物名)」に該当するかを検討すると,Web上の百科事典であるウィキベディアの「腹話術」の項には,日本の腹話術師の一人として「春風イチロー」氏の芸名が確かに記載されている(乙41)。しかし,個人の検索項目としては「春風亭柳昇」,「春風どれみ」,「春風ぽっぷ」,「春風亭正朝」,「春風亭昇太」の項目があるものの,「春風イチロー」氏の項目は存在しない。また,Web上のgoo辞書(国語辞書)で「春風」を検索すると,「春風亭柳橋」の項目はあるが,「春風イチロー」氏の項目は存在しない(乙42)。
したがって,名称「春風」が「春風イチロー」氏を特定するという事実はなく,「春風イチロー」が歴史上の人物名(周知・著名な故人の人物名)として周知・著名であるといえるまでの事実は認められない。
上述したように,審査基準及び審判便覧に照らせば,「春風イチロー」は周知・著名な故人の人物名であるとは認められない。また,本件商標は,商標の構成に着目した公序良俗違反であるとは認められず,当該商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合に該当するとも認められない。
イ 小括
したがって,本件商標は,商標の構成に着目した公序良俗違反にも該当せず,商標登録を受けるべきでない者から出願され,商標保護を目的とする商標法の精神にもとり,公の秩序又は善良の風俗に反する商標にも該当しないことは明らかである。
よって,本件商標は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」とはいえず,商標法第4条第1項第7号には該当しない。

第4 当審の判断
1 本件審判の請求の利益について
被請求人は,「請求人は,正当な利害関係を有さず,本件審判の請求人適格を欠く者であることから,本審判請求は不適法であり,直ちに却下されるべきである。」との主張をしている。
そこで,当審において職権により調査したところによれば,請求人は,本件商標と同一の商標について登録出願(商願2017-11274)をしていることが認められ,また,当該登録出願は本件商標を引用した拒絶理由通知を受けていることが確認できるから,請求人は,本件審判の請求の利益を有するということができるものである。
よって,請求人は,本件審判の請求人適格有するものと認められるので,以下,本案に入って審理する。
2 請求人及び被請求人提出の証拠,及び両人の主張によれば,次のとおりである。
(1)「春風」について
「春風」は,「春風イチロー」が主宰した「ロゴス研究会」で腹話術の技芸が一定のレベルに達した者(弟子)に,同人が芸名を与える際にその名字に使用されたものであり,かつ,その一門を表すものとして使用されている名称である。
そして,「ろごず研究会」においても,同様に,芸名の名字やその一門を表す名称として使用されている。
(2)「春風イチロー」について
「春風イチロー」は,昭和22年(1947年)に落語の円歌に弟子入りし,その後,春風亭柳橋へと移り,師匠の「春風」を貰って,「春風イチロー」を名乗って,腹話術で高座に出演した。その後,1968年に「ロゴス研究会」を設立し,同研究会の主宰して,師匠として腹話術の技芸の普及,後進の育成及び老人ホーム,保育園等における腹話術のボランティア上演を行った者である。
(3)「ロゴス研究会」について
「ロゴス研究会」は,「春風イチロー」が主宰を勤め,「シャローム印刷」が該研究会の事務局を担当する法人格のない社団として,1968年に設立されたものである。
そして,1969年8月に第1号の月刊会報「ロゴス」を刊行し,証拠書類によれば,2009年(甲5),2010年(甲6)及び2014年(甲7)において会報誌「ロゴス」が発行された。
その後,2015年7月4日に「春風イチロー」による「ロゴス研究会」の解散宣言(乙9,乙10)があり,同年9月15日に該研究会の精算が完了した(乙8)。
(4)「ろごす研究会」について
「ろごす研究会」は,「お知らせ」(乙12)及び「ろごす腹話術研究会 会則」,「ろごす腹話術研究会細則」及び「ろごす腹話術研究会役員名簿」(乙13)によれば,該研究会会則,該研究会細則及び該研究会役員名簿を2015年(平成27年)11月1日より施行,該研究会を2016年1月1日に設立,該研究会の住所と事務局を,「東京都台東区寿2-6-15シャローム印刷内」とする記載がある。
また,該研究会は「春風イチロー」師匠の志しを引き継ぐことを目的とし,さらに,理事長として「春風小イチロー」,副理事長として「春風若イチロー」,理事として「春風みやこ」,「春風マルタ」及び「春風太郎」,相談役として「金刺敬人 東京都台東区寿2-6-15 シャローム印刷」の記載があり,該研究会は,法人格のない社団として設立された。
そして,「創刊号 ろごす便り」(乙14)によれば,「会員紹介」の見出しの下,「2016年1月1日現在302名」の記載がある。
(5)「社団ロゴス研究会」(請求人)について
「社団ロゴス研究会」は,「履歴事項全部証明書」(甲13)によれば,平成27年(2015年)12月1日に設立され,「目的等」としては,「教会,学校,福祉施設等における腹話術によるキリスト教の伝道布教,腹話術技術向上のための講習会,研修会等の開催,その他当法人の目的を達成するために必要な事業」の記載があり,代表理事として「野田めぐみ」,理事として「伊藤ゆたか」他5名の理事がいる一般社団法人である。
(6)「シャローム印刷」(被請求人)について
ア 「ロゴス研究会 会則」(乙3)の第2条に「本会の事務局は,東京都千代田区外神田2-8-16さくらビル シャローム印刷内に置く。」の記載がある。
イ 「覚書」(乙7)には,「ロゴス腹話術研究会は事務局を(株)シャローム印刷内に置くことについて次の通り支払うことを約し,ここに覚書を作成する。」の記載,そして,「内容」として「1.会費等の受領および催促/2.会報の編集・発送/3.文書・電話による応答及び処理/4.預・貯金などの出納事務」等の記載,その下部に「2010年3月31日(4月より実行)」の記載,そして,「ロゴス研究会」の記載,「春風イチロー」のサインと押印及び「シャローム印刷」の会長の金刺一雄氏のサインがある。
ウ 「ろごす腹話術研究会 会則」(乙13)の第2条に「本会の住所及び事務局を,東京都台東区寿2-6-15 シャローム印刷内とする。」の記載,及び該会則の「附則」には「1 この会則は,2015年11月1日より施行する。」と記載がある。
エ 「ろごす便り」(乙14?乙20)の奥付の「事務局から」の見出しの下,「【本部・事務局】」の項に,郵便番号,住所,「株式会社シャローム印刷内」及び連絡先の記載がある。
以上のことから,「シャローム印刷」は,「ロゴス研究会」及び「ろごす研究会」の事務局を担当していることが認められる。
3 請求人の使用する商標及びその周知性について
(1)請求人の使用する商標について
請求人は,「『腹話術の教授』,及び『腹話術の上演』という限定された役務の世界においては,『春風』は周知の芸名であり,周知の商標であり,本件商標は,他人の業務に係る役務を表示するものとして需要者に広く認識されている商標であって,その役務に使用するものであるから,商標法第4条第1項第10号に該当する。」旨を主張している。
以下,請求人が主張する「春風」が周知の商標であるかについて検討する。
(2)請求人の使用商標の周知性について
上記2(1)によれば,「春風イチロー」によって,「春風」が腹話術の技芸が一定レベルに達した者(弟子)の芸名として使用されていること,かつ,その一門を表すものとして使用されていたことが認められるものである。
そして,請求人提出の証拠によれば,「ロゴス研究会」が発行した「春風としての歩み」(甲3)には,73名の「春風」の名字がついた,「春風一門」の弟子のプロフィールが記載され,また,「ロゴス研究会」が発行した「腹話術のすべて/●新腹話術演習ノート●」(甲14)には,「春風イチロー」が書いた腹話術の実戦が記載されている。
また,「ロゴス研究会」の会報誌(甲5?甲7),一部の春風一門に関係するインターネット記事等(甲9?甲12)は確認できるが,いずれも「ロゴス研究会」又は春風一門のもので請求人のものではない。
さらに,他の証拠は,「腹話術」に関するインターネット記事(甲2),出所不明の新聞記事(甲4)及び「腹話術」と「春風」の文字をグーグルで検索した結果の一部(甲8)であるが,これらは,腹話術に関する記事や「春風」,「春風イチロー」に関する記事等であり請求人のものはない。
加えて,「ロゴス研究会」は,上記2(3)のとおり,2015年7月4日に「春風イチロー」による解散宣言があり,同年9月15日に精算が終了したため,現在は消滅しているものである。
また,請求人は,上記2(5)のとおり,平成27年12月に設立された一般社団法人であるが,提出された証拠には,請求人が発行した書籍や会報誌はなく,その他請求人に関する活動実績を裏付ける証拠は見当たらない。
してみれば,請求人の提出された全証拠からは,請求人の使用している商標が「春風」であるか不明であり,また,請求人が使用している商標が「春風」だとしても,請求人が主張する「腹話術の教授,腹話術の上演」の役務に使用しているのかも不明である。
したがって,請求人は,「春風」を商標として使用していると主張するのみであって,商標「春風」が同人の出所識別標識として,需要者の間に広く知られていると認めることはできない。
4 商標法第4条第1項第10号該当性
本件商標は,前記第1のとおり,「春風」の文字からなるものであるのに対し,請求人が商標法第4条第1項第10号の無効の理由として引用する商標は,「春風」の文字であるとするが,上記3のとおり,請求人の使用している商標が「春風」であることが確認できないし,また,その商標が「腹話術の教授,腹話術の上演」の役務について使用されているのかも不明であるため,我が国の需要者の間で,商標「春風」が請求人の業務に係る役務を表すものとして,広く知られているとは認めることができない。
したがって,本件商標は,請求人が使用しているとする商標「春風」と同一だとしても,該「春風」は,請求人が使用しているとする商標として需要者の間に広く知られているとものとは認められないから,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当しない。
5 商標法第4条第1項第7号該当性
(1)商標法第4条第1項第7号に規定する,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には,(a)その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合,(b)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも,指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反する場合,(c)他の法律によって,当該商標の使用等が禁止されている場合,(d)特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反する場合,(e)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合,などが含まれると解される(知財高裁 平成17年(行ケ)第10349号同18年9月20日判決)。
以下,上記の観点を踏まえ,請求人の主張等について検討する。
(2)請求人は,「甲第6号証には,写真と共に,『シャローム印刷ロゴス担当後任』と記載され,シャローム印刷は,会報『ロゴス』の印刷会社であり,シャローム印刷の現社長は,ロゴス担当者として,『春風』が『春風イチロー』が主宰する『ロゴス腹話術研究会』の門下生であることを示す商標であることを熟知していた。・・・シャローム印刷が,『腹話術の教授,腹話術の上演』を含む指定役務について,『春風』を商標登録することは,背信行為であり,『一般社団法人ロゴス腹話術研究会』に所属する『春風○○』の芸名を有する会員が多大の損害を受けるおそれがある。」旨を主張している。
しかしながら,「ロゴス研究会」は,本件商標の出願時点では上記2(3)のとおり既に解散し,精算が完了している。
そして,上記「ロゴス研究会」に属する多くの構成員を引き継ぐ形で「ろごす研究会」(2015年11月1日に該研究会会則及び該研究会細則が施行)が,2016年1月1日に法人格のない社団として設立されたことから,その会の事務局を担当している「シャローム印刷」(被請求人)によって,本件商標が出願されたことは,社会的相当性を欠くものとするべき事情はとは,直ちにいうことができない。
また,「ろごす研究会」は,乙第14号証に記載のとおり「2016年1月1日現在302名」の会員がいることが認められるが,請求人提出の証拠からは,「社団ロゴス研究会」に会員が何名いるか不明であり,請求人は,上記のように「『春風○○』の芸名を有する会員が多大の損害を受けるおそれがある。」と主張するのみで,具体的に被請求人が請求人の事業を妨害し,不正の目的があることを裏付ける証拠の提出は見いだすことができない。
したがって,被請求人による登録出願の経緯に,社会的相当性を欠くものとするべき事情も見いだせない。
(3)また,本件商標は,前記第1のとおり,「春風」の文字からなるところ,その構成文字より「ハルカゼ」又は「シュンプウ」の称呼を生じるものであり,該文字は,「春に吹く風。春の季節に,東または南から吹く暖かい風。」等の意味を有する語(株式会社岩波書店「広辞苑第六版」)であるから,これより「春に吹く風」の観念を生じるものである。
したがって,本件商標は,「ハルカゼ」又は「シュンプウ」の称呼を生じ,「春に吹く風」の観念を生じるものである。
そうすると,上記の意味合いを理解させる成語からなる本件商標は,その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字からなるものではないことは明らかである。
また,被請求人が,「春風」の文字からなる本件商標をその指定役務について使用することが,社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反するというべき事情は認められない。
さらに,本件商標「春風」の文字は,上記の意味を有する成語であるから,他の法律によって,当該商標の使用等が禁止されているものでもなく,特定の国若しくはその国民を侮辱し,国際信義に反するようなものと認めることもできない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当しない。
6 請求人の主張について
請求人は,「未登録周知商標『春風』の権利者は,『春風イチロー』師匠の長女である野田めぐみ氏,及び次女である伊東ゆたか氏であり,シャローム印刷は,全くの『他人』である。」及び「被請求人であるシャローム印刷が,勝手に他人の未登録周知商標『春風』の商標権を取得することにより,未登録周知商標『春風』の権利の承継人である『一般社団法人ロゴス腹話術研究会』と『ろごす腹話術研究会』との間に,無意味な争いを発生させているのである。・・・事務局を担当していたにすぎない,被請求人であるシャローム印刷が,未登録周知商標『春風』にとって,全くの『他人』であることは明白である。」旨を主張している。
しかしながら,上記5(2)のとおり,被請求人は,「ロゴス研究会」を引き継ぐ形で設立された法人格のない社団「ろごす研究会」において,事務局を担当しており,該研究会の事務のすべてを行っている者であるから,むしろ,本件商標に深く関わる者である。
また,上記4のとおり,請求人の使用している商標が「春風」であることが確認できないし,また,その商標が「腹話術の教授,腹話術の上演」の役務について使用されているのかも不明であるため,我が国の需要者の間で,商標「春風」が請求人の業務に係る役務を表すものとして,広く知られているとは認められないものであるから,請求人に係る商標「春風」は,未登録周知商標に該当するということができない。
したがって,請求人の上記主張は採用できない。
7 まとめ
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第7号及び同第10号に違反して登録されたものではないから,同法第46条第1項の規定により,その登録を無効とすることはできない。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2017-11-10 
結審通知日 2017-11-16 
審決日 2017-12-01 
出願番号 商願2016-97572(T2016-97572) 
審決分類 T 1 11・ 22- Y (W41)
T 1 11・ 25- Y (W41)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 大森 友子 
特許庁審判長 井出 英一郎
特許庁審判官 中束 としえ
榎本 政実
登録日 2016-12-09 
登録番号 商標登録第5903343号(T5903343) 
商標の称呼 シュンプー、ハルカゼ 
代理人 特許業務法人コスモス特許事務所 
代理人 特許業務法人ベリーベスト国際特許事務所 
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