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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない W36
審判 全部無効 称呼類似 無効としない W36
審判 全部無効 外観類似 無効としない W36
審判 全部無効 商品(役務)の類否 無効としない W36
管理番号 1322401 
審判番号 無効2015-890036 
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-04-22 
確定日 2016-11-14 
事件の表示 上記当事者間の登録第5678559号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5678559号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(A)のとおりの構成からなり、平成25年9月24日に登録出願、第36類「税務相談,税務代理」を指定役務として、同26年5月22日に登録査定され、同年6月20日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第25号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、以下のとおり、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当し、同法第46条第1項第1号により、その登録は無効にすべきである。
(1)請求人が引用する商標
請求人が引用する登録第5447873号商標(以下「引用商標」という。)は、「UK Partners」の文字を明朝体で表してなり(別掲(B)参照)、平成22年9月13日に登録出願、第35類「経営の診断又は経営に関する助言,財務書類の作成又は監査若しくは証明,書類の複製,文書又は磁気テープのファイリング,電子計算機又はこれらに準ずる事務用機器の操作」及び第45類「訴訟事件その他に関する法律事務,著作権の利用に関する契約の代理又は媒介」を指定役務として、同23年11月4日に設定登録されたものであり、その商標権は現に有効に存続しているものである。
(2)本件商標の説明
外観は、欧文字で表記され、その構成は「UK」及び「partners」である。手書きによるもので、具体的な書体名は定まらない。
称呼は、「ユーケーパートナーズ」又は「ユウケイパートナーズ」である。
観念は、創設者2名の頭文字、内山(Uchiyama)氏と樺澤(Kabasawa)氏の1字ずつから合成して「UK」とした造語であり、何らの観念を生じない。通常は「UK」から「United Kingdom」の観念が生ずる。
(3)引用商標の説明
外観は、欧文字で表記され、その構成は「UK」及び「Partners」であり、標準文字を指定している(審決注:引用商標は標準文字による商標ではない。)
称呼は、「ユーケーパートナーズ」又は「ユウケイパートナーズ」である。
観念は、創設者2名の頭文字、牛島(Ushijima)と喜多(Kita)の1字ずつから合成して「UK」としているので造語であり、何らの観念を生じない。
(4)本件商標と引用商標との類否
引用商標は、本件商標の先出願に係るものであって、両商標は、以下のとおり、相類似している。
本件商標と引用商標との構成上の差異は、「P」の表記が大文字か小文字かのみである。本件商標は手書き表記であり、引用商標は標準文字であるため、両者の外観は異なっている。
両商標の称呼は、共に「ユーケーパートナーズ」又は「ユウケイパートナーズ」であり、全く同一である。
両商標は、造語であり、何らの観念を生じないという意味において、両者は観念同一である。
(5)本件商標の指定役務と引用商標の指定役務との類否
役務の類似については、本件商標の指定役務第36類「税務代理、税務相談」と、引用商標の指定役務中第35類「財務書類の作成又は監査若しくは証明」とは、共に税理士法第2条第1項第1号から第3号に規定する税理士のいわゆる独占業務である。
「税務代理」は1号、「税務相談」は3号に、「財務書類の作成又は監査若しくは証明」は2号にそれぞれ該当する。
税理士資格者は1号から3号までを分断されることなく、役務として提供することが許されている。
特に、2号業務は税理士業務の中心業務であることから、事務所名に「会計事務所」と称する税理士事務所が非常に多い。
上述の様な税理士法上の規定から、商品・役務分類では35類と36類に区分されているが、税理士の実務上、税務相談・税務代理そして財務書類の作成等という役務は全て一体として提供されているものである。
35類「財務書類の作成等」と36類「税務相談・税務代理」は、需要者が同一、役務を提供する根拠法規が同一で、類似する役務ということができる。
そのため、税理士が運営する会計事務所という意味合いでは、市場は共通、需要者も共通である。
(6)当事者の争いの経緯
引用商標の商標権者(以下「引用商標権者」という。)と、本件商標の商標権者(以下「本件商標権者」という。)の両事務所の所在地は東京都内であり、ほぼ同じ市場圏での競合といえる。したがって、今後互いに事務所が成長していく過程の中で出所の混同が発生する蓋然性が時間の経過とともに、ますます高まる状況にある。
そのような状況下で、引用商標権者は、本件商標権者に対し、平成25年9月17日付けにて警告通知(甲3)を発出したところ、同年10月9日付けにて回答(甲4)が送付された。すると、本件商標権者は、回答を返信するよりも早く平成25年9月24日に本件商標に加えて、登録第5678558号商標、登録第5678557号商標の3件の出願を行い登録されている。
その後、請求人は、別に保有する商標登録第5447872号に基づき被請求人が使用していた「UKパートナーズ会計事務所」なる屋号につき判定を請求し、平成26年8月12日付けにて「イ号標章は、本件商標に係る商標権の効力の範囲に属するものである」(甲5)との結論を得ている。
この判定を経ても本件商標権者は使用を中断する等の変化は現在に至るまで特にない。そのため引用商標権者は、侵害訴訟を提起し問題の解決を図ろうとしたところ、平成27年3月25日付けにて東京地裁民事29部に本件商標権者により、商標権侵害差止等請求事件(甲6)という反訴が提起された。平成27年4月22日に第1回口頭弁論が予定されているが、同訴状によれば1182万6000円の賠償請求並びに訴訟費用の負担及び仮執行宣言を求めている。
警告を通知されたものが、その後に取得した権利に基づき警告した側に商標の使用の禁止を求める行為は権利の濫用(「極真会館事件」判決(東京地裁平成14年(ワ)第16786号))であると思料する。
2 答弁に対する弁駁
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア 役務の類似性について
(ア)「類似群コード等によって役務の非類似が明白であること」に対して
被請求人は、類似群コードが異なること、及び類似商品・役務審査基準にても類似の関係にないことを根拠とした「類似群コード等によって役務の非類似が明白である」との主張をする。
しかしながら、類似群コードはあくまでも推定に基づくものであり、同コードに基づき非類似と推定したものでも「類似」の場合もある(甲7)。
また、類似群コードは「同じグループに属する商品群又は役務群は、原則として、類似する商品又は役務であると推定」(甲8)されているにすぎず、「先行商標との抵触関係の調査において、ニース国際分類は先行商標の使用に係る商品又はサービスの概要を把握する一助となりますが、抵触関係のサーチキーとして完全に機能するものではありません」(甲9)とある。
すなわち、役務の類否は、類別の違いからは判断できないのである。
したがって、類似群コード等に基づき「役務の非類似が明白」との被請求人の主張は誤りである。
現状、「財務書類の作成又は監査若しくは証明」の類似群コードは、「35C01」であり、「税務相談・税務代理」は「36J01」である。そのため、類似コードからすれば、原則として非類似と判断されることになるが、この類似コードの区分方法が次の理由により誤りである。
すなわち、ニース協定の加盟国について請求人及び被請求人が共に営んでいる「税理士」という資格制度の存在する国あるいは税務を専門とする職業が法律により制度化されている国の数を確認すると、「日本・ドイツ・韓国・中国の4力国と限られて」(甲10)いる状況にあり、ニース協定加盟国「79か国(2006年8月現在)」(甲11)の僅か5.1%に「税理士制度」が存在するにすぎない。そのため、他の大多数の加盟国では、「会計士、弁護士などが税務サービスを行なって」いる(甲10)状況である。そのためニース国際分類は、この大多数の加盟国の制度状況に基づき作成されているため、我が国の税理士が独占的に提供している役務の状況と国際分類が整合しない結果となっている。
このような理由から、ニース協定加盟国の大多数が納得する国際分類は、主として弁護士が行う「税務相談・税務代理」と、主として会計士等が行う「財務書類の作成又は監査若しくは証明」とに分けて国際分類が構築されているために生ずる我が国の状況との不整合が生じている。
因みに、税理士の主要業務である「確定申告書の作成」は、「tax preparation 税務書類の作成 35C01」(甲12)として上記財務書類の作成の中に含めて分類されている。つまり、商標登録出願にあたって、税務書類の作成に関する役務は類似群コードにあるのみで、類別区分にはないため直接指定することはできない。そこで類別表の第35類「財務書類の作成又は監査若しくは証明:類似群コード35C01」を指定することになる。本件の問題は、正にこの点に集約される。
そこで、我が国の「税理士」業務が日本国の法律上どのように規定されているかを確認すると、「税理士法2条第1項」において、税理士の所謂独占三業務は同条同項の第1号が「税務代理(2号の税務書類の作成にとどまるものを除く)」、第2号が「税務書類の作成等」、第3号が「税務相談」である(甲13)。
上記業務について、役務区分及び類似群コードとの対応関係を確認すると、被請求人の登録役務は、第1号「税務代理」及び第3号「税務相談」の2業務が第36類「税務相談、税務代理」・類似群コード「36J01」に区分されている。そして、第2号「税務書類の作成等」が、第35類「財務書類の作成又は監査若しくは証明」・類似群コード「35C01」として区分されている。
すなわち、税務代理及び税務相談並びに税務書類の作成等は、一人の税理士が全て提供できる業務であるにも拘らず、サービス国際分類上は2つに区分され、かつ互いに「非類似」として類似群コード上も扱われている。
そのため、恰も2種類の税理士が我が国の制度上存在しているかの様な外観を呈することになる。その結果、商標及び役務が類似する先願が存在していても、現行審査実務上、登録査定されるという実情に反するため、法的安定性を欠く事態が生じてしまう。ここに 「推定」に基づき作成された「類似群コード」の欠陥がある。
これを是正しなければ、市場において出所の混同を生ぜしめる原因を残したまま審査が今後も継続することになる。
因みに、役務の類否を判断するに際しては、次の基準を総合的に考慮する(甲14)ものとされているので、これを適用し第35類と第36類が類似関係にあるか否かを確認する。
a 提供の手段、目的又は場所が一致するかどうか
b 提供に関連する物品が一致するかどうか
c 需要者の範囲が一致するかどうか
d 業種が同じかどうか
e 当該役務に関する業務や事業者を規制する法律が同じかどうか
f 同一の事業者が提供するものであるかどうか
である。
そこで、この基準を第35類と第36類に適用すると次のようになる。
a 提供の手段、目的又は場所が一致するかどうか
提供の手段は、第35類と第36類共に口頭若しくは書面にて依頼人に対して行う。目的は、第35類と第36類共に個人・法人から依頼された確定申告書等の税務書類の作成或いは税務相談及び税務代理の遂行である。提供の場所は、第35類と第36類共に税理士の事務所あるいは顧客の事務所で行われる。
b 提供に関連する物品が一致するかどうか
提供する物品は、35類が確定申告書等の税務書類であり、36類は税務相談及び税務代理に分かれているが、いずれも税理士が提供する物品で、いずれも税理士の独占業務であり一致する。
c 需要者の範囲が一致するかどうか
35類及び36類共に税理士以外受任することができない業務であるので、需要者の範囲は当然に一致する。
d 業種が同じかどうか
35類及び36類共に税理士以外受けることができない業務であるので、当然に、業種は同じである。請求人及び被請求人共に税理士業務を提供しており、業種は同じサービス業である。
e 当該役務に関する業務や事業者を規制する法律が同じかどうか
35類及び36類共に税理士以外受けることができない業務であり、請求人及び被請求人共に税理士であることから、「税理士法」により規制されている共に同じ業種である。すなわち、規制する法律は同じである。
f 同一の事業者が提供するものであるかどうか
「36J01:税務相談・税務代理」・「35C01:財務書類の作成又は監査若しくは証明」は、共に同一の事業者たる「税理士」が提供する(税理士法2条1項1号?3号)ものである。
上記aからfまで役務の類否について確認したが、第35類及び第36類共に税理士資格に基づいて提供する所謂独占業務(役務)であり、「36J01:税務相談・税務代理」「35C01:財務書類の作成又は監査若しくは証明」の両者は類似役務であることは明らかである。
(イ)「実質的にも本件商標及び引用商標の指定役務は非類似であること」に対して
a 「税理士法の規定に関する請求人の主張には事実誤認がある」に対して
「財務書類の作成又は監査若しくは証明」は、税理士法第2条第1項第2号に該当しないとの主張であるが、「税理士は、・・・税理士の名称を用いて、他人の求めに応じ、税理士業務に付随して、財務書類の作成、会計帳簿の記帳代行その他財務に関する事務を業として行うことができる(税理士法2条2項)」(甲13)と規定されているとおり、独占業務ではないが、付随業務として、税理士の名称を使用して財務書類の作成等を行うことができるので、被請求人の主張は誤りである。
また、「元々、財務書類の作成や会計帳簿の記帳代行という会計業務は本来的に自由業務」(甲13)であり、被請求人の「公認会計士の独占業務であり、税理士が行うことはできない(公認会計士法第2条第1項、同法第47条の2)」との主張は明白な誤認である。
加えて、公認会計士の業務について公認会計士法の条文を確認すると、「第2条 公認会計士は、他人の求めに応じ報酬を得て、財務書類の監査又は証明をすることを業とする。2 公認会計士は、前項に規定する業務のほか、公認会計士の名称を用いて、他人の求めに応じ報酬を得て、財務書類の調製をし、財務に関する調査若しくは立案をし、又は財務に関する相談に応ずることを業とすることができる。ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない。」とあるとおり、あくまでも「財務書類の監査又は証明」が公認会計士の独占業務であるにすぎず、財務書類の作成は公認会計士の独占業務ではない。
また、法定監査して「政党助成法に基づく政党交付金による支出などの報告書の監査」があるが、当該監査は、弁護士あるいは税理士も監査人として監査を実施し、監査報告書を作成できる。ちなみに請求人も総務省の登録政治資金監査人である(甲16)であり、政党等の「財務書類の監査又は証明」を実施できるので、「『財務書類の監査又は証明』が含まれないことは明白」との被請求人の主張も誤りである。
「税理士法上一体ではなく戴然として区別されている」と主張するものの、根拠が記載されておらず、単なる被請求人の個人的見解にすぎないので意味がない。少なくとも税理士法という一つの法律の中で記載されている実施可能な業務である以上一体性がないとはいい難いと考える。
また、「実務上『税務相談、税務代理』及び『財務書類の作成又は監査若しくは証明』が一体として提供されている根拠となるものでもなく」というのは、被請求人があまりにも業務内容を理解していないことによる誤認に基づく主張である。なぜならば、「税務相談、税務代理」は、税務に係る税理士業務、「財務書類の作成又は監査若しくは証明」は、税務書類を作成するための前提として行う付随業務、そして監査は、上述の政党等に係る法定監査業務とそれぞれ業務の性格が異なるので、一体として提供できる場合はない。しかし、それぞれの業務(役務)を提供する主体が税理士であり、2種類、3種類の税理士があって、それぞれの業務を独立した別々の税理士が役務を提供するわけでないので、被請求人の主張は誤りである。
b 「需要者に関する事実誤認」について
「税務相談、税務代理」と「財務書類の作成等」の需要者の同一性と役務の類否は何ら関係がないと述べるが、税理士業務の流れをみれば需要者の同一性は直ちに確認できる。
すなわち、税理士は、税務書類の作成をするに際し、その作成根拠は依頼人(=需要者、納税者)の「財務書類」に基づいている。そして、税務署に提出した確定申告書等の税務書類に関し当局との間で紛争が生じれば、「税理士は納税者に代わって税務官公署に対してする「主張若しくは陳述につき、代理し、又は代行する」(甲13)。
したがって、税理士が、依頼人=需要者=納税者に代り、作成等を行い、主張等を実施するのであり、「税務相談、税務代理」と「財務書類の作成等」の需要者の同一性を確認できる。
次いで、当該同一性の問題と指定役務の類否は何ら関係がないとの主張は、需要者が同一であるが故に、その役務を提供する主体に関し、同一又は類似する商標又は役務を同業者たる税理士が使用すれば、出所の混同が生じ商標本来の機能が発揮でないという重大問題が生ずる。にも拘らず被請求人は「何ら関係がない」との主張は商標制度そのものを否定する主張である。
イ 商標の類似性について
(ア)外観
被請求人の商標の外観は確かに手書き文字のため、両商標の外観は異なる。
(イ)称呼
形式的には同一との主張の意味が不明である。「UKpartners」の実質的呼称も「ユーケーパートナーズ」以外にはない。また、被請求人は、同商標のみで使用したことはないと述べた上で、当該被請求人商標を乙第2号証の1及び乙第3号証の状態で使用しているという。
しかしながら、被請求人は、上記(ア)において、自らの商標の外観を「手書き」であると述べている。改めて乙第2号証の1及び乙第3号証をみると、「UKpartners」の要素が含まれた商標は存在するが、手書き表記による「UKpartners」は含まれていない。
また、称呼に関して主張すべきところで、上記乙号証を示しても何ら意味がない。なぜならば、根拠とした乙第2号証の1及び乙第3号証はアルファベット表記の文字標章と片仮名及び漢字から構成される文字標章と図形の3種の標章から構成されるいわゆる結合商標である。
そのため、この構成から単一の呼称を特定するのは困難である。少なくとも同結合商標の主要部は、図形部分と共に同一彩色が施されている「UKpartners」であり、その中でも「partners」の倍の大きさで表記されている「UK」が主要であると認識できる。
したがって、同結合商標の称呼は、「ユーケー」あるいは「ユーケーパートナーズ」であると認識するのが妥当である。間違っても「ユーケーパートナーズカイケイジムショ」との称呼にはなりえない。以上より、称呼は完全同一である。
(ウ)観念
「partners」とは、「partner」の複数形であり、その意味は「仲間、協力者、共同経営者、組合員、社員、配偶者」(甲17)であり、被請求人が主張する「『partners』という語は広く組織を意味する」は誤りであるため、これを根拠とした続きの主張も誤認を前提としたものである。したがって、「比較的新しい団体のハウスマーク」との認識も困難である。
また、小文字「p」を用いた手法が、日本独特のものとする根拠もないため、小文字「p」を用いていたならば即座に日本の団体と確定する根拠もない。英国・米国・豪州・カナダではないのかもしれないが、香港・シンガポール・インド・マレーシア等の旧植民地国でもないという根拠もない。
公用語として英語を用い別の母国語を有する国々では、英語表記の原理原則以外の表記方法もありえよう。このように被請求人は独断に基づいた想定のみで具体的な根拠の提示のない主張を繰り返しているにすぎない。
以上より、日本の団体とする根拠がない以上、「UK」が直ちに「United Kingdom」と観念されるとの主張も誤りである。
(エ)取引の実情1(会計事務所の比較)について
被請求人は、需要者が会計事務所へ仕事を依頼する基準は、税理士個人の属性又は事務所の属性に基づくとの主張の根拠が示されていないので有効な反論となっていない。被請求人の個人的見解にすぎない。
また、会計事務所を「?先生の所属する?人規模の事務所」と需要者が認識して業務を依頼するとの主張であるが、そのような詳細な情報に基づき依頼すべきか否かの判断をしているとの根拠も示されてもいない。
繰返し業務を依頼するクライアントでもない限り、需要者に先ず「?先生」が不明であり、「?人規模」は更に不明である。長年のお付き合いの結果、自然と認知される事項である。需要者にとり、弁護士や税理士についての知識は基本的に不足しているのが実情である。それ故に、第三者の「紹介」により業務を依頼することが多くなる。
これは、「?先生の所属する?人規模の事務所」と識別して依頼するのではなく、紹介してくれた第三者を信用したのであって、紹介先事務所を初めから信用できると識別したのではない。
被請求人は、会計事務所の選択基準の「属性」として、表により(a)所在、(b)人数、(c)代表者、(d)経歴を比較対象としているが、税理士の能力・税理士の経歴((d)に対応)、第三者からの紹介・報酬・事務所規模((b)に対応)、事務所の所在地((a)に対応)等をあげているにも拘らず、上述の表では、税理士の能力・これらを評価する第三者からの紹介・報酬という、比較要素で他の情報よりも重要と考えられる属性については何も記載がない。自ら必要であると主張した属性中の重要事項を分析せず、「属性が全く異なる」との結論がどのようにして導かれたのか大いに疑問である。
したがって、「出所の混同のおそれは生じない」との結論はあり得ない。
むしろ、小規模事務所で、税理士という同一資格で営業をし、都内に所在する事務所が、「ユーケーパートナーズ」と同一称呼の会計事務所であれば、一般需要者は明らかに同一の事務所あるいは関連のある事務所と誤認する。
仮に、他士業のものが使用したのであればともかく、また「ユーケーパートナーズ」税理士事務所でもない被請求人の名称は不正競争行為とも表現したい程の出所の混同を惹起せしめる行為である。
(オ)取引の実情2(被請求人の使用態様)について
「『UKpartners』という英語のみの表記のみで、本件商標を使用したことはない」と述べ、使用の態様は乙2号証の1であるとの主張であるが、上記のとおり、乙2号証の1は結合商標であり、「UKpartners」の使用態様とは認識できない。
また、図形部分と共通の彩色が施されているのに対し、「UKpartners」に彩色の限定もなく、外観が手書き表記で全く乙2号証の1と異なるので、そもそも取引の実情として被請求人の使用態様を全く述べていない。
むしろ、当該商標につき全く使用していないとの主張は使用する意思がなく、3年以内に不使用取消審判が請求されることを望むための自白かと悩む。
(2)商標法第4条第1項第15号について
ア 「請求人による主張には具体的理由が記されていない」に対して
商標法第4条第1項第15号は「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く。)(改正、平三法律六五)」と規定するのみであり、被請求人が引用する最高裁判決、いわゆるレール・デュタン事件の趣旨をもってして、請求人の主張への反論としては筋が異なるのは明らかである。
特許庁の所謂青本の解説によれば「一五号は、旧法2条1項11号の一部に相当する規定であり、一〇号から一四号までの規定に関する総括条項である。なお、旧法2条1項11号を本号と一六号との二つに分けたのは、旧法は不登録事由のうち混同防止の規定、すなわち、旧法2条1項8号、九号、一〇号、一二号について除斥期間があるにもかかわらず、その総括条項の一一号のうちの『混同』についてはなかったので、このアンバランスを修正するために旧法2条1項11号を二つに分け『混同』について除斥期間の規定を適用することとしたことに基づく。」と述べているにすぎない。
被請求人の主張するような「法4条1項15号は、周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリューション)を防止し、商標の自他識別機能を保護することによって、商標を保護することを目的とするもの」と著名表示に係るただ乗り及び希釈化を直接規定するものではない。なぜならば、商標法第4条第1項第8号では著名性、同項第10号では周知商標に関する規定があり、同項第15号が同項第11号から第14号までの総括規定であるが故に、同項各号の何れかについて検討する際には、出所混同という商標の究極の機能に関する問題として、併せて同項第15号が根拠規定に含まれるものである。
したがって、被請求人の主張する如き著名表示に係るただ乗り及び希釈化について同項第15号は直接規定するものではなくあくまでも総括規定であり、被請求人が引用した最高裁判決は、「混同」の範囲について「いわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ」があるとのいわゆる「広義の混同」について判断したことに同判決は意味があるのであって、「そもそも商標法4条1項15号は、・・・請求人が引用商標を用いて提供する役務が、周知表示又は著名表示であることが前提となる。」の主張をもって請求人に対しての批判は、本件審判とは縁がない。
これまで、請求人は自らの登録商標が著名であるとか、周知商標であるとの主張は一切しておらず、そこにただ乗り論や希釈化論をもって、反論がなされても単なる被請求人の誤認に基づくものであるので、議論にならないと思料する。
イ 「判例における考慮要素の検討」に対して
引き続き、被請求人はレール・デュタン事件に基づき主張をされているが、著名性・周知性は本審判の検討課題ではなく、上述のとおり総括規定としての商標法第4条第1項第15号と同項第11号に基づき無効審判を請求しているので、論点が異なる。
被告が主張する指定役務非類似なる主張は上述の理由で否認する。また、指定役務の市場が異なり全く関連するものではないとの主張も否認する。
なぜならば、請求人及び被請求人は、共に税理士業務を役務として提供している。税理士の独占業務は、上述のごとく(甲13)規定されているので、それ以外の業務を積極的に展開するのであれば、税理士業として行う必要性はない。
業務の独占性が欲しいがため国家資格を獲得するのである。すなわち、税理士業を営む以上、「市場が異なり全く関連するものではない」との主張を正当ならしめる理由としては、例えば四大事務所と称されるようなEY(アーンストヤング)税理士法人・税理士法人トーマツ(DTT)・KPMG税理士法人(KPMG)・税理士法人プライスウォーターハウスクーパース(PwC)といった巨大事務所と小規模零細事務所を比較した際に可能な主張であって、従業員10名未満の弱小事務所同士が提供する税理士業務で市場が異なるとの主張はあり得ない。
(3)その余の被請求人の主張に対して
ア 「訴訟に関する事実の説明」に対して
被請求人が「B事件は、当初反訴として提起したものであるが、A事件の喜多三枝子の脱退により、反訴要件の充足性に裁判所が疑義を呈したため、裁判所の指示のもと、別訴扱いとして訂正したものである」旨述べているが、反訴状提出日は平成27年3月16日付け(甲20)でなされている。その後同年3月25日付けにて、別訴としての訴状が訂正申立書と共に裁判所に提出されている。この別訴においても、被請求人は牛島正晴と喜多三枝子を共同被告としている。
そこで、A事件の喜多三枝子の脱退の時期であるが、平成26年10月31日付けにて選定当事者届(甲21)及び選定書(甲22)を請求人他は裁判所に提出済みである。すなわち、反訴状の提出日より4月程前に脱退は被請求人も了知済みであることからすると、被告が主張するような「脱退により、反訴要件の充足性に裁判所が疑義」という事態であれば、少なくとも、反訴状提出日の近辺にて脱退がなされたのであれば、納得性があるが、脱退から4月間もの時間が経過した後に、これが原因で別訴扱いとして訂正したとの説明には疑問が残る。また、反訴の4つの要件は(a)事実審の口頭弁論終結前、(b)本訴との関連性、(c)著しく訴訟手続が遅滞しないこと、(d)一般的な併合要件を満たすこと(民訴法146条)であり、脱退が関連する様な要件が見当たらない。
反訴状によれば、反訴被告として牛島正晴(本審判請求人)と喜多三枝子を指名している(甲20)。そして、「この損害は、反訴被告らが共同で会計事務所を運営することから生じたものであり、共同不法行為(民法719条1項前段)となる。したがって、本件反訴における反訴被告らの損害賠償は連帯する」(甲20)と述べている。
しかしながら、反訴被告の指定を被請求人は誤り、税理士でもなく、共同経営者でもない喜多三枝子を反訴被告とした上で、上述のとおり共同不法行為として損害賠償を求めたものである。しかし、共同事務所ではないので、共同不法行為(民法719条1項前段)とするのは不適切であった。
当該反訴が提起されたので、請求人は平成27年4月15日付け答弁書において「選定者喜多三枝子は、不動産鑑定士であり、喜多不動産鑑定事務所の代表であるが、優慶パートナーズ会計事務の共同代表ではない。同会計事務所の従業員でもなく、同事務所の顧問である。選定者喜多三枝子人は、優慶パートナーズ有限責任事業組合の代表パートナーを牛島正晴と共に務める。本訴訟は、優慶パートナーズ会計事務所の代表者に対するものなので、喜多三枝子は被告として不適格である。被告からの脱退を求める。」(甲23)との経緯である。また、B事件について、喜多三枝子の脱退のため選定書(甲24)及び選定当事者届出書(甲25)を平成27年4月15日付けにて裁判所に提出している。
以上の様な経緯であり、被請求人が「請求人の審判請求書記載の事実には不正確な点を含んでいるので、以下訂正する」とあるが、別訴扱いにした背景に別の理由が存在するのではとの印象を持つ。
イ 「判定請求について」に対して
(ア)「本件とは全く関係がない」との主張であるが、判定は確かに請求人他が保有する商標登録第5447872号「優慶パートナーズ」(イ号標章は「UKパートナーズ会計事務所」)に基づいて請求したものであり、根拠となる権利は異なる。
しかしながら、同判定「(3)本件商標とイ号標章の類否について」(甲5)において「両者は、外観において、全体としては相違するが、本件商標及びイ号標章は、いずれもその構成中に『パートナーズ』の片仮名を有しているから、一定程度の類似性を有するといえるものである。また、本件商標とイ号標章は、『ユーケーパートナーズ』の称呼を共通にしており、しかも、両者共に特定の観念を生じないものであるから、観念上も両者を区別することはできない」とあり、本審判においても参考となる情報が多く含まれている。本審判での対象となる登録商標は確かに異なるが、その構成をみると「UK Partners」と手書き表記での「UKpartners」であり、いずれもその構成中に「Partners」又は「partners」のアルファベットを有しているから、一定程度の類似性を有するといえる。また「ユーケーパートナーズ」の称呼を共通にしており、しかも、両者共に特定の観念を生じないものであるから、観念上も両者を区別することはできないと評価でき、被請求人の主張するような「本件とは全く関係がない」との主張は成り立たない。
(イ)「同判定は、被請求人の十分な反論なくなされたものであり、事実を含め、多くの誤りを含むものである。」と主張するが、判定の請求人は被請求人の反論を封じるような手段を講じたことはないし、現実にそのような事は不可能である。また、どの程度をもって十分な反論とするかは個人の主観の問題であるし、また多くの誤りを含むとするのも被請求人の主観に関わっていると考える。また、判定を軽視したのも被請求人自身の問題にすぎない。
ウ 「権利濫用の主張について」に対して
無効となるべき権利に基づいて、当該権利が侵害している相手方の権利の使用を差止めるような行為は権利の濫用となるか否かは、本件審判の審決如何であるとともに、被請求人のいうA事件でも明らかになると思料する。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第10号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 商標法第4条第1項第11号について
(1)役務の類似性について
ア 類似群コード等によって役務の非類似が明白であること
本件商標の指定役務の類似群コードは「36J01」である一方、引用商標の指定役務の類似群コードは、「35B01、35C01、35G02、35G03、35G04」及び「42R01、42R02」であり、類似群コードが異なる(甲1,甲2)。また、類似商品・役務審査基準によっても、本件商標と引用商標は、類似の関係にはない(乙1)。したがって、本件商標の指定役務と引用商標の指定役務が非類似であることは明白である。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものではない。
イ 実質的にも本件商標及び引用商標の指定役務は非類似であること
(ア)はじめに
請求人は、引用商標の指定役務である「財務書類の作成又は監査若しくは証明」が、本件商標の指定役務である「税務相談・税務代理」に類似すると主張しているが、両者は実質的にも全く異なる役務であり、請求人の主張は誤りである。
(イ)税理士法の規定に関する請求人の主張には事実誤認がある
「財務書類の作成又は監査若しくは証明」は、税理士法第2条第1項第2号に該当しない。同号が定める業務は、「税務書類の作成」であり、同号に「財務書類の作成又は監査若しくは証明」は含まれない。また、財務書類の監査又は証明は、公認会計士の独占業務であり、税理士が行うことはできない(公認会計士法第2条第1項,同法第47の2)。したがって、税理士法第2条第1項第2号が定める業務に、「財務書類の作成又は監査若しくは証明」が含まれないことは明白である。
また、仮に、請求人の主張に従ったとしても、これら税理士法第2条第1項各号の文言が、実務上「税務相談、税務代理」及び「財務書類の作成又は監査若しくは証明」が一体として提供されていることの根拠となるものでもなく、むしろ、税理士法上は、一体ではなく截然として区別されているものである。
さらに、実際にも、実務上、一般的に、「税務相談・税務代理」及び「財務書類の作成又は監査若しくは証明」は一体として提供されているものではない。
したがって、税理士法の規定に関する請求人の主張には事実誤認があり、本件商標及び引用商標の指定役務は非類似である。
(ウ)需要者に関する請求人の主張には事実誤認があること
請求人が主張する、「財務書類の作成等」及び「税務相談、税務代理」の需要者の同一性と、本件商標及び引用商標の指定役務の類否は、何ら関係がないものである。
また、「税務相談、税務代理」を提供するのは税理士事務所である一方、「財務書類の作成」等の業務を提供するのは公認会計士ないし監査法人であり、その需要者は全く異なる。加えて、請求人がいう「会計事務所」とは、法的根拠がある名称ではなく、税理士事務所の屋号として慣用的に用いられるものであり、その内実は、税理士事務所である。したがって、「会計事務所」という名称が付されているからといって、税理士事務所が「財務書類の作成」等の業務を行っていることを意味するものではない。特に、一般的にイメージされる、財務書類の監査等の「会計」に関する業務は、公認会計士又は監査法人でなければ行うことができず(公認会計士法第2条第1項,同法第47の2)、会計事務所(税理士事務所)の職域ではない。そのため、「財務書類の作成等」及び「税務相談、税務代理」の需要者は異なるものである。
したがって、需要者に関する請求人の主張には事実誤認があり、本件商標及び引用商標の指定役務は非類似である。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものではない。
なお、請求人は、「会計事務所」を名乗る税理士事務所が「非常に多い」などと主張しているが、根拠はなく「税理士事務所」を名乗る事務所も数多く見られるところである。
(2)商標の類似性について
ア 外観
本件商標の外観は、手書きである一方、引用商標の外観は、パソコン等で用いられるいわゆる明朝体であり、外観が一見して異なることが明白である。また、本件商標は「p」が小文字である一方、引用商標は「P」が大文字であるため、その外観は非類似である。
なお、引用商標は標準文字として商標登録されたものではない(甲2)。
イ 称呼
本件商標及び引用商標の称呼は、形式的には、いずれも、「ユーケーパートナーズ」となり、同一である。しかし、被請求人は、「UKpartners」との英語表記をする際は、常に他の図形、文字(UKパートナーズ会計事務所)と一体の標章(以下「被請求人使用標章」という。)として使用しており(乙2の1,乙3)、「UKpartners」という英語のみの表記で本件商標を使用したことはない。したがって、取引の実情を踏まえれば、本件商標は、常に、「ユーケーパートナーズカイケイジムショ」との称呼が生じており、引用商標とは称呼が非類似である。
ウ 観念
まず、本件商標のうち、「partners」という語は広く組織を意味するため、本件商標は、何らかの団体のハウスマークであることが分かる。また、通常、古くから存在する団体の名称等は活字を使うが、本件商標は、手書きで記載されているため、本件商標からは、比較的新しい団体のハウスマークであることが分かる。さらに、本件商標は、「p」が小文字であり、それ以前の「UK」を強調しているが、このような手法は、英語圏では用いられず、日本独特のものである。すなわち、英語圏では、通常、「PARTNERS」のように全て大文字となるか、少なくとも「Partners」のように先頭の「P」が大文字となる(乙4の1?10)。そうすると、本団体は、外国の団体ではなく、日本の団体であることが分かる。同時に、日本の団体であれば、「UK」が、「UnitedKingdom」の略称ではないことも容易に想像がつく。ここで、団体名の先頭に、大文字のアルファベットが複数付加される場合は、団体運営者氏名の頭文字であることが通常であることを考慮すれば、「UK」とは、Uという頭文字の人物とKという頭文字の人物を意味するものであることが分かる。
以上を総合すれば、本件商標は、Uという頭文字の人物とKという頭文字の人物が運営者(パートナー)を務める組織であり、比較的新しい、日本の組織、という観念を生ぜしめるものである。
他方、引用商標は、文字自体も飾り気がなく古風なものとなっていることから、UKはUnitedKingdomを連想させ、「Partners」は、広く組織を意味するため、イギリス等、海外の組織体であるという観念を生ぜしめるものである。
したがって、本件商標と引用商標の観念は非類似である。
エ 取引の実情1(会計事務所の比較)
そもそも、取引実情を踏まえると、本件商標と引用商標に関しては、出所の誤認混同のおそれは生じ得ない。なぜならば、本件商標の指定役務である「税務相談、税務代理」を業とする税理士事務所及び会計事務所(上記(1)イ(ウ)のとおり、税理士事務所の屋号として一般に用いられている名称である。)においては、需要者は、事務所名ではなく、税理士個人又は事務所の属性(事務所の所在地、規模、報酬額等)を基に仕事を依頼するものであり、これらが異なれば、事務所として、まったく別個のものであると認識するためである。
より具体的に言えば、需要者が会計事務所を選ぶ(信頼する)基準として考えられるのは、例えば、税理士の能力、税理士の経歴、これらを評価する第三者からの紹介、報酬、事務所規模、事務所の所在地等などがある(乙5の1、2)。これらは、結局のところ、税理士又は事務所の属性である。したがって、これらが異なれば、需要者は、事務所としては全く別物として認識し、出所の誤認混同ということ自体起こりえない。
本件においても、特に、請求人が代表を務める会計事務所及び被請求人が代表を務める会計事務所の規模は、いずれも、構成員が数名程度であり、一般的需要者は、事務所名ではなく、税理士個人又は事務所の属性を基に仕事を依頼する。また、両事務所を比較すると、税理士及び事務所の属性が全く異なる(乙6、乙2の2)。
したがって、そもそも、本件商標及び引用商標との間で、出所の誤認混同のおそれは生じ得ない。
オ 取引の実情2(被請求人の使用態様)
前記イのとおり、被請求人は、「UKpartners」との英語表記をする際は、常に被請求人使用標章として使用しており、「UKpartners」という英語のみの表記で本件商標を使用したことはない。そうすると、需要者は、本件商標を、他の図形、文字と一体のものとして認識するため、取引の実情を踏まえれば、本件商標と引用商標が全く異なるものであることは明らかである。したがって、本件商標及び引用商標との間で、出所の誤認混同のおそれはそもそも生じ得ない。
カ 小括
以上より、本件商標と引用商標は、外観、称呼及び観念が異なり、その商標は非類似である。また、取引の実情を参酌しても、両商標が非類似であることは明らかある。よって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものではない。
2 商標法第4条第1項第15号について
(1)請求人による主張には具体的理由が記載されていないこと
請求人は、何ら具体的な根拠を示した主張をしていない。したがって、詳細を検討するまでもなく、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。
(2)引用商標は周知表示又は著名表示ではないこと
そもそも、商標法第4条第1項第15号は、周知表示又は著名表示へのただ乗り及び当該表示の希釈化を防止し、商標の自他識別機能を保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護することを目的とするものであり(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決(レールデュタン事件))、請求人が引用商標を用いて提供する役務が、周知表示又は著名表示であることが前提となる。
しかし、本件では、(a)請求人がどのような役務を提供しているか否か自体不明であり、(b)上記1(2)エのとおり、請求人が引用商標を使用して運営する会計事務所も、ウェブサイト上で自身がファミリーオフィスとして紹介する小規模なものであり(乙6の1。なお、現在、同ウェブサイトは閉鎖されている。)、(c)同ウェブサイト自体、以前は、同一アドレスにおいて別内容のウェブサイトとして公開されていたものであるため、需要者が混乱を来し、引用商標に対する顧客吸引力の蓄積は、殆ど存在しないと思われ(乙7)、(d)さらには、請求人自身、後記3(1)記載のA事件における準備書面において、引用商標が周知又は著名でないことを認めている(乙8)のであるから、引用商標は、到底周知表示又は著名表示とはいえない。
したがって、本件商標が、商標法第4条第1項第15号に該当しないことは、一見して明らかである。
(3)判例における考慮要素の検討
商標法第4条第1項第15号にいう「混同を生ずるおそれ」は、「(ア)当該商標と他人の表示との類似性の程度、(イ)他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、(ウ)当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、(エ)用途又は目的における関連性の程度並びに(オ)商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断される」とされている(前掲・最高裁判決(平成10年(行ヒ)第85号))。
これを本件についてみると、(ア)上記1(2)のとおり、本件商標と引用商標は非類似であり、(イ)上記(2)のとおり、引用商標は、周知表示又は著名表示ではなく、(ウ)上記1(1)のとおり、本件商標及び引用商標の指定役務は非類似であり、(エ)(オ)上記1(2)エのとおり、本件商標及び引用商標の指定役務は、市場が異なり全く関連するものではない。したがって、需要者において普通に払われる注意力を基準としても、本件商標について、請求人が提供する役務と「混同を生ずるおそれ」は存在しない。
よって、本件商標が、商標法第4条第1項第15号に該当しないことは、明らかである。
(4)被請求人による先使用
さらに、そもそも、被請求人が「UKpartners」及び「UKパートナーズ会計事務所」の名称の使用を開始したのは、引用商標の出願日以前であり、被請求人によるフリーライド等は考えられない(乙9)。特に、被請求人が、平成22年4月1日の段階で被請求人使用標章を使用していたことは明らかである(乙9の3、乙2の1)。
よって、本件商標が、商標法第4条第1項第15号に該当しないことは、明らかである。
3 その余の請求人の主張について
請求人は、本件とは何ら関係ない主張を多々しており、本来的には反論不要であるが、事実に反する記載もあるため、念のため、以下のとおり反論ないし説明する。
(1)訴訟に関する事実の説明
本件商標及び引用商標に関する訴訟について、請求人の審判請求書記載の事実には不正確な点を含んでいるので、以下、訂正する。
現在、請求人と被請求人の間には、以下の2件の訴訟が係属しており、両事件は併合されている。
(A事件)東京地方裁判所 平成26年(ワ)第28941号
(B事件)東京地方裁判所 平成27年(ワ)第7101号
このうち、A事件においては、請求人が、被請求人に対し、請求人保有の引用商標を含む2件の商標権を、被請求人が侵害したことを理由に、商標の使用差止及び損害賠償を請求している。また、B事件においては、被請求人が、請求人に対し、被請求人保有の本件商標を含む3件の商標権を、請求人が侵害したことを理由に、商標の使用差止及び損害賠償を請求している。
なお、B事件は、当初反訴として提起したものであるが、A事件の原告の脱退により、反訴要件の充足性に裁判所が疑義を示したため、裁判所の指示のもと、別訴扱いとして訂正したものである(甲6)。
また、請求人は、B事件の賠償請求額を1182万6000円と主張するがこれは訴額の金額であり、賠償請求額は534万6000円である(甲6)。
なお、甲第6号証は、全体的に、下3分の1程度が切れてしまっており、不正確なものであるため、同一の訂正申立書を証拠提出する(乙10)。
(2)判定請求について
請求人が言及する判定は、被告が使用している標章と本件商標とは異なる登録商標に係る商標権の類否を判断したものであり、本件とは全く関係がない。
また、同判定は、被請求人の十分な反論なくなされたものであり、事実を含め、多くの誤りを含むものである。詳細については、現在、上記A事件において係争中である。
(3)権利濫用の主張について
請求人は、B事件における請求人の請求を権利濫用である旨主張しているが、このような主張は本件とは何ら関係ないばかりでなく、判例の理解を誤ったものであり、主張自体失当である。
請求人が引用する判決は、「警告を通知されたものが、その後に取得した権利に基づき警告した側に商標の使用の禁止を求める行為は権利濫用」などと判示した判決ではない。本件と同判決の前提事実は全く異なり、同判決の射程は本件には及ばないものである。
したがって、B事件における被請求人の請求は、何ら権利濫用となるものではない。
4 結論
以上のとおり、請求人の主張は、その理由がないものであり、もとより採用される余地のないものである。

第4 当審の判断
1 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標と引用商標の類否
ア 本件商標
本件商標は、別掲(A)のとおり、「UKpartners」の文字を手書きのような態様で表してなるものであり、該文字に相応し「ユーケーパートナーズ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものとみるのが自然である。
イ 引用商標
引用商標は、別掲(B)のとおり、「UK Partners」の文字を明朝体で表してなるものであり、該文字に相応し「ユーケーパートナーズ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものとみるのが自然である。
ウ 本件商標と引用商標の類否
本件商標と引用商標を比較すると、両者は外観において、文字の書体、中間部におけるスペースの有無、及び「p」と「P」の小文字と大文字の差異を有するものの、全ての構成文字の綴りを共通にするものであるから、相紛らわしいものと判断するのが相当である。
次に、称呼についてみると、両者は「ユーケーパートナーズ」の称呼を共通にするものである。
また、観念において、両者はいずれも特定の観念を生じないものであるから、明瞭に区別することはできないものである。
そうすると、本件商標と引用商標は、外観において相紛らわしく、称呼を共通にするものであって、観念において明瞭に区別し得るものではないから、両者の外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は相紛れるおそれのある類似の商標と判断するのが相当である。
(2)本件商標の指定役務と引用商標の指定役務の類否
請求人は、本件商標の指定役務「税務相談,税務代理」と引用商標の指定役務中「財務書類の作成又は監査若しくは証明」とが類似する旨主張しているので、まず、この点について検討する。
ア 本件商標の指定役務
本件商標の指定役務である「税務相談」及び「税務代理」は、税理士法第2条第1項第1号及び同第3号でそれぞれ定義された税理士の業務である。そして、税理士法第52条は「税理士又は税理士法人でない者は、・・・税理士業務を行つてはならない。」と規定している。
そうすると、「税務相談」及び「税務代理」は、原則として税理士又は税理士法人が行う役務ということができる。
イ 引用商標の指定役務
引用商標の指定役務中「財務書類の作成又は監査若しくは証明」については、公認会計士法第2条第1項で「公認会計士は・・・財務書類の監査又は証明をすることを業とする。」、同第2項で「公認会計士は、・・・財務書類の調整をし、財務に関する調査若しくは立案をし、・・・することを業とすることができる。」と規定され、さらに、同法第47条の2で「公認会計士又は監査法人でない者は、・・・第2条第1項に規定する業務を営んではならない。」と規定されていることから、「財務書類の監査若しくは証明」はもちろん、「財務書類の作成」も主として公認会計士又は監査法人が行う役務といって差し支えない。
ウ 両商標の役務の類否
上記ア及びイのとおり、本件商標の指定役務「税務相談,税務代理」は主として税理士又は税理士法人が、また、引用商標の指定役務中「財務書類の作成又は監査若しくは証明」は主として公認会計士又は監査法人が行う役務であり、両役務は提供する事業者及び規制する法律が異なるものである。
また、両役務は、一般にそれぞれの事業所(事務所)において提供することから、提供場所を異にするものであり、さらに提供する役務が税務に係る役務と財務に係る役務と異なることから、需要者も異なるものといえる。
してみれば、両役務は非類似の役務と判断するのが相当である。
さらに、本件商標の指定役務と引用商標の指定役務のいずれかが類似するというべき事情は見いだせない。
(3)小括
以上のとおり、本件商標と引用商標は類似する商標ではあるが、両商標の指定役務が非類似の役務であるから、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当するものといえない。
2 商標法第4条第1項第15号該当性について
本件商標が本号に該当する旨の請求人の主張は、その具体的理由が明確に表されてはいないが、以下、本号に関する次の判決に沿って検討する。
本号における「混同を生ずるおそれ」の有無は、(ア)当該商標と他人の表示との類似性の程度、(イ)他人の表示の周知著名性及び独創性の程度、(ウ)当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度、(エ)並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、(オ)当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである(前掲・最高裁判決(平成10年(行ヒ)第85号))。
(1)本件商標と引用商標との類似性の程度
上記1(1)ウのとおり本件商標と引用商標は類似する商標である。そして、両商標は、外観において文字の書体等に差異を有するものの全ての構成文字の綴りを共通にし、称呼も共通にするものであり、観念において区別し得ないものであるから、その類似の程度は比較的高いものといえる。
(2)引用商標の周知著名性及び独創性の程度
引用商標が周知著名のものと認め得る証拠はなく、また、その構成文字は欧文字2字と親しまれた英語の組み合わせからなるものであるから、引用商標は周知著名なものとは認められず、また、独創性は高いものといえない。
(3)両商標の指定役務の性質、用途又は目的における関連性の程度
上記1(2)ウのとおり、本件商標の指定役務は主として税理士又は税理士法人が、引用商標の指定役務中「財務書類の作成又は監査若しくは証明」は主として公認会計士又は監査法人が行う役務であるなど、両役務の関連性の程度は高いものといえない。
(4)両商標の指定役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情
上記1(2)ウのとおり、両商標の取引者及び需要者は異なるものである。
(5)小括
上記(1)ないし(4)を総合的に考慮し、本件商標の指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として判断すれば、本件商標と引用商標は(商標において)類似するものの、引用商標の周知著名性は認められず、両商標の指定役務の関連性は高いものとはいえず、さらに取引者及び需要者も異なるものであるから、本件商標は、商標権者がこれをその指定役務について使用しても、取引者、需要者をして引用商標を連想又は想起させることはなく、その役務が請求人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その役務の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものといえない。
3 請求人の主張について
(1)請求人は、「財務書類の作成又は監査若しくは証明」が税理士法第2条第1項第2号に該当し、「税務相談、税務代理」と一体として提供され、需要者や根拠法規が同一であるから両者は類似する役務である旨主張している。
しかしながら、税理士法第2条第1項第2号は「財務書類の作成又は監査若しくは証明」についての規定ではなく、「税務書類の作成」についての規定であるから、請求人の主張はその前提において誤りであり採用できない。
(2)また、請求人は、警告通知、判定及び侵害訴訟などについて述べ証拠を提出しているが(甲3?甲6)、いずれも商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に係る上記判断を左右するものとは認められない。
4 まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号のいずれにも違反して登録されたものとはいえないから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効とすべきでない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
(A)本件商標

(B)引用商標


審理終結日 2016-08-09 
結審通知日 2016-08-12 
審決日 2016-10-03 
出願番号 商願2013-77775(T2013-77775) 
審決分類 T 1 11・ 264- Y (W36)
T 1 11・ 262- Y (W36)
T 1 11・ 261- Y (W36)
T 1 11・ 271- Y (W36)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 矢澤 一幸 
特許庁審判長 今田 三男
特許庁審判官 酒井 福造
田中 幸一
登録日 2014-06-20 
登録番号 商標登録第5678559号(T5678559) 
商標の称呼 ユウケイパートナーズ、ユウケイ、パートナーズ 
代理人 萩原 勇 
代理人 飛田 博 
代理人 江嵜 宗利 

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