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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W30
管理番号 1327165 
異議申立番号 異議2016-900222 
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2017-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-05 
確定日 2017-04-01 
異議申立件数
事件の表示 登録第5846107号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて,次のとおり決定する。 
結論 登録第5846107号商標の商標登録を維持する。
理由 第1 本件商標
本件登録第5846107号商標(以下「本件商標」という。)は,「直虎」の文字を標準文字で表してなり,平成27年8月28日に登録出願,同28年4月8日に登録査定,第30類「茶,せんべい,菓子,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ,ぎょうざ,しゅうまい,すし,たこ焼き,弁当,ラビオリ」を指定商品として,同年4月28日に設定登録されたものである。

第2 登録異議の申立ての理由
商標異議申立人(以下「申立人」という。)は,本件商標について,商標法第4条第1項第7号に該当するものであるから,同法第43条の2第1号によりその登録は取り消されるべきである旨申し立て,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第19号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 直虎の周知・著名性
「直虎」の文字は,1540年頃(推定)に遠江(現在の静岡県西部,浜松)に生まれ,「徳川四天王」と称され,徳川幕府の基礎づくりに大きな貢献をした井伊直政の養母として知られ,一生涯を浜松で過ごした「井伊直虎」を表すものである。
(1)井伊直虎の人物について,同人は,井伊家第22代当主・直盛の一人娘であり,出家して次郎法師を名乗った。井伊家の家督を継いだ第23代・直親が1562年に掛川城下で謀殺されると井伊家は存続の危機に陥り,また,井伊の名を継ぐ男子は四歳の遺児である虎松(第24代直政)ただ一人となったため,次郎法師が井伊直虎と名乗り,女領主となり井伊家を支えた。
同人は,優れた政治手腕を発揮し,受難の井伊家を支え見事にお家を再興した。
同人は,身を隠していた直政を1575年浜松城主であった徳川家康に仕えさせ,徳川幕府の礎を築いた。
幕末に徳川幕府の要職である大老を務めていた井伊直弼が開国を決したことは,近代日本の大きな転換点にあたり,現在の日本の繁栄と決して無縁ではない。これも井伊直虎の尽力により,井伊家が存続の危機を逃れたため成しえたことである(甲3の1ないし3)。
(2)井伊直虎は,数多くのテレビ番組や,書籍等に取り上げられており,広く一般に知られている人物である。
ア NHKのテレビ番組「歴史ヒストリア」では,2014年5月28日に番組テーマとして井伊直虎が取り上げられた(甲3の4)。
また,2015年8月25日に,NHK平成29年大河ドラマの主人公が井伊直虎であることが発表された(タイトル「おんな城主 直虎」,甲3の5)。
イ 井伊直虎は,いわゆる時代小説の主人公や,児童書のテーマとしても取り上げられている(甲3の6ないし8)。
ウ 井伊直虎は,戦国時代を生き抜いた女性としてゲームのキャラクターにも取り上げられている(甲3の9及び10)。
2 直虎の名称に対する国民又は地域住民の認識
井伊直虎は,その郷土やゆかりの地においては,敬愛の念をもって親しまれている実情にある。
(1)静岡県浜松市北区引佐町井伊谷の龍潭寺は,井伊家の菩提寺であり,井伊直虎の墓が安置され,次郎法師(井伊直虎)の「寄進状」もあわせて納められている(甲4の1及び2)。
(2)静岡県浜松市北区引佐町の妙雲寺には,井伊直虎の位牌が安置されている(甲4の3)。
(3)浜松市博物館には,花押付きの蜂前神社所蔵の直虎書状が保存公開されている(甲4の4)。
(4)井伊直虎が領主として活躍した井伊谷城があった静岡県浜松市北区引佐町井伊谷の高台は,城山公園として浜松市が整備を行っている(甲4の5)。
(5)浜松市立中央図書館の浜松市文化遺産デジタルアーカイブ(https://trc-adeac.trc.co.jp/Html/Home/2213005100/topg/naotora.html)には,「井伊直虎とその時代」というタイトルにおいて,井伊直虎関連の文書等が保存・公開されている(甲4の6)。
(6)上記を含め,浜松市内には47カ所もの直虎ゆかりの地が存在する。 浜松市では,NHK大河ドラマの発表前に,すでに21カ所にはゆかりの地の紹介看板の設置及び施設整備等を行っていたが,発表後には残りの26カ所にも看板設置及び施設整備等を行うなど,市民に愛され,市外からの誘客にもつながる取組を継続して実施している(甲4の7)。
(7)直虎の本拠であった北区引佐町井伊谷の住民が2011年に結成した浜松歴女探検隊では,「井の国千年祭」の際に講談師の田辺一邑に依頼し,「井伊次郎法師直虎」の講談を行った。
また,2011年の浜松市制100周年を記念して行われた100夢プロジェクトでは,「逆境に負けない浜松魂!井伊直政 只今参上」が採択され,田辺一邑が講談「井伊次郎法師直虎」と新作講談「井伊直政」を2012年に披露し,それ以降も,毎年直虎と直政の顕彰事業を実施している(甲4の8)。
(8)浜松市東区在住の版画家である熊谷光夫は,1994年に小説「井の国物語」(谷光洋)の出版に携わるとともに,版画「次郎法師・井伊直虎」(光山房)など,多数の作品を発表している(甲4の9)。
(9)2011年に直虎ゆかりの北区の住民を中心に結成された「みをつくし劇団」は,2013年から3年連続(2013年「井伊の虎,走る」,2014年「井伊谷赤鬼伝」,2015年「風雲!井伊の牙」)という3部作の公演を行った(甲4の10ないし12)。
3 直虎の名称の利用状況
静岡県浜松市では,同市を出世の街として全国に売り出すこととし,平成24年4月に,浜松城に17年間居城したのち,天下統一を成し遂げた徳川家康の生まれ変わりとして,“はままつ福市長”「出世大名家康くん」を同市のマスコットキャラクターとした(甲5の1)。
また,平成28年3月,出家の身になったのち,徳川四天王の一人として大出世を成し遂げた井伊直政を育て上げ,女城主として井伊家断絶の危機を救った井伊直虎をも,同市の新たなマスコットキャラクターとするため,デザイン画の全国公募を行い,全国から寄せられた1,607点の作品の中から,「出世法師直虎ちゃん」を選出・発表し(甲5の2),「井伊直虎特設サイト」(http://www.hamamatsu-daisuki.net/naotora/)を開設して,同市の広報活動を行っている(甲5の3)。
さらには,上記マスコットキャラクター「出世法師直虎ちゃん」のイラストを無償で使用させることにより(甲5の4),同キャラクターの広く一般への周知をはかると共に,地元業者等による経済活動の活性化を促し,よって観光振興や地域おこしに繋げることを試みている。
さらに同市は,平成29年NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」の放送を契機に,その舞台となる浜松地域及び静岡県西部地域の歴史・文化を全国に発信するため,平成28年4月に「井伊直虎ゆかりの地 浜松」のPRロゴマークを決定した(甲5の5)。
また,「おんな城主 直虎 大河ドラマ館」を名称としたテーマ館が,平成29年1月より1年間,同市の文化センターホールに開館することが決定している(甲5の6)。
さらに,同期間にわたり,井伊直虎ゆかりの地を紹介する目的で,浜松市地域遺産センター(甲5の7)及び浜松出世の館(仮称)(甲5の8)を同市内に開設し,地域内外からの来訪者におもてなしをする準備を進めている。
平成28年1月より,同市を中心に運行する公共交通の路線バス,高速バス,小型循環バスの車体には,井伊直虎ゆかりの地であることをPRするためのラッピングが施されている(甲5の9)。
平成27年10月より,同市の公共施設や大型商業施設合計13カ所の外壁に「井伊直虎ゆかりの地」をPRするための懸垂幕や横断幕を設置するとともに,同市中心部やゆかりの地が集積する奥浜名湖エリアの商店街などに約600枚のフラッグを設置,市内全域に約5000枚ののぼりを設置するなど,市内外の来訪者に対して周知・啓発を行っている(甲5の10ないし15)。
同市では,直虎ゆかりの地を紹介するため,「井伊直虎ガイドブック」,「おくハマナビ」,「おんな城主直虎大河ドラマ館」のパンフレット・チラシや,うちわやステッカー等のノベルティを制作し,同市はもとより,全国各地でPR活動を行っている(甲5の16ないし22)。
浜松商工会議所は,井伊直虎にちなんだ商品開発の支援を行うことを決定し(甲6の1),実際,同会議所が企画運営する地場食品を販売するアンテナショップ「まちの駅 やらまいかショップ」等において直虎関連商品が販売されている(甲6の2ないし8)。また,浜松市内のレストラン等において直虎にちなんだメニューが提供されている(甲6の9及び10)。
また,直虎をテーマとした講演会等も開催されている(甲7の1及び2)ほか,地元の信用金庫において井伊直虎展等も開催されている(甲8)。
前記1ないし3の事実は,本件商標の登録査定(平成28年4月12日:決定注:送達日)前から現在においても継続している。
4 直虎の名称の利用状況と本件商標の指定商品との関係
一般に,歴史上の人物の生誕地やゆかりの地においては,その地の特産品や土産物に,その者の名称や肖像が表示されて,観光客を対象に販売されているところ,井伊直虎についても,例えば,現時点において,上記のように「菓子」,「茶」などに井伊直虎又は直虎の名称や肖像が用いられている事実がある(甲6の3,5等)。
他方,本件商標の指定商品は,「菓子,茶,ぎょうざ」などを含む食料品である。なお,「菓子,茶,ぎょうざ」は,浜松市の特産品であり,同市が観光振興の施策として紹介している事実がある(甲9の1及び2)。
そうすると,直虎の名称は,本件商標の指定商品を取り扱う者によって使用される可能性が極めて高いといえる。
5 出願の経緯・目的・理由
申立人である浜松商工会議所は,平成28年7月14日に本件商標権者より「直虎」の商標権の侵害に関する連絡を受けると共に,同年同月19日に両者で協議を行った(甲10の1及び2)。
本件商標権者は,「地元を活性化するため」に本件商標を出願したものであり,「他の人(県外業者)が,直虎関連の権利を押さえる前に,同社が権利関係を押さえただけ」と主張するものである。
なお,本件商標権者は印刷業を営む事業者であるが,本件商標権を取得することにより,本件商標権者の顧客である菓子業者や弁当業者の包装(パッケージ)の印刷業務を受注するために本件商標を出願したものと推察される。
すなわち,本件商標権者は,本件商標が周知商標となることを知りつつ先取り的に出願したものであり,歴史上の人物の名称を使用した公益的な施策等に便乗し,その遂行を阻害し,公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら,利益の独占を図る意図をもってした商標登録出願であるといえる。
6 直虎と本件商標権者との関係
本件商標権者と井伊直虎との関係は,申立人の調査では確認できなかった。
7 その他
歴史上の人物名からなる商標登録出願の取扱いについて,特に「歴史上の人物の名称を使用した公益的な施策等に便乗し,その遂行を阻害し,公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら,利益の独占を図る意図をもってした商標登録出願」と認められるものについては,公正な競業秩序を害するものであって,社会公共の利益に反するものであるとして,商標法第4条第1項第7号に該当するものとされている(甲11の1ないし3)。
8 むすび
以上のとおり,井伊直虎は,一生涯を浜松で過ごし,徳川四天王の内の一人である井伊直政を支え,戦国時代を強く生き抜いた歴史上の女性として一般に広く知られ,その郷土やゆかりの地において,住民に敬愛の念をもって親しまれ,かつ,静岡県浜松市や浜松商工会議所などの地方公共団体及び公益経済団体が,同人に関連する史跡や資料を活用して,同人の名称を観光振興や地域おこしなどの施策に利用している実情にある。
そして,本件商標の指定商品は,静岡県浜松市における観光振興や地域おこしに欠くことのできない特産品を含む食料品である。
そうとすると,「直虎」の文字からなる本件商標を,同人との関係が認められない本件商標権者の商標として,その指定商品について商標登録を認めることは,著名な歴史上の人物の名声に便乗し,指定商品についての使用の独占をもたらすことになるばかりか,直虎の名称を使用した観光振興や地域おこしなどの公益的な施策の遂行を阻害することとなり,社会公共の利益に反することは明らかである。

第3 当審における審尋
当審において,前記第2の申立ての理由について,当審の暫定的見解としては,申立人の主張及び同人が提出した証拠からは本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当するものということができないとして,申立人に対し,平成28年11月29日付けで審尋をし,回答書を求めた。
そして,その審尋の要点は,以下のとおりである。
1 「直虎」の名を持つ歴史上の人物としては,「井伊直虎」のほか,肥前小城藩の第11代藩主の「鍋島直虎」及び信濃須坂藩の第13代藩主の「堀直虎」の2名が確認できるため,「直虎」の文字が,「井伊直虎」を表すものとして特定されるということができない。
また,本件商標の登録出願日の直前にNHK平成29年大河ドラマの主人公が「井伊直虎」であることが発表されたとしても,これらの事実をもって,「直虎」の文字が「井伊直虎」を表すものとして,国内において,広く知られたものであるということができない。
2 申立人提出の証拠は,本件商標の登録出願の日以降のものであること,「直虎」の文字のみで表示されているものは見あたらないこと,また,本件商標権者が,公益的な施策等に便乗し,その遂行を阻害し,公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら,利益の独占を図る意図をもって本件商標の登録出願をしたものとすべき具体的な証左は見あたらない。
3 「直虎」の名称が日本国内において「井伊直虎」を表すものとして広く知られていたとはいえない以上,本件商標権者が,これらの名称の有している信用,名声,顧客吸引力等にフリーライドしたものとはいえない。
4 提出された証拠を検討しても,本件商標の登録出願の経緯等に不正の利益を得る目的その他不正の目的があるなど社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないと認めるに足る事実は見あたらない。

第4 申立人の回答
前記第3の審尋に対し,申立人は,要旨以下のとおり回答した。
1 本件商標の登録査定時において「直虎」の文字が「井伊直虎」を表すものとして広く知られていたか否かについて
商標法第43条の2及び同法第4条第3項の規定によれば,本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当するか否かの判断基準時は,登録査定時と解される。
本件商標の登録査定時は,平成28年4月12日(決定注:送達日)である。
一方で,申立人が既に提出した甲第3号証の5に示されるように,登録査定時の約8カ月前である平成27年8月25日に,NHKにより,平成29年度の大河ドラマの主人公が「井伊直虎」であること,及び,ドラマのタイトルが「おんな城主 直虎」であることが発表された。
ここで,NHK大河ドラマの著名性について敢えて説明すると,例えば過去の多数のNHK大河ドラマは我が国において高い視聴率を記録しており,NHK大河ドラマといえば,我が国において代表的なテレビ番組の一つである。
毎年のNHK大河ドラマの主人公がどのような人物かは,我が国国民の大きな関心事の一つであることは間違いないし,過去のドラマの主人公が誰であったかを容易に思い出せる様なドラマとしては,他に類を見ない程の代表的な番組である。
また,一年間継続して毎週日曜日の夜に全国一斉放送されるという番組の性質上,国民の関心も一年に渡り継続して集めることができる。それ故,その経済的効果は抜群であって,NHK大河ドラマの舞台に選ばれるかどうかは各地方自治体の最大の関心事である。NHKがドラマ放送開始から1年半も前に内容及びその舞台を発表すると同時に,その舞台に選ばれた地方自治体においても,地域を活性化させるべくそれまで以上に観光客を誘致し地域おこしの活動を開始するのである。
このような状況にかんがみて,「『直虎』の文字が,本件商標の登録査定時,すなわち,NHKの大河ドラマの発表後において,『井伊直虎』を表すものとして広く知られていたか否か」について以下に説明する。
まずは,上述したように平成29年度の大河ドラマのタイトルが「おんな城主 直虎」であること,加えてドラマ内容が「井伊直虎」をテーマにしたものであることは,甲第3号証の5の内容から明らかである。同号証に示されるNHKの発表により,「直虎」の文字が「井伊直虎」を表すものとして広く知られるに至ったものといえる。
さらに,上記の事実は,本件商標の登録査定時のみならず出願時においても同様である。すなわち,審尋においては「本件商標の登録出願日の直前にNHK平成29年大河ドラマの主人公が『井伊直虎』であることが発表されたとしても,これらの事実をもって,『直虎』の文字が『井伊直虎』を表すものとして,国内において,広く知られたものであるということができない」としているが,現代のインターネット社会において,NHKの発表から本件商標の登録出願までの4日間もあれば,「直虎」の文字が「井伊直虎」を表すものとして広く知られるものとなることは明らかである。
現に,申立人が新たに提出する証拠(甲12)によれば,上記4日間に,全国の新聞記事の見出し若しくは本文に「井伊直虎」が含まれている記事が32件であることが示されている。いずれもNHKの発表を内容とした記事であり,ドラマタイトル及び主人公に言及していることから,上記4日間で「直虎」の文字が「井伊直虎」を表すものとして広く知られるものとなったといえる。
また,掲載紙に関しても,全国紙である朝日新聞や毎日新聞のみならず,地方紙においても北は北海道新聞から南は琉球新聞にまで取り上げられており,「直虎」の文字が「井伊直虎」を表すものであることが,まさに全国的に広く知られるものとなったものである。また,同様の記事が上記4日間でインターネット上に多数掲載されたことは想像に難くない。
一方で,審尋においては「職権調査によれば,『直虎』の名を持つ歴史上の人物としては,『井伊直虎』のほか,肥前小城藩の第11代藩主の『鍋島直虎』及び信濃須坂藩の第13代藩主の『堀直虎』の2名が確認できるため,『直虎』の文字が,『井伊直虎』を表すものとして特定されるということができない」とされている。
しかしながら,上記「鍋島直虎」及び「堀直虎」の2名は地方の歴史上の一人物にすぎず,全国的に見ると,本件商標の登録出願時のみならず登録査定時においても全く無名の人物といわざるを得ない。
上記事実は,申立人が提出する証拠からも明らかである。すなわち,甲第13号証及び甲第14号証は,NHKの発表から本件商標の登録出願までの4日間において,上記と同様に全国の新聞記事の見出し若しくは本文に「鍋島直虎」又は「堀直虎」が含まれている記事を調査した結果であるが,いずれも0件であった。一方で,甲第15号証は,上記4日間において全国の新聞記事の見出し若しくは本文に「直虎」の文字が含まれている記事を調査した結果であるが,35件であった。すなわち,甲第12号証ないし甲第15号証から読み取れる事実として,「直虎」の文字が「井伊直虎」を示すものとして全国的に広く知られているものとなったのである。
さらに,甲第4号証の4に示されるように,井伊直虎の直筆サインである花押が公開されている。当該花押は,昭和55年の細江町立歴史民俗資料館開館時に広く一般に公開され,現在では浜松市博物館において公開されている。これは,1568年に井伊直虎と今川家臣である関口氏経とで書かれた文書であり,井伊直虎が当時より「直虎」と名乗っていたことを示す文書である。このような歴史的文書がNHKのドラマの発表前より広く一般に公開されていたことにより,「直虎」の文字が「井伊直虎」を示すものとして広く知られているといえる。
また,「井伊直虎」は「鍋島直虎」及び「堀直虎」と異なり女性であるといわれていること,及び,戦国の世を生き抜いて井伊家を断絶の危機から救ったその数奇な人生が特徴であり,NHKのドラマの発表前より,甲第3号証の4,6ないし10に示すような複数のテレビ番組のテーマ,小説,ゲームキャラクター等に取り上げられているものである。
よって,このような「井伊直虎」の周知性を無視して,「井伊直虎」のほかに「直虎」の名を持つ歴史上の人物の存在が確認できるという理由のみで,「直虎」の文字が「井伊直虎」を特定するものではないと判断することはできないものである。
2 本件商標権者が,「直虎」の文字をその指定商品について使用することが,公益的な施策等に便乗しその遂行を阻害するものであり,社会公共の利益に反する事実について
上記1に述べたとおり,「直虎」の名称は,日本国内において「井伊直虎」を表すものとして広く知られるものであるから,本件商標権者がこれらの名称の有している信用,名声,顧客吸引力等にフリーライドしているものということができる。
そして,このような商標「直虎」について,一私人たる本件商標権者に独占権たる商標権を付与した結果として,公益的な団体である申立人が本件商標の登録出願の日前より行ってきた地域おこしの活動が阻害されるものとなっていることは,甲第10号証の1及び2により既に述べたとおりである。
また,甲第16号証ないし甲第19号証に示すとおり,本件商標の登録により,浜松地域のみならず全国において混乱をきたしている事実がある。
一方で,本件商標の登録が仮に取り消された場合,本件商標は,その指定商品について,本件商標権者を含めて誰もが使用できることになるから,上記混乱は解消されて社会公共の利益にもかなうものとなるのである。
3 本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあることについて
本件商標権者は,本件商標の登録出願の日前より,浜松商工会議所(申立人)が平成25年に創設した浜松地域おこしプロジェクトに関わっていた。
また,本件商標権者は,同プロジェクト創設時から本件商標の登録出願時の平成28年にわたり,浜松商工会議所が主催する同プロジェクト専門家並びに参加企業として参加企業を把握していた立場にあった。また,同プロジェクトでは,浜松地域おこしの一環として,同プロジェクト参加企業より商品開発や商品パッケージデザインなどの相談があれば専門家を派遣しており,本件商標権者も複数回にわたって専門家として派遣されていた。
上記の事実,及び,NHK大河ドラマの過去の経済的効果にかんがみると,平成27年8月25日における平成29年NHKの大河ドラマ発表後,本件商標権者は自身に有利な展開及び自身の売上増加を目的として本件商標の登録出願を行ったことが容易に推察できる。これは明らかに商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものといえる。
また,本来地域おこしとは当該地域の団体及び企業全体が参加しその利益が地域全体に還元されるべきものであるところ,甲第10号証の1及び2に示されるような本件商標権者の要求に従った場合,本件商標の登録が存在することにより,本件商標権者に不当に利益が独占されることにもなりかねない。
よって,本件商標の登録を認めることは,商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないものであることは明らかである。

第5 当審の判断
1 商標法第4条第1項第7号について
(1)商標法第4条第1項第7号の趣旨について,裁判例は,以下のように示している。
「商標法は,『公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標』について商標登録を受けることができず,また,無効理由に該当する旨定めている(法4条1項7号,46条1項1号)。法4条1項7号は,本来,商標を構成する『文字,図形,記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合』(標章)それ自体が公の秩序又は善良な風俗に反するような場合に,そのような商標について,登録商標による権利を付与しないことを目的として設けられた規定である(商標の構成に着目した公序良俗違反)。」(平成20年6月26日知的財産高等裁判所判決,平成19年(行ケ)第10391号)。
そして,「商標の登録出願が適正な商道徳に反して社会的妥当性を欠き,その商標の登録を認めることが商標法の目的に反することになる場合には,その商標は商標法4条1項7号にいう商標に該当することもあり得ると解される。しかし,・・・商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法4条1項7号に該当するのは,その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである。」(平成15年5月8日知的財産高等裁判所判決,平成14年(行ケ)第616号)。
(2)商標法第4条第1項第7号の意義について,裁判例は,以下のように示している。
「商標法4条1項7号は,『公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標』は,商標登録を受けることができないと規定する。ここでいう『公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標』には,1 その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合,2 当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも,指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反する場合,3 他の法律によって,当該商標の使用等が禁止されている場合,4 特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反する場合,5 当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合,などが含まれるというべきである。」(平成18年9月20日知的財産高等裁判所判決,平成17年(行ケ)第10349号)。
2 本件商標の構成について
本件商標は,前記第1のとおり,「直虎」の文字を標準文字で表してなるものであり,その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字でないことは明らかである。
3 「直虎」の文字について,申立人の主張及び同人が提出した証拠によれば,以下のとおりである。
(1)NHKによるもの
ア 「歴史秘話ヒストリア-NHK」のウェブサイト(甲3の4)には,バックナンバーとして,「第182回 (2014年)5月28日」に「それでも,私は前を向く ?おんな城主・井伊直虎 愛と悲劇のヒロイン?」の表示と,「本放送 平成26年5月28日(水)22:00?22:43 総合全国」及び「再放送 平成26年6月4日(水)※火曜深夜00:40?01:23総合全国」の記載がある。
イ 「NHKドラマ DORAMA」のウェブサイト(甲3の5)には,2015年8月25日付けの「ドラマトピックス」において,「柴咲コウさん主演!平成29年大河ドラマ『おんな城主 直虎』」の見出しの下,「大河ドラマ おんな城主 直虎 【作】森下佳子 【主演】柴咲コウ」の記載がある。
そして,その2頁には,「主人公 井伊直虎/柴咲コウ」の記載,3頁及び4頁には,「執筆にあたって」として作者である森下氏のコメントが記載され,5頁には「【物語】」としてその内容の概略が記載されている。
なお,「NHK大河『おんな城主 直虎』って誰?一部ゲームファンが『スゲー楽しみ』と大興奮なワケ」と表示された,2015年8月26日のウェブサイト(甲3の10)によれば,19件の「コメント・口コミを見る」,29件の「facebookシェア」等があった。
(2)セミナーの開催,書籍,読本について
ア 2015年(平成27年)11月5日開催の「井伊直虎に迫る!」をテーマとするセミナーの資料(甲3の1,該セミナーについての新聞記事は甲7の1)には,井伊直虎の年表が添付されている。
イ 「女にこそあれ次郎法師」の題号の書籍(抜粋,2006年1月31日,新人物往来社発行,甲3の6),「剣と紅」の題号の書籍(抜粋,2012年11月10日,文藝春秋発行,甲3の7),「戦国姫-風の巻-」の題号の書籍(抜粋,2014年8月10日,集英社発行,甲3の8)には,「次郎法師直虎」,「井伊次郎法師直虎」,「井伊直虎」等と表示されている。
ウ 「読本」(甲3の2)には,「井伊直虎と直政の年表」が掲載されている。
(3)「浜松市」によるもの
ア 2016年7月4日更新の「浜松市」のウェブサイト(甲5の9)には,「井伊直虎をPRする『く・る・る』が登場」の見出しの下,2016年1月27日(水曜日),市中心部を運行する小型循環バス「く・る・る」の車体に,大河ドラマの主人公「『井伊直虎』ゆかりの地 浜松」をPRするラッピングを施したもので,この日から運行を開始した,旨が記載された。
イ 2016年3月24日更新の「浜松市」のウェブサイト(甲5の7)には,「主要事業(31)」の「平成28年度当初予算の主要事業」に,地域遺産センター整備事業についての「事業内容」として,「平成29年1月(予定)供用開始時は井伊直虎に関する展示を行い,大河ドラマ放映終了後は(仮称)地域遺産センターとして活用」の記載がある。
ウ 2016年7月4日更新の「浜松市」のウェブサイト(甲5の5)には,4月5日(火曜日)第二回「おんな城主直虎」推進協議会にて,「井伊直虎ゆかりの地 浜松」のPRロゴマークを決定した旨が掲載された。
エ 申立人の主張によれば,平成27年10月より,公共施設や大型商業施設合計13カ所の外壁に「女城主 井伊直虎 ゆかりの地 浜松」と表示した懸垂幕や横断幕を設置,奥浜名湖エリアの商店街などに「井伊直虎 ゆかりの地 浜松」と表示した約600枚のフラッグを設置,市内全域に約5000枚ののぼりを設置し(甲5の10ないし15),「井伊直虎ガイドブック」,「おくハマナビ」,「おんな城主直虎大河ドラマ館」のパンフレット,チラシ,うちわ,ステッカー等を制作し(甲5の16ないし22),平成28年3月,井伊直虎を同市のマスコットキャラクターとするため,デザイン画の全国公募を行った。
(4)新聞記事
ア 平成27年(2015年)9月30日付けの静岡新聞(甲6の1)に,「『井伊直虎』商品」の表示の下,「浜松商工会議所は,浜松市北区ゆかりの戦国時代の女性城主・井伊直虎にちなんだ商品開発に乗り出す。NHK大河ドラマの主人公に決まった直虎を地域資源と位置付け,放送が始まる2017年1月までに10点以上の商品化を目指す。」の記載がある。
イ 平成27年(2015年)10月24日付けの中日新聞(甲6の2)に,「直虎Tシャツ発売」の表示の下,「草木染製品を制作,販売する鈴忠織布(浜松市東区)が,2017年NHK大河ドラマの主人公,井伊直虎をプリントしたTシャツとハンカチを作った。」の記載がある。
ウ 2016年(平成28年)2月12日付けの静岡新聞(甲6の9)に,「直虎ちなみ新メニュー」の表示の下,「竜ケ岩洞食堂『ふるさと』・・・は,来年の大河ドラマの主人公に決まった戦国時代の女性城主・井伊直虎にちなんだメニュー『湖北の守り』膳を考案した。」の記載がある。
(5)その他
ア 遠州・浜名湖魅力発信サイト(甲8)によれば,遠州信用金庫において,2016年3月15日から4月15日まで,「井伊直虎展」を開催していることが記載されている。
イ 2014年6月16日更新の浜松市のウェブサイト(甲9の1及び2)によれば,浜松の特産品は,浜名湖うなぎ,遠州灘天然トラフグ,遠州灘シラス,浜名湖アサリ,ガーベラ,浜松茶・遠州山のお茶,三ヶ日みかん,うなぎパイである。
4 前記3の事実によれば,以下のとおりである。
(1)「直虎」の文字が「井伊直虎」の名として日本国内において広く一般に知られていたかについて
「直虎」の文字は,1540年頃(推定)に遠江(現在の静岡県西部,浜松)に生まれた井伊直政の養母である「井伊直虎」の名であること(甲3の1ないし3),NHKのテレビ番組「歴史ヒストリア」で,2014年5月28日に番組テーマとして井伊直虎が取り上げられたこと(甲3の4),2015年8月25日に,NHK平成29年大河ドラマの主人公が井伊直虎であることが発表されたこと(甲3の5ないし10)が認められる。
しかしながら,職権調査によれば,「直虎」の名を持つ歴史上の人物としては,「井伊直虎」のほか,肥前小城藩の第11代藩主の「鍋島直虎」及び信濃須坂藩の第13代藩主の「堀直虎」の2名が確認できるので,「直虎」の文字が,「井伊直虎」の名を表すものとして特定されるということはできない。
そして,NHKのテレビ番組「歴史ヒストリア」で「井伊直虎」について放送され,本件商標の登録出願日の直前にNHK平成29年大河ドラマの主人公が「井伊直虎」であることが発表されたとしても,かかる発表ののち,NHKが該大河ドラマ及びその主人公が「井伊直虎」であること等について,継続して多数広告,宣伝等を行った事実は見あたらない。
また,「龍潭寺」は,井伊家の菩提寺であり,「妙雲寺」には,井伊直虎の位牌が安置され,浜松市博物館に,花押付きの蜂前神社所蔵の直虎書状が保存公開されており(甲4の1ないし4),申立人が提出した証拠によれば,浜松市において,前記3(3)のような実情が認められる。
しかしながら,これらは,井伊家の菩提寺である「龍潭寺」や井伊直虎の位牌が安置されている「妙雲寺」が浜松市にあること及び花押付きの蜂前神社所蔵の直虎書状が浜松市博物館で保存公開されている事実を示すにすぎず,また,浜松市における前記3(3)の実情の多くは,本件商標の登録査定の日前において,浜松市及びその近隣において活動及び広報等がされていたにとどまるものである。
そうすると,浜松市における上記の実情,セミナーの開催,書籍,読本(前記3(2))及び数件の新聞記事情報(前記3(4))をもって,「直虎」の文字が,本件商標の登録査定時に,「井伊直虎」の名を表すものとして,日本国内において,広く一般に知られたものであるということはできない。
(2)「直虎」の文字を本件商標権者がその指定商品について使用することが社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反するものとすべき事実があるかについて
井伊直虎の名称の利用状況について,浜松市では,平成27年10月より,公共施設や大型商業施設合計13カ所の外壁に「女城主 井伊直虎 ゆかりの地 浜松」と表示した懸垂幕や横断幕を設置,奥浜名湖エリアの商店街などに「井伊直虎 ゆかりの地 浜松」と表示した約600枚のフラッグを設置,市内全域に約5000枚ののぼりを設置していること(甲5の10ないし15),平成28年1月より,公共交通の小型循環バスの車体に,「『井伊直虎』ゆかりの地 浜松」をPRするラッピングをしたこと(甲5の9),平成28年3月に「井伊直虎特設サイト」を開設したこと(甲5の3),平成29年NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」の放送を契機に,平成28年4月に「井伊直虎ゆかりの地 浜松」のPRロゴマークを決定したこと(甲5の5),平成28年3月に全国公募した,井伊直虎のマスコットキャラクターについて,同年7月に「出世法師直虎ちゃん」を選出・発表したこと(甲5の2)が認められる。
しかしながら,平成29年のNHK大河ドラマのタイトルが「おんな城主 直虎」であることが発表されたことにより(前記3(1)),「おんな城主 直虎」の文字は,NHKの大河ドラマタイトルの公表,番組の制作及び放映に向け,国内において急速に周知度が高まることは想定されるものの,上記以外の申立人提出の証拠は,本件商標の登録査定の日以降のものである上,上記証拠において,「直虎」の文字のみで表示されているものは見あたらない。
そうすると,申立人が提出した上記証拠からは,本件商標の登録査定時において,「直虎」の文字が,地域おこしなど公益的な施策等に広く使用されていたものということができない。
また,たとえ「直虎」の文字が商標登録されたとしても,該文字は,歴史上の人物の名称である「井伊直虎」はもとより,浜松市が使用する,図形と「直虎 ゆかりの地 浜松」の文字からなるロゴ,「女城主 井伊直虎 ゆかりの地 浜松」,「女城主 井伊直虎 浜松」,「井伊直虎 ゆかりの地 浜松」,「出世法師直虎ちゃん」等の表示とは別異のものというべきであるから,これらの表示に何ら影響を及ぼすものではなく,同市等がこれらを表示して行う公益的な施策等の遂行の妨げになるものでもない。
その他,本件商標権者が,公益的な施策等に便乗し,その遂行を阻害し,公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら,利益の独占を図る意図をもって本件商標の登録出願をしたものとすべき具体的な証左は見あたらない。
また,仮に,本件商標権者が,「井伊直虎」の氏名に依拠して本件商標を構成し,これを登録出願したものであったとしても,前記(1)に示すとおり,「直虎」の文字が,本件商標の登録査定時に日本国内において「井伊直虎」の名を表すものとして広く知られていたとはいえない以上,本件商標権者が,「井伊直虎」の氏名の有している信用,名声,顧客吸引力等にフリーライドしたものということはできない。
(3)本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないとすべき事実があるかについて
ア 甲第10号証の2は,平成28年7月14日付けの本件商標権者から浜松商工会議所に宛てた「商標確認等に関するお願い」とする書面であり,その内容は,同商工会議所会員である事業者が販売予定の「直虎饅頭」,「直虎最中」の商標が,本件商標権者の商標に対して商標権の侵害のおそれがあるため,浜松商工会議所として確認と指導を依頼するものである。
申立人は,これをもって,本件商標権者は本件商標が周知商標になることを知りつつ先取り的に出願したものであり,利益の独占を図る意図をもってした商標登録出願である旨主張する。
しかしながら,本件商標権者は,該事業者が販売予定の商品「饅頭,最中」について使用をする商標が自己の商標権を侵害するおそれがあるため,その確認と指導を求めたものであって,かかる行為のみをもって,本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあったということはできない。
イ 申立人は,「本件商標権者は,浜松地域おこしプロジェクト創設時から本件商標の登録出願時の平成28年にわたり,浜松商工会議所が主催する同プロジェクト専門家並びに参加企業として参加企業を把握していた立場にあったこと,同プロジェクトでは,浜松地域おこしの一環として同プロジェクト参加企業に専門家を派遣しており,本件商標権者も複数回にわたって派遣されていたこと,NHK大河ドラマの過去の経済的効果にかんがみると,平成27年8月25日における平成29年NHKの大河ドラマ発表後,本件商標権者は自身に有利な展開及び自身の売上増加を目的として本件商標の登録出願を行ったことが容易に推察できるから,明らかに商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものといえる。」旨主張している。
しかしながら,申立人が提出した証拠からは,本件商標の登録出願の日前に,「直虎」の文字を,浜松地域おこしプロジェクトにおいて,どのように活用することが具体的に検討されていたかは不明である上,本件商標権者が該プロジェクトに参加し,専門家として参加企業に派遣されていたこと等の事実は見あたらない。
そうすると,NHK大河ドラマの放映による経済的効果を勘案しても,「直虎」の文字からなる本件商標を,本件商標権者が商標登録出願することが,自身に有利な展開及び売上増加を目的としたものであってその登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものということはできない。
その他,申立人が提出した証拠を検討しても,本件商標の登録出願の経緯等に不正の利益を得る目的その他不正の目的があるなど社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものがあったと認めるに足る事実は見あたらない。
5 本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性について
本件商標の「直虎」の文字は,その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるものでないことは明らかである。
そして,前記4のとおり,「直虎」の文字が,「井伊直虎」の名を表すものとして,日本国内において,広く一般に知られたものであるということができず,仮に,本件商標権者が,「井伊直虎」の氏名に依拠して本件商標を構成し,これを登録出願したものであったとしても,その使用が社会公共の利益に反し,社会の一般道徳観念に反するもの,又は,本件商標の登録出願の経緯等に不正の利益を得る目的その他不正の目的があるなど社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものがあったと認めるに足る事実は見あたらない。
したがって,本件商標は,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標とはいえないから,商標法第4条第1項第7号に該当しない。
6 申立人の主張について
(1)申立人は,甲第3号証の5を提出し,「2015年8月25日に,NHK平成29年大河ドラマの主人公が井伊直虎であることが発表された(タイトル『おんな城主 直虎』)」旨,及び,「同号証に示されるNHKの発表により,『直虎』の文字が『井伊直虎』を表すものとして広く知られるに至ったものといえる。」旨主張する。
「NHKドラマ DORAMA」のウェブサイト(甲3の5)によれば,平成29年大河ドラマのタイトルは「おんな城主 直虎」であること,その作者は森下氏であること,また,「執筆にあたって」として作者である森下氏のコメントが記載され,5頁には「【物語】」としてその内容の概略が記載されていることからすると,「おんな城主 直虎」とのタイトルの平成29年大河ドラマは,NHKが森下氏の作品に基づいて制作し放映するものであって,その主人公の名は「井伊直虎」であるということができる。
しかしながら,2015年8月26日のウェブサイト(甲3の10)によれば,該NHKの発表に対する「コメント・口コミを見る」は19件,「facebookシェア」は29件程度にすぎない。
そうすると,これらをもって,「直虎」の文字が「井伊直虎」の名を表すものとして広く知られるに至ったものということができない。
(2)申立人は,甲第12号証及び甲第15号証を提出し,「いずれもNHKの発表を内容とした記事であり,ドラマタイトル及び主人公に言及していることから,4日間で『直虎』の文字が『井伊直虎』を表すものとして広く知られるものとなったといえる。」旨主張する。
しかしながら,甲第12号証は,「キーワード」を「井伊直虎」とした2015年8月25日から同月28日までの新聞・雑誌記事横断検索であり,その32件の検索結果の見出しには,「17年大河ドラマ『おんな城主 直虎』」,「17年大河ドラマ 井伊直虎の生涯描く 主演は柴咲コウさん」,「17年大河ドラマは井伊直虎,主演は柴咲コウさん」のように記載されているものの,その具体的な掲載内容は示されていない。また,甲第15号証は,「キーワード」を「直虎」とした同様の期間の検索結果を示すにすぎず,それらの具体的な掲載内容は示されていない。
そして,前記(1)のとおり,「直虎」の文字が「井伊直虎」の名を表すものであることは,大河ドラマ「おんな城主 直虎」の作品における主人公が「井伊直虎」であるから「直虎」とも表示されるものであって,その「直虎」の表示が,申立人が主張する「井伊直虎」の名を表すものとして,本件商標の登録査定時において広く知られていたということはできない。
(3)申立人は,「『直虎』の名称は日本国内において『井伊直虎』を表すものとして広く知られるものであるから,本件商標権者がこれらの名称の有している信用,名声,顧客吸引力等にフリーライドしているものということができる。」旨主張する。
しかしながら,「直虎」の文字は,「井伊直虎」の名を表すものと特定することができず,申立人が提出した証拠において前記3(3)等の事実があったとしても,いずれも平成29年のNHK大河ドラマの放映に向け,急遽,浜松市及びその近隣において行われた広報活動に限られるものであって,他に,「直虎」の文字が,地域おこしなど公益的な施策等に広く使用されていた事実は見あたらない。
そうすると,申立人が提出した証拠からは,本件商標の登録査定時において,「井伊直虎」の氏名が有している信用,名声,顧客吸引力等がどの程度のものであるかを推し量ることができないから,本件商標権者がその氏名の有している信用,名声,顧客吸引力等にフリーライドしているものとはいえない。
(4)申立人は,甲第10号証の1及び2を挙げ,「商標『直虎』について一私人たる本件商標権者に独占権たる商標権を付与した結果として,公益的な団体である申立人が本件商標の登録出願の日前より行ってきた地域おこしの活動が阻害されるものとなっている。」旨主張する。
申立人が提出した甲第6号証の8には,「皮に独自のキャラ 出来たての最中」の見出しの下,事業者(浜松市中区)が「直虎最中」を開発したこと,直虎をイメージして制作したオリジナルのキャラクターを最中の皮にデザインしたこと,看板商品「カステラ饅頭」に井伊家の旗印である「井」や「直虎ゆかりの地浜松」と焼き印した「直虎饅頭」も本店で発売する旨が記載されている。
しかしながら,同号証は,該事業者がオリジナルのキャラクターを「最中」にデザインすること,井伊家の旗印である「井」や「直虎ゆかりの地浜松」を「カステラ饅頭」に焼き印すること,これらの「直虎最中」,「直虎饅頭」を発売する旨を示すものであって,これが,申立人が本件商標の登録出願の日前より行ってきた地域おこしの活動であることは確認することができない。
そうすると,本件商標権者による本件商標の登録が,公益的な団体である申立人による本件商標の登録出願の日前より行ってきた地域おこしの活動を阻害するものということはできない。
(5)申立人は,「甲第16号証ないし甲第19号証に示すとおり,本件商標の登録により,浜松地域のみならず全国において混乱をきたしている事実がある。」旨主張する。
しかしながら,甲第16号証ないし甲第19号証は,「SankeiBIZ」,「信毎web」,「中日新聞(CHUNICHI Web)」及び「朝日新聞DIGITAL」のウェブサイトであるところ,これらの内容は,「直虎」の文字からなる商標の商標登録に対する,申立人による登録異議の申立てに関するものであるから,該登録商標の存在が,浜松地域のみならず全国において混乱をきたしているということはできない。
7 むすび
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第7号に違反してされたものではないから,同法第43条の3第4項の規定により,その登録を維持すべきものである。
よって,結論のとおり決定する。
異議決定日 2017-03-27 
出願番号 商願2015-83149(T2015-83149) 
審決分類 T 1 651・ 22- Y (W30)
最終処分 維持 
前審関与審査官 早川 真規子 
特許庁審判長 青木 博文
特許庁審判官 豊泉 弘貴
田中 亨子
登録日 2016-04-28 
登録番号 商標登録第5846107号(T5846107) 
権利者 有限会社モーク
商標の称呼 ナオトラ 
代理人 特許業務法人太田特許事務所 
代理人 特許業務法人太田特許事務所 
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