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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y42
管理番号 1323605 
審判番号 取消2016-300084 
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2016-02-09 
確定日 2016-12-08 
事件の表示 上記当事者間の登録第4720986号商標の登録取消審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第4720986号商標の指定役務中、第42類「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」については,その登録は取り消す。 審判費用は,被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4720986号商標(以下「本件商標」という。)は,「NHS」の欧文字を標準文字で表してなり,平成14年11月5日に登録出願,第42類「気象情報の提供,地質の調査,機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,コンピュータデータベースへのアクセスタイムの賃貸,電子計算機用プログラムの環境設定・機能拡張・追加その他の電子計算機用プログラムの最新化に関する情報の提供,その他の電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守に関する情報の提供,電子計算機等を用いて行う情報処理,電子計算機システムの設計又は作成に関するコンサルティング,電子計算機システムの遠隔監視,電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究,農業・畜産又は水産に関する試験・検査又は研究,半導体に関する試験又は研究,半導体製造装置及び半導体測定機器に関する試験又は研究,電子計算機及び電子計算機用プログラムに関する試験又は研究,電気通信機械器具及びその周辺機器に関する試験又は研究,その他の機械器具に関する試験又は研究,著作権の利用に関する契約の代理又は媒介,著作権の利用に関する情報の提供,著作権・商品化権・商標権・意匠権等の知的財産権の譲渡及び使用許諾に関する契約の代理又は媒介,その他の知的財産権に関するコンサルティング(工業所有権に関する手続の代理又は鑑定その他の事務に関するものを除く。),社会保険に関する手続の代理,計測器の貸与,電子計算機の貸与,電子計算機用プログラムの提供,理化学機械器具の貸与,製図用具の貸与」を指定役務として,同15年10月24日に設定登録され,その後,同25年5月21日に商標権の存続期間の更新登録がなされたものである。
なお,本件審判の請求の登録は,同28年2月23日にされたものである。

第2 請求人の主張
請求人は,結論同旨の審決を求め,審判請求書,弁駁書及び口頭審理陳述要領書において,その理由及び答弁に対する弁駁等を要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証及び甲第2号証を提出した。
1 請求の理由
被請求人は,本件商標はその指定役務中第42類「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」について継続して3年以上日本国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから,その登録は商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきである。
2 答弁に対する弁駁
(1)登録商標の使用について
被請求人は,乙第2号証及び乙第4号証を提示して,本件審判の請求の登録前3年以内(以下「要証期間」という。)に本件商標を使用している旨主張する。
その根拠として,乙第2号証及び乙第4号証に本件商標「NHS」と同一の綴り字からなる図案化された「NHS」の文字が表示されていることを挙げている(審決注:以下,乙第2号証及び乙第4号証で使用されている別掲の標章を「使用商標」という場合がある。)。
しかし,乙第2号証及び乙第4号証に表示された,図案化された「NHS」の文字は,本件商標と社会通念上同一の商標とは認められない。
被請求人は,乙第2号証及び乙第4号証として,被請求人の作成した提案書を黒色で複写したものを提示しているが,請求人は,甲第1号証として,被請求人のウェブページをカラー印刷したものを,甲第2号証として,ウイングアーク1st株式会社のウェブページをカラー印刷したものを提示する。
甲第1号証及び甲第2号証を見れば容易に理解できるように,被請求人は,被請求人が作成するウェブページ及び書類には全て,英文字「NHS」をサンセリフ体で斜体に表示し,英文字「N」の右側縦線と英文字「H」の左側縦線とを一体化させ,英文字「H」の右側縦線に英文字「S」の左側上端及び下端を当接させ,しかも,英文字「N」の斜線を赤色で,上方に向かって尖鋭状に表示し,全体として図案化している。
乙第1号証及び乙第2号証を注視すると,英文字「NHS」のうちの英文字「N」の斜線は,その左側縦線及び右側縦線とは黒色の濃淡に違いが確認できるから,原本である提案書においては,英文字「N」の斜線は赤色で表示されているものと推定される。
してみると,乙第2号証及び乙第4号証に表示された,図案化された「NHS」の文字は,本件商標「NHS」(標準文字)を単に斜体にしただけではなく,英文字「N」の右側縦線と英文字「H」の左側縦線とを一体化させた点で,かなりの程度図案化されたものといえる。そして,見る者によっては,英文字「NHS」を図案化したものではなく,英文字「AHS」を図案化したものと認識することもできる。何となれば,英文字「A」を図案化する際,横線を省略して表記することは一般的だからである。
さらに,乙第2号証及び乙第4号証に表示された,図案化された「NHSの文字は,英文字「N」の斜線を赤色で,上方に向かって尖鋭状に表示したことからも,さらに図案化の程度は高いといえるから,乙第2号証及び第4号証に表示された,図案化された「NHS」の文字は,本件商標と社会通念上同一の商標とは認められない。
したがって,乙第2号証及び乙第4号証によっては,披請求人が要証期間に本件商標を使用していることを証明したことにはならない。
(2)指定役務についての使用について
被請求人は,乙第2号証ないし乙第4号証を提示して,本件審判の請求に係る指定役務について本件商標を使用している旨主張する。
その根拠として,乙第2号証は「電話設備,ネットワーク設備,社内データ回線設備及び入退管理システム設備」に関する提案書であり,乙第4号証は「社屋移転に伴う機器及びサーバルーム構築」に関する提案書であり,サーバルームの消火設備,入退室管理設備,耐震・免震設備についての提案も含むことを挙げている。
しかしながら,本件審判の請求に係る指定役務は(機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」であって,「電話設備等に関する提案」という役務ではない。
甲第1号証の被請求人のウェブページの「企業情報」及び「ソリューション」というタイトルが付されたページによれば,被請求人の事業内容は,ビジネスソリューションサービス,ITコンサルティング及びサービス,コンピュータ及び関連機器の販売等と記載されている。よって,「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」を主たる事業内容とする,所謂,開発・設計会社でないことは明白である。
少なくとも乙第2号証及び乙第4号証は,被請求人の主たる事業内容である「各種設備のソリューションサービス,コンサルティングサービス」という役務に,図案化された「NHS」の文字を使用していることを証明するにすぎず,「機械、装置、器具又は設備の設計」という役務に,本件商標を使用していることを証明するものではない。
さらにいえば,乙第2号証の第3頁には,被請求人は設備購入の窓口であって,実作業は各担当者間で調整して進める旨の記載かあるから,被請求人と業務上提携する日本システムズネットワークス社,エッチエスサービス社等が「機械、装置、器具又は設備の設計及び設置」という役務を行っているのではないか,と推定される。
したがって,乙第2号証ないし乙第4号証によっては,被請求人が本件審判の請求に係る指定役務について本件商標を使用していることを証明したことにはならない。
(3)結語
以上のとおり,被請求人は,本件審判の要証期間に日本国内において,その請求に係る指定役務について本件商標を使用していることを証明していない。
3 口頭審理陳述要領書(平成28年8月22日)
(1)登録商標の使用について
被請求人は,口頭審理陳述要領書において,「ローマ字を斜体にしたり,文字の一部を重ねて表示する程度の図案化はありふれた手法によるごく一般的なことであるから,これに接する取引者,需要者は容易にローマ字『NHS』を認識し,他の文字と誤解したり,単なる図形と認識することは考えられない。」と主張する。
しかし,乙第2号証及び乙第4号証に表示された,図案化された「NHS」の文字は,単なるありふれた手法による一般的な図案化によるものではない。
すなわち,弁駁書に記載したとおり,図案化された「NHS」の文字は,(a) 英文字「N」の右側縦線と英文字「H」の左側縦線とを一体化させた点,(b) 英文字「N」の斜線を赤色で,上方に向かって尖鋭状に表示し,しかも,文字「NHS」の上端線より上方に突出させた点は,簡単な構成ではあるが,デザイナーがよく考案したデザインであると思われる。
被請求人は,使用商標からは容易にローマ字「NHS」を認識し,他の文字と誤解したり,単なる図形と認識することはない,と主張するが,それは,パンフレット,ウェブページ等において,使用商標が,その付近に「日鉄日立システムエンジニアリング株式会社」という被請求人の商号又はその英文名称と共に表示されているからである。
すなわち,取引者,需要者は,被請求人の商号又はその英文名称が共に表示されていない状態で使用商標を見た場合,文字「HS」は直ちに認識するとしても,特に,上記(b) の構成が強い印象を与え,文字「HS」の左側には,山形の図形,文字「A」,又は,文字「AV」が表示されているのではないか,と明確に認識できない。
また,社会通念上同一と認められるためには,文字商標の場合は,外観及び称呼の同一性が認められなければならない,と思料する。
然るに,使用商標は,本件商標と比較して,(b) のような特異な構成を有する,また,複数の称呼を生じるから,使用商標は本件商標と社会通念上同一とは認められない。
次に,被請求人は,取消2012-300151の案件を例示するが,この案件においては,使用する商標は,英文字「EcoRing」と木の葉の図形から構成されるものであり,英文字「EcoRing」自体は何等図案化されていない,
すなわち,使用する商標は,図形を除けば,英文字「EcoRing」のみが存在すると認識され,称呼も登録商標と同一であるから,当然に,社会通念上同一の商標と認識されるものである。よって,取消2012-300151の案件における社会通念上の同一性の認定は,使用商標の場合には全く適用できないことは明白である。
したがって,「本件商標『NHS』と同一の綴り字からなる使用商標は,多少図案化されているものであるとしても,本件商標と社会通念上同一と認められるものであることは明らかである。」との被請求人の主張は失当である。
(2)指定役務についての使用について
被請求人は,口頭審理陳述要領書において,「乙第2号証中,第4頁ないし第6頁には・・・係る構成を作成することが『機械等により構成される設備の設計』に他ならない。」と主張する。
しかし,乙第2号証第3頁には,被請求人は,設備購入,設置の窓口である旨が明確に記載されており,その担当者として,営業担当者及びシステムエンジニアの氏名が記載してある。そして,PBX/IP電話/無線LANシステムの構築については,日立システムズネットワークス社が,入退管理システムの構築については,エッチエスサービス社,日立産業制御ソリューションズ社が担当する旨が明確に記載されている。
よって,日立システムズネットワークス社,エッチエスサービス社,日立産業制御ソリューションズ社が設計,製作した機器,設備を,被請求人が顧客に提案し,システム構築の仲介を行ったとしか考えられない。そして,設計会社から提示された概念図,設計図を基に,営業担当者及びシステムエンシニアが顧客に説明資料を作成するのが一般的であるから,乙第2号証に記載されている構成図は,そのような説明資料にすぎない。
したがって,「乙第2号証ないし乙第4号証により,本件商標の指定役務中『機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計』についての使用が立証される。」との被請求人の主張は失当である。
(3)結語
以上のとおり,被請求人は,本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において,その請求に係る指定役務について本件商標を使用していることを証明していない。

第3 被請求人の主張
被請求人は,本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める,と答弁し,その理由を答弁書及び口頭審理陳述要領書において要旨次のように述べ,証拠方法として,乙第1号証ないし乙第7号証を提出した。
1 答弁の理由
(1)被請求人は,本件商標の指定役務中「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」について,本件審判の要証期間に日本国内において使用している。
(2)乙第2号証は被請求人が2015年4月24日付けで東京都中央区所在のN株式会社宛に提出した提案書の写しである。同提案書は電話設備,ネットワーク設備,社内データ回線設備及び入退管理システム設備に関する提案書であり,本件商標の指定役務中「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」に係る提案書である。
そして,同提案書には各ページの右下に本件商標「NHS」と同一の綴り字からなる図案化された「NHS」の文字が表示されている。
なお,「NHS」は被請求人の英文商号「Nittetsu Hitachi Systems Engineering,Inc.」の頭文字から採択された被請求人の略称である。
乙第3号証は乙第2号証の提案書に対応した業務に関する見積書と,その見積書に対応した前記N株式会社からの注文書の一式書類の写しである。
乙第3号証の見積書,注文書はいずれも2015年5月?6月の間に発行されたものであることが,書類右上の発行年月日により立証される。
また,乙第3号証が乙第2号証の提案書に対応した書類であることは,見積書の宛名やその発行年月日,「品目及び仕様」欄に記載された内容(例えば,「電話設備(電話回線設備+電話機類)」との記載),注文書における注文者名や発行年月日,「物件名」の欄の記載内容(例えば,「物件名:電話設備(電話回線設備+電話機類)」との記載),「備考」欄の対応する見積書No.等の記載内容などから客観的に明らかである。
乙第4号証は当時社屋を移転予定であったT株式会社宛に被請求人が提出した,2015年12月7日付け提案書の写しである。同提案書は社屋移転に伴う機器移設及びサーバルーム構築に関する提案書であり,サーバルームの消火設備,入退室管理設備,耐震・免震設備についての提案も含まれている。
したがって,同提案書も本件商標の指定役務中「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」に係る提案書であることが明らかである。
そして,同提案書の表紙には本件商標「NHS」と同一の綴り字からなる図案化された「NHS」の文字が表示されている。
(3)乙第2号証ないし乙第4号証により,要証期間内である本件審判の請求の登録日である平成28年(2016年)2月19日前3年以内に,商標権者によって,本件商標と社会通念上同一と認められる商標が指定役務中「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」に関する提案書(取引書類)に付されて頒布された事実が立証される。
そして,上記商標権者の行為は,「商品若しくは役務に関する広告,価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し,若しくは頒布し,又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」(商標法第2条第3項第8号)に該当するものである。
2 口頭審理陳述要領書(平成28年8月5日)
(1)弁駁書における請求人の主張に対する反論
ア 乙第2号証及び乙第4号証における図案化された「NHS」は本件商標と社会通念上同一と認められるものであること。
請求人は乙第2号証及び乙第4号証において使用されている,図案化された「NHS」の文字商標は本件商標と社会通念上同一の商標とは認められない旨,主張する。
しかしながら,ローマ字を斜体にしたり,文字の一部を重ねて表示する程度の図案化はありふれた手法によるごく一般的なことであるから,これに接する取引者,需要者は容易にローマ字「NHS」を認識し,他の文字と誤解したり,単なる図形と認識することは考えられない。
したがって,本件商標「NHS」と同一の綴り字からなる使用商標は,多少図案化されているものであるとしても,本件商標と社会通念上同一と認められるものであることは明らかである。
因みに,取消2012-300151の審決においても,図形と文字を組み合わせてなる図案化された商標の使用が,同一のつづり字からなることから,登録商標と同一の称呼及び観念が生じるとして社会通念上同一の商標の使用と認められている。
使用商標も本件商標と同一のつづり字からなり,本件商標と同一の称呼及び観念が生じるものであるから,両者は社会通念上同一の商標であることが明らかであり,請求人の主張は失当である。
イ 乙第2号証ないし乙第4号証により使用が認められる役務は本件商標の指定役務中「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」に該当するものであること。
(ア)請求人は本件審判の請求に係る指定役務は「電話設備等に関する提案」という役務ではないから,乙第2号証ないし乙第4号証によっては「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」という役務に使用していることを証明するものではない旨,主張する。係る請求人の主張は乙第2号証及び乙第4号証が「提案書」であることに基づくものと思料するが,被請求人が主張,立証しているのは提案内容の役務についてであるから,請求人の主張は明らかに失当である。
そして,乙第2号証中,第4頁ないし第6頁には構内交換機(PBX,Private Branch eXchange),電話機,複合機等の構成図,PBX,アクセスポイント用機器,集線装置(ハブ)等からなる構成図,指静脈認証端末,電気錠付き扉,I/Oボックス,カード登録用リーダ/ライタ,指静脈登録装置等により構成される指静脈入退管理システムの構成図が掲載されているところ,係る構成を作成することが「機械等により構成される設備の設計」に他ならない。
よって,乙第2号証ないし乙第4号証により,本件商標の指定役務中「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」についての使用が立証される。
(イ)請求人は,乙第2号証の第3頁に被請求人は設備購入の窓口であって,実作業は各担当者間で調整して進める旨の記載があるから,被請求人と業務上提携する企業が「機械,装置,器具又は設備の設備の設計及び設置」という役務を行っているのではないか,と推定されると主張する。
しかしながら,乙第2号証の表紙に「日鉄日立システムエンジニアリング株式会社」や「copyright(C)2015 Nittetsu Hitachi Engineering,Inc.」と記載されているように,本提案書は被請求人の提供する役務についての提案書であることは一目瞭然である。
第3頁には「窓口」として被請求人が記載されてはいるが,「設備購入の窓口」と記載されているわけではない。ここでは被請求人が本提案書での提案内容について,窓口としての役割を担うことが記載されているのであって,実作業は被請求人が中心となって,提携企業とコミュニケーションを取りながら推進していくことが記載されているのであるから,請求人の主張は明らかに失当である。
ウ 以上のとおり,請求人の主張はいずれも失当であって,乙第2号証ないし乙第4号証,さらには後述する乙第6号証により,本件商標と社会通念上同一と認められる商標が指定役務中「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」に使用された事実が立証されるものである。
(2)平成28年7月6日付審理事項通知書における「2 合議体の暫定的な見解」に対する意見
ア 乙第3号証における2015年6月23日付け「御見積書」及び2015年6月24日付け「注文書」について
上記「御見積書」及び「注文書」は「データ回線設備」についてのものであるところ,ここでいう「導入設計」が確実に「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」に該当するかどうかについては,若干の懸念がある。
一方で,2015年6月4日付け「御見積書」及び2015年6月12日付け「注文書」は「電話設備」についてのものであり,「電話設備の設計」は「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」に該当することが明らかであるため,以下,当該「電話設備」の「御見積書」及び「注文書」の内容と一致する,係る設備を設計した事実及び設計した内容を提供した事実を客観的に証明する書面を乙第6号証として提出すると共に,詳細に説明する。
イ 乙第6号証について
(ア)乙第6号証は,被請求人が東京都中央区所在のN株式会社宛に提出した,各種設備の「完成図書」(設計ドキュメント)の元データ(電子データファイル)からの電話設備に関するページの抜粋打ち出しである。
(イ)乙第6号証中,1枚目の【機器構成】には電話設備に使用された機器類の一覧が表示されている。この機器構成は乙第2号証の第4頁に掲載された構成図の機器構成をより具体的に表示したものといえる。
品名の左には片括弧付き数字1)?12)を記入したが,係る数字は2015年6月4日付け「御見積書」及び2015年6月12日付け「注文書」における品名の左に付された片括弧付き数字に一致するように記入したものである。
(ウ)2枚目の【中継方式図】は,NTT側につながる主配線盤(MDF)と,オフィスビル側の主配線盤を中継する方式を示した図であり,中央の「TSW(CCU)」が構内交換機(PBX)に該当する。なお,「TSW」は「Time Switch」の,「CCU」は「communication control unit」の略称である。
当該【中継方式図】についてはセキュリティの関係から大部分をマスキング処理しているが,一般的な中継方式図の理解のために,インターネット上に公開されている「中継方式図」を乙第7号証として提出する。
(エ)3枚目の【機器搭載図】は,2枚目の【中継方式図】のうち,「TSW(CCU)」,即ち構内交換機(PBX)の詳細を表示したものとなる。
各機器の上部等に片括弧付き数字1)?12)を記入したが,この数字は1枚目の【機器構成】の機器がどこに搭載されているか分かりやすくするために,【機器構成】の品名の左に記入した数字と一致するように記入したものである。
(オ)乙第6号証及び乙第7号証により,「電話設備の設計」に関し,係る設備を設計した事実及び設計した内容を提供した事実はより客観的に証明されるものである。
(3)むすび
以上のとおり,本件商標は要証期間内に日本国内において,商標権者により,本件請求に係る指定役務「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」について,実際に使用されているものである。
なお,第1回口頭審理調書によれば,被請求人は,「乙第2号証及び乙第4号証の提案書は,カラーデータで作成されており,これらに表示されている使用商標は,「N」の斜線に相当する部分に赤い色彩がついているもの及び黒のものも両方使用している。」旨を述べている。

第4 当審の判断
1 本件商標の使用について,被請求人の主張及び提出に係る証拠によれば,以下のとおりである。
(1)乙第2号証は,「日鉄日立システムエンジニアリング株式会社」(被請求人)が作成した「日本検査株式会社」への「事務所移転に伴う対応について/ご提案資料」を表題とする提案資料であり,2015年4月24日の日付けがある。
そして,この資料の各ページの右下には,別掲のとおりの構成よりなる使用商標が表示されている。
その2頁目には,「はじめに」の項のもと,「今回のご提案は,今後貴社の『執務場所セキュリティ』『快適な業務環境構築』に向けたご提案となります。」の記載があり,4頁目には,「2.PBX/IP電話ご提案構成図」,5頁目には,「3.新本社ネットワーク構成図(案)」,6頁目には,「4.指静脈入退管理システムご提案構成図」,7頁目には,「5.指静脈入退管理システム(機器紹介)」,8頁目には,「6.御見積もり(概算)」等の項があり,それぞれの内容が示されている。
(2)乙第3号証は,4組の「御見積書」と「注文書」である。
そして,例えば,1枚目の「御見積書」(No.1531000126-01)は,「日鉄日立システムエンジニアリング株式会社」が作成した「日本検査株式会社」への見積書であり,2015年6月4日の日付けがある。
そして,これには,「品名及び仕様」の欄に,「電話設備(電話回線設備+電話機類)」,「【MX-01機器費】」,「【設定作業費】」等の記載がある。
3枚目の「注文書」は,「日本検査株式会社」が作成した「日鉄日立システムエンジニアリング株式会社」への注文書であり,平成27年6月12日の日付けがある。
そして,この注文書の内容は,上記「御見積書」に対応しており,「物件名」の欄に,「電話設備(電話回線設備+電話機類)」の記載があり,また,「品名及び仕様」の欄に,「電話設備(電話回線設備+電話機類)」,「【MX-01機器費】」,「【設定作業費】」及び「【備考】/御見積書No.1531000126-01(2015年6月4日付)」等の記載がある。
4枚目の「御見積書」(No.1531000127-A1)は,「日鉄日立システムエンジニアリング株式会社」が作成した「日本検査株式会社」への見積書であり,2015年6月23日の日付けがある。
そして,これには,「品名及び仕様」の欄に,「データ回線設備(アライド設備パターン)」,「【機器費】」,「【設定作業費】」等の記載がある。
5枚目の「注文書」は,「日本検査株式会社」が作成した「日鉄日立システムエンジニアリング株式会社」への注文書であり,平成27年6月24日の日付けがある。
そして,この注文書の内容は,上記「御見積書」に対応しており,「物件名」の欄に,「データ回線設備(アライド設備パターン)」の記載があり,また,「品名及び仕様」の欄に,「データ回線設備(アライド設備パターン)」,「【機器費】」,「【設定作業費】」及び「【備考】/御見積書No.1531000127-A1(2015年6月23日付)」等の記載がある。
(3)乙第4号証は,「日鉄日立システムエンジニアリング株式会社」及び「株式会社日立システムズ」が作成した「○○株式会社」(○○部分は黒塗りされている。以下同じ。)への「新本社ファシリティソリューションご提案(サーバ移転関連)」を表題とする提案資料であり,2015年12月7日の日付けがある。
そして,この資料の最初と最後の頁には,別掲のとおりの構成よりなる使用商標が被請求人会社名の左側に表示されている。
その1頁目には,「謝辞」の項のもと,「先般頂戴致しました新本社ファシリティソリューション提案依頼(サーバルーム構築,サーバ移転)を理解し,解決策を本ご提案書にてご紹介致します。」の記載があり,2頁目には,「新本社移転に伴う機器移設及びサーバルーム構築ご提案」,6頁目には,「サーバ室レイアウト例/・・・■レイアウト設計に基づく気流シミュレーションを実施し,レイアウト案をご提供致します。」,14頁目には,「1.UPS装置 一括管理」,15頁目には,「2.消火設備」,19頁目には,「3.入退室管理システム」,27頁目には,「4.災害対策 情報機器の地震対策」等の項があり,それぞれの内容が示されている。
また,その44頁目には,会社紹介として「日鉄日立システムエンジニアリング株式会社」について,「ビジネスソリューションサービス」,「パッケージソフトウエア等の開発・販売」,「コンピュータ及び関連機器の販売」と並んで「ITコンサルティング&サービス」の項があり,これには,「・・・(2)プラットフォーム(OS/ネットワーク)設計・構築サービス/ITインフラの設計・構築サービス/運用管理システムの設計・構築サービス」の記載がある。
(4)乙第6号証は,被請求人が東京都中央区所在の「N株式会社」宛に提出した,各種設備の「完成図書」(設計ドキュメント)の元データ(電子データファイル)からの電話設備に関するページの抜粋打ち出しとされるものである。
2 以上によれば,次のとおり判断できる。
(1)被請求人の提供に係る役務について
乙第4号証の提案資料(44頁)の会社紹介によれば,「日鉄日立システムエンジニアリング株式会社」は,「ビジネスソリューションサービス」,「パッケージソフトウエア等の開発・販売」,「コンピュータ及び関連機器の販売」及び「ITコンサルティング&サービス」の役務を提供する会社であり,その中で,「ITコンサルティング&サービス」においては,「プラットフォーム(OS/ネットワーク)設計・構築サービス/ITインフラの設計・構築サービス/運用管理システムの設計・構築サービス」を行っているものである。そして,この「プラットフォーム(OS/ネットワーク)設計・構築サービス/ITインフラの設計・構築サービス/運用管理システムの設計・構築サービス」は,本件商標の指定役務中の「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」に含まれる役務であると認められる。
そして,乙第2号証及び乙第3号証の「提案資料」及び「見積書」,「注文書」に関しては,被請求人と「日本検査株式会社」における取引書類であるところ,その提案資料は,上記した「プラットフォーム(OS/ネットワーク)設計・構築サービス/ITインフラの設計・構築サービス/運用管理システムの設計・構築サービス」に係るものであり,また,この提案資料に基づいた取り引きとして,2015年6月4日及び同6月23日の日付けの「見積書」及び平成27年6月12日及び同6月24日の日付けの「注文書」が確認できるものである。加えて,被請求人が「日本検査株式会社」に提出したとする各種設備の「完成図書」(設計ドキュメント)の元データ(電子データファイル)からの電話設備に関するページが提出されている(乙6)。
そうすると,被請求人は,本件商標の指定役務中の「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」に相当する役務を提供したといって差し支えないものである。
(2)本件商標の使用について
本件商標は,「NHS」の欧文字を標準文字で表してなるところ,乙第2号証及び乙第4号証の「提案資料」には,別掲のとおりの構成からなる使用商標が使用されているものである。
ところで,商標法第50条に規定する商標登録の取消審判における「登録商標」には,いわゆる「社会通念上同一の商標」を含むものであり,「その社会通念上同一の商標」と認められるものは,例えば,「書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標,平仮名,片仮名及びローマ字の文字を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標,外観において同視される図形からなる商標」などである(商標法第50条第1項参照)。
そこで,使用商標が本件商標と社会通念上同一の商標であるかについて検討するに,本件商標は,「NHS」の文字からなるのに対し,使用商標は,は,別掲のとおり,一見して単なる文字とは看取されない構成からなる特異な態様といえるものであって,直ちにこれが文字であるとは認識されないものである。
そして,これ程までに変形された態様のものが,「書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標」ということはできない。
してみれば,使用商標は,本件商標と社会通念上同一の商標であるとは認められない。
3 被請求人の主張について
被請求人は,「ローマ字を斜体にしたり,文字の一部を重ねて表示する程度の図案化はありふれた手法によるごく一般的なことであるから,これに接する取引者,需要者は容易にローマ字『NHS』を認識し,他の文字と誤解したり,単なる図形と認識することは考えられない。したがって,本件商標『NHS』と同一の綴り字からなる使用商標は,多少図案化されているものであるとしても,本件商標と社会通念上同一と認められるものであることは明らかである。」旨を主張している。
しかしながら,図案化された使用商標は,「NHS」の文字を単なる書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標ということはできず,文字の書体を超えた態様に変更された図形商標というべきものである。
よって,被請求人の主張は,採用することができない。
4 まとめ
以上のとおり,被請求人は,本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定役務のいずれかについての本件商標(社会通念上同一のものを含む。)の使用をしていることを証明したものということができない。
また,被請求人は,本件商標の使用をしていないことについて正当な理由があることを明らかにしていない。
したがって,本件商標の登録は,商標法第50条の規定によりその指定役務中,第42類「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」についての登録を取り消すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 別掲(使用商標)




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審決日 2016-10-28 
出願番号 商願2002-93475(T2002-93475) 
審決分類 T 1 32・ 1- Z (Y42)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大橋 良成 
特許庁審判長 山田 正樹
特許庁審判官 榎本 政実
井出 英一郎
登録日 2003-10-24 
登録番号 商標登録第4720986号(T4720986) 
商標の称呼 エヌエッチエス、エヌエイチエス 
代理人 和田 光子 
代理人 保崎 明弘 
代理人 鈴木 亜美 
代理人 橋本 清 
代理人 水野 勝文 

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