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審決分類 審判 全部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない 011
管理番号 1334449 
審判番号 取消2014-300585 
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2014-08-01 
確定日 2017-04-13 
事件の表示 上記当事者間の登録第3206950号商標の登録取消審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第3206950号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1のとおりの構成からなり,平成5年2月16日に登録出願,第11類「融雪機」を指定商品として,同8年10月31日に設定登録されたものである。
なお,本件審判の請求の登録日は,平成26年8月18日である。

第2 請求人の主張
請求人は,商標法第50条第1項の規定により,本件商標登録を取消す,審判費用は,被請求人の負担とする,との審決を求め,審判請求書,弁駁書,意見書,口頭審理陳述要領書及び上申書において,その理由及び答弁に対する弁駁等を要旨次のように述べ,甲第1号証及び甲第2号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は,その指定商品について継続して3年以上,日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから,商標法第50条1項の規定により取り消されるべきものである。
被請求人は,平成19年6月25日,札幌地方裁判所岩見沢支部において破産手続開始決定を受け,弁護士高橋司が破産管財人に選任されたが,平成21年1月28日,札幌地方裁判所岩見沢支部の費用不足による破産手続廃止の決定が確定した(甲2)。
2 答弁に対する弁駁
(1)通常使用権の設定について
審判事件答弁書では,通常使用権については不知と述べるのみで具体的な主張がない。乙第1号証では,通常使用権の設定について触れられているが,同号証では,被請求人の従業員であった古田守氏(以下「古田氏」という。)が本件商標について通常使用権の設定を受けたとしているが,そのような事実はない。
仮に,古田氏に対する通常使用権の設定があったとしても,乙第2号証ないし乙第7号証によれば,本件商標の使用はモンスターサービス株式会社(以下「モンスターサービス」又は「参加人」という場合がある。)が行っているとされている。これは,通常使用権による本件商標の使用ではない。
(2)乙第8号証について
同号証の契約書によって本件商標が譲渡されたと解する余地はない。同号証の契約書は実質的には顧客情報の売買契約である。それゆえ,古田氏は本件商標の登録を行っていない。
なお,同号証の契約書中にある「営業権」という言葉は法律用語としては無意味である。
3 意見書(平成27年1月24日付け)
参加人は,本件商標の使用許諾を受けたとしているがそのような事実はない。
丙第2号証では,被請求人の従業員であった古田氏が本件商標について通常使用権の設定を受けたと主張しているようであるが,仮に,古田氏に対する通常使用権の設定があったとしても,参加人に対し通常使用権の設定があったわけではない。
したがって,参加人は,商標法56条の利害関係人にはあたらない。
4 口頭審理陳述要領書(平成27年6月24日付け)
(1)被請求人及び参加人提出の口頭審理陳述要領書に対する意見
ア 加茂氏による使用許諾について
(ア)参加人は,被請求人の代表取締役であった加茂芳秋氏(以下「加茂氏」という。)から,被請求人の会社従業員であった古田氏に対し,融雪機メンテナンス事業を譲渡することを合意し,その際,加茂氏は,古田氏に本件商標の使用を許諾したとするが,該主張には客観的な証拠は何もなく,営業譲渡や商標の使用許諾を書面によらず口頭で,かつ無償で行うことは取引慣行に著しく反する。
参加人の主張によると,かかる譲渡は平成19年4月に行われたとされているが,そうであれば,平成19年6月に破産管財人が選任されたことからすれば,かかる譲渡は否認権行使の対象となる。しかし,破産管財人と古田氏は,別途営業譲渡契約書(丙1)を作成した。
したがって,丙第1号証の営業譲渡契約書以前にいかなる事業譲渡の合意もあり得ない。
(イ)参加人は,上記使用許諾には,古田氏が後に設立する会社に対して古田氏から本件商標の使用の再許諾を行うことも含まれていたとする。
仮に,加茂氏が古田氏に本件商標の使用を許諾していたとしても,当時存在しない法人に対していかなる許諾もできるはずがない。
(ウ)参加人は,実際に古田氏が,平成20年1月下旬,参加人に対し本件商標使用の再許諾を行ったとするが,このような主張が後付けで出て来ること自体不可解という他ない。
イ 被請求人の破産管財人による使用許諾について
(ア)参加人は,被請求人の破産管財人が,平成20年1月中旬ころ,参加人に対し,丙第1号証の「営業譲渡契約書」により本件商標を譲渡したとする。
しかし,一方,破産管財人も古田氏も本件商標権の存在を把握していなかったというのであるから,把握していないものが譲渡契約による合意の対象となるはずはない。
(イ)また,参加人は,東京地裁の裁判例を引用するが,丙第1号証の「営業譲渡契約書」の作成当時,参加人は法人として存在しなかったのであるから,裁判例の事案とは,明確かつ著しく異なる。
(ウ)参加人は,古田氏から本件商標の使用につき,再許諾を得たと主張するが,営業譲渡と使用許諾はその範囲を異にし,丙第1号証の「営業譲渡契約書」の再許諾の権限付与を読み込むことは不可能である。
ウ 株式会社タイカ旭川(以下「タイカ旭川」という。)に対する使用許諾について
参加人の主張に客観的な証拠は何もなく,また,営業譲渡や商標の使用許諾を書面によらず口頭で,かつ無償で行うことは取引慣行に著しく反することは前述したとおりである。
仮に,株式会社ダイワテック旭川(以下「ダイワテック旭川」という。)に対して,被請求人の本件商標の使用許諾があったとしても,タイカ旭川に対して使用許諾があったとはいえない。
エ 仮に,平成25年6月27日に,参加人が丙第4号証のチラシを配布し,本件商標の使用をしていたとしても,参加人に使用権限はなく,商標権の侵害行為にすぎない。
(2)参加人作成の上申書に対する意見
ア 参加人は,本件商標が,被請求人から本件商標の使用の許諾を受けた使用権者であるタイカ旭川及び参加人によって,商品「融雪機」について継続使用されていると主張するが,上記のとおり,タイカ旭川及び参加人は,本件商標につき無権限である。
イ 高橋弁護士が,被請求人の清算人となったのは,請求人が本件取消審判を申し立てたところ,特許庁審判長から,清算人選任の申立ての手続をするようにとの通知を受けたため,請求人が被請求人会社の清算人選任の申立をし,これが認められたからである。
すなわち,被請求人の法人格は,本件申立ての被請求人としての行為を行うに限り一時復活したにすぎず,それ以外の事項につき権利能力を有する法人格が存続しているわけではない。
5 上申書(平成27年8月4日付け)
(1)「加茂氏による本件商標の使用許諾が口頭でなされた点について」について
ア 参加人の主張には証拠が全くないこと
参加人は,本件商標についての通常使用権設定契約が書面でなされなかったことは何ら不自然ではないとする。
しかし,参加人は通常使用権設定契約が口頭で設定された事実に関する間接事実についてさえ何ら立証を行っていない。すなわち,古田氏が長年被請求人に勤務していた事実,古田氏が加茂氏との間に信頼関係があった事実,被請求人の従業員や顧客を救済的に引き受けるという合意まであった事実など,参加人の主張には間接事実の隅々に至るまで的確な証拠が全くない。
イ 参加人の主張には致命的な矛盾があること
参加人は,平成27年7月21日付上申書において,被請求人の従業員や顧客を救済的に引き受けるという合意があったと主張している。
しかし,乙第9号証によると,古田氏は被請求人の破産管財人から古田氏の有していた顧客情報を用いメンテナンスを行うことについて対価を支払って許容してもらったということである。そうであれば,参加人の主張を前提とすると,古田氏は加茂氏と破産管財人から二重に顧客に対するメンテナンスを認められたことになる。
参加人の主張にこのような矛盾がどうして生じるのかについては論を待たない。古田氏と加茂氏の間にはいかなる合意も存在しなかったのである。
(2)「営業譲渡に関する否認権行使に関連する主張について」について
平成27年6月9日付参加人口頭審理陳述要領書3頁及び乙第9号証によると,古田氏及び破産管財人は本件商標権の存在を知らず,その他すべての関係者が商標権の存在を全く意に介していなかったことが明らかである。そうであれば,破産管財人は,古田氏と加茂氏との間で通常使用権設定契約があることについて疑いを持つ余地すらなかったのであって,否認権行使がありえないことは当然である。
(3)「使用許諾当時存在しない法人への使用許諾について」について
参加人は,加茂氏と古田氏の間では会社を設立することは当然の前提であったと主張している。
しかし,通常使用権設定契約において,一度通常使用権設定契約を締結し,それまでとは別主体に通常使用権を認める場合には再度通常使用権設定契約を締結するのが通常である。参加人の主張は取引慣行に著しく反する。
また,参加人の主張には間接事実の隅々に至るまで的確な証拠が全くなく,法人への通常使用権の設定については,平成27年6月5日付加茂氏の陳述書(丙16)に至って初めて触れられている。
すなわち,かかる参加人の主張は後付けのものにすぎない。
(4)「破産管財人と古田氏が本件商標権の存在を把握していなかったことについて」について
ア 参加人の主張に対する認否
まず,前提として,被請求人が平成元年から本件商標を使用していた事実は否認し,不正競争防止法により一定の権利性を有する商標になっていたとする点については争う。不正競争防止法の適用要件についての主張立証は全くない。
イ 破産管財人と古田氏との間について
破産管財人と古田氏との間で締結された契約(丙1)は商標権の譲渡を含まず,むしろ積極的に商標権の譲渡を排斥する事情さえ存在した(乙9)。商標権の存在を認識していなかった者の契約の内容として,「本件商標権の不行使の意思表示を包含」することは不可能である。
ウ 加茂氏と古田氏の間について
通常使用権設定契約は商標権の存在を前提とするものであるから,商標権の存在を認識していない者が締結することはできない。
(5)「タイカ旭川への本件商標の使用許諾が口頭でなされた点について」について
ア タイカ旭川の本件商標についての態度について
タイカ旭川は,代表者の陳述書(丙10)を提出し,本件取消審判の存在を知っているにも拘わらず,通常使用権者であると主張して本件取消審判に参加し,主張立証を行おうとしない。このことは,タイカ旭川が通常使用権者であるとは認識していないことを示している。
すなわち,タイカ旭川の代表者は,遅くともモンスターサービス株式会社(参加人)が設立された平成19年9月以降は,被請求人ではなく参加人から本件商標について使用許諾を受けていると認識している。そして,参加人は通常使用権者でなく,タイカ旭川が通常使用権者でないことは明らかである。
イ 加茂氏からダイワテック旭川への本件商標についての使用許諾について
参加人の主張によると,被請求人は融雪機「モンスター」についてダイワテック旭川を通じて販売していたとのことであるから,被請求人とダイワテック旭川との間の契約は販売店契約(代理店契約)であったことが明らかである。
そうであれば,ダイワテック旭川が本件商標を使用できるのは,被請求人の融雪機の販売に限定されているのであって,被請求人が破産し融雪機の販売を行わなくなった以上,タイカ旭川が本件商標を使用することはできなくなったと解するべきである(丙10)。
(6)被請求人の法人格について
破産手続の終結によって被請求人の法人格は消滅した。これに反する参加人の主張は破産法の明文に反するものであり,失当である。
実質的にも,法人は代表者,破産管財人,清算人等が存在しなければ権利行使を観念することができず,法人格は消滅したと解するしかなく,その後,清算人が選任されれば,目的の範囲内で法人格が一時的に復活することになる。
参加人が平成27年3月12日付上申書3頁で主張している内容は,本件とは全く事情が異なり,破産手続きに引き続いて清算人が選任された事案について表面的な理解をした結果が生み出した産物であり失当である。
仮に,参加人やタイカ旭川との間で通常使用権設定契約が存在したとしても,被請求人の破産手続終結によって一方の当事者を失い,同契約は消滅したと解するべきである。
なお,参加人やタイカ旭川は商標権の侵害行為を行っているが,被請求人は本件商標権を使用していないから,損害を観念することはできず,参加人もタイカ旭川も民事上刑事上の責任を負うことはない。

第3 被請求人の主張
被請求人は,結論同旨の審決を求める,と答弁し,その理由を審判事件答弁書,回答書(乙1を提出),口頭審理陳述要領書及び上申書において要旨次のように述べ,証拠方法として,乙第1号証ないし乙第9号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 答弁の理由及び回答書
(1)請求の理由において,「手続の経緯」は認める。
(2)同「取消事由」中,本件商標は,その指定商品について継続して3年以上日本国内において商標権者が使用した事実がないことは認め,専用使用権者または通常使用権者が使用した事実がないことは不知,その余は否認する。
(3)同「取消原因」中,第1段落は否認する。
甲第1号証には審判請求日は記載されていない。第2段落は認め,本件商標は,その指定商品について継続して3年以上日本国内において商標権者が使用した事実がないことは認め,専用使用権者又は通常使用権者が使用した事実がないことは不知,その余は否認する。
2 口頭審理陳述要領書(1)(平成27年6月23日付け)
(1)通常使用権者による使用について
ア 平成19年6月25日に清算人が,被請求人の破産管財人に選任される以前の段階で,当時,被請求人の代表取締役であった加茂氏と古田氏との間で,被請求人が倒産した後において,すでに被請求人から融雪機を購入してくれている数多くの顧客に対し,使用機器である融雪機モンスターのメンテナンス事業を古田氏らが行いたいという申し入れを行い,加茂氏もこれに同意をして,本件商標の使用を許諾する旨の合意を行っていた(乙1)。
なお,この当時,被請求人では,旭川にはタイカ旭川という会社があり,融雪機モンスターの商標の使用許諾を受けながらメンテナンス事業をし,小樽市には,個人事業でダイワテック小樽という屋号にて嶋屋氏が上記同様に小樽市近郊にて融雪機モンスターを利用しているユーザーのために被請求人の商標の使用の許諾を受けながらメンテナンス事業を行っていた。
イ その後,被請求人の破産管財人と古田氏との間で,古田氏が中心となって会社を設立する予定であること,そこで,上記同様にメンテナンス事業を行いたい旨の申し入れがあったことから,破産管財人は,札幌地方裁判所と協議をし,乙第8号証の契約書を締結した。
ウ よって,同契約書締結後において,被請求人自体は本件商標の使用を直接的に行っていないが,モンスターサービスは,本件商標の使用を行っている(乙2ないし乙7)。
(2)営業譲渡契約書(乙第8号証)について
ア 被請求人の破産管財人(現在の清算人。以下「破産管財人」という。)は,破産管財人に選任される前後に亘って,被請求人が本件商標を登録していることについて,破産手続開始申立を行った被請求人代理人弁護士からも聞かされておらず,その後の管財事務を行うにあたって,裁判所は言うに及ばず,誰からも本件商標権があることを聞かされていなかったし,その存在を認識し得なかった。
イ ところが,被請求人が倒産をしたことによって同社が新たに融雪機を製造しないこととなったことを踏まえ,すでに被請求人から融雪機を購入して自宅などに設置して使用している数多くの顧客について,融雪機自体に問題が生じた場合などを想定して,機器をフォローすることが被請求人にはできないことから,このメンテナンスをあらためて行いたいとの趣旨の申し入れを破産管財人は古田氏から得た。
その際,古田氏は,札幌市またはその近郊の地域に融雪機を販売したユーザーに対するメンテナンスを行いたいとの申し入れをしていた。
ウ 破産管財人と古田氏との間の契約に際しては,被請求人が札幌市またはその近郊地域に融雪機を販売したぞれぞれのユーザーに対して,上記のとおりメンテナンス業務を行うことを説明すること,その前提として,古田氏の有している顧客情報を用いることを破産管財人は許容すること,しかし,旭川市や小樽市などのユーザーには行わないことの合意を経て,金20万円程度の対価を得たのである。そして,金20万円という対価を決定したのは,まさに,商標権などというものを想定して積算した金額なのではなく,事実上,被請求人の顧客情報を用いてメンテナンスの営業活動をあらたに行うことに対する対価であった。
エ かかる経緯の中では,破産管財人から日好物産(被請求人の工場などの一式を購入した業者)に声をかけて,事実上,メンテナンス部品で古田氏に販売できるものがあれば,古田氏と個別的に交渉して欲しいとの申し入れもしていた。
オ 破産管財人は,古田氏に対して,小樽市方面や旭川市方面の業務を侵食するものではないということを確認した上で,契約を締結したものであり,いわゆる,全国一律に効力が生じる商標権を譲渡するなどという意思は毛頭なかったのである。
この点,営業譲渡がいかなる意味であるかなどについて最高裁判例を引用して主張するが,融雪機の製造ラインを持つ工場一式は日好物産に売却したのであって,古田氏に販売していないこと,被請求人のメンテナンスは,融雪機の製造を相まって行われていたビジネスであって,融雪機の製造とまったく離れた形で行われることを想定した業務ではなかったこと,古田氏の意向が被請求人の顧客情報を用いて機器メンテナンスに関する営業を行っていいかどうかの問い合わせであったことを踏まえ,金20万円程度の対価で合意を行ったことなどを踏まえれば,商標権を含むいわゆる営業権なるものを譲渡した事実はない。
3 上申書(平成27年8月3日付け)
(1)被請求人としては,参加人からの加茂氏又は被請求人と古田氏との間のメンテナンス事業の譲渡と本件商標の使用許諾があったという主張については真実と考える。その詳細な経緯については,被請求人は把握しているわけではない。よって,破産管財人として否認権を行使することができなかった。
(2)被請求人としては,加茂氏と古田氏の間において本件商標の使用の再許諾を行うことも含まれていたことは不知。
(3)被請求人としては,古田氏との間で営業譲渡契約に伴い商標権を譲渡した事実はない。
(4)丙第4号証のチラシ配布を通じて本件商標を使用したとしても,被請求人は本件商標を譲渡していないし,その使用を許諾したことはない。

第4 モンスターサービス株式会社の主張
モンスターサービス株式会社(参加人)は,参加申請書,上申書,口頭審理陳述要領書において,要旨以下のとおり述べ,丙第1号証ないし丙第21号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 参加申請書
参加人は,被請求人より「融雪機モンスター」に関する営業権の譲渡を受けた古田氏により設立された法人である(丙1及び丙2)。
参加人は,該営業権の譲渡を受けた平成20年より「融雪機モンスター」の販売及びメンテナンス業務を行っており,同業務に遂行に伴い,本件商標を商品「融雪機」に継続して使用し続け現在に至っている。
参加人は,本件商標を使用したシールを付した商品「融雪機(モンスターミニエース)」を販売しており,本件商標を付した看板等による宣伝広告活動を行っている(丙3ないし丙7)。
また,販売した「融雪機(モンスターミニエース)」に関し,メンテナンス業務を行っており,メンテナンス業務に係る取引書類に本件商標を付している(丙8及び丙9)。
2 上申書(平成27年3月12日付け)
(1)タイカ旭川の使用
北海道旭川市で融雪機の製造販売業を営むタイカ旭川は,平成9年頃,被請求人の代表取締役であった加茂氏より,本件商標の使用の許諾を得て,現在に至るまで,商品「融雪機」に本件商標を付して販売している(丙10ないし丙14)。
(2)被請求人の法人格の存続
被請求人は,平成19年6月25日に破産手続開始決定を受け,同手続については,平成21年1月頃,廃止が決定され,同決定は,同月28日に確定した(丙15)。
しかしながら,本件商標に係る商標権についての管財事務が未了であったため,同社につき,清算人選任の申立てがされ,平成26年9月16日,被請求人代表者が清算人に選任された。
破産手続が終結することにより,破産会社の法人格は消滅するとされている(破産法第35条)が,当該破産会社に残余財産がある場合には,当該破産会社の法人格は存続する。
被請求人による,参加人及びタイカ旭川に対する本件商標の使用許諾は,現在に至るまで取り消されておらず,また,解除されていないから,なお,その効力を有するものである。
3 口頭審理陳述要領書(平成27年6月9日及び同月15日付け)
(1)参加人の使用の証拠は古田氏から使用の許諾を受けた使用権者の使用の証拠であること
ア 加茂氏による使用許諾
被請求人は,破産申立て前(被請求人が破産申立てを行ったのは平成19年6月である。),主に札幌近郊の需要者に対して,融雪機「モンスター」の製造販売を行うとともに,そのメンテナンスサービスを提供していた。
破産申立て前の時点における被請求人の主要な事業の拠点は,本店所在地でもある岩見沢市中幌向町所在の融雪機の製造工場と,札幌市白石区所在の札幌支店であった。札幌支店は,融雪機「モンスター」の販売及びメンテナンス事業の拠点であった。
平成19年4月頃,当時の被請求人の代表取締役であった加茂氏は,被請求人が倒産に瀕していることを前提に,被請求人の融雪機メンテナンス事業の責任者であった古田氏と協議をして,被請求人が札幌支店で行っていた融雪機のメンテナンス事業を,古田氏に譲渡して引き継がせることに合意した(なお,融雪機のメンテナンス事業の遂行に当たっては,融雪機の部品の販売も行われる。)。
その際に,加茂氏は,被請求人の代表取締役として,古田氏に対して,本件商標を使用することの許諾を与えた。
加茂氏と古田氏の間では,古田氏が融雪機メンテナンス事業を引き継ぐに当たって,会社を設立することは当然の前提とされていたので,上記の古田氏に対する本件商標の使用許諾には,古田氏が後に設立する会社に対して本件商標の使用を再許諾することができる権限の付与も含まれていた(丙2,丙16)。
その後,平成19年9月14日,古田氏は,モンスターサービス株式会社を設立し(丙17),被請求人の破産管財人との間で営業譲渡契約書を締結した平成20年1月中旬以降,参加人名義での融雪機「モンスター」のメンテナンス事業を本格的に開始した(丙2)。
古田氏は,平成20年1月下旬に,参加人に対して,本件商標の使用を再許諾した。
以上より,参加人は,平成19年4月頃に被請求人が古田氏に対して行った本件商標の使用の許諾(第三者への再許諾を与える権限を含む。)及び平成20年1月下旬に古田氏が参加人に対して行った本件商標の使用の再許諾に基づいて,本件商標権に係る通常使用権を有していた。
したがって,参加人に係る使用の証拠は,本件商標の使用を第三者に許諾する権限を有する古田氏から使用の許諾を受けた通常使用権者の使用の証拠といえる。
イ 被請求人破産管財人による使用許諾
被請求人は,平成19年6月25日に破産手続開始決定を受け,現在の被請求人の代表者清算人である高橋弁護士が破産管財人に選任された。
平成20年1月中旬,同破産管財人及び古田氏は,被請求人の札幌支店における融雪機メンテナンス事業を譲渡する営業譲渡契約書(丙1)を交わした。
丙第1号証「営業譲渡契約書」第1項には,「ダイワテック株式会社札幌支店(札幌市白石区所在)の営業権を譲渡する。」旨が記載されている。
「営業権の譲渡」とは,会社法467条1項1号の事業譲渡(旧商法245条1項1号における営業譲渡)に相当するものであり,その解釈については,「一定の営業目的のため組織化され,有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む。)の全部または重要な一部を譲渡し,これによって,譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ,譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に同法25条に定める競業避止義務を負う結果を伴うもの」(最大判昭和40年9月22日民集19巻6号1600頁)と判示されている。
「営業譲渡契約書」第1項に記載の「ダイワテック株式会社札幌支店」においては,本件商標を使用して融雪機「モンスター」の販売及びメンテナンス事業が行われていたのであり,本件商標権は,同事業を行うにあたって必要な財産であるから,「ダイワテック株式会社札幌支店の営業権」には,当然に本件商標権が含まれるというべきである。なお,同破産管財人と古田氏が本件商標権の存在を把握していなかったため,本件商標権の移転登録手続は行われなかったが,本件商標権については,本来は,古田氏に対して移転登録が行われるべきものであるから,古田氏は被請求人代表者代表清算人に対し平成27年3月12日付で本件商標権に係る商標権移転登録手続請求訴訟を提起している(丙18)。
以上のとおり,「営業譲渡契約書」により,古田氏は,同破産管財人から,実質的に本件商標権の譲渡を受けていたといえる。同破産管財人による「営業権の譲渡の意思表示(本件商標権の譲渡の意思表示も包含する。)」は,本件商標権の帰属を移転させることの意思表示であり,それによって,本件商標権に基づくあらゆる利益・権利を移転させることを意図するものである。この意思表示には,当然のことながら,本件商標を使用することの許諾(第三者への再許諾権限も含む。)も包含されている。
したがって,古田氏は,「営業譲渡契約書」により,本件商標を使用する権限(第三者への再許諾権限も含む。)を有していた。そして,古田氏は,平成20年1月下旬に,参加人に対して,本件商標の使用を再許諾した。
以上より,参加人は,平成20年1月下旬に同破産管財人が古田氏に対して「営業譲渡契約書」に基づいて行った本件商標の使用の許諾(第三者への再許諾権限を含む。)及び平成20年1月下旬に古田氏が参加人に対して行った本件商標の使用の再許諾に基づいて,本件商標権に係る通常使用権を有していた。
したがって,参加人に係る使用の証拠は,本件商標の使用を第三者に許諾する権限を有する古田氏から使用の許諾を受けた通常使用権者の使用の証拠といえる。
ウ タイカ旭川に対する本件商標の使用の許諾について
タイカ旭川は,平成7年5月にダイワテック旭川として設立され,平成9年10月に組織変更されたものである(丙19の1及びの2)。
タイカ旭川は,平成9年10月の組織変更にあたり,当時の被請求人の代表者であった加茂氏より,本件商標の使用の許諾を受け(丙16,丙21),使用権者として,現在に至るまで本件商標を商品「融雪機」に使用している。
「全自動パワー融雪機モンスターミニエース」カタログ(丙4)の頒布状況は丙第20号証のとおりである。
4 上申書(平成27年7月21日付け)
(1)商標の使用許諾契約は,要式契約ではないから,契約書が作成されていなくとも,効力には影響しない。本件商標の使用許諾は,古田氏が倒産間近の被請求人の従業員や顧客を救済的に引き受けるという合意とともになされたものであって,その営業に不可欠な本件商標の使用について,許諾料を無償とすることは,何ら不自然ではない。
(2)加茂氏による営業譲渡の意思表示については,そもそも,危機時期になされた法律行為であって,その効力は,破産管財人による否認権が実際に行使されない限り,否定されない。
(3)本件商標は,札幌市を中心とする地域においては,融雪機の販売,メンテナンス事業に関して,周知の商標として,不正競争防止法により一定の権利性を有する商標となっていた。加茂氏又は破産管財人は,本件商標の使用許諾をした。この使用許諾は,タイカ旭川並びに古田氏及び古田氏が許諾した第三者に対して,被請求人は一切の権利行使をしないとの意思表示であり,仮に,加茂氏又は破産管財人が本件商標権の存在を知らなかったとしても,本件商標権の不行使の意思表示をも包含していたといえる。

第5 当審の判断
1 本件について参加人の主張及び同人が提出した証拠によれば,以下のとおりである。
(1)丙第1号証(乙第8号証と同様のもの)は,平成20年1月の「ダイワテック株式会社破産管財人」を「甲」とし,「古田守」を「乙」とする両者の間で作成された「営業譲渡契約書」(写し)であり,「甲は乙に対し,ダイワテック株式会社札幌支店(札幌市白石区所在)の営業権を譲渡する。」,「乙は甲に対し,甲から譲り受けた営業権中,破産会社ダイワテック株式会社の顧客情報に関しては,乙が融雪機のメンテナンスについてのみ利用することとし,その他の目的には,いかなる場合にも使用しないことを誓約する。」等について合意に達した旨を内容とするものである。
(2)丙第3号証は,別掲2のとおり,「パワー融雪機」及び「モンスター」の文字と,図形からなるシール(写し)であり,参加人の主張によれば,融雪機に該シールを直接貼付しているものである。
(3)丙第4号証は,商品カタログであり,その1葉目には,「全自動パワー融雪機」,「モンスター」及び「ミニエース」の各文字が表示され,2葉目には「ご家庭の雪対策には/パワーとスピードのモンスターミニエース」の記載があり,3葉目には,該商品の写真が掲載されている。
そして,4葉目には,「全自動パワー融雪機 モンスターミニエース」の文字の表示とともに,3葉目に掲載されている該商品の写真と同様の写真が掲載され,これには,丙第3号証のシールと同様のシールが貼付されている。
また,「本体価格(消費税込み)」には「702,000円」,「製造・販売・施工・メンテナンスの一貫体制」及び「モンスターサービス株式会社 札幌市白石区川北」の記載がある。
(4)丙第5号証の1は,「モンスターサービス株式会社 札幌市白石区川北」の「契約申込書(正契約書)」(写し)であり,「お名前」及び「ご住所」の欄は黒く塗られているものの,「申込日」には「平成24年4月13日」,「名称」の欄には,「融雪機モンスターミニエース」,「価格」の欄には,「¥650000」の記載がある。そして,「契約事項」には,「第1条 売主モンスターサービス株式会社を甲とし,買主を乙として,上記の通り契約を締結する。」の記載がある。
(5)丙第15号証は,被請求人の「履歴事項全部証明書」であり,その「目的」の項には,「1.除雪,融雪,排雪用機械器具の製造及び販売。・・・6.その他前各号に附帯する一切の業務。」の記載がある。
(6)丙第16号証は,平成27年6月5日付けの加茂芳秋名の「陳述書」であり,同氏は被請求人の代表取締役を努めていたこと,「1 当社及び『図形+モンスター』の商標について」において,「・・・札幌支店は,融雪機『モンスター』の販売及びメンテナンス事業の拠点であった」旨,「3 古田氏に対する本件商標の使用許諾について」において,「・・・平成19年4月頃,古田氏に対して,融雪機のメンテナンス事業を引き継ぐことを承諾し,古田氏が本件商標を使用して事業を行うことを許諾した」,「古田氏が,第三者に対して,本件商標を再許諾することを認める趣旨も含まれていた」旨の記載がある。
(7)丙第17号証は,「モンスターサービス株式会社」の情報であり,「会社設立の年月日」の欄には「平成19年9月14日」,「目的」の欄には「1.融雪機器のメンテナンス業務 2.融雪機器の販売」,「役員に関する事項」の欄には「取締役 古田 守」の記載がある。
2 参加人の主張及び上記によれば,次のとおり判断できる。
(1)使用に係る商品及び使用に係る商標について
ア 参加人は,平成19年9月14に設立された,融雪機器のメンテナンス及びその販売を目的とする会社であって(丙17),本件商標の指定商品に含まれる「融雪機(モンスターミニエース)」に関するパンフレットに,別掲2のとおりからなる商標を表示したものである(丙3及び丙4)。
そして,かかる商品「融雪機(モンスターミニエース)」は,本件審判の請求の登録前3年以内である平成24年4月13日付けで,「契約申込書(正契約書)」が作成され,売買契約が締結されたものと認められる(丙5の1)。
イ 前記商品「融雪機(モンスターミニエース)」に関するパンフレット(丙4)に表示された「図形」は,本件商標の上段の図形部分と外観において同視されるものであり,「モンスター」の文字部分は,本件商標の「モンスター」の文字部分と同一であるから,使用に係る商標が別掲2のとおりの構成態様であるとしても,その要部である図形及び「モンスター」の文字において,本件商標と社会通念上同一のものと認められる。
(2)通常使用権者について
被請求人は,「除雪,融雪,排雪用機械器具の製造及び販売」とこれに附帯する業務(丙15)を行う者であって,その札幌支店は,融雪機「モンスター」の販売及びメンテナンス事業の拠点であったことが認められる。
そして,丙第16号証によれば,被請求人の代表取締役であった加茂氏は,平成19年4月頃,古田氏に対し,融雪機のメンテナンス事業を引き継ぐことを承諾し,本件商標を使用して事業を行うことを許諾したこと,古田氏が,第三者に対して本件商標を再許諾することを認める趣旨も含まれていたこと,そして,古田氏は,平成19年9月14日に参加人を設立し,その代表取締役であること,参加人の目的は,融雪機器のメンテナンス業務,融雪機器の販売であることからすれば,本件商標は,加茂氏からその使用の許諾を受けた古田氏から,融雪機器のメンテナンス業務,融雪機器の販売の事業を行うために設立した参加人に対し,さらにその使用の許諾をしたものと推認される。
また,丙第1号証(乙第8号証)によれば,平成20年1月に,「ダイワテック株式会社破産管財人」から「古田守」に対し,融雪機「モンスター」の販売及びメンテナンス事業の拠点である「ダイワテック株式会社札幌支店」(札幌市白石区所在)の営業権(営業をする権利)を譲渡したものであり,参加人は,該営業権の譲渡に基づいて,上記(1)アのとおり,「融雪機モンスターミニエース」の売買契約を締結したものと認められる。
そうとすれば,参加人は,本件商標の通常使用権者と推認される。
(3)まとめ
上記からすれば,本件商標の通常使用権者は,本件審判の請求の登録前3年以内に,日本国内において,その指定商品である「融雪機」に,本件商標と社会通念上同一と認められる商標を表示して譲渡したものである。
本件の通常使用権者による上記行為は,商標法第2条第3項第2号にいう「商品に標章を付したものを譲渡する行為」に該当するものと認められる。
3 むすび
以上のとおり,被請求人は,本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において,通常使用権者が,その指定商品について,本件商標と社会通念上同一と認められる商標を使用していたことを証明したものと認められる。
したがって,本件商標の登録は,商標法第50条の規定により,取り消すことができない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 別掲1 (本件商標)





別掲2 (使用に係る商標,色彩の詳細は丙第3号証を参照。)





審理終結日 2015-11-11 
結審通知日 2015-11-13 
審決日 2015-12-01 
出願番号 商願平5-14989 
審決分類 T 1 31・ 1- Y (011)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 土井 敬子
特許庁審判官 田中 亨子
中束 としえ
登録日 1996-10-31 
登録番号 商標登録第3206950号(T3206950) 
商標の称呼 モンスター 
代理人 福島 隆 
代理人 佐川 慎悟 
代理人 小林 基子 
代理人 古瀬 康紘 

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