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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない W35
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない W35
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない W35
審判 全部無効 商3条柱書 業務尾記載 無効としない W35
管理番号 1318135 
審判番号 無効2015-890074 
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-09-30 
確定日 2016-07-19 
事件の表示 上記当事者間の登録第5757279号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5757279号商標(以下「本件商標」という。)は,「moelleux」の欧文字を標準文字で表してなり,平成26年10月29日に登録出願,第35類「広告業,経営の診断又は経営に関する助言,市場調査又は分析,商品の販売に関する情報の提供,ホテルの事業の管理,輸出入に関する事務の代理又は代行,文書又は磁気テープのファイリング,コンピュータデータベースへの情報編集,広告用具の貸与,求人情報の提供,クッション・座布団・まくら・マットレス・衣服綿・ハンモック・布団袋・布団綿・かや・敷布・布団・布団カバー・布団側・まくらカバー・毛布の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,織物及び寝具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,おむつの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,履物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,身の回り品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を指定役務として,同27年3月26日に登録査定され,同年4月10日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が本件審判の請求の理由の根拠として引用する商標は,自己の使用に係る商品「寝具等」に使用している,別掲のとおり,「moelleux」の欧文字よりなる標章である(以下「使用商標1?使用商標3」という。なお,これらを併せて「使用商標」という場合がある。)。

第3 請求人の主張
請求人は,本件商標の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第17号証を提出した。
1 無効とすべき理由
(1)請求人である株式会社ダイコウリビング(以下「ダイコウリビング」という。)は,平成元年に設立した羽毛,羊毛,合繊布団の製造を業とする会社であり,その事業の一環として,「moelleux」(モアール)という使用商標の付された寝具等を生産している(甲2?甲5)。
請求人である株式会社ダイコウ(以下「ダイコウ」という。また,これら両者を併せて「請求人ら」という。)は,昭和46年に設立された寝具及び室内装飾品の販売を業とする株式会社であり(甲6),ダイコウリビングの製造した寝装品全般の卸売業および企画を担っている。請求人らは,ともに総合寝装品の製品製造及び卸を事業とするダイコウグループの企業である(甲3)。請求人らは遅くとも平成15年ころから,請求人ら使用商標の付された寝具等の製造及び卸売を行っている。
(2)商標法第3条1項柱書について
請求人らは,遅くとも平成15年ころから,使用商標を使用した寝具の製造及び卸売を行っていた(甲5)。
被請求人は,平成26年2月28日までダイコウの従業員であった。
本件商標は,平成26年10月に登録出願がなされており,使用商標と本件商標は同一ないし類似している。また,被請求人が登録出願した時期も解雇から約半年後であり,出願時期は極めて近接している。
被請求人は,ダイコウの社員として,本件商標を請求人らが使用していることを了知していた。
被請求人は,本件商標の登録出願をし,平成27年4月10日にその登録を受けたが,現在に至るまで本件商標を指定役務やその他の業務に使用したことはない。
被請求人は,個人でありながら,平成26年9月に別の商標登録出願をしているが,かかる商標もダイコウが卸を行っている寝具等に関するものである。また,被請求人はこれらの商標についても指定役務やその他の業務に使用したことはない。
被請求人の商標登録出願にかかる指定役務は,「広告業」,「経営の診断又は経営に関する助言」,「市場調査又は分析」,「ホテルの事業の管理」等と広範囲にわたる上,一貫性はなく,それぞれ関連性はない。
以上によれば,被請求人は,請求人らの使用する本件商標と同一又は類似する商標について,請求人らが寝具等の商品に付し,その小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供に使用していることを知りながら,本件登録出願をし,その登録を得て請求人ら使用商標を剽窃したものである。
したがって,本件商標は,登録査定時において,被請求人が現に自己の業務に係る商品又は役務に使用している商標にあたらないうえ,将来においても自己の業務に係る商品あるいは役務に使用する意思があったともいえない。
(3)商標法第4条第1項第7号該当性について
被請求人は,平成9年11月1日ダイコウに入社し,平成26年2月28日まで同社の営業職員であった(甲9,甲10)。本件商標出願は,被請求人が請求会社を解雇された半年後になされたものである。被請求人は,ダイコウの営業職員として,卸売店への販売,宣伝講習販売等に従事しており(甲9),請求人ら使用商標の付された寝具等がダイコウリビングの製造した商品であり,ダイコウが卸売を行う製品であることを熟知していた。また,業務の一環としてダイコウの業務に関連する特許取得の際には,弁理士事務所との担当窓口となっていたこともあった。
被請求人は,請求人らの商標が登録されていないことを知りながら,請求人ら使用商標を剽窃ないし請求人らの事業遂行を妨害するため,請求人らに無断で,請求人ら使用商標と同一ないし類似の構成から成る同一の呼称の,請求人ら使用商標が付される業務と同一の業務を指定役務として含む本件商標の登録をしたものであるといえる。
このような行為は,まさにその商標登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に違反するものとして到底容認し得ない場合に該当し,本件商標の登録は,公序良俗に反する。
(4)商標法第4条第1項第10号該当性について
ア 請求人らの商標の周知性
ダイコウリビングは,本件商標の登録出願前から商品「まくら,マットレス」「敷布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布」等について請求人ら使用商標を付した商品の生産を行っていたこと,ダイコウが同商品の卸売を行っていたことは上述したとおりである。
すなわち,ダイコウリビングは,その業務に係わる商品として,「moelleux」というシリーズ名を付した,上記寝具類を遅くとも平成15年頃から生産し,ダイコウは,当該表示の下でその業務に係る役務「織物及び寝具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を行っていた。
請求人らが製造,販売していた請求人ら使用商標の付された商品について,ダイコウにおける平成26年の売上高は25,329,290円,平成27年7月1日までの売上高は,7,052,230円(甲12),ダイコウリビングにおける平成26年の売上高は,28,507,460円,平成27年7月9日までの売上高は,17,925,850円(甲13)と,請求人らの製造・販売した商品が広く流通していることは明らかである。
また,請求人らは,福岡県に拠点を置く企業であるが,上記商品は,平成26年以降だけをみても,神奈川県,千葉県,埼玉県,東京都,群馬県,鹿児島県,富山県,大阪府,愛知県,大分県,広島県,京都府,岐阜県,岡山県,長崎県の主要得意先との取引が存しており,1都道府県内のみならず,数都道府県にわたる相当範囲で,取扱業者及び需要者の多くに知られている(甲14?甲17)。
したがって,使用商標は,本件商標が登録出願された平成26年10月29日において,請求人らの業務に係る商品及び役務を表示するものとして,少なくとも,寝具類の取引者や主な納入先である小売業者の需要者の間に広く認識されていたといえる。
ひとたび周知性を得た商標は,短期間のうちにその周知性を喪失することはないことが通常であること,請求人らの寝具製造及び販売事業は長期にわたり多数県にまたがる取引先との間で継続していること,相当程度の売上高を維持していることに鑑みれば,その周知性は,本件商標の登録査定日(平成27年3月26日)においても請求人らの業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている状態が継続していたといえる。
イ 同一又は類似
本件商標と請求人ら使用商標とは,いずれもアルファベット8字で両者のスペルは全く同一であり,両者は字体が同一のものを含み,全体の外観において類似している。また,本件商標と使用商標の呼称はいずれもモアールと同一である。加えて,本件商標と使用商標とは,いずれも,柔らかな触感や肌触りを想起,連想させるものとして,両者は需要者に極めて近似した印象を与えるものといえ,観念において類似したものである。したがって,本件商標は,使用商標と同一ないし類似の商標を含んでいる。
(5)商標法第4条第1項第19号該当性について
ア 国内における需用者の間に広く認識されている商標
請求人ら使用商標は,県内だけでなく他県にまたがり多数の小売業者において,請求人らによって生産・卸売がされているものと,広く認識されている商標である。
イ 同一又は類似
本件商標は「moelleux」とアルファベット8字であるところ,請求人ら使用商標もアルファベット8字でスペルは全く同一であり,両者は全体の外観において極めて類似している。また,本件商標と請求人ら使用商標とは「モアール」の音及び構成音数は全く同一であり,呼称は同一である。
加えて,本件商標と請求人ら使用商標とは,いずれも,柔らかな触感や肌さわりを想起,連想させるものとして,両者は需要者に極めて近似した印象を与えるものといえ,観念において類似したものである。
したがって,本件商標は,使用商標と同一ないし類似の商標を含んでいる。
不正の目的
被請求人は,平成9年11月,ダイコウに入社し,同社の取扱商品である「moelleux」等の寝具類の卸売,すなわち訪問販売・問屋・宣伝講習販売,一般小売店への販売に従事していた(甲9)。したがって,被請求人は,請求人ら使用商標が,ダイコウのふとん等の卸売業務において行われる顧客に対する便益の提供に用いられていることを当然了知していた。請求人ら使用商標は,同シリーズのチラシ(甲4)やカタログ(甲5)にも使用されている。
また,被請求人は,ダイコウ在籍中に,同社の特許取得に係る事業にも従事していた。このように,被請求人は,特許や商標という知的財産権への知識を相当程度有しており,かつ請求人が請求人ら使用商標に関して商標登録を得ていないことも従業員として了知していた。
被請求人は,平成26年2月28日,整理解雇を理由としてダイコウを解雇された(甲9,甲10)。その後,被請求人は,平成26年10月29日,本件商標の出願を行った。
以上のように,請求人らは,被請求人が本件商標を何ら使用しないにもかかわらず,本件商標を登録したことによって,請求人らが,引用商標と同一ないし類似の商標登録の出願をしても拒絶査定がなされたり,登録されても無効となったり,登録を受けた被請求人から権利行使を受け,以後商標の使用を禁止される可能性の存する不都合を強いられる状況下にある。
仮に,被請求人が,本件商標を使用していたとしても,請求人ら使用商標と同一又は類似の商標を登録することによって請求人らの商標を不安定なものとならしめており,かかる本件商標登録は,被請求人がダイコウから解雇されたことに対する不当な嫌がらせ目的でなされたものとみる他ない。
以上のとおり,本件商標は,ダイコウの元従業員である被請求人が,請求人ら使用商標が登録されていないことを奇貨として,被請求人は何ら使用しないにもかかわらず,高額での買取りを強制したり,商標登録出願を行っても拒絶査定がなされたりする等,周知商標主である請求人らを不安定な地位に至らしめ,同社に損害を与える目的で同一商標出願を行ったものであり,請求人らの名声等を毀損させる目的,信義則に反する不当な目的でなされたことは明白である。
2 答弁に対する弁駁書(平成28年1月13日付け)
(1)本件請求は,何ら商標法の立法趣旨を揺るがすものではない。
被請求人は,商標法第8条第1項第1号を引用し,被請求人が商標登録を受けたことは正当であり,請求人の主張は事実誤認等によるものであり,本件請求は,商標法の立法趣旨を根幹から揺るがすものであり,本件審判請求は成り立たないと主張する。
本件請求は,被請求人の商標登録に無効審判事由にあたる瑕疵があることを指摘するものであり,登録に瑕疵がある商標の存続は,公益に反するのであるから,産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護するという商標法の立法趣旨を揺るがすものではない。
したがって,被請求人のかかる主張は論旨不明といわざるを得ないことは明らかである。
(2)商標法第3条第1項柱書について
ア 商標登録は,「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」について行う必要がある(商標法第3条第1項柱書)ところ,「使用をする」とは,少なくとも登録査定時において,現に自己の業務に係る商品又は役務に使用をしている商標,あるいは将来自己の業務に係る商品又は役務に使用する意思のある商標と解される(甲7,甲8)。
イ 本件では,被請求人の答弁を踏まえても,登録査定時から現在に至るまで被請求人が本件商標を自己の業務に係る商品又は役務について使用したことはないことは明らかである。
被請求人は,現在,請求人らの同業他社である浅尾繊維工業株式会社(以下「浅尾繊維工業」という。)に入社したと主張するが(乙1,乙2),一般的に考えても,入社した同業他社において,以前在籍していた会社の商品に付されていた商標を自己の業務(ないし同業他社の業務)に係る商品ないし役務について使用することはおよそ想定できず,実際に,浅尾繊維工業において,請求人らの商標を使用している事実もない。
よって,同業他社に在籍している状況で使用する予定など皆無であったことは明らかである。
加えて,被請求人は,近い将来退職・独立して寝具に係わらず第35類中の役務にある業務を活用する計画がある旨述べるが,退職の具体的時期,指定役務間の関連性及び事業計画の内容については何ら触れられておらず,その具体性は皆無である。
また,被請求人は古物商の免許も取得したと述べるが,その免許を示す証拠はなく単なる許可に過ぎない可能性も否定できないばかりか,古物商の資格と被請求人が取得した商標との関連性も不明である。
ウ そもそも,「使用をする商標」に,将来使用しようとする場合も含まれると解される趣旨は,出願から登録を受けるまでには一定程度の時間を要し,業務開始にあたっての準備期間も必要であることから,使用前の出願を許容することにある〔小野昌延,三山俊司(2009)新・商標法概説第2版,青林書院,105ないし106頁参照〕
しかし,本件では,被請求人は登録査定時はもちろん,現在も同業他社に在籍しており,上述したように同業他社において以前在籍していた会社の商品に付されていた商標を自己の業務ないし同業他社の業務に係る商品又は役務について使用をする蓋然性があったとは考えられない。
また,被請求人の主張する退職・独立の時期及び事業内容は不明であり,被請求人のいう多方面の仕事の具体的内容は全く明らかでない。
よって,被請求人の主張は,使用の意思の単なる表明にすぎず,将来使用する蓋然性があるとはいえない。
したがって,本件商標は,被請求人が「使用をする商標」にはあたらない。
エ なお,被請求人は,答弁書において「商標を使用した商品を現在の所属会社からの仕入れての販売をも考えている」と主張するが,請求人らが長年にわたり使用していた商標を,同業他社の商品に付すというのは,著しく社会的相当性を欠く行為に他ならず,不正競争防止法に該当し得る違法行為である。仮に,浅尾繊維工業において本件商標を付した商品を生産・販売する予定があるのであれば,その詳細について明らかにすべきである。
また,被請求人は,「請求人の顧客だった方々は被請求人の会社として登録され,被請求人の販売する商品の購入もされている状況である」とし,あたかもダイコウの取引先が浅尾繊維工業に移転したかのような記載をしている。だが,被請求人が乙第4号証に掲げる取引先がすべて浅尾繊維工業に移転したのではなく,浅尾繊維工業に被請求人が就職後,取引先の中には,ダイコウに加え浅尾繊維工業との取引も存在するようになったところもあるにすぎない。
もとより,被請求人によって本件商標の登録がなされていることが発覚したのは,顧客から「ダイコウ(請求会社)の社員ではなくなった被請求人がソムナイトの商標を登録したと言っている。どうなっているのか。」と尋ねられたことで,請求人らの使用商標であるソムナイトと同一の商標(甲11)が被請求人によって登録されていることがわかり,請求人らの従業員が,請求人の商品・役務に使用している他の商標が登録されている可能性を懸念し他の商品・役務に係る被請求人による商標登録の有無を調査したことによる。
顧客は,請求人らの商品・役務に使用されていた商標が,ダイコウの社員ではなくなった被請求人が商標登録したと述べたことに対して困惑してダイコウに事実確認に及んだものであり,得意先に不安を芽生えさえ,助長させたのは被請求人の行為に他ならない。
被請求人は,本件商標の登録後も請求人らに対して何ら請求をしておらず実害がない旨述べるが,本件は,本件商標が商標使用の意思に欠ける等の無効事由にあたることから審判請求に至ったものであるから,実害の有無は,被請求人の使用の意思の有無とは無関係である。
(3)商標法第4条第1項第7号について
ア 被請求人が,ダイコウ在籍当時,商標権侵害の警告文書に関してダイコウの当時の顧問弁護士と対応していたことは,被請求人自身認めるところである。被請求人が,商標権侵害に関する案件を担当していたことは,相当程度被請求人が商標権に関する見識を持っていたことを示すものである。
なお,被請求人は,特許取得業務に関っていないと主張するが,仮に特許取得業務に関与していないとしても,被請求人は,本件で問題となっている商標権に関する案件を担当していたのであり,商標権の効果,商標権侵害を主張された場合に会社が受ける打撃について十分認識していた。
また,被請求人が,ダイコウ在籍中に,営業職に従事していたことに争いはない。ダイコウの営業職にあった被請求人が,自分が業務で取り扱う商品に付された使用商標を知らないとは考えられない。
一般に登録商標の検索は容易であるが,商標権に関する案件を担当していた被請求人にとって,使用商標の登録の有無を確認することは,商標権に関する知識が相当程度あったと思われることからも,より容易であったといえる。
本件商標出願は,被請求人が,浅尾繊維工業の営業部に在籍しているときに行われており,その時期は,被請求人がダイコウを解雇された約半年後である。
同業他社の営業部に在籍している被請求人が,以前在籍していた会社の使用商標と同一の商標を付した商品を生産・販売するとは一般に想定し難い状況下で,解雇から約半年後と近接した時期に商標出願に及んでいること,被請求人はダイコウ在籍時に商標権侵害の請求の対応を担当した経験があり,その対応の困難性,会社の受ける打撃を知っていたこと等に鑑みれば,被請求人が本件商標の登録に及んだのは,使用商標が商標登録されていないことを知り,請求人らの業務の妨害という動機のもと使用商標を剽窃し,先回りして登録出願したものといえる。
以上のような本件商標の登録に至る経緯を踏まえれば,本件商標の使用は,社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反するものであり,公序良俗に反するものである。
イ 被請求人は,解雇された身で,まして同業他社に所属している環境の中,あえて請求人に対し相談する事由は通常一般常識的にないと主張する。
しかし,被請求人は,ダイコウの元従業員として,一定の信用を蓄積した使用商標の既得の利益を尊重すべき立場にあったところ,使用商標の存在を知りながら,同業他社に所属した直後に使用商標と同一の商標の登録出願をすること自体,社会における一般的な道徳観念に反するものである。
以上のように,本件登録が公序良俗に反することは明らかである。
(4)商標法第4条第1項第10号について
周知性を備えていること
使用商標は,少なくとも平成15年から請求人らが生産・販売する商品に付され,使用期間は長期である。また,請求人らの売上は,平成26年はそれぞれ,25,000,000円を超えており,平成27年の7月まででの売上もダイコウは,7,052,230円,ダイコウリビングは,17,925,850円と,その売上高は高額である。
加えて,請求人らの使用商標が付された商品の販売地域は福岡県内だけでなく東京都,愛知県,大阪府といった主要都市を含めた多数の県にわたっている。
このように,商品又は役務の売上高は高額であり使用商標を付された商品の生産量,譲渡量は多量であること,使用期間も長期間経過していること,営業規模も多数県に及び相当範囲の取扱業者に知られているといえることから,請求人らの使用商標は,取引者の間ではすでに使用により識別力を有しており,需要者の間に広く認識されている商標にあたる。
被請求人は,当該商品の販売先は主として,問屋を含むその卸先などであり,それらの仕入先,顧客は「株式会社ダイコウ ダイコウリビングの商品」としての取引であり,請求人が主張する「moelleux」としての商品を欲し,そのブランドとしての商品位置づけはないと主張する。
しかし,請求人らには多数の取扱商品が存するところ,取引先はその中から使用商標を付された商品を購入しているのであり,使用商標を付された商標を欲して購入に及んだといえる。
また,被請求人の主張を踏まえると,取引先は使用商標の付された商品が請求人らの生産,販売するものであり,請求人らが生産した商品であるという出所に対する信頼のもと購入していることとなる。取引先が使用商標の付された商品をあえて選択し,かかる商品が請求人らの生産,販売するものであるとの認識の下,購入に及んでいることは,使用商標が周知性を有することを示すものに他ならない。
被請求人は,西川グループが持つ「ローズ」ブランドと比べ,一般消費者等は「moelleux」の認識は無いに等しく「広い認識」と見なされておらず,周知性を持つとは言えないと主張する。
しかし,本件請求と西川グループの「ローズ」ブランドは一切関係性がない。また,一般消費者等は「moelleux」の認識は無いに等しいと主張するが,その根拠は示されていない。加えて,上述したように商標法第4条第1項第10号における周知性は,最終消費者まで広く認識されている商標のみならず,取引者の間に広く認識されている商標を含むから,本件のように最終消費者のみならず,取引者の間に広く認識されている使用商標の周知性の判断には何ら影響しない。
イ 商標の同一性
本件商標と使用商標が同一であることは,明白である。
被請求人は,「moelleux」が,現在被請求人が勤務している寝具販売業務,又は近い将来の独立後に使用可能であり,また,特に寝装品に関わりのある意味合いがあり,同業他社より先願登録されないように保護・保全の為に登録したと主張する。
しかし,現在,被請求人は浅尾繊維工業に勤務しており,同社において請求人らの商品は生産,販売されないから現在の寝具販売業務における使用など到底考えられない。また,被請求人の主張する近い将来の独立は抽象的な一つの可能性にすぎず,商標法上保護すべき業務上の信用は発生してない。
なお,シンコール株式会社の登録商標の称呼は本件との関連性を有さない。
(5)商標法第4条第1項第19号について
ア 他人の業務に係る日本国内外の著名商標
使用商標の付された商品は,多数県にまたがる取引先に販売されており,その販売地域は全国的といえる。また,請求人らにおける年間売上高だけをみても平成26年には2,000万円超に及んでおり,広く需要者に使用商標が付された商品・役務が提供されている。
使用商標は,遅くとも平成15年から10年以上使用されており,請求人らの売上高,販売量,生産量の多量さ,販売地域の広さ,使用期間の長さに照らせば,請求人らの業務にかかる使用商標は,全国的に著名といえる。
被請求人は,「moelleux」を前面に押し出した商品販売は実施しておらず,取引者や主な納入先である小売業者,一般消費者等は「moelleux」の認識は無いに等しいと主張する。
しかしながら,使用商標のチラシやパンフレットが作成されていること(甲4,甲5),商品は使用商標の記載されたケースに収納されていること(甲18),ダイコウリビングの社屋壁面には使用商標が描かれていること(甲19)から,請求人らが使用商標を明確にしたうえ商品を販売していることは明らかであり,取引先や主な納入先である小売業者,一般消費者等は使用商標を十分に認識している。
不正の目的
被請求人は,ダイコウに対して何らの請求も行っていないと主張する。
しかし,請求人らが本件請求に及ぶ前ころ,被請求人は,ダイコウの顧客に対し,「近々,ダイコウに対し,商標権侵害の書面を送る予定だ」と述べていた。被請求人は,本件請求が提起されたことによってダイコウに対する請求を見合わせた可能性もある。
また,被請求人がダイコウ在籍時に,商標権に関する業務に従事していたことは被請求人自身が認めている。被請求人の経験に照らすと,被請求人は商標権の重要性を十分に認識しており,商標権侵害により会社が被る影響やダイコウにおける商品・役務の商標登録の状況を調査し確認することは極めて容易であったといえる。
被請求人の主張によると,被請求人は,本件商標の出願時及び査定時,そして現在も,請求人らの同業他社である浅尾繊維工業に在籍している。上述したように浅尾繊維工業が,使用商標と同一の商標を用いた商品を生産,販売することは,不正競争防止法との兼ね合いからも想定し難い。また,被請求人は,現在も浅尾繊維工業に在籍しており独立の予定も不透明であること,被請求人のいう計画には何ら具体性がなく漠然とした意思表明にすぎないことから,被請求人に使用意思があったともいえない。
また,被請求人は,ダイコウの元従業員として,本件商標と同一の造語である使用商標が請求人らの商品に少なくとも10年以上使用され,多数かつ広範囲の地域の取引先に販売されていることを十分に認識していた。加えて,ダイコウの他の使用商標も近接した時期に登録している(甲11)。
被請求人がダイコウを解雇された約半年後という近接した時期に,ダイコウの元従業員として使用商標の存在を十分認識していたにもかかわらず,本件請求に加え,請求人らの他の使用商標と同一の商標の出願に及ぶのは不自然といわざるをえない。
そうであるとすると,被請求人は,解雇を契機に,もともと在籍していた会社の使用商標が出願されていないことを奇貨として,買取請求や請求会社に対する権利行使を行う目的,商標の所在に関し顧客を当惑させ請求人らの信用を失わせ名誉を毀損させる目的,または被請求人を解雇したダイコウヘの腹いせとして有形ないし無形の損害を与えるため信義則に反する不正の目的で出願したといえる。
被請求人は,ダイコウが,本件商標出願の1か月前に,「AQUA SLEEP」の商標出願を行っていることをもって,未登録商標について主張する本件審判請求が不当と主張する。しかしながら,「AQUA SLEEP」の商標出願と本件請求とは何の関連性もなく,被請求人の主張は論旨不明である。
「AQUA SLEEP」は,使用商標の付された商品とは異なり,既存の取引先に加えてテレビショッピング番組でも販売され,全国の消費者を取引の直接の対象とし市場の開放性が極めて高いため,商標登録に及んだにすぎない。
被請求人は,「AQUA SLEEP」の商標登録をしておきながら,未登録の商標について主張する今回の審判請求は不当である,今般の請求人の主張が認められてしまえば,商標登録の制度自体を根幹から揺るがすものと思われると主張する。
しかし,著名商標について不正な目的で出願を行うことこそ公正な取引秩序に違反し信義則に反するのであり,何ら商標登録の制度の根幹を揺るがすものではない。
使用商標は,請求人らの商品に長年にわたって使用され,使用商標が付された請求人らの商品・役務が主要都市を含む多数県にまたがって販売され全国的に知られていると評価できること,売上高に照らしても多量の生産,販売がなされており国内における需要者の間に請求人らの業務に係る商品又は役務を表示するものと広く認識されているといえることから,使用商標は著名商標にあたる。
また,使用商標と本件商標は,同一ないし類似しており,造語よりなるものである。
加えて,被請求人が商標出願に至ったときの状況,時期,そしてダイコウの顧客に対する発言等を考慮すれば,被請求人が不正の目的をもって出願したことは明白である。

第4 被請求人の主張
被請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第12号証を提出している。
1 答弁理由の要約
本件は請求人が事実,商標登録出願をしておらず,被請求人が期間を置いて先に登録した商標である事から,「同一又は類似の商品又は役務について使用をする同一又は類似の商標について異なった日に二以上の商標登録出願があったときは,最先の商標登録出願人のみがその商標について商標登録を受けることができる。」(商標法第8条第1項第1号)との規定に基づき被請求人が商標登録を受けた事は正当であり,請求人が主張するものは事実誤認,無根,憶測によるもので何ら裏付ける証拠もなく,「この法律は,商標を保護することにより,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り,もって産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。」(商標法第1条第1項第1号)との商標法の立法趣旨を根幹から揺るがすものである。
2 商標法第3条第1項柱書について
被請求人は,請求人である株式会社ダイコウを平成26年2月28日付けにて会社都合により退社し,平成26年4月21日付けにて浅尾繊維工業に入社した(乙1)。
浅尾繊維工業は,請求人と同じく寝具製造及び卸売を生業としている同業他社である(乙2)。
被請求人の職務内容は,営業,商品企画,販売であり,第35類の役務中記載の条項は現在従事する職務に関連,該当する商品項目である(乙3)。役務としての選択理由は,近い将来,退職,独立後に現在の知識,技能,人脈を生かして寝具販売を含む,多方面の仕事を興すことも考慮してのものであり,登録時に事務を代行した事務所より,役務項目の利便性を説明され登録したものである。
被請求人は長きにわたり寝具業界に身を置き,将来の生活の糧として,寝具販売も中心とした事業で独立を考えており,また,寝具に限らず第35類中の役務にある業務につき活用する計画を持っている(事実,他にも古物商の免許も取得し,将来に備えている。)。
請求人の被請求人に対する解雇事由は,現存の事業縮小,閉鎖であり,それを被請求人の同業他社就職後,事業縮小と聞いた請求人の顧客だった方々は被請求人の得意先として登録され,被請求人の販売する商品の購入もされている状況であり,近々の独立後はこれらの得意先を対象に,商標を使用した商品を現在の所属会社から仕入れての販売をも考えている(乙4)。
請求人は役務の使用について拘っているが,被請求人は商標の登録完了後も,ダイコウに対して何等一切,告知,要求,請求を行っておらず,請求人には実害がない。
これはあくまでも被請求人と現在付き合いのある,請求人(ダイコウ)より商品を購入している顧客を重んじ,その配慮からによるものである。
前述のとおり近い将来,被請求人は独立計画を起てており,請求人の「使用意志が被請求人にあったともいえない」はあくまでも推量であり,被請求人の意図を全く把握していない。
3 商標法第4条第1項第7号該当性について
「ダイコウ在職中に,特許取得に係る事業に従事」「弁理士事務所との担当窓口となっていた」は全くの事実無根で,取得手続きを担当していたのはダイコウリビングの営業担当部長(重松宏晃氏)であり,重松氏の退社後は,同じくダイコウリビングの歴代総務部長が担当していた。
営業職となってからは実務の指示は無く,取得業務に携わってもいないのが事実である。
ただ,一度ダイコウの得意先の量販店である(株)ナフコヘ請求人が「セリーヌ」という名称を付し販売した商品(カバー類)において,フランス「セリーヌ」社より商標権の侵害の警告文章が来た際には,請求人の当時の顧問弁護士と対応を協議したことはある。
「請求会社らに無断」は,解雇された身で,まして同業他社に所属している環境の中,敢えて請求人に対し,相談する事由は通常一般常識的に無いのではないか。
4 商標法第4条第1項第10号該当性について
(1)請求会社の商標の周知性
請求人は製造,販売した本件商標における商品について,少なくとも平成15年頃から使用開始して以来12年間,今現在において商品の保護,保全措置を怠っており,また,広く認識されていると主張しているにも関わらず,実績あるという販売商品,需要者に対して,何ら対策,配慮がなされていなかったのが実情である。
請求会社の当該商品の販売先は主として,問屋を含むその卸先などであり,それらの仕入先,顧客は「株式会社ダイコウ ダイコウリビングの商品」としての取引であり,請求人が主張する「moelleux」としての商品を欲し,そのブランドとしての商品位置づけは無い。まして,国内大手寝具メーカー西川グループが持つ「ローズ」ブランドと比べ,一般消費者等は「moelleux」の認識は無いに等しく「広い認識」と見なされておらず,周知性を持つとはいえない。
(2)商標の同一性
「moelleux」の呼称は様々であり「モアール」「モワール」「モアレ」「モワーレ」等々あり,フランス語の「ふわふわした」「柔らかな」「ソフト」を意味し,現在,被請求人が勤務している寝具販売業務,又は近い将来の独立後に使用可能であり,また,上述のとおり,特に寝装品に関わりのある意味合いがあり,同業他社より先願登録されないように保護,保全の為に登録したものである。
また,同じようにそのイメージからシンコール(株)という企業も商標登録の一部を参考呼称にしている事から(区分24,乙5),請求人のいう「モアール」との呼称には限定されず,拘る必要は無いと勘案する。
5 商標法第4条第1項第19号該当性について
(1)国内における需要者の間に広く認識されている商標
請求人は,「moelleux」を前面に押し出した商品販売は実施しておらず,取引者や主な納入先である小売業者,一般消費者等は「moelleux」の認識は無いに等しく「広い認識」と見なされておらず,周知性を持つとはいえない。
(2)不正の目的
被請求人は商標の登録完了後も,請求人であるダイコウに対して何等一切,告知,要求,請求を行っておらず,請求人には実害がない。
被請求人の商標の登録は独立を見越し,使用したいとかねてから思っていた為であり,同時期に当「moelleux」を含む商標登録を3件(乙6,乙7)しており,請求人がいう「不当な嫌がらせ目的」「高額の買い取り強制」「損害を与える目的」「不当な目的」などでは無い。
しかも特許に係る事業の従事は無く,全くの誤認である。
請求人の審判請求書中記載の「不当な嫌がらせ目的」「奇貨として」「高額の買い取り強制」「損害を与える目的」「不当な目的」は推量であるばかりか,あたかも,被請求人の人格,名誉を著しく棄損,蹂躙し,自己を正当化しようとしており,事実ではなく容認できるものではない。
(3)請求人の商標に関する事項を時系列での説明(乙8)
請求人は,「ドクターセイビア」の商標を登録(登録第5051894号商標)しており,これは,平成18年11月1日に商標出願されている(乙9)。
これより先の,平成18年8月26日に同じ名称「ドククーセイビア」(商標登録第5072236号)が,当時商品の仕入れ先であった(株)サンメディカルより商標出願なされている(乙10)。
「ドクターセイビア」は,ダイコウが従前より使用していた商品に付する商品名であったがこの時期に,買掛金の支払いについてトラブルがあり,ダイコウの仕入先である(株)サンメディカルがその対抗要件として,自社生産のダイコウヘ納入するOEM医療商品(腰ベルト)を商品区分第10類で取得し,それを知ったダイコウが慌てて別区分で商標出願したものである。
この時点で充分に商標の登録に関して,請求人は先願主義の重要性を認識,学習しているはずである。
ダイコウは,被請求人が本件商標を出願する1ヵ月前の平成26年8月26日に「AQUA SLEEP(アクアスリープ)」(商標登録第5727345号)を商標登録出願している(乙11)。
その後,平成27年4月24日より,テレビショッピングにて,自社ブランドとして告知し,当該数種の商品を紹介,販売している(乙12)。
これをみても請求人が,自己に必要なものは登録しておきながら,未登録の商標について主張する今回の審判請求は不当である。
平成26年8月の時点で,業績に貢献ある自社の商品群を見直し,同時に先願商標登録できたはずである,がなされていない。
必要なものは準備(商標登録)しておきながら,今回の「moelleux」登録は忘れていた,しかし実績があるから先願登録商標は無効である,では商標法の定義を著しく損なう勝手な主張である。
被請求人が商標登録する,その前に請求人は自社ブランドとして,他の商標登録「AQUA SLEEP(アクアスリープ)」(商標登録第5727345号)をなしており,それを自社ブランドとして告知をしている事から,被請求人に限らず「moelleux」商標について登録意思が無いと判断されるのが常識的な流れではないのか。
請求人が主張する「寝具類の取引者や主な納入先である小売業者の需要者の間に広く認識されていた」「相当程度売上高を維持している商品」であれば,生産,販売するメーカーであればこそ,商標登録を早期にすべきであり,今回の件はその商標法の主旨である「信用の維持を図り,もって産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護」を放棄しているものである。
請求人には使用開始から12年の間に再三,商標登録する機会はあったもののなされておらず,その間,自己に必要なものは登録しておきながら,未登録の商標を今になって「使用商標」と主張する今回の審判請求は不当である。
今般の請求人の主張が認められてしまえば,商標登録の制度自体を根幹から揺るがすものと思われる。

第5 当審の判断
1 商標法第3条第1項柱書の該当性について
(1)商標法第3条第1項は,「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については,次に掲げる商標を除き,商標登録を受けることができる。」と規定し,登録出願に係る商標がその出願人において,「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」であることを商標の登録要件として定めている。
そして,商標法第3条第1項柱書の「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」における「使用をする」とは,「現在使用をしているもの及び使用をする意思があり,かつ,近い将来において信用の蓄積があるだろうと推定されるものの両方を含む。」と解される(特許庁編 工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第19版〕)。
(2)被請求人提出の証拠及び同人の主張によれば,次の事実を認めることができる。
ア 被請求人は,ダイコウを平成26年2月28日付で会社都合により退社し,同年4月21日付で浅尾繊維工業に入社した(乙1)。また,浅尾繊維工業は請求人と同じく寝具製造及び卸売を生業としている同業他社である(乙2)。
イ 被請求人の職務内容は,浅尾繊維工業における営業,商品企画,販売であり,本件商標の指定役務には,現在従事する職務に関連する商品に関する役務を含むものである。
ウ 本件商標の選択理由は,近い将来,退職,独立後に現在の知識,技能,人脈を生かして寝具販売を含む,多方面の仕事を興すことも考慮してのものである。
エ 被請求人は,長きにわたり寝具業界に身を置き,将来の生活の糧として,寝具販売を中心とした事業で独立を考えており,また,寝具に限らず第35類中の役務に関する業務につき活用する計画を持っている(古物商の免許も取得している。)。
オ 独立後は得意先を対象に,商標を使用した商品を現在の所属会社から仕入れての販売をも考えている(乙4)。
カ 被請求人は,独立を見越し,使用したいとかねてから思っていた商標を,同時期に3件,商標登録している(乙6,乙7)。
(3)上記(2)によれば,以下のとおり認めるのが相当である。
被請求人提出の証拠によれば,本件商標の登録査定時の前及び現在において,被請求人が本件商標を使用した事実は認められない。
しかしながら,前記(1)のとおり,商標法第3条第1項柱書にいう「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする」とは,現に行っている業務に係る商品又は役務について,現に使用している場合に限らず,将来行う意思がある業務に係る商品又は役務について将来使用する意思を有する場合も含むと解されることから,仮に,被請求人が,本件商標の登録査定時に,その指定役務に係る業務を行っていないとしても,当該業務を将来行う意思があれば足りるといえる。
そして,被請求人は,近い将来,寝具販売を中心とした事業で独立を考えていること,また,第35類中の役務にある業務につき活用する計画を持っていること,そのため,独立を見越し,使用したいとかねてから思っていた商標を,同時期に3件,商標登録していることが認められる。
加えて,請求人らは,結局,被請求人が解雇後に請求人らが寝具等の商品に使用していることを知りながら,登録出願をし,その登録を得たことをあげて,商標の使用意思がないと主張しているにとどまり,被請求人が本件商標の登録査定時に将来においてさえ本件商標の使用意思を有していないことを具体的に証明しているわけではない。
そうすると,これらの事情を考慮すれば,被請求人が本件商標の登録査定時において,本件商標の指定役務に係る業務を行っていないとしても,将来使用する意思があることを否定することはできないものというべきであり,かつ,請求人らの主張を認めるに足る証拠を見いだすこともできない。
してみれば,本件商標は,その登録査定時において,商標法第3条第1項柱書の要件を具備していなかったとはいえない。
したがって,本件商標は,商標法第3条第1項柱書に違反して登録されたものということができない。
2 商標法第4条第1項第7号の該当性について
(1)商標法第4条第1項第7号は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は商標登録をすることができないとしているところ,同号は,商標自体の性質に着目したものとなっていること,商標法の目的に反すると考えられる商標の登録については,同法第4条第1項各号に個別に不登録事由が定められていること,商標法においては,商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることを考慮するならば,商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法第4条第1項第7号に該当するのは,その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである。
そして,同号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは,商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので,特段の事情のある例外的な場合を除くほか,許されないというべきである(平成14年(行ケ)第616号,平成19年(行ケ)第10391号)。
(2)請求人らは,「被請求人は,請求人らの営業職員であり,卸売店への販売,宣伝販売等に従事しており,使用商標の付された寝具が請求人らの製造した商品であり,請求人らが卸売を行う製品であることを熟知していた。被請求人は,本件商標が登録されていないことを知りながら,使用商標を剽窃ないし請求人らの事業遂行を妨害するため,請求人らに無断で,本件商標の登録をしたものである」旨主張している。
しかしながら,請求人らの主張は,被請求人が請求人らの元営業職員であり,卸売店への販売,宣伝販売等に従事してきたので,請求人らの使用商標を知り得る状況にあったこと,本件商標と請求人らの使用商標が酷似するものであることをもって,請求人らの事業の遂行を阻止を図る意図で登録出願したものであり,剽窃的なものであると主張しているのであって,その主張の根拠となる,具体的に,被請求人が請求人らの事業の遂行を妨害又は阻止しようとしていることを目的とした剽窃に当たることなどを裏付ける証拠を提出しているものではない。
また,下記3(1)によれば,本件商標の登録出願が,一定の信用を蓄積した未登録周知商標の既得の利益を保護するというような商標法の目的に関連して,請求人らの信用の化体した周知商標についての剽窃に当たるものではない。
しかも,請求人らは,使用商標の使用開始にあたって,その商標を自ら登録出願する機会は十分にあったというべきであって,自ら登録出願しなかった責めを被請求人に求めるべき事情を見いだすこともできない。
そして,本件商標は,具体的な事実関係においても,直ちに「剽窃的な行為」に当たるとはいえないものというべきである。
(3)そうすると,本件商標について,商標法の先願登録主義を上回るような,その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあるということはできないし,そのような場合には,あくまでも,当事者間の私的な問題として解決すべきであるから,公の秩序又は善良の風俗を害するというような事情があるということはできない。
してみると,被請求人が,請求人らの営業表示と類似する本件商標の登録出願をし,登録を受ける行為が「公の秩序や善良な風俗を害する」という公益に反する事情に該当するものということはできない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものとはいえない。
3 商標法第4条第1項第10号の該当性について
(1)使用商標の周知性
請求人らは,使用商標が商品「寝具類」に使用する商標として,平成15年から使用商標を付して商品「寝具類」の製造を開始し,ダイコウにおける平成26年の売上高は2,533万円,平成27年7月1日までの売上高は,705万円(甲12),ダイコウリビングにおける平成26年の売上高は,2,851万円,平成27年7月9日までの売上高は,1,793万円(甲13)であり,数都道府県にわたる範囲で,寝具類の取扱業者や主な納入先である小売業者の需要者に広く認識されている,として甲各号証を提出している。
しかしながら,請求人によって提出された証拠,例えば,チラシ,カタログ,年別商品売上表,得意先別商品別売上表等によれば,請求人らが,我が国において,2014年1月1日?2015年7月3日まで,42店舗で「寝具類」の製造,販売を行い,上記の売上高があったことは認め得るところであるが(甲12?甲17),これらの販売実績等をもって市場比率(シェア)等の把握は容易でない。また,使用商標が付されたカタログの「2003DL/BRIDAL COLLECTION」,「moelleux/HEART TO HEART/○’08?’09コタツセレクション○」,「Down Collection2010」,「2010 SPRING SUMMER COLLECTION」,「2009 moelleux SS collection」,「PRIMARY moelleux」,「moelleux Down Collection/2011-2012 AUTUMN&WINTER」(甲5)に関しても,どの程度の配布量であるのか不明である。
してみると,使用商標のその使用の期間,範囲,規模,宣伝広告の事実等が必ずしも明らかでなく,かつ,その他継続して使用商標を付した請求人らの業務に係る役務の広告等を行ったという事実を明らかにする証拠の提出もないから,使用商標の周知性の程度を推し量ることができない。
しかも,職権をもって調査するも,使用商標が請求人らの業務に係る商品を表示するものとして,我が国において広く認識されているというべき事情を見いだすこともできない。
以上を総合勘案すると,使用商標は,請求人らの業務に係る商品を表示するものとして,本件商標の登録出願日前より,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されていたと認めることはできない。
(2)商標の類否
本件商標は,「moelleux」の文字よりなるところ,これは,「柔らかい,ふわふわした」の意味を有する仏語であるが,我が国において一般に親しまれているとはいい難いものであるから,一種の造語を表したものと理解,把握されるものであり,特定の観念は生じないものである。
また,本件商標は,仏語の発音方法に倣って称呼されるとすれば,その構成文字に相応して「モアール」の称呼を生ずるものというのが相当である。
一方,使用商標1及び使用商標2は,別掲1及び2のとおり,「moelleux」の文字よりなるものであり,使用商標3は,別掲3のとおり,筆記体の「moelleux」の文字よりなるものである。
そうすると,本件商標と使用商標とは,観念において比較できないとしても,両者の文字の綴りは,「moelleux」で共通であって,かつ,「モアール」の称呼を共通にするものであるから,両者は,外観及び称呼において類似する商標である。
(3)商標法第4条第1項第10号該当性
商標法第4条第1項第10号は,「需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって」とあるとおり,需要者の間に広く認識されている商標であることがその要件とされるところ,前記(1)のとおり,請求人らの使用商標は,請求人らの商品「寝具」を表示する商標として,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,我が国の需要者間に広く認識されるに至っているということはできないものであって,周知性を獲得した商標とは認めることができない。
したがって,本件商標と使用商標が類似する商標であるとしても,使用商標が需要者の間に広く認識されている商標とは認められないから,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第19号の該当性について
本件商標と使用商標が類似する商標であるとしても,使用商標は,上記3のとおり,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人らの業務に係る商品を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標ということができないものである。
さらに,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,商標権者(被請求人)が,不正の利益を得る目的や請求人らの使用商標の出所表示機能を希釈化させ,その名声等を毀損させる目的をもって本件商標を出願し,登録を受けたと認めるに足る具体的事実を見いだすこともできないし,本件商標が不正の目的をもって本件商標を使用するものであると認めるに足りる証拠も見いだせない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものとはいえない。
5 むすび
以上のとおり,本件商標は,商標法第3条第1項柱書,同法第4条第1項第7号,同第10号及び同第19号に違反して登録されたものでないから,同法第46条第1項の規定により,その登録を無効とすべきでない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 別掲1(使用商標1)


別掲2(使用商標2)


別掲3(使用商標3)





審理終結日 2016-05-11 
結審通知日 2016-05-17 
審決日 2016-06-06 
出願番号 商願2014-91428(T2014-91428) 
審決分類 T 1 11・ 18- Y (W35)
T 1 11・ 25- Y (W35)
T 1 11・ 222- Y (W35)
T 1 11・ 22- Y (W35)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 齋藤 貴博 
特許庁審判長 山田 正樹
特許庁審判官 井出 英一郎
榎本 政実
登録日 2015-04-10 
登録番号 商標登録第5757279号(T5757279) 
商標の称呼 モアール、ムエル、モワロー 
代理人 木下 結香子 
代理人 甲谷 健幸 
代理人 甲谷 健幸 
代理人 木下 結香子 
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