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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y25
管理番号 1325005 
審判番号 取消2015-300398 
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2015-06-03 
確定日 2017-01-30 
事件の表示 上記当事者間の登録第5021154号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5021154号商標の指定商品中、第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く),げた,草履類」については、その登録は取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5021154号商標(以下「本件商標」という。)は、「TETSU」の欧文字を標準文字で表してなり、平成18年4月6日に登録出願、第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。),靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具,げた,草履類,仮装用衣服,乗馬靴」のほか、第14類、第18類及び第24類に属する商標登録原簿に記載の商品を指定商品として、同19年1月26日に設定登録されたものである。
そして、本件審判の請求の登録は、平成27年6月17日である。
なお、本件審判において商標法第50条第2項に規定する「その審判の請求の登録前3年以内」とは、平成24年(2012年)6月17日ないし同27年(2015年)6月16日である(以下「要証期間内」という場合がある。)。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を、審判請求書、審判事件弁駁書及び口頭審理陳述要領書において、要旨以下のように主張し、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第3号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定商品中、「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。),げた,草履類」について、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存在しないから商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
2 審判事件弁駁書における主張
被請求人は、審判事件答弁書とともに乙第1号証ないし乙第10号証(「枝番」を含む。以下、枝番の全てを引用するときは、枝番を省略して記載することがある。)を提出しているが、本件商標を審判請求に係る指定商品に使用していたことの証明はされておらず、本件商標は、その一部取消しがされるべきものである。
(1)乙第1号証について
乙第1号証では、「TETSU SAKAGUCHI」のブランドコンセプトが説明されている。被請求人は「本件商標『TETSU』は、被請求人『ティーエス株式会社』に属する坂口徹(さかぐちてつ)氏がデザイン、プロデュースを行なった被服商品のブランド名である。』と述べている。
しかしながら、乙第1号証では、「TETSU SAKAGUCHI」の表示があるものの、本件商標の表示は認められない。また、後述のとおり、本件商標と「TETSU SAKAGUCHI」は社会通念上同一と認められる商標ということはできない。
さらに、被請求人は、「・・・『TETSU』ブランドの商標権者として他の商社やメーカーに『TETSU』ブランドのライセンスをするビジネスも行なってきた。」と述べているが、乙第1号証には、被請求人の専用使用権者又は通常使用権者が審判請求の登録前3年の間に本件商標を指定商品に使用していた事実が明確に認められる記載は一切確認できない。
(2)乙第2号証について
乙第2号証では、商標を特定する記載がないため、商標法第50条に規定されている登録商標の使用事実が証明されたということはできない。
(3)乙第3号証ないし乙第5号証について
乙第3号証ないし乙第5号証では、商標「TETSU SAKAGUCHI」及び「TETSU/SAKAGUCHI」が付されたネクタイの写真が認められる。また、被請求人は、「・・・『TETSU』のみの表示がされたネクタイが販売されていた事実もある(写真なし)。」と述べている。
しかしながら、被請求人が述べているとおり、乙第3号証ないし乙第5号証において当該事実を証明する写真等は認められず、本件商標が付されたネクタイが販売されていた事実は証明されていない。
また、被請求人は、「TETSU/SAKAGUCHI」と本件商標との同一性について、「・・・2段の商標『TETSU/SAKAGUCHI』は、本件商標『TETSU』と別異の商標『SAKAGUCHI』とが、それぞれ縦に並んで表示されているにすぎず、特に『TETSU』と『SAKAGUCHI』とを一体不可分に把握する理由もないので、『TETSU』部分の表示(を)もって本件商標と社会通念上同一の商標が使用されていると考えるのが自然である。」と主張している。
しかしながら、乙第3号証ないし乙第5号証で示されている商標「TETSU/SAKAGUCHI」は、「TETSU」と「SAKAGUCHI」が著しく離れているともいえず、「TETSU/SAKAGUCHI」のように全体として長い商標の場合、2段で表示することは一般的に行われている。
したがって、「TETSU/SAKAGUCHI」は一連一体の商標として認識されるのが自然である。
また、商標「TETSU/SAKAGUCHI」と同様に商標「TETSU SAKAGUCHI」も「TETSU」と「SAKAGUCHI」が著しく離れているともいえず、一連一体の商標として認識されるのが自然である。
さらに、一般的に被服の分野においてデザイナー名をそのままブランド名としているような場合、デザイナーの氏名全体でそのブランドを示す商標として認識されるのが通常であり、デザイナーの氏名全体からなるブランドの商標とデザイナーの名前のみからなる商標は、別の商標として認識されるのが一般的である。つまり、「TETSU/SAKAGUCHI」とその一部である商標「TETSU」は非類似の商標であり、社会通念上同一と認められる商標とはいえない。
以上により、「TETSU/SAKAGUCHI」及び「TETSU SAKAGUCHI」を使用していた事実は本件商標の使用事実の証明とはなり得ない。さらに、当該ネクタイのタグ等には被請求人の名称等の表示がなく、被請求人が当該ネクタイを製造・販売等していた事実も証明されていない。
(4)乙第6号証について
乙第6号証の1では、売上集計表の下部に手書きで書かれた「TETSU」の文字とネクタイのようなイラストが確認できる。当該売上集計表の上部には日付を記入する欄が設けられており、6月18日の売上集計表であることが確認できるが、年の欄が「201 年」のまま記入されておらず、年月日が明確であると認められない。このため、乙第6号証の2に示されているレシートの写しが、当該売上集計表と同日のものであることが明確でない。
また、手書きで書かれた文字「TETSU」、ネクタイのようなイラスト及びレシートの写しだけでは、現実に商標「TETSU」が付されたネクタイが販売されたかどうかは不明確であり、信憑性及び客観性に欠けるというべきである。
さらに、当該売上集計表及びレシートには被請求人の名称及び住所の表示がなく、被請求人が当該ネクタイを製造・販売等していた事実は証明されていない。
(5)乙第7号証について
乙第7号証の1では、売上集計表の下部に手書きで書かれた「ネクタイ」の文字が確認できる。当該売上集計表の上部には日付を記入する欄が設けられており、8月12日の売上集計表であることが確認できるが、年の欄が「201 年」のまま記入されておらず、年月日が明確であると認められない。このため、乙第7号証の2に示されているレシートの写しが、当該売上集計表と同日のものであることが明確でない。
また、手書きで書かれた文字「ネクタイ」及びレシートの写しだけでは、現実に商標「TETSU」が付されたネクタイが販売されたかどうかは不明確であり、信憑性及び客観性に欠けるというべきである。
さらに、当該売上集計表及びレシートには被請求人の名称及び住所の表示がなく、被請求人が当該ネクタイを製造・販売等していた事実は証明されていない。
(6)乙第8号証について
乙第8号証では、商標を特定する記載がないため、商標法第50条に規定されている登録商標の使用事実が証明されたということはできない。
(7)乙第9号証について
乙第9号証の1では、請求書の一部に「Tetsu necktie」の文字が認められる。また、当該請求書の右上部には被請求人の名称及び住所が記載されている。
しかしながら、乙第9号証において実際に販売されたネクタイの写真等は認められず、現実に本件商標が付されたネクタイが販売された事実を証明するのには不十分であり客観性に欠ける。また、乙第9号証の2及び3では商標を特定する記載がない。
(8)乙第10号証について
乙第10号証の1及び2では商標を特定する記載がない。乙第10号証の3及び4では、商標「TETSU」及び商標「TETSU SAKAGUCHI」が付されたネクタイの写真が確認できる。被請求人は、「デザイナーであった故坂口徹氏のもとで働いていたデザイナーのA氏が、2010年9月に自身のアトリエ兼店舗をオープンした・・・。このオープンを記念し、被請求人は『TETSU』及び『TETSU SAKAGUCHI』ブランドのネクタイ30本をA氏に譲渡し、それ以来A氏の店舗にてこれらのネクタイの販売が継続されている事実がある。」と述べている。
しかしながら、2010年9月の譲渡行為は、要証期間内の使用ではないため、本件商標の使用の証明とはなり得ないし、被請求人は、A氏の店舗において当該ネクタイの販売が継続されている旨を主張しているが、乙第10号証は、本件審判の請求の登録日である2015年6月15日以降の2015年7月30日に撮影された写真であり、要証期間内の商標の使用の証拠として認められない。
また、2015年7月30日時点で本件商標が付されたネクタイが販売されていたとしても、2010年9月の譲渡後から2015年7月30日時点まで継続的に本件商標が付されたネクタイが販売されたということは証明されていない。
さらに、本件商標が付されたネクタイが現実に販売されたことを証明する領収書・納品書等の証拠書類は提出されていない。
したがって、A氏による販売行為が要証期間内に行われたことは証明されていない。さらに、A氏が被請求人の専用使用権者又は通常使用権者であることも証明されていない。
(9)まとめ
以上のとおり、被請求人が提出した乙第1号証ないし乙第10号証は、本件商標を審判請求に係る指定商品に使用していたことを証明するものではなく、本件商標の登録は、その一部取消しがされるべきものである。

3 口頭審理陳述要領書における主張
被請求人が提出した乙第1号証ないし乙第15号証において、被請求人が本件商標を審判請求に係る指定商品に使用していたことの証明はされておらず、本件商標の登録は、その一部取消しがされるべきものである。
(1)乙第1号証ないし乙第5号証について
乙第1号証ないし乙第5号証について追加すべき主張はない。
(2)乙第6号証及び乙第11号証の2について
ア 被請求人の主張に対する反論について
乙第6号証について、請求人の信憑性及び客観性に欠ける旨の主張に対し、被請求人は、口頭審理陳述要領書において乙第11号証の2を提出している。
乙第11号証の2により、2013年6月18日に金額9,400円の売り上げがあったことが証明されたことは認める。
しかしながら、乙第11号証の2は売り上げがあったことの証明にすぎず、本件商標が付されたネクタイが販売されたことの証明と認められない。
また、手書き等を理由として証拠書類の信憑性を否定する請求人の主張に対し、「・・・手書きの領収書等であっても、その内容に問題がなければ税務署は経費計上を認めている。」と述べ、信憑性があることを主張している。被請求人が主張するように手書きであることのみをもって証拠書類の信憑性が否定されることはないとしても、被請求人が提出したような形式で売上金額や販売実績を記録することは社会通念上一般的であるとはいえず、客観的で信憑性のある証拠書類として認められない。
さらに、被請求人は「・・・ネクタイのようなイラストを書き込んだり、欄外に表示したり、その他のイラストや感想を記載するなど、売上金額や販売実績を記録するものとしては、一般的とはいえない点もあり、この点から信憑性を欠くと指摘されても不思議ではない。」と述べ、信憑性がないことを認めている。
また、このような手法が被請求人の処理方法として一貫した矛盾のないものである旨を述べているが、当該事実は、2013年6月18日に金額9,400円の売り上げがあった事実を補強するにすぎず、本件商標が付されたネクタイが販売されたことの証明になっていないことは明らかである。
したがって、被請求人の「・・・商標『TETSU』が付されたネクタイ1本が2,500円にて販売された事実は客観的に明らかであり真実である。」との主張が客観的に証明されたとはいえない。
イ 商標の使用主体の主張に対する反論
被請求人は、乙第12号証及び乙第13号証を提出し、当該売り上げがあった店舗である「SNOB’S HEART CAFE」が被請求人の運営する店舗である旨を主張している。
しかしながら、上述したとおり、本件商標が付されたネクタイが販売された事実が証明されていないため、当該店舗の運営者が被請求人であったか否かについて検討する必要性はないと考える。
なお、被請求人が商標「SNOB’S HEART」の商標権者であることは、その店舗の運営者が被請求人であることを推認させるにすぎず、当該店舗で販売していたと主張するネクタイが被請求人の提供するネクタイであることを証明する事実ではない。
ウ 乙第6号証の信憑性及び客観性についての主張
被請求人が本件商標の付されたネクタイを販売していたという事実があったならば、その商品が製造又は納品された際の「製造指示書」、「発注書」、「納品書」、「物品領収書」等の取引書類が存在するはずである。
しかしながら、被請求人は、ネクタイを販売したと主張する売上集計表及びレシートの写しのみを提出し、その提出した売上集計表も信憑性及び客観性が欠けていることを考慮すると、被請求人が本件商標の付されたネクタイを販売等していたということが事実であると認めることはできない。
さらに、被請求人は、乙第3号証ないし乙第5号証において商標「TETSU SAKAGUCHI」及び「TETSU/SAKAGUCHI」が付されたネクタイの写真を提出している。当該事実から、要証期間内であるかは不明であるが、被請求人が商標「TETSU SAKAGUCHI」又は「TETSU/SAKAGUCHI」が付されたネクタイを販売等していたとも考えられる。
そうだとすると、乙第6号証の1に表示された文字「TETSU」は、単に商標「TETSU SAKAGUCHI」又は「TETSU/SAKAGUCHI」を省略して記載されたとも考えられる。つまり、被請求人が2013年6月18日に販売したと主張するネクタイに付されていた商標は、本件商標と実質的に同一とは認められない商標「TETSU SAKAGUCHI」又は「TETSU/SAKAGUCHI」であった可能性も否定できない。
エ 小活
以上により、乙第6号証及び乙第11号証の2をもって、本件商標の使用事実が証明されたということはできない。
(3)乙第7号証及び乙第11号証の1について
被請求人は新たに乙第11号証の1を提出して、乙第7号証の信憑性及び客観性を証明しようとしているが、上記(2)と同様に、新たに提出された乙第11号証の1は、売り上げがあったことの証明にすぎず、本件商標が付されたネクタイが販売されたことの証明になっていないことは明らかである。
(4)乙第8号証ないし乙第13号証について
乙第8号証ないし乙第13号証について追加すべき主張はない。
(5)乙第9号証及び乙第15号証について
ア 被請求人は、口頭審理陳述要領書において、審判事件答弁書で述べた主張を変更し、乙第9号証をもって、商標法第2条第3項第8号にいう商標の使用であることを主張する旨を述べている。また、新たな証拠書類として、乙第14号証及び乙第15号証を提出している。
しかしながら、当該主張は失当であるといわざるを得ない。
商標法第2条第3項第8号は、「商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」を商標の使用としている。被請求人の行為が同号にいう行為に該当しないことは、以下に述べるとおりである。
イ 「取引書類」の該当性について
乙第9号証の1は請求書であり、形式的には商標法第2条第3項第8号にいう「取引書類」に該当すると考えられる。また、乙第9号証の2により被請求人と「ラ、ティエ」の間で金額248,000円の取引があったことは認める。
しかしながら、当該請求書は、取引の内容を示す唯一の証拠として提出されたものであるが、被請求人により発行されたものであり、社判等の印鑑の押印も認められない。請求書に社判等の押印を行うことは法律上の義務ではないが、慣習上行われている点を考慮すると、当該請求書は不自然であり、その信憑性を疑わざるを得ないものである。
さらに、被請求人と「ラ、ティエ」の間の取引書類について乙第9号証の1で示された請求書のみが提出され、被請求人が商品を入手し「ラ、ティエ」へ販売したことを証明するための「製造指示書」、「発注書」、「納品書」、「契約書」、「領収書」等の取引書類が一切提出されておらず、このような書類が存在しないことは、一般的な取引の実情に照らし合わせて不自然であるといわざるを得ない。
つまり、当該請求書は、形式的に「取引書類」に該当するとしても、不自然な書類であって信憑性に欠ける証拠といわざるを得ず、要証期間内に「ラ、ティエ」宛てに発行された請求書であることが証明されたということはできない。
ウ 「頒布」行為の該当性について
被請求人は、被請求人が当該請求書を「ラ、ティエ」に発行した行為を、商標法第2条第3項第8号にいう「頒布」行為である旨を主張している。
しかしながら、当該行為が「頒布」行為に該当しないことは明らかである。
「頒布」行為について商標法において条文上定義されていないが、広辞苑(甲2)によると「頒布」は「広くゆきわたるように分かちくばること。」等を意味する語である。
また、「頒布」行為について、不使用取消審判(取消2009-300445)(甲3)は、「広告物」の「頒布」行為について説示されたものではあるが、広辞苑の記載も合わせて検討すると、「取引書類の頒布」行為とは、「不特定多数の者(少なくとも複数の者)に配布する行為」であると考えられる。
被請求人は、「ラ、ティエ」にのみ請求書を発行したと主張しており、当該行為は「不特定多数の者(少なくとも複数の者)に配布する行為」に該当せず、「頒布」行為を行っていないことは明らかである。
また、被請求人が本事件と関連性が深い事件であると主張する取消2011-300566においては、複数の取引書類が提出されており、取引書類として乙第9号証の1に示す請求書のみが提出されている本事件とは事案が異なる。
エ 小活
以上により、乙第9号証及び乙第15号証をもって、本件商標の使用事実が証明されたということはできない。
(6)乙第10号証について
乙第10号証について追加すべき主張はない。
(7)まとめ
以上のとおり、被請求人が提出した乙第1号証ないし乙第15号証は、本件商標を審判請求に係る指定商品に使用していたことを証明するものではない。

第3 被請求人の主張
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を、審判事件答弁書及び口頭審理陳述要領書において、要旨以下のように主張し、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第15号証(枝番を含む。)を提出した。
1 審判事件答弁書における主張
(1)商標権者である被請求人は、要証期間内に、取消しの対象とされている指定商品中「ネクタイ」について、「TETSU」の商標を付して日本国内において展示、販売してきた事実があり、これは、商標法第2条第1項第2号にいう商標の使用に該当する。以下に詳述する。
(2)本件商標「TETSU」は、被請求人「ティーエス株式会社」に属する坂口徹(さかぐちてつ)氏がデザイン、プロデュースを行なった被服商品のブランド名である。
坂口徹氏は、被請求人の代表者の実兄であり、2003年に亡くなるまで、デザイナーとして男性用スーツ、ジャケット、シャツ、ネクタイ等のデザインを数多く手がけた。その実績が認められ、被請求人は、大手商社などとの間で商品のデザインやプロデュースを行なう契約も締結していた。そのため、本件商標「TETSU」は、別件の商標「TETSU SAKAGUCHI」とともに、被服に関しては、被請求人及び坂口徹氏が出所であることを表す商標としてある程度周知となっていたものと考える。乙第1号証は、「TETSU SAKAGUCHI」ブランドのコンセプトを説明する資料である。
被請求人は、坂口徹氏を中心として被服商品を多くプロデュースし、商品の企画、製造、販売まで一貫して行なうとともに、「TETSU」ブランドの商標権者として他の商社やメーカーに「TETSU」ブランドをライセンスするビジネスも行なってきた。そして、2003年以降は「TETSU」ブランドの管理を行ないつつ、飲食店などの事業も行なってきた。
(3)坂口徹氏が亡くなった後、被請求人は、飲食店「SNOB’s HEART CAFE」(所在地:東京都渋谷区神宮前6丁目6番6号)の営業を開始し、飲食店の雑貨売り場コーナーにおいて、過去に坂口徹氏がデザインし被請求人が製造した「TETSU」ブランドの「ネクタイ」を、2008年から営業を終了する2013年9月23日にかけて、販売を行なってきた。以下にこれらの事実を証明する資料についで説明する。
乙第2号証は、被請求人が運営する飲食店「SNOB’s HEART CAFE」の店内の様子を撮影したものである(撮影日:2013年7月23日、撮影者:被請求人の代表者)。店内左奥(写真内の中央やや左側付近)に腰高程度の置物台があり、そこにロール状にしたネクタイを数点から十数点入れ、雑貨として販売していた事実がある。
乙第3号証ないし乙第5号証は、当時販売していたネクタイと同種のネクタイを撮影した写真である。これらには「TETSU」でなく「TETSU SAKAGUCHI」(横一列)及び「TETSU/SAKAGUCHI」(上下2段)の商標が付されたネクタイが表示されているが、「TETSU」のみの表示がされたネクタイが販売されていた事実もある(写真なし)。
(4)なお、写真に表示されている2段の商標「TETSU/SAKAGUCHI」と本件商標「TETSU」との社会通念上の同一性(商標法第50条第1項)が問題となり得るが、2段の商標「TETSU/SAKAGUCHI」は、本件商標「TETSU」と別異の商標「SAKAGUCHI」とが、それぞれ縦に並んで表示されているにすぎず、特に「TETSU」と「SAKAGUCHI」とを一体不可分に把握する理由もないので、「TETSU」部分の表示をもって本件商標と社会通念上同一の商標が使用されていると考えるのが自然である。
(5)当該ネクタイが実際に販売された事実を表すものとして、2013年の店舗の売上集計表の写しを提出する(乙6?乙8は、全て撮影日は2015年8月18日、撮影者:被請求人代理人)。
乙第6号証の1は、飲食店「SNOB’s HEART CAFE」の売上集計表である。当日は全体で9,400円の売上があり、下部に、その売上のうち「TETSU」ブランドのネクタイ1本が2,500円で、また、バケツ雑貨が1,400円で販売されたことが記録されている。
乙第6号証の2は、2013年6月18日にレジスターから出力されたレシートであり、売上集計表の日付を証明するものである。売上集計表左上には日付の記載のみあり年の記載がされていないが、当該レシートが集計表に貼付されており、そこには「2013-06-18」の日付がある。
乙第6証の1及び2を総合して、2013年6月18日に「TETSU」ブランドのネクタイ1本が実際に販売された事実がわかる。
乙第7号証の1は、同様の売上集計表であり、当日15,000円の売上があり、下部に、その売上のうちネクタイ2本が5,000円で、また、小物雑貨が1,300円で販売されたことが記録されている。
乙第7号証の2は、当該売上集計表に貼付されたレシートであり「2013-08-12」の日付がある。
乙第7号証の1及び2を総合して、2013年8月12日にネクタイ2本が実際に販売された事実がわかる。なお、本件ネクタイ2本については「TETSU」の明示はないが、デザイナーの実弟の会社が経営する飲食店において、雑貨の一つとしてネクタイを販売する上で、わざわざ他社ブランドのネクタイを仕入れる必要性や必然性がない。8月12日に販売されたネクタイについても「TETSU」ブランドのネクタイであると考えるのが自然である。
(6)販売された雑貨を売上集計表の下部に手書きにて記録するという実務が行なわれていたことを証明するものとして、ネクタイ以外の雑貨についての記録がされている売上集計表の写しを提出する。
乙第8号証の1は、2013年1月4日から営業終了の同年9月23日までの売上集計表全体の写しである。売上の記録は、A5のフォームに手書きするとともに、同日のレシートを貼付することにより行なわれていた。余白には女性のアルバイトスタッフのメモ、感想又は顧客来訪の記録がされている。
乙第8号証の2ないし13は、2013年1月10日ないし同年9月15日の間の売上集計表で、例えば、乙第8号証の2には、ハンカチ2点(540円)、「ジプシー」なる雑貨(880円)の販売記録があり、同様に、乙第8号証の3ないし13にも、猫の本(1,400円)などの販売記録がある。
以上より、2013(平成25)年6月18日及び同年8月12日において、商標「TETSU」が付された商品「ネクタイ」が販売されたことが明らかである。
(7)上記により商標法第50条第2項に規定する商標の使用は証明されたものと考えるが、商標の使用の事実はさらに存在するので、それについて説明する。
被請求人が経営する飲食店「SNOB’s HEART CAFE」が2013年9月23日で営業を終了した後、2014年2月3日に当該飲食店で使用された食器類・設備・什器等を、軽井沢にて新規に喫茶店を開業する者「ラ、ティエ」へ販売した。その際に「TETSU」ブランドのネクタイ5本も併せて販売した事実がある。
喫茶店「ラ、ティエ」(所在地:長野県北佐久郡・・・)の詳細情報は、インターネット検索により容易に調べることができる。
乙第9号証の1は、被請求人が2014年(平成26年)2月3日に喫茶店「ラ、ティエ」に対し発行した請求書であり、この表の中段に「Tetsu necktie」の項目があり、商標「TETSU」が付されたネクタイ5本を計10,000円にて販売したことを確認できる。
乙第9号証の2は、被請求人の銀行口座の通帳であり、2014年(平成26年)2月5日付けで「ラ、ティエ」から請求書と同額の入金があった事実を確認できる。
乙第9号証の3は、運搬業者から被請求人に対する請求書であり、「ラ、ティエ」からの入金確認後、2月7日に物品を「ラ、ティエ」へ実際に輸送したことを証明するものである。
以上より、2014(平成26)年2月3日から7日にかけて、商標「TETSU」が付された商品「ネクタイ」が被請求人により販売されたことが明らかである。
(8)現在も商標が継続して使用されている事実もあるので、説明する。デザイナーであった故坂口徹氏のもとで働いていたデザイナーのA氏が、2010年9月に自身のアトリエ兼店舗をオープンした(所在地:東京都目黒区・・・)。このオープンを記念し、被請求人は、「TETSU」及び「TETSU SAKAGUCHI」ブランドのネクタイ30本をA氏に譲渡し、それ以来、A氏の店舗にてこれらのネクタイの販売が継続されている事実がある。これまでに二十数本が実際に販売され、2015年8月1日現在において、数本の在庫を残すのみとなったとのことであるが、現在も販売継続中である。
乙第10号証の1は、A氏の店舗の外観写真であり、乙第10号証の2は、店舗の内部写真である。手前のテーブルの上に、「TETSU」及び「TETSU SAKAGUCHI」ブランドのネクタイが写っている。
乙第10号証の3は、A氏の店舗で販売継続されている「TETSU」ブランドのネクタイである。
乙第10号証の4は、A氏の店舗で販売継続されている、「TETSU」(写真上部)と「TETSU SAKAGUCHI」(写真下部)ブランドのネクタイである。(乙10号証の1ないし4の撮影日は2015年7月30日であり、撮影者は被請求人の代表者である。)
以上より、2010(平成22)年9月から現在にかけて、本件商標「TETSU」が付された商品「ネクタイ」が継続的に販売されていることが明らかである。
(9)結語
上記で主張・立証したとおり、被請求人を出所とし、商標「TETSU」が付された「ネクタイ」が日本国内において要証期間内に販売されてきた事実が存在し、これらは商標法第2条第3項第2号にいう商標の使用に該当する。

2 口頭審理陳述要領書における主張
(1) 乙第1号証ないし第5号証について
乙第1号証ないし第5号証については、特に追加すべき主張はない。
(2)乙第6号証について
ア 請求人は、審判事件弁駁書において以下のように主張している。
(i)年の欄が「201 年」のまま記入されておらず、年月日が明確であると認められない。このため、乙第6号証の2に示されているレシートの写しが、当該売上集計票と同日のものであるとことが明確でない。
(ii)手書きで書かれた文字「TETSU」、ネクタイのようなイラスト及びレシートの写しだけでは、現実に商標「TETSU」が付されたネクタイが販売されたかどうかは不明確であり、信憑性及び客観性に欠ける。
(iii)当該売上集計票及びレシートには被請求人の名称及び住所の表示がなく、被請求人が当該ネクタイを製造・販売していた事実は証明されていない。
イ これに対し、被請求人は、以下のように反論する
日付が不明確であるという主張(i)に対しては、乙第6号証の1として提出した売上集計票の左上には「201 年」という表示がされている点は認める。この理由は、毎日作成される売上集計票は乙第6号証の2で示した精算用レシートとセットで用いることを前提としており、当該レシートには正確な日付が印刷されることから、当然に2013年の売上集計票であると把握できるという理由で省略しているにすぎないものである。そのため、日付(月日)については省略せず漏れなく記載されている。
また、被請求人の平成25年(2013年)決算書類の一部である現金資産に関する元帳(乙11の1(審決注:「乙11の2」の誤りと認められる。))には、2013年6月18日に「店舗売上」として9,400円の現金資産の増加が記帳されていることが確認できる。
これは、乙第6号証の1に「売り上げ」として記載され、また、乙第6号証の2の精算用レシートに「現金在高」として記載されている金額9,400円と完全に一致する。
よって、これらの売上集計票、精算用レシート及び元帳写し(乙6の1及び2、乙11の1(審決注:「乙11の2」の誤りと認められる。))によれば、全く矛盾点はなく完全に整合するのであるから、乙第6号証の1の売上集計票は2013年6月18日に作成されたことは客観的にも明らかである。
なお、乙第7号証についても同様であり、8月12日の売り上げは売上集計票及び精算用レシートに15,000円と記載されている。この金額は、現金科目に関する元帳の8月12日の蘭に記帳された「店舗売上」の現金資産15,000円と一致する(乙7、乙11の2(審決注:「乙11の1」の誤りと認められる。))。
したがって、上記請求人の主張(i)は妥当でない。
ウ 手書き等を理由とする信憑性否定の主張(ii)については、売上集計票をはじめとする帳簿、仕訳帳又は取引書類等が手書きにより行なわれていることのみを理由に、適正な取引書類として認められないという主張は全くの誤りである。コンピュータによる作成やプリンターによる印刷が普及するまでは、会計上重要な決算書類や契約書等もむしろ手書きのものが中心であったはずである。また、今日においても、経理書類・取引書類等を全て手書きで行われているという個人事業主や小規模な会社は多く存在するはずであり、例えば手書きの領収書等であっても、その内容に問題がなければ税務署は経費計上を認めている。
たしかに、ネクタイのようなイラストを描き込んだり、欄外に表示したり、その他のイラストや感想を記載するなど、売上金額や販売実績を記録するものとしては、一般的とはいえない点もあり、この点から信憑性を欠くと指摘されても不思議ではない。
しかしながら、乙第8号証の2ないし13に示すとおり、被請求人が運営する飲食店では、店舗スタッフによるこのような記録方法が実務として定着していたのが事実である。感想やイラストなどについても本来は業務日誌のような別の書類を用意すべきところを、売上集計票の余白をうまく活用しただけの話である。最も重要な売上金額の数字及び販売品の記録(ネクタイのイラストなど)は、一般的とはいい難い点もあるかもしれないが、少なくとも被請求人の処理方法として一貫しており、矛盾点は全くない。
このように、売上集計票は統一された手法により記録されたものであり、決算書類として適正と認められた上記の元帳(乙11の1及び2)との売上金額・日付も合致するものであるから、販売された商品が欄外にイラストで表示されている点や手書きされていることのみを理由として、「信憑性及び客観性に欠ける」と判断する請求人の主張は妥当でない。
したがって、乙第6号証により、商標「TETSU」が付されたネクタイ1本が2,500円にて販売された事実は客観的に明らかであり真実である。
エ 主張(iii)では当該売上集計票及びレシートには被請求人の名称及び住所の表示がなく「SNOB’S HEART CAFE」と被請求人との関係は不明であり、被請求人が当該ネクタイを製造・販売していた事実は証明されていない、と請求人は主張する。
ここで、乙第6号証の2として提出したレシートは、専ら被請求人が社内で用いるための「精算用レシート」であり、被請求人に関する情報は省略され表示されていない。すなわち、金銭登録機(レジスター)に記録された1日の売上を合計し、売上集計表に毎日貼付して使用するための精算用レシートにすぎず、顧客に手渡すものではない。そのため、精算用レシート(乙6の2)には被請求人の情報は表示されていない。
請求人に関する情報が表示されたレシートとして、2012年11月3日付けの顧客用レシートの写しを提出する(乙12)。これには店舗名として「SNOB’S HEART CAFE」と記載されているとともに住所も「東京都渋谷区神宮前6-6-6」と表示され、被請求人の住所「東京都渋谷区神宮前6丁目6番6号」と一致している。また、電話番号「03-3407-2000」も被請求人の電話番号として現在も使用している番号である。
さらに、被請求人は、商標「SNOB’S HEART」について第43類「パン・ケーキを主とする飲食物の提供」等の商品・役務を指定する登録商標の商標権者である(乙13)。これらの事実から、「SNOB’S HEART CAFE」は、被請求人が運営する飲食店であったことが明らかになったものと考える。
したがって、請求人の(iii)の主張は妥当でない。
オ 以上より、請求人の上記(i)ないし(iii)の主張は失当であり、誤ったものである。
乙第6号証及び乙第11号証ないし乙第13号証より、商標権者たる被請求人は、被請求人と同住所に所在する「SNOB’S HEART CAFE」を営業し、その店舗内において、2013年6月18日に本件商標と社会通念上同一の商標「TETSU」が付された商品「ネクタイ」を展示し、販売(譲渡)したことに違いなく、この事実は商標法第2条第3項第2号にいう使用に該当する。
(3)乙第9号証について
ア 被請求人は、審判事件答弁書において、乙第9号証を、商標法第2条第3項第2号にいう商標の使用を立証するものとして提出した。
しかしながら、この主張を変更し、乙第9号証をもって、商標法第2条第3項第8号にいう商標の使用であることを主張する。
イ 商標法第2条第3項第8号は、「商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」を「使用」に該当する行為としている。
そして、同号の「取引書類」には、注文書、納品書、送り状、出荷案内書、物品領収書、カタログ等が含まれるというのが特許庁による公式な見解である(工業所有権法(産業財産権法)逐条解説、乙14)。
ウ 以下に、被請求人は、乙第9号証により、商品「ネクタイ」に関する取引書類である請求書に、本件商標と社会通念上同一の商標を付し、要証期間内に頒布した事実を主張する。
(ア)被請求人が運営していた飲食店「SNOB’S HEART CAFE」は2013年9月23日で営業を終了したが、その後、2014年2月3日に当該飲食店で使用された食器類・設備・什器等を、軽井沢にて新規に飲食店を開業する者「ラ、ティエ」へ売却を行なった。
この売却時において、被請求人は、「TETSU」ブランドの商品「ネクタイ」5本を計10,000円(税込)にて飲食店「ラ、ティエ」へ販売し、その他の商品の代金も含めた請求書1通を「ラ、ティエ」へ発行(頒布)したのであり、その請求書の控えが乙第9号証の1である。
当該請求書に、以下のような記載を確認できる。
(i)請求書の発行日は平成26年2月3日
(ii)請求先として「ラ、ティエ様」の表示
(iii)請求書の発行者として「ティーエス株式会社/〒150 0001/東京都渋谷区神宮前6-6-6 2F」の表示
(iv)請求額として「合計金額(消費税込)¥248,000」の記載
(v)販売した物品の項目の1つとして「Tetsu necktie」の表示、数量として「5本」、単価は「¥2,000」、合計として「¥10,000」の表示
(vi)最下部の備考欄には、入金すべき口座の詳細と、入金確認後の指定日に「ラ、ティエ」へ商品一式を発送する旨の記載
(イ)このように、当該請求書には、発行日、請求先の記載、請求者の記載、品名、数量、単価、金額、入金先口座の指示、入金後の契約履行に関する記載のいずれも記載されており、商品の販売に関する請求書としての不備は一切見当たらない。そのため、当該請求書が客観的に請求書としての体をなしており、十分に信憑性のあるものであることを改めて主張する。
なお、上記「Tetsu necktie」の表示について、「necktie」部分は単に商品が「ネクタイ」であることを表すにすぎないため、「Tetsu」部分が自他商品等識別機能を発揮する表示で、商標として認識される部分である。
したがって、商品「ネクタイ」について商標「Tetsu」を使用しているといえ、使用商標「Tetsu」と本件商標「TETSU」とは、綴りは同一であるから、使用商標は、本件商標と商標法第50条第1項に規定する社会通念上同一の商標である。
以上より、乙第9号証の1として提出した請求書に商標「Tetsu」を表示する行為は、商標法第2条第3項第8号にいう「商品に関する取引書類に標章を付して」に該当する。
エ 次に同号の「頒布する行為」について立証する
(ア)乙第9号証の2は、被請求人の銀行の通帳の写しである。当該通帳を確認すると、平成26年2月5日に「振込1」、「ラティエ」、「248000」の表示が記帳されている。つまり、上記請求書を受領した飲食店「ラティエ」が平成26年2月5日付けで、請求書に記された各項目全てについてもれなく購入し、その代金として248,000円(税込)を、請求書に指示された口座へ実際に入金したものである。この入金額には当然に「Tetsu necktie」5本の販売代金10,000円(税込)の対価も含まれているのである。なお、口座に入金された248,000円は、2月5日付けの雑収入として被請求人の銀行口座科目に関する元帳にも記帳されている(乙11の3)。
(イ)乙第9号証の3は、物流会社からの現金領収証である。すなわち、「ラティエ」から入金を受けた被請求人は、請求書の備考欄にて約束した「入金確認後の指定日に『ラ、ティエ』へ商品一式を発送する」業務を、千葉市の物流会社へ依頼し、2月7日に当該物流会社へ運搬代金として31,500円を現金にて支払ったのである。この現金支払いの事実、すなわち商品発送の事実を証明するのが乙第9号証の3である。
乙第9号証の2及び3の内容より、飲食店「ラティエ」は、被請求人から発行された平成26年2月3日付け請求書を確かに受領し、「Tetsu necktie」5本を含む商品全てを購入するために、平成26年2月5日付けで、請求書で指示された被請求人の口座へ、請求額全額の248,000円を銀行振込し、それを確認した被請求人は、平成26年2月7日付けで全商品を飲食店「ラティエ」へ発送したのである。
このような手続の流れには何一つ不自然な点はなく、それどころか、極めて迅速かつ合理的に売買契約が履行されたといえる。よって、飲食店「ラティエ」による入金やその後の商品発送の事実は間違いなく、これらの一連の行為は、当該請求書が被請求人により飲食店「ラティエ」に発行され、「ラティエ」が受領したことを裏付けるものである。
以上より、商標法第2条第3項第8号にいう「頒布する行為」は明らかである。
オ 上記より、乙第9号証から、被請求人が、商品「ネクタイ」に関する取引書類である請求書に本件商標と社会通念上同一の商標を付して頒布したことに間違いなく、これは商標法第2条第3項第8号にいう使用に該当する。
カ 請求人の主張に対する反論
(ア)請求人は、乙第9号証において実際に販売されたネクタイの写真等が提出されていないことを理由に、販売の事実は認められない旨を主張する。
これは被請求人が審判事件答弁書において、乙第9号証を商標法第2条第3項第2号の使用の根拠としたため、立証の不十分さを指摘したものと考えられる。
これに対し被請求人は、今回の口頭審理において、乙第9号証を根拠に、商標法第2条第3項第2号でなく同項第8号にいう使用を主張する。同項第8号は、商品に関する取引書類に標章を付して頒布する行為を、標章の使用の一類型と認めており、商品又はその包装に標章を付したものを譲渡等する行為(同項2号)とは明確に区別し定義している。すなわち、商標法は、商品やその包装自体に標章を付して譲渡等する行為のみならず、所定の取引書類に商標を付して頒布等する行為も、商標の自他商品等識別機能が発揮される行為として認めているのである。
商品等の写真の提出はされず、専ら商標第2条第3項第8号にいう「取引書類」のみの提出により、商標の使用の事実が認められ、不使用取消審判請求が棄却審決された審決例を紹介する(取消2011-300566、乙15)。
本件審判事件についても、乙第9号証の1に記載された「Tetsu necktie」の「Tetsu」の商標は、他のアパレルブランドではなく、被請求人を出所とする「TETSU」ブランドであることを示す自他商品等識別標識としてその機能を発揮していると考えるべきである。
したがって、請求人による、実際に販売されたネクタイの写真等が提出されていないことを理由に、販売の事実は認められない旨の主張は成り立たない。
(イ)請求人は、乙第9号証の2及び3では商標を特定する記載がなく商標法第50条に規定されている登録商標の使用事実が証明されたということはできないと主張する。
乙第9号証の2及び3(被請求人の銀行口座の写し及び物流会社発行の領収書)は、乙第9号証の1として提出した請求書が、飲食店「ラティエ」に確かに発行(頒布)されたことを証明するためのものであって、商標の使用そのものを証明するものでないので、「乙第9号証の2及び3では商標を特定する記載がなく」という請求人の主張は当然である。
しかしながら、乙第9号証を総合すれば、商標の使用は十分に立証できたと考えるので、「商標法第50条に規定されている登録商標の使用事実が証明されたということはできない」旨の主張は誤りである。
キ 特許庁審判長の暫定的見解に対する反論
(ア)特許庁審判長による審理事項通知書において、以下のような暫定的な見解が示されている。
「乙第9号証の1の請求書によれば、『Tetsu necktie』の表示が認められるが、請求書に記載があることのみでは、本件商標が付された被請求人の商品『ネクタイ』が販売されたとは認められない。」
(イ)上記暫定的見解も、被請求人が審判事件答弁書において、乙第9号証を商標法第2条第3項第2号の使用の根拠としたため、立証の不十分さを指摘したものと考える。
これに対し被請求人は、上記カ(ア)で述べたとおり、口頭審理において、乙第9号証を商標法第2条第3項第8号にいう使用の根拠として改めて主張する。
そして、乙第9号証の各証拠によれば、被請求人が商品「ネクタイ」に関する取引書類である請求書に本件商標と社会通念上同一の商標を付して頒布したことの事実は明らかであり、これは商標法第2条第3項第8号にいう使用に該当する。
したがって、上記の見解は成り立たない。
(4)乙第10号証について
乙第10号証については、追加すべき主張はない。
(5)まとめ
以上より、乙第9号証から明らかなとおり、本件商標は、要証期間内である平成26年2月3日に日本国内において、商標権者たる被請求人によって、その指定商品中「ネクタイ」について商標法第2条第3項第8号にいう使用がされた事実がある。
したがって、本件審判請求は成り立たない。

第4 当審の判断
1 被請求人は、本件商標の指定商品中「ネクタイ」について本件商標を要証期間内に使用しているとして、商標法第2条第3項第2号及び同項第8号の使用を主張しているところ、被請求人の主張及び提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。
(1)被請求人(商標権者)のブランド名について
乙第1号証は、被請求人によれば、「『TETSU SAKAGUCHI』ブランドのコンセプトを説明する資料」であるところ、その記載内容からは、「TETSU SAKAGUCHI」が「スーツ,ネクタイ」などの被請求人の商品のブランド名であると認められる。
(2)乙各号証について
ア 乙第2号証は、被請求人によれば、被請求人が運営していた飲食店「SNOB’s HEART CAFE」(2013年9月23日に営業終了。以下「飲食店」という場合がある。)の店内の様子を撮影した写真である(撮影日:2013年7月23日)が、本件商標が付されたネクタイは見当たらない。
イ 乙第3号証ないし乙第5号証は、被請求人によれば、被請求人が飲食店で2013年7月23日当時に販売していたネクタイと同種のネクタイを撮影した写真であるが、当該ネクタイと同種のネクタイが2013年7月23日に存在していたことを裏付ける証拠の提出はない。当該ネクタイには、「TETSU SAKAGUCHI」の文字の表示又は「TETSU」の文字と「SAKAGUCHI」の文字を上下二段に表した表示があり、いずれもまとまりよく一体的に表されている。また、「TETSU」の文字のみを単独で表示したものはなく、さらに、いずれの写真にも被請求人の名称等の表示は見当たらない。
ウ 乙第6号証は、被請求人によれば、飲食店の売上集計表である。乙第6号証の1には、「201 年6月18日」、合計金額に「9400」及び手書きした「TETSU」の文字、ネクタイのイラスト及び「¥2500」の記載がある。そして、乙第6号証の2のレシートには、「SNOB’s HEART CAFE」、「精算 2013-06-18」及び「純売 ¥9,400」の記載があり、乙第11号証の2の被請求人の元帳には、平成25年6月18日の摘要に「売上高 店舗売上 9400」の記載があることから、乙第6号証の1は、2013年6月18日の飲食店の売上集計表であると認められる。
エ 乙第7号証は、乙第6号証と同様の飲食店の売上集計表及びレシートであり、乙第8号証は、被請求人によれば、2013年1月4日から営業終了の同年9月23日までの飲食店の売上集計表であるが、これらには、「TETSU」の文字及びネクタイのイラストの記載はない。
オ 被請求人によれば、被請求人は、飲食店の営業終了後、当該飲食店で使用していた食器、什器等を喫茶店「ラ、ティエ」に販売したとのことである。乙第9号証の1は、被請求人が2014年(平成26年)2月3日に喫茶店「ラ、ティエ」に対し発行した請求書であるところ、品目の一つとして、「Tetsu necktie」の記載があり、それに対応する「5本」、「¥2,000」、「¥10,000」の記載があり、合計「¥248,000」の記載がある。
カ 乙第9号証の2は、被請求人によれば、被請求人の銀行口座の通帳であるところ、「26-2-5 振込1 ラティエ 248,000」の記載がある。
キ 被請求人によれば、喫茶店「ラ、ティエ」からの乙第9号証の1に記載された金額の入金確認後、平成26年2月7日に乙第9号証の1に記載された物品を喫茶店「ラ、ティエ」宛てに発送したとのことである。乙第9号証の3は、被請求人によれば、運搬業者から被請求人に対する請求書とのことであるが、「請求書」の表示は認められないが、同号証に示された領収書から、運搬業者が31,500円を平成26年2月7日に被請求人から領収したことが認められる。
ク 乙第10号証は、被請求人によれば、A氏の店舗写真及び当該店舗に置かれたネクタイの写真(撮影日:2015年7月30日)であるところ、当該ネクタイには、「TETSU」の文字のみの表示又は「TETSU SAKAGUCHI」の文字の表示がある。
ケ 乙第12号証は、被請求人によれば、被請求人住所が記載された飲食店の顧客向けレシートであるところ、当該レシートには、「SNOB’s HEART CAFE」の表示のほか、被請求人住所と同一と認められる住所の記載があるから、「SNOB’s HEART CAFE」は、被請求人が運営していた飲食店であると認められる。

2 判断
上記1で認定した事実によれば、以下のとおりである。
(1)商標法第2条第3項第2号に係る主張について
ア 「ネクタイ」に付された標章について
(ア)上記1(2)イのとおり、乙第3号証ないし乙第5号証の写真に示されたネクタイと同種のネクタイが要証期間内に存在したことを認め得る証拠の提出がないため、乙第3号証ないし乙第5号証をもって、本件商標の要証期間内の使用を認めることはできないが、念のため、当該証拠に示されたネクタイの「TETSU SAKAGUCHI」の表示及び「TETSU」の文字と「SAKAGUCHI」の文字を上下二段に表した表示についてみると、これらは、いずれもまとまりよく表されていることに加え、上記1(1)のとおり、「TETSU SAKAGUCHI」が「スーツ,ネクタイ」などの被請求人の商品のブランド名であるから、その構成全体として一体不可分の標章というべきものであって、本件商標(「TETSU」)の使用とみることができない。
(イ)上記1(2)ウのとおり、乙第6号証の飲食店の売上集計表(2013年6月18日分)には、手書きした「TETSU」の文字及びネクタイのイラストの記載があるが、この記載のみによっては、2013年6月18日に販売されたネクタイに本件商標が付されていたことにはならないから、要証期間内に本件商標が付された被請求人の商品「ネクタイ」が譲渡又は引き渡し等がされたとは認められない。
(ウ)上記1(2)クのとおり、乙第10号証の写真に示されたネクタイには、「TETSU」の文字のみの表示があるが、撮影日は2015年7月30日であり、これは、要証期間内のものではなく、ほかに、当該ネクタイが要証期間内に譲渡又は引き渡しがされたことを証する証拠の提出はない。
加えて、A氏が本件商標の使用権者であることの証拠の提出はない。
(エ)そのほかに、本件商標が付されたネクタイが要証期間内に譲渡又は引き渡し等がされた証拠は見いだせない。
イ 小活
上記アのとおり、本件商標が付されたネクタイが要証期間内に譲渡又は引き渡し等がされたものではないから、要証期間内に商標法第2条第3項第2号にいう使用があったとはいえない。
(2)商標法第2条第3項第8号に係る主張について
ア 請求書(乙9の1)に表示された「Tetsu necktie」の記載について
(ア)商標法第2条第3項第8号は、商標の広告的使用を定義したものであるから、同号にいう「商品に関する取引書類に標章を付して頒布する行為」に該当するためには、商標権者等による行為が商標の商品に関する広告的使用であることを要するといえる。
(イ)被請求人の提出した証拠である請求書(乙9の1)についてみると、「Tetsu necktie」の記載は、被請求人が2014年(平成26年)2月3日に喫茶店「ラ、ティエ」に対し発行した請求書に記載されたものであるところ、当該請求書は、上記1(2)オないしキによれば、被請求人が2013年(平成25年)9月23日に飲食店の営業終了後、当該飲食店で使用していた食器、什器等を喫茶店「ラ、ティエ」に販売するにあたり発行したものであるから、当該請求書の「Tetsu necktie」の記載は、被請求人の飲食店で使用されていた食器、什器等とともに、喫茶店「ラ、ティエ」に譲渡又は引き渡し等がされる品目の一つとしての記載であるというのが相当である。
そして、当該請求書の日付の時点で、すでに被請求人は飲食店の営業を終了(2013年9月23日に終了)しており、被請求人と当該喫茶店の間においては、その後の取引は予定していないことがうかがえ、事実、両者間で取引がされた証拠の提出はない。
そうすると、「Tetsu necktie」の記載は、請求書の受領者である喫茶店「ラ、ティエ」に対し、被請求人から譲渡又は引き渡し等がされる品目の一つとしての記載であると理解されるものにすぎず、また、次回の取引に向けた商品に関する広告的機能を被請求人が期待して表示した記載とはいえないものであるから、この記載をもって、商品に関する広告的使用と認めることはできない。
イ 小活
上記アのとおり、請求書(乙9の1)に表示された「Tetsu necktie」の記載は、商品に関する広告的使用ではないから、要証期間内に商標法第2条第3項第8号にいう使用があったとはいえない。

3 むすび
以上のとおりであるから、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが請求に係る指定商品について、本件商標(社会通念上同一と認められる商標を含む。)を使用していたことを証明したものと認めることはできない。
また、被請求人は、本件商標の使用をしていないことについて正当な理由があることも明らかにしていない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により、その指定商品中、「結論掲記の指定商品」についての登録を取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2016-11-30 
結審通知日 2016-12-02 
審決日 2016-12-13 
出願番号 商願2006-31068(T2006-31068) 
審決分類 T 1 32・ 1- Z (Y25)
最終処分 成立  
特許庁審判長 土井 敬子
特許庁審判官 大森 健司
原田 信彦
登録日 2007-01-26 
登録番号 商標登録第5021154号(T5021154) 
商標の称呼 テツ 
代理人 大槻 聡 
代理人 磯田 一真 

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