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審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない W41 審判 全部無効 商4条1項8号 他人の肖像、氏名、著名な芸名など 無効としない W41 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない W41 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない W41 審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない W41 |
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管理番号 | 1318171 |
審判番号 | 無効2015-890032 |
総通号数 | 201 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2016-09-30 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2015-04-16 |
確定日 | 2016-07-15 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第5719295号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第5719295号商標(以下「本件商標」という。)は,「吉村流」の文字を標準文字で表してなり,平成26年4月16日に登録出願,第41類「日本舞踊の教授その他の技芸又は知識の教授,日本舞踊の興行の企画又は運営その他の映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,日本舞踊に関する図書及び記録の供覧,日本舞踊の演出又は上演その他の演芸の上演,日本舞踊に関するビデオの制作その他の教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),日本舞踊に関する楽器の貸与その他の楽器の貸与,日本舞踊のための施設の提供その他の映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供,日本舞踊に関する興行場の座席の手配その他の興行場の座席の手配」を指定役務として,同年9月17日に登録査定され,同年11月21日に設定登録されたものである。 第2 請求人の主張 請求人は,本件商標の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第29号証(枝番号を含む。)を提出した。 1 請求の理由 本件商標は,商標法第4条第1項第7号,同第8号,同第10号,同第15号及び同第19号に該当するものであるから,商標法第46条第1項第1号により,その登録は無効とされるべきである。 (1)前提となる事実 ア 吉村流について (ア)吉村流の歴史 日本舞踊の一種である上方舞は,江戸時代中期ないし末期に京阪地域(上方)で誕生・発達した舞の総称で,「座敷舞(ざしきまい)」「地唄舞(じうたまい)」等とも呼ばれている。 吉村流は,明治初期,大阪南地で創始した上方舞の流派の一つである。吉村流では,家元を世襲とせず,代々実力のある女性の内弟子が跡を継ぐという伝統があったが,吉村雄輝氏は,昭和37年,吉村流初の男性の家元(四世)となり,吉村流を全国に広めようと精力的に全国各地で稽古を行うなどし,吉村流を全国的な伝統舞踊の域にまで昇華させることに成功した。吉村流は,現在では,上方舞の流派の一つとして広く認識されている(甲2)。同氏は,その業績が認められ,昭和59年に紫綬褒章受章者に選ばれ(甲3),昭和61年に人間国宝に認定され(甲4),平成9年11月には文化功労者にも選ばれたが(甲5),翌年1月に急逝した。同氏の死は新聞,週刊誌,雑誌等の各種メディアにより幅広く報じられた(甲6)。その後,当時の理事の一人であった吉村雄輝夫氏が五世家元を継いだが,同氏も平成12年5月に急逝したため,翌年,やはりその当時,理事の一人であった吉村輝章氏が六世家元を継いで今日に至っている。 (イ)吉村流の活動 平成26年6月5日発行の「吉村流名簿」(甲7)の記載によると,当時の名取(師範名取及び名取の両方を含む,以下同じ。)総数は444名(家元及び転居先不明者は含まない)である。なお,「名取」とは,日本舞踊を一定程度習得し,名取試験に合格した者に与えられる称(民間資格)又はこれを付与された人を指し,芸名とも呼ばれる。吉村流の名取は,「吉村○○」という称を与えられる。「師範」とは,日本舞踊を業として他人に教授できる資格(民間資格)又はこれを付与された人を指し,師範試験に合格した者である。 家元及び名取らから組織される団体としての「吉村流」(以下,団体としての「吉村流」を示す場合,「吉村流」と表記する。)では,毎年,国立大劇場にて家元主催で行う「吉村会」と呼ばれる公演をはじめ,吉村流師範名取の名を冠する公演が全国各地で催されている。師範名取らは,このような公演会の他,日本舞踊協会主催の「各流派新春舞踊大会」をはじめ,同協会の地方ブロックが主催する種々の公演会,国立文楽劇場主催の「東西名流舞踊鑑賞会」,国立劇場主催の「京阪座敷舞の会」等,全国各地で催される数多くの公演会に出演する他,全国各地で門弟に稽古を行っている。また,毎年2回,東京と大阪で,理事の立会いの下,名取試験が行われている。 (ウ)「吉村流」の組織運営について 「吉村流」は,全8条から構成される「吉村流会則」なる会則(以下「本会則」という。甲8)を有する。本会則は,四世家元が理事制を導入した際に,理事会の協議の結果,作成され,承認されたものである。当初,その原本は四世家元以来事務局マネージャーであった島嘉昭(以下「S氏」という。)によって手書きで作成のうえ,保管され,当時の理事(後の六世家元も含む。)にはその写しが配布された。その後,新しく理事会の構成員になった理事に対しても,本会則の写しが配布され,本会則の規定が,家元及び理事から他の師範へ,師範からその弟子の名取達へと伝承されていくことが期待されていた。本会則の第4条には「本会は代表1名と理事数名にて運営する」旨,また,第7条には「会員が同条各号に該当するときは理事会の議決を経て家元が除名することができる」旨,第8条には「本会則についての細則は理事会の議決を経て別に定める」旨が規定されている。 このように,「吉村流」は,四世家元以降,理事制度を採用し,理事会により団体としての事務が運営され,その合議(多数決)によって団体としての吉村流に関する重要な事項に関する意思決定がなされてきた。次の家元の決定という流派の最重要事項についても,現任の家元の希望があれば忖度はするものの,最終的には理事会の合議により選出されるのであり,五世・六世家元も理事会の承認を経て就任したものである(甲9,甲10)。 理事会は,家元,理事及びS氏から構成され,毎年2回,近年は3月と10月に開催されていた(甲11)。S氏は,理事の地位にはなかったが,代々の家元からの信頼が厚く(甲12),平成12年5月3日に五世家元が急逝し,平成13年5月3日に開催された理事会にて六世家元が推挙されるまでの一時期,家元不在の事態が生じたときは,S氏が中心となり,理事一同と共に協議により「吉村流」を運営していた(甲13)。 なお,理事会において議決権を有していたのは家元,理事及び事務局マネージャー(S氏)であるが,これら理事会構成メンバーの意見が割れたときに家元に最終決定権があった訳ではなく,議決権の価値自体は理事及び事務局マネージャーと同等であった。四世家元については,理事会においてもその意向が尊重されていたが,それはあくまで前記のような同人の功績とその人格に対する尊敬の念に基づく属人的な理由によるものであり,「家元」という地位自体に理事会における最終決定権が付与されている訳ではない。 また,会計,財産管理,「吉村流会報」の発行等の一般的な事務及び上述の吉村会の運営は,「吉村流」事務局が担ってきた(甲9?甲14)。 (エ) 吉村流の標章について 「吉村流」は,本件商標を,自らを示す標章として,吉村流の教授の際に使用する他,公演会を主催する場合や「吉村流」師範名取らが各種催事に出演する場合等に自ら使用し,また名取らに使用させていた。なお,「吉村流」の師範名取らが自ら主催する公演会において本件商標を使用することに対して,家元や理事会から制限が課されることはなかった。 四世家元以来,全国各地で実施されている積極的な稽古・教授活動と公演活動を通じて,本件商標が出願された平成26年4月時点において,本件商標は,日本舞踊に興味をもつ者の間のみならず世間一般において,明治以来承継されてきた「吉村流」という上方舞の一つの流派を構成する団体を出所として表示する標章として広く知られるに至っていた。 イ 被請求人について 被請求人は,「一般社団法人上方舞吉村流」との名称で,吉村流六世家元である中原弘(以下「N氏」という。)を代表理事として平成26年7月8日付で設立された(甲15)。被請求人の役員には,設立時代表理事であるN氏の他に,設立時理事として,その妻である中原美知子(以下「M氏」という。)などが,設立時監事として,弁護士・弁理士の大森孝参(以下「O氏」という。)が,それぞれ登記されている(甲15)。また,設立時社員として,N氏とM氏が定款に記載されている(甲16)。被請求人のホームページ(甲17)のトップページには,「六世家元 吉村輝章」の挨拶が掲載され,「吉村流の概要」と題するページには,吉村流の歴史や吉村流の歴代家元が紹介されている。このような記載内容によれば,被請求人の名称に含まれる「吉村流」という文言は,明治から受け継がれてきた上方舞の一つの流派であるところの吉村流を示していることは明らかである。 しかし,被請求人が「吉村流」を承継した事実はない。すなわち,「吉村流」では,従来から,団体としての重要な事項は理事会の合議により意思決定されてきた。仮に,「吉村流」を承継する法人を新しく設立するのであれば,それが団体としてのあり方そのものに関する極めて重要な事項に該当することは疑いようもないから,当然に理事会の決定によって行われるべきである。被請求人の設立当時,「吉村流」の理事会は,六世家元であるN氏,請求人,吉村ゆきその(以下「Y氏」という。),及び事務局マネージャーを務めてきたS氏の4名から構成されていた。しかしながら,N氏は,被請求人を設立するに当たり,「吉村流」の他の理事らに対し,その設立について諮ったり,相談したりすることは全くせず,被請求人の設立後も,数か月もの間,その旨を連絡しなかった。N氏以外の理事が被請求人の設立を知ったのは,その設立日から3か月以上経過した平成26年10月27日に行われた理事会においてであった。 このように,被請求人は,「吉村流」の他の理事及びS氏の全く関知しないところで,いわば秘密裏に,N氏の独断で設立されたものであり,「吉村流」とは別個の独立した団体であることは明らかである。事実,被請求人自身,その「会員に関する会則」(甲18)において,第2条に「任意団体『吉村流』会員に関する特別規定」として以下の規定を置いている。 「従前の任意団体『吉村流』の会員であった者が,当法人に会費を納入した場合,当然に当法人の会員と見倣し,従前の名取,師範名取の資格を有することとする。」 仮に,被請求人が,その同一性を維持したまま従前の「吉村流」を承継した団体であるとすれば,上記の規定を置くまでもなく,従前の「吉村流」の会員は,何ら手続も要せず,当然に,被請求人の会員としての地位を取得し,その資格を維持することができるはずである。上記第2条の規定の存在は,被請求人自体,被請求人が「吉村流」を承継した団体ではない(つまり従前の「吉村流」と被請求人とは法的に別個の団体である)と認識していることを示すものに他ならない。 ウ N氏による本件商標の登録出願について N氏は,平成26年4月16日,自らの名義で本件商標の登録出願をした。前記のとおり,「吉村流」の標章は団体としての「吉村流」及び各名取の芸能活動において必要不可欠のものであり,それを商標として登録するか否か,するとしても誰を名義人とするのか等,当然に理事会に諮るべき重要事項である。しかしながら,上記の登録出願に当たり,N氏は,「吉村流」の他の理事らに対し,登録出願をすることについて諮ったり,相談したりせず,登録出願後も,その旨を3か月以上に渡り報告せず,秘匿した。 同年7月8日に被請求人が設立され,同年8月1日に出願人名義変更届が提出され,上記登録出願の出願人の名義が被請求人に変更された。その後,同年9月17日に登録査定がされて,同年11月21日に登録がなされた。 N氏は,登録査定後も,「吉村流」の他の理事ら及び名取らに対し,その旨を速やかに報告しなかった。N氏以外の理事らは,平成26年10月27日の理事会において,初めて,N氏から,被請求人が設立されたこと及び本件商標が被請求人の名義で登録出願されていることを知らされた。 なお,「吉村流」に関する標章の商標登録は,本件商標の登録が初めてである。本件商標の登録出願当時,第三者が商標登録出願をしたり,これを企図したりした等の具体的な問題が生じていたような事実はない。 エ 本件商標登録後の被請求人の行為とこれに対する請求人の対応 (ア)平成26年11月17日付の通知 a 本件通知の内容 被請求人は,被請求人の設立から約4か月後,本件商標の登録査定からは約2か月後に当たる平成26年11月17日,「御通知」と題する書面(以下「本件通知」という。甲19)を,突如,「吉村流」の名取らに対して送付し,以下の事項を一方的に通知した。 (a)吉村流の流儀を被請求人として法人化したこと (b)六世家元(N氏)が被請求人の理事長・家元を務めること (c)平成26年12月13日に開催する事始式において「吉村流事務局の業務,会計,下記預貯金(S氏管理)その他一切を一般社団法人上方舞吉村流に引継ぐ件」なる「第一号議案」を付議するため,同式に参加してほしいこと,参加できない場合は,同封の議決権行使書にて賛成・反対の意思を表示したうえで返送してほしいこと (d)会計年度,並びに流費(年会費)及び吉村会(舞踊会)会費の振込先を変更すること,平成26年12月末日までに,平成26年度分のうち流費の半額を変更後の振込口座に振り込むこと (e)吉村流事務局のS氏は平成26年10月27日付で退任したこと及び,同氏は,被請求人事務局とは一切関係がないこと (f)「吉村流」及び「吉村会」の名称が被請求人の商標として特許庁に登録されており,被請求人の許可なくこれを名乗ることができないこと,今後,「吉村流」「吉村会」の名称を被請求人の理事長であるN氏の許可なく使用できないこと 本件通知により,N氏に近いごく一部の者を除き,「吉村流」名取らの大多数は,初めて,被請求人が設立された事実及び本件商標が被請求人名義で登録された事実を知ったのである。 b 請求人らによる名取らへの通知文 これを受けて平成26年11月28日に,請求人らは名取らに対して,「ご連絡」と題する書面(甲20)を送付し,名取らに被請求人の実態について注意喚起を行ったが,名取らへの到着が事始式の直前となったため,被請求人の実態を知る前に議決権行使書を返送した名取らが多く発生した。 (イ)平成26年12月13日の事始式の開催と同月22日の報告書の送付 a 本件報告書の内容 同月22日,N氏から名取らに対して「ご報告」と題する書面(以下「本件報告書」という。甲21)が送付された。本件報告書には,以下の事項が記載されていた。 (a)同月13日,「吉村流」は事始式を行ったこと (b)事始式には13名が出席したこと (c)上記(ア)a(c)記載の第一号議案,すなわち,「吉村流事務局の業務,会計,下記預貯金(S氏管理)その他一切を一般社団法人上方舞吉村流に引継ぐ件」が,賛成180,反対84,棄権1,撤回による無効5(有効議決権数264(うち当日参加13名)。ちなみに,本件報告書の記載によると,平成26年12月13日当時の名取総数は443,議決権行使書の返信総数は257。)で可決されたこと なお,「議決権行使書」なる葉書には「※議案につき賛否の表示をされない場合は,賛成の表示があったものとして取り扱います。」と記載されており,上記の賛成票には相当数の白紙票が含まれているものと考えられる。また,当該「議決権行使書」には署名欄がなく,その代わり,予め個々の名取の氏名,名取名及び住所が印刷されたシールが貼られており,名取自身が返送した真正なものであるかどうかについては疑わしいといわざるを得ない。 b 請求人らによる議決権行使に関するアンケート結果 上記の議決権行使に関して,本件報告書が送付された後,請求人らは,別途,名取らに対して,「ご連絡(その2)」と題する書面により,議決権行使書による対応状況についてアンケートを実施した(甲22)。当該アンケートの結果は以下のとおりである。 議決権行使書による対応状況 回答数 「賛成」で返送 20 「反対」で返送 61 「賛成」又は未記入で返送後,「反対」を表明 7 「保留」又は未記入で返送 6 返送せず 24 棄権 1 対応状況が不明のもの 5 合計 124 上記アンケートに対する回答を記載する葉書には,上記のような対応を採った理由,気持ち,不安点等を自由に記載する欄が設けられている。この欄の記載からは,対応状況の違いを問わず共通に,多くの名取らが,本件通知に驚き,戸惑い,対応に困惑している様子が読み取れた。多くは,事情が全く理解できず,自己の今後の対応に悩み,「吉村流」の将来を憂慮し,ひたすら平和的な解決を望んでいるようであった。また,上記の「賛成」で返送した者の中には,「吉村流の名取として名前が使われなくなるのではと単純な思いで賛成しました。」「『吉村流』の名称を使えないということでしたので何か不信感をいだきながらも,賛成といたしました。唯,その後何かおかしい事だと思わざるを得ませんでした。」等と記載する者もいた(甲23,甲24)。 さらに,未記入で議決権行使書を返送した者の中には,「穏やかに解決していただきたくお願い申し上げます。」等と記載して,賛成か反対か意思表示することをむしろ積極的に拒否し,「吉村流」の分裂の回避を願う(いわば第三の道を採る)者が複数いた(甲25)。しかし,このような思いとは裏腹に,未記入ないし賛否を保留して返送された議決権行使書は,無条件に,賛成票として扱われたのである。 c 事始式における議決権行使の状況から推認される事情 まず指摘すべきは,事始式において出席者が僅か13名というのは異常な状況であり,いかに名取らの困惑が大きかったかを物語っている。すなわち,264の「有効議決権総数」(なお,何をもって「有効」とするか,「吉村流」において規定はなく,N氏又は被請求人が「有効」と主張しているに過ぎない。そして,この数字とて「吉村流」の名取総数の6割に満たない。)のうち,その95%に当たる251の議決権は「議決権行使書」(なお,こうした「議決権行使書」についても「吉村流」における規定は存在しない。)によるものであった。仮に,13名の出席者が全員,賛成の意思表示をしたとしても,180の賛成票のうち,167票は「議決権行使書」によるものである。しかも,その167の賛成票の中には,事情が全く理解できないまま賛成票を投じた者,「吉村流」の名称が使えなくなることを危惧してやむを得ず賛成票を投じた者,「吉村流」の分裂を避けてほしいという思いからあえて賛否の意思表示を拒否して未記入で返送した者等が多数含まれている。加えて,「議決権行使書」の記載上,自署欄がないため,そこに記載された名取自身が,真実,賛成の意思表示をして議決権行使書を返送したか否かを確認する術はない(うがった見方をすれば,他人が議決権行使書にチェックマークを記入して投函することも不可能ではない。)。 結局,本件報告書において記載されている「賛成180」には,実際,本来の意味の「賛成」とは全く異なる思いをもつ名取らも多数含まれており,この数字から,「180名の名取が賛成の意思表示をした」と理解することは大きな誤りである。むしろ,事始式の出席者がわずか13名であったことや,賛成数が,未記入・保留の票を加えて水増ししてもなお,物故者・転居先不明者を除く議決権の総数(443)の過半数にも遠く及ばなかったことは,名取らの多くが被請求人の強引な手法に対し戸惑いなり不満なりを抱いていたことの表れというべきである。 (ウ)平成26年12月20日の請求外吉村昂扇に対する警告 請求外吉村昂扇(以下「K氏」という。)が,「吉村流」の師範名取として,平成26年12月23日に国立劇場にて主催する会に関連して,ウェブサイトや案内状等で本件商標を使用していたところ,被請求人は,被請求人の監査役でもある弁護士・弁理士のO氏を通じて,平成26年12月20日付の「通知書」と題する書面にて,K氏に対して,a)被請求人は本件商標にかかる商標権を保有していること,b)被請求人は,被請求人の会員(師範名取,名取)に対しては,本件商標の使用を許諾しているが,被請求人の会員ではない者に対しては,原則として,本件商標の使用を許諾していないこと,c)K氏は被請求人の会員ではなく,被請求人がその許諾をしていないこと,d)それ故,今後も被請求人の会員になる意思がないのであれば「吉村流」の名称の使用を差し控えてほしいこと,を内容証明で警告した(甲26)。 (エ)国立劇場,日本舞踊協会,及びNHK文化センターに対する通知 他方,被請求人は,本件通知書の日付の翌日に当たる平成26年11月18日,O氏を通じて,国立劇場に対して,「吉村流」の名称は,被請求人の商標として登録査定を受けたため,被請求人の許可なく「吉村流」の名称を名乗ることはできない旨の通知を行った(甲27)。また,日本舞踊協会,及びNHK文化センターに対しても,同様の内容の通知を口頭で行っている。 オ 請求人と被請求人との和解の交渉と交渉の決裂 請求人は,上記エのとおり,被請求人が,被請求人の会員とならない限り,従前からの「吉村流」の名取であっても本件商標を使用することは容認しない旨を名取らに対し通知し,一部の師範名取に対しては個別に警告する他,公演活動に使用されることの多い国立劇場,日本舞踊協会,及びNHK文化センターに対しても同様の通知を行っている行為が,「吉村流」名取の芸術活動に重大な支障を及ぼしていると考え,平成27年1月9日付の「申入書」をもって,被請求人に対して,円満解決に向けた協議を行うことを申し入れた(甲28)。 被請求人が,上記申入れに同意したため,同月30日と同年2月27日,請求人と被請求人は代理人による協議を行った。被請求人の代理人は,被請求人の監査役であるO氏が務めた。当該協議において,請求人は,被請求人に対して,従来からの「吉村流」の名取らによる本件商標の使用に対する妨害をやめること,及び国立劇場,日本舞踊協会,及びNHK文化センターに対して,従来からの「吉村流」名取らによる本件商標の使用を認めることを通知することを要請するとともに,被請求人の設立及び本件商標の登録出願について,それ自体の当否はさておき,「吉村流」の正規の手続を一切無視した六世家元(N氏)の独断的なやり方には問題があり,この点を不問に付したまま,従来からの「吉村流」名取らに対して,本件商標の使用と引き換えに被請求人の会員に入ることを強要することは不当であると主張した。そのうえで,請求人は,流派の分裂は誰も望んでいないこと,「吉村流」の100年の歴史とこれからの100年を考えたとき,仮に「吉村流」を法人化するにしても,N氏が採ったような不当な方法で「吉村流」を法人化したという歴史を残すことは望ましくないこと,法人化については,被請求人を一旦,解散したうえで,改めて,「吉村流」の正規の手続に則り,理事会に諮るとともに,こうした団体としてのあり方そのものを問う極めて重要な事項については,「吉村流」を構成する名取ら全員の総意を問うことが,本来あるべき姿であることを主張した。 これに対して,被請求人は,従来からの「吉村流」の名取らによる本件商標の使用に対する妨害をやめることについては一応同意したものの,「吉村流」の師範が,被請求人に入会しないまま,新しく自らの弟子に「吉村流」の名取を付与することには難色を示し,原則,本件商標の使用については被請求人の許可を得るべきであるという態度は改めなかった。また,被請求人の解散に対しては強い拒否反応を示し,従来からの「吉村流」の名取らに対しては,あくまで,被請求人への入会を求め,それができない場合は,流派の分裂もやむなし,と回答した。 不当な方法により設立された被請求人を一旦,解散すべし,とする請求人と,これを拒絶する被請求人との間で折り合いかつかないまま,「吉村流」の名取らに本件通知が出されてから約5か月が経過し,請求人は,被請求人に入会せずに「吉村流」に留まっている師範らが自らの弟子に「吉村流」の名取を付与することができないという事態をこれ以上放置することはできないとの結論に至り,ここに無効審判請求を申し立てるに至った。 (2)商標法第4条第1項第7号の該当性について ア 本件商標登録出願の際にN氏が負っていた義務 本件商標は,それが示す「吉村流」という言葉とその意味が広辞苑にまで掲載されていることからも明らかなとおり,その登録出願時において,日本舞踊に興味をもつ者の間のみならず,世間一般において,明治以来承継されてきた上方舞の流派の一つである「吉村流」というまとまった一つの団体を出所として表示する標章として広く知られていた。「吉村流」は法人格を有さず,「吉村流」の名義により商標登録出願を行うことができないところ,六世家元であったN氏は,「吉村流」の代表者として個人名義で登録出願を行ったものとみることができる。 一般に,団体の規模が小さく,いわば,代表者個人の団体と評価することができる場合はともかく,団体としての組織運営に関する定めを有し,団体と代表者個人(家元)とが明確に区別され,多数の構成員からなる団体にあっては,団体と代表者個人の利益は必ずしも一致しない。そのような団体の場合,代表者は団体のために,善良な管理者の注意をもって代表者としての事務を処理し,団体の重要な財産の管理,処分については,団体内部の適正な手続を経るべき義務を負うものというべきである。 この点,「吉村流」は,家元と理事から構成される理事会の合議制により運営されてきた。「吉村流」の中核となる五世家元及び六世家元の選出が理事会の合議により決定されてきたことは既に述べたとおりである。本件商標出願当時,「吉村流」は,六世家元と2名の理事及び1名のマネージャーから成る理事会と事務局を有し,全国各地に名取443名が所属していた。そして,師範名取らは,「吉村流」の名の下,自分の弟子に対して吉村流の稽古を行う他,各種公演会に出演していた。 これに対し,N氏は,本件商標の登録出願時,六世家元として代表者的地位にあったが,それ以上に,「吉村流」という団体について,自らその運営方針をすべて決めることはできず,「吉村流」は,いわば,N氏個人の団体と評価することができるようなものではなかった。このことは,上記(1)エ(イ)で述べたとおり,その有効性はおくとして,平成26年12月13日に開催された被請求人の事始式において,吉村流事務局の業務,会計,下記預貯金(S氏管理)その他一切を被請求人が引継ぐことに関して,「吉村流」の名取らから「承認決議」をとり,同名取らの多数決によっていわば「事後承認」を得ようとした被請求人自身が認めるところである。 したがって,N氏は,善良な管理者の注意をもって代表者としての事務を処理し,本件商標のような「吉村流」の重要な財産の管理,処分について,「吉村流」内部の適正な手続を経るべき義務を負っていたというべきである。 イ 本件商標の登録出願は「吉村流」に対する背信行為に当たること 本件商標は,「吉村流」の日常の活動において不可欠の,極めて重要な財産であった。すなわち,本件商標は,「吉村流」の100年の歴史と伝統のシンボルであり,先人達のたゆまぬ努力によって築かれてきた「吉村流」に対する信用が化体されたものであると同時に,「吉村流」の名取らの拠って立つところ(いわば「看板」)であり,その使用なしに日々の稽古も公演活動もなし得ないものである。 他方,本件商標の登録出願時において,「吉村流」にとって,その登録出願を速やかに行う必要性があったとは認められない。 にもかかわらず,N氏は,事前に理事会に諮ることも,事後的に直ちに報告することもせず,秘密裏に,個人名義で本件商標の登録出願を行ったうえ,N氏が「吉村流」に無断で設立した被請求人に,当該登録出願の名義を移転したのである。「吉村流」として,当時,速やかに商標登録出願する必要性があったといえないことは上記のとおりであるから,緊急性等を理由として,N氏が「吉村流」内部の適正な手続を経なかったことを正当化することはできず,事後的に直ちに報告しなかったことの理由にもならない。 さらに,N氏は,被請求人の名義で本件商標の登録査定を得た後,平成26年11月17日付の本件通知により,従来からの「吉村流」の名取らに対して,被請求人設立の事実と同時に,本件商標は被請求人の保有する登録商標であるから,被請求人の許可なくこれを使用できないことを一方的に通知した。また,従来からの吉村流師範名取に対して,被請求人の会員にならない限り,本件商標を使用してはならない旨の警告を個別的に行い,「吉村流」の芸能活動の重要な舞台である,国立劇場,日本舞踊協会,及びNHK文化センターに対して,書面や口頭で,被請求人の許可なく本件商標を使用することを認めない旨通知したのである。 以上の諸事情,殊に,被請求人の設立,本件商標の登録出願及び名義変更といった「吉村流」にとって重要な事項を,すべて,他の理事や「吉村流」名取らの大部分との関係で秘密裏に行ったうえ,「吉村流」名取らに対して,本件商標の使用許諾と引換えに,被請求人の会員になることを要求したことを鑑みると,N氏及び被請求人の関係者は,適正な手続を踏まずに設立された被請求人を対外的に権威づけるため,「吉村流」の歴史と伝統の象徴である本件商標にかかる権利を,いわば,抜け駆け的に確保し,これを利用して,吉村流名取らに対し,あたかも被請求人が「吉村流」を正当に承継した法人であるかのような印象と,会員にならなければ本件商標を使用できなくなるというプレッシャーを与えることを意図して,本件商標にかかる権利を取得したと解すべきである。そうすると,N氏による本件商標の登録出願は,「吉村流」のためにされたというよりも,専ら,N氏個人またはN氏が設立した被請求人の利益のためにされたものであって,「吉村流」に対する背信行為に当たるというべきである。 ウ N氏の「吉村流」の代表者としての義務違反行為 以上によれば,N氏による本件商標の登録出願は,「吉村流」というまとまった一つの団体を出所として表示するものとして広く知られていた標章について,「吉村流」の当時の代表者の地位にあったN氏が個人名義でしたものであるところ,その登録出願は,「吉村流」のために,善良な管理者の注意をもって代表者としての事務を処理すべき義務に違反し,事前に「吉村流」の意思決定機関である理事会においてその承認を得るなど,「吉村流」内部の適正な手続を経るべき義務を怠り,自己ないし被請求人の利益を図る不正の目的で,秘密裏に行ったと評価すべきものである。 また,登録査定時において,N氏は,被請求人の代表理事であり,本件商標は被請求人の名義で登録査定を受けている。この点,上記のとおり,本件商標は,「吉村流」という団体を出所として表示する標章として広く知られていたものであり,被請求人は「吉村流」と何ら同一性を有するものではないから,N氏が被請求人の代表理事であることは,本件商標の登録出願を正当化するものではない。かえって,本件商標登録出願当時の「吉村流」の代表者としてのN氏が,「吉村流」内部の適正な手続を経ずに不正の目的で秘密裏に行うという重大な義務違反を犯して登録出願した本件商標の登録を,登録査定時において,「吉村流」とは同一性を有しない被請求人にそのまま付与することは,商標法の予定する秩序に反するものと言わざるを得ない。 エ 小括 以上によれば,本件商標の登録は,その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして容認し得ないというべきであるから,商標法第4条第1項第7号に違反してなされたものである。 (3)商標法第4条第1項第8号の該当性について ア 「吉村流」は「他人の名称」であること 従前の「吉村流」は,いわゆる法人格のない社団であるところ,法人格のない社団も商標法第4条第1項第8号にいう「他人」に含まれることについては争いがない(東京高判平成8年(行ケ)第225号,東京高判平成10年(行ケ)第380号)。 そして,被請求人は,その設立手続において「吉村流」を承継した事実はなく,被請求人と「吉村流」とは別個の団体であるから,「吉村流」は,被請求人との関係では「他人」に該当する。 イ 「吉村流」が「著名な略称」であること 法人格のない社団の名称について,商標法第4条第1項第8号に基づきその名称を含む商標の登録を阻止するためには,略称に準ずるものとして,法人格のない社団の名称が著名であることが必要であるとされている。 この点,「吉村流」の名称は,商標法第4条第1項第8号にいう「他人の名称」に該当し,かつ,著名であることが認められるというべきであるから,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第8号に違反してなされたものである。 (4)商標法第4条第1項第10号の該当性について なお,本件商標の指定役務と「吉村流」が使用される役務とが同一又は類似であることは明らかである。 ア 「他人」の該当性について 商標法第4条第1項第10号における「他人」の解釈について,知財高裁判決(平成19年(行ケ)第10079号)は,本号でいう「他人」とは出願者以外の者を広く指称するものである旨判示している。 この点,「吉村流」は,被請求人と同一性を有さないから,同号でいう「他人」に該当することは明らかである。よって,「吉村流」の標準文字からなる本件商標は,被請求人との関係では「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するもの」に該当する。 イ 周知性について 「吉村流」という標章は,本件商標の登録出願時及び査定時の各時点において,「吉村流」という上方舞の一流派及びその団体を表示するものとして,需要者の間に広く認識されている商標となっていたものと認められる。 ウ 役務の類似性について 本件商標の指定役務と「吉村流」が使用される役務とが同一又は類似であることは明らかである。 エ 小括 以上のとおり,本件商標は,他人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標であって,その役務について使用をするものであるから,商標法第4条第1項第10号に該当する。 (5)商標法第4条第1項第15号の該当性について 「吉村流」は被請求人と同一性を有さないので,「吉村流」を構成する名取らの芸術活動は,「他人の業務に係る役務」に該当する。 また,上記のとおり,「吉村流」の名称は著名であるところ,本件商標はこれと同一であるから,本件商標が「吉村流」を表示する商標であると混同するおそれがあるといえる。 したがって,仮に,本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当しない場合であっても,同第15号に該当する。 (6)商標法第4条第1項第19号の該当性について 以下,本号の該当性について,本件商標が,a)「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標」であり,b)「不正の目的(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもって使用をするもの」であることを説明する。 ア 本件商標がa)の要件を満たすこと 既に繰り返し述べているとおり,本件商標は,その登録出願時から査定時を通じて他人の業務に係る役務を表示するものとして日本国内における需要者の間に広く認識されている商標と同一であるといえる。 イ 本件商標がb)の要件を満たすこと N氏は,「吉村流」という標章が「吉村流」及びその名取らの日常的な活動において不可欠なものであることを熟知し,仮にその使用を禁止すれば,彼らの芸能活動が困難になることを十分予想して,本件商標の使用と引換えに「吉村流」の構成員である名取らを,正当な手続を経ずに設立した被請求人に組み入れるための道具として本件商標を利用することを意図して,当該標章が未登録であることを奇貨として,「吉村流」に無断で,本件商標を出願したというべきである。このような出願経緯を鑑みると,本件商標の出願は「不正の目的」をもってなされたというべきである。 ウ 小括 したがって,仮に,本件商標が,商標法第4条第1項第7号又は同第10号に該当しない場合であっても,同第19号に該当する。 (7)むすび 以上のとおり,本件商標は上記各無効事由に該当し,誤って登録されたものであるから,その登録は無効とされるべきである。 2 弁駁の理由 (1)弁駁の理由の要旨 被請求人は,「吉村流」(被請求人が設立される以前から存在する日本舞踊の一流派としての「吉村流」を指す。以下同じ。)においては,家元が全ての意思決定を行うことができるのであり,その組織を法人化することも,「吉村流」の標章を商標登録することも,家元の一存で全く有効に行うことができるとの理由で,「吉村流」と被請求人は同一主体であるから,本件審判請求は成り立たないと主張する。 しかし,N氏による本件商標の登録出願,及び被請求人による本件商標の承継・登録は,ひとえに,N氏が被請求人を通じて「吉村流」を意のままに支配するための「道具」として行われたものであり,それは本件商標登録に至る経緯並びにその後のN氏及び被請求人の言動からも疑いようがない。 (2)「吉村流」と被請求人との同一性は皆無であること ア 被請求人自身が「吉村流」と被請求人との団体としての非同一性を自白しているに等しいこと 被請求人は,自ら作成した文書及び答弁書における主張において,「吉村流」と被請求人とが全く別個の団体であったことを自ら認めている。その具体的内容は以下のとおりである。 (ア)被請求人が作成した文書における記載 まず,被請求人は,自ら作成した「一般社団法人上方舞吉村流会員に関する規則」(甲18)第2条において,「従前の任意団体「吉村流」の会員であったものが,当法人に会費を納入した場合,当然に当法人の会員と見倣し(以下略)」と規定している。 これをきわめて素直に解釈すれば,被請求人が, a 従前の「吉村流」は「任意団体」であること b 従前の「吉村流」の会員は,被請求人に対して会費を納入するのでなければ,被請求人の会員とは見倣されないこと との認識を「規則」という形で公に表明していることが明らかである。 仮に,被請求人の主張するとおり,「吉村流」と被請求人が同一主体であるとしたら,「吉村流」の会員であれば無条件で被請求人の会員となるはずである。それを,「吉村流」の会員であっても,被請求人に対して会費を納入するという条件を満たさない限り,被請求人の会員であるとは見倣されないというのは,端的に,「吉村流」と被請求人とが別個の団体だからであり,被請求人自身も重々それを認識していたことの証左である。 さらに,平成26年11月17日付の被請求人作成に係る「御通知」(甲19)には,以下の記載がある。 a 「第一号議案: 吉村流事務局の業務,会計,下記預貯金(S氏管理)その他一切を一般社団法人上方舞吉村流に引継ぐ件。」 b 「S氏管理の上記三通の預貯金は,すべて皆様方名取の方々の総有の財産です。」 c 「皆様方全員のご協力によって,全額が流儀のために使用できるようになります。」 これらの記載から,被請求人が,「吉村流」を被請求人とは別個の任意団体(権利能力なき社団)ととらえ,その財産を被請求人に引き継ぐために,「吉村流」の会員(師範名取及び名取)全員の承諾を求めたことは疑いの余地がない。 (イ)答弁書における被請求人の主張 次に,答弁書において被請求人は,「家元が「吉村流」の意思決定機関である」(答弁書4頁),「吉村流」の組織を法人化する」(同左),「事始式における賛否の採択は,組織の法人化に際する会員らの意見聴取であり」(同12頁)などと主張している。 被請求人の上記各主張からは,従前の「吉村流」は一つの「組織」であって,(その権限の内容はさておき)家元はその組織の「機関」であるということになる。これはとりもなおさず,「吉村流」が団体としての実質を備えていたことを意味しているのであって,かような吉村流が,N氏とその妻M氏が設立した全くのプライベートな法人である被請求人と同一であるはずがない。 イ 「吉村流」における家元の地位及び家元と各師範名取・名取との関係性は被請求人の主張からは全く不明であること 上記アで主張したところで既に,「吉村流」と被請求人との非同一性は明白であるが,なお被請求人は,家元が「吉村流」の意思決定機関であるとの理由で,家元たるN氏単独の意思決定により「吉村流」を法人化することが可能であり,「吉村流」と被請求人とは同一主体であると主張する。 しかし,被請求人の主張からは,「吉村流」とはいかなる存在であり,家元と各師範名取・名取といかなる関係性を有していて,家元が「吉村流」全体の意思を単独で決定できるのはいかなる根拠に基づくものなのか,全く不明確である。「機関」性をいう以上,何らかの団体が存在したことを前提とするのでなければ不合理であるが,一方で家元であるN氏単独の意思で,「法人化」や「商標登録」という流派の根幹にかかわる決定が行えるということからは,「吉村流」とは家元と各師範名取・名取との一対一の契約の集合体(いわば個人契約の「束」)ととらえているようにも考えられる。しかし,仮にそうだとすると,「吉村流」五世家元の死後,N氏が六世家元となるまでの約1年間は「家元不在」だったのであり,その間の「吉村流」とはいったい何であったのか,説明かつかない。 (3)「吉村流」の意思決定は理事会の多数決によって行っていたこと 被請求人は,「吉村流」の理事会は家元の「諮問機関」に過ぎないと主張している。 しかし,そもそも「諮問機関」たる理事会とは家元が何を「諮問」する機関なのか,被請求人の主張からは全く明らかではない。まして,以下の諸事実からすれば,「吉村流」の意思決定を行っていたのは理事会であって家元単独ではないことに,疑いの余地は全くない。 ア 五世家元の死去からN氏の六世家元襲名までの,家元不在であった約1年間は,理事会が「吉村流」の意思決定を行い,流派を運営していたこと(甲13) イ 五世家元及びN氏のいずれも,理事の中から,理事会の推挙により家元に決定したこと(甲9,甲10) ウ 名取試験の際は,家元のみならず全理事が出席し,家元との協議により合否を決定していたこと さらに,理事会の権限を裏付ける事実として,四世家元吉村雄輝が,生前,次期家元の人選につき自らの希望(意中の人物)を述べたところ,理事会がこれを拒絶したため,四世家元がその希望を断念したということすらあった。人間国宝として今なお「吉村流」内外に広く知られる四世家元ですら,理事会の同意なしに「吉村流」の意思決定を行うことはできなかったのであり,まして上記の経緯で六世家元となったN氏に,四世家元を上回る強大な権限などあろうはずがない。 仮に「吉村流」理事会が家元の「諮問機関」であったとすれば,流派の存立の根幹に関わる重大事である「法人化」「商標登録出願」について,なぜ「諮問」しなかったのであろうか。被請求人はその点について全く説得力のある主張をしていないが,それはつまり,理事会が「諮問機関」に過ぎなかったという主張自体が虚偽であるからにほかならない。仮にかかる重大事について理事会に「諮問」しなくてよいというのであれば,理事会の存在意義はほとんどないことになってしまう。しかし,現実には,被請求人も認めるとおり,四世家元以来,理事会は存在し続けている。 (4)その他の被請求人による不合理な主張 ア 「被請求人設立の経緯」について 上記の項で,被請求人は,S氏による「流費」の管理や税務申告について種々論難するが,これらが本件商標の有効性とは全く関係ないことはいうまでもない。また,N氏による本件商標の登録出願は平成26年4月16日であるところ,被請求人の主張によればN氏に対する税務調査があったのは同年5月とのことであるから,かかる税務調査がN氏による本件商標登録出願と関係ないことも明らかである。 イ 吉村会について 被請求人が「全て被請求人が行っている(乙11?乙14)」とする「吉村会」のうち,平成25年5月5日(乙11)及び同年12月8日(乙12)は被請求人の設立前に行われたものであり,「被請求人が行っている」との主張は明らかな虚偽である。 ウ 本件商標登録出願について 被請求人は,「同年7月8日に被請求人の設立後は,法人として吉村流の舞踊の教授,上演等を行うこととなったことから」と主張する。 しかしながら,N氏が被請求人の設立を「吉村流」の師範名取・名取に告知したのは前記の平成26年11月17日付の被請求人作成に係る「御通知」(甲19)が初めてであり,それ以前に「法人として吉村流の舞踊の教授,上演等を行う」ことなどあり得ない。 さらに,被請求人は,「家元及び被請求人は本件商標を,組織整備の一環として商標の不正使用を防止する目的で登録したもの」と主張するが,これまで,「吉村流」の標章が他人に勝手に使用されたといった事象は生じたことはない。すなわち,理事はおろか師範名取・名取の大多数に何ら事前の相談・連絡もなしにN氏が個人名義で本件商標を出願しなければならないような緊急性も必要性も皆無であり,まして,平成26年7月15日時点において理事を含む師範名取及び名取の大多数に全くその存在を知られていなかった被請求人に,本件商標の名義を変更する理由もない。 かかる経緯に照らせば,本件商標登録出願は,N氏が,六世家元という地位に伴う,理事を含む師範名取及び名取に対する信義に背き,「吉村流」の標章を私的に独占しようとしたことは疑う余地がない。 エ 代理人間の協議について 被請求人は,請求人代理人との協議において,「被請求人設立以前から名取の資格を得ている者については,事前に家元に報告があれば,本件商標の使用に対し権利行使をしない旨に話合いをしている」と主張する。 しかし,従前からの「吉村流」の名取が「吉村流」を名乗ることができるのは当然であって,「事前に家元に報告」することに請求人として同意した事実はない。 また,被請求人は,「請求人ら代理人弁護士は,さらに,被請求人の解散,S氏が流費等を管理すること,S氏が吉村流の意思決定に関与できる地位に就くこと等を一方的に要求した」と主張する。 しかしながら,実際には,被請求人側が,S氏の「不関与」を一方的に要求したのであり,協議がその先に進展しなかったのは,ひとえに被請求人がこの点に特に固執し続けたからである。 第3 被請求人の答弁 被請求人は,結論同旨の審決を求めると答弁し,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第29号証(枝番号を含む。)を提出した。 1 主張の要旨 本件審判請求は,請求人が,日本舞踊の一流派である吉村流において,その意思決定は理事会の決議によって行うものである,との主張を前提に,六世家元吉村輝章氏ことN氏(以下,2(1)を除き,単に家元という場合はN氏のことを指す。)による本件商標登録出願は公の秩序を害し,また家元が「吉村流」の運営を目的として設立した被請求人について,これを「吉村流」の運営主体とは認められない他人であるとして,本件商標の無効審判を求めるものである。 しかし,「吉村流」の理事会は四世家元の時代に,四世家元の諮問機関として四世家元が理事を指名し作られたもので,「吉村流」の家元制度においては,代々家元が意思決定を行って運営してきた。六世家元の現在においてもそれは変わらず,家元が「吉村流」の意思決定機関である。家元が「吉村流」の標章を商標登録することも,「吉村流」の組織を法人化することも,家元の決定によりなし得る。 本件商標は,「吉村流」家元の決定により,家元自身が商標登録出願をし,「吉村流」の組織を法人化したものである被請求人が家元から商標登録出願により生じた権利の譲渡を受けて商標登録を受けたものであり,無効とすべき理由はない。 2 「吉村流」と被請求人の同一性 「吉村流」と被請求人が同一主体であることの根拠として,吉村流の家元制度の概要,被請求人設立の経緯と現状について,主張する。 (1)吉村流の家元制度 「家元」とは,芸道で,その流祖の正統を伝える地位にある家や人,その流儀の最高権威伝承者またはその家系を意味するものとされている(乙1?乙2)。 日本の伝統芸能においてとられている家元制度については各組織ごとにその性質は様々であるが,ほとんどの流派において家元が流儀の最高権威伝承者として流儀の意思決定権を有している。吉村流の家元制度においても,舞踊の実力者が家元となり,家元が流派における全ての決定権限をもつという,家元個人を中心とした組織である。 初世家元の時代から平成26年7月8日に被請求人が設立されるまで,吉村流においては,多数決による意思決定機関は有しておらず,組織運営の方法を定めた会則もなく,弟子からの免許料等は家元の個人的な収入として処理されてきた。四世家元の時代より,家元が選任した理事により構成される理事会が家元の諮問機関として置かれているが,理事の選任は家元の任意により,理事会に何らの決定権限もない。家元は,必要に応じて理事らの意見を聴取するものの,単独で吉村流の意思決定をし,流派を統率してきた。 家元は,被請求人の設立以前から,吉村流の家元として,東京都杉並区所在の自宅兼被請求人の本店において週2回,東京都中央区銀座所在のエコール・プチピエ・銀座において月2回,東京都港区青山所在の銕仙会能楽研修所において月3回程度,京都市中京区所在の冬青庵能舞台において年に数回,その他よみうりカルチャーセンター等において,日本舞踊である吉村流の舞踊・技芸の教授を自ら行うとともに(乙3?乙7),年に2回,吉村流の名取試験,師範名取試験を行い,吉村流の舞踊,技芸の上達の程度を判断し,名取免許,師範名取免許を与えてきた。 「名取」とは,広辞苑第六版では,「音曲・舞踊などを習う者が,師匠から芸名を許されること。また,その人。一定水準の技能に達した弟子に流儀名のうちの字を与え,家元制度の維持をはかるもの。」とされている(乙8)。 吉村流の「名取」は,家元から「吉村」の芸名を使用することを許されるとともに,芸名を付与され,吉村流の舞踊会への出演,吉村流の舞踊の教授が許される。但し,「名取」は,その教授する弟子を名取に取立てることはできない。吉村流の名取免許を希望する者は,自身の師匠を通じて,家元に名取申請を行い名取試験を受け,家元が,吉村流の舞踊,技芸の上達の程度を判断して,家元の権限により名取免許を弟子に与えてきた。 吉村流の「師範名取」は,自分の弟子を名取に取立てることができ,吉村流の許し物,奥許し物の伝授を受け,あるいは教授し,舞うことができる資格である。師範名取の取得を希望する者は,自身の師匠を通じ,家元に対し師範名取申請を行い師範試験を受け,家元は,師範として教授するに足る技量があると認めたものに対して,吉村流の師範名取免許を与えてきた。 このように,家元は,吉村流の流儀の最高権威伝承者として,吉村流の日本舞踊の教授,技芸の教授を行い,弟子に対してその技芸の上達の程度を判断して,名取,師範名取の免許を与えてきた(乙9)。 また,家元は,国立大劇場や銕仙会能楽堂において「吉村会」と称する公演を主催し,吉村流の流儀の最高権威伝承者として吉村流の舞踊を上演し(乙10?乙14),海外においても,多くの観客のもとで吉村流の舞踊を上演してきた(乙15)。 家元は,平成24年度にその業績が認められ,文化庁から,平成24年度(第63回)芸術選奨文部科学大臣賞を受賞している(乙16?乙20)。 被請求人設立以前の吉村流においては,「吉村流」なる団体として,吉村流の日本舞踊の教授や日本舞踊の公演や上演をしてきたのではなく,家元が流儀の最高権威伝承者として日本舞踊の教授や日本舞踊の公演や上演を行い,あるいは,家元から吉村流の舞踊の教授や公演を許された名取資格を有する個人が日本舞踊の教授や日本舞踊の公演や上演を行ってきた(乙3?乙7,乙21?乙27)。 (2)被請求人設立の経緯 上述のとおり,被請求人設立以前の吉村流においては,名取免許,師範名取免許を家元の専権で付与しており,吉村流の舞踊を上演する「吉村会」も家元が主催していたことから,名取,師範名取の免許料,公演の出演料等を家元の個人的な収入としており,「吉村流」なる団体としての収入としていなかった。 ただ,名取らが支払う会費である「流費」については,家元が事務局運営を委託したS氏が,名取から徴収し,その業務委託料等に充てられていたが,S氏から名取らに対する会計報告が一切なされておらず,家元に対しても正確な収支について報告をしていなかった。そして,約25名の名取から,毎年納めている流費の使途について,会計報告が一切ないこと等について疑問が呈されていた。 S氏が,会員らから徴収していた「流費」等の中から,毎月業務委託料として20万円を引き下ろして受領し,さらに1,000万円近い資金を管理していたことが後に判明した。にもかかわらず,S氏が管理する資金(甲14)については,「吉村流」なる団体としても,家元個人としても,一切税務申告がなされていなかった。 そもそも,請求人が主張する「吉村流」という団体としては,決算書を作成したこともなく,税務申告をしたこともなかった。なお,S氏は「流費」から毎月受領していた20万円についても,個人の所得として申告をしていないことも判明した。 平成26年5月に,家元に対する税務調査がなされ,税務署より,そのような会計処理が不適切であり,明朗化すべきであること,家元個人と吉村流とで収入を分けて管理すべきであること,等の指導があった。 この税務署からの指導を受けて,家元は,吉村流を法人化して,会則を作成し,これに従って組織運営をしていくことを決して,平成26年7月8日,その吉村流の運営を行う法人組織として被請求人を設立した。 (3)被請求人と吉村流の現状 被請求人は,その定款にも記載されているとおり,「当法人設立以前の上方舞吉村流六世家元吉村輝章(本名N)が,吉村流四世家元吉村雄輝及び吉村流五世家元吉村雄輝夫から承継してきた本邦固有の古典舞踊である,上方舞・地唄舞の技芸と振付を,京都御所の舞指南・御狂言師たる吉村流の格式と伝統を保持しつつ,これを普及発展させ,さらに後世に承継させ,以ってわが国の文化芸術の振興に寄与すること」を目的として設立された法人である(甲16)。 法人が設立された平成26年7月8日以来,吉村流の運営は被請求人の理事らによって構成される理事会が多数決によって決定するようになり,吉村流の会員らは被請求人の会員となって,被請求人宛てに年会費,名取試験料,名取免許取得料,師範名取試験料,師範免許取得料,出演料等の支払いをしている。 吉村流の会報も被請求人から発行され(乙28),吉村流の名取・師範名取らが出演する舞の会である吉村会の開催,事始式,名取試験及び師範名取試験,並びに名取式などの行事の開催も,全て被請求人が行っている(乙11?乙14)。 但し,名取,師範名取の免許権限は,家元の専権であることには変わりはない(甲18)。 なお,特に被請求人への入会を拒まない限りは,従前からの吉村流の弟子,名取,師範名取は,そのまま被請求人においても,弟子,名取,師範名取の地位を認めているが(甲18),S氏に近しい請求人を含む一部の名取らが,被請求人の活動を認めず入会を拒んでいる状況にある。 (4)家元による本件商標登録出願と被請求人への承継 家元は,上述したとおり,吉村流の流儀の最高権威伝承者として,吉村流の舞踊の教授,上演等を行ってきた者であり,吉村流の家元として,平成26年4月16日,本件商標登録出願を行った。そして,同年7月8日に被請求人の設立後は,法人として吉村流の舞踊の教授,上演等を行うこととなったことから,家元は,本件商標登録出願により生じた権利を,被請求人へ譲渡し,出願人名義変更届を行った。 3 事実主張に対する認否 (1)「吉村流」の組織運営について ア 請求人の提出に係る甲第8号証の会則は,作成年月日が不明で,作成名義を示す記名も捺印もなく,S氏が他流派の会則を参考にレポート用紙へ書いたメモ書きに過ぎない。「吉村流」において,明文化された会則は存在しない。請求人は「本会則は,四世家元が理事制を導入した際に,理事会の協議の結果,作成され,承認されたものである。」と主張するが,そもそも,四世家元の当時から,理事会は「吉村流」の運営について何らの決定権限は有しておらず,「吉村流」の運営は家元により決定されていた。そして,理事会において甲第8号証に会則について協議した事実も,理事,師範,及び名取らに対して甲第8号証の会則が配布・伝承された事実もない。 イ 請求人は,「吉村流」が多数決により意思決定がなされてきた,と主張するが,そもそも,請求人が「多数決を行っていた」と主張する理事会は,家元が任意で選んだ理事によって構成されているもので,団体構成員らによって選ばれた組織ではない。また,実際には,「吉村流」の意思決定は理事会ではなく家元によりなされている。四世家元は,「吉村流」の運営に際して,自己の信頼する弟子達からの意見を聴取するために,自ら選任した数名を理事として,理事会を構成させていたが,この理事会は諮問機関にすぎず,最終的な決定は家元が単独で行っていた。五世家元及び六世家元の時代になっても,理事会の性質は同様であり,家元自身が理事を選任し,理事会は家元が意見を聴取するための諮問機関にすぎない。 請求人が主張する「団体」の構成員が名取であるのか,理事であるのか明らかでないが,仮に,請求人の主張が理事から構成される「団体」だとしても,名取から構成される「団体」だとしても,その「団体」として,本件商標の指定役務である日本舞踊の教授を行っていたのではなく,日本舞踊の上演を行っていたのではない。吉村流の舞踊の教授を行っていたのは,家元及び家元から吉村流の舞踊の教授を許された名取,師範名取の免許を与えられた名取,師範名取であり,吉村流の舞踊の上演を行っていたのも,家元及び家元から吉村流の舞踊の上演を許された名取,師範名取である。 家元が主催する「吉村会」などの日本舞踊の興業の運営についても,S氏が,主催者である家元から委託を受けた事務局として運営をしていたものである。 なお,家元の決定については「吉村流」の家元が世襲ではなく舞踊における実力者が就く伝統にあり,四世家元も五世家元も後継者を指名することなく急逝したために,決定権者たる家元が不在の緊急の事態にあたってやむをえず,事実上,先代家元の信任の厚かった理事らが次の家元を選定したものである。甲第9号証と甲第10号証の記載は,家元が吉村流の意思決定権限を有することと矛盾するものではない。 ウ 理事会の構成員は,理事のみであり,家元は理事ではない。S氏も家元より事務局運営を委託されていた者にすぎず,理事ではない。S氏は,吉村流の名取名簿(甲7)にも,会報(甲9?甲13)にも,公演においても,吉村流の理事として扱われたことはなく,家元も名取も,S氏が理事であるとは認識していない。岡崎つる屋において行われた名取式理事会とは,名取試験合格者への免状授与の行事である名取式の後に,役員らが会食をする懇談会のようなものである。 エ 「吉村流」における最終的な意思決定権限は家元が有しており,四世家元の時代も,現在の六世家元の時代も変わらず,家元が「吉村流」の運営を決定してきた。 オ 「吉村流」の会計,財産管理,会報の発行等の事務を,四世家元の時代から平成26年10月27日まで,S氏が行っていたことは認める。これは各家元がS氏に事務局運営業務を委託してきたことによるが,平成26年5月にS氏の資産管理が不適切であったこと及び同人の業務委託報酬の申告漏れ等が発覚したことにより,同年10月27日に,六世家元がS氏に対し,業務委託を終了しマネージャーの職務から解任する旨告げた(乙29)。 (2)吉村流の標章について 「吉村流」における吉村流の標章の使用は,家元の管理の下で許されている。 師範・名取らは家元から吉村流を名乗ることを許されて「吉村○○」の芸名を使用できるものであるし,上記2(1)に述べた家元制度の性質上,家元の意に反して「吉村流」の標章を使用することはできない。 (3)被請求人について 家元は「吉村流」の意思決定として,「吉村流」を法人格を持つ組織にして運営していくことを決定し,そのための法人として被請求人を設立したのである。「吉村流」の師範・名取らを被請求人の会員にすることは,法人運営のための事務手続上の処理である。 被請求人への入会を拒まない限りは,従前の吉村流の名取,師範名取について,そのまま被請求人においても,名取,師範名取の資格が認められている(甲18)。 (4)N氏による本件商標の登録出願について 家元であるN氏が「吉村流」の意思決定をする際に理事会の意見を聴取する義務はない。 (5)本件商標登録後の被請求人の行為とこれに対する請求人の対応について 平成26年12月13日に事始式の出席者は60名(当日投票した者13名,前日までに投票を済ませた者47名)であり,盛会裏に執り行われた。また請求人の邪推するような不正を行った事実もない。 事始式における賛否の採択は,組織の法人化に際する会員らの意見聴取であり,被請求人の設立の要件ではない。 また,被請求人が請求外K氏に対し甲第26号証の文書を送付したこと,及び請求人が国立劇場に対して甲第27号証の文書を送付したのは,「吉村流」の会員としての地位を拒否する者については,吉村流の名称を使用することを認めないとの趣旨のものである。組織の法人化以前から,「吉村流」において,原則として,家元の承諾なく吉村流の名称を使用して吉村流の舞踊の教授,吉村流の舞踊の上演することは認めていない。なお,その後に,請求人らの代理人弁護士(以下「請求人代理人」という。)と被請求人代理人弁護士(以下「被請求人代理人」という。)との協議において,被請求人設立以前から名取の資格を得ている者については,事前に家元に報告があれば,本件商標の使用に対し権利行使をしない旨の話合いをしている。 (6)請求人と被請求人との和解の交渉と交渉の決裂について 請求人と被請求人との間で協議の場がもたれたこと,協議において請求人が被請求人に対しその解散を求め,被請求人が請求人に対し会員となることを求めたこと,及び協議がまとまらなかった事実は認める。請求人代理人と被請求人代理人との協議において,被請求人設立以前から名取の資格を得ている者による本件商標の使用に対して権利行使をしないことについては,被請求人代理人も同意したが,名取の免許を付与することは,被請求人の設立後も,従前と変わらず家元の専権であることから,これには同意しなかった。請求人代理人は,さらに,被請求人の解散,S氏が流費等を管理すること,S氏が吉村流の意思決定に関与できる地位に就くこと等を一方的に要求したことから,話合いは合意には至らなかった。 (7)商標法第4条第1項第7号の該当性について 本件商標は,商標法第4条第1項第7号にはあたらない。 「吉村流」においては代々家元が単独で意思決定をすることができたのであり,商標登録にあたって会員らの議決をとったり,理事会の意見を聴いたり,すべき義務はない。 また,家元及び被請求人は本件商標を,組織整備の一環として商標の不正使用を防止する目的で登録したもので,何らの不当性はない。 請求人が主張する「吉村流」の構成員が名取なのか,それとも,理事なのかが明らかでないが,吉村流の名取による総会は開催されたことはなく,名取による多数決によって「吉村流」のことを決定したことはない。請求人が主張する「理事」は,名取の決議によって選任されたものではない。 また,請求人が主張する「理事」は,四世家元が,「吉村流」の運営に際して,自己の信頼する弟子達からの意見を聴取するために,家元自ら選任したものであり,理事会を構成させていたが,この理事会は家元の諮問機関にすぎず,最終的な決定は家元が単独で行っていた。五世家元及び六世家元の時代になっても,理事会の性質は同様であり,理事会は家元が意見を聴取するための諮問機関にすぎない。 家元は,吉村流の流儀の最高権威伝承者であり,吉村流の舞踊会への出演,吉村流の舞踊の教授等ができる「名取」や,弟子を名取に取立てることができ,吉村流の許し物,奥許し物の伝授を受け,あるいは教授し,舞うことができる「師範名取」については,家元が,その舞踊の技量を判断して,「名取」「師範名取」の免状を与えてきた。この事実については争いがないはずである。家元がその舞踊の技量を認めなければ,吉村流の舞踊会への出演,舞の教授をする資格は得られないのである。 このように,吉村流の舞踊会への出演,吉村流の舞踊の教授の資格を付与する専権を有する家元が,吉村流の商標出願をすることが,公序良俗に反することはない。 そして,税務署から家元の個人事業と吉村流の事業とを分別するよう指摘を受けて,吉村流を法人化するべく被請求人を設立し,被請求人の設立後,本件商標登録出願により生じた権利を,被請求人へ譲渡し,出願人名義変更届を行ったことについても,何ら公序良俗に反することはない。 なお,吉村流の名取の多くは,被請求人の会員となっており,現時点で,被請求人の活動を認めない者は,S氏に近しい一部の者で,名取の約1割に過ぎないと目されている。 (8)商標法第4条第1項第8号,同第10号,同第15号及び同第19号の該当性について 本件商標は,商標法第4条第1項第8号,同第10号,同第15号及び同第19号のいずれにもあたらない。 本件商標は,商標登録出願の時には,吉村流六世家元であるN氏が出願したものであり,被請求人の設立以前においては,「吉村流」の団体として,本件商標の指定役務である日本舞踊の教授,上演等を行っていたのではなく,家元及び家元が資格を与えた名取が吉村流の日本舞踊を教授し,吉村流の舞を上演してきたのであるから,吉村流と家元とを別主体とみるべきではない。 また,被請求人設立以後は,上記2で述べたとおり,吉村流の舞踊の普及・発展を目的として被請求人を設立し,それまで「吉村流」で行っていた活動をすべて被請求人で行うようになったもので,従前の名取,師範名取は,何らの試験も受けることなく被請求人の会員たる名取,師範名取となっているのであり,「吉村流」と被請求人は同一主体である。 したがって,本件商標の出願人である家元は,吉村流の商標について商標法第4条第1項第8号,同第10号,同第15号及び同第19号の「他人」には該当せず,家元から本件商標登録出願により生じた権利を,譲り受けた被請求人も,吉村流の商標に関して商標法第4条第1項第8号,同第10号,同第15号及び同第19号の「他人」には該当しない。 第4 当審の判断 1 請求人及び被請求人提出の証拠,及び両人の主張によれば,次の事実が認められる(当事者間に争いのない事実を含む。)。 (1)「吉村流」について 「吉村流」は,明治初期,大阪南地で創始した上方舞の流派の一つである。「吉村流」では,家元を世襲とせず,代々実力のある女性の内弟子が跡を継ぐという伝統があったが,吉村雄輝氏は,昭和37年,吉村流初の男性の家元(四世)となり,「吉村流」を全国に広めようと精力的に全国各地で稽古を行うなどし,「吉村流」を全国的な伝統舞踊の域にまで昇華させることに成功した。そして,日本舞踊の一種である上方舞の流派の一つである「吉村流」は,本件商標の登録出願の日前から日本舞踊に係る需要者の間に広く認識されていた。 (2)「吉村流」の流派を運営する組織及び団体等について ア 「吉村流」の家元は,平成13年5月頃から現在まで六世家元吉村輝章氏(N氏:中原 弘)である。 イ 「吉村流名簿」(甲7)には,奥付に「吉村流事務局」「平成二十六年六月五日発行」と記載がなされ,これには,444名(六世家元を除く。)の芸名,氏名等が掲載されている。また,師範名取,名取は「吉村流」の舞踏の教授等を行っている。 そして,「吉村流事務局 S(氏)」発行とする「吉村流会報」(甲9?甲13)が平成26年1月頃まで毎年1回発行されていると推認できること,及びこれらには,組織としての「吉村流」について,法人格を表す記載が見いだせないことから,「吉村流」は,組織としてみた場合,平成26年6月頃においては,その舞踏の習得,教授等を行う少なくとも上記名簿に掲載された者を構成員とする,法人格のない社団というべきものといえる(以下,団体としての「吉村流」を「団体『吉村流』」という。)。 そうすると,「吉村流」の標章(文字)は,団体「吉村流」の名称(又は略称)として,また,団体「吉村流」の業務に係る役務(日本舞踊に係る印刷物の発行など)を表示するものとして,本件商標の登録出願の日前から日本舞踊に係る需要者の間に広く認識されていたものということができる。 ウ 団体「吉村流」では,四世家元の頃(遅くとも平成10年。)から毎年2回程度理事会を開催していた(甲9?甲13)。 エ 「家元」「名取」の意味(乙1,乙2,乙8)及び名取の免状は家元名で交付されている(乙9)ことから,六世家元吉村輝章氏(N氏)は,団体「吉村流」の代表者といえる。 (3)被請求人について ア 被請求人は,「・・・上方舞・地唄舞の技芸と振り付けを・・・吉村流の格式と伝統を保持しつつ,これを普及・発展させ,さらに後世に承継させ,以てわが国の文化芸術の振興に寄与すること」を目的とし,平成26年7月8日に設立された一般社団法人である(甲15)。 イ 被請求人の代表理事は,N氏(六世家元吉村輝章氏の本名)である(甲15)。 ウ 被請求人は,平成26年11月17日付けで,「吉村流 師範名取 名取 各位」宛に,議決権行使書(はがき)を同封の上,「御通知」(甲19)を送付した。同御通知には,「流儀を一般社団法人上方舞吉村流として法人化した」旨報告するとともに,日時,場所などの他,「吉村流事務局の業務,会計・・・その他一切を一般社団法人上方舞吉村流に引継ぐ件」を第1号議案とする事始式が行われる旨及びそれへの参加を案内する旨が記載されていた。 また,同御通知は,吉村流の師範名取及び名取(上記(2)イの「吉村流名簿」に掲載された者)に届いたものと推認できる(甲20?甲25)。 エ 被請求人は,平成27年4月10日付けで「吉村流会報」(平成27年春号)を発行した(乙28)。 (4)本件商標の登録出願等の経緯について ア N氏は,事前に団体「吉村流」の理事会に説明等することなく,平成26年4月16日に本件商標の登録出願をした。 イ N氏は,平成26年7月14日に,本件商標の登録出願により生じた権利を被請求人に譲渡し,同日被請求人は特許庁に同登録出願に係る出願人名義変更届を提出した。特許庁は同出願人名義変更届を受理し,同登録出願は被請求人に名義変更がなされた。 ウ 本件商標は,上記第1のとおりの役務を指定役務として平成26年11月21日に設定登録された。 2 請求人の主張について 請求人は,団体「吉村流」では重要事項は理事会で意思決定してきたこと,議決権行使書に「賛否の表示がない場合は賛成の表示があったものとして取り扱う」旨の記載をし,議決権行使書をそのように取り扱ったこと,議決権行使書に署名欄がなく集計結果に疑義があることなどから,被請求人は団体「吉村流」を承継したものではない旨主張し,その証拠として甲第8号証ないし甲第14号証を提出している。 しかしながら,「吉村流会則」(甲8)は日付や作成者などの記載がなく,罫紙に手書きで記載されたものであり,団体「吉村流」が作成した他の印刷物「吉村流名簿」「吉村流会報」の体裁と比較考慮すれば,該「吉村流会則」を有効な会則と認めることは困難であり,他に理事会が団体「吉村流」の重要事項について意思決定をしてきたと認めるに足る証左は見いだせない。 また,署名欄のない議決権行使書や賛否の表示がない場合に賛成の表示があったものとして取り扱う議決権行使書の運用は,各種の総会などにおいて普通に行われていることであるし,他に集計結果に疑義があると認め得る証左は見いだせない。 そして,法人格のない団体がその組織を法人化すること,同団体が使用する商標をその代表者などの個人名義で商標登録出願すること,及び法人化された後に当該出願の名義人を当該法人に変更(商標登録後は移転登録)することは,いずれもそのこと自体に何ら違法性はなく,また一般的なことといえる。 そうすると,N氏が中心となり団体「吉村流」を法人化したこと,団体「吉村流」の代表者といえる同氏が個人名義で本件商標を登録出願したこと,同氏が当該登録出願で生じた権利を被請求人に譲渡し被請求人が同登録出願に係る出願人名義変更届を提出することは,形式的には何ら違法性はなく,充分容認し得るものである。 加えて,「吉村流事務局の業務,会計・・・その他一切を一般社団法人上方舞吉村流に引継ぐ件」を第1号議案とする事始式は,事前に団体「吉村流」発行の「吉村流名簿」に掲載された者に,議決権行使書を同封の上,開催案内が送付するなどの手続きを経ていることが推認できる一方,それが瑕疵のある手続きを経て開催されたものと認め得る証左が見いだせないこと,該事始式(総会)で上記第1号議案が承認された(甲21)こと,及び団体「吉村流」が発行していた「吉村流会報」は,被請求人設立後,それと同タイトルの「吉村流会報」が被請求人により発行され,団体「吉村流」による発行は確認できないこと,さらには団体「吉村流」の代表者と被請求人の代表者は,「六世家元吉村輝章氏(N氏)」で同一人であることを併せみれば,団体「吉村流」は,被請求人として法人化されたものと判断するのが相当である。 なお,被請求人である一般社団法人上方舞吉村流の設立について,違法性があったものと認めるに足る証左は見いだせない。 してみれば,請求人のかかる主張は採用できない。 3 商標法第4条第1項第7号について 請求人は,N氏及び被請求人は団体「吉村流」の意思決定機関である理事会に事前に諮るなど団体「吉村流」内部の適正な手続きを経ずに,個人名義で団体「吉村流」の出所表示として広く知られていた「吉村流」の文字からなる本件商標の登録出願を行い,これもまた適正な手続きを得ることなく同氏が設立した被請求人に当該登録出願の名義を変更したなどの経緯があるから,本件商標は,その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠き,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして容認し得ないものであり,商標法第4条第1項第7号に該当する旨主張している。 確かに,N氏は団体「吉村流」の理事会に諮ることなく本件商標の登録出願などをしたものであるが,N氏と団体「吉村流」の六世家元吉村輝章氏は同一人であり,団体「吉村流」の代表者といえること,被請求人は団体「吉村流」が法人化されたものと認められること,及び理事会が団体「吉村流」の意思決定機関とは認められないことを併せみれば,N氏が個人名義で本件商標に係る登録出願をし,その権利を被請求人に譲渡し,さらには被請求人が当該出願について出願人名義変更届を提出したことなど,本件商標の登録出願の経緯に係るN氏及び被請求人の行為は,これに著しく社会的妥当性を欠くものがあるとは認めることはできないと判断するのが相当である。 また,他に本件商標が公の秩序又は善良の風俗に反するものというべき事情も見いだすことはできない。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当しない。 4 商標法第4条第1項第8号,同第10号,同第15号及び同第19号について 請求人は,「吉村流」は,他人(団体「吉村流」)の著名な略称であり,他人(同上)の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標あり,また,他人(同上)の業務に係る役務と混同を生じるおそれがある商標であるなどとして,本件商標が商標法第4条第1項第8号,同第10号,同第15号及び同第19号に該当する旨主張している。 しかしながら,「吉村流」の標章(文字)は,団体「吉村流」の名称(又は略称)として,また,団体「吉村流」の業務に係る役務を表示するものとして,本件商標の日本舞踊に係る需要者の間に広く認識されているものといえるものの,団体「吉村流」は,被請求人として法人化されたものと判断するのが相当であるから,被請求人は,団体「吉村流」との関係において,商標法第4条第1項第8号,同第10号,同第15号及び同第19号にいう「他人」には該当しないというべきである。 なお,本件商標は,上記3と同様の理由により,不正の目的をもって使用するものと認められない。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第8号,同第10号,同第15号及び同第19号のいずれにも該当しない。 5 むすび 以上のとおりであるから,本件商標は,商標法第4条第1項第7号,同第8号,同第10号,同第15号及び同第19号のいずれにも違反して登録されたものとはいえないから,同法第46条第1項の規定に基づき,その登録を無効とすべきでない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-12-09 |
結審通知日 | 2015-12-11 |
審決日 | 2016-01-07 |
出願番号 | 商願2014-29491(T2014-29491) |
審決分類 |
T
1
11・
271-
Y
(W41)
T 1 11・ 222- Y (W41) T 1 11・ 23- Y (W41) T 1 11・ 25- Y (W41) T 1 11・ 22- Y (W41) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 日向野 浩志 |
特許庁審判長 |
井出 英一郎 |
特許庁審判官 |
榎本 政実 金子 尚人 |
登録日 | 2014-11-21 |
登録番号 | 商標登録第5719295号(T5719295) |
商標の称呼 | ヨシムラリュー、ヨシムラ |
代理人 | 渡邉 健太郎 |
代理人 | 河口 綾子 |
代理人 | 大森 孝参 |
代理人 | 佐藤 明夫 |