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審決分類 審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) W28
管理番号 1332413 
異議申立番号 異議2017-900039 
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2017-10-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-10 
確定日 2017-09-07 
異議申立件数
事件の表示 登録第5894762号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて,次のとおり決定する。 
結論 登録第5894762号商標の商標登録を取り消す。
理由 第1 本件商標
本件登録第5894762号商標(以下「本件商標」という。)は,「バランスペット」の片仮名を標準文字で表してなり,平成28年2月25日に登録出願,同年7月25日に登録査定,第28類「フィットネス用バランスボールの装飾用動物型カバー」を指定商品として,同年11月11日に設定登録されたものである。

第2 登録異議の申立ての理由
商標異議申立人(以下「申立人」という。)は,本件商標について,商標法第3条第1項柱書に違反し,同法第4条第1項第7号に該当するものであるから,その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第26号証を提出した。
1 申立てに至った経緯
申立人は,「遊技場及び遊園地の経営・受託運営及び経営指導,・・・,日用品雑貨・装飾品・ぬいぐるみ・紙製品・革製品・ビニール製品・食器・装身具等の企画・製作・販売及び輸出入,キャラクターグッズの製作・販売及び輸出,・・・」を業務とする株式会社である(甲2,甲3)。
申立人は,「ばらんすぺっと」という名称の,バランスボールに被せて用いる動物の形状のカバーを製作し,平成28年4月より販売を開始した(甲4)。
そして,販売に先立ち,宣伝のためにテレビ東京のニュース番組「ワールドビジネスサテライト(WBS)」の中の「トレたま」という新商品の紹介コーナーに,平成28年2月23日に出演をした(甲4,甲5)。
申立人は,バランスボールカバーである「ばらんすぺっと」を販売していたところ(甲6),本件商標権者より,本件商標を買い取ることを求める書状が届いた(甲7)。
調べて見たところ,本件商標は,上述の「トレたま」の放送から2日後の平成28年2月25日に登録出願がされていた。
2 商標法第4条第1項第7号該当性について
申立人は,「ばらんすぺっと」という商標(標章)をバランスボールに被せる動物の形状のカバーに使用しているところ,本件商標は,「バランスペット」であって,第28類「フィットネス用バランスボールの装飾用動物型カバー」を指定商品としている(甲4?甲6)。
上記の2つの商標は,称呼が同じであり,同一の造語であり,ひらがなとカタカナの違いを除けば同一の商標といえる。
そして,本件商標の指定商品も,申立人の上記商品が今までにない商品であるにもかかわらず,これと細部まで同一であるといえる。
また,本件商標は,申立人が「ばらんすぺっと」商品を平成28年4月下旬から販売することが,平成28年2月23日のテレビ番組で放映された2日後に,登録出願されている(甲5)。
そして,本件商標権者は,「御社の商品のバランスペットの商標登録を取得しました。・・・私が取得した御社のバランスペットの商標登録を買い取って頂くようご検討ください。」との平成29年1月15日付けの書状を申立人に送付している(甲7)。
以上から,本件商標権者の行為は,申立人の使用する商標(標章)が商標登録されていないことを奇貨として,不正の目的をもって先取り的に同一又は類似の商標を商標登録出願し,商標権を取得し,その商標権を買い取るように迫る行為であり,本件商標は,当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないものと考えられる。
さらに,本件商標権者は,本件商標の他にも5件の登録商標を有し,33件の係属中の商標登録出願を行っている(甲8)。
そのうち,本件商標を含む19件については,登録出願前に,同一又は類似の標章を他人が使用している明確な証拠を申立人は入手しており,それ以外の商標登録・登録出願のほとんども他人が既に使用していることが明らかであって,不正の目的をもって出願したことは明らかと考えられるので,このような事実からも,本件商標の取得には,不正の目的があることが推認される(甲9?甲26)。
以上より,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当する。
3 本件商標が商標法第3条第1項柱書に違反していること
本件商標権者は個人であり,6件の登録商標を有し,33件の係属中の商標登録出願を行っている(甲8)。
本件商標権者の登録商標・商標登録出願に係る指定商品・指定役務は,非常に広範にわたっていて一貫性もなく,本件商標権者とは無関係にこれらの商標を使用している会社が存在しているとともに,「バスによる乗客の輸送」,「鉄道による輸送,電車・列車・旅客車等による乗客の輸送」のように,個人では行うことができない指定役務も含まれている。
このような事実関係から,本件商標権者は,「自己の業務に係る商品又は役務」についてこれらの商標を使用しておらず,将来も使用する予定はないことは明らかである。
以上より,本件商標は,商標法第3条第1項柱書に違反して登録されたものである。

第3 当審における取消理由
当審において,本件商標権者に対して平成29年4月27日付けで通知した取消理由の内容は,要旨以下のとおりである。
本件商標は,上記第1のとおり,「バランスペット」の文字を標準文字で表してなるものであるから,その構成自体に公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがないとしても,本件商標権者による本件指定商品についての本件商標の登録出願は,その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり,商標法の予定する秩序に反するものというべきである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当する。

第4 本件商標権者の意見
上記第3の取消理由に対し,本件商標権者は,要旨以下のとおり意見を述べた。
1 本件商標権者は,若年の頃より発明に関心があり,発明学会及び知的所有権協会の会員であり,本件商標権者及び共同事業者の名義で10数件の特許出願を行うとともに,「サガン・エンタープライズ」の会社を持ち,同社の名称でホームページ(HP)を開設し,種々のアイディア商品をネット販売している。
そのような過程において,商標権の取得が必要不可欠となり,販売する商品の種類は限定せず,売れそうな商品を選択してHPで販売している。
2 本件商標権者は,パンダ形状のバランスボールカバーを「バランスペット」の商標で販売している。
そのいきさつは,本件商標権者は「無条件幸福」の商標でパンダのぬいぐるみ(風水パンダ)を販売しており,このぬいぐるみの他の利用方法を考え,バランスボールカバーがいいと思いつき,同HPで販売することにした。
その商品名を検討しているとき,たまたまテレビ番組でバランスペットが放映された。
良い名称だと思い,念のため商標検索したところ登録されていないことが判明し,この名称を出願したところ,登録になった。
つまり,登録されていないことを奇貨としたのではなく,あくまでテレビ放映がヒントとなって出願したにすぎない。
このような行為は,商標法にてらして違法ではなく,むしろ商標登録しないで宣伝行為のみで商品名をアピールして販売する行為こそ,「商標を保護することにより需要者の利益を保護する」という商標法の目的を逸脱するものである。
3 「本件商標権が平成28年11月11日に設定登録され,12月に商標公報が発行された1月後の平成29年1月15日に,申立人に対し,本件商標の買い取りを求める書面を送付した」と述べられており,この点は事実である。
ただし,買い取らせることを目的として商標登録出願したのではなく,上述のように「バランスペット」の商標権を獲得し,HPで販売しようと企画していた。
しかし,製作資金が足りなくなったので,申立人に本件商標権を譲渡して資金を調達するべく手紙を郵送した。
その交渉過程で申立人から通常使用権を得られないかと考え,商標権侵害であることは表面に出さず,買い取りを申し出た。
そして,その交渉が不成立なら,本件商標権の譲渡はせず,商標権侵害である旨通知し,法的処理に移行しようと考えた。
事実,申立人からの回答はなく,やむを得ず2月20日付けで申立人に商標権侵害である旨通知した。
これとほぼ同時期に,申立人から異議申立された。
4 以上の経過から明らかなように,本件商標の登録出願は,自己のHPでの業務で使用することが目的であり,初めから他者の買い取りを目的としたものではない。
したがって,本件商標権者の行為は純然たる商行為であり,公序良俗に反するものではない。
5 「テレビで紹介された他人の業務に係る商品について,その商品が登録されていないことを奇貨とした商標登録出願を繰り返している」と認定されている。
本件商標権者は,自己のHPで多種の商品を販売しており,今後の販売計画のため,いろいろの商品につき商標をストックしておく必要がある。
すなわち,HPでの販売商品を企画してそれから商標登録出願したのでは間に合わず,商標権のないまま販売することになることを回避するため,予め商標をストックするべく数十件の商標登録出願をしている。
確かに,テレビで紹介された他人の業務に係る商品について類似の商標を登録出願している場合もあるが,テレビ放映からネーミングのヒントを得て商標登録出願することは違法でもなんでもなく,商標の不登録事由にも該当せず,ましてこの行為が公序良俗に反するなどということは商標法にもない。
他人の登録を阻止したいなら,その事業者は,商標登録出願して商標権を獲得すべきであり,それをせずにテレビなどで宣伝行為を行うことは「商標を保護することにより需要者の利益を保護する」という商標法の目的を逸脱し,権利の上に眠る行為といわざるを得ない。
さらにいえば,商標権取消の判断は,個別に商標権ごとに判断すべきであり,他の商標登録出願の妥当性をもって本件商標権の取消理由とすることは承服できない。

第5 当審の判断
1 申立人の主張及びその提出に係る証拠によれば,以下の事実がある。
(1)申立人について
ア 申立人は,「玩具の企画・設計・制作・販売及び輸出入」の業務等を目的とする法人である(甲2,甲3)。
イ 「ばらんすぺっと」のウェブサイトにおいて,「ばらんすぺっと」及び「Balance Pets」(デザイン化して表されている。)と表示した申立人の商品「動物の形をしたバランスボールカバー」は,2016年2月23日に,テレビ東京の番組「WBS:ワールドビジネスサテライト」の一コーナーである「トレたま」にて紹介され,同年3月7日に雑誌「月間トイジャーナル」及び同年4月27日に雑誌「日経MJ」に掲載された旨が記載された(甲4)。
そして,「ワールドビジネスサテライト:テレビ東京」のウェブサイトにおいて,「トレンドたまご」の表示の下,2016年2月23日に,「【トレたま】バランスボールカバー」として,「バランスボールカバー『ばらんすぺっと』」の表示及び商品「バランスボールに被せて用いる動物の形をしたバランスボールカバー」の写真が掲載され,「【商品名】」の項に「ばらんすぺっと」,「【商品の特徴】」の項に「バランスボールを覆うカバー」,「【企業名】」の項に「ハローズ」及び「【発売日】」の項に「4月下旬」等と記載された(甲5)。
ウ 申立人は,「ばらんすぺっと」という名称の,バランスボールに被せて用いる動物の形をしたバランスボールカバーを,2016年(平成28年)4月28日より出荷を開始した(甲4)。
エ 「Yahoo!ショッピング」のウェブサイトにおいて,「ばらんすぺっとのお店 Balance Pets Shop」の表示の下,商品「バランスボールカバー ばらんすペン(ペンギン)」の販売に関する情報が掲載され,その「会社概要」には,「会社名(商号)」の項に「株式会社ハローズ」,「ストア名」の項に「ばらんすぺっと」及び「ストア紹介」の項に「ばらんすぺっと専門店 バランスボールカバーに被せるだけのばらんすぺっとを買えるのは当店だけです。」と記載された(甲6)。
(2)本件商標権者について
ア 本件商標権者が申立人に宛てた平成29年1月15日付けの書面には,「御社の商品のバランスペットの商標登録を取得した」,「私の取得した御社の商品のバランスペットの商標を買い取って欲しい」,「1月31日まで返事を待っている」旨が記載されている(甲7)。
イ 独立行政法人工業所有権情報・研修館に係る「商標出願・登録情報」によれば,「出願人」を本件商標権者名とする商標登録出願は38件表示されている(甲8)。
そして,当該情報において,例えば,(ア)商願2015-112987の商標「風さやか」(第30類 米等,出願日:平成27年11月4日)は,長野県農業試験場が開発し,平成25年3月に品種登録がされたばかりの新しいお米の品種名であり(甲9),(イ)商願2016-30031の商標「ルーレット式おみくじ器」(第7類 自動販売機(ルーレット式おみくじ器百円を入れるとおみくじが出てきてルーレットで星座うらないが出来る),出願日:平成28年3月7日)は,有限会社北多摩製作所が発売中の商品の名称であり,平成28年2月26日にテレビ東京の番組「たけしのニッポンのミカタ!」で紹介されたものであり(甲11),及び(ウ)商願2016-30032の商標「寒シマメ肝醤油漬け」(第29類 食用魚介類(生きているものを除く。),出願日:平成28年3月7日)は,「隠岐ウェブ商店街」のウェブサイトにおいて発売中の商品の名称であり,「全国ご当地どんぶり選手権」2年連続TOP10入りし,2016年(平成28年)3月1日にTBSの番組「所さんのニッポンの出番」で紹介されたもの(甲12)である。
また,(エ)商願2016-11541の商標「トワイライトエクスプレス瑞風」(第12類「鉄道車両並びにその部品及び付属品」,出願日:2016年1月20日)は,JR西日本が2017年春に運行開始を予定し,2015年よりニュースで知らせている列車名であり(甲10),(オ)商願2016-40750の商標「ユニボールシグノ307」(第16類「筆記用具(ボールペン)」,出願日:平成28年3月25日)は,三菱鉛筆株式会社の商品「ボールペン」の名称であって,2016年(平成28年)3月3日にプレスリリースをして5月26日から販売することを公表したものであり(甲13),(カ)商願2016-42527の商標「ちごもち」(第30類「和菓子」,出願日:平成28年4月1日)は,有限会社微笑庵の商品「イチゴを中に入れた羽二重餅」の名称であって,2016年(平成28年)3月にテレビ番組「嵐にしやがれ」で紹介されたものであり(甲14),(キ)商願2016-45179の商標「バスタ新宿」(第39類「バスによる乗客の輸送」,出願日:平成28年4月6日)は,新宿高速バスターミナル株式会社が管理運営を行っているバスターミナルであって,2016(平成28年)年4月4日に開業したものであり(甲15),及び(ク)商願2016-54028の商標「La Malle de Bois(ラ・マル・ド・ボア)」(第39類「鉄道による輪送,電車・列車・旅客車等による乗客の輪送」,出願日:平成28年6月7日)は,JR西日本が,せとうちエリアの広域周遊観光を楽しむ観光列車の名称であって,当該観光列車は,平成28年春より運転を開始したものである(甲18,ほか甲16,甲17,甲19ないし甲26)等,本件商標権者は,他人の業務に係る商標につき,その商標を使用する商品及び役務を指定商品及び指定役務として,多数商標登録出願している。
2 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)商標法第4条第1項第7号の意義について
商標法第4条第1項第7号は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は,商標登録を受けることができないと規定する。ここでいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれかおる商標」には,ア その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合,イ 当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも,指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反する場合,ウ 他の法律によって,当該商標の使用等が禁止されている場合,エ 特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反する場合,オ 当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合,などが含まれるというべきである(知財高裁平成17年(行ケ)第10349号,同18年9月20日判決)。
(2)本件商標と申立人が使用する商標等について
本件商標は,上記第1のとおり,「バランスペット」の片仮名を標準文字で表してなり,その指定商品を第28類「フィットネス用バランスボールの装飾用動物型カバー」とするものである。
他方,申立人が,商品「動物の形をしたバランスボールカバー」に使用する標章は,「ばらんすぺっと」(以下「引用商標」という。)の平仮名である。
そこで検討するに,本件商標と引用商標とは,その構成文字について片仮名と平仮名の表示を異にするにすぎず,つづりを同一にするものであるから,外観において近似し,「バランスペット」の同一の称呼を生じるものであり,観念において異なることのないものである。
よって,両者の外観,称呼及び観念を総合すれば,両商標は,類似するものと認められる。
また,本件商標の指定商品,第28類「フィットネス用バランスボールの装飾用動物型カバー」と,申立人が引用商標を使用する,商品「動物の形をしたバランスボールカバー」(以下「申立人使用商品」という。)とは,いずれもバランスボール用の動物様のカバーであるから,同一の商品と認められる。
(3)本件商標権者による本件商標の登録出願等の経緯について
上記第2のとおり,本件商標権者は,引用商標を表示した申立人使用商品が,2016年(平成28年)2月23日にテレビ東京の番組「ワールドビジネスサテライト」の一コーナーである「トレンドたまご」にて紹介された2日後である同年2月25日に,引用商標とつづりを同一にする本件商標を,申立人使用商品と同一といい得る商品を指定商品として登録出願したこと,本件商標権が同年11月11日に設定登録され,同年12月13日に商標掲載公報が発行された1月後である同29年1月15日に,申立人に対し,申立人使用商品及び引用商標を明記した上で,本件商標権の買い取りを求める書面を送付したことが認められる。
これらの事実を総合すれば,本件商標権者は,テレビ番組において紹介された申立人使用商品について,引用商標が登録されていないことを奇貨として,専ら申立人に買い取らせることを目的として本件商標をその指定商品について商標登録出願し,登録を得たと認められる。
しかも,本件商標権者は,上記1(2)イのとおり,テレビ番組等において紹介された他人の業務に係る商標につき,その商標を使用する商品及び役務について登録されていないことを奇貨とした商標登録出願を繰り返しているといえる。
(4)まとめ
以上よりすると,本件商標は,上記第1のとおり,「バランスペット」の片仮名を標準文字で表してなるものであるから,その構成自体に公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがないとしても,本件商標権者は,申立人使用商品について,引用商標が登録されていないことを奇貨として,専ら申立人に買い取らせることを目的として,引用商標と類似する本件商標を,その指定商品について商標登録出願し,登録を得たと認められるから,本件商標権者による本件指定商品についての本件商標の登録出願は,その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり,商標法の予定する秩序に反するものというべきである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当する。
3 本件商標権者の意見について
(1)本件商標権者は,「無条件幸福」の商標で販売しているパンダのぬいぐるみ(風水パンダ)の他の利用方法を考え,バランスボールカバーがいいと思いつき,同HPで販売することにしたこと,その商品名を検討しているとき,たまたまテレビ番組でバランスペットが放映されたこと,この名称を出願したところ,登録になった旨を述べ,「登録されていないことを奇貨としたのではなく,あくまでテレビ放映がヒントとなって出願したにすぎない。」と主張している。
しかしながら,本件指定商品について使用する本件商標の登録出願が,最先の登録出願であって,本件商標権者がその商標登録出願人であったとしても,上記2に記載したとおり,本件商標権者は,引用商標を表示した申立人使用商品がテレビ東京の番組等で紹介された直後に,これと類似する本件商標の登録出願をし,本件商標権が平成28年11月11日に設定登録された後である同29年1月15日に,申立人に対し,申立人使用商品及び引用商標を明記した上で,本件商標権の買い取りを求める書面を送付した事実がある。
かかる事実からすれば,本件商標権者は,引用商標が登録されていないことを奇貨として専ら申立人に買い取らせることを目的として本件商標をその指定商品について商標登録出願し,登録を得たものと認められるから,商標登録出願について先願主義を採用し,また,現に使用していることを要件としていない我が国の法制度を前提としても,健全な法感情に照らし条理上許されないというべきであり,また,商標法の目的(商標法第1条)にも反し,公正な商標秩序を乱すものというべきである。
したがって,本件商標権者の主張は,採用できない。
(2)本件商標権者は,「本件商標権者は,自己のHPで多種の商品を販売しており,今後の販売計画のため,いろいろの商品につき商標をストックしておく必要がある。・・・予め商標をストックするべく数十件の商標登録出願をしている。確かに,テレビで紹介された他人の業務に係る商品について類似の商標を登録出願している場合もあるが,テレビ放映からネーミングのヒントを得て商標登録出願することは違法ではない。」旨主張している。
申立人が提出した甲第9号証ないし甲第26号証によれば,上記1(2)イに記載のとおり,本件商標権者は,他人の業務に係る商標につき,その商標を使用する商品及び役務を指定商品及び指定役務として,多数登録出願している事実があり,これらの商標登録出願は,全て,すでに販売等されているもの,ウェブサイトに掲載等されているもの,テレビ番組で紹介されたもの,及びニュースにより知らせているもの等であって,本件商標権者を含め,一般に知り得る状態にあったものである。
しかも,これらの指定商品及び指定役務には,第12類「鉄道車両並びにその部品及び付属品」,第39類「バスによる乗客の輸送,鉄道による輪送,電車・列車・旅客車等による乗客の輪送」等のように,本件商標権者個人が行う業務とは,到底いい得ない商品及び役務が含まれる。
そうすると,本件商標権者による多岐にわたる商標登録出願は,一般に知り得る状態にあった他人の業務に係る商品及び役務について,その他人の使用する商標と同一の商標を,その他人の商品及び役務と同一の商品及び役務を指定商品及び指定役務としたものであるから,「テレビ放映からネーミングのヒントを得て商標登録出願した」ものということができない。
さらに,本件商標権者による商標登録出願には,本件商標権者個人が行う業務とは,到底いい得ない商品及び役務が含まれているから,当該商標登録出願は,他人の使用する商標が登録されていないことを奇貨として,専ら当該他人に買い取らせること等を目的にしたものと推認される。
したがって,本件商標権者の上記主張は,その信用性に疑義があるといわざるを得ない。
4 むすび
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第7号に違反してされたものと認められるから,商標法第43条の3第2項の規定により,取り消すべきものである。
よって,結論のとおり決定する。
異議決定日 2017-07-28 
出願番号 商願2016-26077(T2016-26077) 
審決分類 T 1 651・ 22- Z (W28)
最終処分 取消  
前審関与審査官 山田 啓之 
特許庁審判長 早川 文宏
特許庁審判官 田中 亨子
平澤 芳行
登録日 2016-11-11 
登録番号 商標登録第5894762号(T5894762) 
権利者 佐藤 忍
商標の称呼 バランスペット、バランス 
代理人 特許業務法人前田特許事務所 

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