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審決分類 審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) W213341
審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) W213341
審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) W213341
審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) W213341
管理番号 1328052 
異議申立番号 異議2016-900059 
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-03-11 
確定日 2017-03-31 
異議申立件数
事件の表示 登録第5810969号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第5810969号商標の商標登録を取り消す。
理由 第1 本件商標
本件登録第5810969号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、平成27年2月27日に登録出願、第21類「お守り,御札,護符」、第33類「日本酒」及び第41類「映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,大神楽の上演,放送番組の制作,音響用又は映像用のスタジオの提供,娯楽施設の提供,興行場の座席の手配,楽器の貸与」を指定商品及び指定役務として、同年10月28日に登録査定、同年12月4日に設定登録されたものである。

第2 登録異議の申立ての理由
登録異議申立人(以下「申立人」という。)は、本件商標の登録は取り消されるべきであるとして、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第17号証(審尋に対する回答書に添付の提出物件である資料1ないし資料9を、順に甲第9号証ないし甲第17号証とした。)を提出した。
1 商標法第4条第1項第6号について
申立人の前身は、昭和42年設立から平成23年3月31日まで44年間存続した財団法人水府明徳会であるが、内閣府の認定を受け、平成23年4月1日から公益財団法人徳川ミュージアムと名称を改め、民法特例法人から公益財団法人へ移行した(甲2ないし甲4、甲10)。
申立人は、長年にわたり自己の業務に関して、現水戸徳川家の家紋を標章(以下「引用使用標章」という。甲2)として使用しており、本件商標の出願日である平成27年2月27日時点においては著名標章として確立していたものである。
商標権者は、水戸在住者であり(甲5)、そのことを十分知った上で、申立人の標章と「うり二つ」の本件商標を自己の営利の目的のために登録したものであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第6号に該当する。
2 商標法第4条第1項第7号について
商標権者は、その住所が申立人の展示館と同じ水戸市にあるので、申立人の公益財団法人の使用する引用使用標章が著名標章であることを十分承知している。また、水戸市においては、水戸徳川家を地域興しの重要素材として申立人が所蔵する文化財や有形無形の伝統文化財の保護推進を進めて今日に至っている(甲13)。
このような状況下で、引用使用標章とは無関係の私企業が商標権を取得して独占的にこれを単独使用することは、ひとり申立人のみならず、既にその地において引用使用標章を使用する人々を含めた社会公共の利益に反するものであり、「これを指定商品に商標として使用することが、社会公共の利益に反し、又は、社会の一般的道徳観念に反するような場合に、その登録を拒否すべきことを定めているものと解するのを相当」(東京高裁昭和26年(行ナ)第29号)に該当するばかりでなく、その商標登録取得行為は、著名な申立人の標章の剽窃的商標の登録に該当するから、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
3 商標法第4条第1項第15号について
申立人の展示館には、水戸徳川家のゆかりの品々のミニチュアなどが販売されており(甲8)、会場や販売される品々には、申立人の著名な引用使用標章が付されている。
そして、水戸には水戸徳川家の先祖を祀る神社が複数あり、祭事が営まれ、御札やお守りなどが取り扱われている(甲14)。また、御酒や大神楽なども、それら御祭の神事に包含される。それゆえ、本件商標が使用されることは、申立人の行事や事業との間に誤認や混同を起こすおそれがあるから、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
4 商標法第4条第1項第19号について
商標権者は、茨城県水戸市に所在する企業であるから、他県のいずれの人々よりもより水戸市及び申立人に係る知識・情報に詳しい者である。また、本件商標の出願時において、引用使用標章は十分な著名性を有していた。
さらに、商標権者は、3件の葵図形の商標権を所有しており(甲7)、その3番目のものである本件商標は、葵の弁が従来の11枚から引用使用標章と弁数の同じ13枚弁に変更され、輪郭線も太く改変され、申立人の著名な引用使用標章そのものに変更されている。その変遷の過程及び変化は、権利者が意図的に引用使用標章に限りなく近づくことを意図したものと客観的に判断することができ、商標法第4条第1項第19号の定める「不正の目的」の要件を充足することから、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。

第3 当審における取消理由(要旨)
当審において、商標権者に対し、「(1)本件商標は、公益に関する団体であって営利を目的としないもの又は公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名なものと極めて類似する商標というべきであるから、商標法第4条第1項第6号に該当する。(2)本件商標は、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標というべきであるから、商標法第4条第1項第15号に該当する。(3)本件商標は、他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内における需要者の間に広く認識されている商標と類似の商標であって、不正の目的をもって使用をするものというべきであるから、商標法第4条第1項第19号に該当する。(4)本件商標は、公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標というべきであるから、商標法第4条第1項第7号に該当する。」旨の取消理由を平成28年11月29日付けで通知した。

第4 商標権者の意見
商標権者は、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第6号、同項第15号、同項第19号及び同項第7号に違反してされたものではないと主張し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第12号証及び参考資料1ないし17を提出した。
1 商標法第4条第1項第6号について
(1)引用使用標章の著名性について
三つ葉葵紋は、徳川家等を表示する家紋として著名ではあるが、公益財団法人徳川ミュージアム(申立人)など特定の者を表示する標章として著名ではない。
引用使用標章は、ウェブサイト(甲2の1)、2015年2月7日開催の徳川ミュージアムの集いの案内(甲2の3)、パンフレットの表紙に使用されているくらいで、申立人を表示するものとして使用されたことを示す証拠は非常に少なく、客観的に著名性を証明する事実が見当たらず、三つ葉葵紋が申立人を表示する標章として著名であるとは到底いえない。
申立人の美術館である「徳川ミュージアム」(以下「申立人美術館」という。)のある茨城県水戸市に長く住んでいても申立人美術館の存在を知る人も少なく、商標権者自身、申立人美術館の近くに住んでいながら、申立人美術館の存在を認識していなかった。
(2)商標権を管理する立場について
現在、家紋の使用について特別な場合(商標登録など)を除いて制限はない。そもそも、水戸徳川家当主が家紋を使用及び管理する法的根拠は存在していない。法律の根拠なく家紋を使用及び管理する権利を発生させることはできず、その権利に基づく使用及び管理の許諾も意味のないものである。
三つ葉葵紋は、申立人以外の者に商標登録されており(参考資料1?9)、申立人にも商標登録がされている(参考資料10?12)。すなわち、商標登録を受けた者がその商標権を管理する立場にあるといえる。
(3)商標権者について
徳川家の代々の当主は、城下で功績のあった者に三つ葉葵紋の使用を許したと言われており、商標権者の代表者である柳貴家勝蔵(以下、この項において「商標権者」という。)もそれを承継してきた1人である。商標権者が承継した水戸大神楽は、江戸時代に当時の水戸徳川家当主から三つ葉葵紋の使用を許可された御用神楽司から引き継いできた伝統芸能である。水戸大神楽の先人達は「東照宮の祭礼に貢献していたので三つ葉葵の紋を使うことを許された」と申していた、とのことである。これに関して書き付けもあったが、戦災で焼失して現在は残っていない。しかし、水戸藩の御用神楽であったことを示す種々の品々及び記録が残っている(乙5)。すなわち、商標権者が大神楽の上演等について三つ葉葵紋の商標登録を受ける資格があると考えられる。
なお、大神楽では、神に奉納する神楽を演じるとともに、御神酒(日本酒)を神前に供え、神札(お札)も出符している。しかし、登録時の指定商品及び指定役務について、大神楽に関する範囲を超えると考えられる部分もあるから、商標権者は、少なくとも大神楽に関する部分だけでも権利を維持したいと考えており、以下、指定商品及び指定役務を大神楽に関するものに限定したものとして説明する。
商標権者は、水戸大神楽の上演等において、古くから三つ葉葵紋を使用し、日本国内だけでなく海外公演も行い、水戸大神楽について撮影した写真が掲載された書籍も発行している(乙6?乙8)。そして、水戸大神楽が「茨城県無形民俗文化財」及び「水戸市無形民俗文化財」に指定された平成20年11月17日には、著名になっていたものといえる。
商標権者は、少なくとも昭和62年から様々な行事に出演し、茨城県内各地でお祓い廻りをしてきた実績がある。その当時から三つ葉葵紋を使用して水戸大神楽を演じてきている。
大神楽は、元々、神社にお参りに来ることができない信者のために獅子舞を連れて信者の家々をお祓いして廻るものであり、神道の神事であることから神社と同じ扱いであり、玉串料に相当するものを頂くことはあるにしても、営利を目的としない事業である。
そうすると、商標権者は、公益に関する事業であって営利を目的としない水戸大神楽に関する事業をしており、水戸大神楽に関して表示する標章として三つ葉葵紋を長きに渡り使用して周知・著名にしてきた者であり、無関係の私人という訳ではない。
(4)以上のとおり、本件商標は、公益に関する団体であって営利を目的としないものであって営利を目的としないものを表示する標章であって著名なものと類似する商標ではない。また、商標法第4条第2項により同条第1項第6号の規定は適用されないものといえる。
2 商標法第4条第1項第15号について
(1)他人の業務に係る商品又は役務
異議申立書において、「水戸には水戸徳川家の先祖を祭る神社が複数あり、祭事が営まれ、御札やお守りなどが取り扱われております。また御酒や大神楽なども、それら御祭の神事に包含されます。」と記載されている。ここで包含される大神楽は、商標権者が演じてきた水戸大神楽であり、その際に提供される御札なども同様である。申立人自身が水戸大神楽を上演することはない。
(2)著名性について
申立人が水戸大神楽の上演等に関して引用使用標章を使用したという事実は見当たらない。水戸大神楽の上演等に関して三つ葉葵紋を使用してきたのは商標権者の方であり、周知・著名になっているのも商標権者が三つ葉葵紋を付して演じる水戸大神楽である。水戸大神楽の上演等において、三つ葉葵紋と共に商標権者を表示する標章はあっても、申立人を表示する標章はないといえるから、引用使用標章が水戸大神楽の上演等に関して申立人を表示する標章として著名であるとはいえない。
(3)出所の混同を生ずるおそれについて
水戸大神楽の上演等を表示するものとして三つ葉葵紋を周知・著名にしたのは商標権者である。水戸大神楽の上演等で三つ葉葵紋を見た需要者は商標権者を想起すると考えられることから、商標権者が水戸大神楽の上演等で本件商標を使用しても、その商品又は役務の出所について混同するおそれはない。
(4)以上のとおり、本件商標は、自己の業務である水戸大神楽の上演等を表示する標章として著名であり、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標ではない。
3 商標法第4条第1項第19号について
(1)不正の目的について
商標権者は、自己の業務に係る商品又は役務に関して三つ葉葵紋の使用を許可され、商標として使用してきた者である。そのため、商標権者には、申立人の業務に係る商品又は役務に関して、引用使用標章に化体した顧客吸引力を希釈化させ、その信用、名声を毀損させ若しくはその信用に便乗し不当な利益を得るような意思はない。すなわち、本件商標は、不正の目的をもって商標登録出願したものではない。
一般には複数種のデザインの三つ葉葵紋が使用されており、いずれの三つ葉葵紋であっても、それを使用して第三者が未熟な演技で水戸大神楽を名乗ることは許しがたいことから、順次知り得たデザインの三つ葉葵紋について商標登録の手続を取った次第である。そのため、徐々に引用使用標章に近づけていった訳ではない。
また、商標権者は、水戸市、水戸商工会議所、水戸観光協会、茨城新聞などに対して、水戸大神楽に関する商品又はサービス以外に権利行使しない旨の書面を提出した(乙12)。指定商品又は指定役務の限定は、水戸市近辺の産業に影響を与えないように配慮したいとの商標権者の意思表示である。
商標権者は、水戸市で伝統芸能を保護していく者として、水戸近辺の団体や業者等と協力関係を築くことにも力を注いでいる。
(2)以上のとおり、本件商標は、他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内における需要者の間に広く認識されている商標と類似の商標であって不正の目的をもって使用をするものではない。
4 商標法第4条第1項第7号について
(1)社会の一般道徳観念に反するような場合について
商標権者は、過去に水戸徳川家当主から三つ葉葵紋の使用を許可された御用神楽司から受け継がれてきた伝統芸能を守る立場であり、「茨城県無形民俗文化財」及び「水戸市無形民俗文化財」にも指定されている。すなわち、商標権者は、三つ葉葵紋と何ら関わりのない第三者ではなく、また、商標権者は、我が国の伝統芸能を保護することで歴史的及び文化的に貢献している。
申立人は、自身が水戸大神楽の上演をする訳ではなく、商標権を管理することだけを目的としていることから、商標権者が水戸大神楽の上演等について商標登録を受けても、商標を使用することに関して申立人の利益を害するとは考えられず、剽窃的行為には当たらないといえる。
また、回答書に様々な商品等が掲載されている(甲14)が、三つ葉葵紋が出所の表示になっているものはない。すなわち、申立人美術館で製造・販売したものと識別できるものはなく、三つ葉葵紋を商品のデザインや説明として付しているだけであり、商標的な使用ではない。このような使用態様であれば、観光振興や地域おこしなどの施策の遂行を阻害することにはならない。
なお、嘆願書(甲6)が提出されているが、全て統一の書式に署名と押印だけをしたものである。嘆願書は、各自の事情に基づいて要望するものと解するが、全員が同じ要望をするのは不自然である。
(2)以上のとおり、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標ではない。
5 まとめ
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第6号、同項第15号、同項第19号及び同項第7号に違反してされたものではない。

第5 当審の判断
1 家紋及びそれを巡る状況について
家紋は、我が国において家を識別する紋章であり、紋所、紋とも呼ばれ、古くから血筋、また家系等を表す印として用いられてきた。
そして、現代において、家系等を表す印としては、冠婚葬祭において着用される紋付き袴などの和服、五月人形、兜飾り、墓石、寺院、店舗の暖簾・看板・ウェブサイト等において、代々続く商家等の家を表す印として一般に利用されている実情がある。
このような実情において、特に使用する家が多く、一般的に多く分布する家紋からなる商標を商品又は役務について使用しても、それに接する需要者は、単に商品の製造主や役務の提供主の家系等を認識するにとどまり、特定の商品又は役務の出所を表したものとは認識しない場合も多いと考えられることから、そのような場合には、当該家紋からなる商標は、自他商品又は自他役務の識別標識として機能しないものといえる。
他方、当該家紋に識別力のある文字や図形を組み合わせてなる商標や一部に変更を加えるなどの改変が施されている商標について、その商標全体として識別力が認められ、かつ、当該家紋と類似しない場合、又は、長年にわたって企業の商標として使用されるなど、使用により識別力を有するに至ったと認められる場合には、当該商標は、自他商品又は自他役務の識別標識として機能を有するものといえる。
また、昨今、家紋の中には、時代劇や歴史ドラマ等で取り上げられたり、公益的な事業等を表示するものとして使用されたりする等により、周知・著名性や一定の経済的価値を有するものも存在する。そのような場合、当該家紋と関係ない第三者が商標登録を受けることは、私益若しくは公益の保護又は社会の一般道徳観念の観点から、適当ではないといえる。
2 申立人及びその使用に係る標章並びに商標権者について
(1)申立人について
申立人は、1967(昭和42)年2月23日に設立された、水戸徳川家伝来の品々や文書類を保存・展示公開を行う「財団法人水府明徳会」を前身として、2011(平成23)年3月24日付けで公益財団法人として認可され、同年4月1日から「公益財団法人徳川ミュージアム」と名称を変更したものであり、その目的として「この法人は、水戸徳川家伝来の什宝書籍等の文化財を調査・研究、整理・保存し、広く一般に公開する事業を行い、大日本史編纂の精神を普及し、もってわが国の文化の向上に寄与することを目的とする。この法人は、上記の目的を達成するため、次の事業を行う。(1)歴史的資料・美術品・書籍等の所蔵品・史跡の調査研究を行い、その研究成果を公表し、普及を目的に所蔵品を複製出版すること/(2)徳川ミュージアム及び分館西山荘、史跡水戸徳川家墓所を管理運営し、それに必要な文化財の収集・修復・展示を行うこと/(3)その他この法人の目的を達成するために必要な事業」とあって、実際に、その事業内容は、文化財公開、史跡公開、イベント、調査研究、文化財修復、助成事業等を行っている(甲2、甲4、甲10、甲11、甲13)。
(2)引用使用標章について
引用使用標章は、別掲2のとおりの構成からなるものであり(甲2)、その使用状況は、概略以下のとおりである。
ア 引用使用標章は、水戸徳川家の家紋であった三つ葉葵の紋であり、申立人の前身の財団設立時である1967(昭和42)年にシンボルとして定められた(甲2)。
イ 引用使用標章は、申立人のホームページにおいて、「徳川ミュージアム」「The Tokugawa Museum」の文字と共に使用されている(甲2)。
ウ 引用使用標章は、申立人が主催する講演会のチラシに使用されている(甲2)。
エ 引用使用標章は、申立人美術館において販売する「印籠、携帯ストラップ、はがき、図録、蒔絵シール、付箋」等の商品にも使用されている(甲8)。
オ 申立人の代表者(理事長)は、水戸徳川家の末裔であり、申立人美術館において、水戸徳川家伝来の品々や文書類を保存・展示公開している(甲2、甲11)。なお、申立人の理事長である水戸徳川家15代当主である徳川斉正氏は、申立人に引用使用標章の使用と管理を許諾している(甲9)。
(3)引用使用標章の周知著名性について
ア 徳川家の家紋は、一般に三つ葉葵紋と称され、京都の加茂神社への厚い信仰から使われるようになったものである。そして、徳川家康が天下を取る頃には、徳川の家紋として良く知られるようになり、非常に権威が高くなった(http://okazaki-city.forluck.info/2007/11/post_24.html)。
また、三つ葉葵紋は、一般の使用が禁止され、徳川宗家と御三家(尾張徳川家・紀州徳川家・水戸徳川家)及びその一門(以下「徳川家等」という。)のみが使用を許されるようになったものであり(http://history-land.com/aoimon/#i-2)、御三家それぞれでは、葉の模様(芯)の数の違いがある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E3%81%A4%E8%91%89%E8%91%B5)。
そして、明治以降においても、それぞれの家が三つ葉葵紋を継承してきているものであり、現在においても、三つ葉葵紋は、徳川家康をはじめとする徳川家由来の人物を題材とした時代劇や歴史ドラマにも度々用いられていることも相俟って、その周知・著名性は顕著な事実であるといえる。
イ 上記アによれば、水戸徳川家においても、他の徳川家等と同様に、家紋の使用が継承されているものといえる。
また、申立人は、水戸徳川家伝来の品々や文書類を保存・展示公開等の文化的・経済的価値の維持・管理をしており、申立人のウェブサイト(甲2)には、「申立人のロゴマークに使用している葵紋(引用使用標章)は2代藩主徳川光圀公の旗印に用いられた葵紋であり、昭和42年(1967)、13代公爵徳川圀順公が、財団(申立人の前身である財団法人水府明徳会)を設立された時にシンボルとして定めた。色々な葵の御紋があるが『この紋所が目に入らぬか!』でおなじみの黄門様の印籠の御紋である。徳川ミュージアム(申立人美術館)ではいつでも印籠がご覧いただける。」旨の記載があり、引用使用標章は、昭和42年から、申立人の前身である財団法人水府明徳会のシンボルマークとして管理され、申立人が公益財団法人として認可された平成23年4月1日以降においては、申立人によって管理されているものといえる。
そして、引用使用標章は、水戸徳川家の家紋として使用され、また、申立人ないし申立人美術館の活動に係る各種の宣伝・広告にも使用され、さらに、申立人美術館において販売する商品等にも長年にわたり使用されているものであり、一定の経済的価値を有するものといえる。
ウ 以上によれば、申立人により水戸徳川家伝来の品々や文書類の保存・展示公開等の文化的・経済的価値の維持・管理がされ、その活動とともに引用使用標章は使用されており、引用使用標章は、徳川家等を表示する著名な三つ葉葵紋のうち、水戸徳川家を表示する家紋ないし申立人を表示する標章として、著名なものであって、申立人により管理され、本件商標の登録出願時には著名性を獲得していたものというべきであり、登録査定時においても、その著名性は継続していたというのが相当である。
(4)商標権者等について
ア 茨城県教育委員会及び水戸市役所のウェブサイトには、「水戸大神楽は宝暦2年(1752)、吉田台町の栗林主計が水戸東照宮祭礼に神楽獅子として供奉し(『新編常陸国誌』)、天明5年(1785)、その株を譲り受けた足黒村(東茨城郡茨城町)の宮内求馬が御用神楽司となりました『太田村御用留』)。その後、16代鴨川嘉之助から17代柳貴家正楽へと受け継がれてきました。大神楽は、獅子舞によって悪霊をはらい、合わせて曲芸を演じる芸能です。現在は、柳貴家正楽社中(17代・18代)と、同社中から分かれた柳貴家勝蔵社中とが、伝統芸能を継承し、その発展に努めています。」との記載があり、また、「水戸大神楽」が、茨城県教育委員会及び水戸市役所から、柳貴家正楽社中は平成3年1月25日に、柳貴家勝蔵社中は平成20年11月17日に、「茨城県無形民俗文化財」及び「水戸市無形民俗文化財」にそれぞれ指定されていることが記載されている。
(以上、茨城県教育委員会ウェブサイト(http://www.edu.pref.ibaraki.jp/board/bunkazai/ken/mukeiminzoku/11-27/11-27.html)及び水戸市役所ウェブサイト(http://www.city.mito.lg.jp/001373/001374/0/shiteibunkazai/siteibunkazai/mitodaikagura.html))。
イ 商標権者は、伝統芸能を継承するイベントプロダクション、芸能プロダクションであり(http://itp.ne.jp/shop/KN0800060700016106/)、その代表者は、上記アの柳貴家勝蔵社中の「柳貴家勝蔵」である。
ウ 商標権者(柳貴家勝蔵社中)のウェブサイトには、「ご挨拶」の表題の下、「水戸大神楽 総本家 柳貴家勝蔵 社中は『水戸市 無形民族文化財』及び『茨城県 無形民俗文化財』に指定されております。」の記載とともに、引用使用標章と極めて類似する緑色の家紋の表示がある(甲16)。
また、商標権者は、引用使用標章に関連する図形商標について、別掲3(1)のとおりの構成からなる商標(登録第4615696号、出願日:平成13年10月31日、登録日:同14年10月25日、第41類)、別掲3(2)のとおりの構成からなる商標(登録第5195838号、出願日:平成20年2月29日、登録日:同21年1月9日、第41類)を取得後、本件商標を取得している。
3 本件商標と引用使用標章との類否について
本件商標は、別掲1のとおり、外郭が丸輪で内側に丸輪と茎の部分が一体となった葵の葉を3つ描きやや湾曲した図形を表したものである。
他方、申立人の引用使用標章は、別掲2のとおり、水戸徳川家の家紋である外郭が丸輪で内側に丸輪と茎の部分が一体となった葵の葉を3つ描きやや湾曲した図形で、日本の家紋の一種である三つ葉葵を表したものである。
そこで、本件商標と引用使用標章とを取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、外郭が丸輪で内側に丸輪と茎の部分が一体となった葵の葉を3つ描きやや湾曲して表現されている点で全体の構成の軌を一にし、細部において相違する点(葉脈部分の描き方)があるとしても、それらは軽微な差でしかないから、両者を時と所を異にして離隔的に観察した場合には、ほぼ同一といってよいほど類似していると認められ、本件商標は、引用使用標章と極めて類似する商標ということができる。
4 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)引用使用標章の著名性について
引用使用標章は、上記2(3)のとおり、水戸徳川家を表示する家紋ないし申立人を表示する標章として、著名なものであり、申立人により管理されているものであって、本件商標の登録出願時には著名性を獲得していたものというべきであり、かつ、登録査定時にも、その著名性は継続していたというのが相当である。
(2)本件商標と引用使用標章との類似性について
本件商標と引用使用標章の構成は、それぞれ別掲1及び2のとおりであるところ、上記3のとおり、本件商標は、引用使用標章と極めて類似する商標ということができる。
(3)本件商標の指定商品等と申立人の業務に係る商品等との用途又は目的における関連性及び商品等の取引者及び需要者の共通性について
申立人は、水戸徳川家伝来の什宝書籍等の文化財を調査・研究、整理・保存し、広く一般に公開する事業を目的として、実際に、文化財公開、史跡公開、イベント、調査研究、文化財修復、助成事業を手がけている(甲2、甲10、甲11)。また、申立人美術館においては、引用使用標章が付された印籠、携帯ストラップ、はがき等各種商品が販売されている(甲8)。
そして、水戸徳川家の祖先である徳川光圀・徳川斉昭を祀る常磐神社において、神社幕や神社幟等に引用使用標章が用いられている(甲14)。神社では、一般に合格祈願・厄除け・縁結び等のお守りや御札が取り扱われているものであり、御酒や大神楽などは、御祭の神事に密接に関連するものである。
他方、本件商標の指定商品は、「お守り,御札,護符,日本酒」、指定役務は、「映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,大神楽の上演,放送番組の制作,音響用又は映像用のスタジオの提供,娯楽施設の提供,興行場の座席の手配,楽器の貸与」であって、申立人の事業活動に関連する商品又は役務であるから、本件商標に係る指定商品又は指定役務と申立人の業務に係る商品又は役務とは、その需要者等を共通にするものということができる。
(4)出所の混同のおそれについて
上記認定のとおり、本件商標と引用使用標章の類似性の程度、引用使用標章の著名性の程度、商品又は役務との関連性及び需要者等の共通性等を総合勘案すれば、商標権者が本件商標をその指定商品又は指定役務に使用した場合には、これに接する取引者、需要者は、申立人が管理する著名な引用使用標章を連想・想起し、水戸徳川家ないし申立人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品又は役務であるかのように誤認し、その商品又は役務の出所について混同するおそれがあるものといわなければならない。
(5)商標権者の意見に対して
商標権者は、「(a)申立人自身が水戸大神楽を上演することはなく、水戸大神楽の上演に関して引用使用標章が申立人を表示する標章として著名ではない。(b)商標権者は、昭和62年から様々な行事に出演し、三つ葉葵紋を使用して水戸大神楽を演じてきており、水戸大神楽の上演等を表示するものとして三つ葉葵紋を周知・著名にしたのは商標権者である。(c)以上のことから、水戸大神楽の上演等で三つ葉葵紋を見た需要者は商標権者ないしその代表者を想起するから、商標権者が水戸大神楽の上演等で本件商標を使用しても、その商品又は役務の出所について混同するおそれはない。」旨主張する。
しかしながら、上記(a)の主張についてみるに、商標法第4条第1項第15号は、引用する他人の商標がその使用する商品又は役務において著名であるがゆえに、本件商標の指定商品又は指定役務について、その他人の業務に係る商品又は役務と混同を生じるおそれがある場合に、本件商標の登録を受けることができないとするものであり、本号の該当性の判断において、本件商標が混同を生ずるおそれがあると認定する当該指定役務について引用使用標章を使用していることは通常必要はなく、それを前提とする本件商標が本号に該当しない旨の商標権者の主張は失当である。
次に、上記(b)の主張についてみるに、商標権者が提出した乙各号証に表された写真画像等において、大神楽の上演等に使用する三つ葉葵紋には、本件商標の態様からなるものは見いだすことができない。また、乙第6号証の3葉目ないし9葉目、乙第7号証、乙第8号証の1葉目ないし5葉目に表示されている三つ葉葵紋にしても、本件商標とは、葵の葉の描き方が異なっており、本件商標とは相違するものである。さらに、乙第8号証の1葉目の法被、2葉目ないし4葉目の太鼓に表示されている三つ葉葵紋は、葵の葉の輪郭が繋がっておらず、別掲3(1)の商標に近い態様であると判断するのが相当である。そうすると、商標権者は、昭和62年当時から本件商標をその態様で使用し続けていることを何ら立証していないものであるから、本件商標に係る立証でない以上、それを前提とする水戸大神楽の上演等を表示するものとして三つ葉葵紋を周知・著名にしたのは商標権者であるとの主張は失当である。
さらに、上記(c)の主張についてみるに、上記(a)及び(b)の主張が成り立たない以上、「水戸大神楽の上演等で三つ葉葵紋を見た需要者は商標権者ないしその代表者を想起する」との主張も成り立たないものであるといわざるを得ない。
したがって、商標権者の主張はいずれも採用することができない。
(6)以上のとおり、本件商標は、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標というべきであるから、商標法第4条第1項第15号に該当する。
5 商標法第4条第1項第6号、同項第19号及び同項第7号該当性について
仮に、本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当しないとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第6号、同項第19号又は同項第7号のいずれかの号に該当するものである。
(1)商標法第4条第1項第6号該当性について
ア 商標法第4条第1項第6号の趣旨について
商標法第4条第1項第6号には、同法第3条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない商標として、「国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であつて営利を目的としないもの又は公益に関する事業であつて営利を目的としないものを表示する標章であって著名なものと同一又は類似の商標」と規定されている。そして、同号の規定は、同号に掲げる団体の公共性にかんがみ、その権威を尊重するとともに、出所の混同を防いで需要者の利益を保護しようとの趣旨に出たものであり、同号の規定に該当する商標、すなわち、これらの団体を表示する著名な標章と同一又は類似の商標については、これらの団体の権威を損ない、また、出所の混同を生ずるものとみなして、無関係の私人による商標登録を排斥するものであると解するのが相当である(知財高裁平成20年(行ケ)第10351号同21年5月28日判決参照)。
イ 申立人及び同人が行う事業の公益性について
申立人は、上記2(1)のとおり、1967(昭和42)年に設立された、水戸徳川家の品々や文書類を保存・展示公開を行う財団法人水府明徳会を前身として、2011(平成23)年に公益財団法人として認可され、公益財団法人徳川ミュージアムと名称を変更し、その事業内容は、文化財公開、史跡公開、イベント、調査研究、文化財修復、助成事業等を行っていることが認められる(甲2、甲10、甲11)。
また、申立人が認可された公益財団法人とは、「公益社団法人及び公益財団法人の認定に関する法律」(平成20年12月1日施行)に基づいて設立される法人であり、学術、技芸、慈善その他の公益に関する事業であって、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するもので、公益を目的とする文化財の調査研究、保存・公開など23の事業に限定され、かつ、公益認定基準18項目に照らして認められるものであるから、申立人は、公益に関する団体ということができる。
そうすると、申立人及び同人が行う事業は、商標法第4条第1項第6号所定の「公益に関する団体であって営利を目的としないもの又は公益に関する事業であって営利を目的としないもの」に該当するものというべきである。
ウ 引用使用標章の著名性について
引用使用標章は、上記2(3)のとおり、申立人を表示する標章として著名なものであって、本件商標の登録出願時には著名性を獲得していたものというべきであり、かつ、その状態は本号該当性の判断時期であるその登録査定時においても継続していたと認められるものである。
エ 本件商標と引用使用標章との類否について
本件商標と引用使用標章の構成は、それぞれ別掲1及び2のとおりであるところ、上記3のとおり、本件商標は、引用使用標章と極めて類似する商標ということができる。
オ 商標権者の意見に対して
(ア)商標権者は、「三つ葉葵紋は、徳川家等を表示する家紋として著名ではあるが、申立人を表示するものとして使用されたことを示す証拠は非常に少ないことから、申立人を表示する標章として著名であるとはいえない。商標権者の代表者自身、申立人美術館の近くに住んでいながら、申立人美術館の存在を認識していなかった。」旨主張する。
しかしながら、申立人は、厳格に定められた公益認定基準を満たして設立された公益財団法人であり、申立人により水戸徳川家伝来の品々や文書類の保存・展示公開等の文化的・経済的価値の維持・管理がされ、引用使用標章は一定の経済的価値を有する標章として文化財公開、史跡公開、イベント、調査研究等の活動とともに使用されてきており、取引者、需要者の目によく触れるものである。
また、公益財団法人は社会的信頼性が高く、その者を表示する標章は社会一般の人々から重みをもって受け止められているといえる。
さらに、徳川家等を表示する家紋として広く一般に知られている三つ葉葵紋は、微妙な違いがあるものの、それぞれが類似する商標といえるものであるところ、それらの個々の家紋は、その家紋に係る地域と需要者との関連性等により、需要者をして、個々の家紋として認識されるものであり、そのことにより個々の家で使用される三つ葉葵紋の著名性が否定されるものとはいえない。
そうすると、引用使用標章は、水戸徳川家を表示する著名な三つ葉葵紋として著名であり、申立人美術館が所在する水戸市を中心とした茨城県ないし同県周辺の地域についても、申立人を表示する標章として、本件商標の登録出願時には著名性を獲得していたものであり、本号該当性の判断時期であるその登録査定時においても、その著名性は継続していたと認められる。
そして、そのことは、別掲4のとおり、茨城県公式観光情報サイト等において、申立人美術館が、水戸市の有名な観光施設、見どころの一つとして、偕楽園、弘道館、茨城県立歴史館、千波湖、常磐神社と並び宣伝、紹介されていることからも首肯できる。
さらに、以上の引用使用標章の著名性を鑑みると、商標権者自身の上演する水戸大神楽が水戸市無形民俗文化財等に指定され、我が国の伝統芸能を保護することで歴史的及び文化的に貢献していると自負する商標権者の代表者の立場にある者が、「商標権者の代表者自身、申立人美術館の近くに住んでいながら該美術館の存在を認識していなかった。」などということはあり得ないといわざるを得ない。
(イ)商標権者は、「商標権者の代表者が承継した水戸大神楽は、江戸時代に当時の水戸徳川家当主から三つ葉葵紋の使用を許可された御用神楽司から引き継いできた伝統芸能であり、商標権者は大神楽の上演等について三つ葉葵紋の商標登録を受ける資格がある。」旨主張する。
しかしながら、大神楽の上演等について水戸徳川家当主から三つ葉葵紋の使用を許可され使用することと、三つ葉葵紋の商標登録を受け独占排他的に使用することは別の問題であり、たとえ、過去に徳川家等から三つ葉葵紋の使用の許可を得ているとしても、三つ葉葵紋について商標登録を受ける資格があるとはいえない。
(ウ)商標権者は、「登録時の指定商品及び指定役務について、大神楽に関する指定役務の範囲を超えると考えられる部分もあるから、大神楽に関する部分だけでも権利を維持したく、指定商品及び指定役務を大神楽に関するものに限定したい。」旨主張する。
しかしながら、引用使用標章は、申立人を表示する標章として、著名性を獲得しているものであって、本件商標は、それと類似する商標であるから、「大神楽の上演」以外の指定商品及び指定役務はもとより、「大神楽の上演」の役務についても、本件商標の登録を維持することは、団体の権威、信用の尊重や出所の混同を防いで取引者、需要者の利益を保護するという商標法第4条第1項第6号の趣旨からして適切であるとはいえない。
(エ)したがって、商標権者の主張はいずれも採用することができない。
カ 以上のとおり、本件商標は、公益に関する団体であって営利を目的としないもの又は公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名なものと極めて類似する商標というべきであるから、商標法第4条第1項第6号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第19号該当性について
ア 引用使用標章は、上記2(3)のとおり、本件商標の登録出願時には著名性を獲得していたものというべきであり、登録査定時においても、その著名性は継続していたというのが相当である。
また、本件商標と引用使用標章の構成は、それぞれ別掲1及び2のとおりであるところ、上記3のとおり、本件商標は、引用使用標章と極めて類似する商標ということができる。
さらに、商標権者は、申立人美術館と同じ茨城県水戸市に所在する法人であって、上記2(4)のとおり、三つ葉葵紋に類似する図形について、徐々に引用使用標章に近づけて商標登録を取得したことがうかがえる。
してみれば、商標権者は、引用使用標章が申立人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして取引者、需要者の間に広く認識されている標章であることを承知の上、引用使用標章に化体した顧客吸引力を希釈化させ、その信用、名声を毀損させ若しくはその信用に便乗し不当な利益を得る等の不正の目的のもとに、引用使用標章と極めて類似する本件商標を出願し、登録を受けようとしたものと推認せざるを得ない。
イ 商標権者の意見に対して
商標権者は、「自己の業務に係る商品又は役務に関して三つ葉葵紋の使用を許可され、商標として使用してきた者であるから、商標権者には、申立人の業務に係る商品又は役務に関して、引用使用標章に化体した顧客吸引力を希釈化させ、その信用、名声を毀損させ若しくはその信用に便乗し不当な利益を得るような意思はなく、本件商標は、不正の目的をもって商標登録出願したものでない。」旨主張する。
しかしながら、引用使用標章は、水戸徳川家を表示する家紋ないし申立人を表示する標章として著名性を獲得しているものであり、本件商標と引用使用標章とは極めて類似するものであって、また、商標権者は、本件商標と違う態様の三つ葉葵紋の使用を続けてきた(乙6ないし乙8)後、その態様をより引用使用標章に近づけて商標登録を取得したことがうかがえる。
そして、たとえ、商標権者が、三つ葉葵紋の使用を許可され、商標として使用してきた者であるとしても、商標権者は、引用使用標章が水戸徳川家を表示する家紋ないし申立人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして取引者、需要者の間に広く認識されている標章であることを承知していたことは、その著名性から優に推認できるものであって、引用使用標章に化体した顧客吸引力を希釈化させ、その信用、名声を毀損させ若しくはその信用に便乗し不当な利益を得る等の不正の目的のもとに、引用使用標章と極めて類似する本件商標を出願し、登録を受けようとしたものというのが相当であるから、不正の目的をもって使用するものといわざるを得ない。
したがって、商標権者の主張は採用することができない。
ウ 以上のとおり、本件商標は、他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内における需要者の間に広く認識されている商標と類似の商標であって、不正の目的をもって使用をするものというべきであるから、商標法第4条第1項第19号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第7号該当性について
ア 商標法4条1項7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、(a)商標の構成自体がきょう激、卑わい、差別的又は他人に不快な印象を与えるような文字、図形、又は、当該商標を指定商品あるいは指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、あるいは、社会の一般道徳観念に反するような商標、(b)特定の国若しくはその国民を侮辱する商標又は一般に国際信義に反する商標、(c)特許法以外の法律によって、その使用等が禁止されている商標等が含まれる、と解すべきである(必ずしも、これらのものに限定するとの趣旨ではない。)。そして、上にいう、社会の一般道徳観念に反するような場合には、本件のように、ある商標をその指定役務について登録し、これを排他的に使用することが、当該商標をなす用語等につき当該商標出願人よりもより密接な関係を有する者等の利益を害し、剽窃的行為である、と評することのできる場合も含まれ、このような商標を出願し登録する行為は、商標法4条1項7号に該当するというべきである。(以上、東京高裁平成14年(行ケ)第94号同年7月16日判決参照)
イ 申立人は、水戸徳川家伝来の品々や文書類を保存・展示公開等の文化的・経済的価値の維持・管理を行い、我が国の文化の向上に寄与しており、申立人が使用する引用使用標章は、一定の経済的価値を有するものとなっている。
他方、商標権者は、茨城県水戸市に所在する法人であり(甲1、甲5)、水戸大神楽をはじめとする伝統芸能を上演するものであるから、自身と同じ茨城県水戸市内に所在し、文化財の保存事業等を営む申立人の事業活動や引用使用標章の著名性について、十分知り得ていたものと推認される。また、別掲5のとおり、商標権者は、平成10年頃から多数の商標登録を得ているものであって、商標登録により得られる法的効力や競合相手に対する優位性の確保の効果等を熟知していたことがうかがえる。
このような状況において、商標権者は、水戸徳川家及び申立人を表示するものとして著名な引用使用標章が商標登録されていないことを奇貨として、これと極めて類似する本件商標を徳川家等及び申立人から承諾を得ないで登録出願し、登録を得たものである。また、商標権者は、本件商標と違う態様の三つ葉葵紋の使用を続けてきた(乙6ないし乙8)後、その態様をより引用使用標章に近づけて商標登録を取得したことがうかがえる。しかも、商標権者は、自ら提供する「大神楽の上演」とは直接関係していない役務である「映画の興行の企画又は運営,放送番組の制作,音響用又は映像用のスタジオの提供」や地域のお土産等に使用され得る「お守り,御札,護符,日本酒」を指定して本件商標の登録を受けたものである。
そうすると、商標権者が本件商標の登録を受け、本件商標をその指定商品及び指定役務に使用することは、本件商標が引用使用標章と出所の混同を生じることが明らかであることからすると、商標権者は、本件商標をその指定商品及び指定役務についての使用を独占し、引用使用標章の著名性に便乗することを目的として出願し、登録を得たものと優に推認できる。しかも、本件商標は、商標権者と深く関係する「大神楽の上演」以外の商品及び役務をも指定商品及び指定役務とするものであって、商標権者が本件商標についてこれらの商品及び役務を独占し、他人の使用を排除することは、水戸徳川家及び申立人等の承認の下、祭り等のイベントや地域のお土産等に三つ葉葵紋を使用することについても影響を与えることも明らかであるから、社会公共の利益にも反するといい得るものである。
してみれば、引用使用標章が一定の経済的価値を有し、かつ、その文化的・経済的価値の維持・管理に努力を払ってきた申立人が存在する中で、引用使用標章と何ら関わりのない第三者である商標権者が最先の商標登録出願を行った結果、先願者であるということによって、特定の指定商品及び指定役務との関係で唯一の権利者として独占的に使用できるようになり、申立人を含む他人による利用を排除できる結果となることは、申立人及びその関係者並びにこれを利用する者の利益を害するものである。しかも、商標権の更新登録によって、その権利を半永久的に継続することも可能であることなども考慮すると、商標権者による本件商標の取得は、社会公共の利益に反するとともに、社会の一般道徳観念に反するといわざるを得ない。
ウ 商標権者の意見に対して
商標権者は、「自身は、水戸徳川家当主から三つ葉葵紋の使用を許可された御用神楽司から受け継がれてきた伝統芸能を守る立場であって、『茨城県無形民俗文化財』及び『水戸市無形民俗文化財』にも指定されており、三つ葉葵紋と何ら関わりのない第三者ではないこと、また、申立人は、自身が水戸大神楽の上演をする訳ではなく、商標権者が水戸大神楽の上演等について商標登録を受けても申立人の利益を害するとは考えられないことから、剽窃的行為には当たらない。」旨主張する。
しかしながら、上記2(1)ないし(3)のとおり、申立人が水戸徳川家伝来の什宝書籍等の文化財を調査・研究、整理・保存し、広く一般に公開する事業を行い、我が国の文化の向上に寄与しており、そして、引用使用標章が、申立人美術館の活動に係る各種の宣伝・広告に使用され、また、申立人美術館において販売する商品等に長年にわたり使用されていることから、引用使用標章は、一定の経済的価値を有するものとなっている。
これらの事実を知りながら、申立人美術館が所在する茨城県水戸市に所在する法人である商標権者が、引用使用標章と極めて類似する本件商標を出願し、第21類、第33類及び第41類に属する前記第1に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務としてその登録を受けることは、指定商品又は指定役務についてこれを排他的に使用し、第三者による同一又は類似の商標の使用を排斥することになるのであるから、申立人及びその関係者並びにこれを利用する者の利益を害するものであり、剽窃的行為といわざるを得ない。
この点に関し、商標権者は、「三つ葉葵紋と何ら関わりのない第三者ではない。」と主張するが、本件商標の登録に対して、現に申立人から登録異議の申立てを受けているものであることからすれば、少なくとも、引用使用標章と極めて類似する本件商標の登録を受ける行為をしたことに関しては、「三つ葉葵紋と何ら関わりのない第三者である。」といわざるを得ない。
また、商標権者は、「自身が、水戸徳川家当主から三つ葉葵紋の使用を許可された御用神楽司から受け継がれてきた伝統芸能を守る立場である。」とも主張するが、商標権者も「水戸大神楽の先人達は『東照宮の祭礼に貢献していたので三つ葉葵の紋を使うことを許された』と申していた、とのことである。これに関して書き付けもあったが、戦災で焼失して現在は残っていない。しかし、水戸藩の御用神楽であったことを示す種々の品々及び記録が残っている(乙5)。」と述べているとおり、「水戸徳川家当主から三つ葉葵紋の使用を許可された」ことすら確かな証拠があるわけではなく、意見書に添付して提出された乙第5号証にしても、三つ葉葵紋を付した道具の写真1枚のみであり、上記判断を左右するものともいえない。
したがって、商標権者の主張は採用することができない。
エ 以上のとおり、商標権者による本件商標の取得は、社会公共の利益に反するとともに、社会の一般道徳観念に反するものであるから、本件商標は、公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標というべきであり、商標法第4条第1項第7号に該当する。
6 結語
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号、同項第6号、同項第19号又は同項第7号に違反してされたものであるから、同法第43条の3第2項の規定に基づき、その登録を取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲 別掲1 本件商標


別掲2 引用使用標章


別掲3 引用使用標章に関連する本件商標以外の本件商標権者が所有する商標
(1)登録第4615696号商標


(2)登録第5195838号商標


別掲4 「徳川ミュージアム」(申立人美術館)が有名な観光施設であること
(1)「一般社団法人茨城県観光物産協会」の茨城県公式観光情報サイト「観光いばらき」において、「水戸市」のプロフィールとして、「江戸時代から本県の行政、経済、文化の中心地として発展を遂げる水戸市は、市の中心部に千波湖を抱え、日本三公園のひとつ偕楽園をはじめ、歴史文化遺産が数多く残されています。・・・文化施設も多く、県立歴史館、県近代美術館、水戸芸術館や徳川ミュージアム、水戸市植物公園、県民文化センター、県立図書館などが集中しています。」の記載があり、水戸市のおもな見どころとして、「偕楽園、水戸黄門祭り、弘道館、千波湖、徳川ミュージアム」が紹介されている。
(http://www.ibarakiguide.jp/ibaraki44/mito.html)
(2)「いばらき県央地域観光協議会」のウェブサイトにおいて、「県央地域のおすすめスポット」として、「偕楽園、常磐神社、弘道館、茨城県近代美術館、徳川ミュージアム」等が紹介されている。
(http://www.ibaraki-kenou.com/sight/index.html)
(3)「水戸市」のウェブサイトにおいて、「水戸市観光マップ」の偕楽園・千波湖周辺の観光地として、「偕楽園、茨城県近代美術館、徳川ミュージアム、常磐神社、茨城県立歴史館」が紹介されている。
(http://www.city.mito.lg.jp/001433/003463/0001_d/fil/map.pdf)
(4)「一般社団法人水戸観光協会」のウェブサイトにおいて、「水戸市内の美術館・博物館」の項目の下、「水戸芸術館、茨城県立歴史館、徳川ミュージアム、茨城県近代美術館、水戸市立博物館」等の記載がある。
(http://www.mitokoumon.com/sightseeing/list_bijutu_hakubutu.html)
(5)「茨城交通株式会社」のウェブサイトにおいて、「1日乗り放題・特典付きっぷ」の見出しの下、「水戸市には偕楽園をはじめ弘道館・茨城県立歴史館・徳川ミュージアムなど有名な観光施設が数多くあります。訪れた観光客の皆様には、気軽に水戸の観光施設や商店街をバスで周遊していただき楽しんでいただきたいと考えています。」の記載がある。
(http://www.ibako.co.jp/regular/ticket/mito-free.html)

別掲5 本件商標権者が取得している商標登録(文字のみからなる商標)
商標権者は、「水戸大神楽」(登録第4149161号、出願日:平成8年8月23日、登録日:同10年5月22日、第41類)、「水戸藩徳川家御用神楽」(登録第4350745号、出願日:平成10年8月24日、登録日:同12年1月14日、第41類)、「水戸御免御祭禮御用神楽」(「禮」の文字の「示」は「ネ」を表す。登録第4350746号、出願日:平成10年8月24日、登録日:同12年1月14日、第41類)、「天下一神楽」(登録第4443850号、出願日:平成11年12月3日、登録日:同13年1月5日、第41類)、「大神楽司」(登録第4647059号、出願日:平成14年5月10日、登録日:同15年2月21日、第41類)、「水戸大神楽 総本家」(登録第4675169号、出願日:平成14年9月6日、登録日:同15年5月23日、第41類)、「柳貴家 勝蔵」(登録第4681397号、出願日:平成13年7月11日、登録日:同15年6月13日、第41類)、「大神楽 水戸総本家」(登録第4733168号、出願日:平成15年5月26日、登録日:同年12月12日、第41類)、「大神楽 水戸宗家」(登録第4743254号、出願日:平成15年7月2日、登録日:同16年1月23日、第41類)、「開運招福」(登録第4795314号、出願日:平成15年11月12日、登録日:同16年8月13日、第41類)、「五穀豊穣」(登録第4795315号、出願日:平成15年11月12日、登録日:同16年8月13日、第41類)、「悪魔退散」(登録第4795316号、出願日:平成15年11月12日、登録日:同16年8月13日、第41類)、「水戸藩御用太鼓」(登録第4876550号、出願日:平成17年1月14日、登録日:同年7月1日、第41類)、「水戸御免御祭禮御用囃子」(登録第4896455号、出願日:平成17年1月14日、登録日:同年9月22日、第41類)、「水戸大神楽」(登録第4908982号、出願日:平成17年1月19日、登録日:同年11月18日、第30類及び第33類)、「水戸藩徳川家御用神楽」(登録第4911622号、出願日:平成17年1月19日、登録日:同年12月2日、第30類及び第33類)の文字からなる商標等を取得している。

異議決定日 2017-02-27 
出願番号 商願2015-18025(T2015-18025) 
審決分類 T 1 651・ 222- Z (W213341)
T 1 651・ 21- Z (W213341)
T 1 651・ 22- Z (W213341)
T 1 651・ 271- Z (W213341)
最終処分 取消 
前審関与審査官 豊瀬 京太郎 
特許庁審判長 酒井 福造
特許庁審判官 平澤 芳行
中束 としえ
登録日 2015-12-04 
登録番号 商標登録第5810969号(T5810969) 
権利者 株式会社ヤナギヤ
代理人 特許業務法人 日峯国際特許事務所 
代理人 下坂 スミ子 
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