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審決分類 審判 全部無効 商3条柱書 業務尾記載 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W28
管理番号 1320338 
審判番号 無効2015-890019 
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-03-02 
確定日 2016-09-26 
事件の表示 上記当事者間の登録第5699369号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5699369号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5599369号商標(以下「本件商標」という。)は、「OZMA」の文字を標準文字で表してなり、平成26年4月17日に登録出願、第28類「釣り具」を指定商品として、平成26年8月11日に登録査定、同年9月5日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が本件商標の登録無効の理由に引用する商標は、別掲(1)のとおりの構成よりなるものである。

第3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由を次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第18号証(枝番号を含む。)並びに別紙1及び2を提出した。
1 請求の理由
本件商標の登録は、以下の理由により、商標法第3条第1項柱書及び同法第4条第1項第10号に違反してされたものであるから、同法第46条第1項第1号により無効にすべきものである。
(1)商標法第3条第1項柱書について
ア 本件商標及び他の商標登録出願について
商標権者は、本件商標を平成26年4月17日に登録出願した(甲1)。その数日前には、「RAIGA」の文字よりなる商標を第28類「釣り具」を指定商品として登録出願した(甲3)。
また、本件商標の出願と同日には、「DRIFTER」、「RODEO」及び「ZORO」の各文字よりなる商標並びに請求人の会社名である「シービーワン」の文字よりなる商標(これらの商標について、以下、それぞれ「『DRIFTER』商標」、「『RODEO』商標」、「『ZORO』商標」、「『シービーワン』商標」という。)について、指定商品を「釣り具」として登録出願をした(甲4?甲7)。
イ 商標権者の警告
(ア)商標権者は、同人が代表者を務める有限会社RAIGA(以下「RAIGA社」という。)の名称をもって、平成26年2月27日頃に、請求人に対し、「RAIGA」に係る商品名に関する問い合わせを行い(甲8)、請求人が、平成26年3月12日付けの書面において、善意で使用したものである旨を回答した(甲9)。
(イ)その後、商標権者は、RAIGA社による平成26年3月14日頃発送の書面をもって、請求人に対し、「RAIGA」の文字よりなる商標(登録第4810612号:甲2、以下「別件商標1」という。)の商標権に基づいて、請求人の「RAIGA」及び「雷牙」の商標(以下「『RAIGA/雷牙』商標」という。)について、使用の中止を求める旨の警告をした。なお、同書面には、商標権者の2種類の名刺が添付されていた(甲10)。
しかし、別件商標1は、指定商品を「非鉄金属,原料プラスチック」(第1類)及び「塗料,染料,顔料」(第2類)とするものであり、ルアーを製造する際に使用する原材料ではあっても、製品としての「ルアー」について使用するものではないので、請求人は、代理人を通じて、平成26年3月31日付け書留内容証明郵便により、当該商標権の権利範囲でない旨の回答書をRAIGA社に送付した(甲11)。
(ウ)商標権者は、RAIGA社による平成26年10月2日頃発送の書面をもって、請求人に対し、「RAIGA」の文字よりなり、第28類「釣り具」を指定商品とする商標(登録第5695905号:甲3、以下「別件商標2」という。)のみならず、本件商標及び「DRIFTER」商標も登録した旨、並びに、請求人が「RAIGA/雷牙」商標の使用をしないことの確約書がもらえれば、本件商標及び「DRIFTER」商標を譲渡する旨を伝えてきた(甲12)。
請求人は、上記条件に従うべく、一時は「RAIGA/雷牙」商標の使用を中止し、他の2件については実費として出願手数料及び郵便費用を支払う旨、並びに、「RAIGA/雷牙」商標を付して既に出荷したルアーについては、対象外とすることを望む旨の回答をし、これに「誓約書」(案)を添付した(甲13)。
(エ)上記(ウ)の請求人の回答に対し、商標権者は、RAIGA社による平成26年11月15日付け書面をもって、請求人に対し、「RAIGA/雷牙」商標を付した出荷済みのルアー全品の回収とともに、既に出荷したルアーについての販売先等の報告を要求し、さらに当該報告に誤りが判明した場合は1個あたり1万円の違約金を請求することなどを内容とする「商標権示談契約書」2通を添付して通知した(甲14)。ちなみに、当該「商標権示談契約書」の商標権者側の当事者は、RAIGA社である。
請求人は、上記「商標権示談契約書」の条項修正を求める書面(甲15)を平成26年12月15日に発送したところ、請求人代理人(審決注:「商標権者代理人」の誤記と認める。)は、請求人に対し、平成27年1月20日付けで警告書を送付した(甲16)。
ウ 商標権者の商標登録の目的について
上記のように、商標権者は、請求人がルアーに表示した各種商標について、商標登録をしていないことを奇貨として、自ら商標登録出願をし、使用する意図がないにもかかわらず、登録を受けたものであることは明白である。
なお、請求人のホームページには、各商標を付したルアー(ただし、「RAIGA/雷牙」商標を付したものは前記警告を受けた際に削除した。)の画像が公開されており(甲17)、商標権者は当該ホームページから商標を選択したことは容易に推察される。
エ 商標法第3条第1項柱書の適用について
以上のとおり、商標権者は、自己が使用する意思がないにもかかわらず、専ら請求人に対する警告の根拠を取得する目的で、又は、譲渡する目的で登録出願し登録を受けたものといわざるを得ない。
このような目的で商標登録を受けることは、登録主義を前提とする我が国商標法を逆手に取ったものであり、商標の使用を通じて化体する業務上の信用を保護しようとする商標法の趣旨にもとる行為である。特に、商標権者のように、請求人が使用する商標を根こそぎ登録出願しそれらの登録を企むことは、まさに図利目的及び請求人に対する加害目的以外には考えられず、そのような目的をもって、商標登録を受けたものであるから、商標法の趣旨に反し、同法第3条第1項柱書の要件を満たしていないことは明らかである。
なお、上記要件の判断時は査定時であると解されるところ、前記のように、査定時はおろか現在に至るもルアーを製造販売することなく、自己で商標を使用する意思をも有していない。RAIGA社は、「ルアーキャスト」として、シリコーン樹脂などの原料プラスチック等に前記商標を付して販売しているようであるが、これらの使用は、本件商標に係る指定商品とは異なる非類似の商品であるのみならず、使用主体が権利者とは実質的に異なるものであり、到底ルアーについて商標権者が使用しているとはいい難い。
(2)商標法第4条第1項第10号について
ア 商標及び商品の類似性
本件商標は、「OZMA」の文字を標準文字で表した構成よりなるから、「オズマ」の称呼を生ずる。
引用商標は、「OZMA」の文字を横書にした構成よりなるから、「オズマ」の称呼を生ずる。
また、本件商標の指定商品中には「ルアー」が含まれる。
したがって、本件商標は、「ルアー」について使用する引用商標と同じ商品に使用する類似の商標である。
周知性について
引用商標を付したルアー(以下「請求人商品」という。)は、平成17年6月13日から使用を開始し、釣り師の間で「良く釣れるルアー」として話題となり、ヒット商品となった。その後も継続的に引用商標を使用することにより、会員数200名を超える釣りの愛好会等のユーザーの間で知られるに至った。その他にも、釣りに関係する者(釣り雑誌の編集者、ルアーメーカー、釣り具販売店、プロの釣り師及び遊漁船の船長)においても広く知られることとなった(甲18)。
また、請求人商品は、北海道地方から九州地方に至る全国の販売店で取り扱われ(別紙1及び別紙2)、遅くとも本件商標の登録出願時までには、全国的に周知であった。
したがって、請求人は、継続して引用商標を使用しており、かかる周知性は継続している。
ウ 以上のとおり、本件商標の登録出願の時及び登録査定時のいずれの時点においても、引用商標が周知であったことから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものである。

第4 被請求人の主張
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第29号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求人の提出に係る証拠について
甲第13号証及び甲第15号証は、原本であるのか写しであるのかは不明であるが、請求人が商標権者に発送した書面は、甲第13号証及び甲第15号証のものとは異なるから、これが請求人から商標権者に発せられた書面であるとの主張は明らかな虚偽である。
2 商標法第3条第1項柱書について
(1)商標権者の警告について
ア 商標権者が代表者を務めるRAIGA社は、平成17年7月27日から現在に至るまで、ルアー及びメタルジグと呼ばれる金属製ルアーの作成キットである商品「ルアーキャスト・スタータキット」(乙1、以下「RAIGA社製品」という場合もある。)の販売をしており、その際には、別件商標1及び別件商標2と同一の構成よりなる商標(以下「RAIGA社使用商標」という。)を付している(乙1?乙3)。そして、平成16年以降、約10年以上にわたり、RAIGA社製品は、本件商標(審決注:「本件商標」とあるのは、「RAIGA社使用商標」の誤記と解される。すなわち、乙4には本件商標の表示はなく、また、後記(3)アのとおり、被請求人は、商標権者は本件商標をその査定時に使用していなかった旨述べているからである。)とともに数多くの雑誌やテレビ等で取り上げられ、雑誌等における広告記事の掲載を積極的に行い、また、発明に係る受賞を受けた(乙4?乙14)。
したがって、商標権者は、RAIGA社製品に付しているRAIGA社使用商標が商標として周知であると認識していたから、RAIGA社製品が含まれる指定商品「釣り具」については商標権を保有せずとも、不正競争防止法(以下「不競法」という。)に基づき保護されると認識していた。
イ 以上の事情の下で、商標権者は、請求人が、そのホームページのルアー商品紹介サイトにおいて、商品の包装に、RAIGA社使用商標と同一の「RAIGA」及び類似の「雷牙」を付して広告等を行っている事実を発見した(乙15、乙16)。さらに、YAHOO!のショッピングサイトで「RAIGA」を検索すると、RAIGA社製品に加え、請求人の商品も複数抽出された(乙17)。
以上の状況から、商標権者は、請求人に対し、「RAIGA/雷牙」商標の使用状況を問い合わせた(甲8)。
これに対し、請求人は、「RAIGA/雷牙」商標の使用を認める一方で、謝罪及び使用中止に関しては何ら言及しなかった(甲9)。
そのため、商標権者は、請求人に対し、再度の警告により、「RAIGA/雷牙」商標の使用中止を求めた(甲10の1)が、請求人は、別件商標1(甲2)との類否に言及するのみで、自身の行為が不競法第2条第1項第1号に規定する「不正競争」に該当することについては何ら言及せず、また、「RAIGA/雷牙」商標の使用中止もしなかった(甲11)。そのため、商標権者は、RAIGA社使用商標が商標権者の商標として周知であるとの客観的な判断を求めるための1つの手段として、特許庁に、指定商品「釣り具」について「RAIGA」を登録出願し登録を受けた(甲1。審決注:「甲3」(別件商標2)の誤りと解される。)。また、同時に、本件商標及び「DRIFTER」商標についても、将来の使用可能性を考慮して登録出願し登録を受けた。
そこで、商標権者は、別件商標2に基づき、請求人に対し、「RAIGA/雷牙」商標の使用中止及び商品名の変更並びに不競法に基づく訴えを提起する準備がある旨を伝え、同時に、請求人が「RAIGA/雷牙」商標の使用をしないとの確約が得られれば、本件商標及び「DRIFTER」商標を請求人に譲渡する意思を伝えた(甲12)。
これに対し、請求人は、甲第13号証にあるとおり、「RAIGA/雷牙」商標の使用中止、本件商標及び「DRIFTER」商標の請求人への移転希望を商標権者に伝えた。一方で、請求人は、小売店が保有する在庫分については、「RAIGA/雷牙」商標を使用継続する意思があることを伝えてきた。この点につき、商標権者は、小売店が保有する在庫分については、請求人がメーカーとして当然の責任として回収すべきと考えていたが、商品の回収に当たっての請求人の負担を考慮して、商品の回収に協力する意思を請求人に伝えるとともに、今後請求人が別件商標2(審決注:「RAIGA/雷牙」商標の誤記と認める。)を使用しないための確約を得る目的で、商標権示談契約書を請求人に送り、問題の解決に積極的に取り組んでいた(甲14)。
ところが、請求人は、甲第15号証にあるとおり、商標権示談契約書に記載の内容のうち、主に小売店の在庫分の回収に関する条項は対応できないため、商標権示談契約書の内容修正を商標権者に依頼した。商標権者は、小売店の在庫分の回収に協力する意思を請求人に伝え、問題解決に向けて譲歩をしたにもかかわらず、それを拒み別件商標2(審決注:「RAIGA/雷牙」商標の誤記と認める。)を使用し続けようとする請求人の態度に失望し、当事者同士のやり取りでは問題の解決に至らないと判断し、弁護士に相談の上、警告書を送付した(甲16)。
(2)商標権者の商標登録の目的について
前記のとおり、商標権者は、RAIGA社使用商標が商標権者の商標として周知であることの客観的な判断を求めるための1つの手段として、また、請求人に「RAIGA/雷牙」商標の使用中止を求めるため、特許庁に、別件商標2(甲3)を登録出願し登録を受けたものであり、請求人が主張するような図利加害の目的がないことは明らかである。
(3)商標法第3条1項柱書の適用について
ア 本件商標の使用の意思について
前記のとおり、RAIGA社は、平成17年7月27日から現在に至るまで、継続的にRAIGA社製品及びこれに関連する商品にRAIGA社使用商標を付して販売している(乙2)が、本件商標については査定時には使用していなかった。
しかし、上記のとおり、RAIGA社は、RAIGA社製品を販売している事実があり、また、「釣具の輸出入及び販売」を事業の1つとしている(乙20)。
したがって、RAIGA社が、指定商品「釣り具」に係る業務について法令上制限されているわけではなく、指定商品「釣り具」に係る業務を行わないことが明らかな事情は存在しない。
以上より、商標権者は、将来において指定商品「釣り具」について、本件商標を使用する意思を十分に有している。
イ 図利加害目的について
請求人は、本件商標について、商標権者が使用する意図がないにもかかわらず、請求人のホームページから商標を選択し、譲渡等の目的で登録を受けたものであり、図利加害の目的以外には考えられない違法な行為であると主張する。
前記のとおり、商標権者は、本件商標について、少なくとも将来における使用意思は十分に有している。また、「オズマ」の称呼を生ずる登録商標は、本件商標を除けば、少なくとも9件存在し(乙21)、商標権者が、請求人のホームページから適当な商標を選択して本件商標を登録出願をしたとの主張は、自己に都合のよい身勝手な主張といわざるを得ない。また、たとえ商標権者が請求人のホームページに掲載されていた「OZMA」を選択し商標登録出願をしたとしても、そもそも商標とは選択物であるから、それのみをもって何ら違法性があるわけではない。さらに、商標権者は、請求人が主張するような譲渡等の目的をもって本件商標の登録を受けたという事情も何ら存在しない。
ウ 商標権者の販売する商品について
請求人は、RAIGA社製品は、本件商標の指定商品とは非類似であるため、RAIGA社は、本件商標を使用していないと主張する。
RAIGA社製品は、「シリコン2001(1KG)、ルアーキャスト、プラスティックブロック型(型の外枠に使用)、締金具(小)、離型剤、型取り粘土、説明書」を1セットにし、プラスティックルアーを手軽に手作りできる商品であり、誰でも手軽に「ルアー」を作ることができる製作キットである(乙1?乙3、乙22?乙26)。
したがって、RAIGA社製品は、本件商標の指定商品に含まれると解される。
エ よって、本件商標は、商標法第3条1項柱書に違反して登録されたものではない。
3 商標法第4条第1項第10号について
(1)本件商標と引用商標とが類似することについては争わない。
(2)引用商標の周知性について
ア 釣り関係者の証明書(甲18)について
これら証明書の大半は、請求人が予め準備したほぼ同内容の定型文章による証明願いに、各人が署名・捺印したものにすぎず、各証明者が、如何なる根拠に基づいて、かつ、引用商標を自他商品の識別機能としての商標として理解した上で証明したものか必ずしも明らかとはいえない。仮にこれら証明書が信頼できる証拠たり得ても、本件商標の出願時及び査定時における日本国内の釣り人口は、少なくとも約700万人以上存在すると予想され(乙27)、上記証明書は、そのうちのわずか36名分にすぎず、周知性を認定するに至らない証拠であることは明らかである。
イ 請求人商品の販売数量(別紙1)について
請求人商品の販売数量は、比較データが示されていないため、周知性を認定するための証拠として不十分であり、客観的な証拠に基づいて判断すると(乙27?乙29)、その販売シェアはごく少額である。
ウ その他
商標が周知性を獲得するためには、多額の宣伝広告費を投じ、長期間にわたって各種媒体を介して繰り返し使用される等の事実が必要であるところ、請求人は、引用商標が周知であると主張するのみで、具体的な使用事実を何ら提出しておらず、引用商標が周知性を獲得しているものとはいえない。
(3)以上のとおり、本件商標の登録出願の時及び登録査定時において、引用商標は、取引者・需要者に広く認識されていたということはできないから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当するものではない。
4 むすび
以上の理由により、本件商標は、商標法第3条第1項柱書、同法第4条第1項第10号の規定に違反して登録されたものではない。

第5 当審の判断
1 商標法第3条第1項柱書について
(1)商標法第3条第1項柱書きは、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。」と規定し、登録出願に係る商標が、その出願人において「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」であることを商標の登録要件の一つとして定めている。しかるところ、商標法第1条が「この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。」と規定していることなどに鑑みると、商標法は、商標の使用を通じてそれに化体された業務上の信用が保護対象であることを前提とした上で、出願人が現に商標を使用していることを登録要件としない法制(いわゆる登録主義)を採用したものであり、その上で、商標法第3条第1項柱書きが、出願人において「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」であることを商標の登録要件とした趣旨は、上記のような法制の下において、他者からの許諾料や譲渡対価の取得のみを目的として行われる、いわゆる商標ブローカーなどによる濫用的な商標登録を排除し、登録商標制度の健全な運営を確保するという点にあるものと解される。そして、このような法の趣旨に鑑みれば、商標法第3条第1項柱書きの「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」とは、出願人が自己の業務に現に使用する商標又は近い将来において自己の業務に使用する意思がある商標であることを要し、また、ここでいう「自己の業務に使用する意思がある」といえるためには、単に出願人が主観的に使用の意図を有しているというのみでは足りず、自己の業務での使用を開始する具体的な予定が存在するなど、客観的にみて、近い将来における使用の蓋然性が認められることを要するものと解するのが相当である(東京地方裁判所平成22年(ワ)第11604号判決)。
上記判示を踏まえ、本件について、以下検討する。
(2)本件において、請求人は、商標権者は「自己の業務に係る商品」に本件商標を使用していない旨を主張するので、まず、この点について検討する。
本件商標の指定商品は、前記第1のとおり、「釣り具」とするものであるところ、証拠によれば、以下の事実を認めることができる。
ア RAIGA社及びRAIGA社製品について
(ア)RAIGA社の履歴事項全部証明書(平成27年3月18日福岡法務局証明:乙20)によれば、RAIGA社は、福岡県中央区鳥飼に本店を置き、「塗料、型取り材料、ウレタン樹脂等の注型材料の研究・開発及び製造・販売。絵画、彫刻、室内装飾品、服飾雑貨、インテリア小物、書画、骨董品、スポーツ用品、釣具の輸出入及び販売。」等を目的として、平成16年6月23日に設立された有限会社ディスプレイオフィス(以下「ディスプレイオフィス社」という。)より平成17年7月27日に商号変更した会社であって、その代表取締役を三吉秀征(商標権者)とするものである。
(イ)RAIGA社の前身であるディスプレイオフィス社(又はその前身であるディスプレイオフィス来画)は、「ライガ/来画」の表示のもとに、平成12年9月頃ないし平成15年頃、「ルアー製作用キット・ルアーキャスト」等と称するルアーの製作キットの製造販売を行っていた(乙5の3、乙6の1、乙6の2、乙6の5)。
また、RAIGA社は、平成25年5月頃、ディスプレイオフィス社と同様に、「ルアーキャスト・スターターキット」(RAIGA社製品)と称するルアーの製作キットの製造販売を行っていた(乙4の1)。
したがって、RAIGA社は、その前身であるディスプレイオフィス社(又はその前身であるディスプレイオフィス来画)の時代を通して、ルアーの製作キットの製造販売を行っていたと認めることができる。
そして、別件商標1と同様の構成態様からなるRAIGA社使用商標は、平成12年9月頃から、ディスプレイオフィス来画が「何と15分でそのルアーのコピーが出来上がる」として「ルアー製作キット・ルアーキャスト」の容器に使用していたことを認めることができる(乙5)。また、発行日や出典が不明ではあるが、「ルアーキャストでお気に入りルアーを作ろう」と題する記事(乙4の9)の末尾において、「15分で完成。手軽なオリジナルルアーキット/発売元:ディスプレイオフィス」等の文字とともに、別件商標1と同様の構成態様からなるRAIGA社使用商標が表示され、さらに、平成25年5月頃、RAIGA社の「(2)耐熱シリコン(1kg)」及び「(3)シリコン(1kg)」の包装容器には、別件商標1と同様の構成態様からなるRAIGA社使用商標が表示されていることが認められる(乙4の1、2頁、3頁)。
なお、「発明ライフ」(平成12年9月1日発行:乙4の4)には、商標権者に関連した記事の中で「最近はどこの釣り店にもルアーメイキングのコーナーがある。これらのコーナーでルアーキットを売ることにした。1セットは、9,800円。」との記載が認められる。
(ウ)以上によれば、商標権者がRAIGA社の代表取締役であることについては、当事者間に争いがないところ、RAIGA社は、「釣具の輸出入及び販売」を目的の一つとして平成16年6月23日に設立された会社(平成17年7月27日にディスプレイオフィス社より商号変更)である。そして、商標権者が開発したルアー製作キットは、平成12年9月頃から、RAIGA社の前身のディスプレイオフィス社又はディスプレイオフィス来画が、その業務に係る商品「ルアー製作キット・ルアーキャスト」として、別件商標1と同様の構成態様からなるRAIGA社使用商標を付して、その製造販売を行っていたこと、RAIGA社と社名を変更した後も、「ルアーキャスト・スターターキット」(RAIGA社製品)なる商品中の少なくとも「シリコン」に、別件商標1と同様の構成態様からなるRAIGA社使用商標を付して、その製造販売を行っていたことをそれぞれ認めることができ、請求人及び被請求人の提出に係る証拠によれば、RAIGA社等の製造販売に係るルアーの製作キットにRAIGA社使用商標以外の商標を使用したと認めるに足りる証拠は見いだせない。加えて、RAIGA社の製造販売に係る「ルアーキャスト・スターターキット」(RAIGA社製品)は、ルアーの製作キットであって、ルアーが釣り具の一つであり、また、RAIGA社製品が釣具店で販売されている事実があることも考慮すると、本件商標の指定商品「釣り具」の範ちゅうに属する商品とみるのが相当である。
一方、一般的に登録商標を有する商標権者が、自己の営業に係る会社に当該登録商標の使用を黙示的に許諾する場合が多いことは、商取引の実情に照らして明らかといえる。そして、本件における商標権者とRAIGA社とは、代表取締役とその営業に係るRAIGA社の関係にあるから、商標権の使用許諾制度を採用している現行法においては、商標法第3条第1項柱書にいう「自己の業務に係る商品について使用をする」における「自己の業務」には、RAIGA社のような立場にある者は、商標権者と同一視できるとみて差し支えないといえる。
したがって、本件における商標権者は、本件商標の登録査定時(平成26年8月11日)において、自己が代表取締役となっているRAIGA社の業務であるルアーの製作キットの製造販売、すなわち、本件商標の指定商品に係る業務を行っていたものと認めることができるから、商標権者は、「自己の業務に係る商品」に、別件商標1と同様の構成態様からなるRAIGA社使用商標を使用していたということができる。しかし、商標権者ないしRAIGA社が、本件商標の登録査定時において、「自己の業務に係る商品」に本件商標を使用したと認めるに足りる証拠はなく、商標権者ないしRAIGA社が本件商標の登録査定時に「自己の業務に係る商品」について本件商標を使用していなかったことについては、被請求人も自認しているところである。
(3)次に、被請求人は、商標権者は、将来において指定商品「釣り具」について、本件商標を使用する意思を十分に有している旨主張するので、商標権者が本件商標をその業務に係る商品に使用する意思があり、かつ、本件商標が近い将来において使用する予定のある商標に該当するか否かについて、以下検討する。
ア 請求人の提出した証拠によれば、以下の事実を認めることができる。
(ア)商標権者の有する登録商標及び登録出願した商標
a.別掲(2)のとおり、「RAIGA」の文字を手書き風に横書きした構成よりなり、平成16年2月9日に登録出願、第1類「非鉄金属,原料プラスチック」及び第2類「塗料,染料,顔料」を指定商品として平成16年10月15日に設定登録された登録第4810612号商標(別件商標1:甲2)。
b.上記a.に記載した商標と同一の構成よりなり、平成26年4月3日に登録出願、第28類「釣り具」を指定商品として平成26年8月22日に設定登録された登録第5695905号商標(別件商標2:甲3)。
c.「OZMA」の文字を標準文字で表してなり、平成26年4月17日に登録出願、第28類「釣り具」を指定商品として平成26年9月5日に設定登録された登録第5699369号商標(本件商標:甲1)。
d.「DRIFTER」の文字を標準文字で表してなり、平成26年4月17日に登録出願、第28類「釣り具」を指定商品として平成26年9月5日に設定登録された登録第5699368号商標(「DRIFTER」商標:甲4)。
e.「RODEO」の文字を標準文字で表してなり、第28類「釣り具」を指定商品として、平成26年4月17日に登録出願をした商願2014-30100(「RODEO」商標:甲5)。
f.「ZORO」の文字を標準文字で表してなり、第28類「釣り具」を指定商品として、平成26年4月17日に登録出願をした商願2014-30101(「ZORO」商標:甲6)。
g.「シービーワン」の文字を標準文字で表してなり、第28類「釣り具」を指定商品として、平成26年4月17日に登録出願をした商願2014-30097(「シービーワン」商標:甲7)。
(イ)請求人の使用する商標
請求人のホームページの「CB ONE LURES」のサイト(2015年1月21日にプリントアウトされたもの:甲17)によれば、「DRIFTER」、「Rodeo」、「Zorro」、「OZMA」の各文字よりなる商標が付されたルアーが掲載されている。ただし、上記各商標を付したルアーがいつ頃から請求人のホームページに掲載されたのかは明らかではない(なお、請求人は、「RAIGA/雷牙」商標を付したルアーについては、商標権者からの警告を受けた際に削除した旨主張している。)。
(ウ)RAIGA社又は商標権者が請求人に送付した警告書等及び請求人の回答
a.RAIGA社は、請求人に対し、RAIGA社は、ルアーやジグの製作用材料の商標として「RAIGA」を使用しているところ、顧客からルアーやジグの販売も行っているのかとの指摘を受け、調査した結果、インターネット上で「RAIGA」(雷牙)なるルアーが出回っていることが判明したこと、請求人は、いつ頃から当該商品名を採用したのか回答を求めることなどを内容とする書面を送付した(甲8。ただし、当該書面には作成日等の記載はない。)。
b.請求人は、上記a.の書面に対し、2014年(平成26年)3月12日付けで、請求人は、設立当初からルアーの販売を行っており、「RAIGA/雷牙」商標を付したルアーも長年販売していること、「RAIGA/雷牙」商標は請求人が独自に考案したものであり、請求人の取り扱う商品には、包装等に社名を付して他社の商品と混同を生じないように気をつけていることなどを内容とする書面をRAIGA社に送付した(甲9)。
c.RAIGA社は、上記b.の書面に対し、請求人の商品に使用される「RAIGA/雷牙」商標は、RAIGA社の有する別件商標1の商標権を侵害している旨を内容とする書面を請求人に送付した(甲10の1。ただし、当該書面には作成日等の記載はない。)。また、RAIGA社は、「来画/RAIGA」(「RAIGA」の文字は別件商標1と同一の構成よりなる。)の文字が表示され、RAIGA社の代表取締役としての商標権者の名刺も同時に送付した(甲10の2)。
d.請求人は、代理人を通して、上記c.の書面に対し、平成26年3月31日付けで、請求人が「RAIGA/雷牙」商標を使用している商品は、ルアーであり、別件商標1の商標権の効力範囲に属さないから、RAIGA社の指摘には法的根拠がない旨を内容とする書面をRAIGA社に送付した(甲11)。
e.RAIGA社は、請求人に対し、「RAIGA/雷牙」商標は、別件商標2と類似する商標であるから、商品名の変更をすることを要求する旨、「DRIFTER」商標及び本件商標も登録を受けたので、「RAIGA/雷牙」商標を使用しないという確約がもらえれば、上記「DRIFTER」商標及び本件商標は、実費で請求人に譲渡してもよい旨を内容とする書面を送付した(甲12。ただし、当該書面には作成日等の記載はないが、甲13には、当該書面が「平成26年10月2日付け」である旨の記載がある。)。
f.請求人は、上記e.の書面に対し、平成26年10月○日(日の記載はなく、「○」(まる)が記載されている。)付け書面をもって、請求人が「RAIGA/雷牙」商標を使用したルアーを販売する行為は、商標権者の有する商標の商標権を侵害することはないと考えるが、平成25年9月に複数の小売店に計300個のルアーを販売した後は当該ルアーの販売を行っておらず、また、請求人のホームページから「RAIGA/雷牙」商標を付したルアーを削除した旨、上記ルアーを販売した小売店には、その在庫があると思われるが、当該在庫に限って商標使用中止の対象外とすることを要求する旨、商標権者の有する「DRIFTER」商標及び本件商標を実費で譲り受ける旨などを内容とする書面及びその内容を記載した誓約書(案)を添付してRAIGA社に送付した(甲13)。
なお、甲第13号証について、被請求人は、原本であるのか写しであるのかは不明であるとの主張をするとともに、RAIGA社の平成26年10月2日付け書面(甲12)に対する請求人の回答は、甲第13号証のものとは異なるから、これが請求人から商標権者に発せられた書面であるとの主張は明らかな虚偽である旨主張する。しかし、甲第13号証は、その日付が、上記のとおり、「平成26年10月○日」と記載されているところから、少なくとも原本であるとは考えられないが、請求人は、当該書面に関し、「請求人から商標権者に発せられた書面である」との積極的な主張はしていないばかりか、その内容に関して、被請求人は、前記第4の2(1)イにおいて、「甲第13号証にあるとおり、請求人は、『RAIGA/雷牙』商標の使用中止、本件商標及び『DRIFTER』商標の請求人への移転希望を商標権者に伝えた。一方で、請求人は、小売店が保有する在庫分については、『RAIGA/雷牙』商標を使用継続する意思があることを伝えてきた。」と述べているのであるから、仮に甲第13号証が実際に請求人から商標権者に発せられた書面そのものではないとしても、被請求人は、甲第13号証に記載された内容がRAIGA社の平成26年10月2日付け書面(甲12)に対する請求人の回答内容と実質的に同一であると認めていると判断することができる。したがって、上記に関する被請求人の主張は理由がない。
g.RAIGA社は、上記f.の書面に対し、平成26年11月15日付け書面をもって、小売店に販売した「RAIGA/雷牙」商標を付したルアーの在庫分について、回収等をして、「RAIGA/雷牙」商標が表に出ないよう努力すべきであり、請求人にとって、それが負担となるのであれば、RAIGA社も協力する旨を記載した書面及び商標権示談契約書2通(同一のもの)を請求人に送付した(甲14)。
また、商標権示談契約書の条項は、以下のとおりである。
第1条 乙(審決注:請求人、以下同じ。)は甲(審決注:RAIGA社、以下同じ。)の保有する商標RAIGAの名称がついた釣り具を今後販売しないものとする。
第2条 乙は小売店に対して告知しRAIGAのついた商品の回収もしくはパッケージの変更などでRAIGAの名称が出ないように本契約締結後3ケ月以内に終了するものとする。
第3条 乙は上記の商品を回収および改名終了後、書面による報告をすること。
第4条 乙は終了報告書を提出後、乙のRAIGAルアーが販売された場合、処置報告をすること。
第5条 乙が販売した300個のRAIGAルアーについて販売先、個数、日時を報告すること。もし、それ以外にRAIGAのルアーが販売されていることが判明した場合、1個につき壱萬円の違約金を甲に支払うものとする。
第6条 本契約が守られなかった場合、乙は甲に対し、それにかかった損害を補償する。
h.請求人は、上記g.の書面に対し、平成26年 月 日(月日の記載欄は空欄である。)付け書面をもって、商標権示談契約書の第2条ないし第5条を削除することを要求する旨、及び「DRIFTER」商標及び本件商標は、請求人が使用している重要な商標であるから、これらを他人に対価を払って譲り受けることは妥当ではないので、商標権者がこれらの商標を放棄(登録抹消)することを商標権示談契約書に加えることを要求する旨を内容とする書面をRAIGA社に送付した(甲15)。
なお、甲第15号証について、被請求人は、甲第13号証と同様の主張をするが、甲第15号証は、その日付が、上記のとおり、「平成26年 月 日」と月日の欄が空欄であるところから、少なくとも原本であるとは考えられないが、請求人は、当該書面に関し、「請求人から商標権者に発せられた書面である」との積極的な主張はしていないばかりか、その内容に関しては、被請求人は、前記第4の2(1)イにおいて、「請求人は、甲第15号証にあるとおり、商標権示談契約書に記載の内容のうち、主に小売店の在庫分の回収に関する条項については対応できないため、商標権示談契約書の内容修正を商標権者に依頼した。」旨述べているのであるから、仮に甲第15号証が実際に請求人から商標権者に発せられた書面そのものではないとしても、被請求人は、甲第15号証に記載された内容がRAIGA社に送付された書面と実質的に同一のものであると認めていると判断することができる。したがって、上記に関する被請求人の主張は理由がない。
i.商標権者は、代理人を通して、2015年(平成27年)1月20日付け警告書をもって、請求人が「RAIGA」、「DRIFTER」、「OZMA」の各商標を付した釣り具を販売する行為は、商標権者の有する商標の商標権を侵害する行為であるから、これら標章を付した釣り具の販売を中止することを要求する旨を請求人に通知した(甲16)。
イ 前記アによれば、商標権者は、インターネット検索等において、請求人がその業務に係るルアーについて使用する「RAIGA/雷牙」商標の存在を知り、その上で、RAIGA社の業務に係る商品「ルアーキャスト・スターターキット」(RAIGA社製品)や請求人の業務に係る商品が別件商標1の商標権の範ちゅうに属する商品であると考え、請求人に対し、RAIGA社名義の書面をもって、「RAIGA/雷牙」商標の使用時期等の回答を求める書面を送付したり(甲8)、「RAIGA/雷牙」商標が別件商標1の商標権を侵害している旨を内容とする書面を送付した(甲10の1)ものと推認され、また、請求人の業務に係るルアーが別件商標1の商標権の範ちゅうに属しない商品であるとの請求人からの指摘を受けた(甲11)後に、釣り具を指定商品とする別件商標2の登録出願を行い(甲3)、その後、続け様に、請求人のホームページに掲載されていたルアーに付された商標と類似すると認められる本件商標、「DRIFTER」商標、「RODEO」商標、「ZORO」商標及び請求人の略称を表すと認められる「シービーワン」商標の登録出願を行った(甲1、甲4?甲7)ものと推認することができる。このことは、登録を受けた「DRIFTER」商標及び本件商標について、RAIGA社名義の書面をもって、これらの商標の登録を受けたこと及び請求人が「RAIGA/雷牙」商標を使用しないとの確約をすればこれらの商標を請求人に実費で譲渡する意思があることをわざわざ請求人に知らせてきたこと(甲12)からも首肯し得るところである。
してみると、商標権者ないしRAIGA社は、RAIGA社製品について、RAIGA社使用商標を継続して使用し続けてきたこともあり、商標権者が別件商標2の登録出願を行うことは合理的といえるとしても、それ以外に請求人のホームページに掲載されていたルアーに付された商標と類似すると認められる本件商標、「DRIFTER」商標、「RODEO」商標、「ZORO」商標、あるいは、請求人の略称を表すと認められる「シービーワン」商標の登録出願をし登録を得ようとする商標権者の行為は、ただ単に、請求人の使用する「RAIGA/雷牙」商標の使用中止を要求する交渉において自己に有利に展開する又は請求人の業務を妨害するなどの目的をもってしたにすぎず、少なくとも本件商標については、その登録査定時においてはもちろんのこと、その後の近い将来においても使用する意思はなかったものと推認せざるを得ない。
そして、本件商標は、平成26年8月11日に登録査定がされたものであるところ、商標権者は、本件審判の審決に至るまで、本件商標をRAIGA社製品やその他の釣り具について、使用を開始する具体的な予定が存在する又は使用を開始した事実を明らかにする証拠を何ら提出していない。
してみると、本件商標は、RAIGA社ないし商標権者により近い将来においても、その指定商品「釣り具」について使用される予定のある商標ということはできない。
したがって、本件商標は、その登録査定時において、商標権者が現に自己の業務に係る商品に使用していた商標に該当せず、将来自己の業務に係る商品に使用する意思のある商標にも該当しないものというべきである。
(4)被請求人の主張について
ア 被請求人は、判決及び審決(乙18、乙19)を示し、RAIGA社が、指定商品「釣り具」に係る業務について法令上制限されているわけではなく、指定商品「釣り具」に係る業務を行わないことが明らかな事情は存在しないから、商標権者は、将来において指定商品「釣り具」について、本件商標を使用する意思を十分に有している旨主張する。
確かに、RAIGA社が指定商品「釣り具」に係る業務を行うことについて、法令上制限されているとうかがわせる証拠は見いだせない。しかし、被請求人は、将来において指定商品「釣り具」について、本件商標を使用する意思を十分に有している旨を主張するのみで、前記(3)認定のとおり、商標権者が、本件商標の登録査定時から本件審判の審決に至るまで、本件商標をその業務に係る商品「ルアーキャスト・スターターキット」(RAIGA社製品)やその他の釣り具について、使用を開始する具体的な予定が存在する又は使用を開始した事実を明らかにする証拠を何ら提出していないのであるから、上記被請求人の主張は理由がなく、採用することができない。
イ 被請求人は、現在特許庁に登録されている登録商標で、「オズマ」の称呼を生ずるものは複数存在するため、商標権者が請求人のホームページから適当な商標を選択して本件商標を登録出願をしたとの請求人の主張は、自己に都合のよい身勝手な主張といわざるを得ない旨主張する。
しかし、商標権者は、請求人のホームページに掲載されていたルアーに付された商標と極めて類似する本件商標、「DRIFTER」商標、「RODEO」商標、「ZORO」商標のみならず、請求人の略称と認められる「シービーワン」商標をも登録出願した事実があること、並びに、商標権者が本件商標及び「DRIFTER」商標の登録後、請求人が「RAIGA/雷牙」商標を使用しないとの確約をすればこれらの商標について譲渡する意思があることをわざわざ請求人に知らせてきたことからすれば、請求人のホームページに掲載されているルアーに使用されている商標を閲覧した上で、これらの商標を先取り的に登録出願したことは優に推認することができる。
さらに、被請求人は、たとえ商標権者が請求人のホームページに掲載されていた「OZMA」を選択し商標登録出願をしたとしても、そもそも商標とは選択物であるから、それのみをもって何ら違法性があるわけではないし、商標権者は、請求人が主張するような譲渡等の目的をもって本件商標の登録を受けたという事情も何ら存在しない旨も主張する。
しかし、前記のとおり、商標権者ないしRAIGA社は、RAIGA社製品について、販売開始以来、RAIGA社使用商標以外の商標を使用しておらず、商標権者は、インターネット検索等において、請求人がRAIGA社使用商標と類似する「RAIGA/雷牙」商標をルアーについて使用していた事実を知り、請求人に対し、「RAIGA/雷牙」商標の使用中止を要求する交渉に際し、自己に有利に展開することを見込んで、請求人の使用する商標と類似する本件商標、「DRIFTER」商標、「RODEO」商標、「ZORO」商標や請求人の略称と認められる「シービーワン」商標を登録出願したものと推認することができ、商標権者は、これらの商標をその業務に係る商品について使用する目的で商標出願ないし登録を得たものではないといえる。そうすると、我が国の商標法が、商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則を採用していることを考慮しても、商標権者による上記商標の登録出願は、そもそも商標の使用を通じてそれに化体された業務上の信用を保護するという商標法の目的(商標法第1条)に反するものといわなければならない。
したがって、上記に関する被請求人の主張は、いずれも理由がない。
2 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第3条第1項柱書に違反してされたものと認められるから、その余の請求の理由について検討するまでもなく、同法第46条第1項第1項の規定により、無効とされるべきである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲(1) 引用商標



別掲(2) 別件商標1




審理終結日 2016-07-26 
結審通知日 2016-08-02 
審決日 2016-08-18 
出願番号 商願2014-30099(T2014-30099) 
審決分類 T 1 11・ 18- Z (W28)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山ノ内 智晴椎名 実 
特許庁審判長 早川 文宏
特許庁審判官 堀内 仁子
田村 正明
登録日 2014-09-05 
登録番号 商標登録第5699369号(T5699369) 
商標の称呼 オズマ 
代理人 森田 靖之 
代理人 田中 雅敏 
代理人 井川 浩文 
代理人 梶原 圭太 
代理人 筒井 宣圭 
代理人 遠藤 聡子 
代理人 大坪 めぐみ 
代理人 有吉 修一朗 
代理人 弁護士法人柴田・中川法律特許事務所 

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