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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W02
審判 全部申立て  登録を維持 W02
管理番号 1328060 
異議申立番号 異議2016-900390 
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-12-09 
確定日 2017-04-28 
異議申立件数
事件の表示 登録第5881888号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第5881888号商標の商標登録を維持する。
理由 第1 本件商標
本件登録第5881888号商標(以下「本件商標」という。)は、「MAGIC SPRAY」の欧文字を標準文字で表してなり、平成27年12月3日に登録出願され、第2類「スプレー式の染料,スプレー式の顔料,スプレー式の塗料,スプレー式の防錆グリース」を指定商品として、同28年8月17日に登録査定、同年9月16日に設定登録されたものである。

第2 登録異議の申立ての理由
登録異議申立人(以下「申立人」という。)は、本件商標は、商標法第4条第1項第15号及び同項第19号に違反してなされたものであり、同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第31号証を提出した。
1 引用商標
申立人が引用する登録商標は、以下のとおりであり、いずれも現に有効に存続しているものである。
(1)登録第433990号商標(以下「引用商標1」という。)は、別掲1のとおり、「MAGIC」の欧文字及び「マジック」の片仮名を二段に横書きした構成よりなり、昭和27年10月8日に登録出願、第51類に属する「文房具」を指定商品として、同28年10月31日に設定登録されたものである。そして、平成15年12月24日に指定商品を第2類「印刷インキ(「謄写版用インキ」を除く。),謄写版用インキ」及び第16類「文房具類(海綿・紙製下げ札・紙製シール・紙製しおり・紙製値札・紙製はり札・紙製文房具・紙製ラベル・革ふみばこ・黒板・三角定規・定規・そろばん・短冊・地球儀・トレーシングクロス・水引を除く。)」とする指定商品の書換登録がされたものである。
(2)登録第505149号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲2のとおりの構成よりなり、昭和31年10月6日に登録出願、第51類に属する「インキ」を指定商品として、同32年7月10日に設定登録されたものである。そして、平成19年2月28日に指定商品を第16類「インキ」とする指定商品の書換登録がされたものである。
(3)登録第505150号商標(以下「引用商標3」という。)は、別掲3のとおりの構成よりなり、昭和31年10月6日に登録出願、第51類に属する「インキ」を指定商品として、同32年7月10日に設定登録されたものである。そして、平成19年2月28日に指定商品を第16類「インキ」とする指定商品の書換登録がされたものである。
(4)登録第505151号商標(以下「引用商標4」という。)は、別掲4のとおりの構成よりなり、昭和31年10月6日に登録出願、第51類に属する「インキ」を指定商品として、同32年7月10日に設定登録されたものである。そして、平成19年2月28日に指定商品を第16類「インキ」とする指定商品の書換登録がされたものである。
(5)登録第832396号商標(以下「引用商標5」という。)は、別掲5のとおりの構成よりなり、昭和41年11月24日に登録出願、第25類に属する「インキ」を指定商品として、同44年9月24日に設定登録されたものである。そして、平成21年4月30日に指定商品を第16類「インキ」とする指定商品の書換登録がされたものである。
(6)登録第2714251号商標(以下「引用商標6」という。)は、別掲6のとおりの構成よりなり、平成元年12月26日に登録出願、第25類に属する「フェルトペン」を指定商品として、同8年5月31日に設定登録されたものである。そして、平成19年12月5日に指定商品を第16類「フェルトペン」とする指定商品の書換登録がされたものである。
以下、上記引用商標1ないし引用商標6をまとめていうときは「引用商標」という。
2 具体的理由
(1)申立人及び引用商標の使用権者について
引用商標は寺西化学工業株式会社により、昭和28年4月より「フェルトペン」及びその「補充インキ」に使用されてきている。
申立人は、1910年(明治43年)に創業し、社歴が100年を超える企業である。申立人の資本金は50億円、平成28年度における売上高は138,210百万円である(甲9)。
引用商標の使用権者寺西化学工業株式会社(以下「使用権者」という。)は、大正5年(1916年)に創業し、社歴が100年となる企業であり、資本金は8000万円である(甲10)。
両社の関係は昭和26年(1951年)にまで遡る。申立人の当時の社長の内田憲民氏がアメリカの進んだ産業界を視察し、戦後復興に役立てようという目的の「アメリカ産業視察団」に参加し、現地で「スピードライ社」が発売しているフェルトペン先を使った新しいタイプの筆記具を買い付けた。日本で開かれた見本市にかかる筆記具が出展され、これを見た使用権者の当時の社長の寺西長一氏が内田氏に新しいペンの研究開発をしたい旨申し出たことから始まった。
1年余り試行錯誤を繰り返して日本で最初の油性マーキングペンの開発に成功した。
「どんなものにもよく書ける」というこれまでにない新しい筆記具ということから、日本初のマーキングペンの名称を「魔法のインキ」という意を込めて、申立人の当時の社長が「マジックインキ」と命名した。そして、共同開発者である申立人により商標「MAGIC\マジック」(甲2)が出願され、登録された。
発売当初は、1日に2・3本しか販売できないというなかで、新聞・雑誌広告をベースに、マジックインキのCMソングを流し、大阪の梅田新道沿いのビルの屋上にネオンサインを設置するなどの宣伝広告活動を行った。
昭和32年(1957年)に漫画家長崎抜天氏が日比谷公会堂で、舞台の端から端までの長大な紙にインキの補充もせずに一気に漫画を描き上げ、驚く聴衆に向かって「魔法のタネはこれだ!」といってマジックインキを見せたパフォーマンスが新聞で取り上げられ、これによってマジックインキは世間の注目を集めることになった。
また「裸の大将」として知られる山下清氏がマジックインキを使用した点描画を発表したことからも、マジックインキは全国に知れ渡ることになった。
高度経済成長期には、マジックインキの持つ「どんなものによく書け、速乾・耐水性である」という特徴が知られていき、学校の美術教材、家庭・事業所の封書や小包や梱包の宛名書きには必要不可欠なものとなった。
今日では、一般事務用のみならず、水を使用する水産業者・青果業者用、家具・カメラ部品などの塗装補修用、製靴業者の皮革の染め用、病院・研究所のサンプル容器のネーム付け、精密機械部品の防錆、防蝕用、プリント基板へマーク用、原子力配管のマーキング用にも使用されるようになっている。また、札幌雪祭りの雪像作りにおいて氷の上にマジックインキを使用して線が引かれる様子がテレビで放映された。さらに、F1レースで使用されるタイヤの溝にもマーキングのために使用されている(甲11?甲14)。
このように申立人の引用商標は申立人及び使用権者による長年にわたる努力の上に築き上げられた信用が化体された著名商標である。
(2)商標法第4条第1項第15号該当性の判断について
ア 引用商標の周知著名性について
上記(1)のとおり、昭和28年(1953年)4月から現在まで引用商標は「フェルトペン及び補充インキ」に使用されている(甲12)。
2007年から2016年の「マジックインキ」の年間販売本数は年間平均2000万本であり、10年間で2億1,100万本を販売してきた。「マジックインキ」の売り上げも年間平均12億円であり、2007年から2016年の10年間で130億円となっている。広告宣伝費も10年間で3億8千万円をかけてきている(甲15)。
使用権者のホームページによると現在まで、販売総数は30億本を超える(甲16)。
2007年には「マジックインキ ツインマーカー マジェスター」がグッドデザイン賞を受賞している(甲17)。
2008年には、「マジックインキ」はグッドデザイン・ロングライフデザイン賞を受賞している(甲18)。
また、「Art Magic」に対する平成11年異議第91303号において申立人の「magic ink」、「マジックインキ」等が「フェルトペン、サインペン」に長く使用されていることから、係る商標が、「我が国における取引者・需要者の間において広く知られている」と認定されている(甲19)。
引用商標6「マジックインキ」は、日本国周知・著名商標と認められている(甲8)。
申立人は長年にわたり、引用商標について宣伝を行ってきている(甲20?甲22)。
また、近年は他社と提携してフェルトペン以外の商品にも引用商標が使用されている(甲23)。
さらに、平成28年(2016年)8月マジックインキ大型と同型の消しゴムを使用権者が販売して人気を博している(甲24)。
以上から、本件商標の出願時及び登録査定時に引用商標が日本において著名であったことは明らかである。
イ 出所の混同を生ずるおそれについて
本件商標中「SPRAY」は、指定商品との関係で「スプレー式」という容器の形態を示すものであり、本件商標の要部は「MAGIC」である。
申立人・使用権者の商品は「マジックインキ」又は「マジック」と称呼されることから、本件商標は申立人・使用権者の商標と混同を生ずるおそれがある商標であることは明らかである。
ウ 本件商標の指定商品と引用商標の商標を使用した商品の関連性並びに取扱者及び需要者の共通性について
上記(1)で述べたとおり、「マジックインキ」、「マジック」商品は一般事務のみならず、水産業者・青果業者用の現場、家具・カメラ部品などの塗装補修用、製靴業者の皮革の染め用、病院・研究所のサンプル容器のネーム付け、精密機械部品の防錆、防蝕用、プリント基板へマーク用、原子力配管のマーキング用にも使用されるようになっている。
すなわち、1990年代からは産業用途の業務用マーカーとして広い分野で「マジックインキ」、「マジック」は使用されている。液晶フィルムや半導体のプリント基板、自動車・二輪メーカーのパーツのチェック用としても使用されている。さらに精密機械部品メーカーで使用される防錆・防蝕材としても使用されている。また、腐食しない低ハロゲン・低硫黄インキを使用した「マジックインキ」、「マジック」を開発し、原子力用のステンレス容器・配管のマーキング用としても使用されている(甲28)。
本来の使用方法とは異なるがフジツボが船体に付着しないようにするために、船底保護塗料にマジックインキの補充液を混ぜるということが行われている(甲29)。
このように広い分野で使用されているため、本件商標が指定商品「スプレー式の染料,スプレー式の顔料,スプレー式の塗料,スプレー式の防錆グリース」に使用されると、「マジックインキ」、「マジック」の使用者と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務にかかる商品ではないかと誤認されることは明らかである。
さらに、スプレー式の画用液が販売されているので、本件商標に接した需要者・取引者は「マジックインキ」、「マジック」がスプレー式で販売されていると出所の誤認混同するおそれがある(甲30)。
本件商標の指定商品は、塗料を取り扱う店舗において取り扱われるものであるが、引用商標の指定商品も文房具の域を超えた幅広い使用がなされている。塗料を扱うホームセンターでは塗料の横にマーカーが販売されており、本件商標の指定商品と申立人の商品とは販売場所、需要者を共通にするものである(甲31)。
以上から、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、本件商標をその指定商品に使用した場合、これに接する需要者が、普通に払われる注意力を持ってして、周知著名な商標である引用商標を連想、想起して、これらの商品が申立人・使用権者、あるいは申立人・使用権者と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であると誤認するおそれがある。
よって、本件商標の指定商品についての登録は、商標法第4条第1項第15号に該当するものであり、同法第43条の2第1号によりその登録を取り消すべきである。
(3)商標法第4条第1項第19号について
長年の申立人の努力により著名となっている引用商標と本件商標の要部とは同一又は類似するものであり、申立人とは何らの関係のない第三者によって使用された場合、申立人の商標の出所表示機能が希釈化され、また、それに化体した信用、名声が毀損されるおそれがある。
そして、引用商標と要部が同一の標章を採択したことは、本件商標の商標権者が引用商標の名声及び信用にただ乗りしようという意図があったからと推認される。
よって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第19号に違反してなされたものであり、同法第43条の2第1号により登録を取り消すべきである。
3 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号及び同項第19号に違反してなされたものであり、同法第43条の2第1号により取り消されるべきである。

第3 当審の判断
1 引用商標の周知・著名性
申立人の提出に係る甲第10号証ないし甲第18号証、甲第20号証ないし甲第22号証によれば、申立人が所有する「マジックインキ」、「Magic」、「マジック」の文字を要部とする引用商標を、製造・販売元である使用権者が「マーカー,フェルトペン,補充用インキ」に、1953年から使用し、カタログ、新聞、雑誌、ウェブサイト記事などの媒体や実演販売などを通じて宣伝・広告をした結果、本件商標の商標登録出願前から我が国における取引者・需要者の間において広く知られていたものであると認めることができる。
しかしながら、申立人の提出に係る上記証拠をもってしては、「マーカー,フェルトペン,補充用インキ」などの商品の範囲を超えてまで著名性を獲得していたと認めることはできない。
2 本件商標と引用商標との類似性
本件商標は、前記第1のとおり「MAGIC SPRAY」の欧文字を標準文字で表してなるところ、その構成中、後半部の「SPRAY」の語は、「液体を霧状にして吹きつけること。また、そのための装置。」などの意味を有するものであって、その指定商品「スプレー式の染料,スプレー式の顔料,スプレー式の塗料,スプレー式の防錆グリース」との関係においては、商品の構造・機能表示として容易に認識・把握されるものであるから、該文字部分は、自他商品識別標識としての機能を果たし得ないものである。
してみると、本件商標は、その構成中、前半部の「MAGIC」の文字部分に着目して、これより生ずる「マジック」の称呼及び「魔法。魔術。」などの観念をもって取引にあたることも決して少なくないものと判断するのが相当であるから、「MAGIC」、「マジック」の文字を主要部とする引用商標とは、外観、称呼及び観念において類似することがある。
3 本件商標の指定商品と引用商標の指定商品との関連性
本件商標の指定商品は、第2類に属する「スプレー式の染料,スプレー式の顔料,スプレー式の塗料,スプレー式の防錆グリース」であり、一方、引用商標の指定商品は、第2類「印刷インキ(「謄写版用インキ」を除く。),謄写版用インキ」及び第16類「文房具類(海綿・紙製下げ札・紙製シール・紙製しおり・紙製値札・紙製はり札・紙製文房具・紙製ラベル・革ふみばこ・黒板・三角定規・定規・そろばん・短冊・地球儀・トレーシングクロス・水引を除く。)」又は第16類「インキ」及び「フェルトペン」であるから、両者の商品は、商品の用途、目的、性質、品質等において著しく相違するばかりか、商品の生産者、流通系統、販売場所などにおいても明確に相違するものである。
4 商標法第4条第1項第15号該当性について
引用商標の周知性は、上記1のとおり「マーカー,フェルトペン,補充用インキ」などの商品に限られるものであって、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、その商品の範囲を超えて、我が国内の需要者の間に広く認識されていたものとまでは認めることはできないものである。
また、「MAGIC」、「マジック」の文字は、「魔法。魔術。」などの意味を有する一般に親しまれた既成語であり、顕著な特徴を有する創造標章ということもできないものである。
そして、本件商標と引用商標とは、上記2のとおり、類似の商標といえるものであるとしても、本件商標の指定商品と引用商標の指定商品とは、上記3のとおり、商品の生産者、流通系統、販売場所などにおいても明確に相違するものであり、関連性が強いとはいえないものである。
そうすると、本件商標をその指定商品について使用しても、これに接する取引者、需要者が、該商品が申立人・使用権者、あるいは申立人・使用権者と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように連想、想起することはなく、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
5 商標法第4条第1項第19号該当性について
本件商標と引用商標とは、上記2のとおり、類似の商標といえるものであるとしても、「MAGIC」、「マジック」の文字は、「魔法。魔術。」などの意味を有する一般に親しまれた語であり、顕著な特徴を有するということもできないものである。
また、本件商標の指定商品と引用商標の指定商品とは、上記3のとおり、商品の生産者、流通系統、販売場所などにおいても明確に相違するものであって、申立人又は使用権者の業務に係る引用商標とを関連づけなければならないような格別の事由も見出せず、本件商標が引用商標の顧客吸引力にただ乗りしたり、不当に利用するなど、不正の目的をもって使用するものであることを具体的に示す証拠も見当たらない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものということはできない。
6 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号及び同項第19号のいずれにも違反してされたものとはいえないから、同法第43条の3第4項の規定により、維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲 別掲1(引用商標1)



別掲2(引用商標2)(色彩は原本参照。)



別掲3(引用商標3)



別掲4(引用商標4)



別掲5(引用商標5)



別掲6(引用商標6)





異議決定日 2017-04-20 
出願番号 商願2015-119022(T2015-119022) 
審決分類 T 1 651・ 271- Y (W02)
T 1 651・ 222- Y (W02)
最終処分 維持  
前審関与審査官 和田 恵美林 悠貴 
特許庁審判長 青木 博文
特許庁審判官 小松 里美
原田 信彦
登録日 2016-09-16 
登録番号 商標登録第5881888号(T5881888) 
権利者 劉 美華
商標の称呼 マジックスプレー、マジック 
代理人 塚田 美佳子 
代理人 橋本 千賀子 
代理人 特許業務法人深見特許事務所 
代理人 大貫 絵里加 

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