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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X3043
管理番号 1320315 
審判番号 無効2014-890015 
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-03-17 
確定日 2016-09-16 
事件の表示 上記当事者間の登録第5556038号商標の商標登録無効審判事件についてされた平成26年12月26日付け審決に対し,知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成27年(行ケ)第10022号,平成27年8月3日判決言渡)があったので,さらに審理のうえ,次のとおり審決する。 
結論 登録第5556038号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5556038号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1のとおりの構成よりなり,平成23年9月21日に登録出願,第30類「食品香料(精油のものを除く。),菓子及びパン,調味料,香辛料,コーヒー豆,穀物の加工品,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ」及び第43類「宿泊施設の提供,飲食物の提供,会議室の貸与,展示施設の貸与,業務用加熱調理機械器具の貸与,業務用食器乾燥機の貸与,業務用食器洗浄機の貸与,加熱器の貸与,調理台の貸与,流し台の貸与,カーテンの貸与,家具の貸与,壁掛けの貸与,敷物の貸与,タオルの貸与」を指定商品及び指定役務として,平成25年2月8日に設定登録されたものであり,その商標権は,現に有効に存続しているものである。

第2 請求人の主張
請求人は,結論同旨の審決を求めると申し立て,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第84号証(枝番を含む。なお,枝番を特に明記しない場合は,枝番の全てを含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標の登録は,以下の理由により,商標法第4条第1項第7号,同項第10号及び同項第19号に違反してされたものであるから,同法第46条第1項第1号により無効とされるべきである。
(1)商標法第4条第1項第7号該当性
ア 商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には,商標の構成自体がきょう激,卑わい,差別的又は他人に不快な印象を与えるような文字,図形,又は,当該商標を指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し,あるいは,社会の一般道徳観念に反するような商標等が含まれると解されるところ,上記社会の一般道徳観念に反するような場合には,ある商標をその指定役務について登録し,これを排他的に使用することが,当該商標をなす用語等につき当該商標出願人よりもより密接な関係を有する者等の利益を害し,剽窃的行為であると評することのできる場合も含まれ,このような商標を出願し登録する行為が該当するというべきである(東京高裁平成14年(行ケ)第94号参照)。
イ 請求人事業の概要
(ア)請求人事業
請求人は,平成12年8月に設立され,「のらや」の屋号でうどん専門店の運営等を業とする会社である。上記「のらや」の屋号でのうどん専門の事業(以下「請求人事業」という。)は,平成8年8月に,請求人の代表者である池尾眞美(以下「池尾」という。)が,個人事業として大阪府岸和田市に1号店を開店したことに始まり,現在は,関西圏に19店舗(うち5店舗は請求人が展開するフランチャイズによる加盟店),東京都に3店舗を展開している。
各店舗で提供するうどんの麺・だしなどは,自社工場で一括して製造し,メニューも統一している。また,各店舗では,「のらや」の屋号を掲げ,田舎を想起させる古民家風の外観・内装を備えた店舗形式で統一し,野良猫をモチーフにした特徴的なデザインの食器を用いるなどして「のらや」ブランドを作り上げてきた。その結果,後述のように,「のらや」は,主として関西圏の需要者に広く知られるうどん店となっている。
(イ)「のらや」名誕生の経緯
「のらや」の屋号は,平成8年7月頃,池尾が,素朴な田舎の農小屋のような感じにしたい等の思いから決定し,また,猫の図形も,池尾が,自身の子が書いた「トトロ」の絵をヒントに,平成8年7月頃に決定した。
その後,池尾は,平成12年12月25日に,「のらや」の屋号及び猫の図形の商標登録出願をし,平成13年9月21日に,池尾を権利者とする商標登録がされた。
ウ 請求人と本件商標の商標権者(以下「本件商標権者」という。)との関係
本件商標権者は,平成12年頃,請求人事業や店舗に関心を示すようになり,平成14年11月,請求人の斡旋により,それまで有限会社ピアワン(以下「ピアワン」という。)が請求人の加盟店として経営していた「のらや 中環三国ヶ丘店」(以下「三国ヶ丘店」という。)の営業をピアワンから譲り受け,請求人の加盟店となった。
その後,三国ヶ丘店の経営は,本件商標権者から,平成15年8月頃に有限会社ありがとうに,平成19年7月頃に株式会社夢の郷(以下「夢の郷」という。)に,それぞれ承継された。しかし,本件商標権者は,夢の郷(代表取締役:今柴智宏(以下「今柴」という。))の支配株主であり,その経営判断をすべて行っている。
本件商標権者は,平成15年9月1日に,請求人の発行済株式の6.49%に当たる40株を取得し,請求人が平成24年3月28日に100%減資がされるまで,請求人の株主の地位にあった。
三国ヶ丘店は,外観のメンテナンス,廃品の放置などの問題があり,全店舗の中で衛生状態が最も悪い上,請求人指定の食材を使用しないなどの問題があった。請求人は,今柴を通じ,本件商標権者に再三の改善指導を行ったが,改善されなかった。さらに,三国ヶ丘店は,平成22年5月頃から,フランチャイズ契約上の請求人に対する債務(食材購入費等)の支払が遅れ始め,同年11月には,累計未払額が約450万円にも上り,その後も,平成24年10月まで,ほぼ毎月,累計未払額として100万円以上が残る状態が続いた。
エ 本件商標の出願に至る経緯
池尾は,三国ヶ丘店の経営を改善させるべく,本件商標出願の直前である平成23年6月7日,同年7月20日,同月28日,同年8月10日に,本件商標権者と経営指導と未払金の回収について話し合い,また,同年9月頃,前記株式の減資について打合せを行ったが,本件商標権者から,本件商標等の出願について何ら指摘はなかった。
池尾及び請求人は,商標権に関する知識や管理体制が十分ではなく,池尾を権利者とする商標権の存続期間が平成23年9月21日に満了となることに気づかなかった。本件商標権者は,上記満了日に,請求人や池尾に特段の連絡をすることもなく,本件商標の出願を行った。
オ 本件商標の出願後の経緯
請求人は,平成24年4月5日頃,本件商標権者が本件商標の出願をしたことを知り,池尾と請求人の取締役である桑名謙二(以下「桑名」という。)は,同月23日,本件商標権者に本件商標の出願をした事情を尋ねたところ,本件商標権者は,請求人の創業メンバーであった守安英人(以下「守安」という。)が「のらや」商標の本来の権利者であり,守安に金銭的援助をした際に担保として譲り受けた,請求人は経営状況が悪いので商標権を更新する意思がないものと思った,第三者により商標登録されては加盟店として困るため善意で申請した,黙っていたのは申し訳なかった,池尾社長に言おうと思って何度か言いかけた,と発言した。池尾及び桑名は,本件商標権者に対し,「のらや」や猫の図形の商標権は,フランチャイザーである請求人側で保有すべきものであり,加盟店が保有することはフランチャイズ契約の信頼関係を毀損するから,出願を取り下げるよう求めたが,本件商標権者は,この日は明確に返答をしなかった。
池尾は,平成24年5月2日にも本件商標権者と本件商標の出願について話をしたところ,本件商標権者は,同年4月23日の面談と同様の弁解を繰り返したほか,出願することを事前に請求人に伝えなかったことについて,「それを言ういうことは,何かね,権利行使するというかね,そういうアピールになるかなという僕の控え目なところというかな。」(甲9)などという発言をした。池尾は,本件商標権者に出願を取り下げる意思があるか確認したが,本件商標権者は取り下げない旨返答をした。また,本件商標権者は,同面談において,株式の減資について不満があったことを述べた。
池尾及び桑名は平成24年7月に2回,桑名は同年8月29日に,本件商標権者に本件商標の出願取下げを改めて求めたが,本件商標権者は承諾しなかった。請求人は,同月6日に,書面で本件商標の出願取下げを求めたが,本件商標権者は応じなかった。
桑名は,平成24年10月10日,本件商標権者に出願の取下げを求めるとともに,三国ヶ丘店の経営の継続について尋ねたところ,本件商標権者は「FCはやめる」旨述べた上で,その解決策として,三国ヶ丘店の設備を請求人に譲るので,その金銭評価を請求人から提示するよう述べた。桑名は,三国ヶ丘店の店舗設備は大幅な補修が必要な状態であり,経済的にはほとんど価値がない旨述べたが,請求人から金銭提示をすることができるか検討することとなった。桑名は,同月23日,本件商標権者に対し,解決金として,100万円を支払うこと又は200万円を限度でロイヤリティーを免除することを提示したが,本件商標権者は,「はした金」であるなどと述べて同提案を拒否し,簿価(700万円)での評価を希望する旨や,納得できるような金額を提示する第三者に店舗設備を譲渡することも考える旨を述べ,さらに,「のらや」商標が池尾の権利であるなら,きちんと管理しておくべきであったなどとも述べた。
その後,請求人と本件商標権者は,平成24年11月2日に面談するなど,複数回にわたって交渉したが,合意には至らず現在に至っている。また,請求人は,商標に関する上記話合いと並行して,本件商標権者に対し,三国ヶ丘店の未払金を早期に解消することも再三求めており,平成24年10月22日には,書面で出願の取下げを求めるとともに,未払金約250万円の支払も求めた。
カ 本件商標の審判請求後の事情
夢の郷は,平成25年10月ころから,買掛金の支払いを遅滞するようになり,請求人は,夢の郷に支払の催告し,支払い計画の提出を求めるなどしたが買掛金の金額は増える一方であった。
そして,平成26年3月下旬ころには,今柴は,フランチャイズ契約を解約したいという意向を示すようになった。フランチャイズ契約上,3ヶ月前の告知によって,契約の解除ができるので,請求人はこの条項を基準に処理をしようと考え,夢の郷との間で具体的な閉店の日を協議する必要があったが,夢の郷は,突如,平成26年3月31日に,請求人に何の連絡もなく「3月30日をもって閉店となりました」という張り紙を店舗に掲示し,その日から店を閉めた。その後,今柴とも本件商標権者とも一切連絡が取れない状況となった。
夢の郷は,平成26年3月30日までに払うべき買掛金を全く支払っていない。また,夢の郷は,三国ヶ丘店の経営のみを事業としているので,同店閉店以降,事実上の倒産状態に至っている。
三国ヶ丘店が閉店した後,本件商標権者は,同店の設備,什器備品等を株式会社DELTA DESIGN(以下「DELTA社」という。)に譲渡したようである。DELTA社は,平成26年5月ころから,三国ヶ丘店と同じ建物に「うどん亭いろは三国ヶ丘店」をオープンさせている。
DELTA社は,難波江という人物が実質的に経営しているようであり,請求人が,難波江に本件商標権者と請求人との関係や夢の郷の未払い金のことなどを伝えたところ,難波江は,自分が本件商標権者と交渉し話をつけるなどと言い出し,平成26年5月19日に,同人の提案により,池尾,請求人の専務取締役の桑名と難波江,本件商標権者との協議がなされることになった。
この席上,難波江と本件商標権者は,商標の登録証2枚(「のらや」と猫の図柄のもの)と,本件商標権者が難波江に請求人との協議について一切を委任するという委任状を持参していた。そして,難波江は,請求人に対して,本件商標権者と請求人との間のことについての一切,本件商標権の処理についても全て委任を受けていると説明した。同席した本件商標権者も難波江が請求人と話をする内容に異を唱えなかった。そして,難波江は,本件商標権者を協議の席から外させて請求人に対して交渉を始めた。
難波江は,池尾及び桑名に対して,請求人の経営に参画することを求め,その前提として,本件商標権を請求人に移転させ,また夢の郷に対する請求人の未収金も回収をさせることも提案した。
難波江の提案は,経営参画を要求するという請求人にとっては極めて影響の大きなことであった。しかも,難波江がどのような人物なのか全くわからない状況で,話の内容は胡散臭く,請求人には,およそ受け入れることができない提案であったので,請求人は,同月26日に,難波江,池尾,桑名とで面談し,難波江の請求人の経営への参画を断った。
この協議において,難波江は,再三にわたって,本件商標権者が商標の権利を持ち,難波江が本件商標権者から委任を受け,本件商標権者をコントロールできる状況にあることを強調し,暗に提案を受け入れなければ,商標に関して請求人に不利益が生じるかのようなことを繰り返し暗示した。
難波江は,難波江の経営参画と請求人に商標権を戻すことをいわばバーターにし,応じない場合には不利益が生じ得ることを示して暗に脅迫をしていたのである。
このような事態が生じたのは,全て,本件商標権者が本件商標権の出願申請をしたうえで,難波江なる者に委任状を書き,商標権に関することも含めて請求人との交渉を委託したことによる。
キ 本件商標権者の本件商標権取得の目的
本件商標権者は,自ら「のらや」のフランチャイジーとしての店舗経営を放棄し,しかも,三国ヶ丘店の店舗設備等は第三者に譲渡しており,夢の郷や本件商標権者が同じ場所でうどん店を経営する意思もなかったのであるから,「のらや」の商標権についても,猫の図柄についても,保有し続ける必要はなくなり,請求人の経営を妨害する意図や請求人側にロイヤリティーを請求するように金銭請求をする意図もないのであれば,三国ヶ丘店を閉店した時点で,請求人の経営や請求人の他のフランチャイジーの店舗経営のために,いずれの商標権も請求人側に名義を移転させる措置を取るはずである。
しかしながら,本件商標権者が取った行動はこれとは真逆である。本件商標権者は,難波江に,本件商標権に関する交渉等を委託し,委任状を作成し,難波江と請求人との交渉の場に同席し,難波江が本件商標権者の委託を受けて商標権についても交渉をすることについて異議を唱えずに同意した。その結果,難波江は,商標権を請求人側に戻すとともに,難波江を請求人の経営に参画させるように請求人に求めた。しかも,難波江は,難波江の提案を請求人が受け入れないのであれば,商標の権利を請求人側に戻さないばかりか,暗に本件商標権者の有する商標権を用いて金にするとか,請求人と戦うことになるといったことを示唆し,脅迫をした。
本件商標権を必要とする立場にない難波江や本件商標権者が,商標権を有することを武器に請求人と交渉し,自らの要望とバーターにし,さらには脅迫をするというのはおよそ信義に反する。しかも,かつて請求人のフランチャイジーでありしかも株主であった本件商標権者が,難波江のこのような行動に荷担するといったことは,およそ許されないことは言うまでもない。
ク 本件商標が公序良俗に反するものであって無効であること
(ア)本件商標権者は,本件商標の出願当時,請求人の株主及び加盟店である三国ヶ丘店の経営者として,請求人や他の加盟店の利益に反する行為をすることが,信義則上許されない立場にあったというべきである。そして,「のらや」商標を請求人に無断で使用することや登録出願をすることは,加盟店として信義則上許されないことは明らかである。三国ヶ丘店のフランチャイズ契約書上は,「のらや」商標の無断使用・出願を禁止する条項は設けていないが,「のらや」の名称や看板使用等のロイヤリティが発生すること(28条),加盟店には商標ロゴ使用料の支払義務があること(29条),フランチャイズ契約終了後には使用を許諾された商標やロゴを看板等から撤去しなければならないこと(35条)等が定められている。このようなフランチャイズ契約の内容をみれば,請求人と加盟店との間では,「のらや」商標に関する権利が請求人に帰属し,加盟店としては,請求人の許諾がある限りで「のらや」商標の使用が認められていたにすぎないことは当然の前提とされていたというべきであり,加盟店による無断使用・出願が許されないこともまた当然である。なお,同契約書29条において「本契約に限り商標ロゴ使用料を免除する」と定めているが,これは,三国ヶ丘店とのフランチャイズ契約においては,従前から商標ロゴ使用料の対価を受領していなかったことによる。
(イ)本件商標権者は,請求人の加盟店として,請求人から「のらや」商標,猫の図形商標の利用権限を付与され,これらの商標の利益を享受してきたにすぎず,池尾や請求人による商標権の管理が不十分なことに乗じて,存続期間満了と同時にこれらの商標の出願をすることは,剽窃的なものであることは明らかである。
この点,本件商標権者は,請求人との協議の場において,かつて池尾とともに請求人の経営に関与していた守安から,これら商標の権利を取得したなどと説明する。しかし,これらの商標の考案者も権利者もいずれも池尾であり,守安には何ら処分権はない。そもそも守安から取得したという本件商標権者の説明自体信用できるものではないが,仮にそれが事実であったとしても,本件商標権者による本件商標の登録を正当化するものではない。
なお,池尾や請求人による商標権の管理に不十分な点があったことは否定できないが,請求人及び池尾は,平成13年9月の商標登録以降,10年間にわたり継続して「のらや」商標を使用してきたのであり,加盟店も,このような請求人及び池尾による商標の管理・使用のもと,「のらや」商標を使用してきたのである。また,請求人は,商標の有効期間が平成23年9月に満了した8か月後の平成24年5月には,改めて「のらや」商標の出願を行った。したがって,本件は,フランチャイザーが出願そのものを怠っていたような場合や,商標の有効期間満了後,長期間にわたって更新や出願を怠っていたような場合と比べ,請求人側の落ち度は小さいというべきであり,本件商標権者の行為につき信義則に反する程度が大きいことも考慮すれば,請求人や池尾による商標の管理に不十分な点があったことは,重視すべきではない。
(ウ)また,本件商標権者は,池尾らに対し,「のらや」商標の存続期間満了日が迫っていることを容易に指摘できる機会があったにもかかわらず,それをしないまま,満了日当日の平成23年9月21日に,あえて本件商標を出願したのであるから,自ら出願する意図を請求人に隠して出願の準備を進めていたことは明らかである。本件商標権者は,本件商標の出願に対し,加盟店の経営者として不合理な言い分を繰り返し,最終的には,本件商標の出願取下げと三国ヶ丘店の店舗設備の譲渡とを合わせて,高額の解決金を要求するに至った。このような本件商標権者の態度に加え,三国ヶ丘店の経営状態が芳しくないことや,本件商標権者が,請求人との協議において,株式の減資について不満を持っていた旨述べたことなどを考慮すれば,本件商標権者は,「のらや」商標の存続期間満了以前に,利益の上がらない三国ヶ丘店の経営から手を引いて請求人との関係を解消すること,同店の店舗設備を少しでも高く買い取ってもらえるよう本件商標の出願をすることを考えるに至ったものと考えられる。
このような目的でされた本件商標の出願が,本件商標権者が不正の利益を得る目的や請求人に損害を加える目的その他請求人とのフランチャイズ契約上の信義則に反する目的でなされたものであることは明らかである。また,これにとどまらず,本件商標の出願により,他の多数の加盟店が「のらや」商標の使用を法律上制限されたり,使用を事実上差し控えたりする事態となるおそれがあることからすれば,本件商標の出願は,他の加盟店すべての利益を害する悪質性の高いものというべきである。
したがって,本件商標の出願が,加盟店としての善意に基づくものであるとは到底考えられない。
ケ 以上のとおり,本件商標の出願は,請求人や多数の加盟店の利益を害し,公正な取引秩序を混乱させるおそれのある剽窃的なものであるから,商標法第4条第1項第7号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第10号該当性
ア 請求人の使用商標
「のらや」の店舗では,屋号である「のらや」の文字商標とともに,「猫の図柄」からなる図形商標を使用している。
イ 請求人使用商標の周知性
(ア)前記(1)イ(ア)及び(イ)の事実のほか,以下のとおりである。
(イ)請求人の「のらや」商標の使用期間,営業規模等
請求人は,「のらや」を会社名としても使用し,法人設立の平成12年8月から現在まで請求人事業に「のらや」商標を利用してきた。その利用期間は,本件商標の出願時までで11年に及び,法人設立前の時期も加えると15年間に及ぶ。
平成16年から平成23年までの売上高は,総額約138億円,その間の年間の平均来店者数は,延べ170万人に上る。その売上高は,全店舗(直営店及びフランチャイズ店)の売上額の総計を示し,年間の平均来店者数は,売上高と客単価から算出した人数を示している。
(ウ)広告による周知性の獲得
a ラジオによる広告
請求人は,平成17年4月から平成20年12月の間,MBSラジオの番組「ありがとう浜村淳です」(平日8:00?10:30に放送)で週2回のペースでCMを流した。また,請求人は,平成21年1月から平成21年3月の間,同ラジオの番組「ゴチャ・まぜっ」の番組提供を行った。
b サインボードによる広告
請求人は,平成15年9月1日から平成21年12月31日の間,阪神高速道路のLEDサインボード(大阪市中央区高津2-7-3)に「のらや」の広告を放映した。この広告は,1日に255回以上流れている。
c 新聞広告
請求人は,新聞広告もたびたび出しており,平成21年11月24日の毎日新聞(夕刊)をはじめ,本件商標の出願前に,少なくとも10?15回程度掲載した。
d チラシによる広告
「のらや」各店舗では,年4?5回程度のメニュー変更に合わせて,メニューの紹介などのチラシを来店者に配布するとともに,新聞への折込広告として店舗の近隣に配布している。例えば,本件商標の出願直前の平成23年夏のチラシは,店舗で6万枚,新聞折込(2か月)で20万枚を配布した。なお,この種のチラシの配布は,少なくとも過去に50回以上行っている。
(エ)テレビ・雑誌等による紹介等
請求人は,テレビや雑誌などで紹介されたり,様々な賞を受賞することを通じても周知性を獲得している。例えば,平成23年7月14日にMBS毎日放送で放送された「よしもと100人に聞きました!○○といえば!?あの芸人」の番組内で「うどんといえば」のコーナで1位に選ばれたケンドーコバヤシ氏がBest3として「のらや(なんばCITY南館店)」を紹介した。
また,雑誌では,「のらや国分寺店」や「のらやアリオ鳳店」が紹介されたほか,うどんのチェーン店の記事において筆者のお気に入りとして「のらや」が紹介された。注目の経営者として,池尾のインタビュー記事が掲載されたこともあった。
さらに,堺商工会議所が発行したガイドブック「堺技衆」(堺商工会議所が地域全体のイメージアップと経済発展の促進を目的として堺市の優れた企業を認証する制度)に,請求人が認証されたことが掲載された。その他,請求人は,様々な賞を受賞している。
(オ)各種イベントへの参加による周知性の獲得
例えば,地産地消の推進を目的として堺市が開催した平成21年度の「堺市地産地消フォーラム」において,パネラーの一人として請求人が招へいされ,請求人を代表して池尾が意見を述べた。また,平成19年に東京ビッグサイトで開催された「大阪ビジネスEXPO2007」,平成20年に堺市産業振興センターが開催した「堺ものづくりフェア&物産展」において,うどん及びうどんの麺などの展示・販売を行った。さらに,平成21年から平成24年には,堺市産業振興センター開催の「技・食・楽 大産業祭」,平成25年には「メイドインさかいフェア2013」において,うどん及びうどんの麺などの展示・販売を行ったほか,猫の図柄の着ぐるみで子供向けのイベントに参加した。
(カ)店舗の個性による周知性の獲得
請求人は,前記(1)イ(ア)のとおり,田舎を想起させる古民家風の外観・内装を備えた店舗形式で統一し,野良猫をモチーフにした特徴的なデザインの食器を用いるなどして「のらや」ブランドを作り上げてきた。この食器は,顧客から好評を得ており,各店舗では,箸袋の枚数に応じてこれをプレゼントするなど独自のサービスを行っている。
ウ 本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当すること
以上によれば,請求人は,15年以上もの長期間にわたって,関西圏において「のらや」の文字商標及び猫の図柄の図形商標を使用してきたものであり,その売上高や,多様な方法により多数回の宣伝広告を行ってきたことをみれば,これらの商標は,関西圏の需要者の間に広く認識されているというべきである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第19号該当性
ア 商標の同一性,周知性
本件商標が,請求人の業務に係る商品・役務を表示するものとして,需要者の間に広く認識されている商標であり,請求人の商品若しくは役務と同一又は類似の商品若しくは役務について使用をするものであることは,前記(2)のとおりである。
不正の目的
前記のとおり,本件商標権者は,請求人に対し,本件商標の出願後の交渉において,自身が経営する三国ヶ丘店の店舗・設備の買取りと併せて,金銭的な解決を求めた。してみれば,本件商標権者は,自ら本件商標を営業上使用する意思がないことは明らかであり,その目的は,専ら本件商標の出願を利用して,請求人から金銭を得ることにあったというべきである。
そして,本件商標権者が,本件商標の出願当時,請求人の株主かつ加盟店の経営者という立場にあったことに照らせば,本件商標の出願は,請求人と本件商標権者との取引関係上,不正の利益を得る目的等の信義則に反する目的のもとになされたものであることは明らかである。
ウ したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当する。

第3 被請求人の主張
被請求人は,本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求めると答弁し,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第37号証を提出した。
1 公序良俗に違反しない(商標法第4条第1項第7号該当性)
(1)請求人が,本件商標が商標法第4条第1項第7項に該当するとして上げる平成14年(行ケ)第94号判決は,何ら関係のない第三者についての判断であるから,関係者の一員である本件商標権者の行為とは明らかに前提が異なり,剽窃的な行為とはいえず公序良俗に反しない。
ちなみに,同種フランチャイズが絡んだ商標で,加盟店が商標権者になっているものも少なくなく(例えば,異議2001-90903号の決定(ハイパーホテル事件)),当事者が大勢いる場合は,そのうちの誰が権利者になるかは,当事者間で決めればよい性質のもので,当局が関与すべき筋合いのない性質の要素である。
(2)商標権は,フランチャイズ契約の根幹を支える最重要要件の1つである。そもそも商標の存続期間の更新期限は,その存続期限の完了前6月から満了日まで(商標法第20条第2項)の6ヶ月間もある上に,その期間経過後6月以内にその申請をすることができる(同条第3項)救済期間まであり,その間,気が付かないのは致命的な怠慢であり,管理能力において致命的な欠陥があることになる。
(3)本件商標権者は,請求人の加盟店として,管理能力に欠ける個人名義を危惧し,安定的に経営を行えることを願い,本件商標の出願を行ったにすぎず,現に,権利取得後,不当な使用料を請求することなど,一切していない。本来,商標を取得すべき筋合いの守安が,意思半ばで他界されたなどあったため,万が一の場合のことを本件商標権者に委託していたこともあり,自らの取得を決意したものであり,しかも,商標権が消滅しているのであるから,誰が取得しても違法性はない状態である。また,本件商標権者は,実際に使用している当事者であるので,公序良俗に反するものとはいえないと思料する。最終的には状況に応じて関係者のいずれが権利を保有するかは,当事者間で決めればよいことで,現に,フランチャイザーである請求人も,消滅した商標権に関しての商標権者ではなく,登録されていない通常使用権者であったにすぎず,本件商標権者による商標権取得も許容されるはずである。
(4)請求人は,フランチャイズ契約書に基づき「のらや」商標に関する権利が請求人に帰属すると主張するが,フランチャイザーである請求人も,消滅した商標権に関しては商標権者ではなく,登録されていない通常使用権者であったにすぎず,商標権の帰属は,商標登録第4508388号又は同第4508389号の存続時であっても,請求人に帰属しているものとの主張は失当である。しかも,商標登録第4508388号又は同第4508389号の消滅後は,そのような元商標権者の権利もなくなっており,フランチャイズ契約の商標に該当する条項は法的根拠が消滅していて無効である。
(5)請求人は,支払い滞納に関して指摘するが,これは,当該指摘の店舗譲受時の条件を請求人が認めないことに起因するもので,当方が納得する範囲では支払いを続けていたものである。また,請求人は,他の多数の加盟店が「のらや」商標の使用の制限,差止め等を懸念するが,むしろ逆で,第三者による商標権取得はもちろん,類似商標取得による制限等を,管理能力が欠如したと思われる経営者から守るためのもので,現に商標権取得から相当期間が経過しているが,そのような行為には至っていないことからも明らかである。なお,これらの契約上,金銭的な問題は,当事者間の通常に起こり得る範囲の行き違いであり,目下交渉中の事案であり,当事者間で解決すべき筋合いの性質のもので,そのような多少のいさかいがあるとはいえ,誰が商標権者になるかは,当事者間の問題であり,現に,消滅した商標権に関しても,その権利者は,形式上とはいえ,請求人ではなく池尾個人であり,関係者の立場からでは,請求人,本件商標権者と,元商標権者とはいずれも同列(登録されていない使用権者)にすぎないと思料する。
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当しない。
2 周知商標に該当しない(商標法第4条第1項第10号該当性)
(1)請求人は,「のらや」が周知著名である等るる主張するが,これは,本件商標の出願審査時に刊行物等提出書で提出されたものの繰り返しである。そして,これらの主張は,ことごとく退けられて本件商標が登録に至ったことは,自明の事実である。
(2)請求人の使用商標の周知性について
ア 「のらや」商標に関し,当該商標が使用された商品・役務の販売額,販売期間等の裏付けは一切されていない。これらの販売が事実であろうことは推測できるとしても,甲各号証は,「のらや」商標の周知性獲得の証明にはならないと思料する。
イ 請求人は,「のらや」商標を使用した店舗の営業期間,売上高,来店者数等を述べているが,主張のみで客観的な裏付けが認められない。
ウ 広告
(ア)請求人は,ラジオ広告による周知性獲得を述べているが,日々多くのCMが流れている中で,その聴取者が本件商標の出願時で既に2年以上経過している内容を覚えているとは到底考えられない。
(イ)LEDサインボードによる広告は,5分に一度の割合で8秒程度放映していたにすぎず,また,平成21年12月31日で終了し,本件商標の出願時で既に1年9ヶ月以上も経過しており,人の記憶に残ることももはやないことは明らかである。
(ウ)請求人は,新聞広告に関し,出願前に少なくとも10?15回程度掲載したと主張するが,これを裏付ける証拠は一切ない。また,平成21年11月24日の毎日新聞(夕刊)にした「のらや」の新聞広告は,本件商標の出願時点で2年程度,査定時点でも3年程度経過していることを鑑みれば,このような1回だけの広告が請求人の使用商標の周知性獲得の証明にはならない。
(エ)請求人は,チラシ配布に関し,店舗で6万枚,新聞折込で20万枚であり,過去50回以上と主張するが,チラシの配布枚数・回数について,何ら証拠を提出していない。
エ 「テレビ・雑誌等による紹介」の証拠は,平成23年7月14日に僅かに1回放映されただけで,継続性がなく,周知性獲得に繋がらない。雑誌掲載についても同様である。
オ ガイドブック「堺技衆」に登録されたことは事実としても,そのことをもって請求人の使用商標の周知性獲得の証拠としては無理があることは,その資格獲得者を見た場合,一目瞭然である。
カ 請求人が各種賞を獲得したこと,各種イベントの企画に参加したこと等は事実としても,いずれも一過性で,継続性がなく,そのことをもって請求人の使用商標の周知性獲得に繋がる証拠としては到底認められない。
キ 以上のとおり,請求人提示の証拠からは,請求人の使用商標が,本件商標の出願時及び登録時において,需要者の間に広く認識されている事実は見当たらない。
してみれば,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当するものでない。
3 不正の目的はない(商標法第4条第1項第19号該当性)
フランチャイズ契約は,商標権に関しては,フランチャイザーが所有しているか否かに関わらず,フランチャイザーが的確に管理をすることが資質として求められ,フランチャイジーは,他の種々の提供に対する有形・無形の物に対する対価を支払うのと同様,商標の安全・安定的な使用の保証に対して対価をフランチャイザーに支払うものと理解できる。
ところで,消滅した商標権のかつての権利者は,フランチャイザー(請求人)自身ではなく,経緯には疑義があるものの,形式上,池尾個人であった。そうすれば,フランチャイザー(請求人)は,元権利者と綿密に連絡をして,権利の存続を指示する必要があり,また,元権利者は,その要請に応じて,抜かりなく権利を維持するために必要な管理,手続を取る義務があるところ,請求人も元権利者も,自身の義務を遂行せず,重大な怠慢があり,その管理義務を怠って遭難しながら,請求人はその非を認めず,最善であったかはともかくとして,取り得る対策の1つを,本件商標権者はそれが自身では最善として選んで防御したものである。フランチャイズ契約があるからといって,フランチャイザー自身が商標権に関しての商標権者である必要まではないことは,請求人と元商標権者とのように,不一致の場合も例外ではなく普通に見られるのであり,フランチャイザーでないから,即,不正の目的と短絡的に結びつけるのであれば,形式的とはいえ元商標権者が,株式会社化後も,元商標権者であり続けたこと自体,たまたまの取得経緯を奇貨として,剽窃的に私物化したものであって,糾弾されるべきところである。
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第19号にも該当しない。

第4 当審の判断
1 認定事実
証拠及び当事者の主張並びに職権調査によれば,以下の事実が認められる。
(1)請求人の事業及びその使用に係る商標等
ア 請求人の代表者である池尾は,平成8年8月,個人事業として大阪府岸和田市にうどん専門の飲食店「のらや岸和田店」を開業し,その後,大阪府内に同様の店舗を複数開店した。
平成12年8月18日,請求人が設立され,池尾の上記事業を承継したが,その後,請求人は,平成13年ころから,直営店のほか,フランチャイズ方式によりうどん専門の飲食店チェーンを運営するようになり,平成21年11月の時点においては,関西圏に25店舗を,平成26年3月の時点においては,関西圏に19店舗,東京都に3店舗を展開している。(以上につき,甲2?5,45,68)
イ 請求人の直営店及びチェーン店に属する各店舗においては,「のらや」の屋号が使用され,店舗の看板,店舗内の暖簾,座布団,メニュー,箸袋,持ち帰り用商品の包装箱・包装袋等に,別掲2のとおりの「のらや」の文字からなる商標(以下「請求人文字商標」という。)及び別掲3のとおりの猫の図形からなる商標(以下「請求人図形商標」といい,これと請求人文字商標を併せて「請求人使用商標」という。)が,併記又は単独で表示されている(甲4?6,14,16?41)。
(2)池尾の登録商標
池尾は,平成12年12月25日,「のらや」の標準文字からなる商標(以下「旧池尾文字商標」という。)及び別掲4のとおりの猫の図形からなる商標(以下「旧池尾図形商標」といい,これと旧池尾文字商標を併せて「旧池尾商標」という。)につき商標登録出願をし,平成13年9月21日,いずれも指定商品及び指定役務を別掲5のとおりとして設定登録を受けた(登録第4508388号及び登録第4508389号)。
その後,旧池尾商標は,いずれも,池尾が所定の期間内に更新登録申請を行わなかったため,平成23年9月21日存続期間の満了を原因として,平成24年5月30日,抹消登録された。(以上につき,甲7,68,職権調査)
(3)旧池尾商標に係る商標権の消滅
前記(2)のとおり,旧池尾商標に係る商標権は,平成23年9月21日の存続期間満了により消滅したが,これは,池尾及び請求人が,商標権に関する知識を欠き,更新手続の必要性を認識していなかったため,上記存続期間満了日までに更新登録の申請を行わず,更に,商標法20条3項所定の存続期間の満了日経過後6月以内の期間(平成24年3月21日まで)にも更新登録の申請を行わなかったことによって生じたことである(甲7,68)。
請求人は,上記期間が経過した平成24年4月になって,旧池尾商標に係る商標権が存続期間満了によって消滅した事実及び被請求人が後記(4)のとおりの商標登録出願を行った事実を認識したため,専門家に相談の上,同年5月30日,改めて請求人図形商標と同一の商標及び「のらや」の標準文字からなる商標について,いずれも第30類及び第43類に属する商品及び役務を指定商品及び指定役務として商標登録出願を行った(商願2012-43102号及び商願2012-43103号)(甲67,68)。
(4)被請求人による商標登録出願
他方,被請求人は,旧池尾商標に係る商標権の存続期間満了日である平成23年9月21日,本件商標及び「のらや」の標準文字からなる商標について,いずれも指定商品及び指定役務を前記第1のとおりとして商標登録出願を行った(商願2011-67904号及び商願2011-67903号。以下,これらの商標登録出願を「本件出願」という。)。
その際,被請求人は,請求人又は池尾に対し,事前に本件出願の事実を告知しておらず,また,事後においてもその事実を進んで告知することはなかった。被請求人が請求人又は池尾に対して本件出願の事実について述べたのは,後記(7)アのとおり,平成24年4月23日に池尾及び桑名と被請求人との間で話し合いが行われた際に,池尾らから本件出願の事実を指摘されたのに対し,これを認めたのが初めてである。(以上につき,甲1,8の1及び2,甲68)
(5)請求人と被請求人の関係
ア 請求人と有限会社ピアワン(以下「ピアワン社」という。)は,平成14年5月31日,請求人をフランチャイザー,ピアワン社をフランチャイジーとして,請求人がピアワン社に対し大阪府堺市向陵東町所在のうどん専門店「手打ち草部うどん のらや中環三国ヶ丘店」(以下「三国ヶ丘店」という。)の経営に関するノウハウを提供することなどを内容とするフランチャイズ契約を締結した(甲65)。
イ ピアワン社と被請求人は,平成14年11月30日,請求人を立会人として,ピアワン社が三国ヶ丘店において行う営業を被請求人に譲渡する旨の契約を締結した(甲63)。
ウ その後,三国ヶ丘店における営業は,平成15年8月ころ,被請求人から有限会社ありがとうに承継され,さらに,平成19年7月ころ,有限会社ありがとうから株式会社夢の郷(以下「夢の郷社」という。)に承継された。被請求人は,夢の郷社の支配株主であり,実質的な経営者の地位にある(甲68)。
エ 請求人と夢の郷社は,平成24年5月31日,請求人をフランチャイザー,夢の郷社をフランチャイジーとして,三国ヶ丘店の営業に関する従前のフランチャイズ契約を更新する旨の契約を締結した(甲64)。
(6)本件出願当時の請求人と被請求人の関係
前記(5)のとおり,本件出願が行われた平成23年9月当時,夢の郷社は,請求人とピアワン社との間の三国ヶ丘店の営業に関するフランチャイズ契約(以下「本件フランチャイズ契約」という。)におけるフランチャイジーの地位を承継していたものであり,請求人と被請求人とは,本件フランチャイズ契約におけるフランチャイザーとフランチャイジーの実質的経営者という関係にあった。また,被請求人は,平成15年8月28日に請求人の発行済株式の6.49%に当たる40株の株式を取得しており,平成24年3月28日に請求人の100%減資が行われるまで,請求人の株主の地位にあった(甲59,68)。
本件フランチャイズ契約においては,フランチャイジーは,「手打草部うどん のらや」という名称,サービスマーク(文字・図形)の使用のもとに営業を行い,その使用に当たってはフランチャイザーの指示に従う旨の条項(第3条2項),フランチャイジーは,フランチャイザーに対し,月間売上げの2%のロイヤリティを毎月支払うものとされ,そのロイヤリティについて,「名称,看板,商標等の使用権益」としての性質が含まれる旨の条項(第9条1項,2項(1))が定められていた(甲65)。
また,夢の郷社は,請求人に対し,本件フランチャイズ契約に基づき,請求人から納入される食材の代金やロイヤリティ等を毎月支払う義務(以下「本件食材代金等債務」という。)を負担していたところ,平成22年5月ころから,その支払いが遅れるようになり,同年11月末には,期日までに支払われていない本件食材代金等債務の累計額が約450万円に達した。その後,夢の郷社による支払遅延は徐々に改善されたが,平成23年5月末の時点でも,期日までに支払われていない本件食材代金等債務は,累計で約222万円あった。そこで,池尾は,同年6月から8月にかけて複数回にわたり,被請求人との間で,三国ヶ丘店の経営改善と未払いの本件食材代金等債務の回収に向けた話し合いを行った。その後,未払いの本件食材代金等債務の累計額は,同年8月末の時点で約81万円,同年9月末の時点で約137万円となった。(甲66,68)
(7)請求人と被請求人との本件出願を巡る交渉の経過
ア 平成24年4月ころになって被請求人による本件出願の事実を認識した池尾及び桑名は,その事情を確認するため,同月23日,被請求人を呼び出し,話し合いの機会を持った。その際,被請求人は,本件出願を行った事情について,請求人の創業メンバーの一人であった守安から,旧池尾商標に係る権利は本来池尾ではなく,守安に帰属すると聞いていたこと,被請求人がかつて守安に援助を行った際に,その代償として守安から旧池尾商標に係る権利を譲り受けたことなどを説明した。また,池尾及び桑名が,被請求人による本件出願を請求人・被請求人間の信頼関係を破壊する行為であるとして非難し,本件出願の取下げを求めたのに対し,被請求人は,請求人に無断で本件出願をしたことについて謝罪の態度を示しつつも,本件出願の取下げの要求については,回答を留保した。(甲8の1及び2,甲68)
イ 平成24年5月2日,池尾と被請求人との間で,本件出願を巡る話し合いが再び行われた。その際,被請求人は,守安から旧池尾商標に係る権利を譲り受けた旨の説明を繰り返したほか,旧池尾商標の商標権存続期間が満了するタイミングで本件出願を行った理由については,旧池尾商標の商標権存続期間が平成23年9月21日に満了することは,事前にインターネットで見て知っていたが,請求人の経営状態が悪いことから,池尾は商標権存続期間の更新登録の手続をしないだろうと思ったこと,その場合,第三者に請求人使用商標に係る商標登録を取得されるおそれがあることから,それを防ぐために本件出願をしたことなどを述べた。また,その際,池尾が,請求人において請求人使用商標に係る商標登録を改めて取得したい旨を述べ,そのために必要であるとして,被請求人に本件出願の取下げを求めたのに対し,被請求人は明確な回答をしなかった。(甲9の1及び2,甲68)
ウ その後,池尾と桑名は,平成24年7月2日及び同月10日にも被請求人と面談し,本件出願の取下げを求めたが,被請求人の承諾は得られなかった。
そこで,請求人は,平成24年8月6日,夢の郷社及び被請求人に対し,三国ヶ丘店における未払いの本件食材代金等債務の支払いと本件出願の取下げを求めるとともに,それらが行われない場合には,夢の郷社とのフランチャイズ契約を解除することを検討する旨の催告書を送付したが,被請求人が本件出願を取り下げることはなかった。(以上につき,甲10,68)
エ 平成24年10月10日,桑名と被請求人との間で,本件出願の取下げ及び三国ヶ丘店の営業の継続等についての話し合いが行われた。その際,桑名は,被請求人に対し,まずは被請求人が本件出願を取り下げることが必要であり,それが行われれば請求人と被請求人との信頼関係が回復することになるから,しかる後に三国ヶ丘店の営業を継続するかどうかについて協議すべきである旨を述べた。これに対し,被請求人は,本件出願の取下げの要求については,前回の池尾との話し合いにおいて,特許庁の判断を待つということで話がついたなどと述べ,要求に応じない態度を示す一方で,夢の郷社が三国ヶ丘店の営業を止め,同店の営業を請求人が引き継いで直営店とすることを前提に,請求人に三国ヶ丘店の店舗設備,什器備品等を査定して買い取ることを求め,支払われる金額次第では,本件出願の取下げも含めた全面的な解決が可能である旨を述べた。これに対し,桑名は,三国ヶ丘店の店舗設備,什器備品等については,老朽化が激しく,多額の補修費用がかかるため,経済的価値はゼロであり,請求人がこれを買い取って直営店とするつもりはない旨を述べた上で,解決案として,被請求人が本件出願を取り下げることの見返りに,〈1〉夢の郷社が三国ヶ丘店の営業を止める場合には,請求人が被請求人に解決金100万円を支払うこと,〈2〉夢の郷社が三国ヶ丘店の営業を継続する場合には,同社が請求人に支払うべき毎月のロイヤリティを200万円を限度として免除することを提案した。しかし,被請求人は,請求人から支払われる金額について,三国ヶ丘店の店舗設備等の簿価額プラスアルファの金額を希望し,桑名が提示した解決金100万円については,「全然隔たりがある」などと述べた。このように,平成24年10月10日の桑名と被請求人とのやりとりでは,金額の折り合いがつかず,双方がそれぞれ相手方の提案を検討することとなった。(甲11の1及び2,甲68,84)
オ 平成24年10月23日,桑名と被請求人との間で,本件出願の取下げ及び三国ヶ丘店の営業の継続等についての話し合いが行われた。その際,桑名は,再度,請求人が三国ヶ丘店の店舗設備等を買い取ることはない旨を述べた上で,被請求人に本件出願の取下げを求め,その見返りとして,解決金100万円を支払うか,又は,三国ヶ丘店のロイヤリティを200万円まで免除するという前回の提案を繰り返した。これに対し,被請求人は,飽くまで請求人が三国ヶ丘店の店舗設備等を買い取ることを求め,これと一体的に本件出願の件も解決したいとの要望を繰り返した。また,請求人から支払われる金額についても,三国ヶ丘店の店舗設備等の簿価額プラスアルファの金額とすることを求め,桑名からの解決金100万円の提案を,「はした金」であるなどと述べて,全く受け入れられないとの姿勢をとった。(甲12の1及び2,甲68,84)
カ 他方で,請求人は,平成24年10月22日,夢の郷社及び被請求人に対し,三国ヶ丘店における未払いの本件食材代金等債務約250万円の支払い及び本件出願の取下げを同月末日までに行うよう求めるとともに,それらが行われない場合には,夢の郷社とのフランチャイズ契約を解除する旨の催告書を送付したが,被請求人が本件出願を取り下げることはなかった(甲13)。
(8)三国ヶ丘店の閉店及びその後の経過
ア その後も夢の郷社による三国ヶ丘店における営業は続けられ,平成24年10月ころには,本件食材代金等債務の支払遅延も解消されるようになったが,平成25年10月ころになると,再び同債務の支払が遅延するようになり,平成26年3月末の時点では,期日までに支払われていない同債務の累計額は約300万円に達した(甲66,70,84)。
このような状況の中,平成26年3月31日には,請求人に連絡もないまま,三国ヶ丘店は,「3/30をもちましてのらや中環三国ヶ丘店は閉店の運びとなりました。」などと記載された張り紙を店舗に残して閉鎖され,被請求人との連絡も取れない状況となった(甲69,84)。
イ 他方,平成26年5月ころ,三国ヶ丘店の店舗において,DELTA社が,「うどん亭いろは」という名称でうどん店を開業した。
そこで,桑名が,DELTA社が店舗を引き継いだ経緯を確認するため,同社の実質的な経営者と思われる難波江に接触を図ったところ,難波江は,被請求人を同行するので請求人との話し合いの場を持ちたいと提案してきた。
これを受けて,同月19日,池尾,桑名,難波江及び被請求人の4名による話し合いの場が持たれた。話し合いの冒頭において,難波江は,池尾及び桑名に対し,本件出願に係る商標権に関しては被請求人から交渉の権限を委任されているとして,被請求人の代理人として話し合いがしたい旨を申し出た。その際,同席していた被請求人は,これに異を唱えることはなかった。その後,被請求人は,その場を離れ,難波江と池尾及び桑名との間で話し合いが続けられたが,その中で,難波江は,請求人の経営に難波江を参画させることを求め,その前提として,本件出願に係る商標権を被請求人から請求人に移転させること及び未払いとなっている夢の郷社の本件食材代金等債務を支払わせることを提案した。(以上につき,甲71,72,73の1及び2,甲84)
ウ 平成26年5月26日,池尾及び桑名と難波江との間で,再び話し合いが行われた。その際,池尾らが,請求人の経営への参画を求める難波江の要求を断ったところ,難波江は,「Yさんが商標を持っている限り,僕はそれを使って逆に御社と戦わないといけなくなる可能性がある」などと述べ,請求人に対し,被請求人が保有する商標権を行使することを示唆するなどした。(甲74の1及び2,甲84)
2 検討
以上の認定事実に基づき,本件商標が,その登録出願の経緯等に照らし,公序良俗を害するおそれがある商標といえるか否かにつき検討する。
(1)被請求人が本件出願を行った目的について
ア 本件出願の経緯
本件出願が行われた平成23年9月21日当時,請求人と被請求人は,本件フランチャイズ契約におけるフランチャイザーと,そのフランチャイジーである夢の郷社の実質的経営者という関係にあった。そして,本件フランチャイズ契約において,フランチャイジーは,フランチャイザーである請求人の許諾の下で「のらや」の名称やサービスマーク等を使用して営業を行い,これに対する対価としてロイヤリティを支払うこととされていたのであるから,フランチャイジーである夢の郷社及びその実質的経営者である被請求人としては,請求人が請求人チェーン店の各店舗において使用する請求人使用商標に係る権利を尊重し,請求人による当該権利の保有及び管理を妨げてはならない信義則上の義務を負っていたものということができる。なお,請求人においては,請求人使用商標に係る権利について,請求人自身ではなく,請求人の代表者である池尾個人が旧池尾商標を商標登録し,これに係る商標権を保有するという形で管理していたのであるから,夢の郷社及び被請求人としては,池尾の旧池尾商標に係る商標権について,上記のような義務を負っていたものといえる。
しかるところ,被請求人による本件出願は,請求人図形商標と同一であり,かつ旧池尾図形商標と酷似した猫の図形からなる本件商標及び請求人チェーン店の屋号である「のらや」の標準文字からなる商標について,請求人の業務に係るうどんの提供及びうどんの麺・つゆ等を指定役務及び指定商品に含むものとして商標登録出願するものであり,これに基づく商標登録が認められることになると,請求人が請求人使用商標を使用するための法的な裏付けとなる商標権を請求人の一フランチャイジーの実質的経営者である被請求人が保有することとなり,請求人にとっては,被請求人の対応次第で請求人使用商標の使用に支障を来すなど重大な営業上の不利益を受けるおそれが生じることになるのであるから,このような本件出願を被請求人が行うことは,上記信義則上の義務に反する行為といわざるを得ない。加えて,被請求人は,本件出願を旧池尾商標の商標権存続期間が満了するまさにその日に行ったものであり,しかも,本件出願の事実を,事前に池尾又は請求人に告知せず,また,事後においても,本件出願から7か月余りが経過した平成24年4月23日まで池尾又は請求人に告知することなく秘匿し続けたのであり,同日の池尾及び桑名との話し合いの際に本件出願の事実を認めたのも,自ら進んでのことではなく,池尾らからの指摘を受けてのことにすぎない。
以上のとおり,請求人チェーン店のフランチャイジーである夢の郷社の実質的経営者として,請求人使用商標の法的な裏付けとなる旧池尾商標に係る商標権を尊重し,請求人及び池尾による当該商標権の保有・管理を妨げてはならない信義則上の義務を負う立場にある被請求人が,旧池尾商標の存続期間が満了するタイミングに合わせて,請求人に重大な営業上の不利益をもたらし得る本件出願を行い,しかもそのことを請求人側に秘匿し続けたという本件出願に係る経緯からすれば,被請求人が本件出願を行った目的については,他に合理的な説明がつかない限りは,何らかの不正な目的によるものであることが強く疑われるというべきである。特に,本件出願が行われた平成23年9月の直前である同年6月から8月ころの時期においては,請求人と夢の郷社との間で,三国ヶ丘店における本件食材代金等債務の支払遅延が問題となっており,池尾と被請求人との間でその回収に向けた話し合いが行われていたことからすれば,被請求人がこのような請求人との金銭的な交渉を想定し,自己に有利な交渉材料とする目的で本件出願を行うことも,十分考え得ることといえる。
イ 本件出願の事実が発覚した後の被請求人の言動
次に,本件出願の事実が請求人側に発覚した後に行われた池尾及び桑名と被請求人との交渉における被請求人の言動をみると,被請求人が,本件出願の事実を自己に有利な交渉材料として利用し,請求人から過大な金銭的利得を得ようとしていることが明らかである。
すなわち,被請求人は,平成24年4月23日の話し合い以来,池尾らが一貫して本件出願の取下げを求めていることに対しては明確な回答をせず,同年10月10日及び同月23日の話し合いにおいては,請求人に三国ヶ丘店の店舗設備等の買取りを求め,その金額次第では本件出願の取下げも可能である旨を述べるなどしており,請求人にとって脅威となっている本件出願の事実を,三国ヶ丘店の店舗設備等を請求人にできるだけ高額で買い取らせるための交渉材料として現に利用している。しかも,その中で,桑名は,三国ヶ丘店の店舗設備等の経済的価値はゼロであり,請求人がこれを買い取ることはない旨を明言し,これとは別個の話として,本件出願を取り下げることの見返りに解決金100万円を支払うことなどを提案しているにもかかわらず,被請求人は,飽くまでも三国ヶ丘店の店舗設備等の買取りを求め,これと一体でなければ本件出願の取下げにも応じられないという態度をとっているのであり,請求人側において経済的メリットがないとして明確に拒否している三国ヶ丘店の店舗設備等の買取りを,本件出願の事実を利用して請求人に承諾させようとしているものといえる。加えて,被請求人は,その場合に請求人が支払うべき金額について,三国ヶ丘店の店舗設備等の「簿価額プラスアルファ」などと述べており,具体的な金額の提示はしていないものの,請求人側が提案した100万円の解決金を「全然隔たりがある」あるいは「はした金」などと述べていることからすれば,100万円を大きく上回る,少なくとも数百万円程度の金額を暗に示唆していたものといえるところ,そのような金額は,三国ヶ丘店の店舗設備等の経済的価値をゼロと評価し,本件出願を取り下げることのみについての解決案として解決金100万円の支払等を提案している請求人から見れば,明らかに過大な金額というべきである。
以上のとおり,被請求人は,請求人との交渉の中で,本件出願の事実を,請求人側が拒否の態度を示している三国ヶ丘店の店舗設備等の買取りを請求人に承諾させ,請求人から過大な金銭的利得を得るための交渉材料として現に利用しているのであり,このような被請求人の言動は,前記アのような本件出願に係る経緯と相まって,被請求人による本件出願の目的が,そもそも本件出願又はこれに基づく商標登録の事実を請求人との金銭的な交渉を有利に進めるための材料として利用し不当な利益を得ることにあったことを推認させるものといえる。
なお,三国ヶ丘店閉店後の池尾及び桑名と難波江との交渉経過をみると,難波江は,請求人の経営に参加したいという自らの要求を池尾らに承諾させるための交渉材料として,被請求人が本件出願に係る商標権を保有している事実を利用している。そして,上記交渉に関して,難波江と被請求人との間にいかなる意思の連絡があったかについては証拠上明らかではないものの,少なくとも,被請求人が難波江に本件出願に係る商標権に関わる交渉の権限を与え,難波江が池尾らと交渉を行うことを黙認していたことは明らかであるから,このような被請求人の対応も,本件出願の目的が前記のようなものであったことを推認させる一事情ということができる。
ウ 被請求人が主張する本件出願の目的
他方,被請求人は,本件出願を行った目的について,旧池尾商標に係る商標権が存続期間の満了によって消滅した場合に,第三者が請求人使用商標に係る商標登録を取得するのを防止するためであったなどと主張する。
しかしながら,仮に,被請求人が主張するような事態が危惧されるのであれば,そのような事態にならないよう池尾らに対し,旧池尾商標の商標権存続期間の満了が迫っていることを指摘し,その更新登録手続を怠らないよう注意喚起すれば足りるはずであるし,特に,請求人チェーン店のフランチャイジーである夢の郷社の実質的経営者であり,かつ,請求人の株主の一人でもあった当時の被請求人の立場からすれば,そうするのが当然であり,かつ自然な行動ということができる。しかも,本件出願が行われる直前の平成23年6月から8月ころには,池尾と被請求人の間で,未払となっていた本件食材代金等債務の回収に向けた話し合いがたびたび行われていたのであるから,そのような機会に,被請求人から池尾に対し上記のような指摘等を行うことは容易であったはずである。ところが,実際には,被請求人は,そのような行動はとらず,かえって本件出願を行うことを池尾に秘匿したまま,旧池尾商標の存続期間満了の日に合わせて本件出願を行っているのである。
この点に関し,被請求人は,池尾との話し合いの中で,「請求人の経営状態が悪いことから,池尾は旧池尾商標の存続期間の更新手続をしないだろうと思った」などとも説明する。しかし,仮に,当時の請求人の経営状態が悪かったとしても,請求人及び池尾が,現に請求人チェーン店の営業が継続している中で,請求人使用商標の法的な裏付けとなる旧池尾商標に係る商標権が消滅するのをあえて放置することは通常考え難いことであるから,被請求人の上記説明は,不自然というべきである。また,仮に,池尾が旧池尾商標の存続期間の更新手続をしないとの危惧があるのであれば,池尾にその点を確認すれば足りることであり,かつ,それは容易なことであったから,そのような確認をすることもなく,池尾は旧池尾商標の存続期間の更新手続をしないだろうと思ったなどという説明も,不自然というほかない。
更に言えば,仮に,被請求人による本件出願の目的が,第三者による請求人使用商標に係る商標登録の取得を防止するためであったのだとすれば,被請求人としては,フランチャイザーである請求人によって請求人使用商標に係る商標権が確保されるようになれば足りるはずであり,それが実現されるのであれば,本件出願を維持することに固執する理由はないはずである。ところが,被請求人は,本件出願の事実が発覚した後の池尾らとの交渉において,池尾らから,請求人使用商標に係る商標登録を改めて取得したいとの意向を告げられ,そのために必要であるとして本件出願の取下げを求められているにもかかわらず,これに応じようとはせず,かえって上記イのとおり本件出願の事実を自己に有利な交渉材料として利用する行動をとっているのである。
以上によれば,本件出願を行った目的が第三者による請求人使用商標に係る商標登録の取得を防止するためであったとする被請求人の説明は,被請求人の実際の言動と明らかに矛盾しており,不自然・不合理なものというべきである。
エ まとめ
以上の諸事情を総合考慮すれば,被請求人による本件出願の目的が,被請求人が主張するような第三者による請求人使用商標に係る商標登録の取得を防止するためなどではなく,請求人との金銭的な交渉において本件出願又はこれに基づく商標登録の事実を自己に有利な交渉材料として利用し不当な利益を得ることにあったことは,優にこれを認定することができる。
(2)公序良俗違反の有無について
以上のとおり,被請求人による本件出願は,請求人チェーン店のフランチャイジーである夢の郷社の実質的経営者として,旧池尾商標に係る商標権を尊重し,請求人による当該商標権の保有・管理を妨げてはならない信義則上の義務を負う立場にある被請求人が,旧池尾商標に係る商標権が存続期間満了により消滅することを奇貨として本件出願を行い,請求人使用商標に係る商標権を自ら取得し,その事実を利用して請求人との金銭的な交渉を自己に有利に進めることによって不当な利益を得ることを目的として行われたものということができる。
そして,このような本件出願の目的及び経緯に鑑みれば,被請求人による本件出願は,請求人との間の契約上の義務違反となるのみならず,適正な商道徳に反し,著しく社会的妥当性を欠く行為というべきであり,これに基づいて被請求人を権利者とする商標登録を認めることは,公正な取引秩序の維持の観点からみても不相当であって,「商標を保護することにより,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り,もって産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護する」という商標法の目的(同法1条)にも反するというべきである。
してみると,本件出願に係る本件商標は,本件出願の目的及び経緯に照らし,商標法第4条第1項第7号所定の「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」に該当するものといえる。
なお,被請求人は,そもそも旧池尾商標に係る商標権が消滅したのは,請求人及び池尾が,存続期間の更新登録手続を怠るというフランチャイザーとしての重大な義務違反を犯したことによるものであり,本件商標が公序良俗に反するか否かの判断においては,請求人及び池尾のこのような義務違反を重視すべきである旨を主張する。確かに,旧池尾商標に係る商標権が消滅したのは,請求人及び池尾がそもそも商標権の存続期間の更新手続の必要性を認識していなかったために,その手続を行わなかったという初歩的な過失によるものであり,このことが,請求人チェーン店のフランチャイジーらに対する重大な義務違反となることは明らかである。しかしながら,これを被請求人との関係でみると,被請求人は,上記のような池尾及び請求人の過失によって生じた旧池尾商標に係る商標権の消滅という事態を意図的に利用して,請求人使用商標に係る商標権を自ら取得し不当な利益を得ようとしたのであり,いわば池尾及び請求人の上記過失に乗じて背信的な行為に及んだのであるから,このような被請求人の行為の背信性が,池尾及び請求人の上記過失の存在によって減じられるということにはならない。
したがって,請求人及び池尾に上記のような重大な義務違反があるからといって,本件商標が公序良俗を害するおそれのある商標に該当するとの上記判断が左右されるものではない。
(3)したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当する。
2 結論
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものであるから,請求人の主張するその余の無効理由について判断するまでもなく,同法第46条第1項の規定に基づき,その登録を無効とすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 別掲1(本件商標)



別掲2(請求人文字商標)



別掲3(請求人図形商標)



別掲4(旧池尾図形商標)



別掲5(旧池尾商標の指定商品及び指定役務)
第30類
コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,調味料,香辛料,食品香料(精油のものを除く。),米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦,食用粉類,食用グルテン,穀物の加工品,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ,菓子及びパン,即席菓子のもと,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,アーモンドペースト,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,氷,アイスクリーム用凝固剤,家庭用食肉軟化剤,酒かす,ホイップクリーム用安定剤
第42類
日本料理を主とする飲食物の提供,うどん又はそばの提供,うなぎ料理の提供,すしの提供,てんぷら料理の提供,とんかつ料理の提供,西洋料理を主とする飲食物の提供,イタリア料理の提供,スペイン料理の提供,フランス料理の提供,ロシア料理の提供,中華料理その他の東洋料理を主とする飲食物の提供,インド料理の提供,広東料理の提供,四川料理の提供,上海料理の提供,北京料理の提供,アルコール飲料を主とする飲食物の提供,茶・コーヒー・ココア・清涼飲料又は果実飲料を主とする飲食物の提供,宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,美容,理容,入浴施設の提供,写真の撮影,オフセット印刷,グラビア印刷,スクリーン印刷,石版印刷,凸版印刷,気象情報の提供,求人情報の提供,結婚又は交際を希望する者への異性の紹介,婚礼(結婚披露を含む。)のための施設の提供,葬儀の執行,墓地又は納骨堂の提供,一般廃棄物の収集及び分別,産業廃棄物の収集及び分別,庭園又は花壇の手入れ,庭園樹の植樹,肥料の散布,雑草の防除,有害動物の防除(農業・園芸又は林業に関するものに限る。),建築物の設計,測量,地質の調査,機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらにより構成される設備の設計,デザインの考案,電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究,建築又は都市計画に関する研究,公害の防止に関する試験又は研究,電気に関する試験又は研究,土木に関する試験又は研究,農業・畜産又は水産に関する試験・検査又は研究,機械器具に関する試験又は研究,著作権の利用に関する契約の代理又は媒介,通訳,翻訳,施設の警備,身辺の警備,個人の身元又は行動に関する調査,栄養の指導,保育所における乳幼児の保育,老人の養護,編み機の貸与,ミシンの貸与,衣服の貸与,植木の貸与,カーテンの貸与,家具の貸与,壁掛けの貸与,敷物の貸与,会議室の貸与,展示施設の貸与,カメラの貸与,光学機械器具の貸与,漁業用機械器具の貸与,鉱山機械器具の貸与,計測器の貸与,コンバインの貸与,祭壇の貸与,自動販売機の貸与,芝刈機の貸与,火災報知機の貸与,消火器の貸与,タオルの貸与,暖冷房装置の貸与,超音波診断装置の貸与,加熱器の貸与,調理台の貸与,流し台の貸与,凸版印刷機の貸与,電子計算機(中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク・磁気テープその他の周辺機器を含む。)の貸与,美容院用又は理髪店用の機械器具の貸与,布団の貸与,ルームクーラーの貸与





審理終結日 2016-07-15 
結審通知日 2016-07-20 
審決日 2016-08-05 
出願番号 商願2011-67904(T2011-67904) 
審決分類 T 1 11・ 22- Z (X3043)
最終処分 成立 
前審関与審査官 冨澤 美加薩摩 純一 
特許庁審判長 堀内 仁子
特許庁審判官 田村 正明
平澤 芳行
登録日 2013-02-08 
登録番号 商標登録第5556038号(T5556038) 
代理人 奥津 周 
代理人 佐野 章吾 
代理人 寒川 潔 
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