• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 判定 その他 属さない(申立て不成立) Z42
管理番号 1331501 
判定請求番号 判定2017-600010 
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標判定公報 
発行日 2017-09-29 
種別 判定 
判定請求日 2017-01-26 
確定日 2017-08-03 
事件の表示 上記当事者間の登録第4377287号商標の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 役務「飲食物の提供」に使用するイ号標章は、登録第4377287号商標の商標権の効力の範囲に属しない。
理由 第1 本件商標
本件登録第4377287号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおり、「本店鉄なべ」(「鉄」の文字は金偏に矢。以下同じ。)の文字を書してなり、平成9年7月18日に登録出願、第42類「飲食物の提供」を指定役務として、同12年4月21日に設定登録、その後、同22年2月23日に商標権の存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。

第2 イ号標章
請求人が判定を請求するイ号標章は、役務「飲食物の提供」に使用する標章であって、「鉄なべ」(以下「イ号標章」という。)の文字を横書きしてなるものである。

第3 請求人の主張
請求人は、役務「飲食物の提供」に使用するイ号標章は、本件商標の商標権の効力の範囲に属する、との判定を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第5号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 判定請求の必要性
請求人は、本件請求にかかる本件商標の商標権者であるが、被請求人が3店舗(小倉鉄なべ総本店、小倉鉄なべ魚町店、小倉鉄なベエキナカ店)で、役務「飲食物の提供」についてイ号標章「鉄なべ」を使用している事実を確認した(甲1)。
そこで、請求人は、役務「飲食物の提供」におけるイ号標章の使用について、平成28年10月7日、被請求人である株式会社嬉藏コミュニケーションズ(以下「嬉藏コミュニケーションズ社」という。)に対し、通告書を発した(甲2)。この通告書に対する被請求人からの回答書により、店舗「小倉鉄なべ総本店、小倉鉄なべ魚町店、小倉鉄なベエキナカ店」を営業しているのは株式会社嬉藏(以下「嬉藏社」という。)であるという指摘があり、被請求人が回答書において、通告書における要求は株式会社嬉藏に対する要求であることを前提として回答する旨を述べているため、嬉藏社と嬉藏コミュニケーションズ社を被請求人(以下、2社を「被請求人」とする。)として本件判定を請求した。
通告書において、請求人は、1)イ号標章が本件商標と類似していること、2)請求人の店舗と被請求人の店舗が共に北九州市内にあり、さらにテレビ番組において両店舗が共に紹介されたことによって、需要者の間で両店舗の出所の混同を生じたこと、3)両店舗の餃子の味が異なり苦情があることを述べ、役務「飲食物の提供」におけるイ号標章の使用を直ちに中止することを要求した。
その後、被請求人は、回答書において、1)「鉄なべ」自体には識別力が存在せず、本件商標は全体で識別力が存在するため、イ号標章は本件商標と同一又は類似ではない、2)需要者において現に出所の誤認混同が生じている事実はない、と述べている。
そこで、本件商標の商標権の効力の範囲について、本件判定を求めるものである。
2 イ号標章の説明
嬉藏社は、主として餃子料理を提供する飲食店を経営しており、「鉄なべ」の文字からなるイ号標章を付して、福岡県北九州市小倉北区内の3店舗(小倉鉄なべ総本店、小倉鉄なべ魚町店、小倉鉄なベエキナカ店)において、役務「飲食物の提供」を行っている。
請求人は、昭和33年より、福岡県北九州市八幡西区折尾にて、餃子料理を中心とする飲食店「鉄なべ」を創業し、役務「飲食物の提供」について標章「鉄なべ」の使用を開始した。請求人は昭和58年に店舗を福岡県北九州市八幡西区黒崎1丁目9-13に移転し、遅くとも平成12年頃より、役務「飲食物の提供」について、本件商標の使用を開始し、その後も継続して使用して現在に至っている。現在では、請求人が代表取締役を務める株式会社温(はる)が、店舗を営業している(甲3)。そして、本件商標は、請求人が永年使用した結果、遅くとも被請求人に対し前記通告を発した平成28年10月7日までには、福岡県北九州市において、請求人の業務にかかる役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されるに至ったものである。
3 イ号標章が商標権の効力の範囲に属するとの説明
(1)類似について
本件商標は、「本店鉄なべ」の文字よりなり、「ホンテンテツナベ」で一体として並んではいるが、「鉄なべ」の文字より「テツナベ」の称呼及び「鉄製の鍋」の観念を生じることは疑いがない。
一方、イ号標章は、「鉄なべ」の文字よりなり、「テツナベ」の称呼及び「鉄製の鍋」の観念を生ずる。
したがって、本件商標とイ号標章とは、本件商標に「本店」の文字がある部分及び「鉄」の文字部分においては異なるが、「テツナベ」の称呼及び「鉄製の鍋」の観念を共通にし、役務の出所について混同を生じさせていることも事実であり、類似の標章というべきである。
そして、本件商標にかかる指定役務「飲食物の提供」とイ号標章の使用役務「飲食物の提供」とは、同一の役務である。
(2)類似に関する回答書への反論
被請求人は、回答書において、「鉄なべ」自体には識別力が存在せず、本件商標は、「本店鉄なべ」全体で識別力が存在するため、イ号標章は、本件商標と類似ではない旨を述べている。
まず、被請求人は、「鉄鍋」、「鉄なべ」は、「鉄製の鍋」や、「鉄製の鍋を用いた鍋料理」を表象する普通名詞であり、「鉄鍋」、「鉄なべ」自体に商品識別力が存しない旨を述べている。
しかし、国語辞書において、「鉄鍋」、「鉄なべ」の項目はなく、「鉄鍋」、「鉄なべ」は辞書に載っている普通名称ではない。また、仮に「鉄鍋」、「鉄なべ」から「鉄製の鍋」を想起したとしても、「鍋料理」については、「ふぐ鍋」、「鳥鍋」、「もつ鍋」、「豆乳なべ」のように、具体的な料理名や材料名を挙げて呼ぶことが多いため、「鉄鍋」、「鉄なべ」から「鉄製の鍋を用いた鍋料理」を想起することはない。
したがって、イ号標章には、識別力があるといえる。
なお、イ号標章が、商標法第26条第1項第3号に示される、商標権の効力が及ばない商標であるか否かについて検討する。
被請求人の店舗が餃子料理を主に提供し、餃子料理を作る際に「鉄製の鍋」を使用している事実を考慮しても、餃子を作る鍋を直ちに想起するものではない。さらに、使用役務との関係において、「鉄なべ」のように「なべ」のみひらがなで書す特別の事情は考えられず、漢字及びひらがなで構成される「鉄なべ」は、特別な構成で表示されているといえ、普通に用いられる方法で表示されているとはいえない。
したがって、イ号標章は、商標法第26条第1項第3号に示される、商標権の効力が及ばない商標ではない。
次に、被請求人は、指定商品を「餃子」として、「鉄鍋(鉄なべ)」を含む複数の商標登録がなされ、「鉄鍋」、「鉄なべ」を含む標章にて餃子料理を提供している飲食店舗も多数存する旨を述べている。
しかし、指定商品「餃子」において、「鉄鍋(鉄なべ)」を含む複数の商標登録がなされていることと、役務「飲食物の提供」は何ら関係がない。また、本件商標の出願時(平成9年7月18日)及び登録査定時(平成12年2月16日)に、餃子を作るのに「鉄製の鍋」が一般的に使用されていた事実はない。現在、「鉄鍋」や「鉄なべ」の文字を使用する飲食店は複数あるとしても、「鉄鍋」や「鉄なべ」が普通名称化しているわけではない。
さらに、被請求人は、本件商標は、あくまでも標章全体として識別力が存するものにすぎない旨を述べているが、複数の店舗や派生店を有している飲食店の本拠となる店が「本店」の文字を使用することは一般的であり、本件商標の要部は「鉄なべ」の文字といえる。
後に詳述するが、請求人の店舗と被請求人の店舗の混同が実際に生じているのは、飲食店の需要者は店舗名を正確に認識することなく、印象に残る部分のみを用いるのが通常であり、本件の場合、需要者が本件商標の要部を「鉄なべ」と認識しているからである。
また、被請求人は、イ号標章は、本件商標に特徴的である「鉄(金偏に矢)」という文字の点でも共通するものでない旨を述べている。
確かに、本件商標は「鉄(金偏に矢)」の文字を使用し、イ号標章は「鉄」の文字を使用しており、厳密には文字が異なっているが、どちらも一見して「鉄」を示す漢字だとわかるため、需要者が「鉄」の文字の微細な差異に着目して両店の区別をつけるとは考えにくい。
さらに、「鉄」の文字が「金を失う」につながり縁起が悪いとして、「鉄」の文字を示す際に「鉄(金偏に矢)」の文字を代用することは多く行われていることであり、とりわけ鉄道会社といった日常生活に密接に関連する企業の社名において「鉄(金偏に矢)」の文字が使用されていることから、「鉄」の文字を「鉄(金偏に矢)」で示していても、特に印象に残るものではない。
したがって、イ号標章には識別力が存在し、本件商標において識別力が強いのは「鉄なべ」の文字部分であり、「鉄」と「鉄(金偏に矢)」の文字の差異は類似を覆すほどの差異ではないため、イ号標章は、本件商標と類似であると考えられる。
(3)出所の混同について回答書への反論
被請求人は、回答書において、需要者において現に出所の誤認混同が生じている事実はない、と回答している。
しかし、本件商標が使用される地域とイ号標章が使用される地域は同じ北九州市内であること、請求人の店舗も被請求人の店舗も餃子料理が中心であることから、需要者の間で出所の混同が生じている。特に、需要者からの疑問の最たるものは、「味が違うのになぜ同じ名前の店舗なのか」、というものである。また、被請求人の店舗と請求人の店舗が同系列の店舗と誤認した需要者が、請求人の店舗に対しメニューの問合せをしたことにより、異なる店舗だと気付いた、という例もあった。また、被請求人の店舗に「小倉鉄なべ総本店」があり、この店舗が「鉄なべ」の文字を使用する店舗の本店であると誤認されることもある。
こうした中、テレビ番組「カミングアウトバラエティ!! 秘密のケンミンSHOW」の2016年7月28日放送の回において、請求人店舗と被請求人店舗が共に紹介されたこと(甲4)によって、需要者間の出所の混同及び需要者からの疑問が増加した。
実際に、需要者からの出所の混同が生じた例として、飲食店情報サイトの利用者コメント(甲5)を挙げる。飲食店情報サイト「Retty」においては、黒崎にある請求人の店舗のレビューとして、「小倉地区でブイブイ言わしてる餃子屋さん。」という投稿があり、投稿者は小倉地区にある被請求人の店舗と請求人の店舗が関連するものと誤認している。また、同サイトにおいて、黒崎にある請求人の店舗のレビューに対する投稿として、「(前略)小倉店がイマイチだったので最初は気にならなかったけど本店の方が美味しいってよく聞くから気になって(後略)」という投稿があり、投稿者は、小倉地区にある被請求人の店舗が、請求人の店舗の1支店であると誤認している。
したがって、こうした投稿におけるコメントからも、需要者において現に出所の誤認混同が生じている事実がある。しかも、こうした投稿は情報サイトにおいて会員登録等の一定の手続を行わなければ投稿できないことが多く、実際に出所を混同している需要者はさらに多いと考えられる。
このように、需要者において実際に出所の誤認混同が生じており、こうした出所の誤認混同は、請求人の信用を毀損し、需要者の利益を損なうものと考えられる。
(4)まとめ
(1)に示すとおり、イ号標章は本件商標と類似する標章であり、イ号標章の使用役務と本件商標の指定役務も類似する役務であるから、被請求人が役務「飲食物の提供」に使用するイ号標章は、本件商標の商標権の効力の範囲に属するものである。
また、(2)及び(3)に示すとおり、被請求人からの回答書における主張は失当である。
さらに、被請求人の役務「飲食物の提供」におけるイ号標章の使用は、需要者間に出所の混同を生じさせ、請求人の信用を毀損し需要者の利益を損なうものと考えられる。
以上の理由から、需要者及び請求人の利益を保護するために、被請求人が役務「飲食物の提供」について使用するイ号標章は、商標法第25条で規定する本件商標登録の商標権の効力の範囲に属し、商標法第26条で規定する商標権の効力が及ばない商標ではなく、さらに、被請求人による役務「飲食物の提供」についてイ号標章を使用する行為は、商標法第37条で規定する本件商標登録の商標権を侵害する行為である、とする本件判定を求めるものである。

第4 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の判定を求める、と答弁し、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第12号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 答弁の理由
(1)本件商標とイ号標章の類否について
ア 請求人の主張
請求人は、判定請求書にて、「本件商標は、『本店鉄なべ』の文字よりなり、『ホンテンテツナベ』で一体として並んではいるが、『鉄なべ』の文字より『テツナベ』の称呼及び『鉄製の鍋』の観念を生ずる。一方、イ号標章は、『鉄なべ』の文字よりなり、『テツナベ』の称呼及び『鉄製の鍋』の観念を生ずる。したがって、本件商標とイ号商標とは、『テツナベ』の称呼及び観念を共通し、役務の出所について混同を生じさせている。」と主張する。
さらに、「『鉄鍋』、『鉄なべ』から『鉄製の鍋を用いた鍋料理』を想起することはない。とした上で、イ号標章『鉄なべ』には識別力が存在し、本件商標において識別力が強いのは『鉄なべ』の文字部分であり、『鉄(金偏に矢)』と『鉄』の文字の差異は類似を覆すほどの差異ではないため、イ号標章は本件商標と類似であると考えられる。」と主張する。
イ 商標登録例について
商標に「鉄なべ」または「鉄鍋」の文字を含み、「飲食物の提供」を指定役務として、現在も権利が有効に存続している登録商標は、以下のとおりである。
・登録第3163080号商標「餃子・鉄なべ」(乙1)
・登録第4371289号商標「鉄鍋棒餃子」(乙2)
・登録第4898651号商標「博多鉄なべ餃子\なかよし本舗」(乙3)
・登録第4994725号商標「泉州ちり鉄鍋\まかない包丁」(乙4)
・登録第5274596号商標「博多居酒屋\鍋・串焼・鉄鍋餃子\おいっさ!」(乙5)
・登録第5564241号商標「鉄鍋焼きちゃんぽん」(乙6の1・2)
・登録第5693065号商標「鉄鍋餃子\博多\博多串焼\よかちゃん」(乙7の1・2)
上記登録商標は、いずれも、異なる権利者によって出願、登録されたものであるが、このように、「鉄なべ」、「鉄鍋」の文字を含む複数の商標が「飲食物の提供」と同一または類似の指定役務の範囲にて登録されている。このうち、商標の要部と認識される文字部分が「鉄なべ」、「鉄鍋」と「料理名」との結合からなる「餃子・鉄なべ」、「鉄鍋棒餃子」及び「鉄鍋焼きちゃんぽん」(該3商標をまとめて、以下「参考商標」という。)については、仮に、「鉄なべ」、「鉄鍋」が識別力を有する文字である場合、類似する商標として併存した登録が認められないものであるが、非類似であるとの判断がなされた。これは、審査において、以下のいずれかの判断がなされたものと推察される。
(ア)「鉄なべ」、「鉄鍋」の文字は特段の識別力を有しておらず、参考商標はいずれも、「鉄なべ」、「鉄鍋」と「料理名」とが結合した一体的な語として識別力を獲得した。
(イ)「鉄なべ」と「鉄鍋」の文字、及びこれと「料理名」とを結合してなる文字は、いずれも識別力を有するものではなく、参考商標は、「餃子・鉄なべ」、「鉄鍋棒餃子」、「鉄鍋焼きちゃんぽん」以外の文字や図形部分、または、商標全体からなるデザインを特徴として識別力を獲得したものである。
請求人は、「鉄なべ」には識別力が存在すると主張している。しかしながら、これらの登録例に鑑みると、飲食物の提供について使用する「鉄鍋」、「鉄なべ」の文字は識別力を有するものではないとみるのが妥当と考える。
(2)飲食業界における「鉄なべ」の使用状況について
さらに、請求人は、「鉄鍋」、「鉄なべ」から「鉄製の鍋を用いた鍋料理」を想起するものではないと主張している。しかしながら、「鉄なべ」の文字から「鉄製の鍋」の観念が容易に想起されるところ、これを飲食物の提供の役務に使用した場合、「鉄製の鍋を用いた料理」が認識されるとみるのが自然である。
そして、請求人と被請求人とが飲食店の店舗を営んでいる北九州市を含む福岡地方においては、「鉄製の鍋に敷き詰めた焼き餃子」の名称として「鉄なべ餃子」が、地場に根付いた料理である所謂ご当地グルメとして定着しており、請求人及び被請求人のほかにも、「鉄なべ」を冠した飲食店が多数存在する(乙8の1?3)。
さらに、「鉄なべ餃子」は、判定請求書に記載のテレビ番組「カミングアウトバラエティ!! 秘密のケンミンSHOW」のほか、ウェブサイト「Smart Acces」のB級グルメ特集(乙9の1・2)や、国内最大手の観光情報を提供するウェブサイト「じゃらん」の「福岡のご当地グルメページ」(乙10の1・2)といった複数メディアで、福岡のご当地グルメとして紹介されている。また、大阪や東京においても、「博多鉄なべ餃子」を冠した飲食店が展開されている(乙11の1?3)。
このような実情においては、飲食店の名称に使用される「鉄なべ」は、これを見た需要者等が「鉄製の鍋を用いた料理」程を認識するものであって、ことさら福岡地方においては「鉄なべ餃子」が想起されるとみるのが自然である。
(3)小括
以上によれば、飲食物の提供について使用する「鉄なべ」は識別力を有する文字ではなく、イ号標章「鉄なべ」からは自他役務の出所識別標識としての称呼および観念は生じず、本件商標との類否判断の対象となるべき部分は存しない。
よって、本件商標とイ号標章とは類似するとはいえない。
なお、「鉄なべ」の文字に識別力がない以上、「鉄なべ」を冠した飲食店において、これに接する需要者等は、「鉄なべ」とその他の文字や図形が結合された標章全体や、看板等のデザイン、所在地等をみて区別するものである。よって、「鉄なべ」の文字自体からは役務の出所について誤認混同が生じるものではない。
これに関し、請求人は、需要者によって混同が生じた例として飲食店情報サイトのレビュー投稿を挙げている。
しかしながら、これらのレビューは、実際に請求人および被請求人の店舗に行った者が両店を誤認したといった内容ではなく、一方の店舗に通じた者が「鉄なべ」の文字から飲食店情報サイト上において混同したものと考えられ、これは、例えば「博多ラーメン」や「宇都宮ぎょうざ」の文字から、これを冠した他店と混同したものと同様の性質のものと考えられる。
なお、誤認が生じるか否かの判断は、需要者によって普通に払われる注意力を基準として決せられるべきものである(東京高裁・昭和29年(行ナ)第2号、昭和29年5月31日言渡、行裁例集5巻5号1091頁)。
そして、上記(2)の実情にしてみれば、需要者が飲食店を区別する際、単に「鉄なべ」の文字のみではなく、上記のとおり、「鉄なべ」とその他の文字や図形が結合された標章全体や、看板等のデザイン、所在地等によって区別するのが「普通に払われる注意力」とみるのが相当である。
(4)平成11年審判第12194号拒絶査定不服審判との主張の相違について
判定請求書において、請求人は、「本件商標は、『ホンテンテツナベ』で一体として並んではいるが、『鉄なべ」の文字より『テツナベ』の称呼及び『鉄製の鍋』の観念を生ずる。そして、本件商標において識別力が強いのは『鉄なべ』の文字部分である。また、イ号標章『鉄なべ』には識別力が存在し、『テツナベ』の称呼及び『鉄製の鍋』の観念を生ずる。よって両語は類似する」と主張している。
ところが、請求人は、本件商標「本店鉄なべ」の商標登録に至る前、拒絶査定不服審判を請求しており(平成11年審判第12194号)、その審判請求書及び理由補充書において、以下のとおり主張している。
すなわち、判定請求に係る本件商標と同一の出願商標「本店鉄なべ」と引用商標「餃子・鉄なべ」(商標登録第3163080号)との対比において、「引用の指定役務は『餃子の提供』であるから、『餃子』の部分は指定役務にかかる商品を示すものと考えられ、この部分を除くと『鉄なべ』のみが残り、本願商標の『本店鉄なべ』との類似性が問題となる。」とした上で、「『本店』や『本家』には格が違うというような特別の概念が存在し、それを使用することは他店との明確な差別化になり、完全に独立した別の店として認識される。また、仮に商標『A』を誰かが出願し、商標権が確定している場合に、『元祖』、『本店』、『本家』をつけたその他の商標が権利を取得できないだけでなく、『元祖A』、『本店A』、『本家A』の商標を使用することが商標権の侵害になる、というのは著しく社会通念に反する。」と主張している(乙12の1?8)。その結果、出願に係る本件商標が商標登録されるに至っている。
かかる主張は、「鉄なべ」の登録商標に対して「本店鉄なべ」の使用が商標権の侵害になるというのは著しく社会通念に反する、との主張であることに相違なく、つまりは「鉄なべ」と「本店鉄なべ」とは非類似であるとの主張に他ならない。
よって、請求人の判定請求書における主張は、当該審判における主張と相反するものであり、禁反言の法理に反したものといわざるを得ず看過されるものではない。
(5)まとめ
以上より、イ号標章と本件商標とは類似するものではなく、イ号標章は、本件商標の商標権の効力の範囲に属するものではない。
よって、被請求人がイ号標章を使用する行為は、商標法第37条で規定する商標権の侵害には該当しないものである。

第6 当審の判断
1 商標権の効力の範囲について
本件判定は、イ号標章が被請求人の所有に係る本件商標の商標権の効力の範囲に属するものか否かについての判定を求めるものである。
そもそも商標権の効力は、商標権の本来的な効力である専用権(使用権)にとどまらず、禁止的効力(禁止権)をも含むものであって、指定役務と同一又は類似の役務についての登録商標と同一又は類似の商標の使用に及ぶものであるが(商標法第25条第37条)、同時に同法第26条第1項各号のいずれかに該当する商標(他の商標の一部となっているものを含む。)には、その効力は及ばないものとされている。
そして、例えば、同法第26条第1項第3号には、「当該指定役務若しくはこれに類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、・・・を普通に用いられる方法で表示する商標」と規定されているところ、イ号標章が同号に該当するか否かについて、以下検討する。
2 「鉄なべ」の文字について
「鉄なべ」の文字は、その構成中の「鉄」の文字が、「金属元素の一種。実用の鉄は少量の炭素を含み、その含量によって鋳鉄から鋼に至るさまざまな特性を発揮する。」の意味を、「なべ」の文字が、「食物を煮たりいためたりする器。金属製または石製・陶製で、底が比較的浅く口が開き、蓋・把手・つるなどを付ける。鍋料理。鍋物。」(いずれも「広辞苑第6版」株式会社岩波書店)の意味をそれぞれ有するものであり、両文字は、広く一般によく知られ、親しまれているものである。
そうすると、「鉄」と「なべ」の文字からなる「鉄なべ」の文字からは、「鉄製の鍋(鉄でできた鍋)」程の意味合いが容易に理解されるものである。
そして、被請求人の提出した証拠においては、以下のとおり、「鉄なべ」の文字が、飲食物の提供における「餃子」について、使用されている事実が認められるものである。
<ウェブページにおける「鉄なべ」の文字の使用についての事実>
(1)「博多祇園鉄なべ」のウェブページ(乙8の1)においては、「鉄なべで楽しむ愛情たっぷり餃子」の記載のほか、赤色の暖簾の図形の中に白抜き文字で、「鉄なべ」の文字が表示されている。また、中程には、鉄製の鍋の中に餃子が載っている写真が掲載されている。
(2)「ホットペッパーグルメ」のウェブサイトに掲載された「鉄なべ餃子のもり家」のウェブページ(乙8の3)においては、鉄製の鍋に餃子が載っている写真が掲載されており、その下に、「餃子の常識を覆す!!これが噂の【鉄なべ餃子】!!店主拘りの逸品が多数ある絶品居酒屋」の記載がある。
(3)「Smart Access」のウェブページ(乙9)においては、「B級グルメ特集」のタイトルのもと、「【福岡】福岡鉄なべ餃子」の項には、鉄製の鍋に餃子が載っている写真が掲載されており、その横に、「『福岡鉄なべ餃子』は、熱々の鉄なべで出される、一口サイズの名物餃子。」の記載がある。
そして、「福岡鉄なべ餃子が名物のお店一覧」として、「ぶ厚い鉄なべ餃子!皮も具も厳選食材/博多餃子遊心」、「材料から焼きまで手作りにこだわる店/鉄なべ荒江本店」、「夫婦で毎日、皮も具も手作り!鉄なべ餃子/博多祇園鉄なべ」、「ひと口餃子の鉄なべ!手作りの旨さ/鉄なべ中洲本店」、「ひと口餃子の鉄なべ!手作りの旨さ/鉄なべであい橋店」についての店舗情報の記載がある。
ところで、上記したウェブページにおける「鉄なべ」の文字の使用についての事実によれば、飲食物の提供における「餃子」について、一種の餃子の提供形態として、鉄なべに載せて提供される餃子があり、これを「鉄なべ餃子」と称して提供されている実情が認められるものである。
そして、ウェブページにおいて使用されている「鉄なべ」の文字は、上記による「餃子の提供」との関係においては、餃子の提供のために用いられる「鉄製の鍋」を理解させるものということができる。
加えて、職権による調査によれば、飲食業界においては、「鉄なべ」を利用した飲食物の提供を行う店舗は普通に存在するものであり、また、ウェブページにおいては、「鉄なべ」を利用した料理のレシピが多数紹介されているものである。
してみれば、「鉄なべ」の文字は、役務「飲食物の提供」に使用する場合には、鍋の一種を表したものとして、需要者に「飲食物の提供に用いられる鉄製の鍋」の意味合いを容易に理解させるものであって、「役務の提供の用に供する物」を表示するものであるというべきである。
3 イ号標章について
イ号標章は、前記第2に記載のとおり、「鉄なべ」の文字を横書きしてなるものであり、その文字の態様も、その書体に特徴を有するものではないので、普通に用いられる方法で表示してなるものである。
そして、上記2のとおり、「鉄なべ」の文字は、需要者に「飲食物の提供に用いられる鉄製の鍋」の意味合いを容易に理解させるものである。
そうすると、イ号標章は、これを「飲食物の提供」に使用する場合は、「役務の提供の用に供する物」を普通に用いられる方法で表示するものであるから、商標法第26条第1項第3号に該当するものである。
4 被請求人の主張について
(1)請求人は、「国語辞書において、『鉄鍋』・『鉄なべ』の項目はなく、『鉄鍋』、『鉄なべ』は辞書に載っている普通名称ではない。また、仮に『鉄鍋』、『鉄なべ』から『鉄製の鍋』を想起したとしても、『鍋料理』については、『ふぐ鍋』、『鳥鍋』、『もつ鍋』、『豆乳なべ』のように、具体的な料理名や材料名を挙げて呼ぶことが多いため、『鉄鍋』、『鉄なべ』から『鉄製の鍋を用いた鍋料理』を想起することはない。したがって、イ号標章には識別力があるといえる。」旨を主張している。
しかしながら、「鉄なべ」の文字は、辞書に載っている普通名称ではないとしても、上記2のとおり、「鉄製の鍋(鉄でできた鍋)」程の意味合いとして理解されるものである。そして、例えば、「餃子の提供」との関係においては、一種の餃子の提供形態として、鉄なべに載せて提供される餃子があることからすれば、「鉄なべ」の文字は、食べ物の提供のために用いられる「鉄製の鍋」を理解させるものというのが相当である。
してみれば、「鉄なべ」の文字は、役務「飲食物の提供」に使用する場合は、「役務の提供の用に供する物」を普通に用いられる方法で表示するものとして、自他役務の識別標識として機能しないものというべきである。
(2)請求人は、「被請求人の店舗が餃子料理を主に提供し、餃子料理を作る際に『鉄製の鍋』を使用している事実を考慮しても、餃子を作る鍋を直ちに想起するものではない。さらに、使用役務との関係において、『鉄なべ』のように『なべ』のみひらがなで書す特別の事情は考えられず、漢字及びひらがなで構成される『鉄なべ』は、特別な構成で表示されているといえ、普通に用いられる方法で表示されているとはいえない。したがって、イ号標章は、商標法第26条第1項第3号に示される、商標権の効力が及ばない商標ではない。」旨を主張している。
しかしながら、「鉄なべ」の文字において、「なべ」が平仮名であるとしても、漢字と平仮名の置き換えは普通であって、ことさら特別な構成というほどのものではない上、これよりは、「鉄製の鍋(鉄でできた鍋)」程の意味合いが容易に理解されるものであるから、これを「飲食物の提供」に使用する場合は、「飲食物の提供に用いられる鉄製の鍋」の意味合いが需要者に認識されるものというのが相当である。
したがって、「鉄なべ」の文字は、役務「飲食物の提供」に使用する場合は、「役務の提供の用に供する物」を普通に用いられる方法で表示するものであるから、商標法第26条第1項第3号に該当するものである。
(3)請求人は、「被請求人は、本件商標は、あくまでも標章全体として識別力が存するものにすぎない旨を述べているが、複数の店舗や派生店を有している飲食店の本拠となる店が『本店』の文字を使用することは一般的であり、本件商標の要部は『鉄なべ』の文字といえる。後に詳述するが、請求人の店舗と被請求人の店舗の混同が実際に生じているのは、飲食店の需要者は店舗名を正確に認識することなく、印象に残る部分のみを用いるのが通常であり、本件の場合、需要者が本件商標の要部を『鉄なべ』と認識しているからである。・・・したがって、イ号標章には識別力が存在し、本件商標において識別力が強いのは『鉄なべ』の文字部分であり、『鉄(金偏に矢)』と『鉄』の文字の差異は類似を覆すほどの差異ではないため、イ号標章は本件商標と類似であると考えられる。」旨を主張している。
しかしながら、本件商標は、その構成中の「本店」の文字が、「営業の本拠である店。」(「広辞苑第6版」株式会社岩波書店)を意味するものであって、識別力がないものであり、また、「鉄なべ」の文字は、「鉄製の鍋(鉄でできた鍋)」程の意味合いが容易に理解されるものであって、「役務の提供の用に供する物」を表示するものとして、いずれも自他役務の識別標識として機能しないものであるところ、本件商標は、両文字が結合した一連一体の商標として識別力が発揮されるものである。
そうすると、本件商標において、「鉄なべ」の文字部分が要部として、取引において資されるものではないというべきである。
してみれば、本件商標は、「本店鉄なべ」の一連一体の商標として、自他役務の識別標識として機能するものである。
したがって、イ号標章には識別力が存在し、本件商標において識別力が強いのは「鉄なべ」の文字部分であるという前提には誤りがある。
(4)請求人は、「・・・こうした投稿におけるコメントからも、需要者において現に出所の誤認混同が生じている事実がある。しかも、こうした投稿は情報サイトにおいて会員登録等の一定の手続を行わなければ投稿できないことが多く、実際に出所を混同している需要者はさらに多いと考えられる。このように、需要者において実際に出所の誤認混同が生じており、こうした出所の誤認混同は、請求人の信用を毀損し、需要者の利益を損なうものと考えられる。」旨を主張している。
しかしながら、投稿におけるコメントからだけでは、イ号標章の使用によって、直ちに需要者において出所の誤認混同が生じているといえるか不明である。
そして、「鉄なべ」の文字は、例えば、「餃子の提供」との関係においては、餃子の提供のために用いられる「鉄製の鍋」を理解させるものであって、本質的に、出所の誤認混同を生じさせる語ではないものというのが相当であるから、イ号標章が請求人の信用を毀損し、需要者の利益を損なうものとは考え難い。
よって、被請求人の上記主張は、いずれも採用することができない。
5 まとめ
以上のとおり、被請求人が、役務「飲食物の提供」に使用するイ号標章は、「役務の提供の用に供する物」を普通に用いられる方法で表示するものであり、商標法第26条第1項第3号に該当するものであるから、本件商標の商標権の効力の範囲に属しないと認められる。
よって、結論のとおり判定する。
別掲 別掲(本件商標)

判定日 2017-07-25 
出願番号 商願平9-140077 
審決分類 T 1 2・ 9- ZB (Z42)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 巻島 豊二澤里 和孝 
特許庁審判長 山田 正樹
特許庁審判官 井出 英一郎
中束 としえ
登録日 2000-04-21 
登録番号 商標登録第4377287号(T4377287) 
商標の称呼 ホンテンテツナベ、テツナベ 
代理人 中前 富士男 
代理人 遠坂 啓太 
代理人 南瀬 透 
代理人 加藤 久 
代理人 森 博 
代理人 清井 洋平 
代理人 加藤 久 
代理人 南瀬 透 
代理人 森 博 
代理人 遠坂 啓太 
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ