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審決分類 審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) W07
管理番号 1334561 
異議申立番号 異議2016-900280 
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2017-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-09-05 
確定日 2017-09-21 
異議申立件数
事件の表示 登録第5854627号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて,次のとおり決定する。 
結論 登録第5854627号商標の商標登録を取り消す。
理由 第1 本件商標
本件登録第5854627号商標(以下「本件商標」という。)は,「TDItuning」の文字を標準文字で表してなり,平成27年11月26日に登録出願,第7類「内燃機関の燃料供給調整装置,内燃機関の点火時期調整装置,陸上の乗物用の動力機械の部品」を指定商品として,同28年4月19日に登録査定,同年6月3日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が,本件商標が商標法第4条第1項第19号に該当するとして引用した商標は,別掲1及び別掲2(以下,それぞれ「引用商標1」及び「引用商標2」という。)に示すとおりの構成からなるものである。
以下,引用商標1及び引用商標2をまとめて,「引用商標」という。

第3 登録異議申立ての理由の要点
申立人は,登録異議の申立ての理由を要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証から甲第60号証までを提出した。
1 商標法第4条第1項第19号該当性
(1)申立人について
申立人(英語表記は「TDI Tuning Ltd.」)は,2005年に創業,2012年に株式会社化されたイギリスの法人であり,2006年から車両の電装系制御機器の開発・製造・販売を行い(甲2?甲6),対象は乗用車用のほか,商業用や農業用の車両及びボートの分野にも広げている(甲7)。
申立人は,創業以来,社名に由来する引用商標を,内燃機関の燃料供給調整装置,内燃機関の点火時期調整装置,及び,陸上の乗物用の動力機械の部品に含まれる上記車両の電装系制御機器のほか,この電装系制御機器に付随する付属部品等のほとんどすべてについて使用しており(以下,引用商標が付された商品を「TDI商品」という。),TDI商品は,日本にも輸入,販売されている。
なお,TDI商品の周知性については,車両の電装系制御機器等を取り扱う業界が,一般消費者が取り扱う商品に比して小さいことを考慮すべきである。
また,申立人は,イギリスにおいて,車輛電子機器,チューニング機器及び用品を指定商品とする登録第2612781号(登録日2012年3月5日)の商標権を有している(甲8)。
(2)引用商標の周知性について
ア 申立人は,引用商標を,TDI商品やそのパッケージのみならず,インボイス等の取引書類,社員の制服,取扱説明書等に長年にわたって使用している(甲9?甲19)。
イ イギリス国内における,2010年以降のTDI商品の販売数及び販売額が順調に伸びていること(甲20),申立人のイギリスでのシェアが約40%と考えられ,これは,車両の電装系制御機器を販売する欧州の競業会社が少なくとも7社存在する(甲22)現状からすると非常に高いこと,また,申立人の2016年8月時点でのFacebookの「people like this(いいね)」数が,競業会社中,上位3社に含まれることから(甲22,甲23),TDI商品に付された引用商標は周知性を獲得しているといえる。また,イギリスを含む全世界(甲20)における,2010年以降のTDI商品の販売数及び販売額が増加しており,公認会計士の調査(甲21)によっても,販売額に大きな差はないといえる。加えて,我が国においても,2013年以降,TDI商品の販売数及び販売額が伸びている(甲20,甲21)。
ウ 申立人による,2011年8月1日から2016年8月25日までのグーグルでのオンライン広告費用が約1,228,300ポンドであること(甲24),並びに,申立人の小売店及び一般消費者向けのインターネットのホームページへの訪問者数は,2014年が1,482,393人(うちイギリス人は233,983人),2015年が1,379,076人(うちイギリス人は239,000人)であること(甲25)から,TDI商品に対する需要者の高い注目度や認知度が理解できる。また,申立人の日本正規代理店である株式会社m-flow(以下「m-flow」という。)(甲51)のSNS広告への閲覧回数(甲26)は,2015年1月1日から同年1月31日までの間で2,135回,閲覧者を誘導するクッションページへの閲覽回数は3,892回であった。
エ 申立人は,エセックス地方自治体による2015年度「エセックス優秀ビジネス賞」の「輸出賞」(甲27),並びに,コンサルティング会社(甲28)による「エセックス優秀ビジネス賞」の「マーケティング賞」のそれぞれ最終選考対象となった(甲29)。
オ 申立人は及びTDI商品は,自動車等団体による各種紹介記事(甲30?甲35)や雑誌記事(甲36?甲38)に掲載され,ユーチューブによるTDI商品の動画は多数閲覧され(甲39?甲42),インターネット口コミサイトに評価記事が掲載された(甲43?甲46)。また,日本において,TDI商品が「みんカラ」パーツオブザイヤーにおける電装系サブコントローラー(燃調・カム)部門の2015年年間ランキング2位を獲得(甲47)し,同部門の2016年上半期ランキング2位を獲得した(甲48)。さらに,2016年8月19日現在,楽天リアルタイムランキングにおいて,TDI商品が,電子パーツにおけるデイリーランキング7位を獲得した(甲49)。
カ 以上のとおり,引用商標は,本件商標の出願・登録時において,イギリスの車両の電装系制御機器を取り扱う需要者や取引者の間で,広い周知性を有していた。
(3)本件商標と引用商標との類否について
本件商標と引用商標の要部である「TDI-tuning」又は「TDI-Tuning」の文字とは,「ティーディーアイチューニング」の称呼において同一であり,かつ,構成中に,共に「TDI」及び「T(t)uning」の文字を有するから,外観上も類似する。したがって,本件商標と引用商標とは,極めて相紛らわしく,出所の混同を生ずるおそれのある類似の商標である。
そして,本件商標の指定商品である第7類「内燃機関の燃料供給調整装置,内燃機関の点火時期調整装置,陸上の乗物用の動力機械の部品」は,TDI商品である車両の電装系制御機器と同一又は類似である。
(4)不正の目的について
ア 本件商標権者は,二輪・四輪自動車用のオートパーツや電子機械部品の販売や卸売を業とし,1992年に設立された日本法人であり(甲50),本件商標の出願日前に,m-flowから,TDI商品を購入した(甲52?甲55)。そうすると,本件商標権者は,正規代理店を介して申立人からTDI商品を仕入れており,本件商標の出願日前から申立人と一定の商取引関係にあった上,TDI商品を十分に認識していた。
イ しかし,本件商標権者は,2015年11月26日,申立人に無断で引用商標と類似する本件商標を出願し,登録を得た。
ウ 申立人は,2016年6月以降,本件商標権者とのE-mailを通じ,本件商標権の申立人への譲渡を求めていたが(甲56),本件商標権者は,申立人に対し,m-flowからのTDI商品の仕切値や為替変動のため合理的な営業ができないとして,譲渡に応じなかった(甲57)。また,同年7月5日,本件商標権者は,申立人に対し,申立人への直接送金,すなわち,実質的な代理人契約を要求した(甲58)。
エ 本件商標権者は,申立人とのテレビ会議でも,同様の主張・要求を行った(甲59)。
オ 以上の事実・実情を勘案すれば,本件商標権者は,外国で周知な他人の商標と同一又は類似の商標が我が国で登録されていないことを奇貨として,代理店契約締結等を強制する目的で出願及び登録したものと推認せざるをえない。
カ さらに,申立人は,2016年7月23日,本件商標権者の上記要求を認め,本件商標権の移転と引き換えに,本件商標権者と上記日本代理店との間での特別価格の設定,及び,為替変動を解決するためのイギリスポンド建て取引を認める提案を行うまで譲歩したが,本件商標権者は,自身の勝手な都合のため申立人の譲歩を反故にし,本件商標権の移転交渉を決裂させた(甲60)。
2 結び
したがって,本件商標は商標法4条1項19号に違反してなされたものであるから,本件商標登録は,同法第43条の2第1号の規定により取り消されるべきである。

第4 当審における取消理由の要旨
当審において,本件商標権者に対して,「本件商標は,商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものであるから,同法第43条の3第2項の規定により,その登録を取り消すべきものである。」旨の取消理由を平成29年3月14日付けで通知し,相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えた。

第5 本件商標権者の意見
本件商標権者は,前記第4の取消理由に対して意見を要旨次のように述べ,証拠方法として乙第1号証から乙第7号証までを提出した。
1 商標法第4条第1項第19号該当性について
(1)申立人の使用商標の周知性について
イギリスはモータースポーツ発祥の地として知られており,クラシックカーのミーティングも開催され,大規模なガレージセールなども開かれるなど,自動車文化の根付いている国である。自動車文化があるというのは,一台を長く乗ることでもある。長く乗ればメンテナンスが必要になるのは必然であり,自動車用コンピューターに関しても同様である。例えば,クラシックカーではコンピューターのコンデンサー容量を上げて点火を強化し,失火率を減少させるのは当たり前のことであるし,レースをする上でコンピューターの書き換えをしないことなど全く考えられない。
そのような環境において,甲第20号証のように,一番多く販売した年でも3,348個しか販売できず,2010年からの合計でも15,628個程度販売した程度で周知になることなどあり得ない。
乙第1号証の2ページ目,4ページ目によると,世界的に有名なRACECHIP社では少なくとも年間100,000台もコンピューターの書き換えを行っている。また,乙第2号証の4ページ目には,「レースチップ社はライバル会社に比べて会社規模は3倍,毎年世界で100,000台の販売量はライバル会社の2倍,消費者に最も選ばれているのはレースチップであることは直感的にわかるでしょう。」との記載がある。このことから一般的に有名なコンピューターチューニング会社と認められるには年間約50,000台の販売数が必要であることがわかる。つまり,年間50,000台程度のデリバリーがなければ周知性を獲得できていないことになる。
また,乙第3証の1ページ目によると,SHIFTTECH社は毎年少なくとも15,000台のECUチューニングをしているとある。SHIFTTECH社はベルギーの会社であるが,フランス,中国にも拠点を設けている。業界で有名な会社ではないが,1年で申立人の総販売台数と同じ程度の販売量を達成している。
これらの会社について,取消理由通知書の3ページ目「エ」のユーチューブの再生回数について調査したところ,RACECHIP社の2017年4月18日時点での視聴回数は,多いもので442,834回(乙4),SHIFTTECH社の2017年4月11日時点での視聴回数は,多いもので197,650回(乙5)であった。業界で有名と言われる水準である1年間に5万台販売することに満たないSHIFTTECH社ですら申立人のYoutubeの再生回数よりも約70,000回も多い。
また,雑誌への掲載について,取消理由通知書3ページ目の(カ)に記載されているが,日本で有名なチューニングコンピューターである株式会社HKSのV-proは販売実績の資料は見当たらなかったが,少なくとも日本においてサーキットに通っている車の制御のほとんどはこれらの会社のコンピューターを使っている。HYPERREVやドリテン,OPTION,REVSPEEDなどの月間雑誌に掲載されるような車は大体これらのコンピューターに換装されている。そしてこれらのコンピューターはサーキットのタイムや加速についての資料とともに毎月数台は紙面で紹介されている。このように雑誌の掲載に関しても,数回掲載された程度では有名なチューニングコンピューター会社の1月分の掲載回数にも満たず,周知性など獲得できるはずもない。
SHIFTTECH社のような普通のコンピューターチューニングの会社ですら,少なくとも年間15,000台はチューニングをしているのであり,年間3000台レベルでは市場占有率は低い。そもそも,特殊な用途に使用する医療機器ならともかく,車の部品で年間3000台販売したところで周知性など獲得できるわけがない。
申立人が主張するとおり,全世界の売上げが1,048,700ポンドであるとしても,販売数量から考えれば当該額がコンピューターチューニングの市場規模において,決して大きな額ということはできない。
してみると,申立人の提出した証拠をもってしては,引用商標が申立人の業務に係る商品「内燃機関の燃料供給装置,点火時期調整装置」を表示するものとして本件商標の登録出願日前から,イギリス及び我が国の需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。
また,申立人は,ソーシャルメディアネットワークで自社商品の宣伝を行っているとしても(甲26),その広告媒体は範囲が限定的であり,更に日本での情報の発信はm-flow社でしか行っておらず,更にその発信もm-flow社が自ら投稿しているものが多い(乙6)。SNSでの投稿はユーザー自ら投稿するからこそ,その投稿者の友人などに情報が回されるのでありユーザーが自ら投稿しないことには情報の発信力は弱い。また,掲載ページの再生回数についてもクリックするだけでの水増しが可能であることから申立人の提出に係る証拠をもって,引用商標の周知性の程度を推測することは困難である。
また,異議申立書の6ページにおいて,電装系制御装置を付けた車両(コンピュータ交換)は1%と考えているが,まずあり得ない。1%程度の市場においてネットショッビング(e-bay)で商品が売れることなどありえない。
また,コンピューターの書き換えをするのは車種にもよるが日本でも3%程度のシェアはあると言われているので,クルマ文化の発展しているイギリスでは少なくとも7%程度はあると思われる。
そうすると,2013年から2016年までの申立人の商品販売数が11,542個であるから,申立人のシェアは11,542個÷203,000台≒5.6%にすぎない。
そもそも,コンピューターの書き換えを行う理由は“速く走るため”である。よって,依頼するのはレース活動で活躍した店,又はその店が実績を出した車両に設置しているコンピューターメーカーとなる。
そのエンジンの制御に長けている会社,どこまでやったらエンジンを壊すのか。加給圧の設定,レブリミッターの設定,吸気系,排気系,足回りの設定も含めてどうしたら扱いやすくなるか。などの実績をもつ会社に依頼するのが一般的であり,そのレベルになって初めて業界も注目するのである。
コンピューターチューニングにおいては,レース活動の実績のある店での取扱いや,プロドライバーからの紹介が無ければ,車両火災や故障のリスクが高いだけであり,依頼することなどない。
コンピューターチューニングは,速く走るための基幹となるチューニング部位である。雑誌への取付け写真や,Youtubeの投稿だけで周知性を獲得できるような世界ではない。
申立人は創業も新しく,レースで特段の実績があるわけではない。ホームコースはどこで主力車種は何か。提携しているプロドライパーは誰か。全く不明である。
よって,引用商標が申立人の業務に係る商品「コンピューター」を表示するものとして本件商標の登録出願日前から,イギリス及び我が国の需要者の間に広く認識されていたとは思えない。
さらに,本件商標は平成28年3月15日に拒絶理由通知を受けているが,その内容は「TDI」はフォルクスワーゲン社の有名な商標であるとの認定に基づいた商標法第4条第1項第11号が理由であり,引用商標に基づいての理由ではない。つまり,出願時において引用商標は周知性がないと認定されている。また,本拒絶理由通知の通知後,本件商標の登録日までの間に,申立人が全国放送のテレビの取材を受け放送された,又はCMを流した,オートサロン,オートメッセの様なプレスの取材日が設けられているような大きなイベントを行い,そこで引用商標を使用し,大々的に宣伝したという実績もない。
してみると,本件商標の登録日までに周知性を獲得できるような事情もない。
以上のとおり,有名なコンピューターチューニング会社であれば年間の販売台数は50,000台程度必要であり,普通のコンピューターチューニング会社でも年間15,000台は販売している。よって,いくらコンピューターチューニング業界が狭い需要者の範囲であるといっても年間の販売数量が3,000台レベルでは周知性などない。
また,ホームコースや代表車種も曖昧な状態では業界で注目されることもない。
よって,引用商標は商標法第4条第1項第19号に規定する,他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標ではない。
(2)不正の目的(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)について
乙第7号証は,2015年における申立人から代理店に配られるプライスリストである。このような資料は極秘資料であり,代理店となる話が相当進んでなければこのような資料は入手することができないはずである。
そもそも,申立人と本件商標権者が出会ったのは,本件商標権者の従業員であったザック氏がコンタクトを取り,日本での代理店契約の話をしたのが最初である。初めは本件商標権者も代理店となる話であったのである。代理店となるからには商標を取るのは顧客との信頼を築く上で重要であり,当たり前の行為である。
甲第52号証から甲第55号証までにあるように,本件商標権者は本件商標の出願日前に,m-flowから申立人の商品を購入しているが,その間も代理店契約の話は進んでいた状態である。本件商標の登録出願について申立人に事前に知らせる事実は見当たらないとの認定もされているが,事前に知らせないことが不正の目的となる旨は審査基準にも記載はない。
甲第56号証にあるように,本件商標権者は代理店契約を強制したり,高額で買い取らせる目的で出願したのではない。日本においてm-flowという代理店もあるのにあえて商標出願もしていないのは,まだ売れていないから出願する費用が捻出できないだろうと思い,また,本件商標権者が代理店となる話があったので,本件商標権者が登録を受けて管理しておけば問題ないだろうとの思いで出願した経緯がある。甲第60号証からも,申立人に対して敵対する意思がないことは明らかである。商標出願しないのはお金が無いからですかと相手方に聞くのは失礼ではないだろうか。
ところが,甲第57号証に記載されているように,代理店契約ではなく,m-flowのサブディーラーとして契約したいと言ってきたのは申立人の方である。
また,直接送金の話についても,為替の優遇レートを持っているのでそれを使いたいだけであって,代理店契約が欲しいからではない。正規代理店と遜色ない条件での取引を要求との記載もあるが,そもそも正規代理店契約の話であったのだから当然のことである。
さらに,商品に関しても代理店であるm-flowから一般販売店と同じ条件で購入するとの記載どおり,本件商標権者は代理店契約を欲していない。また,直接送金が代理店契約を強要することになるなど商慣行はない。
取消理由通知書の8ページ上から2行目,申立人との取引において有利な条件を出すなど,不正の目的のために出願し,登録を受けたと推認せざるを得ないとのことであるが,有利な条件とは具体的に何か不明である。本件商標権者は代理店契約の強制などはしていない。サブディーラーの話さえ辞退している。本件商標の移転についても費用は登録にかかった費用だけである。使用料の支払いさえ求めていない。
その後の対応についても,不正の目的がないことは明白である。そもそも,不正の目的があるのであれば,甲第56号証に記載のように商標登録のために負担した金額のみで譲渡しますなど言う訳がない。
2 まとめ
以上のとおり,販売数量から推認しても引用商標は申立人の業務に係る商品を表示するものとして取引者,需要者の間に広く認識されていない商標である。また,代理店のプライスリストがあることから推認されるように,そもそも代理店契約の話があり,その代理店契約の話が破棄されたからといって登録商標を盾に代理店契約を強制したり高額な買取請求をしたわけでもなく,不正の目的で出願はしていない。
したがって,本件商標は商標法第4条第1項19号に該当しない。
よって,本件商標はの登録は維持されるべきである。

第6 当審の判断
1 商標法第4条第1項第19号該当性について
(1)申立人及び引用商標の使用の状況について
申立人の提出した甲各号証及び同人の主張によれば,以下の事実を認めることができる。
ア 申立人は,2005年に創業され,2012年に株式会社化されたイギリスの法人であり,2006年以降,車両の電装系制御機器の開発・製造・販売を行い(甲2?甲6),その対象は,乗用車用のほか,商業用,農業用の車両及びボートの分野に及ぶ(甲7)。
また,申立人は,イギリスにおいて,「TDI-Tuning.co.uk」の文字と図形との結合商標について,車輛電子機器,チューニング機器及び用品を指定商品とする登録第2612781号(登録日2012年3月5日)の商標権を有している(甲8)。
イ 申立人は,創業以来,社名の一部である「TDI Tuning」の文字を含む引用商標を,申立人の取扱商品である,内燃機関の燃料供給調整装置,内燃機関の点火時期調整装置,及び,陸上の乗物用の動力機械の部品に含まれる車両の電装系制御機器のほか,この電装系制御機器に付随する付属部品等や,そのパッケージのみならず,インボイス等の取引書類,取扱説明書等に使用している(甲9?甲19)。これらTDI商品は,主に,m-flowによって,日本にも輸入されている。
ウ 申立人が作成した「TDI商品の年別販売実績の内訳」(甲20)によれば,TDI商品の販売先は,イギリス,タイ,韓国,ニュージーランド,オーストラリア,日本及びインターネット・オークションサイトの「ebay」であり,イギリス国内におけるTDI商品の販売数と販売額は,以下のとおりである。
2010年:306個で約45,700ポンド
2011年:1,639個で約280,300ポンド
2012年:2,141個で約381,200ポンド
2013年:2,731個で約510,200ポンド
2014年:3,348個で約663,300ポンド
2015年:3,234個で約673,300ポンド
そして,イギリスを含めた全ての販売実績は,以下のとおりである。
2010年:798個で約90,900ポンド
2011年:2,743個で約376,900ポンド
2012年:3,247個で約471,400ポンド
2013年:4,365個で約665,600ポンド
2014年:6,934個で約869,600ポンド
2015年:7,572個で約1,048,700ポンド
また,イギリスの公認会計士が作成した「事業実績情報」(甲21)によれば,TDI商品の全世界での販売額は,以下のとおりである。
約464,400ポンド(2011年4月1日?2012年3月31日)
約285,500ポンド(2012年4月1日?2012年9月26日)
約565,000ポンド(2012年9月27日?2013年9月30日)
約798,600ポンド(2013年10月1日?2014年9月30日)
約967,000ポンド(2014年10月1日?2015年9月30日)
さらに,甲第20号証及び甲第21号証によれば,日本でのTDI商品の販売実績は,以下のとおりである。
2013年:208個で約40,500ポンド
2014年:607個で約61,100ポンド
2015年:2,699個で約228,000ポンド
エ グーグル(Google)でのオンライン広告費用をまとめた「Google AdWords」(甲24)によれば,2011年8月1日から2016年8月25日までに,申立人がグーグルへ支払った宣伝広告費用は,約1,228,300ポンドである。
そして,グーグルによる申立人のホームページへの訪問者数等の解析結果(甲25)によれば,申立人の小売店及び一般消費者向けのホームページへの訪問者数は,2014年1月1日から同年12月31日までが,1,482,393人(うちイギリス人は233,983人),2015年1月1日から同年12月31日までが,1,379,076人(うちイギリス人は239,000人)である。
また,申立人は,2010年9月23日,2012年11月16日,2014年4月14日及び同月16日に,ユーチューブにおいて,TDI商品を紹介する動画を公開したところ,2016年8月9日時点での視聴回数は,少ないものは16,070回,多いものは122,630回であった。
さらに,日本においては,株式会社カービューが運営するSNS「みんカラ」に掲載した,m-flowの広告への閲覧回数をまとめた資料(甲26)によれば,同社は,TDI商品について,2015年1月1日から同年1月31日まで広告を掲載し,この期間の掲載記事ページへの閲覧回数は2,135回,閲覧者を誘導するクッシヨンページへの閲覽回数は3,892回であった。
オ 申立人は,2015年度にエセックス地方自治体が審査する「エセックス優秀ビジネス賞」の「輸出賞」(甲27)の最終選考対象であった。また,申立人は,FRP Advisory(コンサルティング会社)(甲28)が審査する「エセックス優秀ビジネス賞」の「マーケティング賞」の最終選考対象でもあった(甲29)。
カ 申立人及びTDI商品は,2014年10月27日から2016年5月20日にかけて,自動車等のインターネット情報サイトにおいて,6回紹介された(甲30?甲35)。そして,TDI商品は,イギリスの自動車雑誌において紹介された(甲36?甲38)。
また,日本においては,TDI商品が,みんカラパーツオブザイヤーにおいて,電装系サブコントローラー(燃調・カム)部門の2015年年間ランキング2位及び2016年上半期ランキング2位を獲得し(甲47,甲48),楽天リアルタイムランキングにおいて,2016年8月19日現在,電子パーツにおけるデイリーランキング7位を獲得した(甲49)。
(2)引用商標の周知性
上記(1)において認定した事実によれば,申立人は,イギリスにおいて,2006年から約10年もの長きにわたり,引用商標を,申立人の取扱商品である,内燃機関の燃料供給調整装置,内燃機関の点火時期調整装置,及び,陸上の乗物用の動力機械の部品に含まれる車両の電装系制御機器のほか,この電装系制御機器に付随する付属部品等や,そのパッケージのみならず,インボイス等の取引書類,取扱説明書等に使用している。
そして,TDI商品の販売実績は,イギリスその他5か国及び「ebay」において,2010年の798個及び約90,900ポンドから2015年の7,572個及び約1,048,700ポンドに,個数で9倍以上,売上で11倍以上と,また,イギリス国内においては,2010年の306個及び約45,700ポンドから2015年の3,234個及び約673,300ポンドに,個数で10倍以上,売上で14倍以上と飛躍的に増加している。
また,申立人は,グーグルでオンライン広告を行い,その費用は,2011年8月1日から2016年8月25日までに,約1,228,300ポンドに上り,グーグルによる申立人の小売店及び一般消費者向けのホームページには,2014年中が1,482,393人(うちイギリス人は233,983人),2015年中が1,379,076人(うちイギリス人は239,000人)と多数の者がアクセスした。また,申立人は,ユーチューブにおいても,TDI商品を紹介する動画を公開した。
さらに,申立人及びTDI商品は,自動車等の情報サイトやイギリスの自動車雑誌において紹介され,申立人自身も,2015年度にエセックス地方自治体やコンサルティング会社が審査する賞の最終選考対象に選出された。
してみると,引用商標は,少なくともイギリスにおける内燃機関の電装系制御装置を取り扱う取引者,需要者の間において,申立人の業務を表すものとして,本件商標の登録出願日(平成27年11月26日)には既に相当程度広く認識され,その周知性は,本件商標の登録査定日(平成28年4月19日)においても継続していたものということができる。
(3)本件商標と引用商標との類似性について
ア 本件商標
本件商標は,前記第1のとおり,「TDItuning」の文字を標準文字で表してなるところ,その構成文字から,「ティーディーアイチューニング」の称呼が生じ,特定の観念は生じないというのが相当である。
イ 引用商標
まず,引用商標1は,別掲1のとおり,「TDI」の赤色の文字と「tuning.co.uk」の白色の文字及び記号を「-」(ハイフン)を介して一連に書し,「-」から「uk」までを覆うように赤色の曲線図形を配してなるものであるところ,その構成中,「.co.uk」の文字部分は,インターネットにおけるイギリスのドメインを表すものであり,商品の出所識別標識としての機能がないか又は弱いものというべきである。また,赤色の曲線図形部分は,単純な構成からなり,文字部分との関係においては,装飾的ないしは背景的なものとして看取,把握されるものといえる。
そうすると,引用商標1は,その構成中,「TDI-tuning」の文字部分が,取引者,需要者に対し,商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるといえるから,当該文字部分を分離,抽出し,他人の商標と比較して,商標の類否を判断することが許されるものといえる。
したがって,引用商標1からは,その要部である「TDI-tuning」の文字部分から,「ティーディーアイチューニング」の称呼が生じ,特定の観念は生じないというのが相当である。
次に,引用商標2は,別掲2のとおり,「TDI」の赤色の文字と「Tuning」の白色の文字を「-」(ハイフン)を介して一連に書し,その右横に「丸アール」と称される記号を付記し,「Innovators in Tuning Technology」の文字を「TDI-Tunin」の真下に収まるように小さく書し,「D」の上部から「丸アール」記号までを覆うように赤色と白色の曲線図形を配してなるものであるところ,その構成中,「丸アール」記号部分は,登録商標であることを示すために一般に用いられているものであり,商品の出所識別標識としての機能がなく,また,赤色と白色の曲線図形部分は,単純な構成からなり,文字部分との関係においては,装飾的ないしは背景的なものとして看取,把握されるものといえる。そして,「Innovators in Tuning Technology」の文字部分は,上段の「TDI-Tuning」の文字部分に比して極めて小さく書されており,看者の目を惹く態様で表されているとはいえない。
そうすると,引用商標2は,その構成中,大きく顕著に表された「TDI-Tuning」の文字部分が,取引者,需要者に対し,商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるといえるから,当該文字部分を分離,抽出し,他人の商標と比較して,商標の類否を判断することが許されるものといえる。
したがって,引用商標2からは,その要部である「TDI-Tuning」の文字部分から,「ティーディーアイチューニング」の称呼が生じ,特定の観念は生じないというのが相当である。
ウ 本件商標と引用商標の類否
本件商標と引用商標1の要部である「TDI-tuning」の文字部分とを比較すると,いずれも同一のつづりからなり,両者の差異は「-」(ハイフン)の有無にすぎず,また,本件商標と引用商標2の要部である「TDI-Tuning」の文字部分とを比較すると,両者の差異は「-」(ハイフン)の有無と「tuning」の語頭の大文字小文字の相違にすぎず,いずれも同一のつづりからなるものであるから,本件商標と引用商標は,外観上,近似した印象を与えるものである。
また,本件商標と引用商標の要部とは,いずれも「ティーディーアイチューニング」の称呼を生じるものであるから,称呼上,同一である。
さらに,本件商標と引用商標の要部とは,いずれも特定の意味合いを想起させることのない一種の造語といえるものであるから,観念上,両者を比較することはできない。
してみれば,本件商標と引用商標の要部とは,観念においては比較することができないとしても,外観において近似した印象を与えるものであって,称呼を同一とするものであるから,これらを総合的に勘案すれば,本件商標と引用商標とは,互いに紛れるおそれのある類似の商標である。
(4)不正の目的について
ア 申立人と本件商標権者との関係について
申立人は,上記(1)において認定したとおり,イギリスにおいて,2006年(平成18年)から,TDI商品の製造,販売等を行い,日本においては,申立人の日本正規代理店であるm-flowが,TDI商品を輸入しており,2015年には,2,699個及び約228,000ポンドの販売実績をあげるなど,車両の電装系制御機器等の分野において,一定程度知られているといえる。
そして,本件商標権者は,二輪・四輪自動車用のオートパーツや電子機械部品の販売や卸売を業とし,1992年(平成4年)に設立された日本の法人である(甲50)。
また,本件商標権者は,本件商標の出願日前である2015年(平成27年)9月及び10月に,m-flowにTDI商品の仕様を確認し,同社からTDI商品である「TWIN Channel CRTD2」を発注した(甲52?甲55)。
以上からすれば,本件商標権者は,申立人と同様の商品を取り扱う法人であって,遅くとも2015年(平成27年)9月には,申立人の日本正規代理店を介してTDI商品を仕入れており,本件商標の出願日(平成27年11月26日)前から,申立人とは一定の取引関係にあったといえる。そうすると,本件商標権者は,本件商標の出願日前から,引用商標の存在を十分認識していたというべきである。
イ 本件商標の登録とその後の経緯について
本件商標権者は,前記第1のとおり,2015年(平成27年)11月26日に本件商標を登録出願し,2016年(平成28年)6月3日に設定登録を受けた。なお,本件商標の登録出願について,本件商標権者が申立人に事前に知らせるなどした事実は,見当たらない。
他方,申立人は,2016年(平成28年)6月30日付け電子メールにおいて,本件商標権者に対し,本件商標権の申立人への移転手続を要請し,併せて,本件商標権の取得に要した費用(79,987円)を支払う旨申し入れた(甲56)。
これに対し,本件商標権者は,2016年(平成28年)7月4日付け電子メールにおいて,m-flowからの仕切りや為替の変動等の問題を挙げ,本件商標権の申立人への移転については直接回答せず(甲57),さらに,同年7月5日付け電子メールにおいて,申立人への直接送金を要求し,本件商標権の譲渡には応じなかった(甲58)。
そして,申立人は,2016年(平成28年)7月23日付け電子メールにおいて,本件商標権者に対し,本件商標権の申立人への移転と引換に,本件商標権者とm-flowとの間での特別価格の設定,イギリスポンド建て取引の承認及び本件商標権取得費用の支払い等を提案し,併せて,この提案が受け入れられない場合には,本件商標の登録に対して異議申立てを行う旨通告したところ,本件商標権者は,同年7月25日付け電子メールにおいて,申立人による異議申立ては,米国との取引における本件と同様の事案への対応の参考となる旨述べ,申立人が法的措置をとることに異存はなく,今後の交渉は行わない旨回答した(甲60)。
以上からすれば,本件商標権者は,申立人に事前に知らせることなく本件商標を出願,登録し,本件商標権の申立人への移転要請に対しては,申立人への直接送金など,正規代理店と遜色ない条件での取引を要求し,その結果,申立人からの一定の譲歩を引き出したにもかかわらず,両当事者の取引とは直接関係のない理由を挙げて,本件商標権の移転に関する交渉を決裂させたということができる。
ウ 小括
引用商標は,上記(2)のとおり,少なくともイギリスにおける内燃機関の電装系制御装置を取り扱う取引者,需要者の間において,申立人の業務を表すものとして,本件商標の登録出願日には既に相当程度広く認識され,その周知性は,本件商標の登録査定日においても継続していたものである。
また,本件商標権者は,遅くとも2015年(平成27年)9月には,申立人の日本正規代理店を介して,申立人とは一定の取引関係にあったことから,本件商標権者は,本件商標の出願日前から,申立人が引用商標を継続的に使用していた事実を知悉していたことは明らかといえる。
そして,本件商標は,上記(3)のとおり,引用商標の要部である「TDI-tuning」又は「TDI-Tuning」とつづりを共通にする類似性の高い商標であることからすれば,本件商標権者が本件商標を偶然採択したと認めることもできない。
さらに,本件商標の指定商品は,引用商標の使用に係る商品と同一又は類似のものであり,我が国にも輸入されているものであるから,本件商標権者は,本件商標をその指定商品について使用した場合,取引者,需要者において,商品の出所につき混同を生ずるおそれがあることも十分に予見し得たといえる。
このような状況の下,本件商標権者は,申立人に事前に知らせることなく本件商標を登録出願し,商標登録を受け,本件商標権の申立人への移転要請に対しては,申立人への直接送金など,正規代理店と遜色ない条件での取引を要求し,その結果,申立人から一定の譲歩を引き出したにもかかわらず,両当事者の取引とは直接関係のない理由を挙げて,本件商標権の移転に関する交渉を決裂させたのであるから,本件商標権者は,引用商標がいまだ我が国で商標登録されていないことを奇貨として,申立人との取引において有利な条件を引き出すなど,不正の目的のために引用商標と類似する本件商標を先に登録出願し,商標登録を受けたと推認せざるを得ない。
(5)まとめ
以上によれば,本件商標は,申立人の業務に係る商品を表示するものとして,少なくともイギリスにおける取引者,需要者の間に広く認識されていた引用商標と類似の商標であって,不正の目的をもって使用をする商標というべきである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当する。
2 本件商標権者の意見について
(1)本件商標権者は,(ア)RACECHIP社の世界での年間販売量から算出した一般的に有名なコンピューターチューニング会社と認められる年間50,000台の販売を申立人が達成していないこと,(イ)業界で有名でないSHIFTTECH社が1年で申立人の総販売台数と同程度の販売量を達成していること,(ウ)同社のユーチューブ再生回数は申立人のそれより約70,000回多いこと,(エ)雑誌に数回掲載された程度では株式会社HKSのような有名なチューニングコンピューター会社の1月分の掲載回数に満たないこと,(オ)申立人の全世界の売上げが1,048,700ポンドとしても,コンピューターチューニングの市場規模において決して大きな額といえないこと,(サ)SNSでの宣伝は範囲が限定的であって発信者もm-flowが多いため情報発信力が弱く,しかも掲載ページの再生回数はクリックするだけで水増しが可能であること,(シ)申立人は創業も新しく,レースでの実績やホームコース,主力車種等が不明であること,(ス)本件商標の登録出願の審査において引用商標に基づいての拒絶の理由はなく登録となった,つまり,出願時には引用商標の周知性はないと認定されており,登録日までに周知性を獲得するような事情もないこと等からすれば,申立人の提出した証拠をもってしては,引用商標が申立人の業務に係る商品「内燃機関の燃料供給装置,点火時期調整装置」を表示するものとして本件商標の登録出願日前から,イギリス及び我が国の需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない旨主張する。
しかしながら,(ア)から(エ)については,RACECHIP社,SHIFTTECH社及び株式会社HKSが,そもそもどのような法人なのか,その活動や販売実績等を裏付ける証拠がなく,申立人の業務に係る商品を取り扱う業界における位置付けが不明であるといわざるを得ないから,これら法人の販売実績等を比較の対象として挙げ,これらをもって引用商標の周知性を否定する根拠とすることはできない。そして,(オ)から(シ)については,いずれも主張のみであり,これらを裏付ける証拠の提出はない。また,(ス)については,商標登録の異議申立制度は,商標登録に対する信頼を高めるという公益的な目的を達成するために,登録異議の申立てがあった場合に特許庁が自ら登録処分の適否を審理し,瑕疵ある場合にはその是正を図るというものであって,登録出願の審査において登録すべきとされたものが,登録異議の申立ての審理においてその登録を取り消すべき旨の決定がされることはあり得るものであり,当審において認定した事実によれば,引用商標は,少なくともイギリスにおける内燃機関の電装系制御装置を取り扱う取引者,需要者の間において,申立人の業務を表すものとして,本件商標の登録出願日には既に相当程度広く認識され,その周知性は,本件商標の登録査定日においても継続していたものということができるのは,上記1(2)のとおりである。
したがって,本件商標権者の上記主張は,いずれも採用できない。
(2)本件商標権者は,(ア)そもそも初めは申立人との間でその代理店となる話を進めており,代理店となるからには商標を取るのは顧客との信頼を築く上で重要であり,当たり前の行為であること,(イ)本件商標の登録出願について申立人に事前に知らせないことが不正の目的となる旨は審査基準にも記載はないこと,(ウ)本件商標を出願したのは,申立人が出願費用を捻出できないだろうと思い,また,本件商標権者が代理店となる話があったので,自身が登録を受けて管理しておけば問題ないだろうとの思いで出願した経緯があること,(エ)代理店契約ではなくm-flowのサブディーラーとしての契約を申し出たのは申立人側であり,また,直接送金の話についても,為替の優遇レートを持っているのでそれを使いたいだけであって,代理店契約が欲しいからではないこと,(オ)正規代理店と遜色ない条件での取引を要求したとしても,そもそも正規代理店契約の話であったのだから当然であること,(カ)取消理由通知書記載の「申立人との取引において有利な条件を引き出すなど」の有利な条件とは具体的に何か不明であり,代理店契約の強制はしておらず,サブディーラーの話も辞退し,本件商標の移転についても登録費用だけで使用料の支払いも求めていないこと等からすれば,不正の目的で出願はしていない旨主張する。
しかしながら,外国法人と代理店契約締結の交渉をする際に,当該外国法人に断りなく,我が国において当該外国法人の使用に係る商標と同一又は類似の商標を登録することが,顧客(外国法人)との信頼を築く上で重要かつ当然であるとか,代理店契約が締結されていないにもかかわらず,当該外国法人の了解なくその使用に係る商標を交渉中の一方当事者が管理することが通常であるといった取引の実情は見いだせない。また,外国法人がその使用に係る商標を我が国で登録していない場合,その理由は当該外国法人側の事情によるものであり,申立人が出願費用を捻出できないためであろうとの推量には何ら根拠がない。
そして,上記のとおり,本件商標は引用商標と類似する商標であり,本件商標の指定商品と引用商標の使用に係る商品は同一又は類似のものであって,我が国にも輸入されているものであるから,本件商標をその指定商品について使用した場合,取引者,需要者において,商品の出所につき混同を生ずるおそれがあることからすれば,申立人が本件商標を譲り受け,これを管理する必要性があるといえる。
また,本件商標権者の主張どおりだとすると,申立人との代理店契約交渉が決裂した以上,本件商標を本件商標権者が所有し続ける根拠はその時点で消滅したというべきである。
以上からすると,上記1(4)で認定したとおり,本件商標権者は,申立人に事前に知らせることなく本件商標を登録出願し,商標登録を受け,本件商標権の申立人への移転要請に対しては,申立人への直接送金など,正規代理店と遜色ない条件での取引を要求し,その結果,申立人から一定の譲歩を引き出したにもかかわらず,両当事者の取引とは直接関係のない理由を挙げて,本件商標権の移転に関する交渉を決裂させたのであるから,本件商標権者は,引用商標がいまだ我が国で商標登録されていないことを奇貨として,申立人との取引において有利な条件を引き出すなど,不正の目的のために引用商標と類似する本件商標を先に登録出願し,商標登録を受けたと推認せざるを得ない。
したがって,本件商標権者の上記主張は,いずれも採用できない。
3 結び
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものであるから,同法第43条の3第2項の規定により,その登録を取り消すべきものである。
よって,結論のとおり決定する。
別掲 別掲1(引用商標1)

(色彩については原本参照)

別掲2(引用商標2)

(色彩については原本参照)



異議決定日 2017-08-02 
出願番号 商願2015-116162(T2015-116162) 
審決分類 T 1 651・ 222- Z (W07)
最終処分 取消 
前審関与審査官 太野垣 卓箕輪 秀人豊田 純一 
特許庁審判長 酒井 福造
特許庁審判官 大森 友子
冨澤 武志
登録日 2016-06-03 
登録番号 商標登録第5854627号(T5854627) 
権利者 株式会社ハチハチハウス
商標の称呼 テイデイアイチューニング、テイデイアイ、チューニング 
代理人 石原 幸信 
代理人 佐藤 武幸 
代理人 住友 慎太郎 
代理人 浦 重剛 
代理人 苗村 潤 
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