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審決分類 審判 全部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない X06
管理番号 1318163 
審判番号 取消2014-300819 
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2014-10-09 
確定日 2016-07-25 
事件の表示 上記当事者間の登録第5442387号商標の登録取消審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
登録第5442387号商標(以下「本件商標」という。)は,「リトライ」の片仮名と「RETRY」の欧文字とを上下二段に横書きしてなり,平成23年4月8日に登録出願,第6類「バルブ,バルブ用アクチュエータ」を指定商品として,同年10月7日に設定登録されたものである。
そして,本件審判の請求の登録日(予告登録日)は,平成26年10月29日である。

第2 請求人の主張
請求人は,商標法第50条第1項の規定により,本件商標の登録を取り消す,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第15号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は,その指定商品について,継続して3年以上日本国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから,商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
2 具体的理由
(1)被請求人の使用がいわゆる「駆け込み使用」に該当すること
ア 本件審判の請求日及び予告登録日
本件審判の請求日は,平成26年10月9日であり,その予告登録日は,同月29日である。したがって,本件審判の請求前3月(平成26年7月9日)から予告登録日までの間(駆け込み期間)における使用は,いわゆる「駆け込み使用」に該当する。
イ 被請求人の使用は,いずれも駆け込み期間内の使用であること
平成26年9月1日発行の雑誌「配管技術9月号」による広告(以下「配管技術広告」という。乙3),同月25日発行の雑誌「設備資材」による広告(乙2)及び同月29日発行の「日刊工業新聞」による広告(乙1)は,いずれもその発行日において駆け込み期間内の使用である。
ウ 審判請求がされることを被請求人(商標権者)が知った後の使用であること
(ア)被請求人(商標権者)への内容証明郵便の送付
平成26年8月12日,請求人は,被請求人に対し,配達証明付き内容証明郵便にて,本件商標について,登録日から3年経過後,速やかに本件商標の不使用取消審判を請求することを通知し,同月18日,同内容証明郵便は被請求人に到達した。これにより,被請求人は,遅くとも同内容証明郵便の到達日までには,本件商標につき不使用取消審判の請求がされることを知ったものである。
(イ)乙第1号証ないし乙第3号証は,いずれも同内容証明郵便が被請求人に到達した後ものであり,審判請求がされることを被請求人(商標権者)が知った後の使用に該当する。
(2)配管技術広告に係る「リトライ」の文字が本件商標の使用には該当しないこと
配管技術広告における「リトライ」の文字は,商標的使用とはいえない。配管技術広告をみると,「リトライ」の文字と「機能搭載」の文字は,同書同体(同一フォント,同一の大きさ,同一の色)であり,これを見た者は,「リトライ機能搭載」という一連の文字として認識し,バルブの機能のことを説明するための表示であると理解するはずである。それゆえ,被請求人自身も,後に掲載された広告(乙1,2)においては,本件商標と同一の「リトライ\RETRY」へと修正するとともに,「リトライ」と「機能搭載」とが同書同体にならぬよう文字のフォント,大きさ,色を分ける変更を施したのである。
したがって,配管技術広告における「リトライ」の文字は,本件商標の使用に該当せず,また,本件商標と社会通念上同一と認められる商標にも該当しない。
(3)駆け込み使用の準備自体も「審判の請求がされることを知った後」になされたこと
駆け込み使用の準備を開始した日について
被請求人は,配管技術広告の作成依頼を平成26年6月24日に行ったと主張して,乙第5号証のメールの写しを提出しているが,乙第5号証からは,被請求人が,雑誌「配管技術」に従前から奇数月に連載していた広告(2014年1月号ないし同年7月号)につき,特許番号を追加するという訂正を計画していたことまでは読み取ることが可能であるが,それ以上のことは読み取ることができない。そして,特許第5577534号は,平成26年6月2日(起案日)に特許査定がなされ,登録が見込まれていたことからすれば,もともと被請求人が予定していた広告の訂正,すなわち従前の広告に特許番号を付記する訂正を依頼する趣旨のメールであると思われる。すなわち,「リトライ」の文字の追加を依頼するメールではない。
配管技術広告の準備が,実際になされたことが証拠上確認できるのは,早くても,被請求人が日本工業出版株式会社(以下「日本工業出版」という。)大阪営業所に広告原稿を送付した平成26年7月25日であって(乙16),それ以前であることの証明はない。
したがって,被請求人は,平成26年7月25日頃に,駆け込み使用(配管技術広告)の準備を開始した可能性がある。
イ 被請求人との交渉
本件商標について,請求人と被請求人は,平成26年7月18日から,交渉を開始した。この交渉は,被請求人の方が申し入れたものである。同日,請求人の知的財産部長ら3名は,件外東洋バルヴ株式会社(以下「東洋バルヴ」という。)の設備営業部長代理とともに,被請求人の東京支店を訪問した。
この交渉において,被請求人は,請求人に対して,数々の要求を突き付けた。さらに被請求人は,この要求事項を書面にまとめて,同月22日に書面「知的財産権について」(以下「7月22日の通知」という。甲9)として通知してきた。
請求人らは,被請求人の上記要求に対し,請求人らのカタログにおける「リトライ」の表示は商標的使用であるか否かについて精査中である旨回答したことから,被請求人と見解が対立した。
被請求人による要求は,本件商標の使用を中止するだけでなく,「リトライ機能」,「再動作」及び「再テスト」などの用語の使用禁止を求めており,実質的には,「リトライ機能」を有するバルブについて,被請求人が市場を独占できるようにしたいという意図の下,請求人らにはリトライ機能があることを宣伝すらしないよう要求し,市場からの撤退を求めるものであった。ここで,被請求人によれば,リトライ機能とは,異物を噛み込んだ際,バルブを一旦停止,バルブを開けて異物を流し,更にバルブを閉める機能を指すとされるが,このような機能はバルブにおいて一般的な機能であった。そして,「リトライ」という用語自体は,機器やシステムが再試行する動作を示す用語として一般に広く使われているものであって,カタログの継続使用の禁止や,謝罪広告の通知は,明らかに過剰な要求であった。
ウ 審判請求がされることを知った時期
被請求人の代表者であるKは,弁理士資格を有しており,商標に関する知識が豊富である(本件審判にも自ら対応している。)。よって,一般的に,「リトライ」という表記には商標的使用とそれ以外の使用に分けられることや,商標権者が使用を禁止できるのは商標的使用のみであることも知っていながら,上記のような過剰な要求をしている。
このような不当かつ一方的な市場撤退要求を,請求人らが受け入れられる余地はなく,両当事者の見解の隔たりは当然大きなものとなり,交渉は紛糾した。
そして,被請求人はライセンス交渉に応じない姿勢をみせていた。
したがって,弁理士である被請求人の代表者は,遅くとも平成26年7月18日から22日頃には,請求人らから本件商標につき不使用取消審判の請求がされることを知っていたといえる。
エ 小括
したがって,被請求人は,平成26年7月25日頃に駆け込み使用の準備の開始した可能性があるところ,遅くとも7月18日から22日頃には,請求人による審判請求の意思を知っていた。よって,駆け込み使用の準備自体も「審判の請求がされることを知った後」であり,被請求人が「正当な理由」を主張する余地はない。
(4)駆け込み使用のための準備行為は「正当な理由」に該当しないこと
仮に,被請求人が,審判の請求をされることを知った日を平成26年8月18日とする場合でも「正当な理由」はない。
すなわち,商標法第50条第3項のただし書きにおける「正当な理由」とは,駆け込み使用を禁止した趣旨に沿って解釈すべきところ,正当な理由が認められる例としては,譲渡交渉等とは無関係に登録商標の使用計画,使用準備が進められていたようなケースが想定されるのであって,仮に,譲渡交渉中に駆け込み使用の準備行為がなされていれば,駆け込み使用の規制を実質的に回避できると解するならば,結局は,譲渡交渉前に不使用取消審判を請求して予告登録をせざるを得なくなり,同項を設けた趣旨を没却することになる。
このように,駆け込み使用のための準備行為は「正当な理由」に該当しないところ,被請求人による平成26年7月25日の広告原稿の送付やこれに先立つ注文行為は,駆け込み使用のために計画的になされた準備行為である。よって,被請求人は,これらの準備行為を「正当な理由」として主張できない。
(5)メール等の信用性について
株式会社ジーエージェンシー(以下「ジーエージェンシー」という。)のような,小さな広告制作会社が,得意先の利益のために通謀することはあり得るし,メールについては,日付を遡らせて容易に作成することが可能であり,もともと証拠としての価値は低いから,ジーエージェンシーによる証明書(乙4)及びメールは信用性がなく,被請求人による立証は不十分である。
(6)結論
被請求人による本件商標の使用は,商標法第50条第3項に規定される,いわゆる「駆け込み使用」に該当するから,同条第1項の規定により,本件商標の登録は取り消されるべきである。

第3 被請求人の主張
被請求人は,結論と同旨の審決を求める,と答弁し,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第27号証を提出した。
1 答弁の理由
(1)本件商標の使用の事実の要点
本件商標の商標権者は,本件審判の請求の登録前3年以内に我が国において,その請求に係る指定商品「バルブ,バルブ用アクチュエータ」について,本件商標を使用している。
(2)本件商標の使用の事実
ア 「日刊工業新聞」の広告(乙1),雑誌「設備資材」の広告(乙2)及び配管技術広告(乙3)には,被請求人の名称と住所が表示されている。
イ 使用に係る商品
乙第1号証ないし乙第3号証には,請求に係る指定商品「バルブ,バルブ用アクチュエータ」が記載されている。
ウ 使用に係る商標
乙第1号証及び乙第2号証には,本件商標が記載されている。
乙第3号証には,本件商標と社会通念上同一と認められる商標「リトライ」が記載されている。
エ 使用時期
乙第1号証ないし乙第3号証には,それぞれの発行日が「平成26年9月29日」,「平成26年9月25日」及び「平成26年9月1日」と記載されている。
(3)商標法第50条第3項ただし書所定の「正当な理由」
商標法第50条第3項は,「第1項の審判の請求前3月からその審判の請求の登録の日までの間に,日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をした場合であつて,その登録商標の使用がその審判の請求がされることを知つた後であることを請求人が証明したときは,その登録商標の使用は第1項に規定する登録商標の使用に該当しないものとする。ただし,その登録商標の使用をしたことについて正当な理由があることを被請求人が明らかにしたときは,この限りでない。」と規定されている。
ここで正当な理由があることとは,「審判請求がされることを知る前から当該登録商標について具体的な使用計画や準備(例えば,当該商標を商品に付する契約を第三者と締結しているような場合,当該商標を付した商品の広告を作成していたり,その作成を第三者に依頼していたような場合,当該商標を商品に付して使用することの意思決定(例えば取締役会の決議等)が明確になされているような場合等)があり,これに基づいて使用をしたものである場合」と解される(工業所有権法逐条解説)。
配管技術広告は,被請求人が,審判請求がされることを知る平成26年8月18日前の同年6月24日に既に印刷会社であるジーエージェンシーに作成を依頼しており,遅くとも同年7月30日には,広告作成が完了,同月31日には同雑誌の出版社である日本工業出版へ送り,広告掲載の依頼をしている。作成した広告は,配管技術広告として掲載されている。
配管技術広告は,審判の請求がされることを知る前に被請求人から第三者へ作成の依頼,その作成が完了し,それに基づき広告を掲載しているため,本件商標について具体的な使用計画や準備があり,これに基づいて本件商標を指定商品に使用していることは明らかである。すなわち,商標法第50条第3項規定の正当な理由がある。
よって,本件商標の使用は,商標法第50条第1項の商標の使用である。
(4)面談交渉及び電話交渉時も本件審判の請求がされることを想定し得なかったこと
ア 被請求人からの警告
被請求人は,請求人が商標「リトライ」を使用することに対し,2度にわたり電話で警告をしたが,請求人からは,前期の警告に対し何ら回答もなかった。
イ 面談交渉
平成26年7月18日,被請求人と請求人らとは初めて東京で会い,打合せを行った。また,両者は,今後,2回目,3回目と話合いを通じて解決することで意見が一致した。当初,本件審判を請求するとか,争うことは全く考えられないことである。
ウ 電話交渉
平成26年8月4日,請求人のT執行役員から被請求人の代表者に電話があり,両者は,下記の件について意見が一致した。
(ア)駆動部をお互いに販売しあうための担当窓口を設ける。
(イ)請求人は,商標「リトライ」については使用しない。
(ウ)「再作動」という言葉を使う,使わないことも含めて,担当の窓口を設けて議論する。
このように,この時点においても被請求人と請求人は今後協力することで意見が一致しており,本件審判を請求するとか,争うことは考えられないことである。
(5)メール等の信用性について
請求人は,ジーエージェンシーのような,小さな広告制作会社が,得意先の利益のために通謀することはあり得るし,メールについては,日付を遡らせて容易に作成することが可能であり,もともと証拠としての価値は低いなどと主張しているが,請求人は,根拠を示さず,会社の規模や憶測でメールの信用の有無について判断している。
(6)まとめ
以上のとおり,被請求人の登録商標の使用には商標法第50条第3項の正当な理由があり,同条1項の商標の使用に該当するから,本件商標は,本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において商標権者により指定商品「バルブ,バルブ用アクチュエータ」について使用していることが明らかである。

第4 当審の判断
1 認定事実
証拠及び当事者の主張によれば,以下の事実が認められる。
(1)被請求人は,雨水遮断弁・震災時緊急遮断弁等のバルブ及びバルブ用アクチュエータの製造販売等を業とする株式会社である(乙1?3,27等)。被請求人の代表者であるKは,弁理士資格を有している(甲9,15)。
(2)被請求人は,バタフライ弁とキャパシタ緊急遮断アクチュエータを組み合わせた新型電動弁を開発し,雨水制御弁として発売しているが,これに関連して,既に特許権と商標権(本件商標)を取得している(甲9,乙19)。
(3)請求人及び東洋バルヴは,平成26年4月から,共同開発した雨水制御用電動バタフライ弁を各々販売する株式会社であって,被請求人の競合会社である(甲10,11,15)。
(4)被請求人は,請求人らが共同開発した雨水制御用電動バタフライ弁を販売するに際して,その商品のカタログ,新聞広告等において,「リトライ」の文字を使用していることから,平成26年4月25日頃,被請求人の東京支店営業部次長のIは,東洋バルヴの設備営業部部長代理のMに対し,電話により,被請求人の知的財産権について使用しないよう,1回目の警告を行ったが,何ら対応がなかったため,同年6月5日頃,再度,IはMに対し,電話により,2回目の警告を行った(甲9,15,乙10)。
(5)2度の警告を受けた東洋バルヴのMは,事態を放置しておけないと考え,同社内及び共同開発を行った請求人の開発営業部に電話で事情を説明した。その連絡を受けて,請求人の知的財産部が調査したところ,被請求人のIが述べている「知的財産権」とは本件商標のことであることがわかり,請求人の社内で協議した結果,東洋バルヴのMから,被請求人のIに対し,面談の申し入れを行った。(甲9,15)
(6)平成26年7月18日,被請求人の東京支店において,被請求人(K,H及びIの3名),請求人(H,S及びYの3名)及び東洋バルブ(M)の3社が集まり,1回目の面談による協議を行った(甲9,15,乙12)。
請求人の知的財産部部長であるHによる陳述書(甲15)並びに被請求人の代表者であるKが作成した7月22日の通知(甲9)及び「2014年7月18日における打合せの一部内容」と題する書面(乙12)によれば,本面談における請求人側の主張及び態度等は,おおむね以下のとおりであり,本面談において,請求人は,被請求人に対し,本件審判を請求する旨の意思表示をした事実は認められない。
ア 請求人の知的財産部部長であるHは,被請求人に対し,「今日はですね,御社の主張と私どもの主張を,それぞれ相手が何を言いたいかということを理解するためにということで,そこのところは解りながら2回目,3回目と話し合いで,詰めていければなという理解でよろしいですか」と伝えたところ,被請求人の代表者であるKは,「はい」と回答した(乙12)。このように,請求人は,本面談について,被請求人からどのような要求が来るのか様子を見るための面談という位置付けで臨んだ(甲15)。
イ 請求人のHは,請求人及び東洋バルヴによる「リトライ」の使用は商標的使用に当たるとの認識はないと主張した。ただし,Hは,内心としては,初回の面談で,過度に対立的になっても支障があると考えていたことから,被請求人に対しては,請求人によるリトライという言葉の使用にはグレーな部分もあり,どこまで使用してよいか今日決めたいという言い方もした(甲15)。
ウ 請求人のHは,被請求人もカタログ等において商標的な使用をしていないことを思い出し,被請求人が「リトライ」を使うに際して,商標的使用を示す「R」を付けていないのはなぜかと聞いた(甲15)。
エ 請求人のHは,被請求人に対し,請求人が力を入れてきた製品(雨水制御用電動バタフライ弁)の販売を続けるであろうと回答した(甲15)。
オ 請求人のHは,両社の折り合い点をさぐるべく,「再動作」,「リトライする」といった機能を表す使用法や,請求人のカタログ上,「リトライ」とある部分にシールを貼って対応する方法を提案したほか,「再動作」は商標ではないため中止する必要はない,専門家に聞いてみたらどうかと述べた(甲15)。
カ 請求人としては,過度に対立的になるのを避けるため,なるべく正面から反論することなく,対案を示すなどして対応していた(甲15)。
キ 請求人のHは,リトライ機能を記述的に説明した部分と,「再動作」という日本語での表記は,商標権の侵害にならないという請求人の見解を再度伝えた後,請求人と被請求人のそれぞれの主張を議事録(被請求人の議事録は7月22日の通知(甲9)。請求人の議事録は証拠として提出されていない。)にまとめて交換してはどうかと提案した(甲15)。
ク 面談終了間際の15分ほど,被請求人のIが切り出してきた営業協力の話をした後,次回面談を8月1日に開くことを決めて,面談を終えた(甲15)。
(7)平成26年7月25日,被請求人の代表者であるKは,日本工業出版大坂営業所の担当者あてに,配管技術広告について,以下のメールを送信した(乙16)。
〔メール本文の内容〕
「お世話になっております
『配管技術』の広告内容を修正したいです。
従来の広告内容に下記の内容を追加します。

異物噛み込み防止
(丸に「R」記号)『リトライ』機能搭載
特許権・商標権取得済み

添付ファイルをご覧ください。
なお,追加内容の文字のスタイルはそのままではなく,
見やすくするために,太くするなり,編集お願いします。
弊社には編集ソフトがありませんので・・・

よろしくお願いします。」
なお,本メールの添付ファイルの広告原稿中にも,メール本文中に記載されている追加の文言が3行にわたって表示されている。
(8)平成26年8月1日,被請求人の東京支店において,被請求人(K,H,I及びNの4名),請求人(知的財産部のH,S及びYの3名)及び東洋バルブ(M)の3社が集まり,2回目の面談による協議を行った(甲15,乙13)。
本面談における請求人らの主張及び態度等は,おおむね以下のとおりであり,本面談において,請求人は,被請求人に対し,本件審判を請求する旨の意思表示をした事実は認められない。
ア 前回と同様,商標権をあくまで侵害していないとする請求人の見解を伝えるとともに,請求人は市場からの撤退要求には応じないと伝えた(甲15)。
イ 今回も,面談の最後の方で,被請求人のIから,バルブのアクチュエータ(駆動部)を相互に供給するという営業協力の提案があったことから,請求人は持ち帰って検討することとした(甲15)。
(9)平成26年8月4日頃,請求人は,被請求人のIからの営業協力提案を社内で検討した後,請求人の執行役員国内営業本部長であるTが,被請求人の代表者であるKに電話をし,営業協力の件などについて話をしたが,その際も,被請求人に対し,本件審判を請求する旨の意思表示をした事実は認められない(甲15,乙13)。
(10)平成26年8月12日,請求人は,被請求人に対し,配達証明付き内容証明郵便にて,本件商標について,登録日から3年経過後,速やかに本件商標に係る商標登録の不使用取消審判を請求することを通知したところ,同月18日,同内容証明郵便は被請求人に送達された(甲2,3)。
(11)日本工業出版が平成26年9月1日に発行した雑誌「配管技術9月号」に,配管技術広告が掲載された(乙3)。
配管技術広告は,被請求人による1頁広告であり,上部から順に,「kawaden」,「震災時緊急遮断弁システム」,「キャパシタ駆動緊急遮断弁 CAPACON」(「CAPACON」の「ON」の文字部分の下部に小さく「キャパコン」と表記されている。)及び「省エネと信頼を追求して...」が横書きされており,さらにその下に,「異物噛み込み防止」,「リトライ機能搭載」,「特許取得 特許第5577534号」及び「商標登録 登録第5442387号」(「リトライ」の片仮名の後には,丸に「R」記号が小さく付されており,その後に続けて「リトライ」の片仮名と同書・同大の「機能搭載」の漢字が書されている。商標登録番号及び特許番号は,「機能搭載」の文字の下部付近に小さな文字で書されている。)の4行にわたる文字が,いずれも右下がりに傾斜を付けて横書きされている。これらの文字の背景には当該商品の写真が掲載されている。また,広告頁の下部には,被請求人の名称とともに,大阪本社及び東京支社の住所・電話番号・ファックス番号等が掲載されている。
(12)本件商標の設定登録日(平成23年10月7日)から3年を経過した同26年10月9日に,請求人は,本件審判を請求した。本件審判の請求前3月に当たる日は,同年7月9日であり,本件審判の請求の登録日(予告登録日)は,同年10月29日である。
2 本件商標の使用について
(1)上記1の認定事実によれば,〈1〉日本工業出版が平成26年9月1日に発行した雑誌「配管技術9月号」に掲載された配管技術広告は,被請求人に係る商品「震災時緊急遮断弁システムのキャパシタ駆動緊急遮断弁であるCAPACON(キャパコン)」(以下「使用商品」という。)に関する広告と認められるところ,その広告内容から,使用商品には,「リトライ」と称する異物噛み込み防止機能が搭載されていることが容易に理解でき,しかも,「リトライ」と片仮名で表された文字部分(以下「使用商標」という。)には登録商標であることを表す丸に「R」記号が付されていることからすれば,使用商標は,使用商品に関する広告についての使用であると需要者に認識されるものと認められること(乙3),〈2〉また,使用商標は,「リトライ」の片仮名と「RETRY」の欧文字とを上下二段に横書きしてなる本件商標のうちの片仮名部分のみの使用であるが,本件商標と同一の称呼及び観念を生ずる商標であるから,本件商標とは社会通念上同一と認められる商標というべきであり,さらに,使用商品は,本件審判の請求に係る指定商品「バルブ,バルブ用アクチュエータ」に該当する商品であると認められること,〈3〉他方で,配管技術広告が掲載された日は,平成26年9月1日であることから,使用商品についての使用商標の使用は,いわゆる駆け込み使用と呼ばれる期間,すなわち,本件審判の請求前3月(同年7月9日)から本件審判の請求の登録日(同年10月29日)までの間に,日本国内において商標権者によって使用されたものであって,かつ,請求人が被請求人に対し,配達証明付き内容証明郵便にて,本件審判を請求することを通知(送達)した同年8月18日よりも後であったことが認められる(甲2,3)。
(2)以上によれば,商標権者は,本件審判の請求前3月である平成26年7月9日から本件審判の請求の登録日である同年10月29日までの間に,日本国内において,本件商標と社会通念上同一と認められる商標を,本件審判の請求に係る指定商品について使用したと認めることができるが,その登録商標の使用は,本件審判の請求がされることを知った後であることを請求人が証明したといえる。
(3)これに対し,被請求人は,配管技術広告は本件審判の請求がされることを知る前に被請求人から第三者へ作成の依頼,その作成が完了し,それに基づき広告を掲載しているため,本件商標について具体的な使用計画や準備があり,これに基づいて本件商標を指定商品に使用していることは明らかであるから,商標法第50条第3項ただし書所定の「正当な理由」がある旨主張する一方,請求人は,〈1〉駆け込み使用の準備自体も「審判の請求がされることを知った後」になされたこと,〈2〉駆け込み使用のための準備行為は「正当な理由」に該当しないこと,〈3〉メール等は信用性がなく,被請求人による立証は不十分である旨主張しているので,以下,これらの点について検討する。
ア 商標法第50条第3項ただし書所定の「正当な理由」
商標法第50条第3項は,「第1項の審判の請求前3月からその審判の請求の登録の日までの間に,日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をした場合であつて,その登録商標の使用がその審判の請求がされることを知つた後であることを請求人が証明したときは,その登録商標の使用は第1項に規定する登録商標の使用に該当しないものとする。ただし,その登録商標の使用をしたことについて正当な理由があることを被請求人が明らかにしたときは,この限りでない。」と規定している。
ここで,同条項ただし書にいう「正当な理由」とは,「例えば,審判請求がされることを知る前から当該登録商標について具体的な使用計画や準備(例えば,当該商標を商品に付する契約を第三者と締結しているような場合,当該商標を付した商品の広告を作成していたり,その作成を第三者に依頼していたような場合,当該商標を商品に付して使用することの意思決定(例えば取締役会の決議等)が明確になされているような場合等)があり,これに基づいて使用をしたものである場合」(工業所有権法逐条解説)を含むものと解される。
そして,商標法第50条第3項は「その登録商標の使用がその審判の請求がされることを知った後であることを請求人が証明したとき」と規定しているのであって,審判請求人に対し,審判請求がされるであろうことを被請求人が知っていたことの証明を求めている。同条項のこのような文言に照らすと,「その審判の請求がされることを知った」とは,例えば,当該審判請求を行うことを交渉相手から書面等で通知されるなどの具体的な事実により,当該相手方が審判請求する意思を有していることを知ったか,あるいは,交渉の経緯その他諸々の状況から客観的にみて相手方が審判請求をする蓋然性が高く,かつ,被請求人がこれを認識していると認められる場合などをいうと解すべきであり,被請求人が単に審判請求を受ける一般的,抽象的な可能性を認識していたのみでは足りないというべきである(知財高裁平成18年(行ケ)第10183号,同年11月8日判決参照)。
以上の点を踏まえて,以下検討する。
駆け込み使用の準備自体も「審判の請求がされることを知った後」になされたものであるとの請求の主張について
(ア)請求人は,被請求人が平成26年7月25日頃に駆け込み使用の準備の開始した可能性があるところ,遅くとも7月18日から22日頃には,請求人による審判請求の意思を知っていたから,駆け込み使用の準備自体も「審判の請求がされることを知った後」である旨主張する。
確かに,上記1(7)によれば,平成26年7月25日に,被請求人の代表者は,日本工業出版大阪営業所の担当者に対し,「(丸に「R」記号)『リトライ』機能搭載」の文言等を追加する広告原稿をメールで送信していたことが認められる(乙16)から,これは配管技術広告に向けての準備であると認めるのが相当である。
しかしながら,証拠上,この平成26年7月25日以前に,請求人と被請求人との間でやりとりが交わされたのは,同年4月25日頃及び同年6月5日頃の2回にわたる電話交渉,同年7月18日の面談交渉及び7月22日の通知(上記1(4)及び(6))のみであるところ,これらのやりとりにおいて,請求人が,被請求人に対し,本件審判を請求する旨の意思表示をした事実は一切認められないし,他に,そのことを認めるに足りる証拠もない。
また,請求人は,上記初回の面談交渉については,請求人側から被請求人に対し,「今日はですね,御社の主張と私どもの主張を,それぞれ相手が何を言いたいかということを理解するためにということで,そこのところは解りながら2回目,3回目と話し合いで,詰めていければなという理解でよろしいですか」と伝えているように,被請求人からどのような要求があるのか様子を見るための面談という位置付けで臨むとともに,被請求人に対しては,過度に対立的になるのを避けるため,なるべく正面から反論することなく,対案を示すなどして対応していたとのことであり,さらに,被請求人側から提案された営業協力の話もした上で,次回面談を8月1日に開くことを決めて,面談を終えているのであるから,当該交渉経緯等に照らし審判請求がされる蓋然性が高いと被請求人が認識するような状況が存在したともいうことはできない。
請求人は,被請求人の代表者であるKが,弁理士資格を有しており,商標に関する知識が豊富であるなどとも主張しているが,被請求人が単に審判請求を受ける一般的,抽象的な可能性を認識していたのみでは足りないというべきである。
したがって,請求人は,商標権者による配管技術広告の準備自体が本件審判の請求がされることを知った後であることを証明したとはいえないから,被請求人は,審判請求がされることを知る前から,配管技術広告の準備をしていたと認めざるを得ない。
駆け込み使用のための準備行為は「正当な理由」に該当しないとの請求人の主張について
請求人は,商標法第50条第3項ただし書所定の「正当な理由」とは,譲渡交渉等とは無関係に登録商標の使用計画,使用準備が進められていたようなケースが想定されるのであって,仮に,譲渡交渉中に駆け込み使用の準備行為がなされていれば,駆け込み使用の規制を実質的に回避できると解するならば,結局は,譲渡交渉前に不使用取消審判を請求して予告登録をせざるを得なくなり,同項を設けた趣旨を没却することになるから,駆け込み使用のための準備行為は「正当な理由」に該当しない旨主張する。
しかしながら,上記アに照らせば,譲渡交渉等を行っていたというだけでは,直ちに上記「正当な理由」に該当しなくなると解することはできない。
なお,譲渡交渉等を始める際に,例えば,相手方に「交渉不成立のときは不使用取消審判の請求をする」旨の意思表示をしたことを立証できるようにしておけば,当該審判は,交渉の状況などを見つつ,その意思表示後3か月を経過する前に請求すればよいのであるから,商標法第50条第3項を設けた趣旨を何ら没却することにはならない。
エ メール等は信用性がなく,被請求人による立証は不十分であるとの請求人の主張について
請求人は,小さな広告制作会社が得意先の利益のために通謀することはあり得るし,メールは日付を遡らせて容易に作成することが可能であるから,メール等は信用性がなく,被請求人による立証は不十分である旨主張する。
しかしながら,配管技術広告の準備として,被請求人の代表者が日本工業出版大阪営業所の担当者に対して「(丸に「R」記号)『リトライ』機能搭載」の文言等を追加する依頼を行った平成26年7月25日付けのメール(乙16)について,その内容や日付が偽造ないし改変されたことを認めるに足りる証拠はない。
オ 以上のとおりであるから,請求人の上記主張はいずれも採用しない。
(4)小活
以上によれば,商標権者による本件商標の使用は,本件審判の請求前3月である平成26年7月9日から本件審判の請求の登録日である同年10月29日までの間であって,かつ,本件審判の請求がされることを知った後に,日本国内において,本件商標と社会通念上同一と認められる商標を,本件審判の請求に係る指定商品について使用したものであることが認められるが,被請求人は,商標法第50条第3項のただし書による「正当な理由」があることを明らかにしたものと認められる。
そうすると,商標権者は,本件審判の請求の登録前3年以内に,日本国内において,本件商標と社会通念上同一と認められる使用商標を,本件審判の請求に係る指定商品「バルブ,バルブ用アクチュエータ」に含まれる使用商品に関する広告について使用したと認めることができる。
そして,上記使用行為は,商標法第2条第3項第8号に該当するものと認められる。
3 まとめ
以上によれば,被請求人は,商標法第50条第1項に規定する登録商標の使用を証明したと認め得る。
したがって,本件商標の登録は,商標法第50条により,取り消すことはできない。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2016-05-27 
結審通知日 2016-05-31 
審決日 2016-06-13 
出願番号 商願2011-28358(T2011-28358) 
審決分類 T 1 31・ 1- Y (X06)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 石戸 拓郎 
特許庁審判長 田中 幸一
特許庁審判官 田村 正明
早川 文宏
登録日 2011-10-07 
登録番号 商標登録第5442387号(T5442387) 
商標の称呼 リトライ、レトライ 
代理人 鮫島 正洋 
代理人 山口 建章 
代理人 ▲高▼見 憲 
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