• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W3541
審判 全部申立て  登録を維持 W3541
管理番号 1317242 
異議申立番号 異議2016-900023 
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2016-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-01-29 
確定日 2016-07-02 
異議申立件数
事件の表示 登録第5803020号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第5803020号商標の商標登録を維持する。
理由 第1 本件商標
本件登録第5803020号商標(以下「本件商標」という。)は,「ワーキングホリデー協会」の文字を標準文字により表してなり,平成27年2月12日に登録出願,第35類「広告業,経営の診断又は経営に関する助言,市場調査又は分析,商品の販売に関する情報の提供,ホテルの事業の管理,留学・ワーキングホリデーに関する事務手続及びその代行,文書又は磁気テープのファイリング,コンピュータデータベースへの情報編集,広告用具の貸与,求人情報の提供」及び第41類「海外留学に関する情報の提供,資格の認定及び資格の付与,技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,図書の貸与,通信を用いて行う映像又は画像の提供,映画の上映・制作又は配給,通信を用いて行う音楽又は音声の提供,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),通訳,翻訳 」を指定役務として,同年10月5日に登録査定,同月30日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が引用する商願2015-45844号(以下「引用商標」という。)は,「日本ワーキング・ホリデー協会」の文字を標準文字により表してなり,第35類「留学・ワーキングホリデーに関する事務手続及びその代行・媒介又は取次ぎ,留学・ワーキングホリデーに関する事務手続及びその代行・媒介又は取次ぎに関する情報の提供,留学・ワーキングホリデーに関するアンケート調査」及び第41類「海外における教育実習・実務研修・語学研修・留学・滞在・ワーキングホリデーに関するセミナーの企画・運営又は開催及びそれらに関する情報の提供,海外における教育実習・実務研修・語学研修・留学・滞在・ワーキングホリデーに関する情報の提供・助言・コンサルティング,留学のための受け入れ学校に関する情報の提供,学校に関する情報の提供,留学・ワーキングホリデーに関する知識の教授」を含む第9類,第16類,第35類,第36類,第39類,第41類ないし第43類及び第45類に属する商品及び役務を指定商品及び指定役務として,平成27年5月15日に登録出願しているものである。

第3 登録異議の申立ての理由
申立人は,本件商標は商標法第4条第1項第15号及び同第7号に該当するものであるから,同法第43条の2第1号により,その登録は取り消されるべきであると申立て,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第23号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 商標法第4条第1項第15号について
(1)申立人の役務と引用商標の周知性
申立人は,本件商標の登録出願日以前の2010年11月より,ワーキングホリデー制度(甲3)の普及と地位向上を目指し,同制度を利用した渡航者をサポートする各種業務を行っており(甲4ないし甲7),これらの役務を提供するにあたり,設立当初より一貫して引用商標を使用している。
具体的には,申立人は,引用商標を使用してワーキングホリデーに関するセミナーを全国各地で行っており,申立人のオフィスが所在する東京・大阪・名古屋・福岡・沖縄に限らず,それ以外の都市でも積極的に開催している。そして,2011年から2015年までの延べ開催回数は,15,658回を数え,2011年は507回,2012年は1,502回,2013年は3,464回,2014年は4,583回,2015年は5,602回を開催(甲8)しており,この数字は,一日に複数回のセミナーを開催しなければ到達できないものであり,セミナーの回数としては突出した数字といえる。
また,申立人は,我が国がワーキングホリデーの協定を結んでいる各国の大使館と共催の形でもセミナーを開催しており,単に回数のみだけでなく,利用者にとって極めて有益で公益性の高いセミナーを提供している(甲8)。
これらのセミナーに対し,参加予約を行った人は,2011年は3,887名,2012年は14,935名,2013年は25,722名,2014年は32,080名,2015年は33,290名を数える(甲9)。この点,日本人のワーキングホリデービザ発給数が全渡航国を合計しても年間2万件程度(2002年以降,甲10)と,それほど多くはない。少なくとも2012年以降においては,渡航希望者の大多数が申立人の開催するセミナーに予約・参加していると考えるのが合理的であって,需要者において,引用商標が申立人を示すものとして広く認知されているというべきである。
さらに,上述のセミナーの告知や予約は,主に申立人のホームページ上で行われているが,同ホームページへのアクセス数(ユニークユーザー数)は2011年で342,233件,2012年で500,850件,2013年で810,344件,2014年で1,152,655件,2015年で1,482,441件にまで達している(甲11)。かかる事実と上述のビザ発給数を考慮すると,需要者全体の規模に比して,極めて多くの人たちが同ホームページにアクセスし,引用商標と申立人を結び付けて認識・把握していると考えられる。
また,申立人は,上述のセミナー以外にも,ワーキングホリデー・留学に関するガイドブックを2012年9月から2015年末までに8万5千部程度発行し,ワーキングホリデーに関する最新情報の提供を行っている(甲12)。当該ガイドブックは,上述のセミナーで配布されるほか,国際交流協会・国際交流センターを中心とする各地の公益的施設でも配布され,日本中の渡航希望者が容易にアクセスできる環境を整えており,ワーキングホリデーは,その渡航者の年齢が制限され,渡航者の多くが学生であることから,全国各地の学校にも積極的にガイドブックを配布しており,その数は122校にも及ぶ(甲13)。この他にも,申立人は,新聞・書籍・TV等の各種メディアを通じて,広告活動を多数行っている(甲14)。
加えて,申立人は,ワーキングホリデー等の海外経験を積んだ日本人等の雇用を希望する企業からの求人情報を掲載するウェブサイト「Job Board」を運営しており,これまで延べ3,500社を超える企業から,2万件以上の求人掲載の依頼を受けている(甲15)。
以上より,引用商標は,本件商標の登録出願日以前から登録に至るまで,申立人の業務に係る役務であることについて,需要者の間で広く認識されているものである。
なお,かかる周知性は,東京商工会議所によっても証明されている(甲16)。
(2)旧協会からの引用商標の周知性の継承
引用商標は,申立人の前身的法人である「公益社団法人日本ワーキングホリデー協会」(以下「旧協会」という。)によって,1988年から使用が開始され,現在に至るまで約27年にわたり継続的に使用されているものであって,需要者において広く認識されるに至っている。
旧協会は,ワーキングホリデー制度の日本における普及と正しい理解を促進するとともに,制度運用面の改善を図ることを目的として,旧労働省の外郭団体として1988年に設立され,同制度に関する情報提供等を行っていた(甲17)。当該設立に伴い,制度に関する情報提供等の業務において,引用商標の使用も開始され,以後旧協会により継続的に使用された(甲18)。また,少なくとも1992年8月?2009年8月の間,協会機関誌「WORKING HOLIDAY REPORT」が全国の国際交流協会や都道府県庁を中心に年間1万冊が配布され,上記役務との関係で引用商標が使用されていた(甲18)。
しかしながら,旧協会は,債務超過となり,事業継続の目処が立たなくなり,事業の廃止が決定し,2010年8月に破産手続きが行われた(甲19)。旧協会の業務停止により,既会員だけでなく,これから渡航をしようとする渡航希望者においても大きな混乱が生じた。そこで,申立人の現理事長である池口州が旧協会の商号及びそれに関する一切の利益を旧協会より正当に譲り受け(甲20),2010年11月,上記破産から4か月を経たずして,申立人を設立するに至った。そして,有効期限の切れていない会員や旧協会が運営していた語学教室等の受講権利が残存していた会員に対し,同等のサービスを提供して既会員の救済を図るとともに,新規の渡航希望者に対しては,上述のワーキングホリデーのサポート業務を提供してきた。
旧協会の存続当時は,ワーキングホリデーを支援する法人や団体は,極めて限られており,旧協会が旧労働省の外郭団体という極めて公益性の高い法人であったことから,業界・需要者において旧協会と引用商標が関連付けられて広く認識されていたことは明らかである。
さらに,極めて迅速かつ適切に旧協会の商号及びサービスを引き継いだ申立人においても,同様の役務について引用商標を継続的に使用していることから,需要者の立場において,商標の出所(使用者)としての継続性は何ら失われていない。換言すれば,引用商標の周知性は旧協会から申立人に引き継がれたというべきである。
以上より,引用商標は,旧協会の時代から継続して,需要者において特定の主体に係る役務を指すものとして使用されていることから,本件商標の登録出願日以前から現在に至るまで,需要者に広く認識され続けているものである。
(3)商標及び役務の関係
本件商標の指定役務のうち,少なくとも,第35類「留学・ワーキングホリデーに関する事務手続及びその代行」,「求人情報の提供」及び第41類「海外留学に関する情報の提供」,「セミナーの企画・運営又は開催」並びにこれらに類似する役務が,引用商標に係る役務と抵触することは明らかである。
また,本件商標と引用商標は,「日本」及び「・」の有無で相違するものの,外観・観念において大きく相違せず,近似した称呼を生じるものであって,極めて共通性が高いものである。
さらに,取引の実情として,ワーキングホリデー制度の利用者が,リピーターよりも,新規の渡航者の方が多いことを考えると,両商標に係る役務の需要者において,普通に払われる注意力は決して高くなく,加えて,引用商標は,需要者において「ワーキングホリデー協会」と略称されている実情も存在する(甲21)。
かかる取引実情及び上述の周知性を勘案すれば,両商標が需要者に与える印象・記憶・連想等に格別の差異はないため,本件商標をその指定役務について使用すれば,需要者が,申立人の業務に係る役務と誤信する可能性が極めて高く,また,本件商標の権利者と申立人との間に業務上,経済上あるいは組織上何らかの関係があるものと誤認する可能性も大きいといえる。
したがって,本件商標の使用にあたっては,引用商標との関係で出所の混同が生ずるおそれがある。
2 商標法第4条第1項第7号について
本件商標の権利者は,そのホームページ上で協会設立の主旨について,破産した旧協会である「旧日本ワーキング・ホリデー協会の意思を受け継ぎ,ワーキング・ホリデーや留学を希望する日本人へのサポートと,さらなるグローバル人材育成のための海外経験の必要性を日本国内に普及させるため」であると述べている(甲22)。
しかしながら,旧協会の商号を譲り受け,会員への救済・情報提供等を実際に行ってきたのが申立人であることは,上述のとおりである。また,本件商標の権利者が同ホームページを立ち上げたのは,2015年に入ってからと考えられ(甲23),旧協会が破産した2010年から5年の月日が経過していることからも,旧協会の意思を受け継ぐという上記設立主旨は,極めて疑わしいといわざるを得ない。
さらに,申立人は,旧協会の存続時から一貫して,欧文字商標として「JAWHM」(Japan Association for Working Holiday Makersの略称)を使用しており,(甲17の2及び同3),例えば,申立人のホームページの上段において,世界地図を背景に若干右側に傾けた書体で同商標を使用している(甲4の1)。これに対し,本件商標の権利者のホームページ上でも,申立人の欧文字に対応する「AWHM」(「日本(Japan)」のJが除外されている態様)の文字が,世界地図を背景とする紫色の帯状部中において,右側に傾けた書体で描かれている(ただし,現在は変更されており,後述のアイコンも同様である。)(甲22)。
これらの事実から,本件商標の権利者が申立人の知名度を不正に利用しようとする意図があり,不正の利益を得る等の不正の目的を有することは明らかである。
以上のとおり,本件商標の権利者は,引用商標の存在を了知していながら,引用商標が商標登録されていないことを奇貨として,これとの混同を惹起する本件商標を先取り的に登録出願したものであって,本件商標は,引用商標による信用・利益を不正に得る意図で行われた剽窃的なものといわざるを得ない。
よって,本件商標の登録出願の経緯には,著しく社会的妥当性を欠くものがあり,その商標登録を認めることは,公正な競業秩序を害し,公序良俗に反するものである。

第4 当審の判断
1 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)引用商標の周知著名性
ア 申立人の提出に係る証拠(甲3?甲23)及びその主張等について
(ア)甲第3号証は,平成27年7月13日付けの外務省のホームページであるところ,これには,「ワーキング・ホリデー制度」の見出しのもと「1 概要」には,「ワーキング・ホリデー制度とは,二国・地域間の取決め等に基づき,各々が,相手国・地域の青少年に対し,休暇目的の入国及び滞在期間中における旅行・滞在資金を補うための付随的な就労を認める制度です・・・我が国は,昭和55年(1980年)にオーストラリアとの間でワーキング・ホリデー制度を開始したのを皮切りに,以下の14か国・地域との間で同制度を導入しています(平成27年7月13日現在)。我が国のワーキング・ホリデー査証を取得する相手国・地域の青少年は,合計で年間約1万人に上っています。」及び「6 その他」には,「現在,ワーキング・ホリデー制度の実施に際して,外務省が連携・協力している民間団体はありません。」の記載がある。
そうすると,現在,「ワーキング・ホリデー制度」については,外務省が連携・協力している民間団体はなく,申立人もまた公的に行っている者ということはできず,民間団体の1つである。
(イ)甲第4号証,甲第6号証及び甲第7号証によれば,申立人は,本件商標の登録出願日以前の平成22年11月29日に設立され,ワーキングホリデー制度の普及と地位向上を目指し,同制度を利用した渡航者をサポートする各種業務を行っている。
そして,甲第8号証は,同人のホームページであるところ,これには,その日程表において,渡航希望者向けにワーキングホリデーに関するセミナーの開催が,2011年2月に東京において3回開催されたことを始め,その後,大阪においても徐々に回数を増やし,名古屋,福岡,沖縄,その他の都市においてもセミナーが開催され,2012年には1,400回,2013年には3,400回,2014年には4,600回,2015年には5,600回程のセミナー開催が掲載されている。
また,申立人は,「これらのセミナーに対し,参加予約を行った人は,2011年は3,887名,2012年は14,935名,2013年は25,722名,2014年は32,080名,2015年は33,290名を数える(甲9)。この点,日本人のワーキングホリデービザ発給数が全渡航国を合計しても年間2万件程度(2002年以降,甲10)と,それほど多くはない。少なくとも2012年以降においては,渡航希望者の大多数が申立人の開催するセミナーに予約・参加していると考えるのが合理的であって,需要者において,引用商標が申立人を示すものとして広く認知されているというべきである。」旨を主張している。
しかしながら,上記した申立人のホームページに掲載されたセミナーについては,実際にそれら非常に多くのセミナーが開催された実績に関する証拠は提出されておらず,また,申立人は,これらのセミナーに対する参加予約を行った人の人数を述べるのみで,その裏付けや実際の参加人数は不明である。
さらに,申立人の該ホームページに関するWEBサイトアクセス状況(甲11)については,これを裏付ける証拠が提出されていない。
加えて,日本人のワーキングホリデービザ発給数が年間2万件程度と,それほど多くはないにしても,上記の参加予約数のみを根拠に,直ちに,渡航希望者の大多数が申立人の開催するセミナーに予約,参加していると考えるのが合理的であるということにはならない。
なお,申立人のホームページの左上部には,常に「JAWHM 一般社団法人日本ワーキング・ホリデー協会」の文字が表示されており,該ホームページ中の「協会について知りたい/一般社団法人日本ワーキング・ホリデー協会/活用ガイド」や最終ページに申立人名称と住所等とともに引用商標が使用されていることが認められる。
(ウ)本件商標の登録査定前において,申立人が,2013年5月27日にアイルランド大使館,2014年8月26日及び同年9月8日にオーストラリア大使館から協力を受けたセミナーを開催したことが認められる(甲8の12)。
(エ)申立人は,「一般社団法人日本ワーキング・ホリデー協会/Working Holiday&Study Abroad/GUIDEBOOK/ワーキングホリデー&留学ガイドブック」の文字が表示されているガイドブックを,2012年10月(vol.1),同年12月(vol.2),2013年5月(vol.3)に発行(甲12の1)している。
しかしながら,各ガイドブックには,商標としての引用商標のみを使用した表示が見当たらないし,また,これらのガイドブックについては,上記以外の発行日のほか,その発行部数(甲12の2)及び主な配布先(甲13の2)については,裏付けとなる証拠が提出されていない。
(オ)「30周年を迎えたワーキング・ホリデー制度」の新聞記事(甲10の1)には,「一般社団法人日本ワーキング・ホリデー協会の資料を基に作成」とするグラフが掲載されているものの,この記事は,ワーキング・ホリデー制度に関するものであって,我が国全体のワーキング・ホリデービザ発給数に関する内容といえるから,この人数が申立人の業務に係るものともいい難く,かつ,引用商標の表示も見当たらない。
(カ)新聞・書籍・TV等の各種メディアにおいては,「一般社団法人日本ワーキング・ホリデー協会」の名称としての表示が多く見て取れるうえ,該表示とともに引用商標が使用されているが,単独で本件の指定役務について引用商標が商標として使用されているものはわずかである(甲14)。
(キ)申立人のウェブサイト「Job Board」(甲15)は,求人情報の掲載は認められるものの,申立人主張の企業数や求人数については,見いだせない。
(ク)平成22年10月29日付けの社団法人日本ワーキング・ホリデー協会の破産管財人と譲受人との「合意書」(甲20)とされるものは,一部の内容及び前段の譲受人の欄が黒くマスクされ,後段の買受人は黒くマスクされた部分の上下に住所及び「池口 州」が手書きされ,印鑑も黒く塗りつぶされていることなどから,その内容に不明な点があるためこの書証のみでは,旧協会からその商号及び一切の利益を正当に譲り受けたとする申立人の主張を認めることができない。
(ケ)甲第16号証は,引用商標について,申立人がワーキング・ホリデー制度に関する事務手続き,代行及び情報の提供について,平成22(2010)年11月から現在に至るまで継続して使用し,取引者及び需要者の間において広く認識されている,旨を同28年2月8日付けで証明する東京商工会議所による「証明書」である。
(コ)旧協会から引用商標の周知性の継承をしているとする証拠(甲17及び甲18)は,ほとんどが「社団法人日本ワーキング・ホリデー協会」の使用であって,引用商標と同一の使用が見当たらない。
イ 小括
以上によれば,申立人によって相当数のワーキング・ホリデーに関するセミナーが開催されていることが推測されるとしても,同人のホームページに掲載されたセミナーについては,実際にそれら非常に多くのセミナーが開催された実績に関する証拠は提出されておらず,また,申立人は,これらのセミナーに対する参加予約を行った人の人数を述べるのみで,その裏付けや実際の参加人数は不明であって,また,セミナー等において,常に引用商標が使用されている事実は確認できないものである。
そして,「一般社団法人日本ワーキング・ホリデー協会」の文字が表示されたガイドブック(ワーキングホリデー&留学ガイドブック)を発行しているとしても,各ガイドブックには,商標として使用されている引用商標の表示が見当たらないし,また,発行日が不明なもののほか,その発行部数及び配布先への配布数についても,裏付けとなる証拠が提出されていない。
また,書籍や新聞に掲載される記事については,商標として使用されている引用商標の表示が見当たらないし,その内容も「ワーキング・ホリデー制度」に関する内容のものがほとんどであって,また,申立人による引用商標を使用した新聞及び雑誌による宣伝広告の実績も提出されていないものである。
さらに,我が国がワーキング・ホリデーの協定を結んでいるのは,外務省のホームページから14か国といえるところ,申立人は,本件商標の登録査定前にアイルランド大使館及びオーストラリア大使館とのみの共催しか行っていない。
したがって,引用商標は,申立人の業務に係る役務を表示するものとして,本件商標の登録出願時及び登録査定時に,その取引者及び需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。
(2)本件商標と引用商標の類否
本件商標は,「ワーキングホリデー協会」の文字からなるところ,その構成文字に相応して,「ワーキングホリデーキョウカイ」の称呼を生じ,特定の観念を生じないものである。
他方,引用商標は,「日本ワーキング・ホリデー協会」の文字からなるところ,その構成中の「日本」の文字部分は,国名としての日本国を表すものであって識別力を有しないものであるから,自他役務の識別標識としての機能を有する部分は,「ワーキング・ホリデー協会」の文字部分というべきである。
そうすれば,引用商標は,全体から生じる「ニホンワーキングホリデーキョウカイ」の称呼を生じる他,該「ワーキング・ホリデー協会」の文字部分に相応して,「ワーキングホリデーキョウカイ」の称呼をも生じ,特定の観念を生じないものである。
そして,本件商標と引用商標の要部である該「ワーキング・ホリデー協会」の文字部分とを比較すると,中黒の有無を有するのみであり,他の文字を同一にするものであるから,観念において比較できないとしても,外観において近似した印象を与え,称呼において「ワーキングホリデーキョウカイ」の称呼を同一にするものであるから,両者は,類似する商標といえる。
したがって,本件商標と引用商標とは,類似する商標である。
(3)出所の混同のおそれについて
以上のとおり,引用商標は,前記(1)のとおり,本件商標の登録出願時及び登録査定時に,我が国において申立人の業務に係る役務を表すものとして広く認識されていたということはできない。
してみれば,本件商標と引用商標とが類似するとしても,引用商標は,需要者の間に広く認識されていたものではないから,商標権者が本件商標をその指定役務に使用しても,取引者,需要者をして引用商標を連想し,又は想起させることはなく,その役務が申立人,あるいは,同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように誤認し,役務の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。
2 商標法第4条第1項第7号該当性について
本件商標の権利者は,そのホームページ上で協会設立の主旨及び申立人のホームページの上段において,世界地図を背景に若干右側に傾けた書体で同商標を使用している(甲4の1)事実から,申立人の知名度を不正に利用しようとする意図があり,不正の利益を得る等の不正の目的を有し,著しく社会的妥当性を欠くものがあり,公正な競業秩序を害し,公序良俗に反すると主張している。
しかしながら,旧協会から申立人への商号の譲受けについては,上記のとおり,社団法人日本ワーキング・ホリデー協会の破産管財人と譲受人との「合意書」(甲20)とされるものは,一部の内容及び前段の譲受人の欄が黒くマスクされ,後段の買受人は黒くマスクされた部分の上下に住所及び「池口 州」が手書きされ,印鑑も黒く塗りつぶされていることなどから,その内容に不明な点があるといえるものであって,申立人の主張はそれのみで認め難く,また,該ホームページの掲載のみをもって,本件商標の権利者が,引用商標が商標登録されていないことを奇貨として,引用商標による信用・利益を不正に得る意図で行われた剽窃的なものとはいい難いため,不正の目的を有するともいえない。
してみれば,他に不正の目的をもって使用したことを証明する具体的な証拠の提出もないので,本件商標について,公正な競業秩序を害し,公序良俗に反するものと認めることはできない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当しない。
3 むすび
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第15号及び同第7号に違反してされたものではないから,商標法第43条の3第4項の規定に基づき,維持すべきものである。
よって,結論のとおり決定する。
異議決定日 2016-06-23 
出願番号 商願2015-12819(T2015-12819) 
審決分類 T 1 651・ 22- Y (W3541)
T 1 651・ 271- Y (W3541)
最終処分 維持  
前審関与審査官 齋藤 貴博 
特許庁審判長 山田 正樹
特許庁審判官 井出 英一郎
榎本 政実
登録日 2015-10-30 
登録番号 商標登録第5803020号(T5803020) 
権利者 一般社団法人ワーキングホリデー協会
商標の称呼 ワーキングホリデーキョーカイ 
代理人 内藤 拓郎 
代理人 中村 直樹 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ