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審決分類 審判 全部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない X18
管理番号 1319275 
審判番号 取消2015-300196 
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2015-03-17 
確定日 2016-08-22 
事件の表示 上記当事者間の登録第5431098号商標の登録取消審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5431098号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲のとおりの構成からなり,平成22年8月12日に登録出願,第18類「皮革,かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,かばん金具」を指定商品として,同23年8月12日に設定登録されたものである。
なお,本件審判の請求の登録は,平成27年4月1日にされたものである。
また,本件審判の請求の登録前3年以内の期間である同24年4月1日から同27年3月31日までの期間を,以下「要証期間」という。

第2 請求人の主張
請求人は,本件商標を取り消す,審判費用は,被請求人の負担とする,との審決を求め,審判請求書,弁駁書,上申書及び口頭審理陳述要領書において,その理由及び答弁に対する弁駁等を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第18号証(枝番を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は,その指定商品について,継続して本件審判の請求の登録前3年以上日本国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
(1)請求人答弁の理由について
ア 被請求人の事業の概要
被請求人は,当該答弁書において,商標権者中山久美子氏が「拓心」の屋号で事業を営んでいることについて,説明している。この点については争いがない。
イ 使用商標の同一性
被請求人は,当該答弁書において,本件商標に係る商標と使用商標とは社会通念上同一であると主張している。この点については争いがない。
ウ 被請求人の使用商品は「かばん」ではなく「かご」である
被請求人の答弁書における使用行為の主張及び提出された証拠資料のすべては,「かご」の使用を立証したものであり,被請求人が使用している商品(以下,使用商品という)について,争う。
(2)請求人について
請求人は,地域団体商標「豊岡杞柳細工」の商標権者であり,この「豊岡杞柳細工」は,経済産業大臣の指定を受けた伝統的工芸品であることを説明する。甲第2号証は,請求人が地域団体商標「豊岡杞柳細工」の商標権者であることを証明する書面である。また「豊岡杞柳細工」が経済産業大臣指定の伝統的工芸品であることを証明するものとして甲第3号証の1及び甲第3号証の2を提出する。請求人である兵庫県杞柳製品協同組合は,歴史をさかのぼると明治30年重要物産同業組合法発令時に柳行李商豊岡同業組合として組織されてから,その時代の法令に応じて改組を繰り返し現在に至る組合である。「豊岡杞柳細工」は,西暦27年に始まると言われ,2000年以上の歴史をもち,平成4年には伝統的工芸品に指定されている。請求人は,国や県・市の支援を受けながら,伝承者として伝統工芸士(現在,14名認定:甲4の6)を誕生させ,地域資源の持つ潜在力を最大限にし,ブランドカを高めるために地域団体商標を取得し,「豊岡杞柳細工」を国際的に通用するブランドとするため,日夜取り組んでいる。
そして,伝統工芸士が編んだものを兵庫県鞄工業組合の組合員である会社が「かご」に仕上げる商慣習は,請求人が長年にわたって築き上げた「豊岡杞柳細工」の商慣習であり,歴史ある尊重されるべき製造スタイルである。
なお,兵庫県豊岡市にあるたくみ工芸は,伝統工芸士の寺内卓己氏が材料となるコリヤナギの栽培から製作,加工まで一貫して行う国内唯一のメーカーとして製造販売を行うことを請求人は認めており,この寺内卓己氏は,請求人推薦の下,平成23年度伝統的工芸品産業大賞を受賞している。これらを証するものとして,甲第4号証の1ないし甲第4号証の8を提出する。
(3)被請求人の使用行為及び使用商品について
上述の事実があるにもかかわらず,被請求人より,「豊岡杞柳細工」の製品(以下,「杞柳製品」という)というべき数々の商品が本件商標の使用の証明として提出された。被請求人は当該答弁書において,「豊岡杞柳細工の伝統工芸士でもある藤原艶子氏や,豊岡鞄で有名な兵庫県鞄工業組合の組合員でもあるマスミ鞄嚢株式会社(以下「マスミ社」という。)に製造を委託し,彼らの協力を得て,兵庫県豊岡産の柳を編んでつくる「かばん」の企画・製造・販売を開始し,現在まで継続して行っております」と述べている。
しかし,上述の藤原艶子氏及び兵庫県鞄工業組合のマスミ社は,平成20年度に財団法人伝統的工芸品産業振興協会が国の補助事業として実施した伝統的工芸品活用フォーラム事業のパートナーであった被請求人(デザイン創造工房「めがね」・平野久美子氏)に請求人が紹介した者であり,このフォーラム事業の新商品研究会では,被請求人と共同で成果物を発表するはずであったが,協議の上,新商品研究会は不成功に終わり,このとき取り組んだ商品は市場に出さないことを定めて終了したはずである。にもかかわらず,被請求人は,このとき未発表で市場に出さないと定めたはずの成果物を請求人に無断で販売しているのである。この平成20年当時,「平野」久美子氏と請求人との間に関わりがあったことを示す資料として,甲第5号証の1及び甲第5号証の2を提出する。
また,乙第1号証の2,乙第2号証,乙第3号証の1,乙第3号証の2及び乙第10号証には,「豊岡杞柳細工」,「豊岡の杞柳細工」,「伝統的工芸品」の表示があり,これら証拠物件には「豊岡杞柳細工」の歴史,特性,製造工程等が請求人に断りなく記載されている。
このような被請求人の使用行為は,請求人が長年築き上げた「豊岡杞柳細工」の歴史,商慣習を踏みにじるだけでなく,伝統的工芸品産業の振興に関する法律の趣旨にも反する行為であって,本件商標の使用か否かを論じる以前の問題として許される行為ではない。さらに,これら被請求人の使用行為は,請求人の承諾なく行われているにもかかわらず,一般需要者がこれらの説明に触れたときには,あたかも請求人の承諾の下で,行われているかに見え,この行為は登録第5030662号商標の侵害行為といえる。
このように被請求人の数々の使用商品は,本来であれば,請求人が「豊岡杞柳細工」と認定して販売すべき伝統的工芸品「杞柳製品」であり,それは「かばん」でなく「かご」というべき商品である。
(4)取引の実情と商標法上の分類
近年,「かごバッグ」なる言葉が使用され,被請求人の使用商品は百貨店等では「かばん売り場」に並べられ,兵庫県鞄工業組合が運営する豊岡鞄オフィシャルストアでも販売されている。また請求人が伝統的工芸品として認めた「杞柳製品」も,「かごバック」として販売しており,2012年6月1日?2012年6月5日には「伝統工芸士 宮崎和子 『杞柳バッグ展』」を開催している。これらを証するものとして,甲第6号証の1ないし甲第6号証の5を提出する。
このように実社会における取引の実情を鑑みれば,「かご」と「かばん」の境界は曖昧であるかもしれない。
しかし,国語辞典・広辞苑6版(甲6の6)に「かごバック」なる語は見当たらず,「かご」は「竹や籐・蘭・柳・針金などの線状のものを編んだり組んだりした器物」とされ,「かばん」は「革やズックなどで作り,中に物を入れる携帯用具」とされ,「かばん」と「かご」は明確に線引きされており,そのような実社会における取引の実情と商標法上の分類とが必ずしも一致しないことは多々ある。
以上により,被請求人の当該答弁書における使用行為の主張及び提出された証拠資料のすべては,「かご」の使用を立証したものであり,被請求人の使用商品は第18類の「かばん」ではなく,第20類の「かご」での使用であるといわざるを得ない。
(5)地域団体商標「豊岡杞柳細工」の審査経緯
ア 審査経緯
被請求人の使用商品が,「かばん」でなく「かご」であると主張する理由の根拠として,地域団体商標「豊岡杞柳細工」の審査経緯がある。そこで,出願から登録までの経緯を示す証拠資料として,甲第7号証なし甲第12号証を提出する。これら証拠資料から明らかであるとおり,商願2006-036743の出願当初は,第18類のみを指定して出願するも,審査過程で「杞柳製品」のうち,「こうり」以外は,第18類の「かばん」ではなく,第20類の「かご」と判断されたのである。
被請求人が証拠方法として提出した使用商品と,上記審査過程で特許庁に提出した「杞柳製品」とを比較してまとめた甲第13号証を提出する。使用商品と「杞柳製品」とは極力デザインコンセプトが近いと考えられるものを対比させている。この甲第13号証をみれば,編み組されたかごの内側に布袋があっても,また持ち手が革製だったとしても,これらはすべて第20類の柳製の「かご」であると特許庁の審査において判断されたことが明らかである。
よって,本件商標の審査過程で請求人の使用商品が審査対象となっていれば,第18類の「かばん」ではなく,第20類の柳製の「かご」であると判断されていたはずである。
イ 一商標一出願の原則と商標の分類について
商標法第6条では,商標登録出願のルールのひとつとして,「一商標一出願の原則」が規定されている。権利範囲は出願段階でどの区分に対して登録するかを行っている事業に照らして明確にする必要がある。
しかしながら,当該答弁書における被請求人の主張は,一商標一出願の原則から逸脱した主張であるといわざるを得ない。すなわち,被請求人の指定商品は第18類の「かばん」であるにもかかわらず,第20類に属する「かご」の使用も第18類の「かばん」の使用であると主張しているに等しく道理が通らない。商標法上,商品を分類する基準は,いわゆるニース国際分類に従って定められており,「かばん」と「かご」のように類似する機能をもった商品であっても,主たる素材はなにからなるものなのか,また用途が何であるかで,異なる分類にカテゴリーされる。甲第14号証に示すように例えば「かご」の場合は,それが金属製であれば第6類であるし,用途が自転車部品の「荷かご」であれば第12類,清掃用具としての「ちりかご」は第21類に分類される。また「かばん」の場合は,第18類のかばん類は,主に皮革製が想定されているといえ,これが紙製の場合は,第16類に分類される。
これらの点を当該答弁書に照らしてみると,使用商品の主たる素材はコリヤナギ,柳といえ(乙1?乙3,乙8,乙10?乙12),このようにコリヤナギ製もしくは柳製の場合は,木製・竹製の包装用容器や買物かごの下位概念として第20類に分類される。
以上により,地域団体商標「豊岡杞柳細工」の審査経緯及び商標法上の観点からも,被請求人の使用商品は,第18類の「かばん」ではなく,第20類の「かご」であるといわざるを得ない。
3 上申書(平成27年11月5日付け)
平成27年10月25日に,NHK(日本放送協会)の番組名「イッピン」において「豊岡杞柳細工」が紹介されたので,当該テレビ番組が録画されたDVDを甲第15号証として提出する。甲第15号証は,被請求人の使用商品が「かばん」ではなく,柳を使った杞柳細工の編み組からなる「かご」というものであることを証する一資料である。当該テレビ番組は,非常にわかりやすく,「豊岡杞柳細工」が何たるものかを紹介してくれている。
4 口頭審理陳述要領書(平成28年4月8日付け)
(1)平成28年3月18日付けの口頭審理陳述要領書について
被請求人が提出した取引書類等自体について,意見はない。
しかし,それらが第18類の「かばん」についての取引書類であるという点については,以下のとおり,意見を述べる。
(2)乙製品について
ア 被請求人が販売しているアタッシェケースが,通常よく知られた「かばん」に属するアタッシェケースであるなら,意見はなく,アタッシェケースが「かばん」に属しないと主張するつもりもない。また被請求人の使用商品が兵庫県豊岡市の柳と関係がないのであれば,なにも意見はない。
イ しかし,平成28年1月28日付けの審理事項通知書「2 合議体の暫定的見解」において,第18類の「かばん」と認められるとされている乙第10号証の8頁の左側写真の商品(以下,乙製品という)は,第18類の「かばん」とはいえない。乙製品の実に90%以上に,豊岡杞柳細工の伝統工芸士が編んだ「編み組」が施されており,乙第10号証のパンフレットの記載はまさに「豊岡杞柳細工」を紹介する文面であり,乙製品が新規なデザインで構成されたものならまだしも,乙製品と類似する杞柳製品は従前からあり,経済産業大臣が指定する伝統的工芸品というべき製品である以上,これを特許庁は第18類の「かばん」であるとはいえないはずであることを強く意見する。
ウ なぜなら,もともと請求人が第18類の「かばん」と考えて出した出願を,杞柳製品のうち,「こうり」以外は第20類のかごであると認定したのは地域団体商標出願の審査でなされたことだからである。その証拠に地域団体商標出願をした際に,本請求人は,第18類で「兵庫県豊岡市及び周辺地域で生産された杞柳細工を施したスーツケース 兵庫県豊岡市及び周辺地域で生産された杞柳細工を施した手提かばん 兵庫県豊岡市及び周辺地域で生産された杞柳細工を施したハンドバッグ」と指定商品に記載していた(甲7:参照)。そして説明するまでもないが,地域団体商標出願の審査では,それぞれの指定商品について使用している事実及び使用により一定程度周知になっていることを証明する必要があり,使用していない商品は削除する必要がある。このことは,新たに提出する甲第16号証から明らかである。また,地域団体商標の審査過程で,甲第4号証の1,甲第4号証の2等を提出していることは,甲第9号証から明らかであり,特に甲第4号証の1の6頁,8頁,13頁及び17頁等や甲第4号証の2に乙製品と類似した製品を認めることができる。こうして審査官は,乙製品に類似する杞柳製品の存在を認識した上で,2つの補正案を提示したはずであり,請求人はそのうちのひとつの補正案に従って補正を行ったのである(甲10,甲11)。
商標法第50条の規定による不使用取消審判において,通常,このような審査経緯は関係なしと一蹴されることは理解している。しかし,今回のケースは平成27年11月5日付け上申書でも述べたとおり,別案件の一審査経緯として一蹴してしまっては,地域団体商標制度に即した審査に誤りがあったことになってしまう。当時の審査を振り返っても,担当の審査官は現地視察を行っており,合議体が指摘する乙製品と類似する杞柳製品の歴史は古く(甲4の1),その使用及び周知性が証明できなかったとは考えられない。
エ また,地域団体商標制度が導入されて以降,毎年,特許庁がとりまとめて公表している「地域団体商標2007?2016」。「近畿地域」において,地域団体商標「豊岡杞柳細工」を紹介したページでも,乙製品に類似した商品写真が指定商品の紹介とともになされている。ここに掲載されている写真は,2007?最新版の2016まで同じ写真が使用され,この写真は地域団体商標の審査過程で提出した甲第4号証の1の17頁に掲載されている写真と同じである。これら内容からも,乙製品に類似した商品は,審査を経て特許庁が第20類の「かご」と認めていると思料する。それを証する書類として,掲載内容を一部抜粋して甲第17号証及び甲第18号証を新たに提出する。
オ 被請求人は,平成28年3月18日付け口頭審理陳述要領書「5.陳述の要領」なお書きで,請求人の主張が商標法第50条の規定による不使用取消審判の趣旨を逸脱した謂れのない主張であると述べている。
しかし,同なお書きで被請求人が述べていること,それこそが,請求人は問題があると考えている。
なぜなら,被請求人が販売している「兵庫県豊岡産の柳を用い,兵庫県鞄工業組合から認められている商品」,それこそが地域ブランドの杞柳製品といわざるを得ず,そうならばその使用は「かばん」でなく,「かご」といえるからである。この点については,すでに提出した平成27年7月9日付け弁駁書で述べたとおりである。
(3)まとめ
被請求人は,平成28年3月18日付け口頭審理陳述要領書を含め,これまでの本審判手続において,「豊岡柳」を指定商品「かばん」に使用していることを示す客観的な証拠を提出しておらず,商標の使用につき,証明していない。
したがって,本件商標は,その全ての指定商品について継続して3年以上,日本国内において,商標権者等によって使用された事実がないから,商標法第50条第1項の規定により,取り消されるべきものである。

第3 被請求人の主張
被請求人は,結論同旨の審決を求め,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める,と答弁し,その理由を,答弁書及び口頭審理陳述要領書において,要旨以下のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第26号証(枝番を含む。)を提出した。
1 答弁の理由
(1)被請求人は,本件商標を指定商品について,要証期間内に日本国内において使用している。
(2)被請求人の事業の概要
被請求人(商標権者)である中山久美子は,「拓心」の屋号で事業を営む個人事業主である。「拓心」が中山久美子の事業者名であることは,中山久美子のホームページ(乙1)の「会社概要」(乙1の1)において,販売業者が「拓心」,「販売責任者」が「中山久美子」と記載されていること,及びその所在地が商標権者の住所と一致することによって証明できるものと考える。
なお,ホームページのタイトルとして記載されている「Japan Source」とは,中山久美子が「拓心」の事業ブランドとして使用している名称である。
さらに,「拓心」が中山久美子の屋号であることは,2013年(平成25年)12月19日付け朝日新聞の第35面(乙2)の記事において,「伝統工芸支援に携わる『拓心』(京都府長岡京市)の中山久美子さん」と紹介されていることからも証明できるものと考える。商標権者は,日本に伝わる伝統や文化を守り伝えている人々と協力し,このような素晴らしい日本の伝統や文化を現代に合った形で体現する「ものづくり」を行うことを理念としている。
そして,その理念に基づく事業の一つとして,2010年(平成22年)から,豊岡杞柳細工の伝統工芸士でもある藤原艶子氏や,豊岡鞄で有名な兵庫県鞄工業組合の組合員でもあるマスミ社に製造を委託し,彼らの協力を得て,兵庫県豊岡産の柳を編んでつくる「かばん」の企画・製造・販売を開始し,現在まで継続して行っている。この活動については,前述の中山久美子のホームページ中,「豊岡柳」のページ(乙1の2)の内の「活動履歴」(乙1の3)に詳しく掲載している。そして,2011年(平成23年)に,この商品「かばん」について,本件商標権に係る商標の使用を開始し,現在まで継続して使用している。
(3)京都国際工芸センターの「豊岡柳KAGO展」における展示及び販売に際しての使用
ア 2013年開催の展示会での使用
中山久美子は,2013年(平成25年)4月16日?4月22日に,京都国際工芸センターで開催された「豊岡柳KAGO展 2013」において,商品「かばん」について,本件商標を使用して,展示及び販売をした。この展示会が開催されたことを示すものとして,京都国際工芸センターのホームページを提出する。当該ホームページの2013年のニュース中,「豊岡柳-KAGO展」(乙3の1)には,展示会の主催者として,商標権者である中山久美子の屋号及び事業ブランド「拓心(japan-source)」の表示がある。
また,展示会の内容として「バッグ・スーツケースなど,柳のかご製品の展示・販売を行います」と明記されているだけでなく,展示されたスーツケースの写真があり,取扱商品が「かばん」であったことがわかる。同時に,当該写真には,本件商標権に係る商標が表示されている。
さらに,当該展示会の案内ハガキ(乙4)を提出する。このハガキにも,表面には展示会の日時・場所等の諸事項のほかに,お問い合わせとして「拓心」の名称とホームページのURL,電子メールアドレスが記載されているので,主催者が中山久美子(拓心)であることがわかる。併せて,左下部には本件商標が表示されている。裏面には,出品された商品の一つである「KAGO柳Beans」のナチュラル色の商品の写真が掲載されているが,その商品の前面の上方には金属タグが取り付けられ,このタグには本件商標が表示されている。この乙第4号証のハガキの写真では,タグがやや小さく商標がわかりづらいため,この商品のタグ部分がわかる写真も併せて提出する。乙第6号証の写真は,当該展示会の開催中に,主催者の一人である京都国際工芸センターの職員の池澤氏が展示場の様子を撮影したものである。乙第6号証の1の上側は,乙第4号証のハガキ裏面に掲載されている写真の商品が展示棚に並べられている様子を撮影した写真であり,乙第6号証の1の下側は同じ棚をやや近づいて撮影した写真,乙第6号証の2は当該商品のタグ部分が明瞭に写っている拡大写真である。
また,この展示会において商品が展示されただけでなく実際に販売されたことも証明する。乙第7号証は,平成25年の7月8日に一般社団法人京都国際工芸センターから「拓心」に通知された売上明細書の写しである。6月度の売上明細書となっているが,これは6月までに販売された数か月分の売上を便宜上まとめて報告しているものであって,実際には4月に開催された展示会での売上も含まれている。「貴社名」の欄にある「ギャラリー」の記載は,展示会において京都国際工芸センターのギャラリーに展示された商品であることを示す。また,展示会の後,「拓心」の商品は当該センター内の常設ショップでも販売されていたが,「ショップ」の記載はこの常設ショップにおいて販売された商品であることを示す。販売場所によって仕切り価格が異なるため,分けて記載されている。即ち,6月度として京都国際工芸センターから売上の報告があった商品は,その常設ショップで販売された「柳フィット大」(品番DFY6043)と,ギャラリーで展示即売された「柳フィット中N」(品番DFY6042N:Nはナチュラル色の色彩であることを表す)等であることがわかる。「柳フィット大」は,現在も同じ商品が販売されており,インターネット上の「豊岡鞄オフィシャルオンラインストア」でも取り扱されているので,そのページを提出する(乙8の1)。品番「DFY6043」が一致することからも,この商品が販売されたことが証明できるものと考える。また,「柳フィット中N(Nはナチュラル色の意)」(品番:DFY6042)についても,同じオンラインストアで取り扱われているので,このページも提出する(乙8の2)。
乙第8号証の1及び乙第8号証の2の写真からわかるとおり,「KAGO柳フィット大」「KAGO柳フィット中」のいずれの商品にも,金属タグが付されており,このタグには本件商標が表示されている。乙第8号証の写真がやや小さく見にくいため,前述の乙第6号証(前年度の展示会開催中に撮影された展示場の写真)を参照。「KAGO柳フィット大」については乙第6号証の3,「KAGO柳フィット中」については乙第6号証の4として,タグ部分の本件商標が見える鮮明な写真を提出する。
なお,豊岡鞄オフィシャルオンラインストアの資料において,商品のメーカーが「拓心」でなく「マスミ社」となっていることについて説明する。
これらの商品は,前述のとおり,商標権者が企画・製造・販売しているものであるが,実際の製造に際しては柳の部分は伝統工芸士である藤原艶子氏に柳を編んでもらい,その他の部分は鞄メーカーとして高い技術を有するマスミ社に製造を委託し,両者の協力を得て商品を完成させている。信頼おける製造協力者であるマスミ社が兵庫県鞄工業組合の組合員であることから,当該組合のオフィシャルストアにはマスミ社が出品する形態をとっている。しかし,品番が同じであることからも明らかなように,これら商品は商標権者が企画・製造・販売している商品である。マスミ社がこれら商品を例えば自社催事などで販売するときには,「拓心」から購入している。このことを示すものとして,「拓心」からマスミ社への商品「柳フィット大」(品番:DFY6043)の納品書の写し(乙9)を提出する。
イ 2014年開催の展示会での使用
同様に,翌年の2014年(平成26年)5月13日?5月29日にも,「豊岡柳KAGO展」が開催され,「拓心」は本件商標を使用して商品「かばん」を展示・販売した。京都国際工芸センターのホームページ中,この展示会を紹介するページ(乙3の2)と,案内ハガキ(乙5)を提出する。乙第5号証の案内ハガキには,表面に本件商標が表示されている。
以上ア及びイの証拠資料により,商標権者が,要証期間内である平成25年4月16日?4月22日及び平成26年5月13日?5月29日に,日本国内において,本件商標と社会通念上同一であることは疑いのない態様である商標を,取消請求に係る指定商品のうちの「かばん」について,商品にタグを付して展示及び販売(譲渡)し,又は展示及び販売に関する広告(案内ハガキ)に付して使用したことが証明できたものと思料する。
(4)広告パンフレットにおける使用
商標権者は,2012年(平成24年)6月に,商品「かばん」についての広告パンフレットを作成し,その後現在に至るまで,配布している。そのパンフレットを乙第10号証として提出する。乙第10号証の表紙には,本件商標と同一の商標が表示され,裏表紙には「拓心」の屋号と住所等が記載されている。このパンフレットにより,商標権者が,要証期間内である2012年(平成24年)6月に,日本国内において,本件商標と同一態様である商標を,取消請求に係る指定商品のうちの「かばん」について,広告に付して使用したことが証明できたものと思料する。
(5)新聞記事
前述のとおり,乙第2号証として提出する2013年(平成25年)12月19日付け朝日新聞の第35面の記事において,「伝統工芸支援に携わる『拓心』(京都府長岡京市)の中山久美子さん」が,「豊岡柳」ブランドの下,「A4書類が入るバッグ」や「アタッシェケース」などを商品化していることが紹介されており,売り場の写真においてその商品「アタッシェケース」の傍に本件商標を表示したプレートが置かれているのが写っている。この記事からも,本件商標の使用が証明できるものと考える。
(6)百貨店での販売を示すインターネット情報
大手百貨店「高島屋」京都店がインターネット上で公開している「京都タカシマヤBlog」の2014年8月14日作成の記事において,同年8月19日まで高島屋京都店で開催されているコレクションショップのイベントで,「拓心」のかごバッグが販売されている様子が写真付きで紹介されている(乙11の1)。そして,その写真を拡大印刷したものも乙第11号証の2として提出する。この写真では,本件商標を印刷した紙タグが赤い紐で商品の柄の部分に取り付けられているのがわかる。なお,念のため,同じ紙タグを乙第12号証として提出する。
これらの証拠資料からも,「拓心」が,要証期間内である2014年8月14日?8月19日,日本国内の高島屋百貨店(京都店)において,取消請求に係る商品「かばん」について,本件商標を使用したことが証明されるものと考える。
(7)むすび
以上のとおり,商標権者が,要証期間内に,日本国内において,本件商標又は本件商標と社会通念上同一の商標を,取消請求に係る商品の一である「かばん」について使用していることが,十分に証明できたものと考える。
2 口頭審理陳述要領書(平成28年3月18日付け)
(1)アタッシェケースに関する取引書類の提出
被請求人は,乙第10号証として提出した冊子の第8頁左側の写真に示される商品(アタッシェケース:商品名は「豊岡model YANAGI」)を製造・販売している。当該商品の取引書類を下記のとおり提出する。
ア 乙第13号証:株式会社ライヴスから「拓心」宛ての当該商品の売上報告(写し)
株式会社ライヴスは広告代理店であり,被請求人はこの会社を通じて,集英社発行の通販カタログ雑誌「サライ」に当該商品を掲載している。カタログを見た顧客が商品を発注すると,株式会社ライヴスから被請求人に報告があり,被請求人は株式会社ライヴス指定の倉庫に当該商品を注文個数郵送する。その後,株式会社ライヴスがその倉庫から商品を発注者に郵送する,という流れである。乙第13号証は,この「サライ」カタログ通販において,要証期間内である2014年3月に商品「豊岡model YANAGI」1個の注文があったことを示す売上報告である。
イ 乙第14号証:「拓心」から株式会社ライヴスヘの請求書(控え)
上記乙第13号証の売上報告に基づき,被請求人から株式会社ライヴスに対して,2014年3月に注文を受けた商品「豊岡model YANAGI」の代金を請求した請求書の控えである。
ウ 乙第15号証:株式会社ライトアップショッピングクラブから被請求人宛ての物品受領書(写し)
株式会社ライトアップショッピングクラブは「Zekoo(ゼクウ)」の名称でインターネット通販,カタログ通販及び実店舗での小売も行っている会社である。被請求人は,この株式会社ライトアップショッピングクラブに対して,当該商品を卸売りしている。乙第15号証は,株式会社ライトアップショッピングクラブからの発注(乙16)に基づき,要証期間内である2012年5月24日に被請求人から株式会社ライトアップショッピングクラブに,商品番号「4605580101」に係る商品5個が納入されたことを示す物品受領書である。
エ 乙第16号証:株式会社ライトアップショッピングクラブから被請求人への商品発注書(写し)
乙第15号証において納品された商品が,「豊岡model YANAGI」であることを示すために提出する。この発注書の「商品名」には「豊岡model YANAGI」と記載されており,この商品番号「4605580101」は乙第15号証の記載と一致する。
オ 乙第17号証:ミニ広告パンフレット
乙第10号証よりも小さいサイズの広告パンレットを補足して提出する。このパンフレットには,乙第10号証の第8頁左側の写真に係る商品(アタッシェケース)の写真が掲載されており,この商品の商品名として「豊岡model YANAGI」が明記されている。これにより,乙第13号証ないし乙第15号証に記載されている商品名「豊岡model YANAGI」が,当該商品の商品名であることが示される。
なお,乙第17号証自体も要証期間内である2014年5月制作のものであり,本件商標の使用を証明する証拠の一つであると思料する。
(2)乙第10号証の冊子に係る取引書類
乙第10号証として提出した冊子(広告パンフレット)は,被請求人がデザイナーに依頼して制作したものであり,1,500部印刷されている。それを示す証拠として,デザイナーからの請求書及びパンフレット商品の納品書を提出する。
ア 乙第18号証:デザイナーから被請求人への請求書(写し)
2012年5月22日付けで,「豊岡柳パンフレット」の制作料及び1,500部の印刷料が請求されている。パンフレットが乙第10号証のものと同一であることは,請求書内に示された写真からも明らかである。
イ 乙第19号証:デザイナーから被請求人への納品書(写し)
2012年6月1日付けで,乙第10号証のパンフレット1,500部が納品されたことを示す。また,乙第10号証と同じパンフレットを2014年3月に1,000部増刷している。その請求書及び納品書も提出する。
ウ 乙第20号証:増刷分のデザイナーから被請求人への請求書(写し)
エ 乙第21号証:増刷分のデザイナーから被請求人への納品書(写し)
さらに,乙第17号証として提出したミニパンフレットは2013年7月に同じデザイナーにより2,000部制作・印刷されている。その請求書及び納品書も提出する。
オ 乙第22号証:デザイナーから被請求人への請求書(写し)
カ 乙第23号証:デザイナーから被請求人への納品書(写し)
このミニパンフレットは,2014年5月に3,000部増刷されているので,その請求書及び納品も提出する。
キ 乙第24号証:増刷分のデザイナーから被請求人への請求書(写し)
ク 乙第25号証:増刷分のデザイナーから被請求人への納品書(写し)
(3)本件商標の使用について
被請求人が証明しようとする本件商標の使用について,商標法上の条文に照らして主張すると,乙第3号証の1及び2のホームページ,乙第4号証及び乙第5号証のハガキにおいて,本件商品及びその展示会に関する広告書類に本件商標を付して頒布及び電磁的方法により提供しており,商標法第2条第3項第8号に規定される使用行為であると考える。
また,同時に,これらの証拠は展示会が行われたことの証拠でもあり,その展示会では乙第6号証の1ないし4の証拠に示すとおり,本件商標を付した商品が譲渡のために展示されており,これは同法第2条第3項第2号に規定される使用行為であると考える。
さらに,乙第7号証に示すとおり,この展示会では即売も行われて,本件商標を付した商品が譲渡(売買)されており,これも同法第2条第3項第2号に規定される使用行為であると考える。
乙第8号証の1及び2において示すホームページは,乙第7号証で取引対象となった「かばん」と品番が一致する商品を示すページであり,これら商品には本件商標が金属タグで付されていることを示し,乙第7号証を裏付けるものである。さらに,本件商標を付した商品が豊岡鞄のオフィシャルサイトから「かばん」として取引されていることも示す。
乙第9号証は,乙第8号証にも記載されているマスミ社との取引関係を示すものであり,これらの証拠によって同法第2条第3項第2号に規定される使用行為を証明している。
乙第10号証は,広告パンフレットであり,商品「かばん」に関する広告に標章を付して頒布するという同法第2条第3項第8号に規定される使用行為を証明するものである。
乙11号証は,2014年8月14日時点で百貨店「高島屋」のセレクトショップにおいて本件商標を付した商品が譲渡(販売)されたことを示すものであり,同法第2条第3項第2号に規定される使用行為を証明するものである。
また,本書に添付して補足提出する乙第17号証のミニ広告パンフレットは,同法第2条第3項第8号に規定される使用行為を証明するものである。
乙第18号証ないし乙第25号証は,乙第10号証及び乙第17号証のパンフレットの部数等から,これらパンフレットが頒布されている状況を裏付けるためのものである。
(4)請求人は,被請求人が使用を証明した商品につき,第18類「かばん」ではなく第20類「かご」であると主張している。
しかしながら,被請求人の証明に係る商品,例えば乙第4号証ないし乙第6号証,乙第8号証及び乙第11号証等の写真で示される商品は,いずれも「籠ハンドバッグ」と称されるバッグであることに疑いはなく,この「籠ハンドバッグ」は特許情報プラットフォームで公開されている「商品・役務名検索」においても第18類,類似群コード21C01(「かばん類,袋物」の類似群コード)とされている(乙26)。
そして,請求人自身も弁駁書のとおり,同種の商品を「かごバッグ」「かごバック」「杞柳バッグ」等の名称でまさに「バッグ(かばん)」として販売しているのであり,この商品が「かばん」であることは疑いようがない。国際分類第20類の一般的注釈においても,その機能及び用途を基準として分類される柳等の材料からなる商品については,この類には含まない旨が示されており,例えば,羽毛掛け布団は羽毛材料からなるものであっても「布団」という機能及び用途から第24類に分類されることが記されている。同様に,請求人の取り扱う商品(乙4等に示す「籠ハンドバッグ」)も,中に物を入れて携帯するという用途に用いられるものであり,第18類に分類される「かばん」の範ちゅうに含まれるものと確信する。
(5)被請求人は,第18類「かばん」であるとの合議体の暫定的見解が示された乙第10号証の第8頁左側に表された商品(アタッシェケース)「豊岡model YANAGI」についても製造・販売しており,それについての取引書類も提出する。
したがって,被請求人が商品「かばん」について本件商標を使用していることは,十分に証明できたものと考える。
(6)請求人は,弁駁書において,上記の商品に関する主張の他に,「この行為は登録第5030662号商標(請求人所有の登録商標)の侵害行為といえる」,「本来であれば,地域団体商標『豊岡杞柳細工』の存在を理由に拒絶されるべき商標であるといえる」等,種々述べている。商標法第50条第1項の規定による不使用取消審判において,このような全く趣旨を逸脱した謂れのない主張にどのように応答すべきなのか,被請求人は戸惑いを禁じ得ない。
甲第5号証として請求人から提出されているとおり,被請求人と請求人との間に共同事業の計画も一時あったものの,協力関係が築けず契約に到らなかったことは事実である。その後,被請求人は,独自に商品「かばん」の企画・製造・販売事業を続けてきた。その際にも,請求人組合には敬意を表し,請求人の地域団体商標「豊岡杞柳細工」と紛らわしい表示は一切しないよう留意し,そのためにも自らの商標「豊岡柳」のロゴ商標を商標登録してこれを常に表示するようにしている。被請求人の地道な努力の結果,豊岡産の柳を用いた被請求人の製造するかばん商品は,各方面から注目されるようになった。兵庫県鞄工業組合の地域団体商標「豊岡鞄」を付することを認められた商品もあり,兵庫県の地域ブランドにも貢献できているものと自負している。

第4 当審の判断
1 被請求人の提出した証拠について
(1)乙第1号証の1について
乙第1号証の1は,商標権者のホームページであるところ,「会社概要」の見出しの下,「販売業者|拓心」,「販売責任者|中山 久美子」,「取扱商品|鞄・雑貨」及び「所在地|〒617-0837 京都府長岡京市久貝3-1-14 venture-field NEST 2F No.5」の記載があり,右下に「2015/5/25」の出力日の表示がある。
(2)乙第10号証について
乙第10号証は,被請求人のパンフレットであるところ,その表紙には,「豊岡柳」の漢字を上段に,「Toyooka」の欧文字を下段に書して,その両文字の間に上下の文字を仕切るように線が引かれ,「柳」の文字の一部が長く伸びている構成からなる商標(以下「使用商標」という。)が表示されており,その8ページの左側の写真において,「アタッシュケース」が写っている。そして,裏表紙には,「柳製品・豊岡柳に関するお問合せ」の文字,「拓心」の文字及び住所「〒617-0837 京都府長岡京市久貝3-1-14 venture-field NEST 2F No.5」の記載があり,さらに,「2012年6月制作」の記載がある。
(3)乙第18号証及び乙第19号証について
乙第18号証及び乙第19号証は,被請求人が乙第10号証のパンフレットをデザイン事務所に制作及び印刷を依頼したときの請求書(乙18)と納品書(乙19)である。
乙第18号証には,「ご請求書」の見出しの下,その右側に2012年5月22日の日付が表示され,乙19号証には,「納品書」の見出しの下,その右側に2012年6月1日の日付が表示され,各号証とも宛先として「拓心 中山久美子様」の記載があり,その右下にデザイン事務所の名称,その住所の記載及び押印(一部黒塗りされている)がある。
そして,該「ご請求書」及び該「納品書」の内容の欄に「豊岡柳パンフレット/制作料/印刷料 A5判 コート110kg フルカラー12ページ 1,500部」の記載があり,その下に,パンフレットの表紙と内容の一部の写真が表示されているところ,これらの写真は,乙第10号証のパンフレットの表紙並びに3及び4ページと同一といえるものである。
(4)乙第20号証及び乙第21号証について
乙第20号証及び乙第21号証は,被請求人が乙第10号証のパンフレットをデザイン事務所に増刷を依頼したときの請求書(乙20)と納品書(乙21)である。
乙第20号証には,「請求書」の見出しの下,その右側に2014年2月28日の日付が表示され,乙第21号証は,「納品書」の見出しの下,その右側に2014年3月6日の日付が表示され,各号証とも宛先として「拓心 中山久美子様」の記載あり,その右下にデザイン事務所の名称,その住所の記載及び押印(一部黒塗りされている)がある。
そして,該「請求書」及び該「納品書」の内容の欄に「豊岡柳パンフレット 増刷/印刷料 A5判 コート110kg フルカラー12ページ 1,000部」の記載があり,その下に,パンフレットの表紙と内容の一部の写真が表示されているところ,これらの写真は,乙第10号証のパンフレットの表紙並びに3及び4ページと同一といえるものである。
2 上記1によれば,以下のとおり判断できる。
(1)使用者について
乙第1号証の1の商標権者のホームページ及び乙第10号証のパンフレットの内容からすれば,中山久子氏が「拓心」の屋号で商品「かばん」の販売を行っていることが理解されるものであるから,使用商標についての使用者は,商標権者と認めることができる。
(2)使用商標について
本件商標は,「豊岡柳」の漢字を上段に,「Toyooka」の欧文字を下段に書して,その両文字の間に上下の文字を仕切るように線が引かれ,「柳」の文字の一部が長く伸びている構成からなるものである。
そして,前記商品を販売するための商品の広告パンプレットに表示された使用商標の構成及び態様は,本件商標と同じであるから,本件商標と使用商標は,同一の商標と認められる。
(3)使用商品について
乙第10号証の商品の広告パンフレットには,該パンフレットの8ページの左側の写真において,「アタッシュケース」が表示されているところ,該商品は,その外観からすれば「アタッシュケース」の形状を有する「かばん」といえるものであるから,本件商標の指定商品中,「かばん類」に含まれる商品と認められる。
(4)パンフレットについて
乙第10号証の商品の広告パンフレットは,乙第18号証及び乙第19号証によれば,被請求人(商標権者)が,デザイン事務所に制作及び印刷を依頼したときの請求書と納品書であることが,以下のことから認められる。
ア 乙第18号証は,「ご請求書」の見出しの下,その右側に「2012年5月22日」の日付が表示され,乙19号証は,「納品書」の見出しの下,その右側に「2012年6月1日」の日付が表示されているから,乙第10号証の「2012年6月制作」の日付と合致している。
また,各号証とも宛先として被請求人の屋号と氏名である「拓心 中山久美子様」と表示されており,内容の欄に「豊岡柳パンフレット/制作料/印刷料 A5判 コート110kg フルカラー12ページ 1,500部」と記載されており,その下に,乙第10号証のパンフレットの表紙と3及び4ページの写真が付されている。
イ 乙第20号証及び乙第21号証は,被請求人(商標権者)が,乙第10号証のパンフレットの増刷をデザイン事務所に依頼したときの請求書と納品書である。
乙第20号証は,「請求書」の見出しの下,その右側に「2014年2月28日」の日付が表示され,乙第21号証は,「納品書」の見出しの下,その右側に「2014年3月6日」の日付が表示され,各号証とも宛先として「拓心 中山久美子様」と表示されており,内容の欄に「豊岡柳パンフレット 増刷/印刷料 A5判 コート110kg フルカラー12ページ 1,000部」と記載されており,その下に,該パンフレットの表紙と3及び4ページの写真が付されている。
そうすると,被請求人(商標権者)は,商品の広告パンフレットを制作して,商品「アタッシュケース」の販売についての広告を行うために,該パンフレットを頒布したと推認することができる。
(5)使用時期について
乙第10号証の商品の広告パンフレットの発行の時期は,「2012年(平成24年)6月」であるから,要証期間内(平成24年4月1日から同27年3月31日)と認められる。
(6)小括
上記(1)ないし(5)によれば,被請求人(商標権者)は,要証期間内において,商標権者がその請求に係る指定商品中,「かばん類」の範ちゅうに含まれる「アタッシュケース」のパンフレットに本件商標を付して頒布したと推認することができる。
そして,商標権者による上記行為は,商標法第2条第3項第8号にいう「商品又は役務に関する広告,・・・に標章を付して・・頒布・・する行為」に該当するものである。
(7)請求人の主張について
ア 被請求人の使用商品について
請求人は,「被請求人が販売している『兵庫県豊岡産の柳を用い,兵庫県鞄工業組合から認められている商品』,それこそが地域ブランドの『豊岡杞柳細工』の杞柳製品といわざるを得ず,そうならば,その使用は『かばん』でなく,『かご』といえるから,これまでの本審判手続において,『豊岡柳』を指定商品『かばん』に使用していることを示す客観的な証拠を提出しておらず,商標の使用につき,証明していない。」旨を主張する。
しかしながら,被請求人が提出した乙第10号証のパンフレットの8ページに表示されている「アタッシュケース」は,前記(3)のとおり,商品「かばん」の範ちゅうに属するものである。
そして,被請求人が販売している商品が,杞柳製品であるとしても,そのすべてが,「かご」といえるものではなく,杞柳製品であっても「かばん」として製造されている商品であることを否定することはできない。
よって,請求人の上記主張は,認められない。
イ 被請求人の使用行為について
請求人は,「乙第1号証の2,乙第2号証,乙第3号証の1,乙第3号証の2及び乙第10号証には,『豊岡杞柳細工』,『豊岡の杞柳細工』,『伝統的工芸品』の表示があり,これら証拠物件には『豊岡杞柳細工』の歴史,特性,製造工程等が請求人に断りなく記載されている。このような被請求人の使用行為は,請求人が長年築き上げた『豊岡杞柳細工』の歴史,商慣習を踏みにじるだけでなく,伝統的工芸品産業の振興に関する法律の趣旨にも反する行為であって,本件商標の使用か否かを論じる以前の問題として許される行為ではない。さらに,これら被請求人の使用行為は,請求人の承諾なく行われているにもかかわらず,一般需要者がこれらの説明に触れたときには,あたかも請求人の承諾の下で,行われているかに見え,この行為は登録第5030662号商標の侵害行為といえる。」旨を主張する。
しかしながら,被請求人の提出した証拠において,請求人が主張する「豊岡杞柳細工」の歴史や特性,商品の製造工程等が記載されているとしても,本件は,商標法第50条第1項の規定による不使用取消審判であるから,日本国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが指定商品について,要証期間に本件商標を使用しているか否かについて条文に則して判断するものである。
よって,請求人の上記主張は,妥当ではなく,採用することができない。
3 むすび
以上のとおり,被請求人は,本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において,商標権者がその請求に係る指定商品中「かばん類」に含まれる「アタッシュケース」について,本件商標を使用していたことを証明したものと認められる。
したがって,本件商標の登録は,その請求に係る指定商品について,商標法第50条の規定により,取り消すことができない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 別掲 本件商標


審決日 2016-07-13 
出願番号 商願2010-67054(T2010-67054) 
審決分類 T 1 31・ 1- Y (X18)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 庄司 美和岩本 和雄 
特許庁審判長 井出 英一郎
特許庁審判官 榎本 政実
中束 としえ
登録日 2011-08-12 
登録番号 商標登録第5431098号(T5431098) 
商標の称呼 トヨオカヤナギ、ヤナギ、トヨオカ 
代理人 奥村 公敏 
代理人 中井 宏行 
代理人 村上 玲子 
代理人 大森 亜子 
代理人 沖本 周子 
代理人 松村 修治 

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