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審決分類 審判 全部無効 外観類似 無効としない W3233
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない W3233
審判 全部無効 観念類似 無効としない W3233
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない W3233
審判 全部無効 称呼類似 無効としない W3233
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない W3233
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない W3233
管理番号 1321398 
審判番号 無効2014-890063 
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-09-24 
確定日 2016-11-04 
事件の表示 上記当事者間の登録第5673730号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5673730号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、平成25年12月17日に登録出願、第32類及び第33類に属する商標登録原簿に記載の商品を指定商品として、同26年5月1日に登録査定され、同年5月30日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を審判請求書及び上申書において、要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第173号証(枝番を含む。)を提出した。
1 審判請求書における主張
(1)無効とされるべき理由
本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同項第10号、同項第15号、同項第19号及び同項第7号に該当するものであるから、商標法第46条第1項第1号に基づき、その登録は無効とされるべきである。
(2)具体的な理由
ア 請求人が引用する登録商標
請求人が引用する登録商標は次のとおり(以下、それらをまとめて「引用商標」という。)であり、いずれの商標権も現に有効に存続しているものである。
(ア)国際登録第752695号商標(以下「引用商標1」という。)
商標の態様 別掲2のとおり
指定商品及び指定役務 第32類及び第42類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載の商品及び役務
国際商標登録出願日 2000年(平成12年)8月25日
優先権主張 ドイツ連邦共和国 2000年4月12日
設定登録日 平成13年11月9日
(イ)登録第2104814号商標(以下「引用商標2」という。)
商標の態様 別掲3のとおり
指定商品 第32類及び第33類に属する商標登録原簿に記載の商品
出願日 昭和53年2月22日
設定登録日 平成1年1月23日
イ 請求人が使用する商標
請求人がビール系飲料に使用するとする商標は、別掲4及び別掲5のとおり(以下、前者を「使用商標1」、後者を「使用商標2」といい、両者をまとめて「使用商標」という。)である。
ウ 商標法第4条第1項第11号について
(ア)本件商標と引用商標との外観上の類似性
本件商標は、「舌を突出し、尻尾を上げて左向きに起立する一匹の獅子(ライオン)」を基本的な構成とする図形商標である。
一方、引用商標1及び2は、「舌を突出し、尻尾を上げて左向きに起立する一匹の獅子(ライオン)」を基本的な構成及び主要な構成要素とする商標である。
(以下、「舌を突出し、尻尾を上げて左向きに起立する一匹の獅子(ライオン)」を「基本的構成の獅子の図」という。)
本件商標及び引用商標の基本的な図形部分を比較すると、些細な差異はあるものの、両者は、基本的構成の獅子の図という基本的な構成の軌を一にするものである。したがって、時と所を異にしてみた場合、上記差異は微差として印象が薄れ、あるいは捨象されて、基本的な構成により受ける印象が同じものとなる。
さらに、後記エ(ア)で述べるとおり、引用商標の図形部分の基本的構成の獅子の図は、日本及び世界で広く認識されている。そうすると、本件商標と引用商標とは、それぞれを時と所を異にして離隔的に観察した場合には、需要者をしてより一層相紛れるおそれのある商標といえる。
したがって、本件商標と引用商標とは、外観において類似する。
(イ)本件商標と引用商標との観念上の類似性
本件商標と引用商標は、いずれもその構成より「舌を突出し、尻尾を上げて左向きに起立する一匹の獅子(ライオン)」という観念が生じる。
したがって、本件商標と引用商標とは、観念上も類似する商標である。
(ウ)本件商標と引用商標との称呼上の類似性
仮に本件商標から称呼が生じるとすれば、その構成から「獅子」又は「ライオン」の称呼が生じ得る。
一方、引用商標も、その主要な構成要素である図形部分から「獅子」又は「ライオン」の称呼が生じ得る。
したがって、本件商標と引用商標は、「獅子」又は「ライオン」の称呼を共通にする称呼上類似する商標ともいい得る。
(エ)小括
上記のとおり、本件商標と引用商標とは外観・観念・称呼において同一又は類似する。
(オ) 審決例
a 本件商標と引用商標とが類似するとの主張は、以下の審決例からも裏付けられる。
・昭和60年審判第11296号(甲7)
・不服2002-7389(甲8)
・異議2003-90263(甲9)
・異議2005-90524(甲10)
b 上記aの審決例は、図形商標の類否判断を行う場合、取引者、需要者の印象に残る基本的な構成の軌を一にするか否かが判断基準となることを示している。さらに、判断方法として、時と所を異にして商標同士を離隔的に観察して類否判断を行うことを判示している。
上記基準を、本件商標及び引用商標との類否判断に当てはめると、上述のとおり、両商標が基本的な構成の軌を一にすること、時と所を異にして両商標を離隔的に観察した場合は、引用商標の著名性とも相まって、両商標が彼此相紛れることは明らかである。
よって、上記審決例で判示された類否判断の基準をもってしても、本件商標と引用商標とが類似することは明らかである。
(カ)本件商標の指定商品と引用商標の指定商品との同一・類似性
本件商標の指定商品「ビール,ビール風味の麦芽発泡酒,清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース,乳清飲料,洋酒,果実酒,酎ハイ,麦芽及び麦を使用しないビール風味のアルコール飲料」は、引用商標の指定商品「ビール,洋酒,果実酒」等と同一又は類似の関係にある。
したがって、本件商標と引用商標とは、指定商品において同一又は類似の関係にある。
(キ)まとめ
以上のとおり、本件商標は、当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る請求人の引用商標に類似する商標であって、引用商標に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品について使用をするものである。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当する。
エ 商標法第4条第1項第10号について
(ア)使用商標が広く認識されていること
a 使用商標が世界で広く認識されていること
(a)請求人の歴史及び請求人が製造するビール「レーベンブロイ」(以下「請求人商品」という場合がある。)が世界で広く認識されていること
請求人は1383年創業の歴史のある醸造所であって、請求人の製造するビール「レーベンブロイ」は世界で広く認識されている有名なビールである。なお、提出する資料の中には「レーヴェンブロイ」及び「レーベンブロイ」の二つの表現が現れるが、両表現は欧文字「Lowenbrau」(審決注:「o」と「a」の文字にはウムラウト記号が付されている。)の音訳の違いにすぎず、これらが示すものは同じものである。
あ 書籍・ガイドブックでの紹介
請求人及び請求人商品は、日本の書籍及びガイドブックでも広く紹介されている(甲11?甲16)。
い 世界のビールコンテストでの受賞履歴
請求人商品は、以下のように、権威のあるビールの国際コンペティションで複数回の入賞を果たしている。
・WORLD BEER CUP(甲17?甲19)
・THE INTERNATIONAL BREWING AWARDS(甲17、甲20?甲22)
う 小括
上記あ、及びい、から明らかなように、請求人は600年以上の長い歴史を持つ国際的にも名が知られている醸造所であり、請求人商品は、ミュンヘンビールの王道として世界中のビールファンに愛される、世界的な有名ブランドである。さらに、権威のある国際コンクールでの輝かしい複数回の受賞歴からも、請求人が製造するビールが世界中で愛されている有名なビールであることがわかる。
したがって、請求人と請求人が製造するビールが世界中で需要者に広く認識されていることは明らかである。
(b)請求人商品には使用商標が使用されていること
請求人は、請求人商品に使用商標を使用しており、この事実は以下で示すとおり需要者に広く知られているところである。
あ ミュンヘン・オクトーバーフェストでの出店及び使用商標の使用
毎年9月中旬から10月上旬にかけてミュンヘンで開催される、世界一のビール祭りであるオクトーバーフェストヘの出店が許されるのは、限られた6醸造所のみであるが、請求人は出店が許される選ばれし醸造所であり、同フェストで8,000人以上を収容することができる巨大テントを設営している(甲23?甲30)。
そして、700万人以上が訪れるこのミュンヘン・オクトーバーフェストで、請求人は使用商標を訪問者の目に止まるあらゆる場面で使用している(甲31?甲35)。この使用状況からすると、使用商標は、オクトーバーフェストに訪れた参加者のみならず、この様子を紹介した記事や写真等を通じて世界中の多数の人々の目に触れていることがうかがえ、また、請求人が使用商標を自ら製造する世界的にも有名なビール「レーベンブロイ」のシンボルとして使用していることがわかる。
い レーベンブロイケラーでの使用商標の使用
請求人が直営のビアホールであるレーベンブロイケラーを経営していることはガイドブック等で広く紹介されており(甲24、甲25、甲28、甲31?甲33、甲36、甲37)、この事実は、「レーベンブロイケラー」が日本人旅行者に人気があり、多くの旅行者が訪れる有名スポットであることを示している。
そして、請求人は、レーベンブロイケラーで使用商標を使用している(甲38?甲40)ことから、使用商標を請求人商品のシンボルとして使用していることがわかるし、使用商標が「レーベンブロイケラー」を訪れる数多の旅行者に広く認識されることは明らかである。
(c)小括
以上より、請求人が国際的にも有名な醸造所であり、請求人商品もまた世界中のビールファンに愛される有名なビールであることが明らかである。また、請求人が、使用商標を、請求人商品のシンボルとして使用し、その使用が世界中の多くの人々の目に留まってきたことも明らかである。
したがって、使用商標は、請求人商品が有名であることと相まって、そのビールを表示する商標又はシンボルとして、世界中で広く認識されていることは明らかである。
b 使用商標が日本で広く認識されていること
(a)ライセンシーの活動を通じて引用商標が広く認識されるに至った経緯
あ 請求人商品の日本における製造及び販売について
アサヒビール株式会社(以下「ライセンシー」という。)は、請求人商品のライセンス生産を、1983年に開始した。この事実は、各種新聞等で大きく報じられた(甲41?甲48)。
また、ライセンシーは2003年2月14日より、ノンアルコールビール「レーベンブロイ・アルコールフリー」の販売を開始したが、このことも各種新聞で大きく報じられた(甲49?甲58)。
そして、この「レーベンブロイ・アルコールフリー」は、発売から7年を経過した、2010年8月21日付けの日経プラスワンで、ビール通が選んだビール風味飲料として、1位に選ばれている(甲59)。
これらのことから、「レーベンブロイ・アルコールフリー」が、大きな注目を浴びていたこと、根強い人気があったことがわかり、このような「レーベンブロイ」の関連商品が注目を浴びていたという事実から、「レーベンブロイ」自体が世間で如何に注目されていたかをうかがい知ることができる。
そして、使用商標は、この様に世間の注目を集め、「レーベンブロイ」及び「レーベンブロイ・アルコールフリー」の商標又はシンボルとして使用されていた。
い 日本での「レーベンブロイ」の販売実績
上記あ、で述べたとおり、請求人商品は発売以来、高い人気を誇っており、この事実は、過去10年分の主要酒類銘柄別動向表からも明らかである(甲60?甲69)。当該動向表によると、請求人商品は、過去10年間、輸入ビール系飲料市場のランキングにおいてほぼ第5位以内という高い順位をキープしている。
さらに、過去10年間の輸入ビール系市場のランキング及び国内ビール系飲料市場ランキング(甲70?甲74)の第1位から第5位前後を占める銘柄の変動はいずれも非常に少ない。これは、過去10年間、日本のビール系飲料の市場において、消費者が頻繁に目にしたビールラベルは、ほぼ固定されていたということである。
また、現在日本市場で流通している多数のビール系飲料のラベル(甲167の1)の中でも、基本的構成の獅子の図からなる商標を冠したビール系飲料のラベルは、請求人商品のみである。上記のビール系飲料の市場動向を考慮すると、使用商標は請求人商品「レーベンブロイ」のシンボルであり、「レーベンブロイ」のシンボルといえば使用商標である、との認識が消費者に浸透しているといえる。
したがって、基本的構成の獅子の図からなる商標を付したビールとして、長期間、需要者が頻繁に目にしたのは請求人商品だけであったことから、需要者が基本的構成の獅子の図からなる商標を付したビール系飲料を目にしたとき、請求人商品を容易に想起すると考えられる。
う ライセンシーの宣伝広告活動について
ライセンシーは、「レーベンブロイ」の生産及び販売を開始した後、長期間にわたり、以下のとおり、様々な宣伝広告活動を展開している。
(i)新聞及び雑誌への広告掲載
ライセンシー生産に係るビール「レーベンブロイ」に関する広告は、様々な新聞及び雑誌に掲載されている(甲75?甲83)。
これらには、使用商標2が付されたビールジョッキ、ビール瓶又は缶の画像が、大きく、かつ、レーベンブロイのシンボルに相応しく読者の目に留まるように掲載されている。したがって、使用商標2は、広告を目にした読者に強く印象付けられることになる。
(ii)特別企画及び販促活動
ライセンシーは、ビール「レーベンブロイ」の販売を促進するために、様々な企画及び販促活動を展開しており、これらの活動は各種新聞に紹介されている(甲84?甲88)。
(iii)「国際花と緑の博覧会」への出店
ライセンシーは、1990年4月1日から9月30日の183日にわたり大阪鶴見緑地で開催され、来場者数2,312万人(甲89)の「国際花と緑の博覧会」(以下「花博」という。)で、「レーベンブロイハウス」と名付けたレストランを出店した(甲90?甲92)。
レーベンブロイハウスの内部には、使用商標2がいたる所に目立つように使用されており(甲92)、博覧会内の最大級のビアホールで、使用商標2が大々的に使用された結果、使用商標2が広く認識されるに至ったことは明らかである。
(iv)ライセンシーが開催するビアフェスティバルについて
ライセンシーは、全国各地の工場で「ワールドビアフェスタ」、「秋のビアフェスティバル」等のビアフェスティバルを開催し、ビール「レーベンブロイ」の試飲を提供してきた(甲93?甲114)。そして、そこでも使用商標は使用されている(甲115、甲116)。
このようなビアフェスティバルにおける使用商標の使用状況を考慮すると、ビアフェスティバルを通じて、使用商標が広く需要者に認識されていることは明らかである。
え 小括
上記あ、ないしう、のとおり、ライセンシーは、ビール「レーベンブロイ」に関する宣伝広告活動及び販売促進活動を、使用商標を目立つ態様で使用し、長年にわたり非常に広範囲に行っており、また、上記活動は新聞にも広く紹介されていることから、使用商標はこれらの活動を通じ需要者に広く認識されるに至っていることは明らかである。
(b)日本で開催されるビールフェスティバルについて
ミュンヘン・オクトーバーフェストのみならず、日本でもオクトーバーフェストを始めとするビールフェスタや、ビアガーデン等のビールフェスティバルが多数開催されている(甲117)。
ビール「レーベンブロイ」は、多くのビールフェスティバルで提供されており、各種新聞で数多く報じられている(甲118?甲144)。そして、それらビールフェスティバルの宣伝広告資料には使用商標が使用され(甲145?甲156)、また、ビールフェスティバルの会場内も使用商標が至る所に使用されている(甲157?甲162)。
以上より、日本で開催される多くのビールフェスティバルで、使用商標が目立つ態様で使用されていること、その結果、使用商標が需要者に広く認識されていることは明らかである。
さらに、被請求人が実施した「海外ビールに関する調査」では、ビールフェスティバルの参加者のリピート率が如何に高いかが示されており(甲117)、多くのビールフェスティバルで、使用商標を繰り返し目にする参加者が多数存在することになる。この点からしても使用商標が需要者に広く認識されていることは明らかである。
(c)書籍での掲載
使用商標が需要者に広く認識されていることは、請求人商品が書籍で広く紹介されている(甲163?甲166)ことからも裏付けられる。
また、前述のとおり請求人商品は旅行ガイドブックで長年にわたり取り上げられ、使用商標が掲載され続けている(甲15、甲24、甲25、甲28、甲30?甲33、甲36、甲37)。
以上より、請求人商品は、日本でもお馴染みの、需要者に広く認識された存在であることは明らかであり、また、そのシンボルとして使用される使用商標も需要者に広く認識されていることは明らかである。
c まとめ
上記a及びbより、本件商標の出願日である2013年12月17日時点で、使用商標が日本を含めて世界で広く認識されていたことは明らかである。
(イ)本件商標と使用商標との類似性
本件商標と使用商標とは、基本的構成の獅子の図という構成の軌を同じくするものであり、外観上類似する。また、両商標からは「舌を突出し、尻尾を上げて左向きに起立する一匹の獅子(ライオン)」の観念が想起されることから、観念上も類似する。さらに、両商標共に「獅子」又は「ライオン」の称呼が生じ得ることから、称呼上も類似するといい得る。したがって、両商標は、類似の関係にあるといえる。
なお、前述のとおり、現在日本で流通しているビール中で基本的構成の獅子の図をそのシンボルとする商標は使用商標のみである。また、スーパーマーケットやコンビニエンスストア等で比較的よく目にする銘柄として、2013年度の国産ビール系飲料の売上高(1月から9月)上位10銘柄と輸入ビールの売上高上位5銘柄の合計15銘柄についてみると「獅子(ライオン)」の図形を付したラベル等は、請求人商品以外には一つもないことがわかる(甲167の2)。このように多数のラベルの選択肢がある状況下にあって、基本的構成の獅子の図という使用商標と構成の軌を同じくする本件商標は不自然な程に使用商標と類似するものといわざるを得ない。
さらに、本件商標の指定商品「ビール,ビール風味の麦芽発泡酒,洋酒,果実酒,酎ハイ,麦芽及び麦を使用しないビール風味のアルコール飲料」と、使用商標が使用されるビールとは、製造者、需要者、販売者、販売場所等を共通にすることが多い類似の商品といえる。
(ウ)まとめ
上記(ア)で述べたとおり、使用商標は請求人商品のシンボルとして需要者に広く認識されている。また、本件商標と使用商標とが、商標及び商品において類似の関係にあることは、上記(イ)で述べたとおりである。
したがって、本件商標が、商標法第4条第1項第10号に該当することは明らかである。
オ 本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものであること
(ア)本件商標と使用商標との類否について
本件商標と使用商標とが、商標及び商品において類似の関係にあることは、上記エ(イ)で述べたとおりである。
(イ)出所の混同のおそれ
上記エ(ア)で述べたとおり、使用商標は、日本及び世界で広く認識されている。さらに、上記エ(イ)で述べたとおり、基本的構成の獅子の図のラベルを使用したビール系飲料は「レーベンブロイ」のみであり、「レーベンブロイ」といえば基本的構成の獅子の図がシンボルである、との認識が消費者に強く浸透している。したがって、本件商標が指定商品に使用された場合、当該商品が請求人又は請求人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、商品の取引者及び需要者が、商品の出所について混同を生じるおそれがある。
特に、上記したとおり、現在の日本のビールで基本的構成の獅子の図をそのシンボルとする商標は使用商標のみであり、主要なビール系飲料の15銘柄で「獅子(ライオン)」の図形を付したラベル等は、請求人商品以外にない状況下にあって、本件商標は不自然な程に使用商標と類似しており、需要者が商品の出所について誤認混同するおそれが高いものといわざるを得ない。
さらに、本件商標及び使用商標の使用状況の一例を鑑みるに、本件商標及び使用商標を使用したビール系飲料は、スーパーマーケットの酒コーナーでも販売されている。同コーナーにおいて、ビール系飲料はまとめて陳列されることが一般的であり、同じ大きさで銘柄の異なる酒缶が数多く並べられている(甲168)。また、スーパーマーケットを訪れる買い物客は、日々の食品や日用雑貨等の消耗品を短時間で、気軽に購入する目的で訪れることが多く、個々の商品を手に取り、商品ラベルを一つ一つ丁寧に時間をかけて確認する可能性は低いものである。そうとすれば、様々な銘柄が数多く並ぶ酒コーナーを訪れる買い物客は、商品を、ぱっと見た印象で購入することが多いことは想像に難くない。
この様な、スーパーマーケットでの買い物客の消費行動と、使用商標が広く認識されている事実とを合わせて考慮すると、スーパーマーケットで、基本的構成の獅子の図をモチーフとするラベルを付したビール系飲料を目にした顧客は、当該ビール系飲料を請求人商品であると即座に認識する可能性が高いと考えられる。
そして、実際に、本件商標を付したビール系飲料「ホワイトベルグ」を、請求人商品であると誤認した購入者の口コミや、本件商標と使用商標が似ているとの口コミが多数のブログに書き込まれている(甲169?甲171)。
以上を総合して考慮すると、本件商標がビール系飲料に使用された場合、請求人又は請求人と何らかの関係のある者のビールであるかのごとく出所混同のおそれがあること及び出所混同が既に生じていることは明らかである。
(ウ)まとめ
以上より、本件商標は、請求人又は請求人と何らかの関係のある者の業務に係る商品と誤認・混同するおそれがある商標であり、商標法第4条第1項第15号に該当する。
カ 本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当するものであること
(ア)使用商標の著名性及び本件商標と使用商標との類似性
使用商標が、本件商標の出願日以前より、日本を含めた世界中で周知性を獲得していたこと、本件商標と使用商標とは類似することは、上記エ(ア)及び(イ)で述べたとおりである。
(イ)被請求人の不正の目的
被請求人は、請求人と同じ酒類メーカーである。のみならず、被請求人と請求人のライセンシーは、平成24年から25年の「ビール業界シェア&ランキング」で、日本のビール系飲料市場の第1位及び第4位という上位を占める企業であり(甲172)、明らかに競合関係にある。競合関係にある企業同士は、相互の商品を認識し、商品の動向を注視することが通常である。したがって、被請求人は、使用商標の歴史、及び日本を含めた世界での名声を当然に認識しているものといえる。さらに、上記エ(ア)b(a)い、で述べたとおり、基本的構成の獅子の図の商標を付したビール系飲料を目にした消費者は、請求人商品を容易に想起することを、被請求人は当然に認識していたものと推認できる。特に、基本的構成の獅子の図という使用商標と構成の軌を同じくする本件商標は、不自然な程に使用商標と類似している。
そうとすれば、被請求人は、使用商標が広く認識されていることを知りながら、あえて使用商標と類似する本件商標を採用したといえる。このことは、被請求人が、本件商標が獲得している名声にただ乗り(フリーライド)する意思を有することを示すに他ならない。
さらに、現在の日本のビール系飲料市場で基本的構成の獅子の図をそのシンボルとする商標は使用商標のみであること、また、2013年度の国産ビール系飲料の主要15銘柄で「獅子(ライオン)」の図形を付したラベル等は、請求人商品以外にないことからすれば、被請求人が本件商標をその指定商品に使用することは、使用商標の識別性・著名性を希釈化するおそれが非常に高いものといわざるを得ない。
したがって、被請求人が本件商標の選定、権利化において不正な目的を有していることは明らかである。
(ウ)まとめ
以上より、本件商標は、請求人商品を表示するものとして日本国内及び外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的をもって使用されるものである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当するものである。
キ 本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものであること
(ア)「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」の解釈
商標法第4条第1項第7号は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は商標登録を受けることができない旨を規定するが、このような商標には「その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合」も含まれる(知財高判平成17年(行ケ)第10324号)。
(イ)本件商標が採用されるに至る経緯
上記カ(イ)で述べたとおり、被請求人は、使用商標が広く認識されていること、さらには、使用商標の基本的な構成要素である基本的構成の獅子の図を付したビール系飲料を目にした消費者は、請求人商品を容易に想起することを既知としながら本件商標を採用し、使用商標の名声にただ乗りしようとしたものである。この様な本件商標の採用の経緯は、明らかにビジネス秩序を乱すものであり、本件商標の出願及び登録の経緯が社会的相当性を欠くものであることは明らかである。
(ウ)まとめ
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものである。
2 上申書における主張
(1)本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当する理由について
ア 欧風紋章図形に関する考察について
被請求人は、本件商標及び引用商標のモチーフが、欧風紋章であることを理由に、商標法第4条第1項第11号に係る検討の前提として、欧風紋章図形について前提的考察を行っている。
しかしながら、それらは、本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当しないことを裏付ける根拠及び考察にはなり得ない。その理由は以下のとおりである。
(ア)「ヨーロッパでは、数ある紋章の中で、多数の『ライオンをモチーフとする紋章図柄』が併存していた」との考察について
ヨーロッパにおいて「ライオンをモチーフとする紋章図柄」が併存したとしても、他国の紋章又は標章の併存状況と、日本での商標登録や周知性・著名性とに全く関連性はない。他国の紋章又は標章の併存状況が、日本での商標登録や周知性・著名性に何ら影響を与えないことは、いうまでもないことである。
(イ)「『紋章の法則』に則った極めて細分化された相違点で識別される紋章が、商標の世界に入り込んできており、各家や王家、国章における数十万・数百万の相違点を意識して、その差異を前提に識別せざるを得ない」との考察について
後記イ(ア)で述べるとおり、過去の審決では、紋章的図形をモチーフとする商標同士の類否が、外観に強い印象を与える構成上の基本的特徴を比較したうえで、全体の印象が似かよっているか否かによって判断され、商標同士に差異があるとしても、差異が看者に強い印象を与えるものでない場合は、捨象し得る部分とみるのが相当、と判示されている。上記判断に基づくと、紋章的図形をモチーフとする商標の類否が、「各家や王家、国章における数十万・数百万の相違点」を意識し、僅かな差異を重視して識別されることは、無いといえる。
さらに、上記考察の根拠となる具体的な事例等が示されてはいないので、上記考察は、被請求人の主観によるものにすぎないといえる。
(ウ)「日本商標登録中、商品『酒類』について『ライオン』(ウィーン図形分類「3.1.1」)で分類された獅子紋章的図形は183件登録されており、国内企業の権利者が多いことから、国内商品・輸入商品を含め、かなりの商品がこれら紋章商標を使用して流通しており、国内の取引者・需要者は、獅子紋章的図形に多く接している」との考察について
被請求人が主張するとおり、日本商標登録に、183件の獅子紋章的図形をモチーフとする商標が登録されているとしても、それら個々の登録商標と本件商標や引用商標とを具体的に比較検討もせず、183件の獅子紋章的図形をモチーフとする商標が登録されているという事実のみをもって、本件商標と引用商標とが非類似であるとの主張の根拠にすることが妥当でないことは明らかである。また、登録商標の数はあくまでも登録件数を示すにすぎず、市場で使用される商標の数を示すものではない。被請求人自らが、「登録商標の現実での使用の有無は明確ではない」と述べていることからも、183件の商標が登録されているという事実が、国内の取引者・需要者が、獅子紋章的図形に多く接するという考察を裏付ける根拠になり得ないことは、明らかである。
さらに、被請求人は、国内企業の権利者が多いことを挙げ、紋章商標を使用した商品が流通しており、国内の取引者・需要者が獅子紋章的図形に多く接していると述べている。
しかしながら、権利者が国内企業であれば、商標が使用されるという判断は、被請求人の主張に基づく単なる憶測にすぎず、根拠を欠いているため、到底受け入れられないものである。
以上より、被請求人の考察が、本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当しないことを裏付ける根拠及び考察になり得ないことは明らかである。
イ 本件商標と引用商標との比較
被請求人は、本件商標と引用商標の比較ポイントについて「舌を出し、尻尾を上げて、左向きに起立する、一匹の獅子(ライオン)」は、紋章的図形の「紋章の法則に則った」極めてありふれた「慣用形態」の羅列であり、商標の外観・観念を比較するポイントではない、と主張している。
さらに、被請求人は、本件商標と引用商標との外観上の差異点として、(a)獅子の図形が収まっている図形の形状の違い、(b)頭部において舌先が分岐しているか否かの違い、(c)手にジョッキを持っているか否かの違い、(d)爪をむいた手を有しているか否かの違い、(e)足部を有するか否かの違い、(f)尾尻の形状の違い、を挙げ、本件商標と引用商標とは外観上非類似である、と主張している。
しかしながら、被請求人の上記主張は、妥当性を欠くものである
(ア)比較ポイントについて
請求人が、審判請求書で引用した以下の審決では、獅子紋章的図形をモチーフとする商標の類否判断が示されている。
・昭和60年審判第11296号(甲7)
・不服2002-7389(甲8)
・異議2003-90263(甲9)
上記審決によると、紋章的図形をモチーフとする商標同士の類否は、外観に強い印象を与える構成上の基本的特徴を比較し、全体の印象が似かよっているか否かによって判断されている。さらに、異議2003-90263で判示されているとおり、本件商標と引用商標とに差異があるとしても、当該差異が看者に強い印象を与えるものでない場合は、捨象し得る部分とみるのが相当である。
上記審決での判断基準に基づくと、被請求人が「慣用形態」と認める基本的構成「舌を出し、尻尾を上げて、左向きに起立する、一匹の獅子(ライオン)こそが、「外観に強い印象を与える構成上の基本的特徴」であり、本件商標と引用商標の比較ポイントになる。
したがって、「舌を出し、尻尾を上げて、左向きに起立する、一匹の獅子(ライオン)」が、商標の外観・観念を比較するポイントとなるものではない、との被請求人の主張は妥当性を欠くものである。
(イ)被請求人が主張する、本件商標と引用商標2及び使用商標2(以下、引用商標2及び使用商標2をあわせて「引用商標2等」という。)との外観上の差異点
被請求人は、本件商標と引用商標2等について、外観上の比較を行っているが、本件商標と引用商標2等の比較ポイントは、上記(ア)で述べるとおり、「舌を出し、尻尾を上げて、左向きに起立する、一匹の獅子(ライオン)」の基本的構成であり、差異点aないしfではない。さらに、以下に述べるとおり、差異点aないしfは、看者に強い印象を与えるものではなく、捨象し得る部分とみるのが相当である。
a 獅子の図形が収まっている図形の形状
上記形状は、基本的構成でなく、比較ポイントではない。仮に、比較をした場合、獅子の図形が収まっている図形の形状は、本件商標及び引用商標2等共に、全体的に丸みを帯びている点において一致している。したがって、当該図形の形状に差異があるとしても、看者に顕著な差異を感じさせるとはいえない。
b 頭部において舌先が分岐しているか否か
上記形状は、商標全体に占める割合が非常に小さな部分である。したがって、看者に強い印象を与えるとは考え難い。
c 手にジョッキを持っているか否かの違い
被請求人は、本件商標を構成する獅子が手に持っているかの様に見える矩形を、「ジョッキ」と主張している。しかしながら、上記矩形にはジョッキの持ち手らしき図形は描かれておらず、上記矩形をジョッキと断定することは困難である。
さらに、被請求人は、手に物を持った紋章的図形が少ないため、手に物を持つことが取引者・需要者の視覚に訴える印象的な部分になり得ることを主張している。しかしながら、上述のとおり、異議2003-90263では、手に物を持たない本件商標と、手に物を持つ引用商標2等とが比較された結果、類似するとの判断が示されている。当該審決から、紋章的図形において、獅子が手に物を持っていることが、看者に強い印象を与えるわけではないことは明らかである。殊に、被請求人がジョッキと主張する部分は、特段の意味を有さない矩形にしかみえず、取引者・需要者の視覚に訴える印象を何ら残さない部分といえるため、手に物を持っているか否かの差異が、捨象し得る部分であることは明らかである。
d 爪をむいた手を有しているか否かの違い
被請求人は、引用商標2等を構成する獅子について、爪をむいた手を持っていると主張している。しかしながら、引用商標2等を構成する獅子は、塗潰された状態で描かれており、爪らしき構成は描かれていない。したがって、被請求人の主張はそもそも誤りである。
e 足部を有するか否かの違い
本件商標を構成する獅子の図形は、引用商標2等とは異なり、足先が描かれていない。しかしながら、本件商標が、基本的構成である「左向きに起立」する図形であることは、容易に看取され得る。したがって、足先が描かれているか否かは、捨象しうる程に軽微な差異である。
f 尾尻の形状の違い
被請求人は、尾尻の形状の違いを主張するも、上述の昭和60年審判第11296号、不服2002-7389及び異議2003-90263で比較された商標同士は、尾尻の形状が何れも異なっており、「尾尻が上がっている」という基本的構成のみにおいて一致している。
上記審決に基づくと、尾尻が上がっているか否かが比較ポイントになり、尾尻の形状の違いは捨象し得る部分になるといえる。
(ウ)小括
以上より、被請求人が主張する差異点が認められるとしても、当該差異点は上述のとおり非常に軽微な差異であるので、差異点をもって、本件商標と引用商標の構成において一致する基本的特徴が看者に与える強い印象を凌駕するほどの、影響を看者に与えるものではない。
したがって、上記差異点は、捨象し得る部分とみるのが相当である。
とすれば、請求人が、2014年9月24日付けの審判請求書の中で主張したとおり、本件商標と引用商標とは、それぞれを時と所を異にして離隔的に観察した場合には、基本的構成「舌を出し、尻尾を上げて、左向きに起立する、一匹の獅子(ライオン)」により受ける印象が同じであり、需要者をしてより一層相紛れるおそれのある商標であり、類似であることは明らかである。
ウ まとめ
以上より、本件商標と引用商標とは非類似であり、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当しない、との被請求人の主張は根拠を備えておらず、妥当性を欠くものである。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当するものである。
(2)本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当する理由について
被請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当しない理由として、名称の周知性・著名性は、図形にまで及ばないと主張している。さらに、当該主張の根拠として、サントリーホールディング(株)、キリンディスティラリー(株)等の登録商標を引用している。
しかしながら、特許庁の特許電子図書館における、日本国周知・著名商標検索を用いて検索を行った結果、以下の図形商標が周知・著名商標として掲載され、防護標章として登録されていることが確認された。
・商標登録第2030863号(権利者:キリン株式会社)
・商標登録第4433607号(権利者:キリン株式会社)
・商標登録第373984号(権利者:サントリーホールディングス株式会社)
上記図形の周知・著名性が特許庁で認められているという事実は、紋章図形単独で、商品及び商品の出所が理解できるほどの著名性を、十分に獲得することができることを示している。
さらに、被請求人自らが、登録商標の現実での使用の有無は明確ではないと述べていることから、サントリーホールディング(株)、キリンディスティラリー(株)等の登録商標の引用は、図形が著名性を獲得することができない旨の主張を裏付ける根拠にはなり得ない。
また、そもそも本件事案の商品のように店頭で容易に購入できる商品について、その名称だけは周知・著名であるが、その名称と共に常にパッケージに使用されている図形については周知性・著名性を獲得していないという状況は極めて不自然であるといわざるを得ない。被請求人が答弁書中で認めるとおり、請求人が製造するビールの名称「レーベンブロイ」は、周知かつ著名である。さらに、請求人が2014年9月24日付けの審判請求書と共に提出した多数の証拠に示されるとおり、ビール「レーベンブロイ」にはシンボルとして使用商標が使用されている。とすれば、ビール「レーベンブロイ」が周知かつ著名であることと相まって、そのシンボルである使用商標が広く認識されていることは明らかである。
したがって、名称の周知性・著名性は、図形にまで及ばない、との主張は何ら根拠を備えておらず、主張として成立し得ない。
(3)本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当する理由について
ア 「被請求人のお客様センターに、ラベルに関するクレームが1件も寄せられていない」との主張について
被請求人は、被請求人のお客様センターに、ラベルに関するクレームが1件も寄せられていないと主張していることを、本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当しない理由に挙げている。しかしながら、本件商標と引用商標が似ていると思った需要者が全てお客様センターにクレームを寄せるわけではない。むしろ、請求人が、審判請求書の中で示したとおり、本件商標と引用商標が似ているとの口コミは、多数のブログに書き込まれている。現代のようなインターネット社会において、インターネットに書き込まれた情報は数多の人々の目に瞬時にさらされ、人々の判断に大きな影響を与えることは、想像するに難くない。
お客様相談センターへの苦情は、担当者に伝えられるところで留まるが、インターネットへの書き込みは、多数の人々に広まる可能性を有している。この様なインターネットを取り巻く環境及び社会の実情を考慮すると、インターネットの口コミをきっかけに、本件商標と引用商標の混同が広がる可能性は多分にあると考えられる。
以上より、本件商標と引用商標は、需要者に既に混同を生じさせているのみならず、さらなる混同を引き起こす可能性をも有しているのといえる。
イ 「本件商標を付した商品『ホワイトベルグ』の販売量が膨大であり、本件商標が周知・著名である」との主張について
被請求人は、本件商標を付した商品「ホワイトベルグ」の2014年5月から10月までの半年間の販売量を示し、商品の販売量が膨大であると主張している。しかしながら、上記主張は、全くの誤りである。
請求人が、審判請求書において提出した甲第74号証では、2012年「ビール類の上位10銘柄販売状況」として、ビール類の上位10銘柄の販売量が「43,811万箱(438,110,000箱)」と表示されている。被請求人は、ホワイトベルグの半年間の販売量を1,059千函(1,059,000函)と述べているが、仮に、上記販売量を基に1年間の販売量を倍の2,118千函(2,118,000函)とした場合、当該販売量は、ビール類の上位10銘柄の1年間の販売量の0.5%にも満たない数値となる。この数値から、ホワイトベルグの販売量が、膨大というには余りにも程遠い数量であることは、明らかである。したがって、ホワイトベルグの販売量が膨大であるという、被請求人の主張は根拠を全く備えていない主張である。
また、被請求人は、意見書の中で、「ホワイトベルグ」の2014年5月から10月の販売量を、以下のとおりに示している。
5月 357千函 6月 198千函 7月 179千函
8月 133千函 9月 99千函 10月 93千函
上記数値から明らかであるが、「ホワイトベルグ」の販売量は、発売から僅か半年の間に、半数以下に急落している。殊に、ビールが最も消費される7月から9月にかけて、販売量が毎月かつ、急速に減少しているという事実から、被請求人が主張する「ホワイトベルグ」が獲得した著名性を推し量ることは、困難といわざるを得ない。
一方、請求人が、審判請求書で述べたとおり、請求人が製造するビール「レーベンブロイ」は、日本を含む世界中での著名性を獲得しており、日本において1983年から今日に至るまで、新聞・広告・書籍に多数掲載され、オクトーバーフェストを始めとするビールフェスティバルで長年販売されていることから、需要者に広く認識されていることは明らかである。さらに、ビール「レーベンブロイ」のシンボルとして使用されてきた引用商標も、需要者に広く認識されていることが明らかである。
また、請求人が、審判請求書で提出した、甲第60号証ないし甲第69号証で示す過去10年分の主要酒類銘柄別動向表に示されているとおり、請求人が製造するビール「レーベンブロイ」は、過去10年間、輸入ビール系飲料市場のランキングにおいて、ほぼ第5位以内という高い順位を安定的にキープしている。よって、ビール「レーベンブロイ」は著名性を安定して維持しているといえる。
さらに、1945年から2012年までの、日本国内のビール系飲料の情報が詳細に掲載された、日本の酒類産業の出来事年表(甲173)を提出する。当該年表には、1945年から2012年の間に、数多くの銘柄のビール系飲料が日本国内で発売されたことが掲載されている。しかしながら、掲載されたビールの銘柄の中で、数十年の期間を経た後も販売が続けられていると明らかに認識することができるビール系飲料は、「レーベンブロイ」、「アサヒスーパードライ」、「バドワイザー」、「一番搾り」、「モルツ」、「ギネス」等の、非常に限られた銘柄である。67年間の間に多くのビール系飲料が販売されるも、その大半が販売を終了したか、仮に発売されているとしても、広く認識されていないことが明らかである。このことから、ロングセラーでかつ、広く知られるビール系飲料が、国内ビール系飲料市場において、いかに稀有な存在であるかは、明らかである。とすれば、1983年の発売開始から今日に至るまで、30年以上ものロングセラーを誇り、その名を広く知られたビール「レーベンブロイ」が、名門ブランドとしての地位を日本で確立していることは、疑うべくもなく明らかであり、名門ブランドのシンボルである引用商標の著名性が確立していることも明らかである。
以上より、ホワイトベルグの販売量が膨大であるという、被請求人の主張は全くの誤りであり、ホワイトベルグの販売量が、名門ブランドとして名高いビール「レーベンブロイ」及びそのシンボルである引用商標の著名性や、出所混同が生じるおそれに影響を与えないことは、明らかである。
したがって、本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当しない理由として挙げられたア及びイの理由は、何れも根拠無きものであり、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当するものである。
(4)本件商標が商標法第4条第1項第19号に該当する理由について
被請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第19号に該当しない理由として、本件商標が、被請求人の所有する商標登録第2622481号(別掲6)「向かい獅子紋章図形」の中の右側「獅子図形」(以下「右側獅子図形」という。)のアレンジであることを主張している。しかしながら、仮に被請求人の主張のとおりであるとしても、そのアレンジは、以下のとおり不正な意図をもってされたというより他にはない。
まず、請求人が審判請求書で提出した「ビール系飲料ラベル一覧」(甲167の1)に示すとおり、現在の日本のビール系飲料市場には多数のラベルを付したビールが販売されているが、その中で「舌を突出し、尻尾を上げて左向きに起立する一匹の獅子(ライオン)」をそのシンボルとする商標は、請求人のビールに使用されている使用商標のみであること、また、スーパーマーケットやコンビニエンスストア等で比較的よく目にする銘柄として、2013年度の国産ビール系飲料の売上高(1月から9月)上位10銘柄と輸入ビールの売上高上位5銘柄の合計15銘柄についてみると「獅子(ライオン)」の図形を付したラベル等は、請求人のビールのみである。加えて、日本のビール系飲料市場の上位を占める被請求人は、引用商標の歴史、並びに日本を含めた世界での名声を当然に認識しているものといえる。
かかる状況下において、(i)被請求人の所有する商標登録第2622481号「向かい獅子紋章図形」から、被請求人自身の著名商標として認められる星形図形を敢えて省き、(ii)また、向かい獅子のうち、引用商標と同様の左向きの獅子を敢えて抽出・採択し、(iii)さらに、その右側獅子図形を引用商標と同様に前傾姿勢に変更して、(iv)かつ、引用商標と同様に略円形状の図形の中に獅子を収めたこと、等を考慮すると、仮に被請求人の主張のとおり、本件商標が被請求人の商標登録第2622481号のアレンジであるとしても、そのアレンジは、引用商標に類似する方向でされ、かつ、その周知性・著名性にただ乗り(フリーライド)しようとする不正な意図をもってされたというより他にはない。
つまり、右側獅子図形、本件商標及び引用商標(ここでは参考までに使用商標2を挙げる。)を比較すると、(i)右側獅子図形は略円形の図形で囲われていないが、本件商標と使用商標2は略円形の図形で囲われている点、(ii)本件商標と使用商標2共に獅子図形を金色で着色している点、等において、本件商標が、右側獅子図形よりも使用商標2の方に類似していることは明らかである。
そうとすれば、むしろ、本件商標は、被請求人が主張する右側獅子図形のアレンジであるというよりも、むしろ使用商標2のアレンジであると考える方が自然である。
したがって、被請求人の主張は、明らかに理由がなく、妥当性を欠くものである。
以上を総合すると、請求人は、引用商標の周知性・著名性を認識しながらも、あえて使用商標と類似する本件商標を採用したといわざるを得ず、このことは、被請求人が、引用商標が獲得している名声にただ乗り(フリーライド)する意思を有することを示すに他ならない。したがって、被請求人が本件商標の選定、権利化において不正な目的を有していることは明らかである。
よって、本件商標が商標法第4条第1項第19号に該当することは、明らかである。
(5)本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当する理由について
上記(4)で述べたとおり、本件商標の採択の過程が作為的であることは明らかである。
被請求人は、使用商標が広く認識されていること、さらには、使用商標の基本的な構成要素である「舌を突出し、尻尾を上げて左向きに起立する一匹の獅子(ライオン)」を付したビール系飲料を目にした消費者は、請求人のビールを容易に想起することを既知としながら本件商標を採用し、使用商標の名声にただ乗りしようとしたものである。この様な本件商標の採用の経緯は、明らかにビジネス秩序を乱すものであり、本件商標の出願及び登録の経緯が社会的相当性を欠くものであることは明らかである。
よって、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当することは、明らかである。
(6)結論
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同項第10号、同第15号、同項第19号及び同項第7号に該当するものである。
よって、本件商標はその登録を無効とされるべきである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第12号証(枝番を含む。)を提出した。
1 請求人の請求理由についての認否
本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同項第10号、同項第15号、同項第19号及び同項第7号に該当し、同法第46条第1項第1号により無効にされるべきものである旨の主張については、本件商標は何れにも該当しないため、全面的に争う。
2 被請求人の反論
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア 両商標に共通する「欧風紋章図形」の考察
本件商標は、確かに「獅子(ライオン)」のジャンルに分類される欧風紋章をモチーフとしたものであり、引用商標等も同じジャンルに属する欧風紋章をモチーフとしたものである。そこで、この欧風紋章図形について前提的考察を行う。
(ア)「紋章の歴史」(乙1)には、100万・1千万という膨大な数量の紋章を収集し、分類したという事実に基づき、その15%である15万?150万もの「ライオンをモチーフとする紋章図柄」がヨーロッパを中心に異なって併存していたことが記されている。
(イ)現代では、「紋章の法則に則った」極めて細分化された相違点で識別されている紋章が商標の世界にも入り込んできており、各家や王家、国章における数十万・数百万の相違点を意識し、その差異を前提に識別せざるを得ない、特異な図形ジャンルを形成しているといえる(乙2、乙3)。
この点、日本固有の暖簾記号「ヤマ印」が「イリヤマ」「カギヤマ」「ツギヤマ」「ヒキヤマ」「フジヤマ」等に細かく分類され、さらにその下に記載された文字の相違によって識別され、多数使用されているのと同様である。
(ウ)なお、請求人の所在するドイツ及び被請求人がホワイトビールに使用するため、同系ビールの主産地であるベルギーで販売されるビールに関し、「獅子紋章図形」使用のものを調べてみると、ドイツビールで22件、ベルギービールで9件発見することができた。
これらの国でも「獅子紋章図形」は相当数使用されており、この種紋章における図案化された「獅子図形」の一般的表現方法の参考となる、一匹で描かれたものは、他の要部が存在するものもあるが、ドイツで9件、ベルギーで4件見いだされた(乙4)。
イ 日本国内での欧風紋章の状況
上記アにおいて外国における紋章の実状を述べたが、本件は日本国内における判断であるので、国内におけるこれらの実状について考察する。
(ア)世界各国の「国章」について
世界各国の「国章」が日本国内でどの程度熟知されているかは不明ではあるが、日本の「十六弁菊花紋章」も含まれており、一応国民にも知られているとの前提で調べてみると、インターネットの「Wikipedia」に200件掲載されていた(乙5の1)。
この中でライオンの図形をチャージにしているものを拾ってみると200件中の15%を越える35件が見いだされた(乙5の2)。
しかし、この種図柄は、写実的な「ライオン」図形とは異なり「紋章の法則に則った」図柄であって、直ちに「獅子・ライオン」なる観念・称呼が生ずるような図柄ではない。
(イ)日本商標登録中の「獅子紋章図形」について
日本国内の登録商標の「ライオン」(ウィーン分類「3.1.1」)で分類された図形商標をIPDLで調べてみると、商品及び役務の全区分では2,196件ヒットしたが、閲覧可能な1,895件の冒頭から300件を抽出した(乙6の1)ところ、欧風紋章図形的と判断できるものが154件(51%)見いだされ、この割合で日本の登録商標全体を考慮すると、5割以上の1,000件を越える欧風紋章図形が商標登録されているであろうと推認できた(乙6の2)。
(ウ)商品「酒類」商標登録の「獅子紋章図形」について、
本件と直接関連する「酒類」に限って「28A01?28A04の類似群」を見ても、「ライオン」(ウィーン分類「3.1.1」)で分類された図形商標として検出された317件の中で、独特な「紋章的図形」と見られるものは183件(58%)存在していた(乙7の1)。
上記の登録商標中(乙6の1、乙7の1)には、同一権利者に属する登録も含まれているが、統計処理上重複して掲載している。これは、その出願の度にそのような審査が繰り返し行われていたことや、区分や商品の違いにより調査に際しその都度相違する場面で、多くの人の目に触れ、記憶されてきたこと等からそのまま掲載した。
さらには、これらの登録中には国内企業の権利者も多く、国内商品・輸入商品を含め、かなりの商品がこれら紋章商標を利用して流通していることが認識できると共に、国内の取引者・需要者にあっても、この種紋章的図形に多く接していることが理解できた。
このように、多くの「獅子紋章的図形」が国内でも氾濫しており、特に「ライオン」で独特な「紋章的図形」と見られる183件(乙7の1)の登録商標の全てが現実に使用されたかは不明であるとしても、その多くが共通する酒類市場に流通し、一般需要者の目に触れていたことが理解できる。
とりわけ「洋酒・ワイン」のような商品は、商標登録せずに少量でも輸入されることが多い商品であるため、相当の数量の紋章図形が、明確な記憶の有無は別として、国内の取引者・需要者の目にも触れられていることが推認される。
なお、後述するが、本件商標の基本的モチーフは、被請求人所有商標「向かい獅子紋章図形」(乙7の1のNo85、乙7の3)中の右側「獅子図形」であることは、一目瞭然と思われる。
ウ 乙第5号証ないし乙第7号証の分析
請求人は、本件商標と引用商標等との類否につき両者共に、基本的構成の獅子の図の外観及び「舌を出し、尻尾を上げて左向きに起立する一匹の獅子(ライオン)」の観念、「獅子」又は「ライオン」の称呼が生ずるため外観・観念・称呼の何れも類似すると主張しており、他の相違点は「些細な差異はあるものの」として何ら比較していない。
しかし、観念の場面において、単純な「獅子又はライオン」とせずに、「舌を出し、尻尾を上げて左向きに起立する一匹の獅子(ライオン)」と、ここまで限定した観念を述べているにもかかわらず、称呼の場面において、単純に「獅子又はライオン」の称呼が生ずるとしているのは、自己矛盾といわざるを得ない。
請求人の主張を分析すると、「舌を出し」「尻尾を上げて」「左向きに起立する」「一匹の獅子」となるが、一般的な、「獅子紋章図形」に関する割合は、
a 乙第5号証「国章」全200件中、「獅子紋章利用図形」が35件(17%)
b 乙第6号証「全商品登録例」の冒頭300件中、「獅子紋章利用図形」が154件(51%)
c 乙第7号証「酒類の類似群の登録例」全317件中、「獅子紋章利用図形」が183件(58%)
となっており、自然界に存する写実的ライオン図形と異なり、特異なジャンルの「紋章図形」として、日本国内でも使用され、認識されているであろうことが理解できる。これを更に一匹図形を中心に分析すると、次のaないしiについて、国章(乙5)、全商品(乙6)及び酒類(乙7)のそれぞれの件数等は、
a ライオン図全件 (200件) 300件 317件
b a中・獅子紋章図形 35件 154件 183件
c b中・一匹立脚獅子 16件 51件 54件
d c中・鮮明図の拡大 16件 34件 26件
e d中・舌描写(出無 )14:2 30:4 23:3
f c中・尻尾(上下) 16:0 45:0 46:0
g c中・体向き(左右) 14:2 49:2 35:3
h c中・手に持物(有無) 8:8 3:34 9:26
i d中・足先描写(有無)16:0 34:0 23:3
となっている。
乙第5号証の2、乙第6号証の2、乙第7号証の2に示される図形中、比較的鮮明に拡大された「一匹の獅子紋章図」上記dの全76件を見ても、舌を出した図形が66件(88%)、不明が10件と、90%近くが「舌を出した図形」となっており、この種紋章図形の「紋章の法則に則った慣用形態」であることが理解できる。
また、「尻尾」「体の向き」は、乙第6号証の2、乙第7号証の2中(105件中)、尻尾上向き図形が105件(100%)、体の向きが左向き98件(93%)、右向き7件であって、「尻尾は上向き」(100%)、「体は左向き」(93%)がこの種抽象的な紋章図形を描く場合の慣用形態(基本形態)となっているのが分かる。
したがって、請求人の両商標の共通点と主張している「舌を出し、尻尾を上げて、左向きに起立する、一匹の獅子(ライオン)」(基本的構成の獅子の図)の指摘は、この種紋章的図形の「紋章の法則に則った」極めて一般的にありふれた「慣用形態」を拾い、綴っただけであって、両商標の外観・観念を比較するポイントとなるものではない。
これは多数の図柄が併存する「河童」の図形で二者を比較するに「頭に皿を有し、背中に甲羅を、手に水掻きを有する、一匹の河童」と指摘し、「基本的な構成の軌を一にする。」と述べ、「外観・観念」類似と主張しているのと等しく、河童の概念に共通する「慣用形態」を述べ、その他の差異を比較せずに、多数の河童図形中において、二者の外観・観念が類似すると主張したのと同様である。
エ 外観類似に対する反論
外観について両者を比較するに、本件商標のシルエット的描写と比べ、より明確な差異が多数と考えられる細部まで描かれた引用商標1及び使用商標1の外観より、シンプルなシルエットで描かれた引用商標2等の外観の方が共通部分は多いと考えられるため、以下、引用商標2等を中心に比較する。
請求人は、両商標の外観上の比較につき、基本的構成の獅子の図という、基本的な構成の軌を一にするものであると、この種紋章図形に共通する慣用形態を述べただけで、外観類似と主張しているが、本件商標と引用商標2等の外観を比較検討すると、次のとおりである。
(ア)全体外形上の差異
本件商標の外縁は真円で形成され、内部図形も頭部は若干離れているものの、手部・脚部・尻尾をこれに接するように真円の円輪郭に沿って描かれ、やや太めの体型で、自然体に近く表されているに対し、引用商標2等の外縁は縦長四辺形の角部を円形に丸め、各辺の中央部を肉厚にし、内部図形も手部・足先・尻尾等が四辺形内に安定して収まる痩身の体型に描かれ、外形との関係上封じ込められた形態で、真円と縦長四辺形的な内部図形・外形印象からも十分識別可能となっている。
(イ)頭部の差異
確かに、舌を出した態様において共通しているが、上記のとおりこの種図形を描く際の「慣用形態」であって、これが特色となるものではなく、本件商標が舌先を分岐させ、手に持ったジョッキのビールを味わっているかのごとき描写となっているが、引用商標2等は、この種紋章図形の「紋章の法則に則った」慣用形態の範囲内で描写されているにすぎない。
(ウ)手部の差異
本件商標は、右手にジョッキを持ち、左手を円輪郭に沿う位置まで突き出した形態となっているのに対し、引用商標2等は、何も持たない、爪を剥いた手を四辺形上に沿った位置に上下した態様となっている。
上記ウにも記したように、手に物を持った紋章的図形は20:68のごとく23%と少なく、特に、紋章図形にありがちな「剣」とか「王冠」等と異なり、使用商品と密接なジョッキを持っている特色は、取引者・需要者の視覚に訴える印象的な部分である。
(エ)足部の差異
本件商標には、足先が描かれてなく、引用商標2等とは比べようもない異なった形態となっており、引用商標2等には、外周の四辺形を維持するためと思われる後ろ足の角張った構え及び手と足の間にこの間の空白を補うデザイン処理上と思われる、一般的動物描写では考え難い膝から毛のような意味不明の特異な物体が描かれている等、一見してこの差異が大きく印象される。
なお、上記ウにも記したように、dの鮮明図形76件中、足先の有無は73:3であって、例外の3件は全て被請求人関連にすぎず、他の紋章的図形には100%見当たらない特色である。
(オ)尻尾の差異
「後脚立ち姿のこの種ライオン図形」において尻尾を上げた形態は、上記ウに記したように105件全件が尻尾を上げて描かれており、この種紋章図形においては全くの「紋章の法則に則った」「慣用形態」でしかない。
これに対し、引用商標2等の、いかにデフォルメされたとはいえ、一般的にも自然界も含め動物描写ではあり得ない尻尾が二本に分岐された形状は、乙第2号証の記載「ライオンのなかには極めて特殊なもので有名なQueue fourche(キュー・フルシェ)といって、二本に分かれた尾を持つものがあり、」のように、極めて特徴的な図形として目を惹く部分である。
(カ)引用商標1及び使用商標1について
上記までは引用商標2等について述べたが、引用商標1及び使用商標1は、明確に描かれた「耳」、胸元まで垂らした「たてがみ」や、手及び足先に描かれた「爪」までの細部をも描き、精悍さを有している等、更に差異は多く、特に中央の「たてがみ」部分の印象において外観上大きく異なっている。
(キ)外観上の類否まとめ、
本件商標と引用商標等は、共に商品「酒類」関連であり、酒類の獅子紋章的図形183件中、日本企業の登録は64件(35%)も存在し(乙7の1)、日本国内でも数多く接する機会が多く、親しまれた図形となっている。
そこにおいて、請求人の「舌を出し、尻尾を上げて、左向きに起立する、一匹の獅子(ライオン)」なる慣用図形部分を連ねた指摘は、両商標を比較考量する的確な部分とはいえず、明確に相違する「足先の描写の有無」「手にジョッキの有無」「尻尾の分岐の有無」等を基本に、「外周の輪郭とのバランス」等で明確に識別可能な図形である。
オ 観念類似に対する反論
請求人は、観念類似の項においても、外観類似と全く同一文章で、「舌を出し、尻尾を上げて左向きに起立する一匹の獅子(ライオン)」という観念が生ずる、としている。
上記のごとく、これは、この種紋章的図形の極めて一般的にありふれた慣用形態部分を綴っただけであって、両商標の観念を比較するポイントとなるものではない。
せめて、「ジョッキを持った」とか「尻尾が分岐されている」とかを補完するのであれば理解できるとしても、一般にこのようなデフォルメされた動物からは、観念を導くことはできないと考えるのが自然である。
カ 称呼類似に対する反論
本件商標及び使用商標等は共に動物界のライオンを写実的に描いたものではなく、四肢の存在から動物を描いたことは理解できるものの、欧州中心の紋章に多く利用された図柄であり、日本国内企業にも多く用いられている実状から、「マークとして多く存するライオンをモチーフとした紋章的図形の一類型」と認識できる程度のもので、これより単なる動物としての「ライオン」を直ちにイメージする図柄ではない。
これは、審査主義を採り、類似商標の登録を排斥する日本の商標登録制度において、本件商標及び引用商標等が登録されている、28A02類似群を調べてみても、登録第4868980号商標「LION」(乙8)が、称呼・観念上「ライオン」印として唯一登録されており、本件商標及び引用商標並びに「獅子の紋章的図形」(乙7の1)183件が、同「LION」商標と非類似商標として重複して登録されている事実からも、両者共に「ライオン」や「シシ(獅子)」の称呼が直接生ずるような図形ではないことが明らかである。
したがって、「獅子」又は「ライオン」の称呼における両商標の類似を述べる請求人の主張は、全く当を得ない主張に他ならず、上記、観念の主張に対しても矛盾する主張である。
キ 審決例に関し
請求人の主張を裏付けるものとして請求人に都合のよい4件の審決例(甲7?甲10)が提出されているが、これらを含め過去の16件の審決例(乙9)を提出する。
この16件の審決には、本件商標はもちろん、引用商標1及び2も登場していないが、本件と引用の各商標の32の獅子紋章図が判断対象として掲載されており、本事件で請求人が類似を主張する、基本的構成の獅子の図との表現でこれら32図を見ると、
(ア)舌を出したもの 25図(78%)
(イ)尻尾をあげたもの 32図(100%)
(ウ)左向きのもの 30図(94%)
(エ)起立する一匹の獅子 32図(100%)
となっており、請求人の主張は、この種紋章図形にありふれた「慣用形態」の共通点を述べたにすぎないことが、これを見ても理解できる。
それに対し、
(オ)手に物を持つ 6図(19%)
(カ)足先の描写無し 0図(被請求人以外全く無し)
(キ)尻尾が分岐している 3図(1%)
のように、これらの点は極めて少数で、特色ある部分と考えられる。
また、このような審決は、それぞれ形態自体は異なるため、事案を異にする事例にすぎないが、非類似10件(67%)であり、ビール・洋酒・ワイン等の輸入が増加していることに鑑みても、この紋章図形の酒類商標は増加し、需要者の判断基準が益々細部へ移行しているものと思われる。
(2)商標法第4条第1項第10号について
請求人は、本件商標が使用商標等との関係で、商標法第4条第1項第10号に該当すると述べ、甲第11号証ないし甲第172号証を提出し、使用商標等が周知である旨を主張している。
この膨大な証拠中、「ライオン」なる表現が出ているのは、甲第11号証の「この『レーヴェンブロイ』ね、ライオン印、やっぱりドイツのビールだね。」と「アメリカでは、この獅子印がミュンヘン・ビールの代表としてことのほか受けた。」なる、アメリカの事情、たった1件の証拠が提出されている以外見当たらず、あとは、「レーヴェンブロイ」(以下独語表記は省略する)の「レーヴェン」が「獅子」の意味との解説が3ないし4か所ある程度であって、全ての証拠が「レーヴェンブロイ」なる商標又は社名の周知性を証明している資料にすぎず、使用商標等の周知を証明するものではない。
「レーヴェンブロイ」なる名称が日本国内でも周知・著名であることは被請求人も認めるものである。
このことは、国内の酒類で登録されている「獅子紋章図形商標」(乙7の1)を調べてみても(向かい獅子紋章が多いが)、各社とも「獅子紋章図形商標」を保有しており、これら登録商標の現実での使用の有無は明確ではないが、各社のそれぞれの代表的商標「サントリー」「キリン」「ニッカ」「サッポロ」「宝」「アサヒ」自体は極めて著名であることは、特許庁をはじめ顕著な事実と思われるが、共に使用されている紋章図形は、露出度は同程度であったとしても、各社・各商品が理解できるほど単独で著名となっているとは考えられない。
同様に、代表的商標「レーヴェンブロイ」の著名性の立証が、これに使用された紋章図形である使用商標の露出度と同程度としても、著名性が一致するものではなく、甲第11号証でさえ薄弱な資料であり、その他の証拠は全て「レーヴェンブロイ」名称の著名性を証する資料に他ならず、使用商標等紋章図形の周知・著名性を証するものは1件も見当たらない。
以上より、商標法第4条第1項第10号にも何ら該当しない。
(3)商標法第4条第1項第15号について
請求人は、本件商標と使用商標等とが、この種「紋章図形」の紋章の法則に則った「慣用形態」である特徴を並べただけの比較で類似するとしている。
これは、上記したとおり、沢山併存する「河童」の図形中にありながら、2者の比較において、「頭に皿を有し、背中に甲羅を、手に水掻きを有する、一匹の河童」なる主張を繰り返すに等しく、同一分野の他の商標にも概念として共通する「慣用形態」のみで2者の比較を行うことは、類否観察の基本を誤ったものでしかなく、類似に関する請求人の主張は全く当を得ない論である。
また、周知・著名性については、上記(2)において述べたごとく、「レーヴェンブロイ」についての著名性は立証されているものの、使用商標等に関する直接証拠は甲第11号証以外何ら見当たらず、これに関する主張も失当といわざるを得ない。
特に、甲第17号証ないし甲第22号証はアメリカでの事情であり、甲第23ないし甲第40号証はミュンヘンの事情であって、国内の取引者・需要者と直接的関連のない証拠で、単なる証拠の増量を図ったにすぎず、その後の130通の証拠としても、昭和58年(1983年)ないし2013年までの30年間の資料であり、年間5件程度の露出度を表明しているにすぎない。
さらに、出所の混同について、甲第169号証ないし甲第171号証を示し、本号に該当すると主張しているが、甲第169号証のみ、極めてそそっかしい者が国内にたった1名いたことを示す稀有な事実としても、甲第170号証及び甲第171号証の者は、何ら混同を生じている事実を証明するものではないこと明らかである。
これに対し、被請求人の「お客様センター」に寄せられた発売開始である2014年5月13日から10月31日までの需要者からの情報266件(乙10の1)の全てを見てもラベルに関するクレームは1件も寄せられていない。発売から期間は少ないものの、このようなクレームは発売当初にこそ多いものと考えられるところで、出所の混同が生ずるような気配さえうかがえないものである。
なお、レーヴェンブロイの販売量は、2003年ないし2013年で、33万函ないし62.7万函、最大でも2008年の78万函であり(甲60?甲69)、本件商標の「ホワイトベルグ」の販売量は、2014年5月ないし10月の半年間だけでも106万函(乙11)と大きな差異があり、その露出度も、詳細を個別に記すことは省略するが、発売後はほぼ連日、発売前から各種メディアを通じて行われており(乙12)、その数量からも長年を擁した請求人の商標の露出度年平均5回以下に比べ、本件商標の方が国内で周知・著名となっていることを自負するところである。このため使用商標等との差異は、余計明確に需要者が認識していると考えられるところである。
このような露出度であるにもかかわらず、上記のとおり出所の混同に関するクレームは勿論、紋章図形に関するクレームも全く見聞しておらず、請求人の主張は単なる杞憂に他ならない。
よって、商標法第4条第1項第15号にも該当しない。
(4)商標法第4条第1項第19号について
本号は、「同一・類似の商標」であることを前提とするものであり、上記のようにこの点において全く異なっており、類似範囲を超えたものであることを確信している。
また、本件商標を使用するビールがベルギーを中心とするホワイトビール系統であることより、「ベルギー国の国章」(乙5の1及び2)をヒントにしたが、かなり変更した図形であることにより、ベルギー大使館に問い合わせを行うも「we have no opinion and no advice to offer」なる回答を得、直接問題とされることはなかった。
本件商標の採択の実態は、被請求人の所有する商標登録第2622481号(乙6のNo85、乙7の3)の一部「ジョッキを持った獅子図形の右側図」をアレンジしたものであることは一目瞭然であって、何ら請求人の商標との類似を避けることこそすれ、これを参考にしたものではない。
以上のとおり、請求人の主張は、被害妄想的な過大な憶測に基づくものでしかない。
よって、商標法第4条第1項第19号にも該当しない。
(5)商標法第4条第1項第7号について
本号の適用についてまで、この種紋章図形の「紋章の法則に則った慣用形態」と考えられる、基本的構成の獅子の図の表現のみで両商標が特定しうるような主張を行っているが、これに対する反論は上記に十分述べたところであり、その他、公序良俗に反するような理由は全く見当たらない。
よって、商標法第4条第1項第7号にも該当しない。

第4 当審の判断
1 使用商標の周知性について
(1)請求人提出の甲各号証によれば、次のとおりである。
請求人が主張する使用商標1及び2は、上記第2、1(2)イのとおりであり、両者には枠内の色彩の有無、構成中の獅子がたてがみなど細部まで表わされたもの(使用商標1)とそれらが表されていないシルエット的なもの(使用商標2)といった差異があるものの、構成全体として極めて近似していること、請求人提出の甲各号証に表されている商標に使用商標1又は2と舌などの色彩が異なるものがあること、証左が不明瞭で使用商標1又は2のいずれかであるのか確認できないものがあることを考慮すれば、甲各号証で確認できる使用商標1及び2に加え、これらに極めて近似する商標を使用商標に含めて、周知性を判断するのが合理的である。
よって、以下、そのようにみることとし、そのようにみた商標を「本件使用商標」という。
ア 昭和54年7月10日発行の「世界のビール」(甲11)に「『レーヴェンブロイLowenbrau』(審決注:「o」と「a」の文字にはウムラウト記号が付されている。)の名は,ミュンヘンの名とともに高い。その獅子のマークの醸造所はすでに460年も昔からミュンヘンにあったが,もちろん当時は小さなビール工場だった。」「現在のレーヴェンブロイ社になったのは1826年で,・・・」「この『レーヴェンブロイ』ね,ライオン印,やっぱりドイツのビールだね。」の記載、1996年(平成8年)5月1日発行の「世界ビール大全」(甲12)に「ミュンヘンのブルワリーのなかでもっとも国際的に名が知られているのは、このレーヴェンブロイだろう。」の記載、1997年(平成9年)6月27日発行の日経ムック「ビール大事典」(甲13)の「レーベンブロイ」の項に「ビールの本場ドイツで生まれて600年。」の記載、2010年(平成22年)1月31日発行の「世界のビール図鑑」(甲14)に「レーベンブロイは世界的な有名ブランドの一つ。その歴史は500年以上。」の記載、2012年(平成24年)6月29日発行の「地球の歩き方 A14 ドイツ 2012?2013年版」(甲15)の「レーヴェンブロイ」の項に「ドイツでも大手の醸造所で、1383年創業。」の記載、2013年(平成25年)7月31日発行の「世界と日本のビール図鑑」(甲16)の「レーヴェンブロイ」の項に「ミュンヘンビールの王道ブランド。レーベンは獅子、ブロイは醸造所のこと。」、「・・・ドイツビールの伝統を約600年間守り抜いている。」及び「日本では1983年以降、アサヒビールがライセンス生産しており、国内でも手に入りやすい。」の記載がある。
そして、これらには、いずれも容器に本件使用商標と「LOWENBRAU」(審決注:「O」と「A」の文字にはウムラウト記号が付されている。)の文字とが表示されたビールの写真が掲載されている。
イ 「World Beer Cup 2012 Winners List」等(甲17?甲22)には、「Lowenbrau」(審決注:「o」と「a」の文字にはウムラウト記号が付されている。)「Lowenbrau Pils」が、米国及び英国で開催される国際的なビールのコンペティションで、1987年(昭和62年)、1990年(平成2年)、1992年(平成4年)、2006年(平成18年)及び2012年(平成24年)に金賞等を受賞した旨の記載がある。しかしながら、これらには本件使用商標は掲載されていない。
ウ 1997年(平成9年)12月ないし2014年(平成26年)4月発行の書籍等(甲23?甲33)に、毎年10月にミュンヘンで行われるビール祭り「オクトーバーフェスト」に、ミュンヘンの6大ビール醸造所の一つとして「レーベンブロイ」が出展されている旨の記載がある。
そして、2003年(平成15年)8月ないし2005年(平成17年)8月発行のガイドブック(甲31?甲33)やウェブページ(甲34、甲35)には「オクトーバーフェスト」の会場において、本件使用商標や「LOWENBRAU」(審決注:「O」と「A」の文字にはウムラウト記号が付されている。以下、大文字、小文字及びウムラウト記号の有無に係わらず、すべて「LOWENBRAU」という。)の文字が表されている、会場内の様子、ウェイトレスのユニホーム、グラスの写真が掲載されている。
エ 2003年(平成15年)4月ないし2014年(平成26年)8月に発行等された書籍、ウェブページ(甲24、甲25、甲36?甲40ほか)に、請求人が経営するビアホール「レーベンブロイケラー」が紹介された記事が掲載されている。
そして、ウェブページ(甲38?甲40)には「レーベンブロイケラー」の建物の外壁や入口、ビールジョッキに、本件使用商標や「LOWENBRAU」の文字が表されている写真が掲載されている。
オ 1983年(昭和58年)1月ないし7月に発行された新聞(甲41?甲47)に、アサヒビールが請求人と提携し、生ビール「レーベンブロイ」を同年4月から国内で製造・販売する旨の記事が掲載されている。しかしながら、これらには本件使用商標は掲載されていない。
カ 昭和62年6月4日発行の「DIME」(甲48)の「ビンビール106カタログ」の項に、本件使用商標と「LOWENBRAU」の文字が付されたビールの写真が掲載されている。
キ 2002年(平成14年)12月及び2003年(平成15年)2月に発行された新聞(甲49?甲58)に、2003年2月から販売を開始したノンアルコールビール「レーベンブロイ・アルコールフリー」についての記事が掲載されている。なお、これらの新聞には、本件使用商標と「LOWENBRAU」の文字と思われるラベルが付された同商品の写真が掲載されているものがある。
また、2010年(平成22年)8月の日経プラスワン(甲59)に、「ビール通が選んだビール風味飲料」で「レーベンブロイ アルコールフリー」が1位になった旨、本件使用商標と「LOWENBRAU」の文字が表されたラベルの付された同商品の写真と共に掲載されている。
ク 株式会社日刊経済通信社発行の「酒類食品統計月報」(甲60?69)における「主要輸入酒銘柄別輸入動向」及び「主要酒類銘柄別動向」で、輸入・販売者を「アサヒ」として、「LOWENBRAU」がビールの項で2005年(平成17年)ないし20013年(平成25年)に3位ないし6位として記載されている。しかしながら、これらには本件使用商標は掲載されていない。
ケ 株式会社日刊経済通信社発行の「酒類食品産業の生産・販売シェア」(甲70?甲74)における「ビール,発泡酒等(ビール類)の上位10銘柄販売状況」で、「LOWENBRAU(レーベンブロイ)」は、平成15年ないし平成24年(2012年)のいずれにもランクインしていない。
コ 1989年(平成1年)4月ないし1994年(平成6年)10月発行の新聞・雑誌(甲75?甲83)に、アサヒビール株式会社(以下「アサヒビール社」という。)による、本件使用商標及び「LOWENBRAU」の文字が表示されたビール瓶・缶・ビールジョッキの写真とともに同ビールの広告が掲載されている。
サ 昭和59年(1984年)11月ないし昭和63年(1988年)6月発行の新聞(甲84?甲88)に、アサヒビール社による「レーベンブロイ」の販売促進活動の記事が掲載されている。しかしながら、これらには本件使用商標は掲載されていない。
シ 平成2年(1990年)2月及び6月発行の新聞(甲90、甲91)には、アサヒビール社が同年4月から9月まで開かれる「国際花と緑の博覧会」にビアレストラン「レーベンブロイハウス」を出店したことが記載され、ウェブページ(甲92)には本件使用商標と「LOWENBRAU」の文字が「レーベンブロイハウス」壁面などに掲げられた写真が掲載されている。また、同博覧会には2,312万人の入場者があった旨の記載がある(甲89)。
ス 2003年(平成15年)3月ないし2007年(平成19年)9月発行の新聞(甲93?甲114)に、アサヒビール社が全国各地の工場で、いわゆるビアフェスティバルを開催し、そこで「レーベンブロイ」の試飲が提供されていた旨の記載がある。これらには本件使用商標は掲載されていないものの、参加者のブログには、本件使用商標と「LOWENBRAU」の文字が表されたビールグラスが掲載されたポスターの写真(甲115)及びビールグラスの写真(甲116)が掲載されている。
セ 1990年(平成2年)3月ないし2013年(平成25年)10月発行の新聞(甲118?甲144)に、全国各地で「オクトーバーフェスト」等ビールの各種イベントが開催され、そこで「レーベンブロイ」が販売等される旨の記事が掲載された。これらには本件使用商標は掲載されていないものの、それらイベントに係るウェブページ(甲145?甲162)には、本件使用商標と「LOWENBRAU」の文字が表されたビールグラスの写真、同グラスが掲載されたポスターの写真及び本件使用商標と「LOWENBRAU」の文字が掲げられたイベント会場の写真が掲載されている。
ソ 1997年(平成9年)6月発行の「ドイツ ジャガイモとビールと世紀末」(甲163)に「日本でもお馴染みのものにミュンヘンのレーヴェンブロイLOWENBRAU(ライオンビール)がある。」の記載、1998年(平成10年)4月発行の「世界のビール案内」(甲164)には「レーベンブロイ社の巨大なビアガーデンには・・・」の記載がある。しかしながら、これらには本件使用商標を確認できない。
また、2003年(平成15年)7月及び2004年(平成16年)7月発行の「ワールドガイド ドイツ」(甲165、甲166)の「ビールカタログ」と題したページに、本件使用商標と「LOWENBRAU」の文字が表されたビールが紹介されている。
タ 2014年5月9日発行の酒類産業年鑑2014の222頁、1983年の「出来事年表」(甲173)には、1月11日「朝日麦酒が西独ビール(レーベンブロイ)を日本国内で製造・販売すると発表。4月5日、発売。」との記載がある。しかしながら、これには本件使用商標を確認できない。
(2)上記(1)によれば、次の事実を認めることができる。
ア 請求人は、ドイツを本拠地とする600年以上の歴史を持つビールの製造・販売会社であり、遅くとも昭和54年には、本件使用商標と「LOWENBRAU」の文字をビールに使用していた(上記(1)ア)。
イ 請求人、請求人のビール醸造所、レーベンブロイケラー及びビール「LOWENBRAU」は、昭和54年頃から我が国のビールに係る書籍や旅行ガイドブック等で紹介された(上記(1)ア、ウ、エ、ソ)。
ウ 我が国においては、昭和58年(1983年)4月5日から、請求人とライセンス契約をしたアサヒビール社が、生ビール「レーベンブロイ」を販売し(上記(1)オ、タ)、当該生ビールには、当初から本件使用商標と「LOWENBRAU」の文字とが付されていたものと推認でき(上記(1)コ)、現在まで継続して使用されている。
エ アサヒビール社は、平成15年(2003年)からビール風味飲料「レーベンブロイ アルコールフリー」を輸入販売し、当該飲料は平成22年(2010年)8月の日経プラスワンによる「ビール通が選んだビール風味飲料」で1位になった。また、当該飲料には本件使用商標と「LOWENBRAU」の文字がラベルに表示されていた(上記(1)キ)。
オ 「LOWENBRAU」は、平成17年(2005年)ないし平成25年(2013年)の輸入ビールで3位ないし6位の輸入量であった(上記(1)ク)。なお、平成15年ないし平成24年の「ビール,発泡酒等(ビール類)の上位10銘柄販売状況」では、「LOWENBRAU(レーベンブロイ)」は、いずれの年もランクインしていない(上記(1)ケ)。
カ アサヒビール社は、平成2年(1990年)から現在まで継続して、いわゆるビアフェスティバル等ビールの販売促進のためのイベントを全国各地で開催し、又は参加し、当該イベントにおいて「LOWENBRAU(レーベンブロイ)」の広告・販売等を行っていた。また、それらイベントでは、会場、ビールグラス、ポスターなどに、本件使用商標と「LOWENBRAU」の文字とが表示されていたことがうかがえる。(上記(1)シ?セ)
キ 上記カのイベントは、新聞等で多数報じられたが、その際、当該ビールは「レーベンブロイ」と表記され、本件使用商標の掲載はほとんどされていない。
(3)上記(2)の事実を総合してみれば、「レーベンブロイ」、「LOWENBRAU」は、請求人(又はアサヒビール社)の業務に係る商品(ビールなど)を表示するものとして、本件商標の登録出願の日前から、我が国の需要者の間に広く認識されており、その状況は本件商標の登録査定の日はもとより現在まで継続しているものと認めることができる。
しかしながら、本件使用商標は、単独では使用されず(イベント会場でも「LOWENBRAU」の文字が使用されている。)、常に「LOWENBRAU」の文字と共に使用されていること、新聞等の記事では本件使用商標はほとんど掲載されていないこと、一般にビールには図形と文字とが併せてラベル等に表示されており、本件使用商標が単独で使用されていたことは想定し難いこと及び商品名で商品を識別、記憶することが一般的といえることをあわせ考慮すれば、本件使用商標は、請求人等の業務に係る商品を表示するものとして我が国の需要者の間にある程度認識されているといえるとしても、需要者の間に広く認識されているとまでは認めることはできない。
2 商標法第4条第1項第10号について
(1)本件使用商標が我が国の需要者の間に広く認識されているとは認められないことは、上記1(3)のとおりである。
(2)本件商標と使用商標との類否について
ア 本件商標と使用商標2との類否
(ア)本件商標は上記第1のとおりの構成、使用商標2は上記第2、1(2)イのとおりの構成からなるものであり、いずれもシルエット状に描かれた獅子又はライオン(以下、「獅子又はライオン」を単に「獅子」という。)の部分(手にする物を含む。以下同じ。)が取引者、需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものである。
(イ)そこで、本件商標と使用商標2のそれぞれシルエット状に描かれた獅子の部分を比較すると、両者は、いずれも「舌を突出し、尻尾を上げて左向きに起立する一匹の獅子」(基本的構成の獅子の図)を描いてなるものといえるとしても、その獅子は、一見して頭部の大きさ、胸部の太さが大きく異なっていることから、看者をして、前者は「頭部が大きくがっちりした獅子」、後者は「頭部が小さくほっそりした獅子」との異なった印象を与えるものであり、また、前者は後ろ足が途中で切れているのに対し、後者は切れていないほか、グラスの有無、尻尾の数も異にするものである。
そうとすれば、両者は、基本的構成の獅子の図からなるといえるものの、外観において、一見して異なった印象を与えるものであるから、時と所を異にして離隔的に観察しても、容易に区別し得るものと判断するのが相当である。
また、両者は、いずれも看者をして獅子を図案化したものと理解されるにとどまり、出所識別標識としての特定の称呼及び観念を生じないものと判断するのが相当であるから、称呼及び観念においても相紛れるおそれのないものというべきである。
してみれば、両者は、外観、称呼及び観念のいずれの点から見ても相紛れるおそれのない非類似のものであって、別異のものというべきものである。
(ウ)以上のとおり、両商標のシルエット状に描かれた獅子の部分は、非類似のものであって別異のものというべきものであって、さらに円形と隅丸四角形という外枠の形状の差異もあることから、本件商標と使用商標2とは、両者の構成全体からみても非類似のものであって、別異のものというべきものである。
イ 本件商標と使用商標1との類否
(ア)本件商標は上記第1のとおりの構成、使用商標1は上記第2、1(2)イのとおりの構成からなるものであり、いずれもその構成中獅子の部分が取引者、需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものである。
(イ)そこで、本件商標と使用商標1のそれぞれの獅子の部分を比較すると、両者は、上記ア(イ)の差異に加え、舌の色彩が異なること、たてがみの描写の有無及び爪の有無など、さらなる差異を有するものであるから、両者は外観において相紛れるおそれのないものというべきである。また、両者は、いずれも特定の称呼及び観念は生じないものであって、称呼及び観念においても相紛れるおそれのないものと判断するのが相当である。
してみれば、上記ア(ウ)と同様に、本件商標と使用商標1とは非類似のものであって、別異のものというべきものである。
(3)上記1(3)のとおり本件使用商標が我が国の需要者の間に広く認識されているものと認められず、上記(2)のとおり本件商標と使用商標とは非類似のものであって別異のものというべきものであるから、本件商標は商標法第4条第1項第10号に該当するものとはいえない。
3 商標法第4条第1項第11号について
引用商標は、上記第2、1(2)アのとおりの構成からなり、いずれもその構成中獅子の部分が取引者、需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものである。
そして、本件商標と引用商標とは、上記2(2)と同様の理由により、非類似の商標というべきものである。
したがって、本件商標と引用商標とは非類似の商標であるから、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当するものとはいえない。
4 商標法第4条第1項第15号について
上記1(3)のとおり、本件使用商標が請求人等の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたものとは認められないものであり、上記2(2)のとおり本件商標と使用商標とは相紛れるおそれのない別異のものであることから、本件商標は、商標権者がこれをその指定商品について使用しても、取引者、需要者をして使用商標を連想又は想起させることはなく、その商品が他人(請求人等)あるいはその者と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのごとく、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
なお、請求人は、本件商標が出所の混同を生じるおそれがあることの証左として、マークが似ている等と記載されたブログ(甲169?甲171)を提出しているが、ブログは誰でも自由気ままに記載することができるものであり証拠力が強いものとはいえず、かつ、わずか3件にすぎないから、上記判断を覆し得ない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものとはいえない
5 商標法第4条第1項第19号及び同項第7号について
上記2(2)のとおり本件商標と使用商標とは相紛れるおそれのない非類似の商標であって別異のものであり、上記4のとおり本件商標は、使用商標を想起又は連想させるものでもない。
そうとすれば、本件商標は、使用商標の名声にただ乗りするなど不正の目的をもって使用をするものと認めることはできない。
さらに、本件商標が、その出願及び登録の経緯に社会的相当性を欠くなど、公序良俗に反するものというべき事情も見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号及び同項第7号のいずれにも該当するものとはいえない。
6 むすび
以上のとおりであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号のいずれにも違反して登録されたものとはいえないから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効とすべきでない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲1(本件商標)(色彩は原本参照)


別掲2(引用商標1)


別掲3(引用商標2)(色彩は原本参照)


別掲4(使用商標1)(色彩は原本参照)


別掲5(使用商標2)(色彩は原本参照)


別掲6(登録第2622481号商標)




審理終結日 2016-05-27 
結審通知日 2016-06-01 
審決日 2016-06-27 
出願番号 商願2013-98753(T2013-98753) 
審決分類 T 1 11・ 262- Y (W3233)
T 1 11・ 22- Y (W3233)
T 1 11・ 261- Y (W3233)
T 1 11・ 271- Y (W3233)
T 1 11・ 222- Y (W3233)
T 1 11・ 263- Y (W3233)
T 1 11・ 25- Y (W3233)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大渕 敏雄 
特許庁審判長 土井 敬子
特許庁審判官 大森 健司
原田 信彦
登録日 2014-05-30 
登録番号 商標登録第5673730号(T5673730) 
代理人 特許業務法人R&C 
代理人 特許業務法人松田特許事務所 

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