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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない Y06
管理番号 1323601 
審判番号 取消2014-300909 
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2014-11-12 
確定日 2016-12-12 
事件の表示 上記当事者間の登録第5002921号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
登録第5002921号商標(以下「本件商標」という。)は、「ULMAT」の欧文字を標準文字で表してなり、平成17年9月16日に登録出願、第1類「金属酸化物,その他の化学品,非鉄金属」、第2類「塗装用・装飾用・印刷用又は美術用の非鉄金属はく及び粉,塗装用・装飾用・印刷用又は美術用の貴金属はく及び粉」及び第6類「鉄及び鋼,チタン製の鋳物,ジルコニウム製の鋳物,スパッタリング装置用ターゲット,非鉄金属及びその合金」を指定商品として、同18年11月10日に設定登録されたものである。
そして、本件商標の指定商品中、第1類「非鉄金属」、第2類「塗装用・装飾用・印刷用又は美術用の非鉄金属はく及び粉,塗装用・装飾用・印刷用又は美術用の貴金属はく及び粉」及び第6類「非鉄金属及びその合金」については、平成26年6月23日に商標権の一部取消し審判が請求され(商標法第50条第1項、請求の登録日:平成26年7月10日)、同年11月24日に、当該商品についての登録を取り消すとの審判の確定登録がされたものである。
なお、本件審判の請求の登録日は、平成26年12月3日である。以下、本件審判の請求の登録日前3年以内を「要証期間内」という。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標は商標法第50条第1項の規定により、その指定商品中、第6類「チタン製の鋳物,ジルコニウム製の鋳物,スパッタリング装置用ターゲット」について登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べた。
1 請求の理由
本件商標は、その指定商品中、第6類「チタン製の鋳物,ジルコニウム製の鋳物,スパッタリング装置用ターゲット」について、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから、商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
(1)指定商品又は指定役務において使用されていない
被請求人は、答弁書において「・・・被請求人は、・・・本件商標を第6類『スパッタリング装置用ターゲット』である商品『Pt 4N ターゲット』及び『Ti 3N ターゲット』(以下「使用商品」という。)について使用している。」と述べているが、成り立たない。
ア 被請求人の主張は失当である
第6類「スパッタリング装置用ターゲット」とは、「スパッタリング装置の部品ではなく、スパッタリング加工によりターゲット素材成分(チタン・亜鉛・スズ等)を抽出して使用されるもの」である。つまり、これは「スパッタリングターゲット」のみを含み、バッキングプレートをボンディングしたようなアッセンブリ(英語の「Assembly」)すなわち組み立て部品は含まないと解される。
これは、被請求人の商標登録出願である商願2005-087122号(分割親出願)における平成18年5月11日拒絶理由通知書において記載されており、被請求人はそれにしたがい第6類「スパッタリング装置用ターゲット」を指定商品とする分割出願(商願2006-059027号)を行い、本件商標の登録に至っていることから、被請求人との間に争いはない。
ところが、乙第1号証においては、「ULMAT」の標章は納入仕様書の特にターゲットをバッキングプレートに接合(ボンディング)したターゲットアッセンブリの「組図」においてのみ使用されている。これは、ターゲットそのものとはいえず、「スパッタリング装置の部品」というべきものである。
この点、被請求人も答弁書1頁目において組図を説明するに際して「組図(ターゲットアッセンブリの製造図面)」と自認している。「アッセンブリ」は英語の「Assembly」であり、すなわち日本語において「組み立て部品」を意味する。
よって、乙第1号証及び乙第2号証は、「スパッタリング装置の部品」において、「ULMAT」の使用の事実にはなるかもしれないが、少なくとも第6類「スパッタリング装置用ターゲット」において使用されたものとはいえない。
また、複数の証拠である、乙第1号証及び乙第2号証の両方において「ULMAT」は同様の「組図」においてのみ使用されていることから、これも需要者に対して「ターゲットアッセンブリ」という「スパッタリング装置の部品」における使用であるという印象を強めている。PtやTiといった文字が品名に含まれているものの、「組図」においてターゲット材は単に線図により示された円盤状の物体としか認識できず、ゆえに第6類「スパッタリング装置用ターゲット」として認識することは困難である。
(2)被請求人による使用は、商標の使用に当たらない
被請求人の納入仕様書においては、表紙、製品・梱包ラベル図、検査証及びデータシートにハウスネームとして被請求人の社名である「株式会社アルバック マテリアル事業部」が統一的に使用されている。結果として、当該納入仕様書に接した需要者及び消費者は、対象製品の出所は「株式会社アルバック マテリアル事業部」であると強く認識する。
一方、「ULMAT」は例外的に納入仕様書の「組図」においてのみ使用されているにすぎず、需要者に与える印象は非常に弱く、自他商品識別機能を発揮しているとはいえない。
そして、「ULMAT」の標章は、被請求人が2008年頃に買収したアルバックマテリアル社の社名略称であり、現在は同様の事業を「株式会社アルバック マテリアル事業部」が継続して行っている。
そのような状況では、当該納入仕様書に接した需要者及び消費者は、組図は買収前の「アルバックマテリアル社」時代に作成された書類を、納入仕様書の一部に差し替えて利用しているという印象を受けるにすぎず、「ULMAT」という標章が、現在取引されているターゲットアッセンブリの出所を示す標章として認識されることは困難である。
よって、組図における使用は、自他商品識別機能を発揮する態様で出所を示す識別標識として使用されたとはいえない。
(3)「納入仕様書」は使用の事実を証する書面とはいえない
「納入仕様書」とは、通常ターゲットアッセンブリなどの工業用資材の取引において、商品の納品前に、販売者と購入希望者との間で納品物の詳細について合意するために用いられる書面である。
納入仕様書の表紙を参照すると、販売者のアルバックより購入者へ送付され、購入希望者の担当であるA氏が2013年5月21日に当該納入仕様書を受領確認し捺印し、その後アルバック社に返送されたものであることが認められる。
ア 「納入仕様書」における使用は、取引時に認識できない。
本納入仕様書をもって、実際にターゲットアッセンブリが購入希望者へ納品されたか否かは明らかではないが、仮に、ターゲットアッセンブリが実際に購入希望者へ納品されたとしても、「ULMAT」が使用されたことにはならない。
なぜなら、当該ターゲットアッセンブリが実際に購入者へ送付される際の「梱包様式図」が納入仕様書の6葉目に記載されているところ、この梱包様式図を参照すると、「ULMAT」が使用されている「組図」が含まれていない。そして、その他販売に伴い、被請求人が2008年頃に買収した企業名である「ULMAT」を使用したことの事実を確認することができない。
単に納入仕様書の組図においてのみ部分的に使用されたにすぎず、被請求人の使用は自他商品識別機能を発揮しているとはいえない。
よって、「ULMAT」は、顧客への納品に伴い、顧客が認識できる態様で商品に用いられているものとはいえない。
イ 「納入仕様書」は業としての取引事実を証する証拠とはいえない
この納入仕様書は、販売者と購入希望者との間に、販売価格や納品時期などの実際に売買が成立したことを具体的に示すものではなく、単にターゲットアッセンブリの仕様を合意する書面にすぎない。
よって、購入希望者に実際に商品が納品(売買)されたこと(使用の事実)を示したものとはいえない。つまり、本納入仕様書は使用の事実を証する書面とはいえない。
(4)被請求人が業として使用したことが疑わしい
商標法第50条の登録商標の使用といい得るためには、業としての使用でなければならない。「業として」とは、「一定の目的の下に反復、継続して行う行為として」と解されているため、登録商標の使用といい得るためには、その使用が反復継続性を伴った行為として行われなければならない。
ところが、被請求人による本ターゲットアッセンブリの販売行為は、添付納入仕様書に係る2件(顧客同一)のみにすぎない疑いが強く、業としての反復使用には当たらない。
なぜなら、本納入仕様書の改訂来歴表には、2013年4月19日新規制定とある。新規制定時の担当と承認者は、いずれも本納入仕様書の担当及び承認者である。一方、本ターゲットアッセンブリは組図の作成年月日から2008年11月27日頃に設計されたものであり、最初の販売はその頃に行われたものと推察される。
ところで、被請求人は2008年頃にアルバックマテリアル社(略称ULMAT、現アルバック株式会社 マテリアル事業部)を買収している。
そうすると、本納入仕様書の2013年4月19日の新規制定は、アルバックマテリアル社買収に伴う、納入仕様書における社名変更等(アルバックマテリアル社から、アルバック株式会社 マテリアル事業部)のためであることが推察される。2008年に買収した企業の企業名が2013年まで改訂されていないことから、本納入仕様書は少なくともアルバックマテリアル社が買収された2008年頃から、本納入仕様書の新規制定の2013年4月19日までの約5年間の間に一度も頒布されたことがなく、初めて、2013年5月頃に同一の顧客(A氏)にたった2件のみ頒布するために作成されたものにすぎないと考えられる。
よって、被請求人が業として反復継続性を伴って使用していたとはいえない。
(5)商標法の目的に反する
事業買収に伴って、被買収企業のハウスネームやブランドが使用されなくなることはよくあるところ、被買収企業の書類の中には、何らかの事情により被買収企業の企業名を変更できずにそのまま使用せざるを得ない書類が含まれていることは当然のことである。
そのような例外的な、差し替えられた一部の書類における使用をもって、登録商標が使用されていることになれば、現在において実質的に使用されていない「保護すべき信用がない登録商標」の権利が維持されてしまう。
そのような登録商標を存続させることは、商標法の目的に反する結果のみならず、国民一般の利益を不当に侵害するものである。
3 口頭審理陳述要領書における主張
被請求人提出の口頭陳述要領書に添付された新たな証拠である乙第3号証ないし乙第10号証は、そのいずれもターゲットそのものについて本件商標を使用している証拠とはいえない。
被請求人は陳述要領書において、「(ア)・・・ターゲットを販売するためにターゲットアッセンブリの形態を採っているにすぎない。したがって、『ターゲットアッセンブリ(TARGET ASSEMBLY)』の名称が用いられているとしても、それはスパッタリング装置用のターゲットそのものであって、独立した商品として取引の対象となっているものである。」と述べている。
たしかにターゲットアッセンブリの取引に伴い、それの一部を構成する部品ともいえるターゲット材も同時に取引されることは間違いない。
しかし、被請求人の乙第1号証及び乙第2号証における本件標章の表示が、商標法第50条に係る登録商標の使用には当たらないことを以下に疎明する。
(1)ターゲットアッセンブリは「スパッタリング装置用ターゲット」に含まれない
請求人が弁駁書において既に述べたとおり、乙第1号証及び乙第2号証は、「スパッタリング装置の部品」において、「ULMAT」の使用の事実にはなるかもしれないが、少なくとも第6類「スパッタリング装置用ターゲット」において使用されたものとはいえず、被請求人の主張は失当である。
なお、被請求人は答弁書において乙第1号証及び乙第2号証に示す商品がターゲットアッセンブリであることを自認している。被請求人の主張は既に答弁書において自認した内容を翻す内容であり、信義則に反している。
(2)ターゲットアッセンブリの納入仕様書にのみ本標章が表示されている
被請求人は陳述要領書において、「(イ)・・・スパッタリングに伴い、ターゲット自体は消耗していくため、それ自体が単独で商品として取引されるものである。そして、・・・ターゲットアッセンブリとした状態で、特定の材質のターゲットを購入することができる(乙3?乙8)」と述べている。
そして、乙第1号証、乙第2号証及び乙第6号証を参酌すると、被請求人はスパッタリングターゲットに関し、次の2種類の商品を取り扱っていることが推察される。
ア ターゲット材(乙5)
イ ターゲットアッセンブリ(乙1、乙2)
被請求人は2種類の商品を取り扱っているにも関わらず、「ULMAT」商標を「ターゲットアッセンブリ」の納入仕様書の、さらにアッセンブリの組み立て図面である「組図」にのみ表示しているにすぎない。
「組図」はターゲットをバッキングプレートに接合したものが図示されたもので、答弁書において被請求人は製造図面であると述べている。そうすると、「組図」はターゲットアッセンブリの取引に用いられることはあっても、単なるターゲット材の取引において用いられることはないものである。
すると、乙第1号証及び乙第2号証に係る納入仕様書の組図に接した通常の取引者、需要者は標章「ULMAT」はアッセンブリに対してのみ専ら表示される標章であると強く印象づけられると考えるのが自然といえる。
このような事情を考慮すると、被請求人の陳述要領書における主張は、スパッタリング装置の部品の一種である「ターゲットアッセンブリ」における商標の使用を、「ターゲット材」にまで拡張することに他ならない。
また、被請求人が、「ターゲット材」においても本件標章を表示できない特別な事情がないことを考慮すると、被請求人は意思をもって指定商品「スパッタリング装置用ターゲット」において当該商標を使用していなかったと解すべきである。そのような場合にまで、商標法第50条に係る登録商標の使用範囲を拡張することは商標法の趣旨に反する。
(3)本納入仕様書は、取引書類には当たらない
被請求人は、陳述要領書において、乙第1号証及び乙第2号証に係る納入仕様書が「取引書類」に当たると述べているが、失当である。
被請求人は、「納入仕様書は・・・商品の取引に関して使用される書面であることは問違いない」と述べているが、被請求人の主張には根拠がない。
納入仕様書はあくまで商品の納入前に販売者と購入希望者との間で取り交わされる書類にすぎず、納入仕様書のみでは、ターゲットアッセンブリが実際に顧客へ納入されたこと(商品が取引されたこと)が明らかとはいえない。つまり、本納入仕様書のみでは取引書類には当たらない。
また、被請求人は、納入仕様書6葉目に記載されている梱包様式図には、「ULMAT」が記載されている「組図」が含まれておらず、商品の取引に際し、実際の商品と共に渡されるものとはいえない。
よって、乙第1号証及び乙第2号証に係る納入仕様書は取引書類とはいえないから、「納入仕様書」において商標を表示して取引相手に渡す行為は、商標法第50条に係る商標の使用にはあたらない。
4 上申書における主張
(1)被請求人は、乙第1号証及び乙第2号証の納入仕様書の2葉目に「【バッキングプレート仕様】」として、「材質」の欄には「無酸素銅」、「顧客支給/レンタル」の欄には御支給品と記載されており、これにもとづき、バッキングプレートは「顧客から被請求人に支給されたものであるから商取引の対象ではない。」と述べている。
しかし、その主張には理由がない。まず、被請求人は、審判事件答弁書において、乙第1号証及び乙第2号証における「組図」について、被請求人は「ターゲットアッセンブリの製造図面」であると自認している。「製造」とは、被請求人自らがターゲット材をバッキングプレートへ接合し完成品としてターゲットアッセンブリ(スパッタリング装置の部品)を作成する意味と解される。
つまり、乙第1号証及び乙第2号証は被請求人が製造したターゲットアッセンブリ(スパッタリング装置の部品)に関する納入仕様書であると解することが自然といえる。バッキングプレートが顧客から支給されたものか否かに関わらず、顧客に対して納入されるものはそれを組み付けて製造したターゲットアッセンブリの完成品であることには間違いないことから、ターゲットアッセンブリのうちバッキングプレートのみが商取引の対象から除かれるとする被請求人の主張は不自然である。納入仕様書に係る商品は完成品としての「ターゲットアッセンブリ」として解することが自然である。
(2)ターゲットアッセンブリの組図にのみ本標章が表示されている
被請求人は「ターゲット自体が独立してスパッタリング装置用ターゲットとして商取引の対象となるだけではなく、ターゲットにバッキングプレートを接合したターゲットアッセンブリの状態もまた独立の商取引の対象となっている。」と述べている。
2つの取引態様があるにも関わらず、本件「ULMAT」商標は「ターゲットアッセンブリ」の納入仕様書の、さらにアッセンブリの組み立て図面である「組図」にのみ表示しているにすぎない。
「組図」はターゲットをバッキングプレートに接合したものが図示されたもので、答弁書において被請求人は製造図面であると述べている。そうすると、「組図」は完成品としてのターゲットアッセンブリの取引に用いられることはあっても、単なるターゲット材の取引において用いられることはないものである。
すると、乙第1号証及び乙第2号証に係る納入仕様書の組図に接した通常の取引者、需要者は標章「ULMAT」はアッセンブリに対してのみ専ら表示される標章であると強く印象づけられると考えるのが自然といえる。
このような事情を考慮すると、被請求人の陳述要領書における主張はスパッタリング装置の部品の一種である「ターゲットアッセンブリ」における商標の使用を、「ターゲット材」にまで拡張することに他ならない。
(3)「繰り返し利用される」ものである点について
被請求人は、「バッキングプレートは、スパッタリングによって消耗するものではなく、繰り返し利用されるものです。」と述べている。ところが、被請求人による本ターゲットアッセンブリの販売行為は、乙第1号証及び乙第2号証に係る2件(顧客同一)のみにすぎない疑いが強い。また、それらの顧客受領日は同一日付であり、繰り返し再利用されていることが疑わしい。
被請求人は、乙第3号証ないし乙第8号証、乙第12号証及び乙第13号証等に基づき、バッキングプレートが繰り返し再利用されることがあることを述べているが、乙第1号証及び乙第2号証の作成日付が同一であることを考慮すると少なくとも同一のバッキングプレートが乙第1号証及び乙第2号証の両方の取引に再利用されたことは成り立たない。つまり、(別種のターゲットアッセンブリにおいてバッキングプレートの再利用はあるかもしれないが)乙第1号証及び乙第2号証に係るターゲットアッセンブリにおいてバッキングプレートが繰り返し再利用されていることは明らかではない。
被請求人は乙第1号証及び乙第2号証以外の証拠を示していないことから、乙第1号証及び乙第2号証に係るターゲットアッセンブリにおいて「バッキングプレートが繰り返し再利用」されていることについては理由がない。

第3 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求め、審判事件答弁書、口頭審理陳述要領書及び上申書において、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第13号証を提出した。
1 答弁の理由
(1)本件商標の使用
本件商標は、標準文字による欧文字「ULMAT」からなるものである。
そして、乙第1号証及び乙第2号証に示すとおり、被請求人は、要証期間内に、本件商標を第6類「スパッタリング装置用ターゲット」である商品「Pt 4N ターゲット」及び「Ti 3N ターゲット」について使用している。
ア 乙第1号証
乙第1号証は、被請求人がその顧客向けに作成し頒布した2013年4月19日付の「納入仕様書」の写し(納入先は黒塗りにしてある。)である。
この「納入仕様書」には、品名として「Pt 4N ターゲット」が記載されており、添付仕様資料として「製品ラベル図」、「組図」、「梱包様式図」、「検査証」及び「データシート」が添付されている。
品名中の「Pt」は「プラチナ」を意味し、「4N」は「4つのnine」つまり「純度99.99%」を意味する。すなわち、「Pt 4N ターゲット」は、純度99.99%のプラチナ製ターゲット材であることを示す。
ターゲットをスパッタリング装置に装着して使用するとき、ターゲットは、無酸素銅等の熱伝導のよい材質で内部に冷媒循環通路が設けられたいわゆるバッキングプレートに接合(例えば、ボンディング)することが通常である。このため、スパッタリング装置用のターゲットを販売するのに際しては、ターゲットそのものを販売する場合と、ターゲットをバッキングプレートに接合してターゲットアッセンブリとし、この状態で販売する場合とがあり、「スパッタリング装置用のターゲット」といった場合、「ターゲットアッセンブリ」を指すことが多いというのが取引の実情である。
そして、添付資料の「組図」(ターゲットアッセンブリの製造図面)には、本件商標と社会通念上同一といえる「ULMAT」の標章が表示されている。さらに、この組図には、「TARGET ASSEMBLY」、「KEE-HCB-1040」等の表示がされている。上記「KEE-HCB-1040」は「ターゲット仕様」に記載された形状・寸法の規格と一致する。
これらの記載に照らし、上記「ULMAT」の標章が自他商品の識別標識としての機能を果たしていることは明らかである。
また、「納入仕様書」の日付2013年4月19日が要証期間内であることは明白である。
したがって、乙第1号証により、被請求人が請求に係る指定商品中の「スパッタリング装置用ターゲット」について本件商標を要証期間内に使用していることは明らかである。
イ 乙第2号証
乙第2号証は、被請求人がその顧客に向けて作成し頒布した2013年4月19日付の「納入仕様書」の写し(納入先は黒塗りにしてある。)である。
この「納入仕様書」には、品名として「Ti 3N ターゲット」が記載されており、乙第1号証と同様、「製品ラベル図」、「組図」、「梱包様式図」、「検査証」及び「データシート」が添付されている。
品名中の「Ti」は「チタニウム」を意味し、「3N」は「3つのnine」つまり「純度99.9%」を意味する。すなわち、「Ti 3N ターゲット」は純度99.9%のチタニウム製ターゲット材であることを示す。
したがって、納入仕様書に記載されたターゲットは、不純物を微量含有するチタニウム(Ti)製であり、この種のターゲット自体もまた、「スパッタリング装置用ターゲット」であることは明白である。
そして、添付資料の「組図」(ターゲットアッセンブリの製造図面)には、本件商標と社会通念上同一といえる「ULMAT」の標章が表示されている。さらに、この組図には、「TARGET ASSEMBLY」、「KEZ-HCB-8390」等の表示がされると共に、製造元たる被請求人「ULVAC Materials,Inc.」が表示されている。上記「KEZ-HCB-8390」は「ターゲット仕様」に記載された形状・寸法の規格と一致する。
これらの記載に照らし、上記「ULMAT」の標章が自他商品の識別標識としての機能を果たしていることは明らかである。
また、「納入仕様書」の日付2013年4月19日が要証期間内であることは明白である。
したがって、乙第2号証からも、被請求人が請求に係る指定商品中の「スパッタリング装置用ターゲット」について本件商標を要証期間内に使用していることは明らかである。
2 口頭審理陳述要領書における主張
(1)本件商標の使用に係る「スパッタリング装置用ターゲット」について
ア 一般に、ターゲットは、スパッタリング装置に使用する場合、無酸素銅等の熱伝導のよい材質で内部に冷媒循環通路が設けられたいわゆるバッキングプレートに接合することが通常であり、スパッタリング装置用のターゲットを取引する際には、ターゲットをバッキングプレートに接合してターゲットアッセンブリとし、この状態で販売されることが多々ある。つまり、ターゲットを販売するためにターゲットアッセンブリの形態を採っているにすぎない。
したがって、「ターゲットアッセンブリ(TARGET ASSEMBLY)」の名称が用いられているとしても、それはスパッタリング装置用のターゲットそのものであって、独立した商品として取引の対象となっているものである。
イ そして、ターゲットは、用途に応じて適宜選択され、例えば、乙第1号証及び乙第2号証の「納入仕様書」に示すように、Ag、Cu、Mg、Pdといった不純物を微量含有する非鉄金属としてのプラチナ(Pt)又はチタニウム(Ti)の合金からなるものであり、品名として「Pt 4N ターゲット」又は「Ti 3N ターゲット」と明示されて取引されているのである。
ウ ところで、スパッタリングとは、真空中でターゲットにArイオン等をぶつけることによって叩き出されたターゲット材を反対側の基板に付着、堆積させて薄膜を作る方法である。ターゲット自体は薄膜の原料となるものであるが、スパッタリングに伴い、ターゲット自体は消耗していくため、それ自体が単独で商品として取引されるものである。そして、スパッタリング装置を使用しようする者は誰でも、必要に応じてターゲットをバッキングプレートに接合してターゲットアッセンブリとした状態で、特定の材質のターゲットを購入することができる(乙3?乙8)。
例えば、自動車用タイヤは、自動車で使用する場合、車体の支持を一部担うなどの役割を持つホイールに装着されることが通常である。自動車用タイヤは消耗品であり、単独で商品として取引されるものであるが、自動車用タイヤを取引する際には、タイヤをホイールに装着してタイヤアッセンブリとし、この状態で販売されることが多々ある。そして、このようにタイヤアッセンブリの形態を採っていたとしても、取引の対象が自動車用タイヤであることには違いはなく、このことは、ターゲットアッセンブリの形態を採ってターゲットそのものを販売することと同じである。
エ したがって、乙第1号証及び乙第2号証に示す商品「Pt 4N ターゲット」又は「Ti 3N ターゲット」は、上記スパッタリングターゲット(ターゲット材)に相当するものであり、スパッタリング装置の部品というべきものではない。
オ 仮に、乙第1号証及び乙第2号証に示す商品「Pt 4N ターゲット」又は「Ti 3N ターゲット」がスパッタリング装置の部品であるとしても、スパッタリング装置に組み込まれて「スパッタリング装置」として取引されるようなものではなく、上記商品は「ターゲット」として独立して取引の対象とされているものであり、商標法上の商品といえるものである。
カ なお、別件の取消2014-300467号審判の審決において、乙第2号証に示す商品は「スパッタリング装置用ターゲット」であり、仕様に基づいて加工などがされた後に納入される商品であることが認定されている(乙9)。
(2)商標としての使用について
請求人は、乙第1号証及び乙第2号証の「納入仕様書」の「組図」に表示された「ULMAT」の標章は自他商品識別機能を発揮しているとはいえず、現在取引されているターゲットアッセンブリの出所を示す標章として認識されることは困難である旨主張している。
しかしながら、乙第1号証及び乙第2号証の「納入仕様書」に添付された各組図には、商品を意味する「TARGET Pt」又は「TARGET Ti」の文字が明示され、本件商標と社会通念上同一といえる「ULMAT」の標章が一際目立つ態様で大きく表示されているばかりでなく、図面番号として記載された「KEE-HCB-1040」又は「KEZ-HCB-8390」は、各「納入仕様書」の2葉目(ターゲット仕様)中の「形状・寸法」欄に記載された図面番号と一致している。
そして、上記「ULMAT」の標章は、商品である「TARGET Pt」又は「TARGET Ti」の出所を識別するために資されるものであることは明らかであり、商品「ターゲット」について使用する商標として認識し理解されるものである。
なお、前掲の取消2014-300467号審決において、上記組図に表示された「ULMAT」の標章は本件商標と社会通念上同一であることが認定されている。
(3)「納入仕様書」について
請求人は、「納入仕様書」は商標の使用の事実を証する書面とはいえない旨主張している。
しかしながら、以下に述べるように請求人の主張は失当である。
ア 商品の取引に当たり、実際の商品と共に、商品の内容、詳細等を説明する「納入仕様書」を作成し取引相手に提出することは取引上一般に行われる慣行であって、「納入仕様書」は取引書類に該当するものである。そのことは、例えば、平成24年(行ケ)第10011号、第10012号審決取消請求事件において、「・・・を納入するに当たり、取引書類である納品書や納入仕様書に使用商標1を使用したことが認められる。」と判示されていることからも明らかである(乙第10号証)。また、「納入仕様書」に添付された書面は、商品を具体的に説明するものであり、やはり取引書類に当たるものといえる。
乙第1号証及び乙第2号証の「納入仕様書」は、たとえ、商品の納入前に販売者と購入希望者との間で納品物の詳細について合意するために用いられる書面であるとしても、商品の取引に関して使用される書面であることに違いはない。また、商品の取引に際し、実際の商品と共に渡されるものでもあり、上記「納入仕様書」が取引書類に該当するものであることは明らかである。
イ また、乙第1号証及び乙第2号証の組図は、「08.11.27」又は「08.11.28」の日付があり、いずれも、要証期間前の2008年11月に作成されたものではあるが、「納入仕様書」の添付書面として現在に至るまで継続して使用されているものである。そのことは、前述のように、それぞれの組図番号と納入仕様書の「形状・寸法」欄に記載された図面番号とが一致していることから明らかである。
ウ 乙第1号証及び乙第2号証の「納入仕様書」中の組図には、「ULVAC Materials,Inc.」の表示があるが、これは被請求人が2008年に買収した「アルバックマテリアル社」を指し、実質的に被請求人の傘下にあった会社である。そして、自己の傘下にある関連会社の作成に係る資料をそのまま自己の取引書類として使用することはよくあることである。上記組図も特に変更の必要がなかったためにそのまま使用したにすぎない。
エ 乙第1号証及び乙第2号証の「納入仕様書」は、いずれも1葉目右上に「作成改訂日2013年4月19日」の表示があり、かつ、「お客様受領印欄2013年5月21日(この仕様書を受領しました)」と記載されていることから、同「納入仕様書」は2013年4月19日に作成され、同年5月21日に取引相手によって受領されたことが明らかである。そして、これらの日付は要証期間内に相当するものである。
オ 以上のように、乙第1号証及び乙第2号証の「納入仕様書」において商標を表示して取引相手に渡す行為が、商標法第2条第3項第8号にいう「商品・・・に関する・・・取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布・・・する行為」に該当することは明らかである。
なお、前掲の取消2014-300467号審決において、上記「納入仕様書」は商品「ターゲット」に関する取引書類一式であること、及びその頒布日は要証期間内である2013年5月21日であることが認定されている。
3 上申書における主張
(1)スパッタリング装置用ターゲットの取引の実情について
ア スパッタリング装置としてマグネトロン方式のものを例にスパッタリング装置を説明すると、スパッタリング装置は、通常、真空雰囲気の形成が可能な真空チャンバと、成膜処理しようとする基板に対向配置されるターゲット材料と、ターゲット材料に負の電位を持った電力を投入する電源と、真空チャンバ内に希ガス(アルゴン等)を導入するガス導入機構とで構成される。そして、真空チャンバを減圧(真空雰囲気に)した後、希ガスとしてのアルゴンガスを真空チャンバ内に導入し、ターゲット材料に電力投入することで、ターゲット材料と基板との間にプラズマを発生させる。そうすると、プラズマで電離したアルゴンイオンがターゲット材料表面に衝突し、ターゲット材料からその原子が飛び出し、基板上に付着、堆積する(乙11)。このようにターゲット材料はスパッタリングにより侵食されて消耗する。このため、ターゲット材料は定期的に交換される。また、スパッタリング装置を使用する際には、その使用者は、基板に成膜しようとする膜に応じて適宜選択されるターゲット材料を、スパッタリング装置メーカーやターゲット製造メーカー等のターゲット材料供給者(販売者)から任意に購入するのが一般的である。
このスパッタリング中、ターゲット材料は、高温のプラズマに常時曝されるため、プラズマからの輻射熱で溶けたり、割れたりする場合がある。これを防ぐために、ターゲット材料の裏面に、内部に冷却水の循環通路を設けたバッキングプレートをボンディング材を介して予め接合して、ターゲットアッセンブリの状態でスパッタリング装置に設置し、バッキングプレート内を流れる冷却水との熱交換でターゲット材料を冷却可能にする。そして、ターゲット材料が消耗したときには、ターゲットアッセンブリ自体が取り外されて交換される。
イ バッキングプレートは、熱伝導の良好な銅などで製作されるが、ターゲットとの接合が不十分だと、ターゲット材料に局所的な溶けや割れが生じる。このことから、ターゲット材料の供給者(販売者)は、使用するターゲット材料の種類に応じて適切なボンディング材を選択し、バッキングプレートに接合した状態で販売するのが一般的である。その際、バッキングプレート自体は、スパッタリングで消耗するものでもなく、再利用することができることから、例えば、乙第1号証及び乙第2号証の納入書記載のように、ターゲット納入先からバッキングプレートの支給を受けて、このバッキングプレートにターゲットを接合してターゲットアッセンブリとし、この状態でターゲットを納入先に販売するのが一般的である。この場合、このようにターゲットアッセンブリの形態を採っていたとしても、独立して商取引の対象となっているのは、あくまでターゲット自体である。
したがって、ターゲット材料自体が独立してスパッタリング装置用ターゲットとして商取引の対象となるだけではなく、ターゲットに納入先等のバッキングプレートを接合したターゲットアッセンブリの状態もまた、スパッタリング装置用ターゲットとして独立して商取引の対象となっているのが取引の実情であり、これは、乙第3号証ないし乙第8号証からも明らかである。
すなわち、口頭審理陳述要領書には、「ターゲット自体は消耗していくため、それ自体が単独で商品として取引されるものである。そして、スパッタリング装置を使用しようとする者は誰でも、必要に応じてターゲットをバッキングプレートに接合してターゲットアッセンブリとした状態で、特定の材質のターゲットを購入することができる(乙3?乙8)。」と記載されている。
具体的には、乙第3号証の本文1行目には、「スパッタリングターゲットは、スパッタリングによって薄膜を作る際の原料となります。」と記載されており、同号証本文4行目及び5行目には、「ターゲット材は、一般に数ミリの厚さの円形や矩形の板状で、バッキングプレートにボンディングされています。」と記載されている。乙第4号証の本文6行目には、「スパッタリングターゲットは、薄膜の原料になります。」と記載されており、同号証本文10行目及び11行目には、「スパッタリングターゲットを、・・・お客様のニーズに合わせて作成いたします。」と記載されている。乙第5号証には、「薄膜テレビ製造装置向けスパッタリングターゲット」の見出しの下、「・・・高品質で安定したスパッタリングターゲットを提供します。ガラス基板、成膜装置の大型化に対応できるボンディング設備を備え、万全なターゲット供給体制を敷いています。」と記載されており、この記載の左側の写真にはターゲットをバッキングプレートに接合してターゲットアッセンブリとした状態が示されている。乙第6号証には、単独で販売される「半導体用スパッタリングターゲット」が記載されている。乙第7号証の第4頁には、「Wターゲット」の見出しの下、「ターゲットとバッキングプレート(BP)の接合強度を高めた拡散接合(ディヒュージョンボンディング)品も上市しております。」と記載されている。乙第8号証の第1頁には、「工程例」の見出しの下、洗浄後のターゲットをバッキングプレートにボンディングした後に検査・梱包される工程が示されている。
したがって、これら乙第3号証ないし乙第8号証からも、ターゲット自体が独立してスパッタリング装置用ターゲットとして商取引の対象となるだけではなく、ターゲットに納入先等のバッキングプレートを接合したターゲットアッセンブリの状態もまた、スパッタリング装置用ターゲットとして独立して商取引の対象となっていることが認められる。
(2)「乙第1号証及び乙第2号証の納入仕様書に示された商品が、『スパッタリング装置の部品』ではなく、また、バッキンプレートが、スパッタリング装置の部品又は付属品として取引されるものではないこと」について
ア 乙第1号証及び乙第2号証の納入仕様書の2葉目に「【バッキングプレート仕様】」として、「材質」の欄には「無酸素銅」、「顧客支給/レンタル」の欄には「御支給品」と記載されている。
したがって、乙第1号証及び乙第2号証の納入仕様書に示されたバッキングプレートは、顧客支給のものであって、商取引の対象ではないから、商取引の対象は、ターゲットそのものであることが確認できる。
イ そもそもバッキングプレートは、スパッタリングによって消耗するものではなく、繰り返し利用されるものである。
このことは、「バッキングプレートは多くの場合、再利用されるので、このスパッタリングターゲットとバッキングプレートは、スパッタリングターゲットが交換できるように、ロウ材や接着剤で接合されている場合が多い。」(乙12)及び「ターゲットを使い終わるとバッキングプレートは回収され、使い残りのターゲットをバッキングプレートから剥離して、また新しいターゲットをボンディング材でそのバッキングプレートに接合する。つまり、バッキングプレー卜はその材質、形状等の劣化による使用寿命がくるまで繰り返し再利用される。」(乙13)の記載からも明らかである。
ウ 上記のア及びイから、乙第1号証及び乙第2号証の納入仕様書に示された商品において、商取引の対象となり得るのはターゲットそのものであることが確認できる。
エ 乙第3号証の本文1行目に、「スパッタリングターゲットは、スパッタリングによって薄膜を作る際の原料となります。」の記載があり、同じく乙第4号証の本文6行目に、「スパッタリングターゲットは、薄膜の原料になります。」の記載がある。
そうすると、乙第1号証及び乙第2号証の納入仕様書に示された商品ターゲットは、薄膜を作る原料であって、スパッタリング装置の部品でないことが確認できる。
(4)まとめ
以上述べたように、乙第1号証及び乙第2号証の納入仕様書に示されたバッキングプレートは、顧客支給のものであって、その使用寿命が来るまで繰り返し利用されるものであるから、商取引の対象とはなり得ず、スパッタリング装置の部品又は付属品として取引されることもない。
そして、乙第1号証及び乙第2号証の納入仕様書に示された商品において、商取引の対象となり得るのはターゲットそのものであるところ、当該ターゲットは、薄膜を作る原料であって、スパッタリング装置の部品ではないから、乙第1号証及び乙第2号証の納入仕様書に示された商品は、スパッタリング装置の部品ではない。
したがって、ターゲットに納入先のバッキングプレートを接合したターゲットアッセンブリは、スパッタリング装置用ターゲットとして独立して商取引の対象となっていることは明らかである。
(5)むすび
以上のとおり、被請求人は、本件商標をその指定商品中の第6類「スパッタリング装置用ターゲット」について要証期間内に日本国内において使用していることが明らかであるから、請求人の主張は理由がない。

第4 当審の判断
1 被請求人は、要証期間内に、本件商標を、第6類「スパッタリング装置用ターゲット」である商品「Pt 4N ターゲット」及び「Ti 3N ターゲット」について使用していると主張し、乙第1号証及び乙第2号証を提出している。そして、乙第1号証と乙第2号証は、「仕様書No.」並びにターゲットの材料及び材料に関連した事項が相違するほかは、ほとんど同様の内容といえるので、以下、乙第2号証について検討する。
なお、乙第2号証に示された物が、スパッタリング装置で使用される物であることについては、当事者間に争いはない。
(1)乙第2号証は、「納入仕様書」であるところ、これによれば、以下の事実が認められる。
ア 1葉目は、「納入仕様書」の表紙であるところ、左上に「□貴社控え □貴社ご捺印後、弊社宛返却用」の記載があり、右上の「作成改訂日」の欄には「2013年4月19日」の記載があり、納入仕様書の内容として、「納入先」の欄は黒塗りされており、「仕様書No.」の欄には「EQK-DD147 Rev.01」、「品名」の欄には「Ti 3N ターゲット(φ101.6×6t)」、「型式」の欄には「SME-200」の記載があり、「お客様 受領印欄」の欄には「2013年5月21日(この仕様書を受領しました)」の記載と「A氏」の印影があり、さらに、「株式会社アルバックマテリアル事業部」の承認、審査、担当欄には、それぞれ印影がある。
また、欄外下部中央には「株式会社アルバック マテリアル事業部」の記載がある。
イ 2葉目には、「【ターゲット仕様】」として、「形状・寸法」の欄には「φ101.6×6t(図面:KEZ-HCB-8390)」、「材質」の欄には「Ti 3N」、「純度」の欄には「>=(「以上」を表す記号。以下同じ。)99.9%」の記載、「【バッキングプレート仕様】」として、「顧客支給/レンタル」の欄には「御支給品」の記載、「【ボンディング仕様】」として、「ボンディング付着率」の欄には「>=95%」、「反り」の欄には「<=(「以下」を表す記号。以下同じ。)0.4mm/全長」の記載、欄外下部には「仕様書No.EQK-DD147 Rev.01」の記載がある。
ウ 3葉目には、欄外下部に「仕様書No.EQK-DD147 Rev.01」の記載があり、また、「【添付仕様資料】」として、「製品ラベル図」、「組図1」、「梱包様式図」、「検査証」及び「データシート」の記載があり、それぞれ4葉目から8葉目が対応している。
また、「【添付仕様資料】」に9葉目の「仕様書 改訂来歴表」の記載はない。
エ 5葉目は、上記ウの「組図1」であるところ、左側の図中、 斜線で表された部分に引き出し線と「1」(○で囲まれている。)の記載と、その右の部分に引き出し線と「2」(○で囲まれている。)の記載があり、右上の「DESCRIPTION」及び「ITEM」の欄には、それぞれ「TARGET Ti」及び「1」、「BACKING PLATE」及び「2」の記載があり、また、右下枠内の「DWG.TITLE」の欄には「TARGET ASSEMBLY」、「DWG.NO.」の欄には「KEZ-HCB-8390」、そして、同枠内左下に大書した「ULMAT」の記載がある。また、組図1には、「TARGET」の基準になる直径が「101.6」、厚さが「6」と記載されている。
(2)上記(1)及び被請求人の主張によれば、以下のとおり認めるのが相当である。
ア 乙第2号証の納入仕様書について
(ア)乙第2号証の納入仕様書は、「Ti 3N ターゲット」の納入仕様書であり、表紙(1葉目)の記載(上記(1)ア)から、被請求人によって、2013年4月19日に作成され、顧客が2013年5月21日に受領したものである。
納入仕様書の受領については、請求人も認めている(上記第2、2(3))。
(イ)1葉目に記載された「仕様書No.」の欄に「EQK-DD147 Rev.01」の記載があり、2葉目、3葉目には「仕様書No.EQK-DD147 Rev.01」の記載があり、そして、3葉目の「【添付仕様資料】」の記載からすると、乙第2号証の品名「Ti 3N ターゲット」に関する納入仕様書は、1葉目ないし8葉目が取引書類一式といえる。
(ウ)5葉目の「組図1」には、右下枠内の左下に大書された商標「ULMAT」の記載があり、「ITEM」の「1」と「2」が、それぞれ「TARGET」と「BACKING PLATE」と記載され、これと「組図1」に表示された図の引き出し線の数字との対応付けからすると、「組図1」として表示された図は、ターゲットとバッキングプレートが組み合わされたものといえる。
また、バッキングプレートは、2葉目に「【バッキングプレート仕様】」として、「顧客支給/レンタル」の欄に「御支給品」の記載があることから、顧客からの支給品である。
イ 使用商品について
(ア)スパッタリング装置用ターゲットの取引の実情及び被請求人の取引について
スパッタリング装置用ターゲットは、スパッタリングによって、薄膜を作る際の原料となり、一般に数ミリの厚さの円形や矩形の板状で、バッキングプレートにボンディングされた状態でスパッタリング装置に設置されて、ターゲットが消耗したときは、装置から取り外されて交換されるものである(乙3、被請求人の主張)。
また、ターゲットは交換されるものであるのに対し、バッキングプレート自体はスパッタリングで消耗するものではないことから、再利用されるものである(乙12,乙13、被請求人の主張)。
そして、ターゲットの取引についてみると、被請求人を含むターゲットを取り扱う者のウェブサイト(乙5?乙8)には、「スパッタリングターゲット」、「スパッタリングターゲット素材」、「薄膜ターゲット」などの見出しで商品の写真が掲載され、商品に関する説明等があるところ、これらからすれば、ターゲットは、バッキングプレートにボンディングされた形態で取引される場合(乙5、乙7、乙8)とターゲット(素材)そのもののみが取引される場合(乙6、乙8)があるといえる。
そこで、被請求人の取引についてみると、被請求人のウェブサイト(乙5)には、「スパッタリングターゲット」の見出しで、「アルバックは、・・・ボンディング設備を備え、万全なターゲット供給体制を敷いています。」、「アルバックのスパッタリングターゲットは、・・・クリーンで高品質なターゲット材料を提供しています。」と記載され、バッキングプレートにボンディングされたターゲットの写真が掲載されていることから、バッキングプレートにボンディングされた形態のターゲットを取引していることがうかがえる。
(イ)請求人の主張について
請求人は、乙第1号証及び乙第2号証の使用は「スパッタリング装置の部品」において使用されたものであると主張し、「バッキングプレートが顧客から支給されたものか否かにかかわらず、顧客に対して納入されるものは、それを組み付けて製造したターゲットアッセンブリの完成品であることは間違いないことから、ターゲットアッセンブリのうちバッキングプレートのみが商取引の対象から除かれるとする被請求人の主張は不自然である。」とも述べている。
しかしながら、(a)納入仕様書には、商品名として「ターゲット」と明記されていること、(b)納入仕様書に表された商品はターゲットとバッキングプレートが一体になったものであるものの、上記(ア)のとおり、ターゲットは、一般にバッキングプレートにボンディングされた形態で取引がされるものであること、さらに、(c)バッキングプレートは再利用されるものであるから、本件のバッキングプレートが顧客からの支給品であることは不自然とはいえず、そうとすれば、顧客の欲するものはターゲットであるといえることから、取引に係る商品はターゲットであるということができる。
したがって、本件商標の使用商品は、「スパッタリング装置用ターゲット」というのが相当である。
ウ 使用商標について
上記イのとおり、乙第2号証の納入仕様書により取引される商品は、実質的にはターゲット、すなわち、「スパッタリング装置用ターゲット」ということができる。
そして、納入仕様書中の「組図1」に示された商標「ULMAT」(以下「使用商標」という。)は、「スパッタリング装置用ターゲット」の商標というべきである。
そうすると、被請求人が提出した「組図1」において表示されている「ULMAT」の文字は、本件商標と同一の綴りからなるものであるから、使用商標は、社会通念上同一のものと認められる。
エ 使用時期について
上記ア(ア)のとおり、乙第2号証の納入仕様書を顧客が受領した年月日は2013年5月21日であるから、これは要証期間内である。
オ 乙第2号証の納入仕様書が商標法第2条第3項第8号にいう商品に関する取引書類に該当することについて
請求人は、納入仕様書は取引書類にあたらない旨主張している。
しかしながら、商標法第2条第3項第8号は、商標の広告的使用を定義したものであるところ、納入仕様書は、会社間において具体的な商品を発注又は受注する際に用いられる確認資料となるものであって、商品を納入するにあたっての仕様を示す書類であり、該納入仕様書に基づいて発注、受注、製造、納品等されるものであるから、会社間における取引書類とみるのが相当である。
そして、納入仕様書は、商品の具体的な内容を示した書類であるとともに、次回取引の際に、発注者が参考にする書類であるといえ、その書類中に表示された商標が、商品の目印となるものといえる。
そうすると、納入仕様書中に表示された商標は、販売者が商品の広告的効果を期待して表示したものとみられるから、乙第2号証の納入仕様書において商標が使用されることは、商品の広告的使用であるというべきである。
カ 小括
以上のことからすると、商標権者は、「スパッタリング装置用ターゲット」に係る納入仕様書において、本件商標と社会通念上同一の商標を使用したといえ、その納入仕様書は本件審判の請求の登録前3年以内に頒布されたといえるから、その使用は、商標法第2条第3項第8号にいう「商品に関する取引書類に標章を付して頒布する行為」に該当するものである。
2 むすび
以上のとおりであるから、被請求人(商標権者)は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において商標権者がその請求に係る指定商品中、「スパッタリング装置用ターゲット」について本件商標(社会通念上同一と認められる商標を含む。)の使用をしていることを証明したといわなければならない。
したがって、本件商標の登録は、その請求に係る指定商品について、商標法第50条の規定により、取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2016-09-01 
結審通知日 2016-09-16 
審決日 2016-11-01 
出願番号 商願2006-59027(T2006-59027) 
審決分類 T 1 32・ 1- Y (Y06)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 斎杉山 和江須田 亮一 
特許庁審判長 大森 健司
特許庁審判官 原田 信彦
土井 敬子
登録日 2006-11-10 
登録番号 商標登録第5002921号(T5002921) 
商標の称呼 ウルマット、アルマット 
代理人 特許業務法人青莪 

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