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審決分類 審判 全部無効 称呼類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W35
審判 全部無効 商品と役務の類否 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W35
審判 全部無効 観念類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W35
審判 全部無効 外観類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W35
管理番号 1324940 
審判番号 無効2016-890033 
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-05-27 
確定日 2017-01-10 
事件の表示 上記当事者間の登録第5594878号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5594878号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5594878号商標(以下「本件商標」という。)は、「リッツマルシェ」の片仮名を標準文字で表してなり、平成25年1月25日に登録出願、第35類「飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を指定役務として、同年6月6日に登録査定され、同年6月28日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が引用する登録商標は、次の10件(以下、これらをまとめていうときは「引用商標」という場合がある。)であり、いずれも現に有効に存続しているものである。
1 登録第2083248号商標(以下「引用商標1」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、1980年(昭和55年)4月29日にフランス共和国においてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張し、昭和55年10月29日に登録出願、第29類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品を指定商品として、同63年10月26日に設定登録されたものである。その後、平成21年2月12日に指定商品を第30類「フランス製の茶,フランス製のコーヒー,フランス製のココア,フランス製の氷」及び第32類「フランス製の清涼飲料,フランス製の果実飲料」とする指定商品の書換登録がされたものである。
2 登録第2466347号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲2のとおりの構成からなり、昭和60年12月4日に登録出願、第31類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品を指定商品として、平成4年10月30日に設定登録されたものである。その後、平成16年2月18日に指定商品を第5類「乳糖,乳児用粉乳」、第29類「食用油脂,乳製品」及び第30類「調味料,香辛料,アイスクリームのもと,シャーベットのもと」とする指定商品の書換登録がされたものである。
3 登録第3272792号商標(以下「引用商標3」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、平成6年1月25日に登録出願、第33類「フランス産の日本酒,フランス産の洋酒,フランス産の果実酒,フランス産の中国酒,フランス産の薬味酒」を指定商品として、同9年3月12日に設定登録されたものである。
4 登録第3303925号商標(以下「引用商標4」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、平成6年7月6日に登録出願、第30類「コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,みそ,ウースターソース,ケチャップソース,しょうゆ,食酢,酢の素,そばつゆ,ドレッシング,ホワイトソース,マヨネーズソース,焼肉のたれ,はちみつ,ごま塩,食塩,すりごま,セロリーソルト,化学調味料,香辛料,食品香料(精油のものを除く。),サンドイッチ,すし,ピザ,べんとう,ミートパイ,ラビオリ,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,氷」を指定商品として、同9年5月9日に設定登録されたものである。
5 登録第4101119号商標(以下「引用商標5」という。)は、別掲3のとおりの構成からなり、平成8年5月9日に登録出願、第29類「食肉,食用魚介類(生きているものを除く。),肉製品,加工水産物(「かつお節,寒天,削り節,とろろ昆布,干しのり,干しひじき,干しわかめ,焼きのり」を除く。),かつお節,寒天,削り節,とろろ昆布,干しのり,干しひじき,干しわかめ,焼きのり,豆,加工野菜及び加工果実,卵,加工卵,乳製品,食用油脂,カレー・シチュー又はスープのもと,なめ物,お茶漬けのり,ふりかけ,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,食用たんぱく」を指定商品として、同10年1月9日に設定登録されたものである。
6 登録第4101120号商標(以下「引用商標6」という。)は、別掲3のとおりの構成からなり、平成8年5月9日に登録出願、第30類「コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,みそ,ウースターソース,ケチャップソース,しょうゆ,食酢,酢の素,そばつゆ,ドレッシング,ホワイトソース,マヨネーズソース,焼肉のたれ,角砂糖,果糖,氷砂糖,砂糖,麦芽糖,はちみつ,ぶどう糖,粉末あめ,水あめ,ごま塩,食塩,すりごま,セロリーソルト,化学調味料,香辛料,食品香料(精油のものを除く。),米,脱穀済みの大麦,食用粉類,食用グルテン,穀物の加工品,サンドイッチ,すし,ピザ,べんとう,ミートパイ,ラビオリ,おでん,菓子及びパン,即席菓子のもと,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,アーモンドペースト,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,氷,アイスクリーム用凝固剤,家庭用食肉軟化剤,ホイップクリーム用安定剤,酒かす」を指定商品として、同10年1月9日に設定登録されたものである。
7 登録第4101121号商標(以下「引用商標7」という。)は、別掲3のとおりの構成からなり、平成8年5月9日に登録出願、第32類「ビール,清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース,乳清飲料,ビール製造用ホップエキス」を指定商品として、同10年1月9日に設定登録されたものである。
8 登録第5333237号商標(以下「引用商標8」という。)は、「RITZ ESCOFFIER」の欧文字を標準文字で表してなり、平成21年10月20日に登録出願、第30類「チョコレート,コーヒー,代用コーヒー,ココア,茶,アーモンドペースト,食塩,こしょう,はちみつ,マスタード,砂糖,チャツネ,シロップ(調味料),サラダ用の酢及び調味料,ソース(調味料),食酢,サラダ用のドレッシング,グレービーソース,その他の調味料,香辛料,食用乾燥ハーブ,おろしわさび,ねりわさび,わさび粉,米飯,粥,キノア粉(キノアを製粉したもの),セモリナ粉のクスクス,その他の穀物の加工品」を指定商品として、同22年6月25日に設定登録されたものである。
9 国際登録第962563号商標は、別掲4のとおりの構成よりなり、2007年(平成19年)10月15日にFranceにおいてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張し、2008年(平成20年)3月31日に国際商標登録出願、第33類「Alcoholic beverages (except beers), including cognac, liqueurs and spirits, wine, whisky.」を指定商品として、平成21年3月13日に設定登録されたものである。
10 国際登録第986439号商標は、別掲5のとおりの構成よりなり、2008年(平成20年)8月29日にFranceにおいてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張し、同年10月3日に国際商標登録出願、第29類「Jams; jellies; marmalades and tinned fruits; fruit topping; fruits in preserved form; fruits preserved in alcohol; crystallized fruits; dried fruits, these products being sold in delicatessen shops, delicatessen departments of department stores, by mail order, via television and via a global computer network; soups; preparations for making soups; pickles; gherkins; salad oils; dried mushrooms; dried morels; olives in preserved form; caviar; dates; foie gras; sweet chestnut creams; fish salmon; anchovies; tinned snails; preserved lentils; meat dumplings, fish meat dumplings; truffles in preserved form; vegetables preserved in vinegar.」及び第30類「Coffee; artificial coffee; tea; salt; pepper; spices; mustard; almond paste; chutneys; Garden herbs of Provence, preserved [seasonings]; cocoa; prepared horseradish [condiments]; sauces; vinegar; dressings for salads; kasha; couscous grains; meat gravies; pasta; rice; quinoa.」を指定商品として、平成22年7月30日に設定登録されたものである。

第3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第167号証(枝番号を含む。)を提出した(以下、「甲第○号証」の表示は、「甲○」と簡略する。)。
1 商標法第4条第1項第15号の主張
(1)請求人の使用に係る商標の周知・著名性について
請求人が経営する「ホテル・リッツ」は、セザール・リッツが1898年に開業したホテルである(甲53の1ないし3)。
「ホテル・リッツ」は、「フランス料理の神様」と評される「オーギュスト・エスコフィエ(Auguste Escoffier)」が総料理長を務めていたことでも有名であり(甲53の1及び2)、ホテルサービスのみならず、そこで提供される料理についても世界最高峰との評価を受けている。
セザール・リッツは、1899年に英国ロンドンに「カールトン・ホテル(CARLTON HOTEL)」を開業させ、1905年に米国で「ザ・リッツ・カールトン・マネジメント・カンパニー」を設立し、1927年に現在も営業を続けるホテル「ザ・リッツ・カールトン・ボストン」を開業した(甲87及び甲88)。
「ザ・リッツ・カールトン」の経営権は、数次にわたり移転され、現在「マリオット・インターナショナル・インク」に引き継がれているが、商標「RITZ(リッツ)」の使用権限については、請求人が1988年に当時の経営者である「ダブリュ・ビー・ジョンソン・プロパティーズ・インコーポレーテッド」に使用する権利を許諾し、その後の経営者にも許諾が継続されている。
現在、「ザ・リッツ・カールトン」は、世界の主要都市や人気リゾート地に約81箇所も存在しており(甲82)、パリの「ホテル・リッツ」のサービス精神に倣い、各地で世界最高水準のもてなしをゲストに提供し続けている。
1997年以降、「ザ・リッツ・カールトン・グループ」はその事業を日本に進出させており、大阪に「ザ・リッツ・カールトン大阪」を開業させ、2007年に「ザ・リッツ・カールトン東京」、2012年に「ザ・リッツ・カールトン沖縄」、2014年に「ザ・リッツ・カールトン京都」が開業した。
したがって、パリの「ホテル・リッツ」は、同ホテルの流れを名実共に汲む「ザ・リッツ・カールトン・グループ」の日本進出によっても、我が国においてさらなる評価を得て、「リッツ」ブランドの名声と知名度はさらに高まる結果となっており、遅くとも本件商標の出願日前から現在にかけて、「リッツ」ブランドの存在が我が国において著名であることは明らかである。
「RITZ」及び「リッツ」(以下「請求人商標」という。)は、請求人及び請求人の許諾により請求人商標を使用している者の業務について使用されている著名商標であり、この事実は、すでに、特許庁及び裁判所において顕著であり(甲23ないし甲49)、特許庁IPDLの「日本国周知・著名商標検索」においても「RITZ」の文字を含む商標は「リッツ」の称呼で、著名商標の一つとして挙げられている(甲50)。さらに、請求人商標は、一般の英和辞書にも載録され(甲103及び甲104)、フランス大使館も証明しているものである(甲51)。
(2)商標の類否
ア 「マルシェ」の語について
本件商標の構成中「マルシェ」の語は、「市場、市」を意味するフランス語であり、各種辞典や新聞記事等において載録があり(甲155ないし甲166)、また、ホテル事業に限っても、多くのホテルが「○○マルシェ」あるいは「マルシェ○○」という名称で小売等役務を提供している事実があり(甲121ないし甲154)、さらには、「マルシェ」、「March」の文字を一部に内包する商標が、小売等役務を指定し登録されている例も多数存在する(甲167)など、小売等役務の分野において、一般的に使用され、定着している。
以上のとおり、「マルシェ」の語は、本件商標の出願ないし登録査定時にはすでに「市場」を意味する小売等役務の一形態として広く一般に使用されており、本件商標の指定役務である「飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」との関係では全く識別力を欠くか又はほとんど無いに等しいものである。
イ 「リッツ」の独創性について
「リッツ」の語は、その創業者「セザール・リッツ」のラストネームであるが、日本人がよく知る欧米のありふれた氏とはいい難いものであり、その独創性は極めて高いといえる。
そして、当該独創性の高さと前記(1)の周知・著名性とを考え併せれば、本件商標の構成中「リッツ」の語に接した者が、請求人又はそれをルーツとする「ザ・リッツ・カールトン」を想起する可能性は高いというべきであり、そして「マルシェ」の識別力の弱さや欠如のことを考慮すれば、「リッツ」と「マルシェ」の間には、識別力に関し極めて大きい軽重の差が存在しており、「リッツ」の部分が、強く支配的な印象を与えるものである。
ウ 本件商標から生じる観念
「リッツ」の語は、ホテルを利用する需要者の間で広く浸透しているものであり、ホテルを利用する需要者というのは、特別専門的な取引者や特殊な需要者ではなく、あくまでも普通一般の消費者であって、小売等役務の提供を受けている消費者と当然共通する関係である。
したがって、著名商標「リッツ」は、飲食料品の小売等役務の需要者の間でも充分に認知されているといえ、本件商標に接した需要者は、本件商標が「リッツ」と「マルシェ」の二語を結合したものであると容易に理解し、そして、これを「ホテル・リッツのマルシェ」とか「ホテルリッツが提供するマルシェ」との観念で認識するというべきである。あるいは、「リッツ」と「マルシェ」との間には、識別力に関し極めて大きい軽重の差が存在し、「リッツ」の部分が強く支配的な印象を与えるものであるから、「ホテル・リッツ」という単独の観念も生じるといえ、本件商標「リッツマルシェ」全体を一連一体(一個)の新語(造語)のように捉えることはない。
エ 小活
以上のとおり、本件商標は、「ホテル・リッツのマルシェ」、「ホテルリッツが提供するマルシェ」、「ホテル・リッツ」といった観念が生じる。
したがって、本件商標と請求人・使用権者の使用に係る請求人商標との間には、高い類似性があるというべきである。
(3)他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情
請求人の業務に係る役務(ホテル事業)を利用する需要者は、特別専門的な取引者や特殊な需要者ではなく、あくまでも普通一般の消費者であって、小売等役務の提供を受けている消費者と当然共通する関係にある。
また、国内外を問わず、多くのホテルが、オリジナルの商品や各地元の土産品などをホテル内の店舗又はオンラインストアを通じて販売(小売)しているという実情があり、とりわけ、各ホテルが販売に力を入れている商品は、ホテルの食事で提供している食材・調味料や、同ホテルで調理した総菜・菓子などの飲食料品であり(甲107ないし甲120)、ホテルを利用したことがある者であれば、このような一般的実情を当然熟知しているものといえる。
さらにいえば、ホテル事業分野における取引の実情として、日本国内の多くのホテルが、その敷地内において、ホテルゆかりの食材やその土地の食材を販売(小売)イベントを「・・・マルシェ」、「マルシェ・・・」という名称で、広く展開しているという実情が存在する(甲121ないし甲154)。
しかして、本件商標に係る指定役務「飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」は当然ながら、ホテルによる小売等役務を包含するものであるから、請求人及び使用権者が実際に提供している役務と、その性質・用途・目的をはじめ、需要者層・流通経路・広告方法などについて高い共通性があることは明白である。
(4)著名商標へのフリーライド及びダイリューション
請求人は、「RITZ(リッツ)」ブランドの根幹たるホテル事業を粛々と積み重ねて、「RITZ(リッツ)」ブランドがもつ「華麗」「風格」というブランドイメージを作り、商標登録を通じてそれを100年間にわたって守り続けている。
しかし、本件商標がその指定役務について使用され、それを見聞きした需要者が、請求人と「リッツマルシェ」との間に何らかの関係性を連想すれば、「RITZ(リッツ)」ブランドが100年間守り続けてきたブランドイメージを本件商標権者の業務によって崩されてしまうおそれがある。
(5)小括
以上のとおり、本件商標は、これに接したその指定役務に係る需要者又は取引者が、請求人と本件商標に係る業務との間に、経済的又は組織的な何らかの関係を連想し、役務の出所につき誤認混同を生じることは明らかであるから、商標法第4条第1項第15号に該当する。
2 商標法第4条第1項第11号の主張
本件商標は、引用商標と類似するものであって、それら商標に係る指定商品及び指定役務と同一又は類似の商品及び役務について使用するものである。
具体的には、引用商標1、3及び4は、「RITZ」、「PARIS」、「HOTEL」等の文字及び図形からなるものであるが、「PARIS」の文字が、請求人経営のホテルの所在地を、「HOTEL」の文字が、商品の販売場所を示しているにすぎず、その余の「RITZ」の著名性及び顕著性を考えれば、当該「RITZ」が、商標の支配的な識別部分として認識される。
また、引用商標5ないし7は、「ホテル・リッツ」の創業者「CESAR RITZ」を表示するものであり、また、引用商標8ないし10は「RITZ」の文字を顕著に語頭に冠しているから、これらの商標は、同構成中「RITZ/リッツ」の部分が、商標の支配的な識別部分として認識される。
そして、本件商標と当該「RITZ」とは、上記1のとおり、称呼及び観念上相紛らわしく、類似するものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。
3 結語
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に違反して登録されたものであり、その登録は、同法第46条第1項第1号により無効とされるべきである。

第4 被請求人の主張
審判長は、請求書の副本を被請求人に送達し、相当の期間を指定して答弁書を提出する機会を与えたが、被請求人は何ら応答していない。

第5 当審の判断
1 本件商標の商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標について
本件商標は、上記第1のとおり、「リッツマルシェ」の片仮名を標準文字で表してなるところ、その構成中の「マルシェ」の文字部分は、「市場。市。見本市。マーケット。」などの意味を有するフランス語を語源とする外来語(甲155ないし甲160)であって、本件商標の指定役務である「飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」や雑貨などの商品の小売業等に係る分野においては、商品の生産者などが直売等を行う市場(商品の売買を行う場所)を表すものとして「マルシェ」、「○○マルシェ」あるいは「マルシェ○○」などのように「マルシェ」の語が広く使用されている実情が認められる(甲121ないし甲166)。
そうとすると、本件商標の構成中の「マルシェ」の文字部分は、本件商標の指定役務を取り扱う取引者、需要者においては、「市場(商品の売買を行う場所)」ほどの意味合いを理解、認識するというのが自然であるから、当該「マルシェ」の文字部分は、自他役務の識別標識としての機能を果たさないか、又は、極めて弱いものといわざるを得ないものである。
一方、本件商標の構成中、「リッツ」の文字部分は、本件商標の指定役務に係る分野との関係では、我が国において一般になじみがある語とはいい難いことから、当該語は特定の意味合いを有しない一種の造語であると看取されるものである。
そうすると、本件商標は、その構成中「リッツ」の文字部分が、取引者、需要者に対し、役務の出所を識別する標識として強く支配的な印象を与えるものというべきであるから、本件商標は、その構成中の「リッツ」の文字部分を要部として抽出し、この部分のみを他人の商標と比較して商標の類否を判断することができるものである。
以上のことから、本件商標は、構成全体より生じる「リッツマルシェ」の称呼のほか、要部である「リッツ」の文字部分から「リッツ」の称呼が生じ、また、特定の観念は生じないものであると認められる。
(2)引用商標について
ア 引用商標1、3及び4
引用商標1、3及び4(以下、3件まとめて「引用各商標」という。)は、別掲1のとおり、上部に冠、中部に紋章及び下部にリボンと思しき各図形とその図形の下に「PARIS」の欧文字並びにリボンと思しき図形部分の中に、その中央結び目部分の左側に「HOTEL」及び右側に「RITZ」のややデザイン化した書体の欧文字を配してなるものである。
ところで、引用各商標のように商標の構成中に複数の文字及び図形の構成要素を有する商標においては、必ずしも構成全体を一体のもとして把握するものではなく、構成の一部をもって取引に資される場合も少なくない。
そこで、引用各商標についてみるに、その構成中の図形部分からは、特定の称呼及び観念が生じるものということができず、また、文字部分中「PARIS」の文字は、商品の産地又は販売地と解される著名な都市「パリ」を表すものであり、「HOTEL」の文字は、宿泊施設である「ホテル」を認識させるものであって、ホテル(宿泊施設)内等において、飲食料品等を含めた商品が一般に販売されている実情があることからすれば(甲107ないし甲119)、飲食料品の範疇に属する引用各商標の指定商品との関係においては、当該「HOTEL」の文字部分は、商品を提供する場所を表したものと理解されるものであるから、結局、引用各商標の構成中の図形部分、「PARIS」及び「HOTEL」の文字部分からは、自他商品の識別標識としての称呼及び観念が生じるということもできないものである。
一方、引用各商標の構成中、「RITZ」の文字部分は、その指定商品の分野において、特定の意味で一般に広く知られているともいえないことから、該語は、特定の観念を生じない一種の造語であると看取されるものである。
そうすると、引用各商標は、その構成中「RITZ」の文字部分が、取引者、需要者に対し、商品の出所を識別する標識として強く支配的な印象を与えるものというべきであるから、引用各商標は、その構成中の「RITZ」の文字部分を要部として抽出し、この部分のみを他人の商標(本件商標)と比較して商標の類否を判断することができるものである。
以上のことから、引用各商標は、その構成中、要部である「RITZ」の文字部分から「リッツ」の称呼が生じ、特定の観念は生じないものであると認められる。
イ 引用商標2
引用商標2は、別掲2のとおり、「RITZ」の欧文字を普通に用いられる書体で横書きしてなるものであり、該文字からは、「リッツ」の称呼を生じ、上記アと同様に特定の観念は生じないものである。
(3)本件商標と引用商標1ないし4との類否について
本件商標の要部である「リッツ」の片仮名部分と引用各商標の要部である「RITZ」の欧文字部分及び引用商標2の構成文字である「RITZ」とを対比するに、称呼については、「リッツ」の称呼を共通にし、観念については、特定の観念を生じないものであることから、観念において比較できないものである。
また、外観については、両商標は、それぞれ欧文字又は片仮名からなるものであることから、外観上相違するものであるが、我が国の商取引において、欧文字からなる商標を片仮名で表記して取り扱われることがしばしば行われている実情がある。
そうすると、本件商標と引用商標1ないし4とは、観念上比較できないとしても、「リッツ」の称呼を共通にするものであって、上述の本件商標の指定役務及び引用商標1ないし4の指定商品に係る取引の実情を踏まえると、その称呼の共通性を凌駕するほどの特徴的な外観上の相違はないというべきであるから、これらを総合勘案すれば、両商標は、互いに相紛れるおそれのある類似の商標というべきである。
(4)本件商標の指定役務と引用商標1ないし4の指定商品との類否について
本件商標の指定役務、第35類「飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」と、引用商標1ないし3の指定商品及び引用商標4の指定商品中、第30類「コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,みそ,ウースターソース,ケチャップソース,しょうゆ,食酢,酢の素,そばつゆ,ドレッシング,ホワイトソース,マヨネーズソース,焼肉のたれ,はちみつ,ごま塩,食塩,すりごま,セロリーソルト,化学調味料,香辛料,サンドイッチ,すし,ピザ,べんとう,ミートパイ,ラビオリ,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,氷」とは、類似するものと認められる。
(5)小活
以上のとおり、本件商標は、引用商標1ないし4と類似する商標であり、本件商標の指定役務と上記(4)に記載の引用商標1ないし4の指定商品は,類似の商品及び役務であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。
2 まとめ
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号に違反してされたものであるから、請求人のその余の主張について判断するまでもなく、同法第46条第1項により、無効とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲1(引用商標1、3及び4)


別掲2(引用商標2)


別掲3(引用商標5ないし7)


別掲4(引用商標9)


別掲5(引用商標10)


審理終結日 2016-11-09 
結審通知日 2016-11-14 
審決日 2016-11-29 
出願番号 商願2013-4251(T2013-4251) 
審決分類 T 1 11・ 262- Z (W35)
T 1 11・ 263- Z (W35)
T 1 11・ 261- Z (W35)
T 1 11・ 265- Z (W35)
最終処分 成立  
特許庁審判長 田中 幸一
特許庁審判官 真鍋 伸行
酒井 福造
登録日 2013-06-28 
登録番号 商標登録第5594878号(T5594878) 
商標の称呼 リッツマルシェ、リッツ、マルシェ 
代理人 松尾 和子 
代理人 特許業務法人磯野国際特許商標事務所 
代理人 藤倉 大作 
代理人 辻居 幸一 
代理人 田中 伸一郎 
代理人 苫米地 正啓 
代理人 熊倉 禎男 
代理人 中村 稔 
代理人 井滝 裕敬 

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