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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y42
管理番号 1314453 
審判番号 取消2015-300191 
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2015-03-16 
確定日 2016-04-25 
事件の表示 上記当事者間の登録第4911080号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4911080号商標の指定役務中、第42類「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法に関する紹介及び説明,建築又は都市計画に関する研究,公害の防止に関する試験又は研究,電気に関する試験又は研究,土木に関する試験又は研究,機械器具に関する試験又は研究,電子計算機の貸与,電子計算機用プログラムの提供」については、その登録は取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4911080号商標(以下「本件商標」という。)は,「I-TAP」の欧文字を表してなり,平成17年4月11日に登録出願,第38類「電気通信(放送を除く。),放送,報道をする者に対するニュースの供給,電話機・ファクシミリその他の通信機器の貸与」及び第42類「気象情報の提供,建築物の設計,測量,地質の調査,機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む)又はこれらの機械等により構成される設備の設計,デザインの考案,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法に関する紹介及び説明,医薬品・化粧品又は食品の試験又は研究,建築又は都市計画に関する研究,公害の防止に関する試験又は研究,電気に関する試験又は研究,土木に関する試験又は研究,農業・畜産又は水産に関する試験・検査又は研究,機械器具に関する試験又は研究,工業所有権に関する手続きの代理又は鑑定その他の事務,訴訟事件その他に関する法律事務,登記又は供託に関する手続きの代理,著作権の利用に関する契約の代理又は媒介,社会保険に関する手続きの代理,計測器の貸与,電子計算機の貸与,電子計算機用プログラムの提供,理化学機械器具の貸与,製図用具の貸与」を指定役務として,同年12月2日に設定登録されたものである。
なお,本件審判の請求の登録は,平成27年3月30日にされたものである。
また,本件審判請求の登録前3年以内の期間である同24年3月30日から同27年3月29日までの期間を,以下「要証期間」という。

第2 請求人の主張
請求人は,結論同旨の審決を求め,審判請求書,審判事件弁駁書,口頭審理陳述要領書及び上申書において,その理由及び答弁に対する弁駁を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第4号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は,その指定役務中,第42類「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法に関する紹介及び説明,建築又は都市計画に関する研究,公害の防止に関する試験又は研究,電気に関する試験又は研究,土木に関する試験又は研究,機械器具に関する試験又は研究,電子計算機の貸与,電子計算機用プログラムの提供」(以下「取消請求役務」という場合がある。)について,継続して3年以上日本国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが使用した事実が存しないから,商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきである。
2 答弁に対する弁駁
(1)請求人答弁の理由について
被請求人は,乙第1号証ないし乙第4号証を提出し,本件商標を日常的に使用している旨主張している。そこで,まずかかる主張の根拠となる答弁書の記載を見るに,被請求人は本件商標との関係で以下の事業を行っている旨主張している。
ア IT企業の経営,システム及びプログラムの要件定義?構築,運用,維持管理までのそれぞれのステージのコンサルを生業としていること。
イ 「I-Tap」基本コンセプトをもってシステム構築,運営・維持等のコンサル・支援を行っていること。
ウ 本件商標の使用面からみれば,・・・種まき時代の大掛かりな広告・宣伝等から脱却し,基本コンセプトを常に確認していただくコミュニケーシュンー体型のツール(広告媒体として)として名刺の裏面を活用した仕組みを用いている。
しかしながら,被請求人の主張する「コンサル」や「広告媒体として名刺の裏面を活用した仕組み」が,そもそも当該審判請求に係る役務のいずれにも該当しないことは明らかである。
(2)証拠について
ア 乙第1号証ないし乙第3号証
いずれの記載を見ても,「I-Tap」等の文字の使用は,役務の出所を表示するものとして使用されているものといい難く,換言すれば,商標としての使用に該当しない。また,答弁書の「証拠方法」において,請求人がこれらの証拠を「広告ツール」と位置付けていることからも明らかなとおり,「I-Tap」等の文字と関連して記載されている被請求人の役務の内容は,審判請求に係る指定役務との関係において無関係又は不明確である。
さらに,本件審判は平成27年3月16日付けで請求され,同年3月26日付けで予告登録されたものであるが,乙第1号証ないし乙第3号証には日付を示す記載は一切ないため,これらを本件審判請求の登録前3年以内における使用の証拠として認めることはできない。
以上より,乙第1号証ないし乙第3号証によっては,被請求人が取消請求役務について,本件商標を使用した事実は何ら証明されていない。
イ 乙第4号証
上述の他の証拠と同様に,被請求人が提供している役務の内容について何ら開示がされておらず,取消請求役務を提供している事実を示すものではない。また,本証拠中に「iTap」の文字が表示されていることは認められるものの,かかる証拠は単に第三者との電子メールの記録であって,当該文字の使用が商標法第2条第3項に定める役務についての「使用」行為に該当するものではない。
3 口頭審理陳述要領書(平成27年11月6日付け)
(1)被請求人が証明すべき内容
商標法50条2項において,「前項の審判の請求があった場合においては,ア その審判の請求の登録前3年以内に日本国内において,イ 商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが,ウ その請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについての エ 登録商標の使用をしていることを,被請求人が証明しない限り,商標権者は,その指定商品又は指定役務に係る商標登録の取消しを免れない。」と規定されている。
つまり,不使用取消審判請求がなされた場合,被請求人は,ア 継続して3年以上日本国内において,イ 商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが,ウ 各指定商品又は指定役務について,エ 登録商標(当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標を含む。)の使用を証明することが求められている。
これを本件に当てはめると,被請求人は,ア 要証期間に日本国内で,イ 商標権者「中嶋直幸」氏又はその使用権者が,ウ 請求に係る指定役務について,エ 登録商標「I-TAP」と社会通念上同一の商標を使用していることを,証明することが求められている。
(2)各乙号証の検討
乙第1号証は,その一部に「i-Tapカンパニー」や「I-Tap」,「i-Tap」,「iTap」といった表示はあるが,「i-Tapカンパニー」は名刺の表面右上に小さく一体的な態様で表示されており,これが登録商標と社会通念上同一の商標といえるものか疑義がある。他の表示は本件商標と社会通念上同一の商標と認められる余地はあるとしても,そもそも,これらの書面について,その配布時期と使用役務が不明である。乙第2号証及び乙第3号証は,その一部に「i-Tap」の表示はあるが,いずれもその配布時期と使用役務が不明である。乙第4号証は,「iTap」という表示はあるが,これは商標権者等ではない「拓矢」氏という人物がEメール中で言及したにすぎず,使用者と使用役務が不明である。
そして,今回提出された乙第5号証を見ると,作成された3種類の名刺のうち,要証期間に含まれるものは項番2及び3であって,項番1に係る名刺は審理対象外である。項番2及び3に係る名刺についても,いずれも名刺の表面右上に小さく一体的な態様で「i-Tapカンパニー」と表示されているものであって,これが登録商標と社会通念上同一の商標といえるものか疑義がある。さらに,これら項番2及び3に係る名刺には,「感謝で人にやさしいシステムを…」との表示はあるが,「i-Tapカンパニー」の表示と使用に係る役務との関係は何ら明らかにされていない。
乙第6号証は,有限会社エヌ企画(以下「エヌ企画」という場合がある。)の履歴事項全部証明書であり,そもそも,この中に登録商標「I-TAP」等は表示されていない。しかも,該書面は企業の登記に関する書面であって,本件商標の使用を立証する書証として有効なものではない。
最後に,乙第7号証は,エヌ企画と匿名の法人との間で締結された業務委託(コンサルティング)個別契約書であるが,これも登録商標「I-TAP」は表示されていない。しかも,これが契約書である以上,サービスの提供前に契約が締結されたことを示すにとどまり,実際にその役務が提供されたことを示すものではない。
(3)過去の審決における判断
参考までに,過去の不使用取消審判である,取消2012-300914(甲1)及び取消2007-300280(甲2)に係る審決において,名刺の写しが使用証拠として提出されたものの,使用に係る商品等との関係が明らかにされていないとして,その有効性が否定されたものを提示する。
その他,被請求人は,審判請求に係る指定役務のいずれかについて使用していた証拠の提出はなく,本件商標の使用をしていなかったことについて正当な理由があることを明らかにしていない。
4 上申書(平成27年12月15日付け)
(1)被請求人の使用証明が成立していない理由
ア 追加書証の検討
(ア)乙第8号証ないし乙第10号証について
上記乙各号証は,墨塗りされている箇所が多いこともあるが,確認できる範囲の記載内容を見ても,いつ作成され,配布されたものか,誰によって作成,配布されたものか,どの指定役務に関するものか,のいずれも不明である。
(イ)乙第11号証「上級個人情報保護士認定証」について
同号証について,被請求人は証拠説明書の「立証の趣旨」欄で「使用時期」を証明するためのものとしているが,被請求人が上級個人情報保護士の資格を平成25年10日10日に取得したとしても,乙第8号証は,平成27年3月30日以降に作成された可能性があるから,同号証が要証期間中に作成されたものということに,依然として疑義がある状況である。
(ウ)乙第12号証「知財高裁平23(行ケ)10244号」について
被請求人は,本判決における「当裁判所の判断」より,「名刺中にも」「本件商標の外観と同じ標章が記載されている」「上記封筒等の記載は少なくとも本件商標を広告的に使用するものである」「商標を商品の広告に付して使用した事実を証明した」などの判示をもって,名刺が使用証拠として認められていた事例としている。
しかし,本判決は,他に商標の使用を推認できる事実(書証)が存在する中で補足的に名刺が使用証拠として認められたに過ぎず,名刺自体が独立して使用証拠として認められているのではない。したがって,名刺に商標を表示していれば,そのまま商標の使用に該当するというわけではない。
(エ)乙第13号証「名刺作成証明」について
同号証は,被請求人の名刺の印刷を請け負っている有限会社目黒印房によって作成されたものであって,被請求人の求めに応じて作成されたものにすぎず,その使用の事実を客観的に裏付けるものではない。
実際,本書証の内容は,被請求人が口頭審理前に提出した乙第5号証とほぼ共通しており,項番1の「作成日」欄に増刷日が加筆されたものである。つまり,口頭審理前に提出されていなかった内容が,口頭審理の後に追加されたものということができる。
しかし,要証期間中の本件商標の使用事実を示す証拠を提出することは,口頭審理前に送付された審理事項通知書に明記されており,本来ならば,追加された情報は,最初から乙第5号証に記載されているべきものであった。これはつまり,同号証で情報が追加されたことは,口頭審理の結果を受けて,過去の主張が変更されたのと同様である。とすれば,単なる証明書記載内容の修正だけで,その客観性が担保されるものではない。
以上のとおり,今回,被請求人が追加提出した書証をもってしても,依然として本件商標が要証期間中に日本国内において商標権者等によって取消請求役務について使用された事実は証明されていない。
(2)上申書における被請求人の主張に対する反論
ア 被請求人上申書第4頁「(2)4 使用に係る商標」に対する反論
被請求人は,「請求人は,本件商標と商標『I-Tap』とが社会通念上同一であるか否かについて疑義がある,と述べている。」としているが,請求人の意図は,乙第1号証及び乙第5号証(項番2及び3に係る名刺における表示)における「i-Tapカンパニー」の標章が,登録商標と社会通念上同一の商標といえるものか疑義がある,というものである。「i-Tapカンパニー」の標章は,「i-Tap」部分と「カンパニー」部分とが一体的に表示されているものであって,このような構成の場合,「i-Tapカンパニー」が一体不可分に認識,把握されるのが自然であるから,登録商標と社会通念上同一の商標といえない可能性が高いと指摘している。この点,被請求人の認識は誤っている。
イ 被請求人上申書第4頁ないし5頁「(2)5 使用時期」に対する反論
本項において被請求人は,乙第7号証ないし乙第10号証及び乙第13号証が有効であることを前提として本件商標の使用について述べているが,これまで述べたとおり,これら書証の有効性やその関連性は客観的に主張立証されていない。
これら資料等の記載内容から具体的な役務を認識できない以上,そこに表示されている標章,例えば,「i-Tapの構想」(乙8),「情報蛇口(i-Tap)は,1つでいい。」(乙9),「I-Tap(情報蛇口)構想」(乙10)が,具体的な役務の出所を示すものとはなり得ない。つまり,仮にこれら資料等が相手方に提示されていたとしても,上記3つの使用標章は商標としての機能を発揮し得ないのである。
また,被請求人は,「業務委託個別契約書」(乙7)に表示された契約期間中に,委託先企業に出向して業務を行い,その際に「乙第13号証『名刺作成証明』に表示された名刺を委託元企業の社員に配布した」旨主張するが,そもそも,そのような状況で名刺を配布したとしても,それは名刺本来の役割である氏名や所属(企業)を明らかにするものとして委託元企業の社員に認識されるにすぎない。既に業務を委託されて所内で業務を行っている者が出向先の社員に名刺を配布したとしても,そのことが,「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為」(商標法第2条第3項第4号)に該当することはないのである。
さらに,被請求人は「乙第13号証『名刺作成証明』に表示された名刺を委託元企業の社員に配布した」と主張するが,乙第13号証に表示された名刺は3種類あり,それらのうちどれを配布したかも定かではない。
以上のとおり,被請求人の主張立証は,本件商標の使用を認めるには不十分なものである。
(3)むすび
以上述べたとおり,被請求人より提出された乙第1号証ないし乙第13号証をもってしても,本件商標が要証期間中に日本国内において商標権者等によって本件請求に係る指定役務について使用された事実は証明されていない。

第3 被請求人の主張
被請求人は,本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める,と答弁し,その理由を,答弁書,口頭審理陳述要領書及び上申書において,要旨以下のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第13号証を提出した。
1 答弁の理由
本件商標は,ビジネス展開をするにあたって基本的なコンセプトとして日常茶飯事に活用している。情報化時代において,デジタル情報の取出口の一元化として情報蛇口(I-Tap)の必要性を基本コンセプトとしてIT企業の経営,システム及びプログラムの要件定義?構築,運用,維持管理までのそれぞれのステージのコンサルを生業としていることから商標「I-Tap」は必要不可欠のものである。地方産業連携(自治体),国立研究開発法人,NPO等へも「I-Tap」基本コンセプトをもってシステム構築,運営・維持等のコンサル・支援を行っている。
本件商標の使用からみれば,ビジネス相手とするIT及びスマート関連システムを生業とする事業者の方々には,幅広く浸透しており,種まき時代の大掛かりな広告・宣伝等から脱却し,基本コンセプトを常に確認していただくコミュニケーション一体型のツール(広告媒体として)として名刺の裏面を活用した仕組みを用いている。
コミュニケーション一体型ツールの利点は,提案書等で知的財産である知識を見える形でオープンにしなくてすみ,契約も優先的に選択でき,かつ素早く締結が可能になったことである。その一つのツールである名刺には,商標である「I-Tapカンパニー」を生業のコンセプトとして説明可能とするよう印字し,活用している。名刺の交換は,昨年度実績でも,年間200枚以上の交換があり,商標「I-Tap」は,日常茶飯時に使用され,ビジネス案件獲得推進の強力な武器になっている。
2 口頭審理陳述要領書(平成27年10月16日付け)
(1)本件商標の使用事実の要点
本件商標の通常使用権者であるエヌ企画は,本件審判請求の登録前3年以内に日本国内においてその請求に係る指定役務中「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」について,本件商標を使用している。
(2)本件商標の使用の事実
ア 商標の使用者
「名刺作成証明」(乙5)には,名刺の印刷内容として,「有限会社エヌ企画」が表示されている。
「有限会社エヌ企画の履歴事項全部証明書」(乙6)には,被請求人が,エヌ企画の代表取締役である旨の記載があり,被請求人が,エヌ企画に,本件商標の使用を黙示に許諾したことが示されている。
イ 使用に係る役務
「名刺作成証明」(乙5)には,名刺の印刷内容として,エヌ企画が行なう業務が「システム」の作成である旨の記載がある。
「有限会社エヌ企画の履歴事項全部証明書」(乙6)には,エヌ企画の目的が「コンピュータのソフトウェアおよびハードウェアの開発,設計,製造,販売,保守,管理」である旨の記載かある。
「業務委託個別契約書」(乙7)には,エヌ企画に委託する業務内容が「社内システム更改支援」である旨の記載がある。
ウ 使用に係る商標
「名刺作成証明」(乙5)には,名刺の印刷内容として,本件商標と社会通念上同一の商標「I-Tap」が記載されている。
エ 使用時期
「名刺作成証明」(乙5)には,名刺の作成日として,「平成17年9月15日」,「平成23年8月10日」,及び,「平成26年5月19日」が表示されている。これらの名刺は,商標法第2条第3項第8号における「役務に関する広告」に該当し,エヌ企画が行なう業務である「システム」の作成に関する広告として,「名刺作成証明」に表示された作成日を含む期間中に頒布された。
「業務委託個別契約書」(乙7)には,契約期間として,「平成26年4月1日?平成27年3月31日」が表示されるとともに,業務場所として,委託元企業の住所が記載されている。また,契約期間中,被請求人は,委託元企業へ出向し,社内システム更改のためのプロジェクトチームにおいて,社内システムの「要件定義」及び「設計」を行なった。この際,被請求人は,「名刺作成証明」(乙5)に表示された名刺を委託元企業の社員に配布した。配布された名刺は,制服等に付された標章と同様に,商標法第2条第3項第3号における「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」に該当し,役務の出所を表示していた。
3 上申書(平成27年12月1日付け)
(1)本件商標の使用の事実
ア 商標の使用者
「名刺作成証明」(乙13)には,名刺の印刷内容として,「有限会社エヌ企画」,及び,被請求人の氏名が表示されている。
「営業用資料2」(乙9)には,「エヌ企画」,及び,被請求人の氏名が表示されている。
イ 使用に係る役務
「営業用資料1」(乙8)には,「ビッグデータ」及び「情報出力」の表示があり,「営業用資料2」(乙9)には,エヌ企画が行なう業務が「システム」の作成である旨の記載があり,さらに,「営業用資料3」(乙10)には,「システム」の作成に関する記載があり,これらは,2Lサイズのカードである。被請求人は,エヌ企画が行なう業務である「システム」の作成に関する広告として,これらのカードを用いており,営業活動を行なう際にこれらのカードを取引先にて提示している。
「名刺作成証明」(乙13)には,名刺の印刷内容として,エヌ企画が行なう業務が「システム」の作成である旨の記載がある。
「有限会社エヌ企画の履歴事項全部証明書」(乙6)には,エヌ企画の目的が「コンピュータのソフトウェアおよびハードウェアの開発,設計,製造,販売,保守,管理」である旨の記載がある。
「業務委託個別契約書」(乙7)には,エヌ企画に委託される業務内容が「社内システム更改支援」である旨の記載がある。
ウ 使用に係る商標
「営業用資料1」(乙8),「営業用資料2」(乙9)及び,「営業用資料3」(乙10)には,本件商標と社会通念上同一の商標「I-Tap」が記載されている。「名刺作成証明」(乙13)には,名刺の印刷内容として,本件商標と社会通念上同一の商標「I-Tap」が記載されている。
なお,請求人は,本件商標と商標「I-Tap」とが社会通念上同一であるか否かについて疑義がある,と述べている。しかしながら,審判便覧(第16版)には,ロ?マ字の大文字と小文字の相互間の使用が,社会通念上同一であることが認められる例として記載されており,「HI-KE」と「hi-ke」とが社会通念上同一であると認められる例として記載されている。商標「I-Tap」は,本件商標のうちの,末尾の2文字について大文字を小文字に変換したものであり,本件商標と社会通念上同一であることは明らかである。
エ 使用時期
「名刺作成証明」(乙13)には,名刺の初回の作成日として,「平成17年9月15日」,「平成23年8月10日」,及び,「平成26年5月19日」が表示されて,この項番1の名刺について,初回の作成日から継続的に複数回作成され,近年では,「平成23年8月10日」及び「平成26年5月19日」に作成されたことが記載されている。さらに,乙第13号証の名刺は,商標法第2条第3項第8号における「役務に関する広告」に該当し,エヌ企画が行なう業務である「システム」の作成に関する広告として,この「名刺作成証明」に表示された作成日を含む期間中に継続的に配布された。
なお,「営業用資料1」(乙8)における「上級個人情報保護士」の資格は,「上級個人情報保護士認定証」(乙11)に表示されるように,平成25年10月10日に,被請求人によって取得されたものである。
被請求人は,「名刺作成証明」(乙13)に表示された名刺,「営業用資料1」(乙8),「営業用資料2」(乙9)及び,「営業用資料3」(乙10)を用いて,商標「I-Tap」についての商標権を有するとの説明,及びエヌ企画が提供するシステムの設計・保守・開発のサービスの内容について,商標「I-Tap」を用いた説明を行なった結果,一例として,「業務委託個別契約書」(乙7)に表示された社内システム更改の業務を請け負うこととなった。
「業務委託個別契約書」(乙7)に表示された契約期間中,被請求人は,年間に数十日間程度,委託元企業へ出向し,社内システム更改のためのプロジェクトチームにおいて,社内システムの「要件定義」及び「設計」を行なった。
なお,システムの設計・保守・開発の取引の分野において委託元企業へ出向した場合,委託元企業は,出向者が委託先企業の所属であることが委託元企業の外部から見て分かるような,委託先企業に固有の標章等が付された制服の委託元企業における着用を禁止する。一方,委託元企業の社員と委託先企業の出向者との円滑な業務の遂行のために,委託先企業の出向者が委託元企業の社員へ名刺を配布することは禁止されないことが多い。
被請求人も,「名刺作成証明」(乙13)に表示された名刺を委託元企業の社員に配布した。配布された名刺は,制服等に付された標章と同様に,商標法第2条第3項第3号における「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」に該当し,役務の出所を表示し,委託元企業の社員にとって,委託先企業が提供するサービスの目印(標識)として認識されたことは明らかである。
(2)過去の不使用取消審判について
請求人は,「過去の不使用取消審判に係る審決において,名刺の写しが使用証拠として提出されたものの,使用に係る商品等との関係が明らかにされていないとして,その有効性が否定されたものを提示する」,と述べ,「取消2012-300914の審決」(甲2)と,「取消2007-300280の審決」(甲3)とを提示したが,被請求人は,以下のとおり主張する。
「取消2012-300914の審決」(甲2)に係る事件(以下「甲2事件」という。)は,商標の使用を証明する証拠として,ショップカード及び名刺が提出された事件である。甲2事件においては,指定商品が「靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具」であり,これらの商品は,一般に店舗で取り引きされない特殊な商品であるといえる。
一方,本件においては,「名刺作成証明」(乙13)に,名刺の印刷内容として,エヌ企画が行なう業務が「システム」の作成である旨の記載があり,指定役務との関係が明示されていることから,本件は,甲2事件とは事情が異なる。また,甲2事件においては,名刺に記載された「A氏」が商標権者といかなる関係を有する者であるかが明らかにされていない,と判断されている。
また,本件においては,「名刺作成証明」(乙13)に記載の名刺には,被請求人の氏名と,被請求人が代表取締役社長である会社(通常使用権者)の社名「有限会社エヌ企画」が記載されており,この点においても,本件は,甲2事件とは事情が異なる。
さらに,「取消2007-300280の審決」(甲3)に係る事件(以下「甲3事件」という。)は,商標の使用を証明する証拠として,名刺が提出された事件である。甲3事件においては,「有限会社万里屋」の表示が社名そのものを示したものであって,商標「万里屋」を表示したものとはいい難い,と判断されている。
一方,本件においては,「営業用資料1」(乙8),「営業用資料2」(乙9),「営業用資料3」(乙10)及び,「名刺作成証明」(乙13)に表示されるように,社名「有限会社エヌ企画」とは異なる商標「i-Tap」が,社名「有限会社エヌ企画」とは独立に表示されている。このため,商標「i-Tap」が自他役務の識別標識として表示されていることは明らかであり,本件は,甲3事件とは事情が異なる。
加えて,「知財高判平23(行ケ)10244号」(乙12)の第9頁の第4行ないし第10行には,「平成16年7月以降継続して作成され,このころ被告の役員・従業員によって使用されたことが認められる名刺(乙8)中にも,上記能書におけるのと同様に,本件商標の外観と同じ標章が記載されている。上記の能書の記載は本件商標の指定商品の包装に本件商標を付して使用するものであるし,上記封筒等の記載は少なくとも本件商標を広告的に使用するものであるから,これらの証拠によっても,被告が指定商品について,予告登録の日より3年以内に本件商標の商品の広告に付して使用した事実を証明したものということができる。」との記載かある。このように,「知財高判平23(行ケ)10244号」(乙12)に係る事件においては,名刺が使用証拠として認められている。
以上により,使用証拠が名刺であるとの理由により,使用証拠が有効でないとする請求人の主張は失当である。
(3)むすび
以上のとおり,本件商標は,本件審判請求の登録前3年以内に日本国内において通常使用権者により指定役務中「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」について使用していることが明らかである。

第4 当審の判断
1 被請求人提出に係る証拠について
(1)乙第1号証は,被請求人の氏名及び通常使用権者のエヌ企画の名称が記載された2種類の名刺の表面と裏面である。これには,「I-Tapカンパニー\n.kikaku\感謝で,人にやさしいシステムを・・・」,「I-Tap(情報蛇口)構想で,社会に,人に,“やさしく”“ぬくもり”のあるシステムづくりがわたしどものコンセプトです。」,「iTap企業(InformationTap)\私どもは,情報蛇口の一元化で年齢格差,情報格差の解消を図ります。」及び「iTap(〇にRの記号)\デジタル情報化社会で,最も大切なものは\情報取出口(InformationTap)の一元化です。」の記載がある。
(2)乙第2号証は,被請求人のカタログと思われる証拠である。これには,「情報蛇口(i-Tap)は,1つでいい。(情報取り出し口の一元化)」及び「i-Tapの活用」の記載がある。
(3)乙第3号証は,被請求人のチラシと思われる証拠である。これには,「NGNで,送られる多くのデジタル情報を一元的に受信できる装置つまり,蛇口が必要。これが(情報蛇口)「i-Tap」(〇にRの記号)です。」の記載がある。
(4)乙第4号証は,被請求人と拓矢氏とのやりとりしたメールの内容の写しである。これには,文章中に「iTap」の文字が記載されている。
(5)乙第5号証は,有限会社目黒印房が,被請求人に依頼されて作成した名刺の作成履歴の証明書である。これには,それぞれ,項番,作成日,印刷内容の表及び裏,印刷枚数の項目があり,「作成日」の欄に,平成17年9月15日,平成23年8月10日及び平成26年5月19日の記載と,それぞれの作成日の「印刷内容」の欄に,名刺の表と裏の見本が表示されており,「印刷枚数」の欄には,それぞれ,「200」の記載がある。また,乙第13号証は,「作成日」の欄に「平成23年8月10日,平成26年5月19日」の記載と,「印刷枚数」はそれぞれ,「200」,「100」の記載がある。
(6)乙第6号証は,通常使用権者の「履歴事項全部証明書」の写しである。これは,企業の登記に関する書面であって,商号,本店,公告をする方法,会社設立の年月日及び目的等が記載されており,「商号」には,「有限会社エヌ企画」,「目的」には,「3 コンピュータのソフトウェアおよびハードウェアの開発,設計,製造,販売,保守,管理」及び「役員に関する事項」には,「代表取締役 中嶋直幸」の記載がある。
(7)乙第7号証は,業務委託(コンサルティング)個別契約書の写しである。これには,「2 仕様(発注内容)」の項目に「社内システム更改支援」,「4 契約期間」の項目に「平成26年4月1日?平成27年3月31日」,契約締結日と思われる「平成26年3月31日」及び被請求人の氏名と通常使用権者の名称が記載されている。
(8)乙第8号証ないし乙第10号証は,通常使用権者が営業活動を行う際に使用する2Lサイズのカードである。これには,「i-Tapの構想でサポート!」,「情報蛇口(i-Tap)は,1つでいい。」,「i-Tapの活用」及び「I-Tap(情報蛇口)構想で,社会に,人に,“やさしく”“ぬくもり”のあるシステムづくりがわたしどものコンセプトです。」の記載がある。
(9)乙第11号証は,被請求人の「上級個人情報保護士認定の証」であり,これには,被請求人の氏名と平成25年10月10日の日付けの記載がある。
2 上記1によれば,以下のとおり判断できる。
(1)通常使用権者について
乙第6号証には,被請求人が,エヌ企画の代表取締役である旨の記載があることから,被請求人が,エヌ企画に,本件商標の使用を黙示に許諾したことが推認できるものである。
そうすれば,エヌ企画は,本件商標についての通常使用権者であるということができる。
(2)通常使用権者による取消請求役務への本件商標の使用について
乙第1号証ないし乙第3号証は,通常使用権者使用の名刺(乙1),通常使用権者使用のカタログ(乙2)及び通常使用権者使用のチラシ(乙3)であり,本件商標と社会通念上同一と認められる「I-Tap」又は「i-Tap」の文字が表示されているが,これらから通常使用権者が提供する役務を特定することはできないし,取消請求役務のどの役務に使用されているのか不明である。
乙第4号証は,通常使用権者と拓矢氏とのメールの内容の写しであるが,この中に記載されている「iTap」の文字は,文章中に記載されたものであって,商標の使用とは認められないし,どのような役務に使用されているのか不明である。
乙第5号証及び乙第13号証は,通常使用権者の使用していた名刺であるが,これらの名刺からは,取消請求役務のどのような役務に使用されているのか不明である。
乙第7号証は,業務委託(コンサルティング)個別契約書であるが,この証拠には,本件商標又は本件商標と社会通念上同一と認められる商標の記載がない。
乙第8号証ないし乙第10号証は,通常使用権者の営業活動を行う際に使用するカードであるが,これらの証拠は,いつ使用されたのか確認できる日付けの記載がないし,どのような役務に使用されたか不明である。
乙第6号証及び乙第11号証は,それぞれ,通常使用権者の「履歴事項全部証明書」の写し(乙6),被請求人の「上級個人情報保護士認定の証」の写し(乙11)であるが,これらの証拠は,本件商標の使用とは直接関係のないものである。
その他,本件商標が使用されていることを証明する証拠は提出されていない。
以上によれば,取消請求役務について,要証期間における被請求人又は通常使用権者による本件商標の使用は,証明されていないものである。
(3)被請求人の主張について
被請求人は,「名刺作成証明」には,名刺の印刷内容として,エヌ企画が行なう業務が「システム」の作成である旨の記載(乙5,乙13),「有限会社エヌ企画の履歴事項全部証明書」には,エヌ企画の目的が「コンピュータのソフトウェアおよびハードウェアの開発,設計,製造,販売,保守,管理」である旨の記載(乙7),営業用資料1ないし3(乙8ないし乙10)には,「ビッグデータ」及び「情報出力」の表示,「システム」の作成である旨の記載がされていることから,本件商標の指定役務中「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」について,被請求人が,本件商標を要証期間内に使用している旨述べている。
しかしながら,被請求人の提出した証拠からは,被請求人又は通常使用権者が,「プログラムの設計・作成又は保守」等について,具体的にその役務を提供していた事実が確認できない。
したがって,被請求人の主張は,採用することができない。
(4)小括
そうすると,被請求人が提出した全証拠によれば,被請求人又は通常使用権者が,要証期間内にその請求に係る取消請求役務について,本件商標を使用していた事実は認められない。
3 むすび
してみれば,被請求人は,本件審判の請求の登録前3年以内に,日本国内において,本件商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが,取消請求役務のいずれかについて,本件商標を使用していることを証明したものということができない。
また,被請求人は,取消請求役務について,本件商標を使用していないことについて正当な理由があることも明らかにしていない。
したがって,本件商標の登録は,その指定役務中の「結論掲記の指定役務」について,商標法第50条の規定により,取り消すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2016-02-25 
結審通知日 2016-03-02 
審決日 2016-03-17 
出願番号 商願2005-35996(T2005-35996) 
審決分類 T 1 32・ 1- Z (Y42)
最終処分 成立  
特許庁審判長 井出 英一郎
特許庁審判官 榎本 政実
山田 正樹
登録日 2005-12-02 
登録番号 商標登録第4911080号(T4911080) 
商標の称呼 アイタップ、イタップ、タップ、テイエイピイ 
代理人 森下 賢樹 
代理人 若山 剛 

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