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審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない 012 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない 012 審判 全部無効 商3条1項6号 1号から5号以外のもの 無効としない 012 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない 012 |
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管理番号 | 1329297 |
審判番号 | 無効2008-890078 |
総通号数 | 211 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2017-07-28 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2008-09-16 |
確定日 | 2009-09-28 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第4105304号商標及び登録第4123998号商標及び登録第4132919号商標及び登録第4135567号商標及び登録第4144129号商標及び登録第4144134号商標及び登録第4379711号商標及び登録第4383223号商標及び登録第4622477号商標及び登録第4625160号商標の商標登録無効審判事件について、審理の併合のうえ、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 無効請求に係る商標 1 無効2008-890070号事件に係る登録第4105304号商標は、別掲(1)の構成からなり、平成8年5月16日に登録出願、第28類「遊戯用器具,囲碁用具,将棋用具,さいころ,すごろく,ダイスカップ,ダイヤモンドゲーム,チェス用具,チェッカー用具,手品用具,ドミノ用具,マージャン用具,ビリヤード用具,おもちゃ,人形,愛玩動物用おもちゃ,運動用具,釣り具」を指定商品として同10年1月23日に設定登録されたものである。 2 その外、併合した各審判事件に係る登録第4123998号商標及び登録第4132919号商標及び登録第4135567号商標及び登録第4144129号商標及び登録第4144134号商標及び登録第4379711号商標及び登録第4383223号商標及び登録第4622477号商標及び登録第4625160号商標についての商標の構成、登録出願日、設定登録日、指定商品・指定役務は、別掲(2)ないし(10)に示すとおりである(以下、上記した登録第4105304号商標をも含めて「本件各商標」という。)。 以下、審理を併合した審判事件を一括していうときは、「本件各審判」という。 第2 請求人の主張 請求人は、本件各商標についての登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、審判請求書、平成20年11月26日付け提出の手続補正書、同年12月2日付け提出の手続補正書、同21年1月15日付け提出の上申書、同年5月1日付け提出の上申書、同年5月13日付け提出の上申書及び同年6月3日付け提出の上申書において、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第50号証(枝番号を含む。)を提出した(甲号証の枝番号を有するものについて、枝番号のすべてを引用するときは、以下枝番号を省略する。)。 1 本件各商標の図形部分(以下「本件図形」という。)の創作者・著作者について (1)本件各商標の図形部分(以下、これらをあわせて「本件図形」という。)は、本件各商標が登録出願がされる遙か以前、1963年12月に、アメリカ合衆国マサチューセッツ州ウスター市在住のグラフィックデザイナー、ハーベイ・ボール(Harvey Ball)氏(以下「ハーベイ・ボール」という。)によって創作・著作されていた。このことは、周知の事実であり、多くの証拠がある。 ハーベイ・ボールは、甲第2号証に表示されている図形(別掲(11)、以下、甲第2号証に表示されている図形を「引用図形」という。)及び引用図形にほぼ類似した様々な形状の図形を描いた。 引用図形とハーベイ・ボールが描いた引用図形にほぼ類似した様々な形状の図形を併せて、以下、「スマイリーフェイス」という。 (2)引用図形が創作・著作された経緯 アメリカ合衆国マサチューセッツ州ウスター市に基盤をおくステート生命保険相互会社は、1961年にギャランティ保険相互会社を買収し、同社をステート生命保険会社の子会社であるウスター火災保険相互会社と合併させた。 しかしながら、合併後の両社の従業員のモラルが思わしくなかったことから、1962年、ステート生命保険の副社長であったジョン・アダム・ジュニアは、「フレンドシップ・キャンペーン」なるプログラムを考案・提案した。 1963年12月、当該合併会社の営業マーケティング担当のジョイ・ヤング女史は、当該「フレンドシップ・キャンペーン」プログラムを受けて、地元のフリーのグラフィックデザイナーであったハーベイ・ボールを訪ね、バッジやカード、ポスター等に使える小さなシンボルマークの制作を依頼した。 そうしたところ、ハーベイ・ボールが書き上げたのが引用図形である(甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証)。 当該合併会社は、従業員にこのマークを付したバッジを配布してキャンペーンを行ったところ、外交員や顧客から大きな反響があったため、バッジの大量追加発注をすることになった。 こうして、「スマイリーフェイス」は、同社のシンボルとし、キャンペーンは大成功したという。 (3)ハーベイ・ボールが、「スマイリーフェイス」の著作者として知られていることについて 「スマイリーフェイス」の引用図形の創作・著作者であるハーベイ・ボールは、2001年4月12日に、79才で死去した。この事実は、全米、ヨーロッパ及び我が国の主要な新聞で広く報じられた(甲第9号証ないし甲第11号証)。 たとえば、我が国では、2001年(平成13年)4月14日及び同15日の全国紙の新聞各紙が報じている(甲第9号証)。 その多くは、同氏の写真を掲載した訃報記事であり、「スマイルマーク創作」(日本経済新聞、読売新聞、スポーツニッポン)、「スマイルマーク考案者」(毎日新聞)、「ピースマーク発案」(朝日新聞)、「スマイルマークの“親”が死去」(スポーツ報知)、「『ニコニコバッジ考案者』」(産経新聞)、「ニコニコバッジ考案」(中日新聞)等の見出しが付いており、外国人の訃報としては、異例の大きな扱いとなっている。 これらの記事では、いずれも、保険会社の依頼で、従業員の勤労意欲を高めることを目的に「スマイリーフェイス」(日本では「スマイルマーク」と呼ばれることが多い)を創作したこと、1971年に人気が爆発したこと(すなわち、1971年頃の「スマイリーフェイス」の大流行の直接の引き金はハーベイ・ボールによる創作・著作に由来するものと考えられていたこと)、最盛期には5千万個以上のバッジが売れたこと、1999年には米国郵便公社の切手の図柄になったこと、同氏が無欲な人物で、報酬45ドルを受け取っただけで、商標や著作権登録などを行わなかったこと、遺族によるとそのことを全く後悔していなかったこと、などのエピソードを紹介している(甲第9号証)。 世界各国でも同様の報道がなされ、被請求人の事務所があるロンドンを始め、イギリスの各新聞にもそれが報道された。 一方、被請求人が引用図形の創作・著作者であると記載をしている新聞は一紙もなく、被請求人のことには、一切触れられていない。 ハーベイ・ボールの死去のニュースを報じたイギリスの新聞各紙は多数に及ぶ(甲第10号証)から、被請求人が、当時、これらの記事を目にしていなかったということは考えにくい。 また、米国の新聞各紙も、ハーベイ・ボールの死去の記事を報じている(甲第11号証)。 以上のイギリス及び米国の新聞各紙においても、記事の見出しがハーベイ・ボールを「スマイル・マークの発明者」と報じているものが多い。 これらの記事からは、2001年(平成13年)当時においても、「1971年頃における『スマイリーフェイス』(スマイルマーク)の大流行は、ハーベイ・ボールが、保険会社の依頼により『スマイリーフェイス』(スマイルマーク)を創作したことに端を発するものである。」と考えられていたことが明瞭に窺える。 また、次のような事実からも、米国において、「スマイリーフェイス」の創作・著作者がハーベイ・ボールであると、広く一般に認識されていたことが窺える。 ア ハーベイ・ボールが生涯をすごしたマサチューセッツ州ウスター市では、ウスター市長のレイモンド・マリアーノにより、「スマイリーフェイス」はハーベイ・ボールが創作したものであることを公認して同氏の功績を讃える宣言書を発行するとともに、1996年7月10日を「ハーベイ・ボールの日」とすることが宣言されている(甲第3号証)。 イ 1999年、アメリカの1970年代を代表するイメージとしてアメリカ郵政公社の記念切手に「スマイリーフェイス」が採用されたが、その記念イベントとして同年10月1日に開催されたウスター市の「ワールド・スマイル・デイ」(第1回)の会場において、米国郵政公社の代表が来賓として参加し、「スマイリーフェイス」はハーベイ・ボールが創作・著作したものであると公式に発言している(甲第6号証)。 ウ 1998年2月28日、ウスター市の市政150年記念式典に来賓として来場した同州出身の上院議員ジョン・ケリーは、来賓挨拶の中で、「スマイリーフェイス」がハーベイ・ボールによって創作・著作されたものであることを公式に発言している(甲第5号証)。 エ ウスター市の歴史博物館において、ハーベイ・ボールと「スマイリーフェイス」が展示された「スマイリー展」が開催されている(甲第4号証)。 また、米国において、しばしば、ハーベイ・ボールが「スマイリーフェイス」を創作したというテレビ番組が放映されている(甲第12号証)。 オ 我が国においても、「スマイリーフェイス」の商標権が問題とされた大阪地裁の判決において、ハーベイ・ボールが「スマイルマークの創作者として知られており、1963年(昭和38年)、保険会社の依頼で黄色の丸い顔に一対の目と円弧状の口を配したスマイルマーク…をデザインしたとされている。スマイルマークは、アメリカで1960年代後半から爆発的流行を引き起こし、ベトナム反戦運動のシンボルとして多くの商品に使用された」ことが認定されている(大阪地裁平13年10月25日判決。甲第20号証)。 カ 特許庁も、拒絶理由通知書において、故ハーベイ・ボールがスマイルマークの創作者であることを認定している(甲第25号証)。 キ 東京高等裁判所(東京高等裁判所平成12年1月19日判決。甲第13号証)は、判決文中で、「ルフラーニ[本件の被請求人]は、スマイルマークの創作者ではなく、著作権者でもなかったこと」を積極的に認定している。 ク 被請求人が米国で出願した本件商標は、米国最大の小売業者であるウォルマートの異議申立てを受け、2009年3月20日の「商標裁判所」の判決で、すべてが、登録を拒絶された(甲第48号証)。 2 「スマイリーフェイス」の周知・著名性について 「スマイリーフェイス」は、本件各商標の出願前に世界的に著名なマークとして知られ、かつ、広範囲に使用されていた ア 「スマイリーフェイス」は、合併会社の従業員の勤労意欲向上の目的で、あるいは宥和のシンボルとして、ハーベイ・ボールにより、従業員向けに制作されたものであった。 しかし、その後「スマイリーフェイス」は、同社のキャンペーンを超えて、同社の顧客にも好評を博するところとなり、やがて、1960年代末には全米の車のバンパーのステッカーやTシャツなどにも登場するようになり、70年代にはアメリカ全土に広がって行き、全米の人気キャラクターとして広まった。 特に、1960年代後半から70年代においては、ベトナム反戦運動のシンボルとして全米で大流行し、多くの商品に使用された。 「スマイリーフェイス」は、こうして、アメリカのその世代(1970年代初頭)を代表するシンボルとなったのである。 さらに、1970年代(昭和40年代)の後半、このブームは、我が国に飛び火し、我が国では「スマイリーフェイス」は、「スマイル・マーク」、「ラブ・ピース」あるいは「ニコニコ・マーク」などと呼ばれて爆発的に流行し、多数の業者がハーベイ・ボールとライセンス契約等を締結することなく、それぞれ微妙にデザインの異なる「スマイルマーク」を使用していた。 このスマイルマーク・ブームは、昭和46年及び同47年をピークに収束して行った(第1次ブーム)。 日本におけるブームのきっかけは、当時、株式会社リリックの関係者が、米国のステーショナリー・ショー(文具見本市)を訪問した際に、米国においてブームとなっていた「スマイリーフェイス」の出展の状況を目にして、「スマイリーフェイス」を日本に持ち込んだことであったという。 この時期、株式会社リリックやサンスター文具株式会社ら業界関係者が集まって、スマイルマークについて、共同キャンペーンや共同発売をする目的で、同業異業種の業者を26社近くを集めて「ラブピース・アソシエーション」を設立した。 スマイルマークに深く関わったサンスター文具株式会社は、1971年には商標権を広範囲に出願し、また、歌手の「ヒデとロザンナ」を広告に起用するなどして、スマイルマークの宣伝に努めたという(甲第18号証)。 もっとも、この時期、我が国では、創作・著作者のハーベイ・ボールの存在が知られていなかったことから、特許庁にサンスター文具株式会社ほか数社により、スマイリーフェイスの商標登録が行われたことがあった(昭和46年、指定商品を商品区分旧第25類として、被請求人以外の者により、5件の商標登録出願がなされた)(甲第18号証及び甲第20号証)。 しかし、多くの登録商標はブームの終焉とともに、更新されることもなかった。 このように、1970年代(昭和40年代)の後半の第1次ブームの時期において、我が国においても、「スマイリーフェイス」は、既に極めて著名な標章として知られていた。 「スマイリーフェイス」は、昭和63年頃、日本で再流行し(第2次ブーム)、再度、多数の業者によってスマイルマークを付した文房具、洋服、バッジ、マグカップなどが製造・販売され、新聞・雑誌等においても「ラブ・ピースマークが復活」などと取り上げられた(甲第20号証)。 3 商標法第4条第1項第7号該当性について (1)本件各商標は、公正な商取引秩序を乱し国際商道徳に反する 引用図形は、上記1及び2で述べたとおり、ハーベイ・ボールにより、1963年に創作・著作され公表されていたものであり、その後、全米及び我が国においてブームとなる程に広く使用され著名になった図形である。 引用図形の創作者・著作者と無関係な被請求人は、引用図形がたまたま我が国で登録されていないことを奇貨として、引用図形を模倣又は剽窃し、本件各商標について登録出願し登録を受けたものである。 しかも、本件各商標の登録出願は、引用図形が有する社会的な貢献のイメージや強い顧客吸引力に便乗しようとする意図をもって行われたことは明らかである。 引用図形のような、国際的に著名な図形が、創作者・著作者と無関係な第三者により、その創作者・著作者の承諾もなく出願し登録されることは、公正な商取引秩序を乱し、国際的な商取引秩序、国際商道徳にも反し、また、商取引における公正な競争秩序を乱すものであり、社会の一般的道徳観念に反することになることは明らかである。 (2)本件各商標は、国際信義に反する ア 引用図形は、米国の1970年代を代表する歴史的意義を有し、米国全土において広く平和のシンボルとして知られ、広く使用されているマークであり、特に、マサチューセッツ州ウスター市にとっては、それを創作・著作した故ハーベイ・ボールを讃えるとともに、平和の記念碑として、そのシンボル的存在として誇りとされているものである。 ウスター市は、同市を「スマイルの街」として、「スマイリーフェイス」を同市のシンボルとして全米に宣言し、全世界にアピールをしてきた(甲第34号証の1)。 いわば、それは米国、マサチューセッツ州及びウスター市にとって、歴史的文化的意義を有する遺産であるといえる。 また、我が国においても、「スマイリーフェイス」は、「スマイルマーク」又は「ラブ・ピース」などとして世代を超えて広く親しまれており、引用図形は、我が国においても平和のシンボルとして認知されている。 「スマイリーフェイス」は、世界的にも、それを創作し著作した故ハーベイ・ボールが遺した「平和のシンボル」として、貴重な世界の遺産であるともいえる。 「スマイリーフェイス」による慈善活動のための「スマイル大使」には、例えば、モナコ公国アルベール2世大公を初めとして、世界的な著名人が多数参加し、また、多数の企業がそれら慈善活動に資金提供をしているのであり、それが一個人により独占的な権利が保有されることになることは、平和を象徴する「スマイリーフェイス」の有するイメージやその国際性にも反し、世界的にも国際信義に反する結果になるものと考えられる。 こうしてみると、特許庁が、このような著名な存在である引用図形に類似した商標登録を著作者と何らの関係もない一個人に認めることは、当該一個人に独占的な権利を付与することとなり、極めて穏当でないばかりか、引用図形の名声や評判を損なうおそれがあるとともに、米国政府、米国マサチューセッツ州政府、マサチューセッツ州ウスター市に対する関係で友好関係にも悪影響を及ぼしかねず、その公益を損なうおそれがあり、米国政府、マサチューセッツ州政府及びウスター市に対する関係、その他世界的な著名人各位に対する関係でも、国際信義に反する結果になるものというべきである。 特許庁も、拒絶理由通知書において、スマイルマークの創作者をハーベイ・ボールとした上、その氏名の商標出願について、国際信義に反することになり、公の秩序又は善良の風俗を害するものと認められるとして、商標法第4条第1項第7号に該当すると判断している。この判断においても、ハーベイ・ボールといえばスマイルマークが想起されるものと認識されており、両者は不可分一体のものとして認識されていることが窺われる(甲第25号証)。 したがって、本件各商標の登録出願についても、同様に、国際信義に反し、公の秩序又は善良の風俗を害するものとして、商標法第4条第1項第7号に該当するものというべきである。 特に、引用図形は、ハーベイ・ボール自身が、これを慈善活動等に提供してきた経緯があり、また、その正当な承継人も「スマイリーフェイス」を慈善活動・ボランティア活動に当ててきた経緯がある。 ハーベイ・ボールは、79才で死去するまで、「スマイリーフェイス」からの報酬等を取ることなく、同人が「スマイリーフェイス」から受取った報酬は、保険会社の依頼で1963年12月に作成したときに同人が受け取った報酬である僅か45ドル(約5,000円)だけであったと言われている(甲第9号証ないし甲第11号証など)。 ハーベイ・ボールは、「スマイリーフェイス」を何がしかの世界平和の役に立てることを希望し、それを金銭に換えることをしなかった。 今日、ハーベイ・ボールへの賛辞が惜しまれないのは、そのような同氏の無欲さや偉業がたたえられていることにもよる。 ハーベイ・ボール自身も、「スマイリーフェイス」が全米のみならず全世界に流行した理由を、「スマイリーは年令,肌の色,政治,宗教を乗り越える。これほど単純な形で、肯定的なメッセージを運ぶ芸術作品がかつてあっただろうか。」と、創作の意図と心境を述べている(甲第9号証の16)。 イ 「スマイリーフェイス」による慈善活動の実情 ハーベイ・ボールの死去後は、同人の息子のチャールズ・ボールが「スマイリーフェイス」に係る権利をすべて相続し、同氏の関連した団体によりそれらの権利の管理を行うとともに、2001年4月、同氏が代表者をつとめる「ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団」(マサチューセッツ州ウスター市フロントストリート22,POBox171)が設立され、同財団などを通じ、「スマイリーフェイス」は慈善活動・ボランティア活動に活用され、それらが現在に至るまで継続して行われている。この慈善活動・ボランティア活動は全世界への拡大が計画されている。 このように、「スマイリーフェイス」の商品化事業は、慈善活動・ボランティア活動を目的としたものであり、その収入の大部分はそれらの活動に支出されている。 アメリカ国内では、ハーベイ・ボールにより、1999年から、スマイルを世界平和のシンボルにするとの目標で「ワールド・スマイル・デイ」のイベントがスマイルフェイス発祥の地であるマサチューセッツ州ウスター市で、毎年10月の第一金曜日を開催日として開催されており、今年で10回目(10年目)となる。 このイベントについては、全米で大きく報じられてその存在を認められている(甲第6号証)。 これら団体では、「スマイリーフェイス」を全米、日本、全世界に普及させるために、「スマイル名誉大使」制度を発足させており、会長にハーベイ・ボール氏の息子であり現在の「ハーベイ・ボール・ワールドスマイル財団」の会長であるチャールズ・ボール(マサチューセッツ州弁護士)が就任し、米国担当としてゴルフ界のジャック・ニクラウス、アジア担当として俳優のジャッキー・チェン、ヨーロッパ担当としてモナコ公国アルベール2世大公が就任している。 その他にも、全世界で1,000名の「スマイル名誉大使」が就任し、それぞれの国でボランティア活動を展開している状況にある(甲第29号証)。 例えば、被請求人の膝元であるフランスでは、ブリジット・バルドー、シャルル・アズナブール、フランシス・レイなどが「スマイル名誉大使」に就任し、それらの活動資金は全て様々な企業から提供されている(甲第30号証)。 我が国での活動に対しても、日本国内で政財界人、文化人、ジャーナリスト、芸能人、スポーツ選手など様々な分野の人々が賛同して協力している。 すなわち、舛添要一参議院議員が名誉会長に就任し、名誉副会長に愛川欽也氏、朝丘雪路氏、篠沢秀夫氏、児玉清氏らが就任している。 その他、500人の名誉スマイル大使が、身近にスマイルを広める目的で活動している(甲第31号証)。 「スマイル名誉大使」によるテレビ出演が何回にも及び、テレビを通しての日本国民に対しても、「スマイリーフェイス」のアピールがなされている(甲第34号証の8)。 このような「スマイリーフェイス」による慈善活動・ボランティア活動の中には、ユニセフとの共同事業が多く含まれており、ユニセフに対して多額の寄付を行っている。 その貢献により、「ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団」はユニセフから感謝状を受けている(甲第34号証の10)。 その他、日本国内におけるボランティア活動には枚挙に暇がないが、最近では、次のようなイベントを通じた活動が行われた。 (ア)2004年7月、原宿・竹下通り商店街共同で、夏休みの青少年の健全育成を目的に、「スマイル・タウン」イベントが行われ、原宿警察署、地元小中学校PTAから協力を得て大きな成果を上げた。そのイベントには多数の著名人が参加し、「スマイル・パレード」はマスコミにも大きく取り上げられた(甲第34号証の19)。 (イ)平成15年、若者に人気がある歌手グループ「V6」のメンバーが出演したテレビドラマで、その登場人物に「スマイリーフェイス」の商品を着用させて、テレビを通じて、「スマイリーフェイス」をアピールする啓蒙活動を行った(甲第34号証の11)。 (ウ)その他、雑誌での商品プレゼント等を通じて、「スマイリーフェイス」を広めることと、慈善活動・ボランティア活動への参加をPRしている(甲第34号証の9)。 (エ)最近では、2008年の夏休みの8月15日から9月15日までの間、200万円の費用をかけて、原宿・竹下通りにてキャンペーンを行っており(甲第32号証の2の1)、また、70名近い著名人が名誉スマイル大使が新規にて就任している(甲第32号証の2の2)。 このような活動については、(a)「スマイリーフェイス」に関するホームページ(日本版)(甲第27号証)、(b)「スマイリーフェイス」に関するホームページ(米国版)(甲第28号証)、(c)ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団の機関誌(甲第34号証)等によって10年間に亘り継続して行われており、日本国民に対してもボランティア活動の呼びかけが行われている。 (3)小括 以上のとおり、本件各商標と同一の図形は、米国の著名なグラフィックデザイナーにより、1963年に創作・著作され公表されていたものであり、その後、全米及び我が国においてブームとなる程に広く使用され著名になった図形である。 また、それは米国、マサチューセッツ州及び同州ウスター市においては平和のシンボルとして敬愛され、慈善活動に使われてきたものであり、それを創作・著作者と何らの関係もない一個人である被請求人が、しかも創作者・著作者の承諾もなく商標登録し、その一個人にその使用を独占させることは穏当でないばかりか、一般的社会道徳及び国際商道徳に反し、公正な商取引秩序を乱すとともに、米国、マサチューセッツ州及びウスター市に対する関係、その他世界的な著名人各位に対する関係でも、世界的にも国際信義に反するものである。 したがって、本件各商標は商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標」に該当し、商標登録を受けることができないものというべきである。 4 商標法第4条第1項第15号該当性について 本件各商標が、引用図形、「スマイリーフェイス」と著しく類似するものであることは明白である。 また、「スマイリーフェイス」の創作・著作者である故ハーベイ・ボール氏及び同人の正当な承継人、殊にハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団及びその関係団体は、「スマイリーフェイス」を使用した商品を、慈善活動・ボランティア活動を含め、これまでも多数、製造販売して取り扱ってきており、それは現在も継続している。 そうすると、本件各商標は、故ハーベイ・ボールの正当な承継人、特に、ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団及びその関係団体の業務又はそれらの者から許諾を得て業務を行っている者の業務(「他人の業務」)に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標であることが明らかである。 したがって、本件各商標は、本号の「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」であるから、商標法第4条第1項第15号に該当する商標であるというべきである。 5 商標法第4条第1項第19号該当性について 「スマイリーフェイス」は、「スマイリーフェイス」の創作・著作者である故ハーベイ・ボール及び同人の正当な承継人、殊にハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団及びその関係団体の業務又はそれらの者から許諾を得て業務を行っている者の業務(「他人の業務」)に係る商品にこれまで使用されており、また現在に至るも継続して使用されているものであるから、「スマイリーフェイス」が同商品を表示するものとして、日本国内又は外国におけるキャラクター・マーチャンダイジング業界に関係する業者(一次需要者)や商品の購入者(二次需要者)の間に広く認識されている。 本来、引用図形は、日本の事業者としては、1970年代から創作・著作者と契約することなく使用することが事実上可能であった。 それにもかかわらず、被請求人は、自ら登録商標を直接は使用せず、これと同一又は類似の商標を使用することが見込まれる者に対し、本件各商標に基づいて法的措置を取る旨を申し向け、使用料を支払わせて利益を得る目的や、本件各商標に基づいて法的措置を取る旨を申し向けて、使用することを妨げている。 したがって、被請求人は、他人の業務を妨害し損害を加える目的を有している。 しかも、被請求人は、「スマイリーフェイス」の創作者でもなく、その著名性に便乗して使用料収入を得ようとしている。 こうしてみると、被請求人は、本件各商標を、不正な目的をもってライセンス目的で使用しているものといえる。 したがって、本件各商標は、本号の「他人の業務に係る商品を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的をもって使用をするもの」に該当するものといえる。 6 商標法第3条第1項第6号該当性について 商標法により保護を受ける対象となる商標とは、需要者に一定の出所認識を与え、特定の商品又は役務の出所表示機能(自他商品識別機能)を有する標章なのである。 したがって、もともと商品識別標識として使用されているものではなく、もっぱら顧客吸引力を第三者に提供することの対価として得られる収益を確保するために、その手段としての文字・図形に対して商標法による独占権の付与を得たものは、本来の商標法上の「商標」ではないものであり、そのような商標登録は商標法の目的を逸脱しているものといえる。 本来、ただ一定の文字・図形を登録出願したからとの理由のみによって、当該商標登録出願者に独占権を付与することは正当化されるものではないのである。 引用図形は、米国内だけでなく、我が国において、また全世界的に大流行した図形であり、極めて多くの業者により使用されてきた経緯がある。 そうとすれば、それは特定の者の業務に係る商品又は役務であることを示す出所表示機能を有さず、商標・標識としての識別力を有していない。 本件各商標は、「スマイリーフェイス」を付すことによって商品の顧客吸引力を強化することに着目して使用されているのであり、需要者から見て、本件各商標が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識する機能を有していないのである。 このことは、本件商標中、登録第4105304号商標及び登録第4123998号商標及び登録第4132919号商標及び登録第4135567号商標及び登録第4144129号商標及び登録第4144134号商標及び登録第4379711号商標及び登録第4383223号商標及び登録第4622477号商標及び登録第4625160号商標においては、「スマイリーフェイス」に加えて、「スマイル・エンド・スマイリー」と称呼する「SMILE&SMILEY」の欧文字又は「スマイリー」と称呼する「SMILEY」の欧文字が付記されていたとしても、本件図形が本件各商標のほとんどを占める中核的な標識である以上、「SMILE&SMILEY」又は「SMILEY」の表記が特段の識別力を持たない以上、何ら変わることはない。 したがって、本件各商標は、その図形の性質上(一種のいわゆるキャラクターである)、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することのできない商標」に該当する。 7 利害関係 請求人は、現在、被請求人との間で、東京地方裁判所において、本件各商標権が前提とされ、その使用権に基づく請求を内容とする訴訟が係属中であり(東京地方裁判所平成20年(ワ)第3344号不当利得返還請求事件)、本件審判請求に重大な利害関係を有する者である。 なお、請求人は、前述のハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団の代理人であり、同財団が「スマイルを平和の礎にする」との目標でボランティア活動を全世界で行っているが、その活動の一端として、日本国内でスマイリーフェイスの商品化事業に携わっている者である(甲第36号証)。 8 むすび 以上のとおり、本件各商標は、商標法第4条第1項第7号、同第15号及び同19号、並びに、同法第3条第1項第6号に違反して登録を得たものというべきであるから、同法第46条第1項第1号の規定により、その登録は無効とされるべきである。 第3 被請求人の答弁 被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨以下のように述べた。 1 本件各商標と引用図形について (1)本件各商標 本件各商標の図形部分は、太線で描かれた正円図形内に、上端から全体の高さの4分の1程度のところの左右対称の位置に、黒塗りの縦長楕円形を2つ並べ(両縦長楕円形の中心間の間隔は直径の約4分の1)、この2つの縦長楕円形の下に、外輪郭を表す円の下半分の曲線に沿うように描かれた中心半径約150度で右上・左上の両端上がりの円弧状の深い弧線と(円周の約40%分の長さで両端は全体の高さの2分の1の位置)、その両端に楕円状の図形(左端)と平たい三角形状の図形(右端)を描いてなるもので、全体としては一見して、人の笑顔をデフォルメし、簡潔的・印象的に表現したものと認識されるものである。 (2)引用図形 引用図形の態様は、甲第2号証に記載のとおりであり、黄色に塗りつぶされた円内に、上端から円図形の全体の高さの5分の1程度のところの左右対称の位置に、黒塗りの縦長楕円形の点を2つ並べ(両縦長楕円形の中心間の間隔は直径の約5分の1とかなり狭い)、この2つの縦長楕円形の下に、両端部に黒塗りの潰れた楕円を配する右上・左上の両端上がりの楕円状の鋭角な弧線(弧の下部は下端から高さの4分の1のところに、両端部分は下端から全体の高さの半分からやや上程度に位置する)を描いた図形を表してなるものである。 (3)いわゆるスマイルマークの範疇に属する図形とそれらの創作者・著作者について 請求人提出の全証拠によると、ハーベイ・ボールの「スマイリーフェイス」の創作に触れたもっとも古い証拠は、被請求人が本件各商標を出願した年である1996年(平成8年)のものである(甲第4号証)。 つまり請求人は、ハーベイ・ボールが「スマイリーフェイス」を創作したのは1963年であったと主張するも、その後30年以上もの間のハーベイボールの実質的な(営業)活動を何ら説明していない。 しかも、なぜ創作後30年以上経った1996年以降になって突然、ハーベイボールが「スマイリーフェイス」を創作したという公言がされたり、博物館での「スマイリーフェイス」の展示、切手のキャンペーン等が行われるようになったのか、はなはだ疑問である。 博物館の紹介文(甲第4号証、1996年)やハーベイ・ボールの死亡記事(甲第9号証ないし甲第11号証、2001年)において、ハーベイ・ボールが「スマイリーフェイス」を創作した・考案者であると記述されている。 しかしながら、これらの紹介文・記事の内容は、「スマイリーフェイス」に関する「史料」による裏付けがなされていない。 請求人は、ハーベイ・ボールが「スマイリーフェイス」を生み出したと主張するなら、ハーベイ・ボール自身の言葉やスケッチ画など、ハーベイボールが「スマイリーフェイス」を生み出したことを直接・具体的に証明する、1963年当時の資料や、少なくとも1963年のステート生命保険会社による「スマイリーフェイス」キャンペーン当時の広告資料や新聞記事等を提出し、具体的に史実として示すべきである。 請求人からは、1963年から1995年の間にハーベイ・ボールの「スマイリーフェイス」が使用された証拠が一切提出されていない。 請求人は、「1996年に、マサチューセッツ州ウスター市の市長が、スマイリーフェイスはハーベイ・ボールが創作したことを公認し『宣言書』を発行した」、「1998年2月28日のウスター市の市政150年式典において、上院議員ジョン・ケリーが来賓挨拶の中で、スマイリーフェイスはハーベイ・ボールによって創作・著作されたものであることを公式に発言した」、「1999年10月1日に、ウスター市で開催された『ワールド・スマイル・デイ』の会場で、来賓として参加した米国郵政公社の代表が、スマイリーフェイスはハーベイ・ボールによって創作・著作したものであると公式に発言した」、等の事実(甲第3号証、甲第5号証及び甲第6号証)について述べている。 しかしながら、この程度の第三者の宣言や公式な発言は、ハーベイ・ボールが「スマイリーフェイス」又は引用図形を創作・著作した事実を裏付けるものではなく、また、公的な証明となるものでもない。 本件各商標は、請求人が、1971年に創作したものである。 (4)引用図形の周知・著名性について 請求人は、「スマイリーフェイスは、本件各商標の登録出願前に、世界的に著名なマークとして知られ、かつ、広範囲に使用されていた」旨、主張する。 しかしながら、請求人の主張及び当該主張に対応する各証拠からは、「スマイリーフェイス」が、ハーベイ・ボールの創作に係る図形として、本件各商標の登録出願時、設定登録時及び本件各審判請求時において、世界的に著名であったとする事実を、一切見いだすことができない。 また、請求人の主張及び当該主張に対応する各証拠からは、その「スマイリー・フェイス」が、誰のどのような業務に係る商品又は役務を表示するものとして周知・著名な標章であったのかも判然としない。 基本的な話ではあるが、商標法が予定する商標の周知・著名性とは、ある標章が特定の商品又は役務について使用された結果、その商品又は役務について標章が周知・著名となっている場合をいうのであり、標章のみはそれ自体がある程度知れ渡っていたとしても、それが何らかの業務に係る商品又は役務との繋がりにおいて広く知れ渡っているのでなければ、商標法の予定する周知・著名な商標には該当しないものである。 本件各審判については、請求人は実際にハーベイ・ボール又はその関連団体等が実際の当人の業務において商標を使用している商品・役務(もちろん、実際に取引の対象となっているもの)はおろか、それら商品・役務の販売高や販売量、営業の規模を明らかにする具体的資料の類いも一切提出しておらず、請求人の引用図形の商標としての周知・著名性を認めるには相当の無理がある。 (5)本件各商標と引用図形の類似性について 引用図形は黄色の色彩を有し、本件各商標とは目や、口の位置・角度において細かい差異がある。 したがって、仮に、引用図形がハーベイ・ボールの創作だとしても、本件各商標は、引用図形に依拠して作成されたものではなく、被請求人自身の独創による創作物であることに変わりはない。 商標登録出願における審査において、本件各商標と引用図形とが類似と判断されて、引用図形については登録が認められていない(又は、認められなかった事案)が存在する。 しかしながら、商標の類似関係についての判断と著作物の類似関係についての判断(他人の著作物の複製又は翻案に当たるか否かの判断)は、同一の基準によるものではない。 また、特許庁は、狭義の工業所有権の専門官庁であって、著作権の専門官庁ではないから、先行著作物の調査、二次的著作物の創作的部分の認定、出願された商標が当該著作物の創作的部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものであるかどうか、その創作的部分の本質的特徴を直接感得することができるものであるかどうかについて判断することは、特許庁の本来の所管事項に属するものではない。 したがって、特許庁が出願商標について行う商標の類似判断基準と著作権に係る依拠性判断(他人の著作物の複製又は翻案に当たるか否かの判断)には、何ら直接的な関係性はない。 2 本件各商標の商標法第4条第1項第7号該当性について (1)請求人は、「本件図形と同一の図形は、ハーベイ・ボールによって創作・著作されたものである。したがって、ハーベイ・ボールと何らの関係もない被請求人がハーベイ・ボールに無許諾で出願した本件各商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。」旨主張する。 しかしながら、上記1(3)で述べたとおり、引用図形がハーベイ・ボールの創作・著作物であるという確証が得られていないこともあり、引用図形の創作・著作者とは関係のない被請求人が当該創作・著作者に無断で本件各商標を出願したとの請求人の主張は全く失当である。 また、仮に、ハーベイ・ボールが引用図形の著作権者であるとしても、我が国の商標法上は、他人の著作権と抵触する商標に係る登録を明示的に禁止する規定は一切存在しない。 さらに、請求人は、自らすみやかに出願することが可能であったにもかかわらず、これまで出願を怠っていたために、請求人が出願した引用図形が、本件各商標と類似するとして拒絶理由が発せられてしまい、その対応として本件無効審判請求を行ったものと推認できる。 つまり、本件各審判事件の事案は、完全に私的な問題であって、本件各商標が商標法第4条第1項第7号に該当するか否かによって登録の可否が判断されるべきものではない。 (2)本件各商標が国際信義に反しないことについて ア 請求人は、「被請求人は、引用図形が国際的に著名であり、広く使用されていることを知り、かつ、引用図形がたまたま我が国で登録されていないことを奇貸として、ハーベイ・ボールの承諾なしに、本件各商標を登録出願し設定登録を受けたものである。しかも、本件各商標の登録出願は、引用図形が有する社会的な貢献を果たしてきたイメージや強い顧客吸引力に便乗しようとする意図をもって出願されたものだから、公正な商取引秩序を乱し、国際的な商取引秩序、国際商道徳にも反し、商取引における公正な競業秩序を乱すものであって、社会の一般的道徳観念に反するものである。」旨、主張する。 しかしながら、上記1(4)で述べたとおり、本件各商標の登録出願時・設定登録時及び本件審判請求時において引用図形はハーベイ・ボールの創作に係る図形としては全く著名ではなかったから、当該主張は、その前提からして成り立たないものである。 しかも、被請求人は、ハーベイ・ボールが創作したと請求人が主張する図形を知らなかった。 そして、請求人は、ハーベイ・ボールが創作したと請求人が主張する図形を被請求人が知っていたと推認させるような証拠を何ら提出していない。 したがって、この点についての請求人の主張は成り立たない。 イ 請求人は、「ハーベイ・ボールの創作・著作に係る『スマイリーフェイス』は平和のシンボルとして認知され慈善活動も行っているから、一個人により独占的な権利が保有されることは、「スマイリーフェイス」の有するイメージや国際性に反し、米国政府等に対する関係で国際信義に反する結果になる。」旨、主張する。 請求人は、「それ(※スマイリーフェイス)は米国、マサチューセッツ州及びウスター市にとって、歴史的文化的意義を有する遺産であると言える」、「ハーベイ・ボールの創作・著作に係るスマイリーフェイスは・・・我が国と米国、マサチューセッツ州及びウスター市との友好関係にも一定の影響を与えるものといえる」、「貴重な世界の遺産であるとも言える」、「スマイリーフェイスによる慈善活動のための『スマイル大使』には・・・世界的な著名人が多数参加し・・・それ(※スマイリーフェイス)が一個人により独占的な権利が保有されることになることは、平和を象徴するスマイリーフェイスの有するイメージやその国際性にも反し、世界的にも国際信義に反する結果になるものと考えられる」「特許庁が、このような著名な存在である引用図形に類似した商標登録を著作者と何らの関係もない一個人に認めることは・・・引用図形の名声や評判を損なうおそれがあるとともに、米国政府、米国マサチューセッツ州政府、マサチューセッツ州ウスター市に対する関係で友好関係にも悪影響を及ぼしかねず、その公益を損なうおそれがあり」等と、「スマイリーフェイス」の大義を述べたてている。 しかし、それら主張及び各証拠からは、いったいどのような意味において「スマイリーフェイス」、つまり引用図形が米国やウスター市にとって歴史的文化的意義を有する「遺産」であるのか、引用図形が日米の友好関係にどのような重要な役割を担ったのか、本件各商標がどのように引用図形の名声や評判を損ないその公益を損なうおそれがあるのか、について全く理解できない。 なお、説明の意図や必要性が理解できないが、請求人は「スマイリーフェイスによる慈善活動」の実情を説明している。 その中で、「ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団」なる団体を通じてスマイリーフェイスは慈善活動等に活用され、さらに「スマイル名誉大使」制度も発足させ、世界的な著名人を含む全世界(日本を含む)で1,000名がその「スマイル名誉大使」に就任し各国でボランティア活動を展開していると述べる。 また、「スマイルを世界平和のシンボルにするとの目標で」、ウスター市で1999年より毎年「ワールド・スマイル・デイ」なるイベントが開催されている旨説明する。 しかし、これら活動は、地方自治体等の政策目的に基づく公益的施策としてのイベントではなく、ハーベイ・ボールの関連団体が私的に行っているにすぎないと推認できる(そもそも、請求人において、この行事をとり挙げた報道記事や公的な刊行物等の客観的資料の提出が無い。)。 また、日本国内においても芸能人等が「スマイル名誉大使」に就任し、「身近にスマイルを広める目的で活動している」と説明している。 これら請求人の説明は、本件事案には全く関連性がないと思われるが、念のため「スマイル名誉大使」について、インターネット上の検索エンジン「google」を用いて調べてみたところ、3件のみがヒットしたに留まる。 つまり、いったいこの制度は実在するのか、また実在するとして、どのような具体的活動を行っているのかが全く不明である(そもそも、「身近にスマイルを広める」という目的が何を意味するのか全く理解できない。)。 なお、この点について、請求人は甲第6号証、甲第29号証ないし甲第32号証、甲第34号証を提出しているが、甲第6号証、甲第29号証ないし甲第32号証については、その出所が不明であり、甲第34号証についてはその出所が「ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団 日本支部」であって該財団発行の機関誌であると思われるが、この機関誌が一体どのような方法で誰に配布されているのかが不明である。 例えば、引用図形が附された商品の購買者に配られたり、新聞折り込み広告やダイレクトメール等で不特定多数に配布されているなど、一般的に配布され、その発行部数や配布方法も明らかである等、該機関誌の出版物としての性格や客観性が明らかであれば、被請求人としても甲第34号証の内容について争うつもりであるが、被請求人はこのような機関誌を見たこともないし、この機関誌の存在の噂も聞いたこともない。 つまり、これら該機関誌は請求人(が所属する関連団体)が無効審判、登録異議申立、各種裁判において提出する目的のみをもってして作成した私的な資料であると推察されるし、その内容は請求人(が所属すると思われる関連団体)による引用図形の使用実績を自らで示すことのみを意図したものであろうと思われるから、全く客観的な内容の証拠ではなく、その証拠能力について疑義がある。 以上のことより、引用図形は現在においてはもはや、平和を象徴するものとは認知されておらず、米国にとって歴史的文化的意義を有する遺産ともみなされておらず、日米の友好関係に何ら役割を担っていないのだから、本件各商標登録は主に米国との間で国際信義に反するものではない。 (3)小括 以上のとおり、本件各商標は、国際信義背反でもはなく、また、構成自体が矯激、卑猥、差別的な文字、図形からなるものではなく、本件各商標の使用は社会公共の利益に反し、または社会の一般的道徳観念に反するものではなく、他の法律によってその使用が禁止された商標でもなく、登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものもないから、商標法第4条第1項第7号該当性に係る現行の判断基準に照らし、いずれの基準にも該当しないものである。 したがって、本件各商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものではない。 3 本件各商標の商標法第4条第1項第15号及び同第19号該当性について 商標法第4条第1項第15号及び同第19号は、引用商標の周知・著名性が前提になっていると解される。 そこで、請求人提出の全証拠を検討するも、請求人の引用図形が周知・著名な「商標」であることは全く明らかにされていない。 仮に、1963年にハーベイ・ボールによって創作されたスマイリー・フェイスがある程度知れ渡っているとしても、その「スマイリーフェイス」が、本件各商標の出願時及び登録時から現時点に至るまでの間、誰のどのような業務に係る商品又は役務を表示するものとして周知・著名な標章であったのかが、判然としない。 基本的な話ではあるが、商標法が予定する商標の周知・著名性とは、ある標章が特定の商品又は役務について使用された結果、その商品又は役務について標章が周知・著名となっている場合をいうのであり、標章のみはそれ自体がある程度知れ渡っていたとしても、それが何らかの業務に係る商品又は役務との繋がりにおいて広く知れ渡っているのでなければ、商標法の予定する周知・著名な商標には該当しないものである。 本件各審判については、請求人は実際に商標を使用している商品・役務(もちろん、実際に取引の対象となっているもの)はおろか、それら商品・役務の販売高や販売量、営業の規模を明らかにする具体的資料の類いも一切提出しておらず、請求人の引用商標の周知・著名性を認めるには相当の無理がある。 したがって、本件各商標と引用図形の類似性や被請求人の不正の目的について反論するまでもなく、本件各商標が商標法第4条第1項第15号及び同19号に該当しないことは明らかであり、請求人の主張は失当である。 4 本件各商標の商標法第3条第1項第6号該当性について 商標登録が商標法第3条第1項第6号に違反してされたことを理由とする無効審判については、商標法第47条の規定により、除斥期間が経過している。 5 むすび 以上のとおり、本件各商標は、商標法第4条第1項第7号、同15号、同19号及び同法第3条第1項第6号に違反して登録されたものではない。 第4 当審の判断 本件併合事件に関し、利害関係については当事者間に争いがなく、当合議体も、請求人は本件併合審判の請求適格を有するものと判断するので、本案に入って審理する。 1 商標法第4条第1項第7号について (1)請求人は、「『スマイリーフェース』は、ハーベイ・ボールよって、創作・著作され公表されたものである。それを、創作者・著作者と何らの関係もない一個人である被請求人が、創作者・著作者の承諾もなく登録出願し設定登録を受けることは、公正な商取引秩序を乱し、国際的な商取引秩序、国際商道徳にも反し、また、商取引における公正な取引秩序を乱すものであり、社会の一般道徳観念に反することは明らかである。」旨主張する。 そこで、以下、著作物について登録出願する際に、出願人は、創作者・著作者と何らかの関係を有する必要があるか、また、出願人は、創作者・著作者の承諾を得る必要であるかという点について検討する。 図形等からなる商標について登録出願がされた場合において、その商標の使用が他人の著作権を侵害しこれと抵触するかどうかを判断するためには、単に当該商標と他人の著作物とを対比するだけでは足りず、他人の著作物について先行著作物の内容を調査し、先行著作物の二次的著作物である場合には、原著作物に新たに付与された創作的部分がどの点であるかを認定した上、出願された商標が、このような創作的部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものであるかどうか、このような創作的部分の本質的特徴を直接感得することができるものであるかどうかについて判断することが必要である。 著作権は、特許権、商標権等と異なり、特許庁における登録を要せず、著作物を創作することのみによって直ちに生じ、また、発行されていないものも多いから、特許庁の保有する公報等の資料により先行著作物を調査することは、極めて困難である。 また、特許庁は、狭義の工業所有権の専門官庁であって、著作権の専門官庁ではないから、先行著作物の調査、二次的著作物の創作的部分の認定、出願された商標が当該著作物の創作的部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものであるかどうか、その創作的部分の本質的特徴を直接感得することができるものであるかどうかについて判断することは、特許庁の本来の所管事項に属するものではなく、これを商標の審査官が行うことには、多大な困難が伴うことが明らかである。 さらに、このような先行著作物の調査等がされたとしても、出願された商標が他人の著作物の複製又は翻案に当たるというためには、当該商標が他人の著作物に依拠して作成されたと認められなければならない。依拠性の有無を認定するためには、当該商標の作成者が、その当時、他人の著作物に接する機会をどの程度有していたか、他人の当該著作物とは別個の著作物がどの程度公刊され、出願された商標の作成者がこれら別個の著作物に依拠した可能性がどの程度あるかなど、商標登録の出願書類、特許庁の保有する公報等の資料によっては認定困難な諸事情を認定する必要があり、これらの判断もまた、狭義の工業所有権の専門官庁である特許庁の判断には、なじまないものである。 加えて、上記のとおり、特許庁の審査官が、出願された商標が他人の著作権と抵触するかどうかについて必要な調査及び認定判断を遂げた上で当該商標の登録査定又は拒絶査定を行うことには、相当な困難が伴うのであって、特許庁の商標審査官にこのような調査をさせることは、極めて多数の商標登録出願を迅速に処理すべきことが要請されている特許庁の事務処理上著しい妨げとなることは明らかであるから、商標法第4条第1項第7号が、商標審査官にこのような調査等の義務を課していると解することはできない。 してみれば、その使用が他人の著作権と抵触する商標であっても、商標法第4条第1項第7号に規定する商標に当たらないものと解するのが相当であり、同号の規定に関する商標審査基準にいう「他の法律(注、商標法以外の法律)によって、その使用等が禁止されている商標」には該当しないものというべきである。 そして、このように解したとしても、その使用が商標登録出願の日前に生じた他人の著作権と抵触する商標が登録された場合には、当該登録商標は、指定商品又は指定役務のうち抵触する部分についてその態様により使用することができないから(商標法第29条)、不当な結果を招くことはない。 してみれば、「スマイリーフェース」が、1963年12月に、保険会社のキャンペーンを目的として、ハーベイ・ボールによって、創作・著作されたものであったとしても、他人が登録出願するに当たって、出願人が、ハーベイ・ボールと何らかの関係を有する必要はなく、また、ハーベイ・ボールの承諾を得る必要もないというべきである。 したがって、本件各商標が他人の著作権に抵触する商標であるという理由をもって、商標法第4条第1項第7号に該当するということはできない。 ゆえに、この点についての請求人の主張は採用しない。 (2)請求人は、「また、『スマイリーフェイス』は、ハーベイ・ボールの息子のチャールズ・ボールが代表者をつとめる『ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団』などを通じ、慈善活動・ボランティア活動に活用され、慈善活動も行っている。したがって、『スマイリーフェイス』が、一個人により独占的な権利として保有されることは、『スマイリーフェイス』の有するイメージや国際性に反し、米国政府等に対する関係で国際信義に反する結果になる。」旨、主張する。 そこで、以下、この点について検討する。 ア ハーベイ・ボール及び「ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団」(以下、「ハーベイ・ボール財団」という。)による慈善活動・ボランティア活動について、請求人の主張及び請求人の提出した証拠によれば、以下の事実が認められる。 (ア)アメリカ国内では、ハーベイ・ボールにより及びハーベイ・ボールの死後はハーベイ・ボール財団により、1999年から、スマイルを世界平和のシンボルにするとの目標で「ワールド・スマイル・デイ」のイベントがハーベイ・ボールの居住地であるマサチューセッツ州ウスター市で、毎年10月の第一金曜日を開催日として開催されており、2008年で10回目(10年目)となる(甲第6号証)。 (イ)「ハーベイ・ボール財団」は、ハーベイ・ボールの死去後、同人の息子のチャールズ・ボールを代表者として、2001年4月に設立された。 (ウ)甲第27号証は、「ハーベイ・ボール財団」の日本版webサイトの写しと認められるところ、1枚目には、大きく引用図形が表示されている。 また、9枚目には、「ボールが最近力を入れているのが、このマークを『世界平和の礎』とすべく、毎年10月1日を目標に開催される、ワールド・スマイル・デイのボランティアでの活動である。」 さらに、35枚目には、「12.ユニセフに協力を始める」、「財団法人日本ユニセフ協会の最新の活動で、特に力を入れているのは『子供の健康と未来のため』の『教育・福祉・救援活動』です。この活動は、私達の『ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団』が目指す『スマイリーにより子供達に平和を』と一致するものであり、新たに『スマイル国民運動』の一つの大きなテーマとするため、一般企業向けの『キャンペーン商品』の売上の一部を『財団法人日本ユニセフ協会』に寄付し、その活動をバックアップすることにしました。」、「ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団ではこの度、一般企業向けの『キャンペーン商品』の開発・展開をはじめます。これは、一般企業が、『キャンペーン商品』を一括購入してもらい、企業の社員、その家族、取引先などに無料配布してもらうことで、スマイル国民運動を一層拡大させていこう、というものです。各企業の参加が待たれています。」等の記載がある。 加えて、46枚目には、「18.スマイル商品事業展開」、「ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団の『ワールド・スマイル・デイ』活動を支える大きな基金は『スマイル商品化事業』である。現在は、主に日本で行っており、スマイル・フェイス商品を多くの日本人の方々に提供し多くの支持を受けている。この事業は一般の商品販売とは異なり、アメリカのハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団の『ワールド・スマイル・デイ』の活動を支えるものであり、間接的に世界中に大きく貢献している」、「スマイリー・フェース商品化代理人は、『JASS INTERNATIONAL INC.』です。商品化は当社の許可を得てください。」等の記載がある。 (エ)甲第28号証は、「ハーベイ・ボール財団」の米国版webサイトの写し及びその日本語訳と認められるところ、1枚目には、大きく引用図形が表示されている。 また、5枚目には、「WORLD SMILE CORPOLATIONでは様々な公認『Signature Smiley』グッズを用意しています。」、「『Signature Smiley』ポスター各種。」の文字が書されている。 (オ)甲第29号証ないし甲第32号証の2の2には、「名誉スマイル大使」の氏名が表示されている。 (カ)甲第34の19には、ハーベイ・ボール財団協賛した、2004年7月29日、原宿・竹下通り商店会主催の「スマイルタウン」イベントの記事及び写真か表示されている。 (キ)甲第32号証の2の3には、2008年8月15日から9月15日まで、「原宿竹下通り」行われた「スマイル・キャンペーン」の様子を写した写真の写しと認められる。 (ク)甲第34号証の1は、「SMILEY FACE スマイリー・フェイス」と題する「ハーベイ・ボール財団 日本支部」のパンフレット風の印刷物、甲第34号証の2ないし28は、「SMILE NEWS」と題する「ハーベイ・ボール財団 日本支部」の機関誌と認められる。 そして、「SMILE NEWS 2004年夏号 VOL.17」(甲第34号証の18)には、「スマイル・オフィシャル・ショップ」が紹介されている。 (ケ)甲第36号証の2は、ハーベイ・ボール財団が「JASS INTERNATIONAL」と契約し、「SMILEY FACE及びそのマーク」を使用して独占的に商品化を行うことを委任したことなどを通知する2001年11月13日付けの宛先を「各位」とするお知らせ文書である。 なお、当該委任の時期は不明であり、また、「SMILEY FACE及びそのマーク」がどのようなものであるかは、示されていない。 イ 上記アで認定した事実よりすれば、ハーベイ・ボール財団が、「スマイルを世界平和の礎にする」ことを目的とする活動を行い、その活動において「スマイリーフェイス」をシンボルマークとして使用していること及びハーベイ・ボール財団の活動に関して、米国のウスター市及びマサチューセッツ州が「ワールドスマイルデイ」の取り組みについて協力していることは認めることができる。 しかしながら、「スマイルを世界平和の礎にする」とのハーベイ・ボール財団の目的は、慈善活動の目的としては具体性がない。 また、請求人の提出に係る証拠によっては、ウスター市、マサチューセッツ州又は米国政府が「ワールドスマイルデイ」の活動に主体的に取り組んでいるとまでは認めることはできない。 また、「ワールドスマイルデイ」のイベントも、米国の一都市であるウスター市において、1999年から毎年1回行われているにすぎない。 また、請求人は、ハーベイ・ボール財団の「スマイリーフェイス」による慈善事業のための「スマイル大使」に世界的な著名人が多数参加し、多数の企業が慈善活動に資金提供をしている主張している。 確かに、ハーベイ・ボール財団が著名人に働きかけ、一定の賛同を得ていることは認められるものの、それは一個人としての賛同にすぎないし、さらに、多数の企業がその慈善活動のために資金を提供しているという証拠もない。 加えて、ハーベイ・ボール財団に関して提出された証拠の多くは、ハーベイ・ボール財団のWEBサイトの写しやハーベイ・ボール財団の機関誌であるところ、WEBサイトのインターネット上への掲載時期は不明であり、また、上記機関誌の発行部数、配布先等については、全く不明である。 そして、ハーベイ・ボール財団が行っているイベントも、「ワールドスマイルデイ」は、上で述べたとおり、米国の一都市においてなされているにすぎないものであり、我が国でハーベイ・ボール財団が協力して行っているイベントも、原宿竹下通りなどの狭い地域において、短期間行われたにすぎない。 さらに、ハーベイ・ボール財団又はハーベイ・ボール財団から使用許諾を受けている者が、「スマイリーフェース」の商品を、いつから、どの程度販売したか等について何らの証拠の提出もなく、また、取引者・需要者が、当該商品が、ハーベイ・ボール財団の行う慈善活動のための商品であると認識していたとする証拠の提出もない。 以上の事実を総合勘案すれば、請求人の提出する証拠によっては、ハーベイ・ボール財団については、米国及び我が国において一財団としての活動の事実があるというにすぎず、引用図形がハーベイ・ボール財団の行う慈善活動を表示するシンボルとして知られていると認めることはできない。 さらに、本件各商標中、登録第4105304号商標及び登録第4123998号商標及び登録第4132919号商標及び登録第4135567号商標及び登録第4144129号商標及び登録第4144134号商標及び登録第4379711号商標及び登録第4383223号商標については、別掲のとおり、ハーベイ・ボール財団が設立された2001年4月以前に、すでに設定登録されていることをも考えあわせれば、本件各商標は、国際信義に反して登録されたものではない。 (3)請求人は、「スマイリーフェイス」が、米国の70年代のシンボルとして米国郵政公社発行の記念切手のデザインに採用されこと(甲第34号証の28)、1994年に公開された米国映画「フォレスト・ガンプ 一期一会」に登場したこと(甲第8号証)などを挙げ、「ハーベイ・ボールの創作・著作に係る『スマイリーフェイス』は、米国の1970年代を代表する歴史的意義を有している。」ことを挙げ、本件各商標の登録は国際信義に反する旨主張している。 しかしながら、「スマイリーフェイス」が1970年代に米国で流行したとしても、そのことによって、本件各商標の登録が、国際信義に反するということはできない。 ウ 小括 以上のとおりであるから、本件各商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものではない。 2 商標法第4条第1項第15号該当性について 請求人は、「『スマイリーフェイス』は、『スマイリーフェイス』の創作・著作者である故ハーベイ・ボール及び同人の正当な承継人、殊にハーベイ・ボール財団及びその関係団体の業務又はそれらの者から許諾を得て業務を行っている者の業務(「他人の業務」)に係る商品を表示するものとして、我が国又は外国におけるキャラクター・マーチャンダイジング業界に関係する業者(一次需要者)や商品の購入者(二次需要者)の間に広く認識されている。したがって、本件各商標をその指定商品に使用しても他人の業務に係る商標と混同を生ずるおそれがあり、本件各商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。」旨主張する。 商標法第47条は、商標登録が第4条第1項第15号の規定に違反してされたとき(不正の目的で商標登録を受けた場合を除く。)は、その商標登録についての同法第46条第1項の審判は、商標権の設定の登録の日から5年を経過した後は、請求することができない旨を規定している。 しかして、本件各商標が、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものではないことは、上記3認定のとおりであり、他人に使用権を許諾し使用料を取得することが、直ちに、不正の目的に当たるということはできないことは、下記3認定のとおりである。その他、本件各商標が「不正の目的で商標登録を受けた」とする理由も見いだせない。 したがって、本件各審判請求は、「(不正の目的で商標登録を受けた場合を除く。)」の規定には、当たらないというべきである。 そして、本件各商標の設定登録日は、別掲1のとおりであり、本件各審判の請求日は、登録第4105304号商標が平成20年9月9日、登録第4379711号商標及び登録第4383223号商標及び登録第4622477号商標が平成20年9月11日、登録第4123998号商標及び登録第4144134号商標が平成20年9月12日、登録第4132919号商標及び登録第4144129号商標及び登録第4135567号商標が平成20年9月16日、登録第4625160号商標が平成20年9月17日であるから、本件各審判の請求は、商標権の設定の登録の日から5年を経過した後になされたものである。 してみれば、本件各商標が商標法第4条第1項第15号に該当するとの請求人の主張は、不適法なものであるから、その主張を認めない。 3 商標法第4条第1項第19号該当性について 請求人は、「『スマイリーフェイス』は、『スマイリーフェイス』の創作・著作者である故ハーベイ・ボール及び同人の正当な承継人、殊にハーベイ・ボール財団及びその関係団体の業務又はそれらの者から許諾を得て業務を行っている者の業務(「他人の業務」)に係る商品を表示するものとして、我が国又は外国におけるキャラクター・マーチャンダイジング業界に関係する業者(一次需要者)や商品の購入者(二次需要者)の間に広く認識されている。したがって、本件各商標をその指定商品に使用しても他人の業務に係る商標と混同を生ずるおそれがある。また、本件各商標は、被請求人によって不正の目的をもってライセンス目的で使用されているものである。したがって、本件各商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。」旨主張する。 しかしながら、「不正の目的」については、商標法が使用許諾制度を採用していることからすれば、他人に使用権を許諾し使用料を取得することが、直ちに、不正の目的に当たるということはできない。 また、上記1で認定したとおり、引用図形が、ハーベイ・ボール財団及びその関係者の業務に係る商品を表示する商標として広く知られているとは認められない。 したがって、本件各商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。 4 商標法第3条第1項第6号 商標法第47条は、商標登録が第3条の規定に違反してされたときは、その商標登録についての同法第46条第1項の審判は、商標権の設定の登録の日から5年を経過した後は、請求することができない旨を規定している。 しかして、本件各審判の請求は、上記2で認定したとおり、商標権の設定の登録の日から5年を経過した後になされたものである。 してみれば、本件各商標が商標法第3条第1項第6号に該当するとの請求人の主張は、不適法なものであるから、その主張を認めない。 5 むすび 本件各商標は、商標法第4条第1項第7号、同第15号、同第19号並びに同法第3条第1項第6号に違反して登録されたものでなく、同法第46条第1項第1号の規定により無効とすることはできない。 |
別掲 |
【別記】 (2)登録第4123998号商標(無効2008-890076) (ア)商標の構成 登録第4105304号商標(別掲(1))と同じ (イ)登録出願日:平成8年5月16日 (ウ)設定登録日:平成10年3月13日 (エ)指定商品:第18類「かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,乗馬用具」 (イ)登録出願日:平成8年5月31日 (ウ)設定登録日:平成10年4月10日 (エ)指定商品:第12類「船舶並びにその部品及び附属品,航空機並びにその部品及び附属品,鉄道車両並びにその部品及び附属品,自動車並びにその部品及び附属品,二輪自動車並びにその部品及び附属品,自転車並びにその部品及び附属品,乳母車,車いす,人力車,そり,手押し車,荷車,馬車,リヤカー,荷役用索道,カーダンパー,カープッシャー,カープラー,牽引車,陸上の乗物用の動力機械器具,陸上の乗物用の機械要素,陸上の乗物用の交流電動機又は直流電動機,タイヤ又はチューブの修繕用ゴムはり付け片,乗物用盗難警報機,落下傘」 (4)登録第4135567号商標(無効2008-890081) (ア)商標の構成 登録第4132919号商標(別掲(3))と同じ (イ)登録出願日:平成8年5月31日 (ウ)設定登録日:平成10年4月17日 (エ)指定商品:第28類「遊戯用器具,囲碁用具,将棋用具,さいころ,すごろく,ダイスカップ,ダイヤモンドゲーム,チェス用具,チェッカー用具,手品用具,ドミノ用具,マージャン用具,ビリヤード用具,おもちゃ,人形,愛玩動物用おもちゃ,運動用具,スキーワックス,釣り具」 (5)登録第4144129号商標(無効2008-890079) (ア)商標の構成 登録第4132919号商標(別掲(3))と同じ (イ)登録出願日:平成8年5月31日 (ウ)設定登録日:平成10年5月15日 (エ)指定商品:第14類「貴金属,貴金属製の花瓶及び水盤,貴金属製宝石箱,貴金属製喫煙用具,身飾品,宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品,記念カップ,記念たて」 (6)登録第4144134号商標(無効2008-890077) (ア)商標の構成 登録第4132919号商標(別掲(3))と同じ (イ)登録出願日:平成8年5月31日 (ウ)設定登録日:平成10年5月15日 (エ)指定商品:第18類「皮革,かばん金具,がま口口金」 (7)登録第4379711号商標(無効2008-890072) (ア)商標の構成 登録第4132919号商標(別掲(3))と同じ (イ)登録出願日:平成8年5月31日 (ウ)設定登録日:平成12年4月28日 (エ)指定商品:第30類「コーヒー豆,食品香料(精油のものを除く。),米,脱穀済みの大麦,食用粉類,食用グルテン,穀物の加工品,サンドイッチ,すし,ピザ,べんとう,ミートパイ,ラビオリ,即席菓子のもと,アーモンドペースト,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,氷,アイスクリーム用凝固剤,家庭用食肉軟化剤,ホイップクリーム用安定剤,酒かす」 (イ)登録出願日:平成8年12月17日 (ウ)設定登録日:平成12年5月19日 (エ)指定商品:第34類「たばこ,喫煙用具(貴金属製のものを除く。),マッチ」 (9)登録第4622477号商標(無効2008-890074) (ア)商標の構成 登録第4105304号商標(別掲(1))と同じ (イ)登録出願日:平成8年5月16日 (ウ)設定登録日:平成14年11月22日 (エ)指定商品:第30類「菓子及びパン」 (10)登録第4625160号商標(無効2008-890082) (ア)商標の構成 登録第4383223号商標(別掲(8))と同じ (イ)登録出願日:平成8年12月17日 (ウ)設定登録日:平成14年11月29日 (エ)指定商品:第21類「ガラス基礎製品(建築用のものを除く。),なべ類,コーヒー沸かし(電気式又は貴金属製のものを除く。),鉄瓶,やかん,食器類(貴金属製のものを除く。),アイスペール,泡立て器,魚ぐし,携帯用アイスボックス,こし器,こしょう入れ,砂糖入れ及び塩振り出し容器(貴金属製のものを除く。),卵立て(貴金属製のものを除く。),ナプキンホルダー及びナプキンリング(貴金属製のものを除く。),盆(貴金属製のものを除く。),ようじ入れ(貴金属製のものを除く。),米びつ,ざる,シェーカー,しゃもじ,手動式のコーヒー豆ひき器及びこしょうひき,じょうご,食品保存用ガラス瓶,水筒,すりこぎ,すりばち,ぜん,栓抜き,大根卸し,タルト取り分け用へら,なべ敷き,はし,はし箱,ひしゃく,ふるい,まな板,魔法瓶,麺棒,焼き網,ようじ,レモン絞り器,ワッフル焼き型(電気式のものを除く。),清掃用具及び洗濯用具,おけ用ブラシ,金ブラシ,管用ブラシ,工業用はけ,船舶ブラシ,ブラシ用豚毛,洋服ブラシ,ガラス製又は陶磁製の包装用容器,かいばおけ,家禽用リング,アイロン台,植木鉢,家庭園芸用の水耕式植物栽培器,家庭用燃え殻ふるい,紙タオル取り出し用金属製箱,霧吹き,靴脱ぎ器,こて台,じょうろ,寝室用簡易便器,石炭入れ,せっけん用ディスペンサー,貯金箱(金属製のものを除く。),トイレットペーパーホルダー,ねずみ取り器,はえたたき,へら台,湯かき棒,浴室用腰掛け,浴室用手おけ,ろうそく消し及びろうそく立て(貴金属製のものを除く。),花瓶(貴金属製のものを除く。),ガラス製又は陶磁製の立て看板,香炉,水盤(貴金属製のものを除く。),風鈴」 |
審理終結日 | 2009-08-21 |
結審通知日 | 2009-08-28 |
審決日 | 2009-08-21 |
出願番号 | 商願平8-59181 |
審決分類 |
T
1
11・
222-
Y
(012)
T 1 11・ 16- Y (012) T 1 11・ 22- Y (012) T 1 11・ 271- Y (012) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 蛭川 一治 |
特許庁審判長 |
井岡 賢一 |
特許庁審判官 |
鈴木 修 内山 進 |
登録日 | 1998-04-10 |
登録番号 | 商標登録第4132919号(T4132919) |
代理人 | 唐牛 歩 |
代理人 | 太田 恵一 |
代理人 | 金塚 彩乃 |